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特許7099688膜フィルター用アダプターおよびCMPスラリー再生装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】膜フィルター用アダプターおよびCMPスラリー再生装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20220705BHJP
   B24B 57/02 20060101ALI20220705BHJP
   B01D 63/00 20060101ALI20220705BHJP
   B01D 63/06 20060101ALI20220705BHJP
   B01D 61/00 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
H01L21/304 622E
B24B57/02
B01D63/00
B01D63/06
B01D61/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018024369
(22)【出願日】2018-02-14
(65)【公開番号】P2019140324
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】519228669
【氏名又は名称】株式会社MFCテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(72)【発明者】
【氏名】水田 隆司
(72)【発明者】
【氏名】田中 隆
(72)【発明者】
【氏名】松尾 喬
【審査官】宮久保 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-093710(JP,A)
【文献】特開平10-118899(JP,A)
【文献】特開2013-219307(JP,A)
【文献】特開昭59-199014(JP,A)
【文献】特開平06-031112(JP,A)
【文献】特開2002-075929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 57/02
B01D 63/00
B01D 63/06
B01D 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体集積回路を製造するためのCMPプロセスに使用するCMPスラリーを再生する方法において、CMPプロセスから排出される使用済CMPスラリーを濾過して濃縮する膜フィルターに装着される膜フィルター用アダプターであって、
前記膜フィルター用アダプターは、前記膜フィルターの、前記使用済CMPスラリーが流入する複数の略円形状の流入口が形成された端面、および、該スラリーが濃縮されて流出する複数の略円形状の流出口が形成された端面の少なくともいずれかに装着され、前記使用済CMPスラリーを、前記各流入口から前記各流出口に至り、側壁に濾過膜が設けられた複数のスラリー流通経路へ、または該経路外へ導くものであり、
前記膜フィルター用アダプターは、本体部と、該本体部に形成され、前記複数の流入口または前記複数の流出口にそれぞれ連通する複数の連通孔とを有し、該連通孔が、前記膜フィルターから離間する方向に向かって拡径するように傾斜して形成されており、
前記複数の連通孔が、同心円状に複数列で形成され、前記膜フィルターから離間する方向に向かって拡径した略円すい状に形成されており、
前記膜フィルター用アダプターの軸方向断面において前記各連通孔の対向する一対の傾斜面がなすテーパ角度について、円中心寄りに形成された連通孔のテーパ角度に比べ、該連通孔よりも径方向外側に形成された連通孔のテーパ角度の方が大きくなっていることを特徴とする膜フィルター用アダプター。
【請求項2】
前記膜フィルター用アダプターは金属製または合成樹脂製であることを特徴とする請求項1記載の膜フィルター用アダプター。
【請求項3】
半導体集積回路を製造するためのCMPプロセスに使用するCMPスラリーを再生する方法に使用されるCMPスラリー再生装置であって、
CMPプロセスから排出される使用済CMPスラリーを貯液する濃縮タンクと、
前記使用済CMPスラリーが流入する複数の略円形状の流入口、該スラリーが濃縮されて流出する複数の略円形状の流出口、前記各流入口から前記各流出口に至り、側壁に濾過膜が設けられた複数のスラリー流通経路、および、前記濾過膜を介して該スラリーより濾別された透過液が排出する排出口を有する膜フィルターと
前記膜フィルターに装着される膜フィルター用アダプターと、
前記使用済CMPスラリーを前記流入口に流入させて透過液を排出しながら前記流出口より流出させ、該流出液を前記濃縮タンクに戻す循環手段とを備え、
前記膜フィルター用アダプターは、前記膜フィルターの、前記複数の流入口が形成された流入口側端面、および、前記複数の流出口が形成された流出口側端面のいずれにも装着され、前記使用済CMPスラリーを、前記複数のスラリー流通経路へ、または該経路外へ導くものであり、
前記膜フィルター用アダプターは、本体部と、該本体部に形成され、前記複数の流入口または前記複数の流出口にそれぞれ連通する複数の連通孔とを有し、該連通孔が、前記膜フィルターから離間する方向に向かって拡径するように傾斜して形成され、
前記CMPスラリー再生装置は、前記循環手段における循環の途中に、前記使用済CMPスラリーの循環を停止して、該スラリーを前記流出口より流入させて前記流入口より流出させる逆転運転手段を有することを特徴とするCMPスラリー再生装置。
【請求項4】
前記使用済CMPスラリーがシリカスラリーであり、該シリカスラリーを24質量%以上のスラリー濃度に濃縮することを特徴とする請求項記載のCMPスラリー再生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CMPプロセスを備えた半導体集積回路製造において、CMPプロセスから排出される使用済CMPスラリー再生の濃縮工程で用いられる膜フィルター用アダプターおよびCMPスラリー再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の製造において、ウェハー基板表面の平坦化に加えて、近年はダマシン法における基板に埋め込まれた導体金属の平坦化、SiO2に比較して低い比誘電率をもつ絶縁材料の平坦化、セルの積層数を増やすためのビアホールの平坦化等、高密度セルの製造および100nm以下のより微細なパターンの製造等の方法が重要となってきている。ウェハーおよびこの基板上に形成された部材の平坦化は化学機械研磨法(以下、CMPプロセスという)が広く採用され、半導体製造プロセスにおいてより重要となっている。半導体材料の平坦化がより重要となるに従って、CMPプロセスに使用されるCMPスラリーの量が増えるとともに、半導体集積回路の製造コストに占める割合も高まっている。このため、CMPスラリーの再生をスラリーの品質を維持しながら効率的に連続して再生する方法が求められている。
【0003】
従来、CMPスラリーの再生に関しては、使用済CMPスラリーを、限外濾過膜を用いたクロスフロー濾過方式によって所定のスラリー濃度に達するまで循環濃縮し、その濃縮液をCMPスラリーとして回収、再利用する方法が知られている(特許文献1)。限外濾過膜としては、セラミックフィルターなどの膜フィルターが用いられる。
【0004】
図7には、CMPスラリー再生装置内の配管に接続された膜フィルターの概要を示す。図7において、膜フィルター8は略円柱状部材であり、軸方向一端側を循環経路の上流に向けて、軸方向他端側を下流に向けて接続される。膜フィルター8は、使用済CMPスラリー1が流入する複数の略円形状の流入口9と、該スラリーが濃縮されて流出する複数の略円形状の流出口10と、流入口9から流出口10に至る複数のスラリー流通経路11と、該経路11の側壁に設けられた濾過膜を介して使用済CMPスラリーより濾別された透過液6を排出する排出口12とを有する。スラリー流通経路11に流入したスラリーは、一部が透過液6として排出されるとともに、残りが膜フィルター8を通過する。そして、使用済CMPスラリーを膜フィルターに繰り返し通すことで、該スラリーが濃縮され、濃縮液が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-118899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図7における濃縮工程では、膜フィルター8への流入時および流出時にスラリーの流れが乱れるおそれがある。膜フィルター8の端面において、流入口9の面積(各流入口の円面積の合計)は配管の断面積よりも小さく、例えば20~30%となっている。そのため、膜フィルターの流入口9側の端面では、使用済CMPスラリーがぶつかり合い、その流れが乱れることで渦を巻くような状態になると考えられる。また、膜フィルター8の流出口10側の端面でも、同様の状態になると考えられる。このような乱流状態では、圧力損失(熱損失)が増加し、CMPスラリー再生装置の運転効率が悪化するおそれがある。
【0007】
特に、CMPスラリー再生では、濃縮工程が進むにつれてCMPスラリー濃度が大きくなると、スラリー内部で凝集しやすくなる。そうすると、圧力損失がさらに大きくなり、再生装置の運転効率の一層の悪化が懸念される。
【0008】
本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、膜フィルターの端面におけるスラリーの乱流を抑制する膜フィルター用アダプター、および、該アダプターが装着され、運転効率の低下が抑制されたCMPスラリー再生装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の膜フィルター用アダプターは、半導体集積回路を製造するためのCMPプロセスに使用するCMPスラリーを再生する方法において、CMPプロセスから排出される使用済CMPスラリーを濾過して濃縮する膜フィルターに装着される膜フィルター用アダプターであって、上記膜フィルター用アダプターは、上記膜フィルターの、上記使用済CMPスラリーが流入する複数の略円形状の流入口が形成された端面、および、該スラリーが濃縮されて流出する複数の略円形状の流出口が形成された端面の少なくともいずれかに装着され、上記使用済CMPスラリーを、上記各流入口から上記各流出口に至り、側壁に濾過膜が設けられた複数のスラリー流通経路へ、または該経路外へ導くものであり、上記膜フィルター用アダプターは、本体部と、該本体部に形成され、上記複数の流入口または上記複数の流出口にそれぞれ連通する複数の連通孔とを有し、該連通孔が、上記膜フィルターから離間する方向に向かって拡径するように傾斜して形成されていることを特徴とする。
【0010】
上記複数の連通孔が、上記膜フィルターから離間する方向に向かって拡径した略円すい状に形成されていることを特徴とする。
【0011】
上記複数の連通孔が、同心円状に複数列で形成されており、上記膜フィルター用アダプターの軸方向断面において上記各連通孔の対向する一対の傾斜面がなすテーパ角度について、円中心寄りに形成された連通孔のテーパ角度に比べ、該連通孔よりも径方向外側に形成された連通孔のテーパ角度の方が大きくなっていることを特徴とする。
【0012】
上記膜フィルター用アダプターは金属製または合成樹脂製であることを特徴とする。
【0013】
本発明のCMPスラリー再生装置は、本発明の膜フィルター用アダプターを備え、半導体集積回路を製造するためのCMPプロセスに使用するCMPスラリーを再生する方法に使用されるCMPスラリー再生装置であって、使用済CMPスラリーを貯液する濃縮タンクと、上記使用済CMPスラリーを上記流入口に流入させて上記透過液を排出しながら上記流出口より流出させ、該流出液を上記濃縮タンクに戻す循環手段と、上記貯液された使用済CMPスラリーが流入する複数の略円形状の流入口、該スラリーが濃縮されて流出する複数の略円形状の流出口、上記各流入口から上記各流出口に至り、側壁に濾過膜が設けられた複数のスラリー流通経路、および、上記濾過膜を介して該スラリーより濾別された透過液が排出する排出口を有する膜フィルターとを備え、上記膜フィルター用アダプターが、上記膜フィルターの流入口側端面および流出口側端面の少なくともいずれかに装着されることを特徴とする。
【0014】
上記膜フィルター用アダプターは、上記膜フィルターの流入口側端面および流出口側端面のいずれにも装着され、上記CMPスラリー再生装置は、上記循環手段における循環の途中に、上記CMPスラリーの循環を停止して、使用済CMPスラリーを上記流出口より流入させて上記流入口より流出させる逆転運転手段を有することを特徴とする。
【0015】
上記使用済CMPスラリーがシリカスラリーであり、該シリカスラリーを24質量%以上のスラリー濃度に濃縮することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の膜フィルター用アダプターは、膜フィルターの流入口側端面および流出口側端面の少なくともいずれかに装着され、該アダプターは、本体部と、該本体部に形成され、複数の流入口または複数の流出口にそれぞれ連通する複数の連通孔とを有し、該連通孔が、膜フィルターから離間する方向に向かって拡径するように傾斜して形成されているので、例えば該アダプターが流入口側端面に装着されている場合は、そうでない場合に比べて、使用済CMPスラリーがスラリー流通経路へスムーズに導入されるため、該スラリーの乱流を抑制できる。
【0017】
本発明のCMPスラリー再生装置は、本発明の膜フィルター用アダプターが装着された膜フィルターを有するので、循環するスラリーの圧力損失の増加を抑制でき、該装置の運転効率の悪化を抑制しつつ、CMPスラリーを再生できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】使用済CMPスラリー再生方法を示す工程図である。
図2】再生装置の概要と配管系統を示す図である。
図3】本発明の膜フィルター用アダプターの一例を示す図である。
図4図3の膜フィルター用アダプターのA-A線断面図である。
図5】実施例および比較例のスラリー濃度と膜差圧の関係図である。
図6】実施例および比較例のスラリー濃度と粘度の関係図である。
図7】再生装置内の配管に接続された膜フィルターの概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
CMPプロセスに使用されるCMPスラリーは、分散性がよく粒子径が揃っているシリカ微粒子(ヒュームドシリカやコロイダルシリカなど)や、研磨速度の大きいセリア微粒子、硬度が高く安定なアルミナ微粒子などが研磨剤として使用されている。これらCMPスラリーは、所定粒子径、濃度の微粒子が水中に分散されてCMPスラリーメーカーにより提供され、各現場に応じた濃度に希釈されてCMPプロセスマシンに供給される。なお、このCMPスラリー中には研磨剤の他に、水酸化カリウム、アンモニア、有機酸、アミン類などのpH調整剤、界面活性剤などの分散剤、過酸化水素、ヨウ素酸カリウム、硝酸鉄(III)などの酸化剤などが予め添加されたり、あるいは、研磨時に別途添加されたりする。
【0020】
上述したように、CMPスラリーの再生をスラリーの品質を維持しながら効率的に連続して再生する方法が求められている。図7に示したように、一般に、濃縮工程で使用される膜フィルターの端面では、スラリー経路の大きさの増減に伴ってスラリーの流れが乱流となる。本発明者らは、この点に着目して検討を行ったところ、スラリー濃度が大きくなるほど、膜フィルターの端面における圧力上昇が顕著となることが分かった。そこで、本発明者らは、所定構造のアダプターを膜フィルターに装着することで、膜フィルターの流入時および流出時に発生する乱流(渦流を含む)を抑制し、スラリー濃度が大きくなっても圧力上昇が抑えられることを見出した。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0021】
まずCMPスラリーの再生方法を図1に示す。図1は使用済CMPスラリー再生方法を示す工程図である。使用済CMPスラリー1は、貯液工程2にて濃縮タンクに貯液される。また、この濃縮タンクは、濃縮工程3を経て使用済CMPスラリー1を循環経路Aにより循環させることにより濃縮されたスラリーを貯液する。本発明の一形態は、循環経路Aによるスラリーの循環を所定時間または所定条件下に停止して、使用済CMPスラリー1を逆循環経路Bにより逆循環させる逆転運転工程4を有する。また、使用済CMPスラリー1より排出される透過液6を透過液タンクに貯液し、この透過液6の一部を用いて濾過膜を洗浄する逆洗工程5を備えることが好ましい。濃縮された濃縮スラリー1aは再利用される。
【0022】
上記CMPスラリー再生方法に用いられる本発明のCMPスラリー再生装置を図2に示す。図2は再生装置の概要と配管系統を示す図である。なお、図2において、P01は循環ポンプ、V01~V13は循環液の循環方向および排出量を調節するためのバルブ、FT01~FT02は流量計であり、PS01~PS03は圧力計である。
【0023】
CMPスラリー再生装置は、使用済CMPスラリーを貯液する濃縮タンク7を有している。濃縮タンク7は処理すべきスラリーの量、種類等により2個以上備えていてもよい。
【0024】
膜フィルター8は、図7に示すように、略円柱状の基材に略円筒状のスラリー流通経路10が軸方向に沿って複数形成されている。言い換えると、蓮根の様に穴が多数開いており、それを伸ばしたような形状(例えば1mの長さ)となっている。具体的には、膜フィルター8は、使用済CMPスラリー1が流入する複数の略円形状の流入口9と、該スラリーが濃縮されて流出する複数の略円形状の流出口10と、流入口9から流出口10に至り、側壁に濾過膜が設けられた複数のスラリー流通経路11と、濾過膜を介して使用済CMPスラリー1より濾別された透過液6を排出する排出口12とを有する。流入口9および流出口10近傍にそれぞれ排出口12が設けられている。排出口12より排出された透過液6は、透過液タンク16(図2参照)に貯液された後、直接または透過液量を調節されながら排出されるか、または逆洗工程用の洗浄液体として利用される。
【0025】
膜フィルターは、スラリー流通経路の壁面がフィルター構造になっており、ここから透過液が通過する、いわゆるクロスフロー方式の濾過装置となっている。膜フィルターとして、好ましくはセラミックフィルターである。セラミックの材質としては、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化チタン(チタニア)などが挙げられる。
【0026】
膜フィルターに使用される濾過膜は、限外濾過膜であってもよく、逆浸透膜であっても使用できる。回収後の濃縮液中の研磨剤粒子を最も効率よく回収する観点から、限外濾過膜を好適に用いることができる。また、従来、濾過膜は限外濾過膜(膜の孔径:10~100nm)を採用されることが多いが、近年の使用済スラリーは純水により希釈されることから、希釈した純水のみを脱水すれば元のスラリーに戻るといえる。限外濾過膜は溶解したイオン成分は膜を通過するため、その後の調整時に、例えば水酸化力リウムやアンモニア水等のベースとなる薬液を添加する必要があるが、逆浸透膜は膜の孔径が1nm未満なので、イオンを捕捉し純水のみ分離する。従って逆浸透膜による処理で元のスラリー成分に近づけることができるという利点がある。
【0027】
図2において、アダプター13は、膜フィルター8の流入口9が形成された端面(流入側端面)、および、膜フィルター8の流出口10が形成された端面(流出側端面)にそれぞれ装着されている。アダプター13の構造について、図3および図4を用いて説明する。なお、以下には、流入口に装着した場合について述べるが、流出口に装着した場合も同様の構成となる。
【0028】
図3には、膜フィルター用アダプターの斜視図を示す。アダプター13は、外形形状が略円柱状の本体部14と、本体部14に形成された複数の連通孔15を有する。複数の連通孔15は、装着される膜フィルターの複数の流入口とそれぞれ連通するように形成される。例えば、図3のアダプター13は、19個の連通孔15が同心円状に複数列で形成されており、図7に示す膜フィルター8の19個の流入口9およびそれらの配置と一致するように形成される。なお、連通孔の個数や配置は、図3の形態に限らず、装着される膜フィルターの流入口の個数と配置によって適宜設定される。
【0029】
本発明の膜フィルター用アダプターは、特に、各連通孔15が、膜フィルターから離間する方向に向かって拡径するように傾斜して形成されていることを特徴とする。具体的には、各連通孔は、膜フィルター側の端面14aから循環経路側の端面14bに向かって、拡径する略円すい状に形成されている。この場合、端面14aにおける各連通孔の孔径Φ(図4参照)は、膜フィルターの流入口の孔径と略同一である。このような形状とすることで、使用済CMPスラリーは、アダプター13の傾斜面を利用して、スムーズに膜フィルター(スラリー流通経路)内へ導かれる。これにより、膜フィルターの端面における乱流を抑制することができ、該端面における圧力上昇を抑制できる。すなわち、本発明のアダプターは、膜フィルター内へスムーズに導くためのガイド部材として機能する。
【0030】
図3において、各連通孔15の傾斜面の傾斜角度は、その連通孔の位置によって異なっている。この点について、アダプターの軸方向断面図(図3のA-A線断面図)である図4を用いて説明する。軸方向断面図において、略円すい状に形成された各連通孔は対向する一対の傾斜面で構成される。図4には5個の連通孔が形成され、このうち、連通孔15aは円中心部に形成され、連通孔15bは連通孔15aよりも径方向外側に形成され、連通孔15cは連通孔15bよりもさらに径方向外側に形成されている。このとき、連通孔15a~15cにおいてそれぞれの一対の傾斜面がなすテーパ角度をθa~θcとすると、θaよりもθbが大きく、θbよりもθcが大きくなっている。すなわち、円中心寄りに形成された連通孔のテーパ角度に比べて、該連通孔よりも径方向外側に形成された連通孔のテーパ角度の方が大きくなっている。言い換えると、スラリーが流れる方向に対する傾斜面の傾斜角度が、内径側の連通孔よりも外径側の連通孔の方が大きくなっている。
【0031】
配管内を流れる使用済CMPスラリーの流速は、配管中心部の方が配管周縁部よりも大きくなっている。つまり、アダプターに流入する該スラリーの流速は、内径側の方が外径側よりも大きくなる。そのため、アダプターの外径側から膜フィルターへ流入する場合、該スラリーは比較的流れが緩やかであるため、テーパ角度(または傾斜角度)を比較的大きくしても該スラリーの流れの乱れを抑えることができる。このようにスラリーの流速差を考慮して、各連通孔のテーパ角度を図4に示した構成とすることで、各流入口の位置に合った連通孔を形成しつつも、スラリーの乱流を好適に抑制できる。
【0032】
以上、膜フィルターの流入口側にアダプターを装着した構成について示したが、流出口側にアダプターを装着した場合も、経路の大きさの変化が緩やかとなりスラリーの乱流(渦流を含む)を抑制できる。
【0033】
本発明のアダプターの材質は、金属製または合成樹脂製である。金属の材質としては、ステンレスなどが挙げられ、合成樹脂の材質としては塩化ビニル樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂などが挙げられる。
【0034】
使用済CMPスラリー1を濃縮するための循環経路Aについて、図2に基づいて説明する。使用済CMPスラリー1はバルブV01およびV02を開きバルブV03を閉じることにより濃縮タンク7に貯液される。バルブV03を開き、循環ポンプP01を作動させることにより、使用済CMPスラリー1の循環が開始される。循環経路Aにより使用済CMPスラリー1を循環させる場合、バルブV13、V05、およびV07は閉であり、バルブV03、V04、V06、およびV08は開である。
【0035】
使用済CMPスラリー1は、アダプター13を介して膜フィルター8の流入口9から流入し、透過液を排出口12より排出しながらアダプター13を介して流出口10より流出し、濃縮タンク7に戻る。本発明の再生装置では、膜フィルター8の両端面に上述したアダプター13を装着しているので、両端面におけるスラリーの乱流を抑制しつつ、濃縮循環を行なうことができる。なお、このアダプターを装着した膜フィルターを複数設け、これら複数の膜フィルターを直列にまたは並列に配してもよい。
【0036】
膜フィルター8によるスラリー濃縮は、循環流速を比較的高くして、膜フィルター8に流入する液量の1/5~1/200程度を透過液量として濾過することが好ましい。この場合、スラリー濃度が高濃度になるため濾過膜面に目詰まりが発生する場合がある。この目詰まりを抑制するために定期的に逆洗工程を行なうことが好ましい。逆洗工程は、排出口12から透過する透過液の流量を監視し、目詰まりにより流量がある基準より下がったら逆洗を行なう。図2に示すように、透過液の排出口12側に逆洗1回分の透過液を貯液できる透過液タンク16を設置し、使用済CMPスラリーの循環を定期的に中止し、排出口12側から貯留した透過液を濾過膜に流す。透過液タンク16は金属製のタンクであり、逆洗時には圧縮エアー17によりタンク内の圧力を0.3~1.0MPaの範囲、好ましくは0.7MPaに加圧しておき、自動バルブV09を一気に開け、透過液を濾過膜に勢いよく流し、逆洗させる。逆洗をすると濃縮時に膜面に堆積したスラリー等が膜面から離れる。この逆洗工程を繰り返すことにより目詰まりすることなく高濃度のスラリーを長期間濃縮することができる。
【0037】
循環経路Aの循環を繰り返して濃縮を継続すると、スラリー濃度が大きくなる。後述の実施例で示すように、従来のような膜フィルター用アダプターを有しない構成では、例えばスラリー濃度が24質量%以上となると膜フィルター端面(特に、流入側端面)の圧力が急激に上昇し、それに伴って圧力損失が大きくなる。これに対し、本発明の再生装置では、膜フィルター用アダプターを有するため、スラリーのスムーズな流れが比較的維持されやすく、スラリー濃度が大きくなっても膜フィルター端面における圧力の上昇を抑えることができる。
【0038】
また、循環経路Aの循環を繰り返して濃縮を継続すると、ゲル状物、凝集したスラリー、ウェハーなどのかけらや装置からの脱落部材などの比較的大きな異物が循環している使用済CMPスラリー1液中に存在することになる。これらの異物は、通常、膜フィルター8の流入口9の端面に留まり循環経路を閉塞させ、逆洗工程を有していても濃縮そのものが困難になる。これに対して、本発明の再生装置では、傾斜面で形成された連通孔を有するアダプターを膜フィルターの端面に装着しているため、上記異物が留まりにくく、循環経路を閉塞させるおそれがない。なお、アダプターに異物が留まった場合であっても、後述する逆転運転を行なうことで上記異物の除去が可能である。
【0039】
逆転運転では、循環経路Aによる使用済CMPスラリーの循環を一旦停止して、その後、使用済CMPスラリー1を循環経路Bにより循環させる。この場合、濃縮タンク7に貯液されている使用済CMPスラリー1は、バルブV03を開き、循環ポンプP01を作動させることにより、使用済CMPスラリー1の循環経路Bにより逆循環が開始される。循環経路Bにより使用済CMPスラリー1を循環させる場合、バルブV13、V04およびV06は閉であり、バルブV05およびV07は開である。このように、バルブの切り替えのみで循環経路Aおよび循環経路Bを形成できる。また、循環経路Aおよび循環経路Bに切り替えて濃縮が継続される。図2の構成では、膜フィルター8の両端面にアダプター13が装着されているため、逆転運転時においても、膜フィルター8に流入する側の端面(図2でいえば流出口10の端面)の乱流を好適に抑制できる。
【0040】
なお、上記異物の除去の観点から、循環経路Bによる逆転運転を定期的に行なうことが好ましい。膜フィルター8の流入側のアダプター13の端面に異物が留まったとしても、逆転運転により、該アダプター13から離す方向の循環経路Bとなり、異物を除去できる。逆転運転の切り替え頻度は、例えば1~5時間毎の定期的な時間および膜フィルター8の両端に圧力計を設置し基準値をこえたら切り替える方法がある。切り替えは設置された自動弁を開閉することにより行なうことができる。
【0041】
図2に示した再生装置では、膜フィルター8の両端面にアダプター13を有する構成としたが、膜フィルター8の少なくともいずれか一方の端面にアダプター13を装着することで、スラリーの乱流を抑制できる。ただし、膜フィルター8の端面における圧力の上昇を好適に抑制できることから、膜フィルター8の流入口9側の端面にはアダプター13を装着することが好ましい。
【0042】
本発明の再生装置は、スラリー濃度が0.5質量%~50質量%の範囲で濃縮できる。上述したように、スラリー濃度が大きくなっても膜フィルター端面における圧力上昇を抑えることができるため、特に、圧力上昇が顕著となる濃度まで濃縮する再生方法に適している。例えば、CMPスラリーがシリカスラリー(ヒュームドシリカスラリーやコロイダルシリカスラリーなど)の場合は、20質量%以上、好ましくは24質量%以上、より好ましくは26質量%以上濃縮する再生方法に用いられる。例えば、CMPスラリーがセリアスラリーの場合は、30質量%以上、好ましくは35質量%以上、より好ましくは38質量%以上濃縮する再生方法に用いられる。
【0043】
実施例
図2のCMPスラリー再生装置に希釈用タンクを加えた試験用装置を用いて、スラリー濃度0.1質量%に希釈したヒュームドシリカスラリーを、スラリー濃度が27.5質量%となるまで濃縮した。膜フィルターにはセラミックフィルターを用い、該セラミックフィルターの両端面に図3で示したアダプターを装着した。濃縮時のスラリー循環流量は、60m3/hで行なった。また、該スラリーのpHは9.3であった。
【0044】
濃縮過程において18質量%~27.5質量%の範囲の所定スラリー濃度での膜差圧を算出して、膜差圧を縦軸、スラリー濃度を横軸にプロットした(図5)。膜差圧は、膜フィルターの流入口における圧力(流入圧)から該膜フィルターの流出口における圧力(流出圧)を減じて、算出した。例えば、流入圧は、圧力計PS01で測定される値であって、流出圧は圧力計PS02で測定される値である(図2参照)。なお、スラリー濃度は、スラリー濃度(質量%)={ヒュームドシリカ量(質量)/ヒュームドシリカスラリー量(質量)}×100の式により算出される。
【0045】
また、濃縮過程において18質量%~27.5質量%の範囲の所定スラリー濃度の循環液をサンプリングし、温度調整した後、音叉型振動式粘度計(エー・アンド・デイ社製 SV-10)を用いて、該循環液の粘度を測定した。測定した粘度を縦軸、スラリー濃度を横軸にプロットした(図6)。なお、スラリー温度はスラリー粘度に影響するため、サンプリングした循環液を25±1℃で温度調整した。
【0046】
比較例
セラミックフィルターにアダプターを装着しない、つまり図2において膜フィルター8の両端面にアダプター13がないこと以外は、その他の条件を実施例1と同様にしてCMPスラリー再生を行なった。18質量%~27.5質量%の範囲の所定スラリー濃度での膜差圧および粘度をそれぞれ測定し、結果を図5図6に併記した。
【0047】
図5に示すように、比較例では、スラリー濃度が24質量%を超えた付近から急激に膜差圧が上昇した。この膜差圧の急激な上昇は、主に流入圧の急激な上昇に起因すると考えられる。一方、実施例では、比較例に比べ、膜差圧の上昇を緩やかにすることができた。一般に、ヒュームドシリカスラリーは、スラリー濃度が27質量%付近となる濃度まで濃縮されており、本発明のアダプターを膜フィルターに装着することで膜差圧(特に流入圧)の上昇が抑えられ、ひいては運転効率の悪化を抑制できる。なお、セリアスラリーの場合、スラリー濃度が、例えば40質量%付近となる濃度まで濃縮されるが、この場合も本発明のアダプターを用いることで、その濃度に至るまで膜差圧の上昇を抑えることができ、運転効率の悪化を抑制できる。
【0048】
図6に示すように、スラリーのスラリー濃度が大きくなるほど、スラリー粘度が上昇した。実施例では、比較例に比べて、スラリー粘度の上昇を抑えることができた。
【0049】
また、スラリー粘度は、スラリーpHやスラリー温度に依存することが分かっており、一般にスラリーpHを大きくすることでスラリー粘度が小さくなる。また、スラリー温度を大きくすることでスラリー粘度が小さくなる。しかし、CMPスラリー再生装置においてpHを調整するpH調整手段や温度を調整する温度調整手段を設けることは、設備面やコスト面からも容易ではない。これに対し、本発明の再生装置では、アダプターという簡易な部材を膜フィルターに装着するだけでスラリー粘度の上昇を抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の膜フィルター用アダプターは、膜フィルターの端面に装着され、該端面におけるスラリーの乱流を抑制し、ひいてはCMPスラリー再生装置の運転効率の低下を抑制するので、近年の高密度セルなどの半導体集積回路の製造に利用できる。
【符号の説明】
【0051】
1 使用済CMPスラリー
2 貯液工程
3 濃縮工程
4 逆転運転工程
7 濃縮タンク
8 膜フィルター
9 流入口
10 流出口
11 スラリー流通経路
12 排出口
13 アダプター(膜フィルター用アダプター)
14 本体部
15 連通孔
16 透過液タンク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7