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特許7099777ヒストグラム画像を作成する方法、コンピュータシステム、プログラム、ならびに、ヒストグラム画像を用いて対象の状態を予測する方法、コンピュータシステム、プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】ヒストグラム画像を作成する方法、コンピュータシステム、プログラム、ならびに、ヒストグラム画像を用いて対象の状態を予測する方法、コンピュータシステム、プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/374 20210101AFI20220705BHJP
   A61B 5/372 20210101ALI20220705BHJP
【FI】
A61B5/374 ZDM
A61B5/372
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2022500623
(86)(22)【出願日】2021-07-29
(86)【国際出願番号】 JP2021028155
【審査請求日】2022-01-05
(31)【優先権主張番号】P 2020136761
(32)【優先日】2020-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公開日:2021年05月21日、刊行物:Toxicological Sciences,kfab061,https://doi.org/10.1093/toxsci/kfab061
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597124316
【氏名又は名称】学校法人東北工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 郁郎
(72)【発明者】
【氏名】松田 直毅
【審査官】門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-052865(JP,A)
【文献】特開2020-051968(JP,A)
【文献】特開2013-233437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/372 - 5/374
G16H 50/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒストグラム画像を作成する方法であって、
ウェーブレット画像を取得する工程と、
前記ウェーブレット画像を複数の周波数帯に分割する工程と、
複数の分割後ウェーブレット画像の各々について、スペクトル強度のヒストグラムを作成する工程と、
作成された複数のヒストグラムを結合する工程と
を含み、前記ウェーブレット画像を取得する工程は、
波形データを取得する工程と、
前記波形データを前記ウェーブレット画像に変換する工程と
を含み、前記波形データは、脳波の波形データを含む、方法。
【請求項2】
ヒストグラム画像を作成する方法であって、前記方法は、プロセッサ備えるコンピュータシステムにおいて実行され、前記方法は、
前記プロセッサが、ウェーブレット画像を取得する工程と、
前記プロセッサが、前記ウェーブレット画像を複数の周波数帯に分割する工程と、
前記プロセッサが、複数の分割後ウェーブレット画像の各々について、スペクトル強度のヒストグラムを作成する工程と、
前記プロセッサが、作成された複数のヒストグラムを結合する工程と
を含む、方法。
【請求項3】
前記ウェーブレット画像を取得する工程は、
波形データを取得する工程と、
前記波形データを前記ウェーブレット画像に変換する工程と
を含む、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記波形データは、脳波の波形データを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記複数のヒストグラムを結合する工程は、
前記複数のヒストグラムの各々をカラーマップに変換する工程であって、前記カラーマップの色は、分布比率を表す、工程と、
変換された複数のカラーマップを結合する工程と
を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記複数の周波数帯は、少なくとも6個の周波数帯を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記複数の周波数帯は、少なくとも、約1Hz~約4Hzの周波数帯、約4Hz~約8Hzの周波数帯、約4Hz~約8Hzの周波数帯、約8Hz~約12Hzの周波数帯、約12Hz~約30Hzの周波数帯、約30Hz~約80Hzの周波数帯、約100Hz~約200Hzの周波数帯を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
対象の状態の予測方法であって、前記方法は、プロセッサ備えるコンピュータシステムにおいて実行され、前記方法は、
前記プロセッサが、前記対象の生体信号を示すデータを受信する工程と、
前記プロセッサが、請求項1~のいずれか一項に記載の方法に従って、前記生体信号を示すデータからヒストグラム画像を作成する工程と、
前記プロセッサが、前記ヒストグラム画像を、訓練データセットによって訓練された画像認識モデルに入力する工程であって、前記訓練データセットは、請求項1~のいずれか一項に記載の方法に従って、前記対象の複数の既知の状態での生体信号を示すデータから作成された複数の訓練画像を含む、工程と、
前記プロセッサが、前記画像認識モデルにおいて前記ヒストグラム画像を処理し、前記対象の状態を出力する工程と
を含む、方法。
【請求項9】
前記対象の複数の既知の状態は、痙攣症状を有している状態と、痙攣症状を有していない状態と、痙攣症状の前兆を有している状態とを含む、請求項に記載の方法。
【請求項10】
対象の状態の予測のための画像認識モデルの構築方法であって、
請求項1~のいずれか一項に記載の方法に従って、対象の複数の既知の状態での生体信号を示すデータから複数の訓練画像を作成する工程と、
前記複数の訓練画像を含む訓練データセットを学習する工程と
を含む方法。
【請求項11】
対象の状態の予測方法であって、前記方法は、プロセッサ備えるコンピュータシステムにおいて実行され、前記方法は、
前記プロセッサが、前記対象の生体信号を示すデータを受信する工程と、
前記プロセッサが、前記生体信号を示すデータからヒストグラム画像を作成する工程であって、前記ヒストグラム画像は、第1の軸がスペクトル強度を表し、第2の軸が周波数を表し、色が分布比率を表すカラーマップである、工程と、
前記プロセッサが、前記ヒストグラム画像を、訓練データセットによって訓練された画像認識モデルに入力する工程であって、前記訓練データセットは、前記対象の複数の既知の状態での生体信号を示すデータから作成された複数の訓練用ヒストグラム画像を含む、工程と、
前記プロセッサが、前記画像認識モデルにおいて前記ヒストグラム画像を処理し、前記対象の状態を出力する工程と
を含む、方法。
【請求項12】
ヒストグラム画像を作成するためのコンピュータシステムであって、
ウェーブレット画像を取得する手段と、
前記ウェーブレット画像を複数の周波数帯に分割する手段と、
複数の分割後ウェーブレット画像の各々について、スペクトル強度のヒストグラムを作成する手段と、
作成された複数のヒストグラムを結合する手段と
を備えるコンピュータシステム。
【請求項13】
ヒストグラム画像を作成するためのプログラムあって、前記プログラムは、プロセッサを備えるコンピュータシステムにおいて実行され、前記プログラムは、
ウェーブレット画像を取得する工程と、
前記ウェーブレット画像を複数の周波数帯に分割する工程と、
複数の分割後ウェーブレット画像の各々について、スペクトル強度のヒストグラムを作成する工程と、
作成された複数のヒストグラムを結合する工程と
を含む処理を前記プロセッサに行わせる、プログラム。
【請求項14】
対象の状態の予測のためのコンピュータシステムであって、
前記対象の生体信号を示すデータを受信する受信手段と、
前記生体信号を示すデータからヒストグラム画像を作成する作成手段であって、前記ヒストグラム画像は、第1の軸がスペクトル強度を表し、第2の軸が周波数を表し、色が分布比率を表すカラーマップである、作成手段と、
訓練データセットによって訓練された画像認識モデルであって、前記訓練データセットは、前記対象の複数の既知の状態での生体信号を示すデータから作成された複数の訓練用ヒストグラム画像を含む、画像認識モデルと、
前記対象の状態を出力する出力手段と
を備えるコンピュータシステム。
【請求項15】
対象の状態の予測のためのプログラムであって、前記プログラムは、プロセッサを備えるコンピュータシステムにおいて実行され、前記プログラムは、
前記対象の生体信号を示すデータを受信する工程と、
前記生体信号を示すデータからヒストグラム画像を作成する工程であって、前記ヒストグラム画像は、第1の軸がスペクトル強度を表し、第2の軸が周波数を表し、色が分布比率を表すカラーマップである、工程と、
前記ヒストグラム画像を、訓練データセットによって訓練された画像認識モデルに入力する工程であって、前記訓練データセットは、前記対象の複数の既知の状態での生体信号を示すデータから作成された複数の訓練用ヒストグラム画像を含む、工程と、
前記画像認識モデルにおいて前記ヒストグラム画像を処理し、前記対象の状態を出力する工程と
を含む処理を前記プロセッサに行わせる、プログラム。
【請求項16】
対象化合物の特性の予測方法であって、
前記対象化合物を対象に投与した後の対象の生体信号を示す投与後データを受信する工程と、
請求項1~のいずれか一項に記載の方法に従って、前記投与後データからヒストグラム画像を作成する工程と、
前記ヒストグラム画像から特徴量ベクトルを抽出する工程と、
前記特徴量ベクトルと複数の基準特徴量ベクトルとを比較する工程であって、前記複数の基準特徴量ベクトルの各々は、請求項1~のいずれか一項に記載の方法に従って、複数の既知化合物を対象に投与した後のそれぞれの生体信号を示す基準投与後データから作成されたヒストグラム画像から抽出された特徴量ベクトルを含む、工程と、
前記比較の結果に基づいて、前記対象化合物の特性を予測する工程と
を含む、方法。
【請求項17】
前記特徴量ベクトルと前記複数の基準特徴量ベクトルとを比較する工程は、
前記特徴量ベクトルをマッピングすることにより特徴量マップを作成する工程と、
前記特徴量マップと複数の基準特徴量マップとを比較する工程であって、前記複数の基準特徴量マップの各々は、それぞれの前記基準特徴量ベクトルをマッピングすることとによって作成されたマップである、工程と
を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記特徴量マップと複数の基準特徴量マップとを比較する工程は、前記特徴量マップに類似する少なくとも1つの基準特徴量マップを識別することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記特徴量マップと複数の基準特徴量マップとを比較する工程は、前記特徴量マップに類似する順に前記複数の基準特徴量マップを順位付けることを含む、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒストグラム画像を作成する方法、コンピュータシステム、プログラム、ならびに、ヒストグラム画像を用いて対象の状態を予測する方法、コンピュータシステム、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
非臨床試験において、ヒト由来神経細胞などの神経ネットワーク活動を微小電極アレイ(MEA:Micro-Eelectrode Array)等で取得し、医薬品の効果を調べる研究が行われている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】A. Odawara, H. Katoh, N. Matsuda & I. Suzuki, "Physiological maturation and drug responses of human induced pluripotent stem cell-derived cortical neuronal networks in long-term culture", Scientific Reports volume 6, Article number: 26181 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、対象化合物の未知の特性を予測するための新規な手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態において、本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
ヒストグラム画像を作成する方法であって、
ウェーブレット画像を取得する工程と、
前記ウェーブレット画像を複数の周波数帯に分割する工程と、
複数の分割後ウェーブレット画像の各々について、スペクトル強度のヒストグラムを作成する工程と、
作成された複数のヒストグラムを結合する工程と
を含む方法。
(項目2)
前記複数のヒストグラムを結合する工程は、
前記複数のヒストグラムの各々をカラーマップに変換する工程であって、前記カラーマップの色は、分布比率を表す、工程と、
変換された複数のカラーマップを結合する工程と
を含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記ウェーブレット画像を取得する工程は、
波形データを取得する工程と、
前記波形データを前記ウェーブレット画像に変換する工程と
を含む、項目1または項目2に記載の方法。
(項目4)
前記波形データは、脳波の波形データを含む、項目3に記載の方法。
(項目5)
前記複数の周波数帯は、少なくとも6個の周波数帯を含む、項目1~4のいずれか一項に記載の方法。
(項目6)
前記複数の周波数帯は、少なくとも、約1Hz~約4Hzの周波数帯、約4Hz~約8Hzの周波数帯、約4Hz~約8Hzの周波数帯、約8Hz~約12Hzの周波数帯、約12Hz~約30Hzの周波数帯、約30Hz~約80Hzの周波数帯、約100Hz~約200Hzの周波数帯を含む、項目1~5のいずれか一項に記載の方法。
(項目7)
対象の状態の予測方法であって、
前記対象の生体信号を示すデータを受信する工程と、
項目1~6のいずれか一項に記載の方法に従って、前記生体信号を示すデータからヒストグラム画像を作成する工程と、
前記ヒストグラム画像を、訓練データセットによって訓練された画像認識モデルに入力する工程であって、前記訓練データセットは、項目1~6のいずれか一項に記載の方法に従って、前記対象の複数の既知の状態での生体信号を示すデータから作成された複数の訓練画像を含む、工程と、
前記画像認識モデルにおいて前記ヒストグラム画像を処理し、前記対象の状態を出力する工程と
を含む、方法。
(項目8)
前記対象の複数の既知の状態は、痙攣症状を有している状態と、痙攣症状を有していない状態と、痙攣症状の前兆を有している状態とを含む、項目7に記載の方法。
(項目9)
対象の状態の予測のための画像認識モデルの構築方法であって、
、項目1~6のいずれか一項に記載の方法に従って、対象の複数の既知の状態での生体信号を示すデータから複数の訓練画像を作成する工程と、
前記複数の訓練画像を含む訓練データセットを学習する工程と
を含む方法。
(項目10)
対象の状態の予測方法であって、
前記対象の生体信号を示すデータを受信する工程と、
前記生体信号を示すデータからヒストグラム画像を作成する工程であって、前記ヒストグラム画像は、第1の軸がスペクトル強度を表し、第2の軸が周波数を表し、色が分布比率を表すカラーマップである、工程と、
前記ヒストグラム画像を、訓練データセットによって訓練された画像認識モデルに入力する工程であって、前記訓練データセットは、前記対象の複数の既知の状態での生体信号を示すデータから作成された複数の訓練用ヒストグラム画像を含む、工程と、
前記画像認識モデルにおいて前記ヒストグラム画像を処理し、前記対象の状態を出力する工程と
を含む、方法。
(項目11)
ヒストグラム画像を作成するためのコンピュータシステムであって、
ウェーブレット画像を取得する手段と、
前記ウェーブレット画像を複数の周波数帯に分割する手段と、
複数の分割後ウェーブレット画像の各々について、スペクトル強度のヒストグラムを作成する手段と、
作成された複数のヒストグラムを結合する手段と
を備えるコンピュータシステム。
(項目11A)
上記項目の1つまたは複数に記載の特徴を含む、項目11に記載のコンピュータシステム。
(項目12)
ヒストグラム画像を作成するためのプログラムあって、前記プログラムは、プロセッサを備えるコンピュータシステムにおいて実行され、前記プログラムは、
ウェーブレット画像を取得する工程と、
前記ウェーブレット画像を複数の周波数帯に分割する工程と、
複数の分割後ウェーブレット画像の各々について、スペクトル強度のヒストグラムを作成する工程と、
作成された複数のヒストグラムを結合する工程と
を含む処理を前記プロセッサに行わせる、プログラム。
(項目12A)
上記項目の1つまたは複数に記載の特徴を含む、項目12に記載のプログラム。
(項目12B)
項目12または項目12Aに記載のプログラムを記憶する記憶媒体。
(項目13)
対象の状態の予測のためのコンピュータシステムであって、
前記対象の生体信号を示すデータを受信する受信手段と、
前記生体信号を示すデータからヒストグラム画像を作成する作成手段であって、前記ヒストグラム画像は、第1の軸がスペクトル強度を表し、第2の軸が周波数を表し、色が分布比率を表すカラーマップである、作成手段と、
訓練データセットによって訓練された画像認識モデルであって、前記訓練データセットは、前記対象の複数の既知の状態での生体信号を示すデータから作成された複数の訓練用ヒストグラム画像を含む、画像認識モデルと、
前記対象の状態を出力する出力手段と
を備えるコンピュータシステム。
(項目13A)
上記項目の1つまたは複数に記載の特徴を含む、項目13に記載のコンピュータシステム。
(項目14)
対象の状態の予測のためのプログラムであって、前記プログラムは、プロセッサを備えるコンピュータシステムにおいて実行され、前記プログラムは、
前記対象の生体信号を示すデータを受信する工程と、
前記生体信号を示すデータからヒストグラム画像を作成する工程であって、前記ヒストグラム画像は、第1の軸がスペクトル強度を表し、第2の軸が周波数を表し、色が分布比率を表すカラーマップである、工程と、
前記ヒストグラム画像を、訓練データセットによって訓練された画像認識モデルに入力する工程であって、前記訓練データセットは、前記対象の複数の既知の状態での生体信号を示すデータから作成された複数の訓練用ヒストグラム画像を含む、工程と、
前記画像認識モデルにおいて前記ヒストグラム画像を処理し、前記対象の状態を出力する工程と
を含む処理を前記プロセッサに行わせる、プログラム。
(項目14A)
上記項目の1つまたは複数に記載の特徴を含む、項目14に記載のプログラム。
(項目14B)
項目14または項目14Aに記載のプログラムを記憶する記憶媒体。
(項目15)
対象化合物の特性の予測方法であって、
前記対象化合物を対象に投与した後の対象の生体信号を示す投与後データを受信する工程と、
項目1~6のいずれか一項に記載の方法に従って、前記投与後データからヒストグラム画像を作成する工程と、
前記ヒストグラム画像から特徴量ベクトルを抽出する工程と、
前記特徴量ベクトルと複数の基準特徴量ベクトルとを比較する工程であって、前記複数の基準特徴量ベクトルの各々は、項目1~6のいずれか一項に記載の方法に従って、複数の既知化合物を対象に投与した後のそれぞれの生体信号を示す基準投与後データから作成されたヒストグラム画像から抽出された特徴量ベクトルを含む、工程と、
前記比較の結果に基づいて、前記対象化合物の特性を予測する工程と
を含む、方法。
(項目16)
前記特徴量ベクトルと前記複数の基準特徴量ベクトルとを比較する工程は、
前記特徴量ベクトルをマッピングすることにより特徴量マップを作成する工程と、
前記特徴量マップと複数の基準特徴量マップとを比較する工程であって、前記複数の基準特徴量マップの各々は、それぞれの前記基準特徴量ベクトルをマッピングすることとによって作成されたマップである、工程と
を含む、項目15に記載の方法。
(項目17)
前記特徴量マップと複数の基準特徴量マップとを比較する工程は、前記特徴量マップに類似する少なくとも1つの基準特徴量マップを識別することを含む、項目16に記載の方法。
(項目18)
前記特徴量マップと複数の基準特徴量マップとを比較する工程は、前記特徴量マップに類似する順に前記複数の基準特徴量マップを順位付けることを含む、項目16に記載の方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、対象の状態を予測することに利用可能なヒストグラム画像を作成する方法を提供することができる。また、本発明によれば、ヒストグラム画像を用いて対象の状態を予測する方法等も提供することができる。これにより、対象化合物の未知の特性を予測することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】対象の状態を予測するためのコンピュータシステム100の構成の一例を示す図
図2A】プロセッサ120の構成の一例を示す図
図2B】画像作成手段121の構成の一例を示す図
図2C】プロセッサ120’の構成の一例を示す図
図3A】ヒストグラム画像の一例を示す図
図3B】ヒストグラム画像の別の例を示す図
図3C】抽出手段124によって抽出された特徴量ベクトルの一例を示す図
図3D】比較手段125によって作成された特徴量マップの一例を示す図
図3E】複数の基準特徴量マップを合わせた1つの基準特徴量マップの一例を示す図
図4】画像認識モデル122を構築するために利用されるニューラルネットワーク300の構造の一例を示す図
図5】対象の状態を予測するためのコンピュータシステム100による処理の一例を示すフローチャート
図6】処理500によってヒストグラム画像を作成する具体的な例を示す図
図7】対象の状態を予測するためのコンピュータシステム100による処理の一例を示すフローチャート
図8A】対象の状態を予測するためのコンピュータシステム100による処理の一例を示すフローチャート
図8B】対象の状態を予測するためのコンピュータシステム100による処理の一例を示すフローチャート
図9】実施例1の実験1の結果を示す図
図10】実施例1の実験2の結果を示す図
図11】実施例2の結果を示す図
図12A】実施例2の結果を示す図
図12B】実施例2の結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0009】
1.定義
本明細書において、「対象」とは、状態を予測する対象となる生体のことをいう。対象は、ヒトであってもよいし、ヒトを除く動物であってもよいし、ヒトおよび動物であってもよい。
【0010】
本明細書において、「対象化合物」とは、特性を予測する対象の化合物のことをいう。対象化合物は、未知の化合物であってもよいし、既知の化合物であってもよい。対象化合物の特性は、例えば、薬効、毒性、作用機序を含むがこれらに限定されない。
【0011】
本明細書において、「薬効」とは、薬剤を対象に適用した場合に結果として生じる効果のことである。例えば、薬剤が抗がん剤であった場合、薬効は、X線観察下におけるがん面積の縮小、がんの進行の遅延、およびがん患者の生存期間の延長等の対象に生じる直接的効果であってもよいし、がんの進行と相関するバイオマーカーの減少などの間接的効果であってもよい。本明細書において、「薬効」とは、任意の適用条件下における効果が企図される。例えば、薬剤が抗がん剤であった場合、薬効は、特定の対象(例えば、80歳以上の男性)における効果であってもよいし、特定の適用条件(例えば、他の抗がん療法との併用下)における効果であってもよい。一つの実施形態では、薬剤は、単一の薬効を有してもよいし、複数の薬効を有してもよい。一つの実施形態では、薬剤は、異なる適用条件下において異なる薬効を有してもよい。一般的に、薬効は、達成を目的とする効果を指す。
【0012】
本明細書において、「毒性」とは、薬剤を対象に適用した場合に生じる好ましくない効果である。一般的に、毒性は、薬剤の目的とする効果とは異なる効果である。毒性は、薬効とは異なる作用機序で生じる場合もあるし、薬効と同じ作用機序で生じる場合もある。例えば、薬剤が抗がん剤であった場合、細胞増殖抑制の作用機序を介して、がん細胞殺傷の薬効と同時に正常な肝細胞の殺傷による肝毒性が生じる場合もあるし、細胞増殖抑制の作用機序を介したがん細胞殺傷の薬効と同時に膜安定化の作用機序を介した神経機能障害の毒性が生じる場合もある。
【0013】
本明細書において、「作用機序」とは、薬剤が生物的機構と相互作用する様式である。例えば、薬剤が抗がん剤であった場合、作用機序は、免疫系の活性化、増殖速度の速い細胞の殺傷、増殖性シグナル伝達の遮断、特定の受容体の遮断、特定の遺伝子の転写阻害など種々のレベルの事象であり得る。作用機序が特定されると、蓄積された情報に基づいて、薬効、毒性および/または適切な利用形態が予測され得る。
【0014】
本明細書において、「ウェーブレット画像」とは、或る時間窓内のデータをウェーブレット変換して得られるスペクトログラムのことをいう。ウェーブレット画像は、第1の軸が時間を表し、第2の軸が周波数を表し、色がスペクトル強度を表すカラーマップである。
【0015】
本明細書において、「約」とは、後に続く数値の±10%を意味する。
【0016】
2.対象の状態の予測
本発明の発明者は、対象化合物の未知の特性を予測するために、人工知能、いわゆるAI(Artificial Intelligence)を用いて、対象化合物を投与された対象の状態を予測する手法を開発した。この人工知能は、複数の既知化合物を対象に投与したときに取得されたデータから作成された画像とその既知化合物による対象の状態との関係を学習している。対象化合物を対象に投与したときに取得されたデータから作成された画像をこの人工知能に入力すると、この人工知能は、その対象の状態を予測して出力することができる。ひいては、この状態に基づいて、対象化合物の特性も予測することができる。
【0017】
この人工知能は、例えば、神経疾患の観点から対象の状態を予測することができる。神経疾患の観点からの対象の状態は、例えば、神経疾患を有している状態、神経疾患を有していない状態、および、神経疾患の前兆状態を有している状態を含む。神経疾患は、例えば、痙攣、てんかん、ADHD、認知症、自閉症、統合失調症、うつ病等を含むが、これらに限定されない。この人工知能は、例えば、痙攣、てんかん、ADHD、認知症、自閉症、統合失調症、うつ病のうちの少なくとも1つを有している状態であるか、痙攣、てんかん、ADHD、認知症、自閉症、統合失調症、うつ病のうちのいずれも有していない状態であるか、あるいは、痙攣、てんかん、ADHD、認知症、自閉症、統合失調症、うつ病のうちの少なくとも1つの前兆を有している状態であるかを予測することができる。例えば、神経疾患を有しているか否かは周波数に関する特徴として対象から取得されるデータに現れる。例えば、対象から取得される脳波データのγ波帯(約30~約50Hz)の成分が、てんかんの症状を有する対象およびADHDの症状を有する対象の場合に強くなり、認知症の症状を有する対象および投稿失調症の症状を有する対象の場合に弱くなる。この人工知能は、このような特定の周波数帯に特有の特徴を学習することにより、対象の状態の予測を可能にしている。この予測は、神経疾患の診断のために、または神経疾患の診断のための指標として利用されることができる。
【0018】
この予測に基づいて、対象化合物が、神経疾患を誘発する特性(薬効、毒性、または作用機序)を有しているか否か、あるいは、神経疾患を治療する特性を有しているか否かを予測することが可能である。この予測は、例えば、神経疾患の創薬および神経毒性の評価に応用可能である。
【0019】
例えば、この人工知能は、痙攣を誘発する薬剤(例えば、4-アミノピリジン(4-AP))を投与したときに取得されたデータから作成された画像と対象の状態(痙攣状態)との関係、薬剤を投与していないときに取得されたデータから作成された画像と対象の状態(非痙攣状態)との関係、痙攣を誘発する薬剤(例えば、4-AP)を投与した直後に取得されたデータから作成された画像と対象の状態(痙攣前兆状態)との関係を学習している。この人工知能に、対象化合物を対象に投与したときに取得されたデータから作成された画像を入力すると、この人工知能は、対象が、痙攣症状を有している状態であるか、痙攣症状を有していない状態であるか、あるいは痙攣症状の前兆を有している状態であるかを予測することができる。この予測に基づいて、対象化合物は、痙攣を誘発する特性(薬効、毒性、または作用機序)を有しているか否かを予測することが可能である。
【0020】
種々の薬効、毒性、作用機序について、既知化合物を投与したときの対象の状態を学習しておくことにより、対象化合物が、どのような薬効を有するか、または、どのような毒性を有するか、または、どのような作用機序を有するかを予測することができるようになる。これにより、対象化合物の薬効、毒性、作用機序を予測することが可能になり、例えば、対象化合物がどの既知化合物に類似しているかを分類することが容易になる。また、対象化合物の薬効、毒性、作用機序を予測することにより、安全安心な化合物の開発を促進することも可能になる。
【0021】
このような人工知能は、以下に説明する対象の状態を予測するためのコンピュータシステムによって実現され得る。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
3.対象の状態を予測するためのコンピュータシステムの構成
図1は、本発明の一実施形態に従った、対象の状態を予測するためのコンピュータシステム100の構成の一例を示す。
【0023】
コンピュータシステム100は、受信手段110と、プロセッサ120と、メモリ130と、出力手段140とを備える。コンピュータシステム100は、データベース部200に接続され得る。
【0024】
受信手段110は、コンピュータシステム100の外部からデータを受信することが可能であるように構成されている。受信手段110は、例えば、コンピュータシステム100の外部からネットワークを介してデータを受信してもよいし、コンピュータシステム100に接続された記憶媒体(例えば、USBメモリ、光ディスク等)またはデータベース部200からデータを受信してもよい。ネットワークを介してデータを受信する場合は、ネットワークの種類は問わない。受信手段110は、例えば、Wi-fi等の無線LANを利用してデータを受信してもよいし、インターネットを介してデータを受信してもよい。
【0025】
受信手段110は、例えば、対象から取得されたデータを受信するように構成されている。例えば、受信手段110は、既知化合物または対象化合物を投与されたときの対象から取得されたデータを受信することができる。例えば、受信手段110は、化合物を投与されていないときの対象から取得されたデータを受信することができる。対象から取得されたデータは、公知の任意の手法によって取得され得る、対象の生体信号を示すデータである。対象の生体信号を示すデータは、時系列データまたは波の信号であれば任意のデータであり得、例えば、脳波データ、培養神経細胞のデータ、脳スライスのデータ、心筋細胞のデータ、インピーダンス計測のデータ、心電図データ、筋電図データ、脳表の血流データ、脳磁場データを含むが、これらに限定されない。
【0026】
脳波データは、例えば、脳波計を用いて測定された時系列の電位データである。具体的には、頭皮脳波(EEG)データは頭皮に貼付した電極を用いて測定された、神経活動による体表の電位時系列データである。皮質脳波(ECoG)データは頭蓋内の皮質上に留置した電極を用いて測定された、神経活動による皮質電位時系列データである。
【0027】
培養神経細胞のデータおよび心筋細胞のデータは、例えば、微小電極アレイ(MEA:Micro-Eelectrode Array)を用いて取得されることができる。このデータは、例えば、MEA上に神経細胞または心筋細胞を培養し、培養された神経細胞または心筋細胞に既知化合物または対象化合物を投与したときの神経細胞または心筋細胞の活動電位およびシナプス電流成分を測定することによって取得される。例えば、CMOSを利用するCMOS-MEAをMEAとして用いてもよい。CMOS-MEAを用いると、比較的に高分解能のデータを取得することが可能になる。
【0028】
心電図データは、例えば、心電計を用いて取得されることができる。筋電図データは、例えば、筋電計を用いて取得されることができる。脳表の血流データは、例えば、機能的近赤外分光分析法(fNIRS:functional Near-Infrared Spectroscopy)を用いて取得されることができる。脳磁場データは、例えば、脳磁計(MEG:Magnetoencephalography)を用いて取得されることができる。
【0029】
受信手段110は、対象から取得されたデータを任意の形式で受信することができる。受信手段110は、対象から取得されたデータを生データとして受信し得る。例えば、受信手段110は、対象から取得されたデータをウェーブレット画像として受信し得る。
【0030】
受信手段110は、対象から取得されたデータ以外にも任意の時系列データまたは波の信号を受信することができる。任意の時系列データは、例えば、音波を示すデータ、地震波を示すデータ、株価の変動を示すデータ等を含むが、これらに限定されない。
【0031】
受信手段110が受信したデータは、後続の処理のために、プロセッサ120に渡される。
【0032】
プロセッサ120は、コンピュータシステム100全体の動作を制御する。プロセッサ120は、メモリ130に格納されているプログラムを読み出し、そのプログラムを実行する。これにより、コンピュータシステム100を所望のステップを実行する装置として機能させることが可能である。プロセッサ120は、単一のプロセッサによって実装されてもよいし、複数のプロセッサによって実装されてもよい。プロセッサ120によって処理されたデータは、出力のために、出力手段140に渡される。
【0033】
メモリ130には、コンピュータシステム100における処理を実行するためのプログラムやそのプログラムの実行に必要とされるデータ等が格納されている。メモリ130には、例えば、ヒストグラム画像を作成するためのプログラム(例えば、後述する図5に示される処理を実現するプログラム)、または、対象の状態の予測のための画像認識モデル122を構築するためのプログラム(例えば、後述する図7に示される処理を実現するプログラム)、または、対象の状態を予測するためのプログラム(例えば、後述する図8に示される処理を実現するプログラム)が格納されている。メモリ130には、任意の機能を実装するアプリケーションが格納されていてもよい。ここで、プログラムをどのようにしてメモリ130に格納するかは問わない。例えば、プログラムは、メモリ130にプリインストールされていてもよい。あるいは、プログラムは、ネットワークを経由してダウンロードされることによってメモリ130にインストールされるようにしてもよい。あるいは、プログラムは、機械読み取り可能な非一過性記憶媒体に格納されていてもよい。メモリ130は、任意の記憶手段によって実装され得る。
【0034】
出力手段140は、コンピュータシステム100の外部にデータを出力することが可能であるように構成されている。出力手段140がどのような態様でコンピュータシステム100から情報を出力することを可能にするかは問わない。例えば、出力手段140が表示画面である場合、表示画面に情報を出力するようにしてもよい。あるいは、出力手段140がスピーカである場合には、スピーカからの音声によって情報を出力するようにしてもよい。あるいは、出力手段140がデータ書き込み装置である場合、コンピュータシステム100に接続された記憶媒体またはデータベース部200に情報を書き込むことによって情報を出力するようにしてもよい。あるいは、出力手段140が送信器である場合、送信器がネットワークを介してコンピュータシステム100の外部に情報を送信することにより出力してもよい。この場合、ネットワークの種類は問わない。例えば、送信器は、インターネットを介して情報を送信してもよいし、LANを介して情報を送信してもよい。例えば、出力手段140は、データの出力先のハードウェアまたはソフトウェアによって取り扱い可能な形式に変換して、または、データの出力先のハードウェアまたはソフトウェアによって取り扱い可能な応答速度に調整してデータを出力するようにしてもよい。
【0035】
コンピュータシステム100に接続されているデータベース部200には、例えば、対象の複数の既知の状態での生体信号を示すデータが格納され得る。対象の複数の既知の状態での生体信号を示すデータは、例えば、その状態を誘発する既知化合物と関連付けられてデータベース部200に格納されてもよい。データベース部200には、例えば、コンピュータシステム100によって出力されたデータ(例えば、予測された対象の状態、作成されたヒストグラム画像)が格納されてもよい。
【0036】
図1に示される例では、データベース部200は、コンピュータシステム100の外部に設けられているが、本発明はこれに限定されない。データベース部200をコンピュータシステム100の内部に設けることも可能である。このとき、データベース部200は、メモリ130を実装する記憶手段と同一の記憶手段によって実装されてもよいし、メモリ130を実装する記憶手段とは別の記憶手段によって実装されてもよい。いずれにせよ、データベース部200は、コンピュータシステム100のための格納部として構成される。データベース部200の構成は、特定のハードウェア構成に限定されない。例えば、データベース部200は、単一のハードウェア部品で構成されてもよいし、複数のハードウェア部品で構成されてもよい。例えば、データベース部200は、コンピュータシステム100の外付けハードディスク装置として構成されてもよいし、ネットワークを介して接続されるクラウド上のストレージとして構成されてもよい。
【0037】
図2Aは、プロセッサ120の構成の一例を示す。
【0038】
プロセッサ120は、少なくとも、画像作成手段121と、画像認識モデル122とを備える。
【0039】
画像作成手段121は、受信手段110によって受信されたデータからヒストグラム画像を作成するように構成されている。受信手段110によって受信されたデータは、ウェーブレット画像である。受信手段110によって受信されたデータがウェーブレット画像でない場合には、画像作成手段121は、受信手段110によって受信されたデータからウェーブレット画像を作成したうえで、作成されたウェーブレット画像からヒストグラム画像を作成するようにしてもよい。ここで、ヒストグラム画像は、スペクトル強度と、周波数と、分布比率との関係を示す画像である。一例において、ヒストグラム画像は、第1の軸がスペクトル強度を表し、第2の軸が周波数を表し、色が分布比率を表すカラーマップである。別の例において、ヒストグラム画像は、第1の軸がスペクトル強度を表し、第2の軸が周波数を表し、第3の軸が分布比率を表す3次元グラフである。
【0040】
図3Aは、ヒストグラム画像の一例を示し、図3Bは、ヒストグラム画像の別の例を示す。
【0041】
図3Aに示される例では、ヒストグラム画像は、カラーマップである。横軸は、スペクトル強度を表し、値が大きくなるほど、スペクトル強度が強いことを示している。縦軸は、周波数を表し、4Hz~250Hzの間の値が示されている。色の明暗は、分布比率を表している。明るい色ほど分布比率が高いことを示し、暗い色ほど分布比率が低いことを示している。
【0042】
図3Bに示される例では、ヒストグラム画像は、3次元グラフである。第1の軸がスペクトル強度を表し、第2の軸が周波数を表し、第3の軸が分布比率を表している。
【0043】
画像認識モデル122は、入力された画像を処理することにより、対象の状態を出力するように構成されている。画像認識モデル122は、訓練データセットによって訓練されている。画像作成手段121によって作成されたヒストグラム画像を画像認識モデル122に入力すると、画像認識モデル122は、対象の状態を予測し、出力する。画像認識モデル122によって予測される対象の状態は、例えば、例えば、神経疾患を有している状態、神経疾患を有していない状態、および、神経疾患の前兆状態を有している状態を含む。神経疾患は、例えば、痙攣、てんかん、ADHD、認知症、自閉症、統合失調症、うつ病等を含むが、これらに限定されない。画像認識モデル122によって予測される対象の状態は、例えば、例えば、痙攣、てんかん、ADHD、認知症、自閉症、統合失調症、うつ病のうちの少なくとも1つを有している状態、痙攣、てんかん、ADHD、認知症、自閉症、統合失調症、うつ病のうちのいずれも有していない状態、痙攣、てんかん、ADHD、認知症、自閉症、統合失調症、うつ病のうちの少なくとも1つの前兆を有している状態を含む。特定の実施形態では、画像認識モデル122によって予測される対象の状態は、痙攣症状を有している状態、痙攣症状を有していない状態、痙攣症状の前兆を有している状態を含む。
【0044】
プロセッサ120は、学習手段123をさらに備える。
【0045】
学習手段123は、訓練データセットを学習することにより、画像認識モデル122を訓練するように構成されている。訓練データセットは、例えば、対象の複数の既知の状態での生体信号を示すデータから作成された複数の訓練画像を含む。複数の訓練画像は、ヒストグラム画像であり得、ヒストグラム画像は、画像作成手段121によって作成されたものであってもよいし、コンピュータシステム100の外部から受信されたものであってもよい。
【0046】
訓練データセットのために用いられる対象の複数の既知の状態は、例えば、複数の既知化合物を対象に投与することによって達成される。複数の既知化合物は、既知の特性を有しており、対象に投与すると対象がどのような状態となるかが分かっている。学習手段123は、例えば、訓練データセットに含まれる複数の訓練画像と、複数の訓練画像に対応する既知の状態との関係を学習する。例えば、学習手段123は、複数の訓練画像を入力用教師データとし、対応する状態を出力用教師データとして学習することにより、画像認識モデル122を訓練することができる。これにより、画像認識モデル122は、対象の状態を予測して出力できるようになる。
【0047】
図4は、画像認識モデル122を構築するために利用されるニューラルネットワーク300の構造の一例を示す。
【0048】
ニューラルネットワーク300は、入力層と、少なくとも1つの隠れ層と、出力層とを有する。ニューラルネットワーク300の入力層のノード数は、入力されるデータの次元数に対応する。ニューラルネットワーク300の出力層のノード数は、出力されるデータの次元数に対応する。ニューラルネットワーク300の隠れ層は、任意の数のノードを含むことができる。ニューラルネットワークは、例えば、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)であり得る。
【0049】
ニューラルネットワーク300の隠れ層の各ノードの重み係数は、訓練データセットに基づいて計算され得る。この重み係数を計算する処理が、学習する処理である。例えば、対象の複数の既知の状態での生体信号を示すデータから作成された複数の訓練画像を入力層に入力した場合の出力層の値が、対応する既知の状態を示す値となるように、各ノードの重み係数が計算され得る。これは、例えば、バックプロパゲーション(誤差逆伝播法)によって行われることができる。学習に用いられる訓練データセットの量は多い方が好ましくあり得るが、多すぎる場合には過学習に陥りやすくなる。
【0050】
例えば、既知の状態として、痙攣症状を有している状態、痙攣症状を有していない状態、痙攣症状の前兆を有している状態を予測することができる画像認識モデル122を構築するために訓練する場合、学習する処理では、痙攣を誘発することが知られている既知化合物を対象に投与したときの対象から得られた生体信号を示すデータから作成された複数の訓練画像を利用する。例えば、(入力層に入力される訓練画像,出力層の値)の組は、(痙攣症状を有している状態での生体信号を示すデータから作成された訓練画像,[1])、
(痙攣症状を有してない状態での生体信号を示すデータから作成された訓練画像,[0])、
(痙攣症状の前兆を有している状態での生体信号を示すデータから作成された訓練画像,[0.5])
となる(出力層の1は痙攣症状を有している状態を示す値であり、0は痙攣症状を有していない状態を示す値であり、0.5は、痙攣症状の前兆を有している状態を示す値である)。学習する処理では、これらの組を満たすように、各ノードの重み係数が計算される。このように各ノードの重み係数が計算されたニューラルネットワーク300の理想の出力は、例えば、痙攣症状を有している状態での生体信号を示すデータから作成された画像を入力したときに出力層のノードが1を出力することである。しかしながら、実際は、生体信号を示すデータに混在するノイズ等の影響により、理想の出力を得ることは難しい。
【0051】
再び図2Aを参照すると、画像認識モデル122は、図2Aに示されるように、例えば、特徴量抽出モデル1221と、少なくとも1つの状態予測モデル1222を備えることが好ましくあり得る。これにより、画像認識モデル122による予測の精度が向上するからである。
【0052】
特徴量抽出モデル1221は、入力された画像を処理することにより、入力された画像の特徴量を抽出するように構成されている。特徴量抽出モデル1221は、訓練データセットによって訓練されている。例えば、画像作成手段121によって作成されたヒストグラム画像を特徴量抽出モデル1221に入力すると、特徴量抽出モデル1221は、そのヒストグラム画像の特徴量を抽出する。特徴量抽出モデルによって抽出される特徴量は、入力された画像にどのような特徴があるかを数値化したものである。
【0053】
特徴量抽出モデル1221は、例えば、既存の学習済み画像認識モデル(例えば、Alex Net、VGG-16等)を利用してもよいし、既存の学習済み画像認識モデルをさらに訓練して構築したモデルであってもよいし、図4に示されるようなニューラルネットワークを訓練して構築したモデルであってもよい。例えば、既存の学習済み画像認識モデルAlex Netであれば、入力された画像から4096次元の特徴量を抽出することができる。特徴量抽出モデルが抽出可能な特徴量の次元数は、2以上の任意の数であり得る。次元数が多いほど、画像認識モデル122による予測の精度が向上するが、次元数が多くなるほど処理負荷が増加する。
【0054】
特徴量抽出モデル1221が、既存の学習済み画像認識モデルをさらに訓練して構築したモデル、または、図4に示されるようなニューラルネットワークを訓練して構築したモデルである場合、特徴量抽出モデル1221は、学習手段123によって訓練される。特徴量抽出モデル1221は、点または波の特徴を良好に捉えた特徴量を出力することができるように訓練される。例えば、隠れ層の各ノードの重み係数は、点の画像または波の画像を訓練画像として入力層に入力した場合の出力層の値が、対応する点の画像または波の画像の特徴を示す値となるように、各ノードの重み係数が計算され得る。
【0055】
例えば、訓練画像として用いられる波形の画像は、サイン波の画像、各種ノイズ波形の画像、異なる脳部位の波形の画像であり、これに対応する出力の値は、対応する波形の名前である。このようにして訓練された特徴量抽出モデル1221は、既存の学習済み画像認識モデルで抽出される特徴量に比べて、対象の脳波データ(例えば、脳波データから作成されたヒストグラム画像、脳波データの波形画像)の特徴をより捉えた特徴量を抽出できるようになる。
【0056】
状態予測モデル1222は、特徴量抽出モデル1221によって抽出された特徴量の一部または全部を受け取り、受け取った特徴量を処理することにより、対象の状態を出力するように構成されている。状態予測モデル1222は、訓練データセットによって訓練されている。対象の複数の既知の状態での生体信号を示すデータから作成された画像について特徴量抽出モデル1221によって抽出された特徴量を状態予測モデル1222に入力すると、状態予測モデル1222は、対象の状態を予測し、出力する。状態予測モデル1222によって予測される対象の状態は、例えば、対象が痙攣症状を有している状態、対象が痙攣状態を有していない状態、対象が痙攣症状の前兆を有している状態を含む。これにより、ひいては、対象化合物が、痙攣を誘発する特性を有するか否かを予測することができるようになる。
【0057】
状態予測モデル1222は、例えば、図4に示されるようなニューラルネットワークを訓練して構築したモデルであり、状態予測モデル1222は、学習手段123によって訓練される。例えば、対象の複数の状態での生体信号を示すデータから作成された複数の訓練画像から特徴量抽出モデル1221によって抽出された特徴量を入力層に入力した場合の出力層の値が、対応する状態を示す値となるように、各ノードの重み係数が計算され得る。
例えば、既知の状態として、痙攣症状を有している状態、痙攣症状を有していない状態、痙攣症状の前兆を有している状態を予測することができる状態予測モデル1222を構築するために訓練する場合、学習する処理では、痙攣を誘発することが知られている既知化合物を対象に投与したときの対象から得られた生体信号を示すデータから作成された複数の訓練画像から特徴量抽出モデル1221によって抽出された特徴量を利用する。例えば、(入力層に入力される特徴量,出力層の値)の組は、
(痙攣症状を有している状態での生体信号を示すデータから作成された訓練画像から特徴量抽出モデル1221によって抽出された特徴量,[1])、
(痙攣症状を有してない状態での生体信号を示すデータから作成された訓練画像から特徴量抽出モデル1221によって抽出された特徴量,[0])、
(痙攣症状の前兆を有している状態での生体信号を示すデータから作成された訓練画像から特徴量抽出モデル1221によって抽出された特徴量,[0.5])
となる(出力層の1は痙攣症状を有している状態を示す値であり、0は痙攣症状を有していない状態を示す値であり、0.5は、痙攣症状の前兆を有している状態を示す値である)。学習する処理では、これらの組を満たすように、各ノードの重み係数が計算される。このように各ノードの重み係数が計算されたニューラルネットワーク300の理想の出力は、例えば、痙攣症状を有している状態での生体信号を示すデータから作成された画像から特徴量抽出モデル1221によって抽出された特徴量を入力したときに出力層のノードが1を出力することである。しかしながら、実際は、生体信号を示すデータに混在するノイズ等の影響により、理想の出力を得ることは難しい。
【0058】
画像認識モデル122は、複数の状態予測モデル1222を備えることができる。画像認識モデル122が複数の状態予測モデル1222を備える場合、複数の状態予測モデル1222のそれぞれは、例えば、上述した学習する処理と同様の処理を行うことにより訓練されることができる。例えば、複数の状態予測モデル1222よって予測する対象の状態をそれぞれ異ならせることにより、予測する対象の状態に応じて状態予測モデル1222を選択的に利用することが可能になる。これにより、複数の状態予測モデル1222各々の学習における処理負荷を軽減するとともに、種々の状態を予測する際の精度も向上させることができる。
【0059】
図2Bは、画像作成手段121の構成の一例を示す。
【0060】
画像作成手段121は、分割手段1211と、ヒストグラム作成手段1212と、結合手段1213とを備える。
【0061】
分割手段1211は、ウェーブレット画像を取得し、取得されたウェーブレット画像を複数の周波数帯に分割するように構成されている。ウェーブレット画像は、受信手段110によって受信されたものであってもよいし、受信手段110によって受信されたデータをウェーブレット変換することによって得られたものであってもよい。ウェーブレット画像は、例えば、受信手段110によって受信された脳波データをウェーブレット変換することによって作成されたウェーブレット画像であり得る。
【0062】
分割手段1211は、公知の任意の画像処理技術により、ウェーブレット画像を複数の周波数帯に分割することができる。
【0063】
分割手段1211は、任意の単位で、ウェーブレット画像を分割することができる。例えば、分割手段1211は、ウェーブレット画像の周波数軸方向の画素単位(例えば、1μHz、1mHz、1Hz、1kHz等)毎にウェーブレット画像を分割してもよい。あるいは、分割手段1211は、ウェーブレット画像の周波数軸方向の複数の画素毎にウェーブレット画像を分割してもよい。例えば、脳波データを分割する場合、分割手段1211は、少なくとも6個の周波数帯(例えば、δ波帯(約1Hz~約4Hz)、θ波帯(約4Hz~約8Hz)、α波帯(約8Hz~約12Hz)、β波帯(約12Hz~約30Hz)、γ波帯(約30Hz~約80Hz)、リップル波帯(約80Hz~約200Hz)
))に分割することが好ましく、好ましい実施形態では、少なくとも10個の周波数帯に分割し得る。また、脳波データを分割する場合には、約1Hz~約250Hzの周波数帯を含むように分割することが好ましく、特に、約1Hz~約4Hzの周波数帯、約4Hz~約8Hzの周波数帯、約4Hz~約8Hzの周波数帯、約8Hz~約12Hzの周波数帯、約12Hz~約30Hzの周波数帯、約30Hz~約80Hzの周波数帯、約100Hz~約200Hzの周波数帯を含むように分割することが好ましい。このように分割された周波数帯を含めることにより、これらの周波数帯のうちの少なくとも1つに現れ得る特定の状態(または疾患)特有の特徴をとらえることができ、これを学習に用いることにより、特定の状態(または疾患)にあることを予測することができるようになる。
【0064】
分割手段1211による分割数は、最終的なヒストグラム画像の周波数軸方向の画素数を決定する。分割手段1211による分割数が多いほど、最終的なヒストグラム画像の周波数軸方向の画素数が多くなり、分割数が少ないほど、最終的なヒストグラム画像の周波数軸方向の画素数が少なくなる。
【0065】
分割された後のウェーブレット画像は、周波数成分が除去されたウェーブレット画像となる。すなわち、分割手段1211による出力は、時間軸を有し、色がスペクトル強度を表す1次元のカラーマップとなる。例えばウェーブレット画像の周波数軸方向の複数の画素毎にウェーブレット画像を分割した場合には、各時間における複数の画素のスペクトル強度の平均値をとることによって、周波数成分を除去することができる。ここで、平均値をとる代わりに、任意の他の演算(例えば、最大値をとる、最小値をとる、中間値をとる、等を行うことにより、周波数成分を除去するようにしてもよい。
【0066】
ヒストグラム作成手段1212は、分割手段1211によって分割された後の複数の分割後ウェーブレット画像の各々について、スペクトル強度のヒストグラムを作成するように構成されている。ヒストグラムは、スペクトル強度を表す第1の軸と、度数を表す第2の軸とを有するグラフである。ヒストグラム作成手段1212は、分割後ウェーブレット画像中の各スペクトル強度の出現回数を計数することによって、ヒストグラムを作成することができる。
【0067】
結合手段1213は、作成された複数のヒストグラムを結合するように構成されている。結合手段1213は、周波数の順序で複数のヒストグラムを結合し、これにより、ヒストグラム画像が作成される。
【0068】
結合手段1213は、例えば、複数の2次元のヒストグラムを周波数軸方向に3次元的に結合することにより、3次元グラフであるヒストグラム画像を作成することができる。
【0069】
結合手段1213は、例えば、複数のヒストグラムの各々をカラーマップに変換し、複数のカラーマップを結合することにより、ヒストグラム画像を作成することができる。ここで、複数のヒストグラムから変換されるカラーマップは、色が分布比率を表すようになる。すなわち、2次元のヒストグラムをカラーマップに変換することにより、時間軸を有し、色が分布比率を表す1次元のカラーマップを生成することができる。複数の1次元のカラーマップを周波数軸方向に2次元的に結合することにより、2次元のカラーマップであるヒストグラム画像を作成することができる。
【0070】
図2Cは、プロセッサ120’の構成の一例を示す。プロセッサ部120’は、プロセッサ120の代わりにコンピュータシステム100が備えるプロセッサであってもよいし、プロセッサ120に加えてコンピュータシステム100が備えるプロセッサであってもよい。以下では、プロセッサ120の代わりにコンピュータシステム100が備えるプロセッサとして説明する。図2Aを参照して上述した例における構成要素と同じ構成要素には、同じ参照番号を付し、ここでは、詳細な説明を省略する。
【0071】
プロセッサ120’は、少なくとも、画像作成手段121と、抽出手段124と、比較手段125とを備える。
【0072】
画像作成手段121は、上述したように、受信手段110によって受信されたデータからヒストグラム画像を作成するように構成されている。作成されたヒストグラム画像は、抽出手段124に渡される。
【0073】
抽出手段124は、ヒストグラム画像から特徴量ベクトルを抽出するように構成されている。抽出手段124は、訓練データセットによって訓練され得る。例えば、画像作成手段121によって作成されたヒストグラム画像を抽出手段124に入力すると、抽出手段124は、そのヒストグラム画像の複数の特徴量(すなわち、特徴量ベクトル)を抽出する。抽出手段124によって抽出される特徴量は、入力されたヒストグラム画像にどのような特徴があるかを数値化したものである。
【0074】
抽出手段124は、例えば、特徴量抽出モデル1221と同様の構成を有し得る。抽出手段124は、例えば、既存の学習済み画像認識モデル(例えば、Alex Net、VGG-16等)を利用してもよいし、既存の学習済み画像認識モデルをさらに訓練して構築したモデルであってもよいし、図4に示されるようなニューラルネットワークを訓練して構築したモデルであってもよい。例えば、既存の学習済み画像認識モデルAlex Netであれば、入力された画像から4096次元の成分を有する特徴量ベクトルを抽出することができる。抽出手段124が抽出可能な特徴量の次元数は、2以上の任意の数であり得る。次元数が多いほど、予測の精度が向上するが、次元数が多くなるほど処理負荷が増加する。
【0075】
例えば、画像作成手段121が、既知化合物または対象化合物を投与されたときの対象から取得されたデータ(投与後データ)からヒストグラム画像を作成し、抽出手段124が、そのヒストグラム画像から特徴量ベクトル(投与後特徴量ベクトル)を抽出した場合、抽出手段124は、投与後特徴量ベクトルを、化合物を投与されていないときの対象から取得されたデータ(投与前データ)から作成されたヒストグラム画像から抽出された特徴量ベクトル(投与前特徴量ベクトル)で正規化することが好ましい。これにより、特徴量ベクトルに現れ得る個体差を低減することができるからである。正規化は、例えば、投与後特徴量ベクトルの各成分の値を、投与前特徴量ベクトルの対応する成分の値で除算することであってもよいし、投与後特徴量ベクトルの各成分の値を、投与前特徴量ベクトルの各成分の平均値で除算することであってもよい。
【0076】
抽出手段124によって抽出された特徴量ベクトルまたは抽出および正規化された特徴量ベクトルは、比較手段125に渡される。
【0077】
図3Cは、抽出手段124によって抽出された特徴量ベクトルの一例を示す。
【0078】
図3Cは、vehicle 5ml/kg、4-AP 6mg/kg、Strychnine 3mg/kg、Aspirin 3000mg/kg、Pilocarpine 400mg/kg、Tramadol 150mg/kgのそれぞれをラットに投与し、得られた脳波データから作成されたヒストグラム画像から抽出された4096次元の特徴量ベクトルを示している。横軸が特徴量の次元に対応し、縦軸が特徴量の値に対応している。4-AP、Strychnine、Pilocarpine、Tramadolは、痙攣陽性化合物として知られており、Aspirinは痙攣陰性化合物として知られている。本例では、各特徴量ベクトルは、化合物を投与されていないときのラットから取得されたデータ(投与前データ)から作成されたヒストグラム画像から抽出された特徴量ベクトルで正規化されている。投与の前後で変化がない特徴量の成分は、1となる。
【0079】
再度図2Cを参照すると、比較手段125は、特徴量ベクトルと複数の基準特徴量ベクトルとを比較するように構成されている。ここで、基準特徴量ベクトルは、既知化合物を投与されたときの対象から取得されたデータ(投与後データ)に由来する特徴量ベクトルを含み得る。すなわち、基準特徴量ベクトルは、既知化合物を投与されたときの対象から取得されたデータから画像作成手段121によって作成されたヒストグラム画像から、抽出手段124によって抽出された特徴量ベクトルを含み得る。基準特徴量ベクトルは、例えば、図3Cに示される、(b)4-AP 6mg/kgを投与したときに得られた特徴量ベクトル、(c)Strychnine 3mg/kgを投与したときに得られた特徴量ベクトル、(e)Pilocarpine 400mg/kgを投与したときに得られた特徴量ベクトル、(f)Tramadol 150mg/kgを投与したときに得られた特徴量ベクトルのうちの少なくとも1つを含む。比較手段125による比較は、対象化合物を投与されたときの対象から取得されたデータに由来する特徴量ベクトルと、既知化合物を投与されたときの対象から取得されたデータに由来する特徴量ベクトルとの比較であり得る。
【0080】
比較手段125は、例えば、対象化合物を投与されたときの対象から取得されたデータに由来する特徴量ベクトルの各成分の値と、既知化合物を投与されたときの対象から取得されたデータに由来する特徴量ベクトルの対応する成分の値とを値ベースで比較することができる。あるいは、比較手段125は、例えば、対象化合物を投与されたときの対象から取得されたデータに由来する特徴量ベクトルから作成された特徴量マップと、既知化合物を投与されたときの対象から取得されたデータに由来する特徴量ベクトルから作成された特徴量マップとを画像ベースで比較することができる。具体的には、比較手段125は、特徴量ベクトルをマッピングすることにより特徴量マップを作成することができ、作成された特徴量マップ同士を比較することができる。ここで、マッピングは、特徴量ベクトルの各成分の値に、対応する色または濃淡を割り当て、画像化することを意味し得る。例えば、特徴量マップの各画素が特徴量ベクトルの各成分に対応し、各画素の画素値が各成分の値に対応し得る。特徴量マップは、特徴量ベクトルの次元数に応じた任意のサイズを有し得る。一例において、4096次元の成分を有する特徴量ベクトルの場合、特徴量マップは、1×4096画素、2×2048画素、4×1024画素、8×512画素、16×256画素、32×128画素、64×64画素等のサイズを有し得る。
【0081】
比較手段125は、例えば、分析する対象に応じた基準データに対して有意差を有するか否かに応じて、特徴量ベクトルの各成分の値に、対応する色または濃淡を割り当てることができる。例えば、痙攣特性を分析する場合、基準データは、痙攣陰性化合物を投与したときに得られた特徴量ベクトル、または、vehiclを投与したときに得られた特徴量ベクトルであり得る。比較手段125は、例えば、特徴量ベクトルのある成分について、基準データの特徴量ベクトルの対応する成分に対して有意差を有する場合に、特定の色をその成分に対応する画素に割り当て、有意差を有しない場合に別の特定の色をその成分に対応する画素に割り当てる。これを特徴量ベクトルの全成分に対して行うことにより、特徴量マップが作成され得る。
【0082】
図3Dは、比較手段125によって作成された特徴量マップの一例を示す。
【0083】
図3Dは、図3Cに示された4つの特徴量ベクトルのそれぞれから作成された特徴量マップを示す。(a)は、4-AP 6mg/kgを投与したときに得られた特徴量ベクトルから作成された特徴量マップを示し、(b)は、Strychnine 3mg/kgを投与したときに得られた特徴量ベクトルから作成された特徴量マップを示し、(c)は、Pilocarpine 400mg/kgを投与したときに得られた特徴量ベクトルから作成された特徴量マップを示し、(d)は、Tramadol 150mg/kgを投与したときに得られた特徴量ベクトルから作成された特徴量マップを示す。上述したように、これらの特徴量ベクトルは、基準特徴量ベクトルであり得るため、これらの特徴量マップは、基準特徴量マップとなり得る。本例では、4096次元の成分を64×64画素の画像で表している。図3Cに示されるグラフの特徴量のうち第1~第64の特徴量が第1の行に対応し、第65~第128の特徴量が第2の行に対応し、・・・第4033~第4096の特徴量が第64の行に対応している。痙攣陰性化合物(Aspirin 3000mg/kg)を投与したときに得られた特徴量ベクトル、および、vehiclを投与したときに得られた特徴量ベクトルの両方に対して有意差を有する成分に対応する画素が黒色で示され、有意差を有しない成分に対応する画素が白色で示されている。黒色で示された画素に対応する成分は、痙攣特性を分析する際に有用な特徴量であり得る。
【0084】
比較手段125は、対象化合物を投与されたときの対象から取得されたデータに由来する特徴量ベクトルから作成された特徴量マップと、複数の基準特徴量マップとを比較することができる。例えば、比較手段125は、対象化合物を投与されたときの対象から取得されたデータに由来する特徴量ベクトルから作成された特徴量マップが、複数の基準特徴量マップのうちのどの基準特徴量マップに類似するかを識別するように、特徴量マップと複数の基準特徴量マップとを比較することができる。例えば、比較手段125は、対象化合物を投与されたときの対象から取得されたデータに由来する特徴量ベクトルから作成された特徴量マップに類似する順に複数の基準特徴量マップを順位付けるように、特徴量マップと複数の基準特徴量マップとを比較することができる。
【0085】
比較手段125は、例えば、対象化合物を投与されたときの対象から取得されたデータに由来する特徴量ベクトルから作成された特徴量マップと、複数の基準特徴量マップのそれぞれとのパターンマッチングを行うことができる。例えば、比較手段125は、複数の基準特徴量マップを学習した学習済モデルを用いてパターンマッチングを行うことができる。学習済モデルは、複数の基準特徴量マップと、それぞれのラベルとを学習しており、未学習の基準特徴量マップを入力すると、既学習の基準特徴量マップのうちのどれに類似するか、あるいは、既学習の基準特徴量マップのそれぞれとの類似度を出力することができる。この出力により、特徴量マップが、複数の基準特徴量マップのうちのどの基準特徴量マップに類似するかを識別することができ、または、複数の基準特徴量マップが特徴量マップに類似する順序を特定することができる。
【0086】
一例において、比較手段125は、特徴量マップと、複数の基準特徴量マップを合わせた1つの基準特徴量マップとを比較することができる。これは、複数の基準特徴量マップとの比較を一度にできる点で好ましい。
【0087】
図3Eは、複数の基準特徴量マップを合わせた1つの基準特徴量マップの一例を示す。
【0088】
図3Eは、図3Dに示された4つの基準特徴量マップを合わせた1つの基準特徴量マップを示す。この基準特徴量マップでは、有意差を有しない成分に対応する画素が白色(0)で示されており、有意差を有する成分に対応する画素が白色以外の色で示されている。特に、有意差を有する成分が、4つの基準特徴量マップのうちのいくつにおいて共通するかに応じた色で示されている。図3Eでは、4つの基準特徴量マップのすべてにおいて共通して有意差を有する成分に対応する画素が、黒色(4)で示されており、3つの基準特徴量マップにおいて共通して有意差を有する成分に対応する画素が、最も濃い灰色(3)で示されており、2つの基準特徴量マップにおいて共通して有意差を有する成分に対応する画素が、次に濃い灰色(2)で示されている。4-APの基準特徴量マップのみに存在する有意差を有する成分に対応する画素が、その次に濃い灰色(1)で示されており、Strychnineの基準特徴量マップのみに存在する有意差を有する成分に対応する画素が、その次に濃い灰色(1)で示されており、Pilocarpineの基準特徴量マップのみに存在する有意差を有する成分に対応する画素が、その次に濃い灰色(1)で示されており、Tramadolの基準特徴量マップのみに存在する有意差を有する成分が、最も薄い灰色で示されている。
【0089】
比較手段125は、例えば、対象化合物を投与されたときの対象から取得されたデータに由来する特徴量ベクトルから作成された特徴量マップ内の有意差を有する成分に対応する画素が、1つの基準特徴量マップ内どの色の画素に最も多く対応するかを算出することで、特徴量マップが、複数の基準特徴量マップのうちのどの基準特徴量マップに類似するかを識別することができる。あるいは、比較手段125は、例えば、対象化合物を投与されたときの対象から取得されたデータに由来する特徴量ベクトルから作成された特徴量マップ内の有意差を有する成分に対応する画素が、1つの基準特徴量マップ内の各色の画素とどれだけ多く対応するかを算出することで、複数の基準特徴量マップが特徴量マップに類似する順序を特定することができる。
【0090】
例えば、対象化合物を投与されたときの対象から取得されたデータに由来する特徴量ベクトルから作成された特徴量マップが、4-APの基準特徴量マップに類似することが識別された場合、対象化合物は、4-APであるかまたは4-APに類似する特性を有する化合物であることが予測され得る。例えば、対象化合物を投与されたときの対象から取得されたデータに由来する特徴量ベクトルから作成された特徴量マップが、Strychnineの基準特徴量マップに類似することが識別された場合、対象化合物は、StrychnineであるかまたはStrychnineに類似する特性を有する化合物であることが予測され得る。
【0091】
例えば、対象化合物を投与されたときの対象から取得されたデータに由来する特徴量ベクトルから作成された特徴量マップが、Pilocarpineの基準特徴量マップおよびTramadolの基準特徴量マップの両方に類似することが識別された場合、対象化合物は、PilocarpineおよびTramadolに共通する特性を有する化合物であることが予測され得る。
【0092】
例えば、対象化合物を投与されたときの対象から取得されたデータに由来する特徴量ベクトルから作成された特徴量マップが、Pilocarpineの基準特徴量マップ、Tramadolの基準特徴量マップ、およびTramadolの基準特徴量マップに類似することが識別された場合、対象化合物は、Pilocarpine、Tramadol、Tramadolに共通する特性を有する化合物であることが予測され得る。このような対象化合物は、例えば、少なくとも痙攣毒性を有することが予測される。
【0093】
例えば、対象化合物を投与されたときの対象から取得されたデータに由来する特徴量ベクトルから作成された特徴量マップが、Pilocarpineの基準特徴量マップに最も類似し、次にTramadolの基準特徴量マップに類似することが識別された場合、対象化合物は、Pilocarpineに類似する特性を主として有し、Tramadolに類似する特性も有する化合物であることが予測され得る。
【0094】
このように、プロセッサ120’は、対象化合物がどの既知化合物に類似するかを予測することができ、さらには、対象化合物の特性、および、対象化合物の特性の順位付けを予測することができる。
【0095】
上述した例では、コンピュータシステム100の各構成要素がコンピュータシステム100内に設けられているが、本発明はこれに限定されない。コンピュータシステム100の各構成要素のいずれかがコンピュータシステム100の外部に設けられることも可能である。例えば、プロセッサ120、メモリ130のそれぞれが別々のハードウェア部品で構成されている場合には、各ハードウェア部品が任意のネットワークを介して接続されてもよい。このとき、ネットワークの種類は問わない。各ハードウェア部品は、例えば、LANを介して接続されてもよいし、無線接続されてもよいし、有線接続されてもよい。コンピュータシステム100は、特定のハードウェア構成には限定されない。例えば、プロセッサ120をデジタル回路ではなくアナログ回路によって構成することも本発明の範囲内である。コンピュータシステム100の構成は、その機能を実現できる限りにおいて上述したものに限定されない。
【0096】
上述した例では、プロセッサ120、120’の各構成要素が同一のプロセッサ120、120’内に設けられているが、本発明はこれに限定されない。プロセッサ120、120’の各構成要素が、複数のプロセッサ部に分散される構成も本発明の範囲内である。
【0097】
上述した例では、受信手段110が受信したデータに基づいて、画像作成手段121がヒストグラム画像を作成することを説明したが、本発明は、これに限定されない。例えば、コンピュータシステム100の外部で作成されたヒストグラム画像を受信手段110が受信するようにしてもよい。このとき、画像作成手段121は省略されてもよく、画像認識モデル122は、ヒストグラム画像を受信手段110から直接受け取ることができる。
【0098】
4.対象の状態を予測するためのコンピュータシステムによる処理
図5は、対象の状態を予測するためのコンピュータシステム100による処理の一例を示すフローチャートである。図5に示される例では、対象の状態の予測のために利用されるヒストグラム画像を作成するための処理500を説明する。図6は、処理500によってヒストグラム画像を作成する具体的な例を示す。以下に説明する例では、処理500がプロセッサ120において実行されることを説明するが、処理500がプロセッサ120’においても同様に実行されることが理解される。
【0099】
ステップS501では、プロセッサ部120の画像作成手段121がウェーブレット画像を取得する。ウェーブレット画像は、対象から取得されたデータをウェーブレット変換して得られた画像である。取得されるウェーブレット画像は、受信手段110がコンピュータシステム100の外部から受信したものであってもよいし、受信手段110が受信したデータをプロセッサ部120がウェーブレット変換をすることによって得られたものであってもよい。
【0100】
例えば、ステップS501では、図6(a)に示されるようなウェーブレット画像が取得される。図6(a)に示されるウェーブレット画像は、或る被験者から取得された脳波波形の或る60秒間の波形をウェーブレット変換することによって得られたスペクトログラムであり、1Hz単位での4Hz~250Hzのスペクトル強度を時系列に表している。
【0101】
取得されたウェーブレット画像は、分割手段1211に渡される。
【0102】
ステップS502では、画像分割手段1211が、ステップS501で取得されたウェーブレット画像を複数の周波数帯に分割する。分割手段1211は、公知の任意の画像処理技術により、ウェーブレット画像を複数の周波数帯に分割することができる。また、分割手段1211は、任意の単位で、ウェーブレット画像を分割することができる。
【0103】
例えば、ステップS502では、図6(b)に示されるように、図6(a)に示されるウェーブレット画像が複数の周波数帯に分割される。図6(b)に示される例では、説明の簡略化のために、4Hz、10Hz、50Hz、100Hz、250Hzの周波数帯のみが示されているが、ウェーブレット画像は、これらの周波数帯の間に介在する周波数帯にも分割される。すなわち、ウェーブレット画像は、4Hz~250Hzまでの計247個に分割される。
【0104】
分割後のウェーブレット画像は、時間軸を有し、色がスペクトル強度を表す1次元のカラーマップとなる。
【0105】
ステップS503では、ヒストグラム作成手段1212がステップS502で分割された後の複数の分割後ウェーブレット画像の各々について、スペクトル強度のヒストグラムを作成する。ヒストグラム作成手段1212は、分割後ウェーブレット画像中の各スペクトル強度の出現回数を計数することによって、ヒストグラムを作成することができる。ヒストグラムは、横軸がスペクトル強度を表し、縦軸が各スペクトル強度の出現回数(または、分布比率)を表す。
【0106】
例えば、ステップS503では、図6(c)に示されるように、図6(b)で分割された後の複数の分割後ウェーブレット画像からヒストグラムが作成される。図6(c)に示される例では、説明の簡略化のために、4Hz、10Hz、50Hz、100Hz、250Hzの周波数帯の分割後ウェーブレット画像から作成されたヒストグラムのみが示されているが、ヒストグラムは、これらの周波数帯の間に介在する周波数帯にも作成される。すなわち、ヒストグラムは、4Hz~250Hzまでの計247個作成される。ヒストグラムは、横軸がスペクトル強度を表し、縦軸が各スペクトル強度の分布比率を表す2次元のヒストグラムである。縦軸は、最も多い出現回数を100%としたときの分布比率となっている。
【0107】
ステップS504では、結合手段1213が、ステップS503で作成された複数のヒストグラムを結合する。結合手段1213は、周波数の順序で複数のヒストグラムを結合し、これにより、ヒストグラム画像が作成される。
【0108】
結合手段1213は、例えば、複数の2次元のヒストグラムを周波数軸方向に3次元的に結合することにより、3次元グラフであるヒストグラム画像を作成することができる。
【0109】
結合手段1213は、例えば、複数のヒストグラムの各々をカラーマップに変換し、複数のカラーマップを結合することにより、ヒストグラム画像を作成することができる。ここで、複数のヒストグラムから変換されるカラーマップは、色が分布比率を表すようになる。すなわち、2次元のヒストグラムをカラーマップに変換することにより、時間軸を有し、色が分布比率を表す1次元のカラーマップを生成することができる。複数の1次元のカラーマップを周波数軸方向に2次元的に結合することにより、2次元のカラーマップであるヒストグラム画像を作成することができる。
【0110】
例えば、ステップS504では、図6(d)に示されるように、図6(c)で作成された247個のヒストグラムから変換される247個のカラーマップを周波数軸方向に2次元的に結合することにより、ヒストグラム画像が作成される。
【0111】
このようにして作成されたヒストグラム画像は、画像認識モデルを用いた対象の状態の予測のために好適である。第一に、ヒストグラム画像では、ヒストグラム画像の作成に用いた時系列データ(例えば、ウェーブレット画像)に含まれる時間情報が削除されているため、時系列データの特徴を画像として学習させやすいという利点がある。第二に、ヒストグラム画像の作成に用いられる時系列データの時間窓をずらした場合にも同様の特徴を有するヒストグラム画像を作成することができ、学習に用いられる画像を増加させることができるという利点がある。第三に、検体間差に依存せずに周波数強度分布の特徴を検出することができるため、予測精度を向上させることができるという利点がある。
【0112】
図7は、対象の状態を予測するためのコンピュータシステム100による処理の一例を示すフローチャートである。図7に示される例では、対象の状態の予測のための画像認識モデル122を構築するための処理700を説明する。
【0113】
コンピュータシステム100が受信手段110を介して、対象の複数の既知の状態での生体信号を示すデータを受信すると、受信されたデータはプロセッサ120に渡される。
【0114】
ステップS701では、プロセッサ120の画像作成手段121が、対象の複数の既知の状態での生体信号を示すデータから複数の訓練画像を作成する。複数の訓練画像は、ヒストグラム画像であり、画像作成手段121は、図5を参照して上述した処理500によって、複数のヒストグラム画像を作成することができる。
【0115】
ステップS702では、プロセッサ120の学習手段123が、複数の訓練画像を含む訓練データセットを学習する。例えば、学習手段123は、複数の訓練画像と、複数の訓練画像に対応する既知の状態との関係を学習する。これは、例えば、図4を参照して上述したように、ニューラルネットワークにおいて、複数の訓練画像を入力層に入力した場合の出力層の値が、対応する対象の状態を示す値となるように、各ノードの重み係数を計算することによって行われる。
【0116】
このようにして構築された対象の状態の予測のための画像認識モデル122は、後述する対象の状態を予測するための処理において利用され得る。
【0117】
図8Aは、対象の状態を予測するためのコンピュータシステム100による処理の一例を示すフローチャートである。図8Aに示される例では、対象の状態を予測するための処理800を説明する。
【0118】
ステップS801では、コンピュータシステム100が受信手段110を介して、対象の生体信号を示すデータを受信する。受信手段110は、対象の生体信号を示すデータをウェーブレット画像として受信し得る。あるいは、受信手段110は、対象から取得されたデータをウェーブレット画像以外の形式で受信し得る。
【0119】
受信されたデータは、プロセッサ120に渡され、プロセッサ120がこれを受信する。
【0120】
ステップS802では、プロセッサ120の画像作成手段121が、受信手段110によって受信された生体信号を示すデータからヒストグラム画像を作成する。画像作成手段121は、受信手段110によって受信されたウェーブレット画像からヒストグラム画像を作成することができる。受信手段110によって受信されたデータがウェーブレット画像でない場合には、画像作成手段121は、受信手段110によって受信されたデータからウェーブレット画像を作成したうえで、作成されたウェーブレット画像からヒストグラム画像を作成するようにしてもよい。
【0121】
画像作成手段121は、例えば、図5を参照して上述した処理500によって、複数のヒストグラム画像を作成することができる。
【0122】
ステップS803では、プロセッサ120が、ステップS802で作成されたヒストグラム画像を画像認識モデル122に入力する。画像認識モデル122は、図7を参照して上述した処理700によって訓練されている。
【0123】
ステップS804では、プロセッサ120が、画像認識モデル122において画像を処理し、対象の状態を出力する。このようにして、対象の状態を予測することができる。
【0124】
図8Bは、対象の状態を予測するためのコンピュータシステム100による処理の一例を示すフローチャートである。図8Bに示される例では、対象化合物の特性を予測するための処理810を説明する。
【0125】
ステップS811では、コンピュータシステム100が受信手段110を介して、対象化合物を対象に投与した後の対象の生体信号を示す投与後データを受信する。受信手段110は、投与後データをウェーブレット画像として受信し得る。あるいは、受信手段110は、投与後データをウェーブレット画像以外の形式で受信し得る。受信手段110は、対象化合物を対象に投与する前の対象の生体信号を示す投与前データも受信するようにしてもよい。
【0126】
受信されたデータは、プロセッサ120’に渡され、プロセッサ120’がデータを受信する。
【0127】
ステップS812では、プロセッサ120’の画像作成手段121が、ステップS811で受信された投与後データからヒストグラム画像を作成する。ステップS812では、ステップS802と同様の処理によって、ヒストグラム画像が作成される。ステップS811で投与前データも受信された場合には、画像作成手段121は、投与前データからもヒストグラム画像を作成することができる。
【0128】
ステップS813では、プロセッサ120’の抽出手段124が、ステップS812で作成されたヒストグラム画像から特徴量ベクトルを抽出する。抽出手段124は、例えば、学習済み画像認識モデルを利用して特徴量ベクトルを抽出することができる。例えば、図3Cに示されるような特徴量ベクトルが抽出される。
【0129】
ステップS812で投与前データからヒストグラム画像が作成された場合には、抽出手段124は、投与前データから作成されたヒストグラム画像からも特徴量ベクトルを抽出することができる。これにより、抽出手段124は、投与後データからの特徴量ベクトル(投与後特徴量ベクトル)を投与前データからの特徴量ベクトル(投与前特徴量ベクトル)で正規化することができる。これは、特徴量ベクトルに現れ得る個体差を低減することができる点で好ましい。正規化は、例えば、投与後特徴量ベクトルの各成分の値を、投与前特徴量ベクトルの対応する成分の値で除算することであってもよいし、投与後特徴量ベクトルの各成分の値を、投与前特徴量ベクトルの各成分の平均値で除算することであってもよい。
【0130】
ステップS814では、プロセッサ120’の比較手段125が、ステップS813で抽出された特徴量ベクトルと複数の基準特徴量ベクトルとを比較する。ステップS813で特徴量ベクトルが正規化された場合には、比較手段125は、正規化された特徴量ベクトルと、複数の基準特徴量ベクトルとを比較する。
【0131】
コンピュータシステム100では、処理810を開始する前に、基準特徴量ベクトルを抽出する処理が行われている。基準特徴量ベクトルを抽出する処理は、既知化合物を対象に投与した後の対象の生体信号を示す投与後データに対するステップS811~ステップS813の処理であり得る。すなわち、基準特徴量ベクトルを抽出する処理は、既知化合物を対象に投与した後の対象の生体信号を示す投与後データを受信することと、既知化合物の投与後データからヒストグラム画像を作成することと、ヒストグラム画像から基準特徴量ベクトルを抽出することとを含み得る。基準特徴量ベクトルを抽出する処理は、既知化合物を対象に投与する前の対象の生体信号を示す投与前データを受信することと、既知化合物の投与前データからヒストグラム画像を作成することと、ヒストグラム画像から投与前基準特徴量ベクトルを抽出することと、投与後基準特徴量ベクトルを投与前基準特徴量ベクトルで正規化することとをさらに含むことが好ましい。
【0132】
比較手段125は、例えば、特徴量ベクトルの各成分の値と、ステップS813で抽出された基準特徴量ベクトルの対応する成分の値とを値ベースで比較することができる。あるいは、比較手段125は、例えば、ステップS813で抽出された特徴量ベクトルから作成された特徴量マップと、基準特徴量ベクトルから作成された基準特徴量マップとを画像ベースで比較することができる。比較手段125は、例えば、特徴量ベクトルおよび基準特徴量ベクトルとの両方に対して、図3Dまたは図3Eに示されるような特徴量マップを作成し、作成された特徴量マップを用いて比較することができる。
【0133】
比較手段125は、例えば、特徴量マップと複数の基準特徴量マップのそれぞれ(例えば、図3Dに示される基準特徴量マップ)とのパターンマッチングを行うことができる。あるいは、比較手段125は、例えば、特徴量マップと、複数の基準特徴量マップを併せた1つの特徴量マップ(例えば、図3Eに示される基準特徴量マップ)とのパターンマッチングを行うことができる。これにより、特徴量マップが、複数の基準特徴量マップのうちのどの基準特徴量マップに類似するかを識別することができ、または、複数の基準特徴量マップが特徴量マップに類似する順序を特定することができる。
【0134】
ステップS815では、プロセッサ120’が、ステップS814の結果に基づいて、対象化合物の特性を予測する。プロセッサ120’は、例えば、特徴量ベクトルが最も類似するとされる基準特徴量ベクトルに対応する既知化合物の特性を、対象化合物の特性として予測することができる。あるいは、プロセッサ120’は、例えば、特徴量ベクトルが類似するとされるいくつかの基準特徴量ベクトルに対応するいくつかの既知化合物の特性を、対象化合物の特性として予測することができる。あるいは、プロセッサ120’は、例えば、特徴量ベクトルが類似するとされるいくつかの基準特徴量ベクトルに対応するいくつかの既知化合物の特性を、類似する順に、対象化合物の特性である可能性が高いとして予測することができる。
【0135】
プロセッサ120’は、例えば、特徴量マップが最も類似するとされる基準特徴量マップに対応する既知化合物の特性を、対象化合物の特性として予測することができる。あるいは、プロセッサ120’は、例えば、特徴量マップが類似するとされるいくつかの基準特徴量マップに対応するいくつかの既知化合物の特性を、対象化合物の特性として予測することができる。あるいは、プロセッサ120’は、例えば、特徴量マップが類似するとされるいくつかの基準特徴量マップに対応するいくつかの既知化合物の特性を、類似する順に、対象化合物の特性である可能性が高いとして予測することができる。
【0136】
このように、処理810により、対象化合物がどの既知化合物に類似するかを予測することができ、さらには、対象化合物の特性、および、対象化合物の特性の順位付けを予測することができる。
【0137】
処理810は、処理800と組み合わせることにより、予測された対象の状態が、対象化合物のどのような特性に因るものであるかを予測することができる。この予測は、例えば、神経疾患の創薬および神経毒性の評価に応用可能である。
【0138】
上述した例では、特定の順序で処理が行われることを説明したが、各処理の順序は説明されたものに限定されず、論理的に可能な任意の順序で行われることに留意されたい。
【0139】
図5図7図8A図8Bを参照して上述した例では、図5図7図8A図8Bに示される各ステップの処理は、プロセッサ120およびメモリ130に格納されたプログラムによって実現することが説明されたが、本発明はこれに限定されない。図5図7図8A図8Bに示される各ステップの処理のうちの少なくとも1つは、制御回路などのハードウェア構成によって実現されてもよい。
【実施例
【0140】
(実施例1)
投与前15分間の皮質脳波を取得した後に、5つの痙攣陽性薬剤(4-AP、Strychnine、Pilocarpine、Isoniazid、PTZ)をそれぞれ3mg/kg、1mg/kg、150mg/kg、150mg/kg、30mg/kg検体に投与した際の皮質脳波を2時間または死亡するまで取得した。ここでは、検体としてラットを用いた。薬剤投与前後の一般状態観察記録から、以下の3つの状態を設定した。
(1)投与前
(2)前兆状態(痙攣発作の前駆症状であるひきつり後~1時間迄)
(3)痙攣(間代性痙攣等の痙攣発作後~死亡迄)
【0141】
取得された皮質脳波を60秒の時間窓で区切り、時間窓を30秒ずつずらした各データをウェーブレット変換し、ウェーブレット画像を得た。その後、得られたウェーブレット画像に対して図5を参照して上述した処理500を施すことにより、60秒の時間窓を30秒ずつずらした複数のヒストグラム画像を得た。
【0142】
上記3つの状態毎に、ヒストグラム画像の特徴量を抽出した。特徴量抽出モデルには既存の学習済み画像認識モデルであるAlex Netを利用した。特徴量抽出モデルによって抽出された4096次元の特徴量を状態予測モデルに入力し学習させた。状態予測モデルには、投与前263枚、前兆220枚、痙攣637枚のヒストグラム画像の特徴量を入力し、学習させた。状態予測モデルは、4096ユニットの入力層と10層の隠れ層、1ユニットの出力層で構成されており、出力層の値により、投与前状態、痙攣前兆状態、痙攣状態のいずれであるかを予測可能なように訓練した。
【0143】
状態予測モデルの訓練後、未学習のデータを状態予測モデルに投入した場合に、3つの状態のいずれを予測するかを実験し、3状態の分離制度を検証した(実験1)。投入したデータは、投与前118枚、前兆85枚、痙攣277枚のヒストグラム画像である。
【0144】
さらに、状態予測モデルの訓練後、前兆のみ見られた検体について、未学習のデータを含む薬剤投与直後から約2時間のヒストグラム画像を投入し、状態の遷移を予測した(実験2)。
【0145】
図9は、実験1の結果を示す図である。
【0146】
図9の表は、実ラベルで示される実際の状態のヒストグラム画像に対して、状態予測モデルがどの状態であると予測したかを示している。状態予測モデルは、投与前の118枚のヒストグラム画像に対して、99枚を投与前状態であると予測し、9枚を前兆状態であると予測し、10枚を痙攣状態であると予測した。また、状態予測モデルは、前兆状態の85枚のヒストグラム画像に対して、16枚を投与前状態であると予測し、49枚を前兆状態であると予測し、20枚を痙攣状態であると予測した。また、状態予測モデルは、痙攣状態の277枚のヒストグラム画像に対して、7枚を投与前状態であると予測し、14枚を前兆状態であると予測し、256枚を痙攣状態であると予測した。
【0147】
この結果から、正確度((真陽性+真陰性)/全体)は、84.2%であった。特異度(真陰性/(偽陽性+真陰性))は、83.9%であった(すなわち、偽陽性の確率は、16.1%であった)。前兆の感度(真陽性/(真陽性+偽陰性))は、57.6%であ
った。前兆の精度(真陽性/(真陽性+偽陽性))は、68.1%であった。痙攣の感度は、92.4%であった。痙攣の精度は、89.5%であった。この結果から、状態予測モデルにより、投与前状態および痙攣状態を高い精度で予測できていることがわかる。前兆状態の感度が57.6%に留まっているが、前兆状態の波形は、一般状態観察に基づい
て研究者が分類したものであり、前兆状態には、投与前状態および痙攣状態も混在していると考えられる。従って、前兆状態と痙攣状態とを合わせると81.2%で痙攣リスクを予測していることになり、痙攣リスク予測を高い精度で予測できているといえる。前兆状態における波形を状態予測モデルが正しく判定していると考察することもできる。
【0148】
図10は、実験2の結果を示す図である。
【0149】
図10のグラフは、横軸が時間を表し、縦軸が状態を表しており、状態予測モデルがどの状態を予測したかを時系列で示している。状態予測モデルは、1618秒~4318秒のヒストグラム画像を前兆状態として学習している。
【0150】
この結果から、学習予測モデルは、学習した前兆範囲は概ね前兆状態として予測できていることが分かる。また、一般状態観察記録では前兆状態として設定しなかった部分(600~1500秒)も概ね前兆状態として予測していることが分かる。このことは、一般状態観察記録では捉えることができない前兆状態までも、状態予測モデルによってとらえることができることを示唆している。すなわち、状態予測モデルを用いて前兆状態を予測することにより、前兆状態を早期に発見して、これを診断および早期治療、予防に役立てることができると考えられる。
【0151】
(実施例2:従来法との比較)
脳波解析において従来行われているFFTスペクトル強度を痙攣前兆および痙攣発作を検出するために利用する従来法と、本発明のヒストグラム画像を用いて対象の状態を予測する方法とを比較した。
【0152】
ビヒクルおよび3つの痙攣陽性薬剤(4-AP、Isoniazid、Pilocarpine)を検体に投与した際の脳波を取得した。ここでは、検体としてラットを用いた。痙攣前兆状態を誘発するために、3つの痙攣陽性薬剤(4-AP、Isoniazid、Pilocarpine)をそれぞれ3mg/kg、150mg/kg、150mg/kg投与した。痙攣発作状態を誘発するために、3つの痙攣陽性薬剤(4-AP、Isoniazid、Pilocarpine)をそれぞれ6mg/kg、300mg/kg、400mg/kg投与した。薬剤投与前後の一般状態観察記録から、(1)投与前、(2)投与直後(薬剤の効果が表れる前)、(3)痙攣前兆状態、(4)痙攣発作状態に脳波データを分類した。
【0153】
従来法では、分類した脳波データのそれぞれに対して、FFT(高速フーリエ変換)を行い、周波数スペクトルを算出した。算出された周波数スペクトルのうち、4~200Hz帯の周波数スペクトルについて、スペクトル強度の合計値を算出した。薬剤投与前のデータから得られた周波数スペクトルのスペクトル強度の合計値を100%として、各スペクトル強度の合計値を正規化した。
【0154】
本発明のヒストグラム画像を用いて対象の状態を予測する方法では、分類した脳波データのそれぞれから、4~250Hz帯のヒストグラム画像を作成した。具体的には、分類した脳波データのそれぞれに対して、取得された脳波を60秒の時間窓で区切り、時間窓を30秒ずつずらした各データをウェーブレット変換し、ウェーブレット画像を得た。その後、得られたウェーブレット画像に対して図5を参照して上述した処理500を施すことにより、60秒の時間窓を30秒ずつずらした複数のヒストグラム画像を得た。
【0155】
投与前、痙攣前兆状態、および痙攣発作状態の3つの状態毎に、ヒストグラム画像の特徴量を抽出した。特徴量抽出モデルには既存の学習済み画像認識モデルであるAlex Netを利用した。特徴量抽出モデルによって抽出された4096次元の特徴量を状態予測モデルに入力し学習させた。状態予測モデルは、投与前状態である確率、痙攣前兆状態である確率、痙攣発作状態である確率の3つの確率を出力可能なように訓練した。学習データの予測結果から、投与前状態についてのROC曲線を作成し、投与前状態である確率を用いて判定するときの最適な投与前確率の閾値をROC曲線の最適動作点から算出した。毒性スコアを
毒性スコア=1-投与前確率
と定義した。最適動作点での毒性スコアは、0.1308となった。最適動作点の毒性スコア閾値(0.1308)以上の毒性スコアを有する画像を毒性ありと判定した。毒性確率を 毒性確率=毒性ありと判定された枚数/全画像枚数×100(%)
と定義した。
【0156】
状態予測モデルの訓練後、未学習のデータを状態予測モデルに投入した場合に、ビヒクル投与時、痙攣前兆状態、痙攣発作状態のそれぞれの毒性確率を算出することで、痙攣前兆状態および痙攣発作状態の検出を試みた(実験1)。
【0157】
さらに、状態予測モデルの訓練後、ビヒクル投与直後のデータおよびビヒクル投与後60分のデータを状態予測モデルに投入した場合の毒性スコアおよび毒性確率を算出することで、ビヒクル投与による予測への影響を調査した(実験2)。
【0158】
図11は、従来法による結果を示す図である。
【0159】
図11(a)は、ビヒクルの投与直後および投与後60分の結果、ならびに、3つの痙攣陽性薬剤(4-AP、Isoniazid、Pilocarpine)をそれぞれ3mg/kg、150mg/kg、150mg/kg投与したときの投与直後および痙攣前兆時の結果を示し、図11(b)は、ビヒクルの投与直後および投与後60分の結果、ならびに、3つの痙攣陽性薬剤(4-AP、Isoniazid、Pilocarpine)をそれぞれ6mg/kg、300mg/kg、400mg/kg投与したときの投与直後および痙攣発作時の結果を示す。図11(c)は、3つの痙攣陽性薬剤(4-AP、Isoniazid、Pilocarpine)をそれぞれ3mg/kg、150mg/kg、150mg/kg投与したときの痙攣前兆時の結果を示し、3つの痙攣陽性薬剤(4-AP、Isoniazid、Pilocarpine)をそれぞれ6mg/kg、300mg/kg、400mg/kg投与したときの痙攣発作時の結果を示す。各図において、縦軸が投与前のスペクトル強度で正規化されたスペクトル強度を示し、横軸がラベルを示している。図11(a)および図11(b)では、投与直後の結果と投与後60分の結果との間、および、投与直後の結果と痙攣前兆時の結果との間に有意差があったか否かが示されている。「*」は有意差があったことを示し、「N.S.」は有意差がなかったことを示している。図11(c)および図11(d)では、痙攣前兆時の結果とビヒクル投与直後の結果との間に有意差があったか否かが示されている。「*」は有意差があったことを示し、「N.S.」は有意差がなかったことを示している。
【0160】
図11(c)および図11(d)から見て取れるように、痙攣前兆時および痙攣発作時の両方において、ビヒクル投与直後の結果と有意差が認められない薬剤が存在した。有意差が認められない薬剤では、ビヒクル投与時と痙攣前兆時および痙攣発作時とを区別できなかった。従来法は、広範な薬剤に対して痙攣前兆状態および痙攣発作状態を検出するためには、不適であることが分かる。
【0161】
図11(a)および図11(b)から見て取れるように、ビヒクル投与直後の結果と、ビヒクル投与後60分の結果との間に有意差が認められている。従来法は、安定した評価系とはなっていないことが分かる。
【0162】
図12Aおよび図12Bは、本発明のヒストグラム画像を用いて対象の状態を予測する方法による結果を示す。
【0163】
図12A(a)は、学習データの予測結果から作成された投与前状態についてのROC曲線を示す。ROC曲線において、縦軸が、投与前状態のデータを入力した場合に投与前状態であると予測した割合を示し、横軸が、痙攣前兆状態のデータおよび痙攣発作状態のデータを入力した場合に投与前状態であると予測した割合を示す。図12(A)から見て取れるように、訓練後の状態予測モデルは、学習データについて、投与前状態のデータと、痙攣前兆状態のデータおよび痙攣発作状態のデータとを91.6%の精度で分離することができた。
【0164】
図12A(b)は、実験1についての結果を示す。表は、3つの痙攣陽性薬剤のそれぞれについて、未学習のデータを状態予測モデルに投入した場合に、ビヒクル投与時、痙攣前兆状態、痙攣発作状態のそれぞれの毒性確率を示す。グラフは、表を平均したものであり、ビヒクル投与時、痙攣前兆状態、痙攣発作状態のそれぞれにおいて予測された毒性確率を示している。図12(b)から見て取れるように、訓練後の状態予測モデルは、未学習データについて、ビヒクル投与時のデータを平均89.9±5.2%精度で投与前状態であると予測し、痙攣前兆状態の毒性確率を平均84.4±9.0%と判定し、痙攣発作状態の毒性確率を平均98.8±0.6%と判定した。このように、訓練後の状態予測モデルによれば、3つの痙攣陽性薬剤のそれぞれにおいて、痙攣前兆状態および痙攣発作状態の検出が可能であった。すなわち、本発明のヒストグラム画像を用いて対象の状態を予測する方法は、広範な薬剤に対して痙攣前兆状態および痙攣発作状態を検出することができる点で、従来法よりも有利であると言える。
【0165】
また、従来法では計測時間全体のスペクトル強度で判定するのに対して、本発明のヒストグラム画像を用いて対象の状態を予測する方法では、画像毎に判定可能であることから、時間情報も定量化でき、一般状態観察ではとらえられなかった前兆状態を特定することが可能である。さらには、本発明のヒストグラム画像を用いて対象の状態を予測する方法では、特徴量抽出モデルによって抽出された4096次元の特徴量を用いて判定することができるため、痙攣前兆状態および痙攣発作状態の検出感度が優れていると言える。さらに、本発明のヒストグラム画像を用いて対象の状態を予測する方法では、学習させるラベルの設定を適宜変更することで、薬剤の痙攣状態の予測のみならず、広範な対象化合物の作用機序の予測も可能である。これらの点においても、従来法よりも有利であると言える。
【0166】
図12Bは、実験2についての結果を示す。図12B(a)は、ビヒクル投与直後のデータおよびビヒクル投与後60分のデータを状態予測モデルに投入した場合の平均毒性スコアを示す。縦軸が、平均毒性スコアを示し、横軸がラベルを示している。図12B(b)は、ビヒクル投与直後のデータおよびビヒクル投与後60分のデータを状態予測モデルに投入した場合の平均毒性確率を示す。縦軸が、平均毒性確率を示し、横軸がラベルを示している。図12B(a)および図12B(b)では、ビヒクル投与直後の結果とビヒクル投与後60分の結果との間に有意差があったか否かが示されており、「N.S.」は有意差がなかったことを示している。図12B(a)および図12B(b)から見て取れるように、ビヒクル投与直後の結果と、ビヒクル投与後60分の結果との間に有意差は認められなかった。本発明のヒストグラム画像を用いて対象の状態を予測する方法は、安定した評価系となっており、この点でも、従来法よりも有利であると言える。
【0167】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0168】
本発明は、対象の状態を予測することに利用可能なヒストグラム画像を作成する方法を提供し、また、ヒストグラム画像を用いて対象の状態を予測する方法等を提供するものとして有用である。
【符号の説明】
【0169】
100 コンピュータシステム
110 受信手段
120 プロセッサ
130 メモリ
140 出力手段
200 データベース部
【要約】
本発明は、対象の状態を予測することに利用可能なヒストグラム画像を作成する方法を提供する。本発明のヒストグラム画像を作成する方法は、ウェーブレット画像を取得する工程(S501)と、前記ウェーブレット画像を複数の周波数帯に分割する工程(S502)と、複数の分割後ウェーブレット画像の各々について、スペクトル強度のヒストグラムを作成する工程(S503)と、作成された複数のヒストグラムを結合する工程(S504)とを含む。
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12A
図12B