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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】コラーゲンで強化した組織移植片
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/24 20060101AFI20220705BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20220705BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20220705BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20220705BHJP
   A61L 15/32 20060101ALI20220705BHJP
   A61L 15/40 20060101ALI20220705BHJP
   A61L 15/42 20060101ALI20220705BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20220705BHJP
   A61L 27/44 20060101ALI20220705BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20220705BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
A61L27/24
A61K9/16
A61K47/42
A61K47/46
A61L15/32 310
A61L15/40 100
A61L15/42 100
A61L27/36 100
A61L27/44
A61L31/04 120
A61L31/12 100
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017511721
(86)(22)【出願日】2015-08-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2017-10-05
(86)【国際出願番号】 US2015047303
(87)【国際公開番号】W WO2016033385
(87)【国際公開日】2016-03-03
【審査請求日】2018-08-20
【審判番号】
【審判請求日】2020-08-17
(31)【優先権主張番号】62/043,300
(32)【優先日】2014-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514156585
【氏名又は名称】ミメディクス グループ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】コーブ,トーマス ジェイ.
【合議体】
【審判長】藤原 浩子
【審判官】前田 佳与子
【審判官】阪野 誠司
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-539378(JP,A)
【文献】特開平9-225018(JP,A)
【文献】特表2006-507851(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0067058(US,A1)
【文献】特開2005-218585(JP,A)
【文献】国際公開第2007/013331(WO,A1)
【文献】特開2014-128686(JP,A)
【文献】特表2014-505111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/00-33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの羊膜層に由来する第1の分離かつ洗浄されたヒトの胎盤組織層と、第2の分離かつ洗浄されたヒトの胎盤組織層または臍帯成分との間に挿入されたコラーゲン層と、を含む複層化組織移植片であって、
前記第1の分離かつ洗浄されたヒトの胎盤組織層は基底膜および緻密層を含み、
前記コラーゲン層が、非ヒトの抗原を実質的に含まない、ヒトの組織から抽出し、精製され、固定化されたヒトのコラーゲンであ
前記第1の分離かつ洗浄されたヒトの胎盤組織層は、架橋剤により処理されておらず、
層がまとめて積層化されている、組織移植片。
【請求項2】
前記第1の分離かつ洗浄されたヒトの胎盤組織層が上皮側および線維芽側を含み、両方の側が実質的に脱細胞化されていない、請求項1に記載の複層化組織移植片。
【請求項3】
前記第1の分離かつ洗浄されたヒトの胎盤組織層が上皮側および線維芽側を含み、前記上皮側が実質的に脱細胞化されている、請求項1に記載の複層化組織移植片。
【請求項4】
前記第1の分離かつ洗浄されたヒトの胎盤組織層が上皮側および線維芽側を含み、前記線維芽側が実質的に脱細胞化されている、請求項1に記載の複層化組織移植片。
【請求項5】
前記第1の分離かつ洗浄されたヒトの胎盤組織層が上皮側および線維芽側を含み、両方の側が実質的に脱細胞化されている、請求項1に記載の複層化組織移植片。
【請求項6】
前記コラーゲン層が、前記組織移植片の総重量%に対して少なくとも10重量%である、請求項1~のいずれか1項に記載の複層化組織移植片。
【請求項7】
前記コラーゲン層が架橋している、請求項1~のいずれか1項に記載の複層化組織移植片。
【請求項8】
前記組織移植片が、20重量%未満の含水量を有するように脱水されており、約100μm未満の大きさを有する粒子に微粒子化されている、請求項1~のいずれか1項に記載の複層化組織移植片を含む微粒子化組成物。
【請求項9】
薬学的に許容可能な賦形剤をさらに含む、請求項に記載の微粒子化組成物。
【請求項10】
対象と接触させる用または対象に注入する用の、請求項1~のいずれか1項に記載の複層化組織移植片または請求項もしくはに記載の微粒子化組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コラーゲンと、胎盤組織および/または臍帯成分とを含む積層化組織移植片、ならびに関連する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの胎盤組織成分(たとえば羊膜)は、1900年代初めから、様々な種類の再建外科手術に使用されている。概して、胎盤組織は選択的帝王切開手術後に回収される。胎盤組織成分は、胎盤および羊膜腔を含む。また臍帯は胎盤とつながっている。羊膜腔は一般に羊膜とも呼ばれており、2つの主な組織層である、羊膜および絨毛膜を有する。羊膜組織は羊膜腔の最も内側の層であり、羊水と直接接触している。羊膜腔は羊水を含み、胎児の環境を保護している。羊膜の膜の層は、上皮細胞の単一層、薄い細網線維(基底膜)、厚い緻密層、および線維芽細胞層を含む。
【0003】
既存の胎盤組織移植片の欠点として、一般に、別の点で有用であるいくつかの医療上の応用に十分な引張強度、剛性、および/またはせん断(sheer)に対する抵抗を有するものではない点がある。しかしながら、強度を提供する組織移植片への添加剤は、対象に望ましくない免疫応答を誘導する可能性がある。結果として、強度および破れに対する抵抗が増大するが、対象に望ましくない免疫応答を誘発(illicit)しない胎盤組織移植片が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、少なくとも1つのコラーゲン層、胎盤成分由来の少なくとも1つの層、および/または臍帯成分由来の少なくとも1つの層を含む複数の層の組織移植片、ならびに同移植片の作製方法および使用方法を目的とする。これらの組織移植片は、たとえば創傷治癒、外科手術、瘢痕または接着の予防、歯科的な応用などにおける様々な医学的応用を有する。従来の胎盤組織移植片は、一般に、多くの外科的な用途に不適切な引張強度および剛性を、特に生理食塩水または血液で移植片を湿潤させた後に有する。剛性を促進させる添加剤を含む組織移植片は、多くの場合免疫原性であり、患者に望ましくない炎症性応答を開始する可能性がある。
【0005】
本発明は、胎盤組織(たとえば羊膜など)の層および/または臍帯成分の層に、免疫特権のある組織に由来するヒトのコラーゲンの層を追加することにより、胎盤組織単独よりも大きな引張強度およびせん断に対する抵抗を有する組織移植片が作製されるという発見を前提とする。また開示されるコラーゲン含有の複数の層の組織移植片は、従来の複数の層の組織移植片を超える重要な利点を有する。このコラーゲン含有の複数の層の組織移植片は、高い引張強度および硬度を呈し、これは壊れやすくはなく、かつ、医学的応用、たとえば移植手術中に容易に扱うことができるように十分丈夫であり、損傷または崩壊のリスクを低下させる。コラーゲン含有の複数の層の組織移植片は、固く強固である。これらは、外科的な部位に適合しかつこの構成を保持するように望ましい構成にフォールディングまたは湾曲されることにより、形成することができる。さらに、複層化移植片の中のコラーゲン層は、複数の層の組織移植片の力学的な特性を調節するために、多かれ少なかれコラーゲンで「調節」することができる。
【0006】
コラーゲンは免疫特権のあるヒトの組織に由来するため、開示される組織移植片は、免疫応答のための医療上の治療を必要とする対象に望ましくない免疫応答を誘発するものではない。対照的に、ヒトの屍体のドナーから再構成したコラーゲン、すなわち同種移植片、および異種移植片と呼ばれる非ヒトの検体由来のコラーゲンは、抗原性および異物応答の誘導に関してin vivoでの使用でより多くの問題を提示する。
【0007】
一態様では、本発明は、コラーゲン層と、少なくとも1つの分離かつ洗浄された胎盤組織成分および/または臍帯成分とを含む複層化組織移植片であって、上記コラーゲンが非ヒトの抗原を実質的に含まないヒトのコラーゲンである、複層化組織移植片に関する。一般に、胎盤組織成分は羊膜腔に由来する。一般に、臍帯成分はワルトンゼリーを含む。コラーゲン層のコラーゲンは、胎盤組織成分などの免疫特権のある組織に由来する。
【0008】
別の態様では、本発明は、本明細書中開示される複層化組織移植片のいずれかを含む組成物であって、上記組織移植片が20重量%未満の含水量を有するように脱水されており、かつある大きさ、すなわち約10μm未満の幅に微粒子化されている、組成物に関する。
【0009】
別の態様では、本発明は、本明細書中記載される複層化組織移植片と対象を接触させることを含む、上記対象の治療方法に関する。
【0010】
発明の詳細な説明
上述のように、本発明は、部分的に、胎盤成分およびコラーゲンを含む複数の層の組織移植片を目的とする。しかしながら、本発明をさらに詳細に論述する前に、以下の用語を定義する。
【0011】
定義
本明細書中使用されるように、以下の用語は以下の意味を有する。
【0012】
単数形「a」、「an」、および「the」などは、文脈で特段他の記載が明確に記載されない限り複数形を含む。よってたとえば「化合物(a compound)」への言及は、単一の化合物および複数の異なる化合物の両方を含む。
【0013】
ある範囲を含む数字表示、たとえば温度、時間、量、および濃度の前に使用される用語「約」は、±10%、±5%、または±1%変動し得る近似値を表す。
【0014】
本明細書中使用される用語「対象」は、限定するものではないが、ヒト、家畜、家庭用ペットなどの哺乳類の対象などを含むいずれかの脊椎動物の生物である。
【0015】
本明細書中使用される用語「生体適合性」は、対象への移植または注入に適した物質を表す。様々な態様では、生体適合性物質は、対象に移植した後に毒性作用または有害な作用を引き起こさない。
【0016】
本明細書中使用される用語「羊膜」は、中間組織層が無処置であるかまたは実質的に除去されている羊膜を含む。
【0017】
用語「胎盤組織」は、胎盤のあらゆる既知の成分を表し、限定するものではないが、羊膜、絨毛膜などを含み、かつ脱水した胎盤組織および微粒子化した胎盤組織などの処理した組織を含む。本明細書中使用される用語「胎盤組織」は、臍帯成分(たとえばワルトンゼリー、臍静脈および臍動脈、ならび周辺の膜)のいずれかを含まない。
【0018】
本明細書中使用される「コラーゲン」は、胎盤組織または臍帯などの免疫特権のあるヒト組織由来の生体適合性コラーゲンを表す。免疫特権のあるヒトの組織から得た後、コラーゲンは、ゲル、ゼラチン、細線維、スラリー、ハイドロゲル、またはフィルムなどのいずれかの形態であってもよい。羊膜(すなわち基底膜)の線維層は、IV型、V型、およびVII型コラーゲンを含むことに留意すべきである。本明細書中記載されるコラーゲン層は、もしある場合、開示される複数の層の組織移植片の羊膜層などの他の層に存在するコラーゲンと分離している、または離間している。一部の態様では、コラーゲンは、エラスチン、フィブロネクチン、および/またはラミニンを含む他の成分を含まない、または実質的に含まない。
【0019】
本明細書中使用される「他の成分を実質的に含まない」は、コラーゲンが、少なくとも約90%純粋なコラーゲン、好ましくは少なくとも約95%純粋、より好ましくは少なくとも約97%純粋、さらにより好ましくは97%超純粋(たとえば98%超、99%超、または100%純粋な)であることを意味する。好ましい実施形態では、コラーゲンは、増殖因子または他の生活性因子を全く含まない。
【0020】
用語「非ヒトの抗原」は、ヒトに導入する場合に免疫原性であり、免疫応答の症状(たとえば炎症など)のための医学的治療を必要とする望ましくない免疫応答を誘発する非ヒト由来のいずれかの薬剤(たとえばタンパク質、ペプチド、多糖、糖タンパク質、糖脂質、核酸、またはそれらの組み合わせ)を表す。本明細書中定義されるように、非ヒトの抗原誘導性免疫応答は、体液性、または細胞媒介性、またはその両方とすることができる。
【0021】
本明細書中使用される「生体適合性」は、たとえば対象が免疫学的な応答のために医学的に治療されることとなる、生体組織における毒性、障害性、または免疫学的な応答もしくは拒絶を生成しないことにより、生物学的に適合性がある特性を表す。
【0022】
微粒子化したワルトンゼリー、羊膜、絨毛膜などのある物質を定義する際の用語「脱水した」は、当該物質が、10%以下、5%以下、1%以下、0.5%以下、0.2%以下、0.1%以下、または0.01%以下の含水量を有し、または水を含まないことを意味する。用語「脱水する」または「乾燥する」、または文法上均等な手段は、脱水した物質を生成するために、物質から水を実質的に(たとえば物質中の含水量の少なくとも90%、95%、99%、99.5%、99.8%、99.9%、または99.99%を除去)または完全に除去することを意味する。
【0023】
値または範囲を表す場合、エンドポイントを含む記載される値の中のいずれかの部分値または部分範囲は、本明細に記載される実施形態での使用で考慮されていることを理解すべきである。
【0024】
本発明の一態様では、コラーゲン層と、少なくとも1つの分離かつ洗浄された胎盤組織成分および/または臍帯成分由来の少なくとも1つの層とを含む複層化組織移植片であって、上記コラーゲンが非ヒト抗原を実質的に含まないヒトのコラーゲンである、複層化組織移植片を提供する。以下では、複層化組織移植片の各成分、ならびにこれら成分を組み合わせることによりもたらされる複層化組織移植片、および同移植片から作製される微粒子化組成物を記載する。
【0025】
再構成したコラーゲン層
複層化組織移植片の1つの成分は、非ヒト抗原を実質的に含まないヒトのコラーゲンに由来するコラーゲン層を含む。一般に、コラーゲン層は、既知のプロトコルによってヒトの胎盤成分から再構成されたコラーゲンに由来する。ヒトの胎盤は、免疫原性反応を最小限にし、宿主媒介型の分解を低減するためコラーゲンの供給源として使用される。ヒトの胎盤から得た後、再構成したコラーゲンは、本明細書中記載される複層化組織移植片に組み込まれる。
【0026】
特定の実施形態では、再構成したコラーゲンは、本明細書中に記載される方法または既知の方法により、ヒトの胎盤より調製されている。
【0027】
コラーゲン分子は、短く、隣接した非ヘリックスのテロペプチドを伴う3つのポリペプチド鎖(α鎖)の3重ヘリックスからなる。これらの分子は同時に細線維となる。細線維への組み込みの後、共有結合の分子内のリジン由来の架橋が、テロペプチドと隣接する分子のらせん状ドメインとの間で形成される。架橋した細線維は、すべての結合組織内の成熟したコラーゲン線維系の基本的な単位である。
【0028】
テロペプチドを含む天然の無処置のコラーゲン分子は、酸および酵素の抽出により組織から得ることができる。天然のコラーゲン分子の3重ヘリックスドメインは、酵素、たとえばペプシン、酸での処理により、結合組織から得られる。ペプシンは、架橋ドメインの内部の分子のテロペプチド領域を切断するが、ヘリックスドメインの外側は切断せず、これにより分子を遊離する。
【0029】
酸で抽出し、ペプシンで可溶化したコラーゲンは、酢酸中での塩の分画により精製することができる。主な細線維のコラーゲンは沈殿し、遠心により回収される。コラーゲンは酢酸に再度溶解し、再び沈殿させることができる。沈殿物は酢酸に再度溶解し、残りの塩は透析により除去される。コラーゲン調製物の純度は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動およびアミノ酸解析により評価することができる。
【0030】
無処置のコラーゲン分子およびペプシンで可溶化したコラーゲン分子は両方とも、37℃、中性のpH、in vitroで細線維を自然に形成する。これらの細線維は、in vivoで形成される天然の細線維に類似する。酸に溶解した精製したコラーゲン分子は、一般的にリン酸緩衝生理食塩水への透析により中和される。これら分子は、4℃、中性のpHで可溶性である。細線維を形成するために、コラーゲン溶液の温度は、37℃に増加される。
【0031】
コラーゲンの細線維は、当該組成物を滅菌するための当業者に知られている技術により滅菌することができる。特定の実施形態では、コラーゲンは、滅菌したコラーゲンを回収した後無菌条件で処理されるように、適切なフィルターを介してろ過される。有用なフィルターとして、0.22μmおよび0.1μmのフィルター、および滅菌の当業者に認識されている他のフィルターが挙げられる。さらに特定の実施形態では、コラーゲンは、ウイルスおよび/またはエンドトキシンを除去するように濾過される。
【0032】
最初のコラーゲン溶液は、一般的に、本明細書中に記載される複数の層の移植片へとシートとして組み込むことのできるコラーゲンを形成するように、型または層へと容易に充填することができる粘性の液体である。粘性のコラーゲンの液体は、徐々にゆるいゲルへと変形する。コラーゲンの硬性は、ゲルを形成する前の溶液内のコラーゲンを架橋、すなわち固定することにより強化することができる。
【0033】
よって一部の実施形態では、以下でより詳細に論述されるように、コラーゲン層は、複数の層の組織移植片に組み込まれる前にその強度を上げるために固定(すなわち架橋)されている。いずれかの適切な架橋剤を使用することができる。非限定的な架橋剤として、ノルジヒドログアヤレチン酸(NDGA)、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン、ドーパミン、3,4-ジヒドロキシベンズアルデヒド、3,4-ジヒドロキシ安息香酸、カルボジイミド、グルタルアルデヒドまたは別のジもしくはマルチアルデヒド、ホルムアルデヒド、タンニン酸、イソシアナート、プルロニック、およびエポキシ樹脂が挙げられる。別の実施形態では、架橋剤はNDGAである。たとえばKoob and Hernandez, Material properties of polymerized NDGA-collagen composite fibers: development of biologically based tendon constructs, Biomaterials 2002 Jan; 23 (1): 203-12;米国特許第6,565,960号、および米国特許出願第13/815,736号を参照されたい。これら文献の内容は、完全に本明細書に記載されているように参照として本明細書中に援用されている。
【0034】
上記のように、コラーゲン溶液由来のコラーゲンは任意に架橋されており、ゲル、ハイドロゲル、ゼラチン、スラリー、フィルム、線維、シート、層、または他の形態のコラーゲンに乾燥することができる。本技術に使用できるコラーゲンの形態の非限定的な例は、たとえば米国特許出願第13/815,736号で見出すことができ、この文献全体は本明細書中参照として援用されている。またコラーゲン(たとえば線維、シート、または層)は、組織の増殖または他の所望の作用を促進する非コラーゲン性の成分または生体適合性物質もしくは薬剤をも含むことができる。たとえば米国特許第6,821,530号を参照されたい。この文献は参照として本明細書中に援用されている。
【0035】
一部の実施形態では、複層化組織移植片は、少なくとも約250、500、600、700、800、900、もしくは1000キロパスカル(kPa)または10、20、30、40、50、75、100、もしくは200メガパスカル(MPa)の引張強度を有するコラーゲンを含む。好ましい実施形態では、コラーゲンは、約500kPa~約10MPaの引張強度を有する。一部の実施形態では、複層化組織移植片は、少なくとも約50、75、100、200、300、400、または500Mpaの剛性を有するコラーゲンを含む。好ましい実施形態では、コラーゲンは約100MPa~約500MPaの剛性を有する。引張強度および剛性は、T. Koob, Biomaterials 2002 Jan; 23 (1): 203-12に記載される方法などの既知の方法により、計算されてもよい。たとえば引張強度および剛性は、全体が水和された約2cm長のコラーゲン細線維から計算されてもよい。一部の実施形態では、コラーゲンは架橋している。コラーゲンの架橋は、引張強度を2倍~20倍増大させる。一実施形態では、組織移植片は、約1MPa~約200MPaの引張強度を有する架橋したコラーゲンを含む。エンドポイントを含む上述の値の中のいずれかの部分値または部分範囲が、本明細書中記載される実施形態での使用で考慮されていることを理解すべきである。
【0036】
一部の実施形態では、複層化組織移植片は、複層化組織移植片の総重量に対して1~10重量パーセント(wt%)、10~20wt%、20~30wt%、30~40wt%、40~50wt%、50~60wt%、60~70wt%、70~80wt%のコラーゲンを含む。エンドポイントを含む上述の値の中のいずれかの部分値または部分範囲が、本明細書中記載される実施形態での使用で考慮されていることを理解すべきである。
【0037】
胎盤成分由来の層
複層化組織移植片の別の成分は、1つまたは複数の胎盤組織成分を含む。胎盤組織成分は、臍帯、胎盤、および羊膜腔を含む。胎盤組織成分は、臍帯、胎盤、および羊膜腔を含む。複層化組織移植片の層は、国際特許出願番号第PCT/US12/24798号、第PCT/US13/54322(WO2014/028327)号、ならびに米国仮特許出願番号第61/442,346号、同61/543,995号、および同61/683,700号;ならびに米国特許公開公報第2013-0344162号に記載される方法などの既知の方法によって、まとめて積層化されてもよい。これら出願の内容全体は明確に参照として援用されている。
【0038】
一実施形態では、複層化組織移植片は、胎盤組織成分由来の1つまたは複数の層と、1つまたは複数のコラーゲン層とを含み、ここで胎盤組織成分は羊膜腔に由来する。羊膜腔(すなわち羊膜)は羊水を含み、胎児の環境を保護する。羊膜腔は、2つの主な組織層、羊膜および絨毛膜を含む。羊膜組織は、羊膜腔最も内側の層であり、羊水と直接接触している。羊膜の膜の層は、上皮細胞の単一層、薄い細網線維(基底膜)、厚い緻密層、および線維芽細胞層からなる。
【0039】
胎盤組織の羊膜および絨毛膜の層は、注意深く分離することができる。一態様では、この手法に使用される材料および器具は、処理トレイ、18%の生理食塩水溶液、滅菌4×4スポンジ、および2つの滅菌ナルゲンジャーを含む。次に胎盤組織を、羊膜層が絨毛膜層から分離できる領域(概して角)を見出すために念入りに試験する。羊膜は、絨毛膜の上の薄い不透明な層と見える。
【0040】
複層化組織移植片の一実施形態では、少なくとも1つの羊膜層は、上皮側および線維芽細胞側を含む。一部の実施形態では、上皮側は、局所的な使用のためと意図されている複層化移植片の羊膜層に保持されている。たとえば、上皮側を含む羊膜層を有する複層化移植片は、上皮側が皮膚の上皮層と類似する保護障壁を提供するため、ヒトの皮膚の表面の熱傷を治療するために使用することができる。あるいは、上皮側を含まない、すなわち上皮細胞が実質的または完全に除去されている羊膜層を有する複層化移植片は、患者の内部で使用することができる。たとえば、上皮側を含まない羊膜層を有する複層化移植片は、内部の切開を充填またはパッチを当てるため、外科医により使用することができ、ここで保護上皮障壁は必要とされていない。よって一部の実施形態では、複層化組織移植片は、上皮細胞のすべてを保持または実質的にすべてを保持する羊膜層を含む。一部の実施形態では、複層化組織移植片は、上皮細胞のすべてまたは実質的にすべてが除去、すなわち脱細胞化された羊膜層含む。
【0041】
上述のように、羊膜層は、複層化組織移植片で保持または除去され得る線維芽細胞側をも含む。線維芽細胞層は、たとえば滅菌ガーゼまたは綿棒の一部と羊膜層の各側をゆっくりと接触させることにより、同定することができる。線維芽細胞層は、試験物質に固着する。よって一部の実施形態では、線維芽細胞層は、コラーゲン層、絨毛膜層、または臍帯層などの複数の層の組織移植片の他の層に羊膜を結合する性質の接着剤として作用することができる。また、理論により拘束されるものではないが、線維芽細胞層は、治癒を促進し、かつ/または幹細胞を動員する増殖因子を含むと考えられている。よって一部の実施形態では、複層化組織移植片は、線維芽細胞層のすべてまたは実質的にすべてを保持する羊膜層を含む。一部の実施形態では、複層化組織移植片は、線維芽細胞層のすべてまたは実質的にすべてが除去、すなわち脱細胞化された羊膜層を含む。
【0042】
よって、各羊膜層の各側部は、部分的または実質的に「脱細胞化」することができ、これは、各側の上皮細胞および/または線維芽細胞が部分的または実質的に除去されていることを意味している。除去される線維芽または上皮の量に関して、用語「実質的に除去または脱細胞化された」は、羊膜から90%超、95%超、または99%超の上皮細胞または線維芽細胞が除去されていることとして本明細書中定義されている。除去される線維芽または上皮の量に関して用語「部分的に除去または脱細胞化された」は、羊膜から上皮細胞または線維芽細胞の20~70%、好ましくは30~65%が除去されることとして本明細書中定義されている。脱細胞化は、一般的に、上皮細胞および線維芽細胞を含む羊膜に存在する細胞の物理的および/または化学的な除去を含む。脱細胞化にも関わらず、上皮細胞および/または線維芽細胞は、任意に膜に残存する場合がある。線維芽の完全な除去は、創傷治癒に重要な役割を果たすタンパク質および増殖因子などの成分を放出する組織移植片の特性を低減させる。
【0043】
羊膜からの上皮細胞の部分的な除去は、上皮細胞層の不均等なトポグラフィーをもたらし得る。羊膜からの上皮細胞の部分的な除去は、上皮細胞層の表面積を増加させ得る。理論により拘束されるものではないが、上皮細胞層の一部のみの部分的な除去は、上皮細胞を保持する上皮細胞表面の領域から生活性因子のよりゆっくりとした拡散、ならびに、基底膜が上皮細胞の部分的な除去により曝露されている領域に対するより速い拡散および/またはより良好な宿主のアクセスをもたらすことが考えられている。
【0044】
上皮細胞層は、様々な技術により除去することができる。たとえば上皮細胞層は、細胞スクレーパーを使用して羊膜からこすり落とすことができる。他の技術として、限定するものではないが、膜の凍結、細胞スクレーパーを用いた物理的な除去、または非イオン性界面活性剤、陰イオン性活性剤、およびヌクレアーゼへの上皮細胞の曝露が挙げられる。上皮細胞層の部分的な除去が望ましい場合、膜は、羊膜の上皮を完全に除去するために使用される濃度および期間よりも少ない濃度および/または短い期間で、上記の条件に曝露することができる。
【0045】
羊膜層に残存する上皮細胞の存在の有無、および/または基底膜が無処置のままであることの判定は、当該分野で知られた技術を使用して評価することができる。たとえば、上皮細胞層の部分的な除去の後、処理ロット由来の代表的な組織の試料を、標準的な顕微鏡試験のスライドの上に置く。この組織の試料を、エオシンY染色を使用して染色する。次に試料を被覆し、静置させる。染色を可能にするのに適した時間が経過した後、拡大下で目視観察を行う。細胞の物質は暗く染色しており、これは細胞の存在を表す。
【0046】
複数の層の組織移植片の一部の実施形態では、少なくとも1つの羊膜層は、上皮側および線維芽側を含んでもよく、ここでは両方の側部が部分的または実質的に脱細胞化されていない。複数の層の組織移植片の他の実施形態では、少なくとも1つの羊膜層は、上皮側および線維芽側を含んでもよく、ここで上皮側が部分的または実質的に脱細胞化されているが、線維芽側は部分的または実質的に脱細胞化されていない。複数の層の組織移植片のさらなる他の実施形態では、少なくとも1つの羊膜層が上皮側および線維芽側を含んでもよく、ここで上皮側および線維芽側の両方が部分的または実質的に脱細胞化されている。
【0047】
一部の実施形態では、複層化組織移植片は、複層化組織移植片の総重量に対して1~10wt%、10~20wt%、20~30wt%、30~40wt%、40~50wt%、50~60wt%、60~70wt%、70~80wt%の羊膜を含む。エンドポイントを含む上述の値の中のいずれかの部分値または部分範囲が、本明細書中記載される実施形態での使用で考慮されていることを理解すべきである。
【0048】
絨毛膜層を組織移植片に添加する場合、以下の例示的な手法を使用することができる。羊膜からの絨毛膜の分離および線維層からの血餅の除去の後、絨毛膜を18%の生理食塩水溶液で30分間すすぐ。第1のすすぎ周期の間、溶液の温度が約48℃であるように、18%の生理食塩水を研究室の加熱プレートを使用して滅菌コンテナで加熱する。この溶液をデカントし、絨毛膜組織を滅菌コンテナの中におき、デカントした生理食塩水溶液をコンテナの中にそそぐ。このコンテナを密閉し、ロッカープレートに置き、1時間攪拌する。1時間槽で攪拌した後、組織を取り出し、さらに1時間のすすぎ周期の間第2の加熱した攪拌槽に置く。次に、絨毛膜組織を、.5%のトリトンX洗浄溶液200ml中に入れる。コンテナを密閉し、加熱することなく2時間攪拌する。次に、各すすぎで勢いよく動かしながら、組織を脱イオン水で洗浄する(1回の洗浄あたりDI水250mlで4回洗浄)。組織を除去し、EDTAを含む1×PBS溶液のコンテナに入れる。コンテナを密閉し、1時間制御した温度で攪拌する(8時間)。組織を取り出し、滅菌水を使用してすすぐ。膜から残存する変色した線維性の血液物質を除去するために目視の観察を行う。膜は、褐色に変色する徴候がなく、乳白色の外観を有するべきである。
【0049】
一部の実施形態では、複層化組織移植片は、複層化組織移植片の総重量に対して1~10wt%、10~20wt%、20~30wt%、30~40wt%、40~50wt%、50~60wt%、60~70wt%、70~80wt%の絨毛膜を含む。
【0050】
臍帯成分由来の層
一部の実施形態では、複層化組織移植片は、1つまたは複数のコラーゲン層に由来する1つまたは複数の層と、臍帯成分に由来する1つまたは複数の層とを含む。臍帯は、胎盤に胎児をつなぎ、臍帯の血管を収容する、概して10~15cmの長さの実質的に管状の臓器である。臍帯は、ワルトンゼリーとして知られている基質の中に含まれている、2つの臍動脈および1つの臍静脈の周辺を包む外膜を含む。ワルトンゼリーの主な成分はプロテオグリカンである。またワルトンゼリーは、大きな星状の線維芽細胞およびマクロファージをも含む。
【0051】
臍帯またはその成分は、臍帯膜を含み得るが、ワルトンゼリーおよび/または1つまたは複数の臍帯血管をも含むことができる。一実施形態では、臍帯またはその成分は、残存する臍帯成分(たとえばワルトンゼリーおよび臍帯血管)から実質的に単離された臍帯膜である。別の実施形態では、臍帯またはその成分は、残存する臍帯成分(たとえば臍帯血管)から単離された臍帯膜およびワルトンゼリー(すなわち、臍帯血管が無処置の臍帯に含まれている基質)を含む。別の特定の実施形態では、臍帯またはその成分は、膜、ワルトンゼリー、および1つまたは複数の臍帯血管を含む。別の実施形態では、臍帯またはその成分は、シートまたは条片に平坦化された単離された臍帯(たとえばワルトンゼリーおよび血管、ワルトンゼリーのみ、または血管のみを含む)を含む。臍帯またはその成分は、中身(ワルトンゼリーおよび血管)が除去されている実質的に管状の構造とすることができる。また臍帯またはその成分は、臍帯の中身を曝露するように臍帯の長さの一部またはすべてに切込みを入れるまたは切断した臍帯膜を含むこともできる。
【0052】
一実施形態では、臍帯は、新生児の分娩の後に胎盤から分離される。臍帯は、すぐに使用してもよく、またはいずれかのさらなる処置の前に分娩時から数日間保存されていてもよい。臍帯は、胎盤ディスクから分離されており、概して、臍帯血管を除去するようにマッサージされる。任意に臍帯は約8cm~約18cmの長さの断片に切り分けられている。つぎに、臍帯または臍帯の切片は、好ましくは緩衝された滅菌生理食塩水、たとえば0.9%の滅菌NaCl溶液中に最大約72時間保存することができる。好ましくは臍帯を、約1~5℃の温度での冷蔵下で保存する。
【0053】
臍帯は、長手方向に切込みを入れるまたは切断することができる。このことにより臍帯膜を平坦にすることによって、たとえばワルトンゼリーの除去を可能にし、かつ/または臍動脈もしくは臍帯のうちの1つまたは複数を、「現状のままで」さらに処理することができ、ここでは臍帯は臍帯膜、血管、およびワルトンゼリーを含む。
【0054】
一実施形態では、臍帯の生体物質は実質的に脱細胞化されており、すなわち細胞の物質および細胞のデブリの実質的にすべて(たとえばすべての眼に見える細胞の物質および細胞のデブリ)を臍帯から除去することができる。当業者に知られているいずれかの脱細胞工程を使用してもよい。
【0055】
別の実施形態では、臍帯またはワルトンゼリーは、コラーゲン、HA、およびプロテオグリカンを含むECMの成分、ならびに幹細胞の有意な量を含む。一部の実施形態では、微粒子化したワルトンゼリーは、線維芽細胞増殖因子(FGF)、インスリン様増殖因子I(IGF-I)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)、血小板由来増殖因子(PDGF)、および上皮増殖因子(EGF)などを含む増殖因子をさらに含む。
【0056】
一部の実施形態では、複層化組織移植片は、複層化組織移植片の総重量に対して1~10wt%、10~20wt%、20~30wt%、30~40wt%、40~50wt%、50~60wt%、60~70wt%、70~80wt%の臍帯の生体物質を含む。エンドポイントを含む上述の値の中のいずれかの部分値または部分範囲が、本明細書中記載の実施形態での使用で考慮されていることを理解すべきである。
【0057】
複層化組織移植片:胎盤成分および/または臍帯成分に由来する層とコラーゲン層の組み合わせ
コラーゲンの層と、胎盤組織および/または臍帯由来の層を個々に調製した後、これらを開示される複数の層の組織移植片に組み合わせることができる。よって一態様では、コラーゲン層と、少なくとも1つの分離かつ洗浄された胎盤組織成分および/または臍帯成分とを含む複層化組織移植片であって、上記コラーゲンが非ヒトの抗原を実質的に含まないヒトのコラーゲンである、複層化組織移植片を提供する。
【0058】
全体が本明細書中参照として援用されている米国特許第8,357,403号および第8,323,701号は、積層化した組織移植片を作製する方法を記載する。単なる例示として、組織移植片は、上皮側から任意に除去された上皮細胞を含む羊膜の層を含んでもよく、コラーゲン層は、組織移植片を生成するように基底の羊膜層に使用される。好ましい実施形態では、上皮側から任意に除去された上皮細胞を含む羊膜の層は、移植片の上に置かれており、ここで上皮側は上を向いている。一部の実施形態では、羊膜層(複数可)の線維芽細胞層は、次の層の接着剤として作用する。この態様では、線維芽細胞層は膜を互いに接着するために使用されるが、たとえばフィブリン接着剤、ゼラチン、光化学的な技術、および縫合などの他の技術および物質を、積層化した組織移植片を生成するために使用することができる。一実施形態では、移植片は縫合によりまとめて保持されていない。
【0059】
一部の実施形態では、コラーゲン層は、分離かつ洗浄された胎盤組織の第1の層と第2の層との間に挿入されている。一部の実施形態では、胎盤組織成分は、少なくとも1つの羊膜の層に由来する。一部の実施形態では、胎盤組織成分は、少なくとも1つの絨毛膜の層である。一部の実施形態では、コラーゲン層は、分離かつ洗浄された臍帯成分の第1の層と第2の層との間に挿入されている。
【0060】
複数の層の組織移植片の非限定的な例として、羊膜/コラーゲン/羊膜;羊膜/コラーゲン/絨毛膜;絨毛膜/コラーゲン/絨毛膜;羊膜/コラーゲン/臍帯;絨毛膜/コラーゲン/臍帯;臍帯/コラーゲン/臍帯;の層が挙げられ、これらのうちそれぞれが、羊膜(線維芽細胞層および/または上皮細胞層の上皮細胞が、無処置であるか、または部分的、実質的、もしくは完全に除去されている)、絨毛膜、再構成したコラーゲン層、臍帯層、ワルトンゼリー、および/または他の臍帯成分、生体適合性ポリマー、またはそれらのいずれかの組み合わせのうちの1つまたは複数の追加的な層を有してもよい。「羊膜/コラーゲン/羊膜」との命名は、たとえばコラーゲンの層が、2つの羊膜の層の間に挿入されていることを意味する。複数の羊膜層が使用される場合、宿主細胞と直接接触していないこれら層の基底膜から上皮細胞を部分的に除去する必要がないことに留意することが重要である。
【0061】
複数の層の組織移植片の一部の実施形態では、少なくとも1つの羊膜層は、上皮側および線維芽側(線維芽細胞側)を含んでもよく、ここでは両側ともが部分的または実質的に脱細胞化されていない。複数の層の組織移植片の他の実施形態では、少なくとも1つの羊膜層は、上皮側および線維芽側を含んでもよく、ここで上皮側は部分的にまたは実質的に脱細胞化されているが、線維芽側は部分的または部分的に脱細胞化されていない。複数の層の組織移植片のさらなる他の実施形態では、少なくとも1つの羊膜層が上皮側および線維芽側を含んでもよく、ここでは上皮側および線維芽側の両方が、部分的または実質的に脱細胞化されている。
【0062】
これらの、羊膜層を含む複数の層の組織移植片では、このような羊膜層は、適切な乾燥固定具の上に置くことができ、ここで上皮側は乾燥固定具の表面に隣接している。他の態様では、羊膜は、上皮側が上を向くように乾燥固定具の表面に置くことができる。いずれかの場合では、コラーゲン層が羊膜層の間に挟まれるように、コラーゲン層を、羊膜層の上部に置き、次に別の羊膜層を置くことができる。一部の実施形態では、コラーゲン層は羊膜層の間に挟まれており、コラーゲン層は、各羊膜層の上皮側と接触する。
【0063】
実際の層の数および種類は、医学的な応用および/または外科的な必要性、および組織移植片が使用されるように設計されている手法に依存する。一部の用途は、より厚いまたはより強力な組織移植片を必要とする場合がある。一部の実施形態では、積層化した組織移植片は、1超のコラーゲンの層を含む。コラーゲン層は、別のコラーゲン層に隣接していてもよく、または他の生体適合性物質と互い違いとなっていてもよい。一部の実施形態では、コラーゲン層のすべてが、同一の型のコラーゲンから作製される。一部の実施形態では、異なる型のコラーゲンを異なる層で使用してもよい。たとえば1つの層は、コラーゲン線維から構成されてもよく、別の層はコラーゲンゲルから構成されてもよい。コラーゲン層(複数可)は、所望の用途に応じて様々な厚さであってもよい。
【0064】
一部の態様では、以下の複数の層の組織移植片または微粒子化組成物は、1つまたは複数の生体適合性ポリマーを含む。本発明に有用な好ましい生体適合性ポリマーとして、生分解性ポリマーが挙げられる。適切なポリマーとして、限定するものではないが、天然に存在するポリマー、合成ポリマー、またはそれらの混合物が挙げられる。天然に存在する生体適合性ポリマーの他の例として、限定するものではないが、ヒアルロン酸(hylauronic acid)、フィブリン、繊維状タンパク質または球状タンパク質、複合炭水化物、グリコサミノグリカン、またはそれらの混合物が挙げられる。よって一実施形態では、ポリマーは、エラスチン、ラミニン、ヒアルロン酸、アルギン酸、デスミン、バーシカン、フィブリン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、アルブミンなどを含んでもよい。例示的な合成の生体適合性ポリマーとして、限定するものではないが、ポリオキシアルキレン(たとえばポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、オキシエチレンおよびオキシプロピレンのコポリマーなど)、ポリエチレングリコール、ポリメチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリビニルピロリドン、カプロラクトン、2-ヒドロキシエチルメタクリラート(HEMA)、シリコーン、たとえばNusil MED-6215または他の移植に適したシリコーン、ポリ(ε-カプロラクトン)ジメチルアクリラート、ポリスルホン、(ポリ)メタクリル酸メチル(PMMA)、可溶性Teflon-AF、ポリエチレンテラフタラート(PET、Dacron)、Nylon、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ヒドロキシアパタイトなど、ならびにそれらの混合物が挙げられる。このようなポリマーは、好ましくは少なくとも約10,000、より好ましくは約10,000~約1,000,000の平均分子量を有する。一部の実施形態では、これらのポリマーは、好ましくは少なくとも10,000、より好ましくは約10,000~約100,000の平均分子量を有する。本明細書中記載されるポリマーは、非キレート剤で架橋しているか、または架橋していない場合がある。一般的な非キレート架橋剤として、カルボジイミド(carbodimide)、ジイソチオシアナート、ジカルボン酸、ジアミンなどが挙げられる。
【0065】
すべての適切なポリマーは生体適合性であり、好ましくはin vivoで投与される際に非毒性かつ非炎症性であり、より好ましくはin vivoで分解可能であり、分解時間は少なくとも数か月である。
【0066】
多くの生分解性であり、生物学的に適合可能な成分を複層化組織移植片に添加することができる。このような物質の例として、限定するものではないが、羊膜(線維芽細胞層および/または上皮細胞の上皮細胞層が無処置であるか、または部分的、実質的、もしくは完全に除去されている)、絨毛膜、再構成したコラーゲン層、臍帯層、ワルトンゼリー、および/または他の臍帯成分、生体適合性ポリマー、またはそれらのいずれかの組み合わせが挙げられる。
【0067】
一部の態様では、本明細書中記載される複層化組織移植片は脱水されている。一部の実施形態では、複層化組織移植片は凍結乾燥されている。特定の実施形態では、本明細書中記載される複層化組織移植片は、米国特許出願第13/744,332号に記載される乾燥装置を改変する米国特許出願第13/851,736号に記載される脱水装置を使用して、脱水されている。両出願の全体は本明細書中参照として援用されている。
【0068】
一実施形態では、複層化組織移植片を含む組成物であって、上記組織移植片が、30%未満、20%未満、10%未満、または5%未満の含水量を有するように脱水されている、組成物を提供する。
【0069】
終了時に、脱水処理した組織移植片は、帯白色を有する半透明の外観を有し得る。この組織は、乾燥した非水和状態で湾曲および大きさの変化に耐性があるように柔軟性がある。本明細書中記載される組織移植片は、長期間室温で保存することができる。
【0070】
任意の架橋
積層化した組織移植片の用途に応じて、積層化した組織移植片の1つまたは複数の層は、任意に、固定、すなわち架橋することができる。言い換えると、各層は、それ自体を架橋することにより強化されてもよい。あるいは、1つまたは複数の層はまとめて架橋されてもよい。理論により拘束されるものではないが、胎盤組織の架橋は、胎盤組織の再吸収の特性を改変することができる。たとえば胎盤組織は、胎盤組織に存在する増殖因子の放出速度を調節するために架橋することができる。他の態様では、架橋した胎盤組織は、生理活性剤(たとえばINFUSE(登録商標))が組織移植片から漏出しないよう十分に架橋することができる。ここでは架橋した胎盤組織は障壁として作用する。
【0071】
コラーゲン層、胎盤組織、および/または臍帯層は、多くの技術を使用して架橋することができる。一態様では、化学的な方法、熱的な方法、放射線照射、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、および/またはハイドロゲルでの架橋の方法により、架橋を達成してもよい。他の態様では、組織移植片の積層化および形成の前に、架橋剤で個々に胎盤組織を処理することができる。一般的に架橋剤は、非毒性かつ非免疫原性である。2つ以上の胎盤組織を架橋剤で処理する場合、架橋剤は、同一または異なる架橋剤とすることができる。一態様では、組織移植片の層は、架橋剤で別々に処理することができ、またはあるいは、層は、同一の架橋剤でまとめて処理することができる。特定の態様では、2つ以上の異なる架橋剤で層を処理することができる。
【0072】
コラーゲン層、胎盤組織、および/または臍帯層を架橋する条件は変動し得る。一態様では、胎盤組織または移植片は、架橋剤の水溶液を保持するコンテナに配置することができる。一態様では、架橋剤の濃度は、0.1M~5M、0.1M~4M、0.1M~3M、0.1M~2M、または0.1M~1Mである。別の態様では、胎盤組織または移植片を、1~2秒、最大60分間架橋剤で処理する。さらなる態様では、胎盤組織または移植片は、室温、最大50℃の架橋剤で処理する。
【0073】
架橋剤は、一般的に、共有結合を生成するようにタンパク質と反応できる2つ以上の官能基を有する。一態様では、架橋剤は、タンパク質に存在するアミノ基と反応できる基を有する。このような官能基の例として、限定するものではないが、ヒドロキシル基、置換または非置換アミノ基、カルボキシル基、およびアルデヒド基が挙げられる。一態様では、架橋剤は、たとえばグルタルアルデヒドなどのジアルデヒドとすることができる。別の態様では、架橋剤は、たとえば(N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチル-カルボジイミド(EDC)などのカルボジイミドとすることができる。他の態様では、架橋剤は、酸化したデキストラン、p-アジドベンゾイルヒドラジド、N-[α-マレイミドアセトキシ]スクシンイミドエステル、p-アジドフェニルグリオキサール一水和物、ビス-[β-(4-アジドサリチルアミド)エチル]ジスルフィド、ビス-[スルホスクシンイミジル]スベラート、ジチオビス[スクシンイミジル]プロピオナート、ジスクシンイミジルスベラート、および1-エチル-3-[3-ジメチルアミノプロピル]カルボジイミドハイドロクロライド、二官能性オキシラン(OXR)、またはエチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDE)とすることができる。
【0074】
一態様では、糖が架橋剤であり、この糖は、共有結合を形成するように、胎盤組織に存在するタンパク質と反応することができる。たとえば糖は、メイラード反応によりタンパク質と反応することができ、この反応は、糖を還元することによるタンパク質上のアミノ基の非酵素的なグリコシル化により開始し、その後共有結合の形成をもたらす。架橋剤として有用な糖の例として、限定するものではないが、D-リボース、グリセロース、アルトロース、タロース、エルテオース(ertheose)、グルコース、リキソース、マンノース、キシロース、グロース、アラビノース、イドース、アロース、ガラクトース、マルトース、ラクトース、スクロース、セリビオース(cellibiose)、ゲンチビオース、メリビオース、ツラノース、トレハロース、イソマルトース、またはそれらのいずれかの組み合わせが挙げられる。よって一態様では、組織移植片は、1つまたは複数の層に共有結合した少なくとも1つの架橋剤を含む。別の態様では、組織移植片は、積層物を含み、この層は、架橋剤を介して互いに共有結合されている。
【0075】
架橋剤は、任意の適切な重合化(すなわち架橋)物質、たとえば限定するものではないが、上述の架橋剤、NDGA、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン、ドーパミン、3,4-ジヒドロキシベンズアルデヒド、3,4-ジヒドロキシ安息香酸、カルボジイミド、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、タンニン酸、イソシアナート、およびエポキシ樹脂などとすることができる。他の実施形態では、架橋剤は、ペプチドの少なくとも1つの反応基が、限定するものではないが、リジン、アルギニン、アスパラギン、システイン、グルタミン、ヒスチジン、およびオルニチンなどのジアミノ酸の一部である、いずれかの適切な重合化物質とすることができる。これらの態様では、ペプチド上のヒドロキシル基およびメルカプト基は、架橋反応に寄与し得る。他の態様では、ジカルボン酸は、架橋剤として使用することにより、遊離するアミノ、ヒドロキシル基、またはチオール基を有する架橋部分の間に炭化水素の架橋を誘導することができる。特定の実施形態では、架橋剤は、キノン基および/またはカテコール基を含む。キノンおよび/またはカテコールの官能基を含むことができる例示的な架橋剤として、限定するものではないが、NDGA、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン、およびドーパミンが挙げられる。よって重合化したコラーゲンは、1つまたは複数のキノンおよび/またはカテコール基を含むことができる。
【0076】
微粒子化組成物
一態様では、微粒子化したコラーゲンと、微粒子化した胎盤成分および微粒子化した臍帯成分のうちの1つまたは両方とを含む、微粒子化組成物が提供される。「微粒子化」は、機械的な粉砕または断片化により行われる。微粒子化組成物は、微粒子化の前または後に複数の成分を組み合わせることにより調製することができる。たとえば微粒子化組成物は、コラーゲンと胎盤成分および臍帯成分のうちの1つまたは両方とを別々に微粒子化し、次に別々に微粒子化した成分をまとめて混合することにより、形成することができる。言い換えると、コラーゲン、胎盤成分、および臍帯成分は、それぞれ別々に微粒子化した後に組み合わせることができる。あるいは、コラーゲン層を、胎盤成分由来の層および/または臍帯成分由来の層と組み合わせて本明細書中に記載の複層化組織移植片のいずれかを形成した後に、複層化組織移植片を微粒子化することができる。
【0077】
上述のように、微粒子化組成物は、国際特許出願第PCT/US12/24798号、ならびに米国仮特許出願第61/442,346号、同61/543,995号、および同第61/683,700号に記載される、微粒子化した胎盤組織またはそれらの成分、たとえば微粒子化した羊膜などを含んでもよい。これら出願の内容全体は参照として明確に援用されている。
【0078】
微粒子化は、当該分野で知られた器具を使用して行うことができる。たとえばRetsch Oscillating Mill MM400を、本明細書中に記載される微粒子化組成物を生成するために使用することができる。別の態様では、微粒子化は、低温粉砕により行われる。この態様では、組織を含む粉砕ジャーを、粉砕処理の前および最中に、統合した冷却システムから液体窒素を用いて連続的に冷却する。よって試料を脆化させ、揮発性成分を保存する。さらに、組織中のタンパク質の変性を最小限にする、または保存する。一態様では、Retschにより製造されたCryoMillをこの態様に使用することができる。
【0079】
たとえば、コラーゲン、胎盤成分、および/または臍帯成分を50mLのバイアルに入れることができ、このバイアルはその後密封される。バイアルをCryo-blockに置き、Cryo-blockをCryo-rackに置く。Cryo-rackを、液体窒素を保持するデュワーフラスコに入れる。組織を蒸気相に供し、30~60分以下の間冷却する。Cryo-rackをデュワーフラスコから取り外し、Cryo-blockをCryo-rackから取り外す。Cryo-blockをGrinder(SPEX Sample Prep GenoGrinder 2010)に入れ、20分、1,500rpmに設定する。20分経過した後、微粒子化を確認するために組織を検査する。必要に応じて組織をデュワーフラスコにさらに30~60分間戻し、さらに20分間粉砕機に移して十分な微粒子化を確実にする。
【0080】
粒径での分離は、粒子の懸濁液を形成することによる滅菌水中の微粒子化した物質の分画により、達成することができる。懸濁液の最上部は、主に最も小さい粒子を含み、懸濁液の最下部は、主に最も重い粒子を含む。分画により、粒子をサイズ分離し、分画を反復して行うことにより微粒子化した粒子を様々な大きさに分離する。このように分離した粒子は、意図する用途に最も適しているように、望ましい粒径の比率に組み合わせることができる。
【0081】
別の実施形態では、分離はふるいを使用して行う。たとえば、物質が十分に微粒子化された後、米国の規格のASTMふるいのシリーズを使用して分別する。一部の実施形態では、ふるいは、以下の順:355μm、300μm、250μm、150μm、および125μmで配置することができる。微粒子化した物質を、50mLのバイアルから355μmのふるいに移す。各ふるいを個々に攪拌して、微粒子化した粒子を完全に分離する。ふるいを使用して微粒子化粒子を効率的に分離した後、355μm、300μm、250μm、150μm、および125μmの粒径を有する微粒子化した粒子を、別々にラベル付けしたバイアルに回収する。
【0082】
微粒子化したコラーゲン、胎盤成分、および/または臍帯成分の粒径も、用途に応じて変動することができる。用語「微粒子化」は、ミクロンおよびサブミクロンの大きさの粒子を含むことを意味することが理解されている。一態様では、微粒子化したワルトンゼリーは、500μm以下、400μm以下、300μm以下、200μm以下、100μm以下、75μm以下、50μm以下、25μm以下、20μm以下、15μm以下、10μm以下、9μm以下、8μm以下、7μm以下、6μm以下、5μm以下、4μm以下、3μm以下、2μm以下、または2μm~400μm、25μm~300μm、25μm~200μm、または25μm~150μmである粒子を有する。一態様では、微粒子化組成物は、150μm未満、100μm未満、または50μm未満の直径を有する粒子を有する。他の態様では、より大きな直径(たとえば150μm~350μm)を有する粒子が望ましい。他の態様では、粒子は、約25μm~約75μmの直径を有する。すべての場合で、粒子の直径は最も長い軸に沿って測定される。
【0083】
一部の実施形態では、微粒子化したコラーゲン、胎盤成分、および/または臍帯成分は、所望の粒度分布を有する。たとえば、粒子の大きさが小さくなると作用をより速めることができ、粒子が大きくなると、有用性がより長期間となることができる。一部の実施形態では、微粒子化組成物の約50%は、40μM未満の直径を有し、微粒子化組成物の約25%が40μMから60μM未満の直径を有し、微粒子化組成物の約25%が60μM超の直径を有する。一部の実施形態では、微粒子化組成物の約25%が、40μM未満の直径を有し、微粒子化組成物の約25%が40μMから60μM未満の直径を有し、微粒子化組成物の約50%が60μM超の直径を有する。
【0084】
一実施形態では、粒子の体積に対する表面積の比率(上述の直径の範囲を有する球に基づく)は、約0.06μm-1~約6×10μm-1、0.06μm-1~約6×10μm-1、約0.06μm-1~約6×10μm-1、または約0.6μm-1~約6×10μm-1の範囲にある。
【0085】
一態様では、微粒子化の前または後に、微粒子化組成物に充填剤を添加することができる。充填剤の例として、限定するものではないが、同種移植片の心膜、同種移植片の無細胞真皮、バイオセルロースポリマーもしくはコポリマー、生体適合性合成ポリマーもしくはコポリマーのフィルム、精製した小腸の粘膜下層、膀胱の無細胞マトリックス、死体の筋膜、またはそれらのいずれかの組み合わせが挙げられる。
【0086】
別の態様では、微粒子化の前および/または後に、微粒子化組成物に生理活性剤を添加することができる。生理活性剤の例として、限定するものではないが、自己血液収集および分離生成物、または期限切れの保存血由来の血小板濃縮物のいずれかを使用した、血小板濃縮物由来の天然に存在する増殖因子;骨髄穿刺液;濃縮したヒト胎盤性臍帯血幹細胞由来の幹細胞;濃縮した羊水幹細胞またはバイオリアクター中で増殖させた幹細胞;または抗生物質が挙げられる。対象となる領域に生理活性剤を伴う微粒子化組成物を使用すると、生理活性剤は、経時的にこの領域に送達される。よって、本明細書中記載される微粒子化粒子またはその組成物は、対象に投与する際に、生理活性剤および他の薬剤の送達デバイスとして有用である。放出プロファイルは、特に微粒子化組成物を作製するために使用される成分の選択、および粒子の大きさに基づき、修正することができる。
【0087】
他の態様では、本明細書中記載される微粒子化組成物は、懸濁剤またはゼラチン性のゲルの組成物を形成するために、いずれかの薬学的に許容可能な賦形剤中で製剤化することができる。本組成物は、液体、ゲル、またはペーストとすることができる。このような賦形剤の例として、限定するものではないが、水、ヒアルロン酸水溶液、生理食塩水、リンガー溶液、デキストロース溶液、ハンクス溶液、および他の水性の生理学的に平衡化された塩溶液が挙げられる。不揮発性油、オリーブ油およびゴマ油などの植物油、トリグリセリド、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、およびオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルなどの、非水性のビヒクルを使用することもできる。他の有用な製剤として、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、またはデキストランなどの粘性増強剤を含む懸濁液が挙げられる。また賦形剤は、等張性および化学的安定性を高める物質などの少量の添加剤を含むこともできる。バッファーの例として、リン酸緩衝液、重炭酸緩衝液、およびトリス緩衝液が挙げられ、保存剤の例として、チメロソール(thimerosol)、クレゾール、ホルマリン、およびベンジルアルコールが挙げられる。特定の態様では、投与形式に応じてpHを修正することができる。さらに、医薬組成物は、本明細書中に記載の化合物に加えて、担体、増粘剤、希釈剤、保存剤、表面活性剤などを含むことができる。
【0088】
一部の実施形態では、微粒子化したコラーゲンと、微粒子化胎盤成分および微粒子化臍帯成分のうちの1つまたは両方とに由来する流動性のあるゲル組成物を作製するために、滅菌水を使用する。たとえば、約0.1~約1g(たとえば約0.5g)の微粒子化コラーゲンと、微粒子化胎盤成分および微粒子化臍帯成分のうちの1つまたは両方とを、約1mL~約2mL(たとえば約1.3~1.4mL)の水と混合して、流動性のあるゲル物質を提供することができる。一部の実施形態では、本組成物中の微粒子化コラーゲンと、微粒子化胎盤成分および微粒子化臍帯成分のうちの1つまたは両方との濃度は、約0.05g/mL~約1g/mL、たとえば約0.05g/mL、約0.1g/mL、約0.2g/mL、約0.3g/mL、約0.4g/mL、約0.5g/mL、約0.6g/mL、約0.7g/mL、約0.8g/mL、約0.9g/mL、約1g/mL、またはエンドポイントを含むいずれかの2つの値の間のいずれかの範囲である。この物質は、シリンジに充填でき、かつ25~27ゲージの針などの針を介して通過することができる滑らかな堅さがある。
【0089】
一部の実施形態では、上記のゲルの液滴は、ボードの滑らかかつエンボス加工されていない表面などの表面に適用し、実質的または完全に乾燥させることができる。一部の実施形態では、液滴の直径は、約5~約1mm、たとえば約2.5mmである。乾燥後、全径が最小限となった固体のペレットが形成される。一部の実施形態では、固体のペレットは円形の形状/構成である。本明細書中使用されるように、実質的に、乾燥ペレットは、10%以下、5%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、または0.1%以下の残留水を含むと意味されている。
【0090】
ペレットは、再水和するように滅菌水または他の水溶液(たとえば生理食塩水)に入れることができる。一部の実施形態では、再水和時間は、約1時間または1時間超である。一部の実施形態では、ペレットの直径が再水和後に増加する。一部の実施形態では、この直径は、約1.1~3倍、たとえば約1.5~2.5倍、または約2倍増加する。一部の実施形態では、24時間超などの長期間での水性条件における大きさまたは形状の完全性の喪失を表すものではない。
【0091】
一部の実施形態では、微粒子化コラーゲン、および微粒子化胎盤成分と微粒子化臍帯成分のうちの1つまたは両方を、所望の形状または大きさを有する型の形状および大きさを取り、かつ所望の粘着性および密度を呈する成形された微粒子化組成物を形成するように、上記型に圧縮する。所望の形状および大きさの型を形成するために、シリコーン、樹脂、テフロン(登録商標)、またはステンレス鋼などの適切な成形材料を選択することは、当業者の範囲内である。
【0092】
本明細書中記載される微粒子化組成物は、局所的な治療または全身的な治療が望まれているかどうか、および治療される領域に応じて、多くの方法で投与することができる。一態様では、注射により投与を行うことができ、ここで本組成物は液体またはゲルに製剤化される。他の態様では、本組成物は、対象へ内部に適用されるように製剤化することができる。他の態様では、本組成物は、局所的に(眼、膣、直腸、鼻腔内、経口的に、または皮膚に直接)適用することができる。
【0093】
一態様では、微粒子化組成物は、皮膚に直接適用される局所組成物として製剤化することができる。局所投与用の製剤として、限定するものではないが、乳剤、クリーム、水溶液、オイル、軟膏、ペースト、ゲル、ローション、ミルク、フォーム、懸濁剤、および粉剤を含むことができる。一態様では、局所組成物は、1つまたは複数の界面活性剤および/または乳化剤を含むことができる。微粒子化粒子の局所的な適用は、特に熱傷、乾癬性疼痛、皮膚炎、しわなどの治療に良好に適している。
【0094】
治療方法
本発明の別の態様では、対象を治療する方法であって、開示される複層化組織移植片または微粒子化医薬組成物のいずれかと上記対象を接触させることを含む、方法を開示する。
【0095】
一態様では、本明細書中記載される移植片または微粒子化医薬組成物は、創傷治癒の亢進または改善に有用である。日常的に医師に提示される傷の種類は様々である。急性創傷は、外科的処置、外傷、および熱傷により引き起こされる。慢性創傷は、他の健常な個体における治癒と比較して閉鎖が遅延する創傷である。患者を悩ませる慢性創傷の種類の例として、糖尿病性足部潰瘍、静脈性下腿潰瘍、褥瘡、動脈性潰瘍、および感染した外科的な創傷が挙げられる。
【0096】
さらなる態様では、本発明は、本発明のコラーゲン含有複層化組織移植片または微粒子化医薬組成物を治療、予防、または美容に使用する方法を提供する。本発明のコラーゲン含有複層化組織移植片は、限定するものではないが、組織またはマトリックス物質のパッチまたはプラグ、プロテーゼ、および他のインプラントなどの構造を含む人工処理した組織および臓器の製造、組織のスキャフォールディング、創傷の修復または手当、止血用デバイス、縫合などの組織の回復および支持に使用するためのデバイス、合成インプラント、美容インプラント、およびサポート用の天然のコーティングまたは成分、臓器または組織用の修復または構造的な支援、物質の送達、生物工学のプラットフォーム、細胞における物質の効果を試験するプラットフォーム、細胞の培養、ならびに多くの他の用途を含む、幅広い潜在的な用途を有する。
【0097】
別の態様では、組織移植片または微粒子化医薬組成物は、歯科的な応用に有用である。たとえば移植片または微粒子化医薬組成物は、歯科的なインプラント周辺に使用することができ、または進行性歯肉退縮異常の治療において使用することができる。別の態様では、移植片を、組織再生誘導法に使用することができる。
【0098】
他の態様では、本明細書中記載される移植片または微粒子化医薬組成物は、整形外科での応用(すなわちスポーツ医学)に使用することができる。スポーツ医学は、活動的な個体または運動選手における、外傷、または反復運動によりもたらされる慢性的な病態により引き起こされる関節または関節周辺の様々な軟組織の損傷の回復および再構成を含む。たとえばスポーツ医学は、限定するものではないが、肩、肘、足、足首、手、および手首に関連した様々な異なる損傷の治療を含む。
【0099】
主な種類の損傷として、様々な関節、最も一般的には膝のACLおよび肩の回旋筋腱板における、腱および靭帯の捻挫および断裂が挙げられる。腱および靭帯ではない手法として、未処置のままである場合に関節の変形性関節症をもたらし得る、断裂した膝の半月板の修復および膝の軟骨の修復が挙げられる。また非外科的な選択肢として、炎症のある腱(「テニス肘」など)への抗炎症性薬剤の注射、関節への潤滑剤の注射(膝へのヒアルロン酸の注射など)、ならびに理学療法および固定具が挙げられる。
【0100】
一態様では、本明細書中記載される組織移植片または微粒子化医薬組成物は、治癒する腱への瘢痕形成を防止するために腱の修復部を包むために使用することができる。またこれらは、修復がうまく進行するように保護的な閉鎖環境をも提供することができる。組織または微粒子化医薬組成物の移植片は、同種移植片を購入または腱もしくは靭帯の移植を行う必要性に代わる市販の腱および靭帯として、使用することができる。
【0101】
他の態様では、本明細書中記載される組織移植片または微粒子化医薬組成物は、回旋筋腱板の強化に使用することができる。一部の回旋筋腱板の断裂は、生存可能な天然の組織がないことから、修復を支援する強化マトリックスを必要とするほど大きい。本明細書中記載される組織移植片または微粒子化医薬組成物は、修復を強化するためのマトリックスとして使用することができる。一態様では、本明細書中記載される組織移植片は、膝の軟骨を修復するために使用することができる。たとえば、組織移植片または微粒子化医薬組成物は、細胞培養した軟骨細胞または他の軟骨再生促進性マトリックスを軟骨欠損部の内部に保持する障壁として、使用することができる。この態様では、組織移植片または微粒子化医薬組成物は、この欠損部を閉鎖し、所定の位置にマトリックスを保持するフラップとして利用される。
【0102】
一態様では、組織移植片または微粒子化医薬組成物は、末梢神経を修復するために使用することができる。組織移植片または微粒子化医薬組成物は、治癒する神経の上への瘢痕の形成を防止するために、神経修復のためのラップとして使用することができる。また組織移植片は、修復をうまく進行させるための保護的な閉鎖環境をも提供することができる。他の態様では、組織移植片または微粒子化医薬組成物は、神経端が再度近接することができない保護環境で神経増殖を誘導するための神経再生チューブに製造することができる。ここで、他の軟組織が干渉することなく、神経端が自由に一致することができる場合、神経はある特定の距離まで再度結合することができる。別の態様では、組織移植片は、前立腺切除術の後に神経束を包むように使用することができる。これらの神経は、勃起の機能およびおそらくは節制に貢献する。組織移植片または微粒子化医薬組成物は、瘢痕およびおそらくは神経の損傷を避けるために神経の上に配置することができる。
【0103】
他の態様では、本明細書中記載される組織移植片または微粒子化医薬組成物は、骨膜(periostium)の修復の支援;破裂/損傷した嚢の修復の支援;骨修復の間の間隙充填物質の固定の支援;または対象の四肢に関与する用途(たとえば小さな骨の固定のための抗接着障壁、金属のプレートまたはハードウェアが使用されている場所における抗接着障壁、または破裂/損傷した嚢の修復の支援)などの、他の整形外科的な応用に使用することができる。
【0104】
別の態様では、組織移植片または微粒子化医薬組成物は、女性の妊孕性、生殖器系により引き起こされる疼痛または生殖器系の癌に関連し得る疾患の治療を含む産科及び婦人科学(OB/GYN)での外科手術に使用することができる。これらの処置として、子宮筋腫の除去(筋腫核出術)、卵巣嚢胞の除去、卵管結紮、子宮内膜症の治療、一部の癌性または非癌性の腫瘍の除去、および膣のスリングが挙げられる。これらの手法は、経腟的、腹部、または腹腔鏡下の手法を介して完了してもよい。
【0105】
組織移植片または微粒子化医薬組成物は、外科手術の後で生殖器系の瘢痕組織の量を減少させるためのパッチとして使用することができる。瘢痕組織は、線維性組織の別の形態であり、妊孕性の問題の原因である場合もある。卵巣上またはファロピウス管の中の瘢痕の量を最小限にするこの特性は、手術後の妊孕性、さらには疼痛を支援し得る。別の態様では、組織移植片または微粒子化医薬組成物は、重篤な子宮内膜症の治療の後に子宮壁を再度構成し、患者の妊娠能力を増大させるために、使用することができる。さらなる態様では、組織移植片または微粒子化医薬組成物は、卵巣嚢胞の除去の後の抗接着障壁として使用することができ、または膣壁のびらんの修復を支援することができる。
【0106】
他の態様では、組織移植片または微粒子化医薬組成物は、心臓での応用に使用することができる。狭心症は、心筋の虚血(血液が不足することにより、酸素の供給が不足する)、一般的には冠動脈(心臓の血管)の閉塞または攣縮による重篤な胸部の疼痛である。狭心症の主な原因である冠動脈疾患は、冠動脈のアテローム性動脈硬化によるものである。アテローム性の血餅を除去するための様々な開胸の心臓および血管の外科手術は、血管の修復、再構成、および閉鎖、ならびに外科的な欠損を閉鎖かつパッチするための再生組織パッチの支援を必要とする。心臓バイパス移植片および心臓の欠陥の再建(開胸の心臓外科手術の一部として)はまた、軟組織の弱点の強化、適切な組織がない場合の組織の移植、および心臓自体への接着を低減させる可能性をも提供する、パッチまたは移植片から恩恵を受けることができる。本明細書中記載される組織移植片または微粒子化医薬組成物は、頸動脈の修復、冠動脈バイパスの移植、先天性心疾患、心臓弁の修復、および血管(すなわち末梢血管)の修復などの手術および合併症により引き起こされる血管および心臓の欠陥の修復を支援するパッチとして、使用することができる。他の態様では、組織移植片または微粒子化医薬組成物は、ステントへと構成することができる。
【0107】
本明細書中記載される組織移植片または微粒子化医薬組成物は、一般的な外科手術に使用することができる。たとえば一般的な外科手術は、腹腔に関連する手法を含む。これらは、腸、胃、結腸、肝臓、胆嚢、虫垂、胆管、および甲状腺を含む。外科手術は、ヘルニア、ポリープ切除術、癌の除去、クローン病および潰瘍性大腸炎の外科的な治療を含み得る。これらの手術は、開腹または腹腔鏡下で行うことができる。他の態様では、組織移植片または微粒子化医薬組成物は、吻合の閉鎖、吻合のための抗接着障壁、またはヘルニアの修復のための抗接着障壁を促進させるために使用することができる。
【0108】
他の態様では、組織移植片または微粒子化医薬組成物は、ENTの手法に使用することができる。鼓室形成術は、鼓膜(eardum、tympanic membrane)および/または中耳の小さな骨の再構築のために行われる。穴の開いた鼓膜を治療するためのいくつかの選択肢が存在する。この孔が最近の外傷に由来する場合、多くの耳鼻咽喉医は、自身で治癒するかどうかを観察かつ注意するようにしている。これが起こらない、または頻繁に再度穴が同一の領域で開く場合、外科手術を考慮することができる。鼓室形成術は、外耳道または耳の後ろの切開を介して行うことができる。ここで外科医は、耳の周辺の皮膚の下の組織から移植片を収集し、鼓膜を再構築するために移植片を使用する。本明細書中記載される組織移植片または微粒子化医薬組成物は、患者自身の組織の収集に関連する追加的な外傷を防止し、外科手術の時間を短縮するために使用することができる。他の態様では、組織移植片または微粒子化医薬組成物は、アデノイド切除術の後の創傷の被覆、扁桃摘出術の後の創傷の被覆、またはシュナイデル膜の修復の促進に使用することができる。
【0109】
他の態様では、本明細書中記載される組織移植片または微粒子化医薬組成物は、形成外科手術に使用することができる。瘢痕の修正は、瘢痕の外観を改善または低減するための外科手術である。またこれは機能を回復させ、損傷、創傷、または以前の手術により引き起こされる皮膚の変化(醜い外観)を補正する。瘢痕組織は、損傷または手術の後の皮膚の治癒として形成される。瘢痕の量は、創傷の大きさ、深さ、および位置;患者の年齢;遺伝;および皮膚の色(色素沈着)を含む皮膚の特徴により決定され得る。外科手術は、瘢痕の切除および欠陥の慎重な閉鎖を含む。一態様では、本明細書中記載される組織移植片または微粒子化医薬組成物は、瘢痕の治癒および予防;ならびにケロイドまたは癌の補正/除去を支援するためのパッチとして使用することができ、ここでは軟組織の端へ注意深く近接することが達成可能ではなく、瘢痕組織をもたらす場合がある。さらに、組織移植片の抗炎症性の特性はまた、治癒も高めることができる。
【0110】
他の態様では、組織移植片または微粒子化医薬組成物は、眼科的な応用(たとえば上張りの移植片での目の表面の修復)または泌尿器科での応用(たとえば精管復元術の間の精管の閉鎖の促進、または外傷からもたらされる精管の閉鎖の促進)に使用することができる。
【0111】
一態様では、組織移植片または微粒子化医薬組成物は、脳硬膜の修復および移植、小帯牽引の排除、失われた膝蓋組織の再生、鼻腔のシュナイデル膜、歯科インプラント周辺の軟組織の修復、口腔前庭形成術、および組織再生誘導法に使用することができる。
【0112】
別の態様では、組織移植片または微粒子化医薬組成物は、骨の欠陥の治療および骨の修復に使用することができる。一態様では、組織移植片は、下顎および上顎の水平および/または垂直に誘導された骨の再生の一次安定、歯科インプラントの修復、鼻腔および下顎のブロック移植片ドナー部位の上方の修復を提供するために、歯科的な外科手術に使用することができる。他の態様では、組織移植片または微粒子化医薬組成物は、限定するものではないが、外傷からもたらされた骨の異常、穿頭孔および穿頭器での異常などの外科的に作製された骨の異常、頬骨の異常、および眼窩の異常の治療を含む、頭蓋顔面の外科手術に使用することができる。整形外科手術では、組織移植片または微粒子化医薬組成物は、限定するものではないが、開放性骨折および皮下骨折、部分的欠損、骨軟骨の異常、脊椎固定、および他の非充填的な関連する再生手法を含む骨の異常の治療に使用することができる。他の態様では、組織移植片または微粒子化医薬組成物は、部分的な長骨の欠損の治療に使用することができる。
【0113】
移植片の用途に応じて、移植片または微粒子化医薬組成物は、自己血液収集および分離生成物、または期限切れの保存血由来の血小板濃縮物のいずれかを使用した、血小板濃縮物由来の天然に存在する増殖因子;骨髄穿刺液;濃縮したヒト胎盤性臍帯血幹細胞由来の幹細胞;濃縮した羊水幹細胞またはバイオリアクター中で増殖させた幹細胞;または抗生物質から構成される溶液などの生理活性剤に浸漬することができる。ここで、微粒子化医薬組成物、または組織移植片の1つもしくは複数の膜の層は、生理活性剤を吸収する。創傷へ生理活性剤で湿潤した組織移植片を使用すると、生理活性剤は経時的に創傷へ送達される。
【0114】
本明細書中記載される組織移植片または微粒子化医薬組成物は対象の組織に直接使用することができるが、同様に、対象にその後使用することができる創傷被覆材に適用することもできる。たとえば、創傷被覆材は、ガーゼ、包帯もしくはラップ、または対象に直接使用することができる組織移植片を含むまたは固定することができる他のいずれかの適切な物品とすることができる。
【0115】
本明細書中記載される組織移植片または微粒子化医薬組成物は、限定するものではないが、軟組織のリモデリング、充填、または再構成、しわ、ひだ、および瘢痕、熱傷、潰瘍の治療、軟組織の増強、顔の脂肪萎縮を含む様々な美容上の治療に、鎮痛剤および抗炎症剤として有用である。この潜在的な用途の論述は、徹底的するように意図されてはおらず、多くの他の実施形態が存在する。
【0116】
一態様では、組織移植片または微粒子化医薬組成物は、皮膚の充填剤として使用することができる。皮膚は、3つの層:表皮、真皮、および皮下から構成される。表皮は外層であり、外部環境に対する障壁として機能する。真皮は、コラーゲンおよびエラスチン線維である構造上の要素を含む皮膚の第2の層である。コラーゲンは皮膚に強度を提供し、エラスチン線維は皮膚に弾性を提供する。表皮と真皮の間には、真皮-表皮接合部と呼ばれる領域がある。これは、表皮突起と呼ばれる指のような突起の形成と連動しており、真皮の血管に曝露している表皮の表面積を増大させる。表皮の細胞は真皮の血管から栄養素を受領する。皮膚の最後の層は、脂肪細胞を含む皮下組織である。これらの脂肪細胞は、皮膚を膨らませ、若くみせる。また身体へ遮断を提供する。
【0117】
ヒトが年齢を重ねると、皮膚は、結果的にしわをもたらす多くの変化を経る。多くの上皮細胞が減少すると、皮膚が顕著に薄くなり、皮膚自体で修復することがより困難となる。真皮層は薄くなるだけでなく、コラーゲンの産生が少なくなり、エラスチン線維が摩耗して弾性が減少する。皮膚のスキャフォールディングにおけるこれらの変化は、皮膚にしわおよびたるみをもたらす。この真皮-表皮接合部の表皮突起を平らにすると、皮膚がよりもろくなり、容易に破けることとなる。平坦化した表皮突起は、真皮と接触する表皮の表面積が減少し、上皮が入手可能な栄養素の量が減少する。またこれは、皮膚の正常な修復過程を妨げる。皮下層では、脂肪細胞は年齢とともに小さくなり、しわおよびたるみがより顕著になる。
【0118】
羊膜は、創傷治癒および再上皮化を促進するEGF、bFGF、およびPDGFなどの増殖因子を含む。理論により限定されることを望むものではないが、本明細書中記載される組織移植片または微粒子化組成物から構成される局所組成物の皮膚の上皮層が破壊されている領域での使用は、治癒を促進するために、損傷した部位に直接増殖因子を送達する際に有効であり得る。羊膜は、羊膜を水と結合させ、膨張させることができるIV型、V型、およびVII型コラーゲンの存在により固有のECMである。
【0119】
また羊膜の中間組織層は、同様に中間組織層を水と結合させることができる、糖タンパク質およびプロテオグリカンから主に構成されている。よって、皮膚または創傷に使用する場合の組織移植片または微粒子化組成物は、皮膚での水の保持を支援し、これにより創傷治癒を促進させる。皮膚に有用な組織移植片または微粒子化組成物における別の重要な成分は、プロテオグリカンである、上述のように、プロテオグリカンは、中間組織層を水と大きな度合で結合させ、相当膨張させることができる。上述のように、皮下層の脂肪細胞は、加齢と共に小さくなり、これによりしわが顕著となる。よって、本明細書中記載される組織移植片または微粒子化組成物から構成される真皮の充填剤を注射することにより、皮膚をより顕著に膨らませ、若く見せることができる。
【0120】
一実施形態では、好ましくは微粒子化されている、本発明の複数の層の組織移植片もまた、顔のひだまたはくぼみの領域を増加させるため、かつ/または患者の顔および身体の領域に完全性を追加もしくは増大させるために、使用してもよい。この増加を必要とする顔および/または身体の領域は、たとえば加齢、外傷、疾患、疾病、環境上の要因、体重の減少、出産、またはそれらの組み合わせの結果であり得る。本発明の組織移植片を注射または投与し得る患者の顔または身体の領域の非限定的な例として、眼の下、こめかみ、頬上部、頬下部、頤、唇、下顎の輪郭、額、眉間、眉の外側、頬、上唇と鼻との間の領域、鼻(鼻梁など)、首、殿部、尻、胸骨、または顔もしくは身体の他のいずれかの一部、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0121】
さらなる態様では、好ましくは微粒子化されている、本発明の複数の層の組織移植片は、限定するものではないが、しわ、くぼみ、または他のひだ(たとえば眉間のしわ、額のしわ、眼尻のしわ、マリオネットライン)、皮膚線条、内部および外部の瘢痕(損傷、創傷、事故、咬傷、または外科手術からもたらされる瘢痕など)、またはそれらの組み合わせを含む皮膚の異常を治療するために、使用してもよい。一部の実施形態では、本発明の組織移植片は、たとえば「くぼんだ」眼、眼のくまをもたらす眼に見える血管、および眼に見える瞼頬溝の補正に使用してもよい。また、本明細書中に記載される組織移植片は、たとえば、下瞼形成術から眼の下の脂肪パッドの積極的な除去の後の眼の下の補正、または積極的な頬側の脂肪の抽出または天然の喪失の後の下の頬の補正に、使用してもよい。一実施形態では、本発明の組織移植片は、鼻形成術、皮膚の移植、または他の外科的に誘導される変則の結果、たとえば脂肪吸引からもたらされる弯入を補正するために使用してもよい。他の実施形態では、本発明の組織移植片は、顔または身体の瘢痕(たとえば創傷、水疱、またはにきび瘢痕)の補正に使用してもよい。一部の実施形態では、本発明の組織移植片は、顔の再形成のため、患者に注射または投与する。本発明の方法を使用した顔の再形成は、首の弛緩症を有する、または痩せた顔、長い顔、下膨れの顔、非対称な顔、丸い顔を有する、または局在する脂肪萎縮症、顔面中部後退、くぼみ目、および/もしくはそれらのいずれかの組み合わせを有する顔を有する患者において、考慮されてもよい。
【0122】
一実施形態では、本発明の方法は、癌またはにきびなどの疾患または疾病により引き起こされる皮膚の異常などの、認知される皮膚の異常の治療のため、本発明の組織移植片または微粒子化医薬組成物を患者に注射または投与することを含む。この異常は、疾患または疾病の直接的または間接的な結果である場合がある。たとえば皮膚の異常は、ある疾患もしくは疾病により引き起こされる場合があり、またはある疾患もしくは疾病の治療により引き起こされる場合がある。
【0123】
実施例1-再構成したコラーゲンの調製
コラーゲンは、標準的な手法を使用してヒトの胎盤組織から入手し、精製される。たとえばコラーゲンは、酸水溶液(たとえば3%の酢酸、pH2.5)で、25~50℃で2~24時間、組織をミンスおよび抽出することにより、胎盤組織から得ることができる。酸で抽出したコラーゲンを、遠心により不溶性の組織残渣から分離することができる。この残渣を、酸水溶液(たとえば3%の酢酸、pH2.5)中のペプシンで、25~50℃で2~24時間、消化する。この消化物を遠心する(たとえば37,000gで2~60分間)。上清を回収し、氷上で攪拌しながらNaClを添加する(たとえば約0.7mまで)。得られた沈殿物を上述のように遠心により回収し、次に、酸(たとえば3%の酢酸、pH2.5)で再度溶解する。NAClを再度添加し(たとえば約0.7mまで)、沈殿物を遠心により回収する。精製したコラーゲンを酸(たとえば3%の酢酸、pH2.5)に再度溶解し、25~50℃で保存する。コラーゲンの純度を、4~20%の直線勾配のトリス-グリシンゲルを使用したSDS/PAGEにより評価することができる。任意に、精製したコラーゲンを固定(すなわち架橋)し、かつゲルとして複層化した組織移植片に添加することができ、または精製したコラーゲンを任意に固定し、複層化した組織移植片に添加する前にシートへと乾燥した層に作製することができる。
【0124】
実施例2-架橋したコラーゲン線維の調製
線維は、水に対して0.32ml/cmの透析チューブにおいて、精製したコラーゲン10mlを透析し、次に30mmのNaHPO、140mmのNaCl、pH7.4(PBS)に対して37℃で一晩透析することにより、調製する。コラーゲン線維のゲルをウォーターバスに押し出し、一端を固定し、空気中で垂直につるし、室温で乾燥させる。乾燥した線維を0.1mのNaHPO、0.15MのNaCl、pH7.0(PBS)に30分間水和する。次に線維を、PBS中のNDGAで処理する。NDGAは、1NのNaOHに懸濁されている。10mg/ml超の濃度でのNDGAの可溶化は、10nのNaOH10mlの添加を必要とする。NDGA溶液1mlを、線維が懸濁しているリン酸緩衝液に添加する。NDGA溶液中の線維を24時間攪拌する。線維を取り出し、短時間水ですすぎ、乾燥するため垂直につるす。エタノールを用いてNDGAで処置した線維を洗浄することにより、未反応のNDGAの混入物は効率的に除去される。ここで報告される実験では、すべての線維は少なくとも6時間、70%のエタノールで洗浄され、次に、室温で18時間、PBSで徹底的に洗浄される。
【0125】
実施例3-羊膜層の調製
胎盤を、滅菌発送バックから取り出し、重要な環境の中で滅菌処理ベースンへと無菌的に移す。滅菌ベースンは、好ましくは室温または室温近くの18%のNaCl(高張性生理食塩水)溶液を含む。胎盤を、血餅の分離を支援し、胎盤組織が室温に達するようにゆっくりとマッサージすることにより、後述するようにより簡単に、羊膜および絨毛膜の層を互いに分離させる。大気温度まで温めた後(約10~30分後)、次に、胎盤を滅菌処理ベースンから取り出し、処理トレイに平らに配置する。
【0126】
次に、胎盤組織の羊膜および絨毛膜層を注意深く分離する。この手法に使用する材料および器具は、処理トレイ、18%の生理食塩水溶液、滅菌4×4スポンジ、および2つの滅菌ナルゲンジャーを含む。次に、羊膜層を絨毛膜層から分離できる領域(概して角)を見出すため、胎盤組織を入念に試験する。羊膜は、絨毛膜上の薄く、不透明な層として見える。
【0127】
処理トレイにおいて羊膜層が下にある胎盤組織を用いて、絨毛膜層を、羊膜が破れないように注意深くゆっくりと連続した動きで羊膜層からそっと取り外す。絨毛膜層が必要ではない場合、滅菌4×4スポンジのうちの1つを用いて1方向に絨毛膜をやさしくこすることにより、羊膜層からそっと絨毛膜層をこすりとることができる。絨毛膜が保持されるべきである場合、次に、スポンジを用いることなく、羊膜層または絨毛膜層のいずれもやぶれないように注意深く、分離工程を手で続ける。
【0128】
羊膜組織および絨毛膜が清浄であり、さらなる処理の準備が整うまで、組織の各層から血餅および他の外来性組織を除去するように注意を払う。より具体的には、羊膜および絨毛膜組織を処理トレイに配置し、切れ味の鈍い器具、指、または微粒子ではない滅菌ガーゼを使用して、羊膜の間質組織および絨毛膜の栄養芽組織を含まなくなるまで血液をゆっくりとこすることにより、血餅を注意深く除去する。羊膜の間質層は、母体と面する側の羊膜である。対照的に、基底膜層は、胎児と面する側の羊膜である。
【0129】
切れ味の鈍い器具、細胞スクレーパーまたは滅菌ガーゼを使用して、残りのいずれかのデブリまたは汚染物をも除去する。このステップは、羊膜または絨毛膜組織を破かないように、再度適切な注意をもって行わなければならない。羊膜の洗浄は、羊膜組織が滑らかであり、不透明な白色の外観であると完了する。羊膜組織を洗浄しすぎると、この不透明な層が除去される可能性がある。
【0130】
実施例4-複層化皮膚移植片の調製
上述の洗浄した羊膜組織(4cm×3cm)を清浄な処理トレイに設置する。上述のように、NDGAで処理したコラーゲン線維の精製したシート(4×3cm)を、以前に絨毛膜組織と接触した側の羊膜組織に追加する。第2の羊膜組織(4cm×3cm)を、コラーゲンが、同様に以前に絨毛膜組織と接触した側の第2の羊膜組織と接触するように、コラーゲンシートの上部に層状化する。得られた、羊膜/コラーゲン/羊膜を有する複層化した皮膚移植片を乾燥させる。
【0131】
実施例5-微粒子化組成物の調製
前の実施例の乾燥した羊膜/コラーゲン/羊膜の組織移植片を、米国特許公開公報第2008/0046095号に記載される微粒子化工程により微粒子化した粒子を生成するために使用する。この文献全体は参照により援用される。羊膜/コラーゲン/羊膜の組織移植片(4cm×3cm)および2つの9.5mmの鋼性の粉砕ボールを50mLのバイアルに配置し、その後バイアルを密閉する。バイアルをCryo-blockに配置し、Cryo-blockをCryo-rackに入れる。Cryo-rackを、液体窒素を保持するデュワー瓶に配置する。組織の試料に、30~60分間蒸気相冷却を行い、Cryo-rackをデュワー瓶から取り外し、Cryo-blockをCryo-rackから取り外す。Cryo-blockをGrinder(SPEX Sample Prep GenoGrinder 2010)に配置し、1,500rpm、20分間に設定する。20分経過した後、微粒子化を確実にするため組織を検査する。必要に応じて、組織をさらに30~60分間デュワー瓶に戻し、さらに20分間粉砕機に移動させて、十分な微粒子化を確実にすることができる。組織が十分に微粒子化された後、米国の規格のASTMふるいのシリーズを使用して分別する。このふるいは、以下の順:355μm、300μm、250μm、150μm、および125μmで配置することができる。微粒子化した物質を、50mLのバイアルから355μmのふるいに移す。微粒子化した粒子を完全に分離するために、各ふるいを個別に攪拌する。ふるいを使用して微粒子化した粒子を効率的に分離した後、355μm、300μm、250μm、150μm、および125μmの粒径を有する微粒子化粒子を、別々のバイアルに回収する。
【0132】
上記は、本発明の例であり、本発明を限定するように解釈すべきではない。本発明の数例の例示的な実施形態が記載されているが、当業者は、本発明の新規の教示および利点から著しく逸脱することなく多くの修正が例示的な実施形態で可能であることを容易に理解するものである。よって、このようなすべての修正が、特許請求の範囲に定義される本発明の範囲内に含まれていると意図されている。本発明は、以下の特許請求の範囲中に含まれている特許請求の範囲の均等物と共に、特許請求の範囲により定義されている。