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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】積層造形装置及び積層造形物製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/218 20170101AFI20220705BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20220705BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20220705BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20220705BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20220705BHJP
   B29C 64/214 20170101ALI20220705BHJP
   B29C 64/393 20170101ALI20220705BHJP
【FI】
B29C64/218
B29C64/153
B33Y30/00
B33Y10/00
B33Y50/02
B29C64/214
B29C64/393
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018172396
(22)【出願日】2018-09-14
(65)【公開番号】P2020044660
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100176245
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】榊原 祐治
(72)【発明者】
【氏名】松岡 修史
【審査官】清水 研吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-154491(JP,A)
【文献】国際公開第2018/087474(WO,A1)
【文献】特開2018-126974(JP,A)
【文献】特開2013-141830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバと、
前記チャンバ内に配置され、粉末を含む粉末床及び造形物を保持可能な粉末保持部と、
前記粉末保持部に保持された前記粉末を固める粉末固化部と、
前記チャンバ内に配置され、前記粉末床の表面を均す当接面を含むリコータと、
前記粉末床に対して、前記粉末床の前記表面に沿う方向に、前記リコータを相対的に移動させるリコータ移動機構と、
前記チャンバ内に配置され、前記リコータを回転可能に支持するリコータ支持部と、
前記粉末床の前記表面に接触していない状態で前記リコータを周方向に移動させる制御部と、を含み、
前記制御部は、前記リコータが前記粉末床の前記表面に沿って移動している際に、前記リコータの前記周方向の移動を停止させる積層造形装置。
【請求項2】
前記リコータの移動方向において、前記粉末保持部に隣接して設けられ、前記粉末保持部に供給される前記粉末を堆積させる粉末堆積部を備え、
前記リコータ移動機構は、前記リコータを移動させて、前記粉末堆積部に堆積している前記粉末を前記粉末保持部へ掻き寄せる請求項1に記載の積層造形装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記移動方向において、前記粉末保持部及び前記粉末堆積部から外れた位置で前記リコータを前記周方向に移動させる請求項2に記載の積層造形装置。
【請求項4】
前記制御部は、一定の周期で前記リコータを所定の回転角度分、前記周方向に移動させて、前記当接面とは異なる新たな当接面を前記表面に当接させる請求項1~3の何れか一項に記載の積層造形装置。
【請求項5】
前記リコータの移動方向において前記粉末保持部より外側に配置された粉末回収部を備え、
前記制御部は、前記リコータが前記粉末回収部の上方に配置されている状態で、前記リコータを前記周方向に移動させる請求項1~の何れか一項に記載の積層造形装置。
【請求項6】
粉末を含む粉末床に対して、前記粉末床の表面に沿う方向に、リコータを相対的に移動させて、粉末保持部に保持された前記粉末床の表面を均す工程と、
前記リコータの当接面が前記粉末床の前記表面に接触していない状態で前記リコータを周方向に移動させる工程と、
前記粉末保持部に保持された前記粉末を固めて造形物を造形する工程と、を含み、
前記粉末床の表面を均す工程では、前記リコータが前記粉末床の前記表面に沿って移動している際に、前記リコータの前記周方向の移動を停止させる積層造形物製造方法。
【請求項7】
前記リコータを移動させ、粉末堆積部に堆積している粉末を掻き寄せて前記粉末床に供給する粉末供給工程を含み、
前記リコータを周方向に移動させる工程では、前記粉末保持部及び前記粉末堆積部から外れた位置で前記リコータを前記周方向に移動させる請求項に記載の積層造形物製造方法。
【請求項8】
前記リコータを周方向に移動させる工程では、一定の周期で前記リコータを所定の回転角度分、前記周方向に移動させて、前記当接面とは異なる新たな当接面を前記表面に当接させる請求項又はに記載の積層造形物製造方法。
【請求項9】
前記リコータを周方向に移動させる工程では、前記リコータを前記周方向に移動させて、前記リコータの外周面に付着している付着物を落下させる請求項の何れか一項に記載の積層造形物製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層造形装置及び積層造形物製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層造形装置は、材料である粉末を固めて造形物を製造する(例えば、特許文献1,2参照)。特許文献1の積層造形装置は、ローラを移動させて、昇降台上に粉末を運んで粉末層を形成する。このローラの回転軸にはモータが接続されている。このモータを駆動させてローラを回転させることができる。特許文献2の積層造形装置は、回転しながらステージに対し並進する平坦化ローラと、平坦化ローラにギャップをもって対向するクリーニングブレードと、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-107543号公報
【文献】特開2017-77631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
チャンバ内で積層造形物を製造する積層造形装置において、粉末に当接するリコータを補修する場合には、チャンバを開ける必要がある。本開示は、チャンバ内のリコータの機能を維持することが可能な積層造形装置及び積層造形物製造方法を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の積層造形装置は、チャンバと、チャンバ内に配置され、粉末を含む粉末床及び造形物を保持可能な粉末保持部と、粉末保持部に保持された粉末を固める粉末固化部と、チャンバ内に配置され、粉末床の表面を均す当接面を含むリコータと、粉末床に対して、粉末床の表面に沿う方向に、リコータを相対的に移動させるリコータ移動機構と、チャンバ内に配置され、リコータを回転可能に支持するリコータ支持部と、粉末床の表面に接触していない状態でリコータを周方向に移動させる制御部と、を含む。
【0006】
積層造形装置では、リコータの当接面にきずが生じている場合には、リコータを周方向に移動させて、きずが形成されていない面を当接面として使用できる。積層造形装置では、リコータの当接面に付着物が付着している場合には、リコータを周方向に移動させて、付着物が付着していない面を当接面として使用できる。その結果、新たな当接面に切り替えて、リコータの機能を維持することができる。
【0007】
積層造形装置は、リコータの移動方向において、粉末保持部に隣接して設けられ、粉末保持部に供給される粉末を堆積させる粉末堆積部を備えていてもよい。リコータ移動機構は、リコータを移動させて、粉末堆積部に堆積している粉末を粉末保持部へ掻き寄せることができる。
【0008】
制御部は、移動方向において、粉末保持部及び粉末堆積部から外れた位置でリコータを周方向に移動させることができる。これにより、リコータを周方向に移動させた際に、リコータに付着している粉末が粉末保持部及び粉末堆積部に落下することが抑制される。
【0009】
制御部は、リコータ移動機構によるリコータの移動中にリコータの周方向の移動を停止させることができる。これにより、リコータが回転することが防止されるので、リコータの外周面に形成されたきずが粉末床の表面に当接可能な位置に移動することが防止される。
【0010】
積層造形装置は、リコータの移動方向において粉末保持部より外側に配置された粉末回収部を備え、制御部は、リコータが粉末回収部の上方に配置されている状態で、リコータを周方向に移動させてもよい。これにより、リコータに付着している粉末を粉末回収部に落下させることができる。
【0011】
本開示の積層造形物製造方法は、粉末を含む粉末床に対して、粉末床の表面に沿う方向に、リコータを相対的に移動させて、粉末保持部に保持された粉末床の表面を均す工程と、リコータの当接面が粉末床の表面に接触していない状態でリコータを周方向に移動させる工程と、粉末保持部に保持された粉末を固めて造形物を造形する工程と、を含む。
【0012】
積層造形物製造方法では、リコータの当接面にきずが生じている場合には、リコータを周方向に移動させて、きずが形成されていない面を当接面として使用できる。積層造形物製造方法では、リコータの当接面に付着物が付着している場合には、リコータを周方向に移動させて、付着物が付着していない面を当接面として使用できる。その結果、新たな当接面に切り替えて、リコータの機能を維持することができる。
【0013】
積層造形物製造方法では、リコータを移動させ、粉末堆積部に堆積している粉末を掻き寄せて粉末床に供給する粉末供給工程を含み、リコータを周方向に移動させる工程では、粉末保持部及び粉末堆積部から外れた位置でリコータを周方向に移動させることができる。
【0014】
リコータを周方向に移動させる工程では、一定の周期でリコータを所定の回転角度分、周方向に移動させて、当接面とは異なる新たな当接面を表面に当接させることができる。
【0015】
リコータを周方向に移動させる工程では、リコータを周方向に移動させて、リコータの外周面に付着している付着物を落下させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、チャンバ内のリコータの機能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本開示の一実施形態に係る積層造形装置を示す断面図である。
図2図1中のリコータ、リコータ支持部及びリコータ移動機構を示す側面図である。
図3図3(a)は、リコータを軸線方向から示す図であり、リコータの外周面のきずが最下部に配置されている状態を示す図である。図3(b)は、リコータを軸線方向から示す図であり、リコータの外周面のきずが最下部から外れた位置に配置されている状態を示す図である。
図4図4(a)は、リコータを軸線方向から示す図であり、リコータの外周面に付着物が付着している状態を示す図である。図4(b)は、リコータを軸線方向から示す図であり、リコータの外周面から付着物が落下している状態を示す図である。
図5】積層造形装置のコントローラを示すブロック図である。
図6】積層造形物の製造方法の手順を示すフローチャートである。
図7図7(a)は、第1変形例に係るリコータを軸線方向から示す図である。図7(b)は、第2変形例に係るリコータを軸線方向から示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において同一部分又は相当部分には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0019】
図1に示される積層造形装置(以下、「造形装置」という)1は、いわゆる3D(三次元)プリンタであり、層状に配置した金属粉末2に部分的にエネルギを付与して、金属粉末2を焼結又は溶融できる。造形装置1は、これを繰り返して三次元の造形物3を製造できる。
【0020】
造形物3は、例えば機械部品などであり、その他の構造物であってもよい。金属粉末2としては例えばチタン系金属粉末、インコネル(登録商標)粉末、アルミニウム粉末、ステンレス粉末等が挙げられる。造形物3の材料である粉末は、金属粉末に限定されない。粉末は、例えばCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)など、炭素繊維と樹脂を含む粉末でもよく、その他の粉末でもよい。粉末は、導電性を有する導電体粉末を含んでもよい。
【0021】
造形装置1は、真空チャンバ4、作業テーブル(粉末保持部)5、昇降装置6、粉末供給装置(粉末供給部)7、レーザ照射装置(粉末固化部)8を備える。真空チャンバ4は、内部を真空(低圧)状態とすることが可能な容器であり、図示しない真空ポンプが接続されている。真空チャンバ4の内部には例えばアルゴンガスが充填されている。作業テーブル5は、例えば板状を成し、造形物3の材料である金属粉末2が配置される粉末保持部である。作業テーブル5上の金属粉末2は例えば層状に複数回に分けて配置される。作業テーブル5は、金属粉末2の積層物(以下「粉末床A」という)を保持する。作業テーブル5は、平面視において、例えば矩形状を成している。作業テーブル5の形状は、矩形に限定されず、円形でもよく、その他の形状でもよい。
【0022】
作業テーブル5は、真空チャンバ4内において、造形タンク10内に配置されている。造形タンク10内において、作業テーブル5は、Z方向(上下方向)に移動可能であり、金属粉末2の層数に応じて順次降下する。造形タンク10の側壁10aは、作業テーブル5の移動を案内する。側壁10aは、作業テーブル5の外形に対応するように角筒状(作業テーブルが円形の場合は円筒状)を成している。造形タンク10の側壁10a及び作業テーブル5は、金属粉末2及び造形された造形物3を収容する収容部を形成する。作業テーブル5は造形タンク10の底部を構成してもよい。
【0023】
昇降装置6は、作業テーブル5上の金属粉末2及び製造途中の造形物3を昇降させることができる。昇降装置6は、例えばラックアンドピニオン方式の駆動機構を含み、作業テーブル5をZ方向に移動させる。昇降装置6は、作業テーブル5の底面に連結されて下方に伸びる棒状の上下方向部材(ラック)6aと、この上下方向部材6aを駆動するための駆動源6bと、を含んでもよい。駆動源6bとしては、例えば電動モータを用いることができる。電動モータの出力軸にはピニオンが設けられ、上下方向部材6aの側面にはピニオンと噛み合う歯形が設けられていてもよい。電動モータが駆動され、ピニオンが回転して動力が伝達されて、上下方向部材6aが上下方向に移動できる。電動モータの回転を停止することで、上下方向部材6aが位置決めされて、作業テーブル5のZ方向の位置が決まり、その位置が保持される。昇降装置6は、ラックアンドピニオン方式の駆動機構に限定されず、例えば、ボールねじ、シリンダなどその他の駆動機構を備えるものでもよい。
【0024】
粉末供給装置7は、原料である金属粉末2を貯留する貯留部である原料タンク11を含んでもよい。原料タンク11は、真空チャンバ4内に配置されている。原料タンク11は、例えば、Z方向と交差するX方向において、作業テーブル5の両側に配置されている。換言すれば、原料タンク11は、X方向において造形タンク10の両側に配置されている。粉末供給装置7は、金属粉末2を均す粉末塗布機構9を含んでもよい。粉末塗布機構9の説明は後述する。
【0025】
粉末供給装置7は、粉末供給テーブル12及び昇降装置13を含んでもよい。粉末供給テーブル12は、作業テーブル5に供給される金属粉末2を堆積させる粉末堆積部である。粉末供給テーブル12は、X方向において、側壁10aを挟んで、作業テーブル5に隣接して設けられている。粉末供給テーブル12は、平面視において、例えば矩形状を成している。作業テーブル5の形状は、矩形に限定されず、円形でもよく、その他の形状でもよい。
【0026】
粉末供給テーブル12は、真空チャンバ4内において、原料タンク11内に配置されている。原料タンク11内において、粉末供給テーブル12は、Z方向(上下方向)に移動可能であり、金属粉末2の供給に応じて順次上昇する。原料タンク11の側壁11aは、粉末供給テーブル12の移動を案内する。側壁11aは、粉末供給テーブル12の外形に対応するように角筒状(作業テーブルが円形の場合は円筒状)を成している。粉末供給テーブル12は原料タンク11の底部を構成してもよい。原料タンク11の作業テーブル5側の側壁11aは、造形タンク10の側壁10aと共通の側壁でもよい。
【0027】
昇降装置13は、粉末供給テーブル12及びその上に堆積する金属粉末2を昇降させることができる。昇降装置13は、例えばラックアンドピニオン方式の駆動機構を含み、粉末供給テーブル12をZ方向に移動させる。昇降装置13は、上下方向部材13a及び駆動源13bを備え、昇降装置6と同様の構成とすることができる。昇降装置13の説明については省略する。昇降装置13は、昇降装置6と異なる構成でもよい。昇降装置13は、ラックアンドピニオン方式の駆動機構に限定されず、例えば、ボールねじ、シリンダなどその他の駆動機構を備えるものでもよい。
【0028】
レーザ照射装置8は、金属粉末2を溶融し金属粉末2を固化する粉末固化部である。レーザ照射装置8から出射されたレーザビームは、真空チャンバ4内に照射されて、金属粉末2を加熱する。レーザ照射装置8は、金属粉末2にエネルギを付与して、金属粉末2を加熱して溶融することができる。レーザ照射装置8は、粉末床Aにエネルギを付与するエネルギ付与部である。レーザ照射装置8は、レーザビームを偏光させるミラー、ミラーを動かすための駆動部、レーザビームを集光する集光レンズ等の光学部品を含んでもよい。
【0029】
造形装置1は、レーザ照射装置8に代えて、電子線照射装置を備えていてもよい。電子線照射装置は、エネルギービームとしての電子ビーム(電子線)を照射する電子銃を含んでもよい。電子銃から出射された電子ビームは、真空チャンバ4内に照射されて、金属粉末2を加熱する。電子線照射装置は、金属粉末2にエネルギを付与して、金属粉末2を加熱して溶融又は焼結させることができる。電子線照射装置は、粉末床Aにエネルギを付与するエネルギ付与部である。電子線照射装置は、電子ビームの照射を制御するコイル部を含んでもよい。コイル部は、例えば収差コイル、フォーカスコイル及び偏向コイルを備えることができる。
【0030】
次に、粉末塗布機構9について説明する。図2に示されるように、粉末塗布機構9は、リコータ15と、リコータ支持部16と、リコータ移動機構17とを含む。リコータ15は、真空チャンバ4内で作業テーブル5の上方に配置され、作業テーブル5に載置されている粉末床Aの最上層の表面(上面)2aを均すことができる。リコータ15は、X方向に移動可能であり、粉末床Aの表面2aを均す。リコータ15は、例えば円筒状を成している。リコータ15は、円筒体本体15a、外周部15b、及び回転軸15cを備えていてもよい。円筒体本体15aは、例えば金属製でもよく、樹脂製でもよい。円筒体本体15aは、Y方向に所定の長さを有する。円筒体本体15aのY方向における長さは、例えば作業テーブル5のY方向の長さに一致していてもよい。
【0031】
外周部15bは、例えば円筒体本体15aに装着された樹脂製のカバーである。外周部15bは、円筒体本体15aの外周面を覆うように配置されている。外周部15bは、例えば円筒体本体15aよりも軟らかい物質から形成されている。外周部15bのY方向における長さは、例えば円筒体本体15aのY方向の長さに一致していてもよい。外周部15bは、リコータ15の周方向において、円筒体本体15aの全周を覆っている。回転軸15cは、円筒体本体15aの長手方向に延在し、円筒体本体15aから外方に張り出している。回転軸15cの両端部は、リコータ支持部16によって回転可能に支持されている。
【0032】
リコータ支持部16は、一対の軸受16aと、軸受支持部16bとを備えている。軸受16aは、回転軸15cを回転可能に支持する。軸受16aは、例えば円筒状のスリーブでもよく、その他の軸受でもよい。軸受支持部16bは、例えばZ方向に延在し、下方から軸受16aを支持する。軸受支持部16bは、軸受16aに対向して複数設けられている。リコータ15は、回転軸15c周りに回転可能である。
【0033】
粉末塗布機構9は、リコータ15に回転駆動力を出力する電動モータ18を備えていてもよい。電動モータ18は、例えばステッピングモータでもよい。電動モータ18は、例えばリコータ支持部16によって支持されている。電動モータ18の出力軸は、リコータ15の回転軸15cに連結されている。電動モータ18による回転駆動力は、回転軸15cに伝達される。これにより、回転軸15cが回転し、円筒体本体15a及び外周部15bが回転する。リコータ15は、周方向に移動できる。粉末塗布機構9は、リコータ15を所定の回転角度分、回転させて、停止させることができる。
【0034】
リコータ移動機構17は、例えばベルト駆動装置17aを含んでもよい。ベルト駆動装置17aは、無端ベルト17bを備える。無端ベルト17bは、図示しない複数のベルトローラに巻き掛けられている。複数のベルトローラは、X方向に延在する軸線周りに回転可能となっている。複数のベルトローラは、例えば真空チャンバ4の側壁に支持されていてもよい。複数のベルトローラは、例えば駆動ローラ及び従動ローラを含んでいる。駆動ローラには、駆動源として電動モータが連結されている。
【0035】
軸受支持部16bの下端部は、例えば無端ベルト17bに連結されている。ベルト駆動装置17aは、無端ベルト17bをX方向に移動させて、軸受支持部16bをX方向に移動させることができる。ベルト駆動装置17aは、電動モータを駆動して、無端ベルト17bを所定の位置まで移動させて、停止させることができる。ベルト駆動装置17aは、リコータ15をX方向に移動させることができる。ベルト駆動装置17aは、リコータ15をX方向の所定の位置で停止させることができる。リコータ移動機構17は、ベルト駆動装置17aに代えて、その他の駆動機構を備えていてもよい。リコータ移動機構17は、例えば、ボールねじ、シリンダ、ガイドレールなどを含んでもよい。
【0036】
リコータ15は、図1に示されるように、例えば、X方向において、原料タンク11の外側まで移動することができる。リコータ15は、作業テーブル5及び粉末供給テーブル12の上方で、X方向に往復運動することができる。リコータ15は、X方向に移動して、粉末供給テーブル12上の金属粉末2を掻き寄せて、作業テーブル5上に供給することができる。リコータ15は、X方向に移動しながら、作業テーブル5上に金属粉末2を供給すると共に粉末床Aの表面2aを均すことができる。
【0037】
造形装置1は、余分な金属粉末2を回収可能な粉末回収部19を備えていてもよい。粉末回収部19は、例えば粉末を収容可能な容器を含んでもよい。粉末回収部19は、例えばリコータ15の移動方向において、原料タンク11の外側に配置されていてもよい。リコータ15の移動方向における外側とは、例えば、作業テーブル5を中央として、作業テーブル5に近い方を内側とし、作業テーブル5から遠い方を外側とする。粉末回収部19は、例えばX方向において、原料タンク11の側壁11aと真空チャンバ4の側壁と間の空間でもよい。粉末回収部19は、粉末を貯留可能なバケットでもよい。
【0038】
造形装置1は、図5に示されるようにコントローラ31を備えている。コントローラ31は、造形装置1の装置全体の制御を司る制御部でもよい。コントローラ31は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、およびRAM(Random Access Memory)等のハードウェアと、ROMに記憶されたプログラム等のソフトウェアとから構成されたコンピュータである。コントローラ31は、入力信号回路、出力信号回路、電源回路などを含む。コントローラ31は、演算部32及びメモリ33を含む。コントローラ31は、レーザ照射装置8、粉末供給装置7、昇降装置6、及び電動モータ18と電気的に接続されている。コントローラ31は、各種指令信号を生成できる。メモリ33は、各種制御に必要なデータを保存できる。
【0039】
演算部32は、レーザ照射装置8に指令信号を送信して、レーザビームの照射時期、照射位置等の制御(照射制御)を行う。演算部32は、金属粉末2を溶融させる際のレーザビームの照射制御を行う。演算部32は、粉末供給装置7に指令信号を送信して、金属粉末2の供給時期、供給量を制御することができる。
【0040】
演算部32は、粉末塗布機構9のベルト駆動装置17aに指令信号を送信して、リコータ15の移動制御を行うことができる。演算部32は、リコータ15の移動開始時期を制御できる。演算部32は、リコータ15の移動時間、移動速度を制御できる。演算部32は、リコータ15の停止位置を制御できる。
【0041】
演算部32は、昇降装置13に指令信号を送信して、粉末供給テーブル12を昇降させることができる。演算部32は、粉末供給テーブル12の停止位置を制御できる。演算部32は、昇降装置6に指令信号を送信して、作業テーブル5を昇降させることができる。演算部32は、作業テーブル5の停止位置を制御できる。
【0042】
演算部32は、リコータ15の回転用の電動モータ18に指令信号を送信して、リコータ15を周方向に移動させることができる。演算部32は、図3(a)に示されるように、リコータ15の当接面B1にきずCがある場合に、リコータ15を周方向に移動させることができる。これにより、図3(b)に示されるように、当接面B1とは異なる面を新たな当接面B2を最下部に配置することができる。きずCは、その他の位置に配置され、きずCが形成されていない部分が新たな当接面B2となる。演算部32は、きずCが形成されていない状態において、新たな当接面B2に切り替えてもよい。
【0043】
演算部32は、リコータ15が粉末床Aの表面2aに接触していない状態において、リコータ15を周方向に移動させて、当接面B1から新たな当接面B2に切り替えることができる。当接面B(B1,B2)は、例えば最下部に配置され、粉末床Aの表面2aに対向する面である。当接面Bは、粉末床Aの表面2aに当接して、表面2aを均すことができる。演算部32は、リコータ15を粉末回収部19の上方に配置した状態で、リコータ15を回転させることができる。
【0044】
演算部32は、粉末供給テーブル12上の金属粉末2を作業テーブル5上に移動させる際に、リコータ15の周方向の移動を停止させた状態で、リコータ15をX方向に移動させることができる。例えば、演算部32に電動モータ18に指令信号を送信して、回転軸15cの回転位置が変化しないようにすることができる。これにより、リコータ15がX方向に移動して、金属粉末2を供給して粉末床Aの表面2aを均す際に、きずCが形成された部分が、表面2aに当接可能な位置に移動しないようにできる。
【0045】
演算部32は、図4(a)に示されるように、リコータ15の外周部15bに付着物Eが付着している場合に、リコータ15を周方向に移動させることができる。例えば、リコータ15を回転させて停止させることで、図4(b)に示されるように、付着物Eを落下させてもよい。付着物Eは、例えば金属粉末2である。演算部32は、リコータ15に付着物Eが付着していない状態において、リコータ15を回転させてもよい。
【0046】
演算部32は、リコータ15が粉末床Aの表面2aに接触していない状態において、リコータ15を周方向に移動させて、リコータ15に付着する付着物Eを落下させることができる。演算部32は、リコータ15を粉末回収部19の上方に配置した状態でリコータ15を回転させることができる。これにより、付着物Eを粉末回収部19内に落下させることができる。
【0047】
造形装置1は、リコータ15の外周部(外周面)15bの状態を確認するためのセンサを備えていてもよい。コントローラ31は、センサから出力された情報に基づいて、リコータ15の外周部15bの状態を検出することができる。センサとして、例えば、カメラを用いることができる。コントローラ31は、センサからの情報に基づいて、外周部15bのきずCの有無を検出してもよい。コントローラ31は、きずCの有無に基づいて、リコータ15を回転させてもよい。コントローラ31は、センサからの情報に基づいて、外周部15bに付着する付着物Eの有無を検出してもよい。コントローラ31は、付着物Eの有無に基づいて、リコータ15を回転させてもよい。
【0048】
コントローラ31は、一定の周期ごとに、リコータ15を回転させてもよい。例えば、リコータ15がX方向に1往復したら、コントローラ31は、所定の回転角度分、リコータ15を周方向に移動させてもよい。これにより、順次、新たな当接面Bに切り替えることができる。例えば、リコータ15によって金属粉末2を作業テーブル5に供給する前に、毎回、リコータ15を回転させてもよい。これにより、付着物Eを落下させてからリコータ15を用いて、金属粉末2を移動させて、作業テーブル5に供給できる。
【0049】
次に、積層造形物製造方法について説明する。図6は、積層造形物の製造方法の手順を示すフローチャートである。まず、準備工程を行う(ステップS1)。ここでは、作業テーブル5を降下させて、例えば1層分の金属粉末2が供給されるスペースを確保する。コントローラ31は、昇降装置6に指令信号を送信して、作業テーブル5を降下させる。ステップS1において、リコータ15を粉末回収部19の上方に配置して、リコータ15を回転させてもよい。
【0050】
次に、金属粉末2を供給する工程(粉末供給工程)、金属粉末2を均す工程を行う(ステップS2)。ここでは、粉末供給テーブル12上の金属粉末2を作業テーブル5上に掻き寄せて、金属粉末2を供給すると共に、粉末床Aの表面2aを均す。コントローラ31は、昇降装置13に指令信号を送信して、粉末供給テーブル12を上昇させる。これにより、1層分の金属粉末2を造形タンク10の側壁10aより上方に配置する。
【0051】
コントローラ31は、粉末塗布機構9のベルト駆動装置17aに指令信号を送信して、リコータ15をX方向に移動させる。リコータ15は、X方向において原料タンク11の外側から移動して、粉末供給テーブル12の上方を通り、粉末供給テーブル12上の金属粉末2を作業テーブル5側に掻き寄せる。リコータ15は、作業テーブル5の上方をX方向に移動しながら、作業テーブル5上に金属粉末2を供給すると共に、粉末床Aの表面2aを均す。これにより、粉末床Aの表面2aを平面にすることができる。また、リコータ15がX方向に移動している際に、リコータ15が回転移動しないように、コントローラ31は電動モータ18を制御して、回転軸15cの回転を停止させる。
【0052】
作業テーブル5に金属粉末2を供給後、リコータ15は、そのまま、X方向に移動して、原料タンク11の上方を通過して、粉末回収部19の上方に配置される。
【0053】
次に、溶融工程を行う(ステップS3)。ここでは、粉末床Aにレーザビームを照射して、金属粉末2を溶融させ固化させる。コントローラ31は、レーザ照射装置8に指令信号を送信して、所定の位置にレーザビームを照射する。レーザビームが照射される位置は、造形物3の形状に応じて予め設定されている。レーザビームが照射される位置に関するデータは、例えばメモリ33に記憶されている。レーザビームが照射された部分の金属粉末2は溶融する。溶融した金属粉末2は固まって造形物3の一部となる。
【0054】
次に、リコータ15を周方向に移動させる工程を行う(ステップS4)。ここでは、リコータ15は、粉末回収部19の上方に配置されている。コントローラ31は、電動モータ18に指令信号を送信して、リコータ15を周方向に移動させて、新たな当接面Bに切り替えることができる。また、リコータ15を回転させることで、リコータ15に付着する付着物Eを落下させることができる。
【0055】
そして、造形物3が完成するまで、ステップS1~ステップS4の工程を繰り返す。例えばリコータ15を右向きに移動させた後、リコータ15を左向きに移動させて、同様の工程を繰り返す。造形物3の全層について造形を行い、造形物3の造形を完了する。
【0056】
造形装置1では、リコータ15の当接面BにきずCが生じている場合に、リコータ15を周方向に移動させて、きずCが形成されていない面を当接面Bとして使用できる。造形装置1では、リコータ15の当接面Bに付着物Eが付着している場合に、リコータ15を周方向に移動させて、付着物Eが付着していない面を当接面Bとして使用できる。その結果、新たな当接面に切り替えて、リコータ15の機能を維持することができる。
【0057】
この造形装置1では、真空チャンバ4を開放しないで、リコータ15を周方向に移動させて、リコータ15の機能を維持することができる。そのため、造形装置1の運転を停止させずに、造形を継続することができる。運転中に真空チャンバ4を開放すると、内部のアルゴンガス等を廃棄して、新たなアルゴンガスを準備して、復旧する必要が生じる。造形装置1では、運転中に真空チャンバ4を開放する必要がないので、アルゴンガスの充填作業の必要がなくなる。
【0058】
造形装置1では、きずCが形成されていない当接面Bを粉末床Aに当接させて、粉末床Aの表面2aを均すことができるので、表面2aを良好に保つことができ、精度良く造形物3を造形できる。また、造形装置1では、作業テーブル5及び粉末供給テーブル12から外れた位置で、リコータ15を回転させるので、リコータ15に付着する付着物Eが作業テーブル5及び粉末供給テーブル12上に落下することが防止される。これにより、作業テーブル5に供給される金属粉末2の量を精度良く管理できる。
【0059】
本開示は、前述した実施形態に限定されず、本開示の要旨を逸脱しない範囲で下記のような種々の変形が可能である。
【0060】
上記の実施形態では、円筒状のリコータ15について説明しているが、リコータ15の形状は円筒状に限定されず、その他の形状でもよい。図7(a)に示されるように、リコータ15Bは多角形のものでもよい。リコータ15Bは、軸線方向から見て例えば六角形を成している。図7(b)に示されるように、リコータ15Cは複数の板材を交差するように配置したものでもよい。リコータ15Cは、軸線方向から見て例えば十字状を成している。リコータは、軸線方向から見て例えばY字状を成しているものでもよく、その他の形状でもよい。
【0061】
上記の実施形態では、リコータ15を粉末回収部19の上方に配置して周方向に移動させているが、その他の位置でリコータ15を周方向に回転させてもよい。例えば、リコータ15を上方に移動させて、リコータ15が粉末床Aに接触していない状態で、リコータ15を周方向に回転させてもよい。また、リコータ15をY方向に移動させて、リコータ15が粉末床Aに接触していない状態で、リコータ15を周方向に回転させてもよい。
【0062】
造形装置は、作業テーブル5より上方に配置された原料タンク11を備える構成でもよい。作業テーブル5の上方から金属粉末2を供給した後に、リコータ15を移動させて、粉末床Aの表面2aを均してもよい。リコータ15の移動方向は、X方向に限定されず、Y方向でもよく、X方向に対して傾斜する方向でもよい。また、リコータ15は、Z方向に延在する軸線周りに回転することで、粉末床Aの表面2aを均してもよい。また、上記実施形態では、作業テーブル5に対して、リコータ15を相対的に移動させているが、リコータ15に対して作業テーブル5及び造形タンク10を相対的に移動させてもよい。
【0063】
造形装置は、原料の粉末にレーザビーム(エネルギビーム)を照射して、粉末を溶融又は焼結させて、粉末を固化させるエネルギ付与部を備える構成でもよい。造形装置は、粉末に接着剤等を付与して、粉末を固化させる粉末固化部を備える構成でもよい。
【0064】
上記の実施形態では、リコータ15は、外周部として、円筒体本体15aを覆うカバーを備えているが、リコータ15は、外周部としてカバーを備えていない構成でもよい。カバーを備えていない場合には、円筒体本体15aの外周面が当接面Bとなる。
【符号の説明】
【0065】
1 造形装置(積層造形装置)
2 金属粉末
2a 金属粉末の表面(粉末床の表面)
3 造形物
4 真空チャンバ
5 作業テーブル(粉末保持部)
7 粉末供給装置(粉末供給部)
8 レーザ照射装置(粉末固化部)
9 粉末塗布機構
10 造形タンク(粉末保持部)
11 原料タンク(粉末供給部)
12 粉末供給テーブル(粉末堆積部)
16 リコータ支持部
17 リコータ移動機構
31 コントローラ(制御部)
A 粉末床
B、B1、B2 当接面
X X方向(粉末床の表面に沿う方向、移動方向)
Y Y方向
Z Z方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7