(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】歯科用製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61C 13/00 20060101AFI20220705BHJP
A61C 5/77 20170101ALI20220705BHJP
A61C 13/083 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
A61C13/00 A
A61C13/00 Z
A61C5/77
A61C13/083
(21)【出願番号】P 2018537518
(86)(22)【出願日】2016-11-15
(86)【国際出願番号】 EP2016077670
(87)【国際公開番号】W WO2017129282
(87)【国際公開日】2017-08-03
【審査請求日】2019-10-08
【審判番号】
【審判請求日】2021-08-05
(32)【優先日】2016-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515233568
【氏名又は名称】アマン ギルバック アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベンヤミン シャラクター
【合議体】
【審判長】内藤 真徳
【審判官】栗山 卓也
【審判官】平瀬 知明
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0177456(US,A1)
【文献】特開2004-1111(JP,A)
【文献】特開2012-192467(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0155007(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C5/77
A61C13/00
A61C13/083
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックまたはセラミック-プラスチック複合材料からなるブランク(2)を研削することにより歯科用製品(1)を製造する方法であって、
前記歯科用製品(1)の最終形状(5)とは異なる形状(4)を有するプリフォーム(3)を作製するため、研削装置(7)の研削工具(6)を用いた少なくとも1回の研削工程において、前記ブランク(2)または前記ブランク(2)に加工処理が施されることで得られた予備プリフォーム(9)に研削チャンネル(8)が形成され、
前記プリフォーム(3)の前記形状(4)がその一のエッジ(10)における前記研削チャンネル(8)により形成され、かつ、
前記プリフォーム(3)の前記形状(4)の
反対側のエッジにおける前記研削チャンネル(8)において、前記ブランク(2)または前記予備プリフォーム(9)から少なくとも1つの残留ピース(12)が少なくとも部分的に分離されることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1記載の歯科用製品(1)の製造方法において、
前記研削チャンネル(8)の加工処理過程において前記ブランク(2)または前記予備プリフォーム(9)に対する前記研削工具(6)の
侵入深さ(13)が、1回の研削工程または5回以下の研削工程により前記研削チャンネル(8)がその全深さ(14)に至るまで形成されるように設定されていることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の歯科用製品(1)の製造方法において、
前記プリフォーム(3)の作製後、前記歯科用製品(1)の前記最終形状(5)が、前記プリフォーム(3)が
研磨されることのみによって、または、少なくともさらに
研磨されることにより作製されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1~3のうちいずれか1項に記載の歯科用製品(1)の製造方法において、
前記研削工具(6)が縦延在方向(15)に細長形状であり、前記研削チャンネル(8)を作製するための、一の研削工程の全体または複数の研削工程のすべてにおいて、その縦延在方向(1
5)が互いに平行に配置されていることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1~4のうちいずれか1項に記載の歯科用製品(1)の製造方法において、
前記歯科用製品(1)の前記最終形状(5)が、前記プリフォーム(3)の前記形状(4)の完全に内側にまたは前記形状(4)に部分的に沿って延在していることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1~5のうちいずれか1項に記載の歯科用製品(1)の製造方法において、
前記プリフォーム(3)の前記形状(4)が、少なくとも部分的に標準的な円柱の側面(24)であることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項6記載の歯科用製品(1)の製造方法において、
前記側面(24)に垂直な断面(16)において、前記歯科用製品(1)の前記最終形状(5)の当該断面(16)への平行投影(17)が、前記プリフォーム(3)の前記形状(4)の断面線(18)に沿っているまたは内側にあることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7記載の歯科用製品(1)の製造方法において、
前記平行投影(17)の投影線(17)が、前記研削工程において前記研削工具(6)が沿うところの縦延在方向(15)に平行に延在していることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1~8のうちいずれか1項に記載の歯科用製品(1)の製造方法において、
前記ブランク(2)または前記予備プリフォーム(9)の前記研削チャンネル(8)の加工処理における前記研削工具(6)の運動は、
前記研削工具(6)の縦軸線(21)のまわりの回転運動(20)、および、前記研削チャンネル(8)の縦方向(22)に沿った並進運動の重ね合わせ、または、
前記研削工具(6)の縦軸線(21)のまわりの回転運動(20)、前記研削チャンネル(8)の縦方向(22)に沿った並進運動、および、前記研削チャンネル(8)の縦方向(22)に対して垂直な縦軸線(21)の運動成分(23)を伴う運動の重ね合わせであることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1~9のうちいずれか1項に記載の方法にしたがった歯科用製品(1)の製造のためにプログラムされていることを特徴とする、研削装置(7)を制御するためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックまたはセラミック-プラスチック複合材料からなるブランクを研削することにより歯科用製品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスまたはセラミック-プラスチック複合材料からなるブランクは、その硬度のために歯科用製品を製造するために粉砕することができない場合が多い。このようなブランクから歯科用製品を作製するためには、研削加工によってのみ可能である場合が多い。この目的のため、従来技術によれば、ブランクは部分的に研削される。この場合、一般的に、支持ウェブまたは歯科用製品から離間しているブランクの壁部分を除き、ブランクの材料のうち最終的に歯科用製品を構成しない部分は、研削工程が繰り返されるたびに研削屑に変換される。この過程は非常に時間がかかる。さらに、研削加工に使用される研削工具は著しく摩耗する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、上述のタイプの方法を改良して、それらをより迅速かつ研削工具の摩耗を少なくすることができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この問題を解決するために、本発明は、請求項1に記載の方法を提案する。
【0005】
すなわち、ブランクまたは既に加工処理されている予備プリフォームに研削チャンネルを形成することにより準備がなされ、製造対象である歯科用製品の最終形状を作製する前に中間製品としてのプリフォームを作製するため、残留ピースが全体的にブランクまたは予備プリフォームから分離される。このプリフォームの形状は、少なくとも全体的ではないものの、製造対象である歯科用製品の最終形状にまだ対応していない。したがって、本発明に係る手順によれば、研削チャンネルが形成される材料のみが研削屑に変換される。研削チャンネルにより、残留ピースが、なおも大きくまだつながった部分としてブランクまたは予備プリフォームから分離される。これは、最終的に歯科用製品を構成しないブランクの材料の全てが削り落とされて研削屑に変換されないので、前述の従来技術の手法よりも実質的に迅速である。時間節約の利点に加えて、従来技術と比較して研削工具の摩耗は著しく低減される。本発明に係る方法の実施に際して、少なくとも1つの残留ピースが、好ましくはブランクまたは予備プリフォームから完全に分離される。しかしながら、研削チャンネルにより、原理的には、例えば薄肉箇所または破断点の形態の分割ラインが形成され、研削チャンネルに沿ってブランクまたは予備プリフォームから少なくとも1つの残留ピースが破断される。請求項1に記載された残留ピースの分離は、部分的分離として実施されうる。
【0006】
所定のカッティングエッジで実行されるミリング加工とは対照的に、研削加工は、多数の砥粒の形態で複数の幾何学的に不規則なカッティングエッジを有する研削工具が材料を除去する加工である。これらのカッティングエッジは、通常は高速で検索対象である材料に接触する。ミリング加工のほか、ドリル加工などのその他の加工処理によればサイズが大きい研削屑が生じるのに対して、研削工程において多数の不規則なカッティングエッジは極めて微小な研削屑しか生じさせない。
【0007】
ブランクまたは予備プリフォームに研削チャンネルを形成するとは、研削により研削チャンネルを成形することを意味する。研削チャンネルは、ブランクまたは予備プリフォームに形成されるパーティングライン(分割線)である。研削チャンネルが完全に形成されている場合、一または複数の残留ピースがブランクおよび/またはプリフォームから完全に分離される。好ましくは研削チャンネルの相互に対向する一対のエッジが、研削チャンネルのすべての延在範囲において一定間隔を有するように形成される。
【0008】
本発明に係る方法の特に好ましい実施形態では、研削チャンネルの形成に際して研削工具のブランクまたは予備プレフォームに対する侵入深さが、単一の(1回の)研削工程により研削チャンネルが形成されるように設定される。したがって、当該実施形態では、少なくとも1つの残留ピースが、1回の研削工程によってブランクまたは予備プリフォームから分離されるように、研削チャンネルを全深さまで形成する際の研削工具のブランクまたは予備プレフォームに対する侵入深さが設定される。2回以上の研削工程が必要な場合、最初に研削チャンネルが溝状または溝状の窪みとして1回または複数回の第1の研削工程により形成される。そして、最後の研削工程において、ブランクおよび/またはプリフォームから残留ピースを好ましくは完全に分離するための完全な分割線となる研削チャンネルが形成される。
【0009】
説明の完全を期すため、プリフォームを作製するため、1個だけでなく複数個の残留ピースがブランクまたは予備プリフォームから単一の研削チャネルによって分離されることを指摘しておく。残留ピースが、研削チャンネルに沿ってプリフォームの形状のすべてを構成する必要もない。特に、研削チャンネルがわずかに幅広に形成される場合および/またはブランクまたは予備プリフォームのエッジにおいて形成される場合、当該研削チャンネルは残留ピースが分離されない領域に存在していてもよい。
【0010】
製造対象である歯科用製品の最終形状を得るための本発明に係る方法において、好ましくは研削工程のみが実行される。本発明と、ブランクまたは予備プリフォームの加工処理のための他の加工処理工程が組み合わせられてもよい。
【0011】
残留ピースは、研削工程に際して生じる研削屑の粒径よりも実質的に大きい、好ましくは10倍以上は大きいブランクまたは予備プリフォームの一部である。セラミックまたはセラミック-プラスチック複合材料の研削屑の粒径は、一般的に3μm(ミクロンメーター)~250μm、あるいは50μm~100μmの径を有する。一または複数の残留ピースは、廃棄物であってもよい。残留ピースは、本発明に係る方法または別の方法による新たな歯科用製品の製造のためのブランクまたは予備プリフォームとして利用可能であるほどに大きくてもよい。
【0012】
本発明に係る方法によって製造することができる歯科用製品は、特に歯科用補綴物であってもよい。これは、例えば義歯、ブリッジなど、患者の口腔内に永久的に残しておくことが意図され、失われたまたは部分的に存在する生来の歯または補充物に置換される製品である。本発明に係る方法は、特に歯科用補助器具である歯科用製品、歯科用補綴物または歯科用の一時的補綴物を製造するためのものである。これらは、患者の口腔内に歯科用補綴物を作製または設置するために必要とされる製品であるか、または患者の口腔内で一時的にのみ使用されるが、患者の口腔内に永久的には残らない製品である。
【0013】
前述のように、プリフォームは、ブランクまたは予備プリフォームから本発明に係る方法によって製造される。プリフォームの形状は、少なくとも一部の領域において、最終的に得られる歯科用製品の最終形状ならびにブランクの元の形状または予備プリフォームの形状のそれぞれと異なる。ブランクは、一般的な用語として従来から理解されているように、例えば、商業的に入手可能な形状がさまざまに異なる製品である。円盤状ブランクおよび板状ブランクが知られているほか、平行六面体ブランク、直方体ブランクおよびその他の形状のブランクが市販されている。予備プリフォームは、ブランクから材料除去処理を含む加工処理により得られる。予備プリフォームはプリフォームと形状が異なる。
【0014】
本発明に係る方法によれば、まずプリフォームが準備され、その後で好ましくはさらなる研削工程により作製対象である歯科用製品の最終形状が実現される。本発明に係る方法によれば、いくつかの工程が繰り返し実行されてもよい。したがって、ブランクから作製されたプリフォームが、別の新たなプリフォームを作製するための予備プリフォームとして利用されうる。当該工程は、連続的に実行されてもよく、プリフォームの形状は少なくとも1回の工程により、当該プリフォームの基礎となった予備プリフォームの形状よりも歯科用製品の最終形状に近くなる。説明の完全を期すため、このような反復的な製造方法において、本発明に係る方法の全ての工程が実行される必要はないことを指摘しておく。予備プリフォームは異なる方法でも作製される。例えば、ブランクが部分的に切除されることにより、後続する工程においてプリフォームを製造するための予備プリフォームが作製されてもよい。
【0015】
本発明の好ましい実施形態は、プリフォームの作製後、製造対象である歯科用製品の最終形状はさらに、プリフォームの研磨工程のみによりまたは研磨工程を含む工程によって得られる。前述のように、製造対象である歯科用製品の最終形状はプリフォームから得られる。歯科用製品の最終形状を得る前に、プリフォームが予備プリフォームとして加工処理されて新たなプリフォームを作製するためのいくつかの工程が実行されてもよい。簡単に言うと、予備プリフォームは、荒い形状または前駆的な形状に設計されていてもよい。
【0016】
本発明により加工処理される材料は、非常に硬度が高く、かつ、脆性を特徴とするセラミックまたはセラミック-プラスチック複合材料である。特に好ましくは、いわゆるガラスセラミック、「Ivoclar e.max」および「Vita Suprinity」の商品名で販売されている二ケイ酸リチウムセラミックスのほか、同様の物性を有するセラミック-プラスチック複合材料である。好ましい実施形態におけるこのようなセラミックまたはセラミック-プラスチック複合材料の材料特性は、15 MPam1/2(メガパスカルスクウェアメートル)以下の破壊靱性K1cおよび/または0.1%以下の切断時伸び、および/または6.0g/cm3(グラムパーキュービックメートル)以下の密度、および/または120GPa(ギガパスカル)以下の弾性係数を有する。
【0017】
プリフォームの迅速かつ容易な手順のための研削工具は縦延在方向に細長であり、研削チャンネルを形成するための1回の研削工程の全期間にわたり、あるいは、複数回の研削工程のすべての期間にわたり、縦延在方向に相互に平行な姿勢でのみ配置される。すなわち、研削チャンネルを形成するための全体的な研削工程またはすべての研削工程において、研削工程は旋回されないように、ブランクまたは予備プリフォームに対して相対的な角度位置または姿勢が一定に維持される。特に、このような手法により、少なくとも部分的に標準的な円柱の側面を有するプリフォームの形状が実現される。ここで、標準的な円柱の側面は、直線または母線が、案内曲線としての曲線に沿って平行移動することにより得られるという形で数学的に定義される。側面は円柱面とも呼ばれ、円柱の端面とは区別される。案内曲線は、任意の形状の好ましくは閉曲線または開曲線を含んでいてもよい。
【0018】
本発明に係る方法の好ましい実施形態において、歯科用製品の最終形状がプリフォームの形状の内側で延在し、あるいは、部分的にプリフォームの外形に沿うように延在するように研削チャンネルが形成される。すなわち、当該実施形態では、最終形状が形状から逸脱しないように準備される。これは、好ましくは、2次元的にも3次元的にもあてはまる。
【0019】
前述した標準的な円柱の側面は、当該側面に垂直な断面において、歯科用製品の最終形状の当該断面への平行投影は、プリフォームの形状の断面線の上または内側に存在する。当該平行投影の投影線は、研削工程において研削工具が沿うところの縦延在方向に対して平行に延在している。
【0020】
研削チャンネルをブランクまたは予備プリフォームに研削により形成するさまざまな方法がある。縦延在方向に細長く、その表面が縦軸線を基準とする回転対称性を有し、かつ、少なくとも砥粒または幾何学的に不規則な複数のカッティングエッジを担持する研削工具が好ましい。このような表面は、筒状、特に円筒状のほか、円錐形状またはその他の形状に設計される。
【0021】
ブランクまたは予備プリフォームに研削チャンネルを形成する過程において、縦軸線まわりの回転運動および研削チャンネルの縦方向への並進運動の重ね合わせとして実現される研削工具の運動の速度はさまざまに変更可能である。当該実施形態では、研削チャンネルの幅が、研削工具の幅に実質的に対応している、あるいは、研削工具の幅よりもわずかに大きい。
【0022】
他の実施形態では、ブランクまたは予備プリフォームに研削チャンネルを形成する過程における研削工具の運動は3つの運動の重ね合わせであってもよい。当該実施形態によれば、研削工具の縦軸線まわりの回転運動、研削チャンネルの縦方向への並進運動、および、研削チャンネルの縦方向に直交する縦軸線の運動成分を有する運動が重ね合わせられる。研削チャンネルの縦方向への並進運動、および、研削チャンネルの縦方向に直交する縦軸線の運動成分を有する運動はブランクまたは予備プリフォームとの相対的な運動であってもよい。本発明に係る方法の実施に際して、研削工具のみが動かされるか、ブランクまたは予備プリフォームのみが動かされるか、あるいは、研削工具とブランクまたは予備プリフォームとの両方が動かされるかは任意に選択される。
【0023】
研削チャンネルの縦方向は、線形または直線状である必要はない。研削チャンネルは、まっすぐであっても曲がってていてもよく、部分的に曲がっていてもよい。研削チャンネルの縦方向は、最終的には研削チャンネルに沿った方向である。
【0024】
研削チャンネルの縦方向に直交する運動成分は、縦軸線が円軌道、楕円軌道または矩形軌道などの閉軌道を描くような研削工具の運動により生じる。当該実施形態では、旋回研削またはトロコイド研削が採用される。
【0025】
原理的には、本発明に係る方法は、研削工具およびブランクまたは予備プリフォームのそれぞれの運動が可能な研削装置により実施され、ブランクまたは予備プリフォームに研削チャンネルを形成するために研削工具およびブランクまたは予備プリフォームの相対運動が手動で制御される。本発明に係る方法は、特に好ましくは、コンピュータにより制御される研削装置によって少なくとも部分的に自動的に実施される。手動制御およびコンピュータ制御の両方に適した研削装置が従来技術において知られているので、それらについてはさらに説明する必要はない。
【0026】
本発明は、研削装置を制御し、本発明に係る方法により歯科用製品を作製するようにプログラムされているコンピュータプログラムに関する。すなわち、本発明は、研削装置によって本発明に係る方法を実施するため設計または構築されたコンピュータプログラムに関する。換言すれば、コンピュータプログラムは、本発明に係る方法が研削装置によって実施されるように当該研削装置を制御するようにプログラムまたは設計されている。
【0027】
本発明の好ましい実施形態のさらなる特徴および詳細は、次の図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】製造対象である歯科用製品およびプリフォームが表現された、ブランクの部分的透過図。
【
図4】プリフォームおよび研削チャンネルが表現されたブランクの側面図。
【
図5】
図4に対応する他の実施形態のプリフォームの説明図。
【
図6】研削チャンネルにおける研削の第1実施例に関する説明図。
【
図7】研削チャンネルにおける研削の第2実施例に関する説明図。
【
図8】研削チャンネルにおける研削の第3実施例に関する説明図。
【
図9】研削チャンネルにおける研削の第4実施例に関する説明図。
【
図10】研削チャンネルにおける研削の第5実施例に関する説明図。
【
図11】研削チャンネルにおける研削の第6実施例に関する説明図。
【
図12】研削工程における研削チャンネルの製造の概略説明図。
【
図13】少なくとも2回の研削工程における研削チャンネルの製造の概略説明図。
【
図14】本発明に係る方法を実施するためのコンピュータ制御される研削装置に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は、歯科対象1は、セラミックまたはセラミック-プラスチック複合材料からなる、本実施形態では直方体状のブランクを示し、当該ブランクから研削加工によって製造対象である歯科用製品1が作製される。本実施形態における歯科用製品1は、人工歯の形態の歯科用補綴物である。人工歯は最終形状5を有している。形状4および最終形状5のそれぞれは該当するボディの外表面を指している。
図1においてブランク2は、歯科用製品1が作製される領域において半透明に表現されている。作製対象である歯科用製品1は、既知のように、支持ウェブ26を介してブランク2の基部25に連結されている。基部25は、支持ウェブ26の取り外しによっていつでも取り外される。
【0030】
従来技術によれば、ブランク2のうち最終的に歯科用製品1、支持ウェブ馬26または基部25を構成しないすべての部分は、研削作業により研削屑に変換される。これに対して、本発明によれば、製造対象である歯科用製品1の最終形状5とは異なる形状4を有するプリフォーム3を作製するため、研削装置7の研削工具6を用いた少なくとも一の研削工程により、
図4の側面図に示されているようにブランク2に研削チャンネル8が形成される。研削チャンネル8のエッジ10において、プリフォーム3の形状4が構成される。プリフォーム3の形状4の反対側にある研削チャンネル8のエッジ11において、残留ピース12がブランク2から分離される。その結果、ブランク2から研削除去される必要がある部分、すなわち研削チャンネル8の部分の体積の低減が図られる。これにより時間が節約され、研削工具6の摩耗が低減される。
図1および
図2に示されている実施形態において、歯科用製品1の最終形状5と異なるプリフォーム3の形状4は、標準的な円柱の側面24および当該円柱の両端面により構成されている。
図1および
図2において、当該標準的な円柱の両端面は、歯科用製品1の最終形状5の断面16における平行投影17である。断面16は側面24に対して垂直である。説明の完全を期すため、平行投影は、3次元空間、ここでは3次元的な歯科用製品1の点が、所定の平面、ここでは断面16における点により表現されることを意味し、
図1に示されている投影線19は相互に平行である。このように生成された平行投影17は、
図1に示されているが、平行投影面であるともいえる。
【0031】
平行投影17は、断面16において断面線18により画定されている。
図1および
図2において、断面線18は、それぞれの断面16を有するプリフォーム3の形状4の一部領域の断面線である。
図1および
図2においてプリフォーム3の全体的な形状4の補足部分を構成する側面24は、断面線18に沿った平行移動により構成される。数学的な意味においては、断面線18は当該平行移動の案内曲線を構成する。平行移動された直線または母線は、ここではピン状の研削工具6の縦延在方向15に平行である。
図1および
図2において、平行投影17は断面16を有するプリフォーム3の形状4の断面線18により画定されている。
【0032】
本発明によれば、平行投影17が断面線18により囲まれた領域の内側にあってもよい。このような実施形態は、
図5を用いて以下に詳細に説明される。作製対象である歯科用製品1の最終形状5が、プリフォーム3の形状4の完全に内側にまたは部分的に形状4に沿って延在している場合には効率的である。これは、
図1および
図2に示されている実施形態が該当する。
図2は、研削工具6を用いて研削チャンネル8の加工処理によりプリフォーム4の形状24を示しており、形状が側面24、標準的な円柱および各断面16への平行投影17の集合により構成されている(
図1参照)。ブランク2に研削チャンネル8が形成されることにより、残留ピース12(
図2には示されていない。)がブランク2から分離される。研削チャンネル8を形成するための研削工程において、研削工具6は相互に平行な縦延在方向15にのみ配列される。縦延在方向15のうちの1つが
図2に矢印で示されている。プリフォーム3の形状4または側面24を形成するための研削チャンネル8の加工処理工程において、
図1に示されている研削工具6は、常に
図2における矢印15と平行に案内される。
【0033】
前述のように、プリフォーム3の形状4は、ブランク2の元の形状および製造対象である歯科用製品1の最終形状5のそれぞれとは異なる。プリフォーム3の形状4は、歯科用製品1の最終形状5に近似しているが、歯科用製品1の最終形状5を実現するためにはさらなる研削が必要である。
【0034】
これを達成するため、歯科用製品1の最終形状5が得られるように、
図2のプリフォーム3が公知の手法にしたがって研削される。
図3に示されているプリフォーム3が予備プリフォーム9および本発明に係る方法の出発点として用いられ、これにより歯科用製品1の最終形状5に近づけられてもよい。この目的のため、予備プリフォーム 9として用いられるプリフォーム3に第2の研削チャンネル8が研削により形成される。その結果、さらなる残留ピース(図示略)が、
図1のプリフォーム3から分離される。本発明に係る方法のこの手順が繰り返しされた最終的な結果が
図3に示されている。
【0035】
形状4に関して、予備プリフォーム9として用いられる
図2のプリフォーム3から形成された
図3のプリフォーム3のほうが、
図2のプリフォーム3よりも
図1の歯科用製品1の最終形状5に近い。ただし、その外径4はまだ最終形状5と同一ではない。歯科用製品1の最終形状5は
図3のプリフォーム3の形状4の内側に完全に含まれている、または、形状4の一部にある。
図2の予備プリフォーム9に研削チャンネル8(図示略)が形成されている際、研削工具6の縦延在方向15は、常に
図3の矢印27で示されている方向に平行に維持されている。本実施形態では、当該方向27は、
図3(および
図2)の矢印15によって示される方向に直交している。これは、
図2のプリフォーム3に第1の研削チャンネル8を形成するために研削工具6がしたがう縦延在方向15に平行である。本発明に係る方法が連続的に繰り返して適用される際、当該方向15および27は互いに直交する必要はない。
【0036】
図4は、
図1および
図2のプリフォーム3を作製するためにブランク2に研削により形成される研削チャンネル8の軌跡の概略図を示している。
図4は、
図1に示す状況における39の方向から見た側面図である。この方法の適用により、残留ピース12は、研削チャンネル8によってブランク2から分離される。残るのは、形状4を有するプリフォーム3である。研削チャンネル8の形成過程において、研削チャンネル8のエッジ10は、プリフォーム3の形状4を形成する。研削チャンネル8の反対側のエッジ11において、残留ピース12がブランク2から分離される。研削チャンネル8のエッジ10は、このように標準的な円柱として形成されているプリフォーム3の側面24を構成する。
図4において、投影17は、標準的な円柱の両端面を構成する。ブランク2に形成される研削チャンネル8の縦方向22が
図4に示されている。前述のように、これは線形または直線状である必要はない。
【0037】
図5には、プリフォーム3の形状4が歯科用製品1の最終形状5の平行投影17に基づいて形成される必要がないことが例示されている。製造対象である歯科用製品1の最終形状5が、プリフォーム3の形状4に沿った領域の内側に完全に含まれているまたはプリフォーム3の形状4に沿った領域に接している。この意味で、プリフォーム3の形状4および歯科用製品1の最終形状5がさほど類似させることなく、
図5の実施例によれば、歯科用製品1の最終形状5、ひいては平行投影17が適合するようなプリフォーム3の形状4が対応する研削チャンネル8により形成される。
図5の実施例によれば、研削チャンネル8によって残留ピース12がブランク2から分離される点に本発明の利点がある。
図5の実施例においても、歯科用製品1の最終形状5は、軽微な労力でプリフォーム3から研削により得られる。これは、本発明に係る方法が反復的に適用されることによって、または、プリフォーム3に対する最終形状5への直接的な研削によって達成することができる。
【0038】
図4および
図5の実施例は、本発明の他の好ましい実施形態と同様に、研削チャンネル8の相互に対向するエッジ10および11が存在する領域において、相互に対向するエッジ10および11が、研削チャンネル8の縦方向22についての全ての延在範囲において相互に一定の間隔を有している。これは、
図4および
図5に示されているような側面図は、
図1に示した状況における方向39から、すなわち研削工具6の縦延在方向15に平行な方向にも適用される。
図12および
図13に示されているように、研削工具6の侵入深さ13の方向について、研削チャンネル8のエッジ10および11を構成する壁の間の間隔は均一であっても不均一であってもよい。例えば、円柱状の研削工具6が用いられた場合、研削チャンネル8のエッジ10および11を構成する当該壁は
図12および
図13に示されているように相互に平行であってもよい。研削工具6の侵入深さ13の方向について、当該壁が一定の間隔を有している。その一方、円錐形状の研削工具6が用いられた場合、研削チャンネル8のエッジ10および11を構成する壁は、研削工具6の侵入深さ13の方向について相互に一定の間隔を有していない。しかしながら、これら実施形態において、好ましくは、研削チャネル8の相互に対向するエッジ10および11が、研削チャンネル8の縦方向22についての全ての延在範囲にわたって相互に同一の幅を有していることが好ましい。
【0039】
図6~
図11は、ブランク2または予備プリフォーム9への研削チャンネル8の形成に関する様々な実施例を示している。この目的のため、細長いピン状の研削工具6がそれぞれの場合において用いられることが好ましい(
図1、
図12および
図13参照)。研削に必要な幾何学的に定義されないカッティングエッジを形成するように、多数の砥粒が研削工具6の表面、特に側面に配置されてもよい。
【0040】
図6、
図7および
図11のそれぞれは、研削チャンネル8の平面図を示している。これらの平面図において、研削工具6の縦延在方向15に対して垂直である1つの略円形の断面のみが示されている。
【0041】
図6の実施例において、ブランク2または予備プリフォーム9に研削チャンネル8を形成する間の研削工具6の運動は、2つの運動の重ね合わせである。一方の運動は、研削工具6の縦軸線21の回りの回転運動20であり、縦軸線21は縦方向15に延在している。
図6の実施例では、当該回転運動20は、研削チャンネル8の縦方向22に沿った並進運動と重ね合わせられる。この過程において、研削チャンネル8の幅、すなわちそのエッジ10および11の間隔は研削工具6の径と同一または当該径よりもわずかに大きい。研削チャンネル8の縦方向22への並進運動は、研削工具6とブランク2または予備プリフォーム9との間の相対運動によって実現される。当該相対運動を実現するため、研削工具6が動かされるかブランク2または予備プリフォーム9が動かされるか、あるいは、研削工具6およびブランク2または予備プリフォーム9の両方が動かされるかは、最終的には二次的な重要性を有する。
【0042】
図7~
図11は、ブランク2または予備プリフォーム9に研削チャンネル8を形成する過程において、研削工具6の運動が3つの運動の重ね合わせである実施例を説明するためのものである。回転運動20および縦方向22への並進運動の2つの運動形態に加えて、縦軸線21により研削チャンネル8の縦方向22に対して垂直な運動成分23を有する研削工具6の運動が重ね合わせられる。この結果、一般的には研削工具6の直径と比較して顕著に大きい幅、すなわちエッジ10および11の間隔を有する研削チャンネル8が形成される。これは、旋回研削とも呼ばれる。驚くべきことに、このタイプの研削によれば、研削工具6の摩耗がより抑制されながらも高速の並進運動が実現される。好ましい実施形態において、長手方向22に対して垂直な運動成分23を伴う付加的な運動は、研削工具6の縦軸線21の運動に内在的な閉軌道をもたらす。実現可能な閉軌道が
図8~
図10に概略的に例示されている。研削工具6の縦軸線21は、
図8では円軌道28にしたがって、
図9では楕円軌道にしたがって、
図10では矩形軌道にしたがって案内される。他の形状の閉軌道も実現可能である。説明の明確のため、
図8~
図10には、研削工具6の縦軸線21が各軌道28,29および30に沿った任意の位置にある状態が示されている。
【0043】
図8の円軌道に沿った縦軸線21の運動を伴うように3つの運動が重ね合わせられた場合、縦軸線21の運動により、拡張サイクロイドの形態のトロコイド軌道31が描かれる(
図11参照)。この実施形態では、旋回研削はトロコイド研削であるともいえる。
【0044】
前述のように、研削チャンネル8がブランク2または予備プリフォーム9に単一の研削工程により形成され、一または複数の残留ピース12がブランク2または予備プリフォーム9から当該単一の研削工程によって分離される。この目的のため、研削チャンネル8の形成工程に際してブランク2または予備プリフォーム9に対する研削工具6の侵入深さ13は、単一の研削工程によって研削チャンネル8がその全深さ14まで形成されるように設定されている(
図12参照)。研削工具6は、全深さ14までブランク2に侵入する。
図12では、研削工具6がブランク2の両側にわずかに突出している。
【0045】
代替的に、複数回にわたる研削工程が研削チャンネル8をその全深さ14まで形成するために必要であってもよい。好ましくは、研削工程の回数は少数、好ましくは多くとも5回に制限されている。
【0046】
図13は、研削チャンネル8をその全深さ14まで形成し、次いでブランク2の残りの部分から残留ピース12を分離するために2回の研削工程が必要とされる一実施形態を示している。
図13には、第1の研削工程に際しての侵入深さ13が例示されている。
図13には、研削工具6の侵入深さ13が全深さ14よりも小さいので、研削チャンネル8の残りの部分は、第2の研削工程において研削される必要がある。この目的のため、例えばブランク2を180°回転させ、反対側から研削工具6により研削チャンネル8を仕上げることができる。ただし、侵入深さ13が全深さ14に達するように調節される場合、
図13に示されている状況において同じ側から第2の研削工程が実行されてもよい。
図13に示されている深さまで研削チャンネル8が形成された後、ブランク3から残留ピース12を破断するための破断点として用いられてもよい。当該破断点は、予備プリフォーム9に形成されてもよい。
【0047】
図14は、本発明に係る方法を実施するための、制御コンピュータ38により制御される研削装置7、すなわちコンピュータ制御研削装置7を概略的に示している。研削装置7は研削工具6を備え、研削工具6は工具キャリア37に保持され、その縦軸線の回りに回転して回転20を生成する。好ましくは、研削工具6が工具キャリア37とともに、研削装置7の加工キャビティ32において運動方向35に変位させることが可能である。ブランク2(図示せず)または予備プリフォーム9は、支持アーム34のブランクホルダ36に固定されている。
【0048】
好ましい実施形態では、支持アーム34が旋回軸線40の回りに旋回可能である。ブランクホルダ36に固定されたブランク2または予備プリフォーム9が、好ましくは、旋回軸線41の回りに旋回可能である。旋回軸線40および41は、好ましくは互いに垂直に配置されている。このような公知の研削装置7を用いて、湿式研削処理および乾式研削処理の両方が実施可能である。加工キャビティ32は、研削工程に際して研削くずおよび/または水分の流出を防止するためにフラップ33によって適当に閉塞されてもよい。研削装置7の制御は基本的に手動で行われる。研削装置7を用いて本発明に係る方法を実施するため、
図14に示されているように制御コンピュータ38により制御処理が実行されることが好ましい。本発明に係る方法を実施可能とするため、研削装置7を用いて本発明に係る方法を実施することによって歯科用製品1が作製されるように、本発明に係るコンピュータプログラムは制御コンピュータ38により実行される。
【符号の説明】
【0049】
1‥歯科用製品、2‥ブランク、3‥プリフォーム、4‥形状、5‥最終形状、6‥研削工具、7‥研削装置、8‥研削チャンネル、9‥予備プリフォーム、10‥エッジ、11‥エッジ、12‥残留ピース、13‥侵入深さ、14‥全深さ、15‥縦延在方向、16‥断面、17‥平行投影、18‥断面線、19‥投影線、20‥回転、21‥縦軸線、22‥縦方向、23‥運動成分、24‥側面、25‥基部、26‥支持ウェブ、27‥矢印、28‥円軌道、29‥楕円軌道、30‥矩形軌道、31トロコイド軌道、32‥加工キャビティ、33‥フラップ、34‥支持アーム、35‥運動方向、36‥ブランクホルダ、37‥工具キャリア、38‥制御コンピュータ、39‥方向、40‥旋回軸線、41‥旋回軸線。