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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/05 20060101AFI20220705BHJP
   C08L 83/07 20060101ALI20220705BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20220705BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
C08L83/05
C08L83/07
C08L83/04
C08K3/36
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019527000
(86)(22)【出願日】2018-06-27
(86)【国際出願番号】 JP2018024457
(87)【国際公開番号】W WO2019004316
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2017126291
(32)【優先日】2017-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】313001332
【氏名又は名称】積水ポリマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【弁理士】
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】若狭 綾香
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-133796(JP,A)
【文献】特開2006-342327(JP,A)
【文献】特開2015-120888(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00-83/16
C08K 3/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスペンサから吐出させた後に硬化されるディスペンサ用硬化型シリコーン組成物であって、
硬化後にマトリクスとなる反応硬化型シリコーンと、シリカ粒子と、変性シリコーンオイルとを含有し、前記反応硬化型シリコーンは付加反応硬化型シリコーンであり、前記変性シリコーンオイルはポリエーテル変性シリコーンを含むことを特徴とするディスペンサ用硬化型シリコーン組成物。
【請求項2】
前記ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物の粘度は、100Pa・s以上、800Pa・s以下の範囲であり、前記ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物のチクソ比は、3以上、10以下の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のディスペンサ用硬化型シリコーン組成物。
【請求項3】
前記ポリエーテル変性シリコーンの含有量は、前記反応硬化型シリコーン100質量部に対して、0.1質量部以上、1質量部以下の範囲であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のディスペンサ用硬化型シリコーン組成物。
【請求項4】
前記ポリエーテル変性シリコーンの含有量は、前記シリカ粒子100質量部に対して、1質量部以上、10質量部以下の範囲であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のディスペンサ用硬化型シリコーン組成物。
【請求項5】
前記シリカ粒子の含有量は、前記反応硬化型シリコーン100質量部に対して、1質量部以上、20質量部以下の範囲であることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載のディスペンサ用硬化型シリコーン組成物。
【請求項6】
前記ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を硬化した硬化物の硬度は、針入度において70以上、190以下の範囲であることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載のディスペンサ用硬化型シリコーン組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を硬化してなるシール材を備えた物品の製造方法であって、前記物品は、前記ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物が塗布される塗布対象部材と、前記塗布対象部材に組み付けられる相手部材とを備え、前記塗布対象部材にディスペンサを用いて前記ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を塗布する工程と、前記塗布対象部材に塗布された前記ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を硬化させることで前記シール材を形成する工程と、前記シール材を設けた前記塗布対象部材に前記相手部材を組み付ける工程とを備える物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスペンサから吐出させた後に硬化されるディスペンサ用硬化型シリコーン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、電子機器や建築用構造体には、シリコーン組成物を硬化して得られる硬化物が用いられている(特許文献1,2)。特許文献2には、反応硬化型シリコーンと、シリカ粒子とを含有するシリコーン組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-230805号公報
【文献】特開2002-294910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
反応硬化型の組成物を所定の箇所に塗布した後に硬化させる場合、反応硬化型の組成物を吐出するディスペンサを用いることで、例えば、組成物を塗布する工程の効率化の観点で有利である。ここで、ディスペンサを用いて上記シリコーン組成物を吐出させた場合、吐出後の組成物の流動性が高く、所定の箇所に塗布した直後のシリコーン組成物の形状が経時変化し易い。このため、シリコーン組成物が硬化して得られる硬化物では、例えば、高さ(厚み)寸法が不足するおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、ディスペンサから吐出させた後の寸法変化を小さくすることを可能にしたディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の一態様では、ディスペンサから吐出させた後に硬化されるディスペンサ用硬化型シリコーン組成物であって、硬化後にマトリクスとなる反応硬化型シリコーンと、シリカ粒子と、変性シリコーンオイルとを含有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ディスペンサから吐出させた後の組成物の寸法変化を小さくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】組成物の使用例を示す概略図である。
図2】組成物の使用例を示す概略図である。
図3】硬化物の使用例を示す概略図である。
図4】組成物の使用例を示す概略図である。
図5】硬化物の使用例を示す概略図である。
図6】硬化物の使用例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物の実施形態について説明する。
ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物は、ディスペンサから吐出させた後に硬化される用途に用いられる。ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物は、硬化後にマトリクスとなる反応硬化型シリコーンと、シリカ粒子と、変性シリコーンオイルとを含有する。
【0010】
<反応硬化型シリコーン>
反応硬化型シリコーンは、液状のポリオルガノシロキサンであり、架橋構造を形成可能な反応基を有している。反応硬化型シリコーンとしては、例えば、付加反応硬化型シリコーン、ラジカル反応硬化型シリコーン、縮合反応硬化型シリコーン、紫外線又は電子線硬化型シリコーン、及び湿気硬化型シリコーンが挙げられる。反応硬化型シリコーンの中でも、付加反応硬化型シリコーンが好適に用いられる。付加反応硬化型シリコーンを用いることで、ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を-10℃以上、80℃以下の温度範囲や-10℃以上、40℃以下の室温でも硬化させることができる。付加反応硬化型シリコーンの硬化温度は、例えば、白金触媒等により調整することができる。なお付加反応硬化型シリコーンは、付加反応型のオルガノポリシロキサンである。付加反応型のオルガノポリシロキサンは、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(主剤)とハイドロジェンオルガノポリシロキサン(硬化剤)とを含むことが好ましい。
【0011】
<シリカ粒子>
シリカ粒子は、ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物の流動特性を調整するために用いられる。シリカ粒子は、親水性シリカ粒子であってもよいし、疎水性シリカ粒子であってもよい。親水性シリカ粒子は、粒子の表面にシラノール基(Si-OH)を有し、シラノール基の水酸基が水素結合可能に構成されたものである。疎水性シリカ粒子は、粒子の表面の水酸基が疎水基で置換(疎水化)されたものである。シリカ粒子は、乾式法シリカ粒子であってもよいし、湿式法シリカ粒子であってもよい。シリカ粒子としては、例えば、フュームドシリカを用いることができる。
【0012】
シリカ粒子の平均一次粒子径は、5nm以上、40nm以下の範囲であることが好ましい。シリカ粒子の平均一次粒子径が5nm以上の場合、ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を容易に増粘させることができる。シリカ粒子の平均一次粒子径が40nm以下の場合、ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を硬化させた硬化物の表面の平滑性を向上させることが容易となる。シリカ粒子の平均一次粒子径は、例えば、レーザー回折散乱法により測定することができる。
【0013】
ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物におけるシリカ粒子の含有量は、反応硬化型シリコーン100質量部に対して、1質量部以上、20質量部以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは3質量部以上、15質量部以下の範囲である。シリカ粒子を増量すると、ディスペンサから吐出させた後の組成物の流動性をより抑えることが可能となる。シリカ粒子を減量すると、ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を硬化させた硬化物の表面の平滑性を高めることができる。
【0014】
<変性シリコーンオイル>
変性シリコーンオイルは、ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物の流動特性を調整するために用いられる。変性シリコーンオイルは、シロキサン結合を有する主鎖、主鎖に結合する側鎖、又は主鎖の末端に、シリコーンオイルを変性する有機基が導入されたものである。変性シリコーンオイルとしては、組成物の保存安定性や硬化物の物性の安定性から非反応性の変性シリコーンオイルが好ましい。非反応性の変性シリコーンオイルとしては、例えば、ポリエーテル変性シリコーン、アラルキル変性シリコーン、フロロアルキル変性シリコーン、長鎖アルキル変性シリコーン、高級脂肪酸エステル変性シリコーン、高級脂肪酸アミド変性シリコーン、及びフェニル変性シリコーンが挙げられる。変性シリコーンオイルは、一種類又は二種類以上を使用することができる。
【0015】
非反応性の変性シリコーンオイルの中でも、ポリエーテル変性シリコーンが好ましい。ポリエーテル変性シリコーンは、ポリエーテル構造を有する有機基を含み、例えば、シロキサン結合からなる主鎖と、ポリエーテル構造の有機基からなる側鎖又は両末端とを有する。ポリエーテル変性シリコーンの動粘度は、25℃において700mm/s以上、900mm/s以下であることが好ましい。
【0016】
ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物における変性シリコーンオイルの含有量は、反応硬化型シリコーン100質量部に対して、0.1質量部以上、1質量部以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.1質量部以上、0.5質量部以下の範囲である。ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物における変性シリコーンオイルの含有量は、シリカ粒子100質量部に対して、1質量部以上、10質量部以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは1.5質量部以上、7質量部以下の範囲である。変性シリコーンオイルを増量すると、ディスペンサから吐出させた後の組成物の流動性をより抑えることが可能となる。変性シリコーンオイルを減量することで、例えば、ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物のコストを削減することが可能となる。
【0017】
なお、ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物には、必要に応じて、添加剤をさらに含有させることもできる。
<製品形態及び物性>
ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物は、例えば、湿気硬化型シリコーンを含有する1剤から構成されてもよいし、使用時に混合される2剤から構成されてもよい。ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を2剤から構成する場合、付加反応型のオルガノポリシロキサンの主剤を含有する第1剤と、付加反応型のオルガノポリシロキサンの硬化剤を含有する第2剤とから構成されることが好ましい。
【0018】
上記シリカ粒子及び上記変性シリコーンオイルは、ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物の第1剤及び第2剤のうち、少なくとも一方に含有させればよい。上記シリカ粒子は、第1剤と第2剤との混合物の均一性を容易に高めるという観点から、第1剤及び第2剤の両方に分割して含有させることが好ましい。また、上記変性シリコーンオイルについても、第1剤と第2剤との混合物の均一性を容易に高めるという観点から、第1剤及び第2剤の両方に分割して含有させることが好ましい。すなわち、ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物は、付加反応型のオルガノポリシロキサンの主剤と、シリカ粒子と、変性シリコーンオイルとを含有する第1剤と、付加反応型のオルガノポリシロキサンの硬化剤と、シリカ粒子と、変性シリコーンオイルとを含有する第2剤とから構成されることがより好ましい。
【0019】
ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物の第1剤には、第1剤と第2剤とに含まれるシリカ粒子の総量に対して、10質量%以上、90質量%以下の範囲となるシリカ粒子を含有させることが好ましい。ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物の第1剤には、第1剤と第2剤とに含まれる変性シリコーンオイルの総量に対して、10質量%以上、90質量%以下の範囲となる変性シリコーンオイルを含有させることが好ましい。
【0020】
ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物の粘度は、100Pa・s以上、800Pa・s以下の範囲であることが好ましい。ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物のチクソ比は、3以上、10以下の範囲であることが好ましく、粘度は120Pa・s以上であることがより好ましく、300Pa・s以上であることが更に好ましく、400Pa・s以上であることが更に好ましい。ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物の粘度は、市販の粘度計にて回転速度1rpmの条件で測定したときの粘度である。ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物のチクソ比は、第1粘度を回転速度1rpmの条件で測定したときの粘度とし、第2粘度を回転速度10rpmの条件で測定したときの粘度としたとき、第2粘度に対する第1粘度の比率(チクソ比=第1粘度/第2粘度)である。なお、上記した各粘度は25℃において測定した値である。
【0021】
ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物の粘度及びチクソ比が上記範囲の場合、ディスペンサからディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を吐出させ易く、かつディスペンサから吐出させた後の組成物の流動性をより抑えることが可能となる。なお、ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物の粘度及びチクソ比の上記範囲は、ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を第1剤及び第2剤から構成する場合、第1剤と第2剤とのいずれにも適用される。
【0022】
ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を硬化した硬化物の硬度は、JIS K2207に規定される針入度(25℃)において70以上、190以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは、80以上、140以下である。これにより、例えば、硬化物を部材間に配置されるシール材として用いる場合、部材間のシール性を確保し、かつ部材に対する過剰な負荷を低減することができる。
【0023】
<使用方法及び作用>
ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を使用するには、まず、当該組成物をシリンジ等の容器に充填した後、ディスペンサにセットする。
【0024】
図1及び図2に示すように、ディスペンサは、ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物からなる塗布材11を吐出する吐出口を有するニードルNを備えている。ディスペンサのニードルNから吐出させた塗布材11は、塗布対象部材21の上面(平坦面)に塗布材11を塗布される。塗布対象部材21の上面に塗布された塗布材11の形状は、線状であるが、例えば、点状であってもよい。また、塗布対象部材21において塗布材11を塗布する部分、すなわち硬化物を設ける部分は、平坦面に限らず、凸面や凹面であってもよい。塗布対象部材21の外面が傾斜面を有する場合、その傾斜面に塗布材11を塗布することもできる。
【0025】
ディスペンサとしては、塗布対象部材21に対するニードルNの位置や動作、塗布材11の吐出量等の塗布条件を自動制御する制御部を備えたものを好適に用いることができる。ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を第1剤及び第2剤から構成した場合は、混合機能付きのディスペンサを用いればよい。
【0026】
ニードルNは、例えば、0.10~0.90mmのニードル径Dを有することが好ましい。0.10~0.90mmのニードル径Dを有するニードルNを用いる場合、ニードルNの先端(吐出口)と、塗布対象部材21との間隔Gは、例えば、0.2~1.8mmに設定されることが好ましい。
【0027】
次に、塗布対象部材21の上面の塗布材11を反応硬化型シリコーンに応じた硬化条件で硬化する。このとき、本実施形態の塗布材11は、硬化後にマトリクスとなる反応硬化型シリコーンと、シリカ粒子と、変性シリコーンオイルとを含有している。この構成によれば、ディスペンサ(ニードルN)から吐出させた後の塗布材11の流動性を抑えることが可能となる。すなわち、塗布対象部材21の上面において、塗布材11の形状変化を抑えることが可能となる。塗布材11から得られた硬化物は、例えば、シール材や、衝撃又は振動吸収材として用いることができる。
【0028】
図3に示すように、硬化物12が設けられた塗布対象部材21には、相手部材22が組み付けられることで、例えば、筐体を構成する。ここで、塗布対象部材21に相手部材22を組み付けたときの塗布対象部材21と相手部材22との実際の間隔S1は、設計時に目標としていた間隔S2よりも広くなる場合がある。このとき、上記のように塗布材11の流動性が抑えられることで、硬化物12の厚み寸法は所定の寸法で維持され易くなる。このため、例えば、塗布対象部材21と相手部材22との設計公差により、塗布対象部材21と相手部材22との間隔が拡がったとしても、硬化物12を相手部材22と接触させることができる結果、塗布対象部材21と相手部材22との間のシール性を確保することが可能となる。
【0029】
図4は、溝部21aを有する塗布対象部材21に塗布材11を塗布する一例を示している。塗布対象部材21の溝部21aは、塗布対象部材21の有する凸部21bと凸部21cとの間に形成されている。塗布対象部材21の溝部21aに塗布材11を塗布する場合、溝部21aの幅寸法L1(溝幅)よりも小さいニードル径Dを有するニードルNを用いることが好適である。塗布材11は、溝部21aの深さ寸法L2よりも塗布材11の厚み寸法T1(高さ寸法)が大きくなるように溝部21aに塗布される。
【0030】
図5に示すように、塗布材11の硬化物12が設けられた塗布対象部材21には、相手部材22が組み付けられる。相手部材22は、塗布対象部材21の溝部21aに対向して配置される溝部22aを有している。相手部材22の溝部22aについても、相手部材22の有する凸部22bと凸部22cとの間に形成されている。
【0031】
図6に示すように、塗布対象部材21に相手部材22が組み付けられた状態では、塗布対象部材21の凸部21b,21cと相手部材22の凸部22b,22cとが接触されている。また、この状態では、塗布対象部材21の溝部21aの内底と相手部材22の溝部22aの内底とにより硬化物12が挟み込まれる。このように配置された硬化物12により、塗布対象部材21と相手部材22との間がシールされる。
【0032】
ここで、塗布対象部材21の溝部21aに塗布した塗布材11が溝部21aから凸部21b,21c上に流出すると、凸部21b,21c上に硬化物が形成されることになる。このように塗布対象部材21の凸部21b,21c上に硬化物が形成されると、相手部材22を組み付けた際に塗布対象部材21の凸部21b,21cと相手部材22の凸部22b,22cとの間に硬化物が挟まれることで、組み付けの精度が低下することになる。この組み付けの精度は、塗布材11の流出量が増大するほど低下する傾向となる。この点、上述したように本実施形態の塗布材11を用いることで、塗布材11の形状変化を抑えることが可能となる。すなわち、塗布対象部材21の溝部21aに塗布した塗布材11が溝部21aから凸部21b,21c上に流出し難くなることで、凸部21b,21c上に硬化物が形成されることを抑えることが可能となる。これにより、塗布対象部材21と相手部材22との組み付け精度を高めることが可能となる。また、本実施形態の塗布材11を用いることで、溝部21aの深さを比較的浅くしても、凸部21b,21c上に硬化物が形成され難くなる。従って、塗布対象部材21と相手部材22との組み付け精度を高めるとともに、塗布対象部材21の厚みを抑えることも可能である。
【0033】
なお、相手部材22の溝部22aを省略した場合であっても、塗布材11の塗布量を必要に応じて調整することで、塗布対象部材21と相手部材22との組み付け精度を高めることが可能となる。
【0034】
塗布対象部材21としては、例えば、パネル、パネルが取り付けられる取付部材、及び筐体が挙げられる。相手部材22としては、例えば、塗布対象部材21が取り付けられる取付部材、及び筐体が挙げられる。塗布対象部材21の用途としては、例えば、車両用途、電子機器用途、及び建築用途が挙げられる。上記ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物からなる塗布材11は、防水機能が必要な狭小箇所をシールするシール材を形成する用途に好適に用いることができる。防水機能が必要な狭小箇所を有する物品としては、例えば、スマートフォン、タブレット端末、携帯用デジタルカメラ、無人航空機(ドローン)用の小型カメラ、及び車載用のカメラが挙げられる。
【0035】
以上詳述した実施形態によれば、次のような効果が発揮される。
(1)ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物は、硬化後にマトリクスとなる反応硬化型シリコーンと、シリカ粒子と、変性シリコーンオイルとを含有している。この構成によれば、ディスペンサから吐出させた後の組成物の流動性を抑えることが可能となる。従って、ディスペンサから吐出させた後の組成物の寸法変化を小さくすることが可能となる。これにより、例えば、所定の範囲内に硬化物を設けたり、硬化物の高さ(厚み)寸法を確保したりすることができる。
【0036】
また、塗布対象部材において、ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を塗布する外面が水平面に対して傾斜している傾斜面の場合、ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物が傾斜面に沿って垂れ下がることを抑えることができる。従って、塗布対象部材の外形や配置の制限が緩和される。このように汎用性の高いディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を提供することができる。
【0037】
(2)ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物の粘度は、100Pa・s以上、800Pa・s以下の範囲であり、かつチクソ比は、3以上、10以下の範囲であることが好ましい。
【0038】
この場合、ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物をディスペンサから吐出させ易く、かつディスペンサから吐出させた後の組成物の流動性をより抑えることが可能となる。従って、ディスペンサの負荷を低減し、かつディスペンサから吐出させた後の組成物の寸法変化をより小さくすることが可能となる。
【0039】
(3)変性シリコーンオイルは、ポリエーテル変性シリコーンを含むことが好ましい。
この場合、ディスペンサから吐出させた後の組成物の寸法変化をより小さくすることが可能となる。
【0040】
(4)ポリエーテル変性シリコーンの含有量は、反応硬化型シリコーン100質量部に対して、0.1質量部以上、1質量部以下の範囲であることが好ましい。また、ポリエーテル変性シリコーンの含有量は、シリカ粒子100質量部に対して、1質量部以上、10質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0041】
この場合、ディスペンサから吐出させた後の組成物の流動性をより抑えることが可能となり、かつディスペンサ用硬化型シリコーン組成物のコストを削減することが可能となる。従って、ディスペンサから吐出させた後の組成物の寸法変化をより小さくすることが可能となり、かつ汎用性を高めることが可能となる。
【0042】
(5)シリカ粒子の含有量は、反応硬化型シリコーン100質量部に対して、1質量部以上、20質量部以下の範囲であることが好ましい。この場合、ディスペンサから吐出させた後の組成物の流動性をより抑えることが可能となり、かつ硬化物の表面の平滑性を高めることができる。従って、ディスペンサから吐出させた後の組成物の寸法変化をより小さくすることが可能となり、かつ塗布対象部材への密着性が良好となる。
【0043】
(6)ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を硬化した硬化物の硬度は、針入度において70以上、190以下の範囲であることが好ましい。この場合、硬化物を部材間に配置されるシール材として用いる場合、部材間のシール性を確保し、かつ部材に対する過剰な負荷を低減することができる。このため、本実施形態のディスペンサ用硬化型シリコーン組成物は、例えば、防水機能が必要な狭小箇所をシールするシール材を形成する用途に好適である。
【0044】
上記実施形態から把握できる技術的思想について以下に記載する。
(イ)上記ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を硬化してなるシール材を備えた物品の製造方法であって、前記物品は、前記ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物が塗布される塗布対象部材と、前記塗布対象部材に組み付けられる相手部材とを備え、前記塗布対象部材にディスペンサを用いて前記ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を塗布する工程と、前記塗布対象部材に塗布された前記ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を硬化させることで前記シール材を形成する工程と、前記シール材を設けた前記塗布対象部材に前記相手部材を組み付ける工程とを備える物品の製造方法。
【0045】
(ロ)上記物品の製造方法であって、前記物品は、筐体であり、前記塗布対象部材は溝部を有し、前記ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を塗布する工程では、前記ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を前記塗布対象部材の溝部に沿って塗布する物品の製造方法。
【実施例
【0046】
次に、実施例及び比較例を説明する。
(実施例1)
付加反応硬化型シリコーンの主剤、シリカ粒子、変性シリコーンオイルを混合することで第1剤を調製した。付加反応硬化型シリコーンの硬化剤、シリカ粒子、変性シリコーンオイルを混合することで第2剤を調製した。シリカ粒子としては、疎水性シリカ粒子である疎水性フュームドシリカ粉末(平均一次粒子径:7nm)を用いた。変性シリコーンオイルとしては、ポリエーテル変性シリコーンを用いた。得られた第1剤と第2剤とからディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を構成した。
【0047】
表1には、ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物中の各成分の含有量を質量部で示す。
(実施例2,3)
表1に示すように、実施例2,3では、疎水性シリカ粒子の含有量を変更した以外は、実施例1と同様にディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を得た。
【0048】
(実施例4)
実施例4では、疎水性シリカ粒子の代わりに、親水性シリカ粒子である親水性フュームドシリカ粉末(平均一次粒子径:12nm)を用いるとともに、表1に示す含有量とした以外は、実施例1と同様にディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を得た。
【0049】
(実施例5,6)
表2に示すように、実施例5,6では、変性シリコーンオイルの含有量及び疎水性シリカ粒子の含有量を変更した以外は、実施例1と同様にディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を得た。
【0050】
(比較例1~4)
比較例1~4では、表3に示すように配合を変更した以外は、実施例1と同様にディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を得た。
【0051】
<粘度及びチクソ比>
B型粘度計(BROOKFIELD社、回転粘度計、DV-E)を用いて25℃における第1剤及び第2剤、並びにこれらを混合したディスペンサ用硬化型シリコーン組成物のそれぞれの粘度を測定した。第1剤及び第2剤、並びにディスペンサ用硬化型シリコーン組成物の粘度(第1粘度)は、スピンドル(SC4-14)の回転速度を1rpmに設定することで測定した。第2粘度は、スピンドル(SC4-14)の回転速度を10rpmに設定することで測定した。なお、ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物の各粘度は、組成物の調製直後(第1剤及び第2剤の混合直後)の粘度である。
【0052】
第1粘度の測定結果、チクソ比の算出結果を表1~3に示す。
<寸法変化率>
ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物の第1剤及び第2剤をそれぞれシリンジに充填し、ディスペンサ(武蔵エンジニアリング社製)にセットした。次に、ディスペンサのスクリューノズルによって第1剤及び第2剤を混合しながらディスペンサのニードル(ニードル径D:0.58mm、円孔)から吐出させ、筐体の外面(平面)にディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を塗布した。筐体の外面に60mmの長さの直線状に塗布したディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を24時間放置した後、以下のように寸法変化率を求めた。
【0053】
直線状に塗布したディスペンサ用硬化型シリコーン組成物の24時間経過後の高さ寸法H(mm)及び幅寸法W(mm)を測定した。測定地点は、直線状に塗布したディスペンサ用硬化型シリコーン組成物の前半地点(10mm地点)、中間地点(30mm地点)、後半地点(50mm地点)の3点に設定した。
【0054】
測定した高さ寸法H(mm)と、上記ニードル径D(mm)とを下記式(1)に代入することで、高さ寸法変化率を求めた。
高さ寸法変化率(%)=(H-D)×100/D・・・(1)
測定した幅寸法W(mm)と上記ニードル径D(mm)とを下記式(2)に代入することで、幅寸法変化率を求めた。
【0055】
幅寸法変化率(%)=(W-D)×100/D・・・(2)
高さ寸法変化率及び幅寸法変化率の結果を表1~3に示す。
<針入度>
ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を硬化した硬化物について、JIS K2207に規定される針入度(25℃)を測定した。その結果を表1~3に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】

比較例1~3のディスペンサ用硬化型シリコーン組成物には、変性シリコーンオイルが含有されていないため、高さ寸法変化率が-50%以下、幅寸法変化率が180%以上の値となった。比較例3のディスペンサ用硬化型シリコーン組成物の粘度(第1粘度)は比較的高いものの、ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物を塗布した後の粘度が経時的に低下したため、上記の寸法変化率の結果は比較例1,2と同等の結果となった。比較例4のディスペンサ用硬化型シリコーン組成物には、シリカ粒子が含有されていない。比較例4のディスペンサ用硬化型シリコーン組成物では、粘度が低すぎるため、上記条件での粘度測定が不可能であった。また、比較例4のディスペンサ用硬化型シリコーン組成物では、高さ寸法変化率が-100%を大きく下回っていた。また、幅寸法変化率についても、変化率が300%を大きく上回っていた。
【0059】
これに対して、各実施例のディスペンサ用硬化型シリコーン組成物では、高さ寸法変化率及び幅寸法変化率の絶対値が各比較例のディスペンサ用硬化型シリコーン組成物よりも小さいことが分かる。
【符号の説明】
【0060】
11…塗布材(ディスペンサ用硬化型シリコーン組成物)、12…硬化物。
図1
図2
図3
図4
図5
図6