(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】非水電解液および非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20220705BHJP
H01M 10/052 20100101ALN20220705BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2020562424
(86)(22)【出願日】2019-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2019051195
(87)【国際公開番号】W WO2020138317
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-04-08
(31)【優先権主張番号】P 2018245800
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100082762
【氏名又は名称】杉浦 正知
(74)【代理人】
【識別番号】100123973
【氏名又は名称】杉浦 拓真
(72)【発明者】
【氏名】日浅 巧
(72)【発明者】
【氏名】本橋 一成
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-154783(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0058707(KR,A)
【文献】特開平10-189042(JP,A)
【文献】特開2004-22523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00- 4/62
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)で表される化合物と、
環状硫酸エステルと
を含む非水電解液。
【化1】
(式(1)中、mは0以上10以下の整数、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭化水素基、ハロゲン基または水素基である。但し、mが2以上である場合、2以上のR
4は同一でも異なっていてもよいし、2以上のR
5は同一でも異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記式(1)中、mは1以上6以下の整数である請求項1に記載の非水電解液。
【請求項3】
前記環状硫酸エステルは、下記の式(2)で表される請求項1または2に記載の非水電解液。
【化2】
(式(2)中、nは0以上2以下の整数、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭化水素基、ハロゲン基または水素基である。但し、nが2である場合、2つのR
8は同一でも異なっていてもよいし、2つのR
9は同一でも異なっていてもよい。)
【請求項4】
前記式(2)中、nは0である請求項3に記載の非水電解液。
【請求項5】
前記環状硫酸エステルは、硫酸エチレンである請求項1から4のいずれかに記載の非水電解液。
【請求項6】
正極と、
負極と、
請求項1から5のいずれかに記載された前記非水電解液と
を備える非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液および非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池は、軽量で高エネルギー密度を有するために、電子機器や電気自動車等の電源として広く用いられている。非水電解質二次電池の特性は、使用する非水電解液に大きく左右されるため、非水電解液に添加される種々の添加剤が提案されている。
【0003】
特許文献1~3には、末端にシアノ基を有するシアノエステル化合物を添加剤として含有する非水電解液が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2011/034067号パンフレット
【文献】国際公開第2015/088051号パンフレット
【文献】特開2015-69704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のシアノエステル化合物を含有する非水電解液では、非水電解質二次電池の保存時の容量低下を抑制することはできるが、上記のシアノエステル化合物の反応により非水電解質二次電池のサイクル特性が低下する。
【0006】
本発明の目的は、保存時の容量低下およびサイクル特性の低下を抑制することができる非水電解液および非水電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するために、第1の発明は、下記の式(1)で表される化合物と、環状硫酸エステルとを含む非水電解液である。
【化1】
(式(1)中、mは0以上10以下の整数、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭化水素基、ハロゲン基または水素基である。但し、mが2以上である場合、2以上のR
4は同一でも異なっていてもよいし、2以上のR
5は同一でも異なっていてもよい。)
【0008】
第2の発明は、正極と、負極と、第1の発明に係る非水電解液とを備える非水電解質二次電池である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、非水電解質二次電池の保存時の容量低下およびサイクル特性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第2の実施形態に係る非水電解質二次電池の構成の一例を示す分解斜視図である。
【
図3】本発明の第3の実施形態に係る電子機器の構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値または下限値は、他の段階の数値範囲の上限値または下限値に置き換えてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0012】
本発明の実施形態について以下の順序で説明する。
1 第1の実施形態(非水電解液の例)
2 第2の実施形態(ラミネート型電池の例)
3 第3の実施形態(電子機器の例)
【0013】
<1 第1の実施形態>
[電解液の組成]
本発明の第1の実施形態に係る電解液は、いわゆる非水電解液であり、有機溶媒(非水溶媒)と、電解質塩と、第1の添加剤と、第2の添加剤とを含んでいる。この電解液は、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池(以下単に「電池」という。)に用いて好適なものである。
【0014】
(有機溶媒)
有機溶媒としては、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン等の環状の炭酸エステルを用いることができ、炭酸エチレンおよび炭酸プロピレンのうちの一方、特に両方を混合して用いることが好ましい。サイクル特性をさらに向上させることができるからである。
【0015】
有機溶媒としては、また、これらの環状の炭酸エステルに加えて、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルまたは炭酸メチルプロピル等の鎖状の炭酸エステルを混合して用いることが好ましい。高いイオン伝導性を得ることができるからである。
【0016】
これらの他にも、有機溶媒としては、例えば、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチル等の鎖状カルボン酸エステル、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等のラクトン、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン等のエーテル類、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3-メトキシプロピロニトリル等のニトリル化合物、N,N-ジメチルフォルムアミド、N-メチルピロリジノン、N-メチルオキサゾリジノン、N,N-ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、ジメチルスルフォキシドおよびリン酸トリメチル等からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0017】
また、有機溶媒としては、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン等のハロゲン化炭酸エステル、炭酸ビニレン等の不飽和環状炭酸エステル、1,3-プロペンスルトン等のスルホン酸エステル、カルボン酸無水物、ジスルホン酸無水物およびカルボン酸スルホン酸無水物等の酸無水物、リン酸トリメチル等のリン酸エステルをさらに含むことができる。例えば、炭酸ビニレンはサイクル特性をさらに向上させることができる。
【0018】
なお、これらの有機溶媒の少なくとも一部の水素をフッ素で置換した化合物は、組み合わせる電極の種類によっては、電極反応の可逆性を向上させることができる場合があるので、好ましい場合もある。
【0019】
(電解質塩)
電解質塩としては、例えば、リチウム塩が挙げられ、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。リチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4、LiB(C6H5)4、LiCH3SO3、LiCF3SO3、LiN(SO2CF3)2、LiC(SO2CF3)3、LiAlCl4、LiSiF6、LiCl、ジフルオロ[オキソラト-O,O']ホウ酸リチウム、リチウムビスオキサレートボレート、またはLiBr等が挙げられる。中でも、LiPF6は高いイオン伝導性を得ることができると共に、サイクル特性をさらに向上させることができるので好ましい。
【0020】
(第1の添加剤)
第1の添加剤は、下記の式(1)で表される化合物である。電解液が第1の添加剤を含むことで、保存時の容量低下を抑制することができる。
【化1】
(式(1)中、mは0以上10以下の整数、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭化水素基、ハロゲン基または水素基である。但し、mが2以上である場合、2以上のR
4は同一でも異なっていてもよいし、2以上のR
5は同一でも異なっていてもよい。)
【0021】
式(1)中のmは、好ましくは1以上6以下の整数、より好ましくは3以上6以下の整数である。式(1)中のmが1以上6以下であると、保存時の容量低下およびサイクル特性の低下を特に抑制することができる。
【0022】
式(1)において、炭化水素基は、炭素(C)および水素(H)により構成される基の総称であり、飽和炭化水素基であってもよいし、不飽和炭化水素基であってもよい。ここで、飽和炭化水素基は、炭素間多重結合を有しない脂肪族炭化水素基であり、不飽和炭化水素基は、炭素間多重結合(炭素間二重結合または炭素間三重結合)を有する脂肪族炭化水素基である。また、炭化水素基は、直鎖状でもよいし、1または2以上の側鎖等を有する分岐状でも、1個または2個以上の環を有する環状でもよいが、電解液の化学的安定性がより向上するため、直鎖状であることが好ましい。
【0023】
炭化水素基が有しいてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン基またはハロゲン基を有するアルキル基等が挙げられる。
【0024】
式(1)が炭化水素基を含む場合、その炭化水素基に含まれる炭素数は、好ましくは1以上5以下、より好ましくは1以上3以下である。
【0025】
式(1)がハロゲン基を含む場合、そのハロゲン基は、例えば、フッ素基(-F)、塩素基(-Cl)、臭素基(-Br)またはヨウ素基(-I)、好ましくは、フッ素基(-F)である。
【0026】
式(1)においてR2、R3、R4、R5が水素基であると、電解液の化学的安定性がより向上するため好ましい。
【0027】
電解液中における第1の添加剤の含有量は、好ましくは0.01質量%以上10質量%以下、より好ましくは1質量%以上3質量%以下である。第1の添加剤の含有量が0.01質量%以上であると、第1の添加剤の機能を効果的に発現することができる。したがって、電池の保存時の容量低下をさらに抑制することができる。一方、第1の添加剤の含有量が10質量%以下であると、第1の添加剤の過剰な反応による電池特性の低下を抑制することができる。
【0028】
第1の添加剤の含有量は、次のようにして求められる。まず、電池をグローブボックス等の不活性雰囲気下にて解体し、ジメチルカーボネート(DMC)等の溶媒を用いて電解液成分を抽出する。次に、得られた抽出液にGC-MS(Gas Chromatograph-Mass Spectrometry)測定を実施することにより、電解液中における第1の添加剤の含有量を求める。
【0029】
第1の添加剤の具体例としては、下記の式(1-1)~(1-4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。なお、以下では、式(1-1)~(1-4)で表される化合物をそれぞれ化合物(1-1)~(1-4)という。
【化1A】
【0030】
(第2の添加剤)
第2の添加剤は、環状硫酸エステルである。電解液が添加剤として第1の添加剤を単独で含む場合、第1の添加剤の反応によりサイクル特性が低下する傾向がある。電解液が第1の添加剤と共に第2の添加剤を含むことで、第1の添加剤の反応によりサイクル特性が低下することを抑制することができる。
【0031】
環状硫酸エステルは、例えば、下記の式(2)で表される。
【化2】
(式(2)中、nは0以上2以下の整数、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭化水素基、ハロゲン基または水素基である。但し、nが2である場合、2つのR
8は同一でも異なっていてもよいし、2つのR
9は同一でも異なっていてもよい。)
【0032】
式(2)中のnは0であることが好ましい。nが0であると、保存時の容量低下およびサイクル特性の低下を特に抑制することができる。式(2)中のnが0である化合物のうちでも硫酸エチレン(エチレンサルフェート)が、上記抑制効果の発現が顕著であるため、特に好ましい。
【0033】
式(2)において、炭化水素基は、上述の式(1)における炭化水素基と同様である。式(2)においてR6、R7、R8、R9、R10、R11が水素基であると、電解液の化学的安定性がより向上するため好ましい。
【0034】
電解液中における第2の添加剤の含有量は、好ましくは0.01質量%以上10質量%以下、より好ましくは1質量%以上3質量%以下である。第2の添加剤の含有量が0.01質量%以上であると、第2の添加剤の機能を効果的に発現することができる。したがって、サイクル特性の低下をさらに抑制することができる。一方、第2の添加剤の含有量が10質量%以下であると、第2の添加剤の過剰な反応による電池特性の低下を抑制することができる。
【0035】
第2の添加剤の含有量は、上述の第1の添加剤の含有量と同様にして求められる。
【0036】
第2の添加剤の具体例としては、硫酸エチレン、硫酸プロピレンおよび硫酸ブチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0037】
[効果]
上述したように、第1の実施形態に係る電解液は、第1の添加剤として上記の式(1)で表される化合物と、第2の添加剤として環状硫酸エステルとを含む。電解液が第1の添加剤を含むことで、電池の保存時の容量低下を抑制することができる。また、電解液が第2の添加剤を含むことで、第1の添加剤の反応により電池のサイクル特性が低下することを抑制することができる。したがって、電池の保存時の容量低下およびサイクル特性の低下を抑制することができる
【0038】
<2 第2の実施形態>
第2の実施形態では、上述の第1の実施形態に係る電解液を備える電池について説明する。
【0039】
[電池の構成]
図1は、本発明の第2の実施形態に係る電池の構成の一例を示す。電池は、いわゆるラミネート型電池であり、正極リード11および負極リード12が取り付けられた巻回型の電極体20と、電解質としての電解液(図示せず)と、これらの電極体20および電解液を収容するフィルム状の外装材10とを備えたものであり、小型化、軽量化および薄型化が可能となっている。
【0040】
正極リード11および負極リード12は、それぞれ、外装材10の内部から外部に向かい、例えば同一方向に導出されている。正極リード11および負極リード12は、例えば、Al、Cu、Niまたはステンレス鋼等の金属材料によりそれぞれ構成されており、それぞれ薄板状または網目状とされている。
【0041】
外装材10は、例えば、ナイロンフィルム、アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムをこの順に貼り合わせた矩形状のアルミラミネートフィルムにより構成されている。外装材10は、例えば、ポリエチレンフィルム側と電極体20とが対向するように配設されており、各外縁部が融着または接着剤により互いに密着されている。外装材10と正極リード11および負極リード12との間には、外気の侵入を抑制するための密着フィルム13が挿入されている。密着フィルム13は、正極リード11および負極リード12に対して密着性を有する材料、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンまたは変性ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂により構成されている。
【0042】
なお、外装材10は、上述したアルミラミネートフィルムに代えて、他の構造を有するラミネートフィルム、ポリプロピレン等の高分子フィルムまたは金属フィルムにより構成されていてもよい。あるいは、アルミニウム製フィルムを心材として、その片面または両面に高分子フィルムを積層したラミネートフィルムにより構成されていてもよい。
【0043】
図2は、
図1に示した電極体20のII-II線に沿った断面図である。電極体20は、長尺状を有する正極21と、長尺状を有する負極22と、正極21および負極22の間に設けられ、長尺状を有するセパレータ23とを備える。電極体20は、正極21と負極22とをセパレータ23を介して積層し、扁平状かつ渦巻状になるように長手方向に巻回された構成を有しており、最外周部は保護テープ24により保護されている。正極21、負極22およびセパレータ23には、電解液が含浸されている。
【0044】
以下、電池を構成する正極21、負極22、セパレータ23および電解液について順次説明する。
【0045】
(正極)
正極21は、例えば、正極集電体21Aと、正極集電体21Aの両面に設けられた正極活物質層21Bとを備える。正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム箔、ニッケル箔またはステンレス箔等の金属箔により構成されている。正極活物質層21Bは、リチウムを吸蔵および放出することが可能な1種または2種以上の正極活物質を含む。正極活物質層21Bは、必要に応じてバインダーおよび導電剤のうちの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。
【0046】
(正極活物質)
正極活物質としては、例えば、リチウム酸化物、リチウムリン酸化物、リチウム硫化物またはリチウムを含む層間化合物等のリチウム含有化合物が適当であり、これらの2種以上を混合して用いてもよい。エネルギー密度を高くするには、リチウムと遷移金属元素と酸素とを含むリチウム含有化合物が好ましい。このようなリチウム含有化合物としては、例えば、式(A)に示した層状岩塩型の構造を有するリチウム複合酸化物、式(B)に示したオリビン型の構造を有するリチウム複合リン酸塩等が挙げられる。リチウム含有化合物としては、遷移金属元素として、Co、Ni、MnおよびFeからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものであればより好ましい。このようなリチウム含有化合物としては、例えば、式(C)、式(D)もしくは式(E)に示した層状岩塩型の構造を有するリチウム複合酸化物、式(F)に示したスピネル型の構造を有するリチウム複合酸化物、または式(G)に示したオリビン型の構造を有するリチウム複合リン酸塩等が挙げられ、具体的には、LiNi0.50Co0.20Mn0.30O2、LiCoO2、LiNiO2、LiNiaCo1-aO2(0<a<1)、LiMn2O4またはLiFePO4等がある。
【0047】
LipNi(1-q-r)MnqM1rO(2-y)Xz ・・・(A)
(但し、式(A)中、M1は、Ni、Mnを除く2族~15族から選ばれる元素のうち少なくとも一種を示す。Xは、酸素以外の16族元素および17族元素からなる群より選ばれる少なくとも1種を示す。p、q、y、zは、0≦p≦1.5、0≦q≦1.0、0≦r≦1.0、-0.10≦y≦0.20、0≦z≦0.2の範囲内の値である。)
【0048】
LiaM2bPO4 ・・・(B)
(但し、式(B)中、M2は、2族~15族から選ばれる元素のうち少なくとも一種を示す。a、bは、0≦a≦2.0、0.5≦b≦2.0の範囲内の値である。)
【0049】
LifMn(1-g-h)NigM3hO(2-j)Fk ・・・(C)
(但し、式(C)中、M3は、Co、Mg、Al、B、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Zr、Mo、Sn、Ca、SrおよびWからなる群より選ばれる少なくとも1種を表す。f、g、h、jおよびkは、0.8≦f≦1.2、0<g<0.5、0≦h≦0.5、g+h<1、-0.1≦j≦0.2、0≦k≦0.1の範囲内の値である。なお、リチウムの組成は充放電の状態によって異なり、fの値は完全放電状態における値を表している。)
【0050】
LimNi(1-n)M4nO(2-p)Fq ・・・(D)
(但し、式(D)中、M4は、Co、Mn、Mg、Al、B、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Mo、Sn、Ca、SrおよびWからなる群より選ばれる少なくとも1種を表す。m、n、pおよびqは、0.8≦m≦1.2、0.005≦n≦0.5、-0.1≦p≦0.2、0≦q≦0.1の範囲内の値である。なお、リチウムの組成は充放電の状態によって異なり、mの値は完全放電状態における値を表している。)
【0051】
LirCo(1-s)M5sO(2-t)Fu ・・・(E)
(但し、式(E)中、M5は、Ni、Mn、Mg、Al、B、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Mo、Sn、Ca、SrおよびWからなる群より選ばれる少なくとも1種を表す。r、s、tおよびuは、0.8≦r≦1.2、0≦s<0.5、-0.1≦t≦0.2、0≦u≦0.1の範囲内の値である。なお、リチウムの組成は充放電の状態によって異なり、rの値は完全放電状態における値を表している。)
【0052】
LivMn2-wM6wOxFy ・・・(F)
(但し、式(F)中、M6は、Co、Ni、Mg、Al、B、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Mo、Sn、Ca、SrおよびWからなる群より選ばれる少なくとも1種を表す。v、w、xおよびyは、0.9≦v≦1.1、0≦w≦0.6、3.7≦x≦4.1、0≦y≦0.1の範囲内の値である。なお、リチウムの組成は充放電の状態によって異なり、vの値は完全放電状態における値を表している。)
【0053】
LizM7PO4 ・・・(G)
(但し、式(G)中、M7は、Co、Mg、Fe、Ni、Mg、Al、B、Ti、V、Nb、Cu、Zn、Mo、Ca、Sr、WおよびZrからなる群より選ばれる少なくとも1種を表す。zは、0.9≦z≦1.1の範囲内の値である。なお、リチウムの組成は充放電の状態によって異なり、zの値は完全放電状態における値を表している。)
【0054】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極活物質としては、これらの他にも、MnO2、V2O5、V6O13、NiS、MoS等のリチウムを含まない無機化合物を用いることもできる。
【0055】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極活物質は、上記以外のものであってもよい。また、上記で例示した正極活物質は、任意の組み合わせで2種以上混合されてもよい。
【0056】
(バインダー)
バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、およびこれら樹脂材料のうちの1種を主体とする共重合体等からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0057】
(導電剤)
導電剤としては、例えば、黒鉛、炭素繊維、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブおよびグラフェン等からなる群より選ばれる少なくとも1種の炭素材料を用いることができる。なお、導電剤は導電性を有する材料であればよく、炭素材料に限定されるものではない。例えば、導電剤として金属材料または導電性高分子材料等を用いるようにしてもよい。また、導電剤の形状としては、例えば、粒状、鱗片状、中空状、針状または筒状等が挙げられるが、特にこれらの形状に限定されるものではない。
【0058】
(負極)
負極22は、例えば、負極集電体22Aと、負極集電体22Aの両面に設けられた負極活物質層22Bとを備える。負極集電体22Aは、例えば、銅箔、ニッケル箔またはステンレス箔等の金属箔により構成されている。負極活物質層22Bは、リチウムを吸蔵および放出することが可能な1種または2種以上の負極活物質を含む。負極活物質層22Bは、必要に応じてバインダーおよび導電剤のうちの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。
【0059】
なお、この電池では、負極22または負極活物質の電気化学当量が、正極21の電気化学当量よりも大きくなっており、理論上、充電の途中において負極22にリチウム金属が析出しないようになっていることが好ましい。
【0060】
(負極活物質)
負極活物質としては、例えば、難黒鉛化性炭素、易黒鉛化性炭素、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維または活性炭等の炭素材料が挙げられる。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスまたは石油コークス等がある。有機高分子化合物焼成体というのは、フェノール樹脂やフラン樹脂等の高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいい、一部には難黒鉛化性炭素または易黒鉛化性炭素に分類されるものもある。これら炭素材料は、充放電時に生じる結晶構造の変化が非常に少なく、高い充放電容量を得ることができると共に、良好なサイクル特性を得ることができるので好ましい。特に黒鉛は、電気化学当量が大きく、高いエネルギー密度を得ることができ好ましい。また、難黒鉛化性炭素は、優れたサイクル特性が得られるので好ましい。さらにまた、充放電電位が低いもの、具体的には充放電電位がリチウム金属に近いものが、電池の高エネルギー密度化を容易に実現することができるので好ましい。
【0061】
また、高容量化が可能な他の負極活物質としては、金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素(例えば、合金、化合物または混合物)として含む材料も挙げられる。このような材料を用いれば、高いエネルギー密度を得ることができるからである。特に、炭素材料と共に用いるようにすれば、高エネルギー密度を得ることができると共に、優れたサイクル特性を得ることができるのでより好ましい。なお、本発明において、合金には2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含める。また、非金属元素を含んでいてもよい。その組織には固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物またはそれらのうちの2種以上が共存するものがある。
【0062】
このような負極活物質としては、例えば、リチウムと合金を形成することが可能な金属元素または半金属元素が挙げられる。具体的には、Mg、B、Al、Ti、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Bi、Cd、Ag、Zn、Hf、Zr、Y、PdまたはPtが挙げられる。これらは結晶質のものでもアモルファスのものでもよい。
【0063】
このような負極活物質としては、短周期型周期表における4B族の金属元素または半金属元素を構成元素として含むものが挙げられ、その中で好ましいのはSiおよびSnの少なくとも一方を構成元素として含むものである。SiおよびSnは、リチウムを吸蔵および放出する能力が大きく、高いエネルギー密度を得ることができるからである。このような負極活物質としては、例えば、Siの単体、合金または化合物や、Snの単体、合金または化合物や、それらの1種または2種以上を少なくとも一部に有する材料が挙げられる。
【0064】
Siの合金としては、例えば、Si以外の第2の構成元素として、Sn、Ni、Cu、Fe、Co、Mn、Zn、In、Ag、Ti、Ge、Bi、Sb、Nb、Mo、Al、P、GaおよびCrからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものが挙げられる。Snの合金としては、例えば、Sn以外の第2の構成元素として、Si、Ni、Cu、Fe、Co、Mn、Zn、In、Ag、Ti、Ge、Bi、Sb、Nb、Mo、Al、P、GaおよびCrからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものが挙げられる。
【0065】
Snの化合物またはSiの化合物としては、例えば、OまたはCを構成元素として含むものが挙げられる。これらの化合物は、上述した第2の構成元素を含んでいてもよい。
【0066】
中でも、Sn系の負極活物質としては、Coと、Snと、Cとを構成元素として含み、結晶性の低いまたは非晶質な構造を有していることが好ましい。
【0067】
その他の負極活物質としては、例えば、リチウムを吸蔵および放出することが可能な金属酸化物または高分子化合物等も挙げられる。金属酸化物としては、例えば、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)等のLiとTiとを含むリチウムチタン酸化物、酸化鉄、酸化ルテニウムまたは酸化モリブデン等が挙げられる。高分子化合物としては、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンまたはポリピロール等が挙げられる。
【0068】
(バインダー)
バインダーとしては、正極活物質層21Bと同様のものを用いることができる。
【0069】
(導電剤)
導電剤としては、正極活物質層21Bと同様のものを用いることができる。
【0070】
(セパレータ)
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオレフィン樹脂(ポリプロピレン(PP)またはポリエチレン(PE)等)、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂またはナイロン樹脂、または、これらの樹脂をブレンドした樹脂からなる多孔質膜によって構成されており、これらの2種以上の多孔質膜を積層した構造とされていてもよい。
【0071】
中でも、ポリオレフィン製の多孔質膜は短絡防止効果に優れ、かつシャットダウン効果による電池の安全性向上を図ることができるので好ましい。特にポリエチレンは、100℃以上160℃以下の範囲内においてシャットダウン効果を得ることができ、かつ電気化学的安定性にも優れているので、セパレータ23を構成する材料として好ましい。その中でも、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状ポリエチレンは溶融温度が適当であり、入手が容易なので好適に用いられる。他にも、化学的安定性を備えた樹脂を、ポリエチレンまたはポリプロピレンと共重合またはブレンド化した材料を用いることができる。あるいは、多孔質膜は、ポリプロピレン層と、ポリエチレン層と、ポリプロピレン層を順次に積層した3層以上の構造を有していてもよい。例えば、PP/PE/PPの三層構造とし、PPとPEの質量比[wt%]が、PP:PE=60:40~75:25とすることが望ましい。あるいは、コストの観点から、PPが100wt%またはPEが100wt%の単層基材とすることもできる。セパレータ23の作製方法としては、湿式、乾式を問わない。
【0072】
セパレータ23としては、不織布を用いてもよい。不織布を構成する繊維としては、アラミド繊維、ガラス繊維、ポリオレフィン繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、またはナイロン繊維等を用いることができる。また、これら2種以上の繊維を混合して不織布としてもよい。
【0073】
セパレータ23は、基材と、基材の片面または両面に設けられた表面層を備える構成を有していてもよい。表面層は、電気的な絶縁性を有する無機粒子と、無機粒子を基材の表面に結着すると共に、無機粒子同士を結着する樹脂材料とを含む。この樹脂材料は、例えば、フィブリル化し、複数のフィブリルが繋がった三次元的なネットワーク構造を有していてもよい。無機粒子は、この三次元的なネットワーク構造を有する樹脂材料に担持されている。また、樹脂材料はフィブリル化せずに基材の表面や無機粒子同士を結着してもよい。この場合、より高い結着性を得ることができる。上述のように基材の片面または両面に表面層を設けることで、セパレータ23の耐酸化性、耐熱性および機械強度を高めることができる。
【0074】
基材は、リチウムイオンを透過し、所定の機械的強度を有する絶縁性の膜から構成される多孔質膜であり、基材の空孔には電解液が保持されるため、電解液に対する耐性が高く、反応性が低く、膨張しにくいという特性を有することが好ましい。
【0075】
基材を構成する材料としては、上述したセパレータ23を構成する樹脂材料や不織布を用いることができる。
【0076】
無機粒子は、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物および金属硫化物等からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。金属酸化物としては、酸化アルミニウム(アルミナ、Al2O3)、ベーマイト(水和アルミニウム酸化物)、酸化マグネシウム(マグネシア、MgO)、酸化チタン(チタニア、TiO2)、酸化ジルコニウム(ジルコニア、ZrO2)、酸化ケイ素(シリカ、SiO2)または酸化イットリウム(イットリア、Y2O3)等を好適に用いることができる。金属窒化物としては、窒化ケイ素(Si3N4)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化硼素(BN)または窒化チタン(TiN)等を好適に用いることができる。金属炭化物としては、炭化ケイ素(SiC)または炭化ホウ素(B4C)等を好適に用いることができる。金属硫化物としては、硫酸バリウム(BaSO4)等を好適に用いることができる。上述の金属酸化物の中でも、アルミナ、チタニア(特にルチル型構造を有するもの)、シリカまたはマグネシアを用いることが好ましく、アルミナを用いることがより好ましい。
【0077】
また、無機粒子が、ゼオライト(M2/nO・Al2O3・xSiO2・yH2O、Mは金属元素、x≧2、y≧0)等の多孔質アルミノケイ酸塩、層状ケイ酸塩、チタン酸バリウム(BaTiO3)またはチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)等の鉱物を含むようにしてもよい。無機粒子は耐酸化性および耐熱性を備えており、無機粒子を含有する正極対向側面の表面層は、充電時の正極近傍における酸化環境に対しても強い耐性を有する。無機粒子の形状は特に限定されるものではなく、球状、板状、繊維状、キュービック状およびランダム形状等のいずれも用いることができる。
【0078】
無機粒子の粒径は、1nm以上10μm以下の範囲内であることが好ましい。1nmより小さいと入手が困難であり、10μmより大きいと電極間距離が大きくなり、限られたスペースで活物質充填量が十分得られず電池容量が低下してしまうからである。
【0079】
表面層を構成する樹脂材料としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素樹脂、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等の含フッ素ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体またはその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体またはその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体またはその水素化物、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル-アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等のゴム類、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、全芳香族ポリアミド(アラミド)等のポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリエーテル、アクリル酸樹脂またはポリエステル等の融点およびガラス転移温度の少なくとも一方が180℃以上の高い耐熱性を有する樹脂等が挙げられる。これら樹脂材料は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。中でも、耐酸化性および柔軟性の観点からは、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂が好ましく、耐熱性の観点からは、アラミドまたはポリアミドイミドを含むことが好ましい。
【0080】
表面層の形成方法としては、例えば、マトリックス樹脂、溶媒および無機粒子からなるスラリーを基材(多孔質膜)上に塗布し、マトリックス樹脂の貧溶媒且つ上記溶媒の親溶媒浴中を通過させて相分離させ、その後、乾燥させる方法を用いることができる。
【0081】
なお、上述した無機粒子は、基材としての多孔質膜に含有されていてもよい。また、表面層が無機粒子を含まず、樹脂材料のみにより構成されていてもよい。
【0082】
(電解液)
電解液としては、上述の第1の実施形態に係る電解液が用いられる。なお、電解質として、電解液に代えて、電解液と、この電解液を保持する保持体となる高分子化合物とを含む電解質層を用いるようにしてもよい。この場合、電解質層は、ゲル状となっていてもよい。
【0083】
[正極電位]
満充電状態における正極電位(vsLi/Li+)が4.40V以上である電池において、電解液に第1の添加剤および第2の添加剤を添加した効果(すなわち保存時の容量低下およびサイクル特性の低下を抑制する効果)が顕著に発現する。満充電状態における正極電位(vsLi/Li+)の上限値は、電池特性の低下を抑制する観点から、好ましくは5.00V以下、より好ましくは4.70V以下である。
【0084】
[電池の動作]
上述の構成を有する電池では、充電を行うと、例えば、正極活物質層21Bからリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極活物質層22Bに吸蔵される。また、放電を行うと、例えば、負極活物質層22Bからリチウムイオンが放出され、電解液を介して正極活物質層21Bに吸蔵される。
【0085】
[電池の製造方法]
次に、本発明の第2の実施形態に係る電池の製造方法の一例について説明する。
【0086】
(正極の作製工程)
正極21は次のようにして作製される。まず、例えば、正極活物質と、バインダーと、導電剤とを混合して正極合剤を調製し、この正極合剤をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーを作製する。次に、この正極合剤スラリーを正極集電体21Aの両面に塗布し溶剤を乾燥させ、ロールプレス機等により圧縮成型することにより正極活物質層21Bを形成し、正極21を得る。
【0087】
(負極の作製工程)
負極22は次のようにして作製される。まず、例えば、負極活物質と、バインダーとを混合して負極合剤を調製し、この負極合剤をN-メチル-2-ピロリドン等の溶剤に分散させてペースト状の負極合剤スラリーを作製する。次に、この負極合剤スラリーを負極集電体22Aの両面に塗布し溶剤を乾燥させ、ロールプレス機等により圧縮成型することにより負極活物質層22Bを形成し、負極22を得る。
【0088】
(電極体の作製工程)
巻回型の電極体20を次のようにして作製する。まず、正極集電体21Aの一方の端部に正極リード11を溶接により取り付けると共に、負極集電体22Aの一方の端部に負極リード12を溶接により取り付ける。次に、正極21と負極22とをセパレータ23を介して扁平状の巻芯の周囲に巻き付けて、長手方向に多数回巻回したのち、最外周部に保護テープ24を接着して電極体20を得る。
【0089】
(封止工程)
外装材10により電極体20を次のようにして封止する。まず、電極体20を外装材10に挟み、一辺を除く外周縁部を熱融着して袋状とし、外装材10の内部に収納する。その際、正極リード11および負極リード12と外装材10との間に密着フィルム13を挿入する。なお、正極リード11、負極リード12にそれぞれ密着フィルム13を予め取り付けておいてもよい。次に、未融着の一辺から電解液を外装材10の内部に注入したのち、未融着の一辺を真空雰囲気下で熱融着して密封する。以上により、
図1に示した電池が得られる。
【0090】
[効果]
上述したように、第2の実施形態に係る電池は、第1の実施形態に係る電解液を備えるので、保存時の容量低下およびサイクル特性の低下を抑制することができる
【0091】
<3 第3の実施形態>
第3の実施形態では、上述の第2の実施形態に係る電池を備える電子機器について説明する。
【0092】
図3は、本発明の第3の実施形態に係る電子機器100の構成の一例を示す。電子機器100は、電子機器本体の電子回路110と、電池パック120とを備える。電池パック120は、正極端子123aおよび負極端子123bを介して電子回路110に対して電気的に接続されている。電子機器100は、電池パック120を着脱自在な構成を有していてもよい。
【0093】
電子機器100としては、例えば、ノート型パーソナルコンピュータ、タブレット型コンピュータ、携帯電話(例えばスマートフォン等)、携帯情報端末(Personal Digital Assistants:PDA)、表示装置(LCD(Liquid Crystal Display)、EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、電子ペーパ等)、撮像装置(例えばデジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ等)、オーディオ機器(例えばポータブルオーディオプレイヤー)、ゲーム機器、コードレスフォン子機、電子書籍、電子辞書、ラジオ、ヘッドホン、ナビゲーションシステム、メモリーカード、ペースメーカー、補聴器、電動工具、電気シェーバー、冷蔵庫、エアコン、テレビ、ステレオ、温水器、電子レンジ、食器洗い器、洗濯機、乾燥器、照明機器、玩具、医療機器、ロボット、ロードコンディショナーまたは信号機等が挙げられるが、これらに限定されるものでなない。
【0094】
(電子回路)
電子回路110は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、周辺ロジック部、インターフェース部および記憶部等を備え、電子機器100の全体を制御する。
【0095】
(電池パック)
電池パック120は、組電池121と、充放電回路122とを備える。電池パック120が、必用に応じて組電池121および充放電回路122を収容する外装材(図示せず)をさらに備えるようにしてもよい。
【0096】
組電池121は、複数の二次電池121aを直列および/または並列に接続して構成されている。複数の二次電池121aは、例えばn並列m直列(n、mは正の整数)に接続される。なお、
図3では、6つの二次電池121aが2並列3直列(2P3S)に接続された例が示されている。二次電池121aとしては、上述の第2の実施形態に係る電池が用いられる。
【0097】
ここでは、電池パック120が、複数の二次電池121aにより構成される組電池121を備える場合について説明するが、電池パック120が、組電池121に代えて1つの二次電池121aを備える構成を採用してもよい。
【0098】
充放電回路122は、組電池121の充放電を制御する制御部である。具体的には、充電時には、充放電回路122は、組電池121に対する充電を制御する。一方、放電時(すなわち電子機器100の使用時)には、充放電回路122は、電子機器100に対する放電を制御する。
【0099】
外装材としては、例えば、金属、高分子樹脂またはこれらの複合材料等より構成されるケースを用いることができる。複合材料としては、例えば、金属層と高分子樹脂層とが積層された積層体が挙げられる。
【実施例】
【0100】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0101】
[実施例1]
(正極の作製工程)
正極を次のようにして作製した。まず、正極活物質(コバルト酸リチウム(LiCoO2))91質量部と、正極バインダー(ポリフッ化ビニリデン)3質量部と、正極導電剤(黒鉛)6質量部とを混合することにより、正極合剤とした。続いて、正極合剤を有機溶剤(N-メチル-2-ピロリドン)に投入したのち、その有機溶剤を撹拌することにより、ペースト状の正極合剤スラリーを調製した。次に、コーティング装置を用いて正極集電体(帯状のアルミニウム箔、厚さ12μm)の両面に正極合剤スラリーを塗布したのち、その正極合剤スラリーを乾燥させることにより、正極活物質層を形成した。最後に、ロールプレス機を用いて正極活物質層を圧縮成型した。
【0102】
(負極の作製工程)
負極を次のようにして作製した。まず、負極活物質(黒鉛、メジアン径D50=20μm)95質量部と、負極バインダー(ポリフッ化ビニリデン)5質量部とを混合することにより、負極合剤とした。続いて、負極合剤を有機溶剤(N-メチル-2-ピロリドン)に投入したのち、その有機溶剤を撹拌することにより、ペースト状の負極合剤スラリーとした。次に、コーティング装置を用いて負極集電体(帯状の銅箔、厚さ15μm)の両面に負極合剤スラリーを塗布したのち、その負極合剤スラリーを乾燥させることにより、負極活物質層を形成した。最後に、ロールプレス機を用いて負極活物質層を圧縮成型した。
【0103】
(電解液の調製工程)
電解液を次のようにして調製した。まず、炭酸エチレン(EC)と炭酸プロピレン(PC)とを、質量比でEC:PC=50:50となるように混合して混合溶媒を調製した。続いて、この混合溶媒に電解質塩(六フッ化リン酸リチウム(LiPF6))を1mol/kgとなるように溶解させて電解液を調製した。次に、電解液に第1の添加剤(化合物(1-1))および第2の添加剤(硫酸エチレン)を加え、電解液を撹拌した。この際、電解液中における第1の添加剤および第2の添加剤の濃度が共に1質量%となるように、それらの添加量を調整した。
【0104】
(ラミネート型電池の作製工程)
ラミネート型電池を次のようにして作製した。まず、正極集電体にアルミニウム製の正極リードを溶接すると共に、負極集電体に銅製の負極リードを溶接した。続いて、セパレータ(微多孔性ポリエチレンフィルム、厚さ15μm)を介して正極と負極とを互いに積層させることにより、積層体を得た。次に、積層体を長手方向に巻回させたのち、その積層体の最外周部に保護テープを貼り付けることにより、巻回型の電極体を形成した。次に、電極体を挟むように外装材(外側:厚さ25μmのナイロンフィルム/厚さ40μmアルミニウム箔/厚さ30μmのポリプロピレンフィルム:内側)を折り畳んだのち、その外装材のうちの3辺の外周縁部同士を互いに熱融着した。この際、正極リードと外装材との間に密着フィルムを挿入すると共に、負極リードと外装材との間に密着フィルムを挿入した。最後に、外装材の内部に電解液を注入することにより、その電解液を電極体に含浸させたのち、減圧環境中において外装材の残りの1辺の外周縁部同士を熱融着した。これにより、目的とするラミネートフィルム型の電池が得られた。なお、この電池は、上記の正極および負極の作製工程において正極活物質量と負極活物質量とを調整することにより、完全充電時における開回路電圧(すなわち電池電圧)が4.45Vになるように設計された。
【0105】
[実施例2]
電解液の調製工程において、第1の添加剤として化合物(1-4)を用いたこと以外は実施例1と同様にして電池を得た。
【0106】
[実施例3]
電解液の調製工程において、電解液中における第1の添加剤(化合物(1-4))の含有量が2質量%となるように、第1の添加剤(化合物(1-4)の添加量を調整したこと以外は実施例2と同様にして電池を得た。
【0107】
[実施例4]
電解液の調製工程において、第2の添加剤として硫酸プロピレンを用いたこと以外は実施例3と同様にして電池を得た。
【0108】
[比較例1]
電解液の調製工程において、第1の添加剤としてスクシノニトリル(1,2-ジシアノエタン)を用い、第2の添加剤として硫酸ジエチルを用いたこと以外は実施例1と同様にして電池を得た。
【0109】
[比較例2]
電解液の調製工程において、第2の添加剤として1,3-プロパンスルトン(1,2-オキサチオラン2,2-ジオキシド)を用いたこと以外は実施例3と同様にして電池を得た。
【0110】
[比較例3]
電解液の調製工程において、第1の添加剤としてスクシノニトリル(1,2-ジシアノエタン)を用いたこと以外は実施例1と同様にして電池を得た。
【0111】
(電池特性の評価)
上述のようにして得られた電池に対して、以下の100サイクル後の容量維持率およびフロート試験後の容量維持率の評価を行った。
【0112】
(100サイクル後の容量維持率)
まず、電池の状態を安定化させるために、常温環境中(温度23℃)において電池を充放電(1サイクル)させた。なお、充電時には、0.1Cの電流で電圧が4.45Vに到達するまで定電流充電したのち、4.45Vの電圧で電流が0.02Cに到達するまで定電圧充電した。放電時には、0.1Cの電流で電圧が3.0Vに到達するまで放電した。なお、“0.1C”とは、電池容量(理論容量)を10時間で充電または放電しきる電流値である。また、“0.02C”とは、電池容量(理論容量)を50時間で充電または放電しきる電流値である。
【0113】
続いて、同環境中において電池を充放電(1サイクル)させることにより、2サイクル目の放電容量を測定した。次に、同環境中において電池を繰り返して充放電(100サイクル)させることにより、101サイクル目の放電容量を測定した。なお、充電時には、1Cの電流で電圧が4.45Vに到達するまで電池を定電流充電させたのち、4.45Vの電圧で電流が0.02Cに到達するまで電池を定電圧充電させた。放電時には、1Cの電流で電圧が3.0Vに到達するまで電池を定電流放電させた。なお、“1C”とは、電池容量(理論容量)を1時間で充填または放電しきる電流値である。最後に、下記の式により、100サイクル後の容量維持率を算出した。
100サイクル後の容量維持率(%)=(101サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100
【0114】
(フロート試験後の容量維持率)
まず、上述の100サイクル後の容量維持率の評価と同様の手順により、電池の状態を安定化させた。続いて、常温環境中(温度23℃)において電池を充放電(1サイクル)させることにより、2サイクル目の放電容量を測定した(フロート試験前の放電容量)。次に、常温環境中(温度23℃)において電池を充電させた。そして、高温環境中(温度60℃)において電池を4.45Vの電圧で定電圧充電を240時間行った。その後、常温環境中(温度23℃)において電池を放電させ、さらに同環境中において電池を充放電(1サイクル)させることにより、その電池の240時間フロート試験後の放電容量を測定した。最後に、以下の式により、フロート試験後の容量維持率を算出した。なお、充放電条件は、上述の100サイクル後の容量維持率の評価と同様にした。
フロート試験後の容量維持率(%)=(240時間フロート試験後の放電容量/フロート試験前の放電容量)×100
【0115】
表1は、実施例1~4、比較例1~3の電池の構成および評価結果を示す。
【表1】
EC:炭酸エチレン
PC:炭酸プロピレン
【0116】
表1から以下のことがわかる。
第1の添加剤(添加剤)として化合物(1-1)または化合物(1-4)を含み、かつ、第2の添加剤(添加剤)として硫酸エチレンまたは硫酸プロピレンを含む電解液を用いた実施例1~4の電池では、サイクル特性およびフロート特性の低下を抑制することができる。
【0117】
第1の添加剤としてスクシノニトリルを含み、かつ、第2の添加剤として硫酸ジエチルを含む電解液を用いた比較例1の電池では、サイクル特性およびフロート特性の両方が低下する。
【0118】
第1の添加剤として化合物(1-4)を含み、かつ、第2の添加剤としてプロパンスルトンを含む電解液を用いた比較例2の電池、および第1の添加剤としてスクシノニトリルを含み、かつ、第2の添加剤として硫酸エチレンを含む電解液を用いた比較例3の電池では、比較例1の電池に比べるとサイクル特性およびフロート特性の低下を抑制することはできるが、実施例1~4の電池ほどの抑制効果は得られない。
【0119】
第1の添加剤として化合物(1-4)を含む電解液を用いた実施例2の電池では、第1の添加剤として化合物(1-1)を含む電解液を用いた実施例1の電池に比べて、サイクル特性およびフロート特性の低下を抑制する効果が高い。
第2の添加剤として硫酸エチレンを含む電解液を用いた実施例3の電池では、第2の添加剤として硫酸プロピレンを含む電解液を用いた実施例4の電池に比べて、サイクル特性およびフロート特性の低下を抑制する効果が高い。
【0120】
以上、本発明の実施形態および実施例について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0121】
例えば、上述の実施形態および実施例において挙げた構成、方法、工程、形状、材料および数値等はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料および数値等を用いてもよい。
【0122】
また、上述の実施形態および実施例の構成、方法、工程、形状、材料および数値等は、本発明の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0123】
また、上述の実施形態にて例示した化合物等の化学式は代表的なものであって、同じ化合物の一般名称であれば、記載された価数等に限定されない。
【0124】
また、例えば、上述の実施形態および実施例では、ラミネート型の電池を例に挙げて説明したが、電池の形状はこれらに限定されるものではなく、円筒型、角型、コイン型またはボタン型等の種々の形状に本発明を適用することも可能である。また、スマートウオッチおよびヘッドマウントディスプレイ等のウェアラブル端末に搭載されるフレキシブル電池等に本発明を適用することも可能である。
【0125】
また、上述の実施形態および実施例では、巻回型の電池に対して本発明を適用した例について説明したが、電池の構造はこれに限定されるものではなく、例えば、正極および負極をセパレータを介して積層した積層型の電池(スタック型の電池)、またはセパレータを間に挟んだ正極および負極を折り畳んだ電池等に対しても本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0126】
10 外装材
11 正極リード
12 負極リード
13 密着フィルム
20 電極体
21 正極
21A 正極集電体
21B 正極活物質層
22 負極
22A 負極集電体
22B 負極活物質層
23 セパレータ
24 保護テープ
100 電子機器
120 電池パック