(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】ビスマレイミド変性体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 207/452 20060101AFI20220705BHJP
【FI】
C07D207/452
(21)【出願番号】P 2018114653
(22)【出願日】2018-06-15
【審査請求日】2021-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2017119655
(32)【優先日】2017-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐己
(72)【発明者】
【氏名】森北 達弥
(72)【発明者】
【氏名】吉田 猛
(72)【発明者】
【氏名】繁田 朗
(72)【発明者】
【氏名】越後 良彰
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-048391(JP,A)
【文献】特開2000-119335(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0262191(US,A1)
【文献】特表平10-505599(JP,A)
【文献】特開2017-066132(JP,A)
【文献】特開平07-061969(JP,A)
【文献】特許第6555792(JP,B2)
【文献】特許第6423117(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C07B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイマジアミンのアミノ基がマレイミド化されたビスマレイミド(D-BMI)変性体であって、以下を特徴とするD-BMI変性体。
1)D-BMI変性体の酸価が、2mg-KOH/g以下である。
2)
1H-NMRにおいて、マレイミド基の窒素原子に直結するメチレン基のプロトンに対応するピークの積分値(A)およびマレイミド基のビニルプロトンに対応するピークの積分値(B)を用いて量的対比を行った場合に、A/Bが、1.25以上、2.00以下である。
【請求項2】
以下の工程を含むことを特徴とする請求項1記載のD-BMI
変性体の製造方法。
1)酸価が2mg-KOH/g超の粗D-BMI溶液を準備する工程。
2)前記溶液中の酸成分を、カルボジイミド化合物(CDI)と反応させることにより酸価を2mg-KOH/g以下とする工程。
3)前記溶液を溶媒中、無触媒で、110~200℃で反応させる工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスマレイミド変性体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、スマートフォン、ノート型パソコン等の電子機器に用いられる電子部品は高密度集積化、高密度実装化等が進んでいる。これらの電子部品に用いられる接着剤、封止材等の樹脂材料には、吸水率が低く信頼性に優れた耐熱性の材料が求められる。これらの接着剤、封止材等に用いられる組成物の成分として、ダイマジアミン(炭素数24~48のダイマ酸から誘導される脂肪族ジアミンであり、以下、「DDA」と略記することがある)のアミノ基がマレイミド化されたマレイミド(D-BMI)を用いる方法が知られている。例えば、特許文献1には、LED素子の実装用の接着剤組成物の成分としてD-BMIを用いる方法が開示されている。特許文献2には、プリント配線基板用の異方性導電性接着剤組成物の成分としてD-BMIを用いる方法が開示されている。特許文献3、4には、半導体封止用の固体状組成物の成分としてD-BMIを用いる方法が開示されている。
【0003】
D-BMIは、特許文献5~10等に開示された公知の方法により得ることができる。すなわち、例えば、溶媒中、酸触媒下、ジアミンと、無水マレイン酸とを反応させてマレアミック酸(以下、「MAA」と略記することがある)とした後、酸触媒等によりマレイミド化(脱水による閉環)して粗BMI溶液を得、これを精製することにより製造することができる。また、これらD-BMIは、Designer Molecules Inc.(以下、「DMI社」と略記することがある)から、BMI-689、BMI-1500、BMI-1700、BMI-3000等の商品名で市販もされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-31227号公報
【文献】特開2015-193725号公報
【文献】特開2018-24747号公報
【文献】特開2018-83893号公報
【文献】米国法定発明登録H424号
【文献】米国特許6281314号
【文献】米国公開20080262191号
【文献】特表平10-505599号公報
【文献】特開2008-13772号公報
【文献】特開2012-117070号公報
【文献】特開2017-48391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、公知のD-BMI(市販品を含む)は、精製されたものであっても、未閉環であるMAA、フマルアミック酸、マイケル付加体(MAAにアミンがマイケル付加反応して生成する化合物にさらに無水マレイン酸が反応して生成する化合物)等の酸成分が微量残留しているため、酸価としては、2mg-KOH/gを大幅に超えるものであり、酸価が2mg-KOH/g以下のD-BMIは知られていなかった。
このような酸成分が残留するD-BMIを、例えば半導体の固体状封止材料の成分として用いた際は、吸湿や腐食等の問題を引き起こすことがあった。また、この酸成分に起因して、耐熱性が低下することがあった。すなわち、例えば300℃での高温での質量減少率が大きくなることがあった。さらに、公知のD-BMIは、活性なマレイミド基を多量に含むため、例えば半導体の封止材料用組成物の成分として、他の熱硬化性樹脂、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、ベンゾオキサジン樹脂等と配合して用いた場合、熱硬化反応制御が困難になり、成形不良となる場合があった。そこで本発明は、上記課題を解決するものであって、耐熱性と成形性とが充分に高められたD-BMI変性体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
D-BMIの酸価を大幅に低減した上で、NMRにより規定された特定の化学構造に変性することにより、前記課題が解決されることを見出し、本発明の完成に至った。
【0007】
本発明は下記を趣旨とするものである。
<1> 以下を特徴とするD-BMI変性体。
1)D-BMI変性体の酸価が、2mg-KOH/g以下である。
2)1H-NMRにおいて、マレイミド基の窒素原子に直結するメチレン基のプロトンに
対応するピークの積分値(A)およびマレイミド基のビニルプロトンに対応するピークの
積分値(B)を用いて量的対比を行った場合に、A/Bが、1.25以上、2.00以下
である。
<2> 以下の工程を含むことを特徴とする<1>記載のD-BMI変性体の製造方法。
1)酸価が2mg-KOH/g超の粗D-BMI溶液を準備する工程。
2)前記溶液中の酸成分を、カルボジイミド(CDI)と反応させることにより酸価を2
mg-KOH/g以下とする工程。
3)前記溶液を溶媒中、無触媒で、110~200℃で反応させる工程。
【発明の効果】
【0008】
本発明のD-BMI変性体は、酸成分が充分に低減されているので、充分な耐熱性が確保され、かつマレイミド基の含有量を適度な範囲としているので成形性が良好である。従い、半導体等を用いた電子部品製造に用いられる、封止材組成物、接着剤組成物等の成分として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】変性前のD-BMI(実施例1)の
1H-NMRチャートである。
【
図2】本発明のD-BMI変性体(実施例1)の
1H-NMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のD-BMI変性体は、酸価を2mg-KOH/g以下とし、D-BMIを化学的に変性することにより得られる。ここで、酸価は、前記したD-BMI中に残留している酸成分量を定量的に表したパラメータであり、JIS K0070(1992)の規定に基づき、中和滴定法で測定した値を用いることができる。酸価を2mg-KOH/g以下としたD-BMIは、公知の方法で得られた酸価が2mg-KOH/gのD-BMI溶液を精製することにより得ることができる。酸価が2mg-KOH/g超のD-BMI溶液は、例えば、以下のような方法で得ることができる。すなわち、溶媒中、酸触媒下、50~200℃の温度で、DDAと、略等当量の無水マレインと、を反応させてMAAとした後、これを脱水してマレイミド化して酸価が2mg-KOH/g超の粗D-BMI溶液を得ることができる。ここで用いられる溶媒に制限はないが、トルエン、キシレン(o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン)、エチルベンゼン、メシチレン、ソルベントナフサ等の炭化水素系溶媒、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)等のアミド系溶媒、炭化水素系溶媒とアミド系溶媒との混合溶媒等が好ましい。また、用いられる酸触媒にも制限はないが、硫酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、マレイン酸等を用いることができる。これらの酸のトリエチルアミン塩を用いることもできる。脱水閉環する際は、マレイミド化による生成する水を、共沸等により反応系外に除去することが好ましい。ここで、DDAは、「プリアミン1074、同1075」(クローダジャパン社製の商品名)、「バーサミン551、同552」(コグニスジャパン社製の商品名)等の市販品を用いることができる。
なお、粗D-BMI溶液としては、市販品を用いることもできる。
【0011】
粗D-BMIとしては、前記したようなDDAを単独で用いたものであってもよいが、例えば、特許文献10、11に記載された「イミド延長されたDDA」も用いることが好ましい。ここで、「イミド延長されたDDA」とは、テトラカルボン酸二無水物と、過剰量のDDAとを反応させて脱水閉環した「両末端にDDA由来のアミノ基を有するポリイミドまたはオリゴイミド」のことである。テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,3,3′,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4′-オキシジフタル酸無水物(ODPA)、 2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物(BDCP)、3,3′,4,4′-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。この「イミド延長されたDDA」を用いた粗D-BMIも市販品を用いることができる。
【0012】
次に、前記のようにして得られた粗D-BMIを精製して、酸価が2mg-KOH/g以下のD-BMIを得る。すなわち、溶媒中、N,N′-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)等のCDIを、D-BMI質量に対し1~10質量%加え、50℃~150℃の温度に加熱することにより、D-BMI中の酸成分とCDIとを反応させて、D-BMIの酸価を2mg-KOH/g以下にする。この反応の際、粗D-BMIの固形分濃度は、溶液質量に対し、20~70質量%とすることが好ましく、30~80質量%とすることがより好ましい。この反応により、D-BMI中の酸成分とCDIとが反応し、CDIの尿素誘導体が副生する。 このCDIの尿素誘導体は、反応液を、水、アルコール(メタノール、エタノール等)等で洗浄する、すなわち溶媒抽出することにより除去することができる。このようにして、酸価が2mg-KOH/g以下のD-BMIを得ることができる。精製されたD-BMIの酸価は1mg-KOH/g以下であることが好ましく、0.5mg-KOH/g以下であることがさらに好ましい。このようにすることにより、D-BMIの良好な耐熱性を確保することができる。
【0013】
この反応に用いられる溶媒に制限はないが、トルエン、キシレン(o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン)、エチルベンゼン、メシチレン、ソルベントナフサ等の炭化水素系溶媒が好ましい。また、この反応に用いられるCDIとしては、前記したDICまたはEDCが好ましいが、これ以外に、ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ-β-ナフチルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t-ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジ-t-ブチルカルボジイミド、N,N′-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ポリ(1,6-ヘキサメチレンカルボジイミド)、ポリ(4,4′-メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3-シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,4-シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(4,4′-ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、ポリ(4,4′-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3′-ジメチル-4,4′-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(メチル-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5-トリイソプロピルベンゼンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5-トリイソプロピルベンゼンおよび1,5-ジイソプロピルベンゼンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)等も用いることができる。これらのCDIは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
本発明のD-BMI変性体は、前記のようにして得られた、酸価が2mg-KOH/g以下のD-BMIを、溶媒中、無触媒で、攪拌下、110~200℃、好ましくは、130~180℃で反応させることにより得ることができる。この反応においては、実質的に無触媒で加熱することが好ましい。 前記したような酸触媒の共存下で加熱すると、反応が効率よく進行しない場合がある。この反応で用いる溶媒に制限はないが、前記した炭化水素系溶媒が好ましく用いられ、これらの中で、トルエンおよびキシレンが特に好ましい。反応の際のD-BMI濃度は、30~90質量%が好ましく、40~85質量%がより好ましく、50~80質量%がさらに好ましい。D-BMI濃度を30質量%未満とすると効率良く反応が進まない場合がある。また、D-BMI濃度を90質量%超とすると反応の制御が難しくなることがある。この加熱反応により、D-BMIの活性基であるマレイミド基が、リニアなビニル重合、環状化反応等の複雑な反応により変性され、本発明のD-BMI変性体とすることができる。なお、この溶液は、D-BMI変性体溶液として、このまま使用することができる。また、溶媒を揮発させることにより単品として単離することができる。
【0015】
このようにして得られたD-BMI変性体は、その1H-NMRにおけるNMR積分値比(A/B)が1.25以上、2.00以下であることが必要であり、1.30以上、1.80以下であることが好ましい。ここで、Aは、マレイミド基の窒素原子に直結するメチレン基のプロトンに対応するピークの積分値であり、Bは、マレイミド基のビニルプロトンに対応するピークの積分値である。このようにすることにより、マレイミド基含有量が適度なものとなっているので他の熱硬化性樹脂を配合した時の反応制御が容易となる。すなわち、NMR積分値比が1.25未満であると、他の熱硬化性樹脂を配合した時の反応制御が難しくなる。なお、NMR積分値比が、2.00超となるような場合は、半ゲル状態(いわゆるBステージ状態)となり、前記した溶媒に対する溶解性が損なわれる場合があるので、好ましくない。
【0016】
ここで、NMR測定条件は以下の通りである。
<1H-NMR測定条件>
装置:核磁気共鳴装置(日本電子社製:型番ECA500)
周波数:500.16MHz
基準物質:テトラメチルシラン
溶媒:重クロロホルム
測定温度:25℃
上記測定条件においては、D-BMIまたはD-BMI変性体中のマレイミド基の窒素原子に直結するメチレン基のプロトンのピークに対応するケミカルシフトは約3.5ppmである。また、D-BMIまたはD-BMI変性体中のマレイミド基のビニルプロトンのピークに対応するケミカルシフトは約6.7ppmである。従い、これらのピークの積分値をNMRチャートから読み取ることにより、NMR積分値比を算出することができる。ここで、NMR積分値比が高いほど、D-BMI変性体中のマレイミド基含有量が低いことを意味し、このNMR積分値比を1.25以上、2.00以下とすることにより、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等と配合して用いた場合、良好な成形性を確保することができる。
【0017】
NMR積分値比を1.25以上、2.00以下とすることにより、D-BMIの分子量を、変性前のものと比べて著しく増加させることができる。分子量の増加率としては、10%以上、500%以下とすることが好ましい。このようにして得られる本発明のD-BMI変性体の分子量は、重量平均分子量(Mw)で、1200~20000の範囲とすることが好ましい。D-BMI変性体のMwを、このような範囲とすることにより、前記したような良好な成形性を確保することができる。なお、Mwは、例えば、下記のような条件で、GPCを測定することにより、確認することができる。
<GPC測定条件>
カラム:昭和電工社製 Shodex(R) GPC KF‐803×1本, GPC KF‐804×2本 (3本連結)
溶離液:THF
温度:40℃
流量:1.0mL/分
検出器:UV検出器
【実施例】
【0018】
以下に、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお本発明は実施例により限定されるものではない。
【0019】
<実施例1>
1)粗D-BMI溶液の調製
特許文献11、実施例1の記載に準じて、粗D-BMI溶液を調製した。水分離器付き還流冷却器、攪拌機、温度計を備えたガラス製反応容器に、窒素雰囲気下、ダイマジアミン(クローダジャパン株式会社製「プリアミン1075」、分子量:549):1.0モル、トルエンとDMAcとからなる混合溶媒(質量比:トルエン/DMAc=80/20)を投入して攪拌した。得られた溶液に、室温(20℃)で、PMDA:0.66モル、続いて無水マレイン酸:0.68モルを加え、室温で1時間撹拌し、80℃で3時間加熱した後、冷却して、末端がマレアミック酸変性されたオリゴアミック酸溶液(固形分濃度:40質量%)を得た。次に、この溶液に、マレイン酸2.00モルを加え、得られた溶液を、攪拌しながら昇温して内容物を加熱還流させた。反応により生成する水を共沸分離しながら約115℃で6時間還流を続けた後、冷却して、橙黄色溶液を得た。その後、得られた溶液を、水系溶媒で5回洗浄した。続いて、この溶液を、メタノール溶液に中に投入して、D-BMIを再沈殿させ、これを濾過、洗浄、乾燥した。この操作を2回繰り返し、D-BMIの粉体を得た。この粉体をトルエンに溶解し、固形分濃度が40質量%の粗D-BMI溶液を得た。この粗D-BMIの酸価は、7.83mg-KOH/gであった。
2)CDIによる酸価の低減
攪拌機、温度計を備えたガラス製反応容器に、窒素雰囲気下、前記粗D-BMI溶液:200g、N,N′-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)4gを、投入して攪拌した。得られた溶液に、室温(20℃)で、PMDA:0.66モル、続いて無水マレイン酸:0.68モルを加え、室温で1時間撹拌し、70℃で5時間加熱した後、冷却して、橙黄色溶液を得た。その後、得られた溶液を、メチルアルコールで3回洗浄することにより精製されたD-DMI溶液を得た。この
1H-NMRを前記した条件で測定した結果を
図1に示した。
図1に示すように、この
1H-NMRチャートで認められたピーク1(δ:約3.5ppm 多重線)の積分値(A)とピーク2(δ:約6.7ppm 単線)との積分値(B)とを用いて、量的対比を行った結果、A/Bは1.19であった。また、このD-BMIの酸価は0.26であった。
3)D-BMIの変性
固形分濃度を全溶液の50質量%とした前記D-BMIのトルエン溶液を、温度計を備えたガラス製反応容器に、窒素雰囲気下、投入して攪拌した。その後、攪拌下、130℃で4時間攪拌し、D-BMI変性体(A-1)からなる橙黄色の均一溶液を得た。この
1H-NMRを前記した条件で測定した結果を
図2に示した。
図2に示すように、この
1H-NMRチャートで認められたピーク1(δ:約3.5ppm 多重線)の積分値(A)とピーク2(δ:約6.7ppm 単線)との積分値(B)とを用いて、量的対比を行った結果、A/Bは1.29であった。また、このD-BMIの酸価は、0.25であった。なお、
図1と
図2との
1H-NMRの対比から、加熱により得られるD-BMI変性体は、マレイミド基のビニルプロトンの減少以外に大きな化学構造変化は起こっていないことが判る。
<分子量評価>
変性前のD-BMIおよびA-1のMwを、前記した方法で測定し、分子量増加率を算出して分子量の変化を評価した。その結果を表1に示した。
<耐熱性評価>
A-1の耐熱性評価を以下のようにして行った。すなわち、白金製サンプルパンにA-1の50質量%トルエン溶液約5mgを入れ、TGA測定装置(日立ハイテクサイエンス社製TG/DTA7200)にセットし、窒素気流中130℃でトルエンを除去した後、10℃/分で550℃まで昇温した時の300℃での質量減少率を読み取ることにより、耐熱性を評価した。その結果を表1に示した。
【0020】
<実施例2>
変性の際の反応温度を140℃としたこと以外は、実施例1と同様に行い、D-BMI変性体(A-2)からなる均一溶液を得た。A-2の酸価、NMR量的対比、分子量、耐熱性等の評価結果を表1に示した。
【0021】
<実施例3>
DICの使用量を3.5gとし、変性の際の反応温度を145℃としたこと以外は、実施例1と同様に行い、D-BMI変性体(A-3)からなる均一溶液を得た。A-3の酸価、NMR量的対比、分子量、耐熱性等の評価結果を表1に示した。
【0022】
<実施例4>
D-BMI濃度を65質量%としたこと以外は、実施例1と同様に行い、D-BMI変性体(A-4)からなる均一溶液を得た。A-4の酸価、NMR量的対比、分子量、耐熱性等の評価結果を表1に示した。
【0023】
<実施例5>
D-BMI(DMI社製:品番BMI-689)100gをトルエン100gに溶解させて、固形分濃度が40質量%の粗D-BMI溶液を得た。この粗D-BMIの酸価は、4.72mg-KOH/gであった。
この溶液を、実施例1と同様にして、DICによる精製、130℃での加熱による変性を行い、D-BMI変性体(A-5)からなる均一溶液を得た。A-5の酸価、NMR量的対比、分子量、耐熱性等の評価結果を表1に示した。なお、BMI-689は、DDAのみをジアミン成分として用いたD-BMIである。
【0024】
<実施例6>
変性の際の反応温度を140℃としたこと以外は、実施例5と同様に行い、D-BMI変性体(A-6)からなる均一溶液を得た。A-6の酸価、NMR量的対比、分子量、耐熱性等の評価結果を表1に示した。
【0025】
<実施例7>
精製の際のDIC使用量を3gとしたこと以外は、実施例5と同様に行い、D-BMI変性体(A-7)からなる均一溶液を得た。A-7の酸価、NMR量的対比、分子量、耐熱性等の評価結果を表1に示した。
【0026】
<比較例1>
実施例1で得た粗D-BMIを精製することなく、D-BMI(B-1)からなる均一溶液(濃度:50質量%)を得た。B-1の酸価、NMR量的対比、分子量、耐熱性等の評価結果を表1に示した。
【0027】
<比較例2>
実施例1で得た精製されたD-BMIを変性することなく、D-BMI(B-2)からなる均一溶液(濃度:50質量%)を得た。B-2の酸価、NMR量的対比、分子量、耐熱性等の評価結果を表1に示した。
【0028】
<比較例3>
実施例5で用いたD-BMI(DMI社製:品番BMI-689)を精製することなく、D-BMI(B-3)からなる均一溶液(濃度:50質量%)を得た。B-3の酸価、NMR量的対比、分子量、耐熱性等の評価結果を表1に示した。
【0029】
<比較例4>
実施例5で得た精製されたD-BMIを変性することなく、D-BMI(B-4)からなる均一溶液(濃度:50質量%)を得た。B-4の酸価、NMR量的対比、分子量、耐熱性等の評価結果を表1に示した。
【0030】
<比較例5>
変性の際の反応温度を100℃としたこと以外は、実施例5と同様に行い、D-BMI(B-5)からなる均一溶液(濃度:50質量%)を得た。B-5の酸価、NMR量的対比、分子量、耐熱性等の評価結果を表1に示した。
【0031】
<比較例6>
反応温度を190℃とし、D-BMI濃度を95質量%としたこと以外は、実施例1と同様に行い、D-BMI変性体を得ようとしたが、ゲル化が起こり、D-BMI変性体を得ることはできなかった。
【0032】
実施例で示したように、本発明のD-BMIは、酸価が充分に低減されているので、耐熱性が大幅に向上していることが判る。また、NMRの積分値比を適切な範囲としているので、重量平均分子量(Mw)が大幅に増加していることが判る。
【0033】
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のD-BMI変性体は、酸成分が充分に低減されているので、充分な耐熱性が確保され、かつマレイミド基の含有量を適度な範囲としているので成形性が良好である。従い、半導体等を用いた電子部品製造に用いられる、封止材組成物、接着剤組成物等の成分として好適に用いることができる。