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特許7099698ハイドロタルサイト、その製造方法、農業用フィルム用保温剤および農業用フィルム
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  • 特許-ハイドロタルサイト、その製造方法、農業用フィルム用保温剤および農業用フィルム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】ハイドロタルサイト、その製造方法、農業用フィルム用保温剤および農業用フィルム
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/26 20060101AFI20220705BHJP
   C01F 7/785 20220101ALI20220705BHJP
   A01G 13/02 20060101ALI20220705BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20220705BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220705BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220705BHJP
   A01G 9/14 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
C01B33/26
C01F7/785
A01G13/02 B
C08K3/22
C08L101/00
C08J5/18 CES
A01G9/14 S
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018105374
(22)【出願日】2018-05-31
(65)【公開番号】P2019210165
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000162489
【氏名又は名称】協和化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】ディン ホン クオン
(72)【発明者】
【氏名】宮田 茂男
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-002408(JP,A)
【文献】特開平08-217912(JP,A)
【文献】特開平07-126605(JP,A)
【文献】国際公開第2008/136272(WO,A1)
【文献】特開平01-036654(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20-39/54
C01F 1/00-17/00
A01G 9/14
A01G 13/02
C08K 3/22
C08L 101/00
C08J 5/18
C08K 3/22
C01G 1/00-23/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)~(C)を満たす下記(式1)で表されるハイドロタルサイト。
(M2+1-x(M3+(OH)(An-x/n・mHO (式1)
(ただし、式中M2+MgおよびZnからなる群より選ばれる1種以上、M3+Al、An-SiO 2- 、Si O5 2- 、Si 2- 、Si 2- 、(HSiO 、(HSi からなる群より選ばれる1種以上を表し、0.17≦x≦0.36、0≦m≦10、nは1以上の整数である。)
(A)SiのM3+に対するモル比が1.3以上;
(B)SEM法による1次粒子の平均横幅が0.1μm以上0.7μm以下;
(C)下記式で表わされる単分散度が50%以上;
単分散度(%)=(SEM法による1次粒子の平均横幅/レーザー回折法による2次粒子の平均横幅)×100
【請求項2】
BET法比表面積が10m/g以上30m/g以下である、請求項1記載のハイドロタルサイト。
【請求項3】
請求項1記載の(式1)においてmの範囲が0≦m≦0.05である、請求項1記載のハイドロタルサイト。
【請求項4】
レーザー回折法による2次粒子の平均横幅が0.1μm以上0.7μm以下である、請求項1記載のハイドロタルサイト。
【請求項5】
粉末X線回折法による(003)面の最大面間隔が10Å以上である、請求項1記載のハイドロタルサイト。
【請求項6】
ハイドロタルサイトの表面が、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、リン酸エステル類、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、シリコーン系処理剤、ケイ酸および水ガラスからなる群より選ばれる1種以上で表面処理されている、請求項1記載のハイドロタルサイト。
【請求項7】
請求項1記載のハイドロタルサイトを有効成分として含有することを特徴とする農業用フィルム用保温剤。
【請求項8】
熱可塑性樹脂50~99重量%および請求項1記載のハイドロタルサイト1~30重量%を含有する農業用フィルム。
【請求項9】
以下の7つの工程を含む、請求項1記載のハイドロタルサイトの製造方法。
(工程1)2価金属および3価金属を含む水溶性複合金属塩水溶液および、アルカリ金属水酸化物水溶液を調製する原料調工程。
(工程2)(工程1)で調製した水溶性複合金属塩水溶液およびアルカリ金属水酸化物水溶液を、反応温度0℃以上40℃以下、反応pH8以上13以下で連続反応させ、ハイドロタルサイトを含む懸濁液を得る反応工程。
(工程3)(工程2)で得られた反応後のハイドロタルサイトを含む懸濁液を脱水した後、炭酸イオン含有水溶液を用いてイオン交換を行い、さらに水洗浄を行うイオン交換工程。
(工程4)(工程3)で得られたイオン交換後のハイドロタルサイトを含む懸濁液を、100℃以上250℃以下で1時間以上60時間以下、攪拌保持する熟成工程。
(工程5)(工程4)で得られた熟成後のハイドロタルサイトを含む懸濁液に対し、水ガラスを加える水ガラス1次処理工程。
(工程6)(工程5)で得られた水ガラス処理後のハイドロタルサイトを含む懸濁液に対し、硝酸および/または塩酸を加える酸処理工程。
(工程7)(工程6)で得られた酸処理後のハイドロタルサイトを含む懸濁液に対し、水ガラスを加える水ガラス2次処理工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層間に含まれるケイ酸イオン量が多く、1次粒子の平均横幅が小さく、かつ1次粒子の分散性が良いハイドロタルサイトおよびその製造方法ならびに、該ハイドロタルサイトを有効成分とする農業用フィルム用保温剤および該ハイドロタルサイトを含有する農業用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、農作物のハウスやトンネル栽培等に合成樹脂を用いた農業用フィルムが広く使用されている。これらに用いる農業用フィルムは、昼間に太陽光線をハウス、トンネル内に高い透過率で透過させる一方、夜間には地面や植物から放出される赤外線を吸収や反射等により、ハウス、トンネル外に熱を放出させない特性(保温性)が要求される。具体的な保温剤として、農業用フィルムの昼間の太陽光線の透過性を高めるため、樹脂の屈折率が1.45~1.55付近に近く、無色イオンで構成された化合物であること、地面や植物から放射される赤外線のエネルギー分布である波長400~2000cm-1の範囲の赤外線吸収能力が高いこと、農業用フィルムに配合した際に透明性を損なわないように微粒子で分散性が良いことが要求される。
【0003】
以上のような要求を満たす農業用フィルム用保温剤として、従来、ハイドロタルサイトが提案されてきた。例えば特許文献1では、農業フィルム用保温剤に要求される透明性と、樹脂への分散性やハンドリングとを共に高いレベルで両立したハイドロタルサイト系農業フィルム用保温剤粒子が提案されている。より具体的には、吸油量が35ml/100g以下で、吸油量/板面径の値が140~190であることを特徴とするハイドロタルサイト型粒子粉末が提案されている。
【0004】
また、ハイドロタルサイトの層間にケイ酸イオンを導入し、400~2000cm-1の波長領域の赤外線吸収能力を高める提案も種々されてきた。例えば特許文献2では、赤外線の吸収能が大きく、農業用フィルムに有効な赤外線吸収剤が提案されている。より具体的には、表面が0.1~10重量%のアニオン系界面活性剤で被覆され、層間アニオンが縮合ケイ酸イオンおよび/または縮合リン酸イオンで主として占められている式(Mgおよび/またはZn)Al(縮合ケイ酸イオンおよび/または縮合リン酸イオン)m- 2/m・nHO(式中、aは2≦a≦8、mは1以上の整数、nはn≦4、縮合ケイ酸イオン及び/又は縮合リン酸イオンはSiおよび/またはPが2モル以上である。)で表されるハイドロタルサイト系化合物が提案されている。該ハイドロタルサイトは層間にケイ酸成分および/またはリン酸成分を多く導入した構造のため、400~2000cm-1の波長領域の赤外線を高効率で吸収するとされている。
【0005】
また特許文献3では、農業用フィルムに含有させた場合に優れた赤外線吸収性と光通過性を示すハイドロタルサイト系化合物及びその製法、該ハイドロタルサイト系化合物を有効成分とする赤外線吸収剤並びに該赤外線吸収剤を含有する農業用フィルムが提案されている。より具体的には、層間のアニオンとしてその一部および/または全部が珪素系、燐系及び硼素系多量体酸素酸イオンの少なくとも一種のアニオンとそれ以外のアニオンとを保持したハイドロタルサイト系化合物、および該ハイドロタルサイトを含有する農業用フィルムが提案されている。
【0006】
400~2000cm-1の波長領域の赤外線吸収能力を高めるには、ハイドロタルサイトの層間に多くのケイ酸イオンを導入する方が好ましい。しかし、層間に含まれるケイ酸イオン量を増やすほど、不純物であるケイ酸マグネシウムやケイ酸アルミニウムが生成しやすくなり、ハイドロタルサイトの1次粒子が凝集しやすくなる。さらに、ハイドロタルサイトの結晶が微細になればなるほど、1次粒子が凝集しやすくなる。そのため従来の製造方法では、1次粒子が微細なハイドロタルサイトの層間に、多くのケイ酸イオンを導入しようとすると、1次粒子が凝集し、農業用フィルムに配合した際の透明性が低下するという問題が発生していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-68877
【文献】特開平8-217912
【文献】特開2001-2408
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、層間に含まれるケイ酸イオン量が多く、1次粒子の平均横幅が小さく、かつ1次粒子間の凝集が少ないハイドロタルサイトを提供すること、さらに、該ハイドロタルサイトを保温剤として含み、透明性、保温性に優れた農業用フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意研究の結果、ハイドロタルサイトの1次粒子が凝集する原因を発見した。すなわち、イオン交換前に酸処理を行うことでハイドロタルサイトの一部が溶解し、水ガラスでのイオン交換の際にケイ酸マグネシウムまたはケイ酸アルミニウムが生成し、ハイドロタルサイトの1次粒子が凝集していた。本発明者らは、熟成工程でハイドロタルサイトの1次粒子を十分に成長させ、かつ酸処理工程前に水ガラス処理を行い、粒子表面をケイ酸で保護することで、層間に含まれるケイ酸イオン量が多く、1次粒子の平均横幅が小さく、かつ1次粒子間の凝集が少ないハイドロタルサイトを製造できることを発見した。更に、該ハイドロタルサイトを農業用フィルムの保温剤として使用した場合、従来のハイドロタルサイトを使用した場合に比べ農業用フィルムの透明性、保温性が高くなることを見出し、本発明に至った。
【0010】
本発明では、以下の(A)~(C)を満たす下記(式1)で表されるハイドロタルサイトを提供する。
(M2+1-x(M3+(OH)(An-x/n・mHO (式1)
(ただし、式中M2+は2価金属の少なくとも1種以上、M3+は3価金属の少なくとも1種以上、An-はn価の縮合ケイ酸イオンを表し、0.17≦x≦0.36、0≦m≦10、nは1以上の整数である。)
(A)SiのM3+に対するモル比が1.3以上;
(B)SEM法による1次粒子の平均横幅が0.1μm以上0.7μm以下;
(C)下記式で表わされる単分散度が50%以上;
単分散度(%)=(SEM法による1次粒子の平均横幅/レーザー回折法による2次粒子の平均横幅)×100
【0011】
本発明の農業用フィルム用保温剤は、本発明のハイドロタルサイトを有効成分として含有する。
【0012】
本発明の農業用フィルムは、熱可塑性樹脂50~99重量%および本発明のハイドロタルサイト1~30重量%を含有する。
【0013】
本発明のハイドロタルサイトの製造方法は、以下の7つの工程を含む。
(工程1)2価金属および3価金属を含む水溶性複合金属塩水溶液および、アルカリ金属水酸化物水溶液を調製する原料調工程。
(工程2)(工程1)で調製した水溶性複合金属塩水溶液およびアルカリ金属水酸化物水溶液を、反応温度0℃以上40℃以下、反応pH8以上13以下で連続反応させ、ハイドロタルサイトを含む懸濁液を得る反応工程。
(工程3)(工程2)で得られた反応後のハイドロタルサイトを含む懸濁液を脱水した後、炭酸イオン含有水溶液を用いてイオン交換を行い、さらに水洗浄を行うイオン交換工程。
(工程4)(工程3)で得られたイオン交換後のハイドロタルサイトを含む懸濁液を、100℃以上250℃以下で1時間以上60時間以下、攪拌保持する熟成工程。
(工程5)(工程4)で得られた熟成後のハイドロタルサイトを含む懸濁液に対し、水ガラスを加える水ガラス1次処理工程。
(工程6)(工程5)で得られた水ガラス処理後のハイドロタルサイトを含む懸濁液に対し、硝酸および/または塩酸を加える酸処理工程。
(工程7)(工程6)で得られた酸処理後のハイドロタルサイトを含む懸濁液に対し、水ガラスを加える水ガラス2次処理工程。
【発明の効果】
【0014】
本発明のハイドロタルサイトは、農業用フィルムの保温剤として好適に使用できる。本発明のハイドロタルサイトを配合した農業用フィルムは、従来のハイドロタルサイトを配合した場合に比べ、透明性および保温性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のハイドロタルサイトの1次粒子について、横幅を説明する模式図である。
図2】本発明のハイドロタルサイトの2次粒子について、横幅を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について具体的に説明する。
<ハイドロタルサイト>
本発明のハイドロタルサイトの、化学式、金属の種類、xの範囲、mの範囲、層間アニオンの種類、Siの含有量、1次粒子の平均横幅、2次粒子の平均横幅、単分散度、BET法比表面積、(003)面の最大面間隔および表面処理は以下の通りである。
【0017】
(化学式)
本発明のハイドロタルサイトは、以下の(式1)で表される。
(M2+1-x(M3+(OH)(An-x/n・mHO (式1)
(ただし、式中M2+は2価金属の少なくとも1種以上、M3+は3価金属の少なくとも1種以上、An-はn価の縮合ケイ酸イオンを表し、0.17≦x≦0.36、0≦m≦10、nは1以上の整数である。)
【0018】
(金属の種類)
(式1)で表されるハイドロタルサイトにおいて、M2+は2価金属の少なくとも1種以上、M3+は3価金属の少なくとも1種以上である。好ましい2価金属はMgおよびZnからなる群より選ばれる1種以上であり、好ましい3価金属はAlである。これは、生体への安全性が高く、かつ粒子が白色であるためである。
【0019】
(xの範囲)
(式1)で表されるハイドロタルサイトにおいて、xの範囲は0.17≦x≦0.36であり、好ましくは0.21≦x≦0.36、より好ましくは0.25≦x≦0.36、さらに好ましくは0.29≦x≦0.36である。xの値が大きくなるほどイオン交換容量が増え、層間に含まれる縮合ケイ酸イオンの最大量が増えるため好ましい。ただしxが0.36を超えると、3価金属の酸化物等の不純物が発生し、フィルムに配合した際の透明性や分散性が悪化するため好ましくない。
【0020】
(mの範囲)
(式1)で表されるハイドロタルサイトにおいて、mの範囲は0≦m≦10であり、好ましくは0≦m≦6である。
【0021】
ハイドロタルサイトは昇温していくと約180~230℃付近で結晶水の脱離を起こす。そのため、ハイドロタルサイトを合成樹脂に配合する際、混練や架橋等の加工温度が200℃以上となる場合には、mの範囲が0≦m≦0.05であることが好ましい。mがこの範囲にあれば、結晶水の脱離による樹脂の発泡およびシルバーストリーク等の問題を防ぐことができる。
【0022】
(層間アニオンの種類)
(式1)で表されるハイドロタルサイトにおいて、An-はn価の縮合ケイ酸イオンを示し、nは1以上の整数である。具体的な縮合ケイ酸イオンとしては、SiO 2-、Si 2-、Si 2-、Si 2-、(HSiO、(HSi等が挙げられるが、この限りではない。
【0023】
(Siの含有量)
(式1)で表されるハイドロタルサイトにおいて、SiのM3+に対するモル比(Si/M3+)は1.3以上であり、好ましくは1.6以上、より好ましくは1.9以上である。SiのM3+に対するモル比が高くなればなるほど、農業用フィルムに配合した際の赤外線吸収能が向上し、保温性が高くなる。
【0024】
(1次粒子の定義)
1次粒子とは、幾何学的にこれ以上分割できない明確な境界を持った粒子である。図1は、本発明で用いた1次粒子の横幅(W)を説明する模式図である。図1に示すように、1次粒子の横幅Wを規定する。すなわち、1次粒子が六角板状の板面としたときの粒子の長径が「1次粒子の横幅W」である。
【0025】
(2次粒子の定義)
2次粒子とは、1次粒子が複数個集まり、凝集体となった粒子である。図2は、本発明で用いた2次粒子の横幅(W)を説明する模式図である。図2に示すように、2次粒子の横幅(W)を規定する。すなわち、2次粒子が球体に包まれると考えたときの球体の直径が「2次粒子の横幅W」である。
【0026】
(1次粒子の平均横幅)
本発明のハイドロタルサイトにおいて、SEM法による1次粒子の平均横幅は0.1μm以上0.7μm以下である。1次粒子の平均横幅のより好ましい上限は0.6μm以下、さらに好ましくは0.5μm以下、さらに好ましくは0.4μm以下、さらに好ましくは0.3μm以下である。1次粒子の平均横幅のより好ましい下限は0.1μm、より好ましくは0.15μm、さらに好ましくは0.2μmである。1次粒子の平均横幅が0.7μm以下であれば、ハイドロタルサイトを農業フィルムに配合した場合の保温性と透明性を高めることができる。1次粒子の平均横幅が0.1μm未満の場合は、酸との反応性が強く、酸処理工程の際にハイドロタルサイトの一部が溶解し、1次粒子が凝集するため好ましくない。1次粒子の平均横幅は、SEM法によりSEM写真中の任意の100個の結晶の横幅の測定値の算術平均から求める。1次粒子の横幅は、原理上レーザー回折法では測定することができない。したがって、SEM法により目視で確認する。
【0027】
(2次粒子の平均横幅)
本発明のハイドロタルサイトにおいて、レーザー回折法による2次粒子の平均横幅は0.1μm以上0.7μm以下である。2次粒子の平均横幅のより好ましい上限は0.6μm以下、さらに好ましくは0.5μm以下、さらに好ましくは0.4μm以下、さらに好ましくは0.3μm以下である。2次粒子の平均横幅のより好ましくは0.15μm、さらに好ましくは0.2μmである。2次粒子の平均横幅が0.7μm以下であれば、ハイドロタルサイトを農業フィルムに配合した場合の保温性と透明性を高めることができる。2次粒子の平均横幅は、レーザー回折法により測定する。SEM法では、2次粒子の平均横幅を正確に測定することが困難なためである。
【0028】
(単分散度)
本発明のハイドロタルサイトにおいて、下記式で表わされる単分散度は50%以上であり、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、最も好ましくは80%以上である。単分散度が50%以上であれば、ハイドロタルサイトを農業用フィルムに配合した際の保温性と透明性を高めることができる。
単分散度(%)=(SEM法による1次粒子の平均横幅/レーザー回折法による2次粒子の平均横幅)×100
【0029】
(BET法比表面積)
本発明のハイドロタルサイトにおいて、BET法比表面積は10~30m/gである。BET法比表面積のより好ましい上限は28m/gであり、より好ましい上限は26m/gである。BET法比表面積の好ましい下限は12m/gであり、より好ましい上限は14m/g、さらに好ましい上限は16m/gである。BET法比表面積が30m/gより大きければ、ハイドロタルサイトを農業用フィルムに配合した際の分散性が低下するため好ましくない。BET法比表面積が10m/g未満であれば、ハイドロタルサイトの1次粒子が凝集しているため好ましくない。
【0030】
((003)面の最大面間隔)
本発明のハイドロタルサイトにおいて、粉末X線回折法による(003)面の最大面間隔は10Å以上であり、より好ましくは10.5Å以上、さらに好ましくは11Å以上、さらに好ましくは11.5Å以上である。(003)面の最大面間隔(層間距離)が大きくなるほど、ケイ酸イオンを層間に導入しやすくなるため好ましい。
【0031】
(表面処理)
本発明のハイドロタルサイトにおいて、粒子を表面処理することで、農業用フィルムに混練した際、樹脂中での分散性を高めることができる。表面処理剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、リン酸エステル類処理剤、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、シリコーン系処理剤、ケイ酸および水ガラス等を例示することができるが、この限りではない。特に好ましい表面処理剤は、ラウリン酸、オレイン酸およびステアリン酸からなる群より選ばれる1種以上である。表面処理剤の処理量は、ハイドロタルサイトの重量に対して、0.01~20重量%である。表面処理剤の添加量のより好ましい上限は、15重量%、さらに好ましくは10重量%、最も好ましくは5重量%である。表面処理剤の添加量のより好ましい下限は、0.05重量%、さらに好ましくは0.1重量%、最も好ましくは0.5重量%である。
【0032】
<農業用フィルム用保温剤>
本発明の農業用フィルム用保温剤は、本発明のハイドロタルサイトを有効成分として含有する。ハイドロタルサイトの赤外線吸収能に影響しないものであれば、必要に応じて他の添加剤を加えてもよい。
【0033】
<農業用フィルム>
(配合部数)
本発明の農業用フィルムは、熱可塑性樹脂50~99重量%および請求項1記載のハイドロタルサイト1~30重量%を含有する。ハイドロタルサイトの配合量の上限は、より好ましくは25重量%、さらに好ましくは20重量%、最も好ましくは15重量%である。ハイドロタルサイトの配合量の下限は、より好ましくは2重量%、さらに好ましくは3重量%である。配合量が1重量%未満では、ハイドロタルサイトによる赤外線吸収効果が十分に発揮されない。配合量が30重量%より多ければ、農業用フィルムの透明性および機械的強度が低下する。
【0034】
(樹脂の種類)
本発明で用いる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ臭化ビニル、ポリフッ化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、臭素化ポリエチレン、塩化ゴム、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-エチレン共重合体、塩化ビニル-プロピレン共重合体、塩化ビニル-スチレン共重合体、塩化ビニル-イソブチレン共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-スチレン-アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル-ブタジエン共重合体、塩化ビニル-塩素化プロピレン共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン-酢酸ビニル三元共重合体、塩化ビニル-マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル-メタクリル酸共重合体、塩化ビニル-メタクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体、内部可塑化ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、エチレンと他のα-オレフィンとの共重合体、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体、エチレンとアクリル酸エーテルとの共重合体、エチレンとアクリル酸メチルとの共重合体、ポリプロピレン、プロピレンと他のα-オレフィンとの共重合体、ポリブテン-1、ポリ4-メチルペンテン-1、ポリスチレン、スチレンとアクリロニトリルとの共重合体、エチレンとプロピレンジエンゴムとの共重合体、エチレンとブタジエンとの共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ABS、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド等が挙げられるが、この限りではない。
【0035】
(他の添加剤)
本発明の農業用フィルムは、ハイドロタルサイト以外に、他の添加剤、例えば可塑剤、滑剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、顔料、紫外線吸収剤、防曇剤または染料等を適宜選択して配合することができる。
【0036】
(混練方法)
樹脂と本発明のハイドロタルサイトとの混合、混練方法には特別の制約はないが、両者を均一に混合できる方法が好ましい。例えば、1軸又は2軸押出機、ロール、バンバリーミキサー等により混合、混練される。混練後の樹脂組成物を、インフレーション加工、カレンダー加工、Tダイ加工等の方法により加工し、フィルム化することにより、本発明の農業用フィルムを得る。
【0037】
<ハイドロタルサイトの製造方法>
本発明のハイドロタルサイトの製造方法は、以下の7つの工程を含む。
【0038】
(工程1)2価金属および3価金属を含む水溶性複合金属塩水溶液および、アルカリ金属水酸化物水溶液を調製する原料調工程。
(工程2)(工程1)で調製した水溶性複合金属塩水溶液およびアルカリ金属水酸化物水溶液を、反応温度0℃以上40℃以下、反応pH8以上13以下で連続反応させ、ハイドロタルサイトを含む懸濁液を得る反応工程。
(工程3)(工程2)で得られた反応後のハイドロタルサイトを含む懸濁液を脱水した後、炭酸イオン含有水溶液を用いてイオン交換を行い、さらに水洗浄を行うイオン交換工程。
(工程4)(工程3)で得られたイオン交換後のハイドロタルサイトを含む懸濁液を、100℃以上250℃以下で1時間以上60時間以下、攪拌保持する熟成工程。
(工程5)(工程4)で得られた熟成後のハイドロタルサイトを含む懸濁液に対し、水ガラスを加える水ガラス1次処理工程。
(工程6)(工程5)で得られた水ガラス処理後のハイドロタルサイトを含む懸濁液に対し、硝酸および/または塩酸を加える酸処理工程。
(工程7)(工程6)で得られた酸処理後のハイドロタルサイトを含む懸濁液に対し、水ガラスを加える水ガラス2次処理工程。
【0039】
(工程1:原料調製工程)
本発明のハイドロタルサイトの原料は、2価金属塩、3価金属塩および、アルカリ金属水酸化物塩である。2価金属塩としては、水溶性の2価金属塩、例えば塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化亜鉛、臭化亜鉛、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛等が挙げられるが、この限りではない。2種以上の2価の金属塩を組み合わせることもできる。好ましくは、塩化マグネシウム及び/又は塩化亜鉛が用いられる。3価金属塩としては、水溶性の3価金属塩、例えば塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、硫酸アルミニウムが挙げられるが、この限りではない。2種以上の3価の金属塩を組み合わせることもできる。好ましくは硫酸アルミニウムが用いられる。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられるが、この限りではない。好ましくは、水酸化ナトリウムが用いられる。
【0040】
2価金属塩、3価金属塩を水に溶解させ、水溶性複合金属塩水溶液を作製する。水溶性複合金属塩水溶液中の、2価金属の濃度は0.01~2mol/Lであり、好ましくは0.1~1.5mol/Lである。3価金属の濃度は0.01~2mol/Lであり、好ましくは0.1~1.5mol/Lである。アルカリ金属水酸化物の濃度は0.01~4mol/Lであり、好ましくは0.1~2mol/Lである。2価金属、3価金属の比率は、1.78≦M2+/M3+≦4.88であり、より好ましくは1.78≦M2+/M3+≦3.77、さらに好ましくは1.78≦M2+/M3+≦3、最も好ましくは1.78≦M2+/M3+≦2.45である。
【0041】
(工程2:反応工程)
本発明のハイドロタルサイトは、連続反応を用いて作製する。連続反応は、溶液中でのイオン濃度とpHを均一に保つことできるため、1次粒子の凝集の少ないハイドロタルサイトを作製でき、かつバッチ反応に比べて生産性が良い。
【0042】
反応時の濃度は、ハイドロタルサイト換算で0.1g/L以上100g/L以下である。反応時の濃度のより好ましい上限は、ハイドロタルサイト換算で90g/Lであり、さらに好ましくは80g/L、さらに好ましくは70g/Lである。反応時の濃度のより好ましい下限は、ハイドロタルサイト換算で1g/Lであり、さらに好ましくは2g/L、さらに好ましくは3g/Lである。反応時の濃度がハイドロタルサイト換算で100g/Lを超えると、ハイドロタルサイトの1次粒子が凝集するため好ましくない。反応時の濃度がハイドロタルサイト換算で0.1g/Lを下回ると、生産性が悪くなるため好ましくない。
【0043】
反応時の温度は、0~40℃である。反応温度のより好ましい上限は30℃であり、最も好ましくは20℃である。反応温度のより好ましい下限は5℃、最も好ましくは10℃である。反応温度が0℃より低い場合は懸濁液が凍ってしまうため好ましくなく、40℃より高い場合はハイドロタルサイトの1次粒子が凝集してしまうため好ましくない。反応時のpHは、8~13であり、好ましくは8.5~12、さらに好ましくは9~11である。反応時のpHが8より低い場合もしくは、13より高い場合は、ハイドロタルサイトの単分散度が下がるので好ましくない。
【0044】
(工程3:イオン交換工程)
反応工程で作製したハイドロタルサイトを含む懸濁液を脱水した後、炭酸イオン含有水溶液を用いてイオン交換を行う。イオン交換の方法は2つある。
【0045】
1つ目のイオン交換の方法は、反応後のハイドロタルサイトを含む懸濁液を脱水し、ケーキにした後、水及び/又はアルコールに分散させ、炭酸イオン含有水溶液を添加し、撹拌保持する方法である。このとき、炭酸イオンの当量は、ハイドロタルサイトに含まれる3価金属1mol当量に対して1~4mol当量、より好ましくは1.5~3mol当量である。撹拌保持の温度は、好ましくは30~90℃、より好ましくは50~80℃である。ハイドロタルサイトの濃度は、ハイドロタルサイト換算で、好ましくは0.1~300g/L、より好ましくは0.5~250g/L、さらに好ましくは1~200g/Lである。
【0046】
2つ目のイオン交換の方法は、反応後のハイドロタルサイトを含む懸濁液を脱水し、ケーキにした後、炭酸イオン含有水溶液を直接添加する方法である。このとき、炭酸イオンの添加量は、ハイドロタルサイトに含まれる3価金属1mol当量に対して1~4mol当量、好ましくは1.5~3mol当量である。
【0047】
炭酸イオン含有水溶液は、例えば炭酸ナトリウムや炭酸カリウム等を用いることができるが、特に限定されるものではない。
【0048】
イオン交換後、ハイドロタルサイトの20~30倍の重量の脱イオン水で水洗浄し、水に再懸濁させる。この工程を経ることによって、ナトリウム等の塩類を取り除き、熟成工程の際の1次粒子の凝集を防ぐことができる。
【0049】
(工程4:熟成工程)
イオン交換工程で作製したハイドロタルサイトを含んだ懸濁液を、100~250℃で1時間以上60時間以下、攪拌保持する。この工程を経ることにより、ハイドロタルサイトの1次粒子の凝集を緩和し、1次粒子が十分に分散した懸濁液を得ることができる。熟成温度のより好ましい上限は240℃、さらに好ましくは230℃である。熟成温度のより好ましい下限は110℃、さらに好ましくは120℃である。熟成温度が100℃より低い場合は、ハイドロタルサイトの1次粒子が0.1μmよりも小さくなってしまうため好ましくなく、250℃よりも高い場合はハイドロタルサイトの1次粒子が0.7μmよりも大きくなってしまうため好ましくない。
【0050】
熟成時間のより好ましい上限は50時間、さらに好ましくは40時間、さらに好ましくは30時間、より好ましくは20時間である。熟成時間のより好ましい下限は2時間であり、さらに好ましくは3時間、最も好ましくは4時間である。熟成時間が1時間未満では、ハイドロタルサイトの1次粒子の凝集を緩和するための時間として十分ではない。熟成時間を60時間よりも長くしても、1次粒子の凝集状態に変化がないため意味をなさない。
【0051】
(工程5:水ガラス1次処理工程)
熟成工程で得られたハイドロタルサイトを含む懸濁液を攪拌し、ハイドロタルサイトの固形分に対しSiO換算で0.1~5重量%の水ガラスを加える。水ガラスの添加量は、好ましくはハイドロタルサイトの固形分に対しSiO換算で0.3~3重量%、さらに好ましくは0.5~2重量%である。水ガラスの濃度はNaO換算で0.01~1mol/Lであり、好ましくは0.05~0.6mol/L、より好ましくは0.1~0.3mol/Lである。水ガラスとしては、1号水ガラス、2号水ガラス、3号水ガラス等が挙げられるが、この限りではない。処理温度は0~100℃であり、好ましくは10~90℃、より好ましくは20~80℃、さらに好ましくは30~70℃である。ハイドロタルサイトの粒子表面をケイ酸で被覆し、耐酸性を高めることで、工程6の酸処理の際の1次粒子の凝集を防ぐことができる。
【0052】
(工程6:酸処理工程)
水ガラス1次処理工程で得られたハイドロタルサイトを含む懸濁液を攪拌し、ハイドロタルサイトの3価金属1mol当量に対し、1~1.5mol当量の塩酸および/または硝酸を加える。塩酸および硝酸の濃度は0.1~3mol/Lであり、好ましくは0.2~2.5mol/L、より好ましくは0.3~2.2mol/Lである。処理温度は0~100℃であり、好ましくは10~90℃、より好ましくは20~80℃、さらに好ましくは30~70℃である。この工程により、ハイドロタルサイトの層間イオンを炭酸イオンから、硝酸イオンおよび/または塩素イオンに置き換えることができる。層間イオンを硝酸イオンおよび/または塩素イオンとすることにより、工程7の水ガラス2次処理工程の際に、ケイ酸イオンがハイドロタルサイトの層間に入りやすくなる。
【0053】
(工程7:水ガラス2次処理工程)
酸処理工程で得られたハイドロタルサイトを含む懸濁液を攪拌し、ハイドロタルサイトの3価金属1mol当量に対し、SiO換算で1~2.5mol当量の水ガラスを加える。水ガラスの添加量は、好ましくはハイドロタルサイトの3価金属1mol当量に対し、SiO換算で1.1~2.4mol当量、より好ましくは1.2~2.3当量である。水ガラスの濃度はNaO換算で0.01~1mol/Lであり、好ましくは0.05~0.6mol/L、より好ましくは0.1~0.3mol/Lである。水ガラスとしては、1号水ガラス、2号水ガラス、3号水ガラス等が挙げられるが、この限りではない。処理温度は0~100℃であり、好ましくは20~100℃、より好ましくは40~100℃、さらに好ましくは60~100℃、最も好ましくは80~100℃である。この工程でハイドロタルサイトの層間イオンをケイ酸イオンに置き換えることができる。
【0054】
(表面処理工程)
水ガラス2次処理後、ハイドロタルサイトを表面処理することで、農業用フィルムに配合した際のフィルム中での分散性が向上する。表面処理は、湿式法又は乾式法を用いることができる。処理の均一性を考慮した場合、湿式法が好適に用いられる。水ガラス2次処理および水洗浄後のハイドロタルサイトを水中に分散させ、撹拌下に溶解させた表面処理剤を添加する。表面処理時の温度は表面処理剤が溶解する温度に適宜調整する。
【0055】
表面処理剤としては、例えばアニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、リン酸エステル系処理剤、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、シリコーン系処理剤、ケイ酸ナトリウム等から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。特に好ましい表面処理剤は、ラウリン酸、オレイン酸およびステアリン酸からなる群より選ばれる1種以上である。表面処理剤の添加量は、ハイドロタルサイトの重量に対して、0.01~20重量%である。表面処理剤の添加量のより好ましい上限は、15重量%、さらに好ましくは10重量%、最も好ましくは5重量%である。表面処理剤の添加量のより好ましい下限は、0.05重量%、さらに好ましくは0.1重量%、最も好ましくは0.5重量%である。
【0056】
(乾燥工程)
水ガラス2次処理または表面処理後のハイドロタルサイトを含む懸濁液を脱水し、水洗浄した後、乾燥させ、本発明のハイドロタルサイトを得る。乾燥方法は、熱風乾燥、真空乾燥等を用いることができるが、特に限定されるものではない。
【0057】
本発明のハイドロタルサイトにおいて、mの範囲を0≦m≦0.05とする場合、乾燥温度は150℃~350℃に設定する。
【0058】
以下実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。実施例において、各物性は以下の方法で測定した。
【0059】
(a)化学式
粉末サンプル中のMg、ZnおよびAlの含量は、キレート滴定により測定した。サンプル中のSiの含量は、重量法により測定した。COはJIS R 9101に基づき、AGK式CO簡易精密定量装置にて測定した。層間水についてはTG-DTAを用いて重量減少から算出した。
【0060】
(b)1次粒子の平均横幅
粉末サンプルをエタノールに加え、超音波処理を5分間行った後、走査型電子顕微鏡(SEM)(JSM-7600F、日本電子製)を用い、任意の100個の結晶の1次粒子の横幅を測定し、その算術平均をもって1次粒子の平均横幅とした。
【0061】
(c)2次粒子の平均横幅
粉末サンプルをエタノールに加え、超音波処理を5分間行った後、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(MT3300、マイクロトラック・ベル製)を用い、体積基準の累積50%粒子径(D50)を測定し、D50を2次粒子の平均横幅とした。
【0062】
(d)単分散度
以下の式に基づいて、単分散度を算出した。
単分散度(%)=(1次粒子の平均横幅/2次粒子の平均横幅)×100
【0063】
(e)BET法比表面積
比表面積の測定装置(NOVA2000、ユアサアイオニクス製)を使用して、ガス吸着法により乾燥後の粉末サンプルのBET法比表面積を測定した。
【0064】
(f)(003)面の最大面間隔
X線回折装置(Empyrean、パナリティカル製)を使用して粉末X線回折を行い、得られたX線プロファイルから(003)面の最大面間隔d003を算出した。X線源としては45kV、40mAの条件で発生させたCu-Kα線を用いた。
【0065】
(g)表面処理量
粉末サンプルのステアリン酸処理量は、エーテル抽出法にて測定した。
【0066】
(h)保温指数
フィルムの保温指数は、赤外線吸収スペクトル測定装置(FT/IR-4100、日本分光製)を用いて測定した。各波長における黒体放射エネルギー(Eλ・dλ)を下記(式2)により求め、400~2000cm-1までの黒体放射エネルギーを積分する(Σ(Eλ・dλ))ことにより、全黒体放射エネルギー密度とした。次にフィルムの各波長における赤外線吸収率を測定し、各波長における黒体放射エネルギー(Eλ・dλ)に各波長の赤外線吸収率をかけて、それらを積分することにより、フィルムの全吸収エネルギー密度とした。全黒体放射エネルギー密度とフィルムの全吸収エネルギー密度との比を下記(式3)により求め、保温指数とした。保温指数が高いほど、赤外線吸収能力が高いことを意味し、すなわち保温性が高いことを意味する。
Eλ・dλ=2πhC^2/[λ^5{e^(hC/λkT)-1}]・dλ (式2)
(式中、λは波長、hはプランク常数、Cは真空中の光速度、kはボルツマン常数、Tは絶対温度をそれぞれ表す。)
保温指数=(全吸収エネルギー密度/全黒体放射エネルギー密度)×100 (式3)
【0067】
(i)光透過性(全光線透過率およびヘーズ)
フィルムの全光線透過率およびヘーズ(曇り度)は、ヘーズメーター(NDH-1001DP、日本電色工業製)を用いて測定した。全光線透過率はJIS K 7361-1に、ヘーズはJIS K 7105の測定方法に従った。
【0068】
(j)フィルム中での分散性
ハイドロタルサイトの凝集体の有無を目視で確認し、フィルム中での分散性を評価した。凝集体がない場合は○、凝集体が存在する場合は×とした。
【実施例1】
【0069】
(原料調工程)
塩化マグネシウム6水和物(試薬1級、富士フイルム和光純薬製)および硫酸アルミニウム14~18水和物(試薬1級、富士フイルム和光純薬製)を脱イオン水に溶解させ、マグネシウム濃度0.43mol/L、アルミニウム濃度0.2mol/Lの複合金属塩水溶液を得た。一方、水酸化ナトリウム(試薬1級、富士フイルム和光純薬製)を脱イオン水に溶解させ、ナトリウム濃度0.8mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を得た。
【0070】
(反応工程)
反応槽に複合金属塩水溶液および水酸化ナトリウム水溶液を注加し、連続的に反応を行った。オーバーフローとして反応槽から溢れ出た懸濁液を採取し、pHが9.3~9.5となるよう、水酸化ナトリウム水溶液の流量を調整した。なお反応中は、反応温度が20℃となるよう原料と反応槽を温度調整した。また、反応中は直径2.5cmのスクリュープロペラを用い、回転速度1000rpmで撹拌を行った。反応濃度はハイドロタルサイトとして50g/Lであった。
【0071】
(イオン交換工程)
円形ヌッチェと吸引濾過瓶を用い、懸濁液を吸引濾過にて脱水し、ケーキとした。次に、ケーキに含まれるハイドロタルサイトのアルミニウム1mol当量に対して2mol当量の炭酸ナトリウム水溶液をケーキに注加し、イオン交換を行った。次に、ハイドロタルサイトの20質量倍の脱イオン水を用い、塩類などの副生成物および残留炭酸ナトリウムの不純物を除去する目的で、水洗浄を行った。
【0072】
(熟成工程)
ホモミキサーを用い、水洗浄後のハイドロタルサイトのケーキを脱イオン水に再懸濁させ、50g/Lの懸濁液を作製した。得られた懸濁液をオートクレーブに入れ、130℃で15時間攪拌保持し、熟成処理を行った。
【0073】
(水ガラス1次処理工程)
3号水ガラス(SiO/NaO=3.1~3.3)(富士化学製)に脱イオン水を加え、NaO濃度として0.2mol/Lに濃度調整し、水ガラス処理液とした。熟成後のハイドロタルサイトを含む懸濁液および水ガラス処理液を50℃に温度調整した。攪拌下、ハイドロタルサイトの固形分に対してSiOとして0.8重量%の水ガラス処理液を加え、10分間攪拌保持した。
【0074】
(酸処理工程)
硝酸(試薬特級、富士フイルム和光純薬製)に脱イオン水を加え、2mol/Lに濃度調整し、硝酸処理液とした。水ガラス1次処理後のハイドロタルサイトを含む懸濁液および硝酸処理液を50℃に温度調整した。攪拌下、ハイドロタルサイトのアルミニウム1mol当量に対して1.1mol当量の硝酸を加え、30分間攪拌保持した。
【0075】
(水ガラス2次処理工程)
3号水ガラス(SiO/NaO=3.1~3.3)(富士化学製)に脱イオン水を加え、NaO濃度として0.2mol/Lに濃度調整し、水ガラス処理液とした。酸処理後のハイドロタルサイトを含む懸濁液および水ガラス処理液を95℃に温度調整した。攪拌下、ハイドロタルサイトのアルミニウム1mol当量に対して、SiOとして2.25mol当量の水ガラス処理液を加え、30分間攪拌保持した。水ガラス2次処理後のハイドロタルサイトを含む懸濁液を吸引濾過にて脱水し、ケーキとした。水ガラス1次処理および2次処理で加えた水ガラスの20質量倍の脱イオン水を用い、水洗浄を行った。
【0076】
(表面処理工程)
水洗浄後のケーキに脱イオン水を加え、ホモミキサーにて分散させ、ハイドロタルサイトを含む懸濁液を作製した。一方、ステアリン酸(試薬特級、富士フイルム和光純薬製)に対し、同mol当量の水酸化ナトリウム(試薬1級、富士フイルム和光純薬製)を加え、脱イオン水で希釈し、ステアリン酸処理液とした。ハイドロタルサイトを含む懸濁液とステアリン酸処理液を80℃に温度調整した。ハイドロタルサイトを含む懸濁液に、ハイドロタルサイトの固形分に対してステアリン酸として2wt%のステアリン酸処理液を加え、20分間攪拌保持した。
【0077】
(乾燥工程)
表面処理後の懸濁液を吸引濾過にて脱水し、ケーキとした。表面処理工程で加えたステアリン酸の固形分の20質量倍の脱イオン水を用い、水洗浄を行った。水洗浄後のケーキを熱風乾燥機に入れ、105℃で12時間乾燥させた。室温まで冷却後、粉砕分級を行い、本発明のハイドロタルサイトAを得た。ハイドロタルサイトAの合成条件を表1に、各分析値を表2に示す。
【実施例2】
【0078】
実施例1の水ガラス2次処理工程において、水ガラスの処理量をハイドロタルサイトのアルミニウム1mol当量に対して、SiOとして2mol当量とした以外は同様にしてサンプルを作製し、本発明のハイドロタルサイトBを得た。ハイドロタルサイトBの合成条件を表1に、各分析値を表2に示す。
【実施例3】
【0079】
実施例1の水ガラス2次処理工程において、水ガラスの処理量をハイドロタルサイトのアルミニウム1mol当量に対して、SiOとして1.75mol当量とした以外は同様にしてサンプルを作製し、本発明のハイドロタルサイトCを得た。ハイドロタルサイトCの合成条件を表1に、各分析値を表2に示す。
【実施例4】
【0080】
実施例1の原料調整工程において、複合金属塩水溶液のマグネシウム濃度を0.6mol/L、アルミニウム濃度を0.2mol/Lとした以外は同様にしてサンプルを作製し、本発明のハイドロタルサイトDを得た。ハイドロタルサイトDの合成条件を表1に、各分析値を表2に示す。
【実施例5】
【0081】
実施例1で得られたハイドロタルサイトAを更に220℃で12時間乾燥させ、本発明のハイドロタルサイトEを得た。ハイドロタルサイトEの合成条件を表1に、各分析値を表2に示す。
(比較例1)
【0082】
実施例1において、水ガラス1次処理工程を省いた以外は同様にしてサンプルを作製し、ハイドロタルサイトFを得た。ハイドロタルサイトFの合成条件を表1に、各分析値を表2に示す。
(比較例2)
【0083】
実施例1の水ガラス2次処理工程において、水ガラスの処理量をハイドロタルサイトのアルミニウム1mol当量に対して、SiOとして0.8mol当量とした以外は同様にしてサンプルを作製し、ハイドロタルサイトGを得た。ハイドロタルサイトGの合成条件を表1に、各分析値を表2に示す。
(比較例3)
【0084】
実施例1において、水ガラス1次処理工程、酸処理工程、水ガラス2次処理工程を省いた以外は同様にしてサンプルを作製し、ハイドロタルサイトHを得た。ハイドロタルサイトHの合成条件を表1に、各分析値を表2に示す。
(比較例4)
【0085】
実施例1の熟成工程において、熟成温度を60℃とした以外は同様にしてサンプルを作製し、ハイドロタルサイトIを得た。ハイドロタルサイトIの合成条件を表1に、各分析値を表2に示す。
【0086】
【表1-1】
【0087】
【表1-2】
【0088】
【表1-3】
【0089】
【表1-4】
【0090】
【表2-1】
【0091】
【表2-2】
【0092】
【表2-3】
【0093】
【表2-4】
【0094】
表1および2より、実施例1~5の本発明のハイドロタルサイトは、M3+に対するSiのモル比が高く、かつ単分散度が高くなっている。比較例1のハイドロタルサイトFは、M3+に対するSiのモル比が高いが、2次粒子の平均横幅が大きく、単分散度が低くなっている。比較例2のハイドロタルサイトGは単分散度が高いものの、M3+に対するSiのモル比が低い。比較例4のハイドロタルサイトIは1次粒子の平均横幅が0.1μm未満で、単分散度が低い。
【実施例6】
【0095】
(農業用フィルムの作製)
実施例1で得られたハイドロタルサイトAを、ポリエチレン樹脂に下記配合比で配合し、農業用フィルムを作製した。
(配合)
高圧法メタロセンポリエチレン(KF-282、日本ポリエチレン製):90重量%
ハイドロタルサイト:10重量%
【0096】
上記配合物を、単軸混練機を用い180℃で混練し、次に160℃でTダイ押し出し機により厚さ100μmに成形し、本発明の農業用フィルムを得た。得られた農業用フィルムの各評価結果を表3に示す。
【実施例7】
【0097】
実施例2で得られたハイドロタルサイトBを用い、実施例6と同様の配合比で農業用フィルムを作製した。得られた農業用フィルムの各評価結果を表3に示す。
【実施例8】
【0098】
実施例3で得られたハイドロタルサイトCを用い、実施例6と同様の配合比で農業用フィルムを作製した。得られた農業用フィルムの各評価結果を表3に示す。
【実施例9】
【0099】
実施例4で得られたハイドロタルサイトDを用い、実施例6と同様の配合比で農業用フィルムを作製した。得られた農業用フィルムの各評価結果を表3に示す。
【実施例10】
【0100】
実施例5で得られたハイドロタルサイトEを用い、実施例6と同様の配合比で農業用フィルムを作製した。得られた農業用フィルムの各評価結果を表3に示す。
(比較例5)
【0101】
比較例1で得られたハイドロタルサイトFを用い、実施例6と同様の配合比で農業用フィルムを作製した。得られた農業用フィルムの各評価結果を表3に示す。
(比較例6)
【0102】
比較例2で得られたハイドロタルサイトGを用い、実施例6と同様の配合比で農業用フィルムを作製した。得られた農業用フィルムの各評価結果を表3に示す。
(比較例7)
【0103】
比較例3で得られたハイドロタルサイトHを用い、実施例6と同様の配合比で農業用フィルムを作製した。得られた農業用フィルムの各評価結果を表3に示す。
(比較例8)
【0104】
比較例4で得られたハイドロタルサイトIを用い、実施例6と同様の配合比で農業用フィルムを作製した。得られた農業用フィルムの各評価結果を表3に示す。
(比較例9)
【0105】
実施例6において、ハイドロタルサイトを加えず、メタロセンPEを100重量%にて農業用フィルムを作製した。得られた農業用フィルムの各評価結果を表3に示す。
【0106】
【表3-1】
【0107】
【表3-2】
【0108】
表3より、実施例6~10の本発明の農業用フィルムは、保温指数および全光線透過率が高く、ヘーズが低く、かつ目視での分散性が良い。比較例5の農業用フィルムは、保温指数と全光線透過率は比較的高いものの、ヘーズが大きく、目視で凝集体が確認された。比較例6の農業用フィルムは、Si含量の少ないハイドロタルサイトを使用しているため、保温指数が低い。比較例7の農業用フィルムは、Siを含有していないハイドロタルサイトを使用しているため、比較例6よりも保温指数が低くなっている。比較例8の農業用フィルムは単分散度が低いハイドロタルサイトを使用しているため、全光線透過率が低く、ヘーズが大きく、さらに目視で凝集体が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明のハイドロタルサイトは、農業用フィルムの保温剤として好適に使用できる。本発明のハイドロタルサイトを配合した農業用フィルムは、従来のハイドロタルサイトを配合した場合に比べ、透明性および保温性に優れる。
【符号の説明】
【0110】
…1次粒子の横幅
…2次粒子の横幅
図1
図2