(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】エアバッグ
(51)【国際特許分類】
B60R 21/239 20060101AFI20220705BHJP
B60R 21/2338 20110101ALI20220705BHJP
B60R 21/205 20110101ALI20220705BHJP
【FI】
B60R21/239
B60R21/2338
B60R21/205
(21)【出願番号】P 2018174038
(22)【出願日】2018-09-18
【審査請求日】2021-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】318002149
【氏名又は名称】Joyson Safety Systems Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】竹内 伸一
(72)【発明者】
【氏名】越川 公裕
(72)【発明者】
【氏名】岡田 典久
(72)【発明者】
【氏名】安田 海
【審査官】鈴木 貴晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-23763(JP,A)
【文献】特開2012-11870(JP,A)
【文献】特開2016-112996(JP,A)
【文献】特開2000-16228(JP,A)
【文献】特開2017-178224(JP,A)
【文献】特開2008-247277(JP,A)
【文献】特開2013-35473(JP,A)
【文献】特開2018-12466(JP,A)
【文献】特開2009-298222(JP,A)
【文献】米国特許第9643562(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16-21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員対向面に、車両衝突時に大柄乗員及び小柄乗員のいずれをも受承する第1領域及び大柄乗員のみを受承する第2領域を有するメインバッグと、
該メインバッグからメインバッグ外に膨出可能である膨出可能部と、
該メインバッグの側面に設けられたベントホールと、
該ベントホールの開度を調節するためのバルブ部材と、
前記膨出可能部と前記第2領域とをつなぐテザーと
を有するエアバッグであって、
前記ベントホールは前記膨出可能部よりも後方に位置しており、
前記膨出可能部は、膨張したエアバッグの前記第2領域が大柄乗員を受承するまでは前記テザーを介して前記第2領域に引っ張られることにより前記メインバッグ内に位置しており、
該第2領域が大柄乗員を受承すると、該第2領域の前方移動に伴って該膨出可能部が前記メインバッグ外に膨出し、
前記バルブ部材の前端側は、前記膨出可能部の膨出方向先端側又は前記テザーの前端側に接続され、
前記バルブ部材の後端側は、前記メインバッグの側面のうち、前記ベントホールよりも後部側に接続されており、
該バルブ部材は、前記メインバッグが大柄乗員を受承するまでは、前記テザーを介して前記第2領域に引っ張られることにより、前記ベントホールから離反しており、
前記メインバッグが大柄乗員を受承すると、該バルブ部材が、該膨出可能部に引っ張られ、前記ベントホールを覆う姿勢をとる
エアバッグ。
【請求項2】
前記バルブ部材は、前記ベントホールを覆う姿勢をとったときに、該ベントホールに重なる位置に、該ベントホールよりも開口面積が小さい小ベントホールを有する請求項1のエアバッグ。
【請求項3】
前記エアバッグは、助手席用エアバッグであり、前記第1領域は、該助手席用エアバッグの後面の下部であり、前記第2領域は該助手席用エアバッグの後面の上部である請求項1又は2のエアバッグ。
【請求項4】
前記バルブ部材及び前記テザーは一連一体のテザーベルトを構成しており、該テザーベルトの長手方向の途中部分が前記膨出可能部の膨出方向先端側に連結されている請求項1~3のいずれかのエアバッグ。
【請求項5】
前記膨出可能部は、前記メインバッグの側面の前部に設けられていることを特徴とする請求項1~4のいずれかのエアバッグ。
【請求項6】
前記膨出可能部は、前記メインバッグの前面部に設けられていることを特徴とする請求項1~4のいずれかのエアバッグ。
【請求項7】
前記膨出可能部は、サブバッグであり、
該サブバッグは、前記メインバッグに設けられた出入口から該メインバッグ外に膨出可能であることを特徴とする請求項1~6のいずれかのエアバッグ。
【請求項8】
前記膨出可能部は、余剰基布部よりなることを特徴とする請求項1~6のいずれかのエアバッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両乗員を衝突時等に拘束するためのエアバッグに関する。
【背景技術】
【0002】
膨張したエアバッグが車両乗員を拘束したときに、ベントホールを介してエアバッグ内部からガスが流出することにより該車両乗員に加えられる衝撃が吸収される。
【0003】
特許文献1には、エアバッグ内部のガス圧が所定圧に達するまではベントホールが蓋部材によって覆われており、所定圧を超えるとこのガス圧により該蓋部材が押し開かれてベントホールが開放するよう構成されたエアバッグが記載されている。
【0004】
同号公報のエアバッグにあっては、該エアバッグが膨張する場合、エアバッグ内部のガス圧が所定圧となるまではベントホールが蓋部材によって覆われており、該ベントホールからのガスの流出が規制されているので、エアバッグ内部が速やかに高圧となり、エアバッグが迅速に展開する。
【0005】
そして、エアバッグ内部のガス圧が所定圧を超えると、該蓋部材が押し開かれてベントホールが開放するので、この膨張したエアバッグに車両乗員が突っ込んで来た場合には、該ベントホールを介してエアバッグ内部からガスが流出することにより、該車両乗員に加えられる衝撃が吸収される。
【0006】
特許文献2には、乗員前方のセンタバッグと、該センタバッグの左右両側に配置されたサイドバッグとを備え、該センタバッグとサイドバッグとが開口よりなる連通部で連通されたエアバッグが記載されている。
【0007】
特許文献3には、乗員の体格をセンサで検知し、体格が大きいときにはベントホールを閉塞状態とし、体格が小さいときにはベントホールを早目に開放状態とするエアバッグ装置が記載されている。特許文献3では、ベントホールの開度を切り替えるために、ベントホールを開閉するためのテザーベルトの一端を保持する保持装置を作動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2000-16228号公報
【文献】特開2010-201980号公報
【文献】特開2017-178224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、乗員の体格を検知するためのセンサ及び該センサの検知信号に基づいて作動する保持装置並びにその制御装置を用いることなく、大柄乗員と小柄乗員とでベントホールの開度が変更されるエアバッグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のエアバッグは、乗員対向面に、車両衝突時に大柄乗員及び小柄乗員のいずれをも受承する第1領域及び大柄乗員のみを受承する第2領域を有するメインバッグと、該メインバッグからメインバッグ外に膨出可能である膨出可能部と、該メインバッグの側面に設けられたベントホールと、該ベントホールの開度を調節するためのバルブ部材と、前記膨出可能部と前記第2領域とをつなぐテザーとを有するエアバッグであって、前記ベントホールは前記膨出可能部よりも後方に位置しており、前記膨出可能部は、膨張したエアバッグの前記第2領域が大柄乗員を受承するまでは前記テザーを介して前記第2領域に引っ張られることにより前記メインバッグ内に位置しており、該第2領域が大柄乗員を受承すると、該第2領域の前方移動に伴って該膨出可能部が前記メインバッグ外に膨出し、前記バルブ部材の前端側は、前記膨出可能部の膨出方向先端側又は前記テザーの前端側に接続され、前記バルブ部材の後端側は、前記メインバッグの側面のうち、前記ベントホールよりも後部側に接続されており、該バルブ部材は、前記メインバッグが大柄乗員を受承するまでは、前記テザーを介して前記第2領域に引っ張られることにより、前記ベントホールから離反しており、前記メインバッグが大柄乗員を受承すると、該バルブ部材が、該膨出可能部に引っ張られ、前記ベントホールを覆う姿勢をとる。
【0011】
本発明の一態様では、前記バルブ部材は、前記ベントホールを覆う姿勢をとったときに、該ベントホールに重なる位置に、該ベントホールよりも開口面積が小さい小ベントホールを有する。
【0012】
本発明の一態様では、前記エアバッグは、助手席用エアバッグであり、前記第1領域は、該助手席用エアバッグの後面の下部であり、前記第2領域は該助手席用エアバッグの後面の上部である。
【0013】
本発明の一態様では、前記バルブ部材及び前記テザーは一連一体のテザーベルトを構成しており、該テザーベルトの長手方向の途中部分が前記膨出可能部の膨出方向先端側に連結されている。
【0014】
本発明の一態様では、前記膨出可能部は、前記メインバッグの側面の前部に設けられている。
【0015】
本発明の一態様では、前記膨出可能部は、前記メインバッグの前面部に設けられている。
【0016】
本発明の一態様では、前記膨出可能部は、サブバッグであり、該サブバッグは、前記メインバッグに設けられた出入口から該メインバッグ外に膨出可能である。
【0017】
本発明の一態様では、前記膨出可能部は、余剰基布部よりなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のエアバッグにあっては、車両の衝突時等にインフレータが作動し、メインバッグが膨張し、乗員がメインバッグによって受承(拘束)される。
【0019】
小柄乗員は、メインバッグの第1領域によって受承され、大柄乗員はメインバッグの第1領域及び第2領域の双方によって受承される。メインバッグが大柄乗員を受承した場合、バルブ部材は膨出可能部に引っ張られてベントホールを覆う姿勢となるので、ベントホールの開度が小さくなる。
【0020】
メインバッグが小柄乗員を受承した場合、バルブ部材は膨出可能部に引っ張られることはなく、バルブ部材はベントホールから離隔しており、ベントホールの開度が大きい。
【0021】
このように、本発明によると、乗員の体格を検知するためのセンサを用いることなく、乗員の体格の大小に応じてベントホールの開度が切り替えられる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施の形態に係るエアバッグの斜視図である。
【
図2】実施の形態に係るエアバッグの斜視図である。
【
図3】実施の形態に係るエアバッグの斜視図である。
【
図5】大柄乗員受承時のエアバッグの断面図である。
【
図6】別の実施の形態に係るエアバッグの断面図である。
【
図7】大柄乗員受承時のエアバッグの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。なお、本明細書において、前後方向はエアバッグ装置を搭載した自動車の前後方向と合致し、左右方向は該自動車の左右方向と合致する。
【0024】
図1~5に示す助手席用エアバッグ1は、メインバッグ2と、該メインバッグ2に連結されたサブバッグ3とを有する。サブバッグ3は、その入口部分の周縁部がメインバッグ2に設けられたサブバッグ出入口6の周縁部に縫合糸7によって縫着されている。
【0025】
メインバッグ2の後面が乗員を受承する乗員対向面2aとなっている。メインバッグ2には、インストルメントパネル(インパネ)4側の面に開口(図示略)が設けられ、この開口の周縁部が助手席用エアバッグ装置のリテーナ(図示略)に連結されている。リテーナに支持されたインフレータ(図示略)からのガスによってエアバッグ1が膨張する。メインバッグ2は、エアバッグ1の大部分を構成するものであり、インパネ4と助手席乗員との間に膨張し、乗員を受け止める。
【0026】
膨張した状態におけるメインバッグ2の側面にベントホール5が設けられている。
【0027】
メインバッグ2の乗員対向面2aは、下部が第1領域Iであり、上部が第2領域IIである。
図1の線分Cは、第1領域Iと第2領域IIとの境界線を示している。インパネに沿って膨張完了し、乗員を受け止めていない状態のエアバッグ1を側面から見たエアバッグ側面視において、メインバッグ2の全高をHとし、メインバッグ最低レベル部から線分Cまでの高さをhとした場合、h/Hは好ましくは0.4~0.9特に好ましくは0.5~0.7とされる。
【0028】
ベントホール5の開度を調整するために、テザーベルト8が設けられている。テザーベルト8は、一端が、第2領域IIの左右幅方向の中央付近に縫合糸9によって縫着されている。テザーベルト8の他端は、ベントホール5の近傍であって且つベントホール5よりも乗員対向面2a側に縫合糸10によって縫着されている。縫合糸10とサブバッグ出入口6とを結ぶ直線上にベントホール5が位置している。
【0029】
テザーベルト8の長手方向の途中部分が、サブバッグ3の先端部3tに縫合糸11によって縫着されている。サブバッグ3の先端部3tは、サブバッグ3がメインバッグ2の出入口6から外方に突出するように膨張完了した状態における、突出方向の先端部分である。
【0030】
テザーベルト8のうち、該途中部分よりも前記一端側、すなわち縫合糸9,11間がサブバッグ3と第2領域IIとをつなぐテザー8aである。テザーベルト8のうち、縫合糸10,11間がバルブ部材8bである。バルブ部材8bが、後述の
図5のように、ベントホール5に重なった状態となったときに、該ベントホール5と重なる位置に小ベントホール12が設けられている。バルブ部材8bの幅は、少なくともベントホール5と重なる部分においてベントホール5の直径よりも大きい。
【0031】
エアバッグ1は、サブバッグ3がメインバッグ2内に配置された状態で折り畳まれて前記リテーナ内に収容される。このエアバッグ装置を搭載した自動車が衝突すると、インフレータが作動し、該インフレータからのガスによってまずメインバッグ2がインパネ4と助手席乗員との間に膨張する。
【0032】
図4は、メインバッグ2が乗員を受承していない状態及びメインバッグ2が小柄乗員(例えばAF05)を受承した状態における
図1のIV-IV線断面を示している。この状態にあっては、メインバッグ2の乗員対向面2aの第2領域IIは、後方に向って膨らみ出した状態となっている。この状態では、テザー8aがサブバッグ3を乗員対向面2aの左右方向中央部に向けて引っ張るので、サブバッグ3はメインバッグ2内に位置している。また、バルブ部材8bはベントホール5から離隔しており、ベントホール5はバルブ部材8bによって覆われないので、大開度となっている。
【0033】
メインバッグ2が小柄乗員(例えばAF05)を拘束したときには、
図2の通り、乗員対向面2aのうち第1領域Iのみが前方に乗員によって押し込まれ、メインバッグ2内のガスがベントホール5から流出し、衝撃が吸収される。小柄乗員拘束時のメインバッグ2の内圧上昇は比較的小さいが、ベントホール5の開度が大きいので、ベントホール5からのガス流出量は十分となる。
【0034】
膨張したメインバッグ2が大柄乗員P(例えばAM50)を拘束した場合、
図3,5の通り、乗員対向面2aの第1領域及び第2領域IIの双方が押し込まれ、メインバッグ2の内圧が比較的大きく上昇する。第2領域IIも押し込まれることにより、テザー8aも前方に移動し、テザー8aの張力が小さくなる(又は消失する)。これにより、サブバッグ3はメインバッグ2内のガス圧によってサブバッグ出入口6からメインバッグ2外に膨張する。そうすると、
図5の通り、バルブ部材8bがサブバッグ3の先端部3tと縫合糸10との間でピンと張った状態となり、バルブ部材8bがベントホール5に重なり、バルブ部材8bの小ベントホール12がベントホール5に対面する。メインバッグ2内のガスが小ベントホール12からベントホール5を介してメインバッグ2外に流出することにより、大柄乗員Pの衝撃が吸収される。大柄乗員P拘束時のメインバッグ2の内圧上昇は大きいが、小ベントホール12の開口面積がベントホール5の開口面積よりも小さいので、ベントホール5からのガス流出量が制約される。
【0035】
このように、エアバッグ1によると、乗員の体格に応じてベントホール5の開度が調整される。また、このベントホール5の開度調整のためのセンサや保持装置、その制御回路等が不要であり、構成コストが安価である。
【0036】
上記エアバッグ1では、サブバッグ3はメインバッグ2の側面前部に設けられているが、
図6,7のエアバッグ1Aのように、サブバッグ3はメインバッグ2の前面部に設けられてもよい。なお、
図6は
図4に相当する断面を示し、
図7は
図5に相当する断面を示している。
図6,7のその他の構成は
図4,5と同一であり、同一符号は同一部分を示している。
【0037】
このエアバッグ1Aの場合、膨張したときにテザーヘッド8が前後方向に延在するので、バルブ部材8bが早期にベントホール5に重なる。また、このエアバッグ1Aの場合、サブバッグ3が前方に膨出するので、サブバッグ3が内装部品と干渉しにくい。
【0038】
図6,7のように略中央部にサブバッグ3を配置すると、エアバッグの左右両側にそれぞれベントホール及びテザーベルトを設けた場合でも、1個のサブバッグで左右両側のテザーベルトを引っ張ることができる。
【0039】
上記実施の形態では、テザー8aとバルブ部材8bとが一連一体となっているが、テザー8aとバルブ部材8bとは別体とされてもよい。この場合、バルブ部材8bの前端部がテザー8bの前端部に連結されてもよく、バルブ部材8bの前端部がサブバッグ3の先端部3tに連結されてもよい。
【0040】
上記実施の形態ではサブバッグ3を用いているが、メインバッグ2に、サブバッグ3に相当する余剰基布部を設け、この余剰基布部をサブバッグ3と同様に膨出する膨出可能部としてもよい。
【0041】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は上記以外の形態とされてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1,1A エアバッグ
2 メインバッグ
3 サブバッグ
4 インパネ
5 ベントホール
6 サブバッグ出入口
8 テザーベルト
8a テザー
8b バルブ部材