IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コニカミノルタ株式会社の特許一覧

特許7099473樹脂組成物、およびこれを用いた立体造形物の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】樹脂組成物、およびこれを用いた立体造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20220705BHJP
   C08K 7/00 20060101ALI20220705BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20220705BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20220705BHJP
   B29C 64/165 20170101ALI20220705BHJP
   B29C 64/268 20170101ALI20220705BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20220705BHJP
   B33Y 70/10 20200101ALI20220705BHJP
   B29C 64/40 20170101ALI20220705BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K7/00
C08L23/00
C08K3/34
B29C64/165
B29C64/268
B33Y10/00
B33Y70/10
B29C64/40
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019550494
(86)(22)【出願日】2018-11-02
(86)【国際出願番号】 JP2018040797
(87)【国際公開番号】W WO2019088243
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2017213710
(32)【優先日】2017-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝口 啓介
(72)【発明者】
【氏名】磯部 和也
(72)【発明者】
【氏名】永田 員也
(72)【発明者】
【氏名】真田 和昭
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/180166(WO,A1)
【文献】特表2017-517414(JP,A)
【文献】特開2017-52870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
B29C64/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状の樹脂組成物を含む薄層の形成および前記薄層へのエネルギー照射の繰り返しによって、立体造形物を形成する立体造形法に使用される樹脂組成物であって、
熱可塑性樹脂を含む粒子、および
厚み50~500nmであり、かつ前記厚みに対する最大径の割合が5~20である平板状粒子を含
前記平板状粒子が層状粘土鉱物であり、
前記樹脂組成物100質量部に対する、前記平板状粒子の量が、10~40質量部である、
樹脂組成物。
【請求項2】
前記平板状粒子は、前記最大径が1~10μmである、
請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記平板状粒子が、前記熱可塑性樹脂を含む粒子の周囲に付着している、
請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記平板状粒子が、前記熱可塑性樹脂を含む粒子の内部に含まれている、
請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記平板状粒子は、マグネシウムを含むケイ酸塩化合物である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記平板状粒子は、タルクである、
請求項1~5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂が、結晶性樹脂である、
請求項1~6のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂が、オレフィン樹脂である、
請求項1~7のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の樹脂組成物の硬化物を含む、
立体造形物。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む薄層を形成する薄層形成工程と、
前記薄層にレーザ光を選択的に照射して、複数の前記樹脂組成物が溶融結合した造形物層を形成するレーザ光照射工程と、
を含み、
前記薄層形成工程、および前記レーザ光照射工程を複数回繰り返し、前記造形物層を積層することで立体造形物を形成する、
立体造形物の製造方法。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む薄層を形成する薄層形成工程と、
エネルギー吸収剤を含む結合用流体、および前記結合用流体よりエネルギー吸収の少ない剥離用流体を、前記薄層の互いに隣接する領域に塗布する流体塗布工程と、
前記流体塗布工程後の前記薄層にエネルギーを照射し、前記結合用流体を塗布した領域の前記熱可塑性樹脂を溶融させて造形物層を形成するエネルギー照射工程と、
を含み、
前記薄層形成工程、前記流体塗布工程、および前記エネルギー照射工程を複数回繰り返し、前記造形物層を積層することで立体造形物を形成する、
立体造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、およびこれを用いた立体造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複雑な形状の立体造形物を比較的容易に製造できる様々な方法が開発されており、このような手法を利用したラピッドプロトタイピングやラピッドマニュファクチュアリングが注目されている。
【0003】
従来、これらの造形物作製方法は、モデリングの分野で広く使用されてきたが、近年、これらの手法を直接製造に展開する動きが活発になっている。立体造形物を直接製造に使用するためには、高強度かつ高延性でさらには造形精度が高いことが求められる。
【0004】
各種立体造形物の製造方法の中でも、粉末床溶融結合法をはじめとする樹脂粒子を使用した方法は、他の方式に比べて比較的高い造形精度で立体造形物を作製できることが知られている。例えば、粉末床溶融結合法では、樹脂粒子を平らに敷き詰めて薄層を形成する。そして、当該薄層に、パターン状(立体造形物を厚さ方向に微分割したパターン状)にレーザ光を照射する。これにより、レーザ光が照射された領域の樹脂粒子を選択的に焼結または溶融結合(以下、単に「溶融結合」とも称する)させる。そして、得られた造形物層上に樹脂粒子をさらに敷き詰め、同様にレーザ光照射を行う。これらの手順を繰り返すことで、造形物層が積み上げられ、所望の形状の立体造形物が得られる。
【0005】
しかしながら、上記薄層形成の際、樹脂粒子を隙間なく並べたとしても、樹脂粒子は通常球状である。そのため、隣り合う樹脂粒子どうしの接触面積が非常に少なく、樹脂粒子どうしの界面において、熱が伝わり難い。したがって、薄層にレーザ光を照射した際の溶融状態や、温度にばらつきが生じやすいという課題があった。また同様に、既に形成された造形物層と、新たに形成された薄層(樹脂粒子)との接触面積も少ない。そのため、これらの間でも互いに熱が伝わり難い。したがって、先に形成された造形物層と後に形成される造形物層との間で、熱収縮の度合いが相違し、反り(以下、このようにして発生する反りを「熱反り」とも称する)が発生する、という課題もあった。
【0006】
一方、立体造形物の製造方法として、樹脂組成物をフィラメント状に溶融押出しし、ステージ上に、立体造形物を厚さ方向に微分割した薄層を形成して立体造形物を得る方法(熱溶解積層方式)も知られている。このような樹脂組成物に、各種フィラーを添加することで、得られる立体造形物に導電性を付与したり、得られる立体造形物の弾性率を高めることが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-28887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
また近年、樹脂粒子を利用した、別の立体造形物の製造方法として、以下のような方法も提案されている。まず、樹脂粒子を平らに敷き詰めて薄層を形成する。そして、当該薄層のうち、硬化させたい領域(所望の立体造形物を厚さ方向に微分割したパターン状)にのみ、赤外光吸収剤等を含む結合用流体を塗布する。一方で、結合用流体を塗布しない領域には、結合用流体よりエネルギー吸収の少ない剥離用流体を塗布する。その後、赤外光の照射を行い、結合用流体を塗布した領域の粉末材料のみを加熱溶融させる。そして、これらの工程を繰り返すことで、造形物層が積み上げられ、所望の立体造形物が得られる(以下、当該方法を「MJF方式」とも称する)。当該方法においても、隣り合う粒子どうしの熱伝導性を高めることは難しく、造形物層内の溶融状態にばらつきが生じたり、熱反りが発生したりする、といった課題が生じやすかった。
【0009】
そこで、上述の立体造形物の製造方法に用いられる樹脂粒子の内部に、特許文献1のようにフィラーを含めること等が考えられる。しかしながら、一般的なフィラーを添加しただけでは、隣り合う樹脂粒子間の熱伝導性を高めることは難しく、フィラーを添加することで、却って立体造形物の延性が低くなる、という課題も生じやすかった。
【0010】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものである。すなわち本発明は、高強度、かつ高延性であり、さらには熱反り等がなく、寸法精度の高い立体造形物を得るための樹脂組成物の提供、およびこれを用いた立体造形物の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の樹脂組成物を提供する。
[1]粒子状の樹脂組成物を含む薄層の形成および前記薄層へのエネルギー照射の繰り返しによって、立体造形物を形成する立体造形法に使用される樹脂組成物であって、熱可塑性樹脂を含む粒子、および厚み50~500nmである平板状粒子を含む、樹脂組成物。
【0012】
[2]前記平板状粒子は、幅が1~10μmである、[1]に記載の樹脂組成物。
[3]前記平板状粒子が、前記熱可塑性樹脂を含む粒子の周囲に付着している、[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
[4]前記平板状粒子が、前記熱可塑性樹脂を含む粒子の内部に含まれている、[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0013】
[5]前記平板状粒子は、マグネシウムを含むケイ酸塩化合物である、[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6]前記平板状粒子は、タルクである、[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[7]前記熱可塑性樹脂が、結晶性樹脂である、[1]~[6]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[8]前記熱可塑性樹脂が、オレフィン樹脂である、[1]~[7]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0014】
本発明は、以下の立体造形物、および立体造形物の製造方法を提供する。
[9]上記[1]~[8]のいずれかに記載の樹脂組成物の硬化物を含む、立体造形物。
[10]上記[1]~[8]のいずれかに記載の樹脂組成物を含む薄層を形成する薄層形成工程と、前記薄層にレーザ光を選択的に照射して、複数の前記樹脂組成物が溶融結合した造形物層を形成するレーザ光照射工程と、を含み、前記薄層形成工程、および前記レーザ光照射工程を複数回繰り返し、前記造形物層を積層することで立体造形物を形成する、立体造形物の製造方法。
[11]上記[1]~[8]のいずれかに記載の樹脂組成物を含む薄層を形成する薄層形成工程と、エネルギー吸収剤を含む結合用流体、および前記結合用流体よりエネルギー吸収の少ない剥離用流体を、前記薄層の互いに隣接する領域に塗布する流体塗布工程と、前記流体塗布工程後の前記薄層にエネルギーを照射し、前記結合用流体を塗布した領域の前記熱可塑性樹脂を溶融させて造形物層を形成するエネルギー照射工程と、を含み、前記薄層形成工程、前記流体塗布工程、および前記エネルギー照射工程を複数回繰り返し、前記造形物層を積層することで立体造形物を形成する、立体造形物の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の樹脂組成物によれば、高強度、かつ高延性であり、さらには熱反り等がなく、寸法精度の高い立体造形物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.樹脂組成物
本発明の樹脂組成物は、粉末床溶融結合方式やMJF方式等、樹脂を含む粒子を溶融結合させて立体造形物を製造する方法に用いられる。本発明の樹脂組成物には、熱可塑性樹脂を含む粒子(以下、単に「樹脂粒子」とも称する)、および平板状粒子が含まれる。ここで、本明細書において、平板状粒子とは、対向する2つの主平面を有し、これら2つの主平面の間の距離(厚み)が、主平面の最大径(以下、「幅」とも称する)および最小径に対して十分に小さい粒子をいう。
【0017】
前述のように、粉末床溶融結合方式やMJF方式では、樹脂粒子からなる薄層を形成し、当該薄層にエネルギーを照射する。これにより、隣り合う樹脂粒子どうしを溶融結合させて、立体造形物を厚さ方向に微分割した造形物層を得る。しかしながら、樹脂粒子は通常球状であることから、隣り合う樹脂粒子どうしの接触面積が非常に少なく、熱が伝わり難い。その結果、造形物層内で、各樹脂粒子の溶融状態や温度がばらつきやすい、という課題があった。さらに、先に形成された造形物層と、後に形成される造形物層との間の熱伝導性も低く、これらの熱収縮の度合いの相違によって、熱反りが生じやすい、という課題もあった。
【0018】
このような課題に対し、本発明の樹脂組成物には、樹脂粒子と共に、厚さが50nm~500nmである平板状粒子が含まれる。当該平板状粒子は、その厚みが十分に薄いことから、平板状粒子内で温度が均一になりやすい。そして、このような平板状粒子によって、隣り合う樹脂粒子の温度を均一化することが可能となる。つまり、本発明の樹脂組成物では、各樹脂粒子の溶融状態が均一になりやすく、得られる立体造形物の寸法精度や強度が高まる。
【0019】
また同様に、本発明の樹脂組成物によれば、先に形成された造形物層と、その上に配置される樹脂組成物を含む薄層との温度も均一化されやすくなる。その結果、先に形成される造形物層と後に形成される造形物層との間で、熱収縮の度合いがばらつき難くなり、熱反り等が発生し難くなることでも寸法精度が高まる。
【0020】
また、得られる立体造形物内に、上記厚みの平板状粒子が含まれると、立体造形物の弾性率が高くなり、立体造形物の強度が高くなる。さらに、従来の一般的な球状のセラミック粒子が立体造形物に含まれる場合、立体造形物に引っ張り応力等がかかると、樹脂とセラミック粒子との弾性率の違いによって、樹脂とセラミック粒子との間に隙間や亀裂が生じやすい。そして、このような隙間や亀裂が繋がることで、立体造形物が破断しやすくなる。これに対し、平板状粒子を含む立体造形物に引張応力がかかると、平板状粒子は、その引張方向と平行に配列する性質を有する。したがって、平板状粒子を含む立体造形物では、引張応力がかかった際に、樹脂と当該平板状粒子との間に隙間や亀裂が生じ難く、立体造形物の延性が高まる、という利点もある。
【0021】
また、本発明の樹脂組成物において、樹脂粒子に含まれる熱可塑性樹脂が結晶性樹脂である場合、造形物層形成の際に溶融した熱可塑性樹脂が、平板状粒子を核剤として結晶成長しやすくなる。その結果、立体造形物に均一な結晶構造の樹脂が含まれやすくなり、立体造形物の強度や延性が均一化されやすくなる。また、いびつな結晶成長が抑制されることで、寸法精度も高まりやすくなる。
【0022】
ここで、本発明の樹脂組成物では、上記平板状粒子が、樹脂粒子の内部に含まれていてもよい。また、上記平板状粒子が、樹脂粒子の周囲に付着していてもよい。さらに、上記平板状粒子が、樹脂粒子の内部および樹脂粒子の周囲に含まれていてもよい。ただし、平板状粒子が樹脂粒子の周囲に付着していると、造形物層形成の際に、隣り合う樹脂粒子どうしの間に平板状粒子が含まれやすくなる。その結果、隣り合う樹脂粒子の温度や溶融状態がより均一化されやすくなる観点から好ましい。なお、平板状粒子が樹脂粒子の内部にも含まれている場合、得られる立体造形物の強度がより高まりやすくなる。
【0023】
なお、平板状粒子が樹脂粒子の周囲に付着している場合、樹脂粒子の表面積に対して10~80%の領域に平板状粒子が付着していることが好ましい。樹脂粒子の表面積に対して、平板状粒子が付着している領域の面積が80%以下であれば、立体造形物の作製の際に、樹脂粒子どうしが十分に溶融結合しやすくなる。一方、樹脂粒子の表面積に対して10%以上の領域が平板状粒子で覆われていると、平板状粒子による熱伝導性が高まり、隣り合う樹脂粒子の温度や溶融状態が均一になりやすくなる。なお、平板状粒子が樹脂粒子の周囲に、どの程度付着しているかは、樹脂粒子の粒子径、平板状粒子を平面視視したときの面積、熱可塑性樹脂と平板状粒子との含有比等から算出可能である。また、平板状粒子が周囲に付着している樹脂粒子について、溶剤等で樹脂を溶解させて、平板状粒子の含有量や形状を特定し、これらと樹脂粒子の形状(粒径等)とから、平板状樹脂粒子が付着している面積を算出してもよい。以下、当該樹脂組成物に含まれる平板状粒子および熱可塑性樹脂、さらにその他の成分等について詳しく説明する。
【0024】
(平板状粒子)
本発明の樹脂組成物に含まれる平板状粒子は、厚みが50~500nmであり、かつ平板状の粒子であれば特に制限されない。平板状粒子の厚みは、100~400nmであることがより好ましく、150~300nmであることがさらに好ましい。平板状粒子の厚みが50nm以上であると、得られる立体造形物の強度が高まりやすい。一方、平板状粒子の厚みが500nm以下であると、熱伝導性が良好になりやすい。
【0025】
平板状粒子を平面視したときの形状は、円形状であってもよく、楕円状であってもよく、多角形状であってもよい。これらの中でも、楕円状であることがより好ましい。また、平板状粒子を平面視したときの粒子の幅(平均最大径)は、1~10μmであることが好ましく、2~8μmであることがより好ましく、3~6μmであることがさらに好ましい。平板状粒子の幅(平均最大径)が過度に大きいと、立体造形物の寸法精度が低下したり、平板状粒子が、樹脂粒子の溶融結合を阻害しやすくなる。一方、平板状粒子の幅(平均最大径)が小さすぎると、平板状粒子によって、隣り合う樹脂粒子に十分に熱を伝えられないことがある。
【0026】
また、平板状粒子を平面視したときの平均最小径は、1~6μmであることが好ましく、2~5μmであることがより好ましい。
【0027】
なお、平板状粒子の平均厚みと平均最大径(幅)との比(幅/厚み)は、5~15であることが好ましく、10~12であることがより好ましい。一方、平板状粒子の平均厚みと平均最小径との比(最小径/厚み)は、5~13であることが好ましく、6~11であることがより好ましい。平板状粒子の厚みと、幅や平均最小径との比が上記範囲であると、平板状粒子の熱伝導性が良好になりやすい。
【0028】
平板状粒子物の厚みや最大径、幅は、例えば以下のように特定される。熱可塑性樹脂を溶解可能な溶剤等を用いて、熱可塑性樹脂を除去し、平板状粒子のみを取り出す。なお、樹脂が溶剤に溶けにくい場合には、必要に応じて加熱を行う。そして、当該平板状粒子の量が15質量%となるように、プロピレン樹脂と乾式混合する。そして、公知の小型混練機および射出成形機を用い、例えば長さ175mmのダンベル試験片を作製する。ただし、試験片の形状は、平板状粒子の断面を100以上測定可能であれば特に制限されない。そして、当該試験片を液体窒素に10分以上浸して、当該液体窒素中で凍結させながら割る。当該破断面に存在する平板状粒子について、100個の厚み、100個の最大径(幅)、および100個の平均最小径等をそれぞれ電子顕微鏡(SEM)にて観察し、ヒストグラムを作成する。そして、これらのデータから、平均値をそれぞれについて算出し、平均値を平板状粒子の厚み、幅、および平均最小径として採用する。
【0029】
平板状粒子の例には、一般に層状粘土鉱物と称される各種粒子が含まれる。平板状粒子の具体例には、カオリン;タルク;マイカ;モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、サポナイト、ノントロナイト、スチーブンサイト等のスメクタイト系鉱物;バーミキュライト;ベントナイト;カネマイト、ケニアナイト、マカナイト等の層状ケイ酸ナトリウム;Na型テトラシリシックフッ素雲母、Li型テトラシリシックフッ素雲母、Na型フッ素テニオライト、Li型フッ素テニオライト等の雲母族粘土鉱物;等が含まれる。このような平板状粒子は、天然の鉱物から得られたものであってもよく、化学的に合成されたものであってもよい。さらに、平板状粒子は、表面がアンモニウム塩等で修飾(表面処理)されたものであってもよい。
【0030】
これらの中でも、熱伝導率が0.5~5.0W・m-1・K-1である化合物が好ましい。平板状粒子が上記熱伝導率を有すると、平板状粒子によって、隣り合う樹脂粒子の温度等が均一化されやすくなる。
【0031】
また特に熱伝導性が良好であるとの観点から、マグネシウムを含むケイ酸塩化合物であることが好ましく、タルク、マイカであることが好ましい。なお、平板状粒子の成分分析は、例えばX線光電子分光分析法XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)やESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis,エスカ)により行うことができる。具体的な装置としては、VGサイエンティフィックス社製のESCALAB-200R光電子分光装置等が含まれる。
【0032】
平板状粒子は、樹脂組成物の全量100質量部に対して、5~40質量部含まれることが好ましく、10~20質量部含まれることがより好ましい。樹脂組成物中の平板状粒子の量が少なすぎると、上述の熱伝導性が十分に発揮され難くなったり、立体造形物の強度が十分に高まり難くなることがある。一方、平板状粒子の量が過剰である場合、相対的に熱可塑性樹脂の量が減少するため、熱可塑性樹脂が十分に溶融結合できず、立体造形物の強度が低下することがある。
【0033】
(熱可塑性樹脂)
樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の種類は、立体造形物の形成方法に応じて適宜選択される。当該熱可塑性樹脂としては、一般的な粉末床溶融結合方式用の樹脂組成物に含まれる樹脂や、MJF方式用の樹脂組成物に含まれる樹脂とすることができ、樹脂粒子には、熱可塑性樹脂が一種のみ含まれていてもよく、二種以上含まれていてもよい。
【0034】
ただし、熱可塑性樹脂の溶融温度が高すぎると、立体造形物の作製時に、樹脂粒子を溶融させるために高温までエネルギー照射する必要が生じ、立体造形物の作製に時間がかかったりすること等がある。そこで、熱可塑性樹脂の溶融温度は、300℃以下であることが好ましく、230℃以下であることがより好ましい。一方、得られる立体造形物の耐熱性等の観点から、熱可塑性樹脂の溶融温度は100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。溶融温度は、熱可塑性樹脂の種類等によって調整することができる。
【0035】
ここで、熱可塑性樹脂は結晶性の樹脂であってもよく、非晶性の樹脂であってもよいが、上述のように、熱可塑性樹脂が結晶性樹脂であると、平板状粒子を核剤として、均一な結晶を形成しやすくなる、という利点がある。結晶性樹脂の例には、ポリアミド12、ポリ乳酸、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリブチレンテレフタレート等が含まれる。これらの中でも、平板状粒子と結晶構造が近く、平板状粒子を核剤として均一に結晶化しやすいとの観点から、ポリアミド12またはオレフィン樹脂が好ましく、特にポリプロピレン樹脂であることが好ましい。
【0036】
ここで、熱可塑性樹脂は、樹脂組成物の全量100質量部に対して、60~95質量部含まれることが好ましく、80~90質量部含まれることがより好ましい。樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の量が少なすぎると、立体造形物の強度が低下しやすくなる。一方、樹脂組成物の量が多すぎると、相対的に平板状粒子の量が減少し、上述の熱伝導性を発揮することが難しくなる。
【0037】
また、熱可塑性樹脂を含む樹脂粒子の形状は特に制限されないが、立体造形物の寸法精度を高めるとの観点から、その形状は球状であることが好ましい。さらに、当該樹脂粒子の大きさ(直径)は、20~100μmであることが好ましく、30~70μmであることがより好ましい。樹脂粒子の大きさが100μm以下であると、微細な構造の立体造形物を作製することが可能となる。一方、樹脂粒子の大きさは、十分な流動性を有し、かつ製造コストや取り扱い性が良好になる等の観点から20μm以上であることが好ましい。上記平均粒子径は、動的光散乱法により測定した体積平均粒子径とする。体積平均粒子径は、湿式分散機を備えたレーザ回折式粒度分布測定装置(マイクロトラックベル社製、MT3300EXII)により測定することができる。
【0038】
(その他の成分)
樹脂組成物には、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、上記平板状粒子および熱可塑性樹脂以外の成分が含まれていてもよい。その他の成分の例には、各種添加剤、充填剤等が含まれる。
【0039】
各種添加剤の例には、酸化防止剤、酸性化合物及びその誘導体、滑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、核剤、難燃剤、衝撃改良剤、発泡剤、着色剤、有機過酸化物、展着剤、粘着剤等が含まれる。樹脂組成物には、これらが一種のみ含まれてもよく、二種以上含まれていてもよい。また、これらは、本発明の目的を損なわない範囲で、樹脂粒子の表面に塗布されていてもよい。
【0040】
充填材の例には、上述の平板状粒子に相当しない無機系の粒子や、各種繊維等が含まれる。その例には、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、ガラスカットファイバー、ガラスミルドファイバー、ガラスフレーク、ガラス粉末、炭化ケイ素、窒化ケイ素、石膏、石膏ウィスカー、焼成カオリン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウィスカー、金属粉、セラミックウィスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、炭素繊維等の無機充填材;多糖類のナノファイバー等の有機充填剤;各種ポリマー等が含まれる。樹脂組成物には、これらが一種のみ含まれてもよく、二種以上含まれていてもよい。ただし、これらの量は、上述の平板状粒子より少ない量であることが好ましい。
【0041】
また、粉末床溶融結合法に用いられる樹脂組成物には、レーザ吸収剤等が含まれていてもよい。レーザ吸収剤の例には、カーボン粉末、ナイロン樹脂粉末、顔料、および染料等が含まれる。これらのレーザ吸収剤は、樹脂組成物中に一種類のみ含まれていてもよく、二種類以上含まれていてもよい。
【0042】
(樹脂組成物の製造方法)
上記樹脂組成物の製造方法は特に制限されず、平板状粒子が樹脂粒子の周囲に付着している態様であるか、平板状粒子が樹脂粒子の内部に含まれている態様であるかによって適宜選択される。例えば、平板状粒子が樹脂粒子の周囲に付着している樹脂組成物は、樹脂粒子を予め作製し、当該樹脂粒子と平板状粒子とを公知の方法で混合することで作製することができる。一方、平板状粒子が樹脂粒子の内側に含まれている樹脂組成物は、平板状粒子と樹脂とを溶融混練し、これらを凍結粉砕機等により粉砕することで作製することができる。また、平板状粒子が樹脂粒子の内側および周囲に存在する樹脂組成物は、これらの方法を組み合わせることにより作製することができる。
【0043】
2.立体造形物の製造方法
上述の樹脂組成物は、前述のように、粉末床結合溶融方式、またはMJF方式による立体造形物の製造方法に用いることができる。以下、上記樹脂組成物を用いた立体造形方法について、それぞれ説明するが、本発明は、これらの方法に制限されない。
【0044】
2-1.粉末床結合溶融方式による立体造形物の製造方法
粉末床結合溶融方式による立体造形物の製造方法では、前記樹脂組成物を用いる以外は、通常の粉末床結合溶融方式と同様に行うことができる。具体的には、(1)前述の樹脂組成物を含む薄層を形成する薄層形成工程と、(2)樹脂組成物を含む薄層にレーザ光を選択的に照射して、前記粒子状の樹脂組成物どうしが溶融結合した造形物層を形成するレーザ光照射工程と、を含む方法とすることができる。そして工程(1)および工程(2)を複数回繰り返し、造形物層を積層することで、立体造形物を製造することができる。なお、当該立体造形物の製造方法は、必要に応じて、他の工程を含んでいてもよく、例えば樹脂組成物を予備加熱する工程等を含んでいてもよい。
【0045】
・薄層形成工程(工程(1))
本工程では、樹脂組成物を含む薄層を形成する。たとえば、立体造形装置の粉末供給部から供給された樹脂組成物を、リコータによって造形ステージ上に平らに敷き詰める。薄層は、造形ステージ上に直接形成してもよいし、すでに敷き詰められている粉末材料またはすでに形成されている造形物層の上に接するように形成してもよい。なお、上記樹脂組成物は、必要に応じて別途、フローエージェントやレーザ吸収剤と混合して用いてもよい。
【0046】
薄層の厚さは、所望の造形物層の厚さと同じとする。薄層の厚さは、製造しようとする立体造形物の精度に応じて任意に設定することができるが、通常、0.01mm以上0.30mm以下である。薄層の厚さを0.01mm以上とすることで、次の造形物層を形成するためのレーザ光照射によって下の層の樹脂組成物が溶融結合されることを防ぐことができ、さらには均一な粉体の敷き詰めが可能となる。また、薄層の厚さを0.30mm以下とすることで、レーザ光のエネルギーを薄層の下部まで伝導させて、薄層を構成する樹脂組成物を、厚み方向の全体にわたって十分に溶融結合させることができる。前記観点からは、薄層の厚さは0.01mm以上0.10mm以下であることがより好ましい。また、薄層の厚み方向の全体にわたってより十分に樹脂組成物を溶融結合させ、造形物層の割れをより生じ難くする観点からは、薄層の厚さは、後述するレーザ光のビームスポット径との差が0.10mm以内になるよう設定することが好ましい。
【0047】
ここで、樹脂組成物と混合可能なレーザ吸収剤の例には、カーボン粉末、ナイロン樹脂粉末、顔料、および染料等が含まれる。レーザ吸収剤の量は、上記樹脂組成物の溶融結合が容易になる範囲で適宜設定することができる。例えば、熱可塑性樹脂の全質量に対して、0質量%より多く3質量%未満とすることができる。レーザ吸収剤は、一種のみ用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
一方、樹脂組成物と混合可能なフローエージェントは、摩擦係数が小さく、自己潤滑性を有する材料であればよい。このようなフローエージェントの例には、二酸化ケイ素および窒化ホウ素が含まれる。これらのフローエージェントは、一種のみ用いてもよく、二種を組み合わせて用いてもよい。フローエージェントの量は、樹脂粒子等の流動性を向上させ、かつ樹脂粒子の溶融結合が十分に生じる範囲で適宜設定することができる。たとえば、熱可塑性樹脂の質量に対して、0質量%より多く2質量%未満とすることができる。
【0049】
・レーザ光照射工程(工程(2))
本工程では、樹脂組成物を含む薄層のうち、造形物層を形成すべき位置にレーザ光を選択的に照射し、照射された位置の樹脂組成物を溶融結合させる。溶融した樹脂組成物は、隣接する樹脂組成物(樹脂粒子)と溶融し合って溶融結合体を形成し、造形物層となる。このとき、レーザ光のエネルギーを受け取った樹脂組成物(樹脂粒子)は、すでに形成された造形物層とも溶融結合するため、隣り合う層間の接着も生じる。
【0050】
レーザ光の波長は、樹脂組成物が吸収する波長の範囲内で設定すればよい。このとき、レーザ光の波長と、樹脂組成物の吸収率が最も高くなる波長との差が小さくなるようにすることが好ましいが、一般的に熱可塑性樹脂は様々な波長域の光を吸収するため、COレーザ等の波長帯域の広いレーザ光を用いることが好ましい。たとえば、レーザ光の波長は、例えば0.8μm以上12μm以下とすることができる。
【0051】
レーザ光の出力時のパワーは、後述するレーザ光の走査速度において、前記樹脂組成物(樹脂粒子)が十分に溶融結合する範囲内で設定すればよい。具体的には、5.0W以上60W以下とすることができる。レーザ光のエネルギーを低くして、製造コストを低くし、かつ、製造装置の構成を簡易なものにする観点からは、レーザ光の出力時のパワーは30W以下であることが好ましく、20W以下であることがより好ましい。
【0052】
レーザ光の走査速度は、製造コストを高めず、かつ、装置構成を過剰に複雑にしない範囲内で設定すればよい。具体的には、1m/秒以上10m/秒以下とすることが好ましく、2m/秒以上8m/秒以下とすることがより好ましく、3m/秒以上7m/秒以下とすることがさらに好ましい。
レーザ光のビーム径は、製造しようとする立体造形物の精度に応じて適宜設定することができる。
【0053】
・工程(1)および工程(2)の繰返しについて
立体造形物の製造の際には、上述の工程(1)および工程(2)を、任意の回数繰り返す。これにより、造形物層が積層されて、所望の立体造形物が得られることとなる。
【0054】
・予備加熱工程
前述のように、粉末床結合溶融方式による立体造形物の製造方法では、樹脂組成物を予備加熱する工程を行ってもよい。樹脂組成物の予備加熱は、上記薄層形成(工程(1))後に行ってもよく、薄層形成(工程(1))前に行ってもよい。また、これらの両方で行ってもよい。
【0055】
予備加熱温度は、樹脂組成物どうしが溶融結合しないように、熱可塑性樹脂の溶融温度より低い温度とする。予備加熱温度は、熱可塑性樹脂の溶融温度に応じて適宜選択され、例えば、50℃以上300℃以下とすることができ、100℃以上230℃以下であることがより好ましく、150℃以上190℃以下であることがさらに好ましい。
【0056】
またこのとき、加熱時間は1~30秒とすることが好ましく、5~20秒とすることがより好ましい。上記温度で上記時間、予備加熱を行うことで、レーザエネルギー照射時に樹脂組成物(樹脂粒子)が溶融するまでの時間を短くすることができ、少ないレーザエネルギー量で立体造形物を製造することが可能となる。
【0057】
・その他
なお、溶融結合中の樹脂組成物の酸化等によって、立体造形物の強度が低下することを防ぐ観点からは、少なくとも工程(2)は減圧下または不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。減圧するときの圧力は10-2Pa以下であることが好ましく、10-3Pa以下であることがより好ましい。このとき、使用することができる不活性ガスの例には、窒素ガスおよび希ガスが含まれる。これらの不活性ガスのうち、入手の容易さの観点からは、窒素(N)ガス、ヘリウム(He)ガスまたはアルゴン(Ar)ガスが好ましい。製造工程を簡略化する観点からは、工程(1)および工程(2)の両方を減圧下または不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
【0058】
2-2.MJF方式による立体造形物の製造方法
本実施形態の立体造形物の製造方法は、(1)上述の樹脂組成物を含む薄層を形成する薄層形成工程と、(2)エネルギー吸収剤を含む結合用流体、および結合用流体よりエネルギー吸収の少ない剥離用流体を、薄層の互いに隣接する領域に塗布する流体塗布工程と、(3)流体塗布工程後の薄層にエネルギーを照射し、結合用流体の塗布領域の熱可塑性樹脂を溶融させて造形物層を形成するエネルギー照射工程と、を含む。なお、当該立体造形物の製造方法は、必要に応じて、他の工程を含んでいてもよく、例えば樹脂組成物を予備加熱する工程等を含んでいてもよい。
【0059】
(1)薄層形成工程
本工程では、上述の樹脂組成物を主に含む薄層を形成する。薄層の形成方法は、所望の厚みの層を形成可能であれば特に制限されない。例えば、本工程は、立体造形装置の樹脂組成物供給部から供給された樹脂組成物を、リコータによって造形ステージ上に平らに敷き詰める工程とすることができる。薄層は、造形ステージ上に直接形成してもよいし、すでに敷き詰められている粉末材料またはすでに形成されている造形物層の上に接するように形成してもよい。
【0060】
薄層の厚さは、所望の造形物層の厚さと同じとする。薄層の厚さは、製造しようとする立体造形物の精度に応じて任意に設定することができるが、通常、0.01mm以上0.30mm以下である。薄層の厚さを0.01mm以上とすることで、新たな造形物層を形成するためのエネルギー照射(後述のエネルギー照射工程におけるエネルギー照射)によって、既に作製した造形物層が溶融することを防ぐことができる。また、薄層の厚さが0.01mm以上であると、粉末材料を均一に敷き詰めやすくなる。また、薄層の厚さを0.30mm以下とすることで、後述のエネルギー照射工程において、エネルギー(例えば赤外光)を薄層の下部まで伝導させることが可能となる。これにより、所望の領域(結合用流体を塗布する領域)の熱可塑性樹脂を、厚み方向の全体にわたって溶融させることが可能となる。前記観点からは、薄層の厚さは0.01mm以上0.20mm以下であることがより好ましい。
【0061】
(2)流体塗布工程
本工程では、上記薄層形成工程で形成した薄層の互いに隣接する領域に、エネルギー吸収剤を含む結合用流体、および結合用流体よりエネルギー吸収の少ない剥離用流体をそれぞれ塗布する。具体的には、造形物層を形成すべき位置に選択的に結合用流体を塗布し、造形物層を形成しない領域に、剥離用流体を塗布する。結合用流体を塗布する領域の周囲に隣接して剥離用流体を塗布することで、剥離用流体を塗布した領域では、樹脂粒子が溶融結合し難くなる。結合用流体および剥離用流体のうち、どちらを先に塗布してもよいが、得られる立体造形物の寸法精度の観点から、結合用流体を先に塗布することが好ましい。
【0062】
結合用流体および剥離用流体の塗布方法は特に制限されず、例えばディスペンサーによる塗布や、インクジェット法による塗布、スプレー塗布等とすることができるが、高速で所望の領域に結合用流体および剥離用流体を塗布可能であるとの観点から少なくとも一方を、インクジェット法で塗布することが好ましく、両方をインクジェット法で塗布することがより好ましい。
【0063】
結合用流体および剥離用流体の塗布量は、それぞれ薄層1mm当たり、0.1~50μLであることが好ましく、0.2~40μLであることがより好ましい。結合用流体および剥離用流体の塗布量が当該範囲であると、造形物層を形成する領域、および造形物層を形成しない領域の粉末材料に、それぞれ結合用流体および剥離用流体を十分に含浸させることができ、寸法精度の良好な立体造形物を形成することができる。
【0064】
本工程で塗布する結合用流体は、従来のMJF方式に用いられる結合用流体と同様とすることができ、例えばエネルギー吸収剤と、溶媒と、を少なくとも含む組成物とすることができる。結合用流体は、必要に応じて公知の分散剤等を含んでいてもよい。
【0065】
エネルギー吸収剤は、後述するエネルギー照射工程において照射されるエネルギーを吸収し、結合用流体が塗布された領域の温度を効率的に高めることが可能なものであれば特に制限されない。エネルギー吸収剤の具体例には、カーボンブラック、ITO(スズ酸化インジウム)、ATO(アンチモン酸化スズ)等の赤外線吸収剤、シアニン色素,アルミニウムや亜鉛を中心に持つフタロシアニン色素,各種ナフタロシアニン化合物,平面四配位構造を有するニッケルジチオレン錯体,スクアリウム色素,キノン系化合物,ジインモニウム化合物,アゾ化合物等の赤外線吸収色素が含まれる。これらの中でも、汎用性や結合用流体が塗布された領域の温度を効率的に高めることができるとの観点から、赤外線吸収剤が好ましく、カーボンブラックであることがさらに好ましい。
【0066】
エネルギー吸収剤の形状は特に制限されないが、粒子状であることが好ましい。また、その平均粒子径は0.1~1.0μmであることが好ましく、0.1~0.5μmであることがより好ましい。エネルギー吸収剤の平均粒子径が過度に大きいと、結合用流体を薄層上に塗布した際、エネルギー吸収剤が樹脂粒子の隙間に入り込み難くなる。一方、エネギー吸収剤の平均粒子径が0.1μm以上であると、後述するエネルギー照射工程で、効率良く熱可塑性樹脂に熱を伝えることができ、周囲の熱可塑性樹脂を溶融させることが可能となる。
【0067】
結合用流体は、エネルギー吸収剤を0.1~10.0質量%含むことが好ましく、1.0~5.0質量%含むことがより好ましい。エネルギー吸収剤の量が0.1質量%以上であると、後述のエネルギー照射工程で、結合用流体が塗布された領域の温度を十分に高めることが可能となる。一方、エネルギー吸収剤の量が10.0質量%以下であると、結合用流体内でエネルギー吸収剤が凝集すること等が少なく、結合用流体の塗布安定性が高まりやすくなる。
【0068】
一方、溶媒は、エネルギー吸収剤を分散可能であり、さらに樹脂組成物中の熱可塑性樹脂等を溶解し難い溶媒であれば特に制限されず、例えば水とすることができる。
【0069】
結合用流体は、上記溶媒を90.0~99.9質量%含むことが好ましく、95.0~99.0質量%含むことがより好ましい。結合用流体中の溶媒量が90.0質量%以上であると、結合用流体の流動性が高くなり、例えばインクジェット法等で塗布しやすくなる。
【0070】
結合用流体の粘度は、0.5~50.0mPa・sであることが好ましく、1.0~20.0mPa・sであることがより好ましい。結合用流体の粘度が0.5mPa・s以上であると、結合用流体を薄層に塗布した際の拡散が抑制されやすくなる。一方で、結合用流体の粘度が50.0mPa・s以下であると、結合用流体の塗布安定性が高まりやすくなる。
【0071】
一方、本工程で塗布する剥離用流体は、相対的に、結合用流体よりエネルギー吸収の少ない流体であればよく、例えば水を主成分とする流体等とすることができる。
【0072】
剥離用流体は、水を90質量%以上含むことが好ましく、95質量%以上含むことがより好ましい。剥離用流体中の水の量が90質量%以上であると、例えばインクジェット法等で塗布しやすくなる。
【0073】
(3)エネルギー照射工程
本工程では、上記流体塗布工程後の薄層、すなわち結合用流体および剥離用流体が塗布された薄層に、エネルギーを一括照射する。このとき、結合用流体が塗布された領域では、エネルギー吸収剤がエネルギーを吸収し、当該領域の温度が部分的に上昇する。そして、当該領域の熱可塑性樹脂のみが溶融し、造形物層が形成される。
【0074】
本工程で照射するエネルギーの種類は、結合用流体が含むエネルギー吸収剤の種類に応じて適宜選択される。当該エネルギーの具体例には、赤外光、白色光等が含まれる。これらの中でも、結合用流体を塗布した領域では、効率よく熱可塑性樹脂を溶融させることが可能である一方で、剥離用流体を塗布した領域では、薄層の温度が上昇し難いとの観点から赤外光であることが好ましく、波長780~3000nmの光であることがより好ましく、波長800~2500nmの光であることがより好ましい。
【0075】
また、本工程でエネルギーを照射する時間は、粉末材料が含む熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜選択されるが、通常、5~60秒であることが好ましく、10~30秒であることがより好ましい。エネルギー照射時間を5秒以上とすることで、十分に熱可塑性樹脂を溶融させて、これらを結合させることが可能となる。一方で、60秒以下とすることで、効率よく立体造形物を製造することが可能となる。
【0076】
・予備加熱工程
MJF方式においても、樹脂組成物を予備加熱する工程を行ってもよい。樹脂組成物の予備加熱は、上記薄層形成(工程(1))後に行ってもよく、薄層形成(工程(1))前に行ってもよい。また、これらの両方で行ってもよい。予備加熱を行うことで、(3)エネルギー照射工程で照射するエネルギー量を少なくすることが可能となる。またさらに、短時間で効率良く造形物層を形成することが可能となる。予備加熱温度は、熱可塑性樹脂の溶融温度より低い温度であり、かつ(2)流体塗布工程で塗布する結合用流体や剥離用流体が含む溶媒の沸点より低い温度であることが好ましい。具体的には、熱可塑性樹脂の融点や、結合用流体や剥離用流体が含む溶媒の沸点より、50℃~5℃低い温度であることが好ましく、30℃~5℃低い温度であることがより好ましい。またこのとき、加熱時間は1~60秒とすることが好ましく、3~20秒とすることがより好ましい。加熱温度および加熱時間を上記範囲とすることで、(3)エネルギー照射工程におけるエネルギー照射量を低減することができる。
【実施例
【0077】
以下において、本発明の具体的な実施例を説明する。なお、これらの実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0078】
[実施例1]
熱可塑性樹脂として、ポリアミド12(PA12、ダイセル・エボニック社製、ダイアミドL1600(「ダイアミド」は同社の登録商標)を準備した。当該熱可塑性樹脂を、湿式分散機を備えたレーザー回折式粒度分布測定装置(シンパティック(SYMPATEC)社製、ヘロス(HELOS))にて測定した平均粒子径が50μmの値になるまで、機械的粉砕法で粉砕した。
次にカオリン(林化成社製、ASPR400P)を、自由粉砕機(奈良機械社製、M-2)にて、50nmの厚み、0.5μmの幅になるまで粉砕した。その後、当該平板状粒子をヘンシェルミキサー(日本コークス工業社製)にて上記樹脂粒子と混ぜ合わせ、樹脂組成物1を作製した。熱可塑性樹脂と平板状粒子との質量比は、85:15とした。
【0079】
[実施例2]
カオリン(林化成社製、ASPR400P)を自由粉砕機(奈良機械社製、M-2)にて、500nmの厚み、0.5μmの幅になるまで粉砕した以外は、実施例1と同様に樹脂組成物2を作製した。
【0080】
[実施例3]
カオリン(林化成社製、ASPR400P)をビーズミル(広島メタル&マシナリー社製、UAM015)にて粉砕し、50nmの厚み、1μmの幅になるまで粉砕した以外は、実施例1と同様に樹脂組成物3を作製した。
【0081】
[実施例4]
カオリン(林化成社製、ASPR400P)をビーズミル(広島メタル&マシナリー社製、UAM015)にて粉砕し、300nmの厚み、5μmの幅になるまで粉砕した以外は、実施例1と同様に樹脂組成物4を作製した。
【0082】
[実施例5]
カオリン(林化成社製、ASPR400P)をビーズミル(広島メタル&マシナリー社製、UAM015)にて粉砕し、500nmの厚み、10μmの幅になるまで粉砕した以外は、実施例1と同様に樹脂組成物5を作製した。
【0083】
[実施例6]
カオリン(林化成社製、ASPR400P)の代わりに平板状粒子としてマイカ(ヤマグチマイカ社製、A-11)を粉砕し、厚み300nm、幅5μmのマイカを用いた以外は、実施例1と同様に樹脂組成物6を用いた。
【0084】
[実施例7]
カオリン(林化成社製、ASPR400P)の代わりにタルク(林化成社製、ミクロンホワイト#5000)を用い、厚み300nm、幅5μmのタルクを用いた以外は、実施例1と同様に樹脂組成物7を得た。
【0085】
[実施例8]
熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン樹脂ペレット(サンアロマー社製、PM600A)を用い、当該熱可塑性樹脂を凍結粉砕機にて、平均粒径50μmになるまで粉砕した。一方、タルク(林化成社製、ミクロンホワイト#5000)を厚み300nm、幅5μmになるまで実施例1と同様に粉砕し、これらを混ぜ合わせて、樹脂組成物8を得た。熱可塑性樹脂と平板状粒子との質量比は、85:15とした。
【0086】
[実施例9]
ポリプロピレン樹脂ペレット(サンアロマー社製、PM600A)90質量部とタルク(林化成社製、ミクロンホワイト#5000(厚み3000nm、幅10μm))10質量部とを、混練機(Xplore社製、MC15)にて混練し、タルク含有ポリプロピレン樹脂ペレットを作製した。そして、ポリプロピレン樹脂ペレットを凍結粉砕機にて、平均粒径50μmになるまで粉砕した。一方、タルク(林化成社製、ミクロンホワイト#5000)を厚み300nm、幅5μmになるまで実施例1と同様に粉砕し、これらを混ぜ合わせて、樹脂組成物9を得た。熱可塑性樹脂と平板状粒子との質量比は、85:15とした。
【0087】
[比較例1]
カオリン(林化成社製、ASPR400P)を自由粉砕機(奈良機械社製、M-2)にて、10nmの厚み、0.5μmの幅になるまで粉砕した以外は、実施例1と同様に樹脂組成物10を作製した。
【0088】
[比較例2]
カオリン(林化成社製、ASPR400P)を自由粉砕機(奈良機械社製、M-2)にて、550nmの厚み、0.5μmの幅になるまで粉砕した以外は、実施例1と同様に樹脂組成物11を作製した。
【0089】
[評価]
上述の樹脂組成物1~11について、以下の粉末床溶融結合法で立体造形物を作製し、弾性向上率、破断伸び、および反りについて評価した。
(1)立体造形物の作製
作製した樹脂組成物をホットプレート上に設置した造形ステージ上に敷き詰めて厚さ0.1mmの薄層を形成し、ホットプレートの温度を調整することで、予備加熱温度150℃にそれぞれ加熱した。この薄層に、以下の条件で、YAG波長用ガルバノメータスキャナを搭載したCOレーザから縦15mm×横20mmの範囲にレーザ光を照射して、造形物層を作製した。上記工程を高さ55mmになるまで繰り返し、積層された立体造形物をそれぞれ製造した。
[レーザ光の出射条件]
レーザ出力 :12W
レーザ光の波長 :10.6μm
ビーム径 :薄層表面で170μm
[レーザ光の走査条件]
走査速度 :2000mm/sec
ライン数 :1ライン
【0090】
(2)弾性率および破断伸びの測定
得られた立体造形物を引張試験機(エーアンドディー社製、テンシロンRTC-1250)に設置して、1mm/分の速度で縦方向(造形物層の積層方向に垂直)に引っ張り、弾性率を測定した。さらに、同装置で、50mm/分の速度で縦方向(造形物層の積層方向に垂直)に引っ張り、破断伸びを測定した。そして、弾性率および破断伸びについて、それぞれ以下の基準で評価した。なお、ブランクとは、各平板状粒子を含まない以外は、実施例または各比較例と同一の樹脂粒子を用いて作製した立体造形物である。
【0091】
(弾性率)
◎:弾性率がブランクの弾性率に比べ30%以上向上した。
○:弾性率がブランクの弾性率に比べ10%以上向上した。
×:弾性率はブランクの弾性率に対して向上しなかった。
【0092】
(破断伸び)
◎:破断伸びが50%以上であった
○:破断伸びが10%以上50%未満であった
×:破断伸びが10%未満であった
【0093】
(3)造形特性の評価(熱反り)
得られた立体造形物について、デジタルノギス(株式会社ミツトヨ製、スーパキャリパCD67-S PS/PM、「スーパキャリパ」は同社の登録商標)で縦方向および横方向の寸法を測定した。製造しようとした寸法(縦15mm×横20mm×高さ55mm)と測定された縦横の寸法との差を平均して、以下の基準で、立体造形物の寸法精度(熱反りの有無)を評価した。
◎:寸法差の平均が0.1mm未満であった
○:寸法差の平均が0.1mm以上0.5mm未満であった
×:寸法差の平均が0.5mm以上であった
【0094】
【表1】
【0095】
表1に示されるように、樹脂粒子の周囲に、平板状粒子が付着していたとしても、その厚みが薄い場合には、得られる立体造形物の弾性率を向上させることができなかった(比較例1)。平板状粒子があまりにも薄いと、その添加効果が十分に発揮されないと考えられる。一方で、平板状粒子の厚みが厚く、球状に近づくと、破断伸びが低くなったり、熱反りが生じやすかった(比較例2)。
【0096】
これに対し、厚みが50nm以上500nm以下である平板状粒子を樹脂粒子の外側に含む樹脂組成物によれば、弾性率、破断伸び、および反りのいずれの評価も良好であった(実施例1~9)。上記厚みの平板状粒子が含まれることで、得られる立体造形物の強度が高まったと考えられる。また、粒子が平板状であるため、立体造形物に引張強度がかかったときに、立体造形物内で、樹脂の伸び方向に平板状粒子が配列しやすく、樹脂と平板状粒子との間に隙間が生じ難かったと推察される。さらに、樹脂粒子の周囲に平板状粒子が付着していることから、立体造形物の製造の際、樹脂粒子どうしの熱伝導性や、樹脂粒子と(既に形成された)造形物層との間における熱伝導性が良好になり、熱反りが生じ難くなったと推察される。
【0097】
さらに、その結晶構造が似ているポリプロピレンおよびタルク(平板状粒子)を用いた実施例8および9では、破断伸びが良好であり、さらには熱反りが生じ難かった。当該樹脂組成物では、立体造形物の製造の際、樹脂粒子が溶融すると、平板状粒子が核剤となって、再結晶化する。その結果、立体造形物内に、均一な構造の結晶が多数含まれることとなり、均一に熱が伝わったり、均一に荷重が加わったりしやすく、これらの結果が良好になったと推察される。
【0098】
本出願は、2017年11月6日出願の特願2017-213710号に基づく優先権を主張する。当該出願明細書に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明に係る樹脂組成物によれば、粉末床溶融結合法、およびMJF法のいずれの方法によっても、精度よく立体造形物を形成することが可能である。そのため、本発明は、立体造形法のさらなる普及に寄与するものと思われる。