(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】通信障害抑制システム
(51)【国際特許分類】
B63C 11/00 20060101AFI20220705BHJP
B63B 35/00 20200101ALI20220705BHJP
B63B 49/00 20060101ALI20220705BHJP
B63C 11/48 20060101ALI20220705BHJP
G01S 5/28 20060101ALN20220705BHJP
【FI】
B63C11/00 C
B63B35/00 N
B63C11/00 A
B63B49/00 B
B63C11/48 D
G01S5/28
(21)【出願番号】P 2018115128
(22)【出願日】2018-06-18
【審査請求日】2021-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(73)【特許権者】
【識別番号】394025094
【氏名又は名称】三菱電機特機システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】津久井 智也
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-165333(JP,A)
【文献】特開2016-144956(JP,A)
【文献】特開2001-118054(JP,A)
【文献】特開2001-308766(JP,A)
【文献】特開2018-27739(JP,A)
【文献】特開2009-227086(JP,A)
【文献】特開2002-57631(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1866916(KR,B1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0212573(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63C 11/00
B63C 11/48
B63B 35/00
B63B 49/00
G01S 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の音響通信機を備えた水上局と、
第2の音響通信機を備えた水中移動体と、
前記水上局の位置検出を行う第1の位置検出装置と、
前記水中移動体の位置検出を行う第2の位置検出装置と、
水底の地形データを記憶した記憶部と、
計算装置と、を備え、
前記計算装置は、
前記第1の位置検出装置で取得された前記水上局の位置と、前記第2の位置検出装置で取得された前記水中移動体の位置とを結ぶ仮想の線分を求める機能と、
求めた前記仮想の線分と、前記地形データとの関係が、地形に起因する通信障害の抑制処理を開始するかを判断する判断基準を満たすときに、
前記水上局または前記水中移動体を仮想的に移動させた際の前記仮想の線分が障害物を通過しないように前記水上局または前記水中移動体の移動目標位置を定める機能と、
定めた前記移動目標位置を、対応する前記水上局の制御装置または前記水中移動体の制御装置へ送る機能と、を備え、
前記水上局は、複数の前記水中移動体と順次音響通信を行う水上局としたこと
を特徴とする通信障害抑制システム。
【請求項2】
前記記憶部が記憶した前記地形データは、メッシュデータであり、
前記計算装置は、前記判断基準として、前記仮想の線分が前記メッシュデータにおける格子と交点を有するかまたは接する場合に、地形に起因する通信障害の抑制処理を開始する前記判断基準を備えた
請求項1に記載の通信障害抑制システム。
【請求項3】
前記水上局は、当該水上局を移動させる移動装置と、該移動装置に指令を与える前記制御装置を備えた構成とされ、
前記計算装置は、前記水上局の移動目標位置を、前記水上局の位置から前記水中移動体の位置の真上となる位置に近づくように定める機能を備えた
請求項1または2に記載の通信障害抑制システム。
【請求項4】
前記水中移動体は、当該水中移動体を移動させる移動装置と、該移動装置に指令を与える前記制御装置を備えた構成とされ、
前記計算装置は、前記水中移動体の移動目標位置を、前記水中移動体の位置から上方に移動した位置に定める機能を備えた
請求項1または2に記載の通信障害抑制システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水上局と水中移動体との音響通信について通信障害の抑制を図る通信障害抑制システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
海底や湖底や水中における種々の探査を行うための手段の1つとして、自律航走を行う水中移動体を用いる手法が考えられている。
【0003】
また、このような探査などに水中移動体を使用する場合、音響通信機を備えた水上移動体を一緒に運用して、水中移動体に備えた音響通信機との音響通信により、水中移動体が探査により得た情報を水上移動体で収集することや、水上移動体側からの音響測位などにより検出した水中移動体の位置に関する情報を、水上移動体から水中移動体へ送ることが考えられている。
【0004】
更に、外洋などの広い範囲や、深深度の海域を効率よく探査するための手法としては、複数の水中移動体を同時に運用し、1機の水上移動体により複数の水中移動体との音響通信を行わせて、水上移動体で情報収集することが考えられている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、音響通信機同士で音響通信を行うときの音響信号の伝達経路は、各音響通信機の位置同士を結ぶ仮想の直線にほぼ沿う配置となる。これは、一方の音響通信機より送信された音響信号は、送信元となる音響通信機からの距離が離れるにしたがって拡散するが、音響信号が有効に利用されるためには、他方の音響通信機で受信される必要があるためである。
【0007】
そのため、音響通信機同士の音響通信では、音響通信機同士の間に障害物が存在していて、一方の音響通信機から送信されて他方の音響通信機へ向かう音響信号が遮られると、音響信号に関するCN比(搬送波対雑音比)が低下したり、音響通信が阻害されたりする可能性がある。
【0008】
水上移動体と水中移動体とを1対1で運用する場合は、水上移動体が水中移動体の真上に常に位置するように、水上移動体の位置を制御する手法が採られていた。この手法によれば、水上移動体の音響通信機と、水中移動体の音響通信機との間での音響信号の伝達経路は、ほぼ鉛直方向になる。
【0009】
これに対し、1機の水上移動体を複数の水中移動体と一緒に運用する場合は、水上移動体は、1機の水中移動体の真上に位置することはできるとしても、他の水中移動体とは水平方向に距離を隔てた配置となることが避けられない。
【0010】
このように、水平方向に距離を隔てた配置となる水上移動体と水中移動体との間で音響通信を行うときは、音響信号の伝達経路が鉛直方向から傾くことなり、この音響信号の伝達経路が鉛直方向から傾く角度は、水上移動体と水中移動体の水平方向の距離が離れるにしたがって大きくなる。
【0011】
そのため、水中移動体が航走する領域や、その航走領域の付近の海底の地形に、丘陵のような起伏が存在している場合は、水上移動体と水中移動体の配置によっては、水上移動体の位置と水中移動体の位置とを結ぶ仮想の直線が、地形の起伏にかかることがある。この状態は、水上移動体と水中移動体で音響通信を行うときの音響信号の伝達経路が、海底地形の起伏による障害物に遮られた状態であるため、音響通信におけるCN比の低下や、音響通信の阻害といった通信障害が生じることがある。
【0012】
しかし、従来は、このような海底の地形に起因する通信障害の発生を想定した対策は特に提案されていない、というのが実情である。
【0013】
そこで、本発明は、水上局と水中移動体の間で音響通信を行う際に、水底の地形に起因する通信障害が生じることを抑制することができる通信障害抑制システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、前記課題を解決するために、第1の音響通信機を備えた水上局と、第2の音響通信機を備えた水中移動体と、前記水上局の位置検出を行う第1の位置検出装置と、前記水中移動体の位置検出を行う第2の位置検出装置と、水底の地形データを記憶した記憶部と、計算装置と、を備え、前記計算装置は、前記第1の位置検出装置で取得された前記水上局の位置と、前記第2の位置検出装置で取得された前記水中移動体の位置とを結ぶ仮想の線分を求める機能と、求めた前記仮想の線分と、前記地形データとの関係が、地形に起因する通信障害の抑制処理を開始するかを判断する判断基準を満たすときに、前記水上局または前記水中移動体の移動目標位置を定める機能と、定めた前記移動目標位置を、対応する前記水上局の制御装置または前記水中移動体の制御装置へ送る機能と、を備える構成を有する通信障害抑制システムとする。
【0015】
前記記憶部が記憶した前記地形データは、メッシュデータであり、前記計算装置は、前記判断基準として、前記仮想の線分が前記メッシュデータにおける格子と交点を有するかまたは接する場合に、地形に起因する通信障害の抑制処理を開始する前記判断基準を備えた構成としてもよい。
【0016】
前記水上局は、移動装置と、該移動装置に指令を与える前記制御装置を備えた構成とされ、前記計算装置は、前記水上局の移動目標位置を、前記水上局の位置から前記水中移動体の位置の真上となる位置に近づくように定める機能を備えた構成としてもよい。
【0017】
前記水中移動体は、移動装置と、該移動装置に指令を与える前記制御装置を備えた構成とされ、前記計算装置は、前記水中移動体の移動目標位置を、前記水中移動体の位置から上方に移動した位置に定める機能を備えた構成としてもよい。
【0018】
前記水上局は、複数の前記水中移動体と順次音響通信を行う水上局とした構成としてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の通信障害抑制システムによれば、水上局と水中移動体の間で音響通信を行う際に、水底の地形に起因する通信障害が生じることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】通信障害抑制システムの第1実施形態を示す概略図である。
【
図2】
図1の通信障害抑制システムの計算部による処理を示すフロー図である。
【
図4】計算部に設定された判断基準を説明するための図である。
【
図5】通信障害抑制システムの第2実施形態を示す概略図である。
【
図6】通信障害抑制システムの第3実施形態を示す概略図である。
【
図7】
図6の通信障害抑制システムの計算部による処理を示すフロー図である。
【
図9】通信障害抑制システムの第4実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0022】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の通信障害抑制システムを示す概略図である。
図2は、本実施形態の通信障害抑制システムの計算部による処理のフローを示す図である。
図3は、計算部の機能を説明するための図である。
図4(a)(b)(c)は、いずれも計算部に設定された判断基準を説明するための図である。
【0023】
第1実施形態は、本開示の通信障害抑制システムを、
図1に示すように、音響通信機2を備えた水上局としての水上移動体1と、音響通信機4を備えた水中移動体3が音響通信を行う構成に適用する場合の例を示すものである。
【0024】
また、本実施形態では、水上移動体1が、複数の水中移動体3と、設定された順序に従って音響通信を行う場合について説明する。なお、この音響通信を行う順序は、各水中移動体3について音響通信が必要とされる頻度が等しい場合には、n機(nは2以上の整数)の水中移動体3に対して1番目からn番目の順序を設定し、この1番目からn番目の順序を繰り返すようにすればよい。一方、水中移動体3ごとに音響通信が必要とされる頻度が異なる場合は、その頻度に応じて音響通信を行う順序を適宜設定すればよい。なお、
図3では、図示する便宜上、水中移動体3を2機のみ示しているが、水上移動体1は、3機以上の複数の水中移動体3と順次通信を行うものであってもよいことは勿論である。
【0025】
ここで、先ず、水上移動体1の構成について説明する。
【0026】
水上移動体1は、機体5に、移動装置6と、水上移動体1の自機位置の検出を行う位置検出装置7と、水上移動体1の移動の制御を行う制御装置8と、を備えた構成とされている。
【0027】
更に、水上移動体1は、水中移動体3の位置の検出に用いる音響測位装置9および推定装置10と、海底の地形情報を記憶した記憶部11と、計算装置12と、を備えた構成とされている。
【0028】
本実施形態では、水上移動体1は、
図1に示すように、水面Wよりも下方に配置される機体5と、機体5の上部に設けられて上端寄りの部分が水面Wよりも上方に突出するストラット13と、ストラット13の上端側に設けられた基台14とを備えた構成の半没型の水上移動体1とされている。
【0029】
移動装置6は、制御装置8から受け取る指令C1に従い、水上移動体1の推進や操舵を伴う移動を行う装置である。
【0030】
図1では、一例として、移動装置6が、機体5の後部にメインスラスタ6aと、十字型の舵6bとを備えた構成を示してある。しかし、移動装置6は、制御装置8から受け取る指令C1に従って、水上移動体1を移動させることができれば、推進手段および操舵手段の形式は特に限定されない。更に、移動装置6は、たとえば、機体5の左右方向に推進力を生じる図示しないスラスタを備えていてもよい。したがって、移動装置6は、水上移動体1の移動を行わせるために望まれる運動性能などを考慮して、自在に選定してよい。
【0031】
位置検出装置7は、たとえば、GPSのような全地球航法衛星システム(GNSS)の電波による航法信号をアンテナ7aで受信して、水上移動体1の自機の位置について、緯度と経度のような絶対位置を取得する機能を備えている。この場合、アンテナ7aは、基台14に設置することで水面Wよりも上方に配置されるようにして、航法信号を常時受信可能な構成とすればよい。
【0032】
なお、位置検出装置7は、水上移動体1の自機の位置を検出することができれば、GPS以外の航法衛星システムを用いたり、地上局からの信号を用いたりしてもよいことは勿論である。
【0033】
したがって、位置検出装置7は、本開示の通信障害抑制システムの発明にて水上局の位置検出を行う第1の位置検出装置となる。
【0034】
制御装置8は、水上移動体1の移動に関する目標位置あるいは航走計画が設定される機能を備えている。
【0035】
更に、制御装置8は、位置検出装置7より受け取る自機の位置情報を基に、自機の位置を、設定された目標位置に移動させるため、あるいは、自機の位置を航走計画に従って移動させるために必要とされる移動装置6の操作量を求める機能と、求めた操作量を、指令C1として移動装置6へ送る機能とを備えている。
【0036】
これにより、水上移動体1は、移動装置6が、制御装置8より受け取る指令C1に応じて制御されるため、制御装置8に設定された目標位置への移動、あるいは、設定された航走計画に従う航走を行うことができる。
【0037】
音響測位装置9は、測位信号を送信する機能と、水中移動体3に備えたトランスポンダ15が測位信号に応答して発する応答信号を受信する機能とを備えている。
【0038】
また、音響測位装置9は、測位信号を送信してから応答信号を受信するまでにかかる時間と、測位信号および応答信号の速度である水中での音速と、応答信号が到来する方向とを基に、音響測位装置9を備えた水上移動体1の位置を基準として、トランスポンダ15を備えた水中移動体3の方向と距離、すなわち、水上移動体1の位置を基準とする水中移動体3の相対位置を検出する機能を備えている。
【0039】
更に、音響測位装置9は、検出した水中移動体3の相対位置の情報を、推定装置10へ送る機能を備えている。
【0040】
推定装置10は、位置検出装置7より受け取る水上移動体1の自機の位置の情報と、音響測位装置9より受け取る水中移動体3の相対位置の情報とを基にした計算により、水中移動体3について、水上移動体1と同様の座標系における緯度と経度と深度のような絶対位置を推定して、水中移動体3の位置の情報として取得する機能を備えている。推定装置10は、更に、取得した水中移動体3の位置の情報を計算装置12へ送る機能を備えている。
【0041】
したがって、本実施形態では、水上移動体1に備えた音響測位装置9、推定装置10、および、水中移動体3に備えたトランスポンダ15が、本開示の通信障害抑制システムの発明にて水中移動体3の位置検出を行う第2の位置検出装置となる。
【0042】
なお、音響通信で使用される音響信号と、音響測位で使用される測位信号および応答信号は、いずれも音波であることから、水上移動体1の音響通信機2と水中移動体3の音響通信機4との間で行う音響通信に通信障害が生じるときには、音響測位装置9による水中移動体3の測位にも障害が生じる可能性がある。
【0043】
そのため、推定装置10は、音響測位ができない場合にも水中移動体3の位置の情報を取得するためのバックアップの機能として、過去の音響測位で得られていた水中移動体3の位置情報を基にした時系列予測により、水中移動体3の絶対位置を推定する機能を備えることが好ましい。
【0044】
また、推定装置10は、水中移動体3の航走計画を、たとえば、ウェイポイントファイルのような形式で保存しておき、水中移動体3の航走計画と、水中移動体3の位置情報の取得を望む時刻とを基に、水中移動体3の位置を推定して取得する機能を備えるようにしてもよい。この機能によれば、過去に水中移動体3の音響測位が行われた時点から時間が経過していても、更には、過去に水中移動体3の音響測位を行ったデータが存在しない場合であっても、水中移動体3の絶対位置の情報を取得することができる。
【0045】
推定装置10は、取得した水中移動体3の絶対位置に関する情報を、計算装置12へ送る機能を備えている。
【0046】
記憶部11は、水上移動体1の通信対象となる複数の水中移動体3の航走領域をすべて含む範囲について、海底の地形の情報を保存している。この際、海底の地形の情報は、海図や海底地形図の情報を、三角形要素や四角形要素などの格子(計算格子)に分割してなるメッシュデータとして、記憶部11に保存されている。
【0047】
なお、メッシュデータを作成する際の地形の情報を分割するサイズは、地形の起伏の複雑さなどを考慮して、適宜設定してよいこと、場所によって変化させてもよいこと、は勿論である。
【0048】
計算装置12の機能の詳細については、後述する。
【0049】
次に、水中移動体3の構成について説明する。
【0050】
水中移動体3は、機体16に、移動装置17と、水中移動体3の自機位置の検出を行う位置検出装置18と、航走の制御を行う制御装置19とを備え、更に、トランスポンダ15を備えた構成とされている。
【0051】
移動装置17は、制御装置19から受け取る指令C2に従い、水中移動体3の推進や操
舵を伴う移動を行う装置である。
【0052】
図1では、一例として、移動装置17が、機体16の後部に配置されたメインスラスタ17a、および、十字型の舵17bと、機体16の内部に配置された浮力調整装置17cとを備えた構成を示してある。しかし、移動装置17は、制御装置19から受け取る指令C2に従って、水中移動体3を移動させることができれば、推進手段、操舵手段および浮沈の手段の形式は特に限定されない。更に、移動装置17は、たとえば、機体16の上下方向や左右方向に推進力を生じる図示しないスラスタを備えていてもよい。したがって、移動装置17は、水中移動体3の移動を行わせるために望まれる運動性能などを考慮して、自在に選定してよい。
【0053】
位置検出装置18は、たとえば、慣性航法装置(INS)、または、慣性航法装置にドップラーログ(DVL)を組み合わせた装置と、深度計とを備えた構成とすればよい。これにより、位置検出装置18は、水中移動体3の自機の位置について、水上移動体1と同様の座標系における緯度と経度と深度のような絶対位置の情報を取得することができる。
【0054】
なお、水中移動体3に備える位置検出装置18は、水中移動体3が水面付近に浮上した状態のときに、GNSSの電波による航法信号を図示しないアンテナで受信して、水中移動体3の自機の位置について、緯度と経度のような絶対位置を取得する機能を備えるようにしてもよい。更に、位置検出装置18は、検出した自機の位置情報を、制御装置19へ送る機能を備えている。
【0055】
また、位置検出装置18は、水中移動体3の自機の位置を検出することができれば、水中移動体3の自機の位置を検出する手法として、前記した以外の手法を用いるものであってもよいことは勿論である。
【0056】
制御装置19は、水中移動体3の移動に関する目標位置あるいは航走計画が設定される機能を備えている。
【0057】
更に、制御装置19は、位置検出装置18より受け取る自機の位置情報を基に、自機の位置を、設定された目標位置に移動させるため、あるいは、自機の位置を航走計画に従って移動させるために必要とされる移動装置17の操作量を求める機能と、求めた操作量を、指令C2として移動装置17へ送る機能とを備えている。
【0058】
これにより、水中移動体3は、移動装置17が、制御装置19より受け取る指令C2に応じて制御されるため、制御装置19に設定された目標位置への移動、あるいは、設定された航走計画に従う航走を行うことができる。
【0059】
また、水中移動体3は、水中の情報収集に使用する、たとえば、カメラ、サイドスキャンソーナー、マルチビームソーナーなどの図示しない観測装置を備えて、観測装置が取得した観測データを、音響通信機4から、水上移動体1の音響通信機2へ音響通信により送信する機能を備えている。
【0060】
次いで、水上移動体1に備えた計算装置12の機能について説明する。
【0061】
計算装置12には、地形に起因する通信障害の抑制処理を開始するか否かを判断するための判断基準が設定されている。なお、この判断基準の具体的な内容は後述する。
【0062】
図2に示すように、計算装置12は、先ず、水上移動体1が音響通信を行うべき複数の水中移動体3のうちから、設定された順序に従い、通信対象とする水中移動体3を定める(ステップS1)。
【0063】
次に、計算装置12は、位置検出装置7から、水上移動体1の自機の位置の情報を、緯度と経度の情報として取得する。また、計算装置12は、推定装置10から、ステップS1で通信対象に定めた水中移動体3についての位置の情報を、緯度と経度と深度の情報として取得する(ステップS2)。
【0064】
計算装置12は、水上移動体1および水中移動体3の位置の情報を取得すると、
図3に示す如き水上移動体1の位置Pと、水中移動体3の位置Qとを結ぶ仮想の線分Sを求める(ステップS3)。なお、この仮想の線分Sは、両端の位置の座標が、水上移動体1の位置Pの座標と、水中移動体3の位置Qの座標で明らかとなっているので、空間ベクトルで表すことができる。
【0065】
次いで、計算装置12は、記憶部11から読み出した地形のメッシュデータについて、ステップS3で求めた仮想の線分Sと平面視で重なる配置となる格子を抽出し、抽出された格子と、仮想の線分Sとの距離の最小値dを求める(ステップS4)。この距離の最小値dを求める計算は、空間ベクトルを用いて平面と直線との交点を求める計算手法や、平面と点との距離を求める計算手法や、ねじれの位置にある2直線の最小距離を求める手法を用いて行うようにすればよい。なお、抽出された格子が複数の場合、仮想の線分Sが、抽出された格子のいずれかと交点を有しているか接している場合は、距離の最小値dはゼロとなる。また、抽出された複数の格子が、いずれも仮想の線分Sと交点を有しておらず、接触もしていない場合は、各格子と仮想の線分Sとの距離を算出し、そのうちの最も小さい値を、ステップS4で求める距離の最小値dとすればよい。
【0066】
その後、計算装置12は、ステップS4で求めた距離の最小値dについて、設定された判断基準が満たされるか否かを判断する(ステップS5)。
【0067】
この判断基準は、たとえば、距離の最小値dがゼロ(d=0)という判断基準である。この判断基準は、以下、判断基準Aという。
【0068】
この判断基準Aが満たされるのは、
図4(a)に示すように、仮想の線分Sが、地形のメッシュデータから抽出された格子Gと交点を有するか、または、
図4(b)に示すように、仮想の線分Sが、抽出された格子Gと接する場合である。
【0069】
よって、この判断基準Aが満たされる場合は、現実では、水上移動体1と水中移動体3との間に、地形による障害物が存在している状況となっている。したがって、この状況では、水上移動体1と水中移動体3との間で行う音響通信の音響信号が、地形による障害物によって遮られる可能性がある。
【0070】
そこで、計算装置12は、ステップS5において判断基準Aが満たされると判断した場合は、ステップS6に進んで、通信障害抑制処理を開始する。
【0071】
一方、ステップS5において判断基準Aが満たされない場合は、現実では、水上移動体1と水中移動体3との間に、地形による障害物が存在していない状況となっている。
【0072】
この場合、計算装置12は、ステップS2に戻る。したがって、仮想の線分Sが、抽出された格子と交点を有しておらず、且つ接触もしていない場合は、計算装置12は、ステップS2からステップS5の処理ループを繰り返し行う。
【0073】
また、計算装置12のステップS5における判断基準は、前記した判断基準Aに代えて、たとえば、距離の最小値dが、設定された或る値t[m]以下(d≦t)という判断基準としてもよい。この判断基準は、以下、判断基準Bという。
【0074】
この判断基準Bが満たされるのは、
図4(c)に示すように、仮想の線分Sと、地形のメッシュデータから抽出された格子との距離がt[m]以下となっている場合である。
【0075】
よって、この判断基準Bが満たされる場合は、現実では、水上移動体1と水中移動体3との間で音響通信を行うときの音響信号の伝達経路に対し、t[m]以内に地形による障害物が存在しているという状況である。したがって、この状況では、水上移動体1や水中移動体3が移動することに伴い、音響信号の伝達経路が、地形による障害物と干渉する可能性が高くなる。
【0076】
そこで、計算装置12は、ステップS5にて判断基準Bが満たされると判断すると、ステップS6に進んで、通信障害抑制処理を開始する。
【0077】
一方、ステップS5において判断基準Bが満たされない場合は、現実では、水上移動体1と水中移動体3との間で音響通信を行うときの音響信号の伝達経路に対し、t[m]以内に地形による障害物が存在していないという状況である。よって、この状況では、音響信号の伝達経路が、すぐに地形による障害物によって遮られる可能性は小さい。
【0078】
この場合、計算装置12は、ステップS2に戻る。したがって、この場合も、計算装置12は、判断基準Bが満たされない間は、ステップS2からステップS5の処理ループを繰り返し行う。
【0079】
計算装置12は、ステップS6では、通信障害抑制処理を行う。
【0080】
この通信障害抑制処理では、計算装置12は、先ず、
図3に示すように、水面Wにおける水中移動体3の位置Qの真上となる位置Oを求める。この位置Oの座標は、水中移動体3の位置Qの座標における深度をゼロにすることで求められる。
【0081】
次に、計算装置12は、水上移動体1の位置Pから位置Oに近づく方向に或る寸法移動した位置を、仮想の水上移動体位置Piとして設定し、前記ステップS3と同様に、仮想の水上移動体位置Piと水中移動体3の位置Qとを結ぶ仮想の線分Siを求める処理、および、前記ステップS4と同様に、仮想の線分Siと地形メッシュデータより抽出した格子との距離の最小値dを求める処理を行う。
【0082】
次いで、計算装置12は、求めた距離の最小値dを、設定された或る値r[m]と比較する処理を行う。なお、前記ステップS5において判断基準Bが採用されているときには、値r[m]は、判断基準Bで用いる値t[m]よりも有意に大となるように設定される。
【0083】
前記比較処理の結果、距離の最小値dが、値r[m]未満と判断される場合は、計算装置12は、仮想の水上移動体位置Piを、位置Oに近づく方向に更に或る寸法移動した位置に更新して、前記処理を繰り返し行う。
【0084】
前記比較処理の結果において、距離の最小値dが、値r[m]以上と判断されるようになると、計算装置12は、その時点での仮想の水上移動体位置Piを、水上移動体1の移動目標位置に設定する(ステップS7)。
【0085】
次いで、計算装置12は、設定した移動目標位置を、水上移動体1の制御装置8へ送る処理を行う(ステップS8)。
【0086】
計算装置12は、ステップS8の後は、ステップS2に戻り、その時点で通信対象としている水中移動体3との音響通信を行う必要がある間は、ステップS2からステップS8までの処理を継続して行う。
【0087】
計算装置12は、通信対象としていた水中移動体3との間で必要とされる音響通信が終了すると、音響通信を行う順序が次の水中移動体3に対して、ステップS1からの処理を開始する。
【0088】
制御装置8は、計算装置12における前記ステップS8の処理により計算装置12から送られる移動目標位置の情報を受け取る機能と、位置検出装置7から受け取る水上移動体1の自機の位置から、水上移動体1が移動目標位置へ移動するために必要とされる移動装置6の操作量を求める機能と、求めた操作量を、移動装置6へ指令C1として与える機能を備えている。
【0089】
これにより、水上移動体1では、制御装置8が計算装置12から移動目標位置の情報を受け取ると、制御装置8からの指令C1に従い移動装置6の運転が行われて、水上移動体1は、移動目標位置、すなわち、計算装置12のステップS6の通信障害抑制処理で最終的に設定された仮想の水上移動体位置Piに、自動的に移動する。
【0090】
この水上移動体1が移動した位置では、水中移動体3の位置との間を結ぶ仮想の線分Siが、地形のメッシュデータから抽出された格子からr[m]以上離れた状態になっている。
【0091】
したがって、水上移動体1の音響通信機2と水中移動体3の音響通信機4との間で音響通信を行う際の音響信号の伝達経路は、地形の起伏などの地形による障害物に遮られる虞は解消される。
【0092】
以上により、本実施形態の通信障害抑制システムによれば、水上移動体1の音響通信機2と、水中移動体3の音響通信機4との間で行う音響通信について、海底の地形に起因する通信障害が生じることを抑制することができる。
【0093】
更に、本実施形態の通信障害抑制システムは、水上移動体1の音響通信機2と水中移動体3の音響通信機4との間で音響通信を行う際に、海底の地形に起因する通信障害が生じる可能性がある場合に水上移動体1を移動させる。しかし、この場合であっても、水上移動体1は、従来、水上移動体と水中移動体とを1対1で運用していた場合のように、水中移動体3の真上となる位置まで移動させる必要はない。よって、水上移動体1の移動距離を抑制することができると共に、水上移動体1の移動に要する時間の短縮化も図ることができる。
【0094】
[第2実施形態]
図5は、通信障害抑制システムの第2実施形態を示す概略図である。
【0095】
なお、
図5において、第1実施形態と同一のものには同一符号を付して、その説明を省略する。
【0096】
本実施形態の通信障害抑制システムは、
図5に示すように、第1実施形態と同様の構成において、記憶部11と計算装置12を、音響通信機2を備えて水中移動体3と音響通信を行う水上移動体1に備えた構成に代えて、記憶部11と計算装置12を、水上移動体1とは別の水上移動体20に備える構成としたものである。
【0097】
図5では、水上移動体20を船舶とする場合の例を図示してあるが、水上移動体20は、水上移動体1と同様の半没型の水上移動体としてもよいことは勿論である。
【0098】
また、水上移動体20は、水上移動体1や水中移動体3の母船であってもよい。
【0099】
本実施形態では、水上移動体1と水上移動体20は、無線通信機21,22を備えて、相互通信が可能な構成とされている。
【0100】
なお、水上移動体1に備える無線通信機21は、アンテナ21aを、水面Wの上方に配置される基台14上に備えた構成とすればよい。
【0101】
本実施形態では、水上移動体1に備えた無線通信機21は、位置検出装置7から受け取る水上移動体1の自機の絶対位置についての情報と、推定装置10から受け取る水中移動体3の絶対位置の情報を、水上移動体20の無線通信機22を通信対象として送信する機能を備えている。
【0102】
また、水上移動体1の無線通信機21は、水上移動体20に備えた計算装置12から無線通信機22を介して送信される移動目標位置の情報を受け取ると、それを制御装置8へ送る機能を備えている。
【0103】
水上移動体20の無線通信機22は、水上移動体1の無線通信機21から送信される水上移動体1の絶対位置の情報と、水中移動体3の絶対位置の情報を受け取ると、それを計算装置12へ送る機能を備えている。
【0104】
水上移動体20に備えた計算装置12および記憶部11の機能は、第1実施形態と同様である。
【0105】
以上の構成としてある本実施形態の通信障害抑制システムによっても、第1実施形態と同様に使用して、水上移動体1と水中移動体3との音響通信に関して第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0106】
更に、本実施形態では、記憶部11と計算装置12は、音響通信機2を備えて複数の水中移動体3との音響通信を行う水上移動体1に搭載するという制約がなくなる。このため、記憶部11と計算装置12、特に計算装置12は、前記のような制約を受ける場合に比して、より大型で処理能力が高い演算装置を使用することが可能になるため、水上移動体1が音響通信を行う複数の水中移動体3の航走する範囲が広大であって、それらの範囲を網羅する地形データのデータ量が大きくなる場合に有利な構成とすることができる。
【0107】
更に、本実施形態では、水中移動体3と音響通信を行う水上移動体1とは別の水上移動体20に、記憶部11と計算装置12を備える構成としてある。このため、本実施形態では、複数の水中移動体3と、それらの水中移動体3との音響通信を行う1機の水上移動体1とで水中情報収集用のユニットを構成し、このユニットを複数同時に運用する場合に、各ユニットの水上移動体1に適用する本実施形態の通信障害抑制システムで、水上移動体20と記憶部11と計算装置12を共用することが可能になる。
【0108】
なお、本実施形態は、水上移動体20に水中移動体3の位置を検出する装置(図示せず)を備えた構成として、水上移動体1の音響測位装置9で水中移動体3の音響測位が行えない場合には、水上移動体20に備えた水中移動体3の位置を検出する装置により、水中移動体3の音響測位を行うか、または、水中移動体3の位置の推定を行うようにしてもよい。
【0109】
[第3実施形態]
前記第1実施形態の通信障害抑制システムは、計算装置12による通信障害抑制処理として、計算装置12が、水上移動体1の移動目標位置を設定して、設定した移動目標位置を水上移動体1の制御装置8へ送るようにし、これにより、水上移動体1を、水中移動体3の真上となる位置Oに近づく方向に移動させる場合の例を示した。
【0110】
これに対し、本開示の通信障害抑制システムは、計算装置12による通信障害抑制処理として、計算装置12が、水中移動体3の移動目標位置を設定して、設定した移動目標位置を水中移動体3の制御装置19へ送り、これにより、水中移動体3を設定された移動目標位置に移動させる機能を備えるようにしてもよい。この機能を備える通信障害抑制システムは、第3実施形態として説明する。
【0111】
図6は、通信障害抑制システムの第3実施形態を示す概略図である。
図7は、本実施形態の通信障害抑制システムの計算部による処理のフローを示す図である。
図8は、計算部の機能を説明するための図である。
【0112】
なお、
図6、
図7、
図8において、第1実施形態と同一のものには同一符号を付して、その説明を省略する。
【0113】
本実施形態の通信障害抑制システムは、第1実施形態と同様の構成において、水上移動体に搭載された計算装置12が、通信障害抑制処理として、水上移動体1の移動目標位置を設定する機能に代えて、水中移動体3の移動目標位置を設定する機能を備えている。
【0114】
本実施形態では、計算装置12は、
図7に示すように、ステップS1からステップS5の処理として、第1実施形態における計算装置12と同様のステップS1からステップS5までの処理を行う。
【0115】
計算装置12は、ステップS5にて所定の判断基準Aまたは判断基準Bが満たされると判断すると、ステップS6aに進んで、通信障害抑制処理を開始する。
【0116】
この通信障害抑制処理では、計算装置12は、先ず、
図8に示すように、水中移動体3の位置Qの位置から、上方に或る寸法移動した位置、すなわち、水中移動体3の深度を前記或る寸法分、浅くした位置を、仮想の水中移動体位置Qiとして設定する。なお、水中移動体3を運用するときには、海底からの高度の値を基準として、水中移動体3の上下方向の位置を制御する場合がある。このような場合は、仮想の水中移動体位置Qiは、水中移動体の位置Qから、前記或る寸法分、海底からの高度を増した位置に設定すればよい。
【0117】
次に、計算装置12は、前記ステップS3と同様に、水上移動体1の位置Pと仮想の水中移動体位置Qiとを結ぶ仮想の線分Siを求める処理、および、前記ステップS4と同様に、仮想の線分Siと地形メッシュデータより抽出した格子との距離の最小値dを求める処理を行う。
【0118】
次いで、計算装置12は、求めた距離の最小値dを、設定された或る値r[m]と比較する処理を行う。
【0119】
前記比較処理の結果、距離の最小値dが、値r[m]未満と判断される場合は、計算装置12は、仮想の水中移動体位置Qiを、上方に更に或る寸法移動した位置に更新して、前記処理を繰り返し行う。
【0120】
前記比較処理の結果として、距離の最小値dが、値r[m]以上と判断されるようになると、計算装置12は、その時点での仮想の水中移動体位置Qiを、水中移動体3の移動目標位置に設定する(ステップS7a)。
【0121】
次いで、計算装置12は、設定した水中移動体3の移動目標位置の情報を、音響通信機2を介して水中移動体3の音響通信機4へ送信する処理を行う(ステップS8a)。
【0122】
計算装置12は、ステップS8aの後は、ステップS2に戻り、その時点で通信対象としている水中移動体3との音響通信を行う必要がある間は、ステップS2からステップS8aまでの処理を継続して行う。
【0123】
計算装置12は、通信対象としていた水中移動体3との間で必要とされる音響通信が終了すると、音響通信を行う順序が次の水中移動体3に対して、ステップS1からの処理を開始する。
【0124】
本実施形態における水中移動体3の制御装置19は、第1実施形態と同様の機能に加えて、計算装置12の前記ステップS8aの処理により計算装置12から送信された水中移動体3の移動目標位置の情報を、音響通信機4を介して受け取る機能を備えている。
【0125】
更に、制御装置19は、受け取った水中移動体3の移動目標位置の情報を基に、位置検出装置18から受け取る水中移動体3の自機の位置から、水中移動体3が移動目標位置へ移動するために必要とされる移動装置17の操作量、たとえば、浮力調整装置17cの操作量を求める機能と、求めた操作量を、移動装置17へ指令C2として与える機能を備えている。
【0126】
これにより、水中移動体3では、制御装置19が計算装置12で設定された水中移動体3の移動目標位置の情報を受け取ると、制御装置19からの指令C2に従い移動装置17の運転が行われて、水中移動体3は、移動目標位置、すなわち、計算装置12のステップS6aの通信障害抑制処理で最終的に設定された仮想の水中移動体位置Qiに、自動的に移動する。
【0127】
この水中移動体3が移動した位置では、水上移動体1の位置との間を結ぶ仮想の線分Siが、地形のメッシュデータから抽出された格子からr[m]以上離れた状態になっている。
【0128】
したがって、水上移動体1の音響通信機2と水中移動体3の音響通信機4との間で音響通信を行う際の音響信号の伝達経路は、地形の起伏などの地形による障害物に遮られる虞は解消される。
【0129】
以上により、本実施形態の通信障害抑制システムによれば、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0130】
更に、本実施形態の通信障害抑制システムは、計算装置12の通信障害抑制処理により移動するようになるのは水中移動体3のみである。そのため、本実施形態の通信障害抑制システムは、音響通信機2を備えて水中移動体3と音響通信を行う水上局が、たとえば、ブイのような、移動装置を装備していない浮体式の水上局の場合にも、適用することができる。
【0131】
[第4実施形態]
前記各実施形態の通信障害抑制システムは、計算装置12および記憶部11が、水上移動体1あるいは水上移動体20に備えられた構成の例を示した。
【0132】
これに対し、本開示の通信障害抑制システムは、水中移動体3が、計算装置12および記憶部11を備えた構成としてもよい。この構成の通信障害抑制システムを、第4実施形態として説明する。
【0133】
図9は、通信障害抑制システムの第4実施形態を示す概要図である。
【0134】
なお、
図9において、前記各実施形態と同一のものには同一符号を付して、その説明を省略する。
【0135】
本実施形態の通信障害抑制システムは、
図9に示すように、第3実施形態と同様の構成において、計算装置12および記憶部11が、水上移動体1に代えて、水中移動体3に備えられた構成とされている。
【0136】
本実施形態では、計算装置12で使用される水上移動体1の絶対位置の情報は、水上移動体1の位置検出装置7で検出された水上移動体1の絶対位置の情報を、水上移動体1から、音響通信機2と音響通信機4の音響通信を介して水中移動体3へ伝送して、計算装置12に入力する構成とされている。
【0137】
また、計算装置12で使用される水中移動体3の絶対位置の情報は、水中移動体3の位置検出装置18で検出される自機の絶対位置の情報を、計算装置12に入力する構成とされている。
【0138】
したがって、本実施形態では、水中移動体3に備えた位置検出装置18が、本開示の通信障害抑制システムの発明にて水中移動体3の位置検出を行う第2の位置検出装置となる。
【0139】
本実施形態における計算装置12は、
図7に示した第3実施形態の計算装置12と同様の処理を行う際に、ステップS1では、水上移動体1が通信対象とする水中移動体3を定める処理に代えて、計算装置12を備える水中移動体3が、設定された順序に従い、水上移動体1との通信対象に定められているかを確認する処理を行う。この確認が取れると、計算装置12は、
図7に示したステップS2以降の処理を行う機能を備えている。
【0140】
以上の構成としてある本実施形態の通信障害抑制システムは、第3実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0141】
[応用例]
前記各実施形態では、音響通信を行う水上移動体1と水中移動体3の位置同士を結ぶ仮想の線分Sと、海底の地形のメッシュデータの格子Gとの距離を基に、音響通信に通信障害が生じる可能性の有無を判断していた。
【0142】
これに対し、水上移動体1の音響通信機2と水中移動体3の音響通信機4との間で送受信する音響信号のCN比が、設定された値よりも低下すると、音響通信の通信障害が生じる可能性があると判断して、第1実施形態、第2実施形態と同様に、水上移動体1の位置を、水中移動体3の真上となる位置O(
図3参照)に近づく方向に移動させる処理、または、第3実施形態、第4実施形態と同様に、水中移動体3の位置を、上方に、すなわち深度が減る方向に移動させる処理を行うようにしてもよい。この場合は、水上移動体1あるいは、水中移動体3を、前記所定の方向へ実際に移動させて、音響通信機2,4で送受信する音響信号のCN比が設定された値以上に改善するようになる状態で、水上移動体1の移動を停止するようにすればよい。
【0143】
また、水上移動体1の音響通信機2は、音響信号の送受波を行う素子のアレイを備えて、ビームフォーミングの手法により、通信対象となる水中移動体3の音響通信機4が存在している方向に指向性を有する音響信号の送受信機能を備えるようにしてもよい。このようにすれば、音響信号のCN比の向上化を図る効果が期待できる。
【0144】
なお、本開示の通信障害抑制システムは、前記各実施形態にのみ限定されるものではなく、
図1、
図6、
図9に示した水上移動体1、水中移動体3の形状や構造やサイズ、更に、
図5に示した水上移動体20の形状や構造やサイズは、図示するための便宜上のもので実際の形状や構造やサイズを反映したものではない。
【0145】
図1、
図5、
図6、
図9では、記憶部11と計算装置12は、別々のものとして図示したが、記憶部11は計算装置12に装備されたメモリーのような記憶媒体であってもよい。また、計算装置12と記憶部11は、水上移動体1に備えられる場合は、たとえば、水上移動体1の制御装置8のような、水上移動体1に装備された演算装置に、機能として組み込まれていてもよい。同様に、計算装置12と記憶部11は、水中移動体3に備えられる場合は、たとえば、水中移動体3の制御装置19のような、水中移動体3に装備された演算装置に、機能として組み込まれていてもよい。更に、計算装置12と記憶部11が水上移動体20に備えられる場合は、計算装置12と記憶部11は、水上移動体20に装備された演算装置に、機能として組み込まれていてもよい。
【0146】
水上移動体1は、水中移動体3と、図示しない母船や地上局との通信の中継を行う機能を備えるものであってもよい。
【0147】
水中移動体3は、探査以外の任意の使用目的で使用される水中移動体3であってもよい。
【0148】
本開示の通信障害抑制システムは、海以外の湖沼や河川で使用される水中移動体3と音響通信を行う水上移動体1に適用してもよい。その場合は、各実施形態の説明における海底の地形を、水底の地形と読み替えればよい。
【0149】
本開示の通信障害抑制システムは、水上移動体1が複数の水中移動体3と音響通信を行う場合について適用する例を説明したが、水上移動体1が一機の水中移動体3を通信対象とする場合に適用してもよい。この場合は、たとえば、水中移動体3との音響通信を行う水上移動体1が移動する範囲を、水中移動体3が航走する範囲に比して縮小する効果が期待できる。
【0150】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0151】
1 水上移動体(水上局)、2 音響通信機(第1の音響通信機)、3 水中移動体、4 音響通信機(第2の音響通信機)、6 移動装置、7 位置検出装置(第1の位置検出装置)、8 制御装置、9 音響測位装置(第2の位置検出装置)、10 推定装置(第2の位置検出装置)、15 トランスポンダ(第2の位置検出装置)、11 記憶部、12 計算装置、17 移動装置、18 位置検出装置(第2の位置検出装置)、19 制御装置、P 水上移動体の位置、Q 水中移動体の位置、S 仮想の線分、G 格子、O 位置