(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 2/38 20210101AFI20220705BHJP
A23L 2/39 20060101ALI20220705BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
A23L2/38 M
A23L2/39
A23L2/00 A
(21)【出願番号】P 2018044906
(22)【出願日】2018-03-13
【審査請求日】2021-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】591014972
【氏名又は名称】株式会社 伊藤園
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 延夫
(72)【発明者】
【氏名】笹目 正巳
(72)【発明者】
【氏名】西谷 栄盛
(72)【発明者】
【氏名】高西 大貴
(72)【発明者】
【氏名】山本 治
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-248539(JP,A)
【文献】特開平11-000146(JP,A)
【文献】麦茶のミネラル成分は何が入ってる?ホントに健康効果ってある!?, 2017 (online), pp.1-6, retrieved on 2021.12.27, retrieved from the internet: <https://kamome-times.com/archives/3645.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L、A23F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙煎麦抽出成分(ミネラル成分含む)と、当該焙煎麦抽出成分以外のミネラル成分とを含有する組成物の製造方法であって、
焙煎麦を溶媒で抽出して麦抽出液を得(抽出工程)、該麦抽出液を得るのと同時又は得られた後に前記麦抽出液のミネラル成分を調整してミネラル調整麦抽出液を得(ミネラル調整工程)、当該ミネラル調整麦抽出液を噴霧乾燥する(乾燥工程)ことを特徴とし、且つ、
製造される組成物が、シュウ酸を30~100mg/100g含有し、且つ、カルシウムを10~50mg/100g含有し、且つ、
カリウム、リン、マンガン、カルシウム、マグネシウム及びナトリウムの合計を600.0~30000.0mg/100g含有し、且つ、デンプン含有量に対する単糖及び二糖の含有量の比率((単糖+二糖)/デンプン)が0.01~0.05であることを特徴とする組成物の製造方法。
【請求項2】
製造される組成物のアラビノキシラン含有量が300~1700mg/100gであることを特徴とする請求項1に記載の組成物の製造方法。
【請求項3】
製造される組成物は、カルシウム含有量に対するシュウ酸含有量の比率(シュウ酸/カルシウム)が1.0~5.0であることを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物の製造方法。
【請求項4】
前記ミネラル調整工程において、天然水,海洋深層水及び湖水からなる群から選ばれる1種又は2種以上に由来するミネラル成分を麦茶抽出液に加えることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の組成物の製造方法。
【請求項5】
焙煎麦抽出成分(ミネラル成分含む)と、当該焙煎麦抽出成分以外のミネラル成分とを含有する組成物であって、
シュウ酸含有量が30~100mg/100gであり、カルシウム含有量が10~50mg/100gであ
り、カリウム、リン、マンガン、カルシウム、マグネシウム及びナトリウムの合計含有量(「主要ミネラル成分合計含有量」と称する)が600.0~30000.0mg/100gであって、且つデンプン含有量に対する単糖及び二糖の含有量の比率((単糖+二糖)/デンプン)が0.01~0.05であることを特徴とする組成物。
【請求項6】
アラビノキシラン含有量が300~1700mg/100gであることを特徴とする、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記主要ミネラル成分合計含有量に対するシュウ酸含有量の比率(シュウ酸/主要ミネラル合計)が0.001~0.1であることを特徴とする、請求項5又は6に記載の組成物。
【請求項8】
前記ミネラル成分が、天然水,海洋深層水及び湖水からなる群から選ばれる1種又は2種以上に由来する成分を含むものであることを特徴とする請求項5~7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
水に溶解すると清涼飲料を作製できる組成物であることを特徴とする請求項5~8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
請求項5~9のいずれかに記載の組成物を有効成分とするミネラル付与剤。
【請求項11】
請求項5~9のいずれかに記載の組成物又は請求項10に記載のミネラル付与剤を配合した飲食物。
【請求項12】
焙煎麦抽出成分(ミネラル成分含む)と、当該焙煎麦抽出成分以外のミネラル成分とを含有する組成物を、水に溶解して得られる飲料の沈殿及び凝集発生抑制方法であって、
当該組成物のシュウ酸含有量を30~100mg/100gに調整し、且つ、当該組成物のカルシウム含有量を10~50mg/100gに調整し、
且つ、カリウム、リン、マンガン、カルシウム、マグネシウム及びナトリウムの合計含有量を600.0~30000.0mg/100gに調整し、且つ当該組成物のデンプン含有量に対する単糖及び二糖の含有量の比率((単糖+二糖)/デンプン)を0.01~0.05に調整することを特徴とする、飲料の沈殿及び凝集発生抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焙煎麦抽出成分を含有する組成物であって、例えば水に溶かして飲用することができる組成物、特にミネラル成分を含有する組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
麦茶は、焙煎した大麦をそのまま又は粉砕して抽出した飲料であり、こうばしい香りとコクがあり、温めても冷たくしても美味しく飲むことができるため、古くから広く日本で親しまれてきた。また、お茶やコーヒーなどと異なり、カフェインを含んでいないため、子供や妊婦なども安心して飲むことができる。
【0003】
麦茶製品としては、バッグ内に焙煎大麦の粉砕物を封入し、お湯又は水などで抽出できるようにした「ティーバッグ麦茶」や、焙煎大麦の抽出水を缶やペットボトルなどに充填して「容器詰め麦茶飲料」として上市されているほか、水やお湯に溶かすだけで麦茶とすることができる「粉末タイプの麦茶」も上市されている。
【0004】
麦茶に関しては、例えば特許文献1(特開2000-245411号公報)において、原料大麦を、蒸気噴霧時間5~60秒、蒸気流量20~60kg/hの条件下で蒸気噴霧処理した後、焙煎温度230~280℃、60秒~120秒の一次焙煎を行なった後、引き続いて焙煎温度250~300℃、60秒~120秒の二次焙煎を行なうことを特徴とする麦茶用麦の製造方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2(再表2009/142081号公報)には、香りや甘み及びコクなどに優れた麦茶を抽出できる焙煎麦の製造方法として、焙煎温度225℃~290℃で60秒~120秒間焙煎する一次焙煎工程と、焙煎温度250℃~300℃で60秒~120秒間焙煎する二次焙煎工程との間に、麦の品温を5秒以内に60~130℃の温度差で急冷する急冷工程を含む製造方法が開示されている。
【0006】
ところで、カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウムなどのミネラル成分には、体のバランスを保って健康を維持したり、骨や歯など体を構成したりする働きがある。人間の体内ではミネラルを合成することができないため、食べ物や飲み物から摂取する必要がある。そこで、前述の健康効果のほか、夏場の熱中症対策や、冬場のヒートショック対策も考慮して、ミネラル成分を積極的に添加した麦茶飲料が注目されている。
【0007】
ミネラルを含む麦茶に関しては、例えば特許文献3(特開昭58-216680号公報)において、麦茶濃縮液とミネラル成分抽出濃縮液とを混合し、ミネラル麦茶濃縮液を準備し、破砕した麦茶粒に該ミネラル麦茶濃縮液を付着させることによって得られる麦茶の製法が開示されている。
【0008】
また、特許文献4(特開昭59-28458号公報)には、ミネラル成分、糖類及び増量剤を麦茶濃縮液に混合・成形した造粒物をティーバッグに封入したミネラル麦茶の製法が開示されている。
【0009】
特許文献5(特開2002-142733号公報)には、海洋深層水を使用したことによって多くの天然微量元素(ミネラル)を含み、海洋深層水の持つミネラルバランスを再現した穀物茶の製造方法として、海洋深層水の濃縮水中に精白した原料穀物を所定時間浸漬してから蒸気で蒸す蒸着工程、乾燥工程、焙煎工程、冷却工程を実施して作製した穀物茶の製造方法が開示されている。
【0010】
特許文献6(特開2005-151981号公報)には、塩分を取り除いた海洋深層水を麦茶飲料に混合及び攪拌して、マグネシウムを麦茶飲料1リットルあたり2.5mg~20mg、カリウムを麦茶飲料1リットルあたり100mg~350mgになるように調整した、呈味を改善させた血流改善作用を有する麦茶飲料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2000-245411号公報
【文献】再表2009/142081号公報
【文献】特開昭58-216680号公報
【文献】特開昭59-28458号公報
【文献】特開2002-142733号公報
【文献】特開2005-151981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
焙煎麦抽出成分に積極的にミネラルを添加して、麦茶抽出物が自然に含むミネラル成分よりも多くのミネラル成分を含む麦茶飲料用組成物に関しては、水に溶かして麦茶飲料すなわち清涼飲料とした際に凝集及び沈殿が発生することが課題であった。
【0013】
そこで本発明は、麦茶抽出物が自然に含むミネラル成分よりも多くのミネラル成分を含む組成物に関し、水に溶かして飲料とした際に凝集及び沈殿の発生を効果的に抑制することができる、新たな組成物及びその製造方法、さらには飲料の沈殿及び凝集発生抑制方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、焙煎麦抽出成分(ミネラル成分含む)と、当該焙煎麦抽出成分以外のミネラル成分とを含有する組成物の製造方法であって、焙煎麦を溶媒で抽出して麦抽出液を得(抽出工程)、該麦抽出液を得るのと同時又は得られた後に前記麦抽出液のミネラル成分を調整してミネラル調整麦抽出液を得(ミネラル調整工程)、当該ミネラル調整麦抽出液を噴霧乾燥する(乾燥工程)ことを特徴とし、且つ、製造される組成物が、シュウ酸を30~100mg/100g含有し、且つ、カルシウムを10~50mg/100g含有し、且つ、カリウム、リン、マンガン、カルシウム、マグネシウム及びナトリウムの合計を600.0~30000.0mg/100g含有し、且つ、デンプン含有量に対する単糖及び二糖の含有量の比率((単糖+二糖)/デンプン)が0.01~0.05であることを特徴とする組成物の製造方法を提案する。
【0015】
本発明はまた、焙煎麦抽出成分(ミネラル成分含む)と、当該焙煎麦抽出成分以外のミネラル成分とを含有する組成物であって、シュウ酸含有量が30~100mg/100gであり、カルシウム含有量が10~50mg/100gであり、カリウム、リン、マンガン、カルシウム、マグネシウム及びナトリウムの合計含有量(「主要ミネラル成分合計含有量」と称する)が600.0~30000.0mg/100gであって、且つデンプン含有量に対する単糖及び二糖の含有量の比率((単糖+二糖)/デンプン)が0.01~0.05であることを特徴とする組成物を提案する。
【0016】
本発明はまた、焙煎麦抽出成分(ミネラル成分含む)と、当該焙煎麦抽出成分以外のミネラル成分とを含有する組成物を、水に溶解して得られる飲料の沈殿及び凝集発生抑制方法であって、当該組成物のシュウ酸含有量を30~100mg/100gに調整し、且つ、当該組成物のカルシウム含有量を10~50mg/100gに調整し、且つ、カリウム、リン、マンガン、カルシウム、マグネシウム及びナトリウムの合計含有量を600.0~30000.0mg/100gに調整し、且つ当該組成物のデンプン含有量に対する単糖及び二糖の含有量の比率((単糖+二糖)/デンプン)を0.01~0.05に調整することを特徴とする、飲料の沈殿及び凝集発生抑制方法を提案する。
【発明の効果】
【0017】
本発明が提案する組成物及びその製造方法によれば、焙煎麦抽出成分(ミネラル成分含む)以外のミネラル成分を含んでおり、すなわち、麦茶抽出物が自然に含むミネラル成分よりも多くのミネラル成分を含む組成物であっても、シュウ酸含有量、カルシウム含有量、さらにはデンプン含有量に対する単糖及び二糖の含有量の比率を所定範囲に調整することで、水などに溶かして飲料とした際に凝集及び沈殿の発生を効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0019】
[本組成物]
本発明の実施形態の一例に係る組成物(「本組成物」と称する)は、焙煎麦抽出成分(ミネラル成分含む)と、当該焙煎麦抽出成分以外のミネラル成分とを含有する組成物であり、麦茶抽出物が自然に含むミネラル成分よりも多くのミネラル成分を含む組成物である。
本明細書において、本組成物を水に溶解して得られる飲料を「本組成物溶解飲料」と称する。
【0020】
(焙煎麦抽出成分)
本組成物は、焙煎麦抽出成分(ミネラル成分含む)を40質量%以上含有するのが好ましい。
本組成物が焙煎麦抽出成分(ミネラル成分含む)を40質量%以上含んでいれば、本組成物を水などに溶かして麦茶飲料とした際に麦茶特有の香味を得ることができる。
かかる観点から、本組成物は、焙煎麦抽出成分(ミネラル成分含む)を40質量%以上含むのが好ましく、中でも50質量%以上或いは99質量%以下、その中でも55質量%以上或いは95質量%以下の割合で含むのがさらに好ましい。
前記「焙煎麦抽出成分」の含有量は、抽出液の可溶性固形分(Bx)を測定して求めることができる。
【0021】
本組成物は、焙煎麦を抽出して得られる焙煎麦抽出成分の中で、本明細書で記載している成分(「示唆成分」とも称する)、すなわちシュウ酸、カルシウム、デンプン、単糖、二糖、アラビノキシラン、カリウム、リン、マンガン、カルシウム、マグネシウム及びナトリウムなどの示唆成分以外の焙煎麦抽出成分(「示唆外成分」とも称する)については、焙煎麦を水で抽出して得られる通常の示唆外成分の組成と同様である。
【0022】
焙煎麦を水で抽出して得られる通常の示唆外成分の組成の一例として、ラフィノース(三糖):5.0ppm未満、スタキオース(四糖):5.0ppm未満、三糖以上の多糖を合計:10000~20000mg/100ml、βグルカン:500~3000mg/100ml、アミノ酸:0.1~50ppm、リン酸:0.05~0.50質量%、クエン酸:0.02~0.10質量%、リンゴ酸:0.01~0.10質量%、コハク酸:0.001~0.010質量%、ギ酸:0.03~0.10質量%、酢酸:0.01~0.10質量%、有機酸合計:0.1~1.0質量%を挙げることができる。下記実施例及び比較例のいずれも、示唆成分の組成はこの範囲に入ることを確認している。
【0023】
なお、本組成物は、焙煎麦抽出成分及びミネラル成分以外に他の成分を含有していてもよい。当該他の成分としては、ビタミン類、乳化剤、酸味料、酸化防止剤、甘味料、着色料などを挙げることができる。
但し、当該他の成分の含有量は、本発明の効果に影響しない量、例えば10質量%未満、中でも5質量%未満、その中でも3質量%未満とするのが好ましい。
【0024】
本組成物における可溶性固形分量は40~99質量%であるのが好ましい。
ここで、可溶性固形分量は、上記の焙煎麦抽出成分に相当する。
可溶性固形分量が40質量%以上であれば、麦茶の香味を十分に感じることができ、99質量%以下であれば、麦茶の香味を適度に感じることができるから、好ましい。
かかる観点から、本組成物において、可溶性固形分量は40~99質量%であるのが好ましく、中でも50質量%以上或いは95質量以下、その中でも55質量%以上或いは90質量%以下であるのがさらに好ましい。
本組成物において、可溶性固形分量を上記範囲に調整するには、例えば焙煎麦使用量を調整したり、異なる品種の焙煎麦を選択、混合したり、焙煎強度が異なる2種類以上の焙煎麦を混合したりして調整すればよい。また、抽出温度や抽出時間、攪拌条件を調整してもよい。但し、この方法に限定するものではない。
【0025】
本組成物において、アラビノキシラン含有量は300~1700mg/100gであるのが好ましい。
アラビノキシラン含有量が300mg/100g以上1700mg/100g以下であれば、さらに濃さを適度に感じることができるから、好ましい。
かかる観点から、本組成物において、アラビノキシラン含有量が300~1700mg/100gであるのが好ましく、中でも500mg/100g以上或いは1500mg/100g以下、その中でも700mg/100g以上或いは1200mg/100g以下であるのがさらに好ましい。
【0026】
なお、上記「アラビノキシラン(「Ax」と記載することもある。)」とは、多糖類に分類される水不溶食物繊維質のうち、セルロース以外の繊維分の総称である「ヘミセルロース」の一種の意味である。
アラビノキシラン含有量の分析及び測定方法は、当業者に公知の手法を採用することができ、例えばJ.Agri.Food Chem.2014,62,8319-8324に記載の直接酸加水分解法を用いて算出することができる。
【0027】
本組成物において、アラビノキシラン含有量を上記範囲に調整するには、例えば、原料である大麦を適宜選択することによって調整することができる。大麦におけるアラビノキシラン含有量は、品種や、収穫時期や給水量などの栽培条件によって左右されることが知られている。例えば、アラビノキシラン含有量は栽培初期の段階では少なく、栽培中期以降に増加する傾向がある。また、アラビノキシラン含有量は栽培期間中の給水量によっても調整することができ、例えば給水量を増加させるとアラビノキシラン含有量が増加する傾向がある。品種の観点からいえば、例えばハインドマーシュ、メトカルフ、スコープ、コマンダー、ほうしゅん、ミカモゴールデン等の二条麦品種は、アラビノキシラン含有量が高い傾向があり、他方、レガシー、シュンライ、ファイバースノウ、カシマムギ等のなどの六条麦品種は、アラビノキシラン含有量が低い傾向がある。
【0028】
本組成物は、デンプン含有量が10000~35000mg/100gであるのが好ましい。
本組成物のデンプン含有量が10000mg/100g以上であれば、さらに麦茶の濃度感を充分に感じることができ、35000mg/100g以下であれば、さらに麦茶の後味・きれを適度に感じることができるであるから、好ましい。
かかる観点から、本組成物は、デンプン含有量が10000~35000mg/100gであるのが好ましく、中でも11000mg/100g以上或いは32000mg/100g以下、その中でも12000mg/100g以上或いは30000mg/100g以下であるのがさらに好ましい。
本組成物において、デンプン含有量を上記範囲に調整するには、例えば焙煎麦の焙煎条件を調整するほか、抽出、乾燥などの加熱工程における加熱条件を制御することにより、調整することができる。但し、この方法に限定するものではない。
【0029】
本組成物は、シュウ酸含有量が30~100mg/100gであるのが好ましい。
シュウ酸はカルシウム等と反応して凝集を生じる原因物質である。シュウ酸含有量が30~100mg/100gであれば凝集の発生を抑えることができるから、好ましい。
かかる観点から、本組成物において、シュウ酸含有量が30~100mg/100gであるのが好ましく、中でも40mg/100g以上或いは90mg/100g以下、その中でも50mg/100g以上或いは80mg/100g以下であるのがさらに好ましい。
本組成物において、シュウ酸含有量を上記範囲に調整するには、例えば抽出条件を制御することにより調整することができる。例えば抽出温度を高くして抽出時間を長くすればシュウ酸含有量を高めることができる。但し、この方法に限定するものではない。
【0030】
本組成物において、単糖及び二糖の合計含有量が100~1300mg/100gであるのが好ましい。
本組成物の単糖及び二糖の含有量が100mg/100g以上であれば、さらに麦茶の甘味を十分に感じることができ、1300mg/100g以下であれば、さらに麦茶の甘味を適度に感じることができるから、好ましい。
かかる観点から、本組成物において、単糖及び二糖の合計含有量が100~1300mg/100gであるのが好ましく、中でも200mg/100g以上或いは1000mg/100g以下、その中でも300mg/100g以上或いは800mg/100g以下であるのがさらに好ましい。
本組成物において、単糖及び二糖の合計含有量を上記範囲に調整するには、例えば焙煎麦の焙煎条件を調整するほか、抽出、乾燥などの加熱工程における加熱条件を制御することにより、調整することができる。但し、この方法に限定するものではない。
なお、本組成物における「単糖の合計含有量」は、グルコース及びフルクトースの合計含有量の意味であり、「二糖の合計含有量」は、スクロース、マルトース及びセロビオースの合計含有量の意味である。
【0031】
本組成物において、デンプン含有量に対する単糖及び二糖の含有量の比率((単糖+二糖)/デンプン)は0.01~0.05であるのが好ましい。
本組成物において、上記比率((単糖+二糖)/デンプン)が0.01~0.05であれば、本組成物を、ミネラル成分を多く含む硬水に溶かした場合でも、凝集及び沈殿を防ぐことができる点で好ましい。
かかる観点から、本組成物において、デンプン含有量に対する単糖及び二糖の含有量の比率((単糖+二糖)/デンプン)は0.01~0.05であるのが好ましく、中でも0.04以下、その中でも0.03以下であるのがさらに好ましい。
本組成物において、前記比率((単糖+二糖)/デンプン)を上記範囲に調整するには、例えば焙煎麦使用量を調整したり、異なる品種の焙煎麦を選択、混合したり、焙煎強度が異なる2種類以上の焙煎麦を混合したりして調整すればよい。また、抽出温度や抽出時間、攪拌条件を調整してもよい。但し、この方法に限定するものではない。
【0032】
(ミネラル成分)
本組成物は、焙煎麦抽出成分に含まれるミネラル以外に、さらにミネラル成分を含むことを特徴とする。
本組成物は、主要なミネラル成分(焙煎麦抽出成分に含まれるミネラルも含む)として、カリウム(K)、リン(P)、マンガン(Mn)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)及びナトリウム(Na)からなる成分(これらを「主要ミネラル成分」ともいう)を含んでいる。
但し、本組成物は、主要ミネラル成分のほか、亜鉛、クロム、セレン、鉄、銅、マグネシウム、モリブデン、ヨウ素、その他のミネラル成分を含んでいる。
【0033】
焙煎麦抽出成分に含まれるミネラル以外のミネラル成分は、天然水、海洋深層水及び湖水からなる群から選ばれる1種又は2種以上に由来するものであるのが好ましい。これら天然水、海洋深層水及び湖水は、ミネラル成分をバランスよく含んでいるため、ミネラル供給源として好適である。
【0034】
本組成物は、カリウム(K)、リン(P)、マンガン(Mn)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)及びナトリウム(Na)からなる主要ミネラル成分の合計含有量(主要ミネラル成分合計含有量)は600.0~30000.0mg/100gであることが好ましい。
当該主要ミネラル成分合計含有量が600.0mg/100g以上であれば、ミネラル補給による健康効果を期待することができ、夏場の熱中症対策や冬場のヒートショック対策にも効果的である。他方、30000.0mg/100g以下であれば、より沈殿の発生を抑えることができるから、好ましい。
かかる観点から、本組成物における主要ミネラル成分合計含有量は600.0~30000.0mg/100gであるのが好ましく、中でも800.0mg/100g以上或いは20000.0mg/100g以下、その中でも1000.0mg/100g以上或いは10000.0mg/100g以下であるのがさらに好ましい。
なお、本組成物における主要ミネラル成分合計含有量は、例えばミネラル成分の添加量によって調整することができる。但し、これに限定するものではない。
【0035】
本組成物において、主要ミネラル成分の各濃度の一例として、カリウムを600.0~30000.0mg/100g、中でも800.0mg/100g以上或いは20000.0mg/100g以下、その中でも1000.0mg/100g以上或いは10000.0mg/100g以下含み、リンを50.0~500.0mg/100g、中でも60.0mg/100g以上或いは400.0mg/100g以下、その中でも70.0mg/100g以上或いは300.0mg/100g以下含み、マンガンを0.1~1.0mg/100g、中でも0.2mg/100g以上或いは0.8mg/100g以下、その中でも0.3mg/100g以上或いは0.6mg/100g以下含み、カルシウムを5.0~50.0mg/100g、中でも6.0mg/100g以上或いは40.0mg/100g以下、その中でも7.0mg/100g以上或いは30.0mg/100g以下含み、マグネシウムを40.0~80.0mg/100g、中でも50.0mg/100g以上或いは80.0mg/100g以下、その中でも60.0mg/100g以上或いは70.0mg/100g以下含み、ナトリウムを5.0~200.0mg/100g、中でも10.0mg/100g以上或いは100.0mg/100g以下、その中でも15.0mg/100g以上或いは50.0mg/100g以下含む例を示すことができる。但し、このようなミネラル量に限定するものではない。
【0036】
本組成物において、カルシウム含有量は10~50mg/100gであるのが好ましい。
カルシウムは、シュウ酸と反応して凝集を発生する原因物質である一方、単糖及び二糖と反応して沈殿を発生する原因物質でもある。よって、カルシウム含有量が50mg/100g以下であれば、凝集及び沈殿を抑制することができる一方、10mg/100g以上であれば、さらに麦茶の濃度感を充分感じることができるから、好ましい。
かかる観点から、本組成物において、カルシウム含有量は10~50mg/100gであるのが好ましく、中でも12mg/100g以上或いは40mg/100g以下、その中でも15mg/100g以上或いは30mg/100g以下であるのがさらに好ましい。
本組成物において、カルシウム含有量を上記範囲に調整するには、例えばカルシウム、カルシウムを含有する添加物を麦抽出液に添加したり、麦抽出液を得る際の抽出溶媒にカルシウムを含有する天然水や海洋深層水、湖水を使用したりすればよい。また、麦抽出液を濾過したり、カルシウム吸着樹脂を使用したりして調整すればよい。但し、この方法に限定するものではない。
【0037】
本組成物において、前記主要ミネラル成分合計含有量に対するシュウ酸含有量の質量比率(シュウ酸/主要ミネラル合計)は0.001~0.1であるのが好ましい。
シュウ酸/主要ミネラル合計が0.001~0.1であれば、沈殿及び凝集の発生をより抑えることができるから好ましい。
このような観点から、前記主要ミネラル成分合計含有量に対するシュウ酸含有量の質量比率(シュウ酸/主要ミネラル合計)は0.001~0.1であるのが好ましく、中でも0.002以上、その中でも0.005以上或いは0.09以下、その中でも0.01以上或いは0.08以下であるのがさらに好ましい。
【0038】
本組成物において、前記主要ミネラル成分合計含有量に対するシュウ酸含有量の質量比率(シュウ酸/主要ミネラル合計)を調整するには、例えば抽出条件を制御してシュウ酸含有量を調整したり、ミネラル成分の添加量を調整して主要ミネラル成分合計含有量を調整したりすればよい。但し、これに限定するものではない。
【0039】
本組成物において、カルシウム含有量に対するシュウ酸含有量の質量比率(シュウ酸/カルシウム)が1.0~5.0であるのが好ましい。
シュウ酸/カルシウムが1.0~5.0であれば、沈殿及び凝集の発生抑制により効果的であるから、好ましい。
かかる観点から、本組成物において、カルシウム含有量に対するシュウ酸含有量の質量比率(シュウ酸/カルシウム)が1.0~5.0であるのが好ましく、中でも2.5以上或いは3.5以下、その中でも2.6以上或いは3.3以下、その中でも2.7以上或いは3.2以下であるのがさらに好ましい。
本組成物において、シュウ酸/カルシウムを上記範囲に調整するには、例えば焙煎麦使用量を調整したり、異なる品種の焙煎麦を選択、混合したり、焙煎強度が異なる2種類以上の焙煎麦を混合したりして調整すればよい。また、抽出温度や抽出時間、攪拌条件を調整してもよい。但し、この方法に限定するものではない。
【0040】
[本製造方法]
次に、本組成物の製造方法の一例(「本製造方法」と称する)について説明する。但し、本組成物の製造方法が本製造方法に限定されるものではない。
【0041】
焙煎麦を溶媒で抽出して麦抽出液を得(抽出工程)、該麦抽出液を得るのと同時又は得られた後に前記麦抽出液のミネラル成分を調整してミネラル調整麦抽出液を得(ミネラル調整工程)、当該ミネラル調整麦抽出液を噴霧乾燥する(乾燥工程)ことによって本組成物を得ることができる。
以下、各工程について説明する。
【0042】
<焙煎麦>
焙煎麦は、原料麦を焙煎して得ることができる。
原料麦としては、二条、四条、六条等の各皮麦・裸麦などの大麦、水浸漬や酵素加工による加工麦、βグルカン高含有麦、アミロースフリー麦、低ポリフェノール麦などの改良種大麦を挙げることができる。
なお、二条麦としては、例えばハインドマーシュ、メトカルフ、スコープ、コマンダー、ほうしゅん、ミカモゴールデン等の品種を挙げることができる。
他方、六条麦としては、例えばレガシー、シュンライ、ファイバースノウ、カシマムギ等の品種を挙げることができる。
【0043】
焙煎処理は、熱風焙煎、砂炒焙煎、遠赤外線焙煎、開放釜焙煎、回転ドラム式焙煎、媒体焙煎など、当業者に公知の方法を採用することができる。これらの方法を組み合わせて実施することもできる。
【0044】
焙煎条件を調整することにより、上述のように、デンプン含有量、単糖及び二糖の含有量、(単糖+二糖)/デンプン、アラビノキシラン、可溶性固形分(ミネラル含む)などを調整することができる。
よって、かかる観点も考慮して、焙煎条件の一例を挙げるならば、品温を300~400℃で10~96秒間維持するように焙煎するのが好ましく、中でも320~400℃で15秒~50秒間、その中でも330~390℃で20秒~40秒間、その中でも340~380℃で25~35秒間維持するように焙煎することがさらに好ましい。
【0045】
なお、焙煎前の処理として、原料穀物を水或いは蒸気と接触させ、原料穀物が水分を含有した状態とする膨化処理を行ってもよい。このように膨化処理を行えば、水分を含有した原料穀物を高温で焙煎することにより、膨化して割れるようになり、抽出効率をさらに向上させることができる。
膨化処理の方法としては、上述の通り、原料穀物を水と接触させる方法を挙げることができる。例えば、穀物を水に浸漬したり、直接水を散布したり、蒸気噴霧により水と接触させる方法等を例示することができる。但し、これらの方法に限定するものではない。
【0046】
また、焙煎穀物の品質劣化を防ぐ観点から、焙煎した穀物は、焙煎後に冷却することが好ましい。冷却方法は特に限定されるものではない。例えば放冷、送風冷却、水冷却などを例示することができる。
【0047】
焙煎麦は、アラビノキシランを2000~13000mg/100g含むものが好ましい。
焙煎麦がアラビノキシランを2000~13000mg/100g含有することによって、本組成物のアラビノキシラン含有量を所定の範囲に調整することが容易となるから、好ましい。
かかる観点から、焙煎麦は、アラビノキシランを2000~13000mg/100g含むものが好ましく、中でも3000mg/100g以上或いは11000mg/100g以下、その中でも4000mg/100g以上或いは9800mg/100g以下含むものがさらに好ましい。
【0048】
<抽出工程>
本工程では、焙煎麦を溶媒で抽出して麦抽出液を得ればよい。
【0049】
焙煎麦の抽出方法は、特に限定するものではない。例えば浸漬抽出、ドリップ抽出、シャワーリングによる抽出など、公知の方法を採用すればよい。
抽出に用いる溶媒としては、例えば純水、水道水、蒸留水、脱塩水、アルカリイオン水、湖水、海洋深層水、イオン交換水、脱酸素水、天然水、水素水或いは水溶性の有機化合物(例えば、アルコール類)や無機塩類を含む水などを用いることができる。
【0050】
抽出条件の調整によって、上述のように、シュウ酸、デンプン、単糖及び二糖、ミネラルなどの調整を図ることができる。
よって、かかる観点も考慮して、焙煎麦の抽出条件としては、具体的には60~120℃で10分~100分間抽出するのが好ましく、中でも80~115℃で20~100分間、その中でも95~100℃で40~80分間抽出するのがさらに好ましい。なお、当該抽出温度は抽出溶媒の温度の意味である。
【0051】
上記のように抽出して得られた麦抽出液は、ただちに急冷し、その後濾過するのが好ましい。
急冷することにより、濁り原因物質の沈殿乃至懸濁を一層促進させることができ、最終製品としての穀物茶飲料の懸濁及び沈殿の発生をより一層確実に防止できるばかりか、製造時間の短縮を図ることもできる。
急冷方法は、特に限定されない。冷却効率等を鑑みれば、例えばプレート式熱交換機などを用いて約5~30℃程度に急冷するのがよい。
また、上記濾過の方法としては、遠心分離濾過と形状選別濾過とを組合せて行うのが好ましく、特に形状選別濾過を行うことが効果的である。
【0052】
(濃縮)
上記のように抽出して得られた麦抽出液を、必要に応じて急冷及び濾過した後、必要に応じて濃縮してもよい。
濃縮方法としては、例えば熱濃縮方法、冷凍濃縮方法、逆浸透膜や限外濾過膜等を用いた膜濃縮方法などを挙げることができ、これら公知の濃縮方法を採用することができる。
【0053】
<ミネラル調整工程>
本工程では、上記のようにして得られた麦抽出液を得るのと同時又は得られた後に前記麦抽出液のミネラル成分を調整してミネラル調整麦抽出液を得ればよい。
【0054】
本ミネラル調整工程では、最終的に上述したようなミネラル成分を含有するように調整すればよい。例えば、麦抽出液にミネラル成分を加えてもよいし、抽出工程においてミネラル成分を含有する溶媒を用いることで、ミネラル含有量を所定範囲に調整することもできる。この場合、ミネラル調整工程は実質的には省略することができる。
この際、抽出に用いる溶媒としては、次に説明する天然水、海洋深層水、及び湖水のうちの一種の又は二種以上が好ましく、これらの濃縮物、濾過物、加工物であってもよい。これら天然水、海洋深層水及び湖水は、ミネラル成分をバランス良く含んでいる点で好ましい。
【0055】
麦抽出液に加えるミネラル成分は、各ミネラル成分の単品であってもよいし、混合物であってもよい。
例えば、次に説明する天然水,海洋深層水及び湖水からなる群から選ばれる1種又は2種以上に由来するもの、具体的には、天然水、海洋深層水及び湖水のうちの一種の濃縮物又は二種以上の濃縮物であってもよい。これら天然水、海洋深層水及び湖水は、ミネラル成分をバランス良く含んでいる点で好ましい。
【0056】
ここで、「天然水」は、農林水産省の「ミネラルウォーターの品質表示ガイドライン」が規定するナチュラルウォーター(特定の水源から採水された水を原水とし、濾過、沈殿、加熱殺菌以外の物理的・化学的処理を行わないもの。)であり、例えばカリウム(K)を0.1~6.0mg/100ml、リン(P)を0~0.02mg/100ml、マンガン(Mn)を0~0.001mg/100ml、カルシウム(Ca)を0.01~50mg/100ml、マグネシウム(Mg)を0.1~12mg/100ml及びナトリウム(Na)を0.1~100mg/100ml含有するものを挙げることができる。
「海洋深層水」は、上記天然水の中で、特に深度200メートル以深の深海から採取された水であり、例えばカリウム(K)を0.01~50mg/100ml、リン(P)を0.005~0.007mg/100ml、マンガン(Mn)を0.0000015~0.0000025mg/100ml、カルシウム(Ca)を0.3~0.5mg/100ml、マグネシウム(Mg)を0.2~150mg/100ml及びナトリウム(Na)を1~50mg/100ml含有するものを挙げることができる。
「湖水」は、上記天然水の中で、特に湖から採取された水であり、例えばカリウム(K)を200~750mg/100ml、リン(P)を0~2.0mg/100ml、マンガン(Mn)を0.0004~0.008mg/100ml、カルシウム(Ca)を1600~4500mg/100ml、マグネシウム(Mg)を4000~10000mg/100ml及びナトリウム(Na)を3000~40000mg/100ml含有するものを挙げることができる。
【0057】
<乾燥工程>
本工程では、上記ミネラル調整工程で得られたミネラル調整麦抽出液を噴霧乾燥して、粉体状の麦茶飲料組成物すなわち本組成物を得ることができる。
【0058】
前記噴霧乾燥は、噴霧乾燥機を使用して、チャンバー内の気体中にミネラル調整麦抽出液を噴霧して急速に乾燥させ、乾燥粉体を製造する方法である。
噴霧乾燥によれば、均一な粒度分布の乾燥粉体を得ることができる。
この際、チャンバー内の気体は、加熱した空気、窒素ガスなどを乾燥媒体として用いることができる。また、チャンバー内の気体の温度は100~220℃とするのが好ましい。
【0059】
[本組成物の形態及び利用]
本組成物は、粉末状、ペースト状、液状、その他の形態を採ることができる。
本組成物は、例えば粉末状組成物を包装体(ティーバック含む)や容器などに収納して製品として提供することもできる。
【0060】
本組成物は、飲料用として利用することができる。例えば水などの溶媒に溶かして飲料用麦茶、すなわち清涼飲料を作製することができ、この飲料用麦茶を容器に充填して、容器詰め麦茶飲料製品として提供することもできる。
【0061】
また、本組成物を有効成分とするミネラル付与剤として提供することもできる。
また、本組成物を香味付与剤として食品に加えることもできる。
そしてまた、本組成物或いは本組成物を有効成分とするミネラル付与剤を配合した飲食物として提供することもできる。
【0062】
なお、容器詰め麦茶飲料製品とする際は、必要に応じて、pHやL値の調整、希釈、添加物の添加、殺菌などを行った後に、PETボトル、ビン、缶、紙、パウチなどの容器に充填するのが好ましい。
【0063】
[語句の説明]
本明細書において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を下記実施例及び比較例に基づいてさらに詳述する。
【0065】
<実施例1>
大麦(品種レガシー)を蒸気噴霧処理して、含有水分量が約25重量%になるように調整した後、媒体としてカルシウム粒を用いた回転ドラム式媒体焙煎釜に投入し、一次焙煎256℃×90秒、二次焙煎276℃×90秒時間の条件で焙煎を行い、焙煎麦を得た。この焙煎麦は、シュウ酸を93mg/100g、デンプンを40000mg/100g、アラビノキシランを4500mg/100g含んでいた。
【0066】
上記焙煎麦200gを、ステンレス製ドリップ抽出容器(内径150mm×高さ150mm、容積約3120cm3)に高さが均一になるように投入し、麦抽出液を得た。
なお、該抽出容器には、内容液を排出可能なコックと、内容液を濾過する80メッシュの金網が備えられている。この容器内に、95℃のイオン交換水2Lを注ぎ、40分間保持後、コックを開き、内容液を排出し、この排出液を25℃に冷却し、ステンレスメッシュ(235メッシュ)で濾過し、更にネルで濾過して、麦抽出液を得た。
【0067】
次に、この麦抽出液に、ミネラル素材として湖水濃縮液(K:1100mg/100ml、P:0、Mn:0、Ca:7mg/100ml、Na:72mg/100ml、Mg:1mg/100ml、)を60:40の質量割合で添加してミネラル調整麦抽出液を得た。
次に、ミネラル調整麦抽出液を、スプレードライヤー(BUCHI社製)を用いて200℃の条件で噴霧乾燥して、粉末状の組成物(サンプル)を得た。
【0068】
<参考例、実施例2-17及び比較例1-3>
下記表1に示した製造条件に変更した以外、実施例1と同様に、組成物(サンプル)を得た。
参考例は、ミネラル成分としての湖水濃縮液を添加しなかった以外は、実施例1と同様に、組成物(サンプル)を得た。
【0069】
【0070】
なお、表中の「焙煎麦の使用量」は、調合液1L当たりの焙煎麦の使用量を示ており、「Ax(焙煎)」は焙煎麦に含まれるアラビノキシラン含有量を示しており、「ミネラル素材の調整量」は、添加したミネラル成分(湖水濃縮液)におけるミネラルバランスを示すものである。
【0071】
<原料、中間物及び組成物の成分分析>
上記原料、中間物及び組成物について、以下の方法で分析・測定し、各成分値及び各物性値を算出した。
【0072】
(アラビノキシラン)
アラビノキシラン含有量は、塩酸による酸加水分解操作の後、HPLC糖分析装置を用いて定量し、得られた値をもとに算出した。
各実施例及び比較例の組成物の溶解液200μlを2mlエッペンドルフチューブに入れ、1.5M HCl 200μlを添加した。これを加熱ブロック(90℃)で90分間インキュベートし加水分解した。この後、NaOH水溶液(5%水溶液)を用いて中和し、さらに純水で希釈し総量を2000μlとして定量に供した(反応液)。
更に反応液、または検量線用の糖類標準品水溶液100μlに、内部標準液(2-Deoxyglucose 100ppm)100μlおよび超純水800μlを加えた混合溶液を、Bond Elute SAX(アジレント・テクノロジー社製)に通液して前処理し、分析用サンプルとした。
【0073】
続いて、分析用サンプルを以下の装置及び条件にて糖定量分析(内部標準法)に付し、得られたアラビノースとキシロースの合算値に0.88を乗じ、適宜サンプルの希釈率等を考慮し算出した値を以ってアラビノキシラン含有量とした。
装置: Thermo Scientific社 ICS-5000
カラム:Thermo Scientific社製 Carbopack PA1 φ4×250mm
(+ガードカラム φ4×50mm)
カラム温度:30℃
移動相:
A相: 200mM NaOH水溶液
B相: 1000mM 酢酸ナトリウム水溶液
C相: 超純水
流速: 1.0ml/分
注入量: 25μl
検出:パルスドアンペロメトリー法
グラジエントプログラム
【0074】
(デンプン)
各実施例及び比較例の組成物0.1gに80%エタノール5mlを加え80℃、5分間加熱し、80%エタノール5ml加え激しく振り混ぜ、遠心分離(8000rpm10分間20℃)を行って上澄み液を取り除いた。
得られた沈殿物に80%エタノール10mlを加え激しく振り混ぜ洗浄し、遠心分離(8000rpm10分間)を行って上澄み液を取り除き、この操作を3回繰り返した後アミラーゼ3mlを加え沸騰水浴中で5分間ごとに振り混ぜながら30分間加熱した。放冷後、アミログルコシダーゼ0.1mlを加え50℃水浴中で30分間加熱し、放冷後100mlに定容した。
検体の一部を取り出して遠心分離(3000rpm10分間20℃)を行い、上澄み液0.1mlを15ml容チューブに入れ、GOPOD試薬3ml加え50℃水浴中で20分間静置した後、510nmの吸光度を測定し次式により総デンプン量を求めた。
総デンプン量=510nm吸光度×0.9×F×(100ml÷サンプル量)
(F=100÷1.0mg/mlグルコース吸光度)
【0075】
(シュウ酸)
各実施例及び比較例の組成物を、高速液体クロマトグラム(HPLC)を用いて検量線法によって測定した
【0076】
(ミネラル)
各実施例及び比較例の組成物を、ICP発光分光分析装置(ICP-OES)「Vista-PRO」(Agilent Technologies社製)で、カリウム(K)、リン(P)、マンガン(Mn)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)及びナトリウム(Na)の含有量を測定し、主要ミネラル成分合計含有量を算出した。
なお、表では、「主要ミネラル成分」を単に「ミネラル」と標記している。
【0077】
(単糖+二糖)
各実施例及び比較例の組成物、または検量線用の糖類標準品水溶液 100μlに、内部標準液(乳糖 100ppm)100μlおよび超純水800μLを加えた混合溶液を、Bond Elute SAX(アジレント・テクノロジー社製)に通液して前処理し、分析用サンプルとした。
【0078】
分析用サンプルを以下の装置及び条件にて糖定量分析(内部標準法)に付し、得られた測定値に適宜サンプルの希釈率等を考慮し算出した値を以って定量値とした。そして、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース及びセロビオースの合計含有量を単糖及び二糖の合計含有量(単糖+二糖)として算出した。
装置: Thermo Scientific社 ICS-5000
カラム:Thermo Scientific社製 Carbopack PA1 φ4×250mm
(+ガードカラム φ4×50mm)
カラム温度:30℃
移動相:
A相: 200mM NaOH水溶液
B相: 1000mM 酢酸ナトリウム水溶液
C相: 超純水
流速: 1.0ml/分
注入量: 25μl
検出:パルスドアンペロメトリー法
グラジエントプログラム
【0079】
<沈殿評価>
実施例・比較例で得た組成物(サンプル)それぞれ3gを20℃、1000mlの純水に溶解して麦茶飲料とし、麦茶飲料の製造に従事する7人のパネラーを選出し、下記の評価項目に沿って目視による沈殿評価を行った。コントロールには、参考例の組成物3gを20℃、1000mlのミネラル含有水(硬度100)に溶解して得た麦茶飲料を用いた。
なお、本発明における「沈殿」とは、飲料液中に発生する白の粒~砂状の沈殿物であり、攪拌するか若しくは容器を数回振ることで拡散し消えるものである。
【0080】
○:沈殿が一切確認されず、極めて良好。
△:沈殿がわずかに確認されるものの、コントロールよりも沈殿は少なく良好。
×:コントロールと同等、或は同等以上の沈殿が確認され、問題あり。本件課題を解決できていない。
【0081】
<凝集評価>
実施例・比較例で得た組成物(サンプル)それぞれ3gを20℃、1000mlの純水に溶解して麦茶飲料とし、麦茶飲料の製造に従事する7人のパネラーを選出し、下記の評価項目に沿って目視による沈殿評価を行った。コントロールには、参考例の組成物3gを20℃、1000mlのミネラル含有水(硬度100)に溶解して得た麦茶飲料を用いた。
なお、本発明における「凝集」とは、飲料液中に発生する白~褐色の粒~綿状の浮遊物であり、攪拌するか若しくは容器を数回振って拡散させるだけでは消えないものである。
【0082】
凝集評価は、実施例及び比較例に該当する麦茶飲料及びコントロールの麦茶飲料を作成後、常温(25℃)で6時間静置後に行った。
○:凝集が一切確認されず、極めて良好。
△:凝集がわずかに確認されるものの、コントロールよりも凝集は少なく良好。
×:コントロールと同等、或は同等以上の凝集が確認され、問題あり。本件課題を解決できていない。
【0083】
<官能評価試験>
実施例・比較例で得た組成物(サンプル)をそれぞれ3g、20℃、1000mlの純水に溶解して麦茶飲料とし、麦茶飲料の製造に従事する7人のパネラーを選出し、下記の評価項目に基づいて実施し、合議の結果、最も多かった評価を採用することとし、総合評価についても合議による結果を採用した。
なお、コントロールには沈殿評価及び凝集評価で用いたミネラル含有麦茶飲料を用いた。
【0084】
まず、事前にパネラーにコントロールを飲用してもらい、パネラー間でコントロールの香味についてディスカッションを行ってもらうことで、コントロールにおける「「甘味」「後味・きれ」「濃さ」の共通認識を持つようにした。
なお、それぞれの官能評価における評価項目は以下の通りである。
【0085】
(甘味)
5:非常に強く感じる
4:強く感じる
3:感じる
2:弱く感じる
1:非常に弱く感じる、コントロールと同等である
【0086】
(後味・きれ)
5:とてもすっきり
4:すっきり
3:比較的すっきり
2:比較的もたつく
1:もたつく、コントロールと同等である
【0087】
(濃さ)
5:とても濃い
4:濃い
3:比較的濃い、コントロールと同等である
2:比較的淡い
1:淡い
【0088】
(総合)
総合評価は、「沈殿評価」及び「凝集評価」がともに「△」以上の高評価であれば、本発明の課題を解決していると判断し、下記の総合評価とした。
(総合評価)
○:本発明の課題を解決している。
×:本発明の課題を解決していない。
【0089】
【0090】
(考察)
上記実施例及び試験結果から、麦茶抽出物が自然に含むミネラル成分よりも多くのミネラル成分を含む組成物の製造方法において、焙煎麦を溶媒で抽出して麦抽出液を得(抽出工程)、該麦抽出液を得るのと同時、又は得られた後に麦抽出液のミネラル成分を調整してミネラル調整麦抽出液を得(ミネラル調整工程)、当該ミネラル調整麦抽出液を噴霧乾燥する(乾燥工程)ことを特徴とし、且つ、製造される組成物が、シュウ酸を30~100mg/100g含有し、且つ、カルシウムを10~50mg/100g含有し、且つ、デンプン含有量に対する単糖及び二糖の含有量の比率((単糖+二糖)/デンプン)が0.01~0.05であることによって、水に溶かして飲料とした際に沈殿及び凝集の発生を効果的に抑制することができることが分かった。
【0091】
また、上記実施例及び試験結果から、アラビノキシラン含有量が300~1700mg/100gであり、主要ミネラル成分合計含有量が600.0~30000.0mg/100gであることによって、麦茶飲料としてより好ましい香味が得られることが分かった。