(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】干渉計移動鏡位置測定装置及びフーリエ変換赤外分光光度計
(51)【国際特許分類】
G01B 9/02 20220101AFI20220705BHJP
G01B 11/00 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
G01B9/02
G01B11/00 B
(21)【出願番号】P 2020540887
(86)(22)【出願日】2018-09-03
(86)【国際出願番号】 JP2018032655
(87)【国際公開番号】W WO2020049620
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2020-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村松 尚
【審査官】信田 昌男
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-75404(JP,A)
【文献】特開平7-198317(JP,A)
【文献】特開2001-324354(JP,A)
【文献】特開平5-79815(JP,A)
【文献】特開2016-142527(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 9/02
G01B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビームスプリッタ、固定鏡及び移動鏡を有する干渉計の該移動鏡の位置を決定するための装置であって、
a) レーザ光源と、
b) 前記レーザ光源の光が前記固定鏡及び前記移動鏡により反射されて生成される互いに位相が異なる第1光及び第2光を分離して検出することができるようにする位相分離光学系と、
c) 前記移動鏡の位置と同期して前記第1光及び前記第2光をそれぞれ検出して第1正弦波信号及び第2正弦波信号を生成する信号変換部と、
d) 前記第1正弦波信号及び前記第2正弦波信号に対してそれぞれ正規化及び位相差補正を行
うことにより位相差補正後正規化第1正弦波信号及び位相差補正後正規化第2正弦波信号を求めた後、各時点での前記
位相差補正後正規化第1正弦波信号又は前記
位相差補正後正規化第2正弦波信号の位相を算出する位相算出部と、
e) 前記移動鏡の位置と前記位相との関係に基き、特定の時点での位相から該時点での該移動鏡の位置を決定する移動鏡位置決定部と
を備えることを特徴とする干渉計移動鏡位置測定装置。
【請求項2】
さらに、
前記第1正弦波信号及び前記第2正弦波信号の強度値を所定の位相間隔で複数取得し、
前記第1正弦波信号及び前記第2正弦波信号のそれぞれにつき、取得した複数の強度値の平均値を求めると共に、取得した複数の強度値に対して離散フーリエ変換処理を行うことによって振幅及び前記第1正弦波信号と前記第2正弦波信号の位相差を求める
処理を繰り返し行うパラメータ較正部を備えることを特徴とする請求項1に記載の干渉計移動鏡位置測定装置。
【請求項3】
赤外光源と、ビームスプリッタと、固定鏡と、移動鏡とを有する赤外光干渉光学系と、
前記赤外光干渉光学系で生成された干渉光を検出する赤外光検出器と、
請求項1に記載の干渉計移動鏡位置測定装置と
を備えることを特徴とするフーリエ変換赤外分光光度計。
【請求項4】
前記移動鏡位置決定部からの位置信号を用いて制御を行うことで前記移動鏡を一定間隔の異なる位置に停止させ、前記位置の各々で前記赤外光検出器からの検出信号を複数回取得する操作を繰り返し行うよう該移動鏡を制御するステップスキャン制御部を備えることを特徴とする請求項3に記載のフーリエ変換赤外分光光度計。
【請求項5】
赤外光源と、ビームスプリッタと、固定鏡と、移動鏡とを有する赤外光干渉光学系と、
前記赤外光干渉光学系で生成された干渉光を検出する赤外光検出器と、
請求項2に記載の干渉計移動鏡位置測定装置と
を備えることを特徴とするフーリエ変換赤外分光光度計。
【請求項6】
前記移動鏡位置決定部からの位置信号を用いて制御を行うことで前記移動鏡を一定間隔の異なる位置に停止させ、前記位置の各々で前記赤外光検出器からの検出信号を複数回取得する操作を繰り返し行うよう該移動鏡を制御するステップスキャン制御部を備えることを特徴とする請求項5に記載のフーリエ変換赤外分光光度計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビームスプリッタ、固定鏡及び移動鏡を有する干渉計の該移動鏡の位置を決定するための干渉計移動鏡位置測定装置、並びに該干渉計移動鏡位置測定装置を備えるフーリエ変換赤外分光光度計(Fourier Transform Infrared Spectroscopy:FTIR)に関する。
【背景技術】
【0002】
FTIRでは、マイケルソン型干渉計を代表とする干渉計により時間的に振幅が変化する干渉光を生成して試料に照射し、試料を透過する透過光又は試料で反射する反射光をインターフェログラムとして検出し、このインターフェログラムをフーリエ変換処理することによって、横軸に波数(又は波長)、縦軸に強度をとったスペクトルを得る。ここでマイケルソン型干渉計は、ビームスプリッタ(ハーフミラー)、固定鏡、移動鏡などを含む装置であり、光をビームスプリッタで2つに分割し、一方を固定鏡で、他方を移動鏡で反射させた後、これら2つの反射光を干渉させるものである。移動鏡を移動させることにより、得られる干渉光の振幅は時間的に変化する。
【0003】
マイケルソン型干渉計において移動鏡を移動させる制御の方法の1つに、クアドラチュアコントロールと呼ばれる方法がある(特許文献1)。この方法では、マイケルソン型干渉計とは別に設けられたレーザ光源、並びに、マイケルソン型干渉計と共通のビームスプリッタ、固定鏡及び移動鏡を構成要素とするレーザ干渉計を用いて、固定鏡で反射された光と移動鏡で反射された光の光路長の差(光路差)から移動鏡の位置を求める。当該方法で使用するレーザ干渉計の一例を
図5に示す。このレーザ干渉計90は、直線偏光のビームを出射するレーザ光源91と、マイケルソン型干渉計のビームスプリッタ92、固定鏡93及び移動鏡94と、ビームスプリッタ92と固定鏡93の間に設けられ、ビームの直線偏光に対して偏光面が傾斜するように配置された1/8波長板95を有する。また、ビームスプリッタ92の出射側にはp偏光とs偏光を分離する偏光ビームスプリッタ96が配置されており、p偏光の出射側には第1光検出器97Aが、s偏光の出射側には第2光検出器97Bが、それぞれ配置されている。第1光検出器97Aには第1波形成形器98Aが、第2光検出器97Bには第2波形成形器98Bが、それぞれ接続されており、第1波形成形器98A及び第2波形成形器98Bにはアップダウンカウンタ99が接続されている。
【0004】
このレーザ干渉計90では、レーザ光源91から直線偏光のビームを出射し、該ビームをビームスプリッタ92で2つのビームに分割する。分割したビームの一方は固定鏡93で反射させ、他方は移動鏡94で反射させる。ここで移動鏡94で反射させたビームは直線偏光のままであるのに対して、固定鏡93で反射させた直線偏光のビームは、1/8波長板95を2回通過することにより円偏光又は楕円偏光となる。これら2つのビームはビームスプリッタ92で重ね合わされて干渉光となるが、該干渉光は偏光ビームスプリッタ96によってp偏光とs偏光に分離される。分離されたp偏光は第1光検出器97Aに、s偏光は第2光検出器97Bに、それぞれ入射する。第1光検出器97A及び第2光検出器97Bではそれぞれ、干渉光の強度が電流信号に変換され、フリンジ信号となる。
図6に示すように、p偏光のフリンジ信号及びs偏光のフリンジ信号は時間に対して周期的な信号となり、その1周期は移動鏡94がレーザ光源91のレーザの1/2波長分の距離だけ移動する時間に該当する。これらフリンジ信号は、第1波形成形器98A及び第2波形成形器98Bによってパルス信号に成形され、アップダウンカウンタ99に入力する。
【0005】
ここでp偏光のフリンジ信号とs偏光のフリンジ信号は、移動鏡94がビームスプリッタ92から遠ざかるときには一方(
図6ではp偏光。前記円偏光又は楕円偏光の回転方向に依っては
図6とは逆の偏光、すなわちs偏光となる場合もある。以下同じ。)が他方(同・s偏光)に対して90°位相が遅れ、移動鏡94がビームスプリッタ92に近づくときには該一方(同・p偏光)が該他方(同・s偏光)に対して90°位相が進む。アップダウンカウンタ99では、前記一方のフリンジ信号によるパルス信号が前記他方のフリンジ信号によるパルス信号に対して90°位相が遅れて入力されたときには+1をカウントし、該他方のフリンジ信号によるパルス信号が該一方のフリンジ信号によるパルス信号に対して90°位相が遅れて入力されたときには-1をカウントする。これらアップダウンカウンタによるカウントを加算することにより、レーザビームの1波長分の光路差、すなわち移動鏡94において1/2波長の距離ずつ前方又は後方に移動することが計測され、移動鏡94の位置が特定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のクアドラチュアコントロールでは、レーザビームの1/2波長分の長さを単位として移動鏡の位置を特定しているため、移動鏡が該1/2波長分の距離だけ移動する途中の位置を特定することはできない。FTIRでは、移動鏡を1/2波長分の距離だけ動かした後に停止させ、インターフェログラムを記録するという動作を繰り返すステップスキャンという方法が知られているが、移動鏡を停止させる制御を行うためには、目標の停止位置からのずれを1/2波長より十分高い位置分解能で特定することが必要となる。しかし、従来のクアドラチュアコントロールでは、位置分解能が1/2波長であるため、ステップスキャンを行うことができない。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、干渉計の移動鏡の位置に依ることなく該位置を高分解で決定することができる干渉計移動鏡位置測定装置、及び該干渉計移動鏡位置測定装置を備えるFTIRを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明は、ビームスプリッタ、固定鏡及び移動鏡を有する干渉計の該移動鏡の位置を決定するための干渉計移動鏡位置測定装置であって、
a) レーザ光源と、
b) 前記レーザ光源の光が前記固定鏡及び前記移動鏡により反射されて生成される互いに位相が異なる第1光及び第2光を分離して検出することができるようにする位相分離光学系と、
c) 前記移動鏡の位置と同期して前記第1光及び前記第2光をそれぞれ検出して第1正弦波信号及び第2正弦波信号を生成する信号変換部と、
d) 前記第1正弦波信号及び前記第2正弦波信号に対してそれぞれ正規化及び位相差補正を行うことにより位相差補正後正規化第1正弦波信号及び位相差補正後正規化第2正弦波信号を求めた後、各時点での前記位相差補正後正規化第1正弦波信号又は前記位相差補正後正規化第2正弦波信号の位相を算出する位相算出部と、
e) 前記移動鏡の位置と前記位相との関係に基き、特定の時点での位相から該時点での該移動鏡の位置を決定する移動鏡位置決定部と
を備えることを特徴とする。
【0010】
位相算出部で算出される第1正弦波信号又は第2正弦波信号の各時点での位相は、その各時点での移動鏡の位置との間に所定の関係を有する。この関係に基づいて、特定の時点での位相から該時点での該移動鏡の位置を決定することができる。これにより、移動鏡の位置を高分解で特定することができる。また、移動鏡の位置の決定は、移動鏡が1/2波長分移動したときのような特定の位置のみならず、任意の位置において行うことができる。
【0011】
前記位相分離光学系には、固定鏡で反射される光と移動鏡で反射される光を異なる偏光とすることによって両者を別々に検出できるようにするものが挙げられる。そのような位相分離光学系には、例えば、前述のクアドラチュアコントロールで用いられている、直線偏光のビームを出射するレーザ光源と、前記ビームスプリッタと前記固定鏡の間に配置された1/8波長板と、前記ビームスプリッタの後段に配置された偏光ビームスプリッタを用いることができる。あるいは、1/8波長板をビームスプリッタと移動鏡の間に配置してもよいし、1/8波長板以外の偏光子を用いてもよい。
【0012】
本発明において「位相差補正」とは、第1正弦波信号と第2正弦波信号の位相差が所定の値(典型的には90°)となるようにそれら2つの正弦波信号を補正することをいう。
【0013】
位相算出部では、前記第1正弦波信号及び前記第2正弦波信号のそれぞれの平均値及び振幅をパラメータとして用いてフリンジ信号の正規化を行い、前記第1正弦波信号と前記第2正弦波信号の位相差をパラメータとして用いて位相差補正を行う。これらのパラメータは、第1正弦波信号や第2正弦波信号の位相の算出を行う前に、校正値を求めておく必要がある。これらの校正値を求めるために、本発明に係る干渉計移動鏡位置測定装置はさらに、
前記第1正弦波信号及び前記第2正弦波信号の強度値を所定の位相間隔で複数取得し、
前記第1正弦波信号及び前記第2正弦波信号のそれぞれにつき、取得した複数の強度値の平均値を求めると共に、取得した複数の強度値に対して離散フーリエ変換処理を行うことによって振幅及び前記第1正弦波信号と前記第2正弦波信号の位相差を求める処理を繰り返し行うパラメータ較正部を備えることが望ましい。
【0014】
このように所定の位相間隔で複数取得した第1正弦波信号及び第2正弦波信号の強度値に基づいて求めた平均値及び振幅を用いて正規化を行い、該正規化後の第1正弦波信号及び第2正弦波信号に基づいて前記位相を算出することにより、移動鏡の位置をより精度良く特定することができる。
【0015】
本発明に係るFTIRは、
赤外光源と、ビームスプリッタと、固定鏡と、移動鏡とを有する赤外光干渉光学系と、
前記赤外光干渉光学系で生成された干渉光を検出する赤外光検出器と、
前記干渉計移動鏡位置測定装置と
を備えることを特徴とする。
【0016】
本発明に係るFTIRはさらに、前記移動鏡位置決定部からの位置信号を用いて制御を行うことで前記移動鏡を一定間隔の異なる位置に停止させ、前記位置の各々で前記赤外光検出器からの検出信号を複数回取得する操作を繰り返し行うよう該移動鏡を制御するステップスキャン制御部を備えることができる。これにより、ステップスキャンを高い精度で行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る干渉計移動鏡位置測定装置及びFTIRによれば、干渉計の移動鏡の位置に依ることなく該位置を高分解で決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る干渉計移動鏡位置測定装置の一実施形態を示す概略図(a)、及び該干渉計移動鏡位置測定装置における位相算出部及び移動鏡位置決定部の機能を示すブロック図(b)。
【
図2】本実施形態の干渉計移動鏡位置測定装置で用いるパラメータ算出部の機能を示すブロック図。
【
図3】パラメータ算出部においてデータを取得するタイミングの例を示す図。
【
図4】本実施形態の干渉計移動鏡位置測定装置を有するFTIRの一例を示す概略図。
【
図6】従来のレーザ干渉計において、(a)移動鏡がビームスプリッタから遠ざかる場合と(b)移動鏡がビームスプリッタに近づいてゆく場合の、フリンジ信号、該フリンジ信号が波形成形されたパルス信号、及びアップダウンカウンタの出力信号の時間変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(1) 干渉計移動鏡位置測定装置の一実施形態
(1-1) 本実施形態の干渉計移動鏡位置測定装置の構成
図1を用いて、本発明に係る干渉計移動鏡位置測定装置の一実施形態を説明する。本実施形態の干渉計移動鏡位置測定装置10は、後述のFTIR20に組み込まれる装置であって、
図1(a)に示すように、レーザ光源11と、1/8波長板15と、偏光ビームスプリッタ16と、第1光検出器17A及び第2光検出器17Bと、位相算出部18と、移動鏡位置決定部19を有する。1/8波長板15及び偏光ビームスプリッタ16は前述の位相分離光学系に該当し、第1光検出器17A及び第2光検出器17Bは前述の信号変換部に該当する。
図1(a)には、FTIR20のビームスプリッタ22、固定鏡23及び移動鏡24を併せて示している。
【0020】
レーザ光源11は、直線偏光のレーザビームを出射するものである。1/8波長板15は、FTIR20のビームスプリッタ22と固定鏡23の間に配置されている。偏光ビームスプリッタ16は、FTIR20のビームスプリッタ22の出射側に配置されている。第1光検出器17Aは偏光ビームスプリッタ16のp偏光の出射側に、第2光検出器17Bは偏光ビームスプリッタ16のs偏光の出射側に、それぞれ配置されている。第1光検出器17A及び第2光検出器17Bは、前述の信号変換部に該当する。
【0021】
図1(b)に示すように、位相算出部18は、正規化処理部181、位相差補正部182、及び逆正接処理部183を有する。また、移動鏡位置決定部19は、位相接続部191及び位置変換部192を有する。これら各部は、デジタル信号処理を行う論理回路やCPU、メモリ等のコンピュータのハードウエア、及びソフトウエアによって具現化されている。これら各部の機能については後述する。
【0022】
(1-2) 本実施形態の干渉計移動鏡位置測定装置の動作
本実施形態の干渉計移動鏡位置測定装置10の動作を説明する。レーザ光源11は直線偏光のビームを出射する。このビームは、FTIR20のビームスプリッタ22で2つのビームに分割される。分割されたビームの一方はFTIR20の固定鏡23で反射され、他方はFTIR20の移動鏡24で反射される。固定鏡23で反射されたビームは1/8波長板15を、該反射前と該反射後の合わせて2回通過することにより、円偏光又は楕円偏光となる。これら2つのビームはFTIR20のビームスプリッタ22で重ね合わされ、干渉計移動鏡位置測定装置10の偏光ビームスプリッタ16に入射する。偏光ビームスプリッタ16は、重ね合わされたビームをp偏光とs偏光に分離する。p偏光は第1光検出器17Aに入射し、s偏光は第2光検出器17Bに入射する。第1光検出器17Aは入射したp偏光を電気信号に変換し、第2光検出器17Bは入射したs偏光を電気信号に変換する。
【0023】
こうして第1光検出器17A及び第2光検出器17Bで生成された2つの電気信号は、移動鏡24が光路差長においてレーザのビームの1波長分移動する毎に強度が1周期の変化を示す正弦波となる。以下、第1光検出器17Aで生成された電気信号を第1正弦波信号IAと呼び、第2光検出器17Bで生成された電気信号を第2正弦波信号IBと呼ぶ。
【0024】
位相算出部18では、第1正弦波信号IA及び第2正弦波信号IBに対して、以下の操作を行う。
【0025】
第1正弦波信号IA及び第2正弦波信号IBの振幅をそれぞれaA及びaB、平均値をそれぞれbA及びbBとし、それら2つの正弦波信号の位相差をΔφとすると、それら2つの正弦波信号の位相はそれぞれ、例えば(φ+(Δφ/2))及び(φ-(Δφ/2))と表すことができる。このように2つの正弦波信号の位相を表すと、第1正弦波信号IA及び第2正弦波信号IBは
IA=aAcos(φ+(Δφ/2))+bA …(1a)
IB=aBcos(φ-(Δφ/2))+bB …(1b)
となる。ここで挙げた振幅aA及びaB、平均値bA及びbB、並びに位相差Δφの5つのパラメータを事前に求めておけば、以下に述べる方法により、移動鏡の位置を算出することができる。なお、これら5つのパラメータの算出精度は最終的な移動鏡位置の算出精度に大きく影響を及ぼす。加えて、これら5つのパラメータは、光学系のセットアップにより決定され、理想的な光学系では常に一定の値であるが、実際の装置では、移動鏡が動くことによる光量の変化や、レーザの干渉性のわずかな変化により逐次変化する。したがって、これら5つのパラメータを高精度かつリアルタイムに求める較正(キャリブレーション)を行うことにより、最終的に得られる移動鏡の位置の精度をより高くすることができる。較正の方法の一例は後述する。
【0026】
正規化処理部181では、これら2つの正弦波信号IA及びIBに対してそれぞれ、平均値を減じたうえで振幅を除することにより、正規化処理がなされた2つの正規化正弦波信号JA及びJB
JA=(IA-bA)/aA …(2a)
JB=(IB-bB)/aB …(2a)
を生成する。このように正規化処理を行うことにより、偏光ビームスプリッタ16において一方の偏光の透過率と他方の偏光の反射率の相違や、第1光検出器17Aと第2光検出器17Bの検出感度の相違によって生じる、2つの偏光の振幅及び平均値の相違の影響が排除される。
【0027】
次に、位相差補正部182は、これら2つの正規化正弦波信号J
A及びJ
Bに対して、位相差が90°になるように補正した2つの位相差補正後正規化正弦波信号c, sを生成する処理を行う。具体的には、以下の(3)式
【数1】
による処理を行うことにより、位相差補正後正規化正弦波信号c, sは
c=sin(Δφ)・cosφ=sin(Δφ)・sin(φ+π/2) …(4a)
s=sin(Δφ)・sinφ …(4b)
となり、両者の位相差が90°となる。
【0028】
逆正接処理部183は、2つの位相差補正後正規化正弦波信号の一方の信号sを他方の信号cで除したうえで逆正接を取る。すると、(4a)及び(4b)式より
φ=arctan(s/c) …(5)
となり、位相φが算出される。
【0029】
次に、移動鏡位置決定部19では、位相算出部18で得られた位相φを移動鏡の位置xに換算する。この換算では、まず、位相接続部191が、(5)式に示されるφに対して位相接続処理を行う。位相接続処理は、φが逆正接関数であることによって、位相が-πのとき及び+πのときに生じる不連続(データの急変)を、連続したデータとなるように接続する処理をいう。ここでは、位相接続処理を「Unwrap(φ)」との関数で表示する。
【0030】
位置変換部192は、位相接続後の位相φとレーザのビームの波長λを用いて、以下の(6)式
x=(λ/4π)Unwrap(φ) …(6)
により、移動鏡の位置xを特定する。
【0031】
本発明に係る干渉計では、以上の処理を行うことにより、移動鏡が1波長分移動したときのような特定のタイミングのみならず、任意のタイミングにおいて移動鏡の位置xを求めることができるため、移動鏡の位置を高分解で特定することができる。
【0032】
(1-3) 振幅a
A及びa
B、平均値b
A及びb
B、並びに位相差Δφを較正する構成及び動作の例
次に、
図2を用いて、位相算出部18で用いるパラメータである振幅a
A及びa
B、平均値b
A及びb
B、並びに位相差Δφを較正するためのパラメータ較正部185の構成及びその動作を説明する。パラメータ較正部185は、データサンプリング部1851、サンプリングデータ記録部1852、パラメータ算出部1853、及び算出パラメータ出力部1854を有する。
【0033】
データサンプリング部1851は、所定のタイミング毎に、第1光検出器17A及び第2光検出器17Bで生成された第1正弦波信号I
A及び第2正弦波信号I
B、並びに逆正接処理部183から出力される、位相接続前の位相φのデータを取得するものである。ここで、それらの値を取得するタイミングは、例えば
図3(a)に丸印で示すように、第1正弦波信号I
A及び第2正弦波信号I
Bの1周期をN等分(Nは2以上の整数)したタイミング、すなわち位相φが(2πn/N)のときである(nは0~(N-1)の間の整数)N個のタイミングとすることができる。
図3(a)では、第1正弦波信号I
Aと第2正弦波信号I
Bの位相差Δφをほぼ90°として(90°とみなして)、I
Aの強度を縦軸、I
Bの強度を横軸にとったグラフにおいて両者の関係を円周で表している。
【0034】
I
A及びI
B並びにφのデータを取得するタイミングは
図3(a)の場合には限られず、
図3(b)及び(c)に示すタイミングとすることもできる。
図3(b)では、位相φが(2πn/N)であるタイミングよりも十分に短いサンプリングレートで繰り返しデータを取得しつつ、位相φが(2πn/N)となる直前及び直後に得られたデータを抽出して両データを補間することにより、(2πn/N)におけるデータを取得する。それら両データを補間する代わりに、それら両データの平均値を取ってもよいし、位相φが(2πn/N)となる直前又は直後のいずれかのデータのみを用いてもよい。このように位相φが(2πn/N)となる直前・直後に得られるデータを用いる方法は、第1正弦波信号I
A及び第2正弦波信号I
Bの周期が十分に長く、(2π/N)毎に十分に多くのデータを取得できる場合に有効である。
【0035】
一方、第1正弦波信号I
A及び第2正弦波信号I
Bの周期が十分に短い場合には、
図3(c)に示すように、できるだけ短いサンプリングレートで繰り返しデータを取得しつつ、位相φが(2πn/N±δ)の範囲内(δは2π/Nよりも十分に小さい値)に入ったときにのみデータを抽出する。1回のサンプリングの間に位相φが2π/Nを超えて変化するほど周期が短い場合には、1周期の間に(2πn/N)の各位相において取得することができるデータの数は0個か、せいぜい1個のみである。しかし、複数周期に亘ってデータを取得することにより、(2πn/N)の各位相におけるデータを2個以上取得することができる。このように(2πn/N)の各位相において、取得した2個のデータを補間することにより、(2πn/N)の各位相におけるデータを取得することができる。あるいは、取得した2個のデータの平均値を取ってもよいし、1個のみ取得したデータを用いてもよい。
【0036】
サンプリングデータ記録部1852は、データサンプリング部1851において各位相で取得したIA及びIB並びにφのデータを記録する。
【0037】
パラメータ算出部1853は、サンプリングデータ記録部1852に記録された、nが所定の範囲内にある位相におけるIA(n)及びIB(n)並びにφ(n)のデータを取得し、それらのデータに基づき、IA及びIBの振幅aA及びaB、IA及びIBの平均値bA及びbB、並びにIAとIBの位相差Δφの較正値を求める。以下では、1周期分のN個のデータを用いる場合を例として説明するが、使用するデータの個数はN個には限定されない。
【0038】
まず、I
Aの平均値b
Aの較正値は、N個のI
A(n)(n=0~(N-1))の和をNで除することにより求められる。I
Bの平均値b
Bの較正値も同様に、N個のI
B(n)(n=0~(N-1))の和をNで除することにより求められる。
【数2】
【0039】
I
Aの振幅a
Aの較正値は、N個のI
A(n)を離散フーリエ変換することにより得られる正規化周波数X
A(以下の(8a)式)の複素成分を用いて、以下の(9a)式により求められる。同様に、I
Bの振幅a
Bの較正値は、正規化周波数X
B(以下の(8b)式)の複素成分を用いて、以下の(9b)式により求められる。
【数3】
【数4】
【0040】
IAとIBの位相差Δφの較正値は、複素数XAの偏角∠XAと複素数XBの偏角∠XBの差より、以下の(10)式で求められる。
Δφ=∠XA-∠XB …(10)
【0041】
算出パラメータ出力部1854は、パラメータ算出部1853で求められた振幅aA及びaB、並びに平均値bA及びbBの較正値を正規化処理部181に出力すると共に、パラメータ算出部1853で算出された位相差Δφの較正値を位相差補正部182に出力する。正規化処理部181は、これら振幅aA及びaB、並びに平均値bA及びbBの較正値を用いて第1正弦波信号IA及び第2正弦波信号IBの正規化処理を行い、位相差補正部182は、位相差Δφの較正値を用いて位相の補正を行う。これにより、較正前の振幅aA及びaB、平均値bA及びbB、並びに位相差Δφを用いた場合よりも位相φの算出の精度を高くすることができ、得られる移動鏡の位置xの特定精度を高くすることができる。
【0042】
さらに、こうして得られた精度の高い位相φの値を用いてパラメータ較正部185によるパラメータの較正を行うという一連の操作を繰り返し行うことができる。これにより、得られる移動鏡の位置xの特定精度をより一層高くすることができる。したがって、初期に用いていたパラメータが仮に精度の低い値であったとしても、パラメータ較正部185により複数回、反復で処理することにより、所望の精度を得ることができる。具体的には、第1正弦波信号、第2正弦波信号のピークとバレーの平均より求めた平均値bA及びbB、ピークとバレーの差より求めた振幅aA及びaB、並びに位相差Δφ=π/2を初期値のパラメータとして用い、上記較正を複数回行えば良い。さらに、光学系の動的な変化に起因するパラメータの変化に対しても、反復して較正をし続けることで、常に高精度でパラメータを求めることができ、最終的に得られる移動鏡の位置xの特定精度も常に高精度に維持される。
【0043】
(2) FTIRの一実施形態
次に、
図4を用いて、干渉計移動鏡位置測定装置10が組み込まれたFTIR20について説明する。FTIR20は、赤外光源21と、前述のビームスプリッタ22、固定鏡23及び移動鏡24と、試料室25と、赤外光検出器26を有する。試料室25の手前には赤外光を該試料室25内の試料に集光する第1集光鏡251が、試料室25と赤外光検出器26の間には赤外光を赤外光検出器26に集光する第2集光鏡252が、それぞれ設けられている。赤外光源21から出射される赤外光は、ビームスプリッタ22に照射され、ビームスプリッタ22により固定鏡23及び移動鏡24に向かう2方向に分割される。固定鏡23及び移動鏡24でそれぞれ反射した赤外光はビームスプリッタ22に戻って合流する。ここで移動鏡24を移動させると、固定鏡23で反射される赤外光の光路と移動鏡24で反射される赤外光の光路長に差が生じ、該光路長差に応じて異なる位相で干渉した赤外干渉光が生成される。赤外干渉光は第1集光鏡251で集光されて試料室25内の試料に照射される。試料を通過した赤外干渉光は、赤外光検出器26で検出される。
【0044】
FTIR20に組み込まれた干渉計移動鏡位置測定装置10は、前述のレーザ光源11、1/8波長板15、偏光ビームスプリッタ16、第1光検出器17A、第2光検出器17B、位相算出部18、及び移動鏡位置決定部19の他に、赤外光源21とビームスプリッタ22の間に設けられた第1微小反射鏡111と、ビームスプリッタ22と第1集光鏡251の間に設けられた第2微小反射鏡112を有する。レーザ光源11は赤外光源21とビームスプリッタ22の間の赤外光の光路(
図4中の平行な2本の二点鎖線の間)から離れた位置に、レーザ光源11が発するビームが第1微小反射鏡111で反射されてビームスプリッタ22に入射するように配置されている。また、偏光ビームスプリッタ16はビームスプリッタ22と第1集光鏡251の赤外光の光路から離れた位置に、ビームスプリッタ22を通過したビームが第2微小反射鏡112で反射されて偏光ビームスプリッタ16に入射するように配置されている。第1微小反射鏡111及び第2微小反射鏡112はいずれも微小であるため、赤外光をほとんど妨げることなく通過させる。
【0045】
FTIR20によれば、干渉計移動鏡位置測定装置10で移動鏡24の位置を求めつつ、従来のFTIRと同様の方法でインターフェログラムを取得することができる。
【0046】
FTIR20はさらに、移動鏡24を所定の位置に停止させるフィードバック制御を行いながら、赤外光検出器26からの検出信号を取得する操作を一定間隔の異なる位置で繰り返し行うステップスキャン制御部27を備えることができる。これにより、ステップスキャンを高い精度で行うことができる。
【0047】
以上、本発明に係る干渉計移動鏡位置測定装置及びFTIRの実施形態を説明したが、本発明はこれらの実施形態には限定されず、本発明の主旨に沿って種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0048】
10…干渉計移動鏡位置測定装置
11、91…レーザ光源
111…第1微小反射鏡
112…第2微小反射鏡
15、95…1/8波長板
16、96…偏光ビームスプリッタ
17A、97A…第1光検出器
17B、97B…第2光検出器
18…位相算出部
181…正規化処理部
182…位相差補正部
183…逆正接処理部
185…パラメータ較正部
1851…データサンプリング部
1852…サンプリングデータ記録部
1853…パラメータ算出部
1854…算出パラメータ出力部
19…移動鏡位置決定部
191…位相接続部
192…位置変換部
20…FTIR
21…赤外光源
22、92…ビームスプリッタ
23、93…固定鏡
24、94…移動鏡
25…試料室
251…第1集光鏡
252…第2集光鏡
26…赤外光検出器
27…ステップスキャン制御部
90…レーザ干渉計
98A…第1波形成形器
98B…第2波形成形器
99…アップダウンカウンタ