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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】コイル部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/29 20060101AFI20220705BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20220705BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20220705BHJP
   H01F 41/04 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
H01F27/29 P
H01F17/00 D
H01F17/04 A
H01F41/04 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019017817
(22)【出願日】2019-02-04
(65)【公開番号】P2020126914
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2020-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】高井 駿
(72)【発明者】
【氏名】生石 正之
【審査官】森岡 俊行
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-343640(JP,A)
【文献】特開2005-072267(JP,A)
【文献】特開2000-021666(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0308617(US,A1)
【文献】特開2003-109820(JP,A)
【文献】特開2001-185440(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0218829(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/29
H01F 17/00
H01F 17/04
H01F 41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体部と、該絶縁体部に埋設され、複数のコイル導体が電気的に接続されたコイルとを含む素体と、
前記コイルの両端部に設けられた引き出し部と、
前記絶縁体部の表面に設けられ、前記引き出し部と電気的に接続された外部電極と
を含む積層コイル部品であって、
前記コイルの引き出し部におけるコイル導体の厚みは、前記コイルの巻き線部におけるコイル導体の厚みの1.05倍以上2.0倍以下であり、
前記巻き線部のコイル導体は、高収縮層であり、
前記引き出し部は、低収縮層および高収縮層の積層体であり、
前記引き出し部における高収縮層は、同じ層に設けられる前記巻き線部における高収縮層と一体に形成されており、
前記引き出し部における高収縮層は、前記巻き線部における高収縮層よりも薄く、
前記引き出し部における、前記高収縮層に対する前記低収縮層の厚みの比は、1.5以上2.5以下である、積層コイル部品。
【請求項2】
前記引き出し部におけるコイル導体の厚みは、40μm以上80μm以下である、請求項1に記載の積層コイル部品。
【請求項3】
前記巻き線部におけるコイル導体の厚みは、20μm以上50μm以下である、請求項1または2に記載の積層コイル部品。
【請求項4】
前記素体中、前記巻き線部におけるコイル導体と前記絶縁体部の境界の少なくとも一部に空隙が設けられている、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層コイル部品。
【請求項5】
絶縁体部と、該絶縁体部に埋設され、複数のコイル導体が電気的に接続されたコイルとを含む素体と、
前記コイルの両端部に設けられた引き出し部と、
前記絶縁体部の表面に設けられ、前記引き出し部と電気的に接続された外部電極と
を含む積層コイル部品の製造方法であって、
前記コイルの引き出し部となる部分に第1導電性ペーストで、第1導電性ペースト層を形成すること、次いで、
前記第1導電性ペースト層上、および前記コイルの巻き線部となる部分に、第2導電性ペーストで、第2導電性ペースト層を形成すること、
を含み、
焼成時における前記第1導電性ペーストの収縮率が、前記第2導電性ペーストの収縮率よりも小さいことを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層コイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
積層コイル部品では、素体の絶縁部とコイルの間に応力が生じ、この応力の影響により積層コイル部品の電気的特性にばらつきが生じ得る。従って、このような応力を緩和することが求められている。特許文献1では、コイルの端部以外の部分の周囲に応力緩和空間を設け、これにより応力の緩和を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-59749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
引用文献1のコイル部品は、コイルの端部には応力緩和空間を設けていないものの、コイル導体と素体との密着性は十分であるとは言えず、めっきの際にコイル導体と素体の間からめっき液が浸入し、コイル部品の信頼性が低下する虞がある。従って、本開示の目的は、引き出し部においてコイル導体と素体との密着性が高く、かかる引き出し部において封止が確実にできるコイル部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討した結果、絶縁体部と該絶縁体部に埋設され、複数のコイル導体が電気的に接続されたコイルとを含む素体と、上記コイルの両端部に設けられた引き出し部と、上記絶縁体部の表面に設けられ、上記引き出し部と電気的に接続された外部電極とを含む積層コイル部品において、引き出し部におけるコイル導体の厚みを、巻き線部におけるコイル導体の厚みよりも大きくすることにより、引き出し部においてコイル導体と絶縁体部の密着性をより向上させ、引き出し部での封止をより確実にすることができることを見出した。
【0006】
本開示は、以下の態様を含む。
[1] 絶縁体部と、該絶縁体部に埋設され、複数のコイル導体が電気的に接続されたコイルとを含む素体と、
前記コイルの両端部に設けられた引き出し部と、
前記絶縁体部の表面に設けられ、前記引き出し部と電気的に接続された外部電極と
を含む積層コイル部品であって、
前記コイルの引き出し部におけるコイル導体の厚みは、前記コイルの巻き線部におけるコイル導体の厚みの1.05倍以上2.0倍以下である、積層コイル部品。
[2] 前記引き出し部におけるコイル導体の厚みは、40μm以上80μm以下である、上記[1]に記載の積層コイル部品。
[3] 前記巻き線部におけるコイル導体の厚みは、20μm以上50μm以下である、上記[1]または[2]に記載の積層コイル部品。
[4] 前記素体中、前記巻き線部におけるコイル導体と前記絶縁体部の境界の少なくとも一部に空隙が設けられている、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の積層コイル部品。
[5] 絶縁体部と、該絶縁体部に埋設され、複数のコイル導体が電気的に接続されたコイルとを含む素体と、
前記コイルの両端部に設けられた引き出し部と、
前記絶縁体部の表面に設けられ、前記引き出し部と電気的に接続された外部電極と
を含む積層コイル部品の製造方法であって、
前記コイルの引き出し部となる部分に第1導電性ペーストで、第1導電性ペースト層を形成すること、
前記コイルの少なくとも巻き線部となる部分に第2導電性ペーストで、第2導電性ペースト層を形成すること、
を含み、
焼成時における前記第1導電性ペーストの収縮率が、前記第2導電性ペーストの収縮率よりも小さいことを特徴とする製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示の積層コイル部品は、引き出し部におけるコイル導体の厚みを、巻き線部におけるコイル導体の厚みよりも大きくすることにより、引き出し部におけるコイル導体と絶縁体部の密着性が向上し、これにより、めっき液、水分などの素体内部への浸入を抑制することができる。従って、本開示の積層コイル部品は、信頼性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示の積層コイル部品1を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、図1に示す積層コイル部品1のx-xに沿った切断面を示す断面図である。
図3図3(a)および(b)は、図1に示す積層コイル部品1の製造方法を説明するための図であり、それぞれ、引き出し部を含む断面であって、WT面に平行な断面およびLT面に平行な断面を示す断面図である。
図4図4(a)および(b)は、図1に示す積層コイル部品1の製造方法を説明するための図であり、それぞれ、引き出し部を含む断面であって、WT面に平行な断面およびLT面に平行な断面を示す断面図である。
図5図5(a)および(b)は、図1に示す積層コイル部品1の製造方法を説明するための図であり、それぞれ、引き出し部を含む断面であって、WT面に平行な断面およびLT面に平行な断面を示す断面図である。
図6図6(a)および(b)は、図1に示す積層コイル部品1の製造方法を説明するための図であり、それぞれ、引き出し部を含む断面であって、WT面に平行な断面およびLT面に平行な断面を示す断面図である。
図7図7(a)および(b)は、図1に示す積層コイル部品1の製造方法を説明するための図であり、それぞれ、引き出し部を含む断面であって、WT面に平行な断面およびLT面に平行な断面を示す断面図である。
図8図8(a)および(b)は、図1に示す積層コイル部品1の製造方法を説明するための図であり、それぞれ、引き出し部を含む断面であって、WT面に平行な断面およびLT面に平行な断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の一の実施形態の積層コイル部品1について、図面を参照しながら詳細に説明する。但し、本実施形態の積層コイル部品および各構成要素の形状および配置等は、図示する例に限定されない。
【0010】
本実施形態の積層コイル部品1の斜視図を図1に、x-x断面図を図2に模式的に示す。但し、下記実施形態の積層コイル部品および各構成要素の形状および配置等は、図示する例に限定されない。
【0011】
図1および図2に示されるように、本実施形態の積層コイル部品1は、略直方体形状を有する積層コイル部品である。積層コイル部品1において、図1のL軸に垂直な面を「端面」と称し、W軸に垂直な面を「側面」と称し、T軸に垂直な面を「上下面」と称する。積層コイル部品1は、概略的には、素体2と、該素体2の両端面に設けられた外部電極4,5とを含む。素体2は、絶縁体部6と該絶縁体部6に埋設されたコイル7を含む。該コイル7は、巻き線部8と引き出し部9を含む。該引き出し部9は、コイル7の両端部に設けられ、それぞれ上記外部電極4,5に電気的に接続されている。コイル7は、複数のコイル導体10が電気的に接続されて構成されている。巻き線部8におけるコイル導体10の一方の主面(図2では下方主面)と絶縁体部6の境界には空隙11が設けられている。この空隙により巻き線部におけるコイル導体10と絶縁体部6間の応力の発生を抑制することができる。
【0012】
上記したように、本実施形態の積層コイル部品1において、素体2は、絶縁体部6とコイル7から構成される。
【0013】
上記絶縁体部6は、好ましくは磁性体、さらに好ましくは焼結フェライトから構成される。上記焼結フェライトは、主成分として、少なくともFe、Ni、およびZnを含む。焼結フェライトは、さらにCuを含んでいてもよい。
【0014】
一の態様において、上記焼結フェライトは、主成分として、少なくともFe、Ni、ZnおよびCuを含む。
【0015】
上記焼結フェライトにおいて、Fe含有量は、Feに換算して、好ましくは40.0モル%以上49.5モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは45.0モル%以上49.5モル%以下であり得る。
【0016】
上記焼結フェライトにおいて、Zn含有量は、ZnOに換算して、好ましくは5.0モル%以上35.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは10.0モル%以上30.0モル%以下であり得る。
【0017】
上記焼結フェライトにおいて、Cu含有量は、CuOに換算して、好ましくは4.0モル%以上12.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは7.0モル%以上10.0モル%以下である。
【0018】
上記焼結フェライトにおいて、Ni含有量は、特に限定されず、上記した他の主成分であるFe、ZnおよびCuの残部とし得る。
【0019】
一の態様において、上記焼結フェライトは、Feは、Feに換算して40.0モル%以上49.5モル%以下、Znは、ZnOに換算して5.0モル%以上35.0モル%以下、Cuは、CuOに換算して4.0モル%以上12.0モル%以下、NiOは残部である。
【0020】
本開示において、上記焼結フェライトは、さらに添加成分を含んでいてもよい。焼結フェライトにおける添加成分としては、例えばMn、Co、Sn、Bi、Si等が挙げられるが、これに限定されるものではない。Mn、Co、Sn、BiおよびSiの含有量(添加量)は、主成分(Fe(Fe換算)、Zn(ZnO換算)、Cu(CuO換算)およびNi(NiO換算))の合計100重量部に対して、それぞれ、Mn、Co、SnO、Bi、およびSiOに換算して、0.1重量部以上1重量部以下であることが好ましい。また、上記焼結フェライトは、さらに製造上不可避な不純物を含んでいてもよい。
【0021】
上記焼結フェライトは、添加成分として、例えばMn、Co、Sn、Bi、Si等を含んでいてもよい。焼結フェライトにおける添加成分としては、例えばMn、Co、Sn、Bi、Si等が挙げられるが、これに限定されるものではない。Mn、Co、Sn、BiおよびSiの含有量(添加量)は、主成分(Fe(Fe換算)、Zn(ZnO換算)、Cu(CuO換算)およびNi(NiO換算))の合計100重量部に対して、それぞれ、Mn、Co、SnO、Bi、およびSiOに換算して、0.1重量部以上1重量部以下であることが好ましい。また、上記焼結フェライトは、さらに製造上不可避な不純物を含んでいてもよい。
【0022】
上記したように、上記コイル7は、コイル導体10が相互に電気的に接続されることにより構成されている。コイル導体10は、導電性材料を含む。好ましくは、コイル導体10は、実質的に導電性材料からなる。かかる導電性材料としては、特に限定されないが、例えば、Au、Ag、Cu、Pd、Ni等が挙げられる。上記導電性材料は、好ましくはAgまたはCu、より好ましくはAgである。導電性材料は、1種のみであっても、2種以上であってもよい。
【0023】
上記コイル7において、引き出し部9におけるコイル導体10の厚みT1は、巻き線部8におけるコイル導体10の厚みT2よりも大きい。上記T1をT2よりも大きくすることにより、引き出し部におけるコイル導体と絶縁体部の密着性が向上する。
【0024】
上記コイル7の引き出し部9におけるコイル導体10の厚みは、巻き線部8におけるコイル導体10の厚みの1.05倍以上2.0倍以下である。即ち、T1/T2は、1.05以上2.0以下である。T1/T2は、好ましくは1.1以上1.8以下、より好ましくは1.2以上1.6以下である。T1/T2を1.05以上とすることにより、引き出し部と絶縁体部の密着性が向上し、かかる部分での封止がより確実になる。一方、T1/T2を2.0以下とすることにより、クラックの発生などを抑制することができる。
【0025】
上記引き出し部9におけるコイル導体10の厚みは、好ましくは40μm以上80μm以下、より好ましくは45μm以上65μm以下である。
【0026】
上記巻き線部8におけるコイル導体10の厚みは、好ましくは20μm以上50μm以下、より好ましくは30μm以上40μm以下である。
【0027】
巻き線部8および引き出し部9におけるコイル導体の10の厚みは、それぞれ積層方向の厚みであり、以下のようにして測定することができる。
チップのLT面を研磨紙に向けた状態で研磨を行い、引き出し部の略中央部で研磨を停止する。その後、イオンミリング処理をして、マイクロスコープで観察を行う。引き出し部の厚みは、引き出し端面部から引き出し長さの1/3程度の位置をマイクロスコープに付属している測定機能にて測定する。
【0028】
一の態様において、上記コイル7の引き出し部9のコイル導体10は、焼成時の収縮率が比較的小さい低収縮層12と収縮率が比較的大きい高収縮層13が積層されている。引き出し部において焼成時の収縮率が比較的小さい低収縮層を積層することにより、焼成時の収縮が抑制され、引き出し部のコイル導体と絶縁体部間に隙間が生じにくくなり、引き出し部のコイル導体と絶縁体部間の密着性が向上する。
【0029】
一方、コイル7の巻き線部8のコイル導体10は、焼成時の収縮率が比較的大きい高収縮層であり得る。巻き線部8のコイル導体10は、焼成時の収縮率を比較的大きい高収縮層として焼成することにより、応力緩和空間である空隙11をより確実に形成することができる。
【0030】
一の態様において、低収縮層12は、収縮率が10%以上15%以下、好ましくは10%以上13%以下である材料により形成される。
【0031】
一の態様において、高収縮層13は、収縮率が20%以上25%以下、好ましくは22%以上25%以下である材料により形成される。
【0032】
上記引き出し部9のコイル導体10における、低収縮層12と高収縮層13の厚みの比(低収縮層/高収縮層)は、好ましくは1.1以上3.0以下、より好ましくは1.5以上2.5以下であり得る。
【0033】
上記空隙11は、いわゆる応力緩和空間として機能する。空隙11の厚みは、好ましくは1μm以上30μm以下、より好ましくは5μm以上15μm以下である。
【0034】
空隙11の厚みは、積層方向の厚みであり、以下のようにして測定することができる。
チップのLT面を研磨紙に向けた状態で研磨を行い、コイル導体のW寸中央部で研磨を停止する。その後、マイクロスコープで観察を行う。コイル導体のL寸中央部に位置する空隙厚みを、マイクロスコープに付属している測定機能にて測定する。
【0035】
上記したように、本開示の積層コイル部品1において、外部電極4,5は、素体2の両端面を覆うように設けられる。上記外部電極は、導電性材料、好ましくはAu、Ag、Pd、Ni、SnおよびCuから選択される1種またはそれ以上の金属材料から構成される。
【0036】
上記外部電極は、単層であっても、多層であってもよい。一の態様において、上記外部電極は、多層、好ましくは2層以上4層以下、例えば3層であり得る。
【0037】
一の態様において、外部電極は多層であり、AgまたはPdを含む層、Niを含む層、またはSnを含む層を含み得る。好ましい態様において、上記外部電極は、AgまたはPdを含む層、Niを含む層、およびSnを含む層からなる。好ましくは、上記の各層は、コイル導体側から、AgまたはPd、好ましくはAgを含む層、Niを含む層、Snを含む層の順で設けられる。好ましくは、上記AgまたはPdを含む層はAgペーストまたはPdペーストを焼き付けた層であり、上記Niを含む層およびSnを含む層は、めっき層であり得る。
【0038】
上記した本実施形態の積層コイル部品1は、例えば、以下のようにして製造される。本実施形態では、絶縁体部6がフェライト材料から形成される態様について説明する。
【0039】
(1)フェライトペーストの調製
【0040】
まず、フェライト材料を準備する。フェライト材料は、主成分としてFe、Zn、およびNiを含み、所望によりさらにCuを含む。通常、上記フェライト材料の主成分は、実質的にFe、Zn、NiおよびCuの酸化物(理想的には、Fe、ZnO、NiOおよびCuO)から成る。
【0041】
フェライト材料として、Fe、ZnO、CuO、NiO、および必要に応じて添加成分を所定の組成になるように秤量し、混合および粉砕する。粉砕したフェライト材料を乾燥し、仮焼し、仮焼粉末を得る。この仮焼粉末に、所定量の溶剤(ケトン系溶剤など)、樹脂(ポリビニルアセタールなど)、および可塑剤(アルキド系可塑剤など)を加え、プラネタリーミキサー等で混錬した後、さらに3本ロールミル等で分散することでフェライトペーストを作製することができる。
【0042】
上記フェライト材料において、Fe含有量は、Feに換算して、好ましくは40.0モル%以上49.5モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは45.0モル%以上49.5モル%以下であり得る。
【0043】
上記フェライト材料において、Zn含有量は、ZnOに換算して、好ましくは5.0モル%以上35.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは10.0モル%以上30.0モル%以下であり得る。
【0044】
上記フェライト材料において、Cu含有量は、CuOに換算して、好ましくは4.0モル%以上12.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは7.0モル%以上10.0モル%以下である。
【0045】
上記フェライト材料において、Ni含有量は、特に限定されず、上記した他の主成分であるFe、ZnおよびCuの残部とし得る。
【0046】
一の態様において、上記フェライト材料は、Feは、Feに換算して40.0モル%以上49.5モル%以下、Znは、ZnOに換算して5.0モル%以上35.0モル%以下、Cuは、CuOに換算して4.0モル%以上12.0モル%以下、NiOは残部である。
【0047】
本開示において、上記フェライト材料は、さらに添加成分を含んでいてもよい。フェライト材料における添加成分としては、例えばMn、Co、Sn、Bi、Si等が挙げられるが、これに限定されるものではない。Mn、Co、Sn、BiおよびSiの含有量(添加量)は、主成分(Fe(Fe換算)、Zn(ZnO換算)、Cu(CuO換算)およびNi(NiO換算))の合計100重量部に対して、それぞれ、Mn、Co、SnO、Bi、およびSiOに換算して、0.1重量部以上1重量部以下であることが好ましい。また、上記フェライト材料は、さらに製造上不可避な不純物を含んでいてもよい。
【0048】
なお、焼結フェライトにおけるFe含有量(Fe換算)、Mn含有量(Mn換算)、Cu含有量(CuO換算)、Zn含有量(ZnO換算)およびNi含有量(NiO換算)は、焼成前のフェライト材料におけるFe含有量(Fe換算)、Mn含有量(Mn換算)、Cu含有量(CuO換算)、Zn含有量(ZnO換算)およびNi含有量(NiO換算)と実質的に相違ないと考えて差し支えない。
【0049】
(2)コイル導体用導電性ペーストの調製
【0050】
まず、導電性材料を準備する。導電性材料としては、例えば、Au、Ag、Cu、Pd、Ni等が挙げられ、好ましくはAgまたはCu、より好ましくはAgである。所定量の導電性材料の粉末を秤量し、所定量の溶剤(オイゲノールなど)、樹脂(エチルセルロースなど)、および分散剤と、プラネタリーミキサー等で混錬した後、3本ロールミル等で分散することで、コイル導体用導電性ペーストを作製することができる。
【0051】
上記の導電性ペーストの調製において、導電性ペースト中の導電性材料(典型的には銀粉末)と樹脂成分合計の体積に対する、導電性材料の体積の濃度であるPVC(pigmernt volume concentration;顔料体積濃度)を調整することにより、焼成した時の収縮率が異なる二種類の導電性ペースト(A)および(B)を作製する。
(A)高収縮導電性ペースト:収縮率が大きいペースト(典型的には、収縮率20%以上25%以下)
(B)低収縮導電性ペースト:収縮率が小さいペースト(典型的には、収縮率10%以上15%以下)
【0052】
ここに、上記収縮率は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに導電性ペーストを塗布し、乾燥後、5mm×5mm程度の大きさに切りだし、その後、熱機械分析(TMA:thermomechanical analyzer)により試料寸法の変化を測定して求めることができる。
【0053】
(3)樹脂ペーストの調製
【0054】
上記積層コイル部品1の空隙11を作製するための樹脂ペーストを調製する。かかる樹脂ペーストは、溶剤(イソホロンなど)に、焼成時に消失する樹脂(アクリル樹脂など)を含有させることにより作製することができる。
【0055】
(4)積層コイル部品の作製
【0056】
(4-1)素体の作製
まず、金属プレートの上に熱剥離シートおよびPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを積み重ねた基板(図示していない)を準備する。基板上に、上記フェライトペーストを所定回数印刷し、外層用のフェライトペースト層22を形成する(図3(a)および(b))。
【0057】
次に、空隙11を形成する箇所(即ち、引き出し部を除くコイル導体の形成箇所)に、上記樹脂ペーストを印刷し、樹脂ペースト層23を形成する(図4(a)および(b))。
【0058】
次に、引き出し部を形成する箇所に、上記低収縮導電性ペーストを印刷し、低収縮導電性ペースト層24を形成する(図5(a)および(b))。
【0059】
次に、コイル導体を形成する箇所全体に、上記高収縮導電性ペーストを印刷し、高収縮導電性ペースト層25を形成する(図6(a)および(b))。
【0060】
次に、低収縮導電性ペースト層24および高収縮導電性ペースト層25が形成されていない領域に、上記フェライトペーストを、導電性ペースト層と同じ高さとなるように印刷し、フェライトペースト層26を形成する(図7(a)および(b))。
【0061】
次に、全面に、上記フェライトペーストを印刷し、フェライトペースト層27を形成する(図8(a)および(b))。
【0062】
次いで、樹脂ペースト層23(図4)、低収縮導電性ペースト層24(図5)、高収縮導電性ペースト層25(図6)、フェライトペースト層26(図7)およびフェライトペースト層27(図8)の印刷操作を順に所定回数繰り返すことにより、コイルパターンを形成する。最後にフェライトペーストを所定回数印刷し、外層用のフェライトペースト層を形成して、基板上に素子の集合体である積層体ブロックを得る。
【0063】
次に、積層体ブロックを基板にとりつけたまま各層を圧着した後、積層体ブロックを冷却する。冷却後、積層体ブロックから、金属プレート、次いで、PETフィルムを剥離する。この積層体ブロックをダイサー等で切断し、素子に個片化する。
【0064】
得られた素子をバレル処理することにより、素子の角を削り、丸みを形成する。バレル処理は、未焼成の積層体に対して行ってもよく、焼成後の積層体に対して行ってもよい。また、バレル処理は、乾式または湿式のどちらであってもよい。バレル処理は、素子同士を共擦する方法であってもよく、メディアと一緒にバレル処理する方法であってもよい。
【0065】
バレル処理後、例えば910℃以上930℃以下の温度で素子を焼成し、積層コイル部品1の素体2を得る。
【0066】
(4-2)外部電極の形成
次に、素体2の端面にAgおよびガラスを含む外部電極形成用Agペーストを塗布し、焼き付けすることで下地電極を形成する。次に、電解めっきで下地電極の上に、Ni被膜、Sn被膜を順次形成することにより、外部電極を形成し、図1に示すような積層コイル部品1が得られる。
【0067】
本開示は、上記の製造方法、具体的には
絶縁体部と、該絶縁体部に埋設され、複数のコイル導体が電気的に接続されたコイルとを含む素体と、
上記コイルの両端部に設けられた引き出し部と、
上記絶縁体部の表面に設けられ、上記引き出し部と電気的に接続された外部電極と
を含む積層コイル部品の製造方法であって、
上記コイルの引き出し部となる部分に第1導電性ペーストで、第1導電性ペースト層(上記低収縮導電性ペースト層24に対応する)を形成すること、
上記コイルの少なくとも巻き線部となる部分に第2導電性ペーストで、第2導電性ペースト層(上記高収縮導電性ペースト層25に対応する)を形成すること、
を含み、
焼成時における上記第1導電性ペーストの収縮率が、上記第2導電性ペーストの収縮率よりも小さいことを特徴とする製造方法
を提供する。
【0068】
好ましい態様において、本開示の製造方法は、下記の
絶縁体部と、該絶縁体部に埋設され、複数のコイル導体が電気的に接続されたコイルとを含む素体と、
上記コイルの両端部に設けられた引き出し部と、
上記絶縁体部の表面に設けられ、上記引き出し部と電気的に接続された外部電極と
を含む積層コイル部品の製造方法であって、
第1絶縁層(上記フェライトペースト層22に対応する)を形成すること、
上記第1絶縁層上であって、コイルの引き出し部となる部分に第1導電性ペーストで、第1導電性ペースト層(上記低収縮導電性ペースト層24に対応する)を形成すること、
上記第1絶縁層上であって、コイル導体となる部分全体に第2導電性ペーストで、第2導電性ペースト層(上記高収縮導電性ペースト層25に対応する)を形成すること、
上記第1絶縁層上であって、上記第1導電性ペースト層および第2導電性ペースト層が形成されていない領域に、第2絶縁層(上記フェライトペースト層26に対応する)を形成すること、
上記第2絶縁層上に、第3絶縁層(上記フェライトペースト層27に対応する)を形成すること、
を含み、
焼成時における上記第1導電性ペーストの収縮率が、上記第2導電性ペーストの収縮率よりも小さいことを特徴とする。
【0069】
以上、本発明の1つの実施形態について説明したが、本実施形態は種々の改変が可能である。
【実施例
【0070】
実施例
・フェライトペーストの調製
Fe、ZnO、CuO、およびNiOの粉末を、これらの合計に対してそれぞれ、49.0モル%、25.0モル%、8.0モル%、および残部となるように秤量した。これらの粉末を、混合および粉砕し、乾燥し、700℃で仮焼して、仮焼粉末を得た。この仮焼粉末に、所定量のケトン系溶剤、ポリビニルアセタール、およびアルキド系可塑剤を加え、プラネタリーミキサーで混錬した後、さらに3本ロールミルで分散することでフェライトペーストを作製した。
【0071】
・コイル導体用導電性ペーストの調製
導電性材料として、所定量の銀粉末を準備し、オイゲノール、エチルセルロース、および分散剤と、プラネタリーミキサーで混錬した後、3本ロールミルで分散することで、コイル導体用導電性ペーストを作製した。
【0072】
上記の導電性ペーストの調製において、PVCを調整することにより、焼成した時の収縮率が異なる二種類の導電性ペースト(A)および(B)を作製する。
(A)高収縮導電性ペースト(800℃で収縮率22%)
(B)低収縮導電性ペースト(800℃で収縮率16%)
【0073】
・樹脂ペーストの調製
イソホロンに、アクリル樹脂を混合することにより、樹脂ペーストを調整した。
【0074】
・積層コイル部品の作製(実施例1~7)
上記のフェライトペースト、高収縮導電性ペースト、低収縮導電性ペーストおよび樹脂ペーストを用いて、図3図8に示す手順により、集合体である積層体ブロックを得た。この際、実施例1~7の試料について、引き出し部における高収縮導電性ペースト層および低収縮導電性ペーストの合計の厚みは、それぞれ、73、75、80、90、99、108および118μmとし、巻き線部における高収縮導電性ペースト層の厚みは、70μmとした。また、巻き線部における高収縮導電性ペースト層に挟まれたフェライトペースト層の厚みは、20μmとした。
【0075】
次に、積層体ブロックを基板にとりつけたまま各層を圧着した後、積層体ブロックを冷却した。冷却後、積層体ブロックから、金属プレート、次いで、PETフィルムを剥離し、積層体ブロックをダイサー等で切断し、素子に個片化した。得られた素子をバレル処理することにより、素子の角を削り、丸みを形成した。バレル処理後、920℃の温度で素子を焼成し、素体を得た。
【0076】
次に、素体の端面にAgおよびガラスを含む外部電極形成用Agペーストを塗布し、焼き付けすることで下地電極を形成した。次に、電解めっきで下地電極の上に、Ni被膜、Sn被膜を順次形成することにより、外部電極を形成して、実施例の積層コイル部品を得た。
【0077】
比較例
図5に示す低収縮導電性ペースト層の形成を行わないこと以外は、上記実施例と同様にして、比較例の積層コイル部品を得た。
【0078】
評価
・外形寸法
実施例および比較例における試料(積層コイル部品)は、いずれもL(長さ)=1.6mm、W(幅)=0.8mm、T(高さ)=0.8mmであった。
【0079】
・引き出し部の欠陥
実施例および比較例の各試料20個について、試料を垂直になるように立てて、試料の周りを樹脂で固めた。このときLT側面が露出するようにした。研磨機で試料のW方向に研磨を行い、引き出し部の略中央部が露出する深さで研磨を終了し、LT断面を露出させた。研磨によるコイル導体のだれを除去するために、研磨終了後、イオンミリング(株式会社日立ハイテク社製イオンミリング装置IM4000)により研磨表面を加工した。引き出し部をSEMで観察し、引き出し部とフェライト層の間に隙間が生じている試料を計数した結果、実施例試料は0個、比較例試料は20個であった。
【0080】
・引き出し部の寸法
上記で研磨した実施例試料の引き出し部におけるコイル導体の厚みと巻き線部におけるコイル導体の厚みを測定した。実施例1~7それぞれに関して、試料3個について測定し、その平均を求めた結果、引き出し部の厚みは、それぞれ42、44、48、57、64、72および80μmであり、巻き線部の厚みは40.0μmであった。同様に、低収縮銀ペーストを印刷していない比較例試料についても、引き出し部におけるコイル導体の厚みと巻き線部におけるコイル導体の厚みを測定した。試料3個について測定し、その平均を求めた結果、引き出し部の厚みは40.0μmであり、巻き線部の厚みは40.0μmであった。結果を下記表1にまとめる。
【0081】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0082】
本開示の積層コイル部品は、インダクタなどとして幅広く様々な用途に使用され得る。
【符号の説明】
【0083】
1…積層コイル部品
2…素体
4,5…外部電極
6…絶縁体部
7…コイル
8…巻き線部
9…引き出し部
10…コイル導体
11…空隙
12…低収縮層
13…高収縮層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8