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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】破断検知装置
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/02 20060101AFI20220705BHJP
【FI】
B66B5/02 C
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021515361
(86)(22)【出願日】2019-04-23
(86)【国際出願番号】 JP2019017308
(87)【国際公開番号】W WO2020217325
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中澤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】加藤 利明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 然一
(72)【発明者】
【氏名】山崎 智史
【審査官】今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/030888(WO,A1)
【文献】特開2014-108835(JP,A)
【文献】国際公開第2018/131145(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/203609(WO,A1)
【文献】特開2010-222143(JP,A)
【文献】特開平07-257831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00 - 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベーターのロープに振動が発生すると、出力信号が変動するセンサと、
前記センサの出力信号から、特定の周波数帯域の振動成分を抽出する第1抽出手段と、
判定信号を抽出する第2抽出手段と、
前記第2抽出手段によって抽出された判定信号に基づいて、前記センサの出力信号に異常な変動が発生したことを検出する検出手段と、
異常な変動が発生したことが前記検出手段によって検出されると、その変動が発生した時のエレベーターのかごの位置に基づいて、前記ロープに破断部が存在するか否かを判定する判定手段と、
を備え
前記第2抽出手段は、前記かごの加速時の速度に依存する定常振動成分及び漸増振動成分、又は、前記かごの減速時の速度に依存する定常振動成分及び漸増振動成分を、前記第1抽出手段によって抽出された振動成分から減衰させることにより、判定信号を抽出する破断検知装置。
【請求項2】
エレベーターのロープに振動が発生すると、出力信号が変動するセンサと、
前記センサの出力信号から、特定の周波数帯域の振動成分を抽出する第1抽出手段と、
判定信号を抽出する第2抽出手段と、
前記第2抽出手段によって抽出された判定信号に基づいて、前記センサの出力信号に異常な変動が発生したことを検出する検出手段と、
異常な変動が発生したことが前記検出手段によって検出されると、その変動が発生した時のエレベーターのかごの位置に基づいて、前記ロープに破断部が存在するか否かを判定する判定手段と、
を備え
前記第2抽出手段は、前記かごの加速時の速度に依存する定常振動成分及び漸増振動成分と前記かごの減速時の速度に依存する定常振動成分及び漸増振動成分とのうちの大きい方を、前記第1抽出手段によって抽出された振動成分から減衰させることにより、判定信号を抽出する破断検知装置。
【請求項3】
エレベーターのロープに振動が発生すると、出力信号が変動するセンサと、
前記センサの出力信号から、特定の周波数帯域の振動成分を抽出する第1抽出手段と、
判定信号を抽出する第2抽出手段と、
前記第2抽出手段によって抽出された判定信号に基づいて、前記センサの出力信号に異常な変動が発生したことを検出する検出手段と、
異常な変動が発生したことが前記検出手段によって検出されると、その変動が発生した時のエレベーターのかごの位置に基づいて、前記ロープに破断部が存在するか否かを判定する判定手段と、
を備え
前記第2抽出手段は、
前記かごが加速している時は、前記第1抽出手段によって抽出された振動成分から、前記かごの加速時の速度に依存する定常振動成分及び漸増振動成分を減衰させ、判定信号を抽出し、
前記かごが減速している時は、前記第1抽出手段によって抽出された振動成分から、前記かごの減速時の速度に依存する定常振動成分及び漸増振動成分を減衰させ、判定信号を抽出する破断検知装置。
【請求項4】
前記第1抽出手段は、前記センサの出力信号が入力されるバンドパスフィルタを備え、
前記第2抽出手段は、
前記バンドパスフィルタの出力信号が入力されるローパスフィルタと、
前記バンドパスフィルタの出力信号と前記ローパスフィルタの出力信号との差分信号を判定信号として出力する減算器と、
を備えた請求項2又は請求項3に記載の破断検知装置。
【請求項5】
前記かごが走行時に出し得る速度の区間が複数の速度区間に仮想的に分割され、
前記ローパスフィルタは、前記速度区間のそれぞれに対応して設けられた請求項に記載の破断検知装置。
【請求項6】
前記第2抽出手段は、前記ローパスフィルタとして、第1フィルタ、第2フィルタ、及び第3フィルタを備え、
前記複数の速度区間に、第1速度区間、第2速度区間、及び第3速度区間が含まれ、
前記かごが前記第1速度区間に含まれる速度で移動している時の前記バンドパスフィルタの出力信号が前記第1フィルタに入力され、
前記かごが前記第2速度区間に含まれる速度で移動している時の前記バンドパスフィルタの出力信号が前記第2フィルタに入力され、
前記かごが前記第3速度区間に含まれる速度で移動している時の前記バンドパスフィルタの出力信号が前記第3フィルタに入力され、
前記第2速度区間に含まれる速度は、前記第1速度区間に含まれる速度より大きく、
前記第3速度区間に含まれる速度は、前記第2速度区間に含まれる速度より大きい請求項に記載の破断検知装置。
【請求項7】
前記減算器は、
前記かごが前記第1速度区間に含まれる速度で移動している時の前記バンドパスフィルタの出力信号と前記第1フィルタの出力信号との差分信号を出力し、
前記かごが前記第2速度区間に含まれる速度で移動している時の前記バンドパスフィルタの出力信号と前記第2フィルタの出力信号との差分信号を出力し、
前記かごが前記第3速度区間に含まれる速度で移動している時の前記バンドパスフィルタの出力信号と前記第3フィルタの出力信号との差分信号を出力する請求項に記載の破断検知装置。
【請求項8】
前記第1抽出手段は、前記センサの出力信号が入力されるバンドパスフィルタを備え、
前記第2抽出手段は、ハイパスフィルタを備え、
前記ハイパスフィルタは、前記バンドパスフィルタの出力信号が入力され、判定信号を出力する請求項2又は請求項3に記載の破断検知装置。
【請求項9】
前記かごが走行時に出し得る速度の区間が複数の速度区間に仮想的に分割され、
前記ハイパスフィルタは、前記速度区間のそれぞれに対応して設けられた請求項に記載の破断検知装置。
【請求項10】
前記第1抽出手段は、前記センサの出力信号が入力されるバンドパスフィルタを備え、
前記第2抽出手段は、ノッチフィルタを備え、
前記ロープは、巻上機の駆動綱車に巻き掛けられ、
前記ノッチフィルタは、前記巻上機のトルク脈動が共振する周波数を遮断するための遮断周波数を有し、
前記ノッチフィルタは、前記バンドパスフィルタの出力信号が入力され、判定信号を出力する請求項2又は請求項3に記載の破断検知装置。
【請求項11】
前記第2抽出手段は、前記第1抽出手段によって抽出された振動成分から、前記かごの速度と位置とに依存する定常振動成分及び漸増振動成分を減衰させ、判定信号を抽出する請求項2又は請求項3に記載の破断検知装置。
【請求項12】
前記第1抽出手段は、前記センサの出力信号が入力されるバンドパスフィルタを備え、
前記第2抽出手段は、
前記バンドパスフィルタの出力信号が入力されるローパスフィルタと、
前記バンドパスフィルタの出力信号と前記ローパスフィルタの出力信号との差分信号を判定信号として出力する減算器と、
を備えた請求項11に記載の破断検知装置。
【請求項13】
前記かごが走行時に出し得る速度の区間が複数の速度区間に仮想的に分割され、
前記かごが移動する区間が複数の位置区間に仮想的に分割され、
前記ローパスフィルタは、前記速度区間と前記位置区間とのそれぞれの組み合わせに対応して設けられた請求項12に記載の破断検知装置。
【請求項14】
エレベーターのロープに振動が発生すると、出力信号が変動するセンサと、
前記センサの出力信号から、特定の周波数帯域の振動成分を抽出する第1抽出手段と、
前記第1抽出手段によって抽出された振動成分から、エレベーターのかごの速度に依存する定常振動成分及び漸増振動成分を減衰させ、判定信号を抽出する第2抽出手段と、
前記第2抽出手段によって抽出された判定信号に基づいて、前記センサの出力信号に異常な変動が発生したことを検出する検出手段と、
異常な変動が発生したことが前記検出手段によって検出されると、その変動が発生した時の前記かごの位置に基づいて、前記ロープに破断部が存在するか否かを判定する判定手段と、
を備え
前記第1抽出手段は、前記センサの出力信号が入力されるハイパスフィルタを備え、
前記第2抽出手段は、カットオフ周波数が可変であるローパスフィルタを備え、
前記ロープは、巻上機の駆動綱車に巻き掛けられ、
前記ローパスフィルタのカットオフ周波数は、前記巻上機のトルク脈動の周波数より低くなるように制御され、
前記ローパスフィルタは、前記ハイパスフィルタの出力信号が入力され、判定信号を出力する破断検知装置。
【請求項15】
エレベーターのロープに振動が発生すると、出力信号が変動するセンサと、
前記センサの出力信号から、特定の周波数帯域の振動成分を抽出する第1抽出手段と、
前記第1抽出手段によって抽出された振動成分から、エレベーターのかごの速度に依存する定常振動成分及び漸増振動成分を減衰させるための第1減衰手段と、
前記第1抽出手段によって抽出された振動成分から、前記かごの位置に依存する定常振動成分及び漸増振動成分を減衰させるための第2減衰手段と、
前記かごの速度及び位置に基づいて、前記第1減衰手段又は前記第2減衰手段の一方を選択し、判定信号を抽出する第2抽出手段と、
前記第2抽出手段によって抽出された判定信号に基づいて、前記センサの出力信号に異常な変動が発生したことを検出する検出手段と、
異常な変動が発生したことが前記検出手段によって検出されると、その変動が発生した時の前記かごの位置に基づいて、前記ロープに破断部が存在するか否かを判定する判定手段と、
を備えた破断検知装置。
【請求項16】
前記第1抽出手段は、前記センサの出力信号が入力されるバンドパスフィルタを備え、
前記第1減衰手段は、前記バンドパスフィルタの出力信号が入力される第1ローパスフィルタを備え、
前記第2減衰手段は、前記バンドパスフィルタの出力信号が入力される第2ローパスフィルタを備え、
前記第2抽出手段は、前記バンドパスフィルタの出力信号と前記第1ローパスフィルタの出力信号又は前記第2ローパスフィルタの出力信号との差分信号を判定信号として出力する減算器を備えた請求項15に記載の破断検知装置。
【請求項17】
前記かごが走行時に出し得る速度の区間が複数の速度区間に仮想的に分割され、
前記第1ローパスフィルタは、前記速度区間のそれぞれに対応して設けられ、
前記かごが移動する区間が複数の位置区間に仮想的に分割され、
前記第2ローパスフィルタは、前記位置区間のそれぞれに対応して設けられた請求項16に記載の破断検知装置。
【請求項18】
前記第2抽出手段は、前記かごの速度に応じて決まる前記第1ローパスフィルタの出力信号の値と前記かごの位置に応じて決まる前記第2ローパスフィルタの出力信号の値とのうちの大きい方を、前記バンドパスフィルタの出力信号の値から減算する請求項16又は請求項17に記載の破断検知装置。
【請求項19】
前記第2抽出手段は、
前記かごの加速時及び減速時は、前記かごの速度に応じて決まる前記第1ローパスフィルタの出力信号の値を、前記バンドパスフィルタの出力信号の値から減算し、
前記かごの定速時は、前記かごの位置に応じて決まる前記第2ローパスフィルタの出力信号の値を、前記バンドパスフィルタの出力信号の値から減算する請求項16又は請求項17に記載の破断検知装置。
【請求項20】
前記検出手段は、前記第2抽出手段によって抽出された判定信号の値が第1閾値を超えると、前記センサの出力信号に異常な変動が発生したことを検出する請求項1から請求項19の何れか一項に記載の破断検知装置。
【請求項21】
異常な変動が発生したことが前記検出手段によって検出されると、その変動が発生した時の前記かごの位置を判定点数に紐付けて記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された前記位置を前記かごが再び通過した際に異常な変動が発生したことが前記検出手段によって検出されると前記判定点数を加点し、前記位置を前記かごが再び通過した際に異常な変動が発生したことが前記検出手段によって検出されなければ前記判定点数を減点する演算手段と、
を更に備え、
前記判定手段は、前記判定点数に基づいて、前記ロープに破断部が存在するか否かを判定する請求項1から請求項20の何れか一項に記載の破断検知装置。
【請求項22】
前記センサからの出力信号は、前記ロープが巻き掛けられた駆動綱車を有する巻上機からのトルク信号、前記かごの負荷を検出する秤装置からの秤信号、又は前記巻上機の回転速度に対する指令値と実測値との差分に対応する速度偏差信号である請求項1から請求項21の何れか一項に記載の破断検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、破断検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、破断検知装置が記載されている。特許文献1に記載された破断検知装置では、センサからの出力信号がかご位置に紐付けて記憶される。かご位置とセンサからの出力信号の変動の推移とに基づいて、ロープに破断部が存在するか否かが判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/203609号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
出願人が特許文献1に記載された破断検知装置を用いて調査した結果、センサからの出力信号に異常な変動を発生させる要因として、特許文献1に記載されていない要因を見出した。例えば、従来の破断検知装置では、エレベーターのかごの速度に依存する振動成分によって誤検知が生じ、検知精度が悪化するといった問題があった。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされた。この発明の目的は、ロープに破断部が存在することを精度良く検知できる破断検知装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る破断検知装置は、エレベーターのロープに振動が発生すると、出力信号が変動するセンサと、センサの出力信号から、特定の周波数帯域の振動成分を抽出する第1抽出手段と、判定信号を抽出する第2抽出手段と、第2抽出手段によって抽出された判定信号に基づいて、センサの出力信号に異常な変動が発生したことを検出する検出手段と、異常な変動が発生したことが検出手段によって検出されると、その変動が発生した時のエレベーターのかごの位置に基づいて、ロープに破断部が存在するか否かを判定する判定手段と、を備える。第2抽出手段は、かごの加速時の速度に依存する定常振動成分及び漸増振動成分、又は、かごの減速時の速度に依存する定常振動成分及び漸増振動成分を、第1抽出手段によって抽出された振動成分から減衰させることにより、判定信号を抽出する。
この発明に係る破断検知装置は、エレベーターのロープに振動が発生すると、出力信号が変動するセンサと、センサの出力信号から、特定の周波数帯域の振動成分を抽出する第1抽出手段と、判定信号を抽出する第2抽出手段と、第2抽出手段によって抽出された判定信号に基づいて、センサの出力信号に異常な変動が発生したことを検出する検出手段と、異常な変動が発生したことが検出手段によって検出されると、その変動が発生した時のエレベーターのかごの位置に基づいて、ロープに破断部が存在するか否かを判定する判定手段と、を備える。第2抽出手段は、かごの加速時の速度に依存する定常振動成分及び漸増振動成分とかごの減速時の速度に依存する定常振動成分及び漸増振動成分とのうちの大きい方を、第1抽出手段によって抽出された振動成分から減衰させることにより、判定信号を抽出する。
この発明に係る破断検知装置は、エレベーターのロープに振動が発生すると、出力信号が変動するセンサと、センサの出力信号から、特定の周波数帯域の振動成分を抽出する第1抽出手段と、判定信号を抽出する第2抽出手段と、第2抽出手段によって抽出された判定信号に基づいて、センサの出力信号に異常な変動が発生したことを検出する検出手段と、異常な変動が発生したことが検出手段によって検出されると、その変動が発生した時のエレベーターのかごの位置に基づいて、ロープに破断部が存在するか否かを判定する判定手段と、を備える。第2抽出手段は、かごが加速している時は、第1抽出手段によって抽出された振動成分から、かごの加速時の速度に依存する定常振動成分及び漸増振動成分を減衰させ、判定信号を抽出する。第2抽出手段は、かごが減速している時は、第1抽出手段によって抽出された振動成分から、かごの減速時の速度に依存する定常振動成分及び漸増振動成分を減衰させ、判定信号を抽出する。
この発明に係る破断検知装置は、エレベーターのロープに振動が発生すると、出力信号が変動するセンサと、センサの出力信号から、特定の周波数帯域の振動成分を抽出する第1抽出手段と、第1抽出手段によって抽出された振動成分から、エレベーターのかごの速度に依存する定常振動成分及び漸増振動成分を減衰させ、判定信号を抽出する第2抽出手段と、第2抽出手段によって抽出された判定信号に基づいて、センサの出力信号に異常な変動が発生したことを検出する検出手段と、異常な変動が発生したことが検出手段によって検出されると、その変動が発生した時のかごの位置に基づいて、ロープに破断部が存在するか否かを判定する判定手段と、を備える。第1抽出手段は、センサの出力信号が入力されるハイパスフィルタを備える。第2抽出手段は、カットオフ周波数が可変であるローパスフィルタを備える。ロープは、巻上機の駆動綱車に巻き掛けられる。ローパスフィルタのカットオフ周波数は、巻上機のトルク脈動の周波数より低くなるように制御される。ローパスフィルタは、ハイパスフィルタの出力信号が入力され、判定信号を出力する。

【0007】
この発明に係る破断検知装置は、エレベーターのロープに振動が発生すると、出力信号が変動するセンサと、センサの出力信号から、特定の周波数帯域の振動成分を抽出する第1抽出手段と、第1抽出手段によって抽出された振動成分から、エレベーターのかごの速度に依存する定常振動成分及び漸増振動成分を減衰させるための第1減衰手段と、第1抽出手段によって抽出された振動成分から、かごの位置に依存する定常振動成分及び漸増振動成分を減衰させるための第2減衰手段と、かごの速度及び位置に基づいて、第1減衰手段又は第2減衰手段の一方を選択し、判定信号を抽出する第2抽出手段と、第2抽出手段によって抽出された判定信号に基づいて、センサの出力信号に異常な変動が発生したことを検出する検出手段と、異常な変動が発生したことが検出手段によって検出されると、その変動が発生した時のかごの位置に基づいて、ロープに破断部が存在するか否かを判定する判定手段と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
この発明に係る破断検知装置は、例えば第1抽出手段、第2抽出手段、検出手段、及び判定手段を備える。第2抽出手段は、第1抽出手段によって抽出された振動成分から、エレベーターのかごの速度に依存する定常振動成分及び漸増振動成分を減衰させ、判定信号を抽出する。検出手段は、第2抽出手段によって抽出された判定信号に基づいて、センサの出力信号に異常な変動が発生したことを検出する。この発明に係る破断検知装置であれば、ロープに破断部が存在することを精度良く検知できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】エレベーター装置を模式的に示す図である。
図2】返し車の例を示す斜視図である。
図3】返し車の断面を示す図である。
図4】主ロープの破断部の移動を説明するための図である。
図5】主ロープの破断部の移動を説明するための図である。
図6】主ロープの破断部の移動を説明するための図である。
図7】センサからの出力信号の例を示す図である。
図8】センサからの出力信号の例を示す図である。
図9】センサ信号が変動する例を説明するための図である。
図10】実施の形態1における破断検知装置の例を示す図である。
図11】実施の形態1における破断検知装置の動作例を示すフローチャートである。
図12】抽出部の機能の一例を示す図である。
図13】センサ信号に生じた変動の推移の例を示す図である。
図14】センサ信号に生じた変動の推移の例を示す図である。
図15】センサ信号に生じた変動の推移の例を示す図である。
図16】破断部に起因するセンサ信号の変動の例を示す図である。
図17】トルク脈動の共振に起因するセンサ信号の変動の例を説明するための図である。
図18】抽出部の機能の一例を示す図である。
図19】抽出部の実装例を説明するための図である。
図20】減算器に入力される信号の例を示す図である。
図21】減算器に入力される信号の例を示す図である。
図22】減算器に入力される信号の例を示す図である。
図23】抽出部の機能を実現する他の例を示す図である。
図24】再現性判定機能の例を説明するための図である。
図25】実施の形態1における破断検知装置の他の例を示す図である。
図26】破断部の例を示す図である。
図27】破断部の例を示す図である。
図28】演算部及び判定部の機能の一例を説明するための図である。
図29】エレベーター装置を模式的に示す図である。
図30】センサ信号が変動する例を説明するための図である。
図31】返し車の断面を拡大した図である。
図32】センサ信号が変動する例を説明するための図である。
図33】実施の形態2における破断検知装置の例を示す図である。
図34】抽出部の実装例を説明するための図である。
図35】減算器に入力される信号の例を示す図である。
図36】抽出部の機能の一例を説明するための図である。
図37】実施の形態2における破断検知装置の他の例を示す図である。
図38】抽出部の一例を示す図である。
図39】ローパスフィルタに関する実装例を示す図である。
図40】抽出機能の他の例を説明するための図である。
図41】抽出部の実装例を示す図である。
図42】抽出部の他の実装例を示す図である。
図43】制御装置のハードウェア資源の例を示す図である。
図44】制御装置のハードウェア資源の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
添付の図面を参照し、本発明を説明する。重複する説明は、適宜簡略化或いは省略する。各図において、同一の符号は同一の部分又は相当する部分を示す。
【0011】
実施の形態1.
図1は、エレベーター装置を模式的に示す図である。エレベーター装置は、かご1及びつり合いおもり2を備える。かご1は、昇降路3を上下に移動する。つり合いおもり2は、昇降路3を上下に移動する。かご1及びつり合いおもり2は、主ロープ4によって昇降路3に吊り下げられる。図1は、かご1及びつり合いおもり2が2:1ローピングで昇降路3に吊り下げられる例を示す。ローピングの方式は、図1に示す例に限定されない。かご1及びつり合いおもり2は、1:1ローピングで昇降路3に吊り下げられても良い。
【0012】
図1に示す例では、主ロープ4の一方の端部4aは、昇降路3の頂部に設けられた固定体に支持される。主ロープ4は、端部4aから下方に延びる。主ロープ4は、端部4a側から吊り車5、吊り車6、返し車7、駆動綱車8、返し車9、及び吊り車10に巻き掛けられる。主ロープ4は、吊り車10に巻き掛けられた部分から上方に延びる。主ロープ4のもう一方の端部4bは、昇降路3の頂部に設けられた固定体に支持される。
【0013】
吊り車5及び吊り車6は、かご1に備えられる。吊り車5及び吊り車6は、例えばかご床を支持する部材に回転可能に設けられる。返し車7及び返し車9は、例えば昇降路3の頂部に配置された部材に回転可能に設けられる。駆動綱車8は、巻上機11に備えられる。巻上機11は、例えば昇降路3のピットに設けられる。吊り車10は、つり合いおもり2に備えられる。吊り車10は、例えば調整おもりを支持する枠に回転可能に設けられる。
【0014】
主ロープ4が巻き掛けられる滑車の配置は、図1に示す例に限定されない。例えば、駆動綱車8は、昇降路3の頂部に配置されても良い。駆動綱車8は、昇降路3の上方の機械室(図示せず)に配置されても良い。エレベーター装置に、図1に示されていない他の滑車が備えられても良い。
【0015】
秤装置12は、かご1の負荷を検出する。図1は、秤装置12が主ロープ4の端部4aに掛かる負荷に基づいてかご1の負荷を検出する例を示す。秤装置12は、検出した負荷に応じた秤信号を出力する。秤装置12から出力された秤信号は、制御装置13に入力される。
【0016】
巻上機11は、トルクを検出する機能を有する。巻上機11は、検出したトルクに応じたトルク信号を出力する。巻上機11から出力されたトルク信号は、制御装置13に入力される。
【0017】
制御装置13は、巻上機11を制御する。制御装置13は、巻上機11の回転速度、即ち駆動綱車8の回転速度に対する指令値を演算する。かご1は、駆動綱車8が回転すると移動する。本実施の形態に示す例では、巻上機11の回転速度とかご1の速度とには対応関係がある。また、巻上機11は、エンコーダ14(図1では図示せず)を備える。エンコーダ14は、駆動綱車8の回転方向及び回転角度に応じた回転信号を出力する。エンコーダ14から出力された回転信号は、制御装置13に入力される。
【0018】
調速機15は、かご1の下降速度が基準速度を超えると、非常止め(図示せず)を動作させる。非常止めは、かご1に備えられる。非常止めが動作すると、かご1が強制的に停止される。調速機15は、例えば調速ロープ16、調速綱車17、及びエンコーダ18を備える。調速ロープ16は、かご1に連結される。調速ロープ16は、調速綱車17に巻き掛けられる。かご1が移動すると、調速ロープ16が移動する。調速ロープ16が移動すると、調速綱車17が回転する。エンコーダ18は、調速綱車17の回転方向及び回転角度に応じた回転信号を出力する。エンコーダ18から出力された回転信号は、制御装置13に入力される。
【0019】
制御装置13は、例えば速度検出部21、位置検出部22、及び信号生成部23を備える。速度検出部21は、かご1の速度を検出する。速度検出部21は、例えばエンコーダ14からの回転信号に基づいてかご1の速度を検出する。速度検出部21は、エンコーダ18からの回転信号に基づいてかご1の速度を検出しても良い。
【0020】
位置検出部22は、かご1の位置を検出する。本実施の形態で示す例では、かご1は上下にしか移動しない。このため、かご1の位置は、かご1が存在する高さと同義である。位置検出部22は、例えばエンコーダ14からの回転信号に基づいてかご1の位置を検出する。位置検出部22は、エンコーダ18からの回転信号に基づいてかご1の位置を検出しても良い。エンコーダ14は、かご1の位置に応じた信号を出力するセンサの一例である。同様に、エンコーダ18は、かご1の位置に応じた信号を出力するセンサの一例である。
【0021】
信号生成部23は、速度偏差信号を生成する。速度偏差信号は、巻上機11の回転速度の実測値と巻上機11の回転速度に対する指令値との差分に対応する信号である。信号生成部23は、エンコーダ14或いはエンコーダ18からの回転信号と巻上機11に対する速度指令とに基づいて速度偏差信号を生成する。信号生成部23は、速度偏差信号を生成するために、速度検出部21による検出値を利用しても良い。
【0022】
図2は、返し車7の例を示す斜視図である。図3は、返し車7の断面を示す図である。返し車7を支持する部材に、外れ止め19が設けられる。例えば、外れ止め19は、返し車7の軸7aに設けられる。主ロープ4は、返し車7の溝に巻き掛けられる。外れ止め19は、主ロープ4が返し車7の溝から外れることを防止する。外れ止め19は、主ロープ4に一定の隙間を空けて対向する。
【0023】
外れ止め19は、例えば対向部19a及び対向部19bを備える。対向部19aは、主ロープ4のうち、主ロープ4が返し車7から離れる一方の部分に対向する。対向部19bは、主ロープ4のうち、主ロープ4が返し車7から離れるもう一方の部分に対向する。返し車7は、対向部19aと対向部19bとの間に配置される。主ロープ4に異常が発生していなければ、主ロープ4は外れ止め19に接触しない。
【0024】
図2及び図3は、主ロープ4の表面から破断部4cが突出する例を示す。主ロープ4は、複数のストランドが縒り合されて形成される。ストランドは、複数の素線が縒り合されて形成される。破断部4cは、素線が破断した部分である。破断部4cは、ストランドが破断した部分であっても良い。かご1が移動すると、破断部4cは返し車7を通過する。破断部4cは、返し車7を通過する際に外れ止め19に接触し得る。
【0025】
図2及び図3は、主ロープ4が巻き掛けられた滑車の一例として返し車7を示す。吊り車5といった他の滑車に対して外れ止めが設けられても良い。図1に示されていない他の滑車に対して外れ止めが設けられても良い。
【0026】
図4から図6は、主ロープ4の破断部4cの移動を説明するための図である。図4は、かご1が最下階の乗場に停止している状態を示す。かご1が最下階の乗場に停止していれば、破断部4cは、主ロープ4のうち端部4aから吊り車5に巻き掛けられた部分の間に存在する。
【0027】
図6は、かご1が最上階の乗場に停止している状態を示す。かご1が最上階の乗場に停止していれば、破断部4cは、主ロープ4のうち返し車7に巻き掛けられた部分から駆動綱車8に巻き掛けられた部分の間に存在する。即ち、かご1が最下階の乗場から最上階の乗場に移動すると、破断部4cは、吊り車5、吊り車6、及び返し車7を通過する。かご1が最下階の乗場から最上階の乗場に移動しても、破断部4cは、駆動綱車8、返し車9、及び吊り車10を通過しない。破断部4cが発生しても、その破断部4cが、主ロープ4が巻き掛けられた全ての滑車を通過する訳ではない。破断部4cが発生した位置等により、その破断部4cが通過する滑車の組み合わせが決まる。
【0028】
図5は、かご1が最下階の乗場から最上階の乗場に移動する途中の状態を示す。図5は、破断部4cが吊り車5を通過している状態を示す。例えば、吊り車5に対して外れ止めが設けられる。破断部4cは、吊り車5を通過する際に外れ止めに接触する。
【0029】
図7は、センサからの出力信号の例を示す図である。以下の説明では、センサから出力される信号のことをセンサ信号とも表記する。図7Aは、かご1の位置を示す。図7Aは、かご1が最下階から位置Pに移動した後に最下階に戻った時のかご位置の変化を示す。図7Aにおいて、最下階のかご位置は0である。図7Aに示す波形は、例えばエンコーダ14からの回転信号に基づいて取得される。
【0030】
図7Bは、センサ信号の一例を示す。具体的に、図7Bは、巻上機11のトルクを示す。図7Bに示す波形は、かご1が最下階と位置Pとの間を移動した時に巻上機11から出力されたトルク信号の波形である。図7Bにおいて、最大トルクはTqである。図7Bにおいて、最小トルクは-Tqである。
【0031】
図7Cは、センサ信号の一例を示す。具体的に、図7Cは、巻上機11に対する速度偏差を示す。図7Cに示す波形は、かご1が最下階と位置Pとの間を移動した時に信号生成部23が生成した速度偏差信号の波形を示す。
【0032】
図7Dは、センサ信号の一例を示す。図7Dは、かご1の負荷を示す。図7Dに示す波形は、秤装置12から出力された秤信号の波形である。図7Dは、秤装置12によって検出された負荷がw[kg]である例を示す。
【0033】
図7B図7C、及び図7Dは、理想的なセンサ信号の波形を示す。しかし、実際のセンサ信号には、様々な要因によって変動が生じる。以下に、センサ信号に生じる変動について説明する。
【0034】
図8は、センサからの出力信号の例を示す図である。図8Aは、図7Aに対応する図である。図8Bは、図7Bに対応する図である。図8Cは、図7Cに対応する図である。図8Dは、図7Dに対応する図である。図8は、主ロープ4に破断部4cが存在する場合に得られる波形の例を示す。
【0035】
破断部4cは、かご1が位置Pを通過する時にある滑車を通過する。例えば、破断部4cは、かご1が位置Pを通過する時に返し車7を通過する。破断部4cは、返し車7を通過する際に外れ止め19に接触する。これにより、かご1が位置Pを通過する時に主ロープ4に振動が発生する。主ロープ4の端部4aが変位すると、秤装置12から出力される秤信号が影響を受ける。即ち、主ロープ4に発生した振動が端部4aに到達すると、秤装置12からの秤信号に変動が生じる。
【0036】
同様に、主ロープ4のうち駆動綱車8に巻き掛けられた部分が変位すると、当該変位は駆動綱車8の回転に影響を与える。このため、主ロープ4に発生した振動が当該部分に到達すると、信号生成部23によって生成される速度偏差信号に変動が生じる。また、主ロープ4のうち駆動綱車8に巻き掛けられた部分が変位すると、巻上機11から出力されるトルク信号が影響を受ける。このため、主ロープ4に発生した振動が当該部分に到達すると、巻上機11からのトルク信号に変動が生じる。
【0037】
このように、主ロープ4に破断部4cが存在すると、センサ信号に変動が発生する場合がある。破断部4cに起因するセンサ信号の変動は、同じかご位置で繰り返し発生する。また、破断部4cは、素線が切れることによって突然発生する。このため、破断部4cに起因するセンサ信号の変動は、突発的に発生する。
【0038】
図9は、センサ信号が変動する例を説明するための図である。図9Aは、巻上機11の回転速度を示す。図9Aは、かご1が最下階から位置Pに移動した時の巻上機11の回転速度を示す。図9に示す例では、時刻tまでかご1は加速する。時刻tから時刻tまでの間、かご1は一定の速度で移動する。かご1は、時刻tから減速を開始する。
【0039】
図9Bは、巻上機11のトルク脈動の周波数を示す。巻上機11の回転速度をv(t)、駆動綱車8の径をr、巻上機11の角周波数をω(t)とすると、(1)式が成立する。
ω(t)=v(t)/r …(1)
また、巻上機11のトルク脈動の角周波数をω(t)、巻上機11のトルク脈動の周波数をf(t)とすると、(2)式及び(3)式が成立する。
ω(t)=αω(t) …(2)
f(t)=ω(t)/(2π) …(3)
αは定数である。(1)式及び(2)式より、(4)式が得られる。
ω(t)=αv(t)/r …(4)
(3)式及び(4)式より、(5)式が得られる。
f(t)=αv(t)/(2πr) …(5)
【0040】
(5)式に示すように、巻上機11のトルク脈動の角周波数は、巻上機11の回転速度に比例する。このため、巻上機11の回転速度パターンが図9Aに示すように台形状であれば、巻上機11のトルク脈動の周波数パターンも、図9Bに示すよう台形状になる。
【0041】
曲線fn(t)は、エレベーターの機械系の2次モードの固有振動数を示す。図9Bは、巻上機11のトルク脈動の周波数f(t)が、時刻t及び時刻tにおいて固有振動数fn(t)と交差する例を示す。トルク脈動の周波数f(t)が固有振動数fn(t)と交差すると、共振が発生する。
【0042】
図9Cは、センサ信号の一例を示す。具体的に、図9Cは、巻上機11のトルクを示す。図9Cに示す波形は、かご1が最下階から位置Pに移動した時に巻上機11から出力されたトルク信号の波形である。時刻tで共振が発生すると、巻上機11からのトルク信号に変動が生じる。例えば、エレベーターの機械系の振動モードのうち特定の振動モードが共振によって励起された場合に、トルク信号及び速度偏差信号に変動が生じ易い。上記特定の振動モードは、例えば、かご1及びつり合いおもり2が主ロープ4の振動の節となり、主ロープ4が巻き掛けられた各滑車が回転方向に振動するモードである。
【0043】
このようなトルク脈動の共振に起因するセンサ信号の変動は、巻上機11の回転速度、即ちかご1の速度に依存する。即ち、トルク脈動の共振に起因するセンサ信号の変動は、巻上機11の回転速度がvになる度に繰り返し発生する。なお、かご1の加速度を変化させるような制御が行われなければ、例えばかご1が最下階から走行を開始すると、常に同じかご位置で巻上機11の回転速度がvになる。このため、トルク脈動の共振に起因するセンサ信号の変動は、巻上機11の回転速度がvになるかご位置で繰り返し発生する。また、トルク脈動の共振に起因するセンサ信号の変動は、時間の経過とともに大きくなる傾向がある。
【0044】
センサ信号に変動が生じる要因は、上記例に限られない。主ロープ4は滑車に巻き掛けられているため、主ロープ4と滑車との間には摩擦がある。また、かご1に備えられた案内部材とガイドレールとの間には摩擦がある。このため、かご1が単に移動するだけでも、このような摩擦に起因する変動がセンサ信号に発生する。なお、特定のかご速度にだけ着目すると、摩擦に起因するセンサ信号の変動は繰り返し発生することになる。同様に、特定のかご位置にだけ着目すると、摩擦に起因するセンサ信号の変動は繰り返し発生することになる。摩擦に起因するセンサ信号の変動は、DC成分のようであり、時間の経過とともに大きくなる訳ではない。
【0045】
図10は、実施の形態1における破断検知装置の例を示す図である。制御装置13は、例えば記憶部20、抽出部24、抽出部25、検出部26、判定部27、動作制御部28、及び通報部29を更に備える。図10は、主ロープ4に存在する破断部4cを検知する機能を制御装置13が備える例を示す。破断部4cを検知するための専用の装置がエレベーター装置に備えられても良い。以下に、図11から図24も参照し、破断検知装置の機能及び動作について詳しく説明する。図11は、実施の形態1における破断検知装置の動作例を示すフローチャートである。
【0046】
抽出部24は、センサ信号から、特定の周波数帯域の振動成分を抽出する(S101)。本実施の形態に示す例では、秤信号、速度偏差信号、及びトルク信号の何れもセンサ信号として利用できる。他の例として、かご1に設けられた加速度計(図示せず)からの加速度信号をセンサ信号として利用しても良い。以下においては、センサ信号としてトルク信号を用いる例について詳しく述べる。例えば、抽出部24は、トルク信号から特定の周波数帯域の振動成分を抽出する。
【0047】
破断部4cが外れ止め19に接触すると、巻上機11からのトルク信号に異常な変動が現れる。この異常変動は、破断部4cの長さと主ロープ4の速度とに応じた固有の周波数帯域の振動成分を持つ。図3に示すように、破断部4cの長さをd[m]、主ロープ4の速度をv[m/s]とすると、異常変動の周波数f[Hz]は、(6)式で表される。
f=v/d …(6)
【0048】
図12は、抽出部24の機能の一例を示す図である。抽出部24は、例えばバンドパスフィルタ40を備える。記載を簡略化するため、図面等ではバンドパスフィルタのことをBPFとも表記する。バンドパスフィルタ40に、巻上機11からのトルク信号が入力される。バンドパスフィルタ40は、入力されたトルク信号から、(6)式に示す周波数fを含む特定の周波数帯域の振動成分を抽出する。破断部4cの長さdは予め設定される。例えば、0.5ピッチから数ピッチ分のストランドが解けることによって破断部4cが形成されることを想定し、その解けたストランドの長さが長さdとして設定される。主ロープ4の速度vは、かご1の速度に応じて決まる。かご1の定格速度から主ロープ4の速度を算出しても良い。
【0049】
図12に示すように、抽出部24は、増幅器41を更に備えても良い。増幅器41は、例えば信号uを2乗する。抽出部24では、増幅器41から出力された信号uの平方根を更に求めても良い。抽出部24では、信号uの絶対値を求め、出力信号の符号を正にしても良い。以下の説明では、抽出部24から出力される信号を出力信号Yと表記する。抽出部24がバンドパスフィルタ40を備える場合、抽出部24から出力される信号のことをバンドパスフィルタ40の出力信号Yとも表記する。
【0050】
図12は、入力されたトルク信号に対してフィルタ処理を行うために、抽出部24がバンドパスフィルタ40を備える例を示す。抽出部24は、特定の周波数帯域の振動成分を抽出するために、非線形フィルタを備えても良い。抽出部24に適応フィルタのアルゴリズムを適用し、特定の周波数帯域の振動成分を抽出しても良い。
【0051】
抽出部25は、抽出部24によって抽出された振動成分から、判定信号を抽出する(S102)。判定信号は、センサ信号に突発的な変動が発生したことを判定するために必要な信号である。抽出部25は、抽出部24によって抽出された振動成分からトレンド成分を減衰させることにより、判定信号を得る。トレンド成分とは、例えば直近1000回程度のかご1の走行における振動の長期的な変化傾向を示す成分である。トレンド成分には、例えば定常振動成分及び漸増振動成分が含まれる。
【0052】
図13から図15は、センサ信号に生じた変動の推移の例を示す図である。図13から図15において、縦軸は、センサ信号に生じた変動の振幅に対応する値を示す。横軸は、エレベーターの起動回数を示す。横軸は、エレベーターが据え付けられてからの経過時間でも良い。横軸は、かご1が特定の位置を通過した回数でも良い。
【0053】
図13は、かご1が位置Pを通過した時に得られた出力信号Yの値を示す。起動回数がM1の時点で、主ロープ4に破断部4cは発生していない。図13は、起動回数がM2の時に主ロープ4に破断部4cが発生した例を示す。上述したように、破断部4cは、素線が切れることによって突然発生する。このため、破断部4cに起因するセンサ信号の変動は突発的に発生する。主ロープ4に破断部4cが発生すると、出力信号Yの値は、直前の値と比較して突然大きくなる。
【0054】
図16は、破断部4cに起因するセンサ信号の変動の例を示す図である。図16は、主ロープ4に破断部4cが発生した後にかご1が最下階と位置Pとの間を2往復した例を示す。図16に示す例では、かご1は、時刻t、時刻t、時刻t、及び時刻tで位置Pを通過する。図16Bは、巻上機11のトルクを示す。図16Cは、出力信号Yの値を示す。主ロープ4に破断部4cが発生すると、かご1が位置Pを通過する度に破断部4cが外れ止め19に接触し得る。このため、図13に示すように、主ロープ4に破断部4cが発生すると、位置Pにおける出力信号Yの値はその後も継続して大きな値を示す。
【0055】
図14は、かご1が位置Pを通過した時に得られた出力信号Yの値を示す。位置Pは、例えば、かご1が最下階から走行を開始した直後に巻上機11の回転速度がvになる位置である。上述したように、トルク脈動の共振に起因するセンサ信号の変動は、巻上機11の回転速度、即ちかご1の速度に依存する。しかし、かご1が停止する位置は決まっているため、トルク脈動の共振に起因するセンサ信号の変動が発生する位置には再現性がある。
【0056】
図17は、トルク脈動の共振に起因するセンサ信号の変動の例を説明するための図である。例えば、かご1が最下階から走行を開始すると、走行を開始した直後の時刻tで巻上機11の回転速度がvになる。このため、時刻tでは、出力信号Yの値は大きな値を示す。
【0057】
図17において、f(t)は、かご1が4階に停止する時のトルク脈動の周波数を示す。f(t)は、かご1が6階に停止する時のトルク脈動の周波数を示す。かご1が4階に停止する場合、時刻tで巻上機11の回転速度がvになる。このため、かご1が4階に停止する場合は、時刻tで出力信号Yの値は大きな値を示す。一方、かご1が6階に停止する場合、時刻tの前後において巻上機11の回転速度はvにならない。このため、かご1が4階を通過する場合は、時刻tの前後において出力信号Yの値が大きな値を示すことはない。即ち、トルク脈動の共振に起因するセンサ信号の変動は、かご1の速度に依存するが、かご1の位置に常に依存する訳ではない。しかし、トルク脈動の共振に起因するセンサ信号の変動が発生する位置には再現性がある。
【0058】
図14は、漸増振動成分を有する出力信号Yの例を示す。漸増振動成分は、抽出部24によって抽出された振動成分のうち、時間を掛けてゆっくり成長する振動成分である。トルク脈動の共振に起因するセンサ信号の変動は、図14に示すように、時間を掛けて徐々に大きくなる傾向がある。抽出部25は、このようなかご1の速度に依存する漸増振動成分を減衰させる。
【0059】
図15は、かご1がある速度で移動している時に得られた出力信号Yの値を示す。摩擦に起因するセンサ信号の変動は、図15に示すように常に同じような値を示す。図15は、定常振動成分を有する出力信号Yの例を示す。定常振動成分は、抽出部24によって抽出された振動成分のうち、DC成分のような定常的に発生する振動成分である。定常振動成分に、漸増振動成分よりも更に変動の遅い振動成分を含めても良い。抽出部25は、このようなかご1の速度に依存する定常振動成分を減衰させる。
【0060】
図18は、抽出部25の機能の一例を示す図である。抽出部25は、例えばローパスフィルタ42、及び減算器43を備える。記載を簡略化するため、図面等ではローパスフィルタのことをLPFとも表記する。ローパスフィルタ42に、バンドパスフィルタ40の出力信号Yが入力される。減算器43に、バンドパスフィルタ40の出力信号Yとローパスフィルタ42の出力信号Zとが入力される。減算器43は、バンドパスフィルタ40の出力信号Yとローパスフィルタ42の出力信号Zとの差分信号Y-Zを判定信号として出力する。減算器43の出力信号Y-Zは、検出部26に入力される。
【0061】
図19は、抽出部24及び抽出部25の実装例を説明するための図である。図19Aは、巻上機11のトルクを示す。図19Aの横軸は、かご1の速度を示す。例えば、かご1の加速時に、図19Aに示すトルク信号がバンドパスフィルタ40に入力される。図19Bは、増幅器41の出力信号uを示す。増幅器41の出力信号uは、連続的な信号である。抽出部24は、増幅器41の出力信号u図19Cに示すように離散化する。抽出部24は、図19Cに示すような離散化した信号をバンドパスフィルタ40の出力信号Yとして出力する。
【0062】
例えば、かご1が走行時に出し得る速度の区間が、複数の速度区間に仮想的に分割される。図19は、かご1の定格速度が90[m/min]であり、15[m/min]毎に速度区間が設定された例を示す。即ち、かご1が走行時に出し得る速度の区間は、0~90[m/min]である。例えば、上記区間が等分割される。かご速度0~15[m/min]の区間が第1速度区間に設定される。かご速度15~30[m/min]の区間が第2速度区間に設定される。かご速度30~45[m/min]の区間が第3速度区間に設定される。かご速度45~60[m/min]の区間が第4速度区間に設定される。かご速度60~75[m/min]の区間が第5速度区間に設定される。かご速度75~90[m/min]の区間が第6速度区間に設定される。図19Cでは、記載を簡略化するため、第n速度区間のことを区間nとも表記している。第(i+1)速度区間に含まれる速度は、第i速度区間に含まれる速度より大きい。図19は、iの最大値nが6である例を示す。nの値は6でなくても良い。
【0063】
抽出部24は、速度区間毎に1つの信号を抽出することにより、連続的な出力信号uを離散化する。例えば、抽出部24は、1つの速度区間において最大の値を有する信号uをその速度区間の出力信号Yとして抽出する。
【0064】
抽出部25には、速度区間のそれぞれに対応するローパスフィルタ42が備えられる。例えば、第1速度区間に対応するローパスフィルタ42をフィルタ42-1と表記する。同様に、第2速度区間に対応するローパスフィルタ42をフィルタ42-2と表記する。第3速度区間に対応するローパスフィルタ42をフィルタ42-3と表記する。第i速度区間に対応するローパスフィルタ42をフィルタ42-iと表記する。
【0065】
フィルタ42-1に、かご1が第1速度区間に含まれる速度で移動している時のバンドパスフィルタ40の出力信号Yが入力される。フィルタ42-1からの出力信号Zは、第1速度区間におけるトレンド成分に相当する。フィルタ42-1からの出力信号Zは、減算器43に入力される。フィルタ42-2に、かご1が第2速度区間に含まれる速度で移動している時のバンドパスフィルタ40の出力信号Yが入力される。フィルタ42-2からの出力信号Zは、第2速度区間におけるトレンド成分に相当する。フィルタ42-2からの出力信号Zは、減算器43に入力される。
【0066】
フィルタ42-3に、かご1が第3速度区間に含まれる速度で移動している時のバンドパスフィルタ40の出力信号Yが入力される。フィルタ42-3からの出力信号Zは、第3速度区間におけるトレンド成分に相当する。フィルタ42-3からの出力信号Zは、減算器43に入力される。同様に、フィルタ42-iに、かご1が第i速度区間に含まれる速度で移動している時のバンドパスフィルタ40の出力信号Yが入力される。フィルタ42-iからの出力信号Zは、第i速度区間におけるトレンド成分に相当する。フィルタ42-iからの出力信号Zは、減算器43に入力される。
【0067】
減算器43は、かご1が第1速度区間に含まれる速度で移動している時のバンドパスフィルタ40の出力信号Yとフィルタ42-1の出力信号Zとの差分信号を、第1速度区間における判定信号として出力する。減算器43は、かご1が第2速度区間に含まれる速度で移動している時のバンドパスフィルタ40の出力信号Yとフィルタ42-2の出力信号Zとの差分信号を、第2速度区間における判定信号として出力する。減算器43は、かご1が第3速度区間に含まれる速度で移動している時のバンドパスフィルタ40の出力信号Yとフィルタ42-3の出力信号Zとの差分信号を、第3速度区間における判定信号として出力する。同様に、減算器43は、かご1が第i速度区間に含まれる速度で移動している時のバンドパスフィルタ40の出力信号Yとフィルタ42-iの出力信号Zとの差分信号を、第i速度区間における判定信号として出力する。
【0068】
図20から図22は、減算器43に入力される信号の例を示す図である。図20から図22において、黒丸は、バンドパスフィルタ40の出力信号Yを示す。白四角は、ローパスフィルタ42の出力信号Zを示す。図20は、図13に示す出力信号Yが減算器43に入力された例を示す。即ち、起動回数M2で主ロープ4に破断部4cが発生する。上述したように、主ロープ4に破断部4cが発生すると、出力信号Yは突然大きくなる。一方、ローパスフィルタ42の出力信号Zは、出力信号Yの急激な変化には追従しない。このため、出力信号Yと出力信号Zとの差は、主ロープ4に破断部4cが発生することによって突然大きくなる。破断部4cが発生した後は、出力信号Yと出力信号Zとの差は徐々に小さくなっていく。
【0069】
図21は、図14に示す出力信号Yが減算器43に入力された例を示す。上述したように、巻上機11の回転速度がvである時の出力信号Yの値は、徐々に大きくなる。図14に示すようなゆっくりとした変化が出力信号Yに現れた場合、出力信号Zは出力信号Yの変化に追従する。このため、図21に示す例では、出力信号Yと出力信号Zとは同じような値になる。
【0070】
図22は、図15に示す出力信号Yが減算器43に入力された例を示す。図15に示すようなゆっくりとした変化が出力信号Yに現れた場合、出力信号Zは出力信号Yの変化に追従する。このため、図22に示す例においても、出力信号Yと出力信号Zとは同じような値になる。
【0071】
なお、誤検知を防止するため、ローパスフィルタ42の初期値として、0ではない値が設定されることが望ましい。ローパスフィルタ42の出力信号Zの初期値として0が出力されると、例えば、巻上機11の回転速度がvになる位置をかご1が通過することによって出力信号Yの初期値として大きな値が出力されると、判定信号Y-Zの値が突然大きくなって誤検知が発生する。この時の判定信号Y-Zは、出力信号Yの初期値と出力信号Zの初期値との差分である。出力信号Zの初期値として0ではない値が設定されていれば、出力信号Yの初期値として大きな値が出力されても、判定信号Y-Zの値が突然大きくなることはない。このため、誤検知を防止できる。ローパスフィルタ42の初期値として、例えば、後述する閾値TH1に1以上の係数を掛けた値が設定されることが望ましい。
【0072】
図18及び図19は、抽出部25がローパスフィルタ42を備える例を示す。抽出部25は、ローパスフィルタ42を備えずに判定信号を抽出しても良い。例えば、抽出部25は、バンドパスフィルタ40の出力信号Yの移動平均値に基づいて、振動のトレンド成分を演算しても良い。抽出部25は、例えば直近の20回分の出力信号Yから移動平均値を演算する。他の例として、抽出部25は、ニューラルネットワークといった機械学習アルゴリズムを利用して、振動のトレンド成分を演算しても良い。即ち、抽出部25は、学習機能を備えても良い。上記は一例である。抽出部25は、例えば直近の任意の回数分の出力信号Yから移動平均値を演算しても良い。上記任意の回数は、例えば10回~100回に含まれる回数である。
【0073】
図23は、抽出部25の機能を実現する他の例を示す図である。抽出部25は、例えばハイパスフィルタ44を備える。図23では、記載を簡略化するため、ハイパスフィルタのことをHPFと表記している。図18に示すローパスフィルタ42を1次遅れ系の伝達関数で設計した場合、減算器43の出力信号Y-Zは(7)式で表される。
Y-Z=Y-Y/(sτ+1)=Ysτ/(sτ+1) …(7)
【0074】
(7)式において、sはラプラス演算子である。τは時定数である。(7)式における伝達関数は、1次のハイパスフィルタの伝達関数である。即ち、抽出部25は、図23に示す例でも図18に示す例と同様の機能を実現できる。図23に示す例では、ハイパスフィルタ44にバンドパスフィルタ40の出力信号Yが入力される。ハイパスフィルタ44は、減算器43の出力信号Y-Zに相当する信号を判定信号として出力する。
【0075】
抽出部25がハイパスフィルタ44を備える場合の実装例は、図19に示す例と同様である。但し、図19に示すローパスフィルタ42-iは、ハイパスフィルタ44-iである。即ち、抽出部25には、速度区間のそれぞれに対応するハイパスフィルタ44が備えられる。また、ハイパスフィルタ44-iの出力は、ZではなくY-Zである。
【0076】
検出部26は、抽出部25によって抽出された判定信号に基づいて、センサ信号に異常な変動が発生したことを検出する(S103)。検出部26は、センサ信号に発生した突発的な変動を異常な変動として検出する。例えば、検出部26は、抽出部25によって抽出された判定信号の値が閾値TH1を超えるか否かを判定する。検出部26は、抽出部25によって抽出された判定信号の値が閾値TH1を超えると、センサ信号に異常な変動が発生したことを検出する。閾値TH1は、記憶部20に予め記憶される。
【0077】
制御装置13は、かご1を実際に移動させる特定の運転を行うことにより、閾値TH1を設定しても良い。例えば、エレベーターの据付が完了すると、閾値TH1を設定するための設定運転が行われる。設定運転では、かご1の速度が定格速度まで加速された後、0にまで減速される。そして、設定運転において抽出部24から出力された信号Yが記憶部20に記憶される。更に、記憶部20に記憶された出力信号Yの最大値に係数を掛けた値が閾値TH1として設定される。この係数は、1以上の値である。係数は2でも良い。制御装置13は、閾値TH1を更新するための更新運転を定期的に行っても良い。更新運転の内容は、設定運転の内容と同じでも良い。例えば、更新運転は1ヶ月毎に行われる。
【0078】
記憶部20に、閾値TH1の下限値が予め記憶されても良い。例えば、設定運転によって得られた閾値TH1が下限値に達していない場合は、閾値TH1として上記下限値が設定される。更新運転によって得られた閾値TH1が下限値に達していない場合は、閾値TH1として上記下限値が設定される。これにより、閾値TH1として極端に小さい値が設定されることを防止できる。
【0079】
センサ信号に異常な変動が発生したことが検出部26によって検出されると、その変動が発生した時のかご位置が記憶部20に記憶される。例えば、かご1が移動する区間が、上下に連続する複数の位置区間に仮想的に分割される。検出部26が異常な変動を検出すると、その変動が発生した位置区間を特定するための情報が記憶部20に記憶される。
【0080】
判定部27は、センサ信号に異常な変動が発生したことが検出部26によって検出されると、主ロープ4に破断部4cが存在するか否かを判定する(S104)。判定部27は、異常な変動が発生した時のかご位置に基づいて上記判定を行う。例えば、判定部27に、再現性判定機能27-1と破断判定機能27-2とが備えられる。再現性判定機能27-1は、異常な変動が発生したかご位置に再現性があるか否かを判定する(S104-1)。破断判定機能27-2は、再現性判定機能27-1の判定結果に基づいて、主ロープ4に破断部4cがあるか否かを判定する(S104-2)。
【0081】
図24は、再現性判定機能27-1の例を説明するための図である。図24Aは、かご1が位置0から位置Pを移動した時に得られた最新の判定信号を示す。図24Aに示す例では、位置P及び位置Pにおいて、判定信号の値が閾値TH1を超えている。図24Bは、かご1が同じ区間を前回移動した時に得られた判定信号を示す。即ち、図24Aに示す判定信号は、図24Bに示す判定信号が取得された直後にかご1が再び同じ区間を移動することによって得られた信号である。図24Bに示す例では、位置P、位置P、及び位置Pにおいて、判定信号の値が閾値TH1を超えている。
【0082】
再現性判定機能27-1は、例えば、同じ位置をかご1が複数回通過した時に判定信号の値が2回連続して閾値TH1を超えると、再現性ありと判定する。図24に示す例では、位置Pにおいて、判定信号の値が2回続けて閾値TH1を超えている。このため、再現性判定機能27-1は、位置Pにおいて再現性ありと判定する。同様に、再現性判定機能27-1は、位置Pにおいて再現性ありと判定する。
【0083】
一方、位置Pでは、判定信号の最新の値が閾値TH1を超えていない。このため、再現性判定機能27-1は、位置Pにおいて再現性ありとは判定しない。位置Pでの前回の値は、再現性のない事象に起因して発生したと判定される。例えば、位置Pでの前回の値は、乗客がかご1内で飛び跳ねたことによって発生したと判定される。
【0084】
かご1が移動する区間が複数の位置区間に分割されている場合は、例えば以下のような判定が行われる。再現性判定機能27-1は、同じ位置区間をかご1が複数回通過した際に判定信号の値が2回連続して閾値TH1を超えていれば、再現性ありと判定する。例えば、第5位置区間をかご1が通過する際に得られた判定信号の値が2回連続して閾値TH1を超えると、再現性判定機能27-1は、第5位置区間において再現性ありと判定する。
【0085】
再現性判定機能27-1は、判定信号の値が3回連続して閾値TH1を超えた場合に、再現性ありと判定しても良い。再現性ありと判定するための上記回数は、任意に設定される。
【0086】
破断判定機能27-2は、異常な変動が発生したかご位置に再現性があると再現性判定機能27-1によって判定されると、主ロープ4に破断部4cが発生していると判定する。破断部4cが発生していることが破断判定機能27-2によって判定されると、動作制御部28は、かご1を最寄り階に停止させる(S105)。また、通報部29は、エレベーターの管理会社に通報する(S106)。
【0087】
本実施の形態に示す破断検知装置では、主ロープ4に振動が発生した際に出力信号が変動するセンサを利用して、破断部4cの存在を検知する。センサ信号として、例えば秤信号、速度偏差信号及びトルク信号を利用できる。このため、破断部4cの有無を判定するために専用のセンサを備える必要はない。また、少なくとも1つのセンサがあれば、破断部4cの存在を検知できる。破断部4cの有無を判定するために多数のセンサを備える必要はない。
【0088】
本実施の形態に示す破断検知装置では、抽出部24によって抽出された振動成分からトレンド成分を減衰させることにより、判定信号が抽出される。具体的に、抽出部25は、抽出部24によって抽出された振動成分から、かご1の速度に依存する定常振動成分及び漸増振動成分を減衰させ、判定信号を抽出する。このため、例えばトルク脈動の共振に起因する変動がセンサ信号に含まれていても、検知精度は悪化しない。本実施の形態に示す破断検知装置であれば、主ロープ4に破断部4cが存在していることを精度良く検知できる。
【0089】
本実施の形態では、かご1が移動を開始してから停止するまでの間、破断検知装置が常に同じ動作を行う例について説明した。これは一例である。例えば、エレベーター装置では、かご1が移動を開始する際に、かご1の質量とつり合いおもり2の質量との差に起因する速度制御の過渡応答が生じる。このため、かご1が移動を開始した直後は、巻上機11からのトルク信号等に変動が生じ易い。このような変動によって検知精度が悪化することを防止するため、かご1が移動を開始した直後は、抽出部24の機能を停止しても良い。或いは、かご1が移動を開始した直後は、バンドパスフィルタ40の出力信号Yを強制的に0にしても良い。他の例として、かご1が移動を開始した直後は、抽出部25の機能を停止しても良い。他の例として、かご1が移動を開始した直後は、減算器43の出力信号Y-Zを強制的に0にしても良い。
【0090】
検知精度の悪化を防止する他の例として、かご1が移動を開始した直後は、検出部26は、判定信号の値が閾値TH2を超える場合にセンサ信号に異常な変動が発生したことを検出しても良い。閾値TH2は、閾値TH1より大きな値である。かご1が移動を開始した直後とは、例えば、かご1が移動を開始してからかご1の速度が速度vになるまでの間である。速度vは、記憶部20に予め記憶される。かご1が移動を開始した直後とは、かご1が移動を開始してからかご1の加速度が一定になるまでの間であっても良い。
【0091】
同様に、かご1が停止する直前は、巻上機11からのトルク信号等に変動が生じ易い。このような変動によって検知精度が悪化することを防止するため、かご1が停止する直前は、抽出部24の機能を停止しても良い。他の例として、かご1が停止する直前は、バンドパスフィルタ40の出力信号Yを強制的に0にしても良い。他の例として、かご1が停止する直前は、抽出部25の機能を停止しても良い。他の例として、かご1が停止する直前は、減算器43の出力信号Y-Zを強制的に0にしても良い。かご1が停止する直前は、検出部26は、判定信号の値が閾値TH3を超える場合にセンサ信号に異常な変動が発生したことを検出しても良い。閾値TH3は、閾値TH1より大きな値である。かご1が停止する直前とは、例えばかご1の速度が速度vより遅い間である。速度vは、記憶部20に予め記憶される。
【0092】
かご1が移動を開始した直後及びかご1が停止する直前の双方において、検知精度が悪化することを防止するための上記制御を行っても良い。かご1が移動を開始した直後及びかご1が停止する直前とは、例えばかご1の速度が速度vより遅い間である。
【0093】
本実施の形態に示す例では、図19を用いて抽出部24及び抽出部25の実装例について説明した。上述したように、図19Aに示すトルク信号は、かご1が加速している時にバンドパスフィルタ40に入力される。一方、かご1がある階から他の階に移動する場合、図19Aに示すようなトルク信号は、かご1が減速している時にもバンドパスフィルタ40に入力される。本実施の形態に示す例は、かご1の加速時と減速時とを区別せず、速度区間のそれぞれに対して共通の記憶領域が設定された例に相当する。即ち、抽出部25は、抽出部24によって抽出された振動成分から、加速時と減速時との平均的なトレンド成分を減衰させることにより、判定信号を抽出する。
【0094】
他の例として、抽出部25は、加速時のトレンド成分と減速時のトレンド成分とを比較し、大きい方のトレンド成分を抽出部24によって抽出された振動成分から減衰させても良い。かご1の1回の走行には、かご1が加速する区間とかご1が減速する区間とがある。例えば、抽出部25は、かご1が加速時に第1速度区間に含まれる速度で移動している時のバンドパスフィルタ40の出力信号Yとかご1が減速時に第1速度区間に含まれる速度で移動している時のバンドパスフィルタ40の出力信号Yとを比較する。抽出部25は、出力信号Yと出力信号Yとを比較し、大きい方を第1速度区間における出力信号Yとして採用し、フィルタ42-1に入力する。
【0095】
他の例として、かご1の加速時と減速時とを区別し、速度区間のそれぞれに対して、加速時用の記憶領域と減速時用の記憶領域とを設定しても良い。即ち、抽出部25は、かご1が加速している時は、抽出部24によって抽出された振動成分から、かご1の加速時の速度に依存する定常振動成分及び漸増振動成分を減衰させることにより、判定信号を抽出する。抽出部25は、かご1が減速している時は、抽出部24によって抽出された振動成分から、かご1の減速時の速度に依存する定常振動成分及び漸増振動成分を減衰させることにより、判定信号を抽出する。これにより、検知精度を更に向上させることができる。
【0096】
本実施の形態では、かご1が移動する方向を考慮せずに破断部4cの存在を検知する例について説明した。これは一例である。かご1が上方に移動する場合とかご1が下方に移動する場合とを分けて破断部4cの存在を検知しても良い。例えば、センサ信号に異常な変動が発生したことが検出部26によって検知されると、その変動が発生した時のかご位置とかご1の移動方向とが記憶部20に記憶される。再現性判定機能27-1は、かご1の移動方向も考慮し、異常な変動が発生したかご位置に再現性があるか否かを判定する。
【0097】
本実施の形態では、あるかご位置において判定信号の値が複数回連続して閾値TH1を超えている場合に、再現性ありと判定される例について説明した。これは一例である。判定部27は、かご1が同じ位置を通過した際に異常な変動が発生したことが検出部26によって検出された頻度に基づいて、主ロープ4に破断部4cが存在するか否かを判定しても良い。
【0098】
図25は、実施の形態1における破断検知装置の他の例を示す図である。図25に示す例では、制御装置13は、演算部30を備える点で図10に示す例と相違する。
【0099】
図25に示す例では、記憶部20に、破断部4cが存在するか否かを判定するための判定点数が記憶される。演算部30は、検出部26が検出した結果に応じて判定点数を演算する。例えば、センサ信号に異常な変動が発生したことが検出部26によって検出されると、その変動が発生した時のかご位置が判定点数に紐付けて記憶部20に記憶される。判定部27は、記憶部20に記憶された判定点数に基づいて、主ロープ4に破断部4cが存在するか否かを判定する。かご1が移動する区間が複数の位置区間に分割されている場合、位置区間のそれぞれに対応する判定点数が記憶部20に記憶される。
【0100】
図26及び図27は、破断部4cの例を示す図である。図26及び図27は、図3のA-A断面に相当する図である。図26は、破断部4cが先端に近づくに従って返し車7から離れる例を示す。破断部4cが図26に示すように主ロープ4の表面から突出する場合、破断部4cは、返し車7を通過する際に外れ止め19に接触する。図27は、破断部4cが返し車7の表面に沿うように配置される例を示す。破断部4cが図27に示すように主ロープ4の表面から突出する場合、破断部4cは、返し車7を通過する際に外れ止め19に接触しない。このため、破断部4cが返し車7を通過しても主ロープ4に振動は発生しない。
【0101】
破断部4cは、外れ止め19に接触することにより向きが変わることがある。破断部4cの向きが図26に示す向きから図27に示す向きに変わると、破断部4cが返し車7を通過しても主ロープ4に振動が発生しなくなる。一方、破断部4cは、返し車7を通過する際に溝の表面に押されて向きが変わることがある。破断部4cは、素線或いはストランドが更に解けることによって向きが変わることがある。破断部4cの向きが図27に示す向きから図26に示す向きに変わると、破断部4cが返し車7を通過する際に主ロープ4に振動が発生するようになる。
【0102】
図28は、演算部30及び判定部27の機能の一例を説明するための図である。図28Aは、かご1の位置を示す。図28Bは、巻上機11のトルクを示す。図28Cは、判定信号を示す。図28Dは、判定点数の推移の例を示す。
【0103】
図28は、かご1が最下階と位置Pとの間を2往復する例を示す。かご1は、時刻t、時刻t、時刻t、及び時刻tで位置Pを通過する。また、図28は、主ロープ4に破断部4cが存在する例を示す。破断部4cは、時刻t、時刻t、時刻t、及び時刻tで返し車7を通過する。上述したように、主ロープ4に破断部4cが存在しても、破断部4cが常に外れ止め19に接触するとは限らない。図28に示す例では、時刻t、時刻t、及び時刻tで破断部4cが外れ止め19に接触する。破断部4cは、時刻tで外れ止め19に接触しない。
【0104】
例えば、時刻tで破断部4cが外れ止め19に接触すると、判定信号の値が閾値TH1を超える。これにより、検出部26は、センサ信号に異常な変動が発生したことを検出する。例えば、位置Pが第8位置区間に含まれる場合を考える。時刻tにおいて、第8位置区間の判定点数は初期値に設定されている。初期値は例えば0である。演算部30は、かご1が第8位置区間を通過した際に異常な変動が発生したことが検出部26によって検出されると、第8位置区間の判定点数に一定値を加算する。図28Dは、加点する一定値が5である例を示す。
【0105】
判定部27は、記憶部20に記憶された判定点数が閾値TH4を超えたか否かを判定する。閾値TH4は記憶部20に予め記憶される。図28Dは、閾値TH4が10である例を示す。時刻tにおいて、第8位置区間の判定点数は閾値TH4を超えていない。判定部27は、判定点数が閾値TH4を超えていなければ、主ロープ4に破断部4cが存在しないと判定する。
【0106】
かご1は、時刻tで位置Pを再び通過する。時刻tでは、破断部4cは外れ止め19に接触しない。判定点数が0ではない位置を通過した際に異常な変動が発生したことが検出部26によって検出されなければ、演算部30は、その位置の判定点数を減点する。時刻tにおいて、第8位置区間の判定点数は0ではない。演算部30は、時刻tにおいて、第8位置区間の判定点数から一定値を減点する。図28Dは、減点する一定値が1である例を示す。
【0107】
かご1は、時刻tで位置Pを再び通過する。検出部26は、時刻tでセンサ信号に異常な変動が発生したことを検出する。このため、演算部30は、記憶部20に記憶された第8位置区間の判定点数に5を加算する。時刻tにおいて、第8位置区間の判定点数は閾値TH4を超えていない。このため、判定部27は、主ロープ4に破断部4cが存在しないと判定する。
【0108】
その後、かご1は時刻tで位置Pを再び通過する。検出部26は、時刻tでセンサ信号に異常な変動が発生したことを検出する。このため、演算部30は、記憶部20に記憶された第8位置区間の判定点数に更に5を加算する。記憶部20に記憶された第8位置区間の判定点数は、時刻tで14になる。時刻tにおいて、第8位置区間の判定点数は閾値TH4を超える。これにより、判定部27は、時刻tにおいて主ロープ4に破断部4cが存在することを判定する。
【0109】
図28に示す例であれば、破断部4cが外れ止め19に接触しない時間帯が発生しても、破断部4cの存在を精度良く検出することができる。
【0110】
かご1が移動する区間を複数の位置区間に分割しない場合は、記憶部20に記憶されたかご位置をかご1が再度通過した際に検出部26によって異常な変動が検出されると、その位置の判定点数に一定値が加算される。当該位置をかご1が再度通過した際に検出部26によって異常な変動が検出されなければ、その位置の判定点数から一定値が減算される。かかる場合は、記憶部20に記憶されたかご位置から基準距離以内の位置であれば、同じかご位置とみなしても良い。上記基準距離は、例えば、破断部4cが対向部19aに接触してから対向部19bに接触するまでに主ロープ4が移動する距離に基づいて設定される。
【0111】
閾値TH4は、判定点数に加算する値の2倍以上の値であることが好ましい。閾値TH4が判定点数に加算する値の2倍以上の値であれば、再現性のない事象に起因する誤検知を抑制できる。また、破断部4cが外れ止め19に連続して接触しない可能性も考慮し、判定点数から減算する値は、加算する値の2分の1以下の値であることが好ましい。
【0112】
閾値TH4は、判定信号の大きさに応じて可変であっても良い。例えば、閾値TH4として第1の値と第2の値とが予め設定される。第2の値は、第1の値より大きな値である。判定信号の大きさが基準値以下の場合は、閾値TH4として第2の値が使用される。即ち、判定信号の大きさが基準値を超えるような変動がセンサ信号に発生した場合は、破断部4cの存在を早期に検出できる。一例として、下記条件1を満たす場合は閾値TH4が15に設定される。下記条件2を満たす場合は閾値TH4が10に設定される。
条件1:[閾値TH1]≦[判定信号]≦2×[閾値TH1]
条件2:2×[閾値TH1]<[判定信号]
【0113】
実施の形態2.
実施の形態1では、特定の周波数帯域の振動成分から、かご1の速度に依存する定常振動成分と漸増振動成分とを減衰させることにより、判定信号を抽出する例について説明した。本実施の形態では、かご1の位置に依存する定常振動成分及び漸増振動成分も考慮する例について説明する。破断検知装置が備える機能のうち本実施の形態で説明しない機能については、実施の形態1で開示した何れの機能を採用しても良い。
【0114】
先ず、センサ信号に生じる変動の例について説明する。図29は、エレベーター装置を模式的に示す図である。図29では、制御装置13及び調速機15を省略している。昇降路3に、かご1の移動を案内するためのガイドレールが設けられる。ガイドレールは、多数のレール部材45を備える。多数のレール部材45が上下に繋げられることにより、かご1の移動範囲に亘ってガイドレールが配置される。このため、ガイドレールには、レール部材45の継目が存在する。
【0115】
ガイドレールには油が供給される。ガイドレールに供給された油が枯渇してくると、かご1がレール部材45の継目を通過する際にかご1が僅かに揺れる。主ロープ4は、吊り車5及び吊り車6に巻き掛けられる。このため、かご1が揺れると主ロープ4に振動が発生する。ガイドレールに供給された油が枯渇すると、かご1がレール部材45の継目を通過する際にセンサ信号に変動が生じる。レール部材45の継目に段差があると、センサ信号に生じる変動は大きくなる。
【0116】
図30は、センサ信号が変動する例を説明するための図である。図30Aは、図7Aに対応する図である。図30Bは、図7Bに対応する図である。図30Cは、図7Cに対応する図である。図30Dは、図7Dに対応する図である。図30は、ガイドレールに供給された油が枯渇してきた時に得られる波形の例を示す。
【0117】
かご1は、位置Pでレール部材45のある継目を通過する。かご1がこの継目を通過する際に、かご1が僅かに揺れる。これにより、主ロープ4に振動が発生し、秤装置12からの秤信号に変動が生じる。同様に、かご1が位置Pを通過する時に、信号生成部23が生成する速度偏差信号に変動が生じる。かご1が位置Pを通過する時に、巻上機11からのトルク信号に変動が生じる。
【0118】
ガイドレールへの油の供給量が少なくなると、かご1がレール部材45の継目を通過する際にセンサ信号に変動が発生する場合がある。レール部材45の継目に起因するセンサ信号の変動は、同じかご位置で繰り返し発生する。また、ガイドレールの表面の油の量は徐々に少なくなるため、レール部材45の継目に起因するセンサ信号の変動は、時間の経過とともに大きくなる。
【0119】
図31は、返し車7の断面を拡大した図である。図31は、図26の一部を拡大した図に相当する。図31は、返し車7に形成された溝が摩耗した例を示す。図31では、溝が摩耗する前の主ロープ4の中心を符号Oで示す。溝が摩耗した時の主ロープ4の中心を符号O´で示す。返し車7に形成された溝が摩耗すると、図31に示すように、主ロープ4の通過位置がずれる。主ロープ4の通過位置のずれは、返し車7の軸7aがずれることによっても発生する。そして、主ロープ4の通過位置にずれが発生すると、返し車7が回転する度に主ロープ4に振動が発生する。即ち、かご1が移動することによってセンサ信号に変動が生じる。
【0120】
図32は、センサ信号が変動する例を説明するための図である。図32Aは、図7Aに対応する図である。図32Bは、図7Bに対応する図である。図32Cは、図7Cに対応する図である。図32Dは、図7Dに対応する図である。図32は、返し車7に形成された溝が摩耗した時に得られる波形の例を示す。
【0121】
返し車7に形成された溝が摩耗すると、かご1が移動することによって主ロープ4に振動が発生する。これにより、秤装置12からの秤信号に変動が生じる。同様に、かご1が移動すると、信号生成部23が生成する速度偏差信号に変動が生じる。かご1が移動すると、巻上機11からのトルク信号に変動が生じる。
【0122】
このように、滑車に異常が発生すると、かご1が移動することによってセンサ信号に変動が発生する場合がある。このような滑車異常に起因するセンサ信号の変動は、かご位置に因らず発生する。図32は、かご1がある区間を移動する時にセンサ信号に現れる変動のみを示している。なお、特定のかご位置にだけ着目すると、滑車異常に起因するセンサ信号の変動は繰り返し発生することになる。また、溝の摩耗は徐々に進行するため、滑車異常に起因するセンサ信号の変動は、時間の経過とともに大きくなる。
【0123】
図33は、実施の形態2における破断検知装置の例を示す図である。制御装置13は、速度検出部21、位置検出部22、及び信号生成部23に加え、記憶部20、抽出部24、抽出部25、検出部26、判定部27、動作制御部28、及び通報部29を更に備える。本実施の形態における破断検知装置の動作例は、図11に示す例と同様である。
【0124】
抽出部24は、センサ信号から、特定の周波数帯域の振動成分を抽出する(S101)。抽出部24の機能は、実施の形態1で開示した機能と同様である。抽出部24は、例えばバンドパスフィルタ40を備える。バンドパスフィルタ40に、例えば巻上機11からのトルク信号が入力される。バンドパスフィルタ40は、入力されたトルク信号から、(6)式に示す周波数fを含む特定の周波数帯域の振動成分を抽出する。
【0125】
抽出部25は、抽出部24によって抽出された振動成分から、判定信号を抽出する(S102)。本実施の形態に示す例では、抽出部25は、抽出部24によって抽出された振動成分から、かご1の速度と位置とに依存する定常振動成分と漸増振動成分とを減衰させることにより、判定信号を抽出する。
【0126】
抽出部25は、図18に示すように、例えばローパスフィルタ42、及び減算器43を備える。ローパスフィルタ42に、バンドパスフィルタ40の出力信号Yが入力される。減算器43に、バンドパスフィルタ40の出力信号Yとローパスフィルタ42の出力信号Zとが入力される。減算器43は、バンドパスフィルタ40の出力信号Yとローパスフィルタ42の出力信号Zとの差分信号Y-Zを判定信号として出力する。減算器43の出力信号Y-Zは、検出部26に入力される。
【0127】
図34は、抽出部24及び抽出部25の実装例を説明するための図である。図34Aは、巻上機11のトルクを示す。図34Aの横軸は、図19Aに示す例と異なり、かご1の位置を示す。図34Aに示すトルク信号がバンドパスフィルタ40に入力される。図34Bは、増幅器41の出力信号uを示す。抽出部24は、増幅器41の出力信号u図34Cに示すように離散化する。抽出部24は、図34Cに示すような離散化した信号をバンドパスフィルタ40の出力信号Yとして出力する。
【0128】
上述したように、かご1が走行時に出し得る速度の区間が、複数の速度区間に仮想的に分割される。例えば、上記区間は、第1速度区間から第n速度区間に等分割される。本実施の形態に示す例では、更に、かご1が移動する区間が、上下に連続する複数の位置区間に仮想的に分割される。例えば、上記区間は、第1位置区間から第m位置区間に等分割される。
【0129】
図34は、一定の高さ毎に位置区間が設定された例を示す。例えば、かご位置0~0.3[m]の区間が第1位置区間に設定される。かご位置0.3~0.6[m]の区間が第2位置区間に設定される。第2位置区間は、第1位置区間の直上の区間である。かご位置0.6~0.9[m]の区間が第3位置区間に設定される。第3位置区間は、第2位置区間の直上の区間である。第3位置区間より上方の区間についても、同様に設定される。第(j+1)位置区間に含まれる高さは、第j位置区間に含まれる高さより高い。図34は、jの最大値mが6である例を示す。mの値は46でなくても良い。
【0130】
本実施の形態に示す例では、図34Cに示すように、位置区間と速度区間とに関し、区間(j、i)と表記する。例えば、区間(11、5)との表記は、かご1が第11位置区間に含まれる位置を第5速度区間に含まれる速度で移動する区間であることを意味する。
【0131】
抽出部24は、位置区間毎に1つの信号を抽出することにより、連続的な出力信号uを離散化する。例えば、抽出部24は、1つの位置区間において最大の値を有する信号uをその位置区間の出力信号Yとして抽出する。
【0132】
抽出部25には、位置区間と速度区間とのそれぞれの組み合わせに対応するローパスフィルタ42が備えられる。例えば、第1位置区間に対応するローパスフィルタ42をフィルタ42(1、i)と表記する。第1速度区間に対応するローパスフィルタ42をフィルタ42(j、1)と表記する。第2位置区間に対応するローパスフィルタ42をフィルタ42(2、i)と表記する。第2速度区間に対応するローパスフィルタ42をフィルタ42(j、2)と表記する。同様に、第m位置区間と第n速度区間とに対応するローパスフィルタ42をフィルタ42(j、i)と表記する。
【0133】
かご1が第1位置区間を移動している時のバンドパスフィルタ40の出力信号Yは、フィルタ42(1、1)からフィルタ42(1、n)の何れかに入力される。例えば、かご1が第1速度区間に含まれる速度で移動していれば、バンドパスフィルタ40の出力信号Yはフィルタ42(1、1)に入力される。かご1が第5速度区間に含まれる速度で移動していれば、バンドパスフィルタ40の出力信号Yはフィルタ42(1、5)に入力される。フィルタ42(1、i)からの出力信号Zは、第1位置区間であり且つ第i速度区間である区間におけるトレンド成分に相当する。フィルタ42(1、i)からの出力信号Zは、減算器43に入力される。
【0134】
同様に、かご1が第j位置区間を移動している時のバンドパスフィルタ40の出力信号Yは、フィルタ42(j、1)からフィルタ42(j、n)の何れかに入力される。例えば、かご1が第1速度区間に含まれる速度で移動していれば、バンドパスフィルタ40の出力信号Yはフィルタ42(j、1)に入力される。かご1が第5速度区間に含まれる速度で移動していれば、バンドパスフィルタ40の出力信号Yはフィルタ42(j、5)に入力される。フィルタ42(j、i)からの出力信号Zは、第j位置区間であり且つ第i速度区間である区間におけるトレンド成分に相当する。フィルタ42(j、i)からの出力信号Zは、減算器43に入力される。
【0135】
減算器43は、かご1が第1速度区間に含まれる速度で第1位置区間を移動している時のバンドパスフィルタ40の出力信号Yとフィルタ42(1、1)からの出力信号Zとの差分信号を、区間(1、1)における判定信号として出力する。同様に、減算器43は、かご1が第i速度区間に含まれる速度で第j位置区間を移動している時のバンドパスフィルタ40の出力信号Yとフィルタ42(j、i)からの出力信号Zとの差分信号を、区間(j、i)における判定信号として出力する。図34Cに示す網掛け部分は、かご1がある階から他の階に移動した時に判定信号が出力される区間の例を示す。
【0136】
検出部26は、抽出部25によって抽出された判定信号に基づいて、センサ信号に異常な変動が発生したことを検出する(S103)。検出部26は、センサ信号に発生した突発的な変動を異常な変動として検出する。例えば、検出部26は、抽出部25によって抽出された判定信号の値が閾値TH1を超えると、センサ信号に異常な変動が発生したことを検出する。センサ信号に異常な変動が発生したことが検出部26によって検出されると、その変動が発生した時のかご位置が記憶部20に記憶される。例えば、検出部26が異常な変動を検出すると、その変動が発生した位置区間を特定するための情報が記憶部20に記憶される。
【0137】
本実施の形態においても、実施の形態1で開示したS104からS106に示す処理と同様の処理が行われる。
【0138】
図35は、減算器43に入力される信号の例を示す図である。図35において、破線は増幅器41の出力信号uを示す。即ち、破線は、離散化される前の出力信号Yを示す。白丸は、離散化された出力信号Yを示す。実線は、ローパスフィルタ42の出力信号Zを示す。図35において、横軸はかご位置である。図35は、かご1が第j-1位置区間、第j位置区間、及び第j+1位置区間を通過した時に得られた信号を示す。なお、図35に関する説明では、位置区間のみを考慮する。
【0139】
図35Aは、第j位置区間において閾値TH1を超える出力信号Y(j)が存在する例を示す。出力信号Y(j)がレール部材45の継目に起因して発生している場合、第j位置区間の出力信号Z(j)は出力信号Y(j)に追従する。出力信号Z(j)の値は、出力信号Y(j)の値と同じような値になる。このため、第j速度区間の判定信号である出力信号Y(j)-Z(j)は、閾値TH1より小さな値になる。図35Aに示す例では、第j-1位置区間、第j位置区間、及び第j+1位置区間のそれぞれにおいて、検出部26は、センサ信号に異常な変動が発生したことを検出しない。
【0140】
図35Bは、図35Aに示す信号が取得された直後に、かご1が第j-1位置区間、第j位置区間、及び第j+1位置区間を再び通過した時の信号を示す。図35Bに示す例では、第j-1位置区間において閾値TH1を超える出力信号Y(j-1)が存在する。図35Bに示す出力信号Y(j-1)は、図35Aに示す出力信号Y(j)が第j-1速度区間にずれたものである。このような事象は、例えば主ロープ4が伸びることによって発生する。
【0141】
図35Bに示す例では、第j-1位置区間の出力信号Z(j-1)は出力信号Y(j-1)の急激な変化に追従しない。このため、第j-1位置区間の判定信号である出力信号Y(j-1)-Z(j-1)が閾値TH1より大きければ、破断部4cが存在すると破断判定機能27-2によって判定される可能性がある。
【0142】
一方、第j位置区間では、出力信号Y(j)が急激に小さくなる。出力信号Z(j)は、出力信号Y(j)の急激な変化に追従しない。このため、第j位置区間の判定信号である出力信号Y(j)-Z(j)は負の値になる。第j位置区間では、等価的に閾値TH1が高くなり、検知感度が低下する。
【0143】
上記は位置区間について説明であるが、速度区間についても同様の事象が発生し得る。以下に、このような誤検知を防止するための機能について説明する。本機能を備える制御装置13の例は、図33に示す例と同様である。制御装置13は、演算部30を更に備えても良い。
【0144】
図36は、抽出部25の機能の一例を説明するための図である。抽出部25は、ローパスフィルタ42の出力信号Zについて、隣接する位置区間の値と隣接する速度区間の値も考慮した上で、判定信号として信号Y-Zを出力する。例えば、抽出部25は、以下のように判定信号を出力する。
【0145】

【0146】
SI(k)は、第k位置区間における判定信号である。xは、かご位置である。BPF(x)は、バンドパスフィルタ40の出力である。v(x)は、かご1の速度である。TF(k,l)は、第k位置区間及び第l速度区間におけるトレンド成分である。Δpは、分割された位置区間の長さである。Δvは、分割された速度区間の長さである。
【0147】
例えば、図36に示すような走行パターンでかご1が移動した例を考える。図36に示す例では、かご1が第7位置区間を通過した時の速度は、第4速度区間及び第5速度区間に含まれる。位置区間に関しては第7位置区間が通過区間であるため、抽出部25は、出力信号Zについて第7位置区間の値だけでなく第6位置区間の値と第8位置区間の値も考慮する。速度区間に関しては第4速度区間及び第5速度区間が通過区間であるため、抽出部25は、出力信号Zについて第4速度区間の値及び第5速度区間の値だけでなく、第3速度区間の値と第6速度区間の値も考慮する。即ち、抽出部25は、バンドパスフィルタ40の出力信号Yの値から減算する値として、第6位置区間から第8位置区間の何れかの区間の値であり且つ第3速度区間から第6速度区間の何れかの区間の値であるものの中で一番大きな値を採用する。
【0148】
他の例として、抽出部25は、隣接する位置区間の値と隣接する速度区間の値を考慮する際に、かご1の実施の通過区間のみを考慮しても良い。即ち、図36に示す例では、かご1が第6位置区間を通過した時の速度は、第3速度区間及び第4速度区間に含まれる。かご1が第7位置区間を通過した時の速度は、第4速度区間及び第5速度区間に含まれる。かご1が第8位置区間を通過した時の速度は、第5速度区間及び第6速度区間に含まれる。抽出部25は、かご1が第7位置区間を通過した時にバンドパスフィルタ40の出力信号Yの値から減算する値として、図36の白星印が付された区間の値の中で一番大きな値を採用しても良い。
【0149】
同様に、図36に示す例では、かご1が第17位置区間を通過した時の速度は、第6速度区間に含まれる速度である。位置区間に関しては第17位置区間が通過区間であるため、抽出部25は、出力信号Zについて第17位置区間の値だけでなく第16位置区間の値と第18位置区間の値も考慮する。速度区間に関しては第6速度区間が通過区間であるため、抽出部25は、出力信号Zについて第6速度区間の値だけでなく第5速度区間の値も考慮する。即ち、抽出部25は、バンドパスフィルタ40の出力信号Yの値から減算する値として、第16位置区間から第18位置区間の何れかの区間の値であり且つ第5速度区間から第6速度区間の何れかの区間の値であるものの中で一番大きな値を採用する。
【0150】
他の例として、抽出部25は、隣接する位置区間の値と隣接する速度区間の値を考慮する際に、かご1の実施の通過区間のみを考慮しても良い。即ち、図36に示す例では、かご1が第16位置区間を通過した時の速度は、第6速度区間に含まれる。かご1が第17位置区間を通過した時の速度は、第6速度区間に含まれる。かご1が第18位置区間を通過した時の速度は、第6速度区間に含まれる。抽出部25は、かご1が第17位置区間を通過した時にバンドパスフィルタ40の出力信号Yの値から減算する値として、図36の黒星印が付された区間の値の中で一番大きな値を採用しても良い。
【0151】
図37は、実施の形態2における破断検知装置の他の例を示す図である。図37に示す例は、抽出部25が減衰機能31、減衰機能32、及び抽出機能33を備える点で、図33に示す例と相違する。
【0152】
例えば、抽出部24は、センサ信号から、特定の周波数帯域の振動成分を抽出する(S101)。抽出部24がバンドパスフィルタ40を備える場合、バンドパスフィルタ40は、入力されたトルク信号から、(6)式に示す周波数fを含む特定の周波数帯域の振動成分を抽出する。
【0153】
図37に示す例では、減衰機能31は、抽出部24によって抽出された振動成分から、かご1の速度に依存する定常振動成分と漸増振動成分とを減衰させる機能を有する。減衰機能32は、抽出部24によって抽出された振動成分から、かご1の位置に依存する定常振動成分と漸増振動成分とを減衰させる機能を有する。抽出機能33は、減衰機能31による減衰又は減衰機能32による減衰の一方を選択する。例えば、抽出機能33は、かご1の速度とかご1の位置とに基づいて上記選択を行う。抽出機能33は、減衰機能31による減衰を選択すれば、減衰機能31を用いて判定信号を抽出する。抽出機能33は、減衰機能32による減衰を選択すれば、減衰機能32を用いて判定信号を抽出する(S102)。
【0154】
図38は、抽出部25の一例を示す図である。図38に示すように、抽出部25は、例えばローパスフィルタ42v、ローパスフィルタ42p、及び減算器43を備える。ローパスフィルタ42vは、減衰機能31の機能を実現する。ローパスフィルタ42pは、減衰機能32の機能を実現する。減算器43は、抽出機能33の機能の一部を実現する。
【0155】
ローパスフィルタ42vに、バンドパスフィルタ40の出力信号Yが入力される。ローパスフィルタ42pに、バンドパスフィルタ40の出力信号Yが入力される。減算器43に、バンドパスフィルタ40の出力信号Yが入力される。減算器43には、ローパスフィルタ42vの出力信号Z或いはローパスフィルタ42pの出力信号Zも入力される。減算器43は、出力信号Yと出力信号Zとの差分信号Y-Zを判定信号として出力する。減算器43の出力信号Y-Zは、検出部26に入力される。
【0156】
ローパスフィルタ42vに関する実装例は、図19に示す例と同様である。例えば、かご1が走行時に出し得る速度の区間が、複数の速度区間に仮想的に分割される。抽出部25には、速度区間のそれぞれに対応するローパスフィルタ42vが備えられる。第i速度区間に対応するローパスフィルタ42vをフィルタ42v-iと表記する。フィルタ42v-iに、かご1が第i速度区間に含まれる速度で移動している時のバンドパスフィルタ40の出力信号Yが入力される。フィルタ42v-iからの出力信号Zは、第i速度区間におけるトレンド成分に相当する。
【0157】
図39は、ローパスフィルタ42pに関する実装例を示す図である。図39Aは、巻上機11のトルクを示す。図39Aの横軸は、かご1の位置を示す。例えば、図39Aに示すトルク信号がバンドパスフィルタ40に入力される。図39Bは、増幅器41の出力信号uを示す。抽出部24は、増幅器41の出力信号u図39Cに示すように離散化する。抽出部24は、図39Cに示すような離散化した信号をバンドパスフィルタ40の出力信号Yとして出力する。
【0158】
例えば、かご1が移動可能な区間が、上下に連続する複数の位置区間に仮想的に分割される。例えば、上記区間は、第1位置区間から第m位置区間に等分割される。図39では、記載を簡略化するため、第j位置区間のことを区間jと表記している。図39は、jの最大値mが25である例を示す。
【0159】
抽出部25には、位置区間のそれぞれに対応するローパスフィルタ42pが備えられる。第j位置区間に対応するローパスフィルタ42pをフィルタ42p-jと表記する。フィルタ42p-1に、かご1が第1位置区間を移動している時のバンドパスフィルタ40の出力信号Yが入力される。フィルタ42p-1からの出力信号Zは、第1位置区間におけるトレンド成分に相当する。フィルタ42p-jに、かご1が第j位置区間を移動している時のバンドパスフィルタ40の出力信号Yが入力される。フィルタ42p-jからの出力信号Zは、第j位置区間におけるトレンド成分に相当する。
【0160】
抽出機能33は、かご1の速度に応じて決まるローパスフィルタ42vの出力信号Zvの値と、かご1の位置に応じて決まるローパスフィルタ42pの出力信号Zpの値とを比較する。例えば、抽出機能33は、出力信号Zvの値と出力信号Zpの値とのうち大きい値を、出力信号Zとして減算器43に出力する。例えば、かご1が第i速度区間に含まれる速度で第j位置区間を移動していれば、抽出機能33は、フィルタ42v-iから出力される信号の値とフィルタ42p-jから出力される信号の値とを比較し、大きい方を出力信号Zとして出力する。
【0161】
図40は、抽出機能33の他の例を説明するための図である。図40は、抽出機能33が隣接する位置区間の値と隣接する速度区間の値も考慮した上で出力信号Zの決定を行う例を示す。例えば、図40の星印に示すように、かご1が第4速度区間に含まれる速度で第3位置区間を移動する例を考える。かかる場合、抽出機能33は、第4速度区間の値だけでなく、第3速度区間の値及び第5速度区間の値も考慮する。また、抽出機能33は、第3位置区間の値だけでなく、第2位置区間の値及び第4位置区間の値も考慮する。即ち、抽出機能33は、第3速度区間の値、第4速度区間の値、第5速度区間の値、第2位置区間の値、第3位置区間の値、及び第4位置区間の値の中で一番大きな値を出力信号Zとして出力する。
【0162】
他の例として、抽出機能33は、かご1の加速時及び減速時は、かご1の速度に応じて決まるローパスフィルタ42vの出力信号Zvを出力信号Zとして出力しても良い。かかる場合、抽出機能33は、かご1の定速時は、かご1の位置に応じて決まるローパスフィルタ42pの出力信号Zpを出力信号Zとして出力する。
【0163】
減算器43は、入力された出力信号Yと出力信号Zとの差分信号を、判定信号として出力する。
【0164】
検出部26は、抽出部25によって抽出された判定信号に基づいて、センサ信号に異常な変動が発生したことを検出する(S103)。例えば、検出部26は、抽出部25によって抽出された判定信号の値が閾値TH1を超えると、センサ信号に異常な変動が発生したことを検出する。センサ信号に異常な変動が発生したことが検出部26によって検出されると、その変動が発生した時のかご位置が記憶部20に記憶される。例えば、検出部26が異常な変動を検出すると、その変動が発生した位置区間を特定するための情報が記憶部20に記憶される。その後、実施の形態1で開示したS104からS106に示す処理と同様の処理が行われる。
【0165】
実施の形態3.
本実施の形態では、実施の形態1に示す例において、抽出部24及び抽出部25が採用可能な他の実装例について説明する。
【0166】
図41は、抽出部25の実装例を示す図である。図9に示すように、巻上機11のトルク脈動とエレベーターの機械系は、周波数F1で共振する。図41に示す例では、抽出部24は、バンドパスフィルタ40を備える。抽出部25は、例えばノッチフィルタ46を備える。ノッチフィルタ46に、バンドパスフィルタ40の出力信号Yが入力される。ノッチフィルタ46は、減算器43の出力信号Y-Zに相当する信号を判定信号として出力する。
【0167】
図41Aは、ノッチフィルタ46が周波数F1を遮断する周波数特性を有する例を示す。図41Bは、ノッチフィルタ46が複数の遮断周波数を有する例を示す。例えば、ノッチフィルタ46は、周波数F1だけでなく、周波数F2も遮断する周波数特性を有する。図41Bに示す例は、巻上機11のトルク脈動とエレベーターの機械系とが、複数の周波数で共振する場合に好適である。
【0168】
図41Cは、ノッチフィルタ46の遮断周波数が可変である例を示す。例えば、ノッチフィルタ46の遮断周波数は、巻上機11のトルク脈動の周波数f(t)に合わせて制御される。図41Cに示す例は、例えば図41Bに示す周波数F1及びF2が設計段階で既知でない場合に好適である。
【0169】
図42は、抽出部24及び抽出部25の他の実装例を示す図である。図42Aに示す例では、抽出部24は、ハイパスフィルタ47を備える。ハイパスフィルタ47に、例えば巻上機11からのトルク信号が入力される。抽出部25は、カットオフ周波数FLが可変であるローパスフィルタ48を備える。ローパスフィルタ48は、カットオフ周波数FLが巻上機11のトルク脈動の周波数f(t)よりも常に低くなるように制御される。ローパスフィルタ48に、ハイパスフィルタ47の出力信号Yが入力される。ローパスフィルタ48は、減算器43の出力信号Y-Zに相当する信号を判定信号として出力する。
【0170】
ハイパスフィルタ47とローパスフィルタ48を組み合わせることにより、図42Bに示すような周波数特性を有するバンドパスフィルタと同様の機能が実現できる。巻上機11のトルク脈動の周波数f(t)は、図42Bに示すバンドパスフィルタの通過帯域の外側に配置される。このため、トルク脈動の共振に起因するセンサ信号の変動を抑制することができる。
【0171】
実施の形態1~3では、主ロープ4に破断部cが存在することを検知する例について説明した。エレベーターには、主ロープ4以外にも様々なロープが使用される。破断検知装置によって、主ロープ4以外のロープに破断部が存在することを検知しても良い。主ロープ4はベルトであっても良い。
【0172】
実施の形態1~3において、符号20~30に示す各部は、制御装置13が有する機能を示す。図43は、制御装置13のハードウェア資源の例を示す図である。制御装置13は、ハードウェア資源として、例えばプロセッサ51とメモリ52とを含む処理回路50を備える。記憶部20の機能は、例えばメモリ52によって実現される。制御装置13は、メモリ52に記憶されたプログラムをプロセッサ51によって実行することにより、符号21~30に示す各部の機能を実現する。
【0173】
プロセッサ51は、CPU(Central Processing Unit)、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ或いはDSPともいわれる。メモリ52として、半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク或いはDVDを採用しても良い。採用可能な半導体メモリには、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM及びEEPROM等が含まれる。
【0174】
図44は、制御装置13のハードウェア資源の他の例を示す図である。図44に示す例では、制御装置13は、例えばプロセッサ51、メモリ52、及び専用ハードウェア53を含む処理回路50を備える。図44は、制御装置13が有する機能の一部を専用ハードウェア53によって実現する例を示す。制御装置13が有する機能の全部を専用ハードウェア53によって実現しても良い。専用ハードウェア53として、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、又はこれらの組み合わせを採用できる。
【0175】
制御装置13が有する機能は、エレベーター装置の制御機器とネットワークで接続されたクラウド上の計算機に実装されても良い。
【産業上の利用可能性】
【0176】
この発明に係る破断検知装置は、ロープに発生した破断部を検知するために利用できる。
【符号の説明】
【0177】
1 かご、 2 つり合いおもり、 3 昇降路、 4 主ロープ、 4a 端部、 4b 端部、 4c 破断部、 5 吊り車、 6 吊り車、 7 返し車、 7a 軸、 8 駆動綱車、 9 返し車、 10 吊り車、 11 巻上機、 12 秤装置、 13 制御装置、 14 エンコーダ、 15 調速機、 16 調速ロープ、 17 調速綱車、 18 エンコーダ、 19 外れ止め、 19a 対向部、 19b 対向部、 20 記憶部、 21 速度検出部、 22 位置検出部、 23 信号生成部、 24 抽出部、 25 抽出部、 26 検出部、 27 判定部、 28 動作制御部、 29 通報部、 30 演算部、 31 減衰機能、 32 減衰機能、 33 抽出機能、 40 バンドパスフィルタ、 41 増幅器、 42 ローパスフィルタ、 43 減算器、 44 ハイパスフィルタ、 45 レール部材、 46 ノッチフィルタ、 47 ハイパスフィルタ、 48 ローパスフィルタ、 50 処理回路、 51 プロセッサ、 52 メモリ、 53 専用ハードウェア
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40
図41
図42
図43
図44