(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/14 20060101AFI20220705BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220705BHJP
H01M 4/68 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
H01M4/14 Q
H01M4/62 B
H01M4/68 A
(21)【出願番号】P 2019514600
(86)(22)【出願日】2018-04-26
(86)【国際出願番号】 JP2018016911
(87)【国際公開番号】W WO2018199207
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2017090849
(32)【優先日】2017-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】特許業務法人河崎・橋本特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 力郎
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-154131(JP,A)
【文献】国際公開第2012/086008(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/157311(WO,A1)
【文献】特開2016-177909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 4/64- 4/84
H01M 10/06-10/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛蓄電池であって、
前記鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、を備え、
前記負極板は、負極集電体と、炭素材料を含有する負極電極材料とを備え、
前記炭素材料は、32μm以上の粒子径を有する第1炭素材料と、32μm未満の粒子径を有する第2炭素材料と、を含み、
前記第1炭素材料の粉体抵抗R1に対する、前記第2炭素材料の粉体抵抗R2の比:R2/R1が15以上155以下であり、
前記第2炭素材料は、少なくともカーボンブラックを含み、
前記負極電極材料中の前記第1炭素材料の含有量は、0.03質量%以上3.0質量%以下であり、
前記負極電極材料中の前記第2炭素材料の含有量は、0.03質量%以上1.5質量%以下であり、
前記負極集電体は、0.06質量%を超え0.15質量%以下のCaおよび0.10質量%以上0.80質量%以下のSnを含むPb合金で構成されている、鉛蓄電池。
【請求項2】
前記第1炭素材料の比表面積S1に対する、前記第2炭素材料の比表面積S2の比:S2/S1が20以上である、請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記第1炭素材料の比表面積S1に対する、前記第2炭素材料の比表面積S2の比:S2/S1が240以下である、請求項1または2に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記第1炭素材料の平均アスペクト比は、1.5以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
前記第1炭素材料の平均アスペクト比は、30以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項6】
前記負極電極材料中の前記第1炭素材料の含有量と前記第2炭素材料の含有量との合計は、0.1質量%以上3.5質量%以下である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項7】
前記Pb合金中のCaの含有量は、0.065質量%以上である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項8】
前記Pb合金中のCaの含有量は、0.070質量%以上である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項9】
前記Pb合金中のCaの含有量は、0.12質量%以下である、請求項1~
8のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項10】
前記Pb合金中のSnの含有量は、0.75質量%以下である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項11】
前記第1炭素材料は、少なくとも黒鉛を
含む、請求項1~
10のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項12】
前記比:R2/R1は、152以下である、請求項1~
11のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項13】
前記負極電極材料は、さらに有機防縮剤を含む、請求項
1~12のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、電解液とを含む。負極板は、集電体(格子状の集電体など)と、負極電極材料とを含む。集電体には、鉛や鉛合金が使用される。負極電極材料は、負極活物質、炭素材料などを含む。
【0003】
特許文献1は、制御弁式鉛蓄電池において、Pb-Ca-Sn系合金からなる負極集電体を用いることを提案している。特許文献2は、鉛蓄電池において、実質的にSbを含まないPb-Ca-Sn合金からなる負極格子を用いることを提案している。特許文献2には、負極活物質中に、アセチレンブラックおよび膨張化黒鉛を添加することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-177909号公報
【文献】特開2010-277941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉛蓄電池では、負極集電体の端部には、負極板から集電し、鉛蓄電池の外部端子に接続するための耳部が形成されている。アイドリングストップ用鉛蓄電池では、充放電により、負極耳部が腐食し、破断することがある。これは、負極耳部に含まれる鉛が充放電サイクル中における放電時に酸化されるが、充電時に完全には鉛に還元されず、この繰り返しによって、徐々に耳部の内部に腐食が進行するためと考えられる。液式鉛蓄電池や制御弁式鉛蓄電池でも、耳部が特定の電位に入ることで、腐食することがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、鉛蓄電池であって、
前記鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、を備え、
前記負極板は、負極集電体と、炭素材料を含有する負極電極材料とを備え、
前記炭素材料は、32μm以上の粒子径を有する第1炭素材料と、32μm未満の粒子径を有する第2炭素材料と、を含み、
前記第1炭素材料の粉体抵抗R1に対する、前記第2炭素材料の粉体抵抗R2の比:R2/R1が15以上155以下であり、
前記負極集電体は、0.06質量%を超え0.15質量%以下のCaおよび0.10質量%以上0.80質量%以下のSnを含むPb合金で構成されている、鉛蓄電池に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の上記側面によれば、鉛蓄電池において負極板の耳部の腐食を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る鉛蓄電池の外観と内部構造を示す、一部を切り欠いた分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、を備える。負極板は、負極集電体と、炭素材料を含有する負極電極材料とを備える。炭素材料は、32μm以上の粒子径を有する第1炭素材料と、32μm未満の粒子径を有する第2炭素材料と、を含む。第1炭素材料の粉体抵抗R1に対する、第2炭素材料の粉体抵抗R2の比:R2/R1は15以上155以下である。負極集電体は、0.06質量%を超え0.15質量%以下のCaおよび0.10質量%以上0.80質量%以下のSnを含むPb合金で構成されている。
【0010】
負極板の耳部が、PbとPbSO4との平衡電位付近の特定の電位(具体的には、放電時に+40mV付近の電位、充電時に-80mV付近)に繰り返し晒されると、耳部の腐食が進行することが知られている。従来から、負極集電体の合金組成を変更することで、耳部の腐食を抑制することが検討されている。
【0011】
本発明者は、負極板の耳部の電位が、負極電極材料の組成の影響を受けることに気づいた。例えば、負極電極材料に含まれる炭素材料がカーボンブラックである場合には、負極板の耳部の電位が、腐食し易い上記特定の電位の範囲に入り易くなる。そして、カーボンブラックを炭素材料として用いる場合には、負極集電体の合金組成を変更しても、耳部の腐食をそれほど抑制できないことが分かった。本発明者は、試行錯誤の結果、負極炭素材料に粒子径が異なる二種類の炭素材料(第1炭素材料および第2炭素材料)を用いるとともに、これらの炭素材料の粉体抵抗比R2/R1を調節することで、負極集電体の合金組成を制御することによる腐食抑制効果が得られ易くなり、負極板の耳部の腐食が顕著に抑制されることを見出した。
【0012】
本発明の上記側面では、負極電極材料に、粉体抵抗比R2/R1が15以上155以下である第1炭素材料および第2炭素材料を用いるとともに、0.06質量%を超え0.15質量%以下のCaおよび0.10質量%以上0.80質量%以下のSnを含むPb合金で負極集電体を構成する。このような構成により、負極板の耳部の腐食が大幅に抑制される。耳部の腐食が抑制されるメカニズムの詳細は不明であるが、負極電極材料中の炭素材料の粉体抵抗比R2/R1を上記の範囲とすることで、負極板の分極特性が変わり、それによって、充放電中の耳部の電位が、腐食が進行する特定の電位から外れるために負極耳部の腐食が軽減されると推測される。また、粉体抵抗比R2/R1が、上記の範囲である場合には、硫酸鉛の蓄積を抑制することができるとともに、高い低温ハイレート性能を得ることもできる。これは、負極電極材料中で導電ネットワークが形成され易くなるとともに、耳部の腐食が抑制されることで、耳部における導電パスが確保された状態が維持され、負極板全体において導電性が向上することによるものと考えられる。硫酸鉛の蓄積が低減されるのは、負極板全体において導電性が向上することで、硫酸鉛の還元反応が進行し易くなるためと考えられる。
【0013】
なお、炭素材料には、様々な粉体抵抗を有するものが一般に知られている。粉末材料の粉体抵抗は、粒子の形状、粒子径、粒子の内部構造、および/または粒子の結晶性などにより変化することが知られている。従来の技術常識では、炭素材料の粉体抵抗が、負極板の耳部の腐食に対して影響を及ぼすとは考えられていない。
【0014】
第1炭素材料の比表面積S1に対する、第2炭素材料の比表面積S2の比:S2/S1は20以上240以下であることが好ましい。比表面積比S2/S1がこのような範囲である場合、高い低温ハイレート性能を確保できる。負極電極材料には、通常、有機防縮剤が含まれるが、比表面積比S2/S1が上記の範囲である場合には、炭素材料への有機防縮剤の吸着が抑制され、防縮効果が発揮されるため、低温ハイレート性能が高まるものと考えられる。
【0015】
第1炭素材料の平均アスペクト比は、1.5以上30以下であることが好ましい。この場合、負極電極材料中で導電ネットワークが形成され易くなるため、高い低温ハイレート性能が得られる。また、多くの導電ネットワークが形成されることで、硫酸鉛の還元反応が進行し易くなるため、硫酸鉛の蓄積を低減することもできる。
【0016】
負極電極材料中の第1炭素材料の含有量は、0.03質量%以上3.0質量%以下であり、2.5質量%以下がより好ましい。第2炭素材料の含有量は、0.03質量%以上1.5質量%以下であり、0.05質量%以上であることが好ましい。この場合、耳部の腐食を抑制しながら、負極電極材料中に導電ネットワークを形成し易くなるため、低温ハイレート性能が向上するとともに、硫酸鉛の蓄積を低減することができる。
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池について、主要な構成要件ごとに説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
(負極板)
鉛蓄電池の負極板は、負極電極材料、および負極集電体を備える。なお、負極電極材料は、負極板から負極集電体を除いたものである。
なお、負極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。負極板がこのような部材(貼付部材)を含む場合には、負極電極材料は、負極集電体および貼付部材を除いたものである。ただし、電極板の厚みはマットを含む厚みとする。セパレータにマットが貼りつけられている場合は、マットの厚みはセパレータの厚みに含まれる。
【0018】
負極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(鉛もしくは硫酸鉛)を含む。充電状態の負極活物質は、海綿状の金属鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。また、負極電極材料は、炭素材料を含む。負極電極材料は、更に、有機防縮剤、硫酸バリウムなどを含んでもよく、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0019】
(炭素材料)
炭素材料は、32μm以上の粒子径を有する第1炭素材料と、32μm未満の粒子径を有する第2炭素材料と、を含む。第1炭素材料と第2炭素材料とは、後述する手順で分離され、区別される。
【0020】
各炭素材料としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどが挙げられる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどが例示される。黒鉛としては、黒鉛型の結晶構造を含む炭素材料であればよく、人造黒鉛、天然黒鉛のいずれであってもよい。
【0021】
なお、第1炭素材料のうち、ラマンスペクトルの1300cm-1以上1350cm-1以下の範囲に現れるピーク(Dバンド)と1550cm-1以上1600cm-1以下の範囲に現れるピーク(Gバンド)との強度比ID/IGが、0以上0.9以下である炭素材料を、黒鉛と呼ぶものとする。
【0022】
第1炭素材料および第2炭素材料は、第1炭素材料の粉体抵抗R1に対する、第2炭素材料の粉体抵抗R2の比:R2/R1が15以上155以下となるように、負極電極材料の調製に使用する炭素材料の種類、比表面積、および/またはアスペクト比などを、選択または調節すればよい。また、これらの要素に加えて、さらに使用する炭素材料の粒子径を調節してもよい。これらの要素を選択または調節することで、第1炭素材料と第2炭素材料の各炭素材料の粉体抵抗を調節することができ、その結果、粉体抵抗比R2/R1を調節することができる。
【0023】
第1炭素材料としては、例えば、黒鉛、ハードカーボン、およびソフトカーボンからなる群より選択される少なくとも一種が好ましい。特に、第1炭素材料は、少なくとも黒鉛を含むことが好ましい。第2炭素材料は、少なくともカーボンブラックを含むことが好ましい。これらの炭素材料を用いると、粉体抵抗比R2/R1を調節しやすい。
【0024】
粉体抵抗比R2/R1は、15以上155以下であればよく、15以上152以下であってもよい。本発明の一側面に係る鉛蓄電池では、負極電極材料中の第1炭素材料および第2炭素材料の粉体抵抗比がこのような範囲であることで、負極板の耳部の腐食を抑制することができる。これは、粉体抵抗比R2/R1を上記の範囲とすることで、負極板の分極特性が変わり、充放電中の耳部の電位が、腐食が進行する電位範囲から外れることによるものと考えられる。また、粉体抵抗比が上記のような範囲である場合、硫酸鉛の蓄積を抑制することができるとともに、高い低温ハイレート性能を得ることもできる。これは、粉体抵抗比R2/R1を上記の範囲とすることで、負極電極材料中に導電ネットワークが形成され易くなることによるものと考えられる。それに対し、負極集電体が、上記のような組成を有するPb合金で構成される場合でも、本発明とは異なり、粉体抵抗比R2/R1が15未満である場合または155を超える場合には、負極板の耳部の腐食抑制効果はほとんど得られない。また、粉体抵抗比R2/R1が15未満である場合または155を超える場合には、硫酸鉛の蓄積量を低減する効果および/または低温ハイレート性能の向上効果も得られ難い。
【0025】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池では、第1炭素材料の比表面積S1に対する、第2炭素材料の比表面積S2の比:S2/S1は、例えば、10以上500以下であり、20以上が好ましい。また、400以下であることが好ましく、240以下がより好ましい。これらの上限、下限は任意に組み合わせることができる。有機防縮剤の防縮効果が発揮され易く、高い低温ハイレート性能が得られる観点からは、比表面積比S2/S1は、20以上240以下であることが好ましい。比表面積比S2/S1がこのような範囲である場合にも、負極板の耳部の高い耐腐食性が確保される。
【0026】
第1炭素材料の平均アスペクト比は、例えば、1以上100以下であり、1.5以上が好ましい。35以下であることが好ましく、30以下であることがさらに好ましい。これらの上限、下限は任意に組み合わせることができる。第1炭素材料の平均アスペクト比が1.5以上30以下の場合には、負極電極材料中に導電ネットワークが形成され易くなり、硫酸鉛が還元され易くなるため、低温ハイレート性能を向上できるとともに、硫酸鉛の蓄積を低減できる。また、負極電極材料における第1炭素材料の分散性が高い観点からも、第1炭素材料の平均アスペクト比は、1以上35以下または1.5以上30以下であることが好ましい。
【0027】
負極電極材料中の第1炭素材料と第2炭素材料の含有量の合計は、例えば、0.1質量%以上3.5質量%以下であり、0.3質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。また、2.5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましい。これらの上限、下限は任意に組み合わせることができる。第1炭素材料と第2炭素材料の含有量の合計がこのような範囲である場合、導電性ネットワークが形成され易いため、低温レート性能の向上効果をさらに高めることができる。
【0028】
負極電極材料中の第1炭素材料の含有量は、例えば、0.03質量%以上3.0質量%以下であり、2.5質量%以下が好ましく、2.0質量%以下がさらに好ましい。また、好ましくは0.05質量%以上であり、さらに好ましくは0.1質量%以上である。これらの上限、下限は任意に組み合わせることができる。第1炭素材料の含有量がこのような範囲である場合、負極電極材料中に導電ネットワークを形成し易くなるため、低温ハイレート性能を向上できるとともに、硫酸鉛の蓄積を低減できる。
【0029】
負極電極材料中の第2炭素材料の含有量は、例えば、0.03質量%以上1.5質量%以下であり、好ましくは0.05質量%以上であり、0.1質量%以上がさらに好ましい。また、好ましくは1.0質量%以下であり、さらに好ましくは0.7質量%以下である。これらの上限、下限は任意に組み合わせることができる。第2炭素材料の含有量が、0.05質量%以上の場合、負極電極材料中に導電ネットワークを形成し易くなる。また、第2炭素材料の含有量が1.5質量%以下の場合、負極集電体の合金組成を制御することによる効果が得られ易くなり、耳部の腐食抑制効果をさらに高めることができる。
【0030】
炭素材料の物性の決定方法または分析方法について以下に説明する。
(A)炭素材料の分析
(A-1)炭素材料の分離
既化成の満充電状態の鉛蓄電池を分解し、負極板を取り出し、水洗により硫酸を除去し、真空乾燥(大気圧より低い圧力下で乾燥)する。次に、乾燥した負極板から負極電極材料を採取し、粉砕する。5gの粉砕試料に、60質量%濃度の硝酸水溶液30mLを加えて、70℃で加熱する。この混合物に、さらに、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム10g、28質量%濃度のアンモニア水30mL、および水100mLを加えて、加熱を続け、可溶分を溶解させる。このようにして前処理を行なった試料を、ろ過により回収する。回収した試料を、目開き500μmのふるいにかけて、補強材などのサイズが大きな成分を除去して、ふるいを通過した成分を炭素材料として回収する。
【0031】
回収された炭素材料を、目開き32μmのふるいを用いて湿式にて篩ったときに、ふるいの目を通過せずに、ふるい上に残るものを第1炭素材料とし、ふるいの目を通過するものを第2炭素材料とする。つまり、各炭素材料の粒子径は、ふるいの目開きのサイズを基準とするものである。湿式のふるい分けについては、JIS Z8815:1994を参照できる。
【0032】
具体的には、炭素材料を、目開き32μmのふるい上に載せ、イオン交換水を散水しながら、5分間ふるいを軽く揺らして篩い分けする。ふるい上に残った第1炭素材料は、イオン交換水を流しかけてふるいから回収し、ろ過によりイオン交換水から分離する。ふるいを通過した第2炭素材料は、ニトロセルロース製のメンブランフィルター(目開き0.1μm)を用いてろ過により回収する。回収された第1炭素材料および第2炭素材料は、それぞれ、110℃の温度で2時間乾燥させる。目開き32μmのふるいとしては、JIS Z 8801-1:2006に規定される、公称目開きが32μmであるふるい網を備えるものを使用する。
【0033】
なお、負極電極材料中の各炭素材料の含有量は、上記の手順で分離した各炭素材料の質量を測り、この質量の、5gの粉砕試料中に占める比率(質量%)を算出することにより求める。
【0034】
本明細書中、鉛蓄電池の満充電状態とは、液式の電池の場合、25℃の水槽中で、0.2CAの電流で2.5V/セルに達するまで定電流充電を行った後、さらに0.2CAで2時間、定電流充電を行った状態である。また、制御弁式の電池の場合、満充電状態とは、25℃の気槽中で、0.2CAで、2.23V/セルの定電流定電圧充電を行い、定電圧充電時の充電電流が1mCA以下になった時点で充電を終了した状態である。
なお、本明細書中、1CAとは電池の公称容量(Ah)と同じ数値の電流値(A)である。例えば、公称容量が30Ahの電池であれば、1CAは30Aであり、1mCAは30mAである。
【0035】
(A-2)炭素材料の粉体抵抗
第1炭素材料の粉体抵抗R1および第2炭素材料の粉体抵抗R2は、上記(A-1)の手順で分離された第1炭素材料および第2炭素材料のそれぞれについて、粉体抵抗測定システム((株)三菱化学アナリテック製、MCP-PD51型)に、試料を0.5g投入し、圧力3.18MPa下で、JIS K 7194:1994に準拠した低抵抗抵抗率計((株)三菱化学アナリテック製、ロレスタ-GX MCP-T700)を用いて、四探針法により測定される値である。
【0036】
(A-3)炭素材料の比表面積
第1炭素材料の比表面積S1および第2炭素材料の比表面積S2は、第1炭素材料および第2炭素材料のそれぞれのBET比表面積である。BET比表面積は、上記(A-1)の手順で分離された第1炭素材料および第2炭素材料のそれぞれを用いて、ガス吸着法により、BET式を用いて求められる。各炭素材料は、窒素フロー中、150℃の温度で、1時間加熱することにより前処理される。前処理した炭素材料を用いて、下記の装置にて、下記の条件により、各炭素材料のBET比表面積を求める。
測定装置:マイクロメリティックス社製 TriStar3000
吸着ガス:純度99.99%以上の窒素ガス
吸着温度:液体窒素沸点温度(77K)
BET比表面積の計算方法:JIS Z 8830:2013の7.2に準拠
【0037】
(A-4)第1炭素材料の平均アスペクト比
上記(A-1)の手順で分離された第1炭素材料を、光学顕微鏡または電子顕微鏡で観察し、任意の粒子を10個以上選択して、その拡大写真を撮影する。次に、各粒子の写真を画像処理して、粒子の最大径d1、およびこの最大径d1と直交する方向における最大径d2を求め、d1をd2で除することにより、各粒子のアスペクト比を求める。得られたアスペクト比を、平均化することにより平均アスペクト比を算出する。
【0038】
(有機防縮剤)
負極電極材料に含まれる有機防縮剤としては、硫黄元素を含む有機高分子であり、一般に、分子内に1つ以上、好ましくは複数の芳香環を含むとともに、硫黄含有基として硫黄元素を含んでいる。硫黄含有基の中では、安定形態であるスルホン酸基もしくはスルホニル基が好ましい。スルホン酸基は、酸型で存在してもよく、Na塩のように塩型で存在してもよい。
【0039】
有機防縮剤としては、例えば、リグニン類を用いてもよく、合成有機防縮剤を用いてもよい。合成有機防縮剤としては、硫黄含有基を有する芳香族化合物のホルムアルデヒドによる縮合物を用いてもよい。リグニン類としては、リグニン、リグニンスルホン酸またはその塩(ナトリウム塩などのアルカリ金属塩など)などのリグニン誘導体などが挙げられる。有機防縮剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、リグニン類と、硫黄含有基を有する芳香族化合物のホルムアルデヒドによる縮合物とを併用してもよい。芳香族化合物としては、ビスフェノール類、ビフェニル類、ナフタレン類などを用いることが好ましい。
【0040】
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、例えば0.01質量%以上1.0質量%以下であり、0.02質量%以上が好ましく、また、0.8質量%以下であることが好ましい。これらの上限、下限は任意に組み合わせることができる。
【0041】
以下、負極電極材料に含まれる有機防縮剤の定量方法について記載する。定量分析に先立ち、化成後の鉛蓄電池を満充電してから解体して分析対象の負極板を入手する。入手した負極板に水洗と乾燥とを施して負極板中の電解液を除く。次に、負極板から負極電極材料を分離して未粉砕の初期試料を入手する。
【0042】
[有機防縮剤]
未粉砕の初期試料を粉砕し、粉砕された初期試料を1mol/LのNaOH水溶液に浸漬し、有機防縮剤を抽出する。抽出された有機防縮剤を含むNaOH水溶液から不溶成分を濾過で除く。得られた濾液(以下、分析対象濾液とも称する。)を脱塩した後、濃縮し、乾燥すれば、有機防縮剤の粉末(以下、分析対象粉末とも称する。)が得られる。脱塩は、濾液を透析チューブに入れて蒸留水中に浸して行えばよい。
【0043】
分析対象粉末の赤外分光スペクトル、分析対象粉末を蒸留水等に溶解して得られる溶液の紫外可視吸収スペクトル、分析対象粉末を重水等の溶媒に溶解して得られる溶液のNMRスペクトル、物質を構成している個々の化合物の情報を得ることができる熱分解GC-MSなどから情報を得ることで、有機防縮剤を特定する。
【0044】
上記分析対象濾液の紫外可視吸収スペクトルを測定する。スペクトル強度と予め作成した検量線とを用いて、負極電極材料中の有機防縮剤の含有量を定量する。分析対象の有機防縮剤の構造式の厳密な特定ができず、同一の有機防縮剤の検量線を使用できない場合は、分析対象の有機防縮剤と類似の紫外可視吸収スペクトル、赤外分光スペクトル、NMRスペクトルなどを示す、入手可能な有機防縮剤を使用して検量線を作成する。
【0045】
(負極集電体)
負極集電体を構成する鉛合金は、CaおよびSnを含んでおり、Pb-Ca-Sn系の3元系合金であってもよく、Ca、Sn、および添加元素を含む4元系や5元系のPb合金であってもよい。
【0046】
Pb合金中のCaの含有量は、0.06質量%よりも多く、好ましくは0.065質量%以上であり、さらに好ましくは0.070質量%以上である。Pb合金中のCaの含有量は、0.15質量%以下であり、好ましくは0.12質量%以下である。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。Pb合金中のCaの含有量は、例えば、0.06質量%よりも多く、0.12質量%以下、0.065質量%以上0.15質量%以下、0.065質量%以上0.12質量%以下、0.070質量%以上0.15質量%以下、または0.070質量%以上0.12質量%以下であってもよい。Caの含有量がこのような範囲である場合、負極板の耳部の腐食を抑制することができる。これは、金属組織が微細になり易く、腐食の進行が遅くなるためと考えられる。また、Caの含有量がこのような範囲である場合、耳部の腐食が抑えられ、導電パスが確保された状態を維持できる。このように耳部の高い導電性が維持されることと、粉体抵抗比R2/R1による負極電極材料中の導電ネットワークの形成とにより、負極板全体における導電性が高まるため、硫酸鉛の蓄積量を抑制する効果や低温ハイレート性能を向上する効果も得られ易くなる。なお、Caの含有量が0.15質量%を超える場合には、格子強度が低下する。
【0047】
Pb合金中のSnの含有量は、0.10質量%以上0.80質量%以下であればよく、0.10質量%以上0.75質量%以下であることが好ましい。Snの含有量がこのような範囲である場合、Caの含有量と同様の理由で、負極板の耳部の腐食を抑制することができる。このように耳部の高い導電性が維持されることと、粉体抵抗比R2/R1による負極電極材料中の導電ネットワークの形成とにより、負極全体における導電性が高まるため、硫酸鉛の蓄積量を低減する効果や低温ハイレート性能を向上する効果が得られ易くなる。Snの含有量が0.10質量%未満では、桟切れが発生し易くなる。特に、鋳造により負極集電体を形成する場合には、Snの含有量が0.10質量%未満では、湯流れが低下することで、桟切れが発生し易くなる。
【0048】
Pb合金の添加元素としては、例えば、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種が挙げられる。
Pb合金中の添加元素の含有量は、例えば、0.01質量%以下であり、0.001質量%以下であることが好ましい。
Pb合金は、Pb、Ca、Sn、および上記の添加元素以外に、不可避的に不純物を含む場合がある。Pb合金中の不純物の含有量は、0.001質量%以下であることが好ましい。
【0049】
負極集電体を構成するPb合金に含まれる元素の含有量は、負極集電体を硝酸に溶解させた溶液について、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置((株)島津製作所製、ICPS-8000)を用いて、ICP発光分光分析を実施することにより求められる。なお、作製した鉛蓄電池から取り出した負極板の負極集電体について元素の含有量を分析する場合には、負極板を水洗、乾燥し、振動を加えて負極電極材料を負極集電体から落とし、負極集電体をブラシなどで擦って、負極電極材料を全て取り除いた後の負極集電体を用いる。
【0050】
負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛または鉛合金スラブを圧延したシートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。
【0051】
(その他)
負極板は、負極集電体に負極ペーストを充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。負極ペーストは、鉛粉および炭素材料、ならびに必要に応じて有機防縮剤および/または各種添加剤に、水と硫酸を加えて混練することで作製する。熟成する際には、室温より高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
【0052】
負極板の化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状の金属鉛が生成する。
【0053】
(正極板)
鉛蓄電池の正極板には、ペースト式とクラッド式がある。
ペースト式正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを具備する。正極電極材料は、正極集電体に保持されている。正極集電体は、負極集電体と同様に形成すればよく、鉛または鉛合金の鋳造や、鉛または鉛合金シートの加工により形成することができる。
【0054】
クラッド式正極板は、複数の多孔質のチューブと、各チューブ内に挿入される芯金と、芯金を連結する集電部と、芯金が挿入されたチューブ内に充填される正極電極材料と、複数のチューブを連結する連座とを具備する。芯金と芯金を連結する集電部とを合わせて正極集電体と呼ぶ。
【0055】
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Ca系合金、Pb-Sb系合金、Pb-Ca-Sn系合金が好ましい。正極集電体は、組成の異なる鉛合金層を有してもよく、合金層は複数でもよい。
【0056】
正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0057】
未化成のペースト式正極板は、負極板の場合に準じて、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成、乾燥することにより得られる。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、硫酸を練合することで調製される。
【0058】
クラッド式正極板は、芯金が挿入されたチューブに鉛粉または、スラリー状の鉛粉を充填し、複数のチューブを連座で結合することにより形成される。
【0059】
形成される未化成の正極板は化成される。化成により、二酸化鉛が生成する。正極板の化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0060】
(セパレータ)
負極板と正極板との間には、通常、セパレータが配置される。セパレータには、不織布、微多孔膜などが用いられる。負極板と正極板との間に介在させるセパレータの厚さや枚数は、極間距離に応じて選択すればよい。
不織布は、繊維を織らずに絡み合わせたマットであり、繊維を主体とする。例えば、セパレータの60質量%以上が繊維で形成されている。繊維としては、ガラス繊維、ポリマー繊維(ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などのポリエステル繊維など)、パルプ繊維などを用いることができる。中でも、ガラス繊維が好ましい。不織布は、繊維以外の成分、例えば耐酸性の無機粉体、結着剤としてのポリマーなどを含んでもよい。
【0061】
一方、微多孔膜は、繊維成分以外を主体とする多孔性のシートであり、例えば、造孔剤(ポリマー粉末および/またはオイルなど)を含む組成物をシート状に押し出し成形した後、造孔剤を除去して細孔を形成することにより得られる。微多孔膜は、耐酸性を有する材料で構成することが好ましく、ポリマー成分を主体とするものが好ましい。ポリマー成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが好ましい。
【0062】
セパレータは、例えば、不織布のみで構成してもよく、微多孔膜のみで構成してもよい。また、セパレータは、必要に応じて、不織布と微多孔膜との積層物、異種または同種の素材を貼り合わせた物、または異種または同種の素材において凹凸をかみ合わせた物などであってもよい。
【0063】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液であり、必要に応じてゲル化させてもよい。化成後で満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば1.10g/cm3以上1.35g/cm3以下であり、1.20g/cm3以上1.35g/cm3以下であることが好ましい。
【0064】
図1に、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池の一例の外観を示す。
鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋15で密閉されている。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0065】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状セパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2の耳部2aを並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3の耳部3aを並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続され、正極棚部5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【0066】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池を以下にまとめて記載する。
(1)本発明の一側面は、鉛蓄電池であって、
前記鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、を備え、
前記負極板は、負極集電体と、炭素材料を含有する負極電極材料とを備え、
前記炭素材料は、32μm以上の粒子径を有する第1炭素材料と、32μm未満の粒子径を有する第2炭素材料と、を含み、
前記第1炭素材料の粉体抵抗R1に対する、前記第2炭素材料の粉体抵抗R2の比:R2/R1が15以上155以下であり、
前記負極集電体は、0.06質量%を超え0.15質量%以下のCaおよび0.10質量%以上0.80質量%以下のSnを含むPb合金で構成されている、鉛蓄電池である。
【0067】
(2)上記(1)において、前記第1炭素材料の比表面積S1に対する、前記第2炭素材料の比表面積S2の比:S2/S1が20以上240以下であることが好ましい。
【0068】
(3)上記(1)または(2)において、前記第1炭素材料の平均アスペクト比は、1.5以上30以下であることが好ましい。
【0069】
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記第1炭素材料の含有量は、0.03質量%以上2.5質量%以下であり、前記第2炭素材料の含有量は、0.05質量%以上1.5質量%以下であることが好ましい。
【0070】
(5)上記(1)~(4)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記第1炭素材料の含有量と前記第2炭素材料の含有量との合計は、0.1質量%以上3.5質量%以下であることが好ましい。
【0071】
(6)上記(1)~(5)のいずれか1つにおいて、前記Pb合金中のCaの含有量は、0.065質量%以上0.15質量%以下であることが好ましく、0.070質量%以上であることがさらに好ましい。また、0.12質量%以下であることがさらに好ましい。
【0072】
(7)上記(1)~(6)のいずれか1つにおいて、前記Pb合金中のSnの含有量は、0.10質量%以上である事が好ましく、また、0.75質量%以下であることが好ましい。
【0073】
(8)上記(1)~(7)のいずれか1つにおいて、前記第1炭素材料は、少なくとも黒鉛を含み、前記第2炭素材料は、少なくともカーボンブラックを含むことが好ましい。
【0074】
(9)上記(1)~(8)のいずれか1つにおいて、前記比:R2/R1は、15以上152以下であることが好ましい。
【0075】
(10)上記(2)において、前記負極電極材料は、さらに有機防縮剤を含むことができる。
【0076】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0077】
《鉛蓄電池A1》
(1)負極板の作製
鉛粉、水、希硫酸、炭素材料、有機防縮剤を混合して、負極ペーストを得る。負極ペーストを、負極集電体としてのPb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成、乾燥し、未化成の負極板を得る。Pb-Ca-Sn系合金中のCaの含有量は、0.09質量%、Snの含有量は、0.35質量%である。
【0078】
炭素材料としては、カーボンブラック(平均粒子径D50:40nm)および黒鉛(平均粒子径D50:110μm)を用いる。有機防縮剤としては、リグニンスルホン酸ナトリウムを用い、負極電極材料100質量%に含まれる含有量が0.05質量%となるように、添加量を調整して、負極ペーストに配合する。
【0079】
(2)正極板の作製
鉛粉と、水と、硫酸とを混練させて、正極ペーストを作製する。正極ペーストを、Pb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成、乾燥し、未化成の正極板を得る。
【0080】
(3)鉛蓄電池の作製
未化成の負極板を、ポリエチレン製の微多孔膜で形成された袋状セパレータに収容し、セル当たり未化成の負極板5枚と未化成の正極板4枚とで極板群を形成する。
【0081】
極板群をポリプロピレン製の電槽に挿入し、電解液を注液して、電槽内で化成を施して、公称電圧12Vおよび公称容量が30Ah(5時間率)の液式の鉛蓄電池A1を組み立てる。
【0082】
本鉛蓄電池では、負極電極材料中に含まれる第1炭素材料の含有量は1.5質量%とし、第2炭素材料の含有量は0.3質量%とする。また、粉体抵抗比R2/R1は15とする。第1炭素材料の平均アスペクト比は、1.5とする。第2炭素材料の比表面積S2の、第1炭素材料の比表面積S1に対する比(=S2/S1)は、20とする。ただし、これらの値は、作製された鉛蓄電池の負極板を取り出し、既述の手順で、負極電極材料に含まれる炭素材料を第1炭素材料と第2炭素材料とに分離したときに、負極電極材料(100質量%)中に含まれる各炭素材料の含有量として求められる値である。各炭素材料の粉体抵抗R1およびR2、粉体抵抗比R2/R1、第1炭素材料の平均アスペクト比、ならびに比表面積比S2/S1も既述の手順で作製後の鉛蓄電池から求められる。
【0083】
《鉛蓄電池A2~A6》
使用する各炭素材料の比表面積および第1炭素材料の平均アスペクト比、必要に応じてさらに各炭素材料の平均粒子径D50を調整することにより、粉体抵抗比R2/R1を表1に示すように変更する。これ以外は、鉛蓄電池A1と同様にして負極板を作製し、得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池A2~A6を組み立てる。
【0084】
《鉛蓄電池B1》
炭素材料として、カーボンブラック(平均粒子径D50:40nm)のみを用いる。負極集電体のPb-Ca-Sn系合金中のCaの含有量を、0.06質量%、Snの含有量を、1.00質量%とする。これら以外は、鉛蓄電池A1と同様にして負極板を形成する。得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池B1を組み立てる。
【0085】
《鉛蓄電池B2》
炭素材料として、カーボンブラック(平均粒子径D50:40nm)のみを用いる。これ以外は、鉛蓄電池A1と同様にして負極板を形成する。得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池B2を組み立てる。
【0086】
《鉛蓄電池C1~C5、D1~D5、E1~E5、F1~F5、G1~G5、およびH1~H5》
負極集電体のPb-Ca-Sn系合金中のCaおよびSnの各含有量を、表1に示す値とする。これ以外は、鉛蓄電池A2と同様にして負極板を形成する。得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池C1~C5、D1~D5、E1~E5、F1~F5、G1~G5、およびH1~H5を組み立てる。
【0087】
《鉛蓄電池J1~J6》
負極集電体のPb-Ca-Sn系合金中のCaの含有量を、0.06質量%とし、Snの含有量を、1.00質量%とする。これ以外は、鉛蓄電池A1~A6とそれぞれ同様にして負極板を形成する。得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池J1~J6を組み立てる。
【0088】
《鉛蓄電池K1》
負極集電体のPb-Ca-Sn系合金中のCaの含有量を、0.10質量%とし、Snの含有量を、1.00質量%とする。これ以外は、鉛蓄電池A5と同様にして負極板を形成する。得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池K1を組み立てる。
【0089】
《鉛蓄電池K2》
負極集電体のPb-Ca-Sn系合金中のCaの含有量を、0.10質量%とし、Snの含有量を、1.00質量%とする。これ以外は、鉛蓄電池A6と同様にして負極板を形成する。得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池K2を組み立てる。
【0090】
[評価1:腐食レベル]
まず、SBA S 0101:2014に準拠して、アイドリングストップ条件で、鉛蓄電池の充放電を行う。具体的には、25℃において、下記の(a)~(c)を1サイクルとして、30000サイクルまで繰り返す。このとき、3600サイクル毎に40~48時間休止する。
(a)放電1:45Aの電流値で59秒放電する。
(b)放電2:300Aの電流値で1秒間放電する。
(c)充電:制限電流100Aおよび14.0Vの電圧で60秒間充電する。
【0091】
そして、負極板の耳部の腐食量を、耳部の厚みに基づいて評価する。具体的には、まず、電池を組み立てる前の負極板の耳部の厚み(初期厚み)をノギスで測定する。上記充放電を行なった後の電池を分解して負極板を取り出す。負極板の耳部を樹脂含浸し、耳部の厚み方向の断面が露出するように切断し、断面を研磨する。耳部の断面をマイクロスコープで観察し、最も腐食が進行している箇所の耳部の厚みを測定する。そして、このときの耳部の厚みを初期厚みから差し引いた値(厚みの減少量)の、初期厚みに対する比率(%)を腐食量とする。この腐食量に基づいて、下記の基準で腐食レベルを評価する。なお、組立前の耳部の厚みが分からない場合には、鉛蓄電池を入手し、試験前の耳部の厚みを測定することで組立前の耳部の厚みの代用ができる。
腐食レベル1:腐食量20%未満
腐食レベル2:腐食量20%以上40%未満
腐食レベル3:腐食量40%以上60%未満
腐食レベル4:腐食量60%以上80%未満
腐食レベル5:腐食量80%以上
【0092】
[評価2:硫酸鉛蓄積]
評価1と同様の条件で、鉛蓄電池の充放電を行なう。充放電後の鉛蓄電池から取り出した負極板について、負極板の下部(負極板の高さの下から20%の位置)における硫酸鉛の蓄積量を測定する。
【0093】
硫酸鉛の蓄積量の測定では、まず、鉛蓄電池から負極板を取り出し、負極板を水洗、真空乾燥(大気圧より低い圧力下で乾燥)する。負極板下部から負極電極材料を採取し、粉砕する。次に、硫黄元素分析装置(LECO社製、S-200型)を用いて、粉砕された負極電極材料(粉砕試料)中の硫黄元素の含有量を測定する。そして、測定された硫黄元素の含有量を、硫酸鉛量に換算し、粉砕試料の単位質量あたりの硫酸鉛濃度(質量%)を求めて、硫酸鉛の蓄積量とする。硫酸鉛の蓄積量は、鉛蓄電池B1の負極板の硫酸鉛の蓄積量を100としたときの比率(%)で表す。
【0094】
[評価3:低温ハイレート(HR)性能]
評価1と同様の条件で、鉛蓄電池の充放電を行なう。満充電状態の鉛蓄電池を、放電電流2.6Aにて、-15℃で端子電圧が単セル当たり1Vに到達するまで放電し、このときの放電時間を求める。この放電時間を低温ハイレート性能の指標とする。低温ハイレート性能は、鉛蓄電池B1の低温ハイレート性能を100としたときの比率(%)で表す。
【0095】
鉛蓄電池A1~A6、B1~B2、C1~C5、D1~D5、E1~E5、F1~F5、G1~G5、H1~H5、J1~J6、およびK1~K2の結果を表1に示す。
【0096】
【0097】
第2炭素材料のみを炭素材料として負極板に用いた鉛蓄電池B1およびB2の比較から、第2炭素材料のみの場合には、負極集電体のPb合金の組成を制御しても、耳部の腐食レベルは、5から4にしか改善されない。第1炭素材料と第2炭素材料とを用いる場合でも、粉体抵抗比R2/R1が15未満や155を超える場合には、耳部の腐食レベルは5であり、腐食の抑制効果は得られない(K1、K2)。また、粉体抵抗比R2/R1が15未満や155を超える場合には、Pb合金の組成を制御しても、耳部の腐食レベルは4であり、腐食の抑制効果はあまり得られない(A5、A6)。
【0098】
粉体抵抗比R2/R1が15~155の範囲であっても、Pb合金中のCaの含有量が0.06質量%以下または0.15質量%を超える場合、もしくはSnの含有量が0.10質量%未満または0.80質量%を超える場合には、腐食レベルは4~5と高い(C1~C5、D1~D5、E5、F5、G5、H5、J1~J6)。
【0099】
これらの結果に対し、粉体抵抗比R2/R1が15~155の範囲において、Pb合金の組成を制御すると、耳部の腐食レベルは、2にまで大きく改善される(A1~A4、E1~E4、F1~F4、G1~G4、H1~H4)。これは、負極板の分極特性が変わり、それによって、充放電中の耳部の電位が、腐食が進行する特定の電位から外れるためと考えられる。
【0100】
また、粉体抵抗比R2/R1が15~155の範囲において、Pb合金の組成を制御すると、硫酸鉛の蓄積量も低減され、低温ハイレート性能も向上している(A1~A4、E1~E4、F1~F4、G1~G4、H1~H4)。これは、Pb合金の組成を制御することで、負極耳部の腐食が抑制できるともに、粉体抵抗比R2/R1を15~155とすることで、負極電極材料中に多くの導電ネットワークが形成され易くなり、負極板全体の導電性が向上するためと考えられる。しかし、このような効果は、粉体抵抗比R2/R1が15~155の範囲でも、Pb合金中のCa量が0.06質量%以下では、得られない。また、このような効果は、Pb合金の組成を制御しても、粉体抵抗比R2/R1が15未満である場合や155を超える場合には、得られない。
【0101】
《鉛蓄電池L1~L5》
使用する各炭素材料の比表面積を調整することにより、既述の手順で求められる比表面積比S2/S1が表2に示す値となるように調整する。これ以外は、鉛蓄電池A2と同様にして負極板を作製し、得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池L1~L5を組み立てる。
鉛蓄電池L1~L5について、鉛蓄電池A1と同様に評価1~評価3について評価する。この評価結果を表2に示す。表2には、鉛蓄電池A2の結果も合わせて示す。
【0102】
【0103】
表2に示すように、比表面積比S2/S1が20以上240以下の範囲では、S2/S1比がこの範囲外の場合(L1、L5)に比べて、低温ハイレート性能が大きく向上する(A2、L2~L4)。これは、有機防縮剤の防縮効果が十分に発揮されることによるものと考えられる。また、これらの鉛蓄電池では、従来の鉛蓄電池B1と同レベルに硫酸鉛の蓄積量も維持されており、耳部の腐食レベルも2と腐食が抑制されている。
【0104】
《鉛蓄電池M1~M5》
使用する炭素材料の平均アスペクト比を調整することにより、既述の手順で求められる平均アスペクト比が表3に示す値となるように調整する。これ以外は、鉛蓄電池L3と同様にして負極板を作製し、得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池M1~M5を組み立てる。
鉛蓄電池M1~M5について、鉛蓄電池A1と同様に評価1~評価3について評価する。この評価結果を表3に示す。なお、表3には、鉛蓄電池L3の結果も合わせて示す。
【0105】
【0106】
表3に示すように、第1炭素材料の平均アスペクト比が1.5以上30以下の範囲では、平均アスペクト比がこの範囲外の場合(M1、M5)に比べて、硫酸鉛の蓄積量が大きく低減され、低温ハイレート性能は大きく向上している(L3、M2~M4)。低温ハイレート性能が向上するのは、負極電極材料における構成成分の分散性が高く、負極電極材料中に導電ネットワークが形成され易いことによるものと考えられる。導電ネットワークが形成されることで硫酸鉛が還元され易くなり、蓄積量が低減すると考えられる。また、これらの鉛蓄電池では、耳部の腐食レベルも2と腐食が抑制されている。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池は、アイドリングストップ車を含む自動車等の車両用の電池に好適に利用である。負極板の耳部の腐食が抑制されることから、制御弁式および液式の鉛蓄電池にも適用可能であり、自動車もしくはバイクなどの始動用の電源や、自然エネルギーの貯蔵、電動車両(フォークリフトなど)などの産業用蓄電装置などの電源として利用できる。
【符号の説明】
【0108】
1 鉛蓄電池
2 負極板
2a 負極板の耳部
3 正極板
4 セパレータ
5 正極棚部
6 負極棚部
7 正極柱
8 貫通接続体
9 負極柱
11 極板群
12 電槽
13 隔壁
14 セル室
15 蓋
16 負極端子
17 正極端子
18 液口栓