IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コニカミノルタ株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/12 20060101AFI20220705BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220705BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20220705BHJP
   C08J 11/06 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
C08L101/12
C08L101/00
C08K5/00
C08J11/06 ZAB
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018043962
(22)【出願日】2018-03-12
(65)【公開番号】P2019156938
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100155620
【弁理士】
【氏名又は名称】木曽 孝
(72)【発明者】
【氏名】齊田 靖治
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 啓太
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-131507(JP,A)
【文献】特開2006-113551(JP,A)
【文献】特開2010-275466(JP,A)
【文献】特開平06-223416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,C08J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含む回収材料を溶融混練して熱可塑性樹脂組成物を得る製造方法であって、
前記回収材料を非イオン性界面活性剤およびキレート剤を用いて洗浄する工程と、
洗浄された前記回収材料10gを水100gに浸漬させた後の前記水の電気伝導度を測定する工程と、
洗浄された前記回収材料10gを水100gに浸漬させた後の前記水のpHを測定する工程と、
洗浄された前記回収材料を溶融混練する工程と、を含み、
前記電気伝導度は、5μS/cm以上50μS/cm以下であり、
前記pHは、5.0以上9.0以下である、
熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記回収材料に付着している異物の総量は、前記回収材料に対して20ppm以下である、請求項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記回収材料は、前記熱可塑性樹脂と、安定化剤、難燃剤、強化材および流動化剤からなる群から選択される1以上の添加剤と、を含み、
前記熱可塑性樹脂の含有量は、40質量%以上100質量%以下であり、
前記添加剤の含有量は、0質量%以上60質量%以下である、
請求項1または請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、添加物の添加によって種々の特性を付与でき、様々な分野において有用な材料として利用されている。一方、近年では、環境保全の観点から、廃棄物の減量が求められており、そのための一手段として、使用済みの熱可塑性樹脂製の製品(以下、「廃材」とも言う)を回収し、それを熱可塑性樹脂製の新たな製品の原料として再利用することが知られている。
【0003】
廃材は、一般に、熱可塑性樹脂の種類毎に回収される。回収された個々の廃材は、元の用途に応じた特有の物性を有している。このため、廃材は、一般に、樹脂の種類は同じだがそれぞれ異なる物性を有する。よって、廃材を熱可塑性樹脂製の新たな製品の原料として再利用する場合には、廃材による物性のばらつきの影響を抑制する必要がある。
【0004】
廃材における物性のばらつきを抑制する技術として、廃材に未使用の熱可塑性樹脂(バージン材)を混合する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の技術では、廃材と、未使用の熱可塑性樹脂とを混合することで、廃材における物性のばらつきを抑制して、所望の物性を有する熱可塑性樹脂の原料を得る。
【0005】
また、廃材をアルカリ洗浄して、熱可塑性樹脂製の新たな製品の原料として再利用する技術も知られている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に記載の技術では、廃材をアルカリ洗浄することで、廃材の表面に付着した異物を除去して、廃材における物性のばらつきを抑制して、所望の物性を有する熱可塑性樹脂の原料を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-335890号公報
【文献】特開2001-287225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、未使用の熱可塑性樹脂を使用するため、廃材を再利用するという効果が薄れてしまう。また、特許文献2に記載の技術では、アルカリ洗浄するため、洗浄剤が廃材の表面に残留してしまうことがある。この場合、廃材の表面に付着した洗浄剤が熱可塑性樹脂の物性を低下させる原因となり得る。このように、廃材による物性のばらつきの影響を抑制する技術には改善の余地がある。
【0008】
本発明は、物性のばらつきを有する熱可塑性樹脂製の原料を用いて、原料の物性のばらつきによる製品の物性のばらつきを十分に低減させた熱可塑性樹脂組成物を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するための一態様として、熱可塑性樹脂を含む回収材料を溶融混練した熱可塑性樹脂組成物であって、前記回収材料10gを水100gに浸漬させた後の前記水の電気伝導度は、5μS/cm以上50μS/cm以下であり、前記回収材料10gを水100gに浸漬させた後の前記水のpHは、5.0以上9.0以下である、熱可塑性樹脂組成物。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するための一態様として、熱可塑性樹脂を含む回収材料を溶融混練して熱可塑性樹脂組成物を得る製造方法であって、前記回収材料10gを水100gに浸漬させた後の前記水の電気伝導度を測定する工程と、前記回収材料10gを水100gに浸漬させた後の前記水のpHを測定する工程と、前記回収材料を溶融混練する工程と、を含み、前記電気伝導度は、5μS/cm以上50μS/cm以下であり、前記pHは、5.0以上9.0以下である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、物性が安定した熱可塑性樹脂組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施の形態について説明する。
【0013】
[熱可塑性樹脂組成物]
本実施の一形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を含む回収材料を溶融混練することで得られる。
【0014】
回収材料は、熱可塑性樹脂を含む。熱可塑性樹脂の例には、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)およびポリブチレンテレフタラート(PBT)が含まれる。回収材料に含まれる熱可塑性樹脂は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0015】
熱可塑性樹脂は、市場から回収された使用済みの熱可塑性樹脂製品またはその破砕物である廃材や、市場に出回る前に回収された未使用の熱可塑性樹脂製品またはその破砕物である未使用品を含む。廃材および未使用品は、熱可塑性樹脂として用いられる場合には、一般に破砕物として樹脂の種類に応じて分類され、または分類品の混合品として用いられる。
【0016】
回収材料は、熱可塑性樹脂のみから構成されていてもよいし、他の添加剤をさらに含有していてもよい。添加剤の例には、安定化剤、難燃剤、強化材、および流動化剤が含まれる。添加剤は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0017】
安定化剤の例には、ヒンダードフェノール系、含硫黄有機化合物系、含リン有機化合物系の酸化防止剤や、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系の紫外線吸収剤が含まれる。
【0018】
難燃剤の例には、リン酸エステルなどのリン系化合物やブロモ化合物が含まれる。
【0019】
強化材の例には、ブタジエン系ゴム、アクリル系ゴム、シリコーン・アクリル複合ゴムが含まれる。
【0020】
流動化剤の例には、高級脂肪酸の金属塩類、高級脂肪酸アミド類が含まれる。
【0021】
回収材料に対する熱可塑性樹脂の含有量は、40質量%以上100質量%以下が好ましい。また、回収材料に対する添加剤の含有量は、添加剤を添加することによる効果を発揮する観点から、0.3質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。また、添加剤の含有量は、溶融混練する工程に影響をおよぼさない観点から、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。
【0022】
回収材料を水に浸漬させた後の当該水の電気伝導度は、5μS/cm以上50μS/cm以下であり、5μS/cm以上35μS/cm以下が好ましい。電気伝導度は、水に溶解した主に金属塩の量に応じて変化する。回収材料に含まれる金属塩は、熱可塑性樹脂組成物が劣化する原因となる。当該電気伝導度が5μS/cm未満の場合、回収材料としての物性は良いが、回収材料全体における電気伝導度のばらつきが大きくなりすぎてしまう。一方、電気伝導度が50μS/cm超の場合、回収材料に含まれる金属塩の除去に多くの工程を必要とするため、作業効率が悪くなる。よって、電気伝導度が前述の範囲内にある回収材料を使用することで、得られる熱可塑性樹脂組成物の物性を均一化できる。
【0023】
回収材料に対応した電気伝導度は、例えば、以下の方法で測定できる。10gの回収材料を100gの純水(水)に漬けて3分間撹拌し、熱可塑性樹脂表面に付着している金属塩などを純水に溶解させる。次いで、金属塩などが溶解した純水の電気伝導度を電気伝導度計(AS710;アズワン株式会社)で測定する。
【0024】
回収材料を水に浸漬させた後の当該水のpHは、5.0以上9.0以下であり、5.0以上8.0以下が好ましい。pHは、水中の水素イオン濃度に応じて変化する。回収材料に含まれる酸性物質やアルカリ性物質は、回収材料が劣化する原因となる。pHが5.0未満の場合と、9.0超の場合とは、酸性物質またはアルカリ性物質の除去に多くの工程を必要とするため、作業効率が悪くなる。よって、pHが前述の範囲内にある回収材料を使用することで、得られる熱可塑性樹脂組成物の物性を均一化できる。
【0025】
回収材料に対応したpHは、例えば、以下の方法で測定できる。10gの回収材料を100gの純水(水)に漬けて3分間撹拌し、熱可塑性樹脂表面に付着している酸性物質またはアルカリ性物質を純水に溶解させる。次いで、酸性物質またはアルカリ性物質が溶解した水のpHをpHメーター(HM-30P;東亜ディーケーケー株式会社)で測定する。
【0026】
回収材料に付着している異物の総量は、回収材料に対して20ppm以下が好ましく、15ppm以下がより好ましい。前述した電気伝導度およびpHが所定の範囲内であっても、当該異物の総量が20ppm超の場合、成形品におけるクラック点が多くなることがあるため、あまり好ましくない。回収材料に含まれる異物は、得られた熱可塑性樹脂を用いて製造された成形品のクラック点になる。よって、異物の総量を20ppm以下にすることで、成形品におけるクラック点を減少させ、成形品の品質をさらに向上させる事ができる。
【0027】
回収材料に付着した異物の総量は、例えば、以下の方法で測定できる。10gの回収材料を100gの溶媒に溶解させた後に、回収材料が溶解した溶媒を濾過して、濾過した後の残渣を異物として計量する。これにより、回収材料に付着した異物を測定できる。回収材料を溶解させる溶媒は、回収材料に含まれる熱可塑性樹脂を溶解させることができれば特に限定されない。溶媒の例には、テトラヒドロフラン(THF)、ヘキサフルオロイソプロパンオールが含まれる。
【0028】
[熱可塑性樹脂組成物の製造方法]
本発明の一実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、電気伝導度を測定する工程と、pHを測定する工程と、溶融混練する工程と、を含む。
【0029】
電気伝導度を測定する工程では、前述した方法に基づいて、回収材料を浸漬した水の電気伝導度を測定する。
【0030】
pHを測定する工程では、前述した方法に基づいて、回収材料を浸漬した水のpHを測定する。
【0031】
電気伝導度の測定およびpHの測定は、回収材料を溶融混練する前に行われる。本実施の形態では、回収材料は連続して溶融混練機の投入口に投入されて溶融混練されるため、電気伝導度の測定およびpHの測定は任意の間隔で行えばよい。
【0032】
より具体的には、回収材料を投入口まで搬送する途中で、回収材料の一部をサンプリングして、電気伝導度およびpHを測定すればよい。
【0033】
溶融混練する工程では、回収材料を溶融混練機で溶融混練する。回収材料を溶融混練する溶融混練機は、公知(市販)の機械を使用できる。例えば、溶融混練機は、回収材料を投入するための投入口と、投入した回収材料を溶融混練するためのシリンダーと、溶融混練した回収材料を外部に吐出するためのダイとを有する。
【0034】
溶融混練する工程では、測定した電気伝導度が5μS/cm以上50μS/cm以下であり、かつpHが5.0以上9.0以下の回収材料を使用する。溶融混練時のシリンダーの温度は、回収材料の種類に応じて適宜選択できる。PCを回収材料に含む場合のシリンダーの温度は、220~300℃である。PEを回収材料に含む場合のシリンダーの温度は、170~250℃である。PETを回収材料に含む場合のシリンダーの温度は、220~300℃である。ABS樹脂を回収材料に含む場合のシリンダーの温度は、170~250℃である。溶融混練機で溶融混練された回収材料は、熱可塑性樹脂組成物として溶融混練機の外部に吐出される。
【0035】
熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、その他の工程として、例えば、回収材料に付着している異物の総量を測定する工程、回収材料を洗浄する工程、溶融混練した熱可塑性樹脂組成物を冷却する工程、冷却した熱可塑性樹脂組成物を切断する工程を含んでいてもよい。
【0036】
異物の総量を測定する工程では、前述した方法に基づいて異物の総量を測定する。熱可塑性樹脂組成物の製造方法として、異物の総量を測定する工程を含む場合、溶融混練する工程では、回収材料として、測定した異物の総量が回収材料に対して20ppm以下の回収材料を使用する。
【0037】
回収材料を洗浄する工程では、溶融混練する前に回収材料を洗浄する。洗浄には、非イオン性界面活性剤およびキレート剤を用いることが好ましい。非イオン性界面活性剤の例には、エステル型の非イオン性界面活性剤、エステル・エーテル型の非イオン性界面活性剤が含まれる。キレート剤の例には、アミノカルボン酸系のキレート剤、ホスホン酸系のキレート剤が含まれる。
【0038】
回収材料は、例えば、以下の方法で洗浄できる。純水に回収材料、非イオン性界面活性剤およびキレート剤を混合して、3分間撹拌し、熱可塑性樹脂表面に付着している金属塩、酸性物質、アルカリ性物質、異物などを除去する。次いで、回収材料のみを回収する。
【0039】
溶融混練した熱可塑性樹脂組成物を冷却する工程では、溶融混練機から吐出した熱可塑性樹脂組成物を冷却する。熱可塑性樹脂組成物を冷却する方法および冷却温度は、適宜設定できる。熱可塑性樹脂組成物を冷却する方法は、水冷でもよいし、空冷でもよい。熱可塑性樹脂組成物の冷却温度は、適宜設定できる。熱可塑性樹脂組成物の冷却温度は、例えば、30℃である。
【0040】
熱可塑性樹脂組成物を切断する工程では、熱可塑性樹脂組成物をペレダイザーで巻き取りながらペレット状に切断する。
【0041】
本実施の形態では、熱可塑性樹脂組成物の材料として、廃材や未使用品を含む回収材料を使用している。回収材料から再生した熱可塑性樹脂組成物の物性を低下させる原因として、回収材料に付着した汚れ、ゴミ、異物由来の酸、塩基成分、金属成分、界面活性剤の成分がある。回収材料中にこれらの成分が含まれると、熱可塑性樹脂が分解されたり、熱可塑性樹脂が可塑化されてしまう。また、回収材料中に異物が含まれると、再生した熱可塑性樹脂組成物を用いた再生製品は、クラック点を有することになる。
【0042】
そこで、本発明では、回収材料に含まれる熱可塑性樹脂を劣化させる金属イオンの量を電気伝導度に基づいて規定して、酸性物質またはアルカリ性物質の量をpHに基づいて規定している。また、熱可塑性樹脂組成物を用いた成形品のクラック点の数を異物の総量に基づいて規定している。このように、本発明では、所定の条件を満たす回収材料のみを使用することで、回収材料の物性のばらつきを抑制している。これにより、熱可塑性樹脂組成物の物性が低下するのを抑制している。
【0043】
以上のように、本実施の形態では、電気伝導度およびpHに基づいて回収材料を選択し、当該条件に合致した回収材料のみを使用しているため、回収材料の物性のばらつきを抑制できる。これにより、溶融混練によって得られる熱可塑性樹脂組成物を安定して得ることができる。
【実施例
【0044】
[回収材料の準備]
回収材料1~13として、回収されたPCの破砕物を湿式比重選別により選別した粉砕物を準備した。回収材料14として、回収されたPETの破砕物を湿式比重選別により選別した粉砕物を準備した。回収材料15として、回収されたABS樹脂の破砕物を湿式比重選別により選別した粉砕物を準備した。回収材料16として、回収されたPEの破砕物を湿式比重選別により選別した粉砕物を準備した。回収材料1~6、8~16は、非イオン性界面活性剤およびキレート剤を用いて洗浄した後、乾燥させた。なお、洗浄では、非イオン性界面活性剤およびキレート剤の混合物としてDKビークリヤ CW-6530E(第一工業製薬株式会社)を使用した。
【0045】
[二軸溶融混練機の準備]
溶融混練機として、二軸溶融混練機(HYPERKTX 30;株式会社神戸製鋼所)を準備した。
【0046】
[実施例1~6、8~10、比較例1~
真空乾燥機を用いて各回収材料を80℃、4時間乾燥させた。次いで、各回収材料を二軸溶融混練機の投入口から連続して10時間、10kg/時の量で投入して溶融混練した。溶融混練時のシリンダーの温度は、PCまたはPETを含む回収材料1~14については270℃とし、ABS樹脂またはPEを含む回収材料15、16については、190℃とした。
【0047】
一方、1時間毎に供給すべき各回収材料の一部をサンプリングして、各回収材料を用いたときの電気伝導度、pHおよび異物の総量をそれぞれ測定した。
【0048】
[電気伝導度の測定]
各回収材料10gを純水100gに浸漬し、3分攪拌した後、回収材料を除去した。回収材料を除去した後の水の電気伝導度をJIS K0130に準拠して測定した。
【0049】
[pHの測定]
各回収材料10gを純水100gに浸漬し、3分攪拌した後、回収材料を除去した。回収材料を除去した後の水のpHをJIS Z8802に準拠して測定した。
【0050】
[異物の測定]
各回収材料10gを溶媒100gに溶解させた後、回収材料が溶解した溶媒を濾過した。濾紙上の残渣を異物として測定した。回収材料の樹脂種がPCおよびABS樹脂の場合の溶媒はTHFを使用し、回収材料の樹脂種がPETの場合の溶媒はヘキサフルオロイソプロパンオールを使用した。
【0051】
二軸溶融混練機から吐出される樹脂ストランド樹脂ストランドは、30℃の水に浸漬されて急冷された。そして、急冷された樹脂ストランドは、ペレタイザーによりペレット状に粉砕された。こうして、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物1~10、13~16をそれぞれ得た。
【0052】
[実施例11]
二軸溶融混練機への投入時に、難燃剤(CR-741;大八化学工業株式会社)を10質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物11を得た。
【0053】
[実施例12]
二軸溶融混練機への投入時に、強化材(メタブレンC-223A;三菱ケミカル株式会社)を30質量%となる量で添加したこと以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物12を得た。
【0054】
樹脂組成物の材料と、洗浄の条件と、各測定結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
[評価]
(試験片の成形)
ペレット状の各熱可塑性樹脂組成物を80℃で4時間乾燥させた後、射出成形機(J55ELII;株式会社日本製鋼所)によって、所定の試験片を得た。PCまたはPETを含む実施例1~、11、12、比較例1~については、シリンダー温度を270℃とし、金型温度を80℃とし、ABS樹脂またはPEを含む実施例8、9については、シリンダー温度を190℃とし、金型温度を50℃とした。
【0057】
(破断伸びの評価)
破断伸びの評価は、JIS K7161に準じて破断伸び(%)を測定し、以下の基準で評価した。
PCを回収材料に含む実施例1~、11、12、比較例1~については、以下の基準で評価した。
◎:80%以上
○:70%以上80%未満
△:60%以上70%未満
×:60%未満
PETを回収材料に含む実施例8については、以下の基準で評価した。
◎:150%以上
○:100%以上150%未満
△:70%以上100%未満
×:70%未満
ABS樹脂を回収材料に含む実施例9については、以下の基準で評価した。
◎:25%以上
○:20%以上25%未満
△:15%以上20%未満
×:15%未満
PEを回収材料に含む実施例10については、以下の基準で評価した。
◎:200%以上
○:150%以上200%未満
△:100%以上150%未満
×:100%未満
このように、評価基準が熱可塑性樹脂毎に異なるのは、熱可塑性樹脂毎にその特性が異なり、一義に規定できないためである。
【0058】
(衝撃強度の評価)
衝撃強度の評価は、JIS K7110に準じて衝撃強度(kJ/m)を測定し、以下の基準で評価した。
PCを回収材料に含む実施例1~、11、12、比較例1~については、以下の基準で評価した。
◎:15kJ/m以上
○:10kJ/m以上15kJ/m未満
△:8kJ/m以上10kJ/m未満
×:8kJ/m未満
PETを回収材料に含む実施例8については、以下の基準で評価した。
◎:3kJ/m以上
○:2kJ/m以上3kJ/m未満
△:1.5kJ/m以上2kJ/m未満
×:1.5kJ/m未満
ABS樹脂を回収材料に含む実施例9については、以下の基準で評価した。
◎:15kJ/m以上
○:10kJ/m以上15kJ/m未満
△:8kJ/m以上10kJ/m未満
×:8kJ/m未満
PEを回収材料に含む実施例10については、以下の基準で評価した。
◎:25kJ/m以上
○:20kJ/m以上25kJ/m未満
△:10kJ/m以上20kJ/m未満
×:10kJ/m未満
【0059】
(流動特性の評価)
流動特性の評価は、JIS K7210に準じてMFR(g/10min)を測定し、以下の基準で評価した。なお、実施例1~、11、12、比較例1~については、300℃、1.2kgで測定し、実施例8については、270℃、2.16kgで測定し、実施例9については、200℃、5kgで測定し、実施例10については、270℃、2.16kgで測定した。
PCを回収材料に含む実施例1~、11、12、比較例1~については、以下の基準で評価した。
◎:17g/10min未満
○:17g/10min以上20g/10min未満
△:20g/10min以上25g/10min未満
×:25g/10min以上
PETを回収材料に含む実施例8については、以下の基準で評価した。
◎:25g/10min未満
○:25g/10min以上30g/10min未満
△:30g/10min以上40g/10min未満
×:40g/10min以上
ABS樹脂を回収材料に含む実施例9については、以下の基準で評価した。
◎:17g/10min未満
○:17g/10min以上20g/10min未満
△:20g/10min以上25g/10min未満
×:25g/10min以上
PEを回収材料に含む実施例10については、以下の基準で評価した。
◎:0.3g/10min未満
○:0.3g/10min以上0.4g/10min未満
△:0.4g/10min以上0.5g/10min未満
×:0.5g/10min以上
【0060】
(ばらつきの評価)
10時間連続運転時に、得られた熱可塑性樹脂組成物を1時間ごとにサンプリングし、破断伸び、衝撃強度、流動特性(MFR)をそれぞれ測定し、以下の式に基づいてそのばらつきの大きさを確認した。上記3つの評価項目のばらつき評価の中で、最も悪い評価を、その条件でのばらつきの評価結果とした。
ばらつき(%)=(最大値-最小値)/平均値×100
【0061】
(破断伸びのばらつきの評価)
PC、ABS樹脂、PEを回収材料に含む実施例1~、9~12、比較例1~については、以下の基準で評価した。
◎:30%未満
○:30%以上50%未満
△:50%以上70%未満
×:70%以上
PETを回収材料に含む実施例8については、以下の基準で評価した。
◎:40%未満
○:40%以上70%未満
△:70%以上100%未満
×:100%以上
【0062】
(衝撃強度のばらつきの評価)
PC、ABS樹脂、PEを回収材料に含む実施例1~、9~12、比較例1~については、以下の基準で評価した。
◎:20%未満
○:20%以上40%未満
△:40%以上60%未満
×:60%以上
PETを回収材料に含む実施例8については、以下の基準で評価した。
◎:40%未満
○:40%以上70%未満
△:70%以上100%未満
×:100%以上
【0063】
(流動特性のばらつきの評価)
PC、ABS樹脂、PEを回収材料に含む実施例1~、9~12、比較例1~については、以下の基準で評価した。
◎:20%未満
○:20%以上40%未満
△:40%以上60%未満
×:60%以上
PETを回収材料に含む実施例8については、以下の基準で評価した。
◎:30%未満
○:30%以上50%未満
△:50%以上70%未満
×:70%以上
【0064】
評価結果を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
表2に示されるように、回収材料を水に浸漬させた後の水の電気伝導度が5μS/cm以上50μS/cmであり、回収材料を水に浸漬させた後の水のpHが5.0以上9.0以下である実施例1~6、8~12の熱可塑性樹脂組成物1~12では、破断伸び、挟撃強度およびMFRのいずれもが十分であった。
【0067】
一方、測定した電気伝導度がいずれも50μS/cm超の比較例1の熱可塑性樹脂組成物13では、破断伸びおよび流動性が十分でなかった。これは、回収材料中に含まれる金属イオンが多すぎて、熱可塑性樹脂が劣化したためと考えられる。測定したpHがいずれも9.0超の比較例2の熱可塑性樹脂組成物14では、破断伸びおよび流動性が十分でなかった。これは、回収材料中に含まれるアルカリ性物質が多すぎて、熱可塑性樹脂が劣化したためと考えられる。また、測定した電気伝導度がいずれも5μS/cm未満の比較例3の熱可塑性樹脂組成物15では、各評価結果は十分であったにも関わらず、ばらつきが大きかった。これは、回収材料全体の物性のばらつきが大きかったことによるものと考えられた。また、測定した電気伝導度のいずれかが50μS/cm超の比較例4の熱可塑性樹脂組成物16では、衝撃強度およびばらつきが十分でなかった。これは、回収材料に金属イオンが多く含まれている部分が存在したためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、例えば、回収材料の再利用や、所期の物性から外れた物性を有する新規樹脂材料の有効活用など、樹脂材料の有効活用の拡充に有用である。