(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20220705BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20220705BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20220705BHJP
B62D 111/00 20060101ALN20220705BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20220705BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20220705BHJP
【FI】
B62D6/00 ZYW
B62D5/04
B62D101:00
B62D111:00
B62D113:00
B62D119:00
(21)【出願番号】P 2018106410
(22)【出願日】2018-06-01
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小寺 隆志
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-165219(JP,A)
【文献】特開2004-130964(JP,A)
【文献】特開平10-264838(JP,A)
【文献】特開2014-080097(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0024281(US,A1)
【文献】特開2017-226318(JP,A)
【文献】特開2004-155283(JP,A)
【文献】特開2014-166805(JP,A)
【文献】特開2009-040341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 101/00
B62D 111/00
B62D 113/00
B62D 119/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵部と、前記操舵部に入力される操舵に応じて転舵輪を転舵させる転舵部とが機械的に分離した構造又は機械的に断接可能な構造を有する操舵装置を制御対象とし、
前記操舵部に入力される操舵に抗する力である操舵反力を与える操舵側モータの作動を制御する制御部を備え、
前記制御部は、
前記転舵輪が連結される転舵軸に作用する複数種の軸力を異なる状態量に基づいて演算する複数の軸力演算部と、
前記複数種の軸力をそれぞれ個別に設定される配分比率で合算することにより配分軸力を演算する配分軸力演算部と、
前記複数種の軸力に基づいてグリップ状態量を演算するグリップ状態量演算部と、
前記グリップ状態量に基づいて前記配分軸力を調整する配分軸力調整部と、
前記配分軸力調整部により調整された調整後配分軸力を考慮して、前記操舵部に連結されるステアリングホイールの操舵角の目標値となる目標操舵角を演算する目標操舵角演算部とを備え、
前記操舵角を前記目標操舵角に追従させる角度フィードバック制御の実行に基づいて前記操舵反力の目標値となる目標反力トルクを演算する操舵制御装置。
【請求項2】
操舵部と、前記操舵部に入力される操舵に応じて転舵輪を転舵させる転舵部とが機械的に分離した構造又は機械的に断接可能な構造を有する操舵装置を制御対象とし、
前記操舵部に入力される操舵に抗する力である操舵反力を与える操舵側モータの作動を制御する制御部を備え、
前記制御部は、
前記転舵輪が連結される転舵軸に作用する複数種の軸力を異なる状態量に基づいて演算する複数の軸力演算部と、
前記複数種の軸力をそれぞれ個別に設定される配分比率で合算することにより配分軸力を演算する配分軸力演算部と、
前記複数種の軸力に基づいてグリップ状態量を演算するグリップ状態量演算部と、
前記グリップ状態量に基づいて前記配分軸力を調整する配分軸力調整部と、
前記操舵部に付与される操舵トルク及び前記配分軸力調整部により調整された調整後配分軸力に基づいて前記操舵反力の目標値となる目標反力トルクを演算する操舵制御装置。
【請求項3】
操舵部と、前記操舵部に入力される操舵に応じて転舵輪を転舵させる転舵部とが機械的に分離した構造又は機械的に断接可能な構造を有する操舵装置を制御対象とし、
前記操舵部に入力される操舵に抗する力である操舵反力を与える操舵側モータの作動を制御する制御部を備え、
前記制御部は、
前記転舵輪が連結される転舵軸に作用する複数種の軸力を異なる状態量に基づいて演算する複数の軸力演算部と、
前記複数種の軸力をそれぞれ個別に設定される配分比率で合算することにより配分軸力を演算する配分軸力演算部と、
前記複数種の軸力に基づいてグリップ状態量を演算するグリップ状態量演算部と、
前記グリップ状態量に基づいて前記配分軸力を調整する配分軸力調整部と、
前記配分軸力調整部により調整された調整後配分軸力に基づいて前記操舵反力の目標値となる目標反力トルクを演算する操舵制御装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の操舵制御装置において、
前記配分軸力調整部は、前記配分軸力に乗算する配分調整ゲインを演算する配分調整ゲイン演算部を備え、
前記配分調整ゲイン演算部は、前記グリップ状態量に基づいて前記配分調整ゲインを変更する操舵制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の操舵制御装置において、
前記配分調整ゲイン演算部は、前記配分調整ゲインを車速に応じて変更する操舵制御装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の操舵制御装置において、
前記配分軸力調整部は、前記配分軸力に加算するオフセット値を演算するオフセット値演算部を備え、
前記オフセット値演算部は、前記グリップ状態量に基づいて前記オフセット値を変更する操舵制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の操舵制御装置において、
前記配分軸力調整部は、前記操舵部に操舵が入力されない非操舵状態である場合に、前記オフセット値を加算して前記配分軸力を調整する操舵制御装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の操舵制御装置において、
前記オフセット値演算部は、前記オフセット値を車速に応じて変更する操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用の操舵装置としてモータを駆動源とする電動パワーステアリング装置(EPS)が広く採用されており、こうしたEPSを制御対象とする操舵制御装置では、操舵フィーリングの向上を図るべく種々の補償制御を実行することがある。例えば特許文献1には、タイヤのグリップ状態(例えばタイヤのグリップが失われた度合いを示すグリップロス度)を検出し、グリップロス度に応じて、アシスト力を可変するものが開示されている。なお、グリップロス度は、操舵トルクに基づいて算出されたアシストトルク、アシストトルクを付与するモータの慣性、及び摩擦力に基づいて算出された第1のセルフアライニングトルク(SATa)と、タイヤに働く横力とトレールとの積から得られる第2のセルフアライニングトルク(SATb)との差を算出することにより得られる。
【0003】
さて、近年、開発が進んでいるステアバイワイヤ式の操舵装置では、転舵輪とステアリングホイールとの間の動力伝達が分離されている。そのため、転舵輪が受ける路面反力等が機械的にはステアリングホイールに伝達されないことから、同形式の操舵装置を制御対象とする操舵制御装置では、ステアリングホイールに対して路面情報を考慮した操舵反力を操舵側アクチュエータ(操舵側モータ)によって付与している。例えば特許文献2には、転舵輪に連結される転舵軸に作用する軸力に着目し、ステアリングホイールの目標操舵角に応じた目標転舵角から算出される理想軸力と、転舵側アクチュエータの駆動源である転舵側モータの駆動電流から算出される路面軸力とを所定配分比率で配分した配分軸力を考慮して操舵反力を決定する操舵制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-40341号公報
【文献】特開2017-165219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ステアバイワイヤ式の操舵装置を制御対象とする操舵制御装置においては、より優れた操舵フィーリングの実現が求められており、上記特許文献2のような構成を採用してもなお、要求される水準に達しているとは言い切れないのが実情である。そのため、より優れた操舵フィーリングを実現することのできる新たな技術の創出が求められていた。
【0006】
なお、上記特許文献1に記載のグリップ状態の検出方法は、グリップロス度の検出に使用するパラメータに、例えばアシストトルク等を使用しているため、ステアバイワイヤ式の操舵装置には、採用できない。
【0007】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、優れた操舵フィーリングを実現できる操舵制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する操舵制御装置は、操舵部と、前記操舵部に入力される操舵に応じて転舵輪を転舵させる転舵部とが機械的に分離した構造又は機械的に断接可能な構造を有する操舵装置を制御対象とし、前記操舵部に入力される操舵に抗する力である操舵反力を与える操舵側モータの作動を制御する制御部を備え、前記制御部は、前記転舵輪が連結される転舵軸に作用する複数種の軸力を異なる状態量に基づいて演算する複数の軸力演算部と、前記複数種の軸力をそれぞれ個別に設定される配分比率で合算することにより配分軸力を演算する配分軸力演算部と、前記複数種の軸力に基づいてグリップ状態量を演算するグリップ状態量演算部と、前記グリップ状態量に基づいて前記配分軸力を調整する配分軸力調整部と、前記配分軸力調整部により調整された調整後配分軸力を考慮して、前記操舵部に連結されるステアリングホイールの操舵角の目標値となる目標操舵角を演算する目標操舵角演算部とを備え、前記操舵角を前記目標操舵角に追従させる角度フィードバック制御の実行に基づいて前記操舵反力の目標値となる目標反力トルクを演算する。
【0009】
上記課題を解決する操舵制御装置は、操舵部と、前記操舵部に入力される操舵に応じて転舵輪を転舵させる転舵部とが機械的に分離した構造又は機械的に断接可能な構造を有する操舵装置を制御対象とし、前記操舵部に入力される操舵に抗する力である操舵反力を与える操舵側モータの作動を制御する制御部を備え、前記制御部は、前記転舵輪が連結される転舵軸に作用する複数種の軸力を異なる状態量に基づいて演算する複数の軸力演算部と、前記複数種の軸力をそれぞれ個別に設定される配分比率で合算することにより配分軸力を演算する配分軸力演算部と、前記複数種の軸力に基づいてグリップ状態量を演算するグリップ状態量演算部と、前記グリップ状態量に基づいて前記配分軸力を調整する配分軸力調整部と、前記操舵部に付与される操舵トルク及び前記配分軸力調整部により調整された調整後配分軸力に基づいて前記操舵反力の目標値となる目標反力トルクを演算する。
【0010】
上記課題を解決する操舵制御装置は、操舵部と、前記操舵部に入力される操舵に応じて転舵輪を転舵させる転舵部とが機械的に分離した構造又は機械的に断接可能な構造を有する操舵装置を制御対象とし、前記操舵部に入力される操舵に抗する力である操舵反力を与える操舵側モータの作動を制御する制御部を備え、前記制御部は、前記転舵輪が連結される転舵軸に作用する複数種の軸力を異なる状態量に基づいて演算する複数の軸力演算部と、前記複数種の軸力をそれぞれ個別に設定される配分比率で合算することにより配分軸力を演算する配分軸力演算部と、前記複数種の軸力に基づいてグリップ状態量を演算するグリップ状態量演算部と、前記グリップ状態量に基づいて前記配分軸力を調整する配分軸力調整部と、前記配分軸力調整部により調整された調整後配分軸力に基づいて前記操舵反力の目標値となる目標反力トルクを演算する。
【0011】
操舵フィーリングは、基本的に、操舵装置に入力される入力トルクと転舵角との関係を示す運動方程式における慣性項、粘性項、バネ項によって表される慣性感、粘性感、剛性感で実現される。上記運動方程のバネ項に相当する配分軸力について、上記各構成のようにグリップ状態量に基づいて調整することで、グリップ状態に応じたステアリング操作の剛性感を手応えとして運転者に付与し、優れた操舵フィーリングを実現できる。
【0012】
上記操舵制御装置において、前記配分軸力調整部は、前記配分軸力に乗算する配分調整ゲインを演算する配分調整ゲイン演算部を備え、前記配分調整ゲイン演算部は、前記グリップ状態量に基づいて前記配分調整ゲインを変更することが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、配分調整ゲインを乗算することにより配分軸力を調整する。そして、グリップ状態量に基づいて配分調整ゲインを変更するため、調整後配分軸力の勾配、すなわちバネ項のバネ定数の変化に基づいてステアリング操作の剛性感を調整できる。
【0014】
上記操舵制御装置において、前記配分調整ゲイン演算部は、前記配分調整ゲインを車速に応じて変更することが好ましい。
上記構成によれば、配分調整ゲインの演算に車速を加味することで、車速に応じて変化するグリップ状態を配分調整ゲインに基づいて実現されるステアリング操作の剛性感を通じて手応えとして運転者に付与できる。
【0015】
上記操舵制御装置において、前記配分軸力調整部は、前記配分軸力に加算するオフセット値を演算するオフセット値演算部を備え、前記オフセット値演算部は、前記グリップ状態量に基づいて前記オフセット値を変更することが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、オフセット値を加算することにより配分軸力を調整する。そして、グリップ状態量に基づいてオフセット値を変更するため、バネ項のバネ定数に関係なく、グリップ状態量に応じたステアリング操作の剛性感については一定の手応えとして運転者に付与できるので、優れた操舵フィーリングを実現できる。
【0017】
上記操舵制御装置において、前記配分軸力調整部は、前記操舵部に操舵が入力されない非操舵状態である場合に、前記オフセット値を加算して前記配分軸力を調整することが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、運転者がステアリングホイールを非操舵状態において、オフセット値を加算することで配分軸力を調整するため、戻り時のステアリングホイールの操舵速度をグリップ状態に応じて調整できる。
【0019】
上記操舵制御装置において、前記オフセット値演算部は、前記オフセット値を車速に応じて変更することが好ましい。
上記構成によれば、オフセット値の演算に車速を加味することで、車速に応じて変化するグリップ状態をオフセット値に基づいて実現されるステアリング操作の剛性感を通じて手応えとして運転者に付与できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、優れた操舵フィーリングを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第1実施形態のステアバイワイヤ式の操舵装置の概略構成図。
【
図3】第1実施形態の反力成分演算部のブロック図。
【
図4】着力点に作用する横力、セルフアライニングトルク、及びニューマチックトレールの関係を示す模式図。
【
図5】スリップ角の変化に対する理想軸力、横力(車両状態両軸力)、セルフアライニングトルク(路面軸力)、及びニューマチックトレールの変化を示すグラフ。
【
図6】第1実施形態の配分軸力調整部のブロック図。
【
図10】変形例のステアバイワイヤ式の操舵装置の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1実施形態)
以下、操舵制御装置の第1実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、操舵制御装置1の制御対象となるステアバイワイヤ式の操舵装置2は、運転者により操舵される操舵部3と、運転者による操舵部3の操舵に応じて転舵輪4を転舵させる転舵部5とを備えている。
【0023】
操舵部3は、ステアリングホイール11が固定されるステアリングシャフト12と、ステアリングシャフト12に操舵反力を付与可能な操舵側アクチュエータ13とを備えている。操舵側アクチュエータ13は、駆動源となる操舵側モータ14と、操舵側モータ14の回転を減速してステアリングシャフト12に伝達する操舵側減速機15とを備えている。
【0024】
転舵部5は、転舵輪4の転舵角に換算可能な回転軸としての第1ピニオン軸21と、第1ピニオン軸21に連結されたラック軸22と、ラック軸22を往復動可能に収容するラックハウジング23とを備えている。第1ピニオン軸21とラック軸22とは、所定の交差角をもって配置されており、第1ピニオン軸21に形成された第1ピニオン歯21aとラック軸22に形成された第1ラック歯22aとを噛合することによって第1ラックアンドピニオン機構24が構成されている。なお、ラック軸22は、第1ラックアンドピニオン機構24によりその軸方向一端側が往復動可能に支持されている。ラック軸22の両端には、ボールジョイントからなるラックエンド25を介してタイロッド26が連結されており、タイロッド26の先端は、転舵輪4が組み付けられた図示しないナックルに連結されている。
【0025】
また、転舵部5には、ラック軸22に転舵輪4を転舵させる転舵力を付与する転舵側アクチュエータ31が第2ピニオン軸32を介して設けられている。転舵側アクチュエータ31は、駆動源となる転舵側モータ33と、転舵側モータ33の回転を減速して第2ピニオン軸32に伝達する転舵側減速機34とを備えている。第2ピニオン軸32とラック軸22とは、所定の交差角をもって配置されており、第2ピニオン軸32に形成された第2ピニオン歯32aとラック軸22に形成された第2ラック歯22bとを噛合することによって第2ラックアンドピニオン機構35が構成されている。なお、ラック軸22は、第2ラックアンドピニオン機構35によりその軸方向他端側が往復動可能に支持されている。
【0026】
このように構成された操舵装置2では、運転者によるステアリング操作に応じて転舵側アクチュエータ31により第2ピニオン軸32が回転駆動され、この回転が第2ラックアンドピニオン機構35によりラック軸22の軸方向移動に変換されることで、転舵輪4の転舵角が変更される。このとき、操舵側アクチュエータ13からは、運転者の操舵に抗する操舵反力がステアリングホイール11に付与される。
【0027】
次に、本実施形態の電気的構成について説明する。
操舵制御装置1は、操舵側アクチュエータ13(操舵側モータ14)及び転舵側アクチュエータ31(転舵側モータ33)に接続されており、これらの作動を制御する。なお、操舵制御装置1は、図示しない中央処理装置(CPU)やメモリを備えており、所定の演算周期ごとにメモリに記憶されたプログラムをCPUが実行することによって、各種制御が実行される。
【0028】
操舵制御装置1には、車両の車速Vを検出する車速センサ41、及びステアリングシャフト12に付与された操舵トルクThを検出するトルクセンサ42が接続されている。なお、トルクセンサ42は、ステアリングシャフト12における操舵側アクチュエータ13(操舵側減速機15)との連結部分よりもステアリングホイール11側に設けられている。また、操舵制御装置1には、操舵部3の操舵量を示す検出値として操舵側モータ14の回転角θsを360°の範囲内の相対角で検出する操舵側回転センサ43、及び転舵部5の転舵量を示す検出値として転舵側モータ33の回転角θtを相対角で検出する転舵側回転センサ44が接続されている。また、操舵制御装置1には、車両のヨーレートγを検出するヨーレートセンサ45、及び車両の横加速度LAを検出する横加速度センサ46が接続されている。なお、操舵トルクTh及び回転角θs,θtは、一方向(本実施形態では、右)に操舵した場合に正の値、他方向(本実施形態では、左)に操舵した場合に負の値として検出する。そして、操舵制御装置1は、これらの各種状態量に基づいて操舵側モータ14及び転舵側モータ33の作動を制御する。
【0029】
以下、操舵制御装置1の構成について詳細に説明する。
図2に示すように、操舵制御装置1は、操舵側モータ制御信号Msを出力する制御部としての操舵側制御部51と、操舵側モータ制御信号Msに基づいて操舵側モータ14に駆動電力を供給する操舵側駆動回路52とを備えている。操舵側制御部51には、操舵側駆動回路52と操舵側モータ14の各相のモータコイルとの間の接続線53を流れる操舵側モータ14の各相電流値Ius,Ivs,Iwsを検出する電流センサ54が接続されている。なお、
図2では、説明の便宜上、各相の接続線53及び各相の電流センサ54をそれぞれ1つにまとめて図示している。
【0030】
また、操舵制御装置1は、転舵側モータ制御信号Mtを出力する転舵側制御部55と、転舵側モータ制御信号Mtに基づいて転舵側モータ33に駆動電力を供給する転舵側駆動回路56とを備えている。転舵側制御部55には、転舵側駆動回路56と転舵側モータ33の各相のモータコイルとの間の接続線57を流れる転舵側モータ33の各相電流値Iut,Ivt,Iwtを検出する電流センサ58が接続されている。なお、
図2では、説明の便宜上、各相の接続線57及び各相の電流センサ58をそれぞれ1つにまとめて図示している。本実施形態の操舵側駆動回路52及び転舵側駆動回路56には、複数のスイッチング素子(例えば、FET等)を有する周知のPWMインバータがそれぞれ採用されている。そして、操舵側モータ制御信号Ms及び転舵側モータ制御信号Mtは、それぞれ各スイッチング素子のオンオフ状態を規定するゲートオンオフ信号となっている。
【0031】
操舵制御装置1は、所定の演算周期毎に以下の各制御ブロックに示される各演算処理を実行して、操舵側モータ制御信号Ms及び転舵側モータ制御信号Mtを生成する。そして、操舵側モータ制御信号Ms及び転舵側モータ制御信号Mtが操舵側駆動回路52及び転舵側駆動回路56に出力されることにより、各スイッチング素子がオンオフし、操舵側モータ14及び転舵側モータ33に駆動電力がそれぞれ供給される。これにより、操舵側アクチュエータ13及び転舵側アクチュエータ31の作動が制御される。
【0032】
先ず、操舵側制御部51の構成について説明する。
操舵側制御部51には、上記車速V、操舵トルクTh、回転角θs、横加速度LA、ヨーレートγ、各相電流値Ius,Ivs,Iws及びq軸電流値Iqtが入力される。そして、操舵側制御部51は、これら各状態量に基づいて操舵側モータ制御信号Msを生成して出力する。
【0033】
詳しくは、操舵側制御部51は、操舵側モータ14の回転角θsに基づいてステアリングホイール11の操舵角θhを演算する操舵角演算部61を備えている。また、操舵側制御部51は、ステアリングホイール11を回転させる力である入力トルク基礎成分Tb*を演算する入力トルク基礎成分演算部62と、ステアリングホイール11の回転に抗する力である反力成分Firを演算する反力成分演算部63とを備えている。また、操舵側制御部51は、操舵トルクTh、入力トルク基礎成分Tb*、反力成分Fir及び車速Vに基づいて目標操舵角θh*を演算する目標操舵角演算部64を備えている。また、操舵側制御部51は、操舵角θh及び目標操舵角θh*に基づいて目標反力トルクTs*を演算する目標反力トルク演算部65と、目標反力トルクTs*に基づいて操舵側モータ制御信号Msを生成する操舵側モータ制御信号生成部66とを備えている。
【0034】
操舵角演算部61は、入力される回転角θsを、例えばステアリング中立位置からの操舵側モータ14の回転数をカウントすることにより、360°を超える範囲の絶対角に換算して取得する。そして、操舵角演算部61は、絶対角に換算された回転角に操舵側減速機15の回転速度比に基づく換算係数Ksを乗算することで、操舵角θhを演算する。
【0035】
入力トルク基礎成分演算部62には、操舵トルクThが入力される。入力トルク基礎成分演算部62は、操舵トルクThの絶対値が大きいほど、大きな絶対値を有する入力トルク基礎成分(反力基礎成分)Tb*を演算する。入力トルク基礎成分Tb*は、目標操舵角演算部64及び目標反力トルク演算部65に入力される。
【0036】
目標操舵角演算部64には、操舵トルクTh、車速V及び入力トルク基礎成分Tb*に加え、後述する反力成分演算部63において演算される反力成分Firが入力される。目標操舵角演算部64は、入力トルク基礎成分Tb*に操舵トルクThを加算するとともに反力成分Firを減算した値である入力トルクTin*と目標操舵角θh*とを関係づけるモデル(ステアリングモデル)式を利用して、目標操舵角θh*を演算する。このモデル式は、ステアリングホイール11(操舵部3)と転舵輪4(転舵部5)とが機械的に連結されたものにおいて、ステアリングホイール11の回転に伴って回転する回転軸のトルクと回転角との関係を定めて表したものである。そして、このモデル式は、操舵装置2の摩擦等をモデル化した粘性係数C、操舵装置2の慣性をモデル化した慣性係数Jを用いて表される。なお、粘性係数C及び慣性係数Jは、車速Vに応じて可変設定される。そして、このようにモデル式を用いて演算された目標操舵角θh*は、減算器69及び転舵側制御部55に加え、反力成分演算部63に出力される。
【0037】
目標反力トルク演算部65には、入力トルク基礎成分Tb*に加え、減算器69において目標操舵角θh*から操舵角θhが差し引かれた角度偏差Δθsが入力される。そして、目標反力トルク演算部65は、角度偏差Δθsに基づき、操舵角θhを目標操舵角θh*にフィードバック制御するための制御量として操舵側モータ14が付与する操舵反力の基礎となる基礎反力トルクを演算し、該基礎反力トルクに入力トルク基礎成分Tb*を加算することで目標反力トルクTs*を演算する。具体的には、目標反力トルク演算部65は、角度偏差Δθsを入力とする比例要素、積分要素及び微分要素のそれぞれの出力値の和を、基礎反力トルクとして演算する。
【0038】
操舵側モータ制御信号生成部66には、目標反力トルクTs*に加え、回転角θs及び相電流値Ius,Ivs,Iwsが入力される。本実施形態の操舵側モータ制御信号生成部66は、目標反力トルクTs*に基づいて、d/q座標系におけるq軸上のq軸目標電流値Iqs*を演算する。なお、本実施形態では、d軸上のd軸目標電流値Ids*はゼロに設定される。
【0039】
操舵側モータ制御信号生成部66は、d/q座標系における電流フィードバック制御を実行することにより、上記操舵側駆動回路52に出力する操舵側モータ制御信号Msを生成(演算)する。具体的には、操舵側モータ制御信号生成部66は、操舵側モータ制御信号生成部66は、回転角θsに基づいて相電流値Ius,Ivs,Iwsをd/q座標上に写像することにより、d/q座標系における操舵側モータ14の実電流値であるd軸電流値Ids及びq軸電流値Iqsを演算する。そして、操舵側モータ制御信号生成部66は、d軸電流値Idsをd軸目標電流値Ids*に追従させるべく、またq軸電流値Iqsをq軸目標電流値Iqs*に追従させるべく、d軸及びq軸上の各電流偏差に基づいて電圧指令値を演算し、該電圧指令値に基づくデューティ比を有する操舵側モータ制御信号Msを生成する。このように演算された操舵側モータ制御信号Msが上記操舵側駆動回路52に出力されることにより、操舵側モータ制御信号Msに応じた駆動電力が操舵側モータ14に出力され、その作動が制御される。
【0040】
次に、転舵側制御部55について説明する。
転舵側制御部55には、上記回転角θt、目標操舵角θh*及び転舵側モータ33の各相電流値Iut,Ivt,Iwtが入力される。そして、転舵側制御部55は、これら各状態量に基づいて転舵側モータ制御信号Mtを生成して出力する。
【0041】
詳しくは、転舵側制御部55は、転舵輪4の転舵角に換算可能な回転軸である第1ピニオン軸21の回転角(ピニオン角)に相当する転舵対応角θpを演算する転舵対応角演算部71を備えている。また、転舵側制御部55は、転舵対応角θp及び目標操舵角θh*に基づいて目標転舵トルクTt*を演算する目標転舵トルク演算部72と、目標転舵トルクTt*に基づいて転舵側モータ制御信号Mtを生成する転舵側モータ制御信号生成部73とを備えている。なお、本実施形態の操舵装置2では、操舵角θhと転舵対応角θpとの比である舵角比が一定に設定されており、目標転舵対応角は、目標操舵角θh*と等しい。
【0042】
転舵対応角演算部71は、入力される回転角θtを、例えば車両が直進する中立位置からの転舵側モータ33の回転数をカウントすることにより、360°を超える範囲の絶対角に換算して取得する。そして、転舵対応角演算部71は、絶対角に換算された回転角に転舵側減速機34の回転速度比、第1及び第2ラックアンドピニオン機構24,35の回転速度比に基づく換算係数Ktを乗算して転舵対応角θpを演算する。つまり、転舵対応角θpは、第1ピニオン軸21がステアリングシャフト12に連結されていると仮定した場合におけるステアリングホイール11の操舵角θhに相当する。
【0043】
目標転舵トルク演算部72には、減算器74において目標操舵角θh*(目標転舵対応角)から転舵対応角θpが差し引かれた角度偏差Δθpが入力される。そして、目標転舵トルク演算部72は、角度偏差Δθpに基づき、転舵対応角θpを目標操舵角θh*にフィードバック制御するための制御量として、転舵側モータ33が付与する転舵力の目標値となる目標転舵トルクTt*を演算する。具体的には、目標転舵トルク演算部72は、角度偏差Δθpを入力とする比例要素、積分要素及び微分要素のそれぞれの出力値の和を、目標転舵トルクTt*として演算する。
【0044】
転舵側モータ制御信号生成部73には、目標転舵トルクTt*に加え、回転角θt及び相電流値Iut,Ivt,Iwtが入力される。そして、転舵側モータ制御信号生成部73は、目標転舵トルクTt*に基づいて、d/q座標系におけるq軸上のq軸目標電流値Iqt*を演算する。なお、本実施形態では、d軸上のd軸目標電流値Idt*はゼロに設定される。
【0045】
転舵側モータ制御信号生成部73は、d/q座標系における電流フィードバック制御を実行することにより、上記転舵側駆動回路56に出力する転舵側モータ制御信号Mtを生成(演算)する。具体的には、転舵側モータ制御信号生成部73は、回転角θtに基づいて相電流値Iut,Ivt,Iwtをd/q座標上に写像することにより、d/q座標系における転舵側モータ33の実電流値であるd軸電流値Idt及びq軸電流値Iqtを演算する。そして、転舵側モータ制御信号生成部73は、d軸電流値Idtをd軸目標電流値Idt*に追従させるべく、またq軸電流値Iqtをq軸目標電流値Iqt*に追従させるべく、d軸及びq軸上の電流偏差に基づいて電圧指令値を演算し、該電圧指令値に基づくデューティ比を有する転舵側モータ制御信号Mtを生成する。このように演算された転舵側モータ制御信号Mtが上記転舵側駆動回路56に出力されることにより、転舵側モータ制御信号Mtに応じた駆動電力が転舵側モータ33に出力され、その作動が制御される。なお、転舵側モータ制御信号Mtを生成する過程で演算したq軸電流値Iqtは、上記反力成分演算部63に出力される。
【0046】
次に、反力成分演算部63の構成について説明する。
反力成分演算部63には、車速V、操舵トルクTh、横加速度LA、ヨーレートγ、転舵側モータ33のq軸電流値Iqt及び目標操舵角θh*が入力される。反力成分演算部63は、これらの状態量に基づいてラック軸22に作用する軸力に応じた反力成分Fir(ベース反力)を演算し、目標操舵角演算部64に出力する。
【0047】
図3に示すように、反力成分演算部63は、路面軸力Ferを演算する軸力演算部としての路面軸力演算部81と、理想軸力Fibを演算する軸力演算部としての理想軸力演算部82とを備えている。なお、路面軸力Fer及び理想軸力Fibは、トルクの次元(N・m)で演算される。また、反力成分演算部63は、転舵輪4に対して路面から加えられる軸力(路面から伝達される路面情報)が反映されるように、理想軸力Fib及び路面軸力Ferを所定割合で配分して配分軸力Fdを演算する配分軸力演算部83を備えている。
【0048】
理想軸力演算部82には、目標操舵角θh*(目標転舵対応角)及び車速Vが入力される。理想軸力演算部82は、転舵輪4に作用する軸力(転舵輪4に伝達される伝達力)の理想値であって、路面情報が反映されない理想軸力Fibを目標操舵角θh*に基づいて演算する。具体的には、理想軸力演算部82は、目標操舵角θh*の絶対値が大きくなるにつれて理想軸力Fibの絶対値が大きくなるように演算する。また、理想軸力演算部82は、車速Vが大きくなるにつれて理想軸力Fibの絶対値が大きくなるように演算する。このように演算された理想軸力Fibは、乗算器84に出力される。
【0049】
路面軸力演算部81には、転舵側モータ33のq軸電流値Iqtが入力される。路面軸力演算部81は、転舵輪4に作用する軸力(転舵輪4に伝達される伝達力)の推定値であって、路面情報が反映された路面軸力Ferをq軸電流値Iqtに基づいて演算する。具体的には、路面軸力演算部81は、転舵側モータ33によってラック軸22に加えられるトルクと、転舵輪4に対して路面から加えられる力に応じたトルクとが釣り合うとして、q軸電流値Iqtの絶対値が大きくなるほど、路面軸力Ferの絶対値が大きくなるように演算する。このように演算された路面軸力Ferは、乗算器85に出力される。
【0050】
配分軸力演算部83には、車速Vに加え、路面軸力Fer及び理想軸力Fibが入力される。配分軸力演算部83は、車速Vに基づいて理想軸力Fibと路面軸力Ferとを配分するためのそれぞれの配分割合である配分ゲインGib、配分ゲインGerを演算する配分ゲイン演算部86を備えている。本実施形態の配分ゲイン演算部86は、車速Vと配分ゲインGib,Gerとの関係を定めたマップを備えており、同マップを参照することにより車速Vに応じた配分ゲインGib,Gerを演算する。配分ゲインGibは、車速Vが大きい場合に小さい場合よりも値が小さくなり、配分ゲインGerは車速Vが大きい場合に小さい場合よりも値が大きくなる。なお、本実施形態では、配分ゲインGib,Gerの和が「1」となるように値が設定されている。このように演算された配分ゲインGibは乗算器84に出力され、配分ゲインGerは乗算器85に出力される。
【0051】
配分軸力演算部83は、乗算器84において理想軸力Fibに配分ゲインGibを乗算するとともに、乗算器85において路面軸力Ferに配分ゲインGerを乗算し、加算器87においてこれらの値を足し合わせて配分軸力Fdを演算する。このように演算された配分軸力Fdは、後述する配分軸力調整部88に出力される。
【0052】
また、反力成分演算部63は、車両状態量軸力Fyrを演算する軸力演算部としての車両状態量軸力演算部91と、車両のグリップ状態を示すグリップ状態量Grを演算するグリップ状態量演算部92とを備えている。なお、車両状態量軸力Fyrは、トルクの次元(N・m)で演算される。車両状態量軸力演算部91には、車両状態量としてのヨーレートγ及び横加速度LAが入力される。車両状態量軸力演算部91は、下記(1)式にヨーレートγ及び横加速度LAを入力することにより横力Fyを演算する。
【0053】
横力Fy=Kla×横加速度LA+Kγ×γ’…(1)
なお、「γ’」は、ヨーレートγの微分値を示し、「Kla」及び「Kγ」は、試験等により予め設定された係数を示す。そして、車両状態量軸力演算部91は、このように演算される横力Fyが近似的にラック軸22に作用する軸力とみなすことができることを踏まえ、該横力Fyを車両状態量軸力Fyrとして出力する。
【0054】
グリップ状態量演算部92には、車両状態量軸力Fyr及び路面軸力Ferが入力される。グリップ状態量演算部92は、下記(2)式に車両状態量軸力Fyr及び路面軸力Ferを入力することにより、転舵輪4がどの程度グリップしているかを示すグリップ度からなるグリップ状態量Grを演算する。
【0055】
グリップ状態量Gr=(Ker×路面軸力)/(Ky×車両状態量軸力)…(2)
なお、「Ker」及び「Ky」は、試験等により予め設定された係数を示す。
ここで、転舵輪のスリップ角βと該転舵輪に作用する力との関係について、
図4及び
図5を参照して説明する。
【0056】
図4は、スリップ角βが付いている転舵輪の接地面を上から見た図である。転舵輪の向きに向かう中心線xが元々の転舵輪の向きを示しており、転舵輪の進行方向はこれに対して線αで示している。同図において、A点が転舵輪の接地開始点で、B点が接地終了点とすると、スリップ角β分だけ、トレッド面が路面に引きずられて中心線xから線αのラインに沿ってずれて撓む。なお、
図4において、トレッド面がずれて撓んだ領域をハッチングで示す。この撓んだ領域のうち、A点側の領域が粘着域であり、B点側の領域が滑り域である。そして、このようなスリップ角βで旋回したときの転舵輪の接地面の着力点には、横力Fyが働き、鉛直軸周りのモーメントがセルフアライニングトルクSATとなる。なお、転舵輪の接地中心と着力点間の距離がニューマチックトレールであり、ニューマチックトレールとキャスタトレールの和がトレールである。
【0057】
図5は、スリップ角βの変化に対する、理想軸力Fib、横力Fy(車両状態量軸力Fyr)、セルフアライニングトルクSAT(路面軸力Fer)、及びニューマチックトレールの変化を示している。同図に示すように旋回中の転舵輪において、スリップ角βが小さい領域では、スリップ角βの増大に従って理想軸力Fib、横力Fy及びセルフアライニングトルクSATがそれぞれ略線形(リニア)に増大し、これらの各値の差は小さい。一方、スリップ角βがある程度大きな領域では、スリップ角βの増大に従って、理想軸力Fibは引き続き略線形に増大するものの、横力Fyは増大を続けた後に略一定又はやや減少傾向を示す。また、セルフアライニングトルクSATは、スリップ角βの増大に従って、しばらくは増大を続けるが、ニューマチックトレールの減少に伴って大きく減少する傾向を示す。このように各値が略線形に変化し、これらの差が小さい領域を通常領域とし、横力Fy及びセルフアライニングトルクSATが非線形に変化し、これらの差が大きくなる領域を限界領域とする。なお、
図5に示す通常領域と限界領域との区切りは便宜上のものである。
【0058】
ここで、旋回時の軸力をセルフアライニングトルクSATと捉えると、セルフアライニングトルクSATと横力Fyの関係は、
図4に示すように、転舵輪と路面との接地中心から横力の着力点までのニューマチックトレールに相当するパラメータを用いた下記(3)式で表現できる。
【0059】
セルフアライニングトルクSAT=横力Fy×ニューマチックトレール…(3)
そして、セルフアライニングトルクSATを「軸力≒路面からの反力」と考えると、転舵側モータ33の駆動電流(すなわち、q軸電流値Iqt)に基づく路面軸力FerがセルフアライニングトルクSATを近似的に表現しているといえる。
【0060】
また、横力Fyは、転舵輪4に発生している力であり、「横力Fy≒車両横向きに発生している力」と置き換えて、横力Fyを横加速度LAによって近似的に表現することができる。なお、横加速度LAだけでは、実際の軸力に対し、動き出し時の応答性が不足するため、応答性を改善するためにヨーレートγの微分を加算して、上記式(1)が得られる。
【0061】
また、上記(3)式により、グリップ状態量Grは、下記(4)式のように表わすことができる。
グリップ状態量Gr=セルフアライニングトルクSAT/横力Fy…(4)
そして、路面軸力FerがセルフアライニングトルクSATを近似的に表現でき、車両状態量軸力Fyrが横力を近似的に表現できることを踏まえると、グリップ状態量Grは、上記(2)式で表される。
【0062】
図3に示すように、グリップ状態量演算部92が演算したグリップ状態量Grは、配分軸力調整部88に出力される。そして、配分軸力調整部88は、配分軸力演算部83から入力された配分軸力Fdをグリップ状態量Gr、操舵トルクTh及び車速Vに基づいて調整することで調整後配分軸力としての反力成分Firを演算し、目標操舵角演算部64に出力する。
【0063】
次に、配分軸力調整部88の構成について説明する。
図6に示すように、配分軸力調整部88は、配分調整ゲイン演算部101を備えている。配分調整ゲイン演算部101には、グリップ状態量Gr及び車速Vが入力される。配分調整ゲイン演算部101は、グリップ状態量Gr及び車速Vと配分調整ゲインKaaとの関係を定めたマップを備えており、同マップを参照することによりグリップ状態量Gr及び車速Vに応じた配分調整ゲインKaaを演算する。このマップは、グリップ状態量Grがグリップ閾値Grth以下の領域では配分調整ゲインKaaが「1」となり、グリップ状態量Grがグリップ閾値Grthよりも大きくなると、該グリップ状態量Grの増大に基づいて配分調整ゲインKaaが大きくなるように設定されている。なお、グリップ閾値Grthは、通常領域と限界領域との境となるスリップ角βでのグリップ状態量Grを示す値であり、予め試験等により設定されている。また、マップは、グリップ状態量Grがグリップ閾値Grthよりも大きな領域では、車速Vの増大に基づいて、配分調整ゲインKaaが大きくなるように設定されている。なお、マップの形状は、適宜変更可能であり、グリップ状態量Grがグリップ閾値Grthよりも大きな領域において、該グリップ状態量Grの増大に基づいて配分調整ゲインKaaが小さくなるように設定してもよく、また、車速Vの増大に基づいて配分調整ゲインKaaが小さくなるように設定してもよい。
【0064】
このように演算された配分調整ゲインKaaは、配分軸力Fdとともに乗算器102に入力される。配分軸力調整部88は、乗算器102において配分軸力Fdに配分調整ゲインKaaを乗算した値を勾配調整配分軸力Fd’として加算器103に出力する。また、配分軸力調整部88は、オフセット値演算部104と、非操舵ゲイン演算部105とを備えている。
【0065】
オフセット値演算部104には、グリップ状態量Gr及び車速Vが入力される。オフセット値演算部104は、グリップ状態量Gr及び車速Vとオフセット値Ofとの関係を定めたマップを備えており、同マップを参照することによりグリップ状態量Gr及び車速Vに応じたオフセット値Ofを演算する。このマップは、グリップ状態量Grがグリップ閾値Grth以下の領域ではオフセット値が「0」となり、グリップ状態量Grがグリップ閾値Grthよりも大きくなると、該グリップ状態量Grの増大に基づいてオフセット値Ofが大きくなるように設定されている。また、マップは、グリップ状態量Grがグリップ閾値Grthよりも大きな領域では、車速Vの増大に基づいて、オフセット値Ofが大きくなるように設定されている。なお、マップの形状は、適宜変更可能であり、例えばグリップ状態量Grがグリップ閾値Grthよりも大きな領域において、該グリップ状態量Grの増大に基づいてオフセット値Ofが小さくなる(負の値となる)ように設定してもよく、また、車速Vの増大に基づいてオフセット値Ofが小さくなるように設定してもよい。このように演算されたオフセット値Ofは、乗算器106に出力される。
【0066】
非操舵ゲイン演算部105には、操舵トルクThが入力される。非操舵ゲイン演算部105は、操舵トルクThと非操舵ゲインKnsとの関係を定めたマップを備えており、同マップを参照することにより操舵トルクThに応じた非操舵ゲインKnsを演算する。このマップは、操舵トルクThの絶対値が「0」の場合に非操舵ゲインKnsが「1」となり、操舵トルクThの絶対値の増大に基づいて非操舵ゲインKnsが減少し、操舵トルクThの絶対値が非操舵閾値Tthよりも大きくなると、非操舵ゲインKnsが「0」となるように設定されている。なお、非操舵閾値Tthは、運転者によりステアリング操作が行われていると認められる値であり、ゼロ近傍の値に予め設定されている。このように演算された非操舵ゲインKnsは、乗算器106に出力される。
【0067】
配分軸力調整部88は、乗算器106においてオフセット値Ofに非操舵ゲインKnsを乗算したオフセット値Of’を加算器103に出力する。そして、配分軸力調整部88は、加算器103において、勾配調整配分軸力Fd’にオフセット値Of’を加算した値を反力成分Firとして演算する。上記のように非操舵ゲインKnsは、運転者によりステアリング操作が行われている場合に「0」となることから、非操舵時にのみオフセット値Ofが加算されて配分軸力Fdが調整されることとなる。
【0068】
次に、配分軸力Fdの調整に伴う操舵フィーリングの変化について説明する。
例えば車両が低μ路面を走行し、スリップ角βが大きくなりやすい状況下において、反力成分Firが配分軸力Fdに比べ、グリップ状態量Grに基づいて小さくするように調整された場合を想定する。この場合、例えばスリップ角βが大きくなって限界領域に入る前の段階から、通常よりも操舵側モータ14からステアリングホイール11に付与される操舵反力を小さくでき、所謂抜け感が生じることで、低μ路であるといった路面情報を運転者が認識しやすくなる。
【0069】
一方、同状況下において、反力成分Firが配分軸力Fdに比べ、グリップ状態量Grに基づいて大きくするように調整された場合を想定する。この場合、例えばスリップ角βが大きくなった状態でも、操舵側モータ14からステアリングホイール11に付与される操舵反力を大きくでき、運転者が違和感なく操舵を継続できる。
【0070】
本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)操舵側制御部51は、配分軸力Fdをグリップ状態量Grに基づいて調整し、この調整された調整後配分軸力としての反力成分Firを考慮して操舵反力を変更する。ここで、操舵フィーリングは、基本的に、操舵装置2に入力される入力トルクTin*と転舵角との関係を示す運動方程式における慣性項、粘性項、バネ項によって表される慣性感、粘性感、剛性感で実現される。上記運動方程のバネ項に相当する配分軸力Fdについて、本実施形態のようにグリップ状態量Grに基づいて調整することで、グリップ状態に応じたステアリング操作の剛性感を手応えとして運転者に付与し、優れた操舵フィーリングを実現できる。
【0071】
(2)配分軸力調整部88は、配分軸力Fdに乗算する配分調整ゲインKaaを演算する配分調整ゲイン演算部101を備え、配分調整ゲインKaaを乗算することにより配分軸力Fdを調整する。そして、配分調整ゲイン演算部101は、グリップ状態量Grに基づいて配分調整ゲインKaaを変更するため、反力成分Fir(調整後配分軸力)の勾配、すなわちバネ項のバネ定数の変化に基づいてステアリング操作の剛性感を調整できる。
【0072】
(3)配分調整ゲイン演算部101は、配分調整ゲインKaaを車速Vに応じて変更するため、車速Vに応じて変化するグリップ状態を配分調整ゲインKaaに基づいて実現されるステアリング操作の剛性感を通じて手応えとして運転者に付与できる。
【0073】
(4)配分軸力調整部88は、配分軸力Fdに加算するオフセット値Ofを演算するオフセット値演算部104を備え、オフセット値Ofを加算することにより配分軸力Fdを調整する。そして、オフセット値演算部104は、グリップ状態量Grに基づいてオフセット値Ofを変更するため、バネ項のバネ定数に関係なく、グリップ状態量Grに応じたステアリング操作の剛性感については一定の手応えとして運転者に付与できるので、優れた操舵フィーリングを実現できる。
【0074】
(5)配分軸力調整部88は、オフセット値Ofに乗算する非操舵ゲインKnsを演算する非操舵ゲイン演算部105を備え、非操舵ゲイン演算部105は、非操舵時にのみオフセット値Ofがゼロよりも大きな値となるように演算する。そのため、運転者がステアリングホイール11を略操舵していない状態において、オフセット値Ofが加算されて配分軸力Fdが調整されるため、戻り時のステアリングホイール11の操舵速度ωhをグリップ状態に応じて調整できる。
【0075】
(6)オフセット値演算部104は、オフセット値Ofを車速Vに応じて変更するため、車速Vに応じて変化するグリップ状態をオフセット値Ofに基づいて実現されるステアリング操作の剛性感を通じて手応えとして運転者に付与できる。
【0076】
(第2実施形態)
次に、操舵制御装置の第2実施形態を図面に従って説明する。なお、説明の便宜上、同一の構成については上記第1実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0077】
図7に示すように、本実施形態の入力トルク基礎成分演算部62は、駆動トルクTcに対して運転者が入力すべき操舵トルクThの目標値であるトルク指令値Th*を演算するトルク指令値演算部111と、トルクフィードバック演算を行うトルクフィードバック制御部(以下、トルクF/B制御部)112とを備えている。
【0078】
詳しくは、トルク指令値演算部111には、加算器113において操舵トルクThに入力トルク基礎成分Tb*が足し合わされた駆動トルクTcが入力される。トルク指令値演算部111は、駆動トルクTcの絶対値が大きいほど、より大きな絶対値となるトルク指令値Th*を演算する。
【0079】
トルクF/B制御部112には、減算器114において操舵トルクThからトルク指令値Th*が差し引かれたトルク偏差ΔTが入力される。そして、トルクF/B制御部112は、トルク偏差ΔTに基づき、操舵トルクThをトルク指令値Th*にフィードバック制御するための制御量として入力トルク基礎成分Tb*を演算する。具体的には、トルクF/B制御部112は、トルク偏差ΔTを入力とする比例要素、積分要素及び微分要素のそれぞれの出力値の和を、入力トルク基礎成分Tb*として演算する。
【0080】
このように演算された入力トルク基礎成分Tb*は、上記第1実施形態と同様に目標反力トルク演算部65に出力されるとともに、加算器113に出力される。これにより、上記第1実施形態と同様に、目標操舵角演算部64において目標操舵角θh*が演算され、目標反力トルク演算部65において目標反力トルクTs*が演算される。
【0081】
反力成分演算部63は、上記第1実施形態と同様にグリップ状態量Grに基づいて調整された反力成分Fir(調整後配分軸力)を演算する。これにより、目標操舵角θh*が変更され、目標反力トルクTs*が変更される。
【0082】
以上、本実施形態では、上記第1実施形態の(1)~(6)の作用及び効果と同様の作用及び効果を有する。
(第3実施形態)
次に、操舵制御装置の第3実施形態を図面に従って説明する。なお、説明の便宜上、同一の構成については上記第1実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0083】
図8に示すように、本実施形態の操舵側制御部51は、転舵輪4の転舵角に換算可能な転舵対応角θpの目標値である目標転舵対応角θp*を演算する目標転舵対応角演算部121を備えており、目標操舵角演算部64を備えていない。
【0084】
操舵側制御部51は、操舵トルクThとともに入力トルク基礎成分Tb*が入力される加算器122を備えており、加算器122においてこれらを足し合わせることにより駆動トルクTcを演算する。また、操舵側制御部51は、駆動トルクTcとともに反力成分Firが入力される減算器123を備えており、減算器123において駆動トルクTcから反力成分Firを差し引くことにより入力トルクTin*を演算する。このように演算された入力トルクTin*は、目標反力トルク演算部65及び目標転舵対応角演算部121に出力される。目標反力トルク演算部65は、入力トルクTin*に基づいて操舵側モータ14が付与する操舵反力の目標値である目標反力トルクTs*を演算する。具体的には、目標反力トルク演算部65は、入力トルクTin*が大きいほど、より大きな絶対値を有する目標反力トルクTs*を演算する。
【0085】
目標転舵対応角演算部121には、入力トルクTin*及び車速Vが入力される。目標転舵対応角演算部121は、上記第1実施形態の目標操舵角演算部64が目標操舵角θh*を演算する際の演算処理と同様の演算処理によって目標転舵対応角θp*を演算する。このように演算された目標転舵対応角θp*は、上記第1実施形態の目標操舵角θh*と同様の値であり、転舵側制御部55及び反力成分演算部63に出力される。
【0086】
反力成分演算部63は、上記第1実施形態と同様にグリップ状態量Grに基づいて調整された反力成分Fir(調整後配分軸力)を演算する。そして、入力トルクTin*は、その基になる反力成分Firがグリップ状態量Grに基づいて変更される。これにより、入力トルクTin*に基づく目標反力トルクTs*がグリップ状態に応じて変更される。
【0087】
以上、本実施形態では、上記第1実施形態の(1)~(6)の作用及び効果と同様の作用及び効果を有する。
(第4実施形態)
次に、操舵制御装置の第4実施形態を図面に従って説明する。なお、説明の便宜上、同一の構成については上記第3実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0088】
図9に示すように、本実施形態の目標反力トルク演算部65には、反力成分Fir及び車速Vが入力される。そして、目標反力トルク演算部65は、反力成分Firの絶対値が大きいほど、また車速Vが大きいほど、より大きな絶対値を有する目標反力トルクTs*を演算する。
【0089】
反力成分演算部63は、上記第1実施形態と同様にグリップ状態量Grに基づいて調整された反力成分Fir(調整後配分軸力)を演算する。これにより、目標反力トルクTs*が変更される。
【0090】
以上、本実施形態では、上記第1実施形態の(1)~(6)の作用及び効果と同様の作用及び効果を有する。
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0091】
・上記第3及び第4実施形態では、目標転舵対応角θp*を入力トルクTin*に基づいて演算したが、これに限らず、例えば操舵角θh等、他のパラメータに基づいて演算してもよい。
【0092】
・上記各実施形態において、配分軸力調整部88が非操舵ゲインKnsを備えない構成としてもよい。
・上記各実施形態では、非操舵ゲイン演算部105は、トルクセンサ42により検出される操舵トルクTh(トーションバートルク)に基づいて非操舵ゲインKnsを演算した。しかし、これに限らず、運転者がステアリングホイール11に加えているトルク(推定操舵トルク)に基づいて非操舵ゲインKnsを演算してもよい。なお、推定操舵トルクは、例えばステアリングホイール11に設けられるセンサにより検出したり、操舵トルクThから演算により求めたりすることが可能である。
【0093】
・上記各実施形態において、配分軸力調整部88が配分軸力Fdを調整する態様としては、配分調整ゲインKaaを乗算するのみ、又はオフセット値Ofを加算するのみとしてもよく、適宜変更可能である。
【0094】
・上記各実施形態において、配分調整ゲインKaaを車速Vに応じて変更せず、一定としてもよい。同様に、オフセット値Ofを車速Vに応じて変更せず、一定としてもよい。
・上記各実施形態では、路面軸力Ferを車両状態量軸力Fyrにより除算したグリップ度をグリップ状態量Grとしたが、これに限らず、例えば路面軸力Ferから車両状態量軸力Fyrを減算したグリップロス度(転舵輪4のグリップがどの程度失われたかを示す値)をグリップ状態量Grとしてもよい。
【0095】
・上記各実施形態では、路面軸力Fer及び車両状態量軸力Fyrに基づいてグリップ状態量Grを演算した。しかし、これに限らず、グリップ状態量Grは複数種の軸力に基づいて演算することができるため、例えば路面軸力Fer及び理想軸力Fibに基づいて、あるいは路面軸力Fer、理想軸力Fib及び車両状態量軸力Fyrに基づいてグリップ状態量Grを演算してもよい。また、理想軸力Fib、路面軸力Fer及び車両状態量軸力Fyr以外の軸力を演算し、当該軸力をグリップ状態量Grの演算に用いてもよい。
【0096】
・上記各実施形態では、路面軸力Ferをq軸電流値Iqtに基づいて演算したが、これに限らず、例えばラック軸22に軸力を検出できる圧力センサ等を設け、その検出結果を路面軸力Ferとして用いてもよい。
【0097】
・上記各実施形態では、理想軸力Fibを目標操舵角θh*(目標転舵対応角)及び車速Vに基づいて演算したが、これに限らず、目標操舵角θh*(目標転舵対応角)のみに基づいて演算してもよく、また、転舵対応角θpに基づいて演算してもよい。さらに、例えば操舵トルクThや車速V等、他のパラメータを加味する等、他の方法で演算してもよい。
【0098】
・上記各実施形態では、理想軸力Fibと路面軸力Ferとを所定割合で配分して配分軸力Fdを演算したが、これに限らず、例えば理想軸力Fibと車両状態両軸力Fyrとを所定割合で配分して配分軸力Fdを演算してもよく、配分軸力Fdの演算態様は適宜変更可能である。
【0099】
・上記実施形態では、ヨーレートγ及び横加速度LAに基づいて車両状態両軸力Fyrを演算したが、これに限らず、例えばヨーレートγ及び横加速度LAのいずれか一方のみに基づいて車両状態両軸力Fyrを演算してもよい。
【0100】
・上記各実施形態において、配分軸力演算部83が車速V以外のパラメータを加味して配分ゲインGib,Gerを演算してもよい。例えば車載のエンジン等の制御パターンの設定状態を示すドライブモードを複数の中から選択可能な車両において、該ドライブモードを配分ゲインGib,Gerを設定するためのパラメータとしてもよい。この場合、配分軸力演算部83がドライブモード毎に車速Vに対する傾向が異なる複数のマップを備え、同マップを参照することにより、配分ゲインGib,Gerを演算する構成を採用できる。
【0101】
・上記各実施形態では、反力成分演算部63は、調整後配分軸力を反力成分Firとして演算したが、これに限らず、例えば調整後配分軸力に他の反力を加味した値を反力成分Firとして演算してもよい。こうした反力として、例えばステアリングホイール11の操舵角θhの絶対値が舵角閾値に近づく場合に、更なる切り込み操舵が行われるのに抗する反力であるエンド反力を採用することができる。なお、舵角閾値としては、例えばラックエンド25がラックハウジング23に当接することでラック軸22の軸方向移動が規制される機械的なラックエンド位置よりも中立位置側に設定された仮想ラックエンド位置に対し、さらに所定角度だけ中立位置側に位置する仮想ラックエンド近傍位置での転舵対応角θpを用いることができる。また、舵角閾値としてステアリングホイール11の回転エンド位置での操舵角θhを用いることもできる。
【0102】
・上記各実施形態では、目標操舵角演算部64が操舵トルクTh及び車速Vに基づいて目標操舵角θh*を設定したが、これに限らず、少なくとも操舵トルクThに基づいて設定されれば、例えば車速Vを用いずともよい。
【0103】
・上記各実施形態では、操舵角θhと転舵対応角θpとの舵角比を一定としたが、これに限らず、これらが車速等に応じて可変としてもよい。なお、この場合には、目標操舵角θh*と目標転舵対応角とが異なる値になる。
【0104】
・上記各実施形態において、目標操舵角演算部64がサスペンションやホイールアライメント等の仕様によって決定されるバネ係数Kを用いた、所謂バネ項を追加してモデル化したモデル式を利用して目標操舵角θh*を演算してもよい。
【0105】
・上記第1及び第2実施形態では、目標反力トルク演算部65が基礎反力トルクに入力トルク基礎成分Tb*を加算して目標反力トルクTs*を演算したが、これに限らず、例えば入力トルク基礎成分Tb*を加算せず、基礎反力トルクをそのまま目標反力トルクTs*として演算してもよい。
【0106】
・上記各実施形態において、第1ラックアンドピニオン機構24に代えて、例えばブッシュ等によりラック軸22を支持してもよい。
・上記各実施形態において、転舵側アクチュエータ31として、例えばラック軸22の同軸上に転舵側モータ33を配置するものや、ラック軸22と平行に転舵側モータ33を配置するもの等を用いてもよい。
【0107】
・上記各実施形態では、操舵制御装置1の制御対象となる操舵装置2を、操舵部3と転舵部5とを機械的に分離したリンクレスのステアバイワイヤ式操舵装置としたが、これに限らず、クラッチにより操舵部3と転舵部5とを機械的に断接可能なステアバイワイヤ式操舵装置としてもよい。
【0108】
例えば
図10に示す例では、操舵部3と転舵部5との間には、クラッチ301が設けられている。クラッチ301は、その入力側要素に固定された入力側中間軸302を介してステアリングシャフト12に連結されるとともに、その出力側要素に固定された出力側中間軸303を介して第1ピニオン軸21に連結されている。そして、操舵制御装置1からの制御信号によりクラッチ301が解放状態となることで、操舵装置2はステアバイワイヤモードとなり、クラッチ301が締結状態となることで、操舵装置2は電動パワーステアリングモードとなる。
【符号の説明】
【0109】
1…操舵制御装置、2…操舵装置、3…操舵部、4…転舵輪、5…転舵部、11…ステアリングホイール、12…ステアリングシャフト、13…操舵側アクチュエータ、14…操舵側モータ、51…操舵側制御部(制御部)、62…入力トルク基礎成分演算部、63…反力成分演算部、64…目標操舵角演算部、65…目標反力トルク演算部、81…路面軸力演算部(軸力演算部)、82…理想軸力演算部(軸力演算部)、83…配分軸力演算部、88…配分軸力調整部、91…車両状態量軸力演算部(軸力演算部)、92…グリップ状態量演算部、101…配分調整ゲイン演算部、104…オフセット値演算部、105…非操舵ゲイン演算部、111…トルク指令値演算部、112…トルクF/B制御部、121…目標転舵対応角演算部Fd…配分軸力、Fer…路面軸力、Fib…理想軸力、Fir…反力成分、Fyr…車両状態量軸力、Gr…グリップ状態量、Kaa…配分調整ゲイン、Kns…非操舵ゲイン、LA…横加速度、Of…オフセット値、Tb*…入力トルク基礎成分、Tc…駆動トルク、Th…操舵トルク、Th*…トルク指令値、Tin*…入力トルク、Ts*…目標反力トルク、Tt*…目標転舵トルク、V…車速、γ…ヨーレート、θh…操舵角、θp…転舵対応角、θh*…目標操舵角、θp*…目標転舵対応角。