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特許7099685入眠・睡眠維持改善用組成物、ストレス低減、リラックス向上用組成物、パフォーマンス、集中力向上用組成物、及び、休憩の効果向上、疲労回復促進用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】入眠・睡眠維持改善用組成物、ストレス低減、リラックス向上用組成物、パフォーマンス、集中力向上用組成物、及び、休憩の効果向上、疲労回復促進用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/24 20060101AFI20220705BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220705BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20220705BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20220705BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20220705BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220705BHJP
   A61P 25/22 20060101ALN20220705BHJP
   A61P 25/20 20060101ALN20220705BHJP
   A61K 127/00 20060101ALN20220705BHJP
【FI】
A61K36/24
A61P43/00 111
A61P3/02
A61K31/7048
A23L33/105
A61P25/00
A61P25/22
A61P25/20
A61K127:00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017193127
(22)【出願日】2017-10-02
(65)【公開番号】P2019064969
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】595132360
【氏名又は名称】株式会社常磐植物化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100121658
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 昌義
(72)【発明者】
【氏名】楊 金緯
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】FOOD STYLE 21, 2014, Vol. 18, No. 2, p. 22-24
【文献】うつ病患者の回復過程における改善の認識,川崎医療福祉学会誌,2006年,Vol. 16, No. 1,p. 91-99
【文献】内田クレペリン精神検査を用いた就労判定に関する試み,日本職業・災害医学会会誌,2014年,Vol. 62,p. 161-166
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/24
A61P 3/02
A61P 25/00
A61K 31/7048
A61P 43/00
A23L 33/105
A61K 127/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラフマ葉抽出物を有効成分とし、1日当たりの前記ラフマ葉抽出物の摂取量が40mg以上100mg以下の範囲である、休憩の効果向上、疲労回復促進用組成物(うつ病患者に投与する医薬品組成物を除く。)。
【請求項2】
前記ラフマ葉抽出物はフラボノイド化合物であるヒペロシド、イソクエルシトリンを4~10%含有する請求項1記載の休憩の効果向上、疲労回復促進用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入眠、睡眠維持を促進し、ストレスを低減させ、リラックス効果、パフォーマンス、集中力、休憩の効果および疲労回復を向上させる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現代人の睡眠は、様々な外部環境要因により質・量ともに低下しており、2011年に実施された厚生労働省の調査では、実に男女ともに5割を超えるヒトが自身の睡眠について悩みを抱えている(非特許文献1)。睡眠の質改善を目的とした健康食品や寝具の市場が伸びており、特に睡眠改善の効果をより体感できる商品が望まれている。
【0003】
また、仕事環境、家庭的事情、人間関係など数々のストレスにさらされており、うつ、不眠、自殺などの健康被害が社会問題となっている。こうした現代社会に適応し、健全に暮らすために、ストレスを減らすことはもちろん、ストレスに対する耐性を高めるとともに、手軽に利用できるサプリメントを摂取することによりストレス軽減、パフォーマンス、集中力、および緊張感が改善されることが望まれている。
【0004】
一方、ラフマ(Apocynum venetum L.)は、キョウチクトウ科に属し、中国からヨーロッパ、アジアの温帯地域に自生する多年生草本である。ラフマ葉は中国でお茶として飲用され、日本では血圧を下げる効果が証明され、特定保健用食品にも認定されている。
【0005】
近年、ラフマ葉の睡眠改善効果が注目されつつある。夜に脳波計を着用し、脳波を用い、睡眠を評価する臨床試験では、ラフマ葉抽出物が深い睡眠であるノンレーム睡眠を延長させる効果があると報告された(非特許文献2)。
【0006】
また、ストレス低減、リラックス効果に関しては、動物試験においてラフマ葉抽出物が抗うつ作用(非特許文献3、特許文献1)や、抗不安作用を示す可能性があるという報告がある(非特許文献4)。なお、ラフマ抽出物は脳内抑制神経伝達物質ギャバ受容体の作動剤として作用するため、臨床試験により一日25mgのギャバと25mgのラフマ葉抽出物の同時摂取により、ストレスの指標であるクロモグラニンAが低減されたが、一日25mgラフマ葉抽出物の単独摂取においてリラックス効果が認められなかった(非特許文献5、特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】平成23年国民健康・栄養調査報告, 第3部 生活習慣調査
【文献】Yamatsu A, Yamashita Y, Maru I, Yang J, Tatsuzaki J, Kim M., “The Improvement of Sleep by Oral Intake of GABA and Apocynum venetum Leaf Extract.”, J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo), 61(2), 182-187(2015).
【文献】Butterweck V, Nishibe S, Sasaki T, Uchida M., “Antidepressant effects of apocynum venetum leaves in a forced swimming test.”, Biol Pharm Bull., 24(7), 848-851 (2001).
【文献】Grundmann O, Nakajima J, Kamata K, Seo S, Butterweck V., “Kaempferol from the leaves of Apocynum venetum possesses anxiolytic activities in the elevated plus maze test in mice.” Phytomedicine, 16, 295-302 (2009).
【文献】Yoto A, Ishihara S, Li-Yang J, Butterweck V, Yokogoshi H., “THE STRESS REDUCING EFFECT OF γ-AMINOBUTYRIC ACID AND APOCYNUM VENETUM LEAF EXTRACT ON CHANGES IN CONCENTRATION OF SALIVARY CHROMOGRANIN A.”, Japanese Journal of Physiological Anthropology Volume 14, No.3, 55-59 (2009).
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第4629933号公報
【文献】特開2011-93842号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、睡眠改善に関しては、客観的な評価指標ではなく、睡眠改善の体感が優れた商品が消費者に強く望まれている。今までの報告では、ラフマ葉抽出物はノンレーム睡眠の時間を延長させる効果があるといわれているが、入眠時間の短縮、または覚醒率に対する効果が認められなく、被験者の睡眠改善への体感も薄かった。
【0010】
また、不眠やストレスに伴い、翌日の生産性が低下し、集中力が鈍り、作業や仕事が円滑に行えないことが増えていて、年間3.5兆円の経済損失があると言われて、社会的な問題になっている。ラフマ抽出物はストレス、昼間の作業パフォーマンス、集中力に対する効果があるか未知である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題についてラフマ葉抽出物に基づき研究を進めた結果、脳波計の着用により睡眠への負影響を除き、日常的な睡眠状態に近い臨床試験を設計し、睡眠への改善効果、特に最も消費者に求められている体感を実証することにより、本発明に至った。
【0012】
なお、ラフマ葉抽出物の摂取量を増やし、新たな臨床試験で実証することにより、ラフマ抽出物がストレスを低減させ、リラックス効果を有することが確認され、さらに、今まで報告されていない昼間のパフォーマンス、集中力、休憩の質および疲労回復を向上させる効果も初めて証明された。
【0013】
すなわち本発明の一観点に係る入眠・睡眠維持改善用組成物は、ラフマ葉抽出物を有効成分とするものである。
【0014】
また本発明の他の一観点に係るストレス低減、リラックス向上用組成物は、ラフマ葉抽出物を有効成分とするものである。
【0015】
また本発明の他の一観点に係るパフォーマンス、集中力向上用組成物は、ラフマ葉抽出物を有効成分とするものである。
【0016】
また本発明の他の一観点に係る休憩の効果向上、疲労回復促進用組成物は、ラフマ葉抽出物を有効成分とするものである。
【発明の効果】
【0017】
以上、本発明によって、入眠、睡眠維持を促進し、ストレスを低減させ、リラックス効果、パフォーマンス、集中力、休憩の効果および疲労回復を向上させる組成物、を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例において記載された例示にのみ限定されるわけではない。
【0019】
本発明の一実施形態は、入眠、睡眠維持を促進し、ストレスを低減させ、リラックス効果、パフォーマンス、集中力、休憩の効果および疲労回復を向上させる組成物である。
【0020】
本発明におけるラフマ葉抽出物としては、ラフマ(学名:Apocynum venetum L.)の葉を水、エタノール、含水エタノール、及び有機溶剤の少なくともいずれかを含む溶媒で抽出、濃縮して得られる抽出物、並びに、ここで得られる抽出物をアクリル系、スチレン系及びメタクリル並びに芳香族系合成吸着剤の少なくともいずれかに吸着させ、10~95%濃度までの含水エタノールで溶出されてくる画分を濃縮して得られる抽出物、さらには、その抽出物を乾燥して得られる抽出物である。
【0021】
また、本組成物は食品、医薬、又は化粧品としての形態をとり、特に食品の場合、機能性表示食品、健康食品としての形態をとりうる。更に食品の場合、固形物だけではなく飲料としての形態もとりうる。
【0022】
また本組成物が食品であるときの形態は、例えばドリンク、キャンデー、ゼリー、グミなどのデザート類とする形態を挙げることができ、健康食品、機能性表示食品であるときの形態は、例えば錠剤、ハードカプセル、ソフトカプセル、顆粒、ドリンクなどの形態を挙げることができる。
【0023】
また本組成物が医薬品である場合、医薬品としての形態は、錠剤、カプセル剤、丸剤、液剤、乳剤を挙げることができる。投与方法は特に限定されるものではないが、経口投与可能な形態であることが望ましい。また製剤的に許容できる範囲で様々の担体を加えることができる。担体としては例えば賦形剤、着色剤、甘味剤、懸濁化剤等を挙げることができる。
【0024】
また本組成物におけるラフマ抽出物の含有量としては、想定される摂取量に合わせて適宜調整可能である。
【0025】
また本組成物による入眠、睡眠維持を促進し、ストレスを低減させ、リラックス効果、パフォーマンス、集中力、休憩の質および疲労回復を向上させる効果を得るためには、ラフマ葉抽出物は、好ましくは30mg以上150mg以下、より好ましくは35mg以上125mg以下であり、確実には40~100mg/日であれば効果を得ることができる。
【0026】
また、本組成物におけるラフマ葉抽出物はフラボノイド化合物であるヒペロシド及びイソクエルシトリンが有効成分として含まれており、これらが合計量として4重量%以上含まれていることが好ましく、より好ましくは4重量%以上10重量%以下の範囲で含有されることにより、本組成物の効果を好ましく発揮する。
【0027】
ところで、本組成物には、入眠、睡眠維持を促進し、ストレスを低減させ、リラックス効果、パフォーマンス、集中力、休憩の効果および疲労回復を向上させる効果がある。なお、この効果を得ることができる範囲も、後述の実施例の記載から明らかとなるが、上記と同様である。
【0028】
以上、本発明によって、入眠、睡眠維持を促進し、ストレスを低減させ、リラックス効果、パフォーマンス、集中力、休憩の効果および疲労回復を向上させる効果を有する組成物、を提供することができる。
【実施例
【0029】
ここで実際に、上記実施形態に係る組成物を製造し、その効果を確認した。以下具体的に説明する。
【0030】
(1)ラフマ葉抽出物の製造
乾燥ラフマ葉をラボミキサーにより粉砕し、その粉砕物1kgに6Lの60%エタノールを加え、2時間加熱環流後、ろ過し抽出液を得た。抽出残渣を再度6Lの60%エタノールにて2時間加熱環流した後、ろ過し抽出液を得た。1回目の抽出液と2回目の抽出液をあわせ、60度にて減圧濃縮し約1/5容量まで濃縮後、2倍量の水を加え懸濁させた後、クエン酸によりpHを3に調整し、一晩攪拌した。珪藻土を加えボディーフィードし、珪藻土を敷きつめたろ紙の上に液を注ぎ、ろ過し不溶物を除去した。得られたろ過液を、合成吸着樹脂HP20 1L(三菱化学社製)に通液させ、有効成分を吸着させた後、水2Lで水洗し糖質などを除去した。その後、70%エタノール2Lで脱離し有効成分を含む画分を集め、50度にて減圧濃縮し、約1/10容量まで濃縮後、スプレードライを行い、固形物として95gを得た。
【0031】
なお、上記得た固形物について、液体クロマトグラフィーによる測定を行ったところ、ヒペロシドが2~5重量%、及びイソクエルシトリンが2~5重量%、合計で4~10重量%含まれていることを確認した。
【0032】
(2)臨床試験
臨床試験は健常な日本人成人男女を被験者とし、一粒当たりラフマ葉抽出物25mgを含む錠剤を用いた。なお、プラセボは被験食品と同じ外観になるよう、ラフマ葉抽出物の代わりに食品添加物着色料製剤を使用した。
【表1】
【0033】
被験者17名を対象に、ランダム化プラセボ対照二重盲検クロスオーバー比較試験を行った。1~7日目までは、就寝の30分~1時間前に介入群がラフマ葉抽出物を50mg/日摂取し、プラセボ群は同じ粒数のプラセボ錠剤を摂取した。8日目は内田クレペリン作業検査前アンケートを開始する15分~30分前に摂取した。
【0034】
7日間の摂取前後にOSA睡眠調査票MA版を用い、睡眠改善の体感を評価した。各質問項目のスコアは項目毎の尺度値を参考にする。スコアは、質問項目の平均値により求める。スコアが高いほど睡眠の状態が良い。
なお、8日目に内田クレペリン作業検査を実施し、決められた時間内で計算を行い、計算量と計算の正確率、動揺率を測定することによりパフォーマンス、集中力の向上を評価した。また、内田クレペリン作業の前後にアンケートを行い、ストレス改善、リラックス効果を評価した。なお、内田クレペリン作業検査は前半と後半の各15分間に分かれており、間に5分間の休憩を挟んでおり、前半と後半の作業効率を比較することにより、休憩の効率、疲労の回復を評価した。
【0035】
臨床試験の結果
(3)OSA睡眠調査票の結果
入眠と睡眠維持を評価する因子II においては、介入群がプラセボ群より、有意な改善が認められた(プラセボ群:1.9±3.6;介入群7.5±7.8、p=0.042)
【0036】
(4)内田クレペリン作業検査
アンケート
ストレス改善、リラックス効果に関する評価項目「緊張している」、「落ち着かない」、「いらいらしている」において、介入群はプラセボ群より有意に低下した。
【表2】
【0037】
(5)内田クレペリン作業検査
パフォーマンス、集中力に関連する項目「動揺率」は作業のバラツキを評価し、スコアが低いほど、作業のバラツキが小さく、集中力が高く維持され、パフォーマンスが向上される。下記の表に示したように、動揺率においては、介入群がプラセボ群より有意に低下した。
【表3】
【0038】
(6)内田クレペリン作業検査
休憩の効果、疲労の回復に関する評価項目においては、介入群がプラセボ群より有意に改善された。
【表4】
【0039】
以上、上記のヒト試験によって、入眠、睡眠維持を促進し、ストレスを低減させ、リラックス効果、パフォーマンス、集中力、休憩の効果および疲労回復を向上させる効果を持つことが確認された。