(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】蓄電素子の管理装置、及び、蓄電装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20220705BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20220705BHJP
H01M 10/42 20060101ALI20220705BHJP
G01R 31/36 20200101ALI20220705BHJP
B60L 3/00 20190101ALN20220705BHJP
【FI】
H01M10/48 301
H02J7/00 Y
H01M10/42 P
H01M10/48 P
G01R31/36
B60L3/00 S
(21)【出願番号】P 2018179858
(22)【出願日】2018-09-26
【審査請求日】2021-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】特許業務法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高井 誠治
【審査官】山本 香奈絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-234629(JP,A)
【文献】特開2005-037230(JP,A)
【文献】特開2016-093066(JP,A)
【文献】特開2015-115100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/48
H02J 7/00
H01M 10/42
G01R 31/36
B60L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極体が収容されているケースを有する蓄電素子の管理装置であって、
前記蓄電素子を管理するための物理量であって前記蓄電素子の膨張・収縮による前記ケースの劣化に関係する物理量を計測する計測部と、
管理部と、
を備え、
前記管理部は、
前記計測部によって計測された前記物理量に基づいて前記蓄電素子を管理する管理処理と、
前記計測部によって計測された前記物理量に基づいて前記ケースの劣化度を推定する推定処理と、
を実行し、
前記物理量は前記蓄電素子の温度であり、
前記劣化度は、前記蓄電素子の温度が第1の閾値以上になった回数と、前記第1の閾値より低い第2の閾値以下になった回数との合計値である、管理装置。
【請求項2】
電極体が収容されているケースを有する蓄電素子の管理装置であって、
前記蓄電素子を管理するための物理量であって前記蓄電素子の膨張・収縮による前記ケースの劣化に関係する物理量を計測する計測部と、
管理部と、
を備え、
前記管理部は、
前記計測部によって計測された前記物理量に基づいて前記蓄電素子を管理する管理処理と、
前記計測部によって計測された前記物理量に基づいて前記ケースの劣化度を推定する推定処理と、
を実行し、
前記物理量は前記蓄電素子の温度であり、
前記劣化度は前記蓄電素子の温度の変化量の積算値である、管理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の管理装置であって、
前記劣化度は、前記蓄電素子の温度の変化量の積算値に、温度が第3の閾値以上の状態が継続した時間を重み付け加算したものである、管理装置。
【請求項4】
電極体が収容されているケースを有する蓄電素子の管理装置であって、
前記蓄電素子を管理するための物理量であって前記蓄電素子の膨張・収縮による前記ケースの劣化に関係する物理量を計測する計測部と、
管理部と、
を備え、
前記管理部は、
前記計測部によって計測された前記物理量に基づいて前記蓄電素子を管理する管理処理と、
前記計測部によって計測された前記物理量に基づいて前記ケースの劣化度を推定する推定処理と、
を実行し、
前記物理量は前記蓄電素子の電流であり、
前記管理部は、前記管理処理において、前記計測部によって計測された電流に基づいて前記蓄電素子の充電状態を推定し、
前記劣化度は、前記管理処理で推定した前記充電状態の変化量の積算値である、管理装置。
【請求項5】
請求項4に記載の管理装置であって、
前記劣化度は、前記管理処理で推定した前記充電状態の変化量の積算値に、前記計測部によって計測された電流が第4の閾値以上である状態が継続した時間を重み付け加算したものである、管理装置。
【請求項6】
電極体が収容されているケースを有する蓄電素子の管理装置であって、
前記蓄電素子を管理するための物理量であって前記蓄電素子の膨張・収縮による前記ケースの劣化に関係する物理量を計測する計測部と、
管理部と、
を備え、
前記管理部は、
前記計測部によって計測された前記物理量に基づいて前記蓄電素子を管理する管理処理と、
前記計測部によって計測された前記物理量に基づいて前記ケースの劣化度を推定する推定処理と、
を実行し、
前記物理量は前記蓄電素子の電圧であり、
前記管理部は、前記管理処理において、前記計測部によって計測された電圧に基づいて前記蓄電素子の充電状態を推定し、
前記劣化度は、前記管理処理で推定した前記充電状態の変化量の積算値である、管理装置。
【請求項7】
請求項6に記載の管理装置であって、
前記劣化度は、前記管理処理で推定した前記充電状態の変化量の積算値に、前記計測部によって計測された電圧が第5の閾値以上である状態が継続した時間を重み付け加算したものである、管理装置。
【請求項8】
請求項4乃至請求項7のいずれか一項に記載の管理装置であって、
前記劣化度は、前記管理処理で推定した前記充電状態の変化量の積算値に、前記充電状態が第6の閾値以上の状態が継続した時間を重み付け加算したものである、管理装置。
【請求項9】
請求項2乃至請求項8のいずれか一項に記載の管理装置であって、
前記管理部は、前記推定処理において、前記変化量に当該変化量の大きさに応じた係数を乗算して積算する、管理装置。
【請求項10】
電極体が収容されているケースを有する蓄電素子と、
請求項1乃至
請求項9のいずれか一項に記載の管理装置と、
を備える蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示する技術は、蓄電素子の管理装置、蓄電装置、及び、蓄電素子の管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図11に示すように、リチウムイオン電池などの蓄電素子111は電極体が収容されているケース112が膨張・収縮を繰り返すことによってケース112が劣化し、ケース開裂が起きる可能性がある。ケース開裂は絶対に起こしてはならない事象である。
【0003】
このため、従来、ケース開裂を防止する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、特許文献1には、背景技術として、二次電池にセルの歪を検知する歪ゲージを設け、膨張収縮による二次電池セルの破損を抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-100237号公報(段落0003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の技術はケース開裂を防止するために歪ゲージを設ける必要があり、部品点数が増加する。
本明細書では、管理装置の部品点数の増加を抑制しつつケースの劣化度を推定する技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
電極体が収容されているケースを有する蓄電素子の管理装置であって、前記蓄電素子を管理するための物理量であって前記蓄電素子の膨張・収縮による前記ケースの劣化に関係する物理量を計測する計測部と、管理部と、を備え、前記管理部は、前記計測部によって計測された前記物理量に基づいて前記蓄電素子を管理する管理処理と、前記計測部によって計測された前記物理量に基づいて前記ケースの劣化度を推定する推定処理と、を実行する。
【発明の効果】
【0007】
管理装置の部品点数の増加を抑制しつつケースの劣化度を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態1に係る蓄電装置、及び、その蓄電装置が搭載されている自動車の模式図
【
図4】
図1の本体内に蓄電素子を収容した状態を示す斜視図
【
図5】
図4の蓄電素子にバスバーを装着した状態を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本実施形態の概要)
電極体が収容されているケースを有する蓄電素子の管理装置であって、前記蓄電素子を管理するための物理量であって前記蓄電素子の膨張・収縮による前記ケースの劣化に関係する物理量を計測する計測部と、管理部と、を備え、前記管理部は、前記計測部によって計測された前記物理量に基づいて前記蓄電素子を管理する管理処理と、前記計測部によって計測された前記物理量に基づいて前記ケースの劣化度を推定する推定処理と、を実行する。
【0010】
本願発明者は、ケースの劣化度を推定する方法を検討する過程において、蓄電素子を管理するために計測される種々の物理量の中に、蓄電素子の膨張・収縮によるケースの劣化に関係するものがあることを見出した。
上記の管理装置によると、蓄電素子を管理するための物理量を計測する計測部によって計測した物理量に基づいてケースの劣化度を推定するので、歪ゲージのようなケースの劣化度を推定するための専用の部品を別途備えなくてよい。言い換えると、上記の管理装置によると、蓄電素子を管理するために備えている計測部をケースの劣化度の推定に流用するので、管理装置の部品点数の増加を抑制しつつケースの劣化度を推定できる。
【0011】
前記物理量は前記蓄電素子の温度であり、前記劣化度は、前記蓄電素子の温度が第1の閾値以上になった回数と、前記第1の閾値より低い第2の閾値以下になった回数との合計値であってもよい。
【0012】
本願発明者は、ケースの劣化度を推定する方法を検討する過程において、以下の知見を得た。
蓄電素子は温度が変化すると膨張・収縮するため、蓄電素子の温度が変化するとケースが劣化する。ケースの劣化は蓄電素子の温度が第1の閾値以上になった回数や第1の閾値より低い第2の閾値以下になった回数が多いほど大きくなる。
上記の管理装置によると、劣化度は温度が第1の閾値以上になった回数と第2の閾値以下になった回数との合計値であるので、蓄電素子を管理するための温度を計測する計測部によって計測した温度に基づいてケースの劣化度を推定できる。このため、管理装置の部品点数の増加を抑制しつつケースの劣化度を推定できる。
【0013】
前記物理量は前記蓄電素子の温度であり、前記劣化度は前記蓄電素子の温度の変化量の積算値であってもよい。
【0014】
本願発明者は、ケースの劣化度を推定する方法を検討する過程において、以下の知見を得た。
蓄電素子は温度が変化すると膨張・収縮するため、蓄電素子の温度が変化するとケースが劣化する。ケースの劣化は蓄電素子の温度の変化量の積算値が大きいほど大きくなる。
上記の管理装置によると、劣化度は温度の変化量の積算値であるので、蓄電素子を管理するための温度を計測する計測部によって計測した温度に基づいてケースの劣化度を推定できる。このため、管理装置の部品点数の増加を抑制しつつケースの劣化度を推定できる。
【0015】
前記劣化度は、前記蓄電素子の温度の変化量の積算値に、温度が第3の閾値以上の状態が継続した時間を重み付け加算したものであってもよい。
【0016】
蓄電素子は温度が高い状態が継続することもある。その状態のときは温度の変化量は小さいが、ケースが膨張した状態が継続することによってケースに応力が作用し続けるので、ケースが劣化し易くなる。
上記の管理装置によると、温度が一定値以上の状態が継続した時間を重み付け加算するので、温度が一定値以上の状態が継続した場合のケースの劣化を劣化度に反映できる。これによりケースの劣化度をより精度よく推定できる。
【0017】
前記物理量は前記蓄電素子の電流であり、前記管理部は、前記管理処理において、前記計測部によって計測された電流に基づいて前記蓄電素子の充電状態を推定し、前記劣化度は、前記管理処理で推定した前記充電状態の変化量の積算値であってもよい。
【0018】
本願発明者は、ケースの劣化度を推定する方法を検討する過程において、以下の知見を得た。
蓄電素子は充電状態(SOC:State Of Charge)が変化すると膨張・収縮するため、充電状態が変化するとケースが劣化する。ケースの劣化は充電状態の変化量の積算値が大きいほど大きくなる。
上記の管理装置によると、劣化度は充電状態の変化量の積算値であるので、蓄電素子を管理するために推定した充電状態に基づいてケースの劣化度を推定できる。このため、管理装置の部品点数の増加を抑制しつつケースの劣化度を推定できる。
【0019】
前記劣化度は、前記管理処理で推定した前記充電状態の変化量の積算値に、前記計測部によって計測された電流が第4の閾値以上である状態が継続した時間を重み付け加算したものであってもよい。
【0020】
蓄電素子は過電流が流れると膨張するため、過電流が流れるとケースが劣化する。ケースの劣化は過電流が流れた時間に比例して大きくなる。上記の管理装置によると、計測部によって計測された電流が第4の閾値以上である状態(すなわち過電流が流れている状態)が継続した時間を重み付け加算するので、過電流が流れた時間をケースの劣化度に反映できる。これによりケースの劣化度をより精度よく推定できる。
【0021】
前記物理量は前記蓄電素子の電圧であり、前記管理部は、前記管理処理において、前記計測部によって計測された電圧に基づいて前記蓄電素子の充電状態を推定し、前記劣化度は、前記管理処理で推定した前記充電状態の変化量の積算値であってもよい。
【0022】
本願発明者は、ケースの劣化度を推定する方法を検討する過程において、以下の知見を得た。
蓄電素子のケースは充電状態が変化すると膨張・収縮するため、充電状態が変化するとケースが劣化する。ケースの劣化は充電状態の変化量の積算値が大きいほど大きくなる。
上記の管理装置によると、劣化度は充電状態の変化量の積算値であるので、蓄電素子を管理するために推定した充電状態に基づいてケースの劣化度を推定できる。このため、管理装置の部品点数の増加を抑制しつつケースの劣化度を推定できる。
【0023】
前記劣化度は、前記管理処理で推定した前記充電状態の変化量の積算値に、前記計測部によって計測された電圧が第5の閾値以上である状態が継続した時間を重み付け加算したものであってもよい。
【0024】
蓄電素子は過電圧になると膨張するため、過電圧になるとケースが劣化する。ケースの劣化は過電圧が継続した時間に比例して大きくなる。上記の管理装置によると、計測部によって計測された電圧が第5の閾値以上である状態(すなわち過電圧である状態)が継続した時間を重み付け加算するので、過電圧が継続した時間をケースの劣化度に反映できる。これによりケースの劣化度をより精度よく推定できる。
【0025】
前記劣化度は、前記管理処理で推定した前記充電状態の変化量の積算値に、前記充電状態が第6の閾値以上の状態が継続した時間を重み付け加算したものであってもよい。
【0026】
蓄電素子は充電状態が高い状態が継続することもある。その状態のときは充電状態の変化量は小さいが、ケースが膨張した状態が継続することによってケースに応力が作用し続けるので、ケースが劣化し易くなる。
上記の管理装置によると、充電状態が一定値以上の状態が継続した時間を重み付け加算するので、充電状態が一定値以上の状態が継続した場合のケースの劣化を劣化度に反映できる。これによりケースの劣化度をより精度よく推定できる。
【0027】
前記管理部は、前記推定処理において、前記変化量に当該変化量の大きさに応じた係数を乗算して積算してもよい。
【0028】
ケースが膨張・収縮する量は必ずしも温度の変化量や充電状態の変化量と正比例せず、それらの変化量の増大に伴って指数関数的に大きくなる場合がある。
上記の管理装置によると、温度の変化量や充電状態の変化量に当該変化量の大きさに応じた係数を乗算して積算するので、それらの変化量とケースが膨張・収縮する量との関係を反映して劣化度を推定できる。このため、それらの変化量とケースが膨張・収縮する量との関係を反映しない場合に比べてケースの劣化度を精度よく推定できる。
【0029】
互いに異なる前記物理量を計測する複数の前記計測部を有し、前記劣化度は、各前記計測部によって計測された前記物理量に基づいて個別に推定した劣化度を重み付け加算したものであってもよい。
【0030】
上記の管理装置によると、互いに異なる複数の物理量に基づいてケースの劣化度を推定するので、一つの物理量だけに基づいて推定する場合に比べてケースの劣化度を精度よく推定できる。その場合に、上記の管理装置によると、各物理量に基づいて個別に推定された劣化度を重み付け加算するので、それらの劣化度を単純に加算する場合に比べて劣化度を適切に推定できる。
【0031】
前記管理部は、前記推定処理において、前記物理量と前記蓄電素子の使用が開始された時からの経過時間とに基づいて前記劣化度を推定してもよい。
【0032】
ケースの劣化には蓄電素子の使用が開始された時からの経過時間も影響する。上記の管理装置によると、ケースの劣化度に蓄電素子の使用が開始された時からの経過時間が反映されるので、経過時間を反映しない場合に比べて劣化度をより精度よく推定できる。
【0033】
前記管理部は、前記推定処理で推定した前記劣化度が所定の条件を満たした場合は、前記蓄電素子の使用を抑制する抑制処理を実行してもよい。
【0034】
一般に蓄電素子はケース設計の安全率を高くすることによってケース開裂を防止しているため、異常な使用環境や使用期間を十分に考慮した設計が不可欠であった。このため、正常な使用環境や使用期間ではケース設計の安全率が過剰となり、重量やコストの増加を招いていた。これに対し、上記の管理装置によると、ケースの劣化度が所定の条件を満たした場合は蓄電素子の使用を抑制するので、ケース設計の安全率を過剰に高くしなくてもケース開裂が起きる可能性を低減できる。このため蓄電素子の重量やコストを低減できる。
【0035】
前記所定の条件は前記劣化度が第7の閾値以上であることであり、前記抑制処理は、前記劣化度が前記第7の閾値以上且つ第8の閾値未満の場合は外部に警告を発し、前記劣化度が前記第8の閾値以上の場合は前記蓄電素子の使用を禁止する処理であってもよい。
【0036】
上記の管理装置によると、ケースの劣化度が第7の閾値以上且つ第8の閾値未満の場合は外部に警告を発するので、外部の装置が蓄電素子の使用を抑制することにより、蓄電素子の使用を抑制できる。これにより、ケース開裂が起きる可能性を低減できる。この時点では蓄電素子の使用が禁止されないので、外部の装置は引き続き蓄電素子を使用できる。これに対し、劣化度が第8の閾値以上の場合は蓄電素子の使用を禁止するので、ケース開裂を防止できる。
【0037】
電極体が収容されているケースを有する蓄電素子と、請求項1乃至請求項14のいずれか一項に記載の管理装置と、を備える蓄電装置。
【0038】
上記の蓄電装置によると、管理装置の部品点数の増加を抑制しつつケースの劣化度を推定できる。
【0039】
電極体が収容されているケースを有する蓄電素子の管理方法であって、前記蓄電素子を管理するための物理量であって前記蓄電素子の膨張・収縮による前記ケースの劣化に関係する物理量を計測する計測部によって計測された前記物理量に基づいて前記蓄電素子を管理する管理ステップと、前記計測部によって計測された前記物理量に基づいて前記ケースの劣化度を推定する推定ステップと、を含む。
【0040】
上記の管理方法によると、管理装置の部品点数の増加を抑制しつつケースの劣化度を推定できる。
【0041】
本明細書によって開示される発明は、装置、方法、これらの装置または方法の機能を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体等の種々の態様で実現することができる。
【0042】
<一実施形態>
一実施形態を
図1ないし
図10によって説明する。
【0043】
図1を参照して、実施形態1に係る蓄電装置1について説明する。
図1において自動車2はエンジン自動車である。蓄電装置1は自動車2に搭載されてエンジンの始動に用いられる始動用の蓄電装置である。
図1では蓄電装置1がエンジンルームに収容されている場合を示しているが、蓄電装置1は居室の床下やトランクに収容されてもよい。
【0044】
(1)蓄電装置の構成
図2に示すように、蓄電装置1は外装体10(筐体の一例)と、外装体10の内部に収容される複数の蓄電素子12とを備える。外装体10は合成樹脂材料からなる本体13と蓋体14とで構成されている。本体13は有底筒状であり、平面視矩形状の底面部15とその4辺から立ち上がって筒状となる4つの側面部16とで構成される。4つの側面部16によって上端部分に上方開口部17が形成されている。
【0045】
蓋体14は平面視矩形状であり、その4辺から下方に向かって枠体18が延びている。蓋体14は本体13の上方開口部17を閉鎖する。蓋体14の上面には平面視略T字形の突出部19が形成されている。蓋体14の上面には突出部19が形成されていない2箇所のうち一方の隅部に正極外部端子20が固定され、他方の隅部に負極外部端子21が固定されている。
【0046】
蓄電素子12は繰り返し充電可能な二次電池であり、具体的には例えばリチウムイオン電池である。
図3(a)及び
図3(b)に示すように、蓄電素子12は直方体形状のケース22内に電極体23を非水電解質と共に収容したものである。ケース22はケース本体24と、その上方の開口部を閉鎖するカバー25とで構成されている。
【0047】
電極体23は、詳細については図示しないが、銅箔からなる基材に活物質を塗布した負極要素と、アルミニウム箔からなる基材に活物質を塗布した正極要素との間に多孔性の樹脂フィルムからなるセパレータを配置したものである。これらはいずれも帯状であり、セパレータに対して負極要素と正極要素とを幅方向の反対側にそれぞれ位置をずらせた状態で、ケース本体24に収容可能となるように扁平状に巻回されている。
【0048】
正極要素には正極集電体26を介して正極端子27が接続されている。負極要素には負極集電体28を介して負極端子29が接続されている。正極集電体26及び負極集電体28は平板状の台座部30と、台座部30から延びる脚部31とを有している。台座部30には貫通孔が形成されている。脚部31は正極要素又は負極要素に接続されている。正極端子27及び負極端子29は、端子本体部32と、その下面中心部分から下方に突出する軸部33とを有している。そのうち正極端子27の端子本体部32と軸部33とはアルミニウム(単一材料)によって一体成形されている。負極端子29においては、端子本体部32がアルミニウム製であり、軸部33が銅製であり、これらを組み付けたものである。正極端子27及び負極端子29の端子本体部32はカバー25の両端部に絶縁材料からなるガスケット34を介して配置され、このガスケット34から外方へ露出されている。
【0049】
図4に示すように、蓄電素子12は複数個(例えば12個)が幅方向に並設された状態で本体13内に収容されている。ここでは本体13の一端側から他端側(矢印Y1からY2方向)に向かって3つの蓄電素子12を1組として、同一組では隣り合う蓄電素子12の端子極性が同じになり、隣り合う組同士では隣り合う蓄電素子12の端子極性が逆になるように配置されている。最も矢印Y1側に位置する3つの蓄電素子12(第1組)では矢印X1側が負極、矢印X2側が正極となっている。第1組に隣接する3つの蓄電素子12(第2組)では矢印X1側が正極、矢印X2側が負極となっている。さらに第2組に隣接する第3組では第1組と同じ配置となっており、第3組に隣接する第4組では第2組と同じ配置となっている。
【0050】
図5に示すように、正極端子27及び負極端子29には導電部材としての端子用バスバー(接続部材)36~40が溶接により接続されている。第1組の矢印X2側では正極端子27群が第1バスバー36によって接続されている。第1組と第2組の間では矢印X1側で第1組の負極端子29群と第2組の正極端子27群とが第2バスバー37によって接続されている。第2組と第3組の間では矢印X2側で第2組の負極端子29群と第3組の正極端子27群とが第3バスバー38によって接続されている。第3組と第4組の間では、矢印X1側で第3組の負極端子29群と第4組の正極端子27群とが第4バスバー39によって接続されている。第4組の矢印X2側では、負極端子29群が第5バスバー40によって接続されている。
【0051】
図2を併せて参照すると、電気の流れの一端に位置する第1バスバー36は第1の電子機器42A(例えばヒューズ)、第2の電子機器42B(例えばリレー54)、バスバー43及びバスバーターミナル(図示せず)を介して正極外部端子20に接続されている。電気の流れの他端に位置する第5バスバー40はバスバー44A,44B及び負極バスバーターミナル(図示せず)を介して負極外部端子21に接続されている。これによりそれぞれの蓄電素子12は正極外部端子20及び負極外部端子21を介して充電と放電とが可能になっている。電子機器42A,42Bと電気部品接続用バスバー43、44A及び44Bとは、積層配置した複数の蓄電素子12の上部に配置された回路基板ユニット41に取り付けられている。バスバーターミナルは、蓋体14に配置されている。
【0052】
(2)蓄電装置の電気的構成
図6に示すように、蓄電装置1は前述した複数の蓄電素子12と、それらの蓄電素子12を管理するBMS(Battery Management System)50とを備えている。BMS50は管理装置の一例である。
【0053】
BMS50は電流センサ51(計測部の一例)、電圧センサ52(計測部の一例)、温度センサ53(計測部の一例)、リレー54、及び、管理部55を備えている。
電流センサ51は蓄電素子12と直列に接続されている。電流センサ51は蓄電素子12の充放電電流を計測して管理部55に出力する。
【0054】
電圧センサ52は各蓄電素子12に並列に接続されている。電圧センサ52は各蓄電素子12の端子電圧(以下、単に電圧という)を計測して管理部55に出力する。
一般に回路が閉じているときの電圧を閉路電圧(CCV:Closed Circuit Voltage)といい、回路が開放されているときの電圧を開路電圧(OCV: Open Circuit Voltage)という。しかしながら、便宜上、以降の説明では蓄電素子12の充放電電流が微小な基準値より大きいときの電圧のことを閉路電圧(CCV)といい、充放電電流が当該基準値以下のときの電圧のことを開路電圧(OCV)という。
【0055】
温度センサ53はいずれか一つの蓄電素子12に設けられている。温度センサ53はその蓄電素子12の温度を計測して管理部55に出力する。温度センサ53は2以上の蓄電素子12にそれぞれ設けられてもよい。
温度センサ53は蓄電素子12に接触していてもよいし、近接していてもよい。ただし、温度センサ53が蓄電素子12に接触していないと温度の伝達が遅くなるため、外部の温度の影響を受け易くなり、ケース22の劣化度の推定精度が悪化する。このため、温度センサ53は蓄電素子12に接触していた方が好ましい。
【0056】
上述した電流、電圧及び温度は蓄電素子を管理するための物理量であって蓄電素子の膨張・収縮によるケース22の劣化に関係する物理量の一例である。
【0057】
リレー54は蓄電素子12と直列に接続されている。リレー54は蓄電素子12を過充電や過放電から保護するためのものであり、管理部55によって開閉される。詳しくは後述するが、リレー54はケース開裂を防止するためにも用いられる。
【0058】
管理部55はCPU55B、ROM55C、RAM55Dなどが1チップ化されたマイクロコンピュータ55A(所謂マイコン)、通信部55Eなどを備えている。これらは
図2に示す回路基板ユニット41に実装されている。ROM55Cには管理プログラムや各種のデータが記憶されている。管理部55はROM55Cに記憶されている管理プログラムを実行することによって後述する管理処理、推定処理、抑制処理などの各種の処理を実行する。通信部55EはCPU55Bが自動車2側のシステム(例えばECU:Engine Control Unit)と通信するためのインタフェースである。
【0059】
(3)管理処理、推定処理及び抑制処理
管理部55によって実行される管理処理、推定処理及び抑制処理について説明する。
【0060】
(3-1)管理処理
管理処理は、温度センサ53及び電流センサ51によって計測された温度及び電流に基づいて蓄電素子12を管理する処理である。
図7を参照して、温度に基づく管理について説明する。管理部55は温度センサ53によって所定時間間隔(時系列)で蓄電素子12の温度を計測し、計測した温度が正常な範囲内であるか否かを判断する。管理部55は、温度が正常な範囲内でない場合は所定の処理を実行する。所定の処理は、例えば自動車2側のシステムにアラーム信号を送信する処理や、リレー54を開いて蓄電素子12の使用を禁止する処理などである。所定の処理はこれらに限定されるものではなく、適宜に決定できる。
【0061】
図8を参照して、電流に基づく管理について説明する。ここでは先ず、電流積算法による蓄電素子12の充電状態(SOC:State Of Charge)の推定について説明する。電流積算法は、電流センサ51によって蓄電素子12の充放電電流を所定時間間隔(時系列)で計測することで蓄電素子12に出入りする電力量を計測し、これを初期容量から加減することでSOCを推定する方法である。
【0062】
電流積算法は蓄電素子12の使用中でもSOCを推定できるという利点がある反面、常に電流を計測して充放電電力量を積算するので電流センサ51の計測誤差が累積して次第に不正確になる可能性がある。このため、電流積算法によって推定したSOCを蓄電素子12の開放電圧(OCV)に基づいてリセットしてもよい。具体的には、OCVとSOCとの間には比較的精度の良い相関関係がある。このため、OCVからSOCを推定し、電流積算法によって推定したSOCを、OCVから推定したSOCでリセットしてもよい。
【0063】
管理部55は電流積算法によって蓄電素子12のSOCを推定し、推定したSOCが所定の上限値以上である場合又は所定の下限値以下である場合は、リレー54を開いて蓄電素子12を過充電や過放電から保護する。
【0064】
(3-2)推定処理
推定処理は、温度センサ53及び電流センサ51によって計測された温度及び電流に基づいてケース22の劣化度を推定する処理である。
図7を参照して、温度に基づく劣化度の推定について説明する。
図7に示すように、蓄電素子12の温度は時間と伴に変動する。ここでは温度の極小値とその直後の極大値との差の絶対値、及び、温度の極大値とその直後の極小値との差の絶対値のことをそれぞれ温度の変化量という。温度の変化量は前回計測された温度と今回計測された温度との差の絶対値であってもよい。
【0065】
蓄電素子12のケース22は温度が変化すると膨張・収縮するため、温度が変化するとケース22が劣化する。このため、温度の変化量の積算値が大きいほどケース22の劣化度が大きくなる。このため、管理部55は前述した管理処理で計測した温度の変化量を積算することによってケース22の劣化度を推定する。
【0066】
ただし、ケース22が膨張・収縮する量は必ずしも温度の変化量と正比例せず、温度の変化量の増大に伴って指数関数的に大きくなる場合がある。例えば、温度の変化量が1℃のときにケース22が膨張・収縮する量を仮に0.1mmとした場合、温度の変化量が2℃のときにケース22が膨張・収縮する量は単純に2倍(=2℃/1℃)とはならず、0.22mmなどのように0.1mmを2倍した値より大きくなる。
【0067】
このため、管理部55は温度の変化量とケース22が膨張・収縮する量との関係を反映して劣化度を推定する。具体的には、
図9に示すように、ROM55Cには温度の変化量と係数とが対応付けられている温度係数テーブルが記憶されている。管理部55は温度の変化量に当該変化量に応じた係数を乗算し、係数を乗算した変化量を積算する。
【0068】
図8を参照して、SOCに基づく劣化度の推定について説明する。
図8に示すように、SOCは時間と伴に変動する。ここではSOCの極小値とその直後の極大値との差の絶対値、及び、SOCの極大値とその直後の極小値との差の絶対値のことをそれぞれSOCの変化量という。SOCの変化量は前回推定したSOCと今回推定したSOCとの差の絶対値であってもよい。
【0069】
蓄電素子12のケース22はSOCが変化すると膨張・収縮するため、SOCが変化するとケース22が劣化する。このため、SOCの変化量の積算値が大きいほどケース22の劣化度が大きくなる。このため、管理部55は前述した管理処理で推定したSOCの変化量を積算することによってケース22の劣化度を推定する。
【0070】
ただし、温度の場合と同様にケース22が膨張・収縮する量は必ずしもSOCの変化量と正比例せず、SOCの変化量の増大に伴って指数関数的に大きくなる場合がある。このため、ROM55CにはSOCの変化量と係数とが対応付けられているSOC係数テーブル(図示せず)が記憶されている。管理部55はSOCの変化量に当該変化量に応じた係数を乗算し、係数を乗算した変化量を積算する。
【0071】
管理部55は温度に基づいて推定した劣化度とSOCに基づいて推定した劣化度とを加算することによって蓄電素子12の劣化度を推定する。ただし、温度とSOCとでは単位が異なるのでそのままでは加算できない。このため、管理部55は温度に基づいて推定した劣化度とSOCに基づいて推定した劣化度とを重み付け加算する。
【0072】
例えば、温度の変化量が1℃のときにケース22が膨張・収縮する量が0.1mmであり、SOCの変化量が10%のときにケース22が膨張・収縮する量が0.1mmであるとする。この場合、ケース22の劣化度で見ると、1℃の温度変化は10%のSOC変化に相当する。このため、以下の式1に示すように、管理部55は温度に基づいて推定した劣化度を10倍して加算する。10倍は一例であり、温度とSOCとの重み付けは適宜に決定できる。
【0073】
劣化度=温度に基づいて推定した劣化度×10+SOCに基づいて推定した劣化度 ・・・ 式1
【0074】
(3-3)抑制処理
図10を参照して、抑制処理について説明する。
図10において過剰設計値は従来のケースにおいてケース開裂が起きる劣化度を示しており、適正設計値はケース22においてケース開裂が起きる劣化度を示している。
【0075】
抑制処理は、推定処理で推定した劣化度が所定の条件を満たした場合に蓄電素子12の使用を抑制する処理である。ここでは所定の条件として「劣化度がアラーム閾値以上であること」を例に説明する。アラーム閾値は第7の閾値の一例である。
具体的には、管理部55は、推定処理によって劣化度を推定する毎に、推定した劣化度がアラーム閾値以上であるか否かを判断する。劣化度がアラーム閾値以上である場合は、管理部55は劣化度が使用禁止閾値(第8の閾値の一例)以上であるか否かを判断する。使用禁止閾値はアラーム閾値より大きく、適正設計値より小さい値である。
【0076】
管理部55は、劣化度が使用禁止閾値未満の場合(すなわちアラーム閾値以上、且つ、使用禁止閾値未満の場合)は自動車2側のシステムにアラーム信号を送信する。アラーム信号を送信すると、システムが蓄電素子12の使用を抑制することにより、蓄電素子12の使用が抑制される。これに対し、劣化度が使用禁止閾値以上の場合は、管理部55はリレー54を開くことによって蓄電素子12の使用を禁止する。これによりケース開裂が防止される。
【0077】
(4)実施形態の効果
BMS50によると、蓄電素子12を管理するための物理量(温度及び電流)を計測する計測部(温度センサ53及び電流センサ51)によって計測した物理量に基づいてケース22の劣化度を推定するので、歪ゲージのようなケース22の劣化度を推定するための専用の部品を別途備えなくてよい。言い換えると、BMS50によると、蓄電素子12を管理するために備えている計測部をケース22の劣化度の推定に流用するので、BMS50の部品点数の増加を抑制しつつケース22の劣化度を推定できる。
【0078】
BMS50によると、劣化度は温度の変化量の積算値であるので、蓄電素子12を管理するための温度を計測する計測部(温度センサ53)によって計測した温度に基づいてケース22の劣化度を推定できる。このため、BMS50の部品点数の増加を抑制しつつケース22の劣化度を推定できる。
【0079】
BMS50によると、劣化度はSOCの変化量の積算値であるので、蓄電素子12を管理するために推定したSOCに基づいてケース22の劣化度を推定できる。このため、BMS50の部品点数の増加を抑制しつつケース22の劣化度を推定できる。
【0080】
BMS50によると、温度の変化量やSOCの変化量に当該変化量の大きさに応じた係数を乗算して積算するので、それらの変化量とケース22が膨張・収縮する量との関係を反映して劣化度を推定できる。このため、それらの変化量とケース22が膨張・収縮する量との関係を反映しない場合に比べてケース22の劣化度を精度よく推定できる。
【0081】
BMS50によると、互いに異なる複数の物理量(温度及び電流)に基づいてケース22の劣化度を推定するので、一つの物理量だけを用いて推定する場合に比べてケース22の劣化度を精度よく推定できる。その場合に、BMS50によると、各物理量に基づいて個別に推定された劣化度を重み付け加算するので、それらの劣化度を単純に加算する場合に比べて劣化度を適切に推定できる。
【0082】
BMS50によると、ケース22の劣化度が所定の条件を満たした場合は蓄電素子12の使用を抑制するので、ケース設計の安全率を過剰に高くしなくてもケース開裂が起きる可能性を低減できる。このため蓄電素子12の重量やコストを低減できる。
具体的には、従来はケース開裂が起きる劣化度の設計値が過剰(
図10に示す過剰設計値)になっていた。これに対し、BMS50によると、ケース22の劣化度が所定の条件を満たした場合は蓄電素子12の使用を抑制するので、ケース開裂が起きる劣化度の設計値を従来に比べて小さくすることができる(
図10に示す適正設計値)。このため蓄電素子12の重量やコストを低減できる。
【0083】
BMS50によると、ケース22の劣化度がアラーム閾値以上且つ使用禁止閾値未満の場合は自動車2側のシステムにアラーム信号を送信するので、システムが蓄電素子12の使用を抑制することにより、蓄電素子12の使用を抑制できる。これにより、ケース開裂が起きる可能性を低減できる。この時点では蓄電素子12の使用が禁止されないので、システムは引き続き蓄電素子12を使用できる。これに対し、劣化度が使用禁止閾値以上の場合は蓄電素子12の使用を禁止するので、ケース開裂を防止できる。
【0084】
<実施形態2>
実施形態2は実施形態1の変形例である。前述した実施形態1では電流に基づいてSOCを推定するが、実施形態2では開放電圧(OCV)に基づいてSOCを推定する。
具体的には、前述したようにOCVとSOCとの間には比較的精度の良い相関関係がある。このため、実施形態2では蓄電素子12のOCVとSOCとの相関関係を表すデータがROM55Cに記憶されている。管理部55はOCVを計測し、計測したOCVに対応するSOCを当該データから特定することによってSOCを推定する。
【0085】
実施形態2に係るBMS50によると、劣化度はSOCの変化量の積算値であるので、蓄電素子12を管理するために推定したSOCに基づいてケース22の劣化度を推定できる。このため、BMS50の部品点数の増加を抑制しつつケース22の劣化度を推定できる。
【0086】
<実施形態3>
実施形態3は実施形態1又は実施形態2の変形例である。ケース22の劣化には蓄電素子12の使用が開始された時からの経過時間も影響する。このため、実施形態3では温度や電流などの物理量と、蓄電素子12の使用が開始された時からの経過時間とに基づいて劣化度を推定する。
【0087】
具体的には、管理部55は、温度やSOCから推定した劣化度を重み付け加算するとき、蓄電素子12の使用が開始された時からの経過時間も重み付け加算する。
【0088】
実施形態3に係るBMS50によると、ケース22の劣化度に蓄電素子12の使用が開始された時からの経過時間が反映されるので、経過時間を反映しない場合に比べて劣化度をより精度よく推定できる。
【0089】
<他の実施形態>
本明細書によって開示される技術は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本明細書によって開示される技術的範囲に含まれる。
【0090】
(1)上記実施形態では複数の物理量(温度、電流及び電圧)に基づいてケース22の劣化度を推定する場合を例に説明したが、一つの物理量だけに基づいて劣化度を推定してもよい。
【0091】
(2)上記実施形態では電流や電圧に基づいて推定したSOCに基づいてケース22の劣化度を推定する場合を例に説明したが、電流や電圧自体に基づいて劣化度を推定してもよい。
例えば、過電流が流れるとケース22が膨張するので、計測された電流が所定値(第4の閾値の一例)以上である状態が継続した時間を重み付け加算してもよい。このようにすると過電流によるケース22の劣化が劣化度に反映されるので、ケース22の劣化度をより精度よく推定できる。
過電圧についても同様であり、計測された電圧(CCVあるいはOCV)が所定値(第5の閾値の一例)以上である状態が継続した時間を重み付け加算してもよい。
【0092】
(3)温度が所定値(第3の閾値の一例)以上の状態が継続した時間、あるいはSOCが所定値(第6の閾値の一例)以上の状態が継続した時間を考慮して劣化度を推定してもよい。
例えば、温度が高い状態が継続することもある。その状態のときは温度の変化量は小さいが、ケース22が膨張した状態が継続することによってケース22に応力が作用し続けるので、ケース22が劣化し易くなる。このため、温度が所定値以上の状態が継続した時間を重み付け加算してもよい。このようにすると温度が所定値以上の状態が継続した場合のケース22の劣化を劣化度に反映できるので、ケース22の劣化度をより精度よく推定できる。SOCについても同様である。
【0093】
(4)上記実施形態では温度に基づいて劣化度を推定する例として蓄電素子12の温度の変化量の積算値を例に説明したが、温度に基づく劣化度の推定はこれに限られない。例えば、ケース22の劣化度は蓄電素子12の温度が80℃(第1の閾値の一例)以上になった回数や0℃(第2の閾値の一例)以下になった回数が多いほど大きくなる。このため、劣化度は蓄電素子12の温度が80℃以上になった回数と0℃以下になった回数との合計値であってもよい。
【0094】
(5)上記実施形態では、蓄電素子12の使用を抑制する抑制処理として、劣化度がアラーム閾値以上且つ使用禁止閾値未満の場合は自動車2側のシステムにアラーム信号を送信し、劣化度が使用禁止閾値以上の場合は蓄電素子12の使用を禁止する場合を例に説明した。しかしながら、抑制処理はこれに限られない。
【0095】
例えば、抑制処理はアラーム信号を送信する処理、及び、蓄電素子12の使用を禁止する処理のいずれか一方でもよい。
【0096】
抑制処理は劣化度に応じてSOCの使用範囲を制限する処理でもよい。例えば、SOCの使用範囲が0%~100%である場合に、劣化度が閾値以上のときはSOCの使用範囲を30%~70%に制限するようシステムに通知してもよい。
【0097】
抑制処理は劣化度に応じて電流範囲を制限する処理でもよい。例えば、使用可能な電流範囲が-1000A~300Aである場合に、劣化度が閾値以上のときは電流範囲を-500A~200Aに制限するようシステムに通知してもよい。
【0098】
抑制処理は劣化度に応じて閉路電圧(CCV)の最大電圧を制限する処理でもよい。例えば、最大電圧が14.0Vである場合に、劣化度が閾値以上のときは最大電圧を13.5Vに制限するようシステムに通知してもよい。
【0099】
抑制処理は劣化度に応じて最低電圧を制限する処理でもよい。例えば、最低電圧が10.0Vである場合に、劣化度が閾値以上のときは最低電圧を11.0Vに制限するようシステムに通知してもよい。
【0100】
自動車2が蓄電素子12を冷却する冷却機能を有している場合は、抑制処理は劣化度に応じて温度を制限する処理でもよい。例えば、使用可能な温度範囲が-40℃~65℃である場合に、劣化度が閾値以上のときは蓄電素子12の温度を-30℃~55℃に維持するようシステムに通知してもよい。
【0101】
抑制処理は蓄電素子12の交換を促すメッセージ信号をシステムに送信する処理でもよい。例えば、「1週間以内に自動車2のディーラーで蓄電素子12を交換して下さい」というメッセージ信号をシステムに送信してもよい。
【0102】
(6)上記実施形態では所定の条件として「劣化度がアラーム閾値以上であること」を例に説明したが、所定の条件はこれに限られない。例えば、劣化していないケース22の劣化度を100とし、温度やSOCが変化する毎にその変化量を劣化度から減算してもよい。そして、劣化度が閾値(例えば10)以下になった場合に抑制処理を実行してもよい。この場合、所定の条件は「劣化度が閾値以下であること」になる。
【0103】
(7)上記実施形態では自動車2のエンジンを始動するための始動用の蓄電素子12を例に説明したが、蓄電素子12の用途は始動用に限定されない。
【0104】
例えば、蓄電素子12は電気自動車やハイブリッド自動車などに搭載されて補機類(ヘッドライト、エアコン、オーディオ、ドアのロック機構など)に電力を供給する補機用であってもよい。一般に補機用は始動用に比べてSOCの変化が小さいが、温度は始動用と同様に変化するので、主に温度に基づいて劣化度を推定できる。
【0105】
蓄電装置1は自動車に搭載されるものに限定されない。例えば、蓄電装置1は電気モータで走行するフォークリフトや無人搬送車(AGV:Automatic Guided Vehicle)などに搭載されて電気モータに電力を供給する移動体用であってもよい。一般に移動体用はSOCが0%~100%の範囲で大きく変化するので、温度やSOCに基づいてケース22の劣化度を推定できる。
【0106】
蓄電素子12は屋外に設置される無停電電源装置(UPS:Uninterruptible Power Supply)に設けられるUPS用であってもよい。一般にUPSはSOCがほぼ100%に維持される上、屋内に設置されるUPSの場合は温度変化も小さいのでケース22の劣化は小さい。これに対し、屋外に設置されるUPSは、SOCの変化は小さいが、温度変化は大きいので、主に温度に基づいて劣化度を推定できる。
【0107】
(8)上記実施形態では蓄電素子としてリチウムイオン電池を例に説明したが、蓄電素子はこれに限られない。例えば蓄電素子は電気化学反応を伴うキャパシタであってもよい。
【符号の説明】
【0108】
12…蓄電素子、22…ケース、23…電極体、50…BMS(管理装置の一例)、51…電流センサ(計測部の一例)、52…電圧センサ(計測部の一例)、53…温度センサ(計測部の一例)、55…管理部