(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】マイクロニードルアプリケータ
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20220705BHJP
【FI】
A61M37/00
(21)【出願番号】P 2018161323
(22)【出願日】2018-08-30
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113608
【氏名又は名称】平川 明
(74)【代理人】
【識別番号】100123319
【氏名又は名称】関根 武彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123098
【氏名又は名称】今堀 克彦
(74)【代理人】
【識別番号】100125357
【氏名又は名称】中村 剛
(72)【発明者】
【氏名】土取 保紀
(72)【発明者】
【氏名】藤原 悠太
(72)【発明者】
【氏名】川邉 美浪
【審査官】竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-509706(JP,A)
【文献】特表2008-534152(JP,A)
【文献】特表2004-510530(JP,A)
【文献】国際公開第2013/051568(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/038499(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに、第1の方向及び該第1の方向と逆方向の第2の方向に滑動可能に配置されたロッドと、
前記ロッドを第1の方向に付勢する付勢手段と、
前記付勢手段により付勢された前記ロッドを、前記ロッドに対して前記第1の方向に配置された、マイクロニードルを支持するマイクロニードル支持体に衝突させ、前記マイクロニードル支持体を対象部位に押圧し、前記マイクロニードルを前記対象部位に穿刺させるマイクロニードルアプリケータであって、
前記ハウジングに対して前記第1の方向に位置する第1の位置から、前記付勢手段による力に抗して、前記ロッドを前記第2の方向に移動させ、前記ハウジングに対して前記第1の位置から前記第2の方向に位置する第2の位置に保持するラッチ手段と、
前記第1の方向と交差する方向に押圧されることにより、前記ラッチ手段に作用して前記ロッドの保持を解除するボタンと、
前記ハウジングに対する第3の位置にあるときに、前記ボタンと前記ラッチ手段との間で、押圧された該ボタンに当接することにより、該ボタンの前記ラッチ手段に対する作用を規制する押圧受け部を有し、前記ハウジングに対して前記第3の位置から前記第2の方向に位置する第4の位置に移動させたときに、前記押圧受け部が前記ボタンと前記ラッチ手段との間から前記第2の方向に移動して、該ボタンの前記ラッチ手段に対する作用を許容するボタン規制手段と、
前記ボタンと前記ボタン規制手段との摺動を防止する摺動防止手段とを、備えたことを特徴とするマイクロニードルアプリケータ。
【請求項2】
前記摺動防止手段は、
前記ボタンによって押圧された状態における、前記ボタン規制手段の前記第3の位置から前記第4の位置への移動を規制する移動規制手段を有することを特徴とする請求項1に記載のマイクロニードルアプリケータ。
【請求項3】
前記移動規制手段は、
前記ボタンによって押圧された状態において、前記第2の方向へ移動する該ボタン規制手段が当接することによって、該ボタン規制手段の第4の位置への移動を規制する当接面を有することを特徴とする請求項2に記載のマイクロニードルアプリケータ。
【請求項4】
前記当接面は、
前記ボタン規制手段に対して前記ボタンとは逆側に配置された壁部に設けられた段差面であることを特徴とする請求項3に記載のマイクロニードルアプリケータ。
【請求項5】
前記摺動防止手段は、
前記ボタン規制手段が、前記第3の位置にあるときに、前記ボタンの押圧部を覆い、該ボタン規制手段が第4の位置にあるときに前記ボタンの押圧部を露出させるカバーであることを特徴とする請求項1に記載のマイクロニードルアプリケータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロニードルアプリケータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、皮膚の角質層を穿刺する微小突起であるマイクロニードルを皮膚に適用するためのマイクロニードルアプリケータが提案されている(特許文献1参照)。
上記従来技術では、衝撃バネ20に抗して、本体12に押し込まれたピストン14は、キャッチ26と、柔軟フィンガ28のラッチ30に係合することにより所定の位置にロックされる。次に、複数のマイクロニードルを有するパッチ44を保持したパッチ保持器34を、本体12の端部に装着する。そして、パッチ保持器34の端部42を皮膚に押し付けた状態で、キャップ16を押さえバネ24に抗して本体12側に押圧すると、キャップ16から下方に突出するピン46が柔軟フィンガ28を外向きに移動させる。これにより、ピストン14のキャッチ26と、柔軟フィンガ28のラッチ30との係合が解除され、ピストン14が解放される。衝撃バネ20によって下方へ移動するピストン14が、パッチ保持器34に保持されたパッチ44を皮膚に衝突させる。
【0003】
上記の従来技術には、キャップ16を軸回りに回転し、ピン46と柔軟フィンガ28とが周方向で整合する位置と、整合しない位置とをとり得る回転ロック装置を設けられることが記載されている。このように、ピン46と柔軟フィンガ28とが整合しない位置にキャップ16を回転させておけば、キャップ16に誤って押圧方向の力が作用しても、ピストン14が解放されることがなく、安全性が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
出願人は、さらなる安全性の向上を図るべく、マイクロニードルを適用するためのボタンを本体の側面に設けるとともに、穿刺方向に移動可能なボタン規制手段について検討してきた。このようなボタン規制手段としては、ボタン規制手段を押し込まない状態では、ボタンとボタン規制手段が干渉してボタンの作動が阻止されるものが考えられる。そして、ボタン規制手段を所定の位置まで押し込むことにより、ボタンの作動が可能となる。このようなボタン規制手段では、ボタン規制手段を所定の位置まで押し込んだ後に、ボタンを押圧することが望ましいが、ユーザが必ずしも想定された順序で操作するとは限らず、ボタンを押圧した状態でボタン規制手段を押し込むことも想定される。
このような操作が行われると、押圧されたボタンとボタン規制手段とが摺動することにより、それぞれの部材が摩耗したり、変形したりして、マイクロニードルアプリケータの円滑な動作に支障をきたす可能性があった。
【0006】
本発明は、上述のような事情を背景として為されたものであって、その目的は、安全性を確保しつつ、ボタンとボタン規制手段との摺動を防止して、円滑な動作が可能なマイクロニードルアプリケータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための本発明は、ハウジングに、第1の方向及び該第1の方向と逆方向の第2の方向に滑動可能に配置されたロッドと、
前記ロッドを第1の方向に付勢する付勢手段と、
前記付勢手段により付勢された前記ロッドを、前記ロッドに対して前記第1の方向に配置された、マイクロニードルを支持するマイクロニードル支持体に衝突させ、前記マイクロニードル支持体を対象部位に押圧し、前記マイクロニードルを前記対象部位に穿刺させるマイクロニードルアプリケータであって、
前記ハウジングに対して前記第1の方向に位置する第1の位置から、前記付勢手段による力に抗して、前記ロッドを前記第2の方向に移動させ、前記ハウジングに対して前記第1の位置から前記第2の方向に位置する第2の位置に保持するラッチ手段と、
前記第1の方向と交差する方向に押圧されることにより、前記ラッチ手段に作用して前記保持を解除するボタンと、
前記ハウジングに対する第3の位置にあるときに、前記ボタンと前記ラッチ手段との間で、押圧された該ボタンに当接することにより、該ボタンの前記ラッチ手段に対する作用を規制する押圧受け部を有し、前記ハウジングに対して前記第3の位置から前記第2の方向に位置する第4の位置に移動させたときに、前記押圧受け部が前記ボタンと前記ラッチ手段との間から前記第2の方向に移動して、該ボタンの前記ラッチ手段に対する作用を許容するボタン規制手段と、
前記ボタンと前記ボタン規制手段との摺動を防止する摺動防止手段を備えたことを特徴とするマイクロニードルアプリケータである。
【0008】
本発明にあっては、使用者が、ボタンを押圧しながら、ボタン規制手段を第2の方向に移動させようとしても、ボタンとボタン規制手段との摺動が防止されるので、安全性を確保しつつ、円滑な動作が可能なマイクロニードルアプリケータを提供することである。
できる。
【0009】
また、本発明においては、前記摺動防止手段は、
前記ボタンによって押圧された状態における、前記ボタン規制手段の前記第3の位置から前記第4の位置への移動を規制する移動規制手段を有するようにしてもよい。
【0010】
すなわち、この場合には、ボタンが押圧されたときには、ボタン規制手段の第3の位置から第4の位置への移動が規制されるので、ボタンとボタン規制手段との摺動が防止される。
【0011】
また、本発明においては、前記移動規制手段は、
前記ボタンによって押圧された状態において、前記第2の方向へ移動する該ボタン規制手段が当接することによって、該ボタン規制手段の第4の位置への移動を規制する当接面を有するようにしてもよい。
【0012】
また、本発明においては、前記当接面は、
前記ボタン規制手段に対して前記ボタンとは逆側に配置された壁部に設けられた段差面であるようにしてもよい。
【0013】
また、本発明においては、前記摺動防止手段は、
前記ボタン規制手段が、前記第3の位置にあるときに、前記ボタンの押圧部を覆い、該ボタン規制手段が第4の位置にあるときに前記ボタンの押圧部を露出させるカバーであるようにしてもよい。
【0014】
このようにすれば、ボタン規制手段が第4の位置に移動して、カバーからボタンが露出するまで、使用者はボタンを押圧することができないので、ボタンとボタン規制手段との摺動が防止される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、安全性を確保しつつ、ボタンとボタン規制手段との摺動を防止して、円滑な動作が可能なマイクロニードルアプリケータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例1のマイクロニードルアプリケータの全体外観斜視図である。
【
図2】実施例1のマイクロニードルアプリケータの分解斜視図である。
【
図3】実施例1のマイクロニードルアプリケータの使用時の状態を示す図である。
【
図4】実施例1のマイクロニードルアプリケータの使用時の状態を示す断面図である。
【
図5】実施例1のシリンダロックの外観斜視図である。
【
図6】実施例1の摺動防止手段を説明する図である。
【
図7】実施例2のマイクロニードルアプリケータ本体の全体外観斜視図である。
【
図8】実施例2のマイクロニードルアプリケータの断面図である。
【
図9】実施例2のマイクロニードルアプリケータ本体の別の全体外観斜視図である。
【
図10】実施例2のマイクロニードルアプリケータの別の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例について図面を参照しつつ説明する。なお、以下に示す実施例は本発明の実施形態の一例に過ぎず、本発明の構成を特に限定するものではない。
【0018】
<実施例1>
(全体構成)
図1は、実施例1に係るマイクロニードルアプリケータ1全体の外観を示す斜視図である。
図2は、マイクロニードルアプリケータ1の分解斜視図である。
マイクロニードルアプリケータ1は、マイクロニードルを皮膚に適用する装置であり、マイクロニードルを有するパッチを皮膚の表皮等の対象部位に押圧し、マイクロニードルを皮膚の表皮に穿刺することにより、薬液を体内に輸送し、又は、血液等のサンプルを採取する装置である。
図1に示すように、マイクロニードルアプリケータ1は、主として本体2とキャップ3とからなる。
図2に示すように、本体2は、断面略八角形状をなし、上端側の頭頂部で閉じられ、下端側で開口する有底筒状の部材であるハウジング4と、ハウジング4内に収容される複数の部材とから構成される。キャップ3は、断面略八角形状で、上端側が開口し、下端側が閉じられた有底筒状の部材である。キャップ3の内部はハウジング4の下端側の外形に従う略八角形状の中空部となっており、ハウジング4の下端部が嵌合するように形成される。説明における上下は、図上での上下方向を指し、現実の上下とは必ずしも一致しない。後述するように、マイクロニードルアプリケータ1の使用時には、ハウジング4の頭頂部を下方にして、天地を逆転させることもある。
【0019】
ハウジング4の内部には、後述するマイクロニードルを有するパッチ17に背面側から衝突し、パッチ17を皮膚に押圧する部材である穿刺ロッド5が滑動可能に配置される。穿刺ロッド5は、上端側が開口し、下端側が閉じられた有底筒状の部材である。穿刺ロッド5は、上端側が閉じられ、下端側が開口する有底筒状の穿刺ケース6の中空内部に収容される。穿刺ケース6の上端部は、ハウジング4の上端部の内面に設けられた位置決め部に嵌合して固定される。穿刺ロッド5と、穿刺ケース6との間には穿刺バネ7が装着される。穿刺バネ7は、穿刺ロッド5の中空内部に収容され、穿刺バネ7の上端は穿刺ケース6の中空内部の上端部に設けられた支持部に、穿刺バネ7の下端は穿刺ロッド5の中内部の下端部に設けられた支持部にそれぞれ支持される。穿刺ロッド5をハウジング4に対して押し込むことにより圧縮された穿刺バネ7は、穿刺ロッド5をハウジング4から突出さ
せる方向(以下、「穿刺方向」という。図上では下方を示す。)に付勢する。ここでは、パッチ17がマイクロニードル支持体に対応し、穿刺バネ7が付勢手段に対応する。穿刺方向が第1の方向に対応する。穿刺ロッド5を押し込む方向は、穿刺方向と逆方向であり、第1の方向の逆方向である第2の方向に対応する。
【0020】
本体2にキャップ3を装着してマイクロニードルアプリケータ1を収納する場合には、有底円筒形状のスペーサ8を上方が開口するようにキャップ3の底部に配置し、スペーサ8の中空内部が穿刺ロッド5の下端部に覆うようにして、キャップ3を装着する。スペーサ8は、使用時に指で穿刺ロッド5を押し込む操作が困難な使用者のための補助具であり、底面が上方に向くように、載置面上に配置し、スペーサ8の底面に穿刺ロッド5を押し付けることにより、穿刺ロッド5をハウジング4側に押し込んで使用する。
【0021】
ハウジング4の内部の、穿刺ケース6の外径側には、ボタン9、シリンダロック10、ロックレバー11、ボタンバネ12a,12bが配設される。
ボタン9は、穿刺ロッド5を発射するトリガーとなる部材である。ボタン9は、その押圧部91が、ハウジング4の側面に設けられた開口部41から外部に露出するように取り付けられる。ボタン9の押圧部91の内径側には、内径側に突出する二つの突部92,92が設けられている。突部92,92は上下方向に平行な面を有する板状部材であり、内径側の端面は、下方側が上下方向に平行な面に形成され、上方側が外形方向に切り欠かれた面に形成されている。また、押圧部91の内径側の端部には、押圧方向に対する側方に延びる鍔部93が押圧部91の全周にわたって設けられている。突部92,92は、鍔部93の内径側の端面から突出形成されている。
シリンダロック10は、略方形の枠状部材である。シリンダロック10は、穿刺ロッド5が押し込まれていない状態では、後述する可動シリンダ13の押圧受け部135,136の上端部と、規制部102a,102bとが当接することにより、可動シリンダ13の押し込み方向の移動を規制する部材である。ボタン9とは逆側のシリンダロック10の外側面と、ハウジング4の内面との間には、ボタンバネ12aが介装されており、シリンダロック10をボタン9側に付勢している。
ロックレバー11は、シリンダロック10の下方に配設される略方形の枠状部材である。ロックレバー11は、ボタン9とは逆側のロックレバー11の外側面と、ハウジング4の内面との間には、ボタンバネ12bが介装されており、ロックレバー11をボタン9側に付勢している。ボタン9の突部92,92は、ロックレバー11のスリット111a,11bを通過するように配置されており、ボタン9の鍔部93の内径側の端面が、ロックレバー11の被押圧面112に対向している。ボタン9の押圧部91が押圧されると、ボタン9の鍔部93の内径側の端面が、ロックレバー11の被押圧面112に当接して、これを押圧し、ロックレバー11をボタンバネ12bの付勢力に抗して押し込む。
【0022】
ハウジング4の内部の、穿刺ケース6の外径側には、さらに可動シリンダ13が配設される。可動シリンダ13は断面略八角形の筒状部材である。可動シリンダ13は、内径側に、上方に延出し、外周側に凸となるように湾曲した板状の基部134を有する。そして、基部134の周方向の縁部の上端側には、ボタン9の押し込み方向と直交する面を有する板状の押圧受け部135,136が延設されている。押圧受け部135,136の下端部は、ボタン9とは逆側に傾斜する傾斜面が形成されている。可動シリンダ13とハウジング4との間には押さえバネ14a,14bが介装されており、可動シリンダ13をハウジング4から離間する方向に付勢している。ここでは、可動シリンダ13がボタン規制手段に対応する。
キャップ3、ハウジング4、穿刺ロッド5、穿刺ケース6、スペーサ8、ボタン9、シリンダロック10、ロックレバー11は、例えば、PET等の樹脂や金属によって形成することができるがこれに限られない。
【0023】
(使用方法)
図3(a)~(f)は、キャップ3を取り外した後の、マイクロニードルアプリケータ1の本体2の使用時の各状態を示す。
図4(a)~(c)は、マイクロニードルアプリケータ1の本体2のA-A方向断面(
図6(a)参照)を示す。
以下、
図4を参照しつつ、
図3に従って、マイクロニードルアプリケータ1の使用方法を説明する。
図3(a)は、穿刺ロッド5が上方を向くように本体2を支持した状態を示す。ハウジング4の頭頂部を面上に載置等することにより、ハウジング4を安定させることが望ましい。
図3(a)に示す状態で、穿刺ロッド5を矢印A方向(ハウジング4に対して穿刺方向と逆側)に押し込む。
図4(a)は、穿刺ロッド5が押し込まれていない状態のマイクロニードルアプリケータ1を示す。
図4(a)に示す状態では、穿刺ロッド5は、ハウジング4に対して穿刺方向にあり、この
図4(a)における穿刺ロッド5のハウジング4に対する位置が第1の位置に対応する。
図4(a)にあるように、穿刺ロッド5の、ボタン9とは逆側の側壁には、開口部521が形成されている。このとき、シリンダロック10とロックレバー11は、それぞれボタンバネ12a及び12bによってボタン9側に付勢されている。このため、シリンダロック10の、ボタン9とは逆側の壁部の内側面からボタン9側へ突出して形成されたフック部103と、ロックレバー11の、ボタン9とは逆側の内側面からボタン9側へ突出して形成されたフック部113とが、穿刺ロッド5の押し込み方向の移動経路上に位置している。また、この
図4(a)に示す状態では、シリンダロック10の規制部102a,102bに、可動シリンダ13の押圧受け部135,136の上端部が当接して押し込み方向の移動が規制されている。そして、この状態でボタン9を押圧すると、ボタン9の突部92,92が、対向する押圧受け部135,136に当接して、ボタン9のロックレバー11への作用が規制される。このときの可動シリンダ13の位置が第3の位置に対応する。
【0024】
図3(b)に示すように、穿刺ロッド5が押し込まれた状態で、保持器16が格納されたケース15を、可動シリンダ13の穿刺方向端部に設けられた保持器支持部131,132の間へと、矢印B方向に挿入する。保持器16には、保持器16の穿刺方向の開口部から後退した位置に内径側に突出するフランジ部161(
図4(c)参照)が周方向に設けられており、マイクロニードルを有するパッチ17が周縁部をフランジ部161の端面に接着等の方法により保持されている。使用者がマイクロニードルに触れないように、保持器16はケース15に格納されている。
図4(b)は、穿刺ロッド5を穿刺バネ7の付勢力に抗して所定の位置まで押し込んだ状態を示す。ここで、
図4(b)に示す、穿刺ロッド5がハウジング4に対して押し込まれた位置が第2の位置に対応する。このとき、シリンダロック10のフック部103は、穿刺ロッド5の筒状壁部と干渉して、穿刺ロッドの押し込み方向の移動経路から排除されるため、シリンダロック10はボタン9とは逆側に移動する。規制部102a,102bはロックレバー11の内周面に当接しており、シリンダロック10がボタン9とは逆側に移動することにより、シリンダロック10の規制部102a,102bも、ロックレバー11の内周面に当接しながらボタン9と逆側に移動する。すなわち、規制部102a,102bはシリンダロック10がボタン9の押圧に伴う移動方向とは異なる方向に動かないようにするためのガイドとして働き得る。規制部102a,102bが、可動シリンダ13の押圧受け部135,136との当接位置から移動するので、可動シリンダ13の押し込み方向への移動が許容される。このとき、穿刺ロッド5の開口部521は、ロックレバー11のフック部113に対応する位置にあるため、ボタンバネ12bに付勢されたフック部113は、開口部521に嵌合する。これにより、穿刺バネ7に付勢された穿刺ロッド5の穿刺方向の移動が規制される。ここでは、ロックレバー11及びボタンバネ12bがラッチ手段に対応する。
【0025】
なお、
図5に示すように、シリンダロック10には、本体部101からハウジング4の頭頂部側に延びる爪部105,106が設けられており、爪部106の上面は、色の異な
る二つの領域106a及び106bを有する。領域106a又は106bに対応する位置には、ハウジング4の内部が見える窓部42(
図6(a)参照)が形成されている。穿刺ロッド5が押し込まれていない場合のシリンダロック10の位置では、窓部42から領域106bが見え、穿刺ロッド5が所定の位置まで押し込まれた場合のシリンダロック10の位置では、窓部42から領域106aが見えることとなる。領域106aを赤色に形成しておけば、窓部42から見える色が赤色に変化することにより、使用者は、穿刺ロッド5が所定の位置まで押し込まれたことを視認することができる。
【0026】
図3(c)に示す状態まで、ケース15を挿入すると、可動シリンダ13の穿刺方向端部に設けられた突起33に保持器16が当接することよって、さらなる矢印B方向の移動が規制される。そして、この状態で、保持器16は径方向の両側から保持器支持部131,132によって支持される。
図3(d)に示すように、保持器16が支持された状態で、ケース15を矢印Bとは逆方向に引き出す。これにより、保持器16のみが、可動シリンダ13の穿刺方向端部に装着される。このとき、パッチ17は、マイクロニードルが保持器16の開口部に臨む状態で保持されている。
【0027】
図3(e)に示すように、皮膚18のパッチを適用すべき部位に、保持器16の開口部を当接させた状態で、ハウジング4を支持する。そして、ハウジング4を矢印C方向に押圧する。そうすると、
図3(f)に示すように、可動シリンダ13がハウジング4内に押し込まれる。
図4(c)に示すように、可動シリンダ13は、所定の位置まで押し込まれると、穿刺方向とは逆側の端部がハウジング4に当接することにより、それ以上の移動が規制される。
図4(c)に示す、可動シリンダ13のハウジング4に対する位置が、第4の位置に対応する。
図4(b)に示す状態においてボタン9の突部92,92に対向していた押圧受け部135,136が、
図4(c)に示す状態では、可動シリンダ13の押し込みに伴い、穿刺方向と逆方向に移動する。このとき、ボタン9の突部92,92には、ボタン9の押圧を規制する部材が存在しないので、ボタン9の押圧が許容される状態となっている。この
図3(f)に示す状態でボタン9を、穿刺方向に直交する矢印D方向に押すと、
図4(c)に示す状態から、押圧されたボタン9の突部92,92が、ロックレバー11のスリット111a,111bを通過し、ボタン9の鍔部93の内径側の端面が、ロックレバー11の被押圧面112に当接し、ロックレバー11をボタンバネ12bの付勢力に抗して移動させる。そうすると、穿刺ロッド5の開口部521とフック部113との係合が解除される。これによって、穿刺ロッド5の穿刺方向の移動が許容され、穿刺バネ7に付勢された穿刺ロッド5が穿刺方向に突出する。穿刺ロッド5の穿刺方向の端面51が、保持器16に保持されたパッチ17の穿刺方向と逆方向の面に衝突する。穿刺ロッド5がさらに穿刺方向に移動することにより、パッチ17が保持器16から離脱して皮膚18に押圧され、パッチ17の穿刺方向の面に設けられたマイクロニードルが皮膚18の表皮に穿刺される。ここでは、ボタン9を穿刺方向と直交する方向に押圧するように構成しているが、穿刺方向に交差する方向であれば、直交する方向に限定されない。
【0028】
(摺動防止手段)
図6(a)は,マイクロニードルアプリケータ1の本体2を頭頂部から見てA-A方向を示す図、
図6(b)は保持器16を装着したマイクロニードルアプリケータ1の本体2のA-A断面図、
図6(c)及び
図6(d)は
図6(b)の円で囲った部分の拡大図である。
図6(b)は、
図6(a)に示すように、マイクロニードルアプリケータ1の本体2を、ハウジング4の中心軸に沿ってボタン9の中心を通るA-A面で切断して内部構造を示す。
図6(c)は、ボタン9を押圧しない状態における
図6(b)の円で囲った部分を拡大して示す。そして
図6(d)は、ボタン9を押圧した状態における
図6(b)の円で囲った部分を拡大して示す。
図6(b)に示すように、可動シリンダ13の基部134の内径外には、ハウジング4の頭頂部の内面から軸方向に延びて穿刺ケース6の段部61に至る壁部43が配置されている。この壁部43は、可動シリンダ13の基部134と同様に外周側に凸となるように湾曲した板状に形成されている。また、この壁部43は、ハウジング4の頭頂部の内面から穿刺方向に延びる面431と、段差面432と、段差面432の内径側からさらに穿刺方向に延びる面433とを含む。壁部43の面431と面433は、段差面432を介して、面431が外径側、面433が内径側に位置する。段差面432は、穿刺方向に略直交する面であり、軸を中心とする周方向(
図6(b)で紙面に直交する方向の手前側及び奥側)に延びている。また、段差面431は、
図6(b)に示す可動シリンダ13が押し込まれていない状態において、可動シリンダ13の基部134の上端部134aに略対応する位置に形成されている。壁部43の、穿刺方向に直交する方向(
図6(b)では図面に直交する方向)の幅が、基部134の同方向の幅と同等又はこれより小さい。このため、可動シリンダ13が押し込まれて、押圧受け部135,136がボタン9の突部92に対向しない位置に移動したときに、突部92が壁部43に干渉することはなく、ボタン9の押圧動作は妨げられない。
【0029】
ボタン9を押圧していない状態では、
図6(c)に示すように、可動シリンダ13の基部134の内径側の側面134bは、壁部43の面431よりも外径側に位置している。このため、ボタン9を押圧することなく、可動シリンダ13が押し込まれると、基部134の上端部134aは段差面432と干渉しない。このとき、可動シリンダ13の基部134の内径側の側面134bは、壁部43の面431の外径側を、面431と離隔して、又は面431と摺動して、穿刺方向と逆方向に移動することにより、可動シリンダ13の押し込みが許容される。
ボタン9を押圧した状態では、
図6(d)に示すように、ボタン9の突部92,92が押圧受け部135,136に当接して、これらを押圧することにより、基部134を内径側に移動させる。このとき、基部134の内径側の側面134bは、壁部43の面431よりも内径側に移動し、面433に当接する。したがって、この状態で、可動シリンダ13を穿刺方向と逆方向に移動させようとすると、段差面432と基部134の上端部134aが当接し、可動シリンダ13の穿刺方向と逆方向への移動が規制される。すなわち、ボタン9を押圧した状態で、可動シリンダ13を押し込もうとしても、可動シリンダ13は押し込むことができない。ここでは、段差面432が、移動規制手段、当接面及び摺動防止手段に対応する。
【0030】
このように、本実施例では、使用者が可動シリンダ13の押し込む前に、ボタン9を押圧した場合には、可動シリンダ13の押し込みが規制されるので、使用者がボタン9を押圧しながら、可動シリンダ13を押し込むことによって生じ得る、ボタン9の突部92,92と可動シリンダ13の押圧受け部135,136との摺動を防止することができる。したがって、安全性を確保しつつ、ボタン9の突部92,92と可動シリンダ13の押圧受け部135,136が摩耗したり、ボタン9や可動シリンダ13その他の部材が変形したりすることがなく、マイクロニードルアプリケータ1の円滑な動作が可能となる。
【0031】
<実施例2>
(摺動防止手段)
以下、実施例2に係るマイクロニードルアプリケータ21について説明する。マイクロニードルアプリケータ1と共通する構成については、同様の符号を用いて詳細な説明は省略する。
図7は、保持器16を装着した状態のマイクロニードルアプリケータ21の本体部22の外観を示す斜視図である。
マイクロニードルアプリケータ21には、ボタン9の押圧部91の外方にカバー23が設けられる。カバー23は、ボタン9の押圧部91の全面を覆う面積を有する板状の主部231を有する。主部231の軸方向の直交する方向の両縁には、開口部41を越えた位
置でハウジング4側に屈曲する接続部232,232が設けられる。接続部232,232のハウジング4側の縁部からは穿刺方向に脚部233,233が延設される。脚部233,233の穿刺方向の端部は、穿刺方向に直交する方向に延びる連結部234によって連結されている。カバー23には、主部231と、脚部233,233と、連結部234によって、主部231の穿刺方向に隣接する開口部235が形成される。そして、連結部234の穿刺方向に直交する方向の中央部には、内径側に延びる係合部236が設けられている。ハウジング4の開口部41の下方には、ハウジング4の内部から外部へ貫通するスリット46が、穿刺方向に形成されている。カバー23の係合部236は、スリット46を介して、ハウジング4の内部まで延びており、可動シリンダ13の支持部137に係合する。カバー23の、穿刺方向に直交する方向の両縁部には、接続部232,232から脚部233,233に至るまで、穿刺方向に直交する方向にそれぞれ突出するフランジ部237,237が設けられている。ハウジング4の開口部41の、軸に直交する方向の両側方に、軸方向に延びるガイド44,45が設けられる。ガイド44,45の開口部41側の側面には,溝44a,45aが軸方向に沿って設けられている。カバー23のフランジ部237,237が、それぞれ溝44a,45aに係合する。後述するように、可動シリンダ13が穿刺方向と逆方向の移動する際に、フランジ部237,237が、溝44a,45aに係合して、ガイド44,45によって案内される。そして、可動シリンダ13が押し込まれることにより、カバー23の係合部236は、可動シリンダ13の支持部137に係合しているので、可動シリンダ13に連動して穿刺方向と逆方向に移動する。これによって、ボタン9の押圧部91の外方から、カバー23の主部231は、穿刺方向と逆方向に移動する。これに伴い、ボタン9の押圧部91のうち、主部231によって外方を覆われる部分が減少し、開口部235から露出する部分が増加する。そして、可動シリンダ13が所定の位置まで押し込まれると、ボタン9の押圧部91の全面が開口部235から露出する。
【0032】
図8(a)は、マイクロニードルアプリケータ21をハウジング4の頭頂部から見た図である。
図8(b)は、保持器16を装着したマイクロニードルアプリケータ21の本体2のB-B断面図である。
図8(b)では、保持器16を装着した可動シリンダ13は押し込まれていない状態である。このとき、カバー23の主部231は、ボタン9の押圧部91の外方に位置し、押圧部91は全面にわたって主部231に覆われており、使用者はボタン9に触れることができず、押圧することもできない。
図9は、保持器16を装着し、可動シリンダ13を所定の位置まで押し込んだ状態のマイクロニードルアプリケータ21の本体部22の外観を示す斜視図である。
図10は、保持器16を装着し、可動シリンダ13を所定の位置まで押し込んだ状態のマイクロニードルアプリケータ21のB-B断面図である。
図9に示すように、可動シリンダ13が所定の位置まで押し込まれると、可動シリンダ13に連動するカバー23も穿刺方向と逆方向に移動する。可動シリンダ13が所定の位置まで押し込まれた状態では、カバー23の主部231はボタン9の押圧部91の穿刺方向と逆方向に位置し、連結部234がボタン9の押圧部91の穿刺方向に位置し、押圧部91の全面が、開口部235から露出している。ここでは、カバー23が摺動防止手段に対応する。
【0033】
このように、カバー23の主部231が、ボタン9の押圧部91を覆う位置から穿刺方向と逆方向の位置へと移動することにより、使用者は、ボタン9を押圧することができる。すなわち、可動シリンダ13が所定の位置まで押し込まれる段階では、使用者はボタン9を押圧することができない。したがって、ボタン9を押圧しながら、可動シリンダ13を押し込むことによって生じ得る、ボタン9の突部92,92と、可動シリンダ13の押圧受け部135,136との摺動を防止することができる。このため、安全性を確保しつつ、ボタン9の突部92,92と可動シリンダ13の押圧受け部135,136が摩耗し
たり、ボタン9や可動シリンダ13その他の部材が変形したりすることがなく、マイクロニードルアプリケータ1の円滑な動作が可能となる。
【符号の説明】
【0034】
1,21・・・マイクロニードルアプリケータ
2・・・・本体
4・・・・ハウジング
5・・・・穿刺ロッド
7・・・・穿刺バネ
9・・・・ボタン
10・・・シリンダロック
11・・・ロックレバー
12a,12b・・・ボタンバネ
13・・・可動シリンダ
23・・・カバー
43・・・壁部
432・・段差面