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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】分析装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/04 20060101AFI20220705BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20220705BHJP
【FI】
H01J49/04 950
G01N27/62 F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019100929
(22)【出願日】2019-05-30
(65)【公開番号】P2020194746
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(72)【発明者】
【氏名】古田 匡智
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-073164(JP,U)
【文献】登録実用新案第3208331(JP,U)
【文献】実開昭61-083249(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/04
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に真空室を有し、前記真空室内が真空状態とされる筐体と、
前記真空室に連通する開口部が形成されたベース部と、
前記開口部を開閉するための扉と、
前記ベース部及び前記扉に設けられ、前記扉が閉じられた状態で互いに接近した第1状態となり、前記ベース部と前記扉とを近付ける方向に磁力を作用させることにより互いに保持される1対の保持部材と、
前記扉が閉じられて前記真空室内が真空状態とされた状態で、圧縮されて前記開口部を密閉させるシール部材と、
前記扉が閉じられた状態で、前記ベース部と前記扉とを近付ける方向に対して直交する面内において前記1対の保持部材の少なくとも一方を移動させることにより、前記1対の保持部材を互いに離間した第2状態とする解除機構とを備える、分析装置。
【請求項2】
前記扉は、回転軸を中心に回転されることにより、前記開口部を開閉可能であり、
前記解除機構は、前記扉における前記回転軸側とは反対側に設けられた操作部を有し、当該操作部が操作されることにより、前記扉に設けられた前記保持部材が移動する、請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記扉は、前記1対の保持部材が前記第2状態のときに開閉可能であり、
前記扉を閉じたときに、前記1対の保持部材の間に作用する磁力によって、前記1対の保持部材が前記第2状態から前記第1状態となる、請求項1又は2に記載の分析装置。
【請求項4】
前記シール部材は、基準線に対して対称配置されており、
前記1対の保持部材は、前記基準線に対して対称に複数対設けられている、請求項1~3のいずれか一項に記載の分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
分析装置の中には、内部に真空室を有する筐体を備え、真空室内を真空状態として分析を行うものがある。この種の分析装置の一例である質量分析装置では、真空室内でイオンが質量電荷比に基づいて分離され、分離されたイオンが検出器で検出される(例えば、下記特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示された質量分析装置では、MALDI(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization:マトリックス支援レーザ脱離イオン化法)により試料のイオン化が行われる。真空室は、試料のイオン化を行う空間である試料チャンバと、イオンの分離及び検出を行う空間である分析チャンバとに分けられている。試料チャンバにはドアが設けられており、当該ドアを開放することにより試料チャンバ内に試料を設置することができる。分析時には、ドアが閉じられ、試料チャンバ及び分析チャンバが真空状態とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-91385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
真空室を開閉するための扉は、例えば試料の出し入れの際などに頻繁に開閉されるため、簡単に開閉できることが好ましい。そこで、扉を閉じた状態で保持するための保持部材として、磁石が用いられる場合がある。保持部材として磁石を用いた構成であれば、扉を閉じるだけで、磁力により扉を閉状態のまま保持することができる。
【0006】
扉により開閉される開口部の周縁部には、環状のシール部材が設けられている。扉が閉状態のときには、扉がシール部材に当接する。扉を閉状態として真空室内を真空状態にする際、扉とシール部材との間に隙間が存在する場合には、当該隙間から真空室内に空気が流入し、真空室内を良好に真空状態とすることができない。このような観点では、扉を閉状態で保持するための磁力は、大きい方が好ましい。
【0007】
一方で、扉を閉状態で保持するための磁力が大きすぎると、ユーザが扉を開けるときに大きな力が必要となるため、ユーザにとっては不便になってしまう。そのため、強力な磁力で扉を閉状態で保持することができ、かつ、扉を容易に開閉できるような構造が望まれる。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、強力な磁力で扉を閉状態で保持することができ、かつ、扉を容易に開閉できる分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、筐体と、ベース部と、扉と、1対の保持部材と、シール部材と、解除機構とを備える分析装置である。前記筐体は、内部に真空室を有し、前記真空室内が真空状態とされる。前記ベース部には、前記真空室に連通する開口部が形成されている。前記扉は、前記開口部を開閉するためのものである。前記1対の保持部材は、前記ベース部及び前記扉に設けられ、前記扉が閉じられた状態で互いに接近した第1状態となり、前記ベース部と前記扉とを近付ける方向に磁力を作用させることにより互いに保持される。前記シール部材は、前記扉が閉じられて前記真空室内が真空状態とされた状態で、圧縮されて前記開口部を密閉させる。前記解除機構は、前記扉が閉じられた状態で、前記ベース部と前記扉とを近付ける方向に対して直交する面内において前記1対の保持部材の少なくとも一方を移動させることにより、前記1対の保持部材を互いに離間した第2状態とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の態様によれば、扉が閉じられた状態では、1対の保持部材が接近し、ベース部と扉とを近付ける方向に作用する磁力によって互いに保持される。したがって、1対の保持部材に作用する磁力を大きく設定すれば、強力な磁力で扉を閉状態で保持することができる。その結果、扉を閉状態として真空室内を真空状態にする際、扉とシール部材との間に隙間が生じにくいため、真空室内を良好に真空状態とすることができる。
【0011】
このように、1対の保持部材に作用する磁力が大きい場合であっても、ベース部と扉とを近付ける方向に対して直交する面内において、1対の保持部材の少なくとも一方を小さい力で移動させることができる。これにより、1対の保持部材を容易に離間させて、扉を容易に開閉することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】分析装置の一実施形態を示した概略図である。
図2】開閉機構の斜視図である。
図3】解除機構の構成について説明するための扉の部分斜視図である。
図4】1対の保持部材が保持状態のときの開閉機構の断面図である。
図5】1対の保持部材が非保持状態のときの開閉機構の断面図である。
図6】扉を閉状態から開状態にしたときの開閉機構の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.分析装置の全体構成
図1は、分析装置1の一実施形態を示した概略図である。この分析装置1は、イオンを質量電荷比に基づいて分離し、分離されたイオンを検出することにより分析を行う質量分析装置である。特に、本実施形態では、MALDI(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization:マトリックス支援レーザ脱離イオン化法)により試料のイオン化を行う質量分析装置について説明する。
【0014】
分析装置1は、中空状の筐体2を備えている。筐体2内には、ステージ21、電極22、イオンレンズ23、偏向部24、イオンレンズ25、イオントラップ26及び検出器27などが、この順序で並べて配置されている。また、筐体2の外部には、レーザ光源5、ハーフミラー4及びカメラ3などが配置されている。
【0015】
ステージ21上には、分析対象となる試料Sが載置される。ステージ21は、駆動部(図示せず)の駆動により、水平方向及び鉛直方向に移動可能となっている。レーザ光源5は、ステージ21上の試料Sに対してレーザ光を照射する。具体的には、レーザ光源5からのレーザ光が、ハーフミラー4で反射して筐体2内に入射し、ステージ21に対して垂直方向に照射される。
【0016】
試料Sには、レーザ光を吸収しやすく、かつ、イオン化しやすいマトリックス物質が予め塗布され、マトリックス物質に試料分子が取り込まれた状態で微結晶化されている。これにより、試料Sの表面にレーザ光が照射されると、マトリックス物質分子とともに試料分子が気化及びイオン化される。生成されたイオンは、電圧が印加された電極22の作用により、上方へと引き出され、イオンレンズ23へと導かれる。
【0017】
イオンレンズ23に導かれたイオンは、当該イオンレンズ23の作用により飛行方向が集束され、偏向部24に到達する。偏向部24には、複数の電極241,242,243,244が設けられている。この例では、それぞれロッド状に形成された4つの電極241,242,243,244が、互いに間隔を隔てて平行に配置されている。4つのうちの2つの電極241,243には、試料Sから生成されるイオンと逆極性の電圧が印加される。一方、残りの2つの電極242,244には、試料Sから生成されるイオンと同極性の電圧が印加される。これにより、偏向部24内に到達したイオンには、図1に矢印で示す方向に力が作用し、飛行方向が変更される。
【0018】
本実施形態では、偏向部24によりイオンの飛行方向が90°偏向される。すなわち、試料Sから鉛直上方に向かうイオンは、偏向部24において水平方向に偏向され、イオンレンズ25へと導かれる。イオンレンズ25へと導かれたイオンは、当該イオンレンズ25の作用により飛行方向が集束され、イオントラップ26に到達する。イオントラップ26には、予め定められた範囲内の質量電荷比のイオンがトラップされる。そして、イオントラップ26内にトラップされたイオンが、所定のタイミングで放出され、検出器27により検出される。
【0019】
筐体2の内部には、真空室28が形成されている。分析時には、真空ポンプ(図示せず)が駆動されることにより筐体2内が減圧され、真空室28内が真空状態とされる。試料Sから検出器27までのイオンの経路は、真空室28内に位置している。真空室28は、筐体2内の全体に形成されていてもよいし、一部分にのみ形成されていてもよい。また、互いに連通する複数の真空室28が筐体2内に形成され、分析時に各真空室28内が異なる圧力に減圧されてもよい。
【0020】
カメラ3には、図示しない光源に照らされた試料Sからの光とレーザ光が入射する。これにより、試料Sの表面画像とレーザ光をカメラ3で撮像することができる。ユーザは、カメラ3で撮像される試料Sの表面画像を確認しながら、ステージ21を水平方向又は鉛直方向に適宜移動させることにより、試料Sに対するレーザ光の照射位置を調整することができる。
【0021】
本実施形態では、ステージ21、電極22、イオンレンズ23及び偏向部24が、鉛直方向に並べて配置されている。また、偏向部24、イオンレンズ25、イオントラップ26及び検出器27が、水平方向に並べて配置されている。このように、偏向部24によりイオンの飛行方向が90°偏向される構成においては、試料Sから検出器27までのイオンの経路がL字状となっている。
【0022】
偏向部24に設けられる電極は、ロッド状に限らず、例えば平板状又は湾曲状に形成されていてもよい。また、偏向部24に設けられる電極の数は、4つに限られるものではない。ただし、試料Sから生成されるイオンがL字状に偏向されるような構成に限らず、90°未満の角度で偏向されるような構成であってもよいし、偏向されずに直線状に検出器27へと導かれるような構成であってもよい。
【0023】
2.真空室の開閉機構
図1に示すように、本実施形態に係る分析装置1には、真空室28を開閉するための開閉機構10として、ベース部6及び扉7が備えられている。ベース部6は、筐体2に対して外側から取り付けられている。扉7は、ベース部6に対して開閉可能に取り付けられている。扉7は、図1に実線で示す状態で、真空室28を閉塞する閉状態となる。この状態から、所定の回転軸Aを中心に扉7を回転させれば、図1に二点鎖線で示すように、扉7は真空室28を開放する開状態となる。回転軸Aは、例えば水平方向に延びている。
【0024】
図2は、開閉機構10の斜視図である。開閉機構10を構成するベース部6及び扉7は、それぞれ長方形状の板部材により形成されている。ベース部6が筐体2に固定された状態では、ベース部6及び扉7は、それらの長手方向が水平方向に延びるように配置される。
【0025】
ベース部6には、長手方向に延びる開口部61が形成されている。開口部61は、ベース部6を厚み方向に貫通している。筐体2には、ベース部6に対向する位置に開口部(図示せず)が形成されている。これにより、ベース部6が筐体2に固定された状態では、ベース部6の開口部61が筐体2内の真空室28に連通している。扉7は、ベース部6に対して回転されることにより、開口部61を開閉する。
【0026】
開口部61は、鉛直方向に延びる縦基準線L1に対して、水平方向に対称な形状に形成されている。また、開口部61は、水平方向に延びる横基準線L2に対して、鉛直方向に対称な形状に形成されている。すなわち、開口部61は、縦基準線L1及び横基準線L2に対して対称配置されている。これにより、開口部61は、縦基準線L1に対して平行に延びる1対の短辺と、横基準線L2に対して平行に延びる1対の長辺とを有する、長方形状に形成されている。
【0027】
開口部61の周縁部には、シール部材62が設けられている。シール部材62の材料は、特に限定されるものではないが、例えばゴムなどの弾性体により形成されている。シール部材62は、開口部61よりも大きい環状の部材であり、開口部61の周囲を取り囲むようにベース部6に固定されている。ベース部6におけるシール部材62が固定された面は、扉7を閉じた状態で扉7に対向する外面60である。ベース部6の外面60は平坦面であり、当該外面60に取り付けられたシール部材62の表面は、外面60から環状に突出している。
【0028】
シール部材62は、鉛直方向に延びる縦基準線L1に対して、水平方向に対称な形状に形成されている。また、シール部材62は、水平方向に延びる横基準線L2に対して、鉛直方向に対称な形状に形成されている。すなわち、シール部材62は、縦基準線L1及び横基準線L2に対して対称配置されている。これにより、シール部材62は、縦基準線L1に対して平行に延びる1対の短辺と、横基準線L2に対して平行に延びる1対の長辺とを有する、長方形状に形成されている。シール部材62の長辺は開口部61の長辺よりも長く、シール部材62の短辺は開口部61の端面よりも長い。
【0029】
扉7が閉じられたときには、扉7の内面70がベース部6の外面60に対向する。扉7の内面70は平坦面であり、扉7が閉じられた状態では、ベース部6の外面60から環状に突出するシール部材62の表面に扉7の内面70が当接する。この状態で真空ポンプ(図示せず)が駆動されることにより、真空室28内が真空状態とされると、扉7の内面70によりシール部材62が圧縮される。このとき、環状のシール部材62全体が圧縮されることにより、シール部材62と扉7の内面70との間の隙間がなくなり、開口部61が密閉される。
【0030】
扉7が閉じられ、真空室28内が真空状態とされる前の状態では、保持部材8により扉7が閉状態で保持される。保持部材8は、例えば磁性体81と磁石82により構成されている。磁性体81はベース部6に設けられ、磁石82は扉7に設けられている。磁性体81は、例えば鉄、ニッケル、コバルト又はフェライトを含む材料により形成された強磁性体である。磁石82は、例えば永久磁石である。本実施形態では、1対の保持部材8が、縦基準線L1に対して対称に2対設けられている。
【0031】
磁性体81は、ベース部6における外面60の近傍に設けられている。また、磁石82は、扉7における内面70の近傍に設けられている。扉が閉じられた状態では、磁性体81と磁石82とが対向し、互いに接近した保持状態(第1状態)となる。保持状態では、磁性体81と磁石82が磁力で互いに吸引され、ベース部6と扉7とを近付ける方向に磁力が作用することにより、扉7が閉状態のまま保持される。
【0032】
扉7には、磁性体81と磁石82とを互いに離間させることにより非保持状態(第2状態)にするための解除機構9が設けられている。解除機構9には、例えばユーザにより操作される操作部91が含まれる。操作部91は、扉7における回転軸A側とは反対側に設けられている。操作部91は、扉7に対してスライド可能であり、扉7を閉じた状態で上方に位置する扉7の上面71から突出可能に構成されている。本実施形態では、各保持部材8に対応付けて、2対の解除機構9が設けられている。
【0033】
3.保持部材及び解除機構の具体的構成
図3は、解除機構9の構成について説明するための扉7の部分斜視図である。図4は、1対の保持部材8が保持状態のときの開閉機構10の断面図である。
【0034】
解除機構9は、上述の操作部91の他に、軸部92を備えている。操作部91及び軸部92は、一体的に形成された棒状の部材である。軸部92は、例えば一直線状に延びる円柱状に形成されている。扉7には、軸部92が挿通される挿通孔72が、扉7の内面70に対して平行に延びるように形成されている。軸部92は、挿通孔72に沿ってスライド可能に保持されている。操作部91は、軸部92よりも大径の円板状に形成されている。操作部91は、軸部92の上端から径方向に張り出したフランジ状に形成されている。
【0035】
扉7の上面71には、挿通孔72の上端に連通する凹部711が形成されている。凹部711は、操作部91に対応する形状を有している。すなわち、凹部711の内径が操作部91の外径に対応しており、凹部711の深さが操作部91の厚みに対応している。これにより、操作部91を鉛直下方にスライドさせた場合には、凹部711内に操作部91が受け入れられるようになっている。凹部711内に操作部91が受け入れられると、操作部91が扉7の上面71から突出しない状態となる。
【0036】
保持部材8を構成する磁石82は、解除機構9の軸部92に取り付けられている。磁石82は、例えば円板状であり、内面70側の表面821が内面70に対して平行である。磁石82は、扉7の内部に形成された空間73内に配置されている。空間73内には解除機構9の軸部92の一部が位置しており、この部分に磁石82が取り付けられている。磁石82の表面821は、内面70よりも空間73側に位置している。
【0037】
扉7の内部に形成された空間73は、軸部92に対して平行に延びている。軸部92に沿った空間73の長さは、磁石82の外径よりも大きい。これにより、軸部92が軸線方向に沿ってスライドされたときには、磁石82が空間73内で上下方向にスライド可能となっている。すなわち、磁石82は、空間73の上端に当接する位置と、空間73の下端に当接する位置との間で、一定の可動範囲内においてスライド可能となっている。
【0038】
磁性体81は、例えばねじ状に形成されている。具体的には、磁性体81は、軸部811と頭部812とが一体的に形成されたねじ状部材である。軸部811の外周面には、ねじ山が形成されている。頭部812は、軸部811よりも大径の円板状に形成されている。頭部812は、軸部811の一端から径方向に張り出したフランジ状に形成されている。
【0039】
ベース部6の外面60には、磁性体81がねじ込まれるねじ孔63が形成されている。磁性体81は、軸部811にワッシャ813が挿通された状態で、当該軸部811がねじ孔63にねじ込まれる。これにより、磁性体81の頭部812とベース部6の外面60との間にワッシャ813が挟まれた状態で、磁性体81がベース部6に固定される。磁性体81の頭部812における軸部811側とは反対側の表面814は、ベース部6の外面60に対して平行な平坦面となっている。
【0040】
頭部812の表面814には、例えば六角レンチなどの工具を挿入するための凹部815が形成されている。磁性体81をベース部6に固定する際には、凹部815内に工具が挿入され、当該工具に対する回転操作などの締め付け操作が行われる。磁性体81がベース部6に固定された状態では、磁性体81の頭部812がベース部6の外面60から突出している。
【0041】
上記のようなねじ状の磁性体81は、ステージ21を固定するための固定具としても使用できる。例えば、分析装置1を輸送する際には、振動などによりステージ21が移動して破損しないように、ステージ21を固定した方が好ましい場合がある。このような場合には、ステージ21が開口部61側に移動された上で固定板(図示せず)に固定され、当該固定板がねじ状の磁性体81を用いてベース部6に固定される。この場合、分析装置1の輸送後に、磁性体81をベース部6から取り外して固定板を除去した後、磁性体81をベース部6に再度取り付ければよい。
【0042】
図4に示すように扉7が閉じられた状態では、磁石82が、空間73の上端に当接する位置において磁性体81と対向し、磁性体81と磁石82とが互いに保持状態となる。この状態では、磁性体81の表面814が空間73内に位置している。保持状態において、磁石82の表面821と磁性体81の表面814とは、互いに平行である。このとき、磁石82の表面821と磁性体81の表面814とは、当接していてもよいし、微小な間隔を隔てて対向していてもよい。
【0043】
なお、磁性体81及び磁石82の少なくとも一方の位置合わせを行うための位置合わせ機構が設けられていてもよい。例えば、磁石82の位置合わせを行うための調整ねじ(図示せず)が設けられ、当該調整ねじをねじ込むことにより、磁石82の表面821を磁性体81の表面814に当接させた状態で、磁石82を固定できるような構成などであってもよい。
【0044】
4.扉の開閉操作
図5は、1対の保持部材8が非保持状態のときの開閉機構10の断面図である。図6は、扉7を閉状態から開状態にしたときの開閉機構10の断面図である。以下では、図4図6を参照して、扉7の開閉操作について説明する。
【0045】
分析中は、図4のように1対の保持部材8(磁性体81及び磁石82)が保持状態とされ、この状態で、真空室28内が真空状態とされる。分析終了後、ステージ21上の試料Sを取り出したり、別の試料Sをステージ21上に載置したりする際には、真空室28内が大気開放された後、扉7が開かれる。このとき、まず、ユーザが解除機構9の操作部91を下方に押し込むことにより、軸部92に取り付けられた磁石82が下方に移動する。
【0046】
すなわち、扉7が閉じられた状態で、ベース部6と扉7とを近付ける方向(水平方向)に対して直交する面内(鉛直面内)において、扉7に設けられた磁石82が下方に移動される。これにより、図5に示すように、磁石82が磁性体81から離間し、空間73の下端に当接する。この状態では、凹部711内に操作部91が受け入れられ、操作部91が扉7の上面71から突出しない状態となる。なお、「ベース部6と扉7とを近付ける方向に対して直交する面内」には、前記直交する面に対して若干傾斜する面内も含まれるものとする。
【0047】
図4に示す保持状態では、磁性体81と磁石82が同軸上に位置している。これに対して、図5に示す非保持状態では、磁性体81と磁石82が同軸上に位置していない。より具体的には、非保持状態では磁性体81の軸線に対して磁石82の軸線が偏心しており、磁石82の表面821の一部分のみが磁性体81の表面814に対向している。ただし、非保持状態では、磁石82の表面821の全体が磁性体81の表面814に対向しない位置まで、磁石82が磁性体81から離間されてもよい。
【0048】
図5に示す非保持状態では、磁性体81と磁石82の間に作用する磁力が弱まるため、扉7が図4の保持状態よりも容易に開閉可能となる。この状態から、図6に示すようにユーザが手Hで扉7を回転させることにより、扉7の内面70がベース部6の外面60から離間し、開口部61が開放される。ユーザは、図4に示す保持状態から、手Hの親指で操作部91を下方に押し込むことにより、図5に示す非保持状態とすることができる。そして、ユーザは、手Hの親指を操作部91に触れた状態のまま手Hで扉7を掴み、図6に示すように扉7を回転させることにより、ワンタッチで開口部61を開放することができる。
【0049】
扉7を閉じる際には、図6の状態から扉7が逆方向(図6における時計回り)に回転される。そして、扉7の内面70がベース部6の外面60に対向したときには、図5に示すように、磁性体81と磁石82が同軸上に位置しない状態となっている。このとき、磁性体81と磁石82の間に作用する磁力によって、磁石82が磁性体81側に引き付けられる。その結果、磁石82が上方へと移動して磁性体81と同軸上に位置し、磁性体81と磁石82が図4に示した保持状態となる。
【0050】
5.実験結果
非保持状態における磁性体81と磁石82の偏心量は、扉7を開くことができる程度に磁性体81と磁石82の間に作用する磁力が弱く、かつ、磁性体81と磁石82の間に作用する磁力によって磁石82を磁性体81側に移動させることができるような値に設定される。このような磁性体81と磁石82の偏心量の値を求めるために、以下のような実験を行った。
【0051】
磁石82として、直径8mm、長さ6mmの円筒形状のネオジム磁石を用いた。磁性体81として、呼び径6mm(M6)の鉄製のナットを用い、当該ナットを上下方向にスライド可能な可動部に固定した。可動部の重量は42gであった。磁石とナットが同軸上に位置する保持状態において、磁石とナットは非接触とし、その間隔は1.4mmとした。このとき、磁力によるナットの吸引力は約3.5Nであった。
【0052】
この状態から可動部を手で下方に移動させ、磁石とナットの偏心量を7mmとした状態で可動部から手を離したところ、磁石とナットの間に作用する磁力によって、磁石とナットが同軸上に位置する状態に戻った。このように、磁石の直径に近い偏心量で磁石とナットを遠ざけた場合であっても、磁石とナットの間に作用する磁力によって、非保持状態から保持状態に戻ることが確認できた。
【0053】
磁石とナットが、非接触ではなく、互いに接触した状態のときには、磁力によるナットの吸引力は約13.8Nであった。この場合、磁石とナットの間に作用する磁力は大きいが、磁石とナットが接触するため、非保持状態から保持状態になるときに摩擦抵抗が生じる。したがって、磁石とナットが互いに接触する場合には、非保持状態から保持状態に戻ることができる磁石とナットの偏心量が小さくなる。
【0054】
磁石とナットが同軸上に位置する保持状態において、磁石とナットの間隔を7.1mmまで広げた場合、磁力によるナットの吸引力は約0.4Nであった。磁石とナットの間隔が大きすぎると、非保持状態から保持状態に戻ることができる磁石とナットの偏心量が小さくなる。
【0055】
以上のような実験結果から、1対の保持部材8(磁性体81及び磁石82)は、可能な限り近付けた状態で非接触とすることが好ましい。
【0056】
6.変形例
開口部61及びシール部材62は、長方形状に限らず、正方形状などの他の矩形状に形成されていてもよいし、円形状又は楕円形状などの他の形状に形成されていてもよい。開口部61及びシール部材62は、縦基準線L1及び横基準線L2に対して対称配置された構成に限らず、縦基準線L1又は横基準線L2のいずれか一方に対して対称配置された構成、あるいは、縦基準線L1及び横基準線L2とは異なる基準線に対して対称配置された構成であってもよいし、対称配置されていない構成であってもよい。
【0057】
1対の保持部材8は、磁性体81がベース部6に設けられ、磁石82が扉7に設けられた構成に限らない。例えば、磁性体81が扉7に設けられ、磁石82がベース部6に設けられていてもよい。磁性体81は、ねじ部材により構成されるものに限らず、ねじ以外の態様で固定されてもよい。また、1対の保持部材8が、いずれも磁石により構成されていてもよい。
【0058】
保持部材8は、縦基準線L1に対して対称に2対設けられた構成に限らず、横基準線L2などの他の基準線に対して対称に2対設けられた構成であってもよい。また、保持部材8は、2対ではなく、1対だけであってもよいし、3対以上設けられていてもよい。解除機構9についても、2対ではなく、1対だけであってもよいし、3対以上設けられていてもよい。
【0059】
解除機構9は、扉7に設けられた構成に限らず、ベース部6に設けられた構成であってもよい。解除機構9の軸部92は、断面が円形状のものに限らず、矩形状などの他の断面形状を有するものであってもよい。解除機構9の操作部91についても、円板状に限らず、他の任意の形状を採用することができる。なお、解除機構9は、操作部91及び軸部92を有する構成に限られるものではない。
【0060】
解除機構9は、磁石82を移動させる構成に限らず、磁性体81を移動させる構成であってもよいし、磁性体81及び磁石82の両方を移動させる構成であってもよい。すなわち、1対の保持部材8の少なくとも一方を移動させることにより、1対の保持部材8を互いに離間させるような構成であればよい。また、解除機構9は、1対の保持部材8の少なくとも一方をスライドさせるような構成に限らず、回転などの他の態様により移動させるような構成であってもよい。
【0061】
シール部材62は、ベース部6に設けられた構成に限らず、扉7に設けられた構成であってもよいし、ベース部6及び扉7の両方に設けられた構成であってもよい。
【0062】
扉7は、ベース部6に対して回転することにより開閉可能な構成に限らず、例えばベース部6に対してスライドすることにより開閉可能な構成であってもよい。また、ベース部6は、筐体2と一体的に構成されていてもよい。
【0063】
分析装置1は、イオントラップ型の質量分析装置に限らず、例えば四重極型の質量分析装置などであってもよい。また、分析装置1は、MALDIにより試料のイオン化を行う質量分析装置に限らない。すなわち、液体クロマトグラフなどの他の装置から導入される試料をイオン化して分析を行うような質量分析装置であってもよい。ただし、本発明は、質量分析装置以外の分析装置にも適用可能である。
【0064】
7.態様
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0065】
(第1項)一態様に係る分析装置は、
内部に真空室を有し、前記真空室内が真空状態とされる筐体と、
前記真空室に連通する開口部が形成されたベース部と、
前記開口部を開閉するための扉と、
前記ベース部及び前記扉に設けられ、前記扉が閉じられた状態で互いに接近した第1状態となり、前記ベース部と前記扉とを近付ける方向に磁力を作用させることにより互いに保持される1対の保持部材と、
前記扉が閉じられて前記真空室内が真空状態とされた状態で、圧縮されて前記開口部を密閉させるシール部材と、
前記扉が閉じられた状態で、前記ベース部と前記扉とを近付ける方向に対して直交する面内において前記1対の保持部材の少なくとも一方を移動させることにより、前記1対の保持部材を互いに離間した第2状態とする解除機構とを備えていてもよい。
【0066】
第1項に記載の分析装置によれば、扉が閉じられた状態では、1対の保持部材が接近し、ベース部と扉とを近付ける方向に作用する磁力によって互いに保持される。したがって、1対の保持部材に作用する磁力を大きく設定すれば、強力な磁力で扉を閉状態で保持することができる。その結果、扉を閉状態として真空室内を真空状態にする際、扉とシール部材との間に隙間が生じにくいため、真空室内を良好に真空状態とすることができる。
【0067】
このように、1対の保持部材に作用する磁力が大きい場合であっても、ベース部と扉とを近付ける方向に対して直交する面内において、1対の保持部材の少なくとも一方を小さい力で移動させることができる。これにより、1対の保持部材を容易に離間させて、扉を容易に開閉することができる。
【0068】
(第2項)第1項に記載の分析装置において、
前記扉は、回転軸を中心に回転されることにより、前記開口部を開閉可能であり、
前記解除機構は、前記扉における前記回転軸側とは反対側に設けられた操作部を有し、当該操作部が操作されることにより、前記扉に設けられた前記保持部材が移動してもよい。
【0069】
第2項に記載の分析装置によれば、ユーザは、扉における回転軸側とは反対側に設けられた操作部を操作することにより、保持部材を移動させて第1状態から第2状態とし、そのまま扉を回転させることにより開口部を容易に開放することができる。
【0070】
(第3項)第1項又は第2項に記載の分析装置において、
前記扉は、前記1対の保持部材が前記第2状態のときに開閉可能であり、
前記扉を閉じたときに、前記1対の保持部材の間に作用する磁力によって、前記1対の保持部材が前記第2状態から前記第1状態となってもよい。
【0071】
第3項に記載の分析装置によれば、扉を閉じたときに、1対の保持部材の間に作用する磁力を利用して、1対の保持部材を第2状態から第1状態に戻すことができる。したがって、1対の保持部材を第2状態から第1状態に戻すために、付勢部材などの他の部材を設ける必要がない。
【0072】
(第4項)第1項~第3項のいずれか一項に記載の分析装置において、
前記シール部材は、基準線に対して対称配置されており、
前記1対の保持部材は、前記基準線に対して対称に複数対設けられていてもよい。
【0073】
第4項に記載の分析装置によれば、基準線に対して対称に設けられた複数対の保持部材により、扉が閉じられたときにシール部材に対して均一に力を加えることができる。したがって、シール部材により開口部を確実に密閉することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 分析装置
2 筐体
6 ベース部
7 扉
8 保持部材
9 解除機構
10 開閉機構
28 真空室
61 開口部
62 シール部材
81 磁性体
82 磁石
91 操作部
92 軸部
図1
図2
図3
図4
図5
図6