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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/26 20160101AFI20220705BHJP
   H02P 25/026 20160101ALI20220705BHJP
【FI】
H02P21/26
H02P25/026
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018180125
(22)【出願日】2018-09-26
(65)【公開番号】P2020054086
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】高橋 淳
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/108356(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/43536(WO,A1)
【文献】特開2009-46005(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/233926(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/26
H02P 25/026
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベクトル制御の回転座標のd軸の方向の電流指令値であるd軸指令電流、及び、前記回転座標のq軸の方向の電流指令値であるq軸指令電流を基にブラシレスモータを駆動させるモータ制御装置において、
電源からの給電によって前記ブラシレスモータに流れる電流を取得する電流取得部と、
前記電源から前記ブラシレスモータに印加される電源電圧を取得する電圧取得部と、
前記d軸指令電流及び前記q軸指令電流を決定する指令電流決定部と、を備え、
前記指令電流決定部は、前記d軸の方向の電圧成分及び前記q軸の方向の電圧成分を含む電圧ベクトルと、前記ブラシレスモータに流れる電流から得られる前記d軸の方向の電流成分及び前記q軸の方向の電流成分を含む電流ベクトルとの内積に基づいた前記d軸と前記q軸との電流特性である電力制限円、及び、前記電源電圧及び前記ブラシレスモータの角速度に基づいた前記d軸と前記q軸との電流特性である電圧制限円を基に、前記d軸指令電流及び前記q軸指令電流を決定する
ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記指令電流決定部は、前記電圧制限円と前記電力制限円とが交差するときには、前記電圧制限円と前記電力制限円との交点を基に前記d軸指令電流及び前記q軸指令電流を決定する
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記指令電流決定部は、
前記電圧制限円と前記電力制限円とを基に、前記ブラシレスモータに対するトルクの制限値である制限トルクを導出する制限トルク導出部と、
前記制限トルクを超えない範囲で指令トルクを導出する指令トルク導出部と、
前記指令トルクを基に、前記d軸指令電流及び前記q軸指令電流を導出する指令電流導出部と、を有する
請求項1又は請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記ブラシレスモータのロータの回転速度を取得する回転速度取得部を備え、
前記指令トルク導出部は、
前記ロータの回転速度の指令値と、前記ロータの回転速度とに基づいたフィードバック制御によって補正トルクを算出し、
前記ブラシレスモータの負荷トルクと前記補正トルクとの和と、前記制限トルクとのうちの小さい方の値を前記指令トルクとする
請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記ブラシレスモータのロータの回転速度を取得する回転速度取得部を備え、
前記指令電流決定部は、前記ロータの回転速度と、前記指令トルクと、前記電源電圧と、前記d軸指令電流及び前記q軸指令電流との関係を示すマップを記憶するマップ記憶部を有し、
前記指令電流導出部は、前記マップを用い、前記指令トルク、前記ロータの回転速度、及び前記電源電圧を基に、前記d軸指令電流及び前記q軸指令電流を導出する
請求項3又は請求項4に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスモータを制御するモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ベクトル制御によってブラシレスモータを駆動させるモータ制御装置が知られている。ベクトル制御では、回転座標のd軸の方向の電流指令値であるd軸指令電流と、q軸の方向の電流指令値であるq軸指令電流とが算出される。そして、d軸指令電流とq軸指令電流とに基づいたインバータの制御を通じてブラシレスモータが駆動される。
【0003】
例えば特許文献1では、ブラシレスモータへの入力電力と、ブラシレスモータを流れた電流とに基づいたd軸とq軸との電流特性から定まる電力制限円を越えないように、d軸指令電流が算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-17909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ブラシレスモータの角速度によっては、電力制限円を超えないように算出したd軸指令電流及びq軸指令電流に基づいてブラシレスモータを制御しても、d軸の方向に流れる電流成分を示すd軸電流がd軸指令電流から乖離したり、q軸の方向に流れる電流成分を示すq軸電流がq軸指令電流から乖離したりすることがある。この場合、ブラシレスモータの出力トルクが要求トルクを下回ったり、ロータの回転速度が回転速度の要求値を下回ったりするおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためのモータ制御装置は、ベクトル制御の回転座標のd軸の方向の電流指令値であるd軸指令電流、及び、回転座標のq軸の方向の電流指令値であるq軸指令電流を基にブラシレスモータを駆動させる装置である。このモータ制御装置は、電源からの給電によってブラシレスモータに流れる電流を取得する電流取得部と、電源からブラシレスモータに印加される電源電圧を取得する電圧取得部と、d軸指令電流及びq軸指令電流を決定する指令電流決定部と、を備えている。指令電流決定部は、d軸の方向の電圧成分及びq軸の方向の電圧成分を含む電圧ベクトルと、ブラシレスモータに流れる電流から得られるd軸の方向の電流成分及びq軸の方向の電流成分を含む電流ベクトルとの内積に基づいたd軸とq軸との電流特性である電力制限円、及び、電源電圧及びブラシレスモータの角速度に基づいたd軸とq軸との電流特性である電圧制限円を基に、d軸指令電流及びq軸指令電流を決定する。
【0007】
電源電圧がある値で保持されていてもブラシレスモータの角速度が変化すると、電圧制限円の大きさは変わってしまう。電力制限円を超えないように算出されたd軸指令電流及びq軸指令電流を基にブラシレスモータを制御する場合であっても、回転座標で、d軸指令電流及びq軸指令電流を表す点が電圧制限円の外に位置する場合、d軸の方向に流れる電流成分を示すd軸電流がd軸指令電流から乖離したり、q軸の方向に流れる電流成分を示すq軸電流がq軸指令電流から乖離したりするおそれがある。
【0008】
この点、上記構成によれば、電力制限円だけではなく、角速度によっても変化する電圧制限円をも考慮してd軸指令電流及びq軸指令電流が決定される。そのため、回転座標上で、d軸指令電流及びq軸指令電流を表す点を、電力制限円内及び電圧制限円内の双方に収めることができる。そして、こうしたd軸指令電流及びq軸指令電流を基にブラシレスモータを駆動させることにより、d軸電流がd軸指令電流から乖離しにくいとともに、q軸電流がq軸指令電流から乖離しにくくなる。したがって、ブラシレスモータの制御性の低下を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態のモータ制御装置と、同モータ制御装置によって制御されるブラシレスモータとを示す概略構成図。
図2】指令トルクを導出する際に実行される処理ルーチンを説明するフローチャート。
図3】(a),(b)は、第1のマップを説明するグラフ。
図4】(a),(b)は、第2のマップを説明するグラフ。
図5】各種の制限円及び最大トルク曲線を示すグラフ。
図6】ロータ回転数が低い場合における各種の制限円及び最大トルク曲線の位置関係の一例を示すグラフ。
図7】ロータ回転数が高い場合における各種の制限円及び最大トルク曲線の位置関係の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、モータ制御装置の一実施形態を図1図7に従って説明する。
図1には、本実施形態のモータ制御装置10と、モータ制御装置10によって制御されるブラシレスモータ100とが図示されている。ブラシレスモータ100は、車載のブレーキ装置におけるブレーキ液の吐出用の動力源として用いられる。ブラシレスモータ100は、永久磁石埋込型同期モータである。ブラシレスモータ100は、複数の相(U相、V相及びW相)のコイルと、突極性を有するロータ105とを備えている。ロータ105としては、例えば、N極とS極とが一極ずつ着磁されている2極ロータを挙げることができる。
【0011】
モータ制御装置10は、ベクトル制御によってブラシレスモータ100を駆動させる。このようなモータ制御装置10は、指令電流決定部13、指令電圧算出部14、2相/3相変換部15、インバータ16、3相/2相変換部17、回転速度取得部18及び回転角取得部19を有している。また、モータ制御装置10は、バッテリ200の状態を監視するバッテリ制御部210から情報が入力される電圧取得部11及び電流取得部12を有している。電圧取得部11は、入力された情報を基に、バッテリ200の電圧である電源電圧Vdcを取得する。この電源電圧Vdcは、インバータ16を通じてブラシレスモータ100に印加できる電圧である。
【0012】
電流取得部12は、バッテリ制御部210から入力された情報を基に、バッテリ200からインバータ16を介してブラシレスモータ100に流すことのできる電流の上限である制限電流ILdcを取得する。制限電流ILdcとは、バッテリ制御部210で決められた値である。
【0013】
なお、バッテリ200は、ブレーキ装置以外の他の車載アクチュエータの電源としても機能する。バッテリ200から他の車載アクチュエータへの給電量が多い状況下では、バッテリ制御部210は、バッテリ200からブラシレスモータ100に供給できる電力量が少ないと判断する。そのため、バッテリ制御部210は、バッテリ200から車載の各種のアクチュエータへの電力の供給態様を基に、ブラシレスモータ100に対する制限電流ILdcを決める。
【0014】
指令電流決定部13は、詳しくは後述するが、ベクトル制御の回転座標におけるd軸の方向の電流成分の指令値であるd軸指令電流Id*と、回転座標におけるq軸の方向の電流成分の指令値であるq軸指令電流Iq*とを決定する。d軸及びq軸は、回転座標上で互いに直交している。
【0015】
指令電圧算出部14は、d軸指令電流Id*と、d軸電流Idとに基づいたフィードバック制御によって、d軸指令電圧Vd*を算出する。d軸電流Idとは、ブラシレスモータ100への給電によって回転座標上で発生した電流ベクトルのうちの推定d軸の方向の電流成分を示す値である。また、指令電圧算出部14は、q軸指令電流Iq*と、q軸電流Iqとに基づいたフィードバック制御によって、q軸指令電圧Vq*を算出する。q軸電流Iqとは、ブラシレスモータ100への給電によって回転座標上で発生した電流ベクトルのうちの推定q軸の方向の電流成分を示す値である。
【0016】
なお、推定d軸とは、回転座標のd軸と推定される軸のことである。回転座標の実際のd軸のことを実d軸という。また、回転座標の実際のq軸のことを実q軸といい、回転座標のq軸と推定される軸のことを推定q軸という。
【0017】
2相/3相変換部15は、ロータ105の回転角であるロータ回転角θを基に、d軸指令電圧Vd*及びq軸指令電圧Vq*を、U相指令電圧VU*と、V相指令電圧VV*と、W相指令電圧VW*とに変換する。U相指令電圧VU*は、U相のコイルに印加する電圧の指令値である。V相指令電圧VV*は、V相のコイルに印加する電圧の指令値である。W相指令電圧VW*は、W相のコイルに印加する電圧の指令値である。
【0018】
インバータ16は、バッテリ200から供給される電力によって動作する複数のスイッチング素子を有している。インバータ16は、2相/3相変換部15から入力されたU相指令電圧VU*と、スイッチング素子のオン/オフ動作によってU相信号を生成する。また、インバータ16は、入力されたV相指令電圧VV*と、スイッチング素子のオン/オフ動作によってV相信号を生成する。また、インバータ16は、入力されたW相指令電圧VW*と、スイッチング素子のオン/オフ動作によってW相信号を生成する。すると、U相信号がブラシレスモータ100のU相のコイルに入力され、V相信号がV相のコイルに入力され、W相信号がW相のコイルに入力される。
【0019】
3相/2相変換部17には、ブラシレスモータ100のU相のコイルに流れた電流であるU相電流IUが入力され、V相のコイルに流れた電流であるV相電流IVが入力され、W相のコイルに流れた電流であるW相電流IWが入力される。そして、3相/2相変換部17は、ロータ回転角θを基に、U相電流IU、V相電流IV及びW相電流IWを、d軸の方向の電流成分であるd軸電流Id及びq軸の方向の電流成分であるq軸電流Iqに変換する。
【0020】
回転速度取得部18は、ロータ105の回転速度であるロータ回転数Vmtを取得する。ロータ回転数Vmtの取得方法としては、例えば、誘起電圧方式を挙げることができる。この場合、回転速度取得部18は、d軸指令電圧Vd*及びq軸指令電圧Vq*と、d軸電流Id及びq軸電流Iqとを基に、実d軸の向きと推定d軸の向きとの位相差Δθを算出する。そして、回転速度取得部18は、算出した位相差Δθを比例積分することにより、ロータ105の回転速度としてロータ回転数Vmtを求める。
【0021】
回転角取得部19は、ロータ回転角θを取得する。例えば、回転角取得部19は、ロータ回転数Vmtを積分することにより、ロータ回転角θを求める。
次に、図1及び図2を参照し、指令電流決定部13について詳述する。
【0022】
図1に示すように、指令電流決定部13は、制限トルク導出部31と、指令トルク導出部32と、第2の記憶部33と、指令電流導出部34とを有している。
制限トルク導出部31は、電圧取得部11によって取得された電源電圧Vdcと、電流取得部12によって取得された制限電流ILdcと、回転速度取得部18によって取得されたロータ回転数Vmtとを基に、ブラシレスモータ100に対するトルクの制限値である制限トルクTRLmを導出する。本実施形態では、制限トルク導出部31は、第1の記憶部31aに記憶されている第1のマップを用い、電源電圧Vdc、制限電流ILdc及びロータ回転数Vmtに基づいた値を制限トルクTRLmとして導出する。なお、第1のマップについては後述する。
【0023】
指令トルク導出部32は、ブラシレスモータ100に対するトルクの指令値である指令トルクTR*を導出する。すなわち、指令トルク導出部32は、ブラシレスモータ100の負荷トルクの推定値TRLdと、ロータ回転数の指令値である指令回転数Vmt*と、回転速度取得部18によって取得されたロータ回転数Vmtと、制限トルク導出部31によって導出された制限トルクTRLmとを基に、指令トルクTR*を導出する。
【0024】
ここで、ブラシレスモータ100の負荷は、例えばブレーキ装置内を循環するブレーキ液の粘度が高いほど大きくなりやすい。ブレーキ液の温度が高いほどブレーキ液の粘度が低くなりやすい。そのため、負荷トルクの推定値TRLdは、ブレーキ液の温度が高いほど小さくなる。
【0025】
図2を参照し、指令トルクTR*を導出する際に指令トルク導出部32が実行する処理ルーチンについて説明する。この処理ルーチンは、所定の制御サイクル毎に実行される。
本処理ルーチンにおいて、はじめのステップS11では、指令回転数Vmt*とロータ回転数Vmtとの偏差ΔVmtが算出される。例えば、指令回転数Vmt*からロータ回転数Vmtを引いた値が偏差ΔVmtとして算出される。続いて、ステップS12において、算出した偏差ΔVmtを入力とするフィードバック制御によって、補正トルクTRAが算出される。本実施形態では、偏差ΔVmtを入力とする、比例要素の算出値と、積分要素の算出値との和として補正トルクTRAが算出される。
【0026】
なお、フィードバック制御としては、偏差ΔVmtを基に補正トルクTRAを算出することができるのであれば、上記の算出方法とは異なる算出方法によって補正トルクTRAを算出するようにしてもよい。例えば、偏差ΔVmtを入力とする、比例要素の算出値と、微分要素の算出値と、積分要素の算出値との和として補正トルクTRAを算出するようにしてもよい。
【0027】
次のステップS13において、負荷トルクの推定値TRLdと、算出した補正トルクTRAとの和として算出指令トルクTRTraが算出される。続いて、ステップS14において、制限トルクTRLmと、算出した算出指令トルクTRTraとのうちの小さい方の値が指令トルクTR*とされる。すなわち、本実施形態では、制限トルクTRLmを超えない範囲で指令トルクTR*が導出される。指令トルクTR*が導出されると、本処理ルーチンが一旦終了される。
【0028】
図1に戻り、指令電流導出部34は、指令トルク導出部32によって導出された指令トルクTR*と、電圧取得部11によって取得された電源電圧Vdcと、回転速度取得部18によって取得されたロータ回転数Vmtとを基に、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*を導出する。この際、弱め界磁制御によってブラシレスモータ100内での誘起電圧を抑えるため、d軸指令電流Id*は負の値になる。本実施形態では、指令電流導出部34は、第2の記憶部33に記憶されている第2のマップを用い、電源電圧Vdc、指令トルクTR*及びロータ回転数Vmtに基づいた値をd軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*として導出する。すなわち、第2の記憶部33が、ロータ回転数Vmtと、指令トルクTR*と、電源電圧Vdcと、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*との関係を示す第2のマップを記憶する「マップ記憶部」の一例に相当する。なお、第2のマップについては後述する。
【0029】
次に、第1の記憶部31aに記憶されている第1のマップ、及び、第1のマップを用いた制限トルクTRLmの算出について説明する。
図3(a)に示すように、第1のマップは、電源電圧Vdcと、ロータ回転数Vmtと、トルクとを軸とするマップである。第1のマップは、制限電流ILdc毎のマップを含んでいる。
【0030】
図3(b)は、第1のマップの中から、図3(a)において破線で囲まれている部分を表すものである。すなわち、図3(b)は、電源電圧Vdcが第1の電圧Vdc1であるときにおける、ロータ回転数Vmtと、トルクと、制限電流ILdcとの関係を示している。図3(b)において、線L1は、制限電流ILdcが第1の電流ILdc1であるときにおけるロータ回転数Vmtとトルクとの関係を表す線である。線L2は、制限電流ILdcが第2の電流ILdc2であるときにおけるロータ回転数Vmtとトルクとの関係を表す線である。第2の電流ILdc2は、第1の電流ILdc1よりも小さい。線L3は、制限電流ILdcが第3の電流ILdc3であるときにおけるロータ回転数Vmtとトルクとの関係を表す線である。第3の電流ILdc3は、第2の電流ILdc2よりも小さい。
【0031】
そのため、制限トルク導出部31では、第1のマップを用いることにより、電源電圧Vdcと、ロータ回転数Vmtと、制限電流ILdcとに応じたトルクを、制限トルクTRLmとして導出することができる。例えば、電源電圧Vdcがある電圧で保持され、且つ、ロータ回転数Vmtがある回転数で保持される場合、制限トルク導出部31は、制限電流ILdcが小さいほど、制限トルクTRLmを小さい値とする。また、電源電圧Vdcがある電圧で保持され、且つ、制限電流ILdcがある電流で保持される場合、制限トルク導出部31は、ロータ回転数Vmtが高いほど、制限トルクTRLmを小さい値とする。さらに、ロータ回転数Vmtがある回転数で保持され、且つ、制限電流ILdcがある電流で保持される場合、制限トルク導出部31は、電源電圧Vdcが低いほど、制限トルクTRLmを小さい値とする。
【0032】
ちなみに、第1のマップは、図5に示す電力制限円CR1、電圧制限円CR2、電流制限円CR3及び最大トルク曲線CV1を考慮して作成されたマップである。そのため、第1のマップを用いて制限トルクTRLmを算出した場合、回転座標上では、当該制限トルクTRLmに対応するd軸電流Id及びq軸電流Iqを表す点を許容選択領域RA内に含ませることができる。ここでいう「許容選択領域RA」とは、図5に示すように、電力制限円CR1の領域内であること、電圧制限円CR2の領域内であること、及び電流制限円CR3の領域内であることの何れをも満たす領域のことである。
【0033】
ここでいう「制限円の領域内」とは、制限円の輪郭を表す線上と、当該線の内側との双方を含んでいる。例えば、電力制限円CR1の領域内とは、電力制限円CR1の輪郭を表す線上と、当該線の内側との双方を含んでいる。
【0034】
電力制限円CR1、電圧制限円CR2、電流制限円CR3及び最大トルク曲線CV1の位置関係は、ロータ回転数Vmtによって変わる。図6に示すグラフは、ロータ回転数Vmtが比較的低速であるときにおける電力制限円CR1、電圧制限円CR2、電流制限円CR3及び最大トルク曲線CV1の回転座標上での位置関係の一例を表している。図6に示す例では、許容選択領域RA内を最大トルク曲線CV1が通過する。
【0035】
この場合に第1のマップを用いて制限トルクTRLmを算出すると、当該制限トルクTRLmに対応するq軸電流Iqが第1のq軸電流Iq1以下であるときには、当該制限トルクTRLmに対応するd軸電流Id及びq軸電流Iqを表す点は、最大トルク曲線CV1上に位置する。一方、当該制限トルクTRLmに対応するq軸電流Iqが第1のq軸電流Iq1よりも大きいときには、当該制限トルクTRLmに対応するd軸電流Id及びq軸電流Iqを表す点は、電圧制限円CR2の輪郭を表す線上に位置する。
【0036】
図7に示すグラフは、ロータ回転数Vmtが比較的高速であるときにおける電力制限円CR1、電圧制限円CR2、電流制限円CR3及び最大トルク曲線CV1の回転座標上での位置関係の一例を表している。すなわち、ロータ回転数Vmtが比較的高速である場合、ロータ回転数Vmtが比較的低速である場合と比較し、電力制限円CR1が小さくなるとともに、電圧制限円CR2が小さくなる。そのため、図7に示す例では、許容選択領域RA内を最大トルク曲線CV1が通過しない。
【0037】
この場合に第1のマップを用いて制限トルクTRLmを算出すると、当該制限トルクTRLmに対応するd軸電流Id及びq軸電流Iqを表す点は、電圧制限円CR2と電力制限円CR1との交点となる。
【0038】
ただし、電力制限円CR1、電圧制限円CR2、電流制限円CR3及び最大トルク曲線CV1の位置関係によっては、許容選択領域RA内を最大トルク曲線CV1が通過しないとともに、電圧制限円CR2と電力制限円CR1とが交差していないこともある。このような場合に第1のマップを用いて制限トルクTRLmを算出すると、当該制限トルクTRLmに対応するd軸電流Id及びq軸電流Iqを表す点は、許容選択領域RA内で最もトルクを大きくすることができる点となる。
【0039】
なお、図6及び図7における太い実線は、電圧制限円CR2と電力制限円CR1との交点を通過する等トルク線ETLである。
次に、第2の記憶部33に記憶されている第2のマップ、及び、第2のマップを用いたd軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*の算出について説明する。
【0040】
図4(a)に示すように、第2のマップは、電源電圧Vdcと、ロータ回転数Vmtと、指令トルクTR*とを軸とするマップである。図4(b)は、第2のマップの中から、図4(a)において破線で囲まれている部分を表すものである。すなわち、図4(b)は、電源電圧Vdcが第2の電圧Vdc2であるときにおける、ロータ回転数Vmtと、指令トルクTR*と、d軸電流Id及びq軸電流Iqとの関係を示している。
【0041】
そのため、指令電流導出部34では、第2のマップを用いることにより、電源電圧Vdcと、ロータ回転数Vmtと、指令トルクTR*とに応じたd軸電流Idをd軸指令電流Id*として導出し、電源電圧Vdcと、ロータ回転数Vmtと、指令トルクTR*とに応じたq軸電流Iqをq軸指令電流Iq*として導出することができる。
【0042】
第2のマップは、第1のマップと同様に、電力制限円CR1、電圧制限円CR2、電流制限円CR3及び最大トルク曲線CV1を考慮して作成されたマップである。そのため、第2のマップを用いてd軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*を算出した場合、回転座標上では、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*を表す点である指令点を許容選択領域RA内に含ませることができる。より具体的には、指令点を、許容選択領域RA内において、ブラシレスモータ100の出力トルクを指令トルクTR*とするための点のうち、d軸電流Idの絶対値が最小となる点とすることができる。
【0043】
次に、電流制限円CR3について詳述する。
電流制限円CR3は、図5における一点鎖線で示す円である。電流制限円CR3は、インバータ16を構成するスイッチング素子に流せる電流の上限である上限電流Idqlimitから定まるd軸とq軸との電流特性である。例えば、電流制限円CR3は、以下に示す関係式(式1)のように表すことができる。関係式(式1)からも明らかなように、電流制限円CR3の大きさは、スイッチング素子の上限電流Idqlimitが大きいほど大きくなる。
【0044】
【数1】
次に、電圧制限円CR2について詳述する。
【0045】
電圧制限円CR2は、図5における破線で示す円である。電圧制限円CR2は、電源電圧Vdc及び角速度ωeに基づくd軸とq軸との電流特性である。そのため、電源電圧Vdc及び角速度ωeの少なくとも一方が変化すると、電圧制限円CR2の形状は変わる。電圧制限円CR2は、関係式(式5)のように表すことができる。関係式(式5)は、以下に示す関係式(式2)~(式4)を用いて導出することができる。関係式(式2)は、電源電圧Vdcと、d軸の方向の電圧成分を示す値であるd軸電圧Vdと、q軸の方向の電圧成分を示す値であるq軸電圧Vqとの関係を表す式である。関係式(式3)はd軸電圧Vdの算出式であり、関係式(式4)はq軸電圧Vqの算出式である。なお、「Ld」はブラシレスモータ100のd軸の方向のインダクタンスであり、「Lq」はブラシレスモータ100のq軸の方向のインダクタンスである。「Ra」はブラシレスモータ100のコイルの抵抗値であり、「ψa」は鎖交磁束(すなわち、磁束とコイル巻き数との積)である。
【0046】
【数2】
そして、関係式(式3)及び(式4)を用い、関係式(式2)をd軸電流Idの式に整理することにより、関係式(式5)を導出することができる。関係式(式5)において、「A1」は関係式(式6)で表すことができ、「B1」は関係式(式7)で表すことができ、「C1」は関係式(式8)で表すことができる。
【0047】
【数3】

本実施形態のモータ制御装置10によって制御されるブラシレスモータ100のロータ105は突極性を有している。そのため、d軸の方向のインダクタンスLdは、q軸の方向のインダクタンスLqと同じではない。よって、電圧制限円CR2は、図5に破線で示すように楕円となる。
【0048】
次に、電力制限円CR1について詳述する。
電力制限円CR1は、図5における実線で示す円である。電力制限円CR1は、ベクトル制御の回転座標上に発生する電圧ベクトルと電流ベクトルとの内積に基づくd軸とq軸の電流特性である。電圧ベクトルとは、d軸の方向の電圧成分及びq軸の方向の電圧成分を含むものである。また、電流ベクトルとは、ブラシレスモータ100に流れる電流から得られるd軸の方向の電流成分及びq軸の方向の電流成分を含むものである。電力制限円CR1は、関係式(式11)のように表すことができる。関係式(式11)は、関係式(式3)、(式4)及び(式9)を用いて導出することができる。関係式(式9)において、「VImax」はバッテリ200からブラシレスモータ100に入力される電力である入力電力のことであり、「cosθ」は力率のことである。また、「Idq」は、ブラシレスモータ100に流れる電流のことである。
【0049】
【数4】
d軸電圧Vdは関係式(式3)で表し、q軸電圧Vqは関係式(式4)で表すことができる。そのため、関係式(式9)は、以下の関係式(式10)に変換することができる。
【0050】
【数5】
そして、関係式(式10)をd軸電流Idの式に整理することにより、関係式(式11)を導出することができる。なお、式(式11)において、「A2」は関係式(式12)で表すことができ、「B2」は関係式(式13)で表すことができ、「C2」は関係式(式14)で表すことができる。
【0051】
【数6】
ブラシレスモータ100のロータ105は突極性を有している。そのため、d軸の方向のインダクタンスLdは、q軸の方向のインダクタンスLqと同じではない。よって、電力制限円CR1は、図5に実線で示すように楕円となる。
【0052】
次に、最大トルク曲線CV1について詳述する。
最大トルク曲線CV1は、図5における二点鎖線で示す線である。最大トルク曲線CV1は、以下に示す式(式15)で表すことができる。
【0053】
【数7】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0054】
(1)本実施形態では、電力制限円CR1、電圧制限円CR2、電流制限円CR3及び最大トルク曲線CV1を考慮した第2のマップを用い、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*が導出される。その結果、回転座標上で上記指令点が電力制限円CR1内及び電圧制限円CR2内に位置するように、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*を導出することができる。そして、こうしたd軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*を基にブラシレスモータ100が制御される。そのため、d軸電流Idとd軸指令電流Id*との間に乖離が生じにくいとともに、q軸電流Iqとq軸指令電流Iq*との間に乖離が生じにくい。したがって、ブラシレスモータ100の制御性の低下を抑制することができる。
【0055】
(2)許容選択領域RA内で、ブラシレスモータ100の出力トルクを指令トルクTR*とすることのできる点は、複数存在する。本実施形態では、こうした複数の点のうち、d軸電流Idの絶対値が最小となる点が指令点となるように、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*が算出される。そして、このd軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*を基にブラシレスモータ100の駆動が制御される。そのため、ブラシレスモータ100の制御性の低下を抑制しつつ、消費電力の増大を抑制することができる。
【0056】
指令電流導出部34では、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*は予め用意されている第2のマップを用いて導出される。そのため、各種の制限円CR1~CR3の計算式を用いた計算によってd軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*を算出する場合と比較し、モータ制御装置10の演算負荷を低減させることができる。
【0057】
なお、算出指令トルクTRTraが制限トルクTRLm以上であった場合、指令トルクTR*は制限トルクTRLmと等しくなる。このような状況下で回転座標上で電圧制限円CR2と電力制限円CR1とが交差する場合、電圧制限円CR2と電力制限円CR1との交点が上記指令点となるように、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*が算出される。したがって、本実施形態では、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*は、電圧制限円CR2と電力制限円CR1との交点を基に算出されるということができる。この場合、当該交点以外の点に基づいて決められたd軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*を基にブラシレスモータ100を駆動させる場合と比較し、ブラシレスモータ100から大きなトルクを出力させることができる。
【0058】
(3)制限トルクTRLmの算出に際し、許容選択領域RA内を最大トルク曲線CV1が通過する場合には、最大トルク曲線CV1上の点を表すd軸電流Id及びq軸電流Iqに応じたトルクを制限トルクTRLmとする。また、許容選択領域RA内を最大トルク曲線CV1が通過しない場合、電圧制限円CR2と電力制限円CR1との交点を表すd軸電流Id及びq軸電流Iqに相当するトルクを制限トルクTRLmとする。一方、電圧制限円CR2と電力制限円CR1とが互いに交差しない場合、許容選択領域RA内のうち、トルクを最大とできるような点を表すd軸電流Id及びq軸電流Iqに相当するトルクを制限トルクTRLmとする。
【0059】
すなわち、本実施形態では、電力制限円CR1、電圧制限円CR2、電流制限円CR3及び最大トルク曲線CV1を基に、そのときにブラシレスモータ100から出力させることのできるトルクの最大値を制限トルクTRLmとするようにしている。このように算出した制限トルクTRLmを基に指令トルクTR*が算出される。そのため、指令回転数Vmt*までロータ回転数Vmtを上昇させることのできない事象が生じにくくなる。
【0060】
なお、制限トルクTRLmは、予め用意されている第1のマップを用いて算出される。そのため、各種の制限円CR1~CR3の計算式を用いた計算によって制限トルクTRLmを算出する場合と比較し、モータ制御装置10の演算負荷を低減させることができる。
【0061】
(4)ブラシレスモータ100の負荷トルクの推定値TRLdを用い、指令トルクTR*、すなわち算出指令トルクTRTraが算出される。これにより、負荷トルクの推定値TRLdを用いず、指令回転数Vmt*とロータ回転数Vmtとの偏差ΔVmtを入力とするフィードバック制御によって指令トルクTR*、すなわち算出指令トルクTRTraを算出する場合と比較し、指令回転数Vmt*の変化に対する指令トルクTR*の変化の遅れを抑制することができる。その結果、指令回転数Vmt*が変更される場合、指令回転数Vmt*の変更に対するロータ回転数Vmtの変化の応答遅れを抑制することができる。
【0062】
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・電力制限円CR1、電圧制限円CR2、電流制限円CR3及び最大トルク曲線CV1を考慮して制限トルクTRLmを算出することができるのであれば、上記実施形態のようにマップを用いることなく、制限トルクTRLmを導出するようにしてもよい。例えば、各種の制限円CR1~CR3の計算式を用いた計算によって制限トルクTRLmを算出するようにしてもよい。
【0063】
・上記実施形態では、そのときの電力制限円CR1、電圧制限円CR2、電流制限円CR3及び最大トルク曲線CV1の位置関係を基に想定されるトルクの最大値が制限トルクTRLmとなるように、制限トルクTRLmが導出される。しかし、そのときの許容選択領域RA内の点に対応するトルクを制限トルクTRLmとすることができるのであれば、上記位置関係を基に想定されるトルクの最大値とは異なる値を制限トルクTRLmとしてもよい。例えば、上記位置関係を基に想定されるトルクの最大値よりも僅かに小さい値を制限トルクTRLmとするようにしてもよい。
【0064】
・電力制限円CR1、電圧制限円CR2、電流制限円CR3及び最大トルク曲線CV1を考慮してd軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*を導出することができるのであれば、上記実施形態のようにマップを用いることなく、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*を導出するようにしてもよい。例えば、各種の制限円CR1~CR3の計算式を用いた計算によってd軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*を算出するようにしてもよい。
【0065】
・上記実施形態では、そのときの許容選択領域RA内で、ブラシレスモータ100の出力トルクを指令トルクTR*とすることのできる点のうち、d軸電流Idの絶対値が最小となる点が指令点となるように、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*を導出するようにしている。しかし、そのときの許容選択領域RA内で、ブラシレスモータ100の出力トルクを指令トルクTR*とすることのできる点を指令点とすることができるのであれば、d軸電流Idの絶対値が最小となる点とは異なる点を指令点とするようにしてもよい。
【0066】
・ロータ回転数Vmtの取得処理は、上記実施形態で説明した取得処理とは異なる手法でロータ回転数Vmtを算出する処理であってもよい。
・ロータ回転数Vmtの変化速度が低い場合には、ブラシレスモータ100の負荷トルクの推定値TRLdを用いずに、算出指令トルクTRTraを算出するようにしてもよい。この場合、指令回転数Vmt*とロータ回転数Vmtとの偏差ΔVmtを入力とするフィードバック制御によって算出された値を算出指令トルクTRTraとすることとなる。
【0067】
・算出指令トルクTRTraを指令トルクTR*とするようにしてもよい。この場合、電力制限円CR1、電圧制限円CR2及び電流制限円CR3を基に、d軸指令電流Id*の制限値及びq軸指令電流Iq*の制限値を導出することが好ましい。そして、このような指令トルクTR*に基づいたd軸電流Idとd軸指令電流Id*の制限値とのうちの絶対値が小さい方の値をd軸指令電流Id*とし、指令トルクTR*に基づいたq軸電流Iqとq軸指令電流Iq*の制限値とのうちの絶対値の小さい方の値をq軸指令電流Iq*とするようにしてもよい。
【0068】
・回転座標上で電圧制限円CR2と電力制限円CR1とが交差する場合には、電圧制限円CR2と電力制限円CR1との交点が上記指令点となるように、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*を導出し、当該d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*を基にブラシレスモータ100を駆動させるようにしてもよい。この場合、ブラシレスモータ100の出力トルクを、そのときの最大値又は当該最大値近傍の値とすることができる。
【0069】
・モータ制御装置10は、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する専用のハードウェア(特定用途向け集積回路:ASIC)などの1つ以上の専用のハードウェア回路又はこれらの組み合わせを含む回路として構成し得る。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROM等のメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわち記憶媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0070】
・ブラシレスモータ100のロータ105は、突極性を有さないものであってもよい。この場合、d軸の方向のインダクタンスLdは、q軸の方向のインダクタンスLqと同じとなる。そのため、電圧制限円CR2及び電力制限円CR1の双方は真円となる。
【0071】
・ブラシレスモータ100に適用されるロータ105は、2極ロータではなく、4極ロータであってもよい。
・モータ制御装置10が適用されるブラシレスモータは、車載のブレーキ装置とは別のアクチュエータの動力源であってもよい。
【符号の説明】
【0072】
10…モータ制御装置、11…電圧取得部、12…電流取得部、13…指令電流決定部、18…回転速度取得部、31…制限トルク導出部、32…指令トルク導出部、33…マップ記憶部の一例である第2の記憶部、34…指令電流導出部、100…ブラシレスモータ、105…ロータ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7