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特許7099489負極材料、電池、負極材料の製造方法、及び電池の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】負極材料、電池、負極材料の製造方法、及び電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20220705BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220705BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20220705BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20220705BHJP
   H01M 10/052 20100101ALN20220705BHJP
   H01M 10/058 20100101ALN20220705BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/36 A
H01M4/36 C
H01M4/36 E
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M10/052
H01M10/058
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020071106
(22)【出願日】2020-04-10
(65)【公開番号】P2021168257
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2021-11-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】力田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】中田 嘉信
(72)【発明者】
【氏名】唐 捷
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-075324(JP,A)
【文献】特開2018-142402(JP,A)
【文献】特開2014-143032(JP,A)
【文献】特開2010-073651(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/587
H01M 4/36
H01M 4/38
H01M 4/48
H01M 10/052
H01M 10/058
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の負極材料であって、
カーボンと、前記カーボンの表面に設けられる三酸化タングステンと、前記カーボンの表面に設けられるシリコンとを含み、
前記カーボンと前記三酸化タングステンと前記シリコンとが複合化しており、
前記シリコンと前記三酸化タングステンと前記カーボンとの合計含有量を100重量%とした場合に、前記シリコンの含有量が1重量%以上10重量%以下であり、前記三酸化タングステンの含有量が1重量%以上10重量%以下である、
負極材料。
【請求項2】
前記カーボンの粒径は、前記シリコン及び前記三酸化タングステンの粒径より大きい、請求項1に記載の負極材料。
【請求項3】
前記カーボンと前記三酸化タングステンとが複合化し、前記カーボンと前記シリコンとが複合化している、請求項1又は請求項2に記載の負極材料。
【請求項4】
前記カーボンは、アモルファスカーボン又はグラファイトである、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の負極材料。
【請求項5】
六方晶の結晶構造の前記三酸化タングステンを含む、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の負極材料。
【請求項6】
六方晶及び斜方晶の結晶構造の前記三酸化タングステンを含む、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の負極材料。
【請求項7】
前記カーボンと前記三酸化タングステンと前記シリコンとの合計含有量を100重量%とした場合に、前記三酸化タングステンの含有量に対する前記シリコンの含有量の比率は0.2以上2.5以下である、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の負極材料。
【請求項8】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の負極材料と、正極材料とを含む、電池。
【請求項9】
電池の負極材料の製造方法であって、
溶解用溶液に三酸化タングステンを添加して、前記三酸化タングステンを溶解させるステップと、
前記三酸化タングステンが溶解した前記溶解用溶液に、シリコンを溶解させるステップと、
前記三酸化タングステン及び前記シリコンが溶解した前記溶解用溶液の液体成分を除去して一次中間物を生成するステップと、
液体に前記一次中間物及びカーボンを溶解させるステップと、
前記一次中間物及びカーボンが溶解した前記液体の液体成分を除去することで、負極材料を生成するステップと、
を含み、
前記負極材料は、
前記カーボンと前記三酸化タングステンと前記シリコンとが複合化しており、
前記シリコンと前記三酸化タングステンと前記カーボンとの合計含有量を100重量%とした場合に、前記シリコンの含有量が1重量%以上10重量%以下であり、前記三酸化タングステンの含有量が1重量%以上10重量%以下である、
負極材料の製造方法。
【請求項10】
電池の負極材料の製造方法であって、
溶解用溶液に三酸化タングステンを添加して、前記三酸化タングステンを溶解させるステップと、
前記三酸化タングステンが溶解した前記溶解用溶液に、シリコン及びカーボンを溶解させるステップと、
前記三酸化タングステン、前記シリコン及び前記カーボンが溶解した前記溶解用溶液の液体成分を除去することで、負極材料を生成するステップと、
を含み、
前記負極材料は、
前記カーボンと前記三酸化タングステンと前記シリコンとが複合化しており、
前記シリコンと前記三酸化タングステンと前記カーボンとの合計含有量を100重量%とした場合に、前記シリコンの含有量が1重量%以上10重量%以下であり、前記三酸化タングステンの含有量が1重量%以上10重量%以下である、
負極材料の製造方法。
【請求項11】
前記溶解用溶液として、アルカリ性の溶液を用いる、請求項または請求項10に記載の負極材料の製造方法。
【請求項12】
請求項から請求項11のいずれか1項に記載の負極材料の製造方法と、正極材料を製造するステップと、を含む、電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極材料、電池、負極材料の製造方法、及び電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の負極材料としては、炭素が用いられる場合がある。例えば特許文献1には、黒鉛の表面に三酸化タングステンを配置した負極が記載されている。黒鉛の表面に三酸化タングステンを配置することで、リチウムイオンの拡散性を向上させることが可能となり、容量などの電池の特性を向上できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-45904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような負極材料においては、性能向上に改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、性能を向上した負極材料、電池、負極材料の製造方法、及び電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る負極材料は、電池の負極材料であって、カーボンと、前記カーボンの表面に設けられる三酸化タングステンと、前記カーボンの表面に設けられるシリコンとを含む。
【0007】
前記カーボンと前記三酸化タングステンと前記シリコンとが複合化していることが好ましい。
【0008】
前記カーボンと前記三酸化タングステンとが複合化し、前記カーボンと前記シリコンとが複合化していることが好ましい。
【0009】
前記カーボンは、アモルファスカーボン又はグラファイトであることが好ましい。
【0010】
六方晶の結晶構造の前記三酸化タングステンを含むことが好ましい。
【0011】
六方晶及び斜方晶の結晶構造の前記三酸化タングステンを含むことが好ましい。
【0012】
前記カーボンの添加量と前記三酸化タングステンの添加量と前記シリコンの添加量との合計量に対する、前記シリコンの添加量の比率を、1重量%以上10重量%以下、とすることが好ましい。
【0013】
前記カーボンと前記三酸化タングステンと前記シリコンとの合計含有量を100重量%とした場合に、前記シリコンの含有量は1重量%以上10重量%以下であることが好ましい。
【0014】
前記カーボンと前記三酸化タングステンと前記シリコンとの合計含有量を100重量%とした場合に、前記三酸化タングステンの含有量に対する前記シリコンの含有量の比率は0.2以上2.5以下であることが好ましい。
【0015】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る電池は、前記負極材料と、正極材料とを含む。
【0016】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る負極材料の製造方法は、溶解用溶液に三酸化タングステンを添加して、前記三酸化タングステンを溶解させるステップと、前記三酸化タングステンが溶解した前記溶解用溶液に、シリコンを溶解させるステップと、前記三酸化タングステン及び前記シリコンが溶解した前記溶解用溶液の液体成分を除去して一次中間物を生成するステップと、液体に前記一次中間物及びカーボンを溶解させるステップと、前記一次中間物及びカーボンが溶解した前記液体の液体成分を除去することで、負極材料を生成するステップと、を含む。
【0017】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る負極材料の製造方法は、溶解用溶液に三酸化タングステンを添加して、前記三酸化タングステンを溶解させるステップと、前記三酸化タングステンが溶解した前記溶解用溶液に、シリコン及びカーボンを溶解させるステップと、前記三酸化タングステン、前記シリコン及び前記カーボンが溶解した前記溶解用溶液の液体成分を除去することで、負極材料を生成するステップと、を含む。
【0018】
前記カーボンの添加量と前記三酸化タングステンの添加量と前記シリコンの添加量との合計量に対する、前記シリコンの添加量の比率を、1重量%以上10重量%以下、とすることが好ましい。
【0019】
前記溶解用溶液として、アルカリ性の溶液を用いることが好ましい。
【0020】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る電池の製造方法は、前記負極材料の製造方法と、正極材料を製造するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、負極材料の性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本実施形態に係る電池の模式的な一部断面図である。
図2図2は、本実施形態に係る負極の一例の模式的な断面図である。
図3図3は、本実施形態に係る負極の他の例の模式的な断面図である。
図4図4は、本実施形態の電池の製造方法の一例を説明するフローチャートである。
図5図5は、本実施形態の電池の製造方法の他の例を説明するフローチャートである。
図6図6は、実施例における負極材料を撮像した図である。
図7図7は、実施例における負極材料を撮像した図である。
図8図8は、実施例における負極材料を撮像した図である。
図9図9は、実施例における負極材料を撮像した図である。
図10図10は、実施例における一次中間材料を撮像した図である。
図11図11は、実施例の負極材料のXRD解析結果を示す図である。
図12図12は、実施例における負極材料を撮像した図である。
図13図13は、実施例における負極材料を撮像した図である。
図14図14は、実施例の負極材料のXRD解析結果を示す図である。
図15図15は、比較例における負極材料を撮像した図である。
図16図16は、比較例における負極材料を撮像した図である。
図17図17は、比較例における負極材料を撮像した図である。
図18図18は、比較例における負極材料を撮像した図である。
図19図19は、実施例の負極材料を使用した負極における電圧と電流の関係を示す図である。
図20図20は、実施例の負極材料を使用した負極における電圧と電流の関係を示す図である。
図21図21は、実施例の負極材料を用いた負極の容量の測定結果を示す図である。
図22図22は、実施例の負極材料を用いた負極の容量の測定結果を示す図である。
図23図23は、実施例の負極材料を用いた負極の容量の測定結果を示す図である。
図24図24は、比較例の負極材料を用いた負極の容量の測定結果を示す図である。
図25図25は、比較例の負極材料を用いた負極の容量の測定結果を示す図である。
図26図26は、比較例の負極材料を用いた負極の容量の測定結果を示す図である。
図27図27は、実施例の負極材料を用いた負極の容量の測定結果を示す図である。
図28図28は、比較例の負極材料を用いた負極の容量の測定結果を示す図である。
図29図29は、比較例の負極材料を用いた負極の容量の測定結果を示す図である。
図30図30は、比較例の負極材料を用いた負極の容量の測定結果を示す図である。
図31図31は、実施例の負極材料を用いた負極を有する電池(ハーフセル)の充放電特性を示す図である。
図32図32は、実施例の負極材料を用いた負極を有する電池(ハーフセル)の充放電特性を示す図である。
図33図33は、比較例の負極材料を用いた負極を有する電池(ハーフセル)の充放電特性を示す図である。
図34図34は、比較例の負極材料を用いた負極を有する電池(ハーフセル)の充放電特性を示す図である。
図35図35は、実施例の負極材料を用いた負極を有する電池(ハーフセル)の充放電特性を示す図である。
図36図36は、実施例の負極材料を用いた負極を有する電池(ハーフセル)の充放電特性を示す図である。
図37図37は、比較例の負極材料を用いた負極を有する電池(ハーフセル)の充放電特性を示す図である。
図38図38は、比較例の負極材料を用いた負極を有する電池(ハーフセル)の充放電特性を示す図である。
図39図39は、比較例の負極材料を用いた負極を有する電池(ハーフセル)の充放電特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0024】
(電池)
図1は、本実施形態に係る電池の模式的な一部断面図である。本実施形態に係る電池1は、リチウムイオン二次電池である。電池1は、ケージング10と、電極群12と、図示しない電解液と、を備える。ケージング10は、内部に電極群12及び電解液を収納するケースである。ケージング10内には、電極群12以外にも、電極群12に接続される配線や端子などを備えていてよい。
【0025】
電極群12は、負極14と、正極16と、セパレータ18とを備える。電極群12は、負極14と正極16との間に、セパレータ18が配置される構成となっている。図1の例では、電極群12は、矩形状のセパレータ18を間に挟んで、矩形状の負極14と矩形状の正極16とが交互に積層された、いわゆる積層型の電極群構造である。ただし、電極群12は、積層型の電極群構造に限られない。例えば、電極群12は、帯状のセパレータ18を間に挟んで、帯状の負極14と帯状の正極16とが積層されて、これらが巻回される、巻回型の電極群構造であってもよい。
【0026】
(負極)
図2は、本実施形態に係る負極の一例の模式的な断面図である。図2に示すように、負極14は、集電層20と、負極材料層22と、を備える。集電層20は、導電性部材で構成される層である。集電層20の導電性部材としては、例えば銅が挙げられる。負極材料層22は、本実施形態に係る負極材料を含む層である。負極材料層22は、集電層20の表面に設けられる。集電層20の厚みは、例えば、15μm以上40μm以下程度であってよく、負極材料層22の厚みは、例えば20μm以上200μm以下程度であってよい。
【0027】
負極材料層22は、負極材料を含む。負極材料は、カーボンと、カーボンの表面に設けられる三酸化タングステンと、カーボンの表面に設けられるシリコンとを含む。より具体的には、負極材料層22の負極材料は、カーボンの粒子であるカーボン粒子30と、三酸化タングステンの粒子であるWO(三酸化タングステン)粒子32と、シリコンの粒子であるシリコン粒子33と、を含む。なお、ここでの粒子とは、形状が球状などに限定されるものではなく、線状やシート形状など、任意の形状であってよい。
【0028】
カーボンの表面に設けられる三酸化タングステンとは、カーボンに三酸化タングステンが直接固着することと、カーボンに固着されたシリコンを介して三酸化タングステンが間接的にカーボンに固着することとのうち少なくとも一方を含む。なお、本実施形態における負極材料は、少なくともカーボンと、三酸化タングステンが固着したシリコンとを含むことが好ましい。
【0029】
負極材料層22の負極材料は、複数のカーボン粒子30を含む。カーボン粒子30は、アモルファスカーボン又はグラファイトを含む。
【0030】
アモルファスカーボンとは、結晶構造を有さない非晶質なカーボンである。アモルファスカーボンは、無定形炭素やダイヤモンドライクカーボンと呼ばれることもあり、sp2結合とsp3結合とが混在した炭素であるともいえる。アモルファスカーボンのカーボン粒子は、粒子全体がアモルファスカーボンで構成されており、不可避的不純物を除き、アモルファスカーボン以外の成分を含有しないことが好ましい。具体的には、アモルファスカーボンのカーボン粒子には、黒鉛が含まれていないことが好ましい。
【0031】
グラファイトとは、平面的な結晶構造を有するカーボンである。
【0032】
カーボン粒子30は、平均粒径が、1μm以上50μm以下であることが好ましく、1μm以上20μm以下であることがさらに好ましい。平均粒径がこの範囲にあることで、電極膜の強度を保つことができる。
【0033】
負極材料層22の負極材料は、さらに複数のWO粒子32及びシリコン粒子33を含む。より詳しくは、それぞれのカーボン粒子30に対し、複数のWO粒子32及びシリコン粒子33が設けられている。複数のWO粒子32のうち一方のWO粒子32は、カーボン粒子30の表面に設けられている。また、複数のWO粒子32のうち他方のWO粒子32は、シリコン粒子33の表面に設けられている。より詳しくは、シリコン粒子33は、カーボン粒子30の表面に密着(接触)しており、シリコン粒子33の表面にWO粒子32が密着(接触)している。カーボン粒子30とWO粒子32とシリコン粒子33とは、複合化されていてもよい。または、カーボン粒子30とシリコン粒子33とが複合化され、カーボン粒子30とWO粒子32とが複合化されていてもよい。したがって、負極材料層22の負極材料は、カーボン粒子30とWO粒子32とシリコン粒子33とが複合化された構成であるが、更にカーボン粒子30とシリコン粒子33とが複合化された構成及びカーボン粒子30とWO粒子32とが複合化された構成の少なくともどちらかを含んでもよい。
【0034】
ここでの複合化とは、少なくとも外力が作用しない場合においては、シリコン粒子33をカーボン粒子30から引き離すこと、シリコン粒子33をWO粒子32から引き離すこと、及びWO粒子32をカーボン粒子30から引き離すことが不可能になっている状態を指す。例えば、外力とは、負極材料を使用した電池を作動させた際に、SEI(Solid Electrolyte Interphase)被膜が表層全体を覆って形成され膨張収縮される際の力をいう。
【0035】
例えば、複合化は、カーボン粒子30の表面にシリコン粒子33が配置されてシリコン粒子33の表面にWO粒子32が配置された複合体を形成すること、カーボン粒子30の表面にWO粒子32が配置されてWO粒子32の表面にシリコン粒子33が配置された複合体を形成すること、カーボン粒子30の表面にシリコン粒子33が配置された複合体を形成すること、カーボン粒子30の表面にWO粒子32が配置された複合体を形成すること、及びシリコン粒子33の表面にWO粒子32が配置された複合体を形成することの少なくともどちらかを含む。
【0036】
WO粒子32は、六方晶の結晶構造のものを含む。すなわち、負極材料は、六方晶の結晶構造の三酸化タングステンを含み、六方晶の三酸化タングステンの含有量が最大であれば、斜方晶(直方晶)及びタングステンシリサイドを含んでいてもよい。また、六方晶の三酸化タングステンのみでも良い。ただし、負極材料は、正方晶は含まれない。また、負極材料は、非晶質の三酸化タングステンを含んでいてもよい。
【0037】
WO粒子32の平均粒径は、カーボン粒子30の平均粒径より小さい。WO粒子32の平均粒径は、100nm以上20μm以下であることが好ましく、100nm以上1μm以下であることがさらに好ましい。
【0038】
このように、負極材料は、カーボン粒子30の表面に、粒子状の三酸化タングステン(WO粒子32)及びシリコン(シリコン粒子33)が設けられた構造となっているが、それに限られない。負極材料は、カーボンの表面に三酸化タングステン及びシリコンが設けられる構造であればよく、カーボンの表面に設けられる三酸化タングステン及びシリコンの形状は、任意であってよい。本実施形態では、タングステン化合物やタングステン酸化物として三酸化タングステンを用いた。また、本実施形態では、シリコンを用いたが、シリコン化合物やシリコン酸化物を用いてもよい。
【0039】
なお、負極材料層22は、負極材料(カーボン粒子30、WO粒子32及びシリコン粒子33)以外の物質を含んでよい。負極材料層22は、例えば、バインダを含んでよい。バインダの材料は任意であってよいが、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)等が挙げられる。バインダは1種類のみで使用されてもよいし、2種以上が組み合わされて使用されてもよい。ただし、カーボン粒子30がアモルファスカーボンの場合、負極材料層22は、言い換えれば負極材料は、黒鉛を含まないことが好ましい。
【0040】
カーボン、三酸化タングステン及びシリコンの同定は、X線回折法によって行うことができる。例えば、分析対象物のX線回折分析結果におけるピーク波形が、カーボンのピーク波形を示すが、既知のグラファイト構造における(002)ピーク波形がブロードになる場合に、アモルファスカーボンであると判断できる。また例えば、分析対象物のX線回折分析結果におけるピークを示す位置(角度)が、既知の三酸化タングステンにおけるピークを示す位置に一致する場合には、その分析対象物が、三酸化タングステンを含むと判断できる。さらに例えば、分析対象物のX線回折分析結果におけるピークを示す位置(角度)が、既知のシリコンにおけるピークを示す位置に一致する場合には、その分析対象物が、シリコンを含むと判断できる。
【0041】
また、WO粒子32及びシリコン粒子33がカーボン粒子30の表面に配置されていることは、SEM(Scanning Electron Microscope)や、TEM(Transmission Electron Microscope)などの電子顕微鏡で観察することで、確認することができる。
【0042】
さらに、本実施形態における負極材料のカーボン、三酸化タングステン及びシリコンの元素比率は、発光分析法によって測定することができる。
【0043】
【表1】
【0044】
表1は、一例として、後述する実施例1、の負極材料の発光分析法などによる元素比率の測定結果を示す。具体的には、実施例1の負極材料について、シリコン、タングステンと酸素の化学成分を測定し、残量はカーボンとした。シリコン及びタングステンはCP-OES法(Inductivity Coupled Plasma Optical Emission Spectrometer、誘導結合プラズマ発光分光法)(メーカ名「Agilent」、装置製品名「720-ES」)によって測定し、酸素は不活性ガス融解-赤外線吸収法(メーカ名「LECO」、装置製品名「ONH836」)によって測定した。生成物である負極材料においてシリコン、三酸化タングステンと炭素の3元素の合計を100重量%とした場合に、シリコンの含有量は、1重量%以上10重量%以下であることが好ましく、1重量%以上8重量%又は2重量%以上8重量%以下であることがより好ましく、1.5重量%以上7重量%以下又は1.8重量%以上7重量%以下であることがさらに好ましい。生成物である負極材料においてシリコン、三酸化タングステンと炭素の3元素の合計を100重量%とした場合に、三酸化タングステンの含有量は、1重量%以上10重量%以下であることが好ましく、2重量%以上8重量%以下であることがより好ましく、3重量%以上5重量%以下であることがさらに好ましい。
【0045】
また、表1の測定結果から、実施例1の負極材料において、三酸化タングステンの含有量(重量%)に対するシリコンの含有量(重量%)の比率は、それぞれ次のようであった。サンプル(2wt% Si)の比率は0.45であり、サンプル(5wt% Si)の比率は1.10であり、そしてサンプル(8wt% Si)の比率は1.66であった。生成物である負極材料においてシリコン、三酸化タングステンと炭素の3元素の合計を100重量%とした場合に、三酸化タングステンの含有量(重量%)に対するシリコンの含有量(重量%)の比率は、0.2以上2.5以下であることが好ましく、0.2以上2.0以下又は0.5以上2.0以下であることがより好ましく、0.3以上1.8以下又は0.4以上1.7以下であることがさらに好ましい。
【0046】
(負極の変形例)
図3は、本実施形態に係る負極の他の例の模式的な断面図である。負極材料層22の負極材料は、シリコン粒子33が、カーボン粒子30の表面に密着(接触)し、WO粒子32が、カーボン粒子30の表面に密着(接触)していてもよい。この場合は、カーボン粒子30とシリコン粒子33とが複合化され、カーボン粒子30とWO粒子32とが複合化されていてもよい。
【0047】
WO粒子32は、六方晶の結晶構造のものと、斜方晶の結晶構造のものとを含む。すなわち、負極材料は、六方晶の結晶構造の三酸化タングステンと、斜方晶の結晶構造の三酸化タングステンとの少なくともどちらかを含む。ただし、負極材料に含まれる三酸化タングステンの結晶構造はこれに限られず、例えば、他の結晶構造の三酸化タングステンを含んでもよい。
【0048】
このように、負極材料は、カーボン粒子30の表面に、粒子状の三酸化タングステン(WO粒子32)及びシリコン粒子33が設けられた構造となっているが、それに限られない。負極材料は、カーボンの表面に三酸化タングステン及びシリコンが設けられる構造であればよく、カーボンの表面に設けられる三酸化タングステン及びシリコンの形状は、任意であってよい。
【0049】
(正極)
正極16は、集電層と正極材料層とを備える。正極16の集電層は、導電性部材で構成される層であり、ここでの導電性部材としては、例えばアルミニウムが挙げられる。正極材料層は、正極材料の層であり、正極16の集電層の表面に設けられる。正極の集電層の厚みは、例えば、10μm以上30μm以下程度であってよく、正極材料層の厚みは、例えば10μm以上100μm以下程度であってよい。
【0050】
正極材料層は、正極材料を含む。正極材料は、リチウムを含有する化合物であるリチウム化合物の粒子を含む。リチウム化合物としては、リチウム含有金属酸化物やリチウム含有リン酸塩などであってよい。より詳しくは、リチウム化合物は、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、LiNiCoMn(ただし、0<a<1、0<b<1、0<c<1、a+b+c=1である)、LiFePO等が挙げられる。リチウム化合物は、1種類の材料のみを含んでもよいし、2種類以上の材料を含んでもよい。また、正極材料層は、正極材料以外の物質を含んでよく、例えば、バインダを含んでよい。バインダの材料は任意であってよいが、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、PAA等が挙げられる。バインダは1種類のみで使用されてもよいし、2種以上が組み合わされて使用されてもよい。
【0051】
(セパレータ)
セパレータ18は、絶縁性の部材である。本実施形態では、セパレータ18は、例えば、樹脂製の多孔質膜であり、樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などが挙げられる。また、セパレータ18は、異なる材料の膜が積層された構造であってもよい。また、セパレータ18は、セパレータ13は、耐熱層を有していてもよい。耐熱層は、高融点の物質を含有する層である。耐熱層は、たとえば、アルミナ等の無機材料の粒子を含有してもよい。
【0052】
(電解液)
電池1に設けられる電解液は、非水電解液である。電解液は、電極群12内の空隙に含浸されている。電解液は、例えば、リチウム塩および非プロトン性溶媒を含む。リチウム塩は、非プロトン性溶媒に分散、溶解している。リチウム塩としては、たとえば、LiPF、LiBF、Li[N(FSO]、Li[N(CFSO]、Li[B(C]、LiPOなどが挙げられる。非プロトン性溶媒は、例えば、環状炭酸エステルおよび鎖状炭酸エステルの混合物であってよい。環状炭酸エステルとしては、たとえば、EC、PC、ブチレンカーボネート等が挙げられる。鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等が挙げられる。
【0053】
(電池の製造方法)
次に、本実施形態に係る電池1の製造方法の一例を説明する。図4は、本実施形態の電池の製造方法の一例を説明するフローチャートである。図4に示すように、本製造方法においては、ステップS10からステップS28の工程で、負極14を形成する。
【0054】
具体的には、溶解用溶液にWO原料を添加して、WO原料を溶解用溶液に溶解させる(ステップS10;溶解ステップ)。WO原料は、負極材料の原料として用いられる三酸化タングステンである。溶解用溶液は、WO原料、すなわち三酸化タングステンが溶解可能な溶液である。溶解用溶液は、例えばアルカリ性の溶液が用いられ、本実施形態ではアンモニア水溶液が用いられる。溶解用溶液は、溶解用溶液全体に対するアンモニアの濃度が、重量%で、5%以上30%以下であることが好ましい。
【0055】
本実施形態において、溶解とは、すべてが溶けている状態に限定されず、一部が残っている状態も含む。また、溶解は、混合して溶解することを含む。
【0056】
WO原料は、例えば、CaWOを塩酸と反応後、アンモニアで溶解し、結晶化させたパラタングステン酸アンモニウム焼成することで製造されるが、任意の方法で製造されてよい。
【0057】
ステップS10では、溶解用溶液に含有されるアンモニア量に対するWO原料の添加量の比率を、モル%で、1%以上10%以下とすることが好ましい。WO原料の添加量の比率を1%以上とすることで、溶解用溶液内での三酸化タングステンの量を十分にすることができ、WO原料の添加量の比率を10%以下とすることで、三酸化タングステンが溶解せずに残る量を抑制できる。また、ステップS10では、溶解用溶液にWO原料を添加して、所定時間撹拌することで、溶解用溶液にWO原料を溶解させる。ここでの所定時間は、6時間以上24時間以下であることが好ましい。所定時間を6時間以上とすることでWO原料を溶解用溶液に適切に溶解させ、所定時間を24時間以下とすることで、製造時間が長くなり過ぎることを抑制できる。なお、ステップS10の工程は、後述のステップS12へ進む前に、WO原料が溶解した溶解用溶液を事前に準備して用意しておく準備工程としてもよい。
【0058】
次に、WO原料が溶解した溶解用溶液(ここではタングステン酸アンモニウム溶液)に、シリコン原料を添加して溶解する(ステップS12;添加ステップ)。シリコン原料は、原料として用いられるシリコンである。
【0059】
ステップS12では、WO原料が溶解した溶解用溶液を撹拌して、溶解用溶液にシリコン原料を分散させる。また、ステップS12では、シリコン原料とWOとの親和性を向上させるために、シリコン原料とWOとが分散した溶解用溶液に界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を用いてよい。界面活性剤の添加量は、溶解用溶液に対するWO原料の添加量に対して、重量%で、2%以上8%以下とすることが好ましい。この数値範囲とすることで、シリコン原料とWOとの親和性を適切に向上させる。
【0060】
次に、溶解用溶液の液体成分を除去することで、一次中間材料を生成する(一次中間材料生成ステップ)。本実施形態では、一次中間材料ステップとして、ステップS14、S16を実行する。具体的には、溶解用溶液を乾燥させて、一次中間物を生成する(ステップS14;乾燥ステップ)。ステップS14においては、大気中で溶解用溶液を80℃で12時間乾燥させることで、溶解用溶液に含まれる液体成分を除去、すなわち蒸発させる。一次中間物は、溶解用溶液の液体成分が除去されて残った固形成分を含むものであるといえる。
【0061】
次に、乾燥させた一次中間物を加熱処理することで、一次中間材料を生成する(ステップS16;加熱ステップ)。一次中間物を加熱することで、シリコン粒子33の表面にWO粒子32が設けられた一次中間材料が形成される。一次中間物を加熱する温度は、500℃以上900℃以下であることが好ましい。一次中間物を加熱する温度をこの範囲とすることで、一次中間材料を適切に形成できる。また、一次中間物を加熱する時間は、1時間以上10時間以下であることが好ましい。一次中間物の加熱時間をこの範囲とすることで、一次中間材料を適切に形成できる。なお、ステップS12からS16の工程は、後述のステップS18へ進む前に、上述の一次中間材料(又は一次中間物)を事前に準備して用意しておく準備工程としてもよい。
【0062】
次に、液体(ここでは水)に、一次中間材料及びカーボン原料(ここではハードカーボン)を混合して分散する(ステップS18;添加ステップ)。カーボン原料は、原料として用いられるハードカーボンである。
【0063】
カーボン原料は、例えば、オイルファーネス法で製造されてよい。オイルファーネス法では、例えば高温雰囲気中に原料油を噴霧して熱分解させた後、急冷することで、粒子状のカーボン原料を製造する。ただし、カーボン原料の製造方法はこれに限られず任意であってよい。
【0064】
ここで、溶解用溶液へWO原料とシリコン原料とカーボン原料とを添加する際の、WO原料の添加量とシリコン原料の添加量とカーボン原料の添加量との合計量に対する、シリコン原料との添加量の比率を、シリコン原料添加割合とし、WO原料の添加量の比率を、WO原料添加割合とする。本製造方法では、シリコン原料添加割合を、1重量%以上10重量%以下、好ましくは2重量%以上8重量%以下、より好ましくは5重量%以上8重量%以下とする。また、本製造方法では、WO原料添加割合を、1重量%以上10量%以下、好ましくは2重量%以上8重量%以下、より好ましくは5重量%以上8重量%以下とすることがより好ましい。WO原料添加割合をこの範囲とすることで、カーボン粒子30の表面にWO粒子32を適切に形成して、負極として、電池の容量を高くすることが可能となる。
【0065】
ステップS18は、液体(ここでは水)を撹拌して、液体中に一次中間材料とカーボン原料を分散させる。また、ステップS18では、カーボン原料とシリコンとWOとの親和性を向上させるために、液体に界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を用いてよい。界面活性剤の添加量は、液体に対するカーボン原料の添加量に対して、重量%で、2%以上8%以下とすることが好ましい。この数値範囲とすることで、カーボン原料とシリコンとWOとの親和性を適切に向上させる。
【0066】
次に、液体の液体成分を除去することで、負極材料を生成する(負極材料生成ステップ)。本実施形態では、負極材料生成ステップとして、ステップS20、S22を実行する。具体的には、液体を乾燥させて、負極中間物を生成する(ステップS20;乾燥ステップ)。ステップS20においては、大気中で液体を80℃で12時間乾燥させることで、液体に含まれる液体成分を除去、すなわち蒸発させる。負極中間物は、液体の液体成分が除去されて残った固形成分を含むものであるといえる。
【0067】
次に、負極中間物を加熱することで、負極材料を生成する(ステップS22;加熱ステップ)。負極中間物を加熱することで、カーボン粒子30の表面にWO粒子32及びシリコン粒子33が設けられた負極材料が形成される。負極中間物を加熱する温度は、500℃以上900℃以下であることが好ましい。負極中間物を加熱する温度をこの範囲とすることで、負極材料を適切に形成できる。また、負極中間物を加熱する時間は、1時間以上10時間以下であることが好ましい。負極中間物の加熱時間をこの範囲とすることで、負極材料を適切に形成できる。
【0068】
次に、形成した負極材料を用いて、負極14を形成する(ステップS24)。すなわち、集電層20の表面に、負極材料を含んだ負極材料層22を形成して、負極14を形成する。
【0069】
また、本製造方法は、正極16を形成する(ステップS26)。ステップS26においては、カーボン原料の代わりに、リチウム化合物であるリチウム化合物原料を用いる点以外は、ステップS10からステップS24と同じ方法で、正極材料を形成する。そして、正極16用の集電層の表面に、正極材料を含んだ正極材料層を形成して、正極16を形成する。
【0070】
負極14と正極16を形成したら、負極14と正極16とを用いて、電池1を製造する(ステップS28)。具体的には、負極14とセパレータ18と正極16とを積層して電極群12を形成して、電極群12と電解液とをケージング10内に収納して、電池1を製造する。
【0071】
このように、本実施形態においては、ステップS10からステップS24で示したように、三酸化タングステンを溶解した溶解用溶液にシリコンを添加した後に液体成分を除去して一次中間材料を生成した後に、液体に一次中間材料とハードカーボンとを添加した後に液体成分を除去することにより、負極材料を製造する。このような負極材料の製造方法を、以下、適宜、溶液法と記載する。また、上記の製造方法を第1の製造方法という。
【0072】
(電池の製造方法の変形例)
次に、本実施形態に係る電池1の製造方法の他の例を説明する。図5は、本実施形態の電池の製造方法の一例を説明するフローチャートである。図5に示すように、本製造方法においては、ステップS30からステップS44の工程で、負極14を形成する。ステップS30、ステップS32、ステップS40、ステップS42、ステップS44は、ステップS10、ステップS12、ステップS24、ステップS26、ステップS28と同様の処理を行う。
【0073】
次に、WO原料及びシリコン原料が溶解した溶解用溶液に、カーボン原料を添加して溶解する(ステップS34;添加ステップ)。カーボン原料は、原料として用いられるハードカーボンである。
【0074】
ステップS34は、溶解用溶液を撹拌して、溶液中にWO原料、シリコン原料及びカーボン原料を混合して分散させる。また、ステップS18では、カーボン原料とシリコンとWOとの親和性を向上させるために、液体に界面活性剤を添加してもよい。
【0075】
次に、溶解用溶液の液体成分を除去することで、負極材料を生成する(負極材料生成ステップ)。本実施形態では、負極材料生成ステップとして、ステップS36、S38を実行する。具体的には、溶解用溶液を乾燥させて、負極中間物を生成する(ステップS36;乾燥ステップ)。ステップS36においては、大気中で溶解用溶液を80℃で12時間乾燥させることで、溶解用溶液に含まれる液体成分を除去、すなわち蒸発させる。負極中間物は、溶解用溶液の液体成分が除去されて残った固形成分を含むものであるといえる。
【0076】
次に、負極中間物を加熱することで、負極材料を生成する(ステップS38;加熱ステップ)。負極中間物を加熱することで、カーボン粒子30の表面にWO粒子32及びシリコン粒子33が設けられた負極材料が形成される。負極中間物を加熱する温度は、500℃以上900℃以下であることが好ましい。負極中間物を加熱する温度をこの範囲とすることで、負極材料を適切に形成できる。また、負極中間物を加熱する時間は、1時間以上10時間以下であることが好ましい。負極中間物の加熱時間をこの範囲とすることで、負極材料を適切に形成できる。
【0077】
このように、本実施形態においては、ステップS30からステップS44で示したように、三酸化タングステンを溶解した溶解用溶液にシリコン及びハードカーボンを添加した後に液体成分を除去して負極材料を製造する。このような負極材料の製造方法も、以下、適宜、溶液法と記載する。また、上記の製造方法を第2の製造方法という。
【0078】
以上説明したように、本実施形態に係る電池の負極材料は、カーボンと、カーボンの表面に設けられる三酸化タングステンと、カーボンの表面に設けられるシリコンと、を含む。本実施形態に係る負極材料は、カーボンの表面に三酸化タングステン及びシリコンを設けることにより、容量などの電池特性を向上させることができる。
【0079】
電池の負極材料にシリコンを含むことよって、電池特性が向上することが知られている。ところが、負極材料において、カーボンの表面にシリコンを設けることが難しいことが知られている。本実施形態では、カーボンと三酸化タングステンとシリコンとを含む原料を用いて、溶液法によってカーボンの表面に設けられるシリコンを含む負極材料が製造できる。
【0080】
また、カーボンの表面に三酸化タングステンを設けた負極材料においては、カーボンの表面に三酸化タングステンを適切に配置することが求められる。カーボンの表面に三酸化タングステンを適切に配置できない場合、すなわちカーボンの表面に三酸化タングステンが設けられていなかったり、三酸化タングステンがカーボンの表面から切り離されてしまったりする場合には、電池特性を適切に向上できなくなる。それに対し、本実施形態に係る負極材料は、カーボンとして、非晶質のアモルファスカーボンを用いて、アモルファスカーボンの表面に三酸化タングステンを設けている。アモルファスカーボンは、表面に三酸化タングステンを配置する処理の際に、表面に官能基を含むことができる。そのため、この官能基によって、アモルファスカーボンの表面に三酸化タングステンを適切にトラップすることが可能となり、表面に三酸化タングステンを適切に配置できる。また、この官能基によって、アモルファスカーボンの表面への三酸化タングステンの密着性を高くすることができ、酸化タングステンがカーボンの表面から切り離されることを抑制できる。そのため、本実施形態に係る負極材料は、カーボンの表面に三酸化タングステンを適切に配置することができる。そして、本実施形態のようにハードカーボンの表面に三酸化タングステン及びシリコンが設けられた負極材料を用いることで、特に高電流を充放電する際の容量を向上することが可能となるため、電池の特性を向上できる。特に、カーボン原料は、例えば黒鉛に比べて低温で製造されるため、官能基が除去されずに残りやすく、表面に三酸化タングステン及びシリコンを適切に配置できる。
【0081】
本実施形態に係る負極材料は、カーボンと三酸化タングステンとシリコンとが複合化していることが好ましい。本実施形態では、カーボンの表面に、三酸化タングステン及びシリコンを適切に配置できる。
【0082】
本実施形態に係る負極材料は、カーボンがアモルファスカーボン又はグラファイトであることが好ましい。本実施形態によれば、アモルファスカーボン又はグラファイトの表面に、三酸化タングステン及びシリコンを適切に配置できる。
【0083】
本実施形態に係る負極材料は、六方晶の結晶構造の三酸化タングステンを含むことが好ましい。六方晶の三酸化タングステンをハードカーボンの表面に設けることで、カーボンの表面に三酸化タングステンを適切に配置することができる。
【0084】
本実施形態に係る負極材料は、六方晶及び斜方晶の結晶構造の三酸化タングステンを含むことが好ましい。六方晶及び斜方晶の三酸化タングステンをハードカーボンの表面に設けることで、カーボンの表面に三酸化タングステンを適切に配置することができる。
【0085】
また、本実施形態に係る負極材料の製造方法は、タングステン溶解ステップと、シリコン添加ステップと、一次中間材料生成ステップと、負極材料生成ステップと、を含む。タングステン溶解ステップにおいては、溶解用溶液に三酸化タングステン(三酸化タングステン原料)を添加して、三酸化タングステン原料を溶解させる。シリコン添加ステップにおいては、三酸化タングステンが溶解した溶解用溶液に、シリコン(シリコン原料)を添加して、三酸化タングステン及びシリコンが分散した溶解用溶液を生成する。一次中間材料生成ステップにおいては、その生成された溶解用溶液の液体成分を除去することで、一次中間材料を生成する。カーボン溶解ステップにおいては、液体に、一次中間材料及びハードカーボン(カーボン原料)を溶解する。負極材料生成ステップにおいては、液体の液体成分を除去することで、負極材料を生成する。本実施形態に係る負極の製造方法は、このように、三酸化タングステン及びシリコンを溶解した溶解用溶液から一次中間材料を生成した後、液体に一次中間材料及びハードカーボンを溶解して、負極材料を製造することにより、カーボンの表面に三酸化タングステン及びシリコンを適切に配置することが可能となる。
【0086】
また、本実施形態に係る負極材料の製造方法は、タングステン溶解ステップと、シリコン及びカーボン添加ステップと、負極材料生成ステップと、を含む。タングステン溶解ステップにおいては、溶解用溶液に三酸化タングステン(三酸化タングステン原料)を添加して、三酸化タングステン原料を溶解させる。シリコン及びカーボン添加ステップにおいては、三酸化タングステンが溶解した溶解用溶液に、シリコン(シリコン原料)及びハードカーボン(カーボン原料)を添加して、三酸化タングステン、シリコン及びハードカーボンが分散した溶解用溶液を生成する。負極材料生成ステップにおいては、その生成した溶解用溶液の液体成分を除去することで、負極材料を生成する。本実施形態に係る負極の製造方法は、このように、三酸化タングステンを溶解した溶解用溶液にシリコン及びハードカーボンを添加して、負極材料を製造することにより、カーボンの表面に三酸化タングステン及びシリコンを適切に配置することが可能となる。
【0087】
また、本実施形態に係る負極材料の製造方法においては、三酸化タングステンの添加量とハードカーボンの添加量とシリコンの添加量との合計量に対する、三酸化タングステンの添加量の比率を、1重量%以上10重量%以下、好ましくは2重量%以上8重量%以下、より好ましくは5重量%以上8重量%以下とすることが好ましい。三酸化タングステンの添加量をこの範囲とすることで、ハードカーボンの表面に三酸化タングステンを適切に形成して、負極として、電池特性を向上できる。
【0088】
また、本実施形態に係る負極材料の製造方法においては、三酸化タングステンの添加量とハードカーボンの添加量とシリコンの添加量との合計量に対する、シリコンの添加量の比率を、1重量%以上10重量%以下、好ましくは2重量%以上8重量%以下、より好ましくは5重量%以上8重量%以下とする。三酸化タングステンの添加量をこの範囲とすることで、ハードカーボンの表面にシリコンを適切に形成して、負極として、電池特性を向上できる。
【0089】
また、溶解ステップにおいては、溶解用溶液として、アルカリ性の溶液を用いることが好ましい。アルカリ性の溶液を用いることで、三酸化タングステンを適切に溶解できる。
【0090】
(実施例)
(製造条件)
次に、実施例について説明する。実施例1においては、ハードカーボンと三酸化タングステンとシリコンとを用いて、実施形態で説明した溶液法を使用した第1の製造方法で、負極材料を製造した。具体的には、50ml容量のビーカー内に、濃度が28重量%のアンモニア溶液を5mlと、WO原料を0.05gとを添加して、40℃で12時間撹拌して、アンモニア溶液にWO原料を溶解させた。さらに、このアンモニア溶液に、WO原料との重量比が1:1となるように、SDSを0.05g添加して、室温で4時間撹拌して、アンモニア溶液にSDSを溶解させた。そして、このアンモニア溶液に、WO原料との重量比が1:1となるように、シリコン原料を0.05g添加して、室温で4時間撹拌して、アンモニア溶液にシリコン原料を溶解させた。そして、このアンモニア溶液を撹拌した後、80℃で12時間加熱して乾燥させて、一次中間材料を生成した。そして、この一次中間材料を、管状炉内に導入し、窒素雰囲気下で、室温で2時間、その後、窒素雰囲気下のまま、昇温スピード3℃/minで200℃まで、1℃/minで550℃まで、3℃/minで700℃まで連続加熱して2時間保持して、一次中間材料を生成した。そして、生成された一次中間材料と5mlの純水と0.053gのSDSと0.95gのカーボン原料とを順番に添加した。そして、カーボン原料が純水に分散するまで、この液体を4時間撹拌した後、80℃で12時間加熱して乾燥させて、負極中間物を生成した。そして、この負極中間物を、管状炉内に導入し、窒素雰囲気下で、室温で2時間、その後、窒素雰囲気下のまま、昇温スピード3℃/minで200℃まで、1℃/minで550℃まで、3℃/minで700℃まで連続加熱して2時間保持して、負極材料を製造した。
【0091】
実施例1では、シリコン原料割合を、すなわち、カーボン原料の添加量とWO原料の添加量とシリコン原料の添加量との合計値に対する、シリコン原料の添加量を、重量%で5%とした。実施例1では、WO原料の添加量を0.05gとし、シリコン原料の添加量を0.05gとし、カーボン原料の添加量を0.95gとした。
【0092】
また、実施例1では、シリコン原料を次のように作製した。まず、数mmの高純度シリコンチャンク(純度は11N)をジョークラッシャーを用いて粉砕した後、粉砕したシリコン粒子を目開き0.5mmの篩を用いて分離した。次に、目開き0.5mmの篩を通過したシリコン粒子をボールミルに入れて2時間粉砕してシリコン微粒子(シリコン原料)を得た。得られたシリコン微粒子の粒度分布は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法(装置製品名「マイクロトラックMT3300EXII」)により求めた。シリコン微粒子の体積平均粒径は、3.34μmで、d50(メディアン径)は0.33μmであった。また、シリコン微粒子の最大体積径は62.23μmで、最小体積径は0.066μmであった。
【0093】
実施例2においては、ハードカーボンと三酸化タングステンとシリコンとを用いて、実施形態で説明した溶液法を使用した第2の製造方法で、負極材料を製造した。具体的には、50ml容量のビーカー内に、濃度が28%のアンモニア溶液を5mlと、WO原料を0.05gとを添加して、40℃で12時間撹拌して、アンモニア溶液にWO原料を溶解させた。さらに、このアンモニア溶液に、WO原料との重量比が1:1となるように、SDSを0.05g添加して、室温で4時間撹拌して、アンモニア溶液にSDSを溶解させた。そして、このアンモニア溶液に、5mlの純水と0.053gのシリコン原料と0.95gのカーボン原料とを順番に添加して、室温で4時間撹拌して、アンモニア溶液にシリコン原料を溶解させた。そして、このアンモニア溶液を、80℃で12時間加熱して乾燥させて、負極中間物を生成した。そして、この負極中間物を、管状炉内に導入し、昇温スピード3℃/minで200℃まで、1℃/minで550℃まで、3℃/minで700℃まで連続加熱して2時間保持して、負極材料を製造した。
【0094】
実施例2では、シリコン原料割合を、重量%で8%とした。実施例2では、WO原料の添加量を0.03gとし、シリコン原料の添加量を0.053gとし、カーボン原料の添加量を0.95gとした。
【0095】
比較例1においては、ハードカーボンとシリコンとを用いて、負極材料を製造した。具体的には、50ml容量のビーカー内の5mlの純水に、SDSを0.05g添加して撹拌した。さらに、0.06gのシリコン原料と、0.94gのカーボン原料とを添加して、4時間撹拌した後、80℃で12時間加熱した。さらに、700℃で2時間、5℃/minの加熱速度で熱処理して、比較例1の負極材料を製造した。比較例においては、ハードカーボンの添加量とシリコン原料の添加量の合計値に対する、シリコン原料の添加量を、重量%で6%とした。比較例においては、溶液法で、負極材料を製造した。
【0096】
比較例2においては、ハードカーボンとWO原料とを用いて、負極材料を製造した。具体的には、50ml容量のビーカー内の5mlの純水に、SDSを0.05g添加して撹拌した。さらに、0.25mlの(NHWO溶液と、0.95gのカーボン原料とを添加して、4時間撹拌した後、80℃で12時間加熱した。さらに、700℃で2時間、5℃/minの加熱速度で熱処理して、比較例2の負極材料を製造した。比較例においては、ハードカーボンの添加量とWO原料の添加量の合計値に対する、WO原料の添加量を、重量%で6%とした。比較例においては、溶液法で、負極材料を製造した。
【0097】
(負極材料の評価結果)
実施例及び比較例を上記の溶液法で製造した負極材料を、評価した。評価としては、負極材料をSEMで撮像して、カーボンの表面にWO材料及びシリコンが設けられているかを観察した。また、XRDにより、カーボン、三酸化タングステン及びシリコンのピークがあるかを確認した。また、負極材料を用いた負極を製造して、充放電を繰り返した際の容量を測定した。
【0098】
図6ないし図11を用いて、実施例1について説明する。図6は、実施例における負極材料を撮像した図である。図7は、実施例における負極材料を撮像した図である。図8は、実施例における負極材料を撮像した図である。図9は、実施例における負極材料を撮像した図である。図10は、実施例における一次中間材料を撮像した図である。図11は、実施例の負極材料のXRD解析結果を示す図である。図6は、実施例1の負極材料を、SEMで撮像した写真を示している。図7は、実施例1の負極材料を、SEMで撮像した写真を示しており、ハードカーボンを示している。図8は、実施例1の負極材料を、TEMで撮像した写真を示している。図9は、実施例1の負極材料の中間物である一次中間材料を、SEMで撮像した写真を示している。図10は、実施例1の負極材料の中間物である一次中間材料を、TEMで撮像した写真を示している。図11は、実施例1の負極材料のXRD解析結果を示している。図6図7に示すように、SEM写真によると、実施例1の負極材料には、矢印A1で示すカーボン粒子30の表面に、矢印A2で示すWO粒子32及びシリコン粒子33が食い込むように設けられていることが確認された。実施例1の負極材料には、カーボン粒子30の表面に、WO粒子32及びシリコン粒子33が固定された状態で配置されていることが確認された。溶液法においては、アンモニアに溶解したWO原料がシリコン表面に定着し、さらにハードカーボンの官能基に定着していると推測される。図8に示すように、TEM写真によると、カーボン粒子30の表面において、矢印A3で示すように、WO粒子32とシリコン粒子33とが複合化していることが確認された。例えば、TEM写真によると、カーボン粒子30の表面にシリコン粒子33が配置されそのシリコン粒子33の表面にWO粒子32が設けられる複合体やカーボン粒子30の表面にWO粒子32が配置されそのWO粒子32の表面にシリコン粒子33が設けられる複合体が観察された。図9図10に示すように、WO材料及びシリコンを含む一次中間材料は、矢印A4、矢印A6、矢印A8で示すようにシリコンナノ粒子が凝集していることが確認された。一次中間材料において、矢印A5、矢印A7、矢印A9で示すWOナノ粒子は、凝集しているシリコンナノ粒子の表面に、コーティング又は付着していることが確認された。カーボン粒子30の表面には、複合化したWO粒子32とシリコン粒子33と、WO粒子32と、シリコン粒子33とが設けられていると推測される。図11に示すように、XRDにおいては、実施例1の負極材料は、六方晶の結晶構造の三酸化タングステンのピークが確認された。なお、一次中間材料のXRDにおいても、六方晶の結晶構造の三酸化タングステンのピークが確認された。
【0099】
図12ないし図14を用いて、実施例2について説明する。図12は、実施例における負極材料を撮像した図である。図13は、実施例における負極材料を撮像した図である。図14は、実施例の負極材料のXRD解析結果を示す図である。図12は、実施例2の負極材料を、SEMで撮像した写真を示している。図13は、実施例2の負極材料を、TEMで撮像した写真を示している。図14は、実施例2の負極材料のXRD解析結果を示している。図12に示すように、SEM写真によると、実施例2の負極材料には、カーボン粒子30の表面に、矢印A30で示すシリコン粒子33の集合体がクラスター状に設けられていることが確認された。実施例2の負極材料には、カーボン粒子30の表面に、シリコンナノ粒子が凝集していることが確認された。図13に示すように、TEM写真によると、カーボン粒子30の表面において、矢印A32で示すWO粒子32と、矢印A31で示すシリコン粒子33とがそれぞれ確認され、WO粒子32とシリコン粒子33とが複合化していることが確認されなかった。図14に示すように、XRDにおいては、実施例2においては、六方晶及び斜方晶の結晶構造の三酸化タングステンのピークが確認された。
【0100】
図15ないし図16を用いて、比較例1について説明する。図15は、比較例における負極材料を撮像した図である。図16は、比較例における負極材料を撮像した図である。図15は比較例1の負極材料を、SEMで撮像した写真を示している。図15に示すように、SEM写真によると、比較例1の負極材料は、ハードカーボンの表面に、シリコン粒子33が複合化していることが確認された。図16に示すように、TEM写真によると、比較例1の負極材料は、矢印A41で示すハードカーボンの表面に、矢印A40で示す数10nmを超える大きな粒子径のシリコン粒子33が確認された。
【0101】
図17ないし図18を用いて、比較例2について説明する。図17は、比較例における負極材料を撮像した図である。図18は、比較例における負極材料を撮像した図である。図17は比較例2の負極材料を、SEMで撮像した写真を示している。図17に示すように、SEM写真によると、比較例2の負極材料は、ハードカーボンの表面に、矢印A50で示すような粒子状のWO粒子32が確認され、WO粒子32がハードカーボンの表面に固着していることが確認されなかった。図18に示すように、TEM写真によると、比較例2の負極材料は、ハードカーボンの表面に、ハードカーボンの表面に、矢印A51、矢印A52で示す、数10nmを超える大きな粒子径のWO粒子32が確認された。
【0102】
次に、実施例及び比較例の負極材料を用いた負極の評価を説明する。まず、図19図20を用いて、実施例及び比較例の負極材料を用いた負極における電圧と電流の測定結果を説明する。図19は、実施例の負極材料を使用した負極における電圧と電流の関係を示す図である。図20は、実施例の負極材料を使用した負極における電圧と電流の関係を示す図である。図19は、実施例1の負極材料を使用した負極における電圧と電流の関係を示す図である。図20は、実施例2の負極材料を使用した負極における電圧と電流の関係を示す図である。実施例1、実施例2ともに、シリコン材料のリチウム化及び脱リチウム化のピークが確認された。このように、実施例1、実施例2ともに、充放電が適切にできることが確認された。
【0103】
つづいて、実施例及び比較例の負極材料を用いた負極に対して、充放電を繰り返した際の容量の測定結果について説明する。以下では、実施例3は、実施例1と同様の方法で製造した負極材料を使用し、シリコン原料割合を、重量%で2%とした。実施例4は、実施例1と同様の方法で製造した負極材料を使用し、シリコン原料割合を、重量%で8%とした。比較例2は、WO原料の添加量を、重量%で5%とした例を示す。また、比較例3としてHCの測定結果を示す。
【0104】
【表2】
【0105】
図21から図26は、実施例及び比較例の負極材料を用いた負極の容量の測定結果を示す図である。図21は、実施例の負極材料を用いた負極の容量の測定結果を示す図である。図21は、実施例1、実施例2について、所定サイクル数毎にCレートを変化させた際の、それぞれのサイクル毎の負極の容量の測定結果を示したグラフである。Cレートとは、電池容量(ここでは負極の容量)に対する放電(充電)電流値の比率である。例えば、サイクル数が0回の場合における容量が10Ahの負極を、1CのCレートで放電する場合は、10Aの電流で放電させることを意味する。ここでの1サイクルは、設定したCレートで容量がゼロとなるまで放電した後、最大容量まで充電することを指す。図21の横軸は、サイクル数(充放電の回数)であり、縦軸は、放電した後に最大容量まで充電した際の、1g当たりの負極の容量(mAh/g)を指す。図21では、0.2Cでの放電及び充電を5回繰り返し、0.4Cでの放電及び充電を5回繰り返し、0.8Cでの放電及び充電を5回繰り返し、1.6Cでの放電及び充電を5回繰り返し、3.2Cでの放電及び充電を5回繰り返し、0.2Cでの放電及び充電を5回繰り返した場合の、各サイクルにおける容量を示している。実施例1は、0.2Cでは237mAh/g、3.2Cでは137mAh/gであることがわかる。実施例2は、0.2Cでは227mAh/g、3.2Cでは128mAh/gであることがわかる。図21に示すように、実施例1は、実施例2より容量を高く保つことができる傾向にあることがわかる。
【0106】
図22は、実施例3の負極材料を用いた場合の、所定回数のサイクル毎にCレートを変化させた際の、それぞれのサイクル毎の負極の容量の測定結果を示したグラフである。Cレートの変化条件は、図21と同様である。実施例3は、0.2Cでは228mAh/g、3.2Cでは107mAh/gであることがわかる。
【0107】
図23は、実施例4の負極材料を用いた場合の、所定回数のサイクル毎にCレートを変化させた際の、それぞれのサイクル毎の負極の容量の測定結果を示したグラフである。Cレートの変化条件は、図21と同様である。実施例4は、0.2Cでは247mAh/g、3.2Cでは133mAh/gであることがわかる。
【0108】
図24は、比較例1の負極材料を用いた場合の、所定回数のサイクル毎にCレートを変化させた際の、それぞれのサイクル毎の負極の容量の測定結果を示したグラフである。Cレートの変化条件は、図21と同様である。比較例1は、0.2Cでは316mAh/g、3.2Cでは104mAh/gであることがわかる。図24に示すように、比較例1においては、サイクル数が1回目から5回目までに容量が急激に低下する傾向にあることがわかる。比較例1においては、サイクルが増えると、実施例1、実施例2より容量が低くなる傾向にあることがわかる。
【0109】
図25は、比較例2の負極材料を用いた場合の、所定回数のサイクル毎にCレートを変化させた際の、それぞれのサイクル毎の負極の容量の測定結果を示したグラフである。Cレートの変化条件は、図21と同様である。比較例2は、0.2Cでは185mAh/g、3.2Cでは115mAh/gであることがわかる。図25に示すように、比較例2においては、実施例1、実施例2より容量が高くなる傾向にあることがわかる。
【0110】
さらに、比較例4として、グラファイトとWO原料とを用いて製造した負極材料は、3.2Cでは59mAh/gであることがわかった。このように、比較例4は、比較例2に比べて容量が低くなる傾向にあることがわかった。この結果により、グラファイトの表面には、WO材料が定着しておらず、グラファイト同士の間に粒子として入り込むことにより、導電パスを遮断しているおそれがある。
【0111】
図26は、比較例3の負極材料を用いた場合の、所定回数のサイクル毎にCレートを変化させた際の、それぞれのサイクル毎の負極の容量の測定結果を示したグラフである。Cレートの変化条件は、図21と同様である。比較例3は、0.2Cでは160mAh/g、3.2Cでは103mAh/gであることがわかる。図26に示すように、比較例3においては、実施例1、実施例2より容量が低くなる傾向にあることがわかる。
【0112】
図27から図30は、実施例及び比較例の負極材料を用いた負極の容量の測定結果を示す図である。図27は、実施例の負極材料を用いた負極の容量の測定結果を示す図である。図27は、実施例1、実施例2について、所定サイクル数毎にCレートを変化させた際の、それぞれのサイクル毎の負極の容量の測定結果を示したグラフである。図27の横軸は、サイクル数(充放電の回数)であり、縦軸は、放電した後に最大容量まで充電した際の、1g当たりの負極の容量(mAh/g)を指す。図27では、0.2Cでの放電及び充電を5回繰り返し、0.8Cでの放電及び充電を200回まで繰り返した場合の、各サイクルにおける容量を示している。実施例1は、サイクル1回目では180mAh/g、200回目では200mAh/gであることがわかる。実施例2は、サイクル1回目では155mAh/g、200回目では193mAh/gであることがわかる。図27に示すように、実施例1は、実施例2より容量を高く保つことができる傾向にあることがわかる。
【0113】
図28は、比較例1の負極材料を用いた場合の、所定回数のサイクル毎にCレートを変化させた際の、それぞれのサイクル毎の負極の容量の測定結果を示したグラフである。Cレートの変化条件は、図27と同様である。比較例1は、サイクル1回目では165mAh/g、200回目では162mAh/gであることがわかる。図28に示すように、比較例1においては、サイクル数が5回目までで急激に容量が低下する傾向にあることがわかる。比較例1においては、サイクルが増えると、実施例1、実施例2より容量が低くなる傾向にあることがわかる。
【0114】
図29は、比較例2の負極材料を用いた場合の、所定回数のサイクル毎にCレートを変化させた際の、それぞれのサイクル毎の負極の容量の測定結果を示したグラフである。Cレートの変化条件は、図27と同様である。比較例2は、サイクル1回目では138mAh/g、200回目では144mAh/gであることがわかる。図29に示すように、比較例2においては、実施例1、実施例2より容量が低くなる傾向にあることがわかる。
【0115】
図30は、比較例3の負極材料を用いた場合の、所定回数のサイクル毎にCレートを変化させた際の、それぞれのサイクル毎の負極の容量の測定結果を示したグラフである。Cレートの変化条件は、図27と同様である。比較例3は、サイクル1回目では129mAh/g、200回目では145mAh/gであることがわかる。図29に示すように、比較例3においては、実施例1、実施例2より容量が低くなる傾向にあることがわかる。
【0116】
つづいて、実施例及び比較例の負極材料を用いた負極を有する電池(ハーフセル)の充放電特性について説明する。図31から図34は、実施例及び比較例の負極材料を用いた負極の0.2Cでの充放電特性を示す図である。図31は、実施例の負極材料を用いた負極を有する電池(ハーフセル)の充放電特性を示す図である。図31に示すように、実施例1においては、適切に充放電されていることが確認される。実施例1は、比較例2に比べて、容量が高くなる傾向にあることがわかる。
【0117】
図32は、実施例の負極材料を用いた負極を有する電池(ハーフセル)の充放電特性を示す図である。図32に示すように、実施例2においては、適切に充放電されていることが確認される。実施例2は、比較例2に比べて、容量が高くなる傾向にあることがわかる。
【0118】
図33は、比較例の負極材料を用いた負極を有する電池(ハーフセル)の充放電特性を示す図である。図33に示すように、比較例1においては、放電時、放電開始とともに電圧が1.3V程度まで急激に減少した後、緩やかに減少する。比較例1においては、矢印A60で示すように、充電時に、電圧が0.5V程度になると、電流が170mAh/g程度に増加するまで、電圧の増加が停滞する傾向にあることがわかる。
【0119】
図34は、比較例の負極材料を用いた負極を有する電池(ハーフセル)の充放電特性を示す図である。図34に示すように、比較例2においては、適切に充放電されていることが確認される。
【0120】
つづいて、実施例及び比較例の負極材料を用いた負極を有する電池(ハーフセル)の充放電特性について説明する。以下では、比較例3としてHCの測定結果を示す。図35から図39は、実施例及び比較例の負極材料を用いた負極の3.2Cでの充放電特性を示す図である。3.2Cは、高速充電に相当する充電レートである。図35は、実施例の負極材料を用いた負極を有する電池(ハーフセル)の充放電特性を示す図である。図35に示すように、実施例1においては、適切に充放電されていることが確認される。実施例1は、比較例に比べて、容量が高くなる傾向にあることがわかる。
【0121】
図36は、実施例の負極材料を用いた負極を有する電池(ハーフセル)の充放電特性を示す図である。図36に示すように、実施例2においては、適切に充放電されていることが確認される。実施例2は、比較例に比べて、容量が高くなる傾向にあることがわかる。
【0122】
図37は、比較例の負極材料を用いた負極を有する電池(ハーフセル)の充放電特性を示す図である。図37に示すように、比較例1においては、放電開始時の電圧が、実施例に比べて低い。比較例1においては、実施例に比べて、容量が低くなる傾向にあることがわかる。また、比較例1は、0.2Cでの充放電特性に対する3.2Cでの充放電特性の低下が大きい。比較例1は、比較例3と同程度の充放電特性を有する。
【0123】
図38は、比較例の負極材料を用いた負極を有する電池(ハーフセル)の充放電特性を示す図である。図38に示すように、比較例2においては、実施例に比べて、容量が低くなる傾向にあることがわかる。
【0124】
図39は、比較例の負極材料を用いた負極を有する電池(ハーフセル)の充放電特性を示す図である。図39に示すように、比較例3においては、放電開始時の電圧が、実施例に比べて低い。比較例3においては、実施例及び他の比較例に比べて、容量が低くなる傾向にあることがわかる。
【0125】
実施例及び比較例の負極材料を用いた負極を有する電池(ハーフセル)の充放電特性が高い順に、実施例1、実施例2、比較例2、比較例1となる。
【0126】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態の内容により実施形態が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、前述した実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0127】
1 電池
14 負極
22 負極材料層
30 カーボン粒子
32 WO粒子
33 シリコン粒子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
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図22
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図28
図29
図30
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図33
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図39