(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】入力装置用カバー部材、及び入力装置
(51)【国際特許分類】
G06F 3/041 20060101AFI20220705BHJP
C03C 19/00 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
G06F3/041 460
C03C19/00 A
(21)【出願番号】P 2019543504
(86)(22)【出願日】2018-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2018031677
(87)【国際公開番号】W WO2019058889
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2017183970
(32)【優先日】2017-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】西田 晋作
【審査官】木村 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-102864(JP,A)
【文献】特開2016-99671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/041
C03C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力装置におけるディスプレイ装置の前面側に配置される入力装置用カバー部材であって、
少なくとも一方の主面に凹凸を有し、
前記凹凸を有する主面において、
高域フィルタλcのカットオフ値を、測定断面曲線の凹凸の間隔幅の1.6倍の値とし、かつ低域フィルタλsのカットオフ値を、25μmとしたときに、凹凸の最大高さ幅が3~1000nmかつ凹凸の間隔幅が50~1000μmであり、高域フィルタλcのカットオフ値を25μmとしたときに、凹凸の三次元算術平均粗さSaが1~50nmかつ凹凸の間隔幅が0.01~10μmである、
ことを特徴とする入力装置用カバー部材。
【請求項2】
ヘイズが、可視光の波長域において10%未満である、
ことを特徴とする請求項1に記載の入力装置用カバー部材。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載される入力装置用カバー部材、ディスプレイ装置、及び入力を検出する検出回路を備える、
ことを特徴とする入力装置。
【請求項4】
前記入力装置用カバー部材の主面に接触しながら移動することにより、入力装置に対する入力を行う入力ペンを備える、
ことを特徴とする請求項3に記載の入力装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力装置用カバー部材、及び入力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、入力ペンを用いて文字及び図形等の入力を行うことができるペン入力装置が知られている。
このようなペン入力装置においては、液晶ディスプレイ等のディスプレイ装置の前面側にガラス基板等で構成される透明なカバー部材が配置されており、このカバー部材に対して入力ペンを接触及び移動させることで、様々な入力操作を行うことが可能となっている。ペン入力装置のカバー部材としてガラス基板を用いた場合、一般的にガラス基板の表面は凹凸が小さく滑らかに形成されているため、ガラス基板の表面に入力ペンを接触させて移動させた場合にペン先が滑ってしまい、書き心地が悪いという問題が生じていた。
【0003】
例えば特許文献1には、ペン入力装置における入力ペンの書き味を高めるために、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物からなり、カバー部材の表面に凹凸を有する樹脂層(防眩層)を形成することが開示されている。そして、凹凸の平均間隔が5~500μmとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前述のカバー部材の表面に形成される樹脂層は、カバー部材の表面に入力ペンを接触させて移動させた場合、ペン先がひっかかりすぎて滑りにくくなり、良い書き味を得ることが困難であった。
【0006】
そこで、本発明においては、入力ペンなどの入力手段の書き味が優れた入力装置用カバー部材、及び入力装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する入力装置用カバー部材、及び入力装置は、以下の特徴を有する。
即ち、本発明に係る入力装置用カバー部材は、入力装置におけるディスプレイ装置の前面側に配置される入力装置用カバー部材であって、少なくとも一方の主面に凹凸を有し、前記凹凸を有する主面において、高域フィルタλcのカットオフ値を、測定断面曲線の凹凸の間隔幅の1.6倍の値とし、かつ低域フィルタλsのカットオフ値を、25μmとしたときに、凹凸の最大高さ幅が3~1000nmかつ凹凸の間隔幅が50~1000μmであり、高域フィルタλcのカットオフ値を25μmとしたときに、凹凸の面粗さ(三次元)算術平均高さSaが1~50nmかつ凹凸の間隔幅が0.01~10μmである。
このような構成により、入力装置に対する入力ペンなどの入力手段の操作を滑りにく過ぎず、且つ、滑り易すぎないようにすることができ、入力ペンなどの入力手段の書き味を優れたものとすることができる。
【0008】
また、ヘイズが、可視光の波長域において10%未満である。
これにより、入力装置用カバー部材の透明度を保持することができ、ディスプレイ装置の視認性を保持することができる。
【0009】
また、入力装置は、請求項1又は請求項2に記載される入力装置用カバー部材、ディスプレイ装置、及び入力を検出する検出回路を備える。
これにより、入力装置に対する入力を行う入力ペンなどの入力手段の書き味を優れたものとすることができる。
【0010】
また、入力装置は、前記入力装置用カバー部材の主面に接触しながら移動することにより、入力装置に対する入力を行う入力ペンを備える。
このような構成により、入力装置に対する入力ペンの書き味を優れたものとすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、入力装置に対する入力を行う入力ペンなどの入力手段の書き味を優れたものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】主面の測定断面曲線、大きな間隔幅の凹凸、及び小さな間隔幅の凹凸を示す図である。
【
図3】高域フィルタλc及び低域フィルタλsのカットオフ値を示す図である。
【
図4】凹凸の間隔幅が異なる大小2種類の凹凸が形成されたガラス基板の主面にペン先が接する様子を示す図である。
【
図5】凹凸の間隔幅が異なる大小2種類の凹凸を有さないガラス基板の主面にペン先が接する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明に係る入力装置用カバー部材、及び入力装置を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。
【0014】
図1に示す入力装置10は、本発明に係る入力装置用カバー部材を備えた入力装置の一実施形態である。
入力装置10は、映像を表示するディスプレイ素子30と、ディスプレイ素子30の前面側に配置されるカバー部材としてのガラス基板20と、ディスプレイ素子30の背面側に配置されるデジタイザ回路40と、入力ペン50とを備える。ガラス基板20は、本発明に係る入力装置用カバー部材の一例であり、デジタイザ回路40は、本発明に係る入力を検出する検出回路の一例である。
なお、ディスプレイ素子30の「前面側」とは、映像が表示される側をいい、ディスプレイ素子30の「背面側」とは、映像が表示される側の反対側をいう。
図1において、ディスプレイ素子30の「前面側」は、紙面上方、「背面側」は、紙面下方となる。
【0015】
入力装置10は、ガラス基板20に対して入力ペン50を接触させた状態で移動させることにより、文字及び図形などの入力を行うことが可能となっている。入力装置10に対する入力は、入力ペン50以外の入力手段によっても行うことができる。例えば、ユーザーの指をガラス基板20に接触させた状態で移動させることにより、文字及び図形などの入力を行うことが可能である。
入力装置10は、例えばタブレット端末である。このタブレット端末は、表示機能と入力機能とを備えた入力用表示装置を広く意味する。タブレット端末は、タブレットPC、モバイルPC、スマートフォン、及びゲーム機などの機器を含む。
【0016】
ガラス基板20は、少なくとも一方の主面20aに凹凸が形成された透明なガラス板により形成されている。ガラス基板20としては、例えばアルミノシリケートガラス、又はホウケイ酸ガラスからなるガラス板を用いることができる。ガラス基板20がアルカリ含有アルミノシリケートガラスからなるガラス板である場合、ガラス基板20は、表面に化学強化層を有していても良い。なお、ガラス基板20の詳細については後述する。
【0017】
ガラス基板20は、凹凸が形成された主面20aに入力ペン50が接触する側の面となるように配置されている。
【0018】
デジタイザ回路40は、入力ペン50などの入力手段による入力を検出する検出センサを備えている。
入力ペン50は、鉛筆やボールペンなどの筆記具に似た形状の入力具であり、ガラス基板20と接触するペン先51は、エラストマー、ポリアセタール樹脂などの合成樹脂材、又はフェルトなどで構成されている。これらの部材により構成されたペン先51は、凹凸に対して引っかかりやすい。従って、入力ペン50のペン先51を、凹凸が形成されたガラス基板20の主面20aに接触させて移動させた場合の書き味が特に優れる。
【0019】
本実施形態においては、入力装置用カバー部材としてガラス基板20を用いているが、これに限るものではなく、合成樹脂により形成され、少なくとも一方の主面に凹凸が形成された樹脂基板をカバー部材として用いることも可能である。この場合、樹脂基板の凹凸は、例えば樹脂基板の主面にウェットブラスト等のブラスト加工を施したり、樹脂基板の主面にエンボス加工を施したりすることにより形成することが可能である。
【0020】
また、凹凸が表面に形成された樹脂層を、ガラス基板の少なくとも一方の主面に形成したものをカバー部材として用いることも可能である。この場合、カバー部材は、凹凸が表面に形成された樹脂シートをガラス基板の主面に貼り付けることにより構成することができる。樹脂シートの凹凸は、例えば樹脂シートの表面にエンボス加工を施したり、粉粒体を混入させた合成樹脂をシート状に形成したりすることにより形成することができる。さらに、樹脂層は、合成樹脂をガラス基板の主面にスプレーにて吹き付けて形成することも可能である。
【0021】
ただし、カバー部材としてガラス基板20を用いた場合は、樹脂基板やガラス基板の主面に樹脂層を形成したものを用いた場合に比べて表面の硬度が高くなるため、表面に傷が付きにくい点で有利である。
【0022】
次に、ガラス基板20について説明する。
ガラス基板20は本発明に係る入力装置用カバー部材の一実施形態である。
ガラス基板20の主面20aには、凹凸が形成されている。
【0023】
図2に示すように、凹凸は、凹凸の間隔幅が異なる大小2種類の凹凸により構成されている。大きな間隔幅の凹凸は、最大高さ幅Rzが3nm~1000nmであり、かつ凹凸の間隔幅RSmが50μm~1000μmである。また、小さな間隔幅の凹凸は、三次元算術平均高さSaが1nm~50nmであり、かつ凹凸の間隔幅RSmが0.01μm~10μmである。
最大高さ幅Rzは、三次元算術平均高さSaよりも大きいことが好ましい。また、最大高さ幅Rzは、三次元算術平均高さSaの1.1~500倍であることがより好ましい。
【0024】
ここで、大きな間隔幅の凹凸において、最大高さ幅Rzは、凹凸における最も高い山の高さと最も深い谷の深さの和であり、凹凸の間隔幅RSmは、所定の基準長さにおける凹凸の各周期長さXsの平均である。
また、小さな間隔幅の凹凸において、三次元算術平均高さSaは、所定の三次元領域における凹凸の山の高さZ1及び谷の深さZ2の絶対値の平均であり、凹凸の間隔幅RSmは、所定の基準長さにおける凹凸の各周期長さXsの平均である。
【0025】
図2、
図3に示すように、上述した大きな間隔幅の凹凸における最大高さ幅Rz及び凹凸の間隔幅RSmの値は、主面20aの測定断面曲線から長波長成分を遮断するための高域フィルタλcのカットオフ値λc1を、測定断面曲線の凹凸の間隔幅の1.6倍の値に設定し、かつ主面20aの測定断面曲線から短波長成分を遮断するための低域フィルタλsのカットオフ値λs1を、25μmに設定した場合に得られる値である。
【0026】
また、上述した小さな間隔幅の凹凸における三次元算術平均高さSa及び凹凸の間隔幅RSmの値は、主面20aの測定断面曲線から長波長成分を遮断するための高域フィルタλcのカットオフ値λc2を25μmに設定した場合に得られる値である。
なお、主面20aの測定断面曲線においては、カットオフ値λc2を有する高域フィルタλcを適用することで主面20aが有しているうねり成分及び大きな間隔幅の凹凸の成分が除去されて、小さな間隔幅の凹凸の曲線が得られる。
【0027】
ガラス基板20の主面20aにおける大きな間隔幅の凹凸の形状及び小さな間隔幅の凹凸の形状が、このような範囲であることにより、入力装置10においては、ディスプレイ素子30の視認性を保持することができ、入力ペン50などの入力手段の書き味を向上させることが可能となっている。また、形成された凹凸による散乱光の干渉による、スパークリングと呼ばれるギラつきの発生を抑えることができる。さらに、ガラス基板20の主面20aには樹脂層が形成されておらず、直接凹凸形状が形成されていると耐傷性が高く傷が付きにくいため、ディスプレイ素子30の視認性を低下させることがない。
【0028】
大きな間隔幅の凹凸は主面20aと入力ペン50のペン先51との接触に影響する。ペン先51は、ガラス基板20の主面20aと大きな間隔幅の凹凸の凸部で接触するが、大きな間隔幅の凹凸の凹部では接触しない。これにより、ペン先51と主面20aとの間の摩擦力の適度な上昇と低下の組み合わせにより、ペン先51と主面20aとの間の摩擦力の過度な上昇、過度な低下を防止することができ、入力ペン50による書き味を優れたものにすることができる。また、ユーザーの指をガラス基板20に接触させた状態で移動させた場合においても、指を適度に滑らかに移動させることができ、指による入力を行う際の書き味を優れたものにすることができる。このように、入力ペン50や指などの入力手段の書き味を向上させることが可能となっている。
【0029】
大きな間隔幅の凹凸の最大高さ幅Rzの上限値は1000nmに設定されているが、500nmに設定することが好ましく、200nmに設定することがさらに好ましい。
また、大きな間隔幅の凹凸の最大高さ幅Rzの下限値は3nmに設定されているが、4nmに設定することが好ましく、5nmに設定することがさらに好ましい。
大きな間隔幅の凹凸の間隔幅RSmの上限値は1000μmに設定されているが、900μmに設定することが好ましく、800μmに設定することがさらに好ましい。
【0030】
小さな間隔幅の凹凸はガラス基板20の主面20aとペン先51との間の摩擦力上昇に寄与する。これにより、ペン先51がガラス基板20の主面20a上で滑ることを抑制することができ、入力ペン50による書き味を優れたものにすることができる。また、ユーザーの指をガラス基板20に接触させた状態で移動させた場合においても、指を適度に滑らかに移動させることができ、指による入力を行う際の書き味を優れたものにすることができる。このように、入力ペン50や指などの入力手段の書き味を向上させることが可能となっている。
小さな間隔幅の凹凸の三次元算術平均高さSaの上限値は50nmに設定されているが、40nmに設定することが好ましく、30nmに設定することがさらに好ましい。
小さな間隔幅の凹凸の間隔幅RSmの上限値は10μmに設定されているが、7μmに設定することが好ましく、5μmに設定することがさらに好ましい。
小さな間隔幅の凹凸の間隔幅RSmの下限値は0.01μmに設定されているが、0.1μmに設定することが好ましく、0.5μmに設定することがさらに好ましい。
【0031】
また、ガラス基板20の主面20aは、上述のエラストマー、ポリアセタール樹脂などの樹脂材、及びフェルトなどといった凹凸に対して引っかかりを生じやすい部材で構成されているペン先51に対して書き味が特に優れたものとなっている。
【0032】
ガラス基板20は、ディスプレイ素子30の映像をガラス基板20を介して見たときの映像の視認性の観点から、透明性に関する指標で曇度を表すヘイズが、可視光の波長域(380nm~780nm)において10%未満となるように形成されている。
ガラス基板20のヘイズを10%未満とすることで、ガラス基板20の透明度を保持することができ、ディスプレイ素子30の視認性を保持することができる。
【0033】
本実施形態の場合、ガラス基板20のヘイズは10%未満に設定されているが、7%未満であることが好ましく、5%未満であることがより好ましく、4%未満であることがさらに好ましい。
【0034】
また、ガラス基板20の主面20aには、入力ペンが接触する側の反射率を低下させるための反射防止膜、又は指紋の付着を防止し、撥水性、撥油性を付与するための防汚膜を形成することができる。
【0035】
反射防止膜は、ガラス基板20を入力装置10のカバー部材として使用する場合には、少なくともガラス基板20の表側(入力ペン50が接触する側)の主面20aに有する。また、ガラス基板20とディスプレイ素子30との間に隙間がある場合には、ガラス基板20の裏側(ディスプレイ素子30側)の主面20aにも反射防止膜を有することが好ましい。
反射防止膜としては、例えばガラス基板20よりも屈折率が低い低屈折率膜、又は相対的に屈折率が低い低屈折率膜と相対的に屈折率が高い高屈折率膜とが交互に積層された誘電体多層膜が用いられる。反射防止膜は、スパッタリング法、又はCVD法などにより形成することができる。
【0036】
ガラス基板20の主面20aに反射防止膜を有する場合、反射防止膜の表面の凹凸が上述の表面粗さ(大きな間隔幅の凹凸の最大高さ幅Rz及び凹凸の間隔幅RSm、並びに小さな間隔幅の凹凸の三次元算術表面高さSa及び凹凸の間隔幅RSm)の範囲となるように、ガラス基板20の主面20aの凹凸が形成される。
また、ガラス基板20の主面20aに反射防止膜を有する場合、反射防止膜を有するガラス基板20のヘイズが上述の範囲となるように、ガラス基板20の主面20aの凹凸が形成される。なお、反射防止膜を形成した後において、凹凸の間隔幅RSm、及び凹凸の三次元算術平均高さSaを測定する場合は、10nmのAu膜を形成し、その後これらの値を測定する。
【0037】
防汚膜は、ガラス基板20を入力装置10のカバー部材として使用する場合には、ガラス基板20の表側(入力ペン50が接触する側)の主面20aに有する。
防汚膜は、主鎖中にケイ素を含む含フッ素重合体を含むことが好ましい。含フッ素重合体としては、例えば、主鎖中に、-Si-O-Si-ユニットを有し、かつ、フッ素を含む撥水性の官能基を側鎖に有する重合体を用いることができる。含フッ素重合体は、例えばシラノールを脱水縮合することにより合成することができる。
ガラス基板20の表側の主面20aに反射防止膜と防汚膜とを有する場合には、ガラス基板20の主面20a上に反射防止膜を形成し、反射防止膜上に防汚膜が形成される。
【0038】
ガラス基板20の主面20aに防汚膜を有する場合、又はガラス基板20の主面20aに反射防止膜と防汚膜とを有する場合、防汚膜の表面の凹凸が上述の表面粗さ(大きな間隔幅の凹凸の最大高さ幅Rz及び凹凸の間隔幅RSm、並びに小さな間隔幅の凹凸の三次元算術表面高さSa及び凹凸の間隔幅RSm)の範囲となるように、ガラス基板20の主面20aの凹凸が形成される。
また、ガラス基板20の主面20aに防汚膜を有する場合、又はガラス基板20の主面20aに反射防止膜と防汚膜とを有する場合、防汚膜を形成した後のガラス基板20のヘイズ、又は反射防止膜と防汚膜とを形成した後のガラス基板20のヘイズが上述の範囲となるように、ガラス基板20の主面20aの凹凸が形成される。
【0039】
次に、ガラス基板20の製造方法について説明する。
ガラス基板20の少なくとも一方の主面20aに形成される凹凸は、当該主面20aにウェットブラスト処理、化学エッチング処理、シリカコーティング処理などの処理方法を少なくとも1種類以上組み合わせることにより形成される。
ウェットブラスト処理は、アルミナなどの個体粒子にて構成される砥粒と、水などの液体とを均一に攪拌してスラリーとしたものを、圧縮エアを用いて噴射ノズルからガラスからなるワークに対して高速で噴射することにより、前記ワークに微細な凹凸を形成する処理である。さらに、スラリーを噴射するノズルとして、スラリーの噴射口の面積をワークの面積に対して小さく絞った丸ノズルを用い、この丸ノズルをワークに対して相対運動させることによって様々な表面形状を形成させることができる。
【0040】
ウェットブラスト処理においては、高速に噴射されたスラリーがワークに衝突した際に、スラリー内の砥粒がワークの表面を削ったり、叩いたり、こすったりすることにより、ワークの表面に微細な凹凸が形成されることとなる。この場合、ワークに噴射された砥粒や砥粒により削られたワークの破片は、ワークに噴射された液体により洗い流されるため、ワークに残留する粒子が少なくなる。また、ノズルをワークに対して任意に走査させて、ワークの表面に部分的にスラリーを噴射することによって、小さな間隔幅の凹凸に加え、大きな間隔幅の凹凸を作ることができる。ガラス基板20は、表面に凹凸の間隔幅が異なる大小2種類の凹凸が形成されたワークを、切断すること等により所望の大きさや形状に調製することにより得られる。
【0041】
ウェットブラスト処理によりワークの主面に形成される小さな間隔幅の凹凸の表面粗さは、主にスラリーに含まれる砥粒の粒度分布と、スラリーをワークに噴射する際の噴射圧力とにより調整可能である。また、大きな間隔幅の凹凸の最大高さ幅Rz及び凹凸の間隔幅RSmは、スラリーを噴射するノズルのサイズ、送りピッチ幅、噴射圧により調整可能である。
【0042】
ウェットブラスト処理においては、スラリーをワークに噴射した場合、液体が砥粒をワークまで運ぶため、乾式ブラスト処理に比べて微細な砥粒を使用することができるとともに、砥粒がワークに衝突する際の衝撃が小さくなり、精密な加工を行うことが可能である。このように、ワークに対してウェットブラスト処理を施すことで、ガラス基板20の主面20aに適度な大きさの凹凸の間隔幅が異なる大小2種類の凹凸を形成しやすく、ガラス基板20の透明度を損なうことなく、入力ペン50などの入力手段の書き味を優れたものとすることが可能となる。
【0043】
なお、乾式ブラスト処理においては、噴射された砥粒がワークに衝突した際の摩擦によりワークに加工熱が発生するが、ウェットブラスト処理においては、処理中は液体がワークの表面を常に冷却しているため、ワークがブラスト処理により加熱されることがない。また、乾式ブラスト処理を施すことにより、ガラス基板20の主面20aに凹凸を形成することも可能であるが、乾式ブラスト処理では砥粒がガラス基板20の主面20aに衝突する際の衝撃が大きすぎて、凹凸が形成された主面20aの表面粗さが大きくなりやすく、ガラス基板20の透明度が損なわれやすい。
【0044】
また、化学エッチング処理は、ガラス基板20の主面20aをフッ化水素(HF)ガス又はフッ化水素酸により化学エッチングする処理である。
【0045】
また、シリカコーティング処理は、ガラス基板20の主面20aにシリカ前駆体等のマトリックス前駆体、及びマトリックス前駆体を溶解する液状媒体を含むコーティング剤をガラス基板20の主面20aに塗布し、加熱する処理である。
【実施例】
【0046】
次に、主面20aに凹凸の間隔幅が異なる大小2種類の凹凸を形成したガラス基板20の実施例について説明する。但し、ガラス基板20はこれに限定されるものではない。
【0047】
[試料の作製]
本実施例においては、ガラス基板20の実施例として試料1~7を作製し、比較例として試料8~9を作製した。試料1~9に用いたガラス基板20としては、厚さが1.1mmのアルカリ含有アルミノシリケートガラスを使用した。
【0048】
実施例となる試料1~7のガラス基板20に対しては、ウェットブラスト処理を施すことにより、一方の主面20aに凹凸の間隔幅が異なる大小2種類の凹凸を形成した。具体的には、試料1~7のガラス基板20に対し、粒度が♯4000または、#6000のアルミナにて構成される砥粒と水とを均一に攪拌することにより調製したスラリーを、ガラス基板20を処理台に載置し、処理圧力0.1~0.2MPaのエアを用いてガラス基板20の一方の主面20aの全体に対して丸ノズルを0.5mm/sの速度で移動させながら走査させて噴射するウェットブラストを施した。ウェットブラストを施す丸ノズルは、スラリーの噴射口の断面積を主面20aの面積に対して小さく絞り、スラリーを主面20aに対して部分的に噴射するノズルである。大きな間隔幅の凹凸の間隔幅は丸ノズルの走査距離を変えることで可変させた。また、大きな間隔幅の凹凸の最大高さ幅Rzは走査回数を増やすことで可変させた。小さな間隔幅の凹凸の三次元算術平均高さSaはアルミナの粒度を変更、または処理圧力を変更することで可変させた。前記砥粒としては、多角形状を有する砥粒を用いた。
【0049】
試料2~7において、大きな間隔幅の凹凸の間隔幅は丸ノズルの走査距離を50~500μmと可変させることでサンプルを作製した。大きな間隔幅の凹凸の最大高さ幅Rzは丸ノズルの走査回数を試料7の2~15倍と可変させることでサンプルを作製した。小さな間隔幅の凹凸の三次元算術平均高さSaはアルミナの粒度を#4000~6000に変更し、処理圧力を0.1から0.2MPaの範囲で増加させることでサンプルを作製した。
【0050】
比較例となる試料8のガラス基板20の主面20aには処理を施していない。つまり試料8のガラス基板20は未処理である。
比較例となる試料9のガラス基板20に対しては、一方の主面20aに幅広ノズルにより0.25MPaの処理圧にて主面20a全面に対してスラリーを均一に噴射するウェットブラストを施した。ウェットブラストを施す幅広ノズルは、スラリーの噴射口の幅長さを大きく形成し、スラリーを主面20aの全面に対して均一に噴射することができるノズルである。
【0051】
[表面粗さの測定]
試料1~9のガラス基板20における主面20aの表面粗さを測定した。表面粗さの測定は、試料1~7、9についてはウェットブラスト処理を施した主面に対して行い、試料8については一方の主面20aに対して行った。
【0052】
測定した表面粗さのパラメータは、大きな間隔幅の凹凸に関しては最大高さ幅Rz及び凹凸の間隔幅RSmであり、小さな間隔幅の凹凸に関しては三次元算術表面高さSa及び凹凸の間隔幅RSmであり、表面粗さの測定は白色干渉顕微鏡を用いて行った。
【0053】
用いた白色干渉顕微鏡は、Zygo社製の白色干渉顕微鏡(New View 7300)であり、JIS B0601‐2013に基づいて測定を実施した。
大きな間隔幅の凹凸の測定条件は、対物レンズ2.5倍、ズームレンズ1倍を使用し、測定エリア2827×2120μmの領域に対して、カメラ画素数が640×480、積算回数1回となるように実施した。大きな間隔幅の凹凸の最大高さ幅Rz及び凹凸の間隔幅RSmを測定する際の、高域フィルタλcのカットオフ値λc1は凹凸の間隔幅RSmの1.6倍程度となるように設定し、低域フィルタλsのカットオフ値λs1は25μmに設定した。
小さな間隔幅の凹凸の測定条件は、対物レンズ50倍、ズームレンズ2倍を使用し、測定エリア74×55μmの領域に対して、カメラ画素数が640×480、積算回数8回となるように実施した。小さな間隔幅の凹凸の三次元算術平均粗さSa及び凹凸の間隔幅RSmを測定する際の、高域フィルタλcのカットオフ値λc2は25μmに設定した。
【0054】
[表面粗さの測定結果]
試料1~9について行った表面粗さの測定結果について説明する。
表1に測定結果を示す。
【0055】
【0056】
表1に示すように、大きな間隔幅の凹凸の最大高さ幅Rzは、実施例となる試料1~7については10nm~151nmの範囲にあり、ウェットブラスト処理の走査回数が増えるに従って最大高さ幅Rzが大きくなる傾向にある。未処理の比較例である試料8及び幅広ノズルによるウェットブラスト処理を施した比較例である試料9については、大きな間隔幅の凹凸は形成されていなかった。
【0057】
大きな間隔幅の凹凸における凹凸の間隔幅RSmは、実施例となる試料1~7については51μm~520μmの範囲にある。未処理の比較例である試料8及び幅広ノズルによるウェットブラスト処理を施した比較例である試料9については、大きな間隔の凹凸は形成されていなかった。
【0058】
小さな間隔幅の凹凸における三次元算術表面高さSaは、実施例となる試料1~7については4.0nm~7.5nmの範囲にある。未処理の比較例である試料8については試料1~7よりも小さな0.2nmであり、幅広ノズルによるウェットブラスト処理を施した比較例である試料9については、7.0nmであった。
【0059】
[ヘイズの測定]
試料1~9についてヘイズの測定を行った。ヘイズの測定は、島津製作所社製紫外可視近赤外分析光度計(UV-3100PC)を用い、JIS K7361-1-1997に基づいて測定した。
【0060】
[ヘイズの測定結果]
表1に示すように、ヘイズは、実施例となる試料1~7については0.7%~3.6%の範囲にあり、未処理の試料8及び幅広ノズルによるウェットブラスト処理を施した試料9と大きな差は無かった。
【0061】
[視認性の評価]
入力装置10におけるディスプレイ素子30の前面側に試料1~9のガラス基板20を載置した場合の、ディスプレイ素子30に表示される映像の視認性について評価を行った。評価方法としては、ディスプレイ素子30に表示される映像に滲みが見られるか否かを以下に示す3段階で評価を行った。◎:鮮明な映像が見え、像に滲みが見られない、
○:映像が十分に視認できるが、僅かに像の滲みが見られる、×:映像が不鮮明であり、かつ像の滲みが目立つ。
【0062】
[視認性の評価結果]
表1に示すように、映像の視認性は、実施例となる試料1~7については◎となった。未処理の比較例である試料8については◎となり、幅広ノズルによるウェットブラスト処理を施した比較例である試料9については◎となった。
【0063】
[書き味の評価]
ガラス基板20に対して入力ペン50により文字及び図形等の入力を行った際の書き味を官能試験により評価した。評価方法としては、入力ペン50としてワコム社製プロペン(KP-503E)を使用し、ガラス基板20上での書き味を、20代~50代の男女の合計20人に対して「非常に書き心地が良い」から「非常に書き心地が悪い」までの7段階で採点してもらい、その平均点で評価した。
【0064】
[書き味の評価結果]
表1に示すように、書き味は、実施例となる試料1~7については4.1以上となり、未処理の比較例である試料8、及び幅広ノズルによるウェットブラスト処理を施した比較例である試料9については3.9以下となった。
【0065】
[各試料の総合評価]
表1、
図4に示すように、実施例となる試料1~7については、入力ペン50のペン先51が接する主面20aに形成された適切な凹凸の間隔幅が異なる大小2種類の凹凸により、ペン先51がガラス基板20の主面20a上で滑ることが抑制されるとともに、ペン先51と主面20aとの間の摩擦力の適度な上昇と低下が組み合わさることによって、書き味が良好であり、かつ視認性も◎といったような良好な評価結果が得られた。
一方、未処理の比較例である試料8については、入力ペン50が接する主面20aの凹凸が小さく、滑り易いために書き味が悪かった。
また、
図5に示すように、幅広ノズルによるウェットブラスト処理を施した比較例である試料9については、凹凸の間隔幅が異なる大小2種類の凹凸がないため、ペン先51が滑り難過ぎてひっかかりが生じ、書き味が悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、入力ペンなどの入力手段を用いて文字及び図形等の入力を行うことができる入力装置、および当該入力装置が備える入力装置用カバー部材に利用可能であり、特に、入力装置におけるディスプレイ装置の前面側に配置され、少なくとも一方の主面に凹凸を有する入力装置用カバー部材、およびその入力装置用カバー部材を備える入力装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0067】
10 入力装置
20 ガラス基板
20a 主面
30 ディスプレイ素子
40 デジタイザ回路
50 入力ペン