(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】モータ駆動装置、および電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
H02P 29/68 20160101AFI20220705BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20220705BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
H02P29/68
H02P27/06
B62D5/04
(21)【出願番号】P 2019514352
(86)(22)【出願日】2018-04-09
(86)【国際出願番号】 JP2018014889
(87)【国際公開番号】W WO2018198740
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2017090199
(32)【優先日】2017-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】日本電産株式会社
(72)【発明者】
【氏名】門脇 健
(72)【発明者】
【氏名】藤原 広樹
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-168340(JP,A)
【文献】特開2011-217585(JP,A)
【文献】特開2012-46049(JP,A)
【文献】特開2015-61458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/68
H02P 27/06
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの駆動を制御する制御ユニットを有するモータ駆動装置であって、
前記制御ユニットは、
前記モータの駆動量を指示する駆動信号を出力する制御部と、
前記制御部から出力された前記駆動信号に基づいて、外部電源から供給された電流を前記モータに供給する駆動部と、
前記駆動部に流れる電流を検出する電流検出部と、
前記駆動部の温度を検出する第1温度検出部と、を有し、
前記制御部は、前記制御ユニット内に蓄積される蓄熱量を所定の周期で算出し、算出された前記蓄熱量が所定の閾値より大きい場合は、算出時の前記駆動量よりも小さい前記駆動量を指示する前記駆動信号を出力し、
前記制御部によりn番目(nは1以上の整数)に算出される蓄熱量Q
nは、Q
0を所定の初期値とすると、n-1番目に算出された蓄熱量Q
n-1に、前記外部電源の電圧、前記所定の周期、および前記検出された前記電流の電流値に基づいて得られた前記モータの発熱量の推定値を加え、前記第1温度検出部により検出された前記温度と所定の温度との差分に基づいて得られた放熱量の推定値を引いた値である、ことを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項2】
前記所定の初期値はゼロであることを特徴とする請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
前記制御部が前記蓄熱量の算出時において用いる前記電流値および前記温度は、前記算出時に検出された前記電流の電流値および前記温度であることを特徴とする請求項1または2に記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記第1温度検出部により検出された前記温度が前記所定の温度よりも低い場合の前記放熱量の前記推定値は、前記第1温度検出部により検出された前記温度が前記所定の温度以上の時の前記放熱量の前記推定値よりも小さいことを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項5】
前記駆動部は複数のインバータ回路を有し、
前記複数のインバータ回路ごとに前記第1温度検出部が配置されることを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項6】
前記第1温度検出部が検出した各温度のうち、最も高い温度を前記放熱量の前記推定値を求めるために用いることを特徴とする請求項5に記載のモータ駆動装置。
【請求項7】
前記電流検出部は、前記複数のインバータ回路を流れる各電流を検出し、
前記制御部は、前記電流検出部により検出された各電流に基づいて前記所定の閾値を決定することを特徴とする請求項5または6に記載のモータ駆動装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記電流検出部により検出された各電流に基づいて前記電流が検出された前記インバータ回路の数を求め、前記数と前記蓄熱量の閾値とを予め対応付けた第1対応付け情報を参照して、前記求めた前記数に対応する前記閾値を前記所定の閾値として決定することを特徴とする請求項7に記載のモータ駆動装置。
【請求項9】
前記第1対応付け情報において、前記数が多いほど、対応付けられる前記閾値は小さいことを特徴とする請求項8に記載のモータ駆動装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記差分と前記放熱量とを予め対応付けた第2対応付け情報を参照して、前記蓄熱量の算出時において求めた前記差分に対応する前記放熱量を前記推定値として決定することを特徴とする請求項1乃至9のうちいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項11】
前記制御ユニットは、前記制御部の温度を検出する第2温度検出部を有し、
前記第2温度検出部は、前記駆動部に含まれる複数のインバータ回路ごとに配置された前記第1温度検出部からの距離が等しい位置に配置されることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項12】
前記所定の温度は、前記第2温度検出部が検出した前記温度であることを特徴とする請求項11に記載のモータ駆動装置。
【請求項13】
前記第1温度検出部または前記制御部の温度を検出する第2温度検出部は、前記検出する前記温度によって抵抗値が変化するサーミスタであることを特徴とする請求項11または12に記載のモータ駆動装置。
【請求項14】
前記制御部が配置される基板と前記駆動部が配置される基板とが互いに異なることを特徴とする請求項1乃至13のうちいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項15】
請求項1乃至14のうちいずれか1項に記載のモータ駆動装置により駆動されるモータを備えることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動装置、および電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置等に使用されるモータの駆動は、制御ユニットを有するモータ駆動装置により制御される。制御ユニット内に含まれる電子部品は、モータの駆動制御に伴う発熱によって破損しうる。電子部品の破損は、電動パワーステアリング装置の性能を損なう。
【0003】
特許文献1は、温度センサを用いずにモータおよびコントローラの温度の推定値を算出し、推定値に基づいてモータへの供給電流を調整することでモータおよびモータ周辺装置の過熱防止を図る過熱保護装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の過熱保護装置では、放熱量の時間経過による変化を考慮しておらず、温度の推定精度が不十分になりうる。推定値の誤差が大きくなると、例えば、過熱防止が不要な状態において、モータへ供給する電流を制限してしまうことになり、電動パワーステアリング装置のアシスト力が過剰に低下して運転の快適性を損なうことがある。
【0006】
本発明は、例えば、制御ユニットの過熱を防止する制御の確実性の点で有利なモータ駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の例示的な第1発明は、モータの駆動を制御する制御ユニットを有するモータ駆動装置であって、制御ユニットは、モータの駆動量を指示する駆動信号を出力する制御部と、制御部から出力された駆動信号に基づいて、外部電源から供給された電流をモータに供給する駆動部と、駆動部に流れる電流を検出する電流検出部と、駆動部の温度を検出する第1温度検出部と、を有し、制御部は、制御ユニット内に蓄積される蓄熱量を所定の周期で算出し、算出された蓄熱量が所定の閾値より大きい場合は、算出時の駆動量よりも小さい駆動量を指示する駆動信号を出力し、制御部によりn番目(nは1以上の整数)に算出される蓄熱量Qnは、Q0を所定の初期値とすると、n-1番目に算出された蓄熱量Qn-1に、外部電源の電圧、所定の周期、および検出された電流の電流値に基づいて得られたモータの発熱量の推定値を加え、第1温度検出部により検出された温度と所定の温度との差分に基づいて得られた放熱量の推定値を引いた値である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本願の例示的な第1発明によれば、制御ユニットの過熱を防止する制御の確実性の点で有利なモータ駆動装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、モータ駆動装置を備えた電動パワーステアリング装置の概略図である。
【
図2】
図2は、モータ駆動装置の構成を示すブロック図である。
【
図3A】
図3Aは、制御部および駆動部をそれぞれ別の基板に構成する場合の第1温度検出部の配置を示す図である。
【
図3B】
図3Bは、制御部および駆動部をそれぞれ別の基板に構成する場合の第1温度検出部の配置を示す図である。
【
図4A】
図4Aは、制御部および駆動部をそれぞれ別の基板に構成する場合の第2温度検出部の配置を示す図である。
【
図4B】
図4Bは、制御部および駆動部をそれぞれ別の基板に構成する場合の第2温度検出部の配置を示す図である。
【
図5A】
図5Aは、制御部および駆動部を1つの基板に構成する場合の各温度検出部の配置を示す図である。
【
図5B】
図5Bは、制御部および駆動部を1つの基板に構成する場合の各温度検出部の配置を示す図である。
【
図6】
図6は、制御部の各機能を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について図面などを参照して説明する。なお、本発明の範囲は、以下の実施の形態に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
[実施形態]
【0011】
<電動パワーステアリング装置>
図1は、本実施形態に係るモータ駆動装置30を備えた電動パワーステアリング装置1の概略図である。電動パワーステアリング装置1は、自動車等の輸送機器において、運転者のハンドル操作を補助する装置である。
図1に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング装置1は、トルクセンサ10、モータ20、およびモータ駆動装置30を有する。本実施形態では、モータ20およびモータ駆動装置30は、共通の筐体に内蔵される。モータ20をいわゆる機電一体型とすることで、例えば、電動パワーステアリング装置1を小型化することができる。
【0012】
(トルクセンサ)
トルクセンサ10は、ステアリングシャフト92に取り付けられている。運転者がステアリングホイール91を操作してステアリングシャフト92を回転させると、トルクセンサ10は、ステアリングシャフト92にかかるトルクを検出する。トルクセンサ10の検出信号であるトルク信号は、トルクセンサ10からモータ駆動装置30へ出力される。モータ駆動装置30は、トルクセンサ10から入力されるトルク信号に基づいて、モータ20を駆動させる。なお、モータ駆動装置30は、トルク信号だけではなく、他の情報(例えば車速など)を併せて参照してもよい。
【0013】
(モータ)
本実施形態では、モータ20として三相同期ブラシレスモータを用いる。モータ20は、U相、V相およびW相の3相のコイルで構成される。モータ20の駆動時には、モータ駆動装置30からモータ20内のU相、V相およびW相のそれぞれに電流が供給される。電流が供給されると、U相、V相およびW相の3相のコイルを有する固定子と、マグネットを有する回転子との間に、回転磁界が発生する。その結果、モータ20の固定子に対して回転子が回転する。
【0014】
<モータ駆動装置>
モータ駆動装置30は、外部電源40から得られる電力を利用して、モータ20に駆動電流を供給する。モータ20から生じる駆動力は、ギアボックス50を介して車輪93に伝達される。これにより、車輪93の舵角が変化する。このように、電動パワーステアリング装置1は、ステアリングシャフト92のトルクを、モータ20により増幅させて、車輪93の舵角を変化させる。したがって、運転者は、軽い力でステアリングホイール91を操作することができる。
【0015】
図2は、モータ駆動装置30の構成を示すブロック図である。
図2に示すように、モータ駆動装置30は、トルクセンサ10、モータ20および外部電源40と、電気的に接続する。モータ駆動装置30は、電源供給部31と、制御部32と、駆動部33と、第1温度検出部34と、電流検出部35と、第2温度検出部36と、を有する制御ユニットを有する。
【0016】
(電源供給部)
電源供給部31は外部電源40から制御部32に電力を供給する。また、駆動部33には、外部電源40から電源供給部31を介さずに電力が供給される。
【0017】
(制御部)
制御部32は、トルクセンサ10から出力されたトルク信号を受信する。制御部32は、例えば、CPU等の演算処理部、RAM等のメモリ、およびハードディスクドライブ等の記憶部を有するコンピュータが用いられる。ただし、コンピュータに代えて、マイクロコントローラ等の演算装置を有する電気回路が用いられていてもよい。制御部32は、第1温度検出部34による検出結果、電流検出部35による検出結果および第2温度検出部36による検出結果、などを用いて、制御ユニット内に蓄積される蓄熱量を算出する。具体的な算出方法は後述する。
【0018】
(駆動部)
駆動部33は、インバータ回路およびインバータ駆動部を有し、モータ20へ電流を供給する。インバータ回路は、例えば、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)などのトランジスタをスイッチング素子として有する。本実施形態では、モータ20として三相同期ブラシレスモータを用いるため、インバータ回路には、1対のスイッチング素子が並列に3組設けられている。なお、モータ駆動装置30を多系統の駆動系として、一つのモータ20または複数のモータ20を駆動する場合、駆動部33は、複数のインバータ回路を有する。
【0019】
インバータ駆動部は、インバータ回路を動作させるための電気回路である。本実施形態では、インバータ駆動部は、制御部32が出力した、モータ20の駆動量を指示する、パルス幅変調方式(PWM方式)のPWM駆動信号を、インバータ回路に含まれる6つのスイッチング素子に供給する。インバータ回路は、インバータ駆動部から供給されたPWM駆動信号に基づいて、モータ20のU相、V相およびW相のそれぞれに電流を供給する。
【0020】
(第1温度検出部および第2温度検出部)
第1温度検出部34は、駆動部33の温度を検出し、検出温度を制御部32に出力する。駆動部33が複数のインバータ回路を有する場合、複数のインバータ回路ごとに第1温度検出部34が配置される。第1温度検出部34は、インバータ回路が有する発熱部品が集中する場所付近、例えば、回路の中心付近に配置されることが望ましい。詳細は、
図3A、
図3B、
図5Aおよび
図5Bにて説明する。ここで、主な発熱部品は、スイッチング素子として用いられる金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)である。
【0021】
第2温度検出部36は、制御部32の温度を検出し、検出温度を制御部32に出力する。第1温度検出部34が複数のインバータ回路ごとに配置される場合、第2温度検出部36は、各第1温度検出部34から等距離となる位置に一つ設けられる。詳細は、
図4A、
図4B、
図5Aおよび
図5Bにて説明する。
【0022】
第1温度検出部34および第2温度検出部36としては、感度、サイズおよび分解能の自由度の観点から検出温度によって抵抗値が変化するサーミスタを用いうる。また、モータ20が有するロータの回転位置を検出する角度センサが第2温度検出部36を兼ねてもよい。この場合、モータ駆動装置30は、装置コスト、サイズの面で有利となりうる。
【0023】
第1温度検出部34および第2温度検出部36により検出された検出温度は、制御ユニットからの放熱量を推定するために用いられる。複数のインバータ回路ごとに、また、発熱部品が集中する付近に第1温度検出部34を配置することで放熱量の推定精度を向上させることができる。複数のインバータ回路ごとに得られた検出温度のうち、最も高い温度を放熱量の推定に用いる。これにより、過熱保護の制御精度を向上させることができる。
【0024】
図3Aおよび
図3Bは、制御部32および駆動部33をそれぞれ別の基板に構成する場合の第1温度検出部34の配置を示す図である。制御ユニットの構成要素のうち、主な発熱源は駆動部33であり、制御部32および駆動部33をそれぞれ別の基板に構成すると、制御ユニットに熱が蓄積されにくくなりうる。
【0025】
図3Aは、駆動部33を構成する素子が配置された駆動部基板300を素子が配置された面から見た図であり、
図3Bは、駆動部基板300を素子が配置された面と反対側の面から見た図である。以下、
図3A、
図3B、
図4A、
図4B、
図5Aおよび
図5Bにおいて、互いに対向する基板の面のうち、素子が配置される一方の面を素子面、温度検出部が配置される他方の面をセンサ面という。
【0026】
図3Aおよび
図3Bにおいては、説明の簡易化のため、インバータ回路が有するスイッチング素子(MOSFET)と、第1温度検出部34と、を図示する。駆動部33は、第1インバータ回路331および第2インバータ回路332を有する。
図3Aおよび
図3Bに示す通り、第1インバータ回路331および第2インバータ回路332は、それぞれ、6つのスイッチング素子331Aおよびスイッチング素子331Bを有する。
図3Bに示す通り、第1温度検出部34は、インバータ回路ごとに、複数のMOSFETが配置された領域の中心の反対側のセンサ面に配置される。
【0027】
図4Aおよび
図4Bは、制御部32および駆動部33をそれぞれ別の基板に構成する場合の第2温度検出部36の配置を示す図である。説明の簡易化のため、第2温度検出部36のみ図示する。
図4Aは、制御部基板400を素子面から見た図であり、
図4Bは、制御部基板400をセンサ面から見た図である。
【0028】
駆動部基板300と制御部基板400とは、それぞれ、素子面同士を対向させて構成される。第2温度検出部36は、駆動部基板300に配置された複数の第1温度検出部34のそれぞれから等距離となる、制御部基板400の面上の位置に配置される。第1温度検出部34と第2温度検出部36とを上記のような位置関係で配置することにより、複数のインバータ回路間で算出される放熱量に差が生じにくくなり、安定して放熱量を算出しうる。
【0029】
図5Aおよび
図5Bは、制御部および駆動部を1つの基板に構成する場合の第1温度検出部の配置を示す図である。
図5Aは、制御部32および駆動部33を構成する素子が配置された基板500を素子面から見た図であり、
図5Bは、基板500をセンサ面から見た図である。駆動部33は、第1インバータ回路331および第2インバータ回路332を有する。
【0030】
図5Aおよび
図5Bにおいては、説明の簡易化のため、スイッチング素子331Aおよびスイッチング素子331Bと、第1温度検出部34と、第2温度検出部36と、を図示する。
図5Bに示す通り、第1温度検出部34は、各インバータ回路の中心であり、MOSFETが配置される領域の中心である位置に配置され、第2温度検出部36は、第1温度検出部34のそれぞれから等距離の位置に配置される。このような位置関係で配置することにより、複数のインバータ回路間で算出される放熱量に差が生じにくくなり、安定して放熱量を算出しうる。
【0031】
(電流検出部)
電流検出部35は、駆動部33に流れる電流を検出する。本実施形態では、モータ20として三相同期ブラシレスモータを用いるため、モータ20のU相、V相およびW相のそれぞれに供給される電流を検出する。電流検出部35は、検出した電流の電流値を制御部32に出力する。駆動部33が複数のインバータ回路を有する場合、電流検出部35は、複数のインバータ回路ごとに電流を検出する。
【0032】
(制御部の機能)
図6は、制御部32の各機能を示すブロック図である。制御部32は、算出部321と、比較部322と、駆動量決定部323と、第1格納部324と、第2格納部325と、を有する。
【0033】
(算出部)
算出部321は、所定の周期で制御ユニット内に蓄積される蓄熱量を算出する。所定の周期は、例えば、過熱保護に必要な精度に基づいて決定され、本実施形態では、100ミリ秒とする。算出部321がn番目に算出する蓄熱量Qnは、Q0を所定の初期値、算出時点でのモータの発熱量の推定値をQ+、算出時点での放熱量の推定値をQ-、とすると、次の式(1)のように表される。Q0は、例えば、ゼロとする。算出を開始する前の時点ですでにある程度の蓄熱が想定される場合は、ゼロ以外の値を初期値として設定しうる。
【0034】
【0035】
算出時点でのモータの発熱量の推定値Q+は、例えば、電流検出部35により検出された電流値のq軸成分とd軸成分との二乗根と、外部電源40の電圧値の二乗根と、所定の周期と、を掛けることで求められる。算出時点での放熱量の推定値Q-は、第1温度検出部34により検出された検出温度から所定の温度を引いて得られる差分ΔTに基づいて求められる。
【0036】
所定の温度は、第2温度検出部36による検出温度または、予め計測した制御ユニットの周辺温度とする。周辺温度の変動量によって、どちらを所定の温度にするか決定しうる。例えば、寒暖差の激しい環境でのモータ駆動装置30を使用する場合など周辺温度の変動量が大きい場合は、第2温度検出部36による実測値を所定の温度とする方が放熱量の推定精度が向上しうる。また、所定の温度として、算出部321が、検出温度と周辺温度とを選択可能にして、例えば、第2温度検出部36が故障した場合には周辺温度を所定の温度として選択してもよい。
【0037】
(比較部)
比較部322は、算出部321で求められた蓄熱量Qnと所定の閾値とを比較して、蓄熱量Qnが所定の閾値より大きいか否かを判定する。比較部322は、判定結果を駆動量決定部323へ出力する。比較部322は、第1格納部324に格納された第1対応付け情報を参照して所定の閾値を決定する。詳細は、後述する。
【0038】
(駆動量決定部)
駆動量決定部323は、比較部322から出力された判定結果に基づいて、モータ20の駆動量を決定する。所定の閾値よりも蓄熱量Qnが大きいという判定結果の場合、駆動量決定部323は、制御ユニットの過熱を防止するために、蓄熱量Qnの算出時のモータ20の駆動量よりも小さい駆動量をモータ20の駆動量として決定する。蓄熱量Qnが所定の閾値以下という判定結果の場合、駆動量は特に制限されない。
【0039】
(第1格納部)
第1格納部324は、駆動部33が有するインバータ回路のうち、モータ20に電流を供給しているインバータ回路の数(以下、駆動インバータ回路数という。)と蓄熱量の閾値とを対応付けた第1対応付け情報を格納する。
【0040】
第1対応付け情報において、駆動インバータ回路数が少ないほど、対応付けられる閾値は大きくなる。これにより、過熱防止が不要な状態において、モータ20へ供給する電流を制限してしまう過剰な過熱保護を防止することができる。また、蓄熱量の閾値は、駆動部33の温度が高いほど小さくなる。これにより、過熱保護の精度を向上させることができる。
【0041】
算出部321は、電流検出部35による検出結果に基づいて、駆動インバータ回路数を求め、求めた駆動インバータ回路数を比較部322に出力する。比較部322は、第1格納部324に格納された第1対応付け情報を参照して、算出部321から出力された駆動インバータ回路数に対応した蓄熱量の閾値を得る。比較部322は、得られた閾値を蓄熱量Qnと比較する所定の閾値として決定する。
【0042】
第1対応付け情報を第1格納部324に予め格納しておくことで、駆動インバータ回路数が変わるたびに所定の閾値を算出することが不要となり、過熱防止制御を安定して行うことができる。
【0043】
(第2格納部)
第2格納部325は、第1温度検出部34による検出温度から所定の温度を引いて得られる差分ΔTと放熱量とを対応付けた第2対応付け情報を格納する。
【0044】
第2対応付け情報において、ΔTが負の場合、すなわち、駆動部33の温度よりも制御部32の温度または周辺温度が高い場合、ΔTに対応する放熱量は最低値となる(例えば、0)。一方、ΔTが0℃以上の場合、ΔTに対応する放熱量はΔTの大きさによって変化しうる。
【0045】
ΔTが0℃以上の場合における、ΔTに対応する放熱量は次のように求めることができる。ΔT=30℃のときの放熱量を求める場合を例に説明する。まず、モータ20の駆動を開始してから初めてΔT=30℃となった時点でモータ20へ供給する電流をゼロにする。その後、ΔT=0℃となる時点を計測する。計測された時点をt0とする。
【0046】
上記式(1)を用いて、蓄熱量Qnが0となる時点が、t0と一致するようなQ-を求める。求めたQ-がΔT=30℃に対応する放熱量となる。以上の計算を、複数のΔTで行うことで第2対応付け情報を得ることができる。ΔTと放熱量との関係は線形のみならず、対数などの関係もとりうる。
【0047】
以上の通り、放熱量の時間変化を考慮して放熱量を推定することで推定精度を向上させることができる。そして、精度が向上した放熱量の推定値を用いて蓄熱量を算出することができるため、過熱保護制御の精度を向上させることができる。さらに、制御ユニットに含まれる電子部品等の部品が熱で破損することを防止することができる。
【0048】
第2対応付け情報を第2格納部325に予め格納しておくことで、放熱量の推定値をΔTが得られるたびに算出することが不要となり、過熱防止制御を安定して行うことができる。
【0049】
なお、蓄熱量Qnを算出する時に用いる、電流の検出値および温度の検出値として、算出時点の値だけでなく、前回(n-1番目)の算出時点から今回(n番目)の算出時点まで検出した値の平均値、中央値等を用いることもできる。
【0050】
以上、本実施形態によれば、制御ユニットの過熱を防止する制御の確実性の点で有利なモータ駆動装置を提供することができる。また、本実施形態のモータ駆動装置を適用した電動パワーステアリング装置は、運転の快適性の点で有利となりうる。
【0051】
モータ20は、3相に限られない。また、上記のモータ駆動装置30をパワーステアリング装置以外の装置に適用してもよい。例えば、上記のモータ駆動装置30によって、自動車等の輸送機器の他の部位に用いられるモータを駆動させてもよい。また、上記のモータ駆動装置30によって、産業用ロボットなどの自動車以外の機器に搭載されるモータを駆動させてもよい。
【0052】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0053】
本出願は、2017年4月28日に出願された日本特許出願である特願2017-90199号に基づく優先権を主張し、当該日本特許出願に記載されたすべての記載内容を援用する。
【符号の説明】
【0054】
30 モータ駆動装置
31 電源供給部
32 制御部
33 駆動部
34 第1温度検出部
35 電流検出部
36 第2温度検出部