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  • 特許-鉛蓄電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/14 20060101AFI20220705BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
H01M4/14 Q
H01M4/62 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019514554
(86)(22)【出願日】2018-04-25
(86)【国際出願番号】 JP2018016695
(87)【国際公開番号】W WO2018199123
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2017090843
(32)【優先日】2017-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】特許業務法人河崎・橋本特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松村 朋子
(72)【発明者】
【氏名】國澤 剛志
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-154131(JP,A)
【文献】国際公開第2012/086008(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/157311(WO,A1)
【文献】特開2017-016782(JP,A)
【文献】国際公開第2012/017702(WO,A1)
【文献】特開2016-103422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/06-10/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛蓄電池であって、
前記鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、電解液と、を備え、
前記負極板は、炭素材料と有機防縮剤とを含有する負極電極材料を含み、
前記炭素材料は、32μm以上の粒子径を有する第1炭素材料と、32μm未満の粒子径を有する第2炭素材料と、を含み、
前記第1炭素材料の粉体抵抗R1に対する、前記第2炭素材料の粉体抵抗R2の比:R2/R1が15以上155以下であり、
前記第2炭素材料は、少なくともカーボンブラックを含み、
前記負極電極材料中の前記第1炭素材料の含有量は、0.05質量%以上3.0質量%以下であり、
前記負極電極材料中の前記第2炭素材料の含有量は、0.03質量%以上1.0質量%以下であり、
前記有機防縮剤は、芳香環を有する第1有機防縮剤と、芳香環を有する第2有機防縮剤と、を含み、
前記第1有機防縮剤中の硫黄元素含有量は、4000μmol/g以上であり、
前記第2有機防縮剤中の硫黄元素含有量は、2000μmol/g以下であり、
前記第1有機防縮剤および前記第2有機防縮剤のそれぞれが、スルホン酸基またはその塩を有し、
前記第2有機防縮剤は、リグニン類を含む、鉛蓄電池。
【請求項2】
前記負極電極材料中の前記第1有機防縮剤の含有量が0.02質量%以上0.12質量%以下であり、前記第2有機防縮剤の含有量が0.05質量%以上0.7質量%以下である、請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記第1炭素材料の比表面積s1に対する、前記第2炭素材料の比表面積s2の比:s2/s1が20以上240以下である、請求項1または2に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記第1炭素材料の平均アスペクト比は、1.5以上35以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
前記第1有機防縮剤における硫黄元素含有量は、9000μmol/g以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項6】
前記第1有機防縮剤における硫黄元素含有量は、6000μmol/g以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項7】
前記第2有機防縮剤の硫黄元素含有量は、1000μmol/g以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項8】
前記第2有機防縮剤における硫黄元素含有量は、400μmol/g以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項9】
前記第1炭素材料は、少なくとも黒鉛を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、電解液とを含む。負極板は、集電体と、負極電極材料とを含む。負極電極材料には、有機防縮剤が添加される。例えば、特許文献1では、リグニンスルホン酸ナトリウムを負極板に添加することが提案されている。特許文献2では、負極板に、ビスフェノールスルホン酸ポリマーとリグニンスルホン酸ナトリウムとを添加することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015/087749号パンフレット
【文献】国際公開第2012/017702号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鉛蓄電池は、部分充電状態(PSOC)と呼ばれる充電不足状態で使用されることがある。例えば、充電制御やアイドリングストップ・スタート(ISS)の際には、鉛蓄電池がPSOCで使用されることになる。そのため、鉛蓄電池には、PSOC条件下でのサイクル試験において寿命性能(以下、PSOC寿命性能)に優れることが求められる。このような寿命性能の改善には、負極電極材料に添加されるカーボンブラックを増量することが効果的である。しかし、有機防縮剤のリグニン(リグニンスルホン酸またはその塩なども含む)は、カーボンブラックに吸着されるため、カーボンブラックを多量に添加すると、負極電極材料が収縮して、高温サイクル後の低温ハイレート性能が低下する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面は、鉛蓄電池であって、
前記鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、電解液と、を備え、
前記負極板は、炭素材料と有機防縮剤とを含有する負極電極材料を含み、
前記炭素材料は、32μm以上の粒子径を有する第1炭素材料と、32μm未満の粒子径を有する第2炭素材料と、を含み、
前記第1炭素材料の粉体抵抗R1に対する、前記第2炭素材料の粉体抵抗R2の比:R2/R1が15以上155以下であり、
前記有機防縮剤は、芳香環を有する第1有機防縮剤と、芳香環を有する第2有機防縮剤と、を含み、
前記第1有機防縮剤中の硫黄元素含有量は、4000μmol/g以上であり、
前記第2有機防縮剤中の硫黄元素含有量は、2000μmol/g以下である、鉛蓄電池に関する。
【発明の効果】
【0006】
鉛蓄電池において、高いPSOC寿命性能を確保しながら、高温サイクル後の低温ハイレート性能を向上する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態に係る鉛蓄電池の外観と内部構造を示す、一部を切り欠いた分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一側面は、鉛蓄電池であって、鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、電解液と、を備える。負極板は、炭素材料と有機防縮剤とを含有する負極電極材料を含む。炭素材料は、32μm以上の粒子径を有する炭素材料(第1炭素材料)と、32μm未満の粒子径を有する炭素材料(第2炭素材料)とを含む。第1炭素材料の粉体抵抗R1に対する、第2炭素材料の粉体抵抗R2の比:R2/R1は、15以上155以下である。有機防縮剤は、芳香環を有する第1有機防縮剤と、芳香環を有する第2有機防縮剤とを含む。第1有機防縮剤中の硫黄元素含有量は、4000μmol/g以上であり、第2有機防縮剤中の硫黄元素含有量は2000μmol/g以下である。
【0009】
なお、本明細書中、有機防縮剤中の硫黄元素の含有量がXμmol/gであるとは、有機防縮剤の1g当たりに含まれる硫黄元素の含有量がXμmolであることをいう。
【0010】
一般に、負極電極材料には、導電性を高める観点から、カーボンブラックが添加されている。しかし、カーボンブラックは、負極電極材料中で凝集し易く、導電ネットワークが形成され難いため、十分なPSOC寿命性能が得られ難いことが知られている。そのため、従来は、PSOC寿命性能を向上する観点から、カーボンブラックの添加量を多くすることが有利であると考えられている。一方、負極電極材料には、従来、有機防縮剤としてリグニンが多用されている。しかし、この場合、カーボンブラックがリグニンを吸着するため、カーボンブラックの添加量が多くなると、リグニンの吸着に伴い、負極電極材料の収縮が顕著になり、結果として高温サイクル後の低温ハイレート性能が著しく低下する。また、従来の負極電極材料では、合成有機防縮剤を用いることもある。しかし、合成防縮剤を用いた負極電極材料に、カーボンブラックを添加した場合には、高温サイクル時に合成有機防縮剤が流出して、負極電極材料の細孔構造が維持できなくなるため、PSOC寿命性能が低下することが知られている。
【0011】
本発明の上記側面とは異なり、第2有機防縮剤を単独で用いた場合には、第2有機防縮剤を多量に負極電極材料に添加しても高温サイクル後の低温ハイレート性能を向上することは難しい。これは、第2有機防縮剤が高温サイクル時に負極電極材料から流出しやすいためである。また、第1有機防縮剤を用いるとサイクル後の電解液の減液量が多くなるため、減液量を低く抑える観点からは、一般に、第1有機防縮剤の使用量を多くすることは難しい。そのため、減液量が顕著にならないような量の第1有機防縮剤を単独で使用しても、PSOC寿命性能を十分に改善することは難しい。また、二種類の有機防縮剤を併用する場合であっても、硫黄元素含有量が2000μmol/g以下の有機防縮剤と、硫黄元素含有量が2000μmol/gを超えて4000μmol/g未満の有機防縮剤とを用いる場合には、高温サイクル後の低温ハイレート性能の向上効果は不十分である。詳細は定かではないが、この場合、高温サイクル中に負極電極材料から有機防縮剤が流出し易く、負極電極材料の細孔構造を保持し難いことによるものと推測される。
【0012】
また、炭素材料には、様々な粉体抵抗を有するものが知られている。粉末材料の粉体抵抗は、粒子の形状、粒子径、粒子の内部構造、および/または粒子の結晶性などにより変化することが知られている。従来の技術常識では、炭素材料の粉体抵抗は、負極板の抵抗には直接的な関係はなく、PSOC寿命性能および高温サイクル後の低温ハイレート性能に対して影響を及ぼすとは考えられていない。
【0013】
それに対し、本発明の上記側面によれば、硫黄元素含有量が4000μmol/g以上の第1有機防縮剤と硫黄元素含有量が2000μmol/g以下の第2有機防縮剤とを組み合わせるとともに、第1炭素材料と第2炭素材料とを用いる。第1炭素材料と第2炭素材料は、粒子径が異なり、かつこれらの粉体抵抗比R2/R1が、15以上155以下の範囲であるものである。このように、上記側面では、第1有機防縮剤と第2有機防縮剤とを組み合わせるとともに、第1炭素材料と第2炭素材料とを組み合わせることで、電池を高温で繰り返し充放電した後(高温サイクル後)の低温ハイレート性能を向上することができる。これは、第2炭素材料への第2有機防縮剤の吸着が顕在化することが抑制されることによるものと考えられる。また、高温サイクル中に、負極電極材料からの有機防縮剤の流出が抑制され、負極電極材料の細孔構造が維持されることによっても低温ハイレート性能が向上すると考えられる。これは、第2有機防縮剤に、硫黄元素含有量が4000μmol/g以上の第1有機防縮剤を組み合わせることで、適度な粒子径を有する第1有機防縮剤のコロイド粒子が形成され易くなり、有機防縮剤の流出を全体的に抑制できることによるものと推測される。
【0014】
本発明の上記側面では、負極板に含まれる第1炭素材料と第2炭素材料との粉体抵抗比R2/R1を15以上155以下の範囲に制御することで、高いPSOC寿命性能を得ることができる。これは、次のような理由によるものと推測される。まず、粉体抵抗比R2/R1を上記の範囲に制御することで、負極電極材料中に導電ネットワークが形成され易くなる。また、高温サイクル時に負極電極材料からの有機防縮剤の流出が抑制されるため、有機防縮剤の効果が十分に発揮されることとなり、負極電極材料の細孔構造が維持される。よって、形成された導電ネットワークが、PSOCサイクルを行なっても維持され易くなる。つまり、上記のような粉体抵抗比の第1炭素材料と第2炭素材料とを第1有機防縮剤および第2有機防縮剤と組み合わせることで、これらの有機防縮剤の効果が高められると言える。
【0015】
負極電極材料中の第1有機防縮剤の含有量は、0.02質量%以上0.12質量%以下であることが好ましい。また、負極電極材料中の第2有機防縮剤の含有量は、0.05質量%以上0.7質量%以下であることが好ましい。各有機防縮剤の含有量がこのような範囲である場合、PSOC寿命性能、および高温サイクル後の低温ハイレート性能の向上効果をさらに高めることができる。これは、負極電極材料の収縮が効果的に抑制されることで、負極電極材料の細孔構造を維持できるためと考えられる。
なお、負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量とは、既化成の満充電状態の鉛蓄電池から、後述の方法で採取した負極電極材料における含有量である。
【0016】
第1炭素材料の比表面積s1に対する、第2炭素材料の比表面積s2の比:s2/s1は、20以上240以下であることが好ましい。比表面積比s2/s1が20以上である場合には、硫酸鉛の還元反応が進行し易いため、高いPSOC寿命性能を確保しながらも、回生受入性の低下を抑制することができる。また、比表面積比s2/s1が240以下では、各炭素材料の比表面積が適度な範囲であることで、有機防縮剤の吸着がさらに抑制される。その結果、さらに高い低温ハイレート性能を確保できる。さらに、その詳細は定かではないが、サイクル後の電解液の減液量の増加を低減できる。
【0017】
第1炭素材料の平均アスペクト比は、1.5以上35以下であることが好ましい。この場合、優れたPSOC寿命性能が得られ易いとともに、高温サイクル後の低温ハイレート性をさらに向上し易くなる。これは、平均アスペクト比がこのような範囲である場合、負極電極材料中で導電ネットワークが形成され易くなるとともに、形成された導電ネットワークが維持され易いことによるものと考えられる。
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池について、主要な構成要件ごとに説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
(負極板)
負極板は、通常、負極集電体(負極格子)と、負極電極材料とで構成できる。なお、負極電極材料は、負極板から負極集電体を除いたものである。
【0019】
なお、負極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。負極板がこのような部材(貼付部材)を含む場合には、負極電極材料は、負極集電体および貼付部材を除いたものである。ただし、電極板の厚みはマットを含む厚みとする。セパレータにマットが貼りつけられている場合は、マットの厚みはセパレータの厚みに含まれる。
【0020】
負極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(鉛もしくは硫酸鉛)を含む。充電状態の負極活物質は、海綿状の金属鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。また、負極電極材料は、炭素材料と有機防縮剤とを含む。負極電極材料は、更に、硫酸バリウムなどを含んでもよく、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0021】
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、例えば0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上でもよく、1.0質量%以上でもよく、1.3質量%以上でもよい。一方、3.0質量%以下が好ましく、2.5質量%以下がより好ましく、2質量%以下が更に好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0022】
以下、負極電極材料に含まれる硫酸バリウムの定量方法について記載する。定量分析に先立ち、化成後の鉛蓄電池を満充電してから解体して分析対象の負極板を入手する。入手した負極板に水洗と乾燥とを施して負極板中の電解液を除く。次に、負極板から負極電極材料を分離して未粉砕の初期試料を入手する。
【0023】
未粉砕の初期試料を粉砕し、粉砕された初期試料10gに対し、(1+2)硝酸を50ml加え、約20分加熱し、鉛成分を硝酸鉛として溶解させる。次に、硝酸鉛を含む溶液を濾過して、炭素質材料、硫酸バリウム等の固形分を濾別する。
【0024】
得られた固形分を水中に分散させて分散液とした後、篩いを用いて分散液から炭素質材料および硫酸バリウム以外の成分(例えば補強材)を除去する。次に、分散液に対し、予め質量を測定したメンブレンフィルターを用いて吸引ろ過を施し、濾別された試料とともにメンブレンフィルターを110℃の乾燥器で乾燥する。濾別された試料は、炭素質材料と硫酸バリウムとの混合試料である。乾燥後の混合試料とメンブレンフィルターとの合計質量からメンブレンフィルターの質量を差し引いて、混合試料の質量(A)を測定する。その後、乾燥後の混合試料をメンブレンフィルターとともに坩堝に入れ、700℃以上で灼熱灰化させる。残った残渣は酸化バリウムである。酸化バリウムの質量を硫酸バリウムの質量に変換して硫酸バリウムの質量(B)を求める。
【0025】
(有機防縮剤)
本実施形態において、有機防縮剤は、芳香環を有する第1有機防縮剤と、芳香環を有する第2有機防縮剤と、を含む。第1有機防縮剤中の硫黄元素含有量は、4000μmol/g以上であり、第2有機防縮剤中の硫黄元素含有量は、2000μmol/g以下である。各有機防縮剤は、硫黄元素を含む有機高分子である。各有機防縮剤は、分子内に1つの芳香環を含んでもよいが、複数の芳香環を含むことが好ましい。
【0026】
有機防縮剤は、好ましくは、硫黄元素を硫黄含有基として含んでいる。硫黄含有基の中では、安定形態であるスルホン酸基もしくはスルホニル基が好ましい。スルホン酸基は、酸型で存在してもよく、Na塩のように塩型で存在してもよい。
【0027】
第1有機防縮剤としては、リグニンとは異なり、合成により得られる合成有機防縮剤が好ましい。第1有機防縮剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。第1有機防縮剤としては、芳香環を有する化合物のアルデヒド化合物による縮合物が好ましい。また、アクリルアミド・ターシャリーブチル・スルホン酸Naの重合物(ATBS(登録商標)ポリマー)、N,N’-(スルホニルジ-4,1-フェニレン)ビス(1,2,3,4-テトラヒドロ-6-メチル-2,4-ジオキソピリミジン-5-スルホンアミド)を用いた縮合物も第1有機防縮剤として用いることができる。
【0028】
芳香環を有する化合物は、芳香環を複数有していてもよい。芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環などが挙げられる。芳香環を有する化合物が複数の芳香環を有する場合には、複数の芳香環は直接結合や連結基(例えば、アルキレン基、スルホン基など)などで連結していてもよい。このような構造としては、例えば、ビフェニル、ビスフェニルアルカン、ビスフェニルスルホンなどが挙げられる。芳香環を有する化合物としては、例えば、上記の芳香環と、ヒドロキシ基、アミノ基、および/またはスルホン酸基などとを有する化合物が挙げられる。ヒドロキシ基、アミノ基、またはスルホン酸基は、芳香環に直接結合していてもよく、ヒドロキシ基、アミノ基、またはスルホン酸基を有するアルキル鎖として結合していてもよい。芳香環を有する化合物としては、ビスフェノール化合物、ヒドロキシビフェニル化合物、ヒドロキシナフタレン化合物、フェノール化合物、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などが好ましい。芳香環を有する化合物は、さらに置換基を有していてもよい。有機防縮剤は、これらの化合物の残基を一種含んでもよく、複数種含んでもよい。
【0029】
芳香環を有する化合物のうち、特に、ビスフェノール化合物やナフタレンスルホン酸が好ましい。ビスフェノール化合物としては、例えば、「ビスフェノールA」、「ビスフェノールS」、「ビスフェノールF」、「ビスフェノールAP」、「ビスフェノールAF」、「ビスフェノールB」、「ビスフェノールBP」、「ビスフェノールC」、「ビスフェノールE」、「ビスフェノールG」、「ビスフェノールM」、「ビスフェノールP」、「ビスフェノールPH」、「ビスフェノールTMC」、「ビスフェノールZ」などが挙げられる。中でも、「ビスフェノールS」は、スルホニル基(-SO2-)を有するため、硫黄元素の含有量を大きくすることが容易である。なお、ビスフェノール化合物の縮合物は、常温より高い環境を経験しても、低温での始動性能が損なわれないので、常温より高い温度環境に置かれる鉛蓄電池に適している。また、ナフタレンスルホン酸の縮合物は、ビスフェノール類の縮合物に比べ、分極が小さくなりにくいので、減液特性が重要な鉛蓄電池に適している
【0030】
芳香環を有する化合物と縮合させるアルデヒド化合物は、特に限定されない。アルデヒド化合物としては、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドの他、トリオキサン、テトラオキシメチレンなどのアルデヒド縮合物なども含まれる。アルデヒド化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。芳香環を有する化合物との反応性が高い観点からは、ホルムアルデヒドが好ましい。
【0031】
硫黄含有基は、化合物に含まれる芳香環に直接結合していてもよく、例えば硫黄含有基を有するアルキル鎖として芳香環に結合していてもよい。また、例えば、アミノベンゼンスルホン酸もしくはアルキルアミノベンゼンスルホン酸のような単環式の芳香族化合物を、上記の芳香環を有する化合物とともにアルデヒド化合物で縮合させてもよい。芳香環を有する化合物とアルデヒド化合物との縮合生成物にさらにスルホン酸基(スルホ基)を導入してもよい。スルホン酸基を導入することで、第1有機防縮剤中の硫黄元素含有量を高めることができる。また、硫黄元素は、スルホン酸基として含まれていてもよく、スルホニル基として含まれていてもよい。
【0032】
第1有機防縮剤としては、スルホン酸基を導入した「ビスフェノールA」のホルムアルデヒドによる縮合物、スルホン酸基を導入した「ビスフェノールS」のホルムアルデヒドによる縮合物、β-ナフタレンスルホン酸のホルムアルデヒドによる縮合物(花王株式会社の商品名「デモール」)を好適に用いることができる。なお、「ビスフェノールS」を用いた場合には、合成防縮剤内には、スルホン酸基、及び「ビスフェノールS」内のスルホニル基(-SO-)構造に由来する硫黄元素が存在することになる。
【0033】
第1有機防縮剤中の硫黄元素含有量は、4000μmol/g以上であればよく、より高いPSOC寿命性能が得られる観点からは、6000μmol/g以上であることが好ましい。サイクル後の電解液の減液量を低減する観点からは、第1有機防縮剤中の硫黄元素含有量は、例えば、9000μmol/g以下であることが好ましく、8000μmol/g以下であることがさらに好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。第1有機防縮剤中の硫黄元素含有量は、例えば、4000μmol/g以上9000μmol/g以下、4000μmol/g以上8000μmol/g以下、6000μmol/g以上9000μmol/g以下、または6000μmol/g以上8000μmol/g以下であってもよい。
【0034】
第1有機防縮剤の重量平均分子量(Mw)は、例えば、4000以上であり、7000以上であることが好ましい。第1有機防縮剤の重量平均分子量は、例えば、100,000以下であり、20,000以下であってもよい。
【0035】
なお、本明細書中、重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により求められるものである。重量平均分子量を求める際に使用する標準物質は、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムとする。
重量平均分子量は、下記の装置を用い、下記の条件で測定される。
GPC装置:ビルドアップGPCシステムSD-8022/DP-8020/AS-8020/CO-8020/UV-8020 (東ソー(株)製)
カラム:TSKgel G4000SWXL,G2000SWXL(7.8mmI.D.×30cm)(東ソー(株)製)
検出器:UV検出器、λ=210nm
溶離液:1mol/L NaCl:アセトニトリル(体積比=7:3)
流速:1mL/min.
濃度:10mg/mL
注入量:10μL
標準物質:ポリスチレンスルホン酸Na(Mw=275,000、35,000、12,500、7,500、5,200、1,680)
【0036】
第1有機防縮剤としては、公知の方法により合成したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。ビスフェノール化合物の縮合物は、例えば、ビスフェノール化合物と、アルデヒド化合物とを反応させることにより得られる。例えば、この反応を亜硫酸塩の存在下で行ったり、硫黄元素を含むビスフェノール化合物(「ビスフェノールS」など)を用いたりすることで、硫黄元素を含む有機防縮剤を得ることができる。亜硫酸塩の量および/または硫黄元素を含むビスフェノール化合物の量を調節することで、第1有機防縮剤中の硫黄元素含有量を調節することができる。他の原料を用いる場合も、この方法に準じて得ることができる。
【0037】
第2有機防縮剤は、合成により得られる合成有機防縮剤であってもよく、リグニン類であってもよい。合成有機防縮剤としては、硫黄元素の含有量が異なる以外は、第1有機防縮剤について記載したものから選択できる。リグニン類としては、リグニン、リグニンスルホン酸またはその塩(ナトリウム塩などのアルカリ金属塩など)などのリグニン誘導体などが挙げられる。
【0038】
第2有機防縮剤中の硫黄元素含有量は、2000μmol/g以下であればよく、サイクル後の減液を抑制する効果が高まる観点からは、1000μmol/g以下であることが好ましく、800μmol/g以下であることがさらに好ましい。第2有機防縮剤中の硫黄元素含有量の下限は特に制限されないが、PSOC寿命性能を向上させる効果が高まる観点からは、400μmol/g以上が好ましい。
【0039】
第2有機防縮剤の重量平均分子量(Mw)は、例えば、3000以上20000以下であり、4000以上10000以下であることが好ましく、4000以上7000未満であってもよい。
【0040】
負極電極材料中の第1有機防縮剤の含有量は、より高いPSOC寿命が得られる観点からは、0.02質量%以上であることが好ましい。高温サイクル後の低温ハイレート性能をさらに高める観点からは、負極電極材料中の第1有機防縮剤の含有量は、0.05質量%以上であることが好ましく、0.08質量%以上であることがさらに好ましい。負極電極材料中の第1有機防縮剤の含有量は、例えば、0.12質量%以下であり、サイクル後の減液量を低減する効果が高まる観点からは、0.10質量%以下であることが好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。負極電極材料中の第1有機防縮剤の含有量は、例えば、0.02質量%以上0.12質量%以下、0.05質量%以上0.12質量%以下、または0.08質量%以上0.12質量%以下であってもよく、これらの範囲においてサイクル後の減液量を低減するために上限値を0.10質量%以下としてもよい。
【0041】
負極電極材料中の第2有機防縮剤の含有量は、0.02質量%以上であってもよいが、PSOC寿命性能を向上する効果がさらに高まる観点からは、0.05質量%以上であることが好ましい。負極電極材料中の第2有機防縮剤の含有量は、例えば、0.7質量%以下であり、優れた回生受入性が得られ易い観点からは、0.5質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以下であることがさらに好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。負極電極材料中の第2有機防縮剤の含有量は、例えば、0.02質量%以上0.7質量%以下、0.02質量%以上0.5質量%以下、0.02質量%以上0.3質量%以下、0.05質量%以上0.7質量%以下、0.05質量%以上0.5質量%以下、または0.05質量%以上0.3質量%以下であってもよい。
【0042】
負極電極材料中の第1有機防縮剤の含有量と第2有機防縮剤の含有量とを上記のように調節することで、PSOC寿命性能および高温サイクル後の低温ハイレート性能の向上効果をさらに高めることができる。
【0043】
負極電極材料に含まれる有機防縮剤中、第1有機防縮剤および第2有機防縮剤の総量は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
【0044】
有機防縮剤の分析方法および物性の決定方法について以下に説明する。
(A)有機防縮剤の分析
(A-1)有機防縮剤種の特定
負極電極材料中の有機防縮剤種の特定は、以下の様にして行う。
満充電された鉛蓄電池を分解し、負極板を取り出し水洗により硫酸分を除去し、真空乾燥(大気圧より低い圧力下で乾燥)する。負極板から活物質を含んだ負極電極材料を分離し、1mol/LのNaOH水溶液に負極電極材料を浸漬して有機防縮剤を抽出する。そして、抽出物から、第1有機防縮剤と第2有機防縮剤とを分離する。各有機防縮剤を含む分離物のそれぞれについて、不溶成分を濾過で取り除いた溶液を、脱塩した後、濃縮および凍結乾燥(フリーズドライ)して粉末試料を得る。脱塩には、脱塩カラムやイオン交換膜が用いられる。このようにして得た有機防縮剤の粉末試料を用いて測定した赤外分光スペクトルやNMRスペクトル、さらに粉末試料を蒸留水で希釈し紫外可視吸光度計で測定した紫外可視吸収スペクトルなどから得た情報を用いて、有機防縮剤種を特定する。
【0045】
なお、上記抽出物からの第1有機防縮剤と第2有機防縮剤との分離は、次のようにして行なう。まず、上記抽出物を、赤外分光、NMR、および/またはGC-MSで測定することにより、複数種の有機防縮剤が含まれているかどうかを判断する。次いで、上記抽出物のGPC分析により分子量分布を測定し、複数種の有機防縮剤が分子量により分離可能であれば、分子量の違いに基づいて、カラムクロマトグラフィーにより有機防縮剤を分離する。分子量の違いによる分離が難しい場合には、有機防縮剤が有する官能基の種類および/または官能基の量により異なる溶解度の違いを利用して、沈殿分離法により一方の有機防縮剤を分離する。具体的には、上記抽出物をNaOH水溶液に溶解させた混合物に、硫酸水溶液を滴下して、混合物のpHを調節することにより、一方の有機防縮剤を凝集させ、分離する。分離物を再度NaOH水溶液に溶解させたものから上記のように不溶成分を濾過により取り除く。また、一方の有機防縮剤を分離した後の残りの溶液を、濃縮する。得られた濃縮物は、他方の有機防縮剤を含んでおり、この濃縮物から上記のように不溶成分を濾過により取り除く。
【0046】
本明細書中、鉛蓄電池の満充電状態とは、液式の電池の場合、25℃の水槽中で、0.2CAの電流で2.5V/セルに達するまで定電流充電を行った後、さらに0.2CAで2時間、定電流充電を行った状態である。また、制御弁式の電池の場合、満充電状態とは、25℃の気槽中で、0.2CAで、2.23V/セルの定電流定電圧充電を行い、定電圧充電時の充電電流が1mCA以下になった時点で充電を終了した状態である。
なお、本明細書中、1CAとは電池の公称容量(Ah)と同じ数値の電流値(A)である。例えば、公称容量が30Ahの電池であれば、1CAは30Aであり、1mCAは30mAである。
【0047】
(A-2)有機防縮剤の含有量の測定
負極電極材料中の有機防縮剤の含有量は、以下の様にして測定する。
上記(A-1)と同様の手順で、各有機防縮剤を含む分離物のそれぞれについて不溶成分を濾過で取り除いた後の溶液を得る。得られた各溶液について、紫外可視吸収スペクトルを測定する。そして、この紫外可視吸収スペクトルに基づいて、予め作成した検量線を用いて負極電極材料中の第1有機防縮剤および第2有機防縮剤の含有量をそれぞれ測定する。
【0048】
他社製の電池を入手して合成防縮剤の含有量を測定する際に、有機防縮剤の構造式の厳密な特定ができないために検量線に同一の有機防縮剤が使用できない場合には、当該電池の負極から抽出した有機防縮剤と、紫外可視吸収スペクトル、赤外分光スペクトル、およびNMRスペクトルなどが類似の形状を示す、別途入手可能な有機防縮剤を使用して検量線を作成することで、紫外可視吸収スペクトルを用いて各有機防縮剤の含有量を測定する。
【0049】
(A-3)有機防縮剤中の硫黄元素含有量の測定
上記(A-1)と同様にして分離した第1有機防縮剤および第2有機防縮剤の粉末試料をそれぞれ0.1gずつとり、粉末試料中のS元素を酸素燃焼フラスコ法により硫酸に変換した溶出液を得る。そして、トリンを指示薬として溶出液を過塩素酸バリウムで滴定して、粉末試料0.1g中の硫黄元素含有量を求める。この硫黄元素含有量を1g当たりの数量に変換して、各有機防縮剤中の硫黄元素含有量とする。
【0050】
(炭素材料)
炭素材料は、32μm以上の粒子径を有する第1炭素材料と、32μm未満の粒子径を有する第2炭素材料と、を含む。第1炭素材料と第2炭素材料とは、後述する手順で分離され、区別される。
【0051】
各炭素材料としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどが挙げられる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどが例示される。黒鉛としては、黒鉛型の結晶構造を含む炭素材料であればよく、人造黒鉛、天然黒鉛のいずれであってもよい。
【0052】
なお、第1炭素材料のうち、ラマンスペクトルの1300cm-1以上1350cm-1以下の範囲に現れるピーク(Dバンド)と1550cm-1以上1600cm-1以下の範囲に現れるピーク(Gバンド)との強度比I/Iが、0以上0.9以下である炭素材料を、黒鉛と呼ぶものとする。
【0053】
第1炭素材料および第2炭素材料は、第1炭素材料の粉体抵抗R1に対する、第2炭素材料の粉体抵抗R2の比:R2/R1が15以上155以下となるように、負極電極材料の調製に使用する炭素材料の種類、比表面積、および/またはアスペクト比などを、選択または調節すればよい。また、これらの要素に加えて、さらに使用する炭素材料の粒子径を調節してもよい。これらの要素を選択または調節することで、第1炭素材料と第2炭素材料の各炭素材料の粉体抵抗を調節することができ、その結果、粉体抵抗比R2/R1を調節することができる。
【0054】
第1炭素材料としては、例えば、黒鉛、ハードカーボン、およびソフトカーボンからなる群より選択される少なくとも一種が好ましい。特に、第1炭素材料は、少なくとも黒鉛を含むことが好ましい。第2炭素材料は、少なくともカーボンブラックを含むことが好ましい。これらの炭素材料を用いると、粉体抵抗比R2/R1を調節しやすい。
【0055】
第2炭素材料の粉体抵抗R2の、第1炭素材料の粉体抵抗R1に対する比(粉体抵抗比R2/R1)は、15以上155以下であればよい。高温サイクル後の低温ハイレート性能がさらに高まる観点からは、粉体抵抗比R2/R1は、30以上であることが好ましく、50以上としてもよい。同様の観点から、粉体抵抗比R2/R1を、130以下とすることも好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。粉体抵抗比R2/R1は、30以上155以下、30以上130以下、50以上155以下、50以上130以下、または15以上130以下であってもよい。粉体抵抗比R2/R1がこのような範囲である場合、優れたPSOC寿命性能も確保される。
【0056】
第1炭素材料の比表面積s1に対する、第2炭素材料の比表面積s2の比:s2/s1は、例えば、10以上であり、500以下である。高温サイクル後の高い低温ハイレート性能および高いPSOC寿命性能を確保しつつ、回生受入性の低下およびサイクル後の減液量の顕著な増加を抑制する観点からは、比表面積比s2/s1は、20以上であり、240以下であることが好ましい。さらに高い回生受入性が得られる観点からは、比表面積比s2/s1は、30以上であることが好ましく、40以上であってもよい。高温サイクル後の低温ハイレート性能をさらに高めるとともに、サイクル後の減液量を低減する観点からは、比表面積比s2/s1は、240以下であることが好ましく、120以下であることがさらに好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。比表面積比s2/s1は、例えば、30以上500以下、30以上400以下、30以上240以下、30以上120以下、40以上500以下、40以上400以下、40以上240以下、40以上120以下、10以上240以下、20以上240以下、10以上120以下、または20以上120以下であってもよい。
【0057】
第1炭素材料の平均アスペクト比は、例えば、1以上であり、200以下である。高いPSOC寿命性能が確保し易い観点からは、第1炭素材料の平均アスペクト比は、1.5以上100以下であることが好ましい。より高い、高温サイクル後の低温ハイレート性能を確保し易い観点からは、第1炭素材料の平均アスペクト比は、1.5以上35以下であることが好ましく、5以上35以下または5以上30以下であってもよい。また、第1炭素材料の平均アスペクト比が1.5以上の場合には、負極電極材料中に導電ネットワークが形成され易く、PSOC寿命性能の向上効果をさらに大きくすることができる。第1炭素材料の平均アスペクト比が30以下の場合には、活物質粒子同士の密着性を確保し易くなるため、極板におけるひびの発生が抑制され、高いPSOC寿命性能を確保し易くなる。
【0058】
負極電極材料中の第1炭素材料の含有量は、例えば、0.05質量%以上3.0質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以上2.0質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以上1.5質量%以下である。第1炭素材料の含有量が0.05質量%以上である場合、PSOC寿命性能を向上する効果をさらに高めることができる。第1炭素材料の含有量が、3.0質量%以下の場合、活物質粒子同士の密着性を確保し易くなるため、負極板におけるひびの発生が抑制され、高いPSOC寿命性能の確保がさらに容易になる。
【0059】
負極電極材料中の第2炭素材料の含有量は、例えば、0.03質量%以上1.0質量%以下であり、好ましくは0.05質量%以上0.5質量%以下、さらに好ましくは0.05質量%以上0.3質量%以下である。第2炭素材料の含有量が、0.03質量%以上である場合、PSOC寿命性能を向上する効果をさらに高めることができる。第2炭素材料の含有量が、1.0質量%以下である場合、有機防縮剤の吸着がさらに抑制されることで、低温ハイレート性能をさらに高めることができる。
【0060】
炭素材料の物性の決定方法または分析方法について以下に説明する。
(B)炭素材料の分析
(B-1)炭素材料の分離
既化成の満充電状態の鉛蓄電池を分解し、負極板を取り出し、水洗により硫酸を除去し、真空乾燥(大気圧より低い圧力下で乾燥)する。次に、乾燥した負極板から負極電極材料を採取し、粉砕する。5gの粉砕試料に、60質量%濃度の硝酸水溶液30mLを加えて、70℃で加熱する。この混合物に、さらに、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム10g、28質量%濃度のアンモニア水30mL、および水100mLを加えて、加熱を続け、可溶分を溶解させる。このようにして前処理を行なった試料を、ろ過により回収する。回収した試料を、目開き500μmのふるいにかけて、補強材などのサイズが大きな成分を除去して、ふるいを通過した成分を炭素材料として回収する。
【0061】
回収した炭素材料を、目開き32μmのふるいを用いて湿式にて篩ったときに、ふるいの目を通過せずに、ふるい上に残るものを第1炭素材料とし、ふるいの目を通過するものを第2炭素材料とする。つまり、各炭素材料の粒子径は、ふるいの目開きのサイズを基準とするものである。湿式のふるい分けについては、JIS Z8815:1994を参照できる。
【0062】
具体的には、炭素材料を、目開き32μmのふるい上に載せ、イオン交換水を散水しながら、5分間ふるいを軽く揺らして篩い分けする。ふるい上に残った第1炭素材料は、イオン交換水を流しかけてふるいから回収し、ろ過によりイオン交換水から分離する。ふるいを通過した第2炭素材料は、ニトロセルロース製のメンブランフィルター(目開き0.1μm)を用いてろ過により回収する。回収された第1炭素材料および第2炭素材料は、それぞれ、110℃の温度で2時間乾燥させる。目開き32μmのふるいとしては、JIS Z 8801-1:2006に規定される、公称目開きが32μmであるふるい網を備えるものを使用する。
【0063】
なお、負極電極材料中の各炭素材料の含有量は、上記の手順で分離した各炭素材料の質量を測り、この質量の、5gの粉砕試料中に占める比率(質量%)を算出することにより求める。
【0064】
(B-2)炭素材料の粉体抵抗
第1炭素材料の粉体抵抗R1および第2炭素材料の粉体抵抗R2は、上記(B-1)の手順で分離された第1炭素材料および第2炭素材料のそれぞれについて、粉体抵抗測定システム((株)三菱化学アナリテック製、MCP-PD51型)に、試料を0.5g投入し、圧力3.18MPa下で、JIS K 7194:1994に準拠した低抵抗抵抗率計((株)三菱化学アナリテック製、ロレスタ-GX MCP-T700)を用いて、四探針法により測定される値である。
【0065】
(B-3)炭素材料の比表面積
第1炭素材料の比表面積s1および第2炭素材料の比表面積s2は、第1炭素材料および第2炭素材料のそれぞれのBET比表面積である。BET比表面積は、上記(B-1)の手順で分離された第1炭素材料および第2炭素材料のそれぞれを用いて、ガス吸着法により、BET式を用いて求められる。各炭素材料は、窒素フロー中、150℃の温度で、1時間加熱することにより前処理される。前処理した炭素材料を用いて、下記の装置にて、下記の条件により、各炭素材料のBET比表面積を求める。
測定装置:マイクロメリティックス社製 TriStar3000
吸着ガス:純度99.99%以上の窒素ガス
吸着温度:液体窒素沸点温度(77K)
BET比表面積の計算方法:JIS Z 8830:2013の7.2に準拠
【0066】
(B-4)第1炭素材料の平均アスペクト比
上記(B-1)の手順で分離された第1炭素材料を、光学顕微鏡または電子顕微鏡で観察し、任意の粒子を10個以上選択して、その拡大写真を撮影する。次に、各粒子の写真を画像処理して、粒子の最大径d1、およびこの最大径d1と直交する方向における最大径D2を求め、d1をd2で除することにより、各粒子のアスペクト比を求める。得られたアスペクト比を、平均化することにより平均アスペクト比を算出する。
【0067】
(その他)
負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛または鉛合金スラブを圧延したシートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。
【0068】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。
【0069】
負極板は、負極集電体に負極ペーストを充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。負極ペーストは、鉛粉、有機防縮剤、炭素材料、および必要に応じて各種添加剤に、水と硫酸を加えて混練することで作製する。熟成する際には、室温より高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
【0070】
負極板の化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状の金属鉛が生成する。
【0071】
(正極板)
鉛蓄電池の正極板には、ペースト式とクラッド式がある。
ペースト式正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを具備する。正極電極材料は、正極集電体に保持されている。正極集電体は、負極集電体と同様に形成すればよく、鉛または鉛合金の鋳造や、鉛または鉛合金シートの加工により形成することができる。
【0072】
クラッド式正極板は、複数の多孔質のチューブと、各チューブ内に挿入される芯金と、芯金を連結する集電部と、芯金が挿入されたチューブ内に充填される正極電極材料と、複数のチューブを連結する連座とを具備する。芯金と芯金を連結する集電部とを合わせて正極集電体と呼ぶ。
【0073】
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Ca系合金、Pb-Sb系合金、Pb-Ca-Sn系合金が好ましい。正極集電体は、組成の異なる鉛合金層を有してもよく、合金層は複数でもよい。
【0074】
正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0075】
未化成のペースト式正極板は、負極板の場合に準じて、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成、乾燥することにより得られる。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、硫酸を練合することで調製される。
【0076】
クラッド式正極板は、芯金が挿入されたチューブに鉛粉または、スラリー状の鉛粉を充填し、複数のチューブを連座で結合することにより形成される。
【0077】
形成される未化成の正極板は化成される。化成により、二酸化鉛が生成する。正極板の化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0078】
(セパレータ)
負極板と正極板との間には、通常、セパレータが配置される。セパレータには、不織布、微多孔膜などが用いられる。負極板と正極板との間に介在させるセパレータの厚さや枚数は、極間距離に応じて選択すればよい。
不織布は、繊維を織らずに絡み合わせたマットであり、繊維を主体とする。例えば、セパレータの60質量%以上が繊維で形成されている。繊維としては、ガラス繊維、ポリマー繊維(ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などのポリエステル繊維など)、パルプ繊維などを用いることができる。中でも、ガラス繊維が好ましい。不織布は、繊維以外の成分、例えば耐酸性の無機粉体、結着剤としてのポリマーなどを含んでもよい。
【0079】
一方、微多孔膜は、繊維成分以外を主体とする多孔性のシートであり、例えば、造孔剤(ポリマー粉末および/またはオイルなど)を含む組成物をシート状に押し出し成形した後、造孔剤を除去して細孔を形成することにより得られる。微多孔膜は、耐酸性を有する材料で構成することが好ましく、ポリマー成分を主体とするものが好ましい。ポリマー成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが好ましい。
【0080】
セパレータは、例えば、不織布のみで構成してもよく、微多孔膜のみで構成してもよい。また、セパレータは、必要に応じて、不織布と微多孔膜との積層物、異種または同種の素材を貼り合わせた物、または異種または同種の素材において凹凸をかみ合わせた物などであってもよい。
【0081】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液であり、必要に応じてゲル化させてもよい。化成後で満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば1.10g/cm3以上1.35g/cm3以下であり、1.20g/cm3以上1.35g/cm3以下であることが好ましい。
【0082】
図1に、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池の一例の外観を示す。
鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋15で密閉されている。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0083】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状セパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2の耳部2aを並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3の耳部3aを並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続され、正極棚部5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【0084】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池を以下にまとめて記載する。
(1)本発明の一側面は、鉛蓄電池であって、
前記鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、電解液と、を備え、
前記負極板は、炭素材料と有機防縮剤とを含有する負極電極材料を含み、
前記炭素材料は、32μm以上の粒子径を有する第1炭素材料と、32μm未満の粒子径を有する第2炭素材料と、を含み、
前記第1炭素材料の粉体抵抗R1に対する、前記第2炭素材料の粉体抵抗R2の比:R2/R1が15以上155以下であり、
前記有機防縮剤は、芳香環を有し、かつ硫黄元素含有量が4000μmol/g以上である第1有機防縮剤と、芳香環を有し、かつ硫黄元素含有量が2000μmol/g以下である第2有機防縮剤と、を含む、鉛蓄電池である。
【0085】
(2)上記(1)において、前記負極電極材料中の前記第1有機防縮剤の含有量が0.02質量%以上0.12質量%以下であり、前記第2有機防縮剤の含有量が0.05質量%以上0.7質量%以下であることが好ましい。
【0086】
(3)上記(1)または(2)において、前記第1炭素材料の比表面積s1に対する、前記第2炭素材料の比表面積s2の比:s2/s1が20以上240以下であることが好ましい。
【0087】
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つにおいて、前記第1炭素材料の平均アスペクト比は、1.5~35であることが好ましい。
【0088】
(5)上記(1)~(4)のいずれか1つにおいて、前記第1有機防縮剤における硫黄元素含有量は、9000μmol/g以下であることが好ましい。
【0089】
(6)上記(1)~(5)のいずれか1つにおいて、前記第1有機防縮剤における硫黄元素含有量は、6000μmol/g以上であることが好ましい。
【0090】
(7)上記(1)~(6)のいずれか1つにおいて、前記第2有機防縮剤の硫黄元素含有量は、1000μmol/g以下であることが好ましい。
【0091】
(8)上記(1)~(7)のいずれか1つにおいて、前記第2有機防縮剤の硫黄元素含有量は、400μmol/g以上であることが好ましい。
【0092】
(9)上記(1)~(8)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記第1有機防縮剤の含有量は、0.05質量%以上であることが好ましい。
【0093】
(10)上記(1)~(9)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記第1有機防縮剤の含有量は、0.10質量%以下であることが好ましい。
【0094】
(11)上記(1)~(10)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記第2有機防縮剤の含有量は、0.5質量%以下であることが好ましい。
【0095】
(12)上記(1)~(11)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記第1炭素材料の含有量は、0.05質量%以上であることが好ましい。
【0096】
(13)上記(1)~(12)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記第1炭素材料の含有量は、3.0質量%以下であることが好ましい。
【0097】
(14)上記(1)~(13)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記第2炭素材料の含有量は、0.03質量%以上であることが好ましい。
【0098】
(15)上記(1)~(14)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記第2炭素材料の含有量は、1.0質量%以下であることが好ましい。
【0099】
(16)上記(1)~(15)のいずれか1つにおいて、前記比:R2/R1は、30以上であることが好ましい。
【0100】
(17)上記(1)~(16)のいずれか1つにおいて、前記比:R2/R1は、130以下であることが好ましい。
【0101】
(18)上記(1)~(17)のいずれか1つにおいて、前記比:s2/s1は、30以上であることが好ましい。
【0102】
(19)上記(1)~(18)のいずれか1つにおいて、前記比:s2/s1は、120以下であることが好ましい。
【0103】
(20)上記(1)~(19)のいずれか1つにおいて、前記第1炭素材料の平均アスペクト比は、5以上であることが好ましい。
【0104】
(21)上記(1)~(20)のいずれか1つにおいて、前記第1炭素材料の平均アスペクト比は、30以下であることが好ましい。
【0105】
(22)上記(1)~(21)のいずれか1つにおいて、前記第1炭素材料は、少なくとも黒鉛を含み、前記第2炭素材料は、少なくともカーボンブラックを含むことが好ましい。
【0106】
以下に、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0107】
《鉛蓄電池A1》
(1)負極板の作製
鉛粉、水、希硫酸、硫酸バリウム、炭素材料、スルホン酸基を導入したビスフェノール化合物のホルムアルデヒドによる縮合物(第1有機防縮剤、硫黄元素含有量:6000μmol/g、Mw=7500)、リグニン(第2有機防縮剤、硫黄元素含有量:600μmol/g、Mw=5500)を混合して、負極ペーストを得る。負極ペーストを、Pb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成、乾燥し、未化成の負極板を得る。炭素材料としては、カーボンブラック(平均粒子径D50:40nm)および黒鉛(平均粒子径D50:110μm)を用いる。
【0108】
各有機防縮剤中の硫黄元素含有量(μmol/g)については、負極電極材料を調製する前の値と、鉛蓄電池を解体し、各有機防縮剤を抽出して測定した値には実質的に差がない。そのため、以下、各電池について記載した各有機防縮剤中の硫黄元素含有量としては、負極電極材料を調製する前の各有機防縮剤について求めた値を記載している。
【0109】
各有機防縮剤は、既化成で満充電後の負極電極材料100質量%に含まれる第1有機防縮剤の含有量が0.05質量%となり、第2有機防縮剤の量が0.1質量%となるように、添加量を調整して、負極ペーストに配合する。
【0110】
(2)正極板の作製
鉛粉と、水と、硫酸とを混練させて、正極ペーストを作製する。正極ペーストを、Pb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成、乾燥し、未化成の正極板を得る。
【0111】
(3)鉛蓄電池の作製
未化成の負極板を、ポリエチレン製の微多孔膜で形成された袋状セパレータに収容し、セル当たり未化成の負極板5枚と未化成の正極板4枚とで極板群を形成する。
【0112】
極板群をポリプロピレン製の電槽に挿入し、電解液を注液して、電槽内で化成を施して、公称電圧12Vおよび公称容量が30Ah(5時間率)の液式の鉛蓄電池A1を組み立てる。
【0113】
なお、作製した1つの鉛蓄電池について、既述の手順で、負極板から取り出した負極電極材料(100質量%)中に含まれる各有機防縮剤の含有量(c1(質量%))を求める。このようにして定量された各有機防縮剤の含有量は、鉛蓄電池を作製する際に調製する負極電極材料(100質量%)中の各有機防縮剤の含有量(c2(質量%))とは幾分異なった値となる。そのため、これらの含有量c1およびc2の比率R(=c1/c2)を予め求め、比率Rを利用して、各有機防縮剤の含有量c1が所定の値になるように、各有機防縮剤の含有量c2を調整する。また、各電池について、使用する有機防縮剤の硫黄元素含有量ごとに比率Rを求め、同じ硫黄元素含有量の有機防縮剤を用いる負極電極材料については、求めた比率Rに基づいて有機防縮剤の含有量c2を調整する。
【0114】
本鉛蓄電池では、第1炭素材料の含有量は1.0質量%とし、第2炭素材料の含有量は0.5質量%とする。また、粉体抵抗比R2/R1は15とする。第1炭素材料の平均アスペクト比は、1.5とする。ただし、これらの値は、作製された鉛蓄電池の負極板を取り出し、既述の手順で、負極電極材料に含まれる炭素材料を第1炭素材料と第2炭素材料とに分離したときに、負極電極材料(100質量%)中に含まれる各炭素材料の含有量として求められる値である。各炭素材料の粉体抵抗R1およびR2、粉体抵抗比R2/R1、第1炭素材料の平均アスペクト比も既述の手順で作製後の鉛蓄電池から求められる。
【0115】
《鉛蓄電池A2~A9》
使用する各炭素材料の平均粒子径D50、比表面積、および第1炭素材料の平均アスペクト比を調整することにより、粉体抵抗比R2/R1を表2に示すように変更する。これ以外は、鉛蓄電池A1と同様にして負極板を作製し、得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池A2~A9を組み立てる。
【0116】
《鉛蓄電池B1~B9》
既化成で満充電後の負極電極材料100質量%に含まれる第1有機防縮剤の含有量が0.1質量%となるように、第1有機防縮剤の添加量を調整して、負極ペーストに配合する。これ以外は、鉛蓄電池A1~A9と同様にして負極板を形成する。得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池B1~B9を組み立てる。
【0117】
《鉛蓄電池C1~C9》
第1有機防縮剤の硫黄元素含有量が、4000μmol/gになるように、ビスフェノール化合物のホルムアルデヒドによる縮合物に導入するスルホン酸基の量を調節する。この硫黄元素含有量が4000μmol/gの有機防縮剤(Mw=9500)を用いること以外は、鉛蓄電池B1~B9と同様にして負極板を形成する。得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池を組み立てる。
【0118】
《鉛蓄電池D1~D9》
第1有機防縮剤の硫黄元素含有量が、8000μmol/gになるように、ビスフェノール化合物のホルムアルデヒドによる縮合物に導入するスルホン酸基の量を調節する。この硫黄元素含有量が8000μmol/gの有機防縮剤(Mw=9500)を用いること以外は、鉛蓄電池B1~B9と同様にして負極板を形成する。得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池D1~D9を組み立てる。
【0119】
《鉛蓄電池E1~E9》
既化成で満充電後の負極電極材料100質量%に含まれる第2有機防縮剤の含有量が0.5質量%となるように、第2有機防縮剤の添加量を調整して、負極ペーストに配合する。これ以外は、鉛蓄電池B1~B9と同様にして負極板を形成する。得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池E1~E9を組み立てる。
【0120】
《鉛蓄電池Z1》
炭素材料として、カーボンブラック(平均粒子径D50:40nm)のみを用いるとともに、有機防縮剤として、リグニン(第2有機防縮剤、硫黄元素含有量:600μmol/g、Mw=5500)のみを用いる。本鉛蓄電池では、第2炭素材料の含有量は0.3質量%とする。これら以外は、鉛蓄電池A1と同様にして負極板を形成する。得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池Z1を組み立てる。
【0121】
《鉛蓄電池Z2》
第2炭素材料の含有量を1.5質量%とする以外は、鉛蓄電池Z1と同様にして負極板を形成する。得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池Z2を組み立てる。
【0122】
《鉛蓄電池Z3およびZ4》
既化成で満充電後の負極電極材料100質量%に含まれる第2有機防縮剤の含有量が、それぞれ、0.5質量%(鉛蓄電池Z3)および0.8質量%(鉛蓄電池Z4)となるように、第2有機防縮剤の添加量を調整して、負極ペーストに配合する。これ以外は、鉛蓄電池Z2と同様にして負極板を形成する。得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池Z3およびZ4をそれぞれ組み立てる。
【0123】
《鉛蓄電池Z5~Z7》
炭素材料として、カーボンブラック(平均粒子径D50:40nm)のみを用いるとともに、有機防縮剤として、スルホン酸基を導入したビスフェノール化合物のホルムアルデヒドによる縮合物(第1有機防縮剤、硫黄元素含有量:6000μmol/g、Mw=9500)のみを用いる。本鉛蓄電池では、第2炭素材料の含有量は1.5質量%とする。既化成で満充電後の負極電極材料100質量%に含まれる第1有機防縮剤の含有量が、それぞれ、0.05質量%(鉛蓄電池Z5)、0.1質量%(鉛蓄電池Z6)、および0.12質量%(鉛蓄電池Z7)となるように、第1有機防縮剤の添加量を調整して、負極ペーストに配合する。これら以外は、鉛蓄電池A1と同様にして負極板を形成する。得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池Z5~Z7を組み立てる。
【0124】
《鉛蓄電池Z8》
炭素材料として、カーボンブラック(平均粒子径D50:40nm)のみを用いる。本形態では、第2炭素材料の含有量は1.5質量%とする。これら以外は、鉛蓄電池B1と同様にして負極板を形成する。得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池Z8を組み立てる。
【0125】
[評価1:PSOC寿命性能およびサイクル後の減液量]
表1に示すパターンで、充放電を行なう。端子電圧が単セル当たり1.2Vに到達するまでのサイクル数をPSOC寿命性能の指標とする。鉛蓄電池Z1の結果を100としたときの比率で表す。
【0126】
【表1】
【0127】
PSOC寿命性能の評価後の鉛蓄電池の質量を測定し、評価前の質量から差し引くことで、サイクル後の電解液の減液量が求められる。鉛蓄電池Z1における減液量を100としたときの比率で表す。
【0128】
[評価2:高温サイクル後の低温ハイレート性能]
JIS D5301:2006に規定される軽負荷寿命試験の条件にて、480サイクル充放電を行なう。軽負荷寿命試験では、具体的には、40℃の水槽中、25Aで240秒間定電流放電し、単セル当たり2.47V、最大電流25Aで、600秒間定電圧充電する。次いで、JIS D5301:2006に規定される放電電流(150A)にて、-15℃で端子電圧が単セル当たり1Vに到達するまで放電し、このときの放電時間を求める。この放電時間を高温サイクル後の低温ハイレート性能の指標とする。鉛蓄電池Z1の結果を100としたときの比率で表す。
【0129】
[評価3:回生受入性]
満充電状態の鉛蓄電池を、25℃にて、0.2CAで、公称容量の10%分だけ放電した後、12時間室温で放置する。次いで、単セル当たり2.42Vで定電圧充電し、このときの最初の10秒の電気量を求め、回生受入性の評価の指標とする。鉛蓄電池Z1の結果を100としたときの比率で表す。
【0130】
鉛蓄電池A1~A9、B1~B9、C1~C9、D1~D9、E1~E9、およびZ1~Z8の結果を表2に示す。
【0131】
【表2】
【0132】
表2に示すように、第2炭素材料のみの鉛蓄電池では、第1有機防縮剤および第2有機防縮剤を併用しても、高温サイクル後の低温ハイレート性能の向上効果は低い(Z1)。これは、第2炭素材料への第2有機防縮剤の吸着が顕著になるためである。それに対し、第1有機防縮剤と第2有機防縮剤とを併用するとともに、第1炭素材料と第2炭素材料とを組み合わせる場合には、第2炭素材料への第2有機防縮剤の吸着が抑制され、これにより高温サイクル後の低温ハイレート性能が向上する(A1~A9、B1~B9、C1~C9、D1~D9、E2~E9)。さらに、R2/R1比を15~155の範囲とした鉛蓄電池では、負極電極材料中に導電ネットワークが形成され易くなるとともに、有機防縮剤の効果が十分に発揮されて導電ネットワークが維持されるため、高いPSOC寿命性能が確保される(A1~A7、B1~B7、C1~C7、D1~D7、E2~E7)。
【0133】
《鉛蓄電池F1~F5》
第1有機防縮剤の硫黄元素含有量が、表3に示す値となるように、ビスフェノール化合物のホルムアルデヒドによる縮合物に導入するスルホン酸基の量を調節する。得られる第1有機防縮剤を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして負極板を形成する。得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池F1~F5を組み立てる。硫黄元素含有量が6000μmol/gとなる第1有機防縮剤を用いる鉛蓄電池F2は、鉛蓄電池A1と同じである。なお、第1有機防縮剤のMwは、いずれも9500である。
【0134】
《鉛蓄電池G1~G5》
既化成で満充電後の負極電極材料100質量%に含まれる第1有機防縮剤の含有量が0.1質量%となるように、第1有機防縮剤の添加量を調整して、負極ペーストに配合する。これ以外は、鉛蓄電池F1~F5と同様にして負極板を形成する。得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池G1~G5を組み立てる。硫黄元素含有量が6000μmol/gとなる第1有機防縮剤を用いる鉛蓄電池G2は、鉛蓄電池B1と同じである。
【0135】
《鉛蓄電池H1~H5》
第1有機防縮剤の硫黄元素含有量が、表3に示す値となるように、ビスフェノール化合物のホルムアルデヒドによる縮合物に導入するスルホン酸基の量を調節する。得られる第1有機防縮剤を用いること以外は、鉛蓄電池A7と同様にして負極板を形成する。得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池H1~H5を組み立てる。硫黄元素含有量が6000μmol/gとなる第1有機防縮剤を用いる鉛蓄電池H2は、鉛蓄電池A7と同じである。
【0136】
《鉛蓄電池J1~J5》
既化成で満充電後の負極電極材料100質量%に含まれる第1有機防縮剤の含有量が0.1質量%となるように、第1有機防縮剤の添加量を調整して、負極ペーストに配合する。これ以外は、鉛蓄電池H1~H5と同様にして負極板を形成する。得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池J1~J5を組み立てる。硫黄元素含有量が6000μmol/gとなる第1有機防縮剤を用いる鉛蓄電池J2は、鉛蓄電池B7と同じである。
【0137】
鉛蓄電池F1~F5、G1~G5、H1~H5、およびJ1~J5について、鉛蓄電池A1と同様に評価1~評価3について評価する。この評価結果を表3に示す。
【0138】
【表3】
【0139】
表3に示すように、硫黄元素含有量が3000μmol/gの有機防縮剤を第2有機防縮剤と組み合わせて用いる場合には、高温サイクル後の低温ハイレート性能の向上効果が低くなる(F5、G5、H5、J5)。これは、高温サイクル中に、硫黄元素含有量が3000μmol/gの有機防縮剤が流出し易く、負極電極材料の細孔構造を維持し難くなるためと推測される。それに対し、硫黄元素含有量が4000μmol/g以上の第1有機防縮剤を第2有機防縮剤と組み合わせて用いる場合には、高いPSOC寿命性能を確保しながら、高温サイクル後の高い低温ハイレート性能が得られる(F1~F4、G1~G4、H1~H4、J1~J4)。高い低温ハイレート性能が得られるのは、第1有機防縮剤を用いることで、高温サイクル中の有機防縮剤の流出が抑制され、負極電極材料の細孔構造が確保されることによるものと考えられる。
【0140】
《鉛蓄電池K1~K6》
既化成で満充電後の負極電極材料100質量%に含まれる第1有機防縮剤の含有量が表4に示す値となるように、第1有機防縮剤の添加量を調整して、負極ペーストに配合する。これ以外は、鉛蓄電池A1と同様にして負極板を形成する。得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池K1~K6を組み立てる。第1有機防縮剤の含有量が0.05質量%となる鉛蓄電池K2は、鉛蓄電池A1と同じである。
【0141】
《鉛蓄電池L1~L6》
既化成で満充電後の負極電極材料100質量%に含まれる第1有機防縮剤の含有量が表4に示す値となるように、第1有機防縮剤の添加量を調整して、負極ペーストに配合する。これ以外は、鉛蓄電池A7と同様にして負極板を形成する。得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池L1~L6を組み立てる。第1有機防縮剤の含有量が0.05質量%となる鉛蓄電池L2は、鉛蓄電池A7と同じである。
【0142】
《鉛蓄電池M1~M7》
既化成で満充電後の負極電極材料100質量%に含まれる第2有機防縮剤の含有量が表4に示す値となるように、第2有機防縮剤の添加量を調整して、負極ペーストに配合する。これ以外は、鉛蓄電池A7と同様にして負極板を形成する。得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池M1~M7を組み立てる。第2有機防縮剤の含有量が0.1質量%となる鉛蓄電池M3は、鉛蓄電池A7と同じである。
【0143】
《鉛蓄電池N1~N7》
既化成で満充電後の負極電極材料100質量%に含まれる第2有機防縮剤の含有量が表4に示す値となるように、第2有機防縮剤の添加量を調整して、負極ペーストに配合する。これ以外は、鉛蓄電池B7と同様にして負極板を形成する。得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池N1~N7を組み立てる。第2有機防縮剤の含有量が0.1質量%となる鉛蓄電池N3は、鉛蓄電池B7と同じである。
【0144】
鉛蓄電池K1~K6、L1~L6、M1~M7、およびN1~N7について、鉛蓄電池A1と同様に評価1~評価3について評価する。この評価結果を表4に示す。
【0145】
【表4】
【0146】
表4に示すように、第1有機防縮剤の含有量が0.02質量%以上では、高いPSOC寿命が得られる(K1~K5、L1~L5)。また、第2有機防縮剤の含有量が0.02質量%以上では、高いPSOC寿命が得られる(M1~M6、N1~N6)。これらの場合、負極電極材料の収縮を抑制する効果が高まることで、負極電極材料の細孔構造が維持されるためと推測される。
【0147】
また、第1有機防縮剤の含有量が、0.05質量%以上または0.08質量%以上では、高温サイクル後の低温ハイレート性能がさらに高まる(K2~K5、L2~L5)。第2有機防縮剤の含有量が、0.05質量%以上では、さらにPSOC寿命性能および高温サイクル後の低温ハイレート性能を確保できる(M2~M6、N2~N6)。これらの場合、負極電極材料の細孔構造のうち微細なものも十分に維持されるためである。第1有機防縮剤の含有量が0.10質量%以下では、サイクル後の減液を低減する効果が高い(K1~K4、K6、L1~L4、L6)。第2有機防縮剤の含有量が0.5質量%以下または0.3質量%以下では、優れた回生受入性が得られる(M1~M5、M7、N1~N5、N7)。
【0148】
《鉛蓄電池O1~O7》
使用する各炭素材料の比表面積を調整することにより、既述の手順で求められる比表面積比s2/s1が表5に示す値となるように調整する。これ以外は、鉛蓄電池A7と同様にして負極板を作製し、得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池O1~O7を組み立てる。
【0149】
《鉛蓄電池P1~P7》
使用する各炭素材料の比表面積を調整することにより、既述の手順で求められる比表面積比s2/s1が表5に示す値となるように調整する。これ以外は、鉛蓄電池B7と同様にして負極板を作製し、得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池P1~P7を組み立てる。比表面積比s2/s1が33となる鉛蓄電池P3は、鉛蓄電池B7と同じである。
【0150】
《鉛蓄電池Q1~Q7》
使用する各炭素材料の比表面積を調整することにより、既述の手順で求められる比表面積比s2/s1が表5に示す値となるように調整する。これ以外は、鉛蓄電池C7と同様にして負極板を作製し、得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池Q1~Q7を組み立てる。比表面積比s2/s1が33となる鉛蓄電池Q3は、鉛蓄電池C7と同じである。
【0151】
《鉛蓄電池S1~S7》
使用する各炭素材料の比表面積を調整することにより、既述の手順で求められる比表面積比s2/s1が表5に示す値となるように調整する。これ以外は、鉛蓄電池D7と同様にして負極板を作製し、得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池を組み立てる。比表面積比s2/s1が33となる鉛蓄電池S3は、鉛蓄電池D7と同じである。
【0152】
《鉛蓄電池T1~T7》
使用する各炭素材料の比表面積を調整することにより、既述の手順で求められる比表面積比s2/s1が表5に示す値となるように調整する。これ以外は、鉛蓄電池B1と同様にして負極板を作製し、得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池T1~T7を組み立てる。比表面積比s2/s1が28となる鉛蓄電池T3は、鉛蓄電池B1と同じである。
【0153】
鉛蓄電池O1~O7、P1~P7、Q1~Q7、S1~S7、およびT1~T7について、鉛蓄電池A1と同様に評価1~評価3について評価する。この評価結果を表5に示す。
【0154】
【表5】
【0155】
表5に示すように、比表面積比s2/s1が20以上では、高いPSOC寿命性能を維持しながら、高温サイクル後の低温ハイレート性能がさらに向上し、ある程度高い回生受入性を確保することもできる(O2~O7、P2~P7、Q2~Q7、S2~S7、T2~T7)。高い低温ハイレート性能が得られるのは、各炭素材料の比表面積が適度な範囲であることで、有機防縮剤の吸着が抑制されるためと考えられる。PSOC寿命性能は、比表面積比s2/s1が20未満である場合に比べて、20以上である場合に大きく向上している。これは、比表面積比s2/s1が20以上である場合には、硫酸鉛の還元反応が進行しやすいためと考えられる。比表面積比s2/s1が240以下では、その詳細は定かではないが、サイクル後の減液量の増加が抑制される(O1~O6、P1~P6、Q1~Q6、S1~S6、T1~T6)。
【0156】
《鉛蓄電池U1~U8》
使用する炭素材料の平均アスペクト比を調整することにより、既述の手順で求められる平均アスペクト比が表6に示す値となるように調整する。これ以外は、鉛蓄電池A7と同様にして負極板を作製し、得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池U1~U8を組み立てる。
【0157】
《鉛蓄電池V1~V8》
使用する炭素材料の平均アスペクト比を調整することにより、既述の手順で求められる平均アスペクト比が表6に示す値となるように調整する。これ以外は、鉛蓄電池B7と同様にして負極板を作製し、得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池V1~V8を組み立てる。
【0158】
《鉛蓄電池W1~W8》
使用する炭素材料の平均アスペクト比を調整することにより、既述の手順で求められる平均アスペクト比が表6に示す値となるように調整する。これ以外は、鉛蓄電池C7と同様にして負極板を作製し、得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池W1~W8を組み立てる。
【0159】
《鉛蓄電池X1~X8》
使用する炭素材料の平均アスペクト比を調整することにより、既述の手順で求められる平均アスペクト比が表6に示す値となるように調整する。これ以外は、鉛蓄電池D7と同様にして負極板を作製し、得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池X1~X8を組み立てる。
【0160】
《鉛蓄電池Y1~Y8》
使用する炭素材料の平均アスペクト比を調整することにより、既述の手順で求められる平均アスペクト比が表6に示す値となるように調整する。これ以外は、鉛蓄電池B2と同様にして負極板を作製し、得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池Y1~Y8を組み立てる。
【0161】
鉛蓄電池U1~U8、V1~V8、W1~W8、X1~X8、およびY1~Y8について、鉛蓄電池A1と同様に評価1のPSOC寿命性能および評価2について評価する。この評価結果を表6に示す。なお、第1炭素材料の平均アスペクト比を調整すると、粉体抵抗比R2/R1および比表面積比s2/s1も変化する。表6には、これらの値も合わせて示す。
【0162】
【表6】
【0163】
表6に示すように、第1炭素材料の平均アスペクト比が1.5以上では、PSOC寿命性能がさらに向上する(U2~U8、V2~V8、W2~W8、X2~X8、Y2~Y8)。これは、平均アスペクト比が1.5以上の場合には、負極電極材料中で導電ネットワークが形成され易く、また、高温サイクル時の有機防縮剤の流出が抑制されることで形成された導電ネットワークが維持され易いことによるものと考えられる。一方、PSOC寿命性能と低温ハイレート性能は、第1炭素材料の平均アスペクト比が高くなると低下する傾向が見られる(U8、V8、W8、X8、Y8)。これは、負極板の作製時に、負極板の表面に亀裂が生じやすくなることにより、導電ネットワークが形成され難くなることによるものと考えられる。そのため、PSOC寿命性能と高温サイクル後の低温ハイレート性能の向上効果をさらに高める観点からは、第1炭素材料の平均アスペクト比は、1.5以上35以下とすることが好ましい(U2~U7、V2~V7、W2~W7、X2~X7、Y2~Y7)。
【産業上の利用可能性】
【0164】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池は、制御弁式および液式の鉛蓄電池に適用可能であり、自動車もしくはバイクなどの始動用の電源や、自然エネルギーの貯蔵、電動車両(フォークリフトなど)などの産業用蓄電装置などの電源として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0165】
1 鉛蓄電池
2 負極板
2a 負極板の耳部
3 正極板
4 セパレータ
5 正極棚部
6 負極棚部
7 正極柱
8 貫通接続体
9 負極柱
11 極板群
12 電槽
13 隔壁
14 セル室
15 蓋
16 負極端子
17 正極端子
18 液口栓
図1