(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】人力駆動車用制御装置および人力駆動車用駆動システム
(51)【国際特許分類】
B62M 6/45 20100101AFI20220705BHJP
B62M 6/50 20100101ALI20220705BHJP
【FI】
B62M6/45
B62M6/50
(21)【出願番号】P 2018155443
(22)【出願日】2018-08-22
【審査請求日】2020-08-26
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002439
【氏名又は名称】株式会社シマノ
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】高山 仁志
(72)【発明者】
【氏名】謝花 聡
【審査官】中島 昭浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-013524(JP,A)
【文献】特開2015-020482(JP,A)
【文献】特開2011-068244(JP,A)
【文献】特開2001-080570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62M 6/40 - 6/75
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人力駆動車の推進をアシストするモータを、前記人力駆動車に入力される人力駆動力に応じて制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記人力駆動力
の大きさが閾値になると前記モータの駆動を開始し、前記人力駆動車の傾斜状態に応じて、前記閾値を変更し
、
前記人力駆動力は、クランクに与えられる回転トルク、および、前記回転トルクと前記クランクの回転速度との積である仕事率の少なくとも1つで示される、人力駆動車用制御装置。
【請求項2】
前記閾値は、第1閾値と、前記第1閾値とは異なる第2閾値とを含み、
前記制御部は、
前記傾斜状態が第1傾斜状態の場合、前記人力駆動力
の大きさが前記第1閾値になると前記モータの駆動を開始し、
前記傾斜状態が前記第1傾斜状態とは異なる第2傾斜状態の場合、前記人力駆動力
の大きさが前記第2閾値になると前記モータの駆動を開始する、請求項1に記載の人力駆動車用制御装置。
【請求項3】
人力駆動車の推進をアシストするモータを、前記人力駆動車に入力される人力駆動力に応じて制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記人力駆動車の傾斜状態に応じて、前記モータの駆動を開始する前記人力駆動力の閾値を変更し、
前記閾値は、第1閾値と、前記第1閾値とは異なる第2閾値とを含み、
前記制御部は、
前記傾斜状態が第1傾斜状態の場合、前記人力駆動力が前記第1閾値になると前記モータの駆動を開始し、
前記傾斜状態が前記第1傾斜状態とは異なる第2傾斜状態の場合、前記人力駆動力が前記第2閾値になると前記モータの駆動を開始し、
前記傾斜状態が前記第1傾斜状態および前記第2傾斜状態とは異なる第3傾斜状態の場合、前記人力駆動力が第3閾値になると前記モータの駆動を開始する、人力駆動車用制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記傾斜状態が前記第1傾斜状態および前記第2傾斜状態とは異なる第3傾斜状態の場合、前記人力駆動力
の大きさが第3閾値になると前記モータの駆動を開始する、請求項2に記載の人力駆動車用制御装置。
【請求項5】
前記第3閾値は、前記第1閾値および前記第2閾値とは異なる、請求項3または4に記載の人力駆動車用制御装置。
【請求項6】
前記第3閾値は、前記第1閾値および前記第2閾値の一方と等しい、請求項3または4に記載の人力駆動車用制御装置。
【請求項7】
前記第1傾斜状態は、前記人力駆動車の前輪が後輪よりも高い位置にある状態である、請求項2から6のいずれか一項に記載の人力駆動車用制御装置。
【請求項8】
前記第2傾斜状態は、前記人力駆動車の前輪が後輪よりも低い位置にある状態である、請求項2から7のいずれか一項に記載の人力駆動車用制御装置。
【請求項9】
前記第1閾値は前記第2閾値よりも小さい、請求項2から8のいずれか一項に記載の人力駆動車用制御装置。
【請求項10】
前記傾斜状態は、前記人力駆動車の前後方向における傾斜状態を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の人力駆動車用制御装置。
【請求項11】
前記傾斜状態を検出する検出部をさらに備える、請求項1から10のいずれか一項に記載の人力駆動車用制御装置。
【請求項12】
前記検出部は、加速度センサ、傾斜角センサ、角速度センサ、水平器、磁気センサ、および、気圧センサの少なくとも1つを含む、請求項11に記載の人力駆動車用制御装置。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の人力駆動車用制御装置と、
前記モータと、を備える人力駆動車用駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人力駆動車用制御装置および人力駆動車用駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
人力駆動車に搭載される各種のコンポーネントを制御する人力駆動車用制御装置が知られている。従来の人力駆動車用制御装置は、人力駆動車の推進をアシストするモータを、人力駆動車のクランクに入力される人力駆動力に応じて制御する。特許文献1は、従来の人力駆動車用制御装置の一例を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
人力駆動車に搭乗する搭乗者が快適に走行できることが望ましい。
本発明の目的は、人力駆動車の快適な走行に貢献できる人力駆動車用制御装置および人力駆動車用駆動システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1側面に従う人力駆動車用制御装置は、人力駆動車の推進をアシストするモータを、前記人力駆動車に入力される人力駆動力に応じて制御する制御部を備え、前記制御部は、前記人力駆動車の傾斜状態に応じて、前記モータの駆動を開始する前記人力駆動力の閾値を変更する。
前記第1側面の人力駆動車用制御装置によれば、モータの駆動を開始するための人力駆動力の閾値が傾斜状態に応じて変更されるため、傾斜状態に応じた好適なタイミングでモータの駆動が開始される。このため、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【0006】
前記第1側面に従う第2側面の人力駆動車用制御装置において、前記傾斜状態は、前記人力駆動車の前後方向における傾斜状態を含む。
前記第2側面の人力駆動車用制御装置によれば、人力駆動車の前後方向における傾斜状態に応じた好適なタイミングでモータの駆動が開始されるため、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【0007】
前記第1または第2側面に従う第3側面の人力駆動車用制御装置において、前記閾値は、第1閾値と、前記第1閾値とは異なる第2閾値とを含み、前記制御部は、前記傾斜状態が第1傾斜状態の場合、前記人力駆動力が前記第1閾値になると前記モータの駆動を開始し、前記傾斜状態が前記第1傾斜状態とは異なる第2傾斜状態の場合、前記人力駆動力が前記第2閾値になると前記モータの駆動を開始する。
前記第3側面の人力駆動車用制御装置によれば、傾斜状態に応じた好適なタイミングでモータの駆動が開始されるため、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【0008】
前記第3側面に従う第4側面の人力駆動車用制御装置において、前記第1傾斜状態は、前記人力駆動車の前輪が後輪よりも高い位置にある状態である。
前記第4側面の人力駆動車用制御装置によれば、第1傾斜状態に応じた好適なタイミングでモータの駆動が開始されるため、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【0009】
前記第3または第4側面に従う第5側面の人力駆動車用制御装置において、前記第2傾斜状態は、前記人力駆動車の前輪が後輪よりも低い位置にある状態である。
前記第5側面の人力駆動車用制御装置によれば、第2傾斜状態に応じた好適なタイミングでモータの駆動が開始されるため、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【0010】
前記第3~第5側面のいずれか1つに従う第6側面の人力駆動車用制御装置において、前記第1閾値は前記第2閾値よりも小さい。
前記第6側面の人力駆動車用制御装置によれば、傾斜状態に応じた好適なタイミングでモータの駆動が開始されるため、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【0011】
前記第3~第6側面のいずれか1つに従う第7側面の人力駆動車用制御装置において、前記制御部は、前記傾斜状態が前記第1傾斜状態および前記第2傾斜状態とは異なる第3傾斜状態の場合、前記人力駆動力が第3閾値になると前記モータの駆動を開始する。
前記第7側面の人力駆動車用制御装置によれば、第3傾斜状態に応じた好適なタイミングでモータの駆動が開始されるため、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【0012】
前記第7側面に従う第8側面の人力駆動車用制御装置において、前記第3閾値は、前記第1閾値および前記第2閾値とは異なる。
前記第8側面の人力駆動車用制御装置によれば、傾斜状態に応じた好適なタイミングでモータの駆動が開始されるため、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【0013】
前記第7側面に従う第9側面の人力駆動車用制御装置において、前記第3閾値は、前記第1閾値および前記2閾値の一方と等しい。
前記第9側面の人力駆動車用制御装置によれば、傾斜状態に応じた好適なタイミングでモータの駆動が開始されるため、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【0014】
前記第1~第9側面のいずれか1つに従う第10側面の人力駆動車用制御装置において、前記傾斜状態を検出する検出部をさらに備える。
前記第10側面の人力駆動車用制御装置によれば、人力駆動車の傾斜状態を好適に検出できる。
【0015】
前記第10側面に従う第11側面の人力駆動車用制御装置において、前記検出部は、加速度センサ、傾斜角センサ、角速度センサ、水平器、磁気センサ、および、気圧センサの少なくとも1つを含む。
前記第11側面の人力駆動車用制御装置によれば、人力駆動車の傾斜状態を検出する検出部として各種のセンサを適用できる。
【0016】
本発明の第12側面に従う人力駆動車用駆動システムは、前記人力駆動車用制御装置と、前記モータと、を備える。
前記第12側面の人力駆動車用駆動システムによれば、モータの駆動を開始するための人力駆動力の閾値が傾斜状態に応じて変更されるため、傾斜状態に応じた好適なタイミングでモータの駆動が開始される。このため、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の人力駆動車用制御装置および人力駆動車用駆動システムによれば、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態の人力駆動車用駆動システムを含む人力駆動車の側面図。
【
図2】
図1の人力駆動車用駆動システムの構成を示すブロック図。
【
図3】人力駆動力とモータ出力との関係の一例を示すグラフ。
【
図4】各種の閾値に基づく人力駆動力とモータ出力との関係の一例を示すグラフ。
【
図5】
図1の人力駆動車用制御装置が実行する制御の一例を示すフローチャート。
【
図6】変形例の人力駆動車用駆動システムにおいて、各種の閾値に基づく人力駆動力とモータ出力との関係の一例を示すグラフ。
【
図7】変形例の人力駆動車用駆動システムにおいて、各種の閾値に基づく人力駆動力とモータ出力との関係の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<実施形態>
図1を参照して、人力駆動車用駆動システム1を含む人力駆動車Aについて説明する。
ここで、人力駆動車は、走行のための原動力に関して、少なくとも部分的に人力を用いる車両を意味し、電動で人力を補助する車両を含む。人力以外の原動力のみを用いる車両は、人力駆動車には含まれない。特に、内燃機関のみを原動力に用いる車両は、人力駆動車には含まれない。図示される人力駆動車Aは、電気エネルギーを用いて人力駆動車Aの推進を補助する電動補助ユニットEを含む自転車である。具体的には、図示される人力駆動車Aは、トレッキングバイクである。人力駆動車Aは、フレームA1、フロントフォークA2、前輪WF、後輪WR、ハンドルH、および、ドライブトレインBをさらに含む。
【0020】
ドライブトレインBは、チェーンドライブタイプに構成される。ドライブトレインBは、クランクC、フロントスプロケットD1、リアスプロケットD2、および、チェーンD3を含む。クランクCは、フレームA1に回転可能に支持されるクランク軸C1、および、クランク軸C1の両端部のそれぞれに設けられる一対のクランクアームC2を含む。各クランクアームC2の先端には、ペダルPDが回転可能に取り付けられる。なお、ドライブトレインBは、任意のタイプから選択でき、ベルトドライブタイプ、または、シャフトドライブタイプであってもよい。
【0021】
フロントスプロケットD1は、クランク軸C1と一体に回転するようにクランクCに設けられる。リアスプロケットD2は、後輪WRのハブHRに設けられる。チェーンD3は、フロントスプロケットD1およびリアスプロケットD2に巻き掛けられる。人力駆動車Aに搭乗する搭乗者によってペダルPDに加えられる人力駆動力は、フロントスプロケットD1、チェーンD3、および、リアスプロケットD2を介して後輪WRに伝達される。
【0022】
電動補助ユニットEは、人力駆動車Aの推進をアシストするように動作する。電動補助ユニットEは、例えばペダルPDに加えられる人力駆動力に応じて動作する。人力駆動力は、クランクCに与えられる回転トルク、クランクCの回転速度、および、クランクCの回転トルクとクランクCの回転速度との積である仕事率の少なくとも1つで示される。クランクCの回転速度は、ケイデンスと同義である。電動補助ユニットEは、モータE1を含む。モータE1は、例えば減速機構を介してクランクCに接続される。電動補助ユニットEは、人力駆動車Aに搭載されるバッテリBTから供給される電力によって動作する。
【0023】
図2を参照して、人力駆動車用駆動システム1の構成について説明する。
人力駆動車用駆動システム1は、人力駆動車用制御装置10と、モータE1とを備える。人力駆動車用制御装置10は、人力駆動車Aの推進をアシストするモータE1を、人力駆動車Aに入力される人力駆動力に応じて制御する制御部12を備える。制御部12は、CPU(Central Processing Unit)またはMPU(Micro Processing Unit)である。制御部12は、例えば電動補助ユニットEのハウジングE2内に収容される。人力駆動車用制御装置10は、各種の情報を記憶する記憶部14をさらに備える。記憶部14は、不揮発性メモリおよび揮発性メモリを含む。記憶部14は、例えば制御のための各種プログラム、および、予め設定される情報等を記憶する。
【0024】
制御部12は、人力駆動力に応じてモータE1の出力が変化するようにモータE1を制御する。以下では、モータE1の出力をモータ出力と称する。モータ出力は、減速機構を介したモータE1の出力である。モータ出力は、クランクCの回転トルク、クランクCの回転速度、および、仕事率の少なくとも1つで示される。
【0025】
図3に示されるように、制御部12は、人力駆動力が閾値TH以上になるとモータE1の駆動を開始する。具体的には、制御部12は、人力駆動力が閾値TH未満の状態から閾値TH以上の状態になるとモータE1の駆動を開始する。制御部12は、人力駆動力が大きくなるにつれてモータ出力が比例して大きくなるようにモータE1を制御する。制御部12は、人力駆動力が所定閾値TP以上になると、モータ出力が所定値VPを維持するようにモータE1を制御する。所定閾値TPは閾値THよりも大きい。所定値VPは、モータ出力の上限値を規定している。制御部12は、例えば人力駆動力が閾値TH以上かつ所定閾値TP未満の範囲に含まれる場合、人力駆動力とモータ出力との比率が所定比率になるようにモータE1を制御する。なお、人力駆動力とモータ出力との関係は、道路交通法を基準に人力駆動車Aの走行速度に応じて規定される。
【0026】
制御部12は、人力駆動車Aの傾斜状態に応じて、モータE1の駆動を開始する人力駆動力の閾値THを変更する。人力駆動車Aの傾斜状態は、人力駆動車Aの前後方向における傾斜状態を含む。一例では、制御部12は、人力駆動車Aのピッチ角に応じて閾値THを変更する。
【0027】
図4に示されるように、閾値THは、第1閾値TH1と、第1閾値TH1とは異なる第2閾値TH2とを含む。制御部12は、傾斜状態が第1傾斜状態の場合、人力駆動力が第1閾値TH1になるとモータE1の駆動を開始する。第1傾斜状態は、人力駆動車Aの前輪WFが後輪WRよりも高い位置にある状態である。一例では、人力駆動車Aが上り坂を走行する場合に、人力駆動車Aの傾斜状態が第1傾斜状態となる。第1閾値TH1は、モータE1の駆動を開始するタイミングが、人力駆動車Aが下り坂を走行する場合よりも早くなるように設定される。
【0028】
制御部12は、傾斜状態が第1傾斜状態とは異なる第2傾斜状態の場合、人力駆動力が第2閾値TH2になるとモータE1の駆動を開始する。第2傾斜状態は、人力駆動車Aの前輪WFが後輪WRよりも低い位置にある状態である。一例では、人力駆動車Aが下り坂を走行する場合に、人力駆動車Aの傾斜状態が第2傾斜状態となる。第2閾値TH2は、モータE1の駆動を開始するタイミングが、人力駆動車Aが上り坂を走行する場合よりも遅くなるように設定される。一例では、第1閾値TH1は第2閾値TH2よりも小さい。
図4の一点鎖線で示される閾値THは、第1閾値TH1の一例を示す。
図4の二点鎖線で示される閾値THは、第2閾値TH2の一例を示す。
【0029】
制御部12は、傾斜状態が第1傾斜状態および第2傾斜状態とは異なる第3傾斜状態の場合、人力駆動力が第3閾値TH3になるとモータE1の駆動を開始する。第3傾斜状態は、人力駆動車Aの前輪WFが後輪WRと実質的に同じ高さ位置にある状態である。具体的には、第3傾斜状態は、前輪WFの車軸と後輪WRの車軸とを繋ぐ仮想線と水平面とのなす小さい方の角度が±3°以内に含まれる状態である。一例では、人力駆動車Aが平地を走行する場合に、人力駆動車Aの傾斜状態が第3傾斜状態となる。第3閾値TH3は、モータE1の駆動を開始するタイミングが、人力駆動車Aが下り坂を走行する場合よりも早くなるように、かつ、人力駆動車Aが上り坂を走行する場合よりも遅くなるように設定される。第3閾値TH3は、第1閾値TH1および第2閾値TH2とは異なる。一例では、第3閾値TH3は、第1閾値TH1よりも大きく、第2閾値TH2よりも小さい。
図4の破線で示される閾値THは、第3閾値TH3の一例を示す。なお、人力駆動力とモータ出力との関係は、人力駆動車Aの傾斜状態に応じて異ならせてもよい。
【0030】
図2に示されるように、人力駆動車用制御装置10は、傾斜状態を検出する検出部16をさらに備える。一例では、検出部16は、人力駆動車Aのピッチ角を検出する。検出部16は、加速度センサ16A、傾斜角センサ16B、角速度センサ16C、水平器16D、磁気センサ16E、および、気圧センサ16Fの少なくとも1つを含む。検出部16は、例えば検出した各種の情報を制御部12に出力する。
【0031】
加速度センサ16Aは、人力駆動車Aのピッチ軸まわりの加速度を検出する。人力駆動車Aのピッチ軸まわりの加速度は、人力駆動車Aの傾斜状態と相関を有する。加速度センサ16Aは、例えば人力駆動車AのフレームA1等に設けられる。傾斜角センサ16Bは、人力駆動車Aの前後方向の傾きを検出する。傾斜角センサ16Bは、例えば人力駆動車AのフレームA1等に設けられる。角速度センサ16Cは、人力駆動車Aのピッチ軸まわりの角速度を検出する。人力駆動車Aのピッチ軸まわりの角速度は、人力駆動車Aの傾斜状態と相関を有する。角速度センサ16Cは、例えば人力駆動車AのフレームA1等に設けられる。水平器16Dは、人力駆動車Aが停止している状態において、水平面に対する人力駆動車Aの前後方向の傾きを検出する。水平器16Dは、例えば人力駆動車AのフレームA1等に設けられる。検出部16として水平器16Dが用いられる場合、制御部12は、人力駆動車Aが発進する前の傾斜状態に応じて閾値THを変更する。磁気センサ16Eは、前輪WFの回転速度、後輪WRの回転速度、および、クランクCの回転速度の少なくとも1つを検出する。前輪WFの回転速度、後輪WRの回転速度、および、クランクCの回転速度は、人力駆動車Aの傾斜状態と相関を有する。磁気センサ16Eは、例えば前輪WFのスポークに設けられる磁石、後輪WRのスポークに設けられる磁石、および、人力駆動車AのフレームA1等に設けられる磁石の少なくとも1つを検出する。前輪WFの回転速度を検出する例では、磁気センサ16Eは、人力駆動車AのフロントフォークA2に設けられる。後輪WRの回転速度を検出する例では、磁気センサ16Eは、人力駆動車AのフレームA1に設けられる。クランクCの回転速度を検出する例では、磁気センサ16Eは、一方のクランクアームC2に設けられる。気圧センサ16Fは、前輪WF付近の気圧、および、後輪WR付近の気圧を検出する。気圧センサ16Fは、例えば前輪WFおよび後輪WRのそれぞれに設けられる。一例では、前輪WF付近の気圧と後輪WR付近の気圧との差によって、人力駆動車Aの傾斜状態が検出される。
【0032】
図5を参照して、人力駆動車用制御装置10が実行する制御の一例について説明する。
制御部12は、ステップS11において、検出部16から人力駆動車Aの傾斜状態を取得する。制御部12は、ステップS12において、人力駆動車Aの傾斜状態に応じて閾値THを変更する。具体的には、制御部12は、人力駆動車Aの傾斜状態が第1傾斜状態である場合に第1閾値TH1に変更し、人力駆動車Aの傾斜状態が第2傾斜状態である場合に第2閾値TH2に変更し、人力駆動車Aの傾斜状態が第3傾斜状態である場合に第3閾値TH3に変更する。制御部12は、ステップS11において取得した人力駆動車Aの傾斜状態が現在の閾値THと対応する場合、その閾値THを維持する。
【0033】
制御部12は、ステップS13において、人力駆動力が閾値THに到達したか否かを判定する。制御部12は、ステップS13において、人力駆動力が閾値THに到達していないと判定した場合、ステップS11に処理を戻す。一方、制御部12は、ステップS13において、人力駆動力が閾値THに到達したと判定した場合、ステップS14の処理に移行する。制御部12は、ステップS14において、モータE1の駆動を開始する。その後、制御部12は、人力駆動力とモータ出力との関係に応じてモータE1を制御する。
【0034】
<変形例>
上記実施形態に関する説明は、本発明に従う人力駆動車用制御装置および人力駆動車用駆動システムが取り得る形態の例示であり、その形態を制限することを意図していない。本発明に従う人力駆動車用制御装置および人力駆動車用駆動システムは、例えば以下に示される上記実施形態の変形例、および、相互に矛盾しない少なくとも2つの変形例が組み合わせられた形態を取り得る。以下の変形例において、実施形態の形態と共通する部分については、実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0035】
・第3閾値TH3の構成は、任意に変更可能である。一例では、第3閾値TH3は、第1閾値TH1および第2閾値TH2の一方と等しい。
図6に示される例では、第3閾値TH3は、第2閾値TH2と等しい。この場合、人力駆動車Aの傾斜状態が第2傾斜状態の場合と、人力駆動車Aの傾斜状態が第3傾斜状態の場合とで、モータE1の駆動を開始するタイミングが実質的に同じになる。
図6の一点鎖線で示される閾値THは、第1閾値TH1の一例を示す。
図6の二点鎖線で示される閾値THは、第2閾値TH2および第3閾値TH3の一例を示す。
【0036】
・閾値THの変更形態は、任意に変更可能である。第1例では、
図7に示されるように、第1閾値TH1は、第1上り閾値TU1および第2上り閾値TU2を含む。制御部12は、傾斜状態が第1傾斜状態において、人力駆動車Aのピッチ角の絶対値が第1ピッチ角以上の場合、人力駆動力が第1上り閾値TU1になるとモータE1の駆動を開始する。人力駆動車Aのピッチ角は、水平面に対する人力駆動車Aの前後方向における傾きに基づいて規定される。第1ピッチ角は、例えば5°以上である。好ましい例では、第1ピッチ角は、4°以上である。さらに好ましい例では、第1ピッチ角は、3°以上である。さらに好ましい例では、第1ピッチ角は、2°以上である。さらに好ましい例では、第1ピッチ角は、1°以上である。第1ピッチ角の一例は、1°である。第1上り閾値TU1は、例えばモータE1の駆動を開始するタイミングが、人力駆動車Aのピッチ角が第1ピッチ角未満の場合よりも早くなるように設定される。制御部12は、傾斜状態が第1傾斜状態において、人力駆動車Aのピッチ角の絶対値が第1ピッチ角未満の場合、人力駆動力が第2上り閾値TU2になるとモータE1の駆動を開始する。第2上り閾値TU2は、例えばモータE1の駆動を開始するタイミングが、人力駆動車Aのピッチ角が第1ピッチ角以上の場合よりも遅くなるように設定される。一例では、第1上り閾値TU1は第2上り閾値TU2よりも小さい。
図7に示される一点鎖線の閾値THは、第1上り閾値TU1および第2上り閾値TU2の一例を示す。
【0037】
第2閾値TH2は、第1下り閾値TD1および第2下り閾値T
D2を含む。制御部12は、傾斜状態が第2傾斜状態において、人力駆動車Aのピッチ角の絶対値が第2ピッチ角以上の場合、人力駆動力が第1下り閾値TD1になるとモータE1の駆動を開始する。第2ピッチ角は、例えば3°以下である。好ましい例では、第2ピッチ角は、4°以下である。さらに好ましい例では、第2ピッチ角は、5°以下である。さらに好ましい例では、第2ピッチ角は、6°以下である。第2ピッチ角の一例は、2°である。第1下り閾値TD1は、例えばモータE1の駆動を開始するタイミングが、人力駆動車Aのピッチ角が第2ピッチ角未満の場合よりも遅くなるように設定される。制御部12は、傾斜状態が第2傾斜状態において、人力駆動車Aのピッチ角の絶対値が第2ピッチ角未満の場合、人力駆動力が第2下り閾値TD2になるとモータE1の駆動を開始する。第2下り閾値TD2は、例えばモータE1の駆動を開始するタイミングが、人力駆動車Aのピッチ角が第2ピッチ角以上の場合よりも早くなるように設定される。一例では、第1下り閾値TD1は第2下り閾値TD2よりも大きい。
図7に示される二点鎖線の閾値THは、第1下り閾値TD1および第2下り閾値TD2の一例を示す。
図7に示される破線の閾値THは、第3閾値TH3の一例を示す。なお、第1ピッチ角および第2ピッチ角は、走行路の状況、および、人力駆動車Aに搭乗する搭乗者の生体情報等に応じて適宜設定可能である。走行路の状況は、オンロード、オフロード、オフロードの山道、および、路面抵抗等を含む。生体情報は、搭乗者の体温および体重等を含む。
【0038】
第2例では、第1閾値TH1は、第1上り閾値TU1および第2上り閾値TU2を含む。制御部12は、傾斜状態が第1傾斜状態において、人力駆動車Aのピッチ角の絶対値が第1ピッチ角以上の場合、人力駆動力が第1上り閾値TU1になるとモータE1の駆動を開始する。制御部12は、傾斜状態が第1傾斜状態において、人力駆動車Aのピッチ角の絶対値が第1ピッチ角未満の場合、人力駆動力が第2上り閾値TU2になるとモータE1の駆動を開始する。制御部12は、傾斜状態が第2傾斜状態の場合、人力駆動力が第2閾値TH2になるとモータE1の駆動を開始する。上記第1例および上記第2例では、第1閾値TH1は、第1上り閾値TU1および第2上り閾値TU2とは異なる第3上り閾値をさらに含んでいてもよい。
【0039】
第3例では、第2閾値TH2は、第1下り閾値TD1および第2下り閾値TD2を含む。制御部12は、傾斜状態が第2傾斜状態において、人力駆動車Aのピッチ角の絶対値が第2ピッチ角以上の場合、人力駆動力が第1下り閾値TD1になるとモータE1の駆動を開始する。制御部12は、傾斜状態が第2傾斜状態において、人力駆動車Aのピッチ角の絶対値が第2ピッチ角未満の場合、人力駆動力が第2下り閾値TD2になるとモータE1の駆動を開始する。制御部12は、傾斜状態が第1傾斜状態の場合、人力駆動力が第1閾値TH1になるとモータE1の駆動を開始する。上記第1例および上記第3例では、第2閾値TH2は、第1下り閾値TD1および第2下り閾値TD2とは異なる第3下り閾値をさらに含んでいてもよい。
【0040】
第4例では、制御部12は、人力駆動車Aの傾斜状態に応じて閾値THをリニアに変更する。制御部12は、傾斜状態が第1傾斜状態の場合、人力駆動車Aのピッチ角の絶対値が大きくなるにつれて閾値THが小さくなるように閾値THを変更する。制御部12は、傾斜状態が第2傾斜状態の場合、人力駆動車Aのピッチ角の絶対値が大きくなるにつれて閾値THが大きくなるように閾値THを変更する。
【0041】
・第1閾値TH1と第2閾値TH2との関係は、任意に変更可能である。一例では、第1閾値TH1は、モータE1の駆動を開始するタイミングが、人力駆動車Aが下り坂および平地の少なくとも一方を走行する場合よりも遅くなるように設定される。第2閾値TH2は、モータE1の駆動を開始するタイミングが、人力駆動車Aが上り坂および平地の少なくとも一方を走行する場合よりも早くなるように設定される。この場合、第1閾値TH1は第2閾値TH2よりも大きい。
【0042】
・人力駆動車Aの傾斜状態の内容は、任意に変更可能である。一例では、人力駆動車Aの傾斜状態は、人力駆動車Aの左右方向における傾斜状態を含む。制御部12は、例えば人力駆動車Aのロール角に応じて閾値THを変更する。閾値THは、第4閾値と、第4閾値とは異なる第5閾値とを含む。制御部12は、人力駆動車Aのロール角の絶対値が所定ロール角以上の場合、人力駆動力が第4閾値になるとモータE1の駆動を開始する。人力駆動車Aのロール角は、水平面に対する人力駆動車Aの左右方向の傾きに基づいて規定される。第4閾値は、例えばモータE1の駆動を開始するタイミングが、人力駆動車Aのロール角が所定ロール角未満の場合よりも早くなるように設定されてもよく、人力駆動車Aのロール角が所定ロール角未満の場合よりも遅くなるように設定されてもよい。制御部12は、人力駆動車Aのロール角の絶対値が所定ロール角未満の場合、人力駆動力が第5閾値になるとモータE1の駆動を開始する。第5閾値は、例えばモータE1の駆動を開始するタイミングが、人力駆動車Aのロール角が所定ロール角以上の場合よりも早くなるように設定されてもよく、人力駆動車Aのロール角が所定ロール角以上の場合よりも遅くなるように設定されてもよい。一例では、第4閾値は第5閾値よりも小さい。なお、制御部12は、人力駆動車Aのロール角に応じて閾値THをリニアに変更してもよい。
【0043】
制御部12は、人力駆動車Aのロール角に応じて閾値THを変更する場合、ケイデンスが所定ケイデンス以下の場合にのみ閾値THを変更してもよい。ケイデンスは、クランクCの回転速度である。所定ケイデンスは、微小なペダルPDの動作を基準に設定される。また、制御部12は、人力駆動車Aのロール角の絶対値が所定ロール角以上の場合、人力駆動車Aの走行速度が所定速度以上の場合に閾値THを大きくし、人力駆動車Aの走行速度が所定速度未満の場合に閾値THを小さくしてもよい。人力駆動車Aのロール角に応じて閾値THを変更する例では、検出部16は、人力駆動車Aのロール角を検出する。
【0044】
・人力駆動車Aの種類は、任意に変更可能である。第1例では、人力駆動車Aは、ロードバイク、マウンテンバイク、クロスバイク、シティサイクル、カーゴバイク、または、リカンベントである。第2例では、人力駆動車Aは、キックスケータである。
【符号の説明】
【0045】
1…人力駆動車用駆動システム、10…人力駆動車用制御装置、12…制御部、16…検出部、16A…加速度センサ、16B…傾斜角センサ、16C…角速度センサ、16D…水平器、16E…磁気センサ、16F…気圧センサ、A…人力駆動車、E1…モータ、TH…閾値、TH1…第1閾値、TH2…第2閾値、TH3…第3閾値、WF…前輪、WR…後輪。