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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/12 20060101AFI20220705BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20220705BHJP
   B60C 11/13 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
B60C11/12 A
B60C11/03 300B
B60C11/12 C
B60C11/13 C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018113042
(22)【出願日】2018-06-13
(65)【公開番号】P2019214315
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】王子 拓也
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-044718(JP,A)
【文献】特開2018-075880(JP,A)
【文献】特開2015-020663(JP,A)
【文献】国際公開第2015/004913(WO,A1)
【文献】特開2013-039871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00- 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部には、複数のブロックが設けられ、
前記ブロックの少なくとも1つは、前記ブロックをタイヤ軸方向に横断する第1サイプを有し、
トレッド平面視において、前記第1サイプは、
タイヤ軸方向の一端を含む第1部分と、
タイヤ軸方向の他端を含みかつ前記第1部分とはタイヤ周方向に位置ずれしている第2部分と、
前記第1部分と前記第2部分との間を連通して斜めに延びる第3部分とを有し、
前記第1サイプの長さ方向に沿った横断面において、前記第1サイプは、底部が隆起した複数の浅底部と、前記浅底部よりも大きい深さの複数の深底部とを有し、
前記深底部は、
少なくとも一部が前記第1部分に配された第1深底部と、
前記第1深底部とは少なくとも1つの前記浅底部によって隔てられ、かつ、少なくとも一部が前記第2部分に配された第2深底部とを含み、
前記第1深底部は、前記第1部分及び前記第3部分に跨って配されている、
タイヤ。
【請求項2】
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部には、複数のブロックが設けられ、
前記ブロックの少なくとも1つは、前記ブロックをタイヤ軸方向に横断する第1サイプを有し、
トレッド平面視において、前記第1サイプは、
タイヤ軸方向の一端を含む第1部分と、
タイヤ軸方向の他端を含みかつ前記第1部分とはタイヤ周方向に位置ずれしている第2部分と、
前記第1部分と前記第2部分との間を連通して斜めに延びる第3部分とを有し、
前記第1サイプの長さ方向に沿った横断面において、前記第1サイプは、底部が隆起した複数の浅底部と、前記浅底部よりも大きい深さの複数の深底部とを有し、
前記深底部は、
少なくとも一部が前記第1部分に配された第1深底部と、
前記第1深底部とは少なくとも1つの前記浅底部によって隔てられ、かつ、少なくとも一部が前記第2部分に配された第2深底部とを含み、
前記第2深底部は、前記第2部分及び前記第3部分に跨って配されている、
タイヤ。
【請求項3】
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部には、複数のブロックが設けられ、
前記ブロックの少なくとも1つは、前記ブロックをタイヤ軸方向に横断する第1サイプを有し、
トレッド平面視において、前記第1サイプは、
タイヤ軸方向の一端を含む第1部分と、
タイヤ軸方向の他端を含みかつ前記第1部分とはタイヤ周方向に位置ずれしている第2部分と、
前記第1部分と前記第2部分との間を連通して斜めに延びる第3部分とを有し、
前記第1サイプの長さ方向に沿った横断面において、前記第1サイプは、底部が隆起した複数の浅底部と、前記浅底部よりも大きい深さの複数の深底部とを有し、
前記深底部は、
少なくとも一部が前記第1部分に配された第1深底部と、
前記第1深底部とは少なくとも1つの前記浅底部によって隔てられ、かつ、少なくとも一部が前記第2部分に配された第2深底部とを含み、
前記第1サイプがその最大の深さの50%となるように前記ブロックが均一に摩耗した50%摩耗状態において、
前記ブロックの踏面には、残存した前記深底部によって2つのクローズドサイプが形成される、
タイヤ。
【請求項4】
前記2つのクローズドサイプは、互いにタイヤ軸方向及びタイヤ周方向の異なる位置に配されている、請求項3記載のタイヤ。
【請求項5】
前記複数の浅底部の最小の深さは、前記第1サイプの最大の深さの0.40~0.60倍である、請求項1ないし4のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項6】
前記第3部分には、前記浅底部が1つだけ配されている、請求項1ないし5のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項7】
トレッド平面視において、前記第1部分及び前記第2部分のそれぞれは、タイヤ周方向に振幅しながらタイヤ軸方向に延びる波状である、請求項1ないし6のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項8】
前記第1部分及び前記第2部分のピークトゥピークの振幅量は、前記浅底部の深さよりも小さい、請求項7記載のタイヤ。
【請求項9】
前記第1サイプの前記一端と前記他端との間のタイヤ周方向の距離は、前記第1サイプの最大の深さよりも小さい、請求項1ないし8のいずれかに記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤであって、詳しくは、ブロックにサイプが設けられたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
ウェット走行時のトラクションを高めるために、ブロックをタイヤ軸方向に横断するサイプが設けられたタイヤが種々提案されている。しかしながら、サイプは、ブロックの剛性を低下させ、ブロックのエッジを起点とした偏摩耗を招くおそれがある。関連する技術として、下記特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-074843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ブロックの偏摩耗を抑制するために、サイプの底部を隆起させた浅底部と、これよりも大きい深さの深底部とを有するサイプが従来から提案されている。しかしながら、このようなサイプは、ブロックの摩耗によって浅底部が消滅し、深底部のみがブロックの踏面にサイプとして残存している状態において、十分なウェット性能を発揮できない傾向があった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、ブロックの偏摩耗を抑制しつつ、ブロックが摩耗した状態でも優れたウェット性能を発揮し得るタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、トレッド部を有するタイヤであって、前記トレッド部には、複数のブロックが設けられ、前記ブロックの少なくとも1つは、前記ブロックをタイヤ軸方向に横断する第1サイプを有し、トレッド平面視において、前記第1サイプは、タイヤ軸方向の一端を含む第1部分と、タイヤ軸方向の他端を含みかつ前記第1部分とはタイヤ周方向に位置ずれしている第2部分と、前記第1部分と前記第2部分との間を連通して斜めに延びる第3部分とを有し、前記第1サイプの長さ方向に沿った横断面において、前記第1サイプは、底部が隆起した複数の浅底部と、前記浅底部よりも大きい深さの複数の深底部とを有し、前記深底部は、少なくとも一部が前記第1部分に配された第1深底部と、前記第1深底部とは少なくとも1つの前記浅底部によって隔てられ、かつ、少なくとも一部が前記第2部分に配された第2深底部とを含む。
【0007】
本発明のタイヤにおいて、前記複数の浅底部の最小の深さは、前記第1サイプの最大の深さの0.40~0.60倍であるのが望ましい。
【0008】
本発明のタイヤにおいて、前記第1深底部は、前記第1部分及び前記第3部分に跨って配されているのが望ましい。
【0009】
本発明のタイヤにおいて、前記第2深底部は、前記第2部分及び前記第3部分に跨って配されているのが望ましい。
【0010】
本発明のタイヤにおいて、前記第3部分には、前記浅底部が1つだけ配されているのが望ましい。
【0011】
本発明のタイヤのトレッド平面視において、前記第1部分及び前記第2部分のそれぞれは、タイヤ周方向に振幅しながらタイヤ軸方向に延びる波状であるのが望ましい。
【0012】
本発明のタイヤにおいて、前記第1部分及び前記第2部分のピークトゥピークの振幅量は、前記浅底部の深さよりも小さいのが望ましい。
【0013】
本発明のタイヤにおいて、前記第1サイプの前記一端と前記他端との間のタイヤ周方向の距離は、前記第1サイプ の最大の深さよりも小さいのが望ましい。
【0014】
本発明のタイヤにおいて、前記第1サイプがその最大の深さの50%となるように前記ブロックが均一に摩耗した50%摩耗状態において、前記ブロックの踏面には、残存した前記深底部によって2つのクローズドサイプが形成されるのが望ましい。
【0015】
本発明のタイヤにおいて、前記2つのクローズドサイプは、互いにタイヤ軸方向及びタイヤ周方向の異なる位置に配されているのが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のタイヤのトレッド部に設けられたブロックの少なくとも1つは、ブロックをタイヤ軸方向に横断する第1サイプを有している。トレッド平面視において、第1サイプは、タイヤ軸方向の一端を含む第1部分と、タイヤ軸方向の他端を含みかつ第1部分とはタイヤ周方向に位置ずれしている第2部分と、第1部分と第2部分との間を連通して斜めに延びる第3部分とを有している。このような第1サイプを有するブロックは、第1サイプが閉じてそのサイプ壁同士が接触したとき、第3部分によって、第1部分又は第2部分を境界としたタイヤ軸方向のせん断変形を抑制することができる。従って、ブロックの偏摩耗が抑制される。
【0017】
第1サイプの長さ方向に沿った横断面において、第1サイプは、底部が隆起した複数の浅底部と、浅底部よりも大きい深さの複数の深底部とを有する。複数の浅底部は、第1サイプに接地圧が作用したときに第1サイプが過度に開くのを抑制できる。このため、第1サイプを起点とする偏摩耗がさらに抑制される。
【0018】
深底部は、少なくとも一部が第1部分に配された第1深底部と、第1深底部とは少なくとも1つの前記浅底部によって隔てられ、かつ、少なくとも一部が第2部分に配された第2深底部とを含む。
【0019】
このような第1深底部及び第2深底部は、複数の浅底部がブロックの摩耗によって消滅したとき、摩耗したブロックの踏面上において2つのサイプを形成する。これら2つのサイプは、摩耗したブロックの踏面上で互いに分離され、かつ、タイヤ周方向及びタイヤ軸方向の異なる位置に残る。このような2つのサイプは、接地時にせん断力が作用したときの開き量が小さく、ウェット走行時に大きな摩擦力を提供する。
【0020】
以上のように、本発明のタイヤは、ブロックの偏摩耗を抑制しつつ、ブロックが摩耗した状態でも優れたウェット性能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態のタイヤのトレッド部の展開図である。
図2図1のクラウンブロックの拡大図である。
図3図2のA-A線断面図である。
図4】摩耗したブロックの拡大平面図である。
図5】比較例の第1サイプの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1には、本実施形態のタイヤ1のトレッド部2の展開図が示されている。本実施形態のタイヤ1は、例えば、トラックやバス等の重荷重用のものとして好適に使用される。但し、本発明のタイヤ1は、このような態様に限定されるものではない。
【0023】
図1に示されるように、タイヤ1のトレッド部2には、2本のショルダー主溝3及び2本のクラウン主溝4が設けられている。ショルダー主溝3は、トレッド端Te側に設けられている。クラウン主溝4は、ショルダー主溝3とタイヤ赤道Cとの間に設けられている。
【0024】
トレッド端Teは、空気入りタイヤの場合、正規リム(図示せず)にリム組みされかつ正規内圧が充填され、しかも無負荷である正規状態のタイヤ1に、正規荷重を負荷してキャンバー角0°で平面に接地させたときの最もタイヤ軸方向外側の接地位置である。
【0025】
「正規リム」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めているリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。
【0026】
「正規内圧」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0027】
「正規荷重」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば "最大負荷能力" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。
【0028】
ショルダー主溝3及びクラウン主溝4は、例えば、ジグザグ状に延びているのが望ましい。但し、ショルダー主溝3及びクラウン主溝4は、このような態様に限定されるものではなく、直線状でも良い。
【0029】
ショルダー主溝3及びクラウン主溝4の溝幅W1は、例えば、トレッド幅の1.5%~5.0%であるのが望ましい。トレッド幅は、前記正規状態のタイヤ1のトレッド端Te、Te間のタイヤ軸方向の距離である。ショルダー主溝3及びクラウン主溝4の深さは、重荷重用空気入りタイヤの場合、例えば、20~30mmであるのが望ましい。このようなショルダー主溝3及びクラウン主溝4は、ウェット性能と耐偏摩耗性能とをバランス良く高めるのに役立つ。
【0030】
トレッド部2は、例えば、クラウン陸部5、ミドル陸部6、及び、ショルダー陸部7を含んでいる。クラウン陸部5は、2本のクラウン主溝4の間に区分されている。ミドル陸部6は、ショルダー主溝3とクラウン主溝4との間に区分されている。ショルダー陸部7は、ショルダー主溝3とトレッド端Teとの間に区分されている。
【0031】
クラウン陸部5及びミドル陸部6は、主溝間を接続する横溝で区画されたブロックがタイヤ周方向に並ぶブロック列である。これにより、トレッド部2には、複数のブロック9が設けられている。具体的には、クラウン陸部5は、クラウン主溝4と同じ深さのクラウン横溝5gで区分された複数のクラウンブロック5bを含んでいる。ミドル陸部6は、ショルダー主溝3と同じ深さのミドル横溝6gで区分された複数のミドルブロック6bを含んでいる。ショルダー陸部7は、例えば、深さが1.5~3.0mmの複数の浅溝7gが配され、実質的にリブとして構成されている。
【0032】
図2には、ブロック9の態様を示す図として、クラウンブロック5bの拡大図が示されている。図2に示されるように、ブロック9は、タイヤ軸方向の外側に凸となる第1ブロック壁9a及び第2ブロック壁9bを有している。第1ブロック壁9a及び第2ブロック壁9bのそれぞれは、ブロック外方に最も突出する頂点を有して凸となる略V字状でのびている。
【0033】
ブロック9の少なくとも1つは、ブロック9をタイヤ軸方向に横断する第1サイプ10を有している。本明細書において、「サイプ」とは、幅が1.5mm未満の切れ込みである。サイプの幅は、0.5~1.0mmであるのがより望ましい。トレッド平面視において、第1サイプ10は、第1部分11、第2部分12及び第3部分13を有している。
【0034】
第1部分11は、第1サイプ10のタイヤ軸方向の一端10aを含んでいる。本実施形態の第1部分11は、例えば、第1ブロック壁9aの頂点付近に連通している。
【0035】
第2部分12は、第1サイプ10のタイヤ軸方向の他端10bを含んでいる。本実施形態の第2部分12は、例えば、第2ブロック壁9bの頂点付近に連通している。また、第2部分12は、第1部分11とはタイヤ周方向に位置ずれしている。具体的には、第2部分12の少なくとも半分以上の領域が、第1部分11をタイヤ軸方向に平行に延長した領域よりもタイヤ周方向の一方側(図2では上側)に配されているのが望ましい。より望ましい態様として、本実施形態では、第2部分12の全体が、第1部分11をタイヤ軸方向に平行に延長した領域よりもタイヤ周方向の一方側に配されている。
【0036】
第3部分13は、第1部分11と第2部分12との間を連通して斜めに延びている。本実施形態の第3部分13は、タイヤ軸方向に対して45~55°の角度で一方向に傾斜して直線状に延びている。本実施形態では、第3部分13の溝中心線の角度がタイヤ軸方向に対して0°となる位置が、第3部分13の端に相当する。
【0037】
第1サイプ10を有するブロック9は、第1サイプ10が閉じてそのサイプ壁同士が接触したとき、第3部分13によって、第1部分11又は第2部分12を境界としたタイヤ軸方向のせん断変形を抑制することができる。従って、ブロック9の偏摩耗が抑制される。
【0038】
図3には、第1サイプ10の長さ方向に沿った横断面として、図2の第1サイプ10のA-A線断面図が示されている。図3において、第1部分11と第3部分13との境界14a、及び、第2部分12と第3部分13との境界14bが2点鎖線で示されている。図3に示されるように、第1サイプ10は、底部が隆起した複数の浅底部15と、浅底部15よりも大きい深さの複数の深底部20とを有する。複数の浅底部15は、第1サイプ10に接地圧が作用したときに第1サイプ10が過度に開くのを抑制できる。このため、第1サイプ10を起点とする偏摩耗がさらに抑制される。
【0039】
深底部20は、第1深底部21及び第2深底部22を含んでいる。第1深底部21は、少なくとも一部が第1部分11に配されている。第2深底部22は、第1深底部21とは少なくとも1つの浅底部15によって隔てられ、かつ、少なくとも一部が第2部分12に配されている。
【0040】
図4には、摩耗したブロック9の平面図が示されている。図4に示されるように、上記第1深底部21及び第2深底部22は、複数の浅底部15がブロック9の摩耗によって消滅したとき、摩耗したブロックの踏面上において2つのサイプ23を形成する。なお、発明を理解し易いように、図4において、2つのサイプ23を含む第1サイプ10の残存部分は、着色され、摩耗によって消滅した部分は、2点鎖線で示されている。これら2つのサイプ23は、摩耗したブロックの踏面上で互いに分離され、かつ、タイヤ周方向及びタイヤ軸方向の異なる位置に残る。このような2つのサイプ23は、合計長さが等しい1本のサイプと比較して、接地時にせん断力が作用したときの開き量が小さく、ウェット走行時に大きな摩擦力を提供する。
【0041】
図3に示されるように、第1深底部21は、第1部分11及び第3部分13に跨って配されているのが望ましい。また、第2深底部22は、第2部分12及び第3部分13に跨って配されているのが望ましい。このような第1深底部21及び第2深底部22は、ブロックの踏面の中央部の排水性を高め、ウェット性能を高めることができる。
【0042】
第1サイプ10の横断面における第1深底部21又は第2深底部22のタイヤ軸方向の長さL1は、例えば、ブロック9の踏面のタイヤ軸方向の幅W2の0.20~0.35倍であるのが望ましい。さらに望ましい態様では、第1深底部21及び第2深底部22は、タイヤ軸方向の長さが互いに同じである。このような第1深底部21及び第2深底部22は、ブロックの偏摩耗を抑制するのに役立つ。なお、本明細書において、浅底部15と深底部20との境界は、浅底部15の最小の深さの位置と、深底部20の最大の深さの位置との深さ方向の中間の位置とされる。また、浅底部15又は深底部20のタイヤ軸方向の長さは、この境界を基準に測定される。
【0043】
本実施形態の浅底部15は、例えば、第1部分11に配された第1浅底部16と、第2部分12に配された第2浅底部17と、第3部分13に配された第3浅底部18とを含んでいる。なお、本実施形態の第3部分13には、浅底部15が1つだけ配されている。
【0044】
各浅底部15のタイヤ軸方向の長さは、例えば、ブロック9の踏面の前記幅W2の0.10~0.20倍であるのが望ましい。第3浅底部18のタイヤ軸方向の長さL3は、例えば、第1浅底部16又は第2浅底部17のタイヤ軸方向の長さL2よりも小さいのが望ましい。具体的には、第3浅底部18の前記長さL3は、例えば、前記長さL2の0.65~0.75倍である。このような第3浅底部18は、第3部分13を適度に開き易くし、ひいては第3部分13に石等の異物が保持されるのを抑制できる。
【0045】
複数の浅底部15の最小の深さd2は、第1サイプ10の最大の深さd1の0.40~0.60倍であるのが望ましい。このような浅底部15は、ウェット性能と耐偏摩耗性能とをバランス良く高めることができる。
【0046】
図4に示されるように、本実施形態では、上述の深底部20及び浅底部15の配置により、第1サイプ10がその最大の深さの50%となるようにブロック9が均一に摩耗した50%摩耗状態において、ブロック9の踏面には、残存した第1深底部21及び第2深底部22によって2つのクローズドサイプが形成される。また、2つのクローズドサイプは、互いにタイヤ軸方向及びタイヤ周方向の異なる位置に配されている。
【0047】
図2に示されるように、トレッド平面視において、第1サイプ10の一端10aと他端10bとの間のタイヤ周方向の距離L4は、第1サイプ10の最大の深さd1(図3に示す)よりも小さいのが望ましい。具体的には、第1サイプ10の一端10aと他端10bとの間のタイヤ周方向の距離L4は、第1サイプ10の最大の深さd1の0.60~0.75倍である。このような第1サイプ10は、タイヤ軸方向にも摩擦力を提供しつつ、そのエッジを起点とした偏摩耗を抑制し得る。
【0048】
トレッド平面視において、第1部分11及び第2部分12のそれぞれは、タイヤ周方向に振幅しながらタイヤ軸方向に延びる波状であるのが望ましい。このような第1部分11及び第2部分12は、そのサイプ壁同士が接触したとき、ブロック9のタイヤ軸方向の剛性を高めることができる。
【0049】
第1部分11及び第2部分12のピークトゥピークの振幅量L5は、例えば、第1サイプ10の最大の深さd1よりも小さいのが望ましい。また、前記振幅量L5は、浅底部15の深さd2よりも小さいのがより望ましい。具体的には、前記振幅量L2は、浅底部15の深さd2の0.50~0.70倍である。このような第1サイプ10は、上述の効果を得つつ、第1部分11又は第2部分12のエッジを起点とした偏摩耗を抑制することができる。
【0050】
本実施形態のブロック9には、第1サイプ10の他に、複数の第2サイプ25が設けられている。第2サイプ25は、第1サイプ10で区分された2つのブロック片のそれぞれに設けられている。第2サイプ25は、ウェット走行時のトラクションを高めるのに役立つ。
【0051】
第2サイプ25は、例えば、タイヤ周方向に振幅しながらタイヤ軸方向に延びる波状であるのが望ましい。第2サイプ25のピークトゥピークの振幅量L6は、浅底部15の深さd2よりも小さいのが望ましい。具体的には、第2サイプ25の前記振幅量L6は、第1サイプ10の浅底部15の深さd2の0.30~0.50倍である。このような第2サイプ25は、ブロックの偏摩耗を抑制しつつ、ウェット性能を高めることができる。
【0052】
第2サイプ25は、例えば、一定の深さで延びている。第2サイプ25の深さは、例えば、第1サイプ10の最大の深さd1よりも小さいのが望ましい。さらに望ましい態様では、第2サイプ25の深さは、第1サイプ10の浅底部15の深さd2よりも小さい。このような第2サイプ25は、ブロックの剛性を維持し、その偏摩耗を抑制することができる。
【0053】
上述の第1サイプ10及び第2サイプ25は、クラウンブロック5bのみならず、例えば、ミドルブロック6bに設けられても良い。
【0054】
以上、本発明の一実施形態のタイヤが詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されることなく、種々の態様に変更して実施される。
【実施例
【0055】
図1の基本パターンを有し、かつ、図3の断面形状を有する第1サイプが配されたサイズ295/75R22.5の重荷重用の空気入りタイヤが、表1の仕様に基づき試作された。比較例として、図5に示されるように、一定の深さを有する第1サイプaが配されたタイヤが試作された。比較例の第1サイプaは、タイヤ軸方向の端部に配された2つの浅底部bと、これらの間の1つの深底部cとを有している、深底部cは、実施例1の2つの深底部の合計長さと等しい長さを有している。なお、比較例及び各実施例は、第1サイプの断面形状を除いて、実質的に同一の構成を有している。また、比較例の第1サイプと各実施例とは、第1サイプの最大の深さが共通している。テストタイヤのブロック摩耗後のウェット性能、及び、ブロックの耐偏摩耗性能がテストされた。各テストタイヤの共通仕様やテスト方法は、以下の通りである。
装着リム:22.5×8.25
タイヤ内圧:720kPa
テスト車両:10t積トラック、荷台前方に標準積載量の50%の荷物を積載
タイヤ装着位置:全輪
【0056】
<耐偏摩耗性能>
摩耗エネルギー測定装置が用いられ、各ショルダー陸部の摩耗エネルギーが測定された。結果は、比較例の摩耗エネルギーを100とする指数であり、数値が小さい程、摩耗エネルギーが小さく、耐偏摩耗性能に優れていることを示す。
【0057】
<ウェット性能>
第1サイプがその最大の深さの50%となるようにブロックが均一に摩耗した50%摩耗状態において、下記の条件で、テスト車両が全長10mのテストコースを通過したときの通過タイムが測定された。結果は、比較例の通過タイムを100とする指数で表示されている。数値が小さい程良好である。
路面:厚さ5mmの水膜を有するアスファルト
発進方法:2速‐1500rpm固定でクラッチを繋いで発進する。
テスト結果が表1に示される。
【0058】
【表1】
【0059】
テストの結果、実施例のタイヤは、ブロックの偏摩耗を抑制しつつ、ブロックが摩耗した状態でも優れたウェット性能を発揮していることが確認できた。
【符号の説明】
【0060】
2 トレッド部
9 ブロック
10 第1サイプ
11 第1部分
12 第2部分
13 第3部分
15 浅底部
20 深底部
21 第1深底部
22 第2深底部
図1
図2
図3
図4
図5