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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】車両の制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/40 20160101AFI20220705BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20220705BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20220705BHJP
   B60K 6/48 20071001ALN20220705BHJP
   B60K 6/543 20071001ALN20220705BHJP
【FI】
B60W20/40 ZHV
B60L50/16
B60L3/00 S
B60K6/48
B60K6/543
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018098979
(22)【出願日】2018-05-23
(65)【公開番号】P2019202649
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】特許業務法人太田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100100103
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 明男
(74)【代理人】
【識別番号】100173163
【弁理士】
【氏名又は名称】石塚 信洋
(74)【代理人】
【識別番号】100134522
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 朝子
(74)【代理人】
【識別番号】100135024
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 敢
(72)【発明者】
【氏名】小室 正樹
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-168322(JP,A)
【文献】国際公開第2013/137080(WO,A1)
【文献】特開2016-016775(JP,A)
【文献】特開2012-041038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 20/40
B60L 50/16
B60L 3/00
B60K 6/48
B60K 6/543
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動用モータを用いた電動走行モードと前記駆動用モータ及びエンジンを用いたハイブリッド走行モードとを切換可能な車両の制御装置において、
目標駆動力が車速に応じて設定されたモード切換閾値の連続線以下のときに前記電動走行モードに設定し、前記目標駆動力が前記モード切換閾値の連続線を上回るときに前記ハイブリッド走行モードに設定する走行モード設定部と、
前記目標駆動力と前記モード切換閾値との差である駆動力差を算出する駆動力差算出部と、
前記駆動力差及び前記車速に基づいて前記目標駆動力が前記モード切換閾値の連続線を跨いでから走行モードを切り換えるまでのディレイ時間の長さを設定するディレイ制御部と、
を備える、車両の制御装置。
【請求項2】
前記モード切換閾値は、前記駆動用モータに電力を供給するバッテリの充電容量が低いほど小さい値に設定される、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記ディレイ制御部は、前記駆動力差が小さいほど前記ディレイ時間を長くする、請求項1又は2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記モード切換閾値は、前記電動走行モードから前記ハイブリッド走行モードに遷移させるためのEV終了閾値である、請求項1~3のいずれか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記ディレイ制御部は、前記車速が小さいほど前記ディレイ時間を長くする、請求項4に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記モード切換閾値は、前記ハイブリッド走行モードから前記電動走行モードに遷移させるためのEV復帰閾値である、請求項1~3のいずれか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記ディレイ制御部は、前記車速が大きいほど前記ディレイ時間を長くする、請求項6に記載の車両の制御装置。
【請求項8】
目標駆動力が車速に応じて設定されたモード切換閾値の連続線以下のときに設定される駆動用モータを用いた電動走行モードと、前記目標駆動力が前記モード切換閾値の連続線を上回るときに設定される前記駆動用モータ及びエンジンを用いたハイブリッド走行モードとを切り換えながら車両の駆動力を制御する車両の制御方法において、
前記目標駆動力が前記モード切換閾値の連続線を跨いだときに、前記目標駆動力と前記モード切換閾値との差である駆動力差と、前記車速とに基づいて、前記目標駆動力が前記モード切換閾値の連続線を跨いでから走行モードを切り換えるまでのディレイ時間の長さを設定する、車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両の動力源としてエンジン及びモータをともに備えたハイブリッド車両が知られている。例えばモータの出力のみによって走行する電動走行モードと、エンジンの出力とモータの出力とを組み合わせながら走行するハイブリッド走行モードとを切り換えながら駆動制御が行われる方式のハイブリッド車両がある。かかるハイブリッド車両として、目標駆動力が車速に応じて設定されたモード切換閾値の連続線以下のときに電動走行モードに設定され、目標駆動力がモード切換閾値の連続線を上回るときにハイブリッド走行モードに遷移する方式の車両がある。
【0003】
このような車両において、一時的な加速であっても目標駆動力がモード切換閾値の連続線を超えるとハイブリッド走行モードに遷移してエンジンが始動するように設定されていると燃費が悪化するおそれがある。これに対して、特許文献1には、発進時に意図せずにアクセルを踏み込んだ後すぐに踏み戻す場合のエンジンの始動を抑制するために、エンジンの始動を遅らせるようにする技術が提案されている。より具体的には、電動走行モードでの走行中、要求トルク情報がベース始動線を超えるとともに、拡大始動線の適用条件を満たしたことで、電動走行モードでの走行領域を拡大するEV走行領域拡大条件を満足するとき、EV走行領域拡大条件を満足してから所定時間の間、エンジン始動線をベース始動線から拡大始動線に変更し、所定時間が経過したら、エンジン始動線を拡大始動線からベース始動線に変更する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2013/137080号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された技術では、アクセル開速度が、アクセル開度が確実にエンジン始動線を上回ると判断できる変化速度であるアクセル開速度閾値を上回っている場合に、エンジン始動線が拡大始動線に設定される。逆に、アクセルをゆっくり踏み込む場合は、通常、車速やアクセル開度がすでにある程度高い値であり、エンジン始動後すぐに電動走行モードに遷移する可能性が低いと判断できることから、エンジン始動線を拡大始動線に設定しないようにしている。
【0006】
しかしながら、例えば渋滞中等、アクセルをゆっくりと踏み増して速度調整するシーンにおいても、一時的に目標駆動力がモード切換閾値の連続線を越えてしまい、エンジンが始動することが考えられる。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、アクセル開度の変化速度にかかわらず、車両の走行状態に応じて走行モードを切り換えるまでのディレイ時間が設定されて燃料消費量を削減可能な、車両の制御装置及び制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、駆動用モータを用いた電動走行モードと駆動用モータ及びエンジンを用いたハイブリッド走行モードとを切換可能な車両の制御装置であって、目標駆動力が車速に応じて設定されたモード切換閾値の連続線以下のときに電動走行モードに設定し、目標駆動力がモード切換閾値の連続線を上回るときにハイブリッド走行モードに設定する走行モード設定部と、目標駆動力とモード切換閾値との差である駆動力差を算出する駆動力差算出部と、駆動力差及び車速に基づいて目標駆動力がモード切換閾値の連続線を跨いでから走行モードを切り換えるまでのディレイ時間の長さを設定するディレイ制御部と、を備える、車両の制御装置が提供される。
【0009】
モード切換閾値は、駆動用モータに電力を供給するバッテリの充電容量が低いほど小さい値に設定されてもよい。
【0010】
ディレイ制御部は、駆動力差が小さいほどディレイ時間を長くしてもよい。
【0011】
モード切換閾値は、電動走行モードからハイブリッド走行モードに遷移させるためのEV終了閾値であってもよい。
【0012】
ディレイ制御部は、車速が小さいほどディレイ時間を長くしてもよい。
【0013】
モード切換閾値は、ハイブリッド走行モードから電動走行モードに遷移させるためのEV復帰閾値であってもよい。
【0014】
ディレイ制御部は、車速が大きいほどディレイ時間を長くしてもよい。
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、目標駆動力が車速に応じて設定されたモード切換閾値の連続線以下のときに設定される駆動用モータを用いた電動走行モードと、目標駆動力がモード切換閾値の連続線を上回るときに設定される駆動用モータ及びエンジンを用いたハイブリッド走行モードとを切り換えながら車両の駆動力を制御する車両の制御方法であって、目標駆動力がモード切換閾値の連続線を跨いだときに、目標駆動力とモード切換閾値との差である駆動力差と、車速とに基づいて、目標駆動力がモード切換閾値の連続線を跨いでから走行モードを切り換えるまでのディレイ時間の長さを設定する、車両の制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように本発明によれば、アクセル開度の変化速度にかかわらず、車両の走行状態に応じて走行モードを切り換えるまでのディレイ時間が設定されて燃料消費量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態に係る車両の制御装置を適用可能なハイブリッド車両の構成例を示す模式図である。
図2】同実施形態に係る車両の制御装置の構成例を示すブロック図である。
図3】走行モードの領域設定を示すフローチャートである。
図4】EV終了閾値及びEV復帰閾値を示す説明図である。
図5】目標駆動力がEV終了閾値を超えた場合のディレイ時間の設定例を示す説明図である。
図6】目標駆動力がEV復帰閾値を下回った場合のディレイ時間の設定例を示す説明図である。
図7】電動走行モードからハイブリッド走行モードへの切換処理を示すフローチャートである。
図8】ハイブリッド走行モードから電動走行モードへの切換処理を示すフローチャートである。
図9】目標駆動力が一時的にEV終了閾値を超える様子を示す説明図である。
図10】ディレイ時間を設定しない参考例においてエンジンが始動することを示す説明図である。
図11】ディレイ時間を設定した本実施形態の例においてエンジンが始動しないことを示す説明図である。
図12】バッテリの充電容量に応じてモード切換線を変化させる応用例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0019】
<1.ハイブリッド車両の全体構成例>
まず、本発明の実施の形態に係る車両の制御装置を適用可能なハイブリッド車両の構成例を説明する。図1は、車両の制御装置100を備えたハイブリッド車両1を示す模式図である。以下、パワーユニット10と制御装置(電子制御系)100とに分けて、ハイブリッド車両1の全体構成例を説明する。
【0020】
(1-1.パワーユニット)
ハイブリッド車両1のパワーユニット10は、動力源としてエンジン11及びモータジェネレータ31を備える。モータジェネレータ31は駆動用モータとして機能する。また、パワーユニット10は、プライマリプーリ27及びセカンダリプーリ29を有する無段変速機(以下、「CVT」ともいう。)25を備える。
【0021】
プライマリプーリ27の軸の一方側にはトルクコンバータ21を介してエンジン11が連結されている。プライマリプーリ27の軸の他方側にはモータジェネレータ31が連結されている。セカンダリプーリ29の軸には、駆動輪出力軸41及びデファレンシャル機構45を介して駆動輪47が連結されている。このように、駆動輪47にはモータジェネレータ31及びエンジン11が連結されている。
【0022】
モータジェネレータ31には、インバータ115を介してバッテリ117が接続されている。インバータ115は、直流電力と交流電力とを相互に変換する機能を有している。モータジェネレータ31が力行状態で制御される際には、インバータ115により直流電力が交流電力に変換され、バッテリ117からインバータ115を介してモータジェネレータ31に電力が供給される。一方、モータジェネレータ31が発電状態つまり回生状態で制御される際には、インバータ115によって交流電力が直流電力に変換され、モータジェネレータ31からインバータ115を介してバッテリ117に電力が供給される。
【0023】
トルクコンバータ21とプライマリプーリ27との間、つまりエンジン11と駆動輪47との間には、締結状態と開放状態とに切り換えられるエンジンクラッチ23が設けられている。エンジンクラッチ23を締結状態に切り換えることにより、プライマリプーリ27に対してトルクコンバータ21が接続され、駆動輪47に対してエンジン11が接続される。このようにエンジンクラッチ23の締結状態においては、エンジン11及びモータジェネレータ31の動力が駆動輪47に伝達されるハイブリッド走行モードでの駆動制御が行われる。
【0024】
一方、エンジンクラッチ23を解放状態に切り換えることにより、プライマリプーリ27からトルクコンバータ21が切り離され、駆動輪47からエンジン11が切り離される。駆動輪47からエンジン11を切り離した場合であっても、駆動輪47とモータジェネレータ31との接続状態は維持される。つまり、エンジンクラッチ23を解放状態に切り換えることにより、駆動輪47とモータジェネレータ31とを互いに接続した状態のもとで、駆動輪47とエンジン11とを互いに切り離すことができる。このようにエンジンクラッチ23の解放状態においては、モータジェネレータ31の動力のみが駆動輪47に伝達される電動走行モードでの駆動制御が行われる。
【0025】
(1-2.制御装置)
ハイブリッド車両1の制御装置100の全体構成を説明する。図1に示すように、ハイブリッド車両1は、パワーユニット10の作動状態を制御するため、マイクロコンピュータ等を備える各種コントローラを備える。各種コントローラとして、エンジンコントローラ103、ミッションコントローラ105、モータコントローラ107、バッテリコントローラ109及びメインコントローラ101が備えられている。
【0026】
それぞれのコントローラの一部又は全部は、例えばマイクロコンピュータ、マイクロプロセッサユニット等で構成されていてもよい。また、それぞれのコントローラの一部又は全部は、ファームウェア等の更新可能なもので構成されていてもよく、また、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。
【0027】
また、それぞれのコントローラは、マイクロコンピュータ等により実行されるプログラムや種々の演算に用いるパラメータ、検出データ、演算結果の情報等を記憶する図示しない記憶装置を備える。記憶装置は、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の記憶素子であってもよく、HDD(Hard Disk Drive)やCD-ROM、ストレージ装置等の記憶装置であってもよい。
【0028】
エンジンコントローラ103はエンジン11を制御する。ミッションコントローラ105はCVT25等を制御する。モータコントローラ107はモータジェネレータ31を制御する。バッテリコントローラ109はバッテリ117を制御する。メインコントローラ101はこれらのコントローラを統合的に制御する。これらのコントローラは、CAN(Controller Area Network)又はLIN(Local InterNet)等の一つ又は複数の車載ネットワーク91を介して互いに通信可能に接続されている。
【0029】
メインコントローラ101は、それぞれのコントローラに制御信号を出力し、パワーユニット10を構成するエンジン11やモータジェネレータ31等を互いに協調させて制御する。メインコントローラ101には、アクセルセンサ81、車速センサ85及びエンジン回転数センサ87が接続されている。アクセルセンサ81はアクセルペダルの操作量を検出する。車速センサ85は車速を検出する。エンジン回転数センサ87はクランク軸の回転速度であるエンジン回転数を検出する。
【0030】
メインコントローラ101は、それぞれのセンサやコントローラから送信される情報に基づいてエンジン11やモータジェネレータ31等の制御目標を設定し、設定された制御目標に基づいてそれぞれのコントローラに制御信号を出力する。メインコントローラ101から制御信号を受信したそれぞれのコントローラは、以下のようにエンジン11やモータジェネレータ31等を制御する。
【0031】
つまり、エンジンコントローラ103は、スロットルバルブ13やインジェクタ15等に制御信号を出力し、エンジントルクやエンジン回転数等を制御する。ミッションコントローラ105は、作動油を調圧するバルブユニット113に制御信号を出力し、CVT25、エンジンクラッチ23及びトルクコンバータ21等の作動状態を制御する。モータコントローラ107は、インバータ115に制御信号を出力し、モータジェネレータ31のモータトルクやモータ回転数等を制御する。バッテリコントローラ109は、バッテリ117の充放電を監視するとともに、必要に応じてバッテリ117内のリレー等を制御する。このように、各コントローラによって、エンジン11、モータジェネレータ31及びエンジンクラッチ23等が制御されている。
【0032】
<2.制御装置の具体例>
次に、本実施形態に係るハイブリッド車両1の制御装置100の具体例を説明する。
【0033】
図2は、図1に示した複数のコントローラにより構成される車両の制御装置100のうち、走行モード切換制御に関連する部分の機能構成を示す説明図である。制御装置100は、目標駆動力算出部121、走行モード設定部123、駆動力差算出部125、ディレイ制御部127及び駆動制御部129を備える。
【0034】
(目標駆動力算出部)
例えばメインコントローラ101が目標駆動力算出部121として機能する。目標駆動力算出部121は、ハイブリッド車両1の目標駆動力を算出する。例えば、目標駆動力算出部121は、あらかじめ記憶装置に格納された駆動力マップを参照して、アクセルセンサ81及びエンジン回転数センサ87の信号に基づいて目標駆動力を算出する。
【0035】
ハイブリッド車両が自動運転制御中である場合、目標駆動力算出部121は、アクセルセンサ81の信号の代わりに、演算により求められる加速度要求値と、エンジン回転数センサ87の信号に基づいて目標駆動力を算出してもよい。
【0036】
なお、ハイブリッド車両1が電動走行モードにある場合、エンジン11は停止していることから、目標駆動力はアクセル開度に依存する。
【0037】
(走行モード設定部)
例えばメインコントローラ101が走行モード設定部123として機能する。走行モード設定部123は、目標駆動力算出部121で算出された目標駆動力と、車速センサ85の信号に基づいて得られるハイブリッド車両1の車速とに基づいて、ハイブリッド車両1の走行モードを電動走行モードとハイブリッド走行モードとに切り換える。電動走行モードは、モータジェネレータ31の動力のみを駆動輪47に伝達する走行モードである。ハイブリッド走行モードは、モータジェネレータ31及びエンジン11の動力を駆動輪47に伝達する走行モードである。
【0038】
図3は、走行モードの領域設定の概略を示す説明図である。ハイブリッド車両1では、目標駆動力が、車速に応じて設定されたモード切換閾値の連続線(以下、「モード切換線」ともいう。)L以下のときに電動走行モードに設定され、目標駆動力がモード切換線Lを超えるときにハイブリッド走行モードに設定される。モード切換閾値は、車速が大きくなるにつれて小さくなるように設定されている。
【0039】
図4に示すように、モード切換線Lは、走行モードが電動走行モードからハイブリッド走行モードに切り換えられるEV終了線L1と、走行モードがハイブリッド走行モードから電動走行モードに切り換えられるEV復帰線L2とを含んでもよい。EV終了線L1及びEV復帰線L2を用いることにより、目標駆動力の変動に伴ってエンジン11の始動及び停止が短時間で繰り返されることを抑制することができる。
【0040】
ただし、走行モード設定部123は、目標駆動力がモード切換線Lを跨いだ後、ディレイ制御部127により設定されるディレイ時間の間、走行モードの切り換えを遅らせる。
【0041】
(駆動力差算出部)
例えばメインコントローラ101が駆動力差算出部125として機能する。駆動力差算出部125は、目標駆動力と、モード切換閾値との差である駆動力差を算出する。具体的には、目標駆動力算出部121で算出される目標駆動力と、ハイブリッド車両1の車速に対応するモード切換閾値との差の絶対値を駆動力差とする。
【0042】
例えば、ハイブリッド車両1が電動走行モード中にEV終了線L1を跨いだ場合、駆動力差算出部125は、目標駆動力と、車速に対応するEV終了線L1上の値との差である駆動力超過量を駆動力差とする。また、ハイブリッド車両1がハイブリッド走行モード中にEV復帰線L2を跨いだ場合、駆動力差算出部125は、目標駆動力と、車速に対応するEV復帰線L2上の値との差である駆動力不足量を駆動力差とする。
【0043】
(ディレイ制御部)
例えばメインコントローラ101がディレイ制御部127として機能する。ディレイ制御部127は、駆動力差及び車速に基づいて、目標駆動力がモード切換線を跨いでから走行モードを切り換えるまでのディレイ時間を設定する。ディレイ時間は、駆動力差と車速とに応じて設定される。例えば、ディレイ制御部127は、あらかじめ記憶装置に格納されたディレイマップを参照して、駆動力差及び車速に基づいてディレイ時間を設定してもよい。
【0044】
図5は、走行モードを電動走行モードからハイブリッド走行モードに切り換える際の第1のディレイマップの概略を示している。この場合のディレイ時間は、駆動力差が同じである場合、車速が大きいほど短い時間に設定される。また、ディレイ時間は、車速が同じである場合、駆動力差が大きいほど短い時間に設定される。例えば、ディレイ時間は、車速が20~40km/hで駆動力差が0~100Nの場合を2秒として、車速が大きいほど、あるいは、駆動力差が大きいほど短くなるように設定される。
【0045】
つまり、アクセル開度が小さい場合にはディレイ時間が長く設定されてエンジン11の始動が遅らされる一方、アクセル開度が大きい場合にはディレイ時間が短く設定されて速やかにエンジン11が始動される。これにより、アクセルをゆっくりと踏み増す場合も含めた一時的なエンジン11の始動の抑制と、アクセル開度が大きいときの加速応答性との両立が図られる。
【0046】
図6は、走行モードをハイブリッド走行モードから電動走行モードに切り換える際の第2のディレイマップの概略を示している。この場合のディレイ時間は、駆動力差が同じである場合、車速が大きいほど長い時間に設定される。また、ディレイ時間は、車速が同じである場合、駆動力差が大きいほど短い時間に設定される。つまり、高速走行中にアクセルが踏み戻された場合であってもエンジン11の停止が遅らされる一方、低速走行中にアクセルが踏み戻された場合には速やかにエンジン11が停止される。これにより、エンジン11を停止しても再始動される可能性が大きい場合にはエンジン11の運転が継続され、加速応答性を向上させることができる。
【0047】
(駆動制御部)
例えばメインコントローラ101、エンジンコントローラ103、ミッションコントローラ105、及びモータコントローラ107が駆動制御部129として機能する。駆動制御部129は、設定された走行モードに応じて、エンジンクラッチ23を締結状態又は解放状態に切り換える。つまり、電動走行モードにおいては、エンジンクラッチ23を解放状態にする。ハイブリッド走行モードにおいては、エンジンクラッチ23を締結状態にする。駆動制御部129は、車速及び目標駆動力に応じてCVT25の変速比を設定し、CVT25を制御する。
【0048】
また、駆動制御部129は、走行モードにしたがって、目標駆動力をエンジン11及びモータジェネレータ31に分配し、エンジン11及びモータジェネレータ31の駆動制御を行う。具体的には、電動走行モードにおいては、駆動制御部129は、インバータ115に供給する電力を制御することにより、モータジェネレータ31から出力する動力を制御する。また、ハイブリッド走行モードにおいては、モータジェネレータ31の動力の制御と併せて、駆動制御部129は、スロットルバルブ13の開度及びインジェクタ15に供給する電力を制御することにより、エンジン11から出力する動力を制御する。
【0049】
<4.制御装置の動作例>
次に、本実施形態に係るハイブリッド車両1の制御装置100による走行モード切換処理を説明する。
【0050】
(4-1.電動走行モードからハイブリッド走行モードへの遷移)
図7は、走行モードを電動走行モードからハイブリッド走行モードへの切換動作の一例を示すフローチャートである。
【0051】
走行モード設定部123は、現在の走行モードが電動走行モードであるか否かを判別する(ステップS11)。走行モードが電動走行モードである場合(S11/Yes)、走行モード設定部123は、目標駆動力算出部121により算出される目標駆動力が、現在の車速に応じたEV終了線L1上の値(EV終了閾値)を超えているか否かを判別する(ステップS13)。ステップS11又はステップS13のいずれかが否定判定の場合、走行モード設定部123は、ステップS11に戻って判定を繰り返す。
【0052】
一方、目標駆動力がEV終了閾値を超えている場合(S13/Yes)、駆動力差算出部125は、目標駆動力から現在の車速に応じたEV終了閾値を引いて駆動力超過量を算出する(ステップS15)。次いで、ディレイ制御部127は、図5に例示した第1のディレイマップを参照して、現在の車速及び駆動力超過量に基づいてディレイ時間を算出する(ステップS17)。
【0053】
次いで、走行モード設定部123は、目標駆動力がEV終了閾値を超えてからの経過時間が、ステップS17で設定されたディレイ時間以上継続したか否かを判別する(ステップS19)。ディレイ時間が経過するまでの間(S19/No)、走行モード設定部123は走行モードを電動走行モードに維持する。
【0054】
一方、ディレイ時間が経過した場合(S19/Yes)、走行モード設定部123は、走行モードを電動走行モードからハイブリッド走行モードに遷移させる(ステップS21)。これにより、駆動制御部129によりエンジン11が始動され、エンジン11及びモータジェネレータ31の動力により車両の駆動制御が行われる。
【0055】
このように、本実施形態に係る車両の制御装置100は、目標駆動力がEV終了閾値を超えた場合に、車速及び駆動力超過量に応じたディレイ時間を設定してエンジン11の始動を遅らせる。このとき、車速が小さいほど、あるいは、駆動力超過量が小さいほど、ディレイ時間が長く設定される。これにより、アクセル開度が小さく加速要求が比較的小さい場合にはディレイ時間が長く設定されて、エンジン11の停止時間が延長される。また、目標駆動力が短時間でEV終了閾値を下回った場合には、エンジン11が停止状態のままで維持される。したがって、エンジン11の燃料消費量を削減することができる。一方、アクセル開度が大きく加速要求が比較的大きい場合にはディレイ時間が短く設定されて、エンジン11が速やかに始動され、加速応答性を向上させることができる。
【0056】
(4-2.ハイブリッド走行モードから電動走行モードへの遷移)
図8は、走行モードをハイブリッド走行モードから電動走行モードへの切換動作の一例を示すフローチャートである。
【0057】
走行モード設定部123は、現在の走行モードがハイブリッド走行モードであるか否かを判別する(ステップS31)。走行モードがハイブリッド走行モードである場合(S31/Yes)、走行モード設定部123は、目標駆動力算出部121により算出される目標駆動力が、現在の車速に応じたEV復帰線L2上の値(EV復帰閾値)を下回っているか否かを判別する(ステップS33)。ステップS31又はステップS33のいずれかが否定判定の場合、走行モード設定部123は、ステップS31に戻って判定を繰り返す。
【0058】
一方、目標駆動力がEV復帰閾値を下回っている場合(S33/Yes)、駆動力差算出部125は、現在の車速に応じたEV復帰閾値から目標駆動力を引いて駆動力不足量を算出する(ステップS35)。次いで、ディレイ制御部127は、図6に例示した第2のディレイマップを参照して、現在の車速及び駆動力不足量に基づいてディレイ時間を算出する(ステップS37)。
【0059】
次いで、走行モード設定部123は、目標駆動力がEV復帰閾値を下回ってからの経過時間が、ステップS37で設定されたディレイ時間以上継続したか否かを判別する(ステップS39)。ディレイ時間が経過するまでの間(S39/No)、走行モード設定部123は走行モードをハイブリッド走行モードに維持する。
【0060】
一方、ディレイ時間が経過した場合(S39/Yes)、走行モード設定部123は、走行モードをハイブリッド走行モードから電動走行モードに遷移させる(ステップS41)。これにより、駆動制御部129によりエンジン11が停止され、モータジェネレータ31の動力のみにより車両の駆動制御が行われる。
【0061】
このように、本実施形態に係る車両の制御装置100は、目標駆動力がEV復帰閾値を下回った場合に、車速及び駆動力不足量に応じたディレイ時間を設定してエンジン11の停止を遅らせる。このとき、車速が大きいほど、あるいは、駆動力超過量が小さいほど、ディレイ時間が長く設定される。これにより、高速走行中にアクセルが踏み戻された場合にはディレイ時間が長く設定されて、エンジン11の停止が遅らされる一方、低速走行中にアクセルが踏み戻された場合にはディレイ時間が短く設定されて速やかにエンジン11が停止される。したがって、エンジン11が再始動される可能性が小さい場合にはエンジン11の停止時間を長くすることができる一方、エンジン11を停止しても再始動される可能性が大きい場合にはエンジン11の運転が継続され、加速応答性を向上させることができる。
【0062】
<5.制御装置の作用>
次に、図9図11を参照して、本実施形態に係る車両の制御装置100の作用を説明する。図9は、目標駆動力が一時的にEV終了閾値を超える様子を示す説明図である。図10は、ディレイ時間を設定しない参考例を示し、図10は、ディレイ時間を設定する本実施形態の例を示す。
【0063】
図9に示すように、ドライバのアクセル操作に伴って、目標駆動力が第1の値Xから第2の値YへとEV終了閾値を跨いで一時的に微増した後、すぐに第1の値Xに戻されたと仮定する。図10に示すように、ディレイ時間を設定しない場合、目標駆動力がEV終了閾値を超えた時点でエンジン11が始動し、目標駆動力が第1の値Xに戻された後にエンジン11が停止する。このように、ディレイ時間を設定しない参考例では、一時的に目標駆動力がEV終了閾値を超えた場合であっても、所定時間エンジン11が運転状態となり、燃料が消費される。
【0064】
一方、図11に示すように、ディレイ時間を設定した場合、目標駆動力がEV終了閾値を超えた時点ではエンジン11は始動しない。本実施形態の例では、目標駆動力がEV終了閾値を超えた時点でディレイ時間が設定されるとともにタイマカウントが開始される。そして、タイマ値がディレイ時間に到達する前に目標駆動力が再びEV終了閾値を下回ったためにエンジン11は始動することなく電動走行モードが継続される。このようにして、エンジン11の燃料消費量が削減される。
【0065】
<6.応用例>
ここまで、本実施形態に係る車両の制御装置100について説明した。以下、本実施形態に係る車両の制御装置100の応用例を説明する。
【0066】
図12は、車両の制御装置100の応用例を示す説明図である。応用例では、モード切換線Lが、モータジェネレータ31に電力を供給するバッテリ117の充電容量SOCに応じて変化する。具体的には、モード切換線Lは、バッテリ117の充電容量SOCが低くなるにつれて小さく設定される。図12においては、充電容量SOCが高い場合のモード切換線L_SOC_HI、充電容量SOCが中程度の場合のモード切換線L_SOC_MID及び充電容量SOCが低い場合のモード切換線L_SOC_LOが示されている。
【0067】
応用例では、バッテリ117の充電容量SOCが低下するとEV終了閾値も低下し、そのときの充電容量SOCに対応するモード切換線を基準にディレイ時間が設定される。これにより、充電容量SOCが低下した状態で、エンジン11の始動が遅らされて電動走行モードを延長しすぎることを抑制することができる。したがって、バッテリ117の電力消費量を抑制することができる。
【0068】
以上説明したように、本実施形態に係る車両の制御装置100によれば、目標駆動力がEV終了閾値を超えた場合に、車速及び駆動力超過量に応じたディレイ時間を設定してエンジン11の始動を遅らせる。これにより、エンジン11の停止時間が長くなって燃料消費量を削減することができる。
【0069】
また、本実施形態に係る車両の制御装置100は、車速が小さいほど、あるいは、駆動力超過量が小さいほど、ディレイ時間を長く設定する。これにより、アクセル開度が小さく加速要求が比較的小さい場合にはディレイ時間が長く設定されて、エンジン11の停止時間が延長される。また、目標駆動力が短時間でEV終了閾値を下回った場合には、エンジン11が停止状態のままで維持される。したがって、エンジン11の燃料消費量を削減することができる。一方、アクセル開度が大きく加速要求が比較的大きい場合にはディレイ時間が短く設定されて、エンジン11が速やかに始動され、加速応答性を向上させることができる。
【0070】
また、本実施形態に係る車両の制御装置100は、目標駆動力がEV復帰閾値を下回った場合に、車速及び駆動力不足量に応じたディレイ時間を設定してエンジン11の停止を遅らせる。このとき、車速が大きいほど、あるいは、駆動力超過量が小さいほど、ディレイ時間が長く設定される。これにより、高速走行中にアクセルが踏み戻された場合にはディレイ時間が長く設定されて、エンジン11の停止が遅らされる一方、低速走行中にアクセルが踏み戻された場合にはディレイ時間が短く設定されて速やかにエンジン11が停止される。したがって、エンジン11が再始動される可能性が小さい場合にはエンジン11の停止時間を長くすることができる一方、エンジン11を停止しても再始動される可能性が大きい場合にはエンジン11の運転が継続され、加速応答性を向上させることができる。
【0071】
また、本実施形態に係る車両の制御装置100において、バッテリ117の充電容量SOCが低くなるにつれてモード切換閾値が小さく設定されるようにしてもよい。これにより、充電容量SOCが低下した状態で、エンジン11の始動が遅らされて電動走行モードを延長しすぎることを抑制することができる。したがって、バッテリ117の電力消費量を抑制することができる。
【0072】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0073】
例えば、上記実施形態において車両の制御装置100は6つのコントローラを備えているが、本発明はかかる例に限定されない。上記のコントローラの一部又は全部の機能が1つのコントローラに統合されていてもよく、さらに複数のコントローラに分かれていてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1 ハイブリッド車両
11 エンジン
25 CVT
31 モータジェネレータ
81 アクセルセンサ
85 車速センサ
87 エンジン回転数センサ
100 車両の制御装置
101 メインコントローラ
103 エンジンコントローラ
107 モータコントローラ
117 バッテリ
121 目標駆動力算出部
123 走行モード設定部
125 駆動力差算出部
127 ディレイ制御部
129 駆動制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12