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特許7099738繊維構造物、およびその繊維構造物を用いた繊維製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】繊維構造物、およびその繊維構造物を用いた繊維製品
(51)【国際特許分類】
   D01F 1/10 20060101AFI20220705BHJP
   A41D 13/11 20060101ALI20220705BHJP
   D01F 6/92 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
D01F1/10
A41D13/11 Z
D01F6/92 301M
D01F6/92 301N
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020117422
(22)【出願日】2020-07-07
(65)【公開番号】P2022014835
(43)【公開日】2022-01-20
【審査請求日】2021-02-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509308447
【氏名又は名称】株式会社 維研
(74)【代理人】
【識別番号】100124419
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 敬也
(74)【代理人】
【識別番号】100162293
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷 久生
(72)【発明者】
【氏名】町田 正浩
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/087125(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0145596(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0208307(US,A1)
【文献】国際公開第2012/098742(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/066130(WO,A1)
【文献】特開2000-008222(JP,A)
【文献】特開2005-022916(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00- 6/96,
9/00- 9/04
A41D 13/00-13/12
D04H 1/00-18/04
D03D 1/00-27/18
D04B 1/00- 1/28,
21/00-21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導率が250W/cmK以上の金属である銀のイオン(銀イオン)とシリカとの混合物を、銀イオンの割合が0.5質量%以上30質量%以下となるように添加したポリエチレンテレフタレートからなる太さが50~300デニールの単糸(銀イオン含有ポリエチレンテレフタレート繊維)と、
銀イオンを含有しないポリエチレンテレフタレートからなる太さが50~300デニールの単糸(ポリエチレンテレフタレート繊維)とを平織りしてなり、
Q-max値が0.12W/cm以上であるとともに、保温率が20%以下であることを特徴とする織物。
【請求項2】
請求項1に記載の織物の製造方法であって、
銀イオンとシリカとの混合物を高濃度になるように添加したマスターバッチを作製し、そのマスターバッチを希釈することによって、ポリエチレンテレフタレートへの銀イオンとシリカとの混合物の添加割合を、銀イオンの割合が0.5質量%以上30質量%以下になるように調整する工程を備えていることを特徴とする織物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣類、寝具、装身具等の繊維製品の形成に用いた場合に使用者に良好な接触冷感を提供可能な繊維構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、夏季用の肌着や寝具カバー等として、使用時にヒヤリとした涼しげな感触を提供可能な接触冷感に優れた繊維(接触冷感性繊維)を用いたものが研究されている。そして、そのような接触冷感性繊維としては、特許文献1の如く、吸水性ポリマーを内包させた多孔質無機粉末粒子(結晶性多孔質アルミノケイ酸塩、多孔質シリカ、多孔質アルミナ等)を把持させた合成樹脂繊維が開発されている。かかる合成樹脂繊維によれば、吸水性ポリマーに予め含有されている水分が蒸発するときの気化熱を使用者の体から奪う作用によって、使用者に接触冷感を与えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-235278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の合成樹脂繊維は、肌着や寝具カバーとして利用した場合には、ある程度の接触冷感を発現させることができるものの、十分な接触冷感を発現させるためには大量の多孔質無機粉末粒子を含有させる必要があるため、原料樹脂本来の特性が損なわれ、必ずしも良好な風合いや肌触りを提供することができなかった。また、特許文献1の合成樹脂繊維を用いた肌着や寝具カバーは、長期間に亘って繰り返して使用すると、どうしても多孔質無機粉末粒子が合成樹脂繊維から剥がれてしまうため、良好な接触冷感を発現させることができなくなる、という不具合もあった。
【0005】
本発明の目的は、上記特許文献1の如き従来の接触冷感繊維構造物の有する問題点を解消し、衣類、寝具、装身具等の繊維製品の形成に用いた場合に使用者に良好な接触冷感(あるいは接触涼感)を提供可能であり、その良好な接触冷感を長期間に亘って発現させ続けることが可能である上、安価かつ容易に製造することができる繊維構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内、請求項1に記載された発明は、熱伝導率が250W/cmK以上の金属である銀のイオン(銀イオン)とシリカとの混合物を、銀イオンの割合が0.5質量%以上30質量%以下となるように添加したポリエチレンテレフタレートからなる太さが50~300デニールの単糸(銀イオン含有ポリエチレンテレフタレート繊維)と、銀イオンを含有しないポリエチレンテレフタレートからなる太さが50~300デニールの単糸(ポリエチレンテレフタレート繊維)とを平織りしてなり、Q-max値が0.12W/cm以上であるとともに、保温率が20%以下であることを特徴とする織物である。
【0008】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載の織物の製造方法であって、銀イオンとシリカとの混合物を高濃度になるように添加したマスターバッチを作製し、そのマスターバッチを希釈することによって、ポリエチレンテレフタレートへの銀イオンとシリカとの混合物の添加割合を、銀イオンの割合が0.5質量%以上30質量%以下になるように調整する工程を備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の織物は、銀イオンとシリカとの混合物を添加してなるポリエチレンテレフタレートからなる繊維を用いて形成されているので、衣類、寝具、装身具等の繊維製品の形成に用いた場合に、使用者に良好な接触冷感を提供可能であり、その良好な接触冷感を長期間に亘って発現させ続けることができる上、安価かつ容易に製造することができる。
【0014】
請求項1に記載の織物は、Q-max値が所定の値以上であるため、繊維製品の形成に用いた場合に、触れた瞬間の接触冷感を良好なものとすることができる。
【0015】
請求項1に記載の織物あるいは編物は、保温率が所定の値以下になるように調整されているため、繊維製品の形成に用いた場合に、触れた瞬間の接触冷感を良好なものとすることができる。
【0016】
<銀含有ポリエチレンテレフタレート繊維の製造>
上記の如く(第0035段落に記載された方法で)得られたポリエチレンテレフタレート 85.5質量%と、銀含有ポリエチレンテレフタレートのマスターバッチ 14.5質量%とを混練した樹脂原料を、所定の温度(約310℃)で加熱しながら複数のオリフィス孔を設けたノズルから、所定の吐出量および所定の巻き取り速度(約2,000m/分)で巻き取ることによって未延伸糸を作製した。しかる後、その未延伸糸を、所定の延伸速度(約100m/分)で所定の温度(約100℃)に加熱しながら、最終的な延伸倍率が2.0倍となるように多段で延伸することによって、2.0質量%の銀(銀イオン)を含有するポリエチレンテレフタレートからなる単糸の太さが150d(デニール)の延伸糸を得た。
【0017】
装着時に口の周囲に当たる部分を請求項1に記載の織物あるいは編物によって形成したマスク(口元を覆うように顔面に装着するマスク)によれば、使用者にきわめて良好な使用感、接触冷感を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る繊維構造物は、熱伝導率(20℃)が250W/cmK以上である金属(以下、高熱伝導金属という)を所定の割合(すなわち、0.5質量%以上30質量%以下)で添加した合成樹脂からなる繊維(合成樹脂繊維)によって、全体あるいは一部が形成されたものである。また、本発明に係る繊維構造物には、織物、編物、不織布等の合成樹脂繊維を構成要素とする各種の構造物が含まれる。
【0019】
繊維構造物を構成する合成樹脂繊維の主原料としては、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、レーヨン、アセテート等の半合成樹脂、あるいはそれらの混合物、変性物を好適に用いることができる。それらの合成樹脂の中でも、合成樹脂としてポリエステルを用いると、高熱伝導金属を添加した場合でも、合成樹脂の特性が損なわれにくい上、少量の高熱伝導金属の添加によって繊維構造物の接触冷感が非常に良好なものとなるので好ましい。
【0020】
また、合成樹脂として、ポリエステルを用いる場合には、芳香族成分を含む芳香族系ポリエステルや脂肪族系ポリエステルを好適に用いることができる。さらに、芳香族系ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、あるいは、それらとイソフタル酸、イソフタル酸スルホネート、アジピン酸およびポリエチレングリコール等の第三成分とを共重合またはブレンドしたもの等を好適に用いることができる。また、脂肪族系ポリエステルとしては、ポリL乳酸、ポリD乳酸およびポリD,L乳酸からなるホモポリマー、またはポリ乳酸-グリコール酸共重合体等を好適に用いることができる。
【0021】
上記した合成樹脂に添加する高熱伝導金属としては、アルミニウム(熱伝導率=約204W/cmK)、金(熱伝導率=約295W/cmK)、銀(熱伝導率=約418W/cmK)、銅(熱伝導率=約386W/cmK)等を用いることができるが、それらの中でも、特に、銀あるいは銀イオンを含有した化合物(無機化合物等)を用いると、銀あるいは銀イオンの有する良好な熱伝導率によって、繊維構造物の接触冷感を効果的に高めることが可能となる上、繊維構造物が抗菌性を有するものとなるので、特に好ましい。
【0022】
加えて、合成樹脂に添加する高熱伝導金属として銀あるいは銀イオン(銀イオンを含有した化合物)を用いる場合には、銀粒子あるいは銀イオン含有化合物を合成樹脂に添加する方法、銀とシリカとを所定の割合(銀とシリカとの重量比=90:10~50:50)で混合した二酸化ケイ素銀を合成樹脂に添加する方法、銀イオンを担持した無機化合物(たとえば、銀イオンを担持したリン酸塩粒子あるいはヒドロキシアパタイト粒子等)や銀イオン含有溶解性ガラスを合成樹脂に添加する方法等を好適に用いることができる。なお、銀とシリカとを所定の割合(銀とシリカとの重量比=90:10~50:50)で混合した二酸化ケイ素銀を合成樹脂に添加する方法を用いると、銀イオンの合成樹脂中への分散性が良好なものとなり、二酸化ケイ素銀の少量の添加によって繊維構造物の接触冷感を効果的に高めることが可能となる上、紡糸時に破断が起こりにくくなるので好ましい。
【0023】
さらに、合成樹脂に添加する高熱伝導金属として銀あるいは銀イオン(銀イオンを含有した化合物)を用いる場合には、銀あるいは銀イオンを含有した化合物の粒径(平均値)を5~150μmに調整すると、少量の添加で繊維構造物の接触冷感を効果的に高めることが可能となるので好ましい。銀あるいは銀イオンを含有した化合物の粒径は、10~100μmであるとより好ましく、20~70μmであると特に好ましい。
【0024】
また、上記した高熱伝導金属の合成樹脂に対する添加量は、0.5質量%以上30質量%以下であることが必要である。高熱伝導金属の添加量をそのような範囲内に調整することによって、原料樹脂中における高熱伝導金属の凝集を防止することが可能となり、繊維構造物に良好な接触冷感を発現させることが可能になる。高熱伝導金属の添加量が0.5質量%未満であると、繊維構造物の接触冷感が不十分になるので好ましくなく、反対に、高熱伝導金属の添加量が30質量%を上回ると、どのような方法を用いても高熱伝導金属の凝集を回避し難くなるばかりでなく、合成樹脂本来の特性が損なわれる上、紡糸時に破断し易くなるので好ましくない。高熱伝導金属の添加量は、1.0質量%以上20質量%以下であるとより好ましく、2.0質量%以上10質量%以下であると特に好ましい。
【0025】
また、原料樹脂中に高熱伝導金属を添加する方法は、特に限定されず、原料樹脂のモノマー中に高熱伝導金属を添加した後にモノマーを合成して樹脂化する方法(所謂、重合時添加法)や、高熱伝導金属を高濃度になるように添加した所謂マスターバッチを作製してそのマスターバッチを希釈して使用する方法、溶融させた樹脂中に高熱伝導金属を添加する方法等を好適に利用することができる。なお、重合時添加法を用いると、樹脂中への高熱伝導金属の分散性が良好となるので好ましい。
【0026】
また、本発明に係る繊維構造物の形成に用いる合成樹脂繊維の太さは、特に限定されるものではないが、1~1000デニールの太さであると、繊維構造物の接触冷感を効果的に高めることが可能となるので好ましく、10~500デニールの太さであるとより好ましく、50~300デニールの太さであると特に好ましい。なお、繊維構造物を構成する合成樹脂繊維の単繊維を、長径と短径との比が2~5である楕円形状の断面を有する異形断面糸とすると、繊維構造物の接触冷感を非常に効果的に高めることが可能となるのでより好ましい。
【0027】
加えて、原料樹脂中には、加工性、生産性向上や特性改善のために、原料樹脂の特性を阻害しない範囲内で、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、平滑剤、可塑剤、抗菌剤、防かび剤、消臭剤等の各種の添加剤を添加することも可能である。
【0028】
本発明に係る繊維構造物は、良好な接触冷感を提供するものであるから、ブラウス、ドレスシャツ、スカート、スラックス、下着、靴下等の各種の衣類、手袋、帽子、ストール等の各種の装身具、タオル、ハンカチ、寝具、寝具カバー等の使用者の皮膚に接触した状態で使用される様々な繊維製品の用途に好適に用いることができる。加えて、本発明に係る繊維構造物は、口元を覆うように顔面に装着して使用するマスクの全体あるいは一部の形成材料として好適に用いることができ、かかる場合には、少なくとも、装着時に口の周囲に当たる部分を、本発明に係る繊維構造物によって形成するのが好ましい。そのように、装着時に口の周囲に当たる部分を本発明に係る繊維構造物で形成することによって、夏場でも暑苦しさを感じさせない装着感の良好なマスクを提供することが可能となる。また、本発明に係る繊維構造物によってマスクの全体あるいは一部を形成する場合には、本発明に係る繊維構造物を織布として他の織布あるいは不織布と重ね合わせて、2層あるいは3層以上の積層構造を有するマスクとすることも可能であるし、本発明に係る繊維構造物を不織布として他の織布あるいは不織布と重ね合わせることも可能である。加えて、マスクの装着時に口の周囲に当たる部分を、本発明に係る繊維構造物によって形成する場合には、当該繊維構造物を、高熱伝導金属を含有したポリエステル系樹脂繊維を緯糸とし、その緯糸よりも細いポリエステル系樹脂繊維(高熱伝導金属を含有を含有していないもの)を経糸として、経密度が緯密度より高くなるように平織りした織布とすることによって、マスクに良好な耐久強度ときわめて良好な装着感とを同時に発現させることが可能となるので、特に好ましい。
【実施例
【0029】
以下、本発明に係る繊維構造物について実施例によって詳細に説明するが、本発明は、それらの実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更することが可能である。また、実施例・比較例における物性、特性の評価方法は以下の通りである。
【0030】
<Q-max値>
カトーテック株式会社製 接触冷温感試験機KES-QMを用いて測定した。すなわち、実施例・比較例で得られた繊維構造物(織布および不織布)を、20℃、65%RHの環境下で調湿した後に、その調湿後の布帛を、平坦な断熱材(発泡スチロール)の上に載置し、しかる後、その布帛に測定機のセンサー付き熱板(40℃)を接触させ、接触時において生地に奪われた熱板の熱量をQ-max値として算出した。
【0031】
<保温率>
JIS L 1096に準じた方法により測定した。すなわち、人体に見立てた恒温発熱体からの熱損失(H)を測定するとともに、実施例・比較例で得られた繊維構造物(織布および不織布)で恒温発熱体で覆ったときの熱損失(H)を測定し、下式(1)によって保温率(%)を算出した。
保温率(%)=(H-H)/H×100 ・・・(1)
【0032】
<接触冷感>
実施例・比較例で得られた繊維構造物(織布および不織布)を手で触ったときの冷感(ヒヤリ感、涼感)を下記の4段階で官能評価した(5名の評価者の平均値)。
◎・・非常に冷たく感じる。
○・・冷たく感じる。
△・・わずかに冷たく感じる。
×・・冷たく感じない。
【0033】
<接触冷感持続性>
自動反転渦巻き電気洗濯機内で、約60℃の水中に合成洗剤(花王株式会社製 アタック)を0.66g/lの割合で溶解させ、浴比1:30にて強条件で15分間洗濯し、脱水し、3分間溜め濯ぎをして脱水した後、再度、3分間の溜め濯ぎおよび脱水を2回繰り返した。さらに、その洗濯から最終的な脱水までのサイクルを5回繰り返した後に、風乾した。しかる後、上記した方法と同様な方法によって、接触冷感を評価した。
【0034】
<マスク装着時の接触冷感>
実施例・比較例で得られたマスクを顔面に装着して、30℃×65%RHに調温・調湿された室内で10分間過ごしたときの装着感を下記の4段階で官能評価した(5名の評価者の平均値)。
◎・・暑苦しさや息苦しさをまったく感じない。
○・・暑苦しさや息苦しさをほとんど感じない。
△・・暑苦しさや息苦しさを感じる。
×・・暑苦しさや息苦しさを極度に感じる。
【0035】
[実施例1]
<ポリエチレンテレフタレートの製造>
攪拌機及び留出コンデンサーを有する所定の容量の反応槽において、テレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)との重縮合反応(エステル化反応)によってポリエチレンテレフタレートを生成し、反応槽下部の抜き出し口からストランド状に抜き出し、水槽で冷却した後に所定の長さで切断することによって、チップ状のポリエチレンテレフタレートを得た。
【0036】
<銀含有ポリエチレンテレフタレートの製造>
上記の如くポリエチレンテレフタレートを製造する際に、重縮合反応時に、エチレングリコール(EG)中に、銀とシリカとを所定の割合(銀とシリカとの重量比=92:8)で混合した二酸化ケイ素銀を添加することによって、二酸化ケイ素銀を15質量%(固形分比率)含有させたポリエチレンテレフタレートのマスターバッチを得た。
【0037】
<銀含有ポリエチレンテレフタレート繊維の製造>
上記の如く得られたポリエチレンテレフタレート 85.5質量%と、銀含有ポリエチレンテレフタレートのマスターバッチ 14.5質量%とを混練した樹脂原料を、所定の温度(約310℃)で加熱しながら複数のオリフィス孔を設けたノズルから、所定の吐出量および所定の巻き取り速度(約2,000m/分)で巻き取ることによって未延伸糸を作製した。しかる後、その未延伸糸を、所定の延伸速度(約100m/分)で所定の温度(約100℃)に加熱しながら、最終的な延伸倍率が2.0倍となるように多段で延伸することによって、2.0質量%の銀(銀イオン)を含有するポリエチレンテレフタレートからなる単糸の太さが150d(デニール)の延伸糸を得た。
【0038】
<繊維構造物(織布)の製造>
上記の如く得られた銀含有ポリエチレンテレフタレート繊維を緯糸(ヨコイト)とし、単糸の太さが太さ75dである通常のポリエチレンテレフタレート繊維を経糸(タテイト)として、緯密度62本/吋(インチ)、経密度90本/吋(インチ)とした平織りによって、銀含有の繊維構造物(織布)を得た。そして、得られた繊維構造物を用いて、上記した方法によって、Q-max値、保温率、接触冷感、接触冷感持続性を評価した。
【0039】
<マスクの製造>
単糸の太さが150dのポリエチレンテレフタレート繊維を緯糸および経糸として、緯密度90本/吋、経密度90本/吋とした平織りによって織布を作製した。そして、その織布と、上記した銀含有ポリエチレンテレフタレート繊維を用いた織布とを重ね合わせ、幅×高さ=200mm×170mmの矩形状に裁断して周縁を縫製するとともに、側方の周縁にポリウレタン繊維からなる耳紐を装着することによって、2層構造を有する矩形状のマスクを作製した。なお、2枚の織布を重ね合わせる際には、銀含有ポリエチレンテレフタレート繊維を用いた織布が口元との当接面になるように重ね合わせた。そして、作製したマスクを用いて、上記した方法によって、接触冷感特性および接触冷感持続性を評価した。実施例1の織布およびマスクの特性の評価結果を、それらの性状とともに表1に示す。
【0040】
[実施例2]
銀含有ポリエチレンテレフタレート繊維を製造する際に、原料樹脂であるポリエチレンテレフタレート(銀を含有しないもの)と、銀含有ポリエチレンテレフタレートのマスターバッチとの混合比を、92.75:7.25に変更した以外は実施例1と同様にして、銀含有ポリエチレンテレフタレート繊維を製造した。そして、その銀含有ポリエチレンテレフタレート繊維を用いて、実施例1と同様にして、実施例2の繊維構造物(織布およびマスク)を得た。そして、得られた織布およびマスクの特性を、上記した方法によって評価した。実施例2の織布およびマスクの特性の評価結果を、それらの性状とともに表1に示す。
【0041】
[実施例3]
銀含有ポリエチレンテレフタレート繊維を製造する際に、原料樹脂であるポリエチレンテレフタレート(銀を含有しないもの)と、銀含有ポリエチレンテレフタレートのマスターバッチとの混合比を、63.75:36.25に変更した以外は実施例1と同様にして、銀含有ポリエチレンテレフタレート繊維を製造した。そして、その銀含有ポリエチレンテレフタレート繊維を用いて、実施例1と同様にして、実施例3の繊維構造物(織布およびマスク)を得た。そして、得られた織布およびマスクの特性を、上記した方法によって評価した。実施例3の織布およびマスクの特性の評価結果を、それらの性状とともに表1に示す。
【0042】
[実施例4]
実施例1と同様な方法でポリエチレンテレフタレートを製造する際に、重縮合反応時に、エチレングリコール中に、酸化アルミニウムを添加することによって、酸化アルミニウムを15質量%(固形分比率)含有させたポリエチレンテレフタレートのマスターバッチを得た。そして、そのアルミニウム含有ポリエチレンテレフタレートのマスターバッチ 25.2質量%と、ポリエチレンテレフタレート(酸化アルミニウムを含有しないもの) 74.8質量%とを混練した樹脂原料を用い、実施例1と同様な方法で、2.0質量%のアルミニウムを含有するポリエチレンテレフタレートからなる単糸の太さが150dの延伸糸を作製した。さらに、そのアルミニウムを含有するポリエチレンテレフタレートからなる延伸糸を用いて、実施例1と同様な方法で、実施例4のアルミニウム含有の繊維構造物(織布およびマスク)を得た。そして、得られた織布およびマスクの特性を、上記した方法によって評価した。実施例4の織布およびマスクの特性の評価結果を、それらの性状とともに表1に示す。
【0043】
[実施例5]
実施例1と同様な方法で得られた銀含有ポリエチレンテレフタレートからなる未延伸糸を、所定の太さの繊維束に集束させて、その繊維束に対してクリンパーで機械捲縮を付与した。さらに、捲縮させた繊維束に、一般紡績用の油剤を所定の付着量となるように付与した後、カットして単糸繊維長64mmの銀含有ポリエチレンテレフタレート短繊維を得た。そして、得られた銀含有ポリエチレンテレフタレート短繊維を、カード機で解繊した後、クロスレイヤーで積層させることによって、乾式の不織ウェブを作製した。さらに、その不織ウェブを、ニードルパンチ機にて所定の回数だけ表裏から交互にパンチして不織ウェブに交絡処理を施すことによって、目付約180g/mの不織布を得た。
【0044】
また、実施例1と同様な方法によって、ポリエチレンテレフタレート繊維からなる織布を作製し、その織布と、上記した銀含有ポリエチレンテレフタレート繊維を用いた不織布とを重ね合わせ、実施例1と同様な方法で、マスクを作製した。なお、織布と不織布とを重ね合わせる際には、不織布が口元との当接面になるように重ね合わせた。そして、得られた不織布およびマスクの特性を、上記した方法によって評価した。実施例5の不織布およびマスクの特性の評価結果を、それらの性状とともに表1に示す。
【0045】
[実施例6]
実施例1と同様な方法でポリエチレンテレフタレートを製造する際に、重縮合反応時に、エチレングリコール中に、銀粒子(平均粒径=30μm)を添加することによって、銀を20質量%(固形分比率)含有させたポリエチレンテレフタレートのマスターバッチを得た。そして、その銀含有ポリエチレンテレフタレートのマスターバッチ 10質量%と、ポリエチレンテレフタレート(銀を含有しないもの) 90質量%とを混練した樹脂原料を用い、実施例1と同様な方法で、2.0質量%の銀を含有するポリエチレンテレフタレートからなる単糸の太さが150dの延伸糸を作製した。さらに、その銀を含有するポリエチレンテレフタレートからなる延伸糸を用いて、実施例1と同様な方法で、実施例6の銀含有の繊維構造物(織布およびマスク)を得た。そして、得られた織布およびマスクの特性を、上記した方法によって評価した。実施例6の織布およびマスクの特性の評価結果を、それらの性状とともに表1に示す。
【0046】
[実施例7]
銀含有ポリエチレンテレフタレート繊維を製造する際に、原料樹脂であるポリエチレンテレフタレート(銀を含有しないもの)と、銀含有ポリエチレンテレフタレートのマスターバッチとの混合比を、27.5:72.5に変更した以外は実施例1と同様にして、銀含有ポリエチレンテレフタレート繊維を製造した。そして、その銀含有ポリエチレンテレフタレート繊維を用いて、実施例1と同様にして、実施例7の繊維構造物(織布およびマスク)を得た。そして、得られた織布およびマスクの特性を、上記した方法によって評価した。実施例7の織布およびマスクの特性の評価結果を、それらの性状とともに表1に示す。
【0047】
[実施例8]
実施例1と同様な方法でポリエチレンテレフタレートを製造する際に、重縮合反応時に、エチレングリコール中に、金粒子(平均粒径=30μm)を添加することによって、金を20質量%(固形分比率)含有させたポリエチレンテレフタレートのマスターバッチを得た。そして、その金含有ポリエチレンテレフタレートのマスターバッチ 10質量%と、ポリエチレンテレフタレート(金を含有しないもの) 90質量%とを混練した樹脂原料を用い、実施例1と同様な方法で、2.0質量%の金を含有するポリエチレンテレフタレートからなる単糸の太さが150dの延伸糸を作製した。さらに、その金を含有するポリエチレンテレフタレートからなる延伸糸を用いて、実施例1と同様な方法で、実施例8の金含有の繊維構造物(織布およびマスク)を得た。そして、得られた織布およびマスクの特性を、上記した方法によって評価した。実施例8の織布およびマスクの特性の評価結果を、それらの性状とともに表1に示す。
【0048】
[実施例9]
実施例1と同様な方法でポリエチレンテレフタレートを製造する際に、重縮合反応時に、エチレングリコール中に、銅粒子(平均粒径=30μm)を添加することによって、銅を20質量%(固形分比率)含有させたポリエチレンテレフタレートのマスターバッチを得た。そして、その銅含有ポリエチレンテレフタレートのマスターバッチ 10質量%と、ポリエチレンテレフタレート(銅を含有しないもの) 90質量%とを混練した樹脂原料を用い、実施例1と同様な方法で、2.0質量%の銅を含有するポリエチレンテレフタレートからなる単糸の太さが150dの延伸糸を作製した。さらに、その銅を含有するポリエチレンテレフタレートからなる延伸糸を用いて、実施例1と同様な方法で、実施例6の銅含有の繊維構造物(織布およびマスク)を得た。そして、得られた織布およびマスクの特性を、上記した方法によって評価した。実施例9の織布およびマスクの特性の評価結果を、それらの性状とともに表1に示す。
【0049】
[比較例1]
銀化合物を含有しない単糸の太さが150dのポリエチレンテレフタレート繊維(実施例1と同様な方法で作製したもの)を緯糸および経糸として、緯密度90本/吋、経密度90本/吋とした平織りによってポリエチレンテレフタレートのみからなる繊維構造物(織布)を作製した。さらに、その織布2枚を重ね合わせて、実施例1と同様な方法で、マスクを作製した。そして、作製された不織布およびマスクの特性を、上記した方法によって評価した。比較例1の不織布およびマスクの特性の評価結果を、それらの性状とともに表1に示す。
【0050】
[比較例2]
実施例1と同様な方法でポリエチレンテレフタレートを製造する際に、重縮合反応時に、エチレングリコール中に、酸化ニッケルを添加することによって、酸化ニッケルを15質量%(固形分比率)含有させたポリエチレンテレフタレートのマスターバッチを得た(なお、ニッケルの熱伝導率(20℃)は、約90W/cmである)。そして、そのニッケル含有ポリエチレンテレフタレートのマスターバッチ 17質量%と実施例1と同様な方法で得られたポリエチレンテレフタレート 83質量%とを混練した樹脂原料を用い、実施例1と同様な方法で、2.0質量%のニッケルを含有するポリエチレンテレフタレートからなる単糸の太さが150dの延伸糸を作製した。さらに、そのニッケルを含有するポリエチレンテレフタレートからなる延伸糸を用いて、実施例1と同様な方法で、比較例2のニッケル含有の繊維構造物(織布)およびマスクを作製した。そして、作製された織布およびマスクの特性を、上記した方法によって評価した。比較例2の織布およびマスクの特性の評価結果を、それらの性状とともに表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1から、実施例1~9で得られた高熱伝導金属を含有した合成樹脂からなる繊維構造物は、いずれも接触冷感および接触冷感の持続性が良好であることが分かる。それに対して、比較例1,2で得られた高熱伝導金属を含有していない合成樹脂からなる繊維構造物は、いずれも接触冷感が不良であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係る繊維構造物は、上記の如く優れた効果を奏するものであるから、良好な接触冷感が必要とされる衣類、寝具、マスク等の各種の繊維製品の形成材料として好適に用いることができる。