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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】視標呈示装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/032 20060101AFI20220705BHJP
   A61B 3/103 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
A61B3/032
A61B3/103
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018068850
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019177045
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100098796
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 全
(74)【代理人】
【識別番号】100121647
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 和孝
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【弁理士】
【氏名又は名称】芳野 理之
(72)【発明者】
【氏名】柳 英一
【審査官】田辺 正樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-047096(JP,A)
【文献】特開2017-113573(JP,A)
【文献】特開2004-046451(JP,A)
【文献】特開2007-097707(JP,A)
【文献】特開平07-136112(JP,A)
【文献】特開平08-098801(JP,A)
【文献】特開2016-010679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B3/00-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検眼用の視表に付された視標を被検眼に向けて呈示する視標呈示装置であって、
筐体と、
前記筐体の内部に設けられた近用検査用の近用視表と、
前記筐体の前記内部に設けられ前記近用視表から放射された光束を前記筐体の前記内部に配置された光学系を介して前記被検眼に呈示する視標呈示光学系と、
前記視標呈示光学系の光軸に沿って前記筐体の少なくとも一部を移動させる筐体駆動部と、
互いに異なる方向から実質的に同時に前記被検眼を撮影する第1カメラおよび第2カメラを有する撮影部と、
画像を表示する表示部と、
前記第1カメラおよび前記第2カメラにより実質的に同時に撮影された複数の画像を解析することにより前記光軸の方向における前記被検眼の位置を特定し、前記被検眼の前記位置に基づいて前記筐体駆動部を制御することにより、前記近用視表と前記被検眼との間の距離を所定の呈示距離に合わせる制御を実行するとともに、前記近用視表と前記被検眼との間の前記距離を前記表示部に表示させる制御を実行する制御装置と、
を備えたことを特徴とする視標呈示装置。
【請求項2】
検眼用の視表に付された視標を被検眼に向けて呈示する視標呈示装置であって、
筐体と、
前記筐体の内部に設けられた近用検査用の近用視表と、
前記筐体の前記内部に設けられ前記近用視表から放射された光束を前記筐体の前記内部に配置された光学系を介して前記被検眼に呈示する視標呈示光学系と、
前記視標呈示光学系の光軸に沿って前記筐体の少なくとも一部を移動させる筐体駆動部と、
互いに異なる方向から実質的に同時に前記被検眼を撮影する第1カメラおよび第2カメラを有する第1撮影部と、
前記第1撮影部の画角よりも広い画角を有するとともに、少なくとも1つのカメラを有し、前記第1撮影部よりも広い範囲で前記被検眼の特徴点を特定可能な第2撮影部と、
前記第1カメラおよび前記第2カメラにより実質的に同時に撮影された複数の画像を解析することにより前記光軸の方向における前記被検眼の位置を特定し、前記被検眼の前記位置に基づいて前記筐体駆動部を制御することにより、前記近用視表と前記被検眼との間の距離を所定の呈示距離に合わせる制御を実行する制御装置と、
を備えたことを特徴とする視標呈示装置。
【請求項3】
前記第2撮影部は、互いに異なる方向から実質的に同時に前記被検眼を撮影する第3カメラおよび第4カメラを有し、
前記制御装置は、前記第3カメラおよび前記第4カメラにより実質的に同時に撮影された複数の画像を解析することにより前記被検眼の前記特徴点を特定した後に、前記第1カメラおよび前記第2カメラにより実質的に同時に撮影された複数の画像を解析することにより前記光軸の方向における前記被検眼の前記位置を特定することを特徴とする請求項2に記載の視標呈示装置。
【請求項4】
前記近用視表は、前記制御装置から送信された信号に基づいて前記視標を表示する電子表示装置であり、
前記制御装置は、前記近用視表と前記被検眼との間の前記距離に基づいて前記視標の像の大きさを制御し、前記視標の視角を一定に保持することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の視標呈示装置。
【請求項5】
前記筐体駆動部は、ステッピングモータを有することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の視標呈示装置。
【請求項6】
前記筐体の内部に設けられた遠用検査用の遠用視表をさらに備え、
前記遠用視表から放射された光束は、前記筐体の前記内部に配置された光学系を介して前記視標呈示光学系により前記被検眼に呈示されることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の視標呈示装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検眼用の視表に付された視標を被検眼に向けて呈示する視標呈示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科医療の分野においては、自覚式による被検眼の視力検査として、視表に付されたランドルト環などの視標が被検眼から約5m程度離れた位置に呈示された状態で行われる遠用検査と、視標が被検眼から約30cm以上、50cm以下程度離れた位置に呈示された状態で行われる近用検査と、が存在する。
【0003】
遠用検査が行われる場合には、例えば、反射ミラー、ハーフミラーおよび凹面鏡を含む視標呈示光学系が筐体内に配置された視標呈示装置が用いられる。このような視標呈示装置では、筐体内に配置された遠用検査用の視表から放射された光束は、反射ミラーによりハーフミラーに向けて反射され、ハーフミラーを透過して凹面鏡に導かれる。凹面鏡により反射された光束は、再びハーフミラーに導かれ、ハーフミラーにより被検眼に向けて反射される。ハーフミラーにより反射された光束は、被検眼から約5m程度離れた位置に虚像を形成する。そのため、このような視標呈示装置は、約5m程度の呈示距離を確保することが困難な場所であっても設置可能とされている。これにより、被検眼と視標呈示装置の前面との間の距離(ワーキングディスタンス)を短くすることができ、検眼に必要な空間を有効に利用することができる。
【0004】
一方で、近用検査が行われる場合には、例えば、前述した視標呈示装置の自覚式検眼手段(レフラクターヘッド)に接続された近用検査用の視表が用いられる。すなわち、近用検査が行われる場合には、レフラクターヘッドに取り付けられた近点棒が被検眼の眼前に垂下することにより、近点棒に保持された近用検査用の視表が被検眼に向けて呈示される。近用検査用の視表は、被検眼から約30cm~50cm程度離れた位置において近点棒に沿って移動可能とされている。
【0005】
そのため、前述したような視標呈示装置では、被検眼と視標呈示装置の前面との間の距離は、近用検査用の視表を保持する近点棒の長さよりも長いことが必要である。一般的には、被検眼と視標呈示装置の前面との間の距離は、約1m程度である。これに対して、被検眼と視標呈示装置の前面との間の距離をさらに短くしたいという要望がある。
【0006】
そこで、遠用検査用の視表の設置位置と同様に、近用検査用の視表を視標呈示装置の筐体側に設置することが一策として挙げられる。これによれば、レフラクターヘッドを用いずに、裸眼やトライアルフレームまたは実際の眼鏡を用いた近用検眼も可能となる。しかし、そうすると、被検眼の位置の変化により被検眼から視表までの距離が変化してしまい、検眼精度に影響を与えるおそれがある。すなわち、遠用検査では、視標の呈示距離が約5m程度と長いため、呈示距離に対する被検眼の位置変化の比率は、比較的低い。そのため、被検者の首や顔の位置が変化することで被検眼の位置が変化した場合であっても、検眼精度は、ほとんど影響を受けない。一方で、近用検査では、視標の呈示距離が約30cm以上、50cm以下程度であるため、呈示距離に対する被検眼の位置変化の比率は、比較的高い。そのため、近用検査を受ける際に、被検者の首や顔の位置が変化することで被検眼の位置が変化すると、正確な検査を行うことができないおそれがある。
【0007】
特許文献1には、視標を被検眼に向けて呈示する視力表装置が開示されている。特許文献1に記載された視力表装置は、装置本体を光束の方向に沿ってスライドさせるスライド機構部と、スライド機構部を駆動する駆動手段と、装置本体と自覚式検眼手段との間の距離を測定する距離センサと、を備えている。特許文献1に記載された視力表装置は、距離センサにより、装置本体と自覚式検眼手段との間の距離を測定し、距離センサの測定結果を基に駆動手段によりスライド機構部を駆動して、装置本体の自覚式に対する距離設定を行う。
【0008】
しかし、特許文献1に記載された視力表装置では、装置本体と被検眼との間の距離を測定する具体的手段が不明である。そのため、正確な検査を行うという点においては、改善の余地がある。すなわち、被検者がレフラクターヘッドを使用せずトライアルフレームや実際の眼鏡を装用して検査を受ける際には、被検者の首や顔の位置が変化することで被検眼の位置が変化することがある。このような場合には、装置本体と自覚式検眼手段との間の距離ではなく、装置本体と被検眼との間の距離を測定する必要がある。これに対して、特許文献1に記載された視力表装置では、装置本体と被検眼との間の距離を測定する具体的手段が不明である。そのため、正確な検査を行うという点においては、改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平7-136112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、検眼に必要な空間を有効に利用することができるとともに、正確な検眼を行うことができる視標呈示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題は、本発明によれば、検眼用の視表に付された視標を被検眼に向けて呈示する視標呈示装置であって、筐体と、前記筐体の内部に設けられた近用検査用の近用視表と、前記筐体の前記内部に設けられ前記近用視表から放射された光束を前記筐体の前記内部に配置された光学系を介して前記被検眼に呈示する視標呈示光学系と、前記視標呈示光学系の光軸に沿って前記筐体の少なくとも一部を移動させる筐体駆動部と、互いに異なる方向から実質的に同時に前記被検眼を撮影する第1カメラおよび第2カメラを有する撮影部と、前記第1カメラおよび前記第2カメラにより実質的に同時に撮影された複数の画像を解析することにより前記光軸の方向における前記被検眼の位置を特定し、前記被検眼の前記位置に基づいて前記筐体駆動部を制御することにより、前記近用視表と前記被検眼との間の距離を所定の呈示距離に合わせる制御を実行する制御装置と、を備えたことを特徴とする視標呈示装置により解決される。
【0012】
前記構成によれば、近用検査用の近用視表は、筐体の内部に設けられているため、近用検査の際に、被検眼と視標呈示装置の前面との間には呈示されない。そのため、被検眼と視標呈示装置の前面との間において、近用視表を呈示するための空間を確保する必要がない。これにより、被検眼と視標呈示装置の前面との間の距離(ワーキングディスタンス)を短くすることができ、検眼に必要な空間を有効に利用することができる。
【0013】
また、制御装置は、第1カメラおよび第2カメラにより実質的に同時に撮影された複数の画像を解析することにより光軸の方向における被検眼の位置を特定し、被検眼の位置に基づいて筐体駆動部を制御することにより、近用視表と被検眼との間の距離を所定の呈示距離に合わせる制御を実行する。そのため、被検者の首や顔の位置が変化することで被検眼の位置が変化した場合であっても、制御装置は、被検眼の位置に基づいて視標呈示光学系の光軸に沿って筐体の少なくとも一部を移動させ、近用視表と被検眼との間の距離を所定の呈示距離に合わせる。そのため、制御装置は、近用視表の位置を視標呈示光学系の光軸の方向における被検眼の位置の変化に追従させることができる。すなわち、制御装置は、被検眼の動きに対する筐体のトラッキングを実行することにより、被検眼の動きに対する近用視表のトラッキングを実行することができる。これにより、近用視表が筐体の内部に設けられ、被検者の首や顔の位置が変化することで被検眼の位置が変化した場合であっても、正確な近用検査を行うことができる。
【0014】
好ましくは、前記撮影部は、第1撮影部であり、前記第1撮影部の画角よりも広い画角を有する第2撮影部をさらに備え、前記第2撮影部は、少なくとも1つのカメラを有し、第1撮影部よりも広い範囲で前記被検眼の特徴点を特定可能であることを特徴とする。
【0015】
前記構成によれば、第1撮影部は、近距離撮影用のステレオカメラとして機能する。一方で、第2撮影部は、遠距離撮影用のカメラとして機能する。そして、制御装置は、まず、遠距離撮影用の第2撮影部により撮影された画像を解析することにより被検眼の特徴点を特定する。これによれば、筐体が被検眼から比較的遠い位置に配置されている場合であっても、第2撮影部は、被検者の顔をより確実に撮影することができ、被検眼の特徴点をより確実に特定することができる。制御装置は、被検眼の特徴点を特定すると、近距離撮影用の第1撮影部(第1カメラおよび第2カメラ)により実質的に同時に撮影された複数の画像を解析することにより視標呈示光学系の光軸の方向における被検眼の位置を特定する。これによれば、制御装置は、遠距離撮影用の第2撮影部および近距離撮影用の第1撮影部を用いて被検眼の画像をより確実に取得することができ、視標呈示光学系の光軸の方向における被検眼の位置をより確実に特定することができる。このように、前記構成によれば、筐体が検査開始時に被検眼から比較的遠い位置に配置されている場合であっても、制御装置は、視標呈示光学系の光軸の方向における被検眼の位置をより確実に特定することができる。
【0016】
好ましくは、前記第2撮影部は、互いに異なる方向から実質的に同時に前記被検眼を撮影する第3カメラおよび第4カメラを有し、前記制御装置は、前記第3カメラおよび前記第4カメラにより実質的に同時に撮影された複数の画像を解析することにより前記被検眼の前記特徴点を特定した後に、前記第1カメラおよび前記第2カメラにより実質的に同時に撮影された複数の画像を解析することにより前記光軸の方向における前記被検眼の前記位置を特定することを特徴とする。
【0017】
前記構成によれば、第2撮影部は、異なる方向から撮影する少なくとも2以上のカメラを用いることで近距離撮影用のステレオカメラとして機能し、作動距離方向の情報を得ることができる。
【0018】
好ましくは、前記近用視表は、前記制御装置から送信された信号に基づいて前記視標を表示する電子表示装置であり、前記制御装置は、前記近用視表と前記被検眼との間の前記距離に基づいて前記視標の像の大きさを制御し、前記視標の視角を一定に保持することを特徴とする。
【0019】
前記構成によれば、近用視表と被検眼との間の距離が変化した場合であっても、視標の視角が一定に保持される。そのため、より正確な近用検査を行うことができる。
【0020】
好ましくは、前記筐体駆動部は、ステッピングモータを有することを特徴とする。
【0021】
前記構成によれば、筐体駆動部は、ステッピングモータを有するため、筐体の位置をより高い精度で決めることができる。
【0022】
好ましくは、画像を表示する表示部をさらに備え、前記制御装置は、前記近用視表と前記被検眼との間の前記距離を前記表示部に表示させる制御を実行することを特徴とする。
【0023】
前記構成によれば、近用視表と被検眼との間の距離が表示部に表示される。すなわち、近用視表に付された視標の呈示距離が表示部に表示される。そのため、検者は、近用視表と被検眼との間の距離が所定の呈示距離に合っているか否かを表示部により確認することができる。
【0024】
好ましくは、前記筐体の内部に設けられた遠用検査用の遠用視表をさらに備え、前記遠用視表から放射された光束は、前記筐体の前記内部に配置された光学系を介して前記視標呈示光学系により前記被検眼に呈示されることを特徴とする。
【0025】
前記構成によれば、遠用視表および近用視表は、筐体の内部に配置された光学系を介して視標呈示光学系により被検眼に呈示される。そのため、近用視表から放射された光束の光路は、遠用視表から放射された光束の一部と重複する。これにより、筐体の小型化を図ることができ、検眼に必要な空間を有効に利用することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、検眼に必要な空間を有効に利用することができるとともに、正確な検眼を行うことができる視標呈示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態に係る視標呈示装置を表す斜視図である。
図2】本実施形態に係る視標呈示装置を表す側面図である。
図3】本実施形態に係る視標呈示装置を表す上面図である。
図4】本実施形態に係る視標呈示装置の要部構成を表すブロック図である。
図5】本実施形態に係る視標呈示装置の動作の第1具体例を表すフローチャートである。
図6】本実施形態に係る視標呈示装置の動作の第2具体例を表すフローチャートである。
図7】本実施形態に係る視標呈示装置の動作の第2具体例を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して詳しく説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0029】
図1は、本発明の実施形態に係る視標呈示装置を表す斜視図である。
図2は、本実施形態に係る視標呈示装置を表す側面図である。
図3は、本実施形態に係る視標呈示装置を表す上面図である。
図4は、本実施形態に係る視標呈示装置の要部構成を表すブロック図である。
なお、図2および図3では、説明の便宜上、視標呈示装置の筐体を破線で表している。
【0030】
本実施形態に係る視標呈示装置2は、検眼用の視表に付された視標を被検眼Eに向けて呈示する装置であり、筐体3と、近用視表42と、視標呈示光学系5と、第1撮影部61と、制御装置7と、筐体駆動部31と、を備える。視標呈示装置2は、検眼テーブル9と、第2撮影部62と、遠用視表41と、をさらに備えていてもよい。近用視表42と、視標呈示光学系5と、第1撮影部61と、制御装置7と、第2撮影部62と、遠用視表41と、は筐体3の内部に設けられている。
【0031】
図1に表したように、検眼テーブル9は、支柱91と、自覚式検眼手段(レフラクターヘッド)92と、照明ユニット93と、を有する。支柱91は、鉛直方向Yの軸を中心として回転可能に設けられている。自覚式検眼手段92および照明ユニット93は、支柱91に支持されている。自覚式検眼手段92は、視表呈示装置2の筐体3に取り付けられており、被検眼の眼前に対して挿脱可能に構成されていても良い。
【0032】
筐体3は、近用視表42と、遠用視表41と、視標呈示光学系5と、第1撮影部61と、第2撮影部62と、制御装置7と、を内部に収容し、被検者Jと対向する位置に設けられたウインドウWを有する。ウインドウWは、ポリアクリルレート樹脂(PMMA)などの透光性樹脂により形成され、約2mm程度の厚さを有する。本実施形態に係る視標呈示装置2では、近用視表42が筐体3の内部に設けられているため、被検者Jの被検眼Eの角膜頂点と、筐体3の前面と、の間の距離(ワーキングディスタンス)WDは、近用検眼距離未満に設定可能とされている。この詳細については、後述する。ここで、本実施形態に係る視標呈示装置2では、ウインドウWの前面は、筐体3の前面の一例である。
【0033】
近用視表42は、近用検査用の視表であり、被検眼Eに対して視標を呈示する。例えば、近用視表42は、液晶表示装置などの電子表示装置として筐体3の内部に配置され、表示画面421にランドルト環などの視標を表示することができる。但し、近用視表42は、液晶表示装置に限定されるわけではなく、他の表示デバイスであってもよく、視標パターンを描画したガラス板や紙により形成されていてもよい。
【0034】
遠用視表41は、遠用検査用の視表であり、被検眼Eに対して視標を呈示する。例えば、遠用視表41は、液晶表示装置などの電子表示装置として筐体3の内部に配置され、表示画面411にランドルト環などの視標を表示することができる。但し、遠用視表41は、液晶表示装置に限定されるわけではなく、他の表示デバイスであってもよく、視標パターンを描画したガラス板や紙により形成されていてもよい。
【0035】
視標呈示光学系5は、筐体3の内部に設けられ、遠用視表41および近用視表42から放射された光束を筐体3の内部に配置された光学系を介して被検眼Eに呈示する。視標呈示光学系5は、第1反射ミラー51と、凸レンズ系52と、第2反射ミラー53と、を有する。第1反射ミラー51は、遠用視表41から放射された光束を凸レンズ系52に向けて反射する。凸レンズ系52は、第1反射ミラー51により反射された光束を屈折させ虚像を形成する。なお、遠用視表41の表示画面411は、凸レンズ系52と、凸レンズ系52の焦点521と、の間に配置されている。また、凸レンズ系52は、図2に表した1つの平凸レンズには限定されず、複数のレンズを有していてもよい。
【0036】
遠用検査が行われる場合には、第2反射ミラー53は、凸レンズ系52を透過した光束を被検眼Eに向けて反射し、被検眼Eの角膜頂点の前方の所定距離の遠用呈示位置531に虚像を呈示する。このとき、例えば、近用視表42は、近用視表駆動部43(図4参照)から伝達された駆動力を受けて移動し、遠用視表41から放射された光束の光路の外側に退避している。被検眼Eの角膜頂点と、遠用呈示位置531と、の間の距離は、約5m程度である。なお、近用視表42が遠用視表41から放射された光束の光路の外側に配置されている場合には、近用視表駆動部43は、必ずしも設けられていなくともよい。
【0037】
近用検査が行われる場合には、第2反射ミラー53は、近用視表42から放射された光束を反射し被検眼Eに呈示する。図2に表したように、近用視表42は、凸レンズ系52の光出射側に設けられている。そのため、近用視表42から放射された光束は、第1反射ミラー51により反射されたり、凸レンズ系52を透過したりすることはない。但し、本実施形態の視標呈示光学系5の構成は、一例であり、これだけに限定されるわけではない。
【0038】
第1撮影部61は、筐体3の内部に設けられ、被検眼Eを撮影する。第1撮影部61は、被検眼Eに対して第2反射ミラー53よりも遠用視表41および近用視表42の側に配置され、第2反射ミラー53を介して被検眼Eを撮影可能に構成されている。本実施形態の第1撮影部61は、本発明の「撮影部」に相当する。例えば、第1反射ミラー51により反射され第2反射ミラー53に導かれる光束の光軸LA1(図2参照)の方向に沿ってみたときに、第1撮影部61は、凸レンズ系52と、近用視表42と、の間に設けられている。第1撮影部61は、第1カメラ611および第2カメラ612を有し、被検眼Eの二次元画像を撮影することができる。二次元画像は、動画であってもよく、静止画であってもよい。また、二次元画像は、カラー画像であってもよく、モノクロ画像であってもよい。第1カメラ611および第2カメラ612は、互いに異なる方向から実質的に同時に被検眼Eを撮影する。
【0039】
第2撮影部62は、筐体3の内部に設けられ、被検眼Eを撮影する。例えば、第2反射ミラー53により反射され被検眼Eに導かれる光束の光軸LA2(図2参照)の方向(光軸方向Z)に沿ってみたときに、第2撮影部62は、第2反射ミラー53からみてウインドウWとは反対側(第2反射ミラー53の反射面の後側)に設けられている。第2撮影部62は、第3カメラ621および第4カメラ622を有し、被検眼Eの二次元画像を撮影することができる。二次元画像は、動画であってもよく、静止画であってもよい。また、二次元画像は、カラー画像であってもよく、モノクロ画像であってもよい。第3カメラ621および第4カメラ622は、互いに異なる方向から実質的に同時に被検眼Eを撮影する。
【0040】
第2撮影部62の画角は、第1撮影部61の画角よりも広い。第2撮影部62は、少なくとも1つのカメラを有し、異なる方向から撮影する少なくとも2以上のカメラを用いることで第1撮影部と同様に、作動距離方向の情報を得ることができる。また、第2撮影部62は、第1撮影部61よりも広い範囲で被検眼Eの特徴点E0を特定可能である。すなわち、第3カメラ621および第4カメラ622のそれぞれの画角は、第1カメラ611および第2カメラ612のそれぞれの画角よりも広い。そのため、第3カメラ621および第4カメラ622のそれぞれの焦点距離は、第1カメラ611および第2カメラ612のそれぞれの焦点距離よりも短い。また、第3カメラ621および第4カメラ622のそれぞれは、第1カメラ611および第2カメラ612のそれぞれと比較して、広い範囲を撮影することができる。また、第2撮影部の見込み角を第2撮影部に対して小さくすることで、検出感度は劣化するものの、検出範囲を大きくすることができる。
【0041】
第1カメラ611、第2カメラ612、第3カメラ621および第4カメラ622は、赤外線に感度を有する赤外線カメラであってもよい。第1カメラ611、第2カメラ612、第3カメラ621および第4カメラ622が赤外線カメラである場合には、第1撮影部61および第2撮影部62は、筐体3に設けられた赤外線照明64からの赤外線により被検眼Eを照明し、被検眼Eにより反射された赤外線により被検眼Eの画像を撮影する。これによれば、第1撮影部61および第2撮影部62は、被検者Jに対して照明を意識させることなく、被検眼Eの赤外線画像を撮影することができる。赤外線照明64は、自覚式検眼手段92の被検眼Eに対向する面に取り付けられていてもよい。
【0042】
図4に表したように、制御装置7は、演算部71と、記憶部72と、画像処理部73と、を有する。演算部71は、例えばCPU(Central Processing Unit)などであり、プログラムの起動や、信号の制御処理や、演算や、各駆動部の駆動制御などを実行する。すなわち、演算部71は、視標呈示装置2の全体の制御を行う。記憶部72には、例えば、近用視表42と被検眼Eとの間の距離を所定の呈示距離に合わせるためのシーケンスプログラムや、画像処理のためのシーケンスプログラムや、演算プログラムなどが格納されている。記憶部72としては、例えば、筐体3に内蔵された半導体メモリなどが挙げられる。あるいは、記憶部72としては、視標呈示装置2に接続可能なCD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、RAM(Random access memory)、ROM(Read only memory)、ハードディスク、メモリカードなどの種々の記憶媒体が挙げられる。
【0043】
画像処理部73は、画像解析部74と、画像判定部731と、を有し、第1撮影部61および第2撮影部62により撮影された画像に対して各種の画像処理や画像解析を実行する。画像解析部74は、特徴点特定部741と、特徴点位置算出部742と、を有し、第1撮影部61および第2撮影部62により撮影された被検眼Eの画像を解析することにより被検眼Eの位置を特定する。「被検眼Eの位置」とは、水平方向X(図1参照)における被検眼Eの位置、鉛直方向Y(図1参照)における被検眼Eの位置、および光軸方向Zにおける被検眼Eの位置の少なくともいずれかを含む。
【0044】
特徴点特定部741は、第1撮影部61および第2撮影部62により撮影された被検眼Eの画像を解析することにより、被検眼Eの画像中において被検眼Eの特徴点E0に相当する位置を特定する。前述したように、被検眼Eの特徴点E0としては、例えば、角膜頂点、瞳孔中心、瞳孔輪郭、虹彩中心、および虹彩輪郭などが挙げられる。具体的には、特徴点特定部741は、第1撮影部61および第2撮影部62により撮影された被検眼Eの画像の輝度値などを含む画素値の分布に基づいて、被検眼Eの画像中における特徴点E0に相当する位置を特定する。
【0045】
あるいは、特徴点特定部741は、まず、第2撮影部62により撮影された被検眼Eの画像を解析することにより、被検眼Eの画像中において被検眼Eの特徴点E0に相当する位置を特定してもよい。その後に、特徴点特定部741は、第1撮影部61により撮影された被検眼Eの画像を解析することにより、被検眼Eの画像中において被検眼Eの特徴点E0に相当する位置を特定してもよい。例えば、特徴点特定部741は、相対的に広い画角を有する第3カメラ621および第4カメラ622が撮影した被検者Jの顔全体の画像に基づいて被検眼Eの特徴点E0に相当する位置を特定し、その後に、相対的に狭い画角を有する第1カメラ611および第2カメラ612が撮影した被検者Jの被検眼E近傍の画像に基づいて被検眼Eの特徴点E0に相当する位置を特定してもよい。これによれば、特徴点特定部741は、被検眼Eの特徴点E0に相当する位置をより確実に特定することができる。
【0046】
特徴点位置算出部742は、特徴点特定部741により特定された被検眼Eの特徴点E0に相当する位置に基づいて、被検眼Eの角膜頂点の位置を算出する。水平方向Xおよび鉛直方向Yにおける被検眼Eの角膜頂点の位置については、特徴点位置算出部742は、第1カメラ611および第2カメラ612の少なくともいずれかにより撮影された画像中の特徴点E0(例えば瞳孔中心)に相当する位置に略一致するものとして算出することができる。あるいは、水平方向Xおよび鉛直方向Yにおける被検眼Eの角膜頂点の位置については、特徴点位置算出部742は、第3カメラ621および第4カメラ622の少なくともいずれかにより撮影された画像中の特徴点E0(例えば瞳孔中心)に相当する位置に略一致するものとして算出することができる。
【0047】
光軸方向Zにおける被検眼Eの角膜頂点の位置については、特徴点位置算出部742は、第1カメラ611および第2カメラ612の位置と、特徴点特定部741により特定された被検眼Eの複数の画像中における特徴点E0に相当する位置(例えば瞳孔位置)と、に基づいて算出する。すなわち、特徴点位置算出部742は、第1カメラ611および第2カメラ612の位置と、被検眼Eの複数の画像中における瞳孔に相当する位置と、に対して、第1カメラ611および第2カメラ612の配置関係を考慮した公知の三角法を適用することにより算出し、一定量シフトした位置を角膜頂点とする。
【0048】
あるいは、光軸方向Zにおける被検眼Eの角膜頂点の位置については、特徴点位置算出部742は、第3カメラ621および第4カメラ622の位置と、特徴点特定部741により特定された被検眼Eの複数の画像中における特徴点E0に相当する位置(例えば瞳孔位置)と、に基づいて算出する。すなわち、特徴点位置算出部742は、第3カメラ621および第4カメラ622の位置と、被検眼Eの複数の画像中における瞳孔に相当する位置と、に対して、第3カメラ621および第4カメラ622の配置関係を考慮した公知の三角法を適用することにより算出し、一定量シフトした位置を角膜頂点とする。
【0049】
画像判定部731は、第1撮影部61および第2撮影部62のそれぞれにより撮影された被検眼Eの画像を解析することにより、被検眼Eの画像が第1撮影部61および第2撮影部62のそれぞれにより撮影された二次元画像の中の所定領域に含まれているか否かを判定する。所定領域は、第1撮影部61および第2撮影部62のそれぞれによる撮影範囲内においてあらかじめ設定され、例えば、撮影範囲の中心を含む領域として設定されている。所定領域の範囲は、第1撮影部61および第2撮影部62のそれぞれの位置や撮影倍率などの撮影条件に応じて変更可能とされている。画像判定部731は、所定領域に相当する座標と、特徴点特定部741により特定された被検眼Eの特徴点E0に相当する位置の座標と、を比較することにより、被検眼Eの特徴点E0に相当する位置が所定領域に含まれているか否か判定する。特徴点E0を瞳孔中心とする場合には、角膜頂点の水平方向Xおよび鉛直方向Yの位置は瞳孔中心位置と略一致し、角膜頂点の光軸方向Zの位置は瞳孔中心から3mm手前の位置と略一致する。このように、瞳孔中心からZ方向に一定量シフトした位置を角膜頂点とすることは、実際には個人差があるものの検眼距離に対する影響は少ない。
【0050】
筐体駆動部31は、筐体3に設けられ、車輪と、車輪の駆動力を発生するモータなどのアクチュエータと、アクチュエータにより発生した駆動力を車輪に伝達する歯車やベルトなどの伝動部材と、を有する。筐体駆動部31は、制御装置7から送信された信号に基づいて、光軸方向Zに沿って筐体3の少なくとも一部を移動させる。例えば、筐体駆動部31は、ステッピングモータを有する。筐体駆動部31は、ステッピングモータを有する場合には、ステッピングモータを駆動するためのパルス数を制御することにより筐体3の位置をより高い精度で決めることができる。
【0051】
なお、筐体駆動部31は、モータなどのアクチュエータを必ずしも有していなくともよく、例えば、車輪と、手動操作用のハンドルと、ハンドルの操作により発生した駆動力を車輪に伝達する歯車やベルトなどの伝動部材と、を有していてもよい。これによれば、検者は、ハンドルを操作することにより手動で光軸方向Zに沿って筐体3の少なくとも一部を移動させることができる。この場合には、ロータリーエンコーダが車輪の近傍に設けられていることが好ましい。これによれば、制御装置7は、ロータリーエンコーダから送信された車輪あるいは車軸の回転角に関する信号と、車輪の径と、に基づいて筐体3の移動距離を算出することができる。
【0052】
図4に表したように、筐体3の内部には、第1撮影駆動部613と、第2撮影駆動部623と、第2反射ミラー駆動部54と、がさらに設けられている。第1撮影駆動部613は、制御装置7から送信された信号に基づいて、第1カメラ611および第2カメラ612の位置や角度などを変更する。第2撮影駆動部623は、制御装置7から送信された信号に基づいて、第3カメラ621および第4カメラ622の位置や角度などを変更する。第2反射ミラー駆動部54は、制御装置7から送信された信号に基づいて、水平方向Xの軸を中心として第2反射ミラー53を回転させたり、鉛直方向Yの軸を中心として第2反射ミラー53を回転させたりする。すなわち、第2反射ミラー駆動部54は、第2反射ミラー53の反射面の水平面に対する傾斜角度を変更したり、第2反射ミラー53の反射面の鉛直面に対する傾斜角度を変更したりする。なお、第2反射ミラー駆動部54は、必ずしも設けられていなくともよい。例えば、第1撮影駆動部613、第2撮影駆動部623、および第2反射ミラー駆動部54のそれぞれは、モータなどのアクチュエータと、歯車やベルトなどの伝動部材と、を有する。
【0053】
図4に表したように、本実施形態に係る視標呈示装置2は、ユーザインタフェース8をさらに備えていてもよい。ユーザインタフェース8は、操作部81と、表示部82と、報知部83と、を有する。操作部81は、筐体3の外部などに設けられた各種のボタンやキーなどを有し、各種のボタンやキーなどに対して操作された内容に関する信号を制御装置7に送信する。表示部82は、液晶表示装置などを有し、第1撮影部61および第2撮影部62により撮影された被検眼Eの画像を表示することができる。操作部81および表示部82は、別個のデバイスとして設けられていなくともよく、タッチパネルなどのように、操作機能と表示機能とが一体化されたデバイスであってもよい。報知部83は、制御装置7から送信された信号に基づいて、音声や光による報知を実行する。報知部83としては、スピーカおよび発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)などが挙げられる。
【0054】
ここで、近用視表が視標呈示装置の筐体の内部に設けられている場合には、被検眼と筐体の前面との間の距離をより短く設定でき、レフラクターヘッドを用いずともトライアルフレームや実際の眼鏡、または裸眼でも近用検査が可能となる。一方で、被検眼の位置の変化により被検眼から視表までの距離が変化してしまい、検眼精度に影響を与えるおそれがある。すなわち、遠用検査では、視標の呈示距離が約5m程度と長いため、呈示距離に対する被検眼の位置変化の比率は、比較的低い。そのため、被検者の首や顔の位置が変化することで被検眼の位置が変化した場合であっても、検眼精度は、ほとんど影響を受けない。一方で、近用検査では、視標の呈示距離が約30cm以上、50cm以下程度であるため、呈示距離に対する被検眼の位置変化の比率は、比較的高い。そのため、近用検査を受ける際に、被検者の首や顔の位置が変化することで被検眼の位置が変化すると、正確な検査を行うことができないおそれがある。
【0055】
これに対して、本実施形態に係る視標呈示装置2では、制御装置7は、第1カメラ611および第2カメラ612により実質的に同時に撮影された複数の画像を解析することにより光軸方向Zにおける被検眼Eの位置を特定し、被検眼Eの位置に基づいて筐体駆動部31を制御することにより、近用視表42と被検眼Eとの間の距離を所定の呈示距離に合わせる制御を実行する。
【0056】
本実施形態に係る視標呈示装置2によれば、被検者Jの首や顔の位置が変化することで被検眼Eの位置が変化した場合であっても、制御装置7は、被検眼Eの位置に基づいて光軸方向Zに沿って筐体3の少なくとも一部を移動させ、近用視表42と被検眼Eとの間の距離を所定の呈示距離に合わせる。そのため、制御装置7は、近用視表42の位置を光軸方向Zにおける被検眼Eの位置の変化に追従させることができる。すなわち、制御装置7は、被検眼Eの動きに対する筐体3のトラッキングを実行することにより、被検眼Eの動きに対する近用視表42のトラッキングを実行することができる。これにより、近用視表42が筐体3の内部に設けられ、被検者Jの首や顔の位置が変化することで被検眼Eの位置が変化した場合であっても、正確な近用検査を行うことができる。
【0057】
また、近用視表42は、筐体3の内部に設けられているため、近用検査の際に、被検眼Eと筐体3の前面との間には呈示されない。そのため、被検眼Eと筐体3の前面との間において、近用視表42を呈示するための空間を確保する必要がない。これにより、被検眼Eと筐体3の前面との間の距離WDを短くすることができ、検眼に必要な空間L0(図2参照)を短く、省スペース化することができる。
【0058】
また、制御装置7は、近用視表42と被検眼Eとの間の距離を表示部82に表示させる制御を実行する。すなわち、近用視表42に付された視標の呈示距離が表示部82に表示される。これによれば、検者は、近用視表42と被検眼Eとの間の距離が所定の呈示距離に合っているか否かを表示部82により確認することができる。
【0059】
さらに、第1カメラ611、第2カメラ612、第3カメラ621および第4カメラ622が赤外線カメラである場合には、画像解析部74は、被検者Jに対して照明を意識させることなく、赤外線カメラにより撮影された被検眼Eの画像を解析することにより被検眼Eの位置を特定することができる。また、視標呈示装置2が暗室などの比較的暗い場所に設置された場合であっても、画像解析部74は、赤外線カメラにより撮影された被検眼Eの画像を解析することにより被検眼Eの位置を特定することができる。
【0060】
次に、本実施形態に係る視標呈示装置の動作の具体例を、図面を参照して説明する。
図5は、本実施形態に係る視標呈示装置の動作の第1具体例を表すフローチャートである。
【0061】
まず、ステップS11において、制御装置7は、検眼が開始されると、第1カメラ611および第2カメラ612により被検眼Eの撮影を開始する。図5に表したフローチャートの動作例において、被検眼Eの撮影は、動画撮影である。第1カメラ611および第2カメラ612は、所定のフレームレートで動画撮影を行う。第1カメラ611および第2カメラ612による撮影タイミングは、制御装置7によって同期されていてもよい。第1カメラ611および第2カメラ612は、取得したフレームを制御装置7に順次送信する。制御装置7は、第1カメラ611および第2カメラ612から送信されたフレームを撮影タイミングに応じて対応付ける。つまり、制御装置7は、第1カメラ611および第2カメラ612により実質的に同時に取得されたフレーム同士を対応付ける。この対応付けは、例えば、第1カメラ611および第2カメラ612から送信されたフレームの入力タイミングに基づいて実行される。
【0062】
続いて、ステップS12において、画像解析部74の特徴点特定部741は、第1カメラ611および第2カメラ612から送信された各フレームを解析することにより、各フレーム中において被検眼Eの特徴点E0に相当する位置を特定する処理を実行する。なお、特徴点特定部741が被検眼Eの特徴点E0に相当する位置を特定する処理を実行する前に、各フレームの歪みを補正する処理が実行されていてもよい。
【0063】
続いて、ステップS13において、制御装置7は、特徴点特定部741が被検眼Eの特徴点E0に相当する位置の特定に成功したか否かを判断する。特徴点特定部741が被検眼Eの特徴点E0に相当する位置の特定に失敗した場合には(ステップS13:NO)、制御装置7は、検者に対して被検者Jの顔(被検眼)を規定の範囲内に配置するように指示する(ステップS14)。これに基づいて、検者は、被検者Jの椅子や視表呈示装置2の位置や高さを調整する。そして、特徴点特定部741は、ステップS12に関して前述した処理を実行する。
【0064】
一方で、特徴点特定部741が被検眼Eの特徴点E0に相当する位置の特定に成功した場合には(ステップS13:YES)、ステップS15において、画像判定部731は、被検眼Eに相当する画像がフレームの所定領域内に含まれているか否かを判定する。被検眼Eに相当する画像がフレームの所定領域内に含まれていない場合には(ステップS15:NO)、制御装置7は、ステップS14に関して前述した処理を実行する。一方で、被検眼Eに相当する画像がフレームの所定領域内に含まれている場合には(ステップS15:YS)、ステップS16において、画像解析部74の特徴点位置算出部742は、特徴点特定部741により特定された被検眼Eの特徴点E0に相当する位置に基づいて、被検眼Eの角膜頂点の位置を算出する。
【0065】
すなわち、ステップS16において、特徴点位置算出部742は、第1カメラ611および第2カメラ612により実質的に同時に撮影された複数の画像を解析することにより光軸方向Z(光軸LA2(図2参照)の方向)における被検眼Eの角膜頂点の位置を算出する。具体的には、特徴点位置算出部742は、第1カメラ611および第2カメラ612の位置と、特徴点特定部741により特定された被検眼Eの複数の画像中における特徴点E0に相当する位置(例えば瞳孔位置)と、に基づいて、光軸方向Zにおける被検眼Eの角膜頂点の位置を算出する。言い換えれば、特徴点位置算出部742は、第1カメラ611および第2カメラ612の位置から得られる2つの画像の視差に基づいて光軸方向Zにおける被検眼Eの角膜頂点の位置を算出する。
【0066】
続いて、ステップS17において、制御装置7は、特徴点位置算出部742により算出された被検眼Eの角膜頂点の位置に基づいて、筐体駆動部31を制御することにより、近用視表42と被検眼Eの角膜頂点との間の距離(光路長)を所定の呈示距離に合わせる。
【0067】
なお、制御装置7は、近用視表42と被検眼Eの角膜頂点との間の距離(光路長)を所定の呈示距離に合わせる際に、報知部83を制御することにより音声や光による報知を実行してもよい。これによれば、例えば、検者および被検者Jは、近用視表42と被検眼Eの角膜頂点との間の距離を所定の呈示距離に容易に合わせることができたり、近用視表42と被検眼Eの角膜頂点との間の距離が所定の呈示距離に合ったか否かを確認したりすることができる。
【0068】
続いて、ステップS18において、制御装置7は、筐体3の位置が収束したか否かを判断する。筐体3の位置が収束していない場合には(ステップS18:NO)、制御装置7は、ステップS16に関して前述した処理を実行する。一方で、筐体3の位置が収束した場合には(ステップS18:YES)、ステップS19において、制御装置7は、近用視表42と被検眼Eの角膜頂点との間の距離に基づいて視標の像の大きさを制御し、視標の視角を一定に保持する。この場合には、近用視表42は、液晶表示装置などの電子表示装置である。「視標の像の大きさ」としては、例えば、ランドルト環などの視標の像高が挙げられる。
【0069】
これにより、図5に表した視標呈示装置2の動作例は終了する。なお、制御装置7は、ステップS11~ステップS18の処理を繰り返すことにより、被検眼Eの動きに対する筐体3のトラッキングを実行し、被検眼Eの動きに対する近用視表42のトラッキングを実行することができる。
【0070】
本具体例によれば、制御装置7は、近用視表42の位置を光軸方向Z(光軸LA2(図2参照)の方向)における被検眼Eの特徴点E0の位置の変化に追従させることができる。これにより、近用視表42が筐体3の内部に設けられ、被検者Jの首や顔の位置が変化することで被検眼Eの位置が変化した場合であっても、正確な近用検査を行うことができる。また、近用視表42と被検眼Eの特徴点E0との間の距離が変化した場合であっても、視標の視角が一定に保持される。これにより、より正確な近用検査を行うことができる。
【0071】
図6および図7は、本実施形態に係る視標呈示装置の動作の第2具体例を表すフローチャートである。
まず、ステップS21において、制御装置7は、検眼が開始されると、第3カメラ621および第4カメラ622により被検眼Eの撮影を開始する。図6に表したフローチャートの動作例において、被検眼Eの撮影は、動画撮影である。第3カメラ621および第4カメラ622は、所定のフレームレートで動画撮影を行う。第3カメラ621および第4カメラ622による撮影タイミングは、制御装置7によって同期されていてもよい。第3カメラ621および第4カメラ622は、取得したフレームを制御装置7に順次送信する。制御装置7は、第3カメラ621および第4カメラ622から送信されたフレームを撮影タイミングに応じて対応付ける。つまり、制御装置7は、第3カメラ621および第4カメラ622により実質的に同時に取得されたフレーム同士を対応付ける。この対応付けは、例えば、第2カメラ621および第4カメラ622から送信されたフレームの入力タイミングに基づいて実行される。
【0072】
図1図4に関して前述したように、第3カメラ621および第4カメラ622のそれぞれの画角は、第1カメラ611および第2カメラ612のそれぞれの画角よりも広い。そのため、第2撮影部62は、第1撮影部61と比較して、広い範囲を撮影することができる。例えば、第2撮影部62は、被検眼Eよりも広い顔全体の範囲を撮影することができる。このように、本具体例では、第2撮影部62は、遠距離撮影用のステレオカメラとして機能する。
【0073】
続いて、ステップS22において、画像解析部74の特徴点特定部741は、第3カメラ621および第4カメラ622から送信された各フレームを解析することにより、各フレーム中において被検眼Eの特徴点E0に相当する位置を特定する処理を実行する。なお、特徴点特定部741が被検眼Eの特徴点E0に相当する位置を特定する処理を実行する前に、各フレームの歪みを補正する処理が実行されていてもよい。
【0074】
続いて、ステップS23において、制御装置7は、特徴点特定部741が被検眼Eの特徴点E0に相当する位置の特定に成功したか否かを判断する。特徴点特定部741が被検眼Eの特徴点E0に相当する位置の特定に失敗した場合には(ステップS23:NO)、制御装置7は、検者に対して被検者Jの顔(被検眼)を規定の範囲内に配置するように指示する(ステップS24)。これに基づいて、検者は、被検者Jの椅子や視表呈示装置2の位置や高さを調整する。そして、特徴点特定部741は、ステップS22に関して前述した処理を実行する。
【0075】
一方で、特徴点特定部741が被検眼Eの特徴点E0に相当する位置の特定に成功した場合には(ステップS23:YES)、ステップS25において、画像判定部731は、被検眼Eに相当する画像がフレームの所定領域内に含まれているか否かを判定する。被検眼Eに相当する画像がフレームの所定領域内に含まれていない場合には(ステップS25:NO)、制御装置7は、ステップS24に関して前述した処理を実行する。一方で、被検眼Eに相当する画像がフレームの所定領域内に含まれている場合には(ステップS25:YS)、ステップS26において、制御装置7は、第1カメラ611および第2カメラ612により被検眼Eの撮影を開始する。
【0076】
第1カメラ611および第2カメラ612のそれぞれの画角は、第3カメラ621および第4カメラ622のそれぞれの画角よりも狭い。そのため、第1撮影部61は、第2撮影部62と比較して、狭い範囲を撮影することができる。例えば、第1撮影部62は、顔全体よりも狭い被検眼E近傍の範囲を撮影することができる。このように、本具体例では、第1撮影部61は、近距離撮影用のステレオカメラとして機能する。
【0077】
続いて、ステップS26~ステップS35の処理は、図5に関して前述したステップS11~ステップS19の処理と同じである。
【0078】
本具体例によれば、第1撮影部61は、近距離撮影用のステレオカメラとして機能する。一方で、第2撮影部62は、遠距離撮影用のステレオカメラとして機能する。そして、特徴点特定部741は、まず、遠距離撮影用の第2撮影部62(第3カメラ621および第4カメラ622)により実質的に同時に撮影された複数の画像を解析することにより被検眼Eの特徴点E0を特定する。これによれば、筐体3が被検眼Eから比較的遠い位置に配置されている場合であっても、第2撮影部62は、被検者Jの顔をより確実に撮影することができ、被検眼Eの特徴点E0をより確実に特定することができる。特徴点特定部741は、被検眼Eの特徴点E0を特定すると、近距離撮影用の第1撮影部61(第1カメラ611および第2カメラ612)により実質的に同時に撮影された複数の画像を解析することにより被検眼Eの特徴点E0を特定する。そして、特徴点位置算出部742は、特徴点特定部741により特定された被検眼Eの特徴点E0に相当する位置に基づいて、被検眼Eの角膜頂点の位置を算出する。
【0079】
これによれば、制御装置7は、遠距離撮影用の第2撮影部62および近距離撮影用の第1撮影部61を用いて被検眼Eの特徴点E0の画像をより確実に取得することができ、光軸方向Zにおける被検眼Eの角膜頂点の位置をより確実に算出することができる。このように、本具体例によれば、筐体3が検査開始時に被検眼Eから比較的遠い位置に配置されている場合であっても、制御装置7は、光軸方向Zにおける被検眼Eの角膜頂点の位置をより確実に算出することができる。また、図5に関して前述した効果と同様の効果が得られる。
【0080】
なお、図5図7に表した動作例では、近用検査が行われる際に、制御装置7が被検眼Eの角膜頂点の位置に基づいて筐体駆動部31を制御することにより、近用視表42と被検眼Eの角膜頂点との間の距離を所定の呈示距離に合わせる制御の例を説明した。これだけには限定されず、遠用検査が行われる際に、制御装置7は、被検眼Eの角膜頂点の位置に基づいて筐体駆動部31を制御することにより、遠用視表41と被検眼Eの角膜頂点との間の距離(光路長)を所定の呈示距離に合わせてもよい。
【0081】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。上記実施形態の構成は、その一部を省略したり、上記とは異なるように任意に組み合わせたりすることができる。
【符号の説明】
【0082】
2・・・視標呈示装置、 3・・・筐体、 5・・・視標呈示光学系、 7・・・制御装置、 8・・・ユーザインタフェース、 9・・・検眼テーブル、 31・・・筐体駆動部、 41・・・遠用視表、 42・・・近用視表、 43・・・近用視表駆動部、 51・・・第1反射ミラー、 52・・・凸レンズ系、 53・・・第2反射ミラー、 54・・・第2反射ミラー駆動部、 61・・・第1撮影部、 62・・・第2撮影部、 64・・・赤外線照明、 71・・・演算部、 72・・・記憶部、 73・・・画像処理部、 74・・・画像解析部、 81・・・操作部、 82・・・表示部、 83・・・報知部、 91・・・支柱、 92・・・自覚式検眼手段、 93・・・照明ユニット、 411、421・・・表示画面、 521・・・焦点、 531・・・遠用呈示位置、 611・・・第1カメラ、 612・・・第2カメラ、 613・・・第1撮影駆動部、 621・・・第3カメラ、 622・・・第4カメラ、 623・・・第2撮影駆動部、 731・・・画像判定部、 741・・・特徴点特定部、 742・・・特徴点位置算出部、 E・・・被検眼、 E0・・・特徴点、 J・・・被検者、 L0・・・空間、 LA1、LA2・・・光軸、 W・・・ウインドウ、 WD・・・距離、 X・・・水平方向、 Y・・・鉛直方向、 Z・・・光軸方向

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7