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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】コイル部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/29 20060101AFI20220705BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20220705BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
H01F27/29 123
H01F17/04 F
H01F17/00 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019216837
(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公開番号】P2021086981
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2021-04-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】松浦 耕平
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼野 守裕
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-206950(JP,A)
【文献】特開2005-217268(JP,A)
【文献】特開2019-121622(JP,A)
【文献】特開2018-195760(JP,A)
【文献】国際公開第2018/100863(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/116665(WO,A1)
【文献】特開2007-243039(JP,A)
【文献】特開2004-259991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/29
H01F 17/04
H01F 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ガラス層と、前記第1ガラス層の第1主面に形成された第1フェライト層および前記第1ガラス層の第2主面に形成された第2フェライト層とを含む素体と、
前記第1ガラス層内に埋設されたコイルと、
前記素体の側面に、第1フェライト層、第1ガラス層および第2フェライト層にわたって設けられた外部電極と、
を備えたコイル部品であって、
前記素体の側面において、該側面に垂直な方向から平面視したときに、フェライト層の領域における外部電極の幅は、ガラス層の領域における外部電極の幅よりも大きいことを特徴とするコイル部品。
【請求項2】
前記フェライト層の領域における外部電極の幅と、前記ガラス層の領域における外部電極の幅の差は、60μm以上160μm以下である、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記外部電極は、Agを含む下地電極と、該下地電極上に形成されためっき層とを含み、前記素体の側面に垂直な方向から平面視したときに、該めっき層の幅は、前記下地電極の幅よりも大きい、請求項1または2に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記ガラス層は、石英およびアルミナから選択される少なくとも1種のフィラーを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記第1ガラス層内に、第1コイルおよび第2のコイルが埋設されている、コモンモードチョークコイルである、請求項1~4のいずれか1項に記載のコイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のコイル部品としては、特許文献1に、第1の非磁性体部と、第1の非磁性体部の下面に形成された第1の磁性体部、第1の非磁性体部の上面に形成された第2の磁性体部と、第1の非磁性体部内に埋設されAgで構成された第1のコイル、第2のコイルと、前記第1の磁性体部の下面、第2の磁性体部の上面のうち少なくとも一方に形成された第2の非磁性体部とを備えたコモンモードチョークコイルが開示されている。かかるコモンモードチョークコイルにおいては、外部電極は、Agを含む下地電極上に、ニッケルめっき層、スズめっき層またははんだめっき層等を順次形成することで構成されている。このような構造の場合、下地電極に含まれるAgのマイグレーションにより、信頼性が低下する虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-11103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、信頼性が高いコイル部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の態様を含む。
[1] 第1ガラス層と、前記第1ガラス層の第1主面に形成された第1フェライト層および前記第1ガラス層の第2主面に形成された第2フェライト層とを含む素体と、
前記第1ガラス層内に埋設されたコイルと、
前記素体の側面に、第1フェライト層、第1ガラス層および第2フェライト層にわたって設けられた外部電極と、
を備えたコイル部品であって、
前記素体の側面において、該側面に垂直な方向から平面視したときに、フェライト層の領域における外部電極の幅は、ガラス層の領域における外部電極の幅よりも大きいことを特徴とするコイル部品。
[2] 前記フェライト層の領域における外部電極の幅と、前記ガラス層の領域における外部電極の幅の差は、60μm以上160μm以下である、上記[1]に記載のコイル部品。
[3] 前記外部電極は、Agを含む下地電極と、該下地電極上に形成されためっき層とを含み、前記素体の側面に垂直な方向から平面視したときに、該めっき層の幅は、前記下地電極の幅よりも大きい、上記[1]または[2]に記載のコイル部品。
[4] 前記ガラス層は、石英およびアルミナから選択される少なくとも1種のフィラーを含む、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載のコイル部品。
[5] 前記第1ガラス層内に、第1コイルおよび第2のコイルが埋設されている、コモンモードチョークコイルである、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載のコイル部品。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、信頼性が高いコイル部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本開示の第1実施形態に係るコイル部品1Aを示す斜視図である。
図2図2は、第1実施形態に係るコイル部品1AのXZ断面図である。
図3図3は、第1実施形態に係るコイル部品1Aの一部側面図である。
図4図4は、第1実施形態に係るコイル部品1Aの分解斜視図である。
図5図5は、第1実施形態に係るコイル部品1Aの外部電極の断面図である。
図6図6は、第2実施形態に係るコイル部品1BのXZ断面図である。
図7図7は、第2実施形態に係るコイル部品1Bの一部側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示のコイル部品を図示の実施の形態により詳細に説明する。ただし、本開示に係るコイル部品および各構成要素の形状および配置等は、以下に説明する実施形態および図示される構成に限定されるものではない。
【0009】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るコイル部品1Aを示す斜視図である。図2は、コイル部品1AのYZ断面図である。図3は、コイル部品1Aの一部端面図である。図4は、コイル部品1Aの分解斜視図(ただし外部電極を除く)である。
【0010】
図1~4に示されるように、コイル部品1Aは、いわゆるコモンモードチョークコイルであり、素体2と、素体2の内部に設けられたコイル(図2に示す第1コイル3aおよび第2コイル3cを含む)と、素体2の表面に設けられた外部電極(外部電極4a、4b、4cおよび4dを含む)とを備える。素体2は、第1ガラス層21と、第1ガラス層21の第1主面に形成された第1フェライト層22および第1ガラス層21の第2主面に形成された第2フェライト層23とを含む(なお、第1フェライト層および第2フェライト層をまとめて「フェライト層」とも言う)。上記第1コイル3aおよび第2コイル3cは、上記第1ガラス層21の内部に設けられている。上記外部電極4a、4b、4cおよび4dは、素体2の側面上に、上端から下端まで、第2フェライト層23、第1ガラス層21および第1フェライト層22にわたって設けられている。
【0011】
上記したように、素体2は、第1ガラス層21と、第1ガラス層21の第1主面に形成された第1フェライト層22と、第1ガラス層21の第2主面に形成された第2フェライト層23とを含む。換言すれば、素体2は、第1ガラス層21、第1ガラス層21を上下から挟む第1フェライト層22および第2フェライト層23を含む。
【0012】
上記素体2は、略直方体状に形成されている。素体2の角は丸みを帯びていてよい。素体2の積層方向をZ軸方向と定義し、素体2の長辺に沿った方向をX軸方向と定義し、素体2の短辺に沿った方向をY軸方向と定義する。X軸とY軸とZ軸とは互いに直交している。図中上側をZ軸方向の上方向とし、図中下側をZ軸方向の下方向とする。
【0013】
上記第1ガラス層21を構成するガラス材料は、例えば、少なくともK、BおよびSiを含むガラス材料であり得る。ガラス材料は、K、BおよびSiに加え、これら以外の元素を含んでいてもよく、例えばAl、Bi、Li、Ca、Zn等を含んでいてもよい。
【0014】
一の態様において、ガラス材料は、KをKOに換算して0.5質量%以上5質量%以下、BをBに換算して10質量%以上25質量%以下、SiをSiOに換算して70質量%以上85質量%以下、AlをAlに換算して0質量%以上5質量%以下含む、SiO-B-KO系ガラスまたはSiO-B-KO-Al系ガラスであり得る。
【0015】
上記第1ガラス層21は、ガラス材料に加え、フィラーを含んでいてもよい。ガラス層中のフィラーの含有量は、例えば0質量%以上40質量%以下、好ましくは0.5質量%以上40質量%以下であり、例えば10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、または34質量%以上であり、40質量%以下または38質量%以下であり得る。
【0016】
上記フィラーとしては、例えば石英(Si)およびアルミナ(Al)が挙げられる。
【0017】
好ましい態様において、第1ガラス層21は、ガラス層全体に対して、ガラス材料を60質量%以上66質量%以下、Siを34質量%以上37質量%以下、およびAlを0.5質量%以上4質量%以下含み得る。
【0018】
上記第1ガラス層21の厚みは、例えば、20μm以上300μm以下、好ましくは30μm以上200μm以下であり得る。
【0019】
上記第1フェライト層22および第2フェライト層23を構成するフェライト材料は、同じであっても、異なっていてもよい。好ましい態様において、上記第1フェライト層22および第2フェライト層23を構成するフェライト材料は、同じである。
【0020】
上記フェライト材料は、主成分として、Fe、Zn、CuおよびNiを含むフェライト材料であり得る。フェライト材料は、上記主成分の他に、さらに微量の添加物(不可避不純物を含む)を含んでいてもよい。
【0021】
上記フェライト材料において、Fe含有量は、Feに換算して、40.0モル%以上49.5モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、好ましくは45.0モル%以上48.0モル%以下であり得る。
【0022】
上記フェライト材料において、Zn含有量は、ZnOに換算して、5.0モル%以上35.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、好ましくは10.0モル%以上30.0モル%以下であり得る。
【0023】
上記フェライト材料において、Cu含有量は、CuOに換算して、4.0モル%以上12.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、好ましくは7.0モル%以上10.0モル%以下である。
【0024】
上記フェライト材料において、Ni含有量は、特に限定されず、上記した他の主成分であるFe、ZnおよびCuの残部、例えば9.0モル%以上45.0モル%以下とし得る。
【0025】
上記添加物としては、例えばBi、Sn、Mn、Co、Si等が挙げられるが、これに限定されるものではない。Bi、Sn、Mn、CoおよびSiの含有量(添加量)は、主成分(Fe(Fe換算)、Zn(ZnO換算)、Cu(CuO換算)およびNi(NiO換算))の合計100質量部に対して、それぞれ、Bi、SnO、Mn、CoおよびSiOに換算して、0.1質量部以上1質量部以下とすることが好ましい。
【0026】
コイル部品1Aは、内部導体としてコイルを備える。図2に示すコイル部品1Aは、第1コイル3aおよび第2コイル3cの2つのコイルを備える。尤も、本開示に係るコイル部品は2つのコイルを備える構成に限定されるものではなく、コイルを1つのみ備えていてもよく、3以上のコイルを備えていてもよい。
【0027】
上記第1コイル3aおよび第2コイル3cを含むコイルは、素体2の第1ガラス層21の内部に配置される。第1コイル3aおよび第2コイル3cは、素体の積層方向に順に設けられて、コモンモードチョークコイルを構成する。第1コイル3aおよび第2コイル3cを含むコイルは、例えばAg、Cu等の導電性材料で構成される。当該導電性材料は、好ましくはAgである。
【0028】
第1コイル3aおよび第2コイル3cは、上方からみて同一方向に螺旋状に巻き回されたスパイラルパターンを有する。第1コイル3aおよび第2コイル3cを含むコイルは、その両端において、素体2の表面に引き出されて外部電極のいずれか1つと接続する引出部を有する。具体的には、第1コイル3aの螺旋状の外周側の一端は、素体2の表面に引き出された引出部を有し、第1コイル3aの螺旋状の中心の他端はパッド部を有する。第1コイル3aのパッド部は、第1ガラス層21の内部に設けられたビア導体を介してもう一方の引出部(図2において符号3bで示す)に電気的に接続され、引出部3bは素体2の表面に引き出される。同様に、第2コイル3cの螺旋状の外周側の一端は、素体2の表面に引き出された引出部を有し、第2コイル3cの螺旋状の中心の他端はパッド部を有する。第2コイル3cのパッド部は、第1ガラス層21の内部に設けられたビア導体を介してもう一方の引出部(図2において符号3dで示す)に電気的に接続され、引出部3dは素体2の表面に引き出される。
【0029】
図1に示すコイル部品1Aは、第1外部電極4a、第2外部電極4b、第3外部電極4cおよび第4外部電極4dを備える。尤も、外部電極の数は内部導体の数に応じて変化し得、コイル部品は外部電極を2つ(すなわち1対)のみ備えてよく、3以上、例えば6(3対)以上の外部電極を備えてもよい。
【0030】
上記コイルは、その両端において素体の表面に引き出されて外部電極のいずれか1つに接続される。図2に示すコイル部品1Aにおいて、第1コイル3aは、その一端において素体2の表面に引き出されて第1外部電極4aに接続され、かつ他端において素体2の表面に引き出されて第2外部電極4bに接続される。同様に、第2コイル3cは、その一端において素体2の表面に引き出されて第3外部電極4cに接続され、かつ他端において素体2の表面に引き出されて第4外部電極4dと接続される。
【0031】
上記外部電極は各々、素体2の表面に、第1フェライト層22、第1ガラス層21および第2フェライト層23にわたって存在する。図1に示すコイル部品1において、第1外部電極4aおよび第3外部電極4cは、素体2のXZ平面に平行な一の側面に形成される。第2外部電極4bおよび第4外部電極4dは、第1外部電極4aおよび第3外部電極4cが形成された側面に対向する側面に形成される。第1~第4外部電極4a~4dは、図1に示すようにコ字型に素体2の上下に延在してよい。
【0032】
外部電極の少なくとも1つは、第1フェライト層22および第2フェライト層23の領域における幅が、第1ガラス層21の領域における幅より大きい。図1に示すコイル部品1Aにおいて、第1外部電極4a、第2外部電極4b、第3外部電極4cおよび第4外部電極4dはいずれも、第1フェライト層22および第2フェライト層23の領域における幅が、第1ガラス層21の領域における幅より大きい。このように、少なくとも1つの外部電極の幅を、好ましくはすべての外部電極の幅を、フェライト層上において大きくすることにより、コイル部品の信頼性を高めることができる。特に、下地電極にAgなどのマイグレーションを起こしやすい金属を用いた場合、ガラス層上よりもフェライト層上でマイグレーションが生じやすく信頼性が低下しやすい。このマイグレーションが生じやすいフェライト層上の下地電極をめっきで大きく覆うことにより、マイグレーションをより効果的に抑制することができる。
【0033】
ここに、本明細書において、外部電極の「幅」は素体2の積層方向に対して垂直、かつ外部電極が設けられた素体2の表面に対して平行な方向(X方向)における幅を意味する。即ち、図3において、第1フェライト層22および第2フェライト層23の領域における外部電極の幅はTであり、第1ガラス層21の領域における外部電極の幅はtである。なお、各領域における外部電極の幅とは、その領域における外部電極の幅の平均値である。
【0034】
各フェライト層の領域における外部電極の幅Tとガラス層の領域における外部電極の幅tとの差は、好ましくは60μm以上、より好ましくは80μm以上であり得る。幅Tと幅tの差を、60μm以上とすることにより、マイグレーションによる信頼性の低下を抑制できる。また、各フェライト層の領域における外部電極の幅Tとガラス層の領域における外部電極の幅tとの差は、好ましくは80μm以下、より好ましくは60μm以下であり得る。幅Tと幅tの差を、160μm以下とすることにより、外部電極端子間における絶縁信頼性の低下を抑制できる。好ましい態様において、各フェライト層の領域における外部電極の幅Tとガラス層の領域における外部電極の幅tとの差は、好ましくは60μm以上、より好ましくは80μm以上であり得る。
【0035】
上記外部電極を構成する材料は、例えば、Ag、Pd、Cu、Ni、Sn等の金属またはこれらの合金を含む導電性材料であり得る。外部電極を構成する材料は、好ましくはAgまたはAgを含む合金、より好ましくはAgを含む。
【0036】
一の態様において、外部電極は、下地電極とその上に形成されためっき層を含む。該めっき層は、1層であっても、2層以上であってもよい。好ましい態様において、図5に示されるように、素体2の側面に垂直な方向から平面視したときに、少なくともフェライト層の領域において、上記めっき層8は、上記下地電極5を覆うように設けられる。
【0037】
上記めっき層8の端から上記下地電極5の端までの距離W1は、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上である。距離W1をより大きくすることにより、マイグレーションによる信頼性の低下をより抑制することができる。また、上記めっき層の端から上記下地電極の端までの距離W1は、好ましくは40μm以下、より好ましくは30μm以下である。距離W1をより小さくすることにより、外部電極の形成時間を短くすることができる。好ましい態様において、上記めっき層の端から上記下地電極の端までの距離W1は、好ましくは10μm以上40μm以下、より好ましくは20μm以上30μm以下である。
【0038】
好ましい態様において、上記下地電極5は、AgまたはCuを含む下地電極、好ましくはAgを含む下地電極である。好ましい態様において、上記めっき層8は、Niめっき層6およびSnめっき層7のいずれか1つまたは両方、好ましくは両方であり得る。より好ましい態様において、外部電極5は、Agを含む下地電極、その上に形成されたNiめっき層6、さらにその上に形成されたSnめっき層7を含む。また、一の態様において、Niめっき層6とSnめっき層7の境界は、Ni-Sn合金が形成されていてもよい。Niめっき層6の上に、Snめっき層7が位置することによって、後の電子部品のはんだ付けの作業効率を上げることができる。
【0039】
好ましい態様において、上記素体の側面に垂直な方向から平面視したときに、フェライト層の領域における該めっき層の幅は、上記下地電極の幅よりも大きい。特に、上記めっき層の端から上記下地電極の端までの距離W1は、好ましくは10μm以上40μm以下、より好ましくは20μm以上30μm以下である。
【0040】
上記下地電極5の厚みは、好ましくは1μm以上200μm以下、より好ましくは5μm以上100μm以下、さらに好ましくは10μm以上50μm以下であり得る。下地電極5の厚みを、1μm以上とすることにより、素体2中のコイルとの電気的接続を強固にすることができる。下地電極5の厚みを、200μm以下にすることにより、小型の電子部品にも容易に組み込むことができる。
【0041】
上記めっき層がNiめっき層およびSnめっき層である場合、Niめっき層6の厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.5μm以上6μm以下、より好ましくは1μm以上5μm以下、さらに好ましくは2μm以上4μm以下、さらにより好ましくは3μm以上3.5μm以下であり得る。Niめっき層6の厚みを、0.5μm以上とすることによって、外部電極に優れた耐食性等を好適に付与することができる。Niめっき層6の厚みを6μm以下とすることによって、小型の電子部品にも容易に組み込むことができる。
【0042】
上記めっき層がNiめっき層およびSnめっき層である場合、Snめっき層7の厚みは、特に限定されないが、好ましくは1μm以上10μm以下、より好ましくは1μm以上8μm以下、さらに好ましくは2μm以上5μm以下、さらにより好ましくは3μm以上4μm以下であり得る。Snめっき層7の厚みを、1μm以上とすることによって、後のはんだ付けにおいて、Snめっき層7より下に位置するめっき層が食われることを防止することができ、かつ好適にはんだ付けを行うことが容易になる。Snめっき層7の厚みを10μm以下とすることによって、外部電極全体として好適な厚みにすることができ、小型の電子部品にも容易に組み込むことができる。
【0043】
上記めっき層の厚み(多層の場合、その合計の厚み)は、好ましくは1μm以上20μm以下、より好ましくは2μm以上15μm以下、さらに好ましくは3μm以上10m以下であり得る。めっき層の厚みを1μm以上とすることにより、耐マイグレーション効果を好適に発揮させることができる。めっき層の厚みを20μm以下とすることにより、小型の電子部品にも容易に組み込むことができる。
【0044】
本開示のコイル部品において、素体の一の表面に複数の外部電極が互いに隣り合って存在してよい。図1に示すコイル部品1Aにおいて、素体2の一の側面に第1外部電極4aおよび第3外部電極4cが互いに隣り合って存在している。この第1外部電極4aおよび第3外部電極4cが設けられた側面に対向する素体2の側面において、第2外部電極4bおよび第4外部電極4dが互いに隣り合って存在している。上記したように、第1フェライト層22および第2フェライト層23の領域における外部電極の幅が、第1ガラス層21の領域における外部電極の幅より大きいことにより、コイル部品の信頼性が向上し得る。一方、第1ガラス層21の領域における外部電極の幅は、第1フェライト層22および第2フェライト層23の領域における外部電極の幅より小さいので、第1ガラス層21の領域において、隣り合う外部電極間の距離を大きくすることができる。
【0045】
次に、コイル部品1Aの製造方法について説明する。
【0046】
まず、ガラスシートを作製する。例えば、まず、ガラス材料の原料であるKO、B、SiOおよびAlを準備し、これを溶融し、急冷することでガラス材料を得る。得られたガラス材料を粉砕して粉末とし、ポリビニルブチラール系等の有機バインダ、エタノール、トルエン等の有機溶剤、および可塑剤などと混合し、ドクターブレード法等で、所定の厚み、大きさ、形状のシートに成形加工して、ガラスシートが得られる。
【0047】
上記のガラス材料の粉末の粒径(D50:体積基準の累積百分率50%相当粒径)は、好ましくは0.5μm以上10μm以下、好ましくは1μm以上5μm以下、より1μm以上3μm以下であり得る。
【0048】
上記ガラスシートの厚みは、特に限定されないが、例えば10μm以上40μm以下、好ましくは20μm以上30μm以下であり得る。
【0049】
別途、フェライトシートを作製する。例えば、フェライト材料の原料として、Fe、NiO、ZnOおよびCuOの粉末、および必要に応じて他の添加物を準備し、所定の組成になるように秤量する。秤量物を、PSZメディア、純水、分散剤などとともにボールミルに入れ、湿式で混合および粉砕した後、乾燥させ、例えば700~800℃の温度で仮焼し、仮焼粉末を得る。得られた仮焼粉末に、ポリビニルブチラール系等の有機バインダ、エタノール、トルエン等の有機溶剤を、PSZボールと共にポットミルに投入し、混合粉砕する。得られた混合物を、ドクターブレード法等で、所定の厚み、大きさ、形状のシートに成形加工して、フェライトシートが得られる。
【0050】
上記ガラスシートの厚みは、特に限定されないが、例えば20μm以上60μm以下、好ましくは35μm以上45μm以下であり得る。
【0051】
次いで、ガラスシート上にコイルパターンを形成する。導電性材料、例えばAgを主成分とした導電性ペーストを準備する。次いで、所望によりビアホールを形成したガラスシートに、上記の導電性ペーストを印刷することで、ビアホールに導電性ペーストを充填するとともに、引出電極、各コイル導体のパターンを形成する。
【0052】
上記のガラスシートを図4の順番で積み重ね、その上下に所定枚数のフェライトシートを積み重ねる。シートを積み重ねた積層体を、加温、加圧下で圧着する。例えば、積層体を、80℃、100MPaの条件で、温間等方圧プレス処理(Wip処理)して、圧着する。
【0053】
上記で得られた積層体をダイサー等で切断し、個片化する。次いで、個片化した積層体を焼成し、素体を得る。所望により、焼成した素体をメディアとともに、回転バレル機に入れ、回転することで素子の稜線やコーナーの角を落としてもよい。
【0054】
次いで、素体の側面のコイルが引き出された箇所に、導電性ペーストを塗布し、焼き付けを行い、下地電極を形成する。形成した下地電極上に、電解めっきにより、Niめっき層、Snめっき層を、順次形成する。
【0055】
素体2の側面において、該側面に垂直な方向から平面視したときに、フェライト層の領域におけるめっき層の幅を、ガラス層の領域におけるめっき層の幅よりも大きくするためには、種々の方法を用いることができる。例えば、めっき時間を調製する、電流値を調整する等、めっき条件を調整することにより、フェライト層上のめっき層を、ガラス層上よりも成長させ、幅を大きくすることができる。一般的にフェライト層は、ガラス層よりも比抵抗が小さいので、長時間のめっきを行うことにより、ガラス層上よりもフェライト層上でよりめっきを成長させることができる。
【0056】
一の態様において、電解めっき処理では、めっき液にNiイオンを加えて、任意の方法でSnイオンも含有させて、電解Niめっき処理を行うことができる(以下、Snイオン含有電解Niめっき処理、ともいう)。Snイオンを含有させる方法は、特に限定されない。例えば、最外層がSnでコーティングされている市販のめっきメディアおよび市販の電解Niめっき液を用いることによって、SnイオンおよびNiイオンを含有させて、電解めっき処理を行うことができる。かかる方法の場合、例えば、低電流、例えば20A未満、好ましくは5A未満ではSnが優先的に析出し、高電流、例えば20A以上、好ましくは25A以上では、Niが優先的に析出する。
【0057】
上記のようにして、本実施形態に係るコイル部品(コモンモードチョークコイル)を得ることができる。
【0058】
(第2実施形態)
図6は、本開示の第2実施形態に係るコイル部品を示すYZ断面図である。図7は、コイル部品の一部端面図である。第2実施形態は、第1実施形態とは、素体2が第2ガラス層24および第3最ガラス層25をさらに含む点で相違する。この相違する構成のみを以下に説明する。なお、第2実施形態において、第1実施形態と同一の符号は第1実施形態と同じ構成を指すので、その説明は省略する。
【0059】
図6および図7に示すように、第2実施形態に係るコイル部品1Bにおいて、素体2は、第1フェライト層22の下に積層された第2ガラス層24と、第2フェライト層23の上に積層された第3ガラス層25とを更に含んでよい。この場合、外部電極は各々、第2ガラス層24、第1フェライト層22、第1ガラス層21、第2フェライト層23および第3ガラス層25の表面にわたって存在する。第2ガラス層24および第3ガラス層25は、ガラスおよび/またはガラスとフェライトの複合材料を含むことが好ましい。外部電極がガラスを含み、かつ第2ガラス層24および第3ガラス層25が、ガラスおよび/またはガラスとフェライトの複合材料を含む場合、外部電極に含まれるガラス成分と、第2ガラス層24および第3ガラス層25に含まれるガラス成分との相互作用により、外部電極と積層体との固着力が更に向上し得る。
【0060】
外部電極の少なくとも1つは、第2ガラス層24および第3ガラス層25における幅が、第1フェライト層22および第2フェライト層23における幅より小さいことが好ましい。第2ガラス層24および第3ガラス層25における幅が小さいことにより、外部電極と第2ガラス層24および第3ガラス層25との間の距離が大きくなり、電極間の絶縁性をより確実に確保することができる。
【0061】
第2ガラス層24および第3ガラス層25に含まれ得るガラスおよび/またはガラスとフェライトの複合材料は、第1ガラス層21に含まれ得るものと同様のものであってよい。第2ガラス層24および第3ガラス層25は、第1ガラス層21と同様の組成を有してよく、互いに異なる組成を有してもよい。また、第2ガラス層24と第3ガラス層25とは同様の組成を有してよく、互いに異なる組成を有してもよい。
【実施例
【0062】
・コイル部品の作製
(ガラスシートの作製)
ガラス材料の原料として、KO、B、SiOおよびAlを準備し、それぞれ、2.0質量%、18.5質量%、79.0質量%および0.5質量%の比率になるように秤量し、白金製のるつぼに入れ、焼成炉で1550℃の温度に昇温し、溶融した。この溶融物を急冷することでガラス材料を得た。得られたガラス材料を、D50(体積基準の累積百分率50%相当粒径)が2μm程度となるように粉砕してガラス粉末を得た。
【0063】
D50が1.3μmのアルミナ粉末と石英粉末を準備し、上記で得られたガラス粉末に添加し、PSZメディアとともにボールミルに入れ、さらにポリビニルブチラール系有機バインダ、トルエンとエキネンの混合有機溶剤、および可塑剤を入れ、混合した。次に、ドクターブレード法等で、膜厚が25μmのシート状に成形加工した。これを225mm×225mmの矩形状に打ち抜き、ガラスシートを得た。
【0064】
(フェライトシートの作製)
別途、フェライト材料の原料として、Fe、NiO、ZnOおよびCuOの粉末を準備し、45mol%、15mol%、30mol%および10mol%の組成になるように秤量した。秤量物をPSZメディア、純水、分散剤とともにボールミルに入れ、湿式で混合および粉砕したあと、蒸発乾燥させ、750℃の温度で仮焼し、仮焼粉末を得た。
【0065】
この仮焼粉末に、ポリビニルブチラール系有機バインダ、トルエンとエキネンの混合有機溶剤を、PSZボールと共にポットミルに投入し、十分に混合粉砕した。次に、ドクターブレード法等で、膜厚が40μmのシート状に成形加工した。これを225mm×225mmの矩形状に打ち抜き、フェライトシートを得た。
【0066】
(コイルパターンの作製)
別途、導電性材料、例えばAgを主成分とした導電性ペーストを準備した。ガラスシートに、レーザー照射を行い所定箇所にビアホールを形成した。導電性ペーストをスクリーン印刷することで、ビアホールに導電性ペーストを充填するとともに、引出電極、各コイル導体のパターンを形成した。
【0067】
(素体の作製)
上記のガラスシートを図4の順番で積み重ね、その上下に6枚ずつのフェライトシートを積み重ねた。シートを積み重ねた積層体を、温度が80℃、圧力が100MPaの条件でWip(温間等方圧プレス)処理して、積層ブロックを得た。
【0068】
上記で得られた積層ブロックをダイサー等で切断し、個片化した。次いで、個片化した焼成炉で880℃、1.5時間焼成して、素子を得た。焼成した素子をメディアとともに、回転バレル機に入れ、回転することで素子の稜線やコーナーの角を落とした。
【0069】
(外部電極の作製)
バレル後、素子の側面でコイルが引き出された箇所、4ヶ所に上記のAg導電性ペーストを塗布した。810℃1分の条件で、焼き付けを行い、外部電極の下地電極を形成した。下地電極の厚みは5μmであった。
【0070】
電解めっきにより、上記の下に電極の上にNi被膜、Sn被膜を順次形成した。Ni被膜、Sn被膜の厚みは、それぞれ3μm、3μmであった。
【0071】
上記のようにして、本実施形態に係るコイル部品(コモンモードチョークコイル)を得た。
【0072】
・評価
めっき時間を変えることで、フェライト層の領域における外部電極の幅と、前記ガラス層の領域における外部電極の幅の差が、それぞれ、60μm(実施例1)、160μm(実施例2)、および0μm(比較例)となる3種類の試料を作製した。作製した試料を各実施例30個ずつについて、環境温度60℃/相対湿度93%RHで、端子間にDC10Vを、500時間印加した。その後、デジタルマイクロスコープで試料の観察を行い、マイグレーションの合計(両側の電極のマイグレーションの合計)で100μm以上となった試料の数を評価した。結果を下記表1に示す。
【0073】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明に係るコイル部品は、信頼性に優れるので、種々の電子機器、例えばパソコン、DVDプレーヤー、デジカメ、TV、携帯電話、カーエレクトロニクス等の種々の電子機器に使用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1A,1B…コイル部品
2…素体
3a,3c…第1~第2コイル
3b,3d…引出部
4a,4b,4c,4d…第1~第4外部電極
21…第1ガラス層
21a~21e…ガラスセラミックシート
22…第1フェライト層
22a,22b…フェライトシート
23…第2フェライト層
23a,23b…フェライトシート
24…第2ガラス層
25…第3ガラス層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7