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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】ゴルフボール
(51)【国際特許分類】
   A63B 37/00 20060101AFI20220705BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20220705BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20220705BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20220705BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
A63B37/00 342
A63B37/00 344
A63B37/00 314
A63B37/00 310
C08K3/013
C08L23/08
C08J7/04 Z CES
C08J7/04 CFF
B29C45/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018118518
(22)【出願日】2018-06-22
(65)【公開番号】P2019217129
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】592014104
【氏名又は名称】ブリヂストンスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南馬 昌司
(72)【発明者】
【氏名】篠原 宏隆
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 加惠
【審査官】槙 俊秋
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1748837(KR,B1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0248898(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0093137(US,A1)
【文献】特開2012-105725(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0068401(KR,A)
【文献】特開2011-072776(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0135234(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 37/00
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
C08J 7/04-7/06
B29C 45/00-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層のコアと少なくとも1層のカバーと塗膜とを有するゴルフボールであって、上記カバーの最外層が下記(A)及び(B)成分
(A)熱可塑性樹脂、
(B)蛍光染料又は蛍光顔料からなる集光性蛍光着色剤
を含む樹脂組成物にて形成されるものであり、最外層の可視光線透過率が、380~780nm領域での各波長の平均値で2.0~50.0%であるとともに、塗膜が艶消し粒子として、平均一次粒子径が1.0~3.0μm、BET比表面積が262~400m 2 /gであるシリカを含むウレタン系塗料用組成物にて形成されることを特徴とするゴルフボール。
【請求項2】
上記(A)成分の熱可塑性樹脂が、下記(a),(b)成分
(a)エチレン-α,β不飽和カルボン酸共重合体及び/又はその金属塩
(b)エチレン-α,β不飽和カルボン酸-α,β不飽和カルボン酸エステル共重合体及び/又はその金属塩
のいずれかを含む請求項1記載のゴルフボール。
【請求項3】
上記(B)成分の配合量が、上記(A)成分の100質量部に対して、0.001~0.2質量部である請求項1又は2記載のゴルフボール。
【請求項4】
上記最外層の樹脂組成物において、さらに(C)成分として、無機フィラー又は有機フィラーを含み、その配合量が、上記(A)成分の100質量部に対して、0.01~1.0質量部である請求項1~3のいずれか1項記載のゴルフボール。
【請求項5】
最外層の可視光線透過率が4~45%である請求項1~4のいずれか1項記載のゴルフボール。
【請求項6】
最外層の可視光線透過率が10~40%である請求項1~4のいずれか1項記載のゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1層のコアと少なくとも1層のカバーと塗膜とを有する光沢のないマットなゴルフボールに関する。
【背景技術】
【0002】
ボール表面に形成されるディンプルは、ゴルフボールの飛び性能の空気力学的性能を高める重要な構成要素であるとともに、ゴルフボールの美的外観ないし意匠性を決める要因になり得る。特にカラーボールでは、そのボール外観が与える印象は、ディンプルの形状やボールのカラー色や光輝性材料等の組み合わせにより総合的に決定されるものである。多くのカラーボールは、蛍光着色材料等をカバー層(最外層)に含有させるものである。あるいは、ウレタン系塗料等の塗料樹脂に偏光顔料等の光輝性材料を配合されてなる塗膜を有するゴルフボールも存在する。
【0003】
透明感のある艶やかな色調のあるカラーゴルフボールに関連する技術としては、例えば、特開2012-105725号公報(特許文献1)、特開2012-34776号公報(特許文献2)などを例示することができる。しかしながら、これらのゴルフボールは、透明感のある艶やかな色調のあるカラーゴルフボールに関するものであるが、このようなボール外観では、ディンプル形状の影や光の反射作用を受けやすいものであり、プレーに悪影響を与える課題が残る。
【0004】
また、最近では、見た目はカラー色を呈するゴルフボールではあるが、ボール表面のディンプルの輪郭形状が認識できない程度に艶消し又は光沢のない所謂マットなゴルフボールが人気を集めている。
【0005】
しかしながら、従来のマットなゴルフボールは、主に塗膜の樹脂材料において、ウレタン系塗料等の塗料樹脂にシリカ等の艶消し剤を配合するものである。このようなゴルフボールでは、見た目はディンプルが無いように見えマット感はあるが、カバー(最外層)の射出成形時に生じる射出ゲート跡等の射出痕が透けて見えることがあり、カバー材の配合内容や透過率を考慮したものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-105725号公報
【文献】特開2012-34776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、艶や光沢のないマットなゴルフボールにおいて、カバーの射出成形時に生じる射出痕が見えない程にボール外観が良好なゴルフボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、少なくとも1層のコアと少なくとも1層のカバーと塗膜とを有するゴルフボールであって、上記カバーの最外層を、(A)熱可塑性樹脂及び(B)蛍光染料又は蛍光顔料からなる着色剤を含む樹脂組成物にて形成し、最外層の可視光線透過率が380~780nmの光の波長領域で2.0~50.0%の範囲内とするとともに、艶消し粒子を含むウレタン系塗料用組成物にて塗膜を形成することにより、カバーの射出成形時に生じる射出痕が見えない程にボール外観が良好なゴルフボールが得られることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0009】
従って、本発明は、下記のゴルフボールを提供する。
1.少なくとも1層のコアと少なくとも1層のカバーと塗膜とを有するゴルフボールであって、上記カバーの最外層が下記(A)及び(B)成分
(A)熱可塑性樹脂、
(B)蛍光染料又は蛍光顔料からなる集光性蛍光着色剤
を含む樹脂組成物にて形成されるものであり、最外層の可視光線透過率が、380~780nm領域での各波長の平均値で2.0~50.0%であるとともに、塗膜が艶消し粒子として、平均一次粒子径が1.0~3.0μm、BET比表面積が262~400m 2 /gであるシリカを含むウレタン系塗料用組成物にて形成されることを特徴とするゴルフボール。
2.上記(A)成分の熱可塑性樹脂が、下記(a),(b)成分
(a)エチレン-α,β不飽和カルボン酸共重合体及び/又はその金属塩
(b)エチレン-α,β不飽和カルボン酸-α,β不飽和カルボン酸エステル共重合体及び/又はその金属塩
のいずれかを含む上記1記載のゴルフボール。
3.上記(B)成分の配合量が、上記(A)成分の100質量部に対して、0.001~0.2質量部である上記1又は2記載のゴルフボール。
4.上記最外層の樹脂組成物において、さらに(C)成分として、無機フィラー又は有機フィラーを含み、その配合量が、上記(A)成分の100質量部に対して、0.01~1.0質量部である上記1~3のいずれかに記載のゴルフボール。
5.最外層の可視光線透過率が4~45%である上記1~4のいずれかに記載のゴルフボール。
6.最外層の可視光線透過率が10~40%である上記1~4のいずれかに項記載のゴルフボール。
【発明の効果】
【0010】
本発明のゴルフボールによれば、集光性蛍光染料を含むカバー材と無機フィラー含有の艶消し塗料との組み合わせにより、ディンプルを有するゴルフボールが、ディンプルが無いように見える錯視効果を付与するとともに、カバーの射出成形時に生じる射出痕を隠すことができ、ボール外観が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。
本発明のゴルフボールは、少なくとも1層のコアと少なくとも1層のカバーと塗膜とを有する。本発明で用いられるカバーは、コアを被覆する部材であり複数層有する。例えば、2層カバーや3層カバー等のものが挙げられる。カバーの各層は、カバー層と称することがあり、特に、内側を中間層、外側を最外層と称することがある。また、3層カバーの場合、各層は、内側から順に、包囲層、中間層及び最外層と称することがある。
【0012】
本発明では、カバーの最外層が、下記(A)及び(B)を含む樹脂組成物により形成される。
(A)熱可塑性樹脂、
(B)蛍光染料又は蛍光顔料からなる着色剤
上記(A)及び(B)成分について以下に説明する。
【0013】
(A)熱可塑性樹脂
上記熱可塑性樹脂としては、特に制限はないが、従来からゴルフボール用材料として採用される樹脂が挙げられ、例えば、アイオノマー系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマー及びスチレン系熱可塑性エラストマーなどが例示される。特に、アイオノマー系樹脂が好適であり、具体的には、(a)エチレン-α,β不飽和カルボン酸共重合体及び/又はその金属塩、あるいは(b)エチレン-α,β不飽和カルボン酸-α,β不飽和カルボン酸エステル共重合体及び/又はその金属塩の(a)(b)成分のいずれかを含むものであることが好適である。
【0014】
上記(a)及び(b)成分のα,β不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等を挙げることができ、特に、アクリル酸、メタクリル酸であることが好ましい。また、上記(b)成分のα,β不飽和カルボン酸エステルとしては、上記の不飽和カルボン酸の低級アルキルエステルが好適であり、具体的には、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル等を挙げることができ、特にアクリル酸ブチル(n-アクリル酸ブチル、i-アクリル酸ブチル)であることが好ましい。
【0015】
上記(a)及び(b)成分の上記共重合体の金属イオン中和物は、上記オレフィン-不飽和カルボン酸(-不飽和カルボン酸エステル)共重合体の酸基を部分的に金属イオンで中和することによって得ることができる。酸基を中和する金属イオンとしては、例えば、Na+、K+、Li+、Zn++、Cu++、Mg++、Ca++、Co++、Ni++、Pb++等が挙げられ、特に、Na+、Li+、Zn++、Mg++、Ca++等が好適に用いられる。このような中和物は公知の方法で得ることができ、例えば、上記共重合体に対して、上記金属イオンのギ酸塩、酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、酸化物、水酸化物及びアルコキシド等の化合物を使用して中和物を得ることができる。
【0016】
上記(a)及び(b)成分としては、公知のものを用いることができる。例えば、市販品としては、酸共重合体として、ニュクレルN1560、同N1214、同N1035、同AN4221C、同AN4311、同AN4318、同AN4319(いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)等を挙げることができる。また、酸共重合体の金属イオン中和物として、例えば、ハイミラン1554、同1557、同1601、同1605、同1706、同AM7311、同1855、同1856、同AM7316(いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)、サーリン7930、同6320、同8320、同9320、同8120(DuPont社製)等をそれぞれ挙げることができる。
【0017】
上記(A)成分の熱可塑性樹脂の総量は、特に制限されるものではなく、樹脂組成物全量中に70質量%以上、好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上配合されることが推奨される。上記の配合量が足りないと、本発明の所望の効果が得られない場合がある。
【0018】
(B)蛍光染料又は蛍光顔料からなる着色剤
本発明は、ボールの表面が艶のない穏やかな印象を与えるためのカラーボールであり、このため最外層の樹脂材料には、(B)成分として、蛍光染料又は蛍光顔料からなる着色剤を配合するものである。この着色剤としては、公知の蛍光染料又は蛍光顔料を適宜配合してカバー最外層に着色を施すものである。ここで、例えば、ソルベントイエロー(染料)、ソルベントオレンジ(染料)、アンスラキノン(染料)、フタロシアニン(染料)、イエロー系蛍光顔料、ピンク系蛍光顔料及びオレンジ系蛍光顔料等が挙げられる。これらは公知の市販品を使用することができる。
【0019】
本発明では、蛍光着色剤のうち集光性のあるものを用いることが好適である。ここで、集光性のある蛍光着色剤とは、太陽光を集光し、蛍光色として長波長側に波長変換する機能を有する材料であって、着色された材料の内部で全反射しながら、ディンプルエッジへ誘導されることで集光し、ディンプルエッジで濃密度化された状態で放出され、強く発色することを特徴とするものである。
【0020】
上記の集光性蛍光着色剤としては、オレンジ系、ピンク系、赤系、黄系、青系、紫系などがあり、いずれの発色系においても市販品を用いることができる。例えば、商品名「Lumogen F Yellow 083」,「Lumogen F Orange 240」,「Lumogen F Red 305」,「Lumogen F Blue 650」(いずれもBASF社製)、「ルミカラーレッド」、「スマートカラーLPグリーン」、「スマートカラーLPイエロー」、「スマートカラーLPオレンジ」(いずれも菓子の素テクノロジー社製)等の集光性蛍光染料を採用することができる。
【0021】
上記(B)成分の配合量については、上記(A)成分100質量部に対して0.001~0.2質量部であり、好ましくは0.005~0.1質量部である。この配合量が少ないと、蛍光が弱くなり、所望の意匠性が得られない場合がある。逆に、上記配合量が多くなると、着色剤、特に染料のマイグレーションが起こり、ゴルフボールに接触した物に染着するおそれがある。
【0022】
(C)無機フィラー又は有機フィラー
本発明では、上記(A)及び(B)成分の樹脂組成物に、更に(C)成分として、無機フィラー又は有機フィラーを配合することができる。この無機及び有機フィラーの配合目的は、後述するように、樹脂組成物が可視光領域において所望の透過率を得るために適宜調製されるものである。但し、本発明では、(C)成分は必須成分ではない。
【0023】
(C)成分が無機フィラーである場合、特に限定されるものではないが、例えば、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、二酸化チタン、シリカ等が挙げられる。また、無機充填材を添加することで、半透明性の付与と色彩の調整が可能となる。
【0024】
(C)成分が有機フィラーである場合、特に限定されるものではないが、例えば、架橋ポリメタクリル酸メチル(架橋PMMA)、架橋ポリメタクリル酸ブチル、架橋ポリアクリル酸エステル、架橋アクリル-スチレン共重合体、メラミン樹脂、ポリウレタン等の微粒子が挙げられる。
【0025】
上記(C)成分の配合量は、上記(A)成分100質量部に対して0.01~1.0質量部であり、好ましくは0.02~0.2質量部以下である。この配合量が多すぎると、隠ぺい性が高くなりすぎて高級感あるボール意匠性が損なう場合があり、あるいは日光暴露で退色した際の色の変化が大きくなってしまう場合がある。
【0026】
上記樹脂組成物は、例えば、混練型(単軸又は)2軸押出機,バンバリー,ニーダー等の各種の混練機を用いて上述した各成分を混合することにより得ることができる。
【0027】
上記樹脂組成物には、必要に応じて、種々の添加剤を配合することができ、例えば顔料、分散剤、酸化防止剤、耐光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤等を適宜配合することができる。
【0028】
上記最外層を含むカバーの各層の厚さについては、特に制限はないが、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは0.7mm以上であり、上限としては、好ましくは1.7mm以下、好ましくは1.4mm以下である。
【0029】
上記最外層を含むカバーの各層の硬度については、特に制限されるものではないが、ショアD硬度で、好ましくは30以上であり、より好ましくは40以上であり、上限としては、好ましくは75以下、より好ましくは70以下、さらに好ましくは65以下とすることができる。
【0030】
上記最外層の透過率は、最外層の可視光線透過率が、380~780nm領域での各波長の平均値で2.0~50.0%であり、好ましくは4~45%、より好ましくは10~40%である。この最外層の可視光線透過率の計測値は、具体的には、各種の紫外可視分光光度計を用いて、380~780nm領域において1nm刻みで測定した値を平均したものを意味する。上述したように本発明は、光沢のないマットなボール外観を得ることを目的としており、そのためには、比較的強い蛍光カラーを有するとともにある程度の透明度のある樹脂組成物に調製する必要があり、その指標として、上記の最外層の可視光線透過率の計測値の範囲内であることが特定される。
【0031】
上記最外層の表面には1種類又は2種以上の多数のディンプルを形成することができ、そのディンプルの形状、直径、深さ、個数、占有表面積等は適宜選定される。
【0032】
本発明は塗膜を有するゴルフボールであり、該塗膜が艶消し粒子を含むウレタン系塗料用組成物にて形成される。本発明で採用されるウレタン系塗料としては、ゴルフボールの過酷な使用状況に耐えうる必要から、2液硬化型のウレタン塗料、特に、無黄変のウレタン塗料が好適に挙げられる。また、艶消し粒子としては、例えば、シリカ系、メラミン系、アクリル系等が挙げられ、特に、シリカ系であることが好適である。また、艶消し粒子がシリカ系である場合、該シリカの粒径が1.0~3.0μmであり、且つ、その比表面積が、BET比表面積で200~400m2/gであることが好ましい。上記の艶消し粒子は、比表面積が大きすぎると、塗料の増粘効果が高くなりすぎて作業性の低下を引き起こすおそれがあり、また、比表面積が小さすぎると、艶消し効果が低下するおそれがある。上記の艶消し粒子は、その平均一次粒子径が1.0~3.0μmであることが好ましい。この平均粒子径が大きすぎると、艶消し効果が低くなり、小さすぎると、特に可視光線の波長(0.3~0.7μm)よりも小さくなると艶消し効果を喪失するおそれがある。
【0033】
上記の艶消し粒子の配合量は、塗料組成物100質量%に対して、好ましくは2~30質量%含有することができる。この配合量が多すぎると、ボール表面のザラつき、塗膜強度の低下、を引き起こし、少なすぎると、艶消し効果が得られないおそれがある。
【0034】
本発明のゴルフボールの質量、直径等のボール規格はゴルフ規則に従って適宜設定することができる。
【実施例
【0035】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0036】
[実施例1~6、比較例1~3]
下記表1に示す配合により実施例1~6及び比較例1~3の各例の樹脂組成物を調製した。
【0037】
下記表1に示すように、全ての例に共通する下記のゴム組成物を用い、155℃で15分間の加硫により、各例のソリッドコアを作成した。
【0038】
【表1】
【0039】
なお、上記コア材料の詳細は下記のとおりである。
・「ポリブタジエン」 JSR社製、商品名「BR01」
・「硫酸バリウム」 堺化学工業社製
・「酸化亜鉛」 堺化学工業社製
・「ステアリン酸亜鉛」 日油社製
・「2,2-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)」 大内新興化学工業社製の商品名「ノクラックNS6」(老化防止剤)
・「アクリル酸亜鉛」 日本触媒社製
・「ジクミルパーオキサイド」 日油製の商品名「パークミルD」(有機過酸化物)
・「1,1-ジ(tert-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン」 日油製の商品名「パーヘキサC-40」(有機過酸化物)
【0040】
カバー層(中間層及び最外層)の形成
次に、上記で得た直径37.3mmのコアの周囲に、全ての例に共通する下記表2に示す厚さ1.35mmの中間層を射出成形法により被覆して、直径(外径)が40mmの中間層被覆球体を製造した。
【0041】
【表2】
【0042】
上記表中の詳細は下記の通りである。
・「HPF2000」:デュポン社製のアイオノマー樹脂材料
・白色顔料:二酸化チタン
【0043】
次に、上記中間層被覆球体の周囲に、下記表3に示す厚さ1.35mmの最外層材料(カバー材料)を射出成形法により被覆して、ボール直径42.7mmのスリーピースゴルフボールを作製した。この際、各実施例、比較例の最外層表面には、特に図示してはいないが、共通するディンプルが形成された。
【0044】
【表3】
【0045】
下記表3の最外層材料の詳細は下記の通りである。
・「ハイミラン1605」:三井・デュポンポリケミカル社製のアイオノマー樹脂
・「サーリン9320」:米国デュポン社のアイオノマー樹脂
・集光性蛍光染料(1):菓子の素テクノロジー社製の商品名「スマートカラー LP イエロー」
・集光性蛍光染料(2):菓子の素テクノロジー社製の商品名「スマートカラー LP ピンク」
・集光性蛍光染料(3):菓子の素テクノロジー社製の商品名「ルミカラー レッド」
・蛍光染料:住化ケムテックス社製の商品名「スミプラストイエローFL7G」
・蛍光増白剤:昭和化学工業社製の商品名「Hakkol PY1800」
・滑剤:三洋化成社製の商品名「サンワックス161-P」
【0046】
次に、下記表4に示す主剤及び硬化剤からなる2液硬化型ウレタン塗料を使用し、最外層の表面に厚み15μmとなるように塗装を施した。
【0047】
【表4】
【0048】
上記の主剤および硬化剤の詳細については下記(i)~(iv)のとおりである。
(i)先ず、環流冷却管、滴下漏斗、ガス導入管及び温度計を備えた反応装置に、トリメチロールプロパン140質量部、エチレングリコール95質量部、アジピン酸157質量部、1,4-シクロヘキサンジメタノール58質量部を仕込み、撹拌しながら200~240℃まで昇温させ、5時間加熱(反応)させた。その後、酸価4,水酸基価170,重量平均分子量(Mw)28,000の「飽和ポリエステルポリオール」を得た。
(ii)次に、上記の合成したポリエステルポリオールを酢酸ブチルで溶解させ、不揮発分70質量%のワニスを調整した。
(iii)上記飽和ポリエステルポリオール溶液27.5質量部に対して、酢酸ブチルで溶解させ(この溶液の不揮発分27.5質量%)、艶消し粒子として、シリカ(丸尾カルシウム社製「Finesil X-35」平均一次粒子径2.4μm、BET比表面積が262m2/g)を混合し、主剤とした。
(iv)次に、硬化剤として、表4に示すイソシアネートを有機溶剤に溶解させて使用する。即ち、表4の配合割合になるように、HDIヌレート(旭化成(株)製の「デュラネートTPA-100」NCO含有量23.1質量%、不揮発分100質量%)と、有機溶剤として、酢酸エチル及び酢酸ブチルを加え、塗料の樹脂組成物を調製した。
【0049】
得られた各実施例及び比較例のゴルフボールの各層の材料、外径、圧縮変形量等の内容を表5に示す。また、同表には、カバー(最外層)の透過率及び塗膜の算術平均粗さ(Ra)を示す。更に、各実施例及び比較例のゴルフボールについて、下記の方法により、2項目の外観評価を行った。その結果を表5に併記する。
【0050】
圧縮変形量
コア、中間層被覆球体又はボールを鋼板の上に置き、初期荷重98N(10kgf)を負荷した状態から終荷重1275N(130kgf)に負荷したときまでのたわみ量をそれぞれ計測した。なお、上記のたわみ量はいずれも23.9℃に温度調整した後の測定値である。
【0051】
カバー透過率
最外層用樹脂組成物を2mmシートに成形し、これをサンプルとして、島津製作所製の紫外可視分光光度計「UV-1800」を用いて、可視光線透過率を求めた。380~780nmの領域で1nm刻みの測定値の平均値を表5に記載した。
【0052】
外観1
各例のゴルフボールのディンプルの見え方の評価を目視により、下記の基準で判別し、その点数を表5に記載した。点数が高ければ「良好」であり、2点以下は「悪い(NG)」と評価した。
〈判断基準〉
4点 ・・・ ディンプルの輪郭部分を示すディンプル縁部(エッジ部)がほとんど見えない。ディンプル底部とディンプル縁部との高低差がほとんど見えない。
3点 ・・・ ディンプルの輪郭部分を示すディンプル縁部(エッジ部)がぼやけて見える。ディンプル底部とディンプル縁部との高低差がぼやけて見える。
2点 ・・・ ディンプルの輪郭部分を示すディンプル縁部(エッジ部)がややはっきり見える。ディンプル底部とディンプル縁部との高低差がややはっきり見える。
1点 ・・・ ディンプルの輪郭部分を示すディンプル縁部(エッジ部)がはっきり見える。ディンプル底部とディンプル縁部がはっきり見える。
【0053】
外観2
カバーの最外層を射出成形する際、該カバーのゲート部の射出痕の見え方について、下記の基準で評価した。点数が高ければ「良好」であり、1点以下は「悪い(NG)」と評価した。
〈判断基準〉
4点 ・・・・ 射出痕の影が見えない。
3点 ・・・・ 射出痕の影が内径3mm程度見える。
2点 ・・・・ 射出痕の影が内径6mm程度見える。
1点 ・・・・ 射出痕の影が内径10mm程度見える。
【0054】
【表5】
【0055】
表5の結果から、本実施例1~6のゴルフボールは、いずれも、見た目はディンプルが無いように見えマット感はあり、最外層成形時に生じる射出痕も見えず、総合的にボール外観が良好である。
これに対して、比較例1は、最外層の透過率が大きいため、射出痕が目立ち、外観が良好ではない。
比較例2は、最外層の透過率が小さいため、ディンプルの土手部と境界部とがはっきり見え、マットなゴルフボールに仕上がっていない。
比較例3は、最外層の透過率が小さいため、ディンプルの土手部と境界部とがややはっきり見え、十分にマットなゴルフボールとは言えない。