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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】粘着層付壁紙
(51)【国際特許分類】
   D06N 7/00 20060101AFI20220705BHJP
   B32B 13/08 20060101ALI20220705BHJP
   E04F 13/07 20060101ALI20220705BHJP
   D21H 27/20 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
D06N7/00
B32B13/08
E04F13/07 B
D21H27/20 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019069592
(22)【出願日】2019-04-01
(65)【公開番号】P2020169397
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】浅山 良行
(72)【発明者】
【氏名】塚田 力
(72)【発明者】
【氏名】中村 洋平
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-007993(JP,A)
【文献】実開平07-038199(JP,U)
【文献】特開2002-088678(JP,A)
【文献】実開昭52-018205(JP,U)
【文献】特開2016-069854(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
C09J1/00-5/10
9/00-201/10
D06N1/00-7/06
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主としてセルロース材料からなる基材を有する壁紙であって、前記基材の片面にホットメルト樹脂から成るホットメルト接着層が積層され、
前記壁紙の前記ホットメルト接着層を石膏ボードに密着させて100°Cで1分間加熱した後、JIS K 6854-1に準拠して測定した90度剥離力が5N/50mm~12N/50mmであり、
前記ホットメルト樹脂の温度T1°Cにおける貯蔵弾性率をG1とし、温度T2°Cにおける貯蔵弾性率をG2としたとき、G2/G1≧1000であり、且つ、T2-T1≦40であることを満たす温度T1℃および温度T2℃が存在することを特徴とする壁紙。
【請求項2】
T1<100であり、且つ、T2>100である請求項1記載の壁紙。
【請求項3】
前記ホットメルト接着層が前記基材上に非連続に設けられた請求項1または2のいずれかに記載の壁紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙を主体とする壁紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
壁紙などの内装材の表面材料として、従来より多く用いられているポリ塩化ビニルシート、いわゆるビニル壁紙は、壁紙の種類の中で大きな比率を占めているが、燃焼時にダイオキシンが発生する等の問題から、ポリ塩化ビニルシートを使用しない紙が主素材である紙壁紙が求められるようになってきた。
【0003】
一般に、壁紙の貼付け施工時では、壁紙の裏打紙面に酢酸ビニル、エチレン酢酸ビニル、アクリル系などのエマルジョン、ポリビニルアルコールなどの水溶性の合成樹脂糊剤、でんぷんなどの天然系植物性の糊剤を単独または組み合わせて塗布し、壁に貼り付けるといういわゆる糊付け溜めの施工法が用いられている。この場合、糊が水分を多量に有するため、糊の乾燥時間、いわゆるオープンタイムが長く、貼り付け位置の調整には好都合である。しかしながら糊に含まれる水分が壁紙に移行し紙が伸張し、その後の乾燥で収縮するため、壁紙を貼り付けた端部同士の隣接部位では目開きと称する隙間が出るなど、問題があった。
【0004】
また、壁紙と壁紙の被接着部の石膏ボードの紙面との接着には、前述の如く水系の樹脂エマルジョンや澱粉水溶液などが用いられるため、両者の紙が水分を含むことになり、この水分を蒸発除去するための熱エネルギーが必要となり、接着に要するコストアップの要因となっていた。さらに、壁紙の貼り替え時には被接着面の石膏ボードに壁紙の接着部が残るか、石膏ボードの紙面がはがれるなどして、上から貼る新たな壁紙が貼り にくいだけでなく、凹凸が残るため、パテ埋め平坦化作業など余分な作業が発生し貼り替え作業は作業量が多く問題であった。
【0005】
このため、水分による収縮を考慮した施工や、パテ埋め作業には、熟練を要した業者による施工が必要で、個人のDIY施工は難しく、近年の熟練工不足、人手不足の状況では、より簡易で短時間低コストの施工が可能な壁紙と施工方法が求められていた。
【0006】
特許文献1には、樹脂フィルム層、天然パルプシート層、水溶性粘着剤層、剥離シートを順に積層した壁紙が提案されている。特許文献1に記載の壁紙は、施工時に剥離シートを剥がして施工面に貼り付けることで施工が完了するものである。
しかしながら、特許文献1に記載の壁紙は、一度貼ってしまうと剥がして貼りなおすことができないため、施工の際の位置合わせに熟練を要するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-280699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記のような問題を解決しようとするものであり、水系の樹脂エマルジョンや澱粉水溶液などの糊を用いず、乾燥収縮を発生させにくく、また、水分乾燥のエネルギーを必要とせず、さらに、位置あわせ、仮止めなどの作業を簡便化させ、さらに、貼り替え時の作業量を軽減させることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を有する。
〔1〕主としてセルロース材料からなる基材を有する壁紙であって、前記基材の片面にホットメルト樹脂から成るホットメルト接着層が積層され、前記壁紙の前記ホットメルト接着層を石膏ボードに密着させて100°Cで1分間加熱した後、JIS K 6854-1に準拠して測定した90度剥離力が5N/50mm~12N/50mmであり、前記ホットメルト樹脂の温度T1°Cにおける貯蔵弾性率をG1とし、温度T2°Cにおける貯蔵弾性率をG2としたとき、G2/G1≧1000であり、且つ、T2-T1≦40であることを満たす温度T1℃および温度T2℃が存在することを特徴とする壁紙。
〔2〕T1<100であり、且つ、T2>100である〔1〕に記載の壁紙。
〔3〕前記ホットメルト接着層が前記基材上に非連続に設けられた〔1〕または〔2〕に記載の壁紙。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、施工時に乾燥収縮による歪みや皺を発生させにくく、また、水分乾燥のエネルギーを必要とせず、更に、位置あわせ、仮止め、撤去、貼り替えを容易に行うことが可能な壁紙を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の壁紙は、シート状基材の一方の面に粘着層を有する。
【0012】
本発明の壁紙の基材は、主としてセルロース材料からなるものであって、公知の製法で作られる紙、不織布などが挙げられる。
【0013】
基材を主としてセルロース材料からなるものとすることによって、施工時に壁紙の貼り直しを行っても壁紙に部分的な延びが起き難く、延びによる皺が発生し難いという効果が得られる。
セルロース材料としては、天然パルプ、ビスコースレーヨン、木綿などが挙げられ、これらセルロース材料が繊維状であり、繊維を公知の湿式または乾式の抄紙法によってシート状に形成されたものが好ましい。
本発明の効果を損なわない範囲で、本発明の壁紙の基材中にポリオレフィン、塩化ビニル、ポリエステル、アクリルなどの合成樹脂繊維を含んでいてもよく、合成樹脂フィルムを天然パルプからなる基材の片面又は両面に貼り合せてもよい。
【0014】
本発明の壁紙の基材の一方の面にはホットメルト接着層は、ホットメルト接着層を石膏ボードに密着させて100°Cで1分間加熱した後、JIS K 6854-1に準拠して測定した90度剥離力が5N/50mm~12N/50mmであること、および、ホットメルト接着層の温度T1°Cにおける貯蔵弾性率をG1とし、温度T2°Cにおける貯蔵弾性率をG2としたとき、G2/G1≧1000であり、且つ、T2-T1≦40であることを満たす温度T1℃および温度T2℃が存在することの条件を満たすものである。
【0015】
ホットメルト接着層が含有する樹脂、添加剤の種類や配合比、基材面のホットメルト接着層の被覆面積率や被覆パターンを適宜選択することによって上記条件を満たすホットメルト接着層を得ることができる。
【0016】
本発明のホットメルト接着層が含有する樹脂としては、エチレン・不飽和エステル共重合樹脂、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリウレタン等が挙げられる。
【0017】
本発明のホットメルト接着層が含有する添加剤としては、粘着付与剤、ワックス、顔料等が挙げられる。
【0018】
本発明のホットメルト接着層に含有できる粘着付与剤としては脂肪族系炭化水素樹脂、脂環族系炭化水素樹脂、芳香族炭化水素樹脂、ポリテルペン系樹脂、ロジン系樹脂、スチレン系樹脂、クマロンインデン系樹脂等が挙げられる。
【0019】
本発明のホットメルト接着層に含有できるワックスとしては、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等の合成ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油ワックス、木ロウ、カルナバロウ、ミツロウ等の天然ワックス等が挙げられる。
【0020】
本発明のホットメルト接着層に含有できる顔料としてはシリカ、炭酸カルシウム、天然クレー、有機顔料などが挙げられる。
【0021】
本発明の壁紙の基材とホットメルト接着層の積層方法としては、例えば高温で溶融したホットメルト接着剤をノズルから基材上へ連続又は非連続に塗布し、冷却固化させて層を形成するメルトブロー法が挙げられる。
【0022】
上記の壁紙は、内装材としての隠蔽性や嵩高感を与えるために繊度の小さい繊維や大きい繊維の各種の組み合わせ、さらには填料と称される鉱物成分や、消臭や抗菌機能を持つものも用いられる。ただし、加熱により溶融するものは用いることができない。上記の繊維類をウェブ状に集積して得られるウェブ、抄紙シートは、乾式法で作成されてもよく、湿式法によって作製されてもよい。
【0023】
これらのウェブ、抄紙シートの、1mあたりのいわゆる坪量は、50~200g/m、好ましくは70~150g/mの範囲にあることが望ましく、一般的な紙シートである。得られた壁紙は、一般的に表面塗工、印刷、着色の処理やエンボスなどの後加工が施される。
【0024】
本発明においては、防炎紙などの裏打紙と貼り合わせる場合は、その接合剤として、ポリビニルアルコール系あるいは酢酸ビニル共重合体、澱粉などの種々の結合剤がある。
【0025】
これらのウェブ、抄紙シートによる壁紙の接着層を作製する方法は溶融状態のホットメルト樹脂を加熱された空気と同時に押し出す、いわゆるメルトブロー法を使用して連続または非連続状に少なくとも一方に塗布することによって両者を接着する方法や、ホットメルト樹脂の押し出しにはノズルを用いる方法やスリットを用いる方法などがある。また、粉末状のホットメルト樹脂を連続的にまたは非連続状に塗布し、溶融することにより、両者を接着する方法、あるいは、ホットメルト樹脂を溶融させた後、塗被する方法である。これらの接着層の積層方法は水系エマルジョンによる方法に較べて、乾燥工程がないため壁紙の紙シートの水分乾燥による収縮がなく、より寸法制度の良い壁紙を提供することができる。
【0026】
本発明において壁紙の紙シートにホットメルト樹脂を接着積層する量は3~50g/m である。合成樹脂の量が5g/m未満の場合には十分な接着強度が得られず、再剥離の後の接着強度が得られないので、望ましくない。一方、ホットメルト樹脂の量が50g/mを越えると、不経済であり、望ましくない。
【0027】
ホットメルトの量によって、壁紙貼りと剥離の作業効率が変わるので、望ましい量を調整することが重要である。
【実施例
【0028】
以下、本発明を実施例により説明する。
〔実施例1〕
【0029】
シンコール株式会社製壁紙:ウォールプロSW2213の裏面に、東洋アドレ株式会社製ホットメルト樹脂:トヨメルトP-751を200℃にて溶融後、塗工量40g/mになるよう塗布し、室温まで冷却し評価測定用シートを得た。
〔比較例1〕
【0030】
シンコール株式会社製壁紙:ウォールプロSW2213の裏面に、東洋アドレ株式会社製ホットメルト樹脂:トヨメルトP-752を180℃にて溶融後、塗工量40g/mになるよう塗布し、室温まで冷却し評価測定用シートを得た。
【0031】
(接着力測定方法)
実施例1および比較例1で作成したシートを50mm×100mmのサイズに切り出し、吉野石膏株式会社製石膏ボード:タイガーボード(以下、石膏ボード)の表面にアイロンにて100℃10秒間圧着させた。圧着後、23℃環境下にて180度引きはがし法(ピール法)により測定サンプル幅;50mm、引張速度;300mm/分で接着層と石膏ボードから引きはがしたときの接着力をテンシロン引張試験機[株式会社島津製作所製:オートグラフ]にて測定した。
(接着力評価基準)
上記方法で得られた接着力が5.0N/25mm以上であれば、壁紙として良好な接着力を有しているとみなす。
【0032】
(剥離性評価方法)
評価測定用シート50mm×50mmのサイズに切り出し、石膏ボードの表面にアイロンにて100℃10秒間圧着し、23℃環境下にて石膏ボードと十分接着していることを確認後、150℃に再加熱を行い、被接着面よりシートを捲り剥がし、剥離状態を以下の評価基準に基づいて評価した。
(剥離性評価基準)
○:石膏ボード上にホットメルト樹脂の付着が見られない。
×:石膏ボード上にホットメルト樹脂の付着が見られる。
【0033】
(再接着性評価方法)
剥離性評価試験後シートを用いて、再度石膏ボードの表面にアイロンにて100℃10秒間圧着し、接着性を以下の評価基準に基づいて評価した。
(再接着性評価基準)
○:接着が強固で基材が破れないぎりぎりの力で剥がそうとしても剥がれない。
×:接着が弱く、基材が破れない程度の力で剥がれてしまう。
【0034】
上記評価結果を表1に示した。
表1に示したとおり、本願発明の壁紙は、施工が容易で加熱による簡便な方法で剥離することができ、且つ再接着が可能な優れた壁紙であった。
【0035】
【表1】