IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社村田製作所の特許一覧

特許7099636フィルムコンデンサ、及び、フィルムコンデンサ用フィルム
<>
  • 特許-フィルムコンデンサ、及び、フィルムコンデンサ用フィルム 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】フィルムコンデンサ、及び、フィルムコンデンサ用フィルム
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/32 20060101AFI20220705BHJP
【FI】
H01G4/32 511L
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021530482
(86)(22)【出願日】2020-02-25
(86)【国際出願番号】 JP2020007344
(87)【国際公開番号】W WO2021005822
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2021-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2019127941
(32)【優先日】2019-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋場 俊佑
(72)【発明者】
【氏名】稲倉 智生
【審査官】西間木 祐紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/097753(WO,A1)
【文献】特開平10-149944(JP,A)
【文献】特開平10-315418(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体樹脂フィルムと、
前記誘電体樹脂フィルムの一方の面に設けられた金属層と、を備えるフィルムコンデンサであって、
前記誘電体樹脂フィルムは、ガラス転移温度が160℃以上であり、かつ、25℃での密度が1.22g/cm以上1.26g/cm以下である、フィルムコンデンサ。
【請求項2】
前記誘電体樹脂フィルムは、第1有機材料と第2有機材料との硬化物からなる、請求項1に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項3】
前記第1有機材料が、分子内に複数の水酸基を有するポリオールであり、
前記第2有機材料が、分子内に複数のイソシアネート基を有するポリイソシアネートである、請求項2に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項4】
ガラス転移温度が160℃以上であり、かつ、25℃での密度が1.22g/cm以上1.26g/cm以下である、フィルムコンデンサ用フィルム。
【請求項5】
第1有機材料と第2有機材料との硬化物からなる、請求項4に記載のフィルムコンデンサ用フィルム。
【請求項6】
前記第1有機材料が、分子内に複数の水酸基を有するポリオールであり、
前記第2有機材料が、分子内に複数のイソシアネート基を有するポリイソシアネートである、請求項5に記載のフィルムコンデンサ用フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムコンデンサ、及び、フィルムコンデンサ用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサの一種として、可撓性のある樹脂フィルムを誘電体として用いながら、樹脂フィルムを挟んで互いに対向する第1対向電極及び第2対向電極を配置した構造のフィルムコンデンサがある。フィルムコンデンサは、通常、誘電体としての樹脂フィルムを巻回してなる略円柱状の形態をなしており、当該円柱の互いに対向する第1端面及び第2端面上には、それぞれ、第1外部端子電極及び第2外部端子電極が形成されている。そして、第1対向電極は第1外部端子電極と電気的に接続され、第2対向電極は第2外部端子電極と電気的に接続されている。
【0003】
特許文献1には、誘電体がポリマーフィルムからなり、導電体が金属箔または金属薄膜からなるコンデンサにおいて、該ポリマーフィルムが特定の繰り返し単位を50モル%以上含むポリエステルからなり且つ厚さ方向の屈折率が1.50~1.57、密度が1.45~1.50g/cm、抽出低分子成分量が1.0重量%以下であることを特徴とするコンデンサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭60-180008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、誘電体を構成するポリエステルフィルムの密度は1.45~1.50g/cm、好ましくは1.46~1.48g/cmの範囲であることが必要であると記載されている。特許文献1によれば、フィルムの密度が上記の範囲より小さいと、コンデンサの破壊電圧のバラツキが大きくなり、逆に、密度が上記の範囲より大きいと、コンデンサの破壊電圧が小さくなり、またそのバラツキも大きくなるので好ましくないとされている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、コンデンサの破壊電圧が25℃の条件下で評価されており、より高温の条件下では耐電圧性が著しく低下する。フィルムコンデンサは車載等の厳しい環境下での使用が想定されているため、高温条件下においても高い信頼性を示すことが必要となる。
【0007】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、高温環境下で充分な絶縁破壊強度を有する誘電体樹脂フィルムを備えるフィルムコンデンサを提供することを目的とする。本発明はまた、上記フィルムコンデンサの誘電体樹脂フィルムとして用いられるフィルムコンデンサ用フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のフィルムコンデンサは、誘電体樹脂フィルムと、上記誘電体樹脂フィルムの一方の面に設けられた金属層と、を備えるフィルムコンデンサであって、上記誘電体樹脂フィルムは、ガラス転移温度が160℃以上であり、かつ、25℃での密度が1.22g/cm以上1.26g/cm以下である。
【0009】
本発明のフィルムコンデンサ用フィルムは、ガラス転移温度が160℃以上であり、かつ、25℃での密度が1.22g/cm以上1.26g/cm以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高温環境下で充分な絶縁破壊強度を有する誘電体樹脂フィルムを備えるフィルムコンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のフィルムコンデンサの一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のフィルムコンデンサ、及び、フィルムコンデンサ用フィルムについて説明する。
しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
以下において記載する本発明の個々の望ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0013】
[フィルムコンデンサ]
本発明のフィルムコンデンサは、誘電体樹脂フィルムと、上記誘電体樹脂フィルムの一方の面に設けられた金属層と、を備えている。
【0014】
以下、本発明のフィルムコンデンサの一実施形態として、第1の金属層が設けられた第1の誘電体樹脂フィルムと、第2の金属層が設けられた第2の誘電体樹脂フィルムとが積層された状態で巻回されてなる巻回型のフィルムコンデンサを例にとって説明する。
なお、本発明のフィルムコンデンサは、第1の金属層が設けられた第1の誘電体樹脂フィルムと、第2の金属層が設けられた第2の誘電体樹脂フィルムとが積層されてなる積層型のフィルムコンデンサなどであってもよい。
【0015】
図1は、本発明のフィルムコンデンサの一例を模式的に示す断面図である。
図1に示すフィルムコンデンサ1は、巻回型のフィルムコンデンサであり、巻回状態の第1の誘電体樹脂フィルム11及び第2の誘電体樹脂フィルム12と、第1の誘電体樹脂フィルム11又は第2の誘電体樹脂フィルム12を挟んで互いに対向する第1の金属層(第1の対向電極)21及び第2の金属層(第2の対向電極)22とを備えるとともに、第1の金属層21に電気的に接続される第1の外部端子電極31、及び、第2の金属層22に電気的に接続される第2の外部端子電極32を備えている。
【0016】
第1の金属層21は第1の誘電体樹脂フィルム11上に形成されており、第2の金属層22は第2の誘電体樹脂フィルム12上に形成されている。第1の金属層21が形成された第1の誘電体樹脂フィルム11と、第2の金属層22が形成された第2の誘電体樹脂フィルム12とが積層された状態で巻回されることによって、フィルムコンデンサ1が構成されている。第2の誘電体樹脂フィルム12は、第1の誘電体樹脂フィルム11と異なる構成を有していてもよいが、第1の誘電体樹脂フィルム11と同一の構成を有していることが好ましい。
【0017】
第1の金属層21は、第1の誘電体樹脂フィルム11の一方の面において一方側縁にまで届くが、他方側縁にまで届かないように形成される。他方、第2の金属層22は、第2の誘電体樹脂フィルム12の一方の面において一方側縁にまで届かないが、他方側縁にまで届くように形成される。第1の金属層21及び第2の金属層22は、例えばアルミニウム層などから構成される。
【0018】
図1に示すように、第1の金属層21における第1の誘電体樹脂フィルム11の側縁にまで届いている側の端部、及び、第2の金属層22における第2の誘電体樹脂フィルム12の側縁にまで届いている側の端部がともに積層されたフィルムから露出するように、第1の誘電体樹脂フィルム11と第2の誘電体樹脂フィルム12とが互いに幅方向にずらされて積層される。第1の誘電体樹脂フィルム11及び第2の誘電体樹脂フィルム12は、積層された状態で巻回されることによって、第1の金属層21及び第2の金属層22が端部で露出した状態を保持して、積み重なった状態とされる。
【0019】
図1に示すフィルムコンデンサ1では、第2の誘電体樹脂フィルム12が第1の誘電体樹脂フィルム11の外側になるように、かつ、第1の誘電体樹脂フィルム11及び第2の誘電体樹脂フィルム12の各々について、第1の金属層21及び第2の金属層22の各々が内方に向くように巻回されている。
【0020】
第1の外部端子電極31及び第2の外部端子電極32は、上述のようにして得られたコンデンサ本体の各端面上に、例えば亜鉛などを溶射することによって形成される。第1の外部端子電極31は、第1の金属層21の露出端部と接触し、それによって第1の金属層21と電気的に接続される。他方、第2の外部端子電極32は、第2の金属層22の露出端部と接触し、それによって第2の金属層22と電気的に接続される。
【0021】
本発明のフィルムコンデンサにおいて、誘電体樹脂フィルムの巻回体は、断面形状が楕円又は長円のような扁平形状にプレスされ、断面形状が真円であるときよりコンパクトな形状とされることが好ましい。なお、本発明のフィルムコンデンサは、円柱状の巻回軸を備えていてもよい。巻回軸は、巻回状態の誘電体樹脂フィルムの中心軸線上に配置されるものであり、誘電体樹脂フィルムを巻回する際の巻軸となるものである。
【0022】
本発明のフィルムコンデンサにおいて、金属層に含まれる金属としては、例えば、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、スズ(Sn)、ニッケル(Ni)等が挙げられる。
【0023】
本発明のフィルムコンデンサにおいて、金属層の厚みは特に限定されないが、例えば、5nm以上、40nm以下である。
なお、金属層の厚みは、金属層が設けられた誘電体樹脂フィルムを厚み方向に切断した断面を、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)等の電子顕微鏡を用いて観察することにより特定することができる。
【0024】
本発明のフィルムコンデンサにおいては、誘電体樹脂フィルムとして、本発明のフィルムコンデンサ用フィルムが用いられる。
【0025】
[フィルムコンデンサ用フィルム]
本発明のフィルムコンデンサ用フィルムは、ガラス転移温度が160℃以上であり、かつ、25℃での密度が1.22g/cm以上1.26g/cm以下であることを特徴とする。
【0026】
フィルムのガラス転移温度を160℃以上とし、かつ、25℃でのフィルムの密度を1.22g/cm以上1.26g/cm以下とすることにより、125℃でのフィルムの絶縁破壊強度を高くすることができる。したがって、高温環境下での耐電圧性に優れたフィルムとすることができる。
【0027】
フィルムの絶縁破壊は、フィルム中の空洞で発生しやすいと考えられている。フィルムの密度を高くすることにより、フィルムが緻密化してフィルム中の空洞が少なくなるため、絶縁破壊強度が高くなり、耐電圧性が向上すると考えられる。フィルムの密度が低い場合、構成する分子間の距離が大きくなるため熱硬化後の架橋密度が上がらず、耐電圧性が低下すると考えられる。その一方、フィルムの密度が高くなりすぎると、成膜が安定しないため、かえって絶縁破壊強度が低くなり、耐電圧性が低下する。また、フィルムの密度が高くなるほどフィルムの靭性が低くなることも耐電圧性の低下に影響していると考えられる。
【0028】
フィルムの密度は、フィルムの重量を体積で割ることで求められる。フィルムの体積は、フィルムの面積と平均厚みから算出される。
【0029】
また、フィルムのガラス転移温度は、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて貯蔵弾性率を測定し、貯蔵弾性率が大きく低下し始める温度から求められる。
【0030】
本発明のフィルムコンデンサ用フィルムにおいて、ガラス転移温度の上限は特に限定されないが、ガラス転移温度は、例えば、250℃以下である。
【0031】
本発明のフィルムコンデンサ用フィルムは、硬化性樹脂を主成分として含むことが好ましい。硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂であってもよいし、光硬化性樹脂であってもよい。
【0032】
本明細書において、「主成分」とは、重量百分率が最も大きい成分を意味し、好ましくは、重量百分率が50重量%を超える成分を意味する。したがって、本発明のフィルムコンデンサ用フィルムは、主成分以外の成分として、例えば、シリコーン樹脂等の添加剤や、後述する第1有機材料及び第2有機材料等の出発材料の未硬化部分を含んでもよい。
【0033】
本明細書において、熱硬化性樹脂とは、熱で硬化し得る樹脂を意味しており、硬化方法を限定するものではない。したがって、熱で硬化し得る樹脂である限り、熱以外の方法(例えば、光、電子ビームなど)で硬化した樹脂も熱硬化性樹脂に含まれる。また、材料によっては材料自体が持つ反応性によって反応が開始する場合があり、必ずしも外部から熱又は光等を与えずに硬化が進むものについても熱硬化性樹脂とする。光硬化性樹脂についても同様であり、硬化方法を限定するものではない。
【0034】
硬化性樹脂は、ウレタン結合及びユリア結合の少なくとも一方を有していてもよいし、有していなくてもよい。
なお、ウレタン結合及び/又はユリア結合の存在は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いて確認することができる。
【0035】
本発明のフィルムコンデンサ用フィルムは、第1有機材料と第2有機材料との硬化物からなることが好ましい。例えば、第1有機材料が有する水酸基(OH基)と第2有機材料が有するイソシアネート基(NCO基)とが反応して得られる硬化物等が挙げられる。
【0036】
上記の反応によって硬化物を得る場合、出発材料の未硬化部分がフィルム中に残留してもよい。例えば、本発明のフィルムコンデンサ用フィルムは、水酸基及びイソシアネート基の少なくとも一方を含んでもよい。この場合、本発明のフィルムコンデンサ用フィルムは、水酸基及びイソシアネート基のいずれか一方を含んでもよいし、水酸基及びイソシアネート基の両方を含んでもよい。
なお、イソシアネート基及び/又は水酸基の存在は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いて確認することができる。
【0037】
第1有機材料は、分子内に複数の水酸基を有するポリオールであることが好ましい。ポリオールとしては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリビニルアセトアセタール等が挙げられる。第1有機材料として、2種以上の有機材料を併用してもよい。
【0038】
第1有機材料は、エポキシ基を有することが好ましい。特に、第1有機材料は、フェノキシ樹脂であることが好ましく、末端にエポキシ基を有する高分子量のビスフェノールA型エポキシ樹脂であることがより好ましい。
【0039】
第2有機材料は、分子内に複数のイソシアネート基を有するポリイソシアネートであることが好ましい。第2有機材料は、第1有機材料が有する水酸基と反応して架橋構造を形成することで、フィルムを硬化させる硬化剤として機能する。
【0040】
ポリイソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)及びトリレンジイソシアネート(TDI)等の芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)等の脂肪族ポリイソシアネート等が挙げられる。これらのポリイソシアネートの変性体、例えば、カルボジイミド又はウレタン等を有する変性体であってもよい。中でも、芳香族ポリイソシアネートが好ましく、MDI又はTDIがより好ましく、MDIがさらに好ましい。MDIとしては、代表的なポリメリックMDI又はモノマータイプのMDIを用いることができる。また、MDIは、混合物タイプでもよい。TDIとしては、トリメチロールプロパン(TMP)アダクト体を用いることができる。また、TDIは、ビュレット変性体を用いてもよい。第2有機材料として、2種以上の有機材料を併用してもよい。
【0041】
本発明のフィルムコンデンサ用フィルムにおいて、第1有機材料と第2有機材料との重量比率(第1有機材料/第2有機材料)は特に限定されないが、10/90以上が好ましく、20/80以上がより好ましく、30/70以上がさらに好ましく、また、90/10以下が好ましく、80/20以下がより好ましく、70/30以下がさらに好ましい。特に、第1有機材料と第2有機材料との重量比率(第1有機材料/第2有機材料)が、50/50を超えることが好ましい。
【0042】
本発明のフィルムコンデンサ用フィルムは、他の機能を付加するための添加剤を含むこともできる。例えば、レベリング剤を添加することで平滑性を付与することができる。添加剤は、水酸基及び/又はイソシアネート基と反応する官能基を有し、硬化物の架橋構造の一部を形成する材料であることがより好ましい。このような材料としては、例えば、水酸基、エポキシ基、シラノール基及びカルボキシル基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する樹脂等が挙げられる。
【0043】
本発明のフィルムコンデンサ用フィルムは、好ましくは、第1有機材料及び第2有機材料を含む樹脂溶液をフィルム状に成形し、次いで、熱処理して硬化させることによって得られる。
【0044】
樹脂溶液は、例えば、上述した第1有機材料及び第2有機材料を溶剤に溶解させて混合し、必要に応じて添加剤を添加することにより作製される。なお、硬化後のフィルムには、樹脂溶液に含まれる溶剤が残留物として存在してもよい。
【0045】
樹脂溶液に含まれる溶剤は、熱処理などの加熱によりガスとなり、フィルム内に空洞を形成する。したがって、樹脂溶液中の溶剤量が多すぎると、揮発ガスが大量に発生することで多数の空洞が形成されるため、フィルムの密度が低くなる傾向にある。そのため、樹脂溶液中の第1有機材料及び第2有機材料の合計重量の割合を樹脂濃度としたとき、樹脂溶液中の樹脂濃度は、5重量%以上50重量%以下であることが好ましい。
【0046】
溶剤としては、ケトン類から選ばれる第1溶剤と、環状エーテル化合物から選ばれる第2溶剤とを含む混合溶剤を用いることが好ましい。ケトン類としては、例えば、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等が挙げられる。環状エーテル化合物としては、例えば、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等が挙げられる。第1溶剤と第2溶剤との重量比率(第1溶剤/第2溶剤)は、15/85以上、85/15以下であることが好ましい。
【0047】
本発明のフィルムコンデンサ用フィルムの厚みは特に限定されないが、フィルムが薄すぎると脆くなりやすく、一方、フィルムが厚すぎると、成膜時にクラック等の欠陥が発生しやすくなる。そのため、本発明のフィルムコンデンサ用フィルムの厚みは、1μm以上、10μm以下であることが好ましい。
なお、フィルムの厚みとは、金属層の厚みを含まないフィルム単独の厚みを意味する。また、フィルムの厚みは、光干渉膜厚計を用いて測定することができる。
【0048】
本発明のフィルムコンデンサ用フィルムにおいては、金属層が一方の面に設けられていてもよい。この場合、ヒューズ部を有する金属層が一方の面に設けられていることが好ましい。
【0049】
ヒューズ部とは、対向電極となる金属層が複数に分割された電極部と電極部を接続する部分を意味する。ヒューズ部を有する金属層のパターンは特に限定されず、例えば、特開2004-363431号公報、特開平5-251266号公報等に開示された電極パターンを用いることができる。
【実施例
【0050】
以下、本発明のフィルムコンデンサ用フィルムをより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0051】
[フィルムの作製]
(フィルム1~5)
第1有機材料として、フェノキシ樹脂を用意し、第2有機材料として、MDI(4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート)を用意した。
【0052】
上記フェノキシ樹脂としては、末端にエポキシ基を有する高分子量のビスフェノールA型エポキシ樹脂であるフェノキシ樹脂を用いた。
【0053】
上記MDIとしては、ミリオネートMTL(東ソー社製)を用いた。
【0054】
メチルエチルケトン(MEK)に溶解させた第1有機材料と第2有機材料とを混合し、さらに、MEKとテトラヒドロフラン(THF)とを含む混合溶剤により希釈した。得られた樹脂溶液中の第1有機材料と第2有機材料との重量比率は、第1有機材料/第2有機材料=66.5/33.5であった。また、MEKとTHFとの重量比率は、MEK/THF=50/50であった。
【0055】
本実施例では、表1に示すように、樹脂溶液中のフェノキシ樹脂及びMDIの合計重量(樹脂濃度)が5重量%、10重量%、15重量%、25重量%又は50重量%となるように調合した。
【0056】
得られた樹脂溶液を、ドクターブレードコーターにより、PETフィルム上で成形し、溶剤を乾燥させて、厚みが3μmの未硬化フィルムを得た。次いで、このフィルムを、150℃に設定された熱風式オーブンにて、4時間処理して熱硬化させた後、PETフィルムから剥離することによりフィルムを得た。
【0057】
(フィルム6~10)
第1有機材料として、フェノキシ樹脂を用意し、第2有機材料として、TDI(トルエンジイソシアネート)変性体を用意した。
【0058】
上記フェノキシ樹脂としては、末端にエポキシ基を有する高分子量のビスフェノールA型エポキシ樹脂であるフェノキシ樹脂を用いた。
【0059】
上記TDIとしては、コロネートL(東ソー社製)を用いた。
【0060】
MEKに溶解させた第1有機材料と第2有機材料とを混合し、さらに、MEKとTHFとを含む混合溶剤により希釈した。得られた樹脂溶液中の第1有機材料と第2有機材料との重量比率は、第1有機材料/第2有機材料=66.5/33.5であった。また、MEKとTHFとの重量比率は、MEK/THF=50/50であった。
【0061】
本実施例では、表2に示すように、樹脂溶液中のフェノキシ樹脂及びTDIの合計重量(樹脂濃度)が5重量%、10重量%、15重量%、25重量%又は50重量%となるように調合した。
【0062】
得られた樹脂溶液を、ドクターブレードコーターにより、PETフィルム上で成形し、溶剤を乾燥させて、厚みが3μmの未硬化フィルムを得た。次いで、このフィルムを、150℃に設定された熱風式オーブンにて、4時間処理して熱硬化させた後、PETフィルムから剥離することによりフィルムを得た。
【0063】
(フィルム11)
厚みが2.8μmのポリプロピレン(PP)フィルムを用意した。
【0064】
[フィルムの評価]
フィルム1~11について、以下の特性を評価した。
【0065】
(絶縁破壊強度の測定)
各フィルムの両面にアルミ蒸着電極(重なり部分の電極面積は30cm)を形成した評価用試料を用意した。作製した試料に100V/μmで10分間電圧印加し、その後、25V/μm間隔で昇圧していった。各電圧を10分間保持し、フィルムに破壊痕ができた際の電界強度を記録した。測定は計16か所で破壊が見られるまで続けた。記録した結果をもとにワイブルプロットを作成し、故障率が50%となる値を絶縁破壊強度とした。測定中のフィルム周辺温度は125℃とした。
【0066】
(密度の測定)
各フィルムの重量求め、その重量を体積で割ることで、フィルムの密度を求めた。
各フィルムについて、100mm×50mmに切り出したサンプルを80個用意し、サンプルの重量を測定した。次に、光干渉膜厚計(フィルメトリクス製)を用いてフィルムの厚みを測定し、得られた結果とフィルムの面積からフィルムの体積を算出した。フィルムの厚みとして、計400点測定した平均厚みを採用した。上記の測定で得られた結果をもとにフィルムの密度を求めた。測定温度は25℃とした。
【0067】
(ガラス転移温度の測定)
各フィルムを幅5mm×長さ6mmとなるように固定し、動的粘弾性測定装置RSA3(TAインスツルメント・ジャパン製)を用いてフィルムのガラス転移温度を測定した。40℃から230℃まで昇温速度20℃/minで昇温していき、貯蔵弾性率が大きく低下し始めた温度をガラス転移温度とした。
【0068】
フィルム5及び10は、フィルムの結晶性が高すぎるため靭性が極めて低く、ガラス転移温度を測定することができなかった。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
表1~表3において、*を付したフィルムは、本発明の範囲外の比較例である。
【0073】
表1より、フェノキシ樹脂とMDIとの混合物を熱硬化させて得られたフィルムでは、フィルムの密度が1.23g/cm以上1.26g/cm以下であると、フィルムの絶縁破壊電圧が390V/μm以上となった。特に、フィルムの密度が1.26g/cmである場合、フィルムの絶縁破壊強度が430V/μmとなり、最も高くなった。
【0074】
一方、フィルムの密度が1.21g/cm又は1.37g/cmである場合、フィルムの絶縁破壊強度が著しく低下した。フィルムの密度が低すぎる場合又は高すぎる場合、充分な絶縁破壊強度を維持することができないと言える。
【0075】
表2より、フェノキシ樹脂とTDIとの混合物を熱硬化させて得られたフィルムでは、フィルムの密度が1.22g/cm以上1.26g/cm以下であると、フィルムの絶縁破壊電圧が400V/μm以上となった。特に、フィルムの密度が1.26g/cmである場合、フィルムの絶縁破壊強度が440V/μmとなり、最も高くなった。
【0076】
一方、フィルムの密度が1.20g/cm又は1.41g/cmである場合、フィルムの絶縁破壊強度が著しく低下した。フィルムの密度が低すぎる場合又は高すぎる場合、充分な絶縁破壊強度を維持することができないと言える。
【0077】
表3より、フィルムの密度が0.86g/cmであるPPフィルムでは、フィルムの絶縁破壊電圧が270V/μmと低い値であった。
【0078】
また、フィルム2~4及び7~8は、いずれもガラス転移温度が160℃以上であり、高い耐熱性を示す。以上より、高温下で優れた絶縁破壊強度を示すためには、フィルムの密度が高く、かつ、ガラス転移温度が高いことが必要であると言える。
【符号の説明】
【0079】
1 フィルムコンデンサ
11 第1の誘電体樹脂フィルム
12 第2の誘電体樹脂フィルム
21 第1の対向電極(第1の金属層)
22 第2の対向電極(第2の金属層)
31 第1の外部端子電極
32 第2の外部端子電極
図1