(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】非水系電池用電極板、非水系電池、および、非水系電池用電極板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20220705BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20220705BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20220705BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/139
(21)【出願番号】P 2018059750
(22)【出願日】2018-03-27
【審査請求日】2020-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107249
【氏名又は名称】中嶋 恭久
(72)【発明者】
【氏名】菱井 順也
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-043658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/13
H01M 4/139
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体上に位置する電極合材層を備えた非水系電池用電極板の製造方法であって、
集電体上に液状組成物を塗布して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を乾燥して前記電極合材層を形成する工程と、を含み、
前記塗膜は、溶媒と、活物質を含む第1粒子と、前記第1粒子よりも小さく、かつ、撥水性材料からなる固形の第2粒子とを含み、
前記電極合材層を形成する工程では、
前記電極合材層において前記集電体とは反対側の面が表面であり、前記電極合材層にて前記第1粒子と前記第2粒子とが厚み方向で混在した状態から、前記電極合材層の全体に前記第2粒子を均一に分布させる温度を超える温度で加熱して、前記第2粒子を前記電極合材層の表面を含む領域に移動させて偏在するように、前記塗膜を乾燥し、
前記撥水性材料からなる第2粒子がポリフッ化ビニリデンからなる粒子であり、
前記溶媒は、N-メチル-2-ピロリドンであり、
前記第2粒子の粒径は、3μm以上5μm以下であり、
前記塗膜を乾燥するときの温度は、170℃以上190℃以下である
非水系電池用電極板の製造方法。
【請求項2】
前記液状組成物における固形分率が30質量%以上90質量%であり、固形分全体に対する前記第1粒子P1の比率が50質量%以上95質量%以下であり、固形分全体に対する前記第2粒子P2の比率が1質量%以上10質量%以下である
請求項1に記載の非水系電池用電極板の製造方法。
【請求項3】
前記液状組成物における固形分率が、40質量%以上70質量%であり、固形分全体に対する前記第1粒子P1の比率が75質量%以上95質量%である
請求項2に記載の非水系電池用電極板の製造方法。
【請求項4】
前記電極合材層をプレスする工程をさらに含む
請求項1から3のいずれか一項に記載の非水系電池用電極板の製造方法。
【請求項5】
前記非水系電池が、リチウムイオン二次電池である
請求項1から4のいずれか一項に記載の非水系電池用電極板の製造方法
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集電体上に位置する電極合材層を備えた非水系電池用電極板、非水系電池、および、非水系電池用電極板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水系電池の一例であるリチウムイオン二次電池は、正極活物質としてリチウム含有複合酸化物を含む。リチウムイオン二次電池の製造工程では、非水系電解質の注入時に、リチウム含有複合酸化物を含む活物質と、空気中の水との接触を招く場合がある。活物質と水との接触は、非水系電解質の分解や炭酸リチウムの生成を促して、電池の繰り返し特性や、高温下での保存特性を低下させてしまう。そこで、上述したリチウムイオン二次電池には、活物質を含む粒子の表面を撥水性の被膜で覆う技術が提案されている(例えば、特許文献1,2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-280830号公報
【文献】特開2012-043658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、リチウムイオン二次電池の製造工程では、正極合材層の厚みを調整するための加圧や、正極合材層を電池の仕様に合わせるための加圧が、正極合材層に施されて、加圧によるクラックや剥がれなどを撥水性の被膜に発生させる場合がある。結果として、活物質を含む粒子と水との接触を抑制するうえで、依然として改善の余地が残されている。なお、活物質と水との接触による上述した課題は、リチウムイオン二次電池に限らず、非水系電解質を用いた電池において共通している。
本発明は、活物質を含む粒子と水との接触を抑制可能にした非水系電池用電極板、非水系電池、および、非水系電池用電極板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する非水系電池用電極板は、集電体上に位置する電極合材層を備えた非水系電池用電極板であって、前記電極合材層では、活物質を含む第1粒子と、前記第1粒子よりも小さく、かつ、撥水性材料からなる第2粒子と、が厚み方向で混在し、前記電極合材層において前記集電体とは反対側の面が表面であり、前記第2粒子は、前記電極合材層の表面を含む領域に偏在する。
【0006】
上記課題を解決する非水系電池用電極板の製造方法は、集電体上に位置する電極合材層を備えた非水系電池用電極板の製造方法であって、集電体上に塗膜を形成する工程と、前記塗膜を乾燥して前記電極合材層を形成する工程と、を含み、前記塗膜は、溶媒と、活物質を含む第1粒子と、前記第1粒子よりも小さく、かつ、撥水性材料からなる第2粒子とを含み、前記電極合材層を形成する工程では、前記電極合材層において前記集電体とは反対側の面が表面であり、前記電極合材層にて前記第1粒子と前記第2粒子とが厚み方向で混在し、前記第2粒子が前記電極合材層の表面を含む領域に偏在するように、前記塗膜を乾燥する。
【0007】
上記各構成によれば、電極合材層の表面を含む領域に偏在する第2粒子は、複数の第1粒子を覆い、第1粒子と水との接触を、第2粒子の撥水によって抑制する。そして、表面を含む領域に偏在する第2粒子は、表面に加わる応力を分散して、上述した応力の印加による撥水機能の低下を抑制可能とする。
【0008】
上記非水系電池用電極において、前記第2粒子は、前記第1粒子間に位置して前記電極合材層の厚みの方向に分布し、前記厚み方向に沿った単位断面積に占める前記第2粒子の比率は、前記電極合材層の表面で最も高くてもよい。
【0009】
上記構成によれば、第2粒子による撥水効果は、電極合材層の表面で最も高まる。結果として、電極合材層の表面では、電極合材層への水の侵入を抑制し、かつ、集電体の近傍では、第1粒子による電極反応のみを進めることが可能であるから、第2粒子に起因した入出力特性の変化を抑制可能となる。
【0010】
上記非水系電池用電極板は、前記電極合材層の表面において、単位面積に占める前記第2粒子の比率が、50%以下であってもよい。この構成によれば、撥水領域の表面積が、電極合材層の表面積の50%以下であるため、上述した撥水効果とその維持とを得ながらも、電極合材層の表面近傍でも、第1粒子による反応進行が十分に可能ともなる。
【0011】
前記電極合材層の表面に近い部位ほど単位断面積に占める前記第1粒子の比率が小さく前記第1粒子の間隙が広くてもよい。この構成によれば、表面に近い部位ほど第1粒子の比率が低く、かつ、第1粒子の間隙が広いため、表面に近い部位ほど第1粒子に代えて第2粒子を配置させること、ひいては、第2粒子を表面に偏在させることが容易となる。
【0012】
上記非水系電池用電極板において、前記電極合材層の中で前記第2粒子の存在する領域が撥水領域であり、前記電極合材層の厚みに対する前記撥水領域の厚みの比率は、25%以下であってもよい。この構成によれば、撥水領域の厚みが電極合材層の厚みの25%以下であるため、上述した撥水効果とその維持とを得ながらも、第1粒子による電極反応のみを進行させる領域を確保可能ともなる。
【0013】
上記非水系電池用電極板において、前記第2粒子は、前記第1粒子間を結着してもよい。この構成によれば、撥水性を有した第2粒子が、第1粒子間を結着するため、上記撥水領域と第1粒子との接合の強度を向上可能でもある。
【0014】
上記非水系電池用電極板の製造方法において、前記電極合材層をプレスする工程をさらに含んでもよい。この方法によれば、電極合材層の厚みを調整するためのプレスや、電極合材層を電池の仕様に合わせるためのプレスが、電極合材層に施される。この際、電極合材層の表面に加わる応力を第2粒子が分散可能でもあるから、上述したプレスによる撥水機能の低下が電極合材層で抑制可能ともなる。
【0015】
上記課題を解決する非水系電池は、上記非水系電池用電極板と、非水系電解質とを備える。この非水系電池によれば、活物質を含む第1粒子と水との接触が抑制可能であるから、非水系電解質の分解などの進行を抑制可能ともなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る非水系電池用電極板、非水系電池、および、非水系電池用電極板の製造方法は、活物質を含む粒子と水との接触を抑制可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】リチウムイオン二次電池の一実施形態における構成を示す斜視図。
【
図2】一実施形態における電極板の層構成を示す平面図。
【
図3】一実施形態における正極合材層での粒子の分布を模式的に示す断面図。
【
図4】一実施形態において正極板を製造するための各工程の流れを示すフロー図。
【
図5】一実施形態において正極板を製造するための乾燥工程を示す工程図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
非水系電池用電極板、非水系電池、および、非水系電池用電極板の製造方法の一実施形態について説明する。以下では、非水系電池用電極板をリチウムイオン二次電池の正極板に具体化し、非水系電池をリチウムイオン二次電池に具体化した例を説明する。
【0019】
[リチウムイオン二次電池10]
図1が示すように、リチウムイオン二次電池10は、ケース11と、ケース11の開口を封止する蓋体12とを備える。蓋体12は、正極端子13と、負極端子14とを備える。ケース11は、電極体20(
図2参照)と非水系電解質とを収容する。非水系電解質は、例えば、リチウム含有電解質を含む非水系電解質、ポリマー電解質、ポリマーゲル電解質などの公知の非水系電解質である。
図2は、電極体20が備える各層の一部を切り欠いた層構成を示す平面図である。
図2が示すように、電極体20は、正極板21と負極板22とがセパレータ23に挟まれた状態で、正極板21と負極板22とが重なる積層体である。
【0020】
正極板21は、正極集電体21Aと、正極集電体21Aの両面に位置する正極合材層21Bとを備える。正極集電体21Aは、集電体の一例であり、正極合材層21Bは、電極合材層の一例である。正極端子13は、正極集電体21Aの中で正極合材層21Bが位置しない部分に接続されている。
【0021】
負極板22は、負極集電体22Aと、負極集電体22Aの両面に位置する負極合材層22Bとを備える。負極端子14は、負極集電体22Aの中で負極合材層22Bが位置しない部分に接続されている。電極体20は、例えば、長手方向に巻回された巻回体としてケース11に収容される。
【0022】
正極集電体21Aを構成する材料は、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金を含む。正極合材層21Bを構成する材料は、正極活物質であるリチウム含有複合酸化物を含む第1粒子P1(
図3参照)と、撥水性材料から構成される第2粒子P2とを含む。正極合材層21Bを構成する材料は、第1粒子P1、および、第2粒子P2の他に、結着剤や導電剤を含む。
【0023】
リチウム含有複合酸化物は、リチウムを吸蔵、および、放出可能な材料である。リチウム含有複合酸化物は、リチウムと、リチウム以外の他の金属元素とを含む酸化物である。リチウム以外の他の金属元素は、例えば、ニッケル、コバルトからなる群から選択される少なくとも一種である。また、リチウム以外の他の金属元素は、マンガン、バナジウム、マグネシウム、モリブデン、ニオブ、チタン、タングステン、アルミニウム、リチウム含有複合酸化物にリン酸鉄として含有される鉄からなる群から選択される少なくとも一種である。
【0024】
例えば、リチウム含有複合酸化物は、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)である。例えば、リチウム含有複合酸化物は、三元系リチウム含有複合酸化物であり、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNiCoMnO2)である。例えば、リチウム含有複合酸化物は、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)である。なお、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、および、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムは、層状構造を有して、リン酸鉄リチウムよりも高い水との反応性を示す。
【0025】
導電剤は、第1粒子P1の間における電子の伝導路を拡張させて、正極合材層21Bにおける反応抵抗を低下させる。導電剤は、例えば、黒鉛、アセチレンブラック、カーボンファイバーなどのカーボン材料である。
【0026】
結着剤は、第1粒子P1と他の第1粒子P1とを結着する。結着剤は、例えば、エチレンプロピレンジエン共重合体(EPDM)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂である。
【0027】
撥水性材料は、正極合材層21Bの表面と接触する水を撥水する。撥水性材料は、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、PVDFと共重合可能なモノマーとのコポリマー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、フッ素ゴムから選択されるいずれか1種のフッ素系樹脂である。撥水性材料は、第1粒子P1と他の第1粒子P1とを結着する機能を備えることも可能である。
【0028】
負極集電体22Aを構成する材料は、例えば、銅やニッケルを含む。負極合材層22Bを構成する材料は、負極活物質を含む粒子、結着剤、および、導電剤を含む。負極活物質は、例えば、黒鉛などの炭素、金属リチウム、リチウム合金である。結着剤は、例えば、SBRや変性SBRである。
【0029】
[正極合材層21B]
図3が示すように、正極合材層21Bでは、第1粒子P1と第2粒子P2とが厚み方向で混在する。正極合材層21Bにおいて正極集電体21Aとは反対側の面が表面21Sである。第2粒子P2は、正極合材層21Bの厚み方向に分布し、かつ、正極合材層21Bの表面21Sを含む領域に偏って存在する(偏在する)。第2粒子P2が偏在する領域は、所定の厚みを有し、第1粒子P1と第2粒子P2とが厚み方向で混在した領域を含む。第2粒子P2は、正極集電体21Aから表面21Sに向けて増える。正極合材層21Bの表面21Sは、第2粒子P2の偏在による撥水性を備える。表面21Sにおける撥水性は、水の接触角を15°以上とする表面性状である。水の接触角は、JIS R3257(1999)に準拠した静的法を用い、滴下から30秒経過後に得られる角度である。
【0030】
正極合材層21Bの厚み方向を含む断面観察において、単位面積あたりに第2粒子P2が占める比率は、正極合材層21Bの表面21Sで最も高い。単位面積あたりに第2粒子P2が占める比率は、正極合材層21Bの表面21Sから正極集電体21Aの表面に向けて小さくなる。第2粒子P2は、正極合材層21Bの表面21Sに位置してもよいし、正極合材層21Bの表面21Sに位置しなくともよい。
【0031】
一般的に、正極合材層21Bの表面21Sを第2粒子P2で覆う場合には、第1粒子P1を含む塗膜を形成後に、第2粒子P2からなる撥水層を塗工する方法が想定される。この場合、第1粒子P1を含む塗膜の表面に撥水層が積み重なるため、第1粒子P1と第2粒子P2とが相互に区切られた層を構成し、正極合材層21Bの表面21Sのみに第2粒子P2は存在することになる。一方で、本実施形態のように、第2粒子P2にPVDFのような結着剤として作用する物質を用いた場合には、正極合材層21Bの表面21Sだけでなく、正極合材層21Bの内部にも第2粒子P2が存在し、それによって、合剤間の密着度が高められる。
【0032】
第1粒子P1の平均粒径(二次粒径)は、例えば、5μm以上10μm以下である。第2粒子P2の平均粒径(二次粒径)は、第1粒子P1の平均粒径よりも小さく、例えば、3μm以上5μm以下である。第2粒子P2の平均粒径が3μm以上であれば、第2粒子P2による撥水性を十分に発揮させることが可能となる。第2粒子P2の平均粒径が5μm以下であれば、正極合材層21Bの製造に際して、有機溶媒の蒸発と共に、第2粒子P2を表面21Sに向けて流動させることが容易となる。なお、第1粒子P1の平均粒径、および、第2粒子P2の平均粒径は、例えば、体積基準のメジアン径(D50:50%体積平均粒径)であり、レーザ回折散乱法などの公知の測定によって求められる。
【0033】
第2粒子P2は、相互に隣り合う第1粒子P1の間にも位置する。正極合材層21Bの厚み方向を含む断面観察において、単位面積あたりに第2粒子P2が占める比率は、正極合材層21Bの表面21Sに近い部位ほど高い。すなわち、正極合材層21Bの厚み方向を含む断面観察において、第1粒子P1の面積に対する第2粒子P2の面積の比率は、正極合材層21Bの表面21Sに近い部位ほど高い。そのため、正極合材層21Bの表面21Sに近い部位ほど、第2粒子P2による撥水効果は高い。また、第2粒子P2による撥水効果が必要とされない正極合材層21Bの内部では、特に、正極集電体21Aの近傍では、正極合材層21Bに本来求められる機能が十分に確保される。
【0034】
また、第1粒子P1の間隙の一例として、正極合材層21Bの表面21Sに近い部位ほど、第1粒子P1の間隙は広く、厚み方向に沿った単位断面積に占める第1粒子P1の比率、言い換えれば、正極合材層21Bの厚み方向を含む断面における第1粒子P1の密度は、正極合材層21Bの表面21Sに近い部位ほど低い。第1粒子P1の間隙が広いほど、第1粒子P1の間には第2粒子P2が多く存在する。表面21Sに近い部位ほど第1粒子P1の密度が低い構成であれば、表面21Sに近い部位ほど第1粒子P1に代えて第2粒子P2を配置させること、ひいては、第2粒子P2を表面21Sに偏在させることが容易となる。
【0035】
正極合材層21Bの中で第2粒子P2の存在しない領域は、活物質領域L1である。正極合材層21Bの中で第2粒子P2の存在する領域は、撥水領域L2である。正極合材層21Bの厚みT0に対する撥水領域L2の厚みT2の比率は、例えば、25%以下である。正極合材層21Bの厚みT0は、例えば、20μmであり、撥水領域L2の厚みT2は、例えば、5μmである。撥水領域L2の厚みT2が正極合材層21Bの厚みT0の25%以下であれば、第2粒子P2による撥水効果を得ながらも、正極合材層21Bの内部では、第1粒子P1での反応の進行が第2粒子P2に妨げられることを十分に抑制可能ともなる。また、電池反応に寄与する成分の拡散距離が撥水領域L2で増大することを抑制可能ともなる。
【0036】
なお、正極合材層21Bの厚み方向を含む断面観察において、第2粒子P2が存在するか否かは、電子プローブマイクロ解析(EPMA:Electron Probe Micro Analysis)を用いた元素マッピングによって定められる。元素マッピングの対象となる元素は、正極合材層21Bの中で第2粒子P2のみに存在する元素であり、例えば、フッ素である。正極合材層21Bに対するEPMAは、JIS K0190(2010)に準拠した方法によって行われる。EPMAにおいて検出限界以下の範囲は、第2粒子P2が存在しない範囲として取り扱われる。
【0037】
正極合材層21Bの表面21Sにおいて、単位面積での第2粒子P2の比率は、例えば、50%以下である。正極合材層21Bの表面21Sにおいて、第2粒子P2以外の領域は、例えば、第1粒子P1、結着剤、導電剤のいずれかが占有する。ここでも、第2粒子P2が存在するか否かは、EPMAを用いた元素マッピングによって定められる。撥水領域L2の表面積が正極合材層21Bの表面積の50%以下であれば、第2粒子P2による撥水効果を得ながらも、正極合材層21Bの表面近傍で、第1粒子P1での反応進行が十分に可能ともなる。
【0038】
なお、一般的に、正極合材層21Bの表面21Sを第2粒子P2で覆う場合には、正極合材層21Bを塗工後に、第2粒子P2からなる撥水層を塗工する方法が想定される。この場合、表面21Sにおける第2粒子P2の比率は、少なくとも90%以上であって、100%に近くなる。この際、第1粒子P1と比べて電気伝導性が低い第2粒子P2によって表面21Sが構成されるため、電池抵抗の増大が懸念される。一方、本実施形態のように、表面21Sの一部のみを第2粒子P2が占める構成であれば、電池抵抗の増大が抑制可能である。
【0039】
また、第1粒子P1の間隙における構成の一例として、第1粒子P1の間隙が広いほど、第1粒子P1の間には導電剤が多く存在してもよい。すなわち、正極合材層21Bの表面に近い部位ほど、第1粒子P1の密度は低く、第2粒子P2の密度や導電剤などのような第1粒子P1よりも小さい他の粒子の密度は高い。表面21Sに近い部位ほど導電剤の密度が高い構成であれば、第2粒子P2の偏りによる電池抵抗の増大がさらに抑制可能である。
【0040】
[正極板21の製造方法]
図4が示すように、正極板21の製造方法は、正極集電体21Aに塗膜を形成する塗工工程(ステップS11)と、塗膜を乾燥して正極合材層21Bを形成する乾燥工程(ステップS12)と、正極合材層21Bをプレスするプレス工程(ステップS13)とを含む。
【0041】
塗工工程は、正極集電体21Aの表面に液状組成物(スラリーまたはペースト)を塗布して塗膜を形成する。液状組成物を塗布は、例えば、スリットコーター、ダイコーター、グラビアコーターなどの塗布装置を用いる。液状組成物は、第1粒子P1、第2粒子P2、導電剤、結着剤、増粘剤、および、有機溶媒を含む。増粘剤は、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液である。有機溶媒は、例えば、NMP、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルスルフォキシド、ヘキサメチルフォスフォアミドである。
【0042】
液状組成物における固形分率は、例えば、30質量%以上90質量%であり、40質量%以上70質量%であることが好ましい。固形分全体に対する第1粒子P1の比率は、例えば、50質量%以上95質量%以下であり、75質量%以上95質量%であることが好ましい。固形分全体に対する第2粒子P2の比率は、1質量%以上10質量%以下である。固形分全体に対する導電剤の比率は、例えば、2質量%以上20質量%以下であり、2質量%以上15質量%以下であることが好ましい。固形分全体に対する結着剤の比率は、例えば、1質量%以上10質量%以下であり、2質量%以上5質量%以下が好ましい。より具体的には、固形分全体に対する第1粒子P1の比率は、例えば、55質量%であり、固形分全体に対する第2粒子P2の比率は、例えば、1質量%である。導電剤、結着剤、および、増粘剤などの添加剤は、例えば、44質量%である。
【0043】
乾燥工程は、塗膜に含まれる有機溶媒を蒸発させて、正極合材層21Bの表面21Sに第2粒子P2が偏在するように、塗膜を乾燥する。有機溶媒の蒸発は、例えば、自然乾燥や、熱風や低湿風の供給による乾燥、塗膜を真空下に配置する乾燥、赤外線や遠赤外線を塗膜に照射する乾燥、これらの組み合わせを用いる。乾燥時における塗膜の温度は、正極合材層21Bの全体に第2粒子P2を均一に分布させる温度よりも高い。塗膜の乾燥に要する時間は、正極合材層21Bの全体に第2粒子P2を均一に分布させる時間よりも短い。
【0044】
例えば、有機溶媒としてNMPを用い、第2粒子P2として1質量%のPVDF粒子を用いる場合、正極合材層21Bの全体に第2粒子P2を均一に分布させる温度は140℃以上160℃以下である。乾燥時における塗膜の温度が、140℃以上160℃以下であれば、NMPを蒸発させて乾燥させることは十分に可能である。これに対して、本発明者らは、乾燥時における塗膜の温度をさらに高めることによって、塗膜の中に存在する第2粒子P2を正極合材層21Bの表面21Sに向けて移動可能であることを見出した。具体的には、第2粒子P2の粒径が3μm以上5μm以下であれば、乾燥時における塗膜の温度を170℃以上190℃以下とすることによって、第2粒子P2を表面21Sに向けて移動(偏在)させることが可能となる。
【0045】
この際、
図5が示すように、塗膜Fに含まれる有機溶媒は、塗膜Fの表面FSから順に蒸発し、正極集電体21Aの近傍に位置する有機溶媒は、相互に隣り合う第1粒子P1の間を通じて、塗膜Fの表面FSへ流動する。高温、かつ、短時間での乾燥によれば、正極集電体21Aの近傍に位置する第2粒子P2は、有機溶媒の流動に追従して、塗膜Fの表面FSへ吸い上げられる。結果として、正極合材層21Bの表面に第2粒子P2を偏在させることが可能となる。
【0046】
また、相互に隣り合う第1粒子P1の間隙は、正極合材層21Bの表面に近い部位ほど広い構成も可能である。例えば、
図5が示すように、第2粒子P2は、有機溶媒の蒸発に伴って表面に向けて吸い上げられる。そのため、集電体の表面に近い部位では、第1粒子P1間に第2粒子P2が挟まれず、一方で、正極合材層21Bの表面に近い部位では、第1粒子P1間に第2粒子P2が挟まれやすい。結果として、正極合材層21Bの表面に近い部位ほど、第1粒子P1の間隙が広くなりやすく、厚み方向に沿った単位断面積に占める第1粒子P1の比率は、正極合材層21Bの表面に近い部位ほど低くなりやすい。また、塗膜Fに含まれる導電剤もまた、有機溶媒の蒸発に伴って表面に向けて吸い上げられて、第2粒子P2と同じく、正極合材層21Bの表面に近い部位ほど密度が高まる。
【0047】
プレス工程は、正極合材層21Bの厚みを所望の厚みに整えるように、正極合材層21Bに押圧力を加える。プレス工程に用いられる方法は、例えば、ロールプレス法、平板プレス法などの圧縮方法である。正極合材層21Bの表面21Sに偏在する第2粒子P2は、表面21Sに加わる応力を分散するため、応力の印加によるクラックや剥がれを正極合材層21Bで抑制する。
【0048】
以上、上記実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)正極合材層21Bの表面21Sに偏在する第2粒子P2は、複数の第1粒子P1を覆い、第1粒子P1と水との接触を、第2粒子P2の撥水によって抑制する。そして、表面21Sに偏在する第2粒子P2は、表面21Sに加わる応力を分散して、応力の印加による撥水機能の低下を抑制可能ともする。
【0049】
(2)特に、正極合材層21Bの厚みを調整するためのプレス工程では、正極合材層21Bの表面21Sに加わる応力を第2粒子P2が分散可能でもあるから、プレスによる撥水機能の低下を正極合材層21Bで抑制可能ともなる。
【0050】
(3)単位断面積に占める第2粒子P2の比率が、表面21Sに近い部位ほど高い構成では、表面21Sに近い部位ほど、第2粒子P2による撥水効果が高まる。結果として、正極合材層21Bの表面21Sでは、正極合材層21Bへの水の侵入を抑制し、かつ、正極集電体21Aの近傍では、第1粒子P1による電極反応を進めることが可能であるから、第2粒子P2に起因した入出力特性の変化を抑制可能となる。
【0051】
(4)撥水領域L2の厚みが、正極合材層21Bの厚みの25%以下であれば、上記(1)に準じた効果を得ながらも、正極合材層21Bの内部では、第1粒子P1での反応進行が第2粒子P2に妨げられることを抑制可能ともなる。
【0052】
(5)撥水領域L2の表面積が、正極合材層21Bの表面積の50%以下であれば、上記(1)に準じた効果を得ながらも、正極合材層21Bの表面近傍で、第1粒子P1による反応進行が十分に可能ともなる。
(6)第1粒子P1同士を結着する機能を第2粒子P2が備える構成では、撥水領域L2と第1粒子P1との接合の強度を向上可能でもある。
【0053】
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・厚み方向に沿った単位断面積に占める第2粒子P2の比率は、電極合材層の表面以外で最も高いことも可能である。例えば、厚み方向に沿った単位断面積に占める第2粒子P2の比率は、電極合材層の表面よりも第1粒子P1の平均粒径分だけ集電体に近い部位のように、電極合材層の表面近傍で最も高い構成であってもよい。第2粒子P2の偏在する部位は、乾燥工程における乾燥温度や乾燥時間によって変更することが可能である。
【0054】
すなわち、非水系電池用電極板では、集電体の表面よりも電極合材層の表面に第2粒子P2が偏っており、電極合材層の表面を含む領域に第2粒子P2が偏在する構成であればよい。
【0055】
・非水系電池用電極板の製造方法は、プレス工程を割愛することも可能である。プレス工程を含まない製造方法であっても、上記(1)~(5)に準じた効果を得ることが可能である。
・電極合材層は、集電体の少なくとも一つの面に位置すればよく、箔状を有した集電体の片面のみに位置することも可能である。
・集電体の形状は、非水系電池の形状などに応じて適宜設定されるものであり、箔状、シート状、板状、棒状、メッシュ状などに変更可能である。
・非水系電池は、一次電池、および、二次電池の両者を包含する。
【0056】
・非水系電池は、セパレータで挟まれた正極板と負極板とを積層させた電極体を備え、電極体に非水系電解質を含浸させた構成である。非水系電池は、円筒形や積層形などの各種の形状を選択可能である。
【符号の説明】
【0057】
F…塗膜、FS…表面、L1…活物質領域、L2…撥水領域、P1…第1粒子、P2…第2粒子、10…リチウムイオン二次電池、11…ケース、12…蓋体、13…正極端子、14…負極端子、20…電極体、21…正極板、21A…正極集電体、21B…正極合材層、21S…表面、22…負極板、22A…負極集電体、22B…負極合材層、23…セパレータ。