(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
B62D 5/04 20060101AFI20220705BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20220705BHJP
B62D 117/00 20060101ALN20220705BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20220705BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20220705BHJP
【FI】
B62D5/04
B62D6/00
B62D117:00
B62D119:00
B62D101:00
(21)【出願番号】P 2018130197
(22)【出願日】2018-07-09
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】都甲 高広
(72)【発明者】
【氏名】片岡 伸文
(72)【発明者】
【氏名】江崎 之進
【審査官】森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-174565(JP,A)
【文献】特許第5962881(JP,B1)
【文献】特開2005-170136(JP,A)
【文献】国際公開第2017/060959(WO,A1)
【文献】特開2018-047884(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04- 6/10
B62D 101/00-137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動源とするアクチュエータにより操舵機構の転舵軸を往復動させるモータトルクが付与される操舵装置を制御対象とし、
前記モータが出力するモータトルクの目標値となるトルク指令値を演算するトルク指令値演算部と、
前記転舵軸に連結される転舵輪の転舵角に換算可能な回転軸の回転角の絶対値が前記操舵装置に応じた舵角閾値を超える状況になる場合に、前記回転角の絶対値の増大に基づいて小さくなる舵角制限値を演算する舵角制限値演算部と、
前記トルク指令値の絶対値の上限となる制限値を前記舵角制限値以下に設定する制限値設定部と
を備え、
絶対値が前記制限値以下に制限された前記トルク指令値に、前記モータトルクが追従するように前記モータの駆動を制御する操舵制御装置であって、
前記トルク指令値演算部は、
操舵トルクに基づく基本指令値を演算する基本指令値演算部と、
前記回転角の絶対値が前記舵角閾値を超える状況になる場合に、該回転角の絶対値に応じた第1上限角速度に対する前記回転軸の角速度の超過分の増大に基づいて大きくなるようにダンピング制御量を演算するダンピング制御量演算部とを備え、
前記基本指令値の絶対値を減少させるように前記ダンピング制御量を合算した値に基づいて前記トルク指令値を演算する操舵制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の操舵制御装置において、
前記舵角制限値演算部は、前記モータが出力可能なモータトルクとして予め設定された定格トルクに基づく値から角度制限成分及び速度制限成分を差し引いた値に基づいて前記舵角制限値を演算するものであって、
前記角度制限成分は、前記回転角の絶対値が前記舵角閾値を超える状況になる場合に該回転角の絶対値の増大に基づいて大きくなるように演算され、
前記速度制限成分は、前記回転角の絶対値に応じた第2上限角速度に対する前記角速度の超過分の増大に基づいて大きくなるように演算される操舵制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の操舵制御装置において、
前記第1上限角速度は、前記第2上限角速度よりも絶対値が大きく設定された操舵制御装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の操舵制御装置において、
前記制限値設定部は、前記回転角及び前記角速度以外の状態量に基づいて設定される他の制限値及び前記舵角制限値のうちの最も小さな値を前記制限値として設定する操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用操舵装置として、モータを駆動源とするアクチュエータを備えた電動パワーステアリング装置(EPS)が知られている。こうしたEPSには、ステアリングホイールの操舵角(転舵輪の転舵角)を360°を超える範囲を含む絶対角で取得し、該操舵角に基づいて各種制御を行うものがある。例えば特許文献1には、ラック軸の端部であるラックエンドがラックハウジングに当たる前に、モータが出力するモータトルクの目標値に対応する電流指令値を、操舵角に基づく制限値(目標電流制限値)以下となるように制限することで、エンド当ての衝撃を緩和するものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、例えば低μ路上では、路面抵抗が小さいために転舵輪が転舵し易く、小さなトルクであっても、転舵輪が素早く転舵することがある。そのため、上記従来の構成のように電流指令値を制限値以下に制限したとしても、転舵の勢いが十分には減衰せず、エンド当ての衝撃を緩和することができないおそれがあり、なお改善の余地があった。
【0005】
本発明の目的は、低μ路上でもエンド当ての衝撃を好適に緩和できる操舵制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する操舵制御装置は、モータを駆動源とするアクチュエータにより操舵機構の転舵軸を往復動させるモータトルクが付与される操舵装置を制御対象とし、前記モータが出力するモータトルクの目標値となるトルク指令値を演算するトルク指令値演算部と、前記転舵軸に連結される転舵輪の転舵角に換算可能な回転軸の回転角の絶対値が前記操舵装置に応じた舵角閾値を超える状況になる場合に、前記回転角の絶対値の増大に基づいて小さくなる舵角制限値を演算する舵角制限値演算部と、前記トルク指令値の絶対値の上限となる制限値を前記舵角制限値以下に設定する制限値設定部とを備え、絶対値が前記制限値以下に制限された前記トルク指令値に、前記モータトルクが追従するように前記モータの駆動を制御するものであって、前記トルク指令値演算部は、操舵トルクに基づく基本指令値を演算する基本指令値演算部と、前記回転角の絶対値が前記舵角閾値を超える状況になる場合に、該回転角の絶対値に応じた第1上限角速度に対する前記回転軸の角速度の超過分の増大に基づいて大きくなるようにダンピング制御量を演算するダンピング制御量演算部とを備え、前記基本指令値の絶対値を減少させるように前記ダンピング制御量を合算した値に基づいて前記トルク指令値を演算する。
【0007】
上記構成によれば、舵角制限値は、転舵輪の転舵角に換算可能な回転軸の回転角の絶対値が舵角閾値を超える状況になる場合に小さくなるように演算され、モータから出力されるモータトルクの目標値となるトルク指令値は、舵角制限値以下の値に設定される制限値以下に制限される。これにより、例えば舵角閾値をエンド近傍の値に設定した場合にエンド近傍まで操舵すると、モータトルクが制限されることで、エンド当ての衝撃を緩和できる。さらに、上記構成では、回転角の絶対値が舵角閾値を超える状況になる場合に、第1上限角速度に対する角速度の超過分に応じたダンピング制御量により基本指令値の絶対値が減少されてトルク指令値が演算される。そのため、舵角閾値を例えばエンド近傍に設定した場合において、転舵輪が低μ路上にあってその転舵速度が速くなると、ダンピング制御量が大きくなることで、モータトルクが制限されるため、エンド当ての衝撃を好適に緩和できる。
【0008】
上記操舵制御装置において、前記舵角制限値演算部は、前記モータが出力可能なモータトルクとして予め設定された定格トルクに基づく値から角度制限成分及び速度制限成分を差し引いた値に基づいて前記舵角制限値を演算するものであって、前記角度制限成分は、前記回転角の絶対値が前記舵角閾値を超える状況になる場合に該回転角の絶対値の増大に基づいて大きくなるように演算され、前記速度制限成分は、前記回転角の絶対値に応じた第2上限角速度に対する前記角速度の超過分の増大に基づいて大きくなるように演算されることが好ましい。
【0009】
上記構成によれば、定格トルクから角度制限成分及び速度制限成分を差し引くことで舵角制限値を演算するため、回転角が舵角閾値を超えた場合に、該回転角がさらに増大することを制限できるとともに、回転軸の角速度を制限できるような舵角制限値を容易に演算できる。
【0010】
上記操舵制御装置において、前記第1上限角速度は、前記第2上限角速度よりも絶対値が大きく設定されることが好ましい。
低μ路上では、通常の路面に比べ、回転軸の角速度が非常に大きくなり易いため、第1上限角速度を大きく設定しても、角速度の第1上限角速度に対する超過分が生じ、基本指令値の絶対値を減少させるダンピング制御量が演算される。したがって、上記構成のように、第1上限角速度を第2上限角速度よりも大きく設定することで、低μ路上でエンド当ての衝撃を好適に緩和しつつ、低μ路上以外で基本指令値の絶対値を不要に減少させて操舵フィーリングに影響を及ぼすことを抑制できる。
【0011】
上記操舵制御装置において、前記制限値設定部は、前記回転角及び前記角速度以外の状態量に基づいて設定される他の制限値及び前記舵角制限値のうちの最も小さな値を前記制限値として設定することが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、回転角が舵角閾値を超える以外の状況で、モータトルクを制限することが必要な状況を考慮して制限値が設定されるため、種々の状況に応じて適切にモータトルクを制限できる。なお、他の制限値及び舵角制限値のうちの最も小さな値が制限値として設定されるため、制限値の大きさが舵角制限値を超えることはなく、例えば舵角閾値をエンド近傍の値に設定した場合には、エンド当ての衝撃を好適に緩和できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低μ路上でもエンド当ての衝撃を好適に緩和できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、操舵制御装置の一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、制御対象となる操舵装置としての電動パワーステアリング装置(EPS)1は、運転者によるステアリングホイール2の操作に基づいて転舵輪3を転舵させる操舵機構4を備えている。また、EPS1は、操舵機構4にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与するアクチュエータとしてのEPSアクチュエータ5と、EPSアクチュエータ5の作動を制御する操舵制御装置6とを備えている。
【0016】
操舵機構4は、ステアリングホイール2が固定されるステアリングシャフト11と、ステアリングシャフト11の回転に応じて軸方向に往復動する転舵軸としてのラック軸12と、ラック軸12が往復動可能に挿通される略円筒状のラックハウジング13とを備えている。なお、ステアリングシャフト11は、ステアリングホイール2側から順にコラム軸14、中間軸15、及びピニオン軸16を連結することにより構成されている。
【0017】
ラック軸12とピニオン軸16とは、ラックハウジング13内に所定の交差角をもって配置されており、ラック軸12に形成されたラック歯12aとピニオン軸16に形成されたピニオン歯16aとが噛合されることでラックアンドピニオン機構17が構成されている。また、ラック軸12の両端には、その軸端部に設けられたボールジョイントからなるラックエンド18を介してタイロッド19がそれぞれ回動自在に連結されている。タイロッド19の先端は、転舵輪3が組付けられた図示しないナックルに連結されている。したがって、EPS1では、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト11の回転がラックアンドピニオン機構17によりラック軸12の軸方向移動に変換され、この軸方向移動がタイロッド19を介してナックルに伝達されることにより、転舵輪3の転舵角、すなわち車両の進行方向が変更される。
【0018】
なお、ラックエンド18がラックハウジング13の左端に当接する位置が右方向に最大限操舵可能な位置であり、同位置が右側のエンド位置としてのラックエンド位置に相当する。また、ラックエンド18がラックハウジング13の右端に当接する位置が左方向に最大限操舵可能な位置であり、同位置が左側のエンド位置としてのラックエンド位置に相当する。
【0019】
EPSアクチュエータ5は、駆動源であるモータ21と、モータ21に連結されるとともにコラム軸14に連結されたウォームアンドホイール等の減速機構22とを備えている。そして、EPSアクチュエータ5は、モータ21の回転を減速機構22により減速してコラム軸14に伝達することによって、モータトルクをアシスト力として操舵機構4に付与する。なお、本実施形態のモータ21には、三相のブラシレスモータが採用されている。
【0020】
操舵制御装置6には、車両の車速SPDを検出する車速センサ31、及び運転者の操舵によりステアリングシャフト11に付与された操舵トルクTsを検出するトルクセンサ32が接続されている。また、操舵制御装置6には、モータ21のモータ角θmを360°の範囲内の相対角で検出する回転センサ33が接続されている。なお、操舵トルクTs及びモータ角θmは、一方向(本実施形態では、右)に操舵した場合に正の値、他方向(本実施形態では、左)に操舵した場合に負の値として検出する。そして、操舵制御装置6は、これら各センサから入力される各状態量を示す信号に基づいて、モータ21に駆動電力を供給することにより、EPSアクチュエータ5の作動、すなわち操舵機構4にラック軸12を往復動させるべく付与するアシスト力を制御する。
【0021】
次に、操舵制御装置6の構成について説明する。
図2に示すように、操舵制御装置6は、制御信号を出力するマイコン41と、制御信号に基づいてモータ21に駆動電力を供給する駆動回路42とを備えている。なお、本実施形態の駆動回路42には、複数のスイッチング素子(例えば、FET等)を有する周知のPWMインバータが採用されている。そして、マイコン41の出力する制御信号は、各スイッチング素子のオンオフ状態を規定するものとなっている。これにより、制御信号に応答して各スイッチング素子がオンオフし、各相のモータコイルへの通電パターンが切り替わることにより、車載電源43の直流電力が三相の駆動電力に変換されてモータ21へと出力される。なお、以下に示す各制御ブロックは、マイコン41が実行するコンピュータプログラムにより実現されるものであり、所定のサンプリング周期(検出周期)で各状態量を検出し、所定の演算周期毎に以下の各制御ブロックに示される各演算処理が実行される。
【0022】
マイコン41には、上記車速SPD、操舵トルクTs、モータ21のモータ角θmが入力される。また、マイコン41には、駆動回路42と各相のモータコイルとの間の接続線44に設けられた電流センサ45により検出されるモータ21の各相電流値Iu,Iv,Iwが入力される。なお、
図2では、説明の便宜上、各相の接続線及び各相の電流センサ45をそれぞれ1つにまとめて図示している。また、マイコン41には、車載電源43の電源電圧Vbを検出する電圧センサ46が接続されている。そして、マイコン41は、これら各状態量に基づいて制御信号を出力する。
【0023】
詳しくは、マイコン41は、モータ21に対する電力供給の目標値、すなわち目標アシスト力に対応する電流指令値Id*,Iq*を演算する電流指令値演算部51と、電流指令値Id*,Iq*に基づいて制御信号を出力する制御信号出力部52とを備えている。電流指令値Id*,Iq*は、モータ21に供給すべき電流の目標値であり、d/q座標系におけるd軸上の電流指令値及びq軸上の電流指令値をそれぞれ示す。このうち、q軸電流指令値Iq*はモータ21の出力トルクの目標値であるトルク指令値に相当し、電流指令値演算部51はトルク指令値演算部に相当する。なお、本実施形態では、d軸電流指令値Id*は、基本的にゼロに固定されている。また、モータ21のモータ角θmと同様に、電流指令値Id*,Iq*は、一方向への操舵をアシストする場合に正の値、他方向への操舵をアシストする場合に負の値とする。
【0024】
また、マイコン41は、転舵輪3の転舵角に換算可能な回転軸であるステアリングシャフト11の回転角(操舵角)を示す制御舵角θsを演算する制御舵角演算部53を備えている。制御舵角演算部53には、モータ角θmが入力される。そして、制御舵角演算部53は、例えばラック軸12が車両の直進する中立位置にある状態での制御舵角θsを原点(ゼロ度)としてモータ21の回転数を積算(カウント)し、この回転数及びモータ角θmに基づいて制御舵角θsを360°を超える範囲を含む絶対角で演算する。なお、制御舵角θsは、モータ21のモータ角θmと同様に、中立位置から一方向の回転角である場合に正の値、他方向の回転角である場合に負の値とする。さらに、マイコン41は、q軸電流指令値Iq*の絶対値の上限となる制限値Igを設定する制限値設定部54と、メモリ55とを備えている。メモリ55には、モータ21が出力可能なモータトルクとして予め設定された定格トルクに対応する定格電流Ir等が記憶されている。
【0025】
より詳しくは、電流指令値演算部51は、q軸電流指令値Iq*の基礎成分である基本指令値としての基本電流指令値Ias*を演算する基本指令値演算部としての基本アシスト演算部61と、ダンピング制御量Idaを演算するダンピング制御量演算部62と、電流補償量Iacを演算する電流補償量演算部63とを備えている。また、電流指令値演算部51は、基本電流指令値Ias*をダンピング制御量Ida及び電流補償量Iacにより補正した補正後電流指令値Ias**の絶対値を制限値Ig以下に制限するガード処理部64を備えている。
【0026】
基本アシスト演算部61には、操舵トルクTs及び車速SPDが入力される。そして、基本アシスト演算部61は、操舵トルクTs及び車速SPDに基づいて基本電流指令値Ias*を演算する。具体的には、基本アシスト演算部61は、操舵トルクTsの絶対値が大きいほど、また車速SPDが遅いほど、より大きな値(絶対値)を有する基本電流指令値Ias*を演算する。このように演算された基本電流指令値Ias*は、加減算器65に出力される。
【0027】
電流補償量演算部63には、制御舵角θsが入力される。そして、電流補償量演算部63は、ステアリングホイール2を中立位置に戻すステアリング戻し操作を行う際に、制御舵角θsに基づいて、円滑に制御舵角θsがゼロとなる(ステアリングホイール2が中立位置となる)ようにアシストする電流補償量Iacを演算する。つまり、電流補償量演算部63は、所謂アクティブリターン制御を実行するための成分を演算する。
【0028】
加減算器65には、基本電流指令値Ias*及び電流補償量Iacとともに、後述するようにダンピング制御量演算部62から出力されるダンピング制御量Idaが入力される。そして、電流指令値演算部51は、加減算器65において基本電流指令値Ias*からダンピング制御量Idaを減算するとともに電流補償量Iacを加算することにより補正後電流指令値Ias**を演算する。このように演算された補正後電流指令値Ias**はガード処理部64に出力される。
【0029】
ガード処理部64には、補正後電流指令値Ias**に加え、後述するように制限値設定部54において設定される制限値Igが入力される。ガード処理部64は、入力される補正後電流指令値Ias**の絶対値が制限値Ig以下の場合には、補正後電流指令値Ias**の値をそのままq軸電流指令値Iq*として制御信号出力部52に出力する。一方、入力される補正後電流指令値Ias**の絶対値が制限値Igよりも大きい場合には、補正後電流指令値Ias**の絶対値を制限値Igの値に制限した値をq軸電流指令値Iq*として制御信号出力部52に出力する。
【0030】
制御信号出力部52は、電流指令値Id*,Iq*、各相電流値Iu,Iv,Iw、及びモータ21のモータ角θmに基づいてd/q座標系における電流フィードバック制御を実行することにより、制御信号を生成する。具体的には、制御信号出力部52は、モータ角θmに基づいて各相電流値Iu,Iv,Iwをd/q座標上に写像することにより、d/q座標系におけるモータ21の実電流値であるd軸電流値及びq軸電流値を演算する。そして、制御信号出力部52は、d軸電流値をd軸電流指令値Id*に追従させるべく、またq軸電流値をq軸電流指令値Iq*に追従させるべく、それぞれ電流フィードバック制御を行うことにより制御信号を生成する。この制御信号が駆動回路42に出力されることによりモータ21に制御信号に応じた駆動電力が供給される。これにより、モータ21が出力するモータトルクが、q軸電流指令値Iq*に対応したトルク指令値に追従するようにモータ21の駆動が制御される。
【0031】
次に、ダンピング制御量演算部62の構成について説明する。
ダンピング制御量演算部62には、車速SPD及び制御舵角θsが入力される。そして、ダンピング制御量演算部62は、これらの状態量に基づいて、制御舵角θsの絶対値が舵角閾値としてのエンド近傍舵角θneを超える状況になる場合に、制御舵角θsを微分することにより得られる制御角速度ωs(操舵速度)の絶対値の増大に基づいてより大きな絶対値を有するダンピング制御量Idaを演算する。ダンピング制御量Idaは、基本電流指令値Ias*から減算されることにより、基本電流指令値Ias*の絶対値を小さくする成分である。なお、エンド近傍舵角θneは、ラックエンド位置での制御舵角θsよりも絶対値が所定角度θ1だけ小さい角度を示す値に設定されている。また、所定角度θ1は、エンド近傍舵角θneがラックエンド位置から離間しすぎないような比較的小さな角度である。
【0032】
詳しくは、
図3に示すように、ダンピング制御量演算部62は、最新の演算周期での制御舵角θsと左右いずれか一方のラックエンド位置での制御舵角θsとの間の差分であるエンド離間角Δθを演算するエンド離間角演算部71を備えている。また、ダンピング制御量演算部62は、エンド離間角Δθに応じて定まる第1上限角速度ωlim1に対する制御角速度ωsの超過分である第1超過角速度ωo1を演算する第1超過角速度演算部72と、第1超過角速度ωo1に基づいてダンピング制御量Idaを演算する演算処理部73とを備えている。
【0033】
エンド離間角演算部71には、制御舵角θsが入力される。エンド離間角演算部71は、最新の演算周期での制御舵角θsと左側のラックエンド位置での制御舵角θsとの間の差分、及び最新の演算周期での制御舵角θsと右側のラックエンド位置での制御舵角θsとの間の差分を演算する。そして、エンド離間角演算部71は、演算した差分のうちの小さい方の絶対値をエンド離間角Δθとして第1超過角速度演算部72に出力する。
【0034】
第1超過角速度演算部72には、エンド離間角Δθ、及び制御舵角θsを微分することにより得られる制御角速度ωsが入力される。そして、第1超過角速度演算部72は、これらの状態量に基づいて第1超過角速度ωo1を演算する。
【0035】
詳しくは、第1超過角速度演算部72は、エンド離間角Δθが入力される第1上限角速度演算部74を備えている。第1上限角速度演算部74は、エンド離間角Δθと第1上限角速度ωlim1との関係を定めたマップを備えており、同マップを参照することによりエンド離間角Δθに応じた第1上限角速度ωlim1を演算する。このマップでは、第1上限角速度ωlim1は、エンド離間角Δθがゼロの場合に第1上限角速度ωlim1が最も小さくなり、エンド離間角Δθの増大に比例して第1上限角速度ωlim1が大きくなるように設定されている。また、第1上限角速度ωlim1は、エンド離間角Δθが所定角度θ2よりも大きくなると、モータ21が回転可能な最大の角速度として予め設定された値で一定となるように設定されている。なお、所定角度θ2は、上記所定角度θ1よりも大きな角度に設定されている。つまり、本実施形態のダンピング制御量演算部62は、制御舵角θsの絶対値がエンド近傍舵角θneを超える前の状況からゼロより大きな絶対値を有するダンピング制御量Idaを演算することにより、制御舵角θsの絶対値がエンド近傍舵角θneを超える状況になる場合に、ゼロより大きな絶対値を有するダンピング制御量Idaを演算する。
【0036】
第1超過角速度演算部72は、制御角速度ωsの絶対値が第1上限角速度演算部74において演算された第1上限角速度ωlim1よりも大きい場合には、制御角速度ωsの第1上限角速度ωlim1に対する超過分を第1超過角速度ωo1として演算処理部73に出力する。一方、第1超過角速度演算部72は、制御角速度ωsの絶対値が第1上限角速度ωlim1以下の場合には、ゼロを示す第1超過角速度ωo1を演算処理部73に出力する。
【0037】
具体的には、第1超過角速度演算部72は、第1上限角速度ωlim1及び制御角速度ωsが入力される最小値選択部75を備えている。最小値選択部75は、第1上限角速度ωlim1及び制御角速度ωsの絶対値のうちの小さい方を選択して減算器76に出力する。そして、第1超過角速度演算部72は、減算器76において、制御角速度ωsの絶対値から最小値選択部75の出力値を差し引くことで第1超過角速度ωo1を演算する。このように最小値選択部75において第1上限角速度ωlim1及び制御角速度ωsの絶対値のうちの小さい方を選択することで、制御角速度ωsが第1上限角速度ωlim1以下の場合には、減算器76において制御角速度ωsから制御角速度ωsが差し引かれることとなり、第1超過角速度ωo1がゼロとなる。一方、制御角速度ωsが第1上限角速度ωlim1よりも大きい場合には、減算器76において制御角速度ωsの絶対値から第1上限角速度ωlim1が差し引かれることとなり、第1超過角速度ωo1が制御角速度ωsの第1上限角速度ωlim1に対する超過分となる。
【0038】
演算処理部73には、第1超過角速度ωo1、車速SPD及び制御角速度ωsが入力される。演算処理部73は、第1超過角速度ωo1及び車速SPDとダンピング制御量Idaとの関係を定めたマップを備えており、同マップを参照することにより第1超過角速度ωo1及び車速SPDに応じたダンピング制御量Idaを演算する。なお、演算処理部73は、ダンピング制御量Idaの符号(方向)を制御角速度ωsに示される符号(方向)とする。このマップでは、ダンピング制御量Idaは、第1超過角速度ωo1がゼロの場合に速度制限成分Igsが最も小さくなり、第1超過角速度ωo1の増大に比例してダンピング制御量Idaが大きくなるように設定されている。また、このマップは、車速SPDの増大に比例してダンピング制御量Idaが小さくなるように設定されている。このように演算されたダンピング制御量Idaは、上記加減算器65(
図2参照)に出力される。
【0039】
次に、制限値設定部54の構成について説明する。
図2に示すように、制限値設定部54には、制御舵角θs、車速SPD、電源電圧Vb及びメモリ55に記憶された定格電流Irが入力される。そして、制限値設定部54は、これらの状態量に基づいて制限値Igを設定する。
【0040】
詳しくは、
図4に示すように、制限値設定部54は、制御舵角θsに基づく舵角制限値Ienを演算する舵角制限値演算部81と、電源電圧Vbに基づく他の制限値としての電圧制限値Ivbを演算する電圧制限値演算部82と、舵角制限値Ien及び電圧制限値Ivbのいずれか小さい方を選択する最小値選択部83とを備えている。
【0041】
舵角制限値演算部81には、制御舵角θs、車速SPD及び定格電流Irが入力される。舵角制限値演算部81は、これらの状態量に基づいて、後述するように制御舵角θsの絶対値がエンド近傍舵角θneを超える状況になる場合に、制御舵角θsの絶対値及び制御角速度ωs(操舵速度)の絶対値の増大に基づいて小さくなる舵角制限値Ienを演算する。このように演算された舵角制限値Ienは、最小値選択部83に出力される。
【0042】
電圧制限値演算部82には、電源電圧Vbが入力される。電圧制限値演算部82は、電源電圧Vbの絶対値が予め設定された電圧閾値Vth以下になった場合に、定格電流Irを供給するための定格電圧よりも小さな電圧制限値Ivbを演算する。具体的には、電圧制限値演算部82は、電源電圧Vbの絶対値が電圧閾値Vth以下になった場合、該電源電圧Vbの絶対値の低下に基づいてより小さな絶対値を有する電圧制限値Ivbを演算する。このように演算された電圧制限値Ivbは、最小値選択部83に出力される。
【0043】
そして、最小値選択部83は、入力される舵角制限値Ien及び電圧制限値Ivbのいずれか小さい方を制限値Igとして選択し、ガード処理部64(
図2参照)に出力する。
次に、舵角制限値演算部81の構成について説明する。
【0044】
舵角制限値演算部81は、エンド離間角Δθを演算するエンド離間角演算部91と、エンド離間角Δθに応じて定まる電流(トルク)制限量である角度制限成分Igaを演算する角度制限成分演算部92とを備えている。また、舵角制限値演算部81は、エンド離間角Δθに応じて定まる第2上限角速度ωlim2に対する制御角速度ωsの超過分である第2超過角速度ωo2を演算する第2超過角速度演算部93と、第2超過角速度ωo2に応じて定まる電流(トルク)制限量である速度制限成分Igsを演算する速度制限成分演算部94とを備えている。なお、エンド離間角演算部91は、上記ダンピング制御量演算部62のエンド離間角演算部71と同様にエンド離間角Δθを演算し、角度制限成分演算部92及び第2超過角速度演算部93に出力する。
【0045】
角度制限成分演算部92には、エンド離間角Δθ及び車速SPDが入力される。角度制限成分演算部92は、エンド離間角Δθ及び車速SPDと角度制限成分Igaとの関係を定めたマップを備えており、同マップを参照することによりエンド離間角Δθ及び車速SPDに応じた角度制限成分Igaを演算する。このマップでは、角度制限成分Igaは、エンド離間角Δθがゼロの場合に最も大きくなり、エンド離間角Δθの増大に比例して減少する。また、角度制限成分Igaは、エンド離間角Δθが所定角度θ1よりも大きくなると(制御舵角θsの絶対値がエンド近傍舵角θneよりも小さくなると)、ゼロになるように設定されている。また、このマップは、エンド離間角Δθが所定角度θ1以下の領域では、車速SPDの増大に基づいて、角度制限成分Igaが小さくなるように設定されている。このように演算された角度制限成分Igaは、減算器95に出力される。
【0046】
第2超過角速度演算部93には、エンド離間角Δθ、及び制御舵角θsを微分することにより得られる制御角速度ωsが入力される。そして、第2超過角速度演算部93は、これらの状態量に基づいて第2超過角速度ωo2を演算する。
【0047】
詳しくは、第2超過角速度演算部93は、エンド離間角Δθが入力される第2上限角速度演算部96を備えている。第2上限角速度演算部96は、エンド離間角Δθと第2上限角速度ωlim2との関係を定めたマップを備えており、同マップを参照することによりエンド離間角Δθに応じた第2上限角速度ωlim2を演算する。このマップは、第1上限角速度演算部74のマップと類似の傾向に設定されている。より具体的には、同マップにおけるエンド離間角Δθが所定角度θ2以下の領域での第2上限角速度ωlim2は、第1上限角速度演算部74のマップにおける同領域での第1上限角速度ωlim1よりも小さく、該第1上限角速度ωlim1と同一の勾配でエンド離間角Δθの減少に伴って小さくなるように設定されている。また、同マップにおけるエンド離間角Δθが所定角度θ2よりも大きい領域での第2上限角速度ωlim2は、第1上限角速度ωlim1よりも小さな値で一定となるように設定されている。
【0048】
第2超過角速度演算部93は、制御角速度ωsの絶対値が第2上限角速度演算部96において演算された第2上限角速度ωlim2よりも大きい場合には、制御角速度ωsの第2上限角速度ωlim2に対する超過分を第2超過角速度ωo2として速度制限成分演算部94に出力する。一方、第2超過角速度演算部93は、制御角速度ωsの絶対値が第2上限角速度ωlim2以下の場合には、ゼロを示す第2超過角速度ωo2を速度制限成分演算部94に出力する。なお、第2超過角速度演算部93は、最小値選択部97及び減算器98を有しており、第1超過角速度演算部72と同様に第2超過角速度ωo2を演算する。
【0049】
速度制限成分演算部94には、第2超過角速度ωo2及び車速SPDが入力される。速度制限成分演算部94は、第2超過角速度ωo2及び車速SPDと速度制限成分Igsとの関係を定めたマップを備えており、同マップを参照することにより第2超過角速度ωo2及び車速SPDに応じた速度制限成分Igsを演算する。このマップでは、速度制限成分Igsは、第2超過角速度ωo2がゼロの場合に速度制限成分Igsが最も小さくなり、第2超過角速度ωo2の増大に比例して速度制限成分Igsが大きくなるように設定されている。また、このマップは、車速SPDの増大に基づいて、速度制限成分Igsが小さくなるように設定されている。つまり、本実施形態の速度制限成分演算部94のマップは、ダンピング制御量演算部62の演算処理部73のマップと同様に設定されている。なお、このマップは、速度制限成分Igsが角度制限成分Igaに比べて小さな値となるように設定されている。このように演算された速度制限成分Igsは、減算器99に出力される。
【0050】
上記角度制限成分Igaが入力される減算器95には、定格電流Irが入力される。舵角制限値演算部81は、減算器95において定格電流Irから角度制限成分Igaを差し引いた値を、速度制限成分Igsが入力される減算器99に出力する。そして、舵角制限値演算部81は、減算器99において、減算器95の出力値から速度制限成分Igsを差し引いた値、すなわち定格電流Irから角度制限成分Iga及び速度制限成分Igsを差し引いた値を舵角制限値Ienとして上記最小値選択部83に出力する。
【0051】
次に、本実施形態の操舵制御装置6によるエンド当ての衝撃緩和について説明する。
ラックエンド近傍まで操舵が行われた際に、制限値Igが定格電流Irよりも小さな舵角制限値Ienに設定され、q軸電流指令値Iq*(補正後電流指令値Ias**)の絶対値が制限値Igに設定された場合を想定する。上記のように舵角制限値Ienは、定格電流Irから角度制限成分Iga及び速度制限成分Igsを差し引いた値であり、モータトルクは、エンド離間角Δθの大きさに応じて角度制限成分Igaだけ制限されるとともに、第2超過角速度ωo2に応じて速度制限成分Igsだけ制限される。これにより、エンド離間角Δθが所定角度θ1以下になった場合にさらにエンド離間角Δθが小さくなることを制限するだけでなく、エンド離間角Δθが所定角度θ2以下になった場合の制御角速度ωsも制限してエンド当ての衝撃が緩和される。
【0052】
ここで、上記のようにラックエンド近傍まで操舵行われたのが低μ路上である場合を想定する。この場合、q軸電流指令値Iq*の絶対値が制限値Igに制限されても、制御角速度ωsが大きな値となる。この点、本実施形態では、補正後電流指令値Ias**は、基本電流指令値Ias*からダンピング制御量Idaが減算することにより演算され、ダンピング制御量Idaは、制御角速度ωsの第1上限角速度ωlim1に対する第1超過角速度ωo1の増大に基づいて大きくなる。これにより、低μ路等において制御角速度ωsが大きくなった場合には、補正後電流指令値Ias**の絶対値がダンピング制御量Idaの絶対値に応じて減少することで、エンド当ての衝撃が緩和される。
【0053】
また、上記のように第1超過角速度演算部72のマップにおける所定角度θ2以下での第1上限角速度ωlim1の勾配と、第2超過角速度演算部93のマップにおける所定角度θ2以下での第2上限角速度ωlim2の勾配とが等しい。そのため、ラックエンドまでの操舵する際における第1超過角速度ωo1と第2超過角速度ωo2との変化傾向が等しくなる。これにより、速度制限成分Igsによる舵角制限値Ienに基づくエンド当て緩和と、ダンピング制御量Idaによるエンド当て緩和とが近いに操舵フィーリングになり、運転者が違和感を覚えにくくなる。
【0054】
本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)舵角制限値演算部81は、制御舵角θsの絶対値がエンド近傍舵角θneを超える状況になる場合に小さくなる舵角制限値Ienを演算し、電流指令値演算部51は、舵角制限値Ien以下の値に設定される制限値Ig以下にq軸電流指令値Iq*を制限する。これにより、例えばエンド近傍まで操舵すると、モータトルクが制限されることで、エンド当ての衝撃を緩和できる。さらに、本実施形態では、電流指令値演算部51は、制御舵角θsの絶対値がエンド近傍舵角θneを超える状況になる場合に大きくなる第1超過角速度ωo1に応じたダンピング制御量Idaにより、基本電流指令値Ias*の絶対値を減少させてq軸電流指令値Iq*を演算する。そのため、転舵輪3が低μ路上にあってその転舵速度が速くなると、ダンピング制御量Idaが大きくなることで、モータトルクが制限されるため、エンド当ての衝撃を好適に緩和できる。
【0055】
(2)舵角制限値Ienは、定格トルクに対応する定格電流Irから角度制限成分Iga及び速度制限成分Igsを差し引くことで舵角制限値Ienを演算する。そのため、制御舵角θsがエンド近傍舵角θneを超えた場合に、該制御舵角θsがさらに増大することを制限できるとともに、制御角速度ωsを制限できるような舵角制限値Ienを容易に演算できる。
【0056】
(3)第1上限角速度ωlim1の絶対値を第2上限角速度ωlim2の絶対値よりも大きく設定した。ここで、低μ路上では、通常の路面に比べ、制御角速度ωs(転舵輪3の転舵速度)が非常に大きくなり易いため、第1上限角速度ωlim1を大きく設定しても、制御角速度ωsの第1上限角速度ωlim1に対する超過分が生じ、ダンピング制御量Idaが演算される。したがって、本実施形態のように、第1上限角速度ωlim1を第2上限角速度ωlim2よりも大きく設定することで、低μ路上でエンド当ての衝撃を好適に緩和しつつ、低μ路上以外で基本電流指令値Ias*の絶対値を不要に減少させて操舵フィーリングに影響を及ぼすことを抑制できる。
【0057】
(4)制限値設定部54は、電源電圧Vbに基づいて設定される電圧制限値Ivb及び舵角制限値Ienのうちの小さな方を制限値Igとして設定するため、制御舵角θsがエンド近傍舵角θneを超える以外に、電源電圧Vbが低下した状況に応じて適切にモータトルクTmを制限できる。なお、電圧制限値Ivb及び舵角制限値Ienのうちの小さな方を制限値Igとして設定するため、制限値Igの大きさが舵角制限値Ienを超えることはなく、エンド当ての衝撃を好適に緩和できる。
【0058】
(5)ダンピング制御量演算部62は、車速SPDの増大に基づいてダンピング制御量Idaを小さくなるように演算するため、車速SPDが大きい場合にq軸電流指令値Iq*が小さくなり難くなる。これにより、例えば高速走行時に障害物を避けるための緊急操舵を行う場合において、その操舵が妨げられることを抑制できる。
【0059】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態において、第1上限角速度演算部74におけるマップの形状は適宜変更可能である。例えば第1上限角速度ωlim1が減少し始める角度を所定角度θ1としてもよい。また、第1上限角速度演算部74のマップにおける所定角度θ2以下の領域での第1上限角速度ωlim1が、第2上限角速度演算部96のマップにおける所定角度θ2以下の領域での第2上限角速度ωlim2と一致してもよく、さらに同領域における各勾配が互いに異なっていてもよい。このほか、第1上限角速度演算部74のマップにおける所定角度θ2よりも大きい領域での第1上限角速度ωlim1と、第2上限角速度演算部96のマップにおける所定角度θ2よりも大きい領域での第2上限角速度ωlim2とが等しくてもよい。同様に、上記第2上限角速度演算部96におけるマップの形状は適宜変更可能である。
【0060】
・上記実施形態において、角度制限成分演算部92におけるマップの形状は適宜変更可能である。例えば角度制限成分Igaが増加し始める角度を所定角度θ2としてもよい。また、同マップにおける所定角度θ1以下の領域で、角度制限成分Igaが非線形的に変化してもよい。さらに、角度制限成分Igaが車速SPDに応じて変更されないようにしてもよい。
【0061】
・上記実施形態において、演算処理部73のマップの形状は適宜変更可能である。例えば第1超過角速度ωo1の増大に基づいて非線形的にダンピング制御量Idaが大きくなるように設定してもよい。また、ダンピング制御量Idaが車速SPDに応じて変更されないようにしてもよい。同様に、速度制限成分演算部94におけるマップの形状は適宜変更可能である。
【0062】
・上記実施形態において、基本電流指令値Ias*からダンピング制御量Idaを減算するとともに電流補償量Iacを加算した値を制限値Igに基づいてガード処理したが、これに限らず、例えば電流補償量Iacを加算せず、基本電流指令値Ias*からダンピング制御量Idaを減算した値を制限値Igに基づいてガード処理してもよい。
【0063】
・上記実施形態では、電流補償量Iacをステアリングホイール2が中立位置に戻ることを補助するための制御量として演算したが、これに限らず、例えば操舵トルクTsを微分したトルク微分値に基づく制御量等としてもよい。
【0064】
・上記実施形態では、制限値設定部54は、電源電圧Vbに基づいて電圧制限値Ivbを演算する電圧制限値演算部82を備えたが、これに限らず、電圧制限値演算部82に加えて又は代えて、他の状態量に基づく他の制限値を演算する他の演算部を備えてもよい。また、制限値設定部54が電圧制限値演算部82を備えず、舵角制限値Ienをそのまま制限値Igとして設定する構成としてもよい。
【0065】
・上記実施形態において、舵角制限値Ienを定格電流Irから角度制限成分Igaのみを減算することで演算してもよい。
・上記実施形態において、舵角閾値をエンド近傍舵角θne以外の角度に設定してもよい。
【0066】
・上記実施形態では、制御舵角演算部53は、ラック軸12がステアリング中立位置にある状態での制御舵角θsを原点としてモータ21の回転数を積算し、この回転数及びモータ角θmに基づいて制御舵角θsを演算した。しかし、これに限らず、制御舵角演算部53は、例えばラックエンド位置での制御舵角を原点とする回転数及びモータ角θmに基づいて制御舵角やエンド離間角を演算し、これらに基づいて制限値Igを演算してもよい。なお、こうした制御舵角の原点は、例えば車両製造時に予め記憶させてもよく、また操舵を通じた学習により設定してもよい。また、例えば転舵輪3の転舵角に換算可能な回転軸であるステアリングシャフト11の回転角を絶対角で検出するセンサを設け、制御舵角演算部53は、該センサの検出値に基づいて制御舵角θsを演算してもよい。
【0067】
・上記実施形態では、操舵制御装置6は、EPSアクチュエータ5がコラム軸14にモータトルクを付与する形式のEPS1を制御対象としたが、これに限らず、例えばボール螺子ナットを介してラック軸12にモータトルクを付与する形式の操舵装置を制御対象としてもよい。また、EPSに限らず、操舵制御装置6は、運転者により操作される操舵部と、転舵輪を転舵させる転舵部との間の動力伝達が分離されたステアバイワイヤ式の操舵装置を制御対象とし、転舵部に設けられる転舵アクチュエータのモータのトルク指令値(q軸電流指令値)について、本実施形態のようにエンド当て緩和制御を実行してもよい。
【0068】
次に、上記実施形態及び変形例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(イ)前記ダンピング制御量は、車速の増大に基づいて小さくなるように演算される操舵制御装置。上記構成によれば、車速が大きい場合にトルク指令値が小さくなり難くなるため、例えば高速走行時に障害物を避けるための緊急操舵を行う場合において、その操舵が妨げられることを抑制できる。
【符号の説明】
【0069】
1…電動パワーステアリング装置(EPS)、2…ステアリングホイール、3…転舵輪、4…操舵機構、5…EPSアクチュエータ(アクチュエータ)、6…操舵制御装置、11…ステアリングシャフト、12…ラック軸(転舵軸)、18…ラックエンド、21…モータ、41…マイコン、51…電流指令値演算部(トルク指令値演算部)、53…制御舵角演算部、54…制限値設定部、61…基本アシスト演算部(基本指令値演算部)、62…ダンピング制御量演算部、63…電流補償量演算部、64…ガード処理部、72…第1超過角速度演算部、74…第1上限角速度演算部、81…舵角制限値演算部、82…電圧制限値演算部、92…角度制限成分演算部、93…第2超過角速度演算部、94…速度制限成分演算部、96…第2上限角速度演算部Ias*…基本電流指令値、Ien…舵角制限値、Iga…角度制限成分、Igs…速度制限成分、Ivb…電圧制限値(他の制限値)、Ias**…補正後電流指令値、Id*…d軸電流指令値、Ida…ダンピング制御量、Ig…制限値、Iq*…q軸電流指令値(トルク指令値)、Ir…定格電流、SPD…車速、Ts…操舵トルク、θs…制御舵角(回転角)、θne…エンド近傍舵角(舵角閾値)、ωs…制御角速度(角速度)、ωo1…第1超過角速度、ωo2…第2超過角速度、ωlim1…第1上限角速度、ωlim2…第2上限角速度。