(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】多層磁気変調構造を有する低ノイズ磁気抵抗センサ
(51)【国際特許分類】
G01R 33/09 20060101AFI20220705BHJP
H01L 43/08 20060101ALI20220705BHJP
H01L 29/82 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
G01R33/09
H01L43/08 Z
H01L29/82 Z
(21)【出願番号】P 2019558452
(86)(22)【出願日】2018-04-25
(86)【国際出願番号】 CN2018084439
(87)【国際公開番号】W WO2018196785
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-01-08
(31)【優先権主張番号】201710284467.7
(32)【優先日】2017-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】514116947
【氏名又は名称】江▲蘇▼多▲維▼科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】MULTIDIMENSION TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Building D & E, No.2 Guangdong Road,Zhangjiagang Free Trade Zone,Zhangjiagang,Jiangsu,215634 China
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ディーク、ジェイムズ ゲーザ
(72)【発明者】
【氏名】チョウ、チーミン
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-197388(JP,A)
【文献】特開2001-004728(JP,A)
【文献】特表2017-504018(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0331065(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/09
H01L 43/08
H01L 29/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と該基板上に位置する多層磁気変調構造アレイとを備え、該多層磁気変調構造アレイは、
間隔を置いて平行に配列されている、複数の
長尺状の多層磁気変調構造
(21、22、...、2N)から構成され、該多層磁気変調構造は、上から下へ軟強磁性層、伝導金属層、および軟強磁性層を備え、該多層磁気変調構造
同士は、
両端がそれぞれ入力ポートと出力ポートとなる2ポート平面コイル形状の励起コイルを形成するように伝導性ストリップを用いて
相互に端から端まで順次に直列接続され、
該励起コイルは、入力ポートと出力ポートがそれぞれ励起コイル
用ボンド・パッドに接続され、
電流が流れるとき、隣り合う多層磁気変調構造
同士は、反対の電流方向を有し、
磁気抵抗検出ユニットが、該多層磁気変調構造の
基板上の上方または下方に位置し、該
多層磁気変調構造同士間の間隙の中央に置かれ、該磁気抵抗検出ユニットの
磁気感知方向は、該多層磁気変調構造の長さ方向に直交し、
複数の該磁気抵抗検出ユニットからなる磁気抵抗検出ユニット・アレイは、磁気抵抗センサを形成するように
各該磁気抵抗検出ユニットを電気的に接続され、
形成された該磁気抵抗センサは、センサ
用ボンド・パッドに接続され、
外部磁場
(H0)を測定するとき、励磁電流が該励起コイルに印加され、該磁気抵抗センサによって集めた電圧信号または電流信号が復調されて低ノイズ電圧信号
として出力する、多層磁気変調構造を有する低ノイズ磁気抵抗センサ。
【請求項2】
前記多層磁気変調構造アレイは、
2k個の多層磁気変調構造を備え、ただし、kは、1よりも大きい整数であり、前記磁気抵抗検出ユニット・アレイは、k番目と(k+1)番目の多層磁気変調構造の間の隙間を除き、k番目および(k+1)番目の多層磁気変調構造の互いに反対側から数えるk-1個の間隙内に位置し、
または、前記多層磁気変調構造アレイは、2N+1個の多層磁気変調構造を備え、前記磁気抵抗検出ユニット・アレイは、(N+1)番目の多層磁気変調構造の
両側から数えるN個の間隙内に位置し、ただし、Nは、0よりも大きい整数である、請求項1に記載の多層磁気変調構造を有する低ノイズ磁気抵抗センサ。
【請求項3】
周波数fの励磁電流が前記励起コイルに印加され、前記励磁電流が変化するときに軟強磁性材料の透磁率が線形状態にあるとき、前記磁気抵抗センサによって出力される有用信号は、周波数fであり、前記励磁電流が変化するときに前記軟強磁性材料の前記透磁率が線形かつ飽和状態にあるとき、前記磁気抵抗センサによって出力される有用信号は、周波数2fであ
り、前記有用信号は、外部磁場(H0)を測定するための信号である請求項1に記載の多層磁気変調構造を有する低ノイズ磁気抵抗センサ。
【請求項4】
前記磁気抵抗センサは、
励起コイルと磁気抵抗検出ユニット・アレイとを備え、該
励起コイルおよび
該磁気抵抗検出ユニット・アレイは、同じ基板上に堆積している、
または、前記磁気抵抗センサは、
励起コイルと2つの
磁気抵抗検出ユニット・アレイとを備え、
前記2つの磁気抵抗検出ユニット・アレイは、
線対称であり、プッシュプル半ブリッジ磁気抵抗センサを形成するように
電気的に接続され、該励起コイルは、複数の励起コイルを直列に接続されてなる2ポートの励起コイルである、
または、前記磁気抵抗センサは、
励起コイルと4つの
磁気抵抗検出ユニット・アレイとを備え、
前記4つの磁気抵抗検出ユニット・アレイは、点対称であり、プッシュプル・フルブリッジ磁気抵抗センサを形成するように
電気的に接続され、該励起コイルは、複数の励起コイルを直列に接続されてなる2ポートの励起コイルである、
請求項1に記載の多層磁気変調構造を有する低ノイズ磁気抵抗センサ。
【請求項5】
前記磁気抵抗センサは、同じ基板上に堆積してなる単一チップ・磁気抵抗センサである、
請求項4に記載の多層磁気変調構造を有する低ノイズ磁気抵抗センサ。
【請求項6】
前記磁気抵抗検出ユニットは、TMR、GMR、またはAMRタイプである、請求項1に記載の多層磁気変調構造を有する低ノイズ磁気抵抗センサ。
【請求項7】
前記伝導性ストリップは、単層伝導性構造または前記多層磁気変調構造と同一の構造であり、前記軟強磁性
層の材料は、Fe、Co、およびNiの1つまたは複数の元素を含む高透磁率の軟強磁性合金であり、絶縁層が、前記軟強磁性層と前記伝導金属層の間に追加される、請求項1に記載の多層磁気変調構造を有する低ノイズ磁気抵抗センサ。
【請求項8】
前記多層磁気変調構造の中間層が、1~10μmの厚さ範囲を有するCuであり、前記軟強磁性層は、1~10μmの厚さ範囲を有するパーマロイである、請求項7に記載の多層磁気変調構造を有する低ノイズ磁気抵抗センサ。
【請求項9】
前記多層磁気変調構造は、10~1000μmの幅範囲を有し、前記多層磁気変調構造の前記間隙は、5~50μmの幅範囲を有し、前記多層磁気変調構造の該幅と該間隙の比は、外部磁場利得係数を増加させるとともに
ノイズを減少させるように
大きく設定される、請求項7に記載の多層磁気変調構造を有する低ノイズ磁気抵抗センサ。
【請求項10】
前記励起コイルの周波数fは、1~100KHzの範囲内にあり、前記励磁電流の密度が1×10
1~1×10
12A/m
2のとき、前記有用信号の周波数は、基本周波数fであり、前記励磁電流の密度が1×10
12A/m
2よりも大きいとき、前記有用信号の周波数は、第二次高調波周波数2fである、請求項3に記載の多層磁気変調構造を有する低ノイズ磁気抵抗センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサの分野に関し、より詳細には、多層磁気変調構造を有する低ノイズ磁気抵抗センサの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
通常の使用中、磁気抵抗センサには1/fノイズがある。磁気抵抗センサのこのノイズを減少させ、低ノイズ磁気抵抗センサを開発することは、磁気信号の正確な測定を改善するために極めて重要である。一般に、磁気抵抗センサは、低周波数において高い1/fノイズを有するとともに、高周波数において主に熱ノイズを有し、ただし、後者のノイズ・エネルギー密度は、低周波数におけるノイズ・エネルギー密度よりもずっと低い。したがって、磁気信号は、高周波数磁場に選択的に予変調され、次いで、この磁気信号を磁気抵抗センサによって測定して高周波数の電圧信号を出力し、この信号は、磁気信号の測定を低周波数領域から高周波数領域へ移動させるために復調され、それによって、1/fノイズのエネルギー密度を減少させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
MEMS技術を用いる先行技術では、振動軟強磁束コンセントレータ構造が、磁気抵抗センサの表面上に機械加工され、軟強磁束コンセントレータは、静的な外部磁場を変調するために磁気抵抗センサの表面上で周期的に振動するように駆動される。この技術は、磁気抵抗センサの1/fノイズを減少させるのを助けるが、振動構造およびドライバの追加によって、磁気抵抗センサの複雑さおよびサイズ、ならびにプロセスの複雑さが大きく増加する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明において、多層磁気変調構造を有する低ノイズ磁気抵抗センサが提案され、この低ノイズ磁気抵抗センサは、基板とその基板上に位置する多層磁気変調構造アレイとを備え、多層磁気変調構造アレイは、複数の多層磁気変調構造を備え、多層磁気変調構造は、上から下へ軟強磁性層、伝導金属層、および軟強磁性層を備え、多層磁気変調構造の2つの端部は、2ポート励起コイルを形成するように伝導性ストリップを用いて接続され、2ポート励起コイルは、励起コイル・ボンド・パッドに接続され、隣り合う多層磁気変調構造は、動作中に反対の電流方向を有し、
磁気抵抗検出ユニットは、多層磁気変調構造の上方または下方に位置し、磁気変調構造間の間隙の中央に置かれ、磁気抵抗検出ユニットの感受方向は、多層磁気変調構造の長さ方向に直交し、磁気抵抗検出ユニット・アレイは、磁気抵抗センサを形成するように電気的に接続され、センサは、センサ・ボンド・パッドに接続され、
外部磁場を測定するとき、励磁電流が励起コイルに印加され、磁気抵抗センサの電圧信号または電流信号の出力が復調されて低ノイズ電圧信号を生成する。
【0005】
さらに、多層磁気変調構造アレイは、2N個の多層磁気変調構造を備え、磁気抵抗検出ユニット・アレイは、N番目および(N+1)番目の多層磁気変調構造の2つの側でN-1個の間隙内に位置し、
または、多層磁気変調構造アレイは、2N+1個の多層磁気変調構造を備え、磁気抵抗検出ユニット・アレイは、(N+1)番目の多層磁気変調構造の2つの側でN個の間隙内に位置し、ただし、Nは、0よりも大きい整数である。
【0006】
さらに、周波数fの励磁電流が励起コイルに印加され、励磁電流が変化するときに軟強磁性材料の透磁率が線形状態にあるとき、磁気抵抗センサによって出力される有用信号は、周波数fであり、励磁電流値が変化するときに軟強磁性材料の透磁率が線形かつ飽和状態にあるとき、磁気抵抗センサによって出力される有用信号は、周波数2fである。
【0007】
さらに、磁気抵抗センサは、2ポート励起コイルと2ポート磁気抵抗検出ユニット・アレイとを備え、2ポート励起コイルおよび2ポート磁気抵抗検出ユニット・アレイは、同じ基板上に堆積している、
または、磁気抵抗センサは、2ポート励起コイルと4つの2ポート磁気抵抗検出ユニット・アレイとを備え、2ポート磁気抵抗検出ユニット・アレイのうちの2つは、同じ基板上に堆積しており、同じ基板上に堆積した2つの2ポート磁気抵抗検出ユニット・アレイのスライスは、180度裏返され、プッシュプル・フルブリッジ磁気抵抗センサを形成するように固定され、2つの励起コイルは、同じ2ポート励起コイルを形成するように直列に接続されている、
または、磁気抵抗センサは、2ポート励起コイルと2つの2ポート磁気抵抗検出ユニット・アレイとを備え、基板上に堆積された2ポート磁気抵抗検出ユニット・アレイのスライスは、180度裏返され、プッシュプル半ブリッジ磁気抵抗センサを形成するように固定され、それぞれの励起コイルは、2ポート励起コイルを形成するように直列に接続されている、
または、磁気抵抗センサは、2ポート励起コイルと4つの2ポート磁気抵抗検出ユニット・アレイとを備え、同じ基板上に堆積した2ポート磁気抵抗検出ユニット・アレイのうちの1つの4つのスライスは、ペアで180度裏返され、プッシュプル・フルブリッジ磁気抵抗センサを形成するように固定され、それぞれの励起コイルは、2ポート励起コイルを形成するように直列に接続されている。
【0008】
さらに、磁気抵抗センサは、2ポート励起コイルと4つの2ポート磁気抵抗検出ユニット・アレイとを備え、2ポート励起コイルおよび4つの2ポート磁気抵抗検出ユニット・アレイは、同じ基板上に堆積しており、2ポート磁気抵抗検出ユニット・アレイのうちの2つおよび2ポート磁気抵抗検出ユニット・アレイのうちの他の2つは、反対の磁場感受方向を有し、単一チップ・プッシュプル・フルブリッジ磁気抵抗センサを形成するように電気的に接続されている、
または、磁気抵抗センサは、2ポート励起コイルと2つの2ポート磁気抵抗検出ユニット・アレイとを備え、2ポート励起コイルおよび2つの2ポート磁気抵抗検出ユニット・アレイは、同じ基板上に堆積しており、2ポート磁気抵抗検出ユニット・アレイのうちの1つおよび2ポート磁気抵抗検出ユニット・アレイの他の1つは、反対の磁場感受方向を有し、単一チップ・プッシュプル半ブリッジ磁気抵抗センサを形成するように電気的に接続されている。
【0009】
さらに、磁気抵抗検出ユニットは、TMR、GMR、またはAMRタイプである。
【0010】
さらに、伝導性ストリップは、単層伝導性構造または多層磁気変調構造と同一の構造であり、軟強磁性材料は、Fe、Co、およびNiの1つまたは複数の元素を含む高透磁率の軟強磁性合金であり、絶縁層は、軟強磁性層と伝導金属層の間に追加される。
【0011】
さらに、多層磁気変調構造の中間層は、1~10μmの厚さ範囲を有するCuであり、軟強磁性層は、1~10μmの厚さ範囲を有するパーマロイである。
【0012】
さらに、多層磁気変調構造は、10~1000μmの範囲内の幅を有し、多層磁気変調構造の間隙は、5~50μmの範囲内の幅を有し、多層磁気変調構造の幅と間隙の比は、外部磁場利得係数を増加させるとともにノイズを減少させるように増加する。
【0013】
さらに、励起コイルの周波数fは、1~100KHzの範囲内にあり、励磁電流の密度が1×101~1×1012A/m2のとき、有用信号の周波数は、基本周波数fであり、励磁電流の密度が1×1012A/m2よりも大きいとき、有用信号の周波数は、第二次高調波周波数2fである。
【0014】
先行技術と比較して、本発明において提供される多層磁気変調構造を有する低ノイズ磁気抵抗センサは、1/fノイズのエネルギー密度を有効に減少させることができ、磁気信号の測定精度をさらに改善することができる。低ノイズ磁気抵抗センサは、簡単なプロセスと、高感度、低ノイズ、および小型サイズを有するコンパクトな構造とを提供する。
【0015】
本発明の各実施形態における技術的解決手段をより明確に示すために、実施形態についての説明で使用される添付図面が、以下に簡潔に紹介される。以下の説明における添付図面は、本発明のいくつかの実施形態にすぎないことが明らかである。当業者は、創作的努力なしに添付図面に従って他の添付図面を得ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明による多層磁気変調構造を有する低ノイズ磁気抵抗センサのスライス構造図である。
【
図2】本発明による多層磁気変調構造を有する別の低ノイズ磁気抵抗センサのスライス構造図である。
【
図3】本発明による多層磁気変調構造を有する別の低ノイズ磁気抵抗センサのスライス構造図である。
【
図4(a)】本発明による多層磁気変調構造を有する低ノイズ磁気抵抗センサ内の励起コイルの構造図である。
【
図4(b)】本発明による多層磁気変調構造を有する低ノイズ磁気抵抗センサ内の磁気抵抗検出ユニット・アレイの構造図である。
【
図5(a)】本発明による多層磁気変調構造を有する別の低ノイズ磁気抵抗センサ内の励起コイルの構造図である。
【
図5(b)】本発明による多層磁気変調構造を有する別の低ノイズ磁気抵抗センサ内のプッシュプル・フルブリッジ磁気抵抗センサの構造図である。
【
図6(a)】本発明による多層磁気変調構造を有する別の低ノイズ磁気抵抗センサ内の励起コイルの構造図である。
【
図6(b)】本発明による多層磁気変調構造を有する別の低ノイズ磁気抵抗センサ内のプッシュプル半ブリッジ磁気抵抗センサの構造図である。
【
図7】本発明による多層磁気変調構造アレイおよび磁気抵抗検出ユニット・アレイの層配置図である。
【
図8(a)】本発明による、外部磁場のない2つの隣り合う多層磁気変調構造の励起磁場の分布図である。
【
図8(b)】本発明による、外部磁場H0の作用下の多層磁気変調構造の励起磁場の分布図である。
【
図9】本発明による多層磁気変調構造によって予変調される低ノイズ磁気抵抗センサ内の励起コイルの電流波形を示すグラフである。
【
図10】本発明による多層磁気変調構造によって予変調される低ノイズ磁気抵抗センサにおける出力信号の波形を示すグラフである。
【
図11】本発明による磁場利得係数対電流密度の典型的な曲線のグラフである。
【
図12】本発明による軟強磁性層の厚さに関する利得係数の変化を示すグラフである。
【
図13】本発明による伝導金属層の厚さに関する利得係数の変化を示すグラフである。
【
図14】本発明による伝導層の間隙に関する利得係数の変化を示すグラフである。
【
図15】本発明による伝導層ストリップの幅に関する利得係数の変化を示すグラフである。
【
図16】本発明による伝導層ストリップの間隙/幅に関する利得係数の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態の目的、技術的解決手段、および利点をより明確にするために、本発明の実施形態における技術的解決手段を、本発明の実施形態において添付図面を参照しつつ以下に明確かつ完全に説明する。説明される実施形態は、本発明の実施形態の全てではなく一部であることが明らかである。
【0018】
以下、添付図面を参照して実施形態と組み合わせて本発明を詳細に説明する。
【0019】
(実施形態1)
図1は、基板1とこの基板上に位置する多層磁気変調構造アレイとを含む、多層磁気変調構造を有する低ノイズ磁気抵抗センサのスライス構造図である。多層磁気変調構造は、複数の多層磁気変調構造を含み、
図1の21、22、...、2Nは、多層磁気変調構造であり、隣り合う多層磁気変調構造は、2ポート励起コイルを形成するように伝導性ストリップ31、32、...、3N-1を用いて接続されている。多層磁気変調構造は、励起コイル・ボンド・パッド5に接続されているとともに、同時に励起コイル・ボンド・パッド6に接続されており、多層磁気変調構造アレイの間隙間の磁気抵抗検出ユニット・アレイ41、42、...、4N-2にも接続されている。磁気抵抗検出ユニットは、2ポート磁気抵抗検出ユニット・アレイを形成するように電気的に接続され、磁気抵抗センサ・ボンド・パッド7および磁気抵抗センサ・ボンド・パッド8に接続されている。Nが偶数2k(kは0よりも大きい整数)であるとき、磁気抵抗検出ユニット・アレイは、k番目と(k+1)番目の多層磁気変調構造の2つの側でk-1個の間隙内に位置する。Nが奇数2k+1(kは0よりも大きい整数)であるとき、磁気抵抗検出ユニット・アレイは、(k+1)番目の多層磁気変調構造の2つの側でk個の間隙内に位置する。本発明における磁気抵抗検出ユニットは、TMR、GMR、またはAMRタイプであり、その磁場感受方向は、多層磁気変調構造の長さ方向または縦方向に直交する。
【0020】
図2は、同じ基板上に位置する2つの2ポート磁気抵抗検出ユニット・アレイおよび2ポート励起コイル11を含む、多層磁気変調構造を有する別の低ノイズ磁気抵抗センサのスライス構造図であり、ここで、
図2の9および10は、2ポート磁気抵抗センサを示す。
【0021】
図3は、同じ基板上に位置する4つの2ポート磁気抵抗検出ユニット・アレイ(例えば、
図3の51、52、53、54)を含む、多層磁気変調構造を有する別の低ノイズ磁気抵抗センサのスライス構造図である。磁気抵抗検出ユニット・アレイ51、52および磁気抵抗検出ユニット・アレイ53、54は、反対の磁場感受方向を有し、プッシュプル・フルブリッジ磁気抵抗センサを形成するように電気的に接続されている。2ポート励起コイル50も、スライス構造図に示されている。フルブリッジに加えて、それは、同じ基板上に位置するとともに反対の磁場感受方向を有する2つの2ポート磁気抵抗検出ユニット・アレイを含むこともでき、これらは、プッシュプル半ブリッジ構造を形成するように電気的に接続されていることに留意されたい。
【0022】
多層磁気変調構造を有する低ノイズ磁気抵抗センサの電気接続構造図には、2ポート励起コイルおよび2ポート磁気抵抗検出ユニット・アレイが含まれている。
図4(a)は、本発明による多層磁気変調構造を有する低ノイズ磁気抵抗センサ内の励起コイルの構造図である。
図4(b)は、本発明による多層磁気変調構造を有する低ノイズ磁気抵抗センサ内の磁気抵抗検出ユニット・アレイの構造図である。この場合には、2ポート磁気抵抗検出ユニット・アレイは、電流を復調するように定電圧において動作することができる、または電圧を復調するように定電流において動作することができる。
【0023】
多層磁気変調構造を有する別の低ノイズ磁気抵抗センサの電気接続構造図には、2ポート励起コイルおよびプッシュプル・フルブリッジ磁気抵抗センサが含まれる。
図5(a)は、本発明による多層磁気変調構造を有する別の低ノイズ磁気抵抗センサ内の励起コイルの構造図である。
図5(b)は、本発明による多層磁気変調構造を有する別の低ノイズ磁気抵抗センサ内のプッシュプル・フルブリッジ磁気抵抗センサの構造図である。具体的には、フルブリッジの4つの2ポート・ブリッジ・アームは、
図1に示されるように180度だけ4つのスライス構造を裏返すことによって得ることができ、この場合には、2ポート励起コイルは、4つのスライス上の2ポート励起コイルを直列に接続することによって形成される。代替として、フルブリッジの4つの2ポート・ブリッジ・アームは、
図2に示されるように180度だけ2つのスライス構造を裏返すことによって得ることができ、この場合には、2ポート励起コイルは、2つのスライス上の2ポート励起コイルを直列に接続することによって形成される。また、フルブリッジの4つの2ポート・ブリッジ・アームは、同じ単一チップ上に位置するとともにペアで反対の磁場感受方向を有する4つの2ポート磁気抵抗センサを直接電気的に接続することによって得ることができ、この場合には、2ポート励起コイルは、2ポート構造を形成するように直列に接続されている。
【0024】
多層磁気変調構造を有する別の低ノイズ磁気抵抗センサの電気接続構造図には、2ポート励起コイルおよびプッシュプル半ブリッジ磁気抵抗センサが含まれている。
図6(a)は、本発明による多層磁気変調構造を有する別の低ノイズ磁気抵抗センサ内の励起コイルの構造図である。
図6(b)は、本発明による多層磁気変調構造を有する別の低ノイズ磁気抵抗センサ内のプッシュプル半ブリッジ磁気抵抗センサの構造図である。具体的には、半ブリッジの2つの2ポート・ブリッジ・アームは、
図1に示される2つのスライス構造を裏返すことによって得ることができ、この場合には、2ポート励起コイルは、2つのスライス上の2ポート励起コイルを直列に接続することによって形成される。また、半ブリッジの2つの2ポート・ブリッジ・アームは、同じ単一チップ上に位置するとともに反対の磁場感受方向を有する2つの2ポート磁気抵抗センサを直接電気的に接続することによって得ることができ、この場合には、2ポート励起コイルは、2ポート構造を形成するように直列に接続されている。
【0025】
図7は、多層磁気変調構造アレイおよび磁気抵抗検出ユニット・アレイの層配置図である。多層磁気変調構造は、2つの強磁性層と、各々が軟強磁性材料で構成されている上側層および下側層と、中間の伝導金属層102とを含む。軟強磁性層は、
図7の100および101である。磁気抵抗検出ユニット103は、多層磁気変調構造の上方または下方に位置し、磁気変調構造間の間隙内の中央に置かれる。隣り合う多層磁気変調構造104および105は、反対の電流方向を有する。電流は中間の伝導金属層102を通じて流入し、中間の伝導金属層102と、上側および下側軟強磁性層とは、絶縁層によって隔てられている。
【0026】
図8(a)は、外部磁場のない2つの隣り合う多層磁気変調構造の励起磁場の分布図である。2つの隣り合う多層磁気変調構造の励磁電流はI0および-I0として分布し、磁気抵抗センサは中央に位置するので、I0によって上側軟強磁性層に生成された励起磁場はHex(ft)であるとともに、下側軟強磁性層に生成された励起磁場は-Hex(ft)であり、-I0によって上側軟強磁性層に生成された励起磁場は-Hex(ft)であるとともに、下側軟強磁性層に生成された励起磁場はHex(ft)である。そして、磁気抵抗検出ユニットに生成された励起磁場は、それぞれHex1(ft)および-Hex1(ft)であり、これらは大きさが同一であるとともに方向が反対であり、したがって互いに相殺する。
図8(b)は、外部磁場H0の作用下の2つの隣り合う多層磁気変調構造の励起磁場の分布図である。この場合には、多層磁気変調構造の上側および下側軟強磁性層における磁場強度が変更され、すなわち、外部磁場の方向と同じ方向の磁場の強度が増加し、これはHex(ft)+H0であり、外部磁場の方向と反対の方向の磁場の強度は減少し、これは-Hex(ft)+H0である。加えて、H0の導入により、上側および下側軟強磁性層の透磁率状態は異なり、左および右の多層磁気変調構造によって磁気抵抗検出ユニットに生成される磁場は、それぞれHex1(ft)+H0および-Hex1(ft)+H0である。したがって、磁気抵抗検出ユニットにおける磁場強度の変化は、多層磁気変調構造の上側および下側軟強磁性層における外部磁場強度H0および励起磁場強度Hex(ft)に関連し、励起磁場強度Hex(ft)は、励磁電流I0に直接関連している。I0が大きいとき、軟強磁性層の透磁率は、線形領域内および飽和領域内で変化する。I0が小さいとき、軟強磁性層の透磁率は、完全に線形領域の範囲内で変化する。したがって、実際には、多層磁気変調構造によって予変調される低ノイズ磁気抵抗センサは、磁気抵抗センサが信号を集めるための二次コイルの代わりに使用されるという違いを有するフラックスゲート・センサである。
【0027】
したがって、フラックスゲート原理の観点からの励磁電流I0、外部磁場H0、および軟強磁性層の透磁率の間の関係に関する議論は、磁気抵抗センサの出力信号のパターンおよび性能を直接決定する。
図9は、電流密度振幅がJe0であるときの周波数fにおける励起コイルの電流波形を示す。
図10は、磁気抵抗センサの位置における磁場測定信号を示す。透磁率が線形領域内にあるとき、磁気抵抗センサの位置における磁気誘導強度は、周波数fにおける出力特性も有する。他方、励磁電流の振幅が線形領域内および飽和領域内に透磁率を引き起こすのに十分大きいとき、この場合には第二次高調波2f信号が出力されることがフラックスゲート原理から分かり、磁場信号振幅Bex1fおよびBex2fは、測定された磁場強度H0に正比例する。
【0028】
多層磁気変調構造の軟強磁性ストリップ・アレイの最適設計を得るために、多層磁気変調構造の軟強磁性層の厚さ、中間伝導層の厚さ、ストリップの幅、および軟強磁性ストリップ・アレイの間隙サイズは、磁場利得係数の大きさおよび変動規則に従って最適化される。一次基本状態における動作を例とすることによって議論がなされ、これは、第二次高調波動作状態にも適用可能である。
【0029】
本発明における伝導性ストリップは、単層伝導性構造または多層磁気変調構造と同一の構造であり、軟強磁性材料は、Fe、Co、およびNiの1つまたは複数の元素を含む高透磁率の軟強磁性合金であり、絶縁層は、軟強磁性層と伝導金属層の間に加えられ得ることに留意されたい。
【0030】
磁場利得係数は、G=Bex1f/(u0*H0)として定義される。実際のシミュレーションの場合には、磁場利得係数は、1~9Gの範囲内に外部磁場振幅H0を設定し、同時に周波数fにおける電流密度振幅Je0をスキャンし、それにより多層磁気変調構造アレイの設計パラメータを測定することによって、計算される。
【0031】
図11は、利得係数対電流密度の典型的な曲線である。外部磁場は、H01、H03、H05、H07、およびH09である。電流密度は、0~1×10
8A/m
2の範囲内で変化する。図から見ることができるように、磁場利得係数は、線形であり、外部磁場が増加するにつれて減少し、電流密度が増加するにつれて増加する。
【0032】
図12は、電流密度が0~1×10
10A/m
2の範囲内にあるときの軟強磁性層の厚さによる利得係数の変化を示す。図から分かるように、軟強磁性層の厚さが5μmまで増大すると、軟強磁性層の利得係数は、最大値に達する。厚さを連続して増大しても、利得係数は、あまり増加しない。
図13は、伝導金属層の厚さによる利得係数の変化を示す。図から分かるように、磁場利得係数は、伝導金属層の厚さが増大するにつれて徐々に増加する。しかしながら、伝導金属層の厚さが5μmのとき、増加傾向は減速する。
図14は、間隙の幅による利得係数の変化を示す。図から分かるように、利得係数は、間隙の幅が増大するにつれて減少する。間隙は、多層磁気変調構造間の間隙である。
図15は、多層磁気変調構造の幅による利得係数の変化を示す。図から分かるように、利得係数は、多層磁気変調構造の幅が増大するにつれて減少する。
図16は、間隙と多層磁気変調構造の幅の比による利得係数の変化を示す。図から分かるように、利得係数は、上記比が増加するにつれて減少する。間隙は、多層磁気変調構造間の間隙である。
【0033】
結論として、本発明において提供される多層磁気変調構造を有する低ノイズ磁気抵抗センサは、1/fノイズのエネルギー密度を有効に減少させることができ、磁気信号の測定精度をさらに改善することができる。低ノイズ磁気抵抗センサは、単純なプロセスおよび高感度、低ノイズ、および小型サイズを有するコンパクトな構造を提供する。
【0034】
上記説明は、本発明の好適な実施にすぎない。本発明の各実施形態に基づいて、創作的努力なしで当業者によって得られる全ての他の実施形態は、本発明の保護範囲に含まれなければならない。いくつかの改善および修正は、本発明の原理から逸脱することなく当業者によってなされ得ることに留意されたい。これらの改善および修正は、本発明の保護範囲としてもみなされる。