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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】改善された拒絶を有する弾性波フィルタ
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/145 20060101AFI20220705BHJP
   H03H 9/64 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
H03H9/145 D
H03H9/64 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018520505
(86)(22)【出願日】2016-11-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-11-15
(86)【国際出願番号】 US2016061725
(87)【国際公開番号】W WO2017083792
(87)【国際公開日】2017-05-18
【審査請求日】2019-11-05
【審判番号】
【審判請求日】2021-04-30
(31)【優先権主張番号】14/941,451
(32)【優先日】2015-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514326649
【氏名又は名称】レゾナント インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】RESONANT INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】ライン クルト エフ.
(72)【発明者】
【氏名】ヘイ-シプトン グレゴリー エル.
【合議体】
【審判長】伊藤 隆夫
【審判官】衣鳩 文彦
【審判官】瀧内 健夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-022074(JP,A)
【文献】国際公開第2016/111315(WO,A1)
【文献】特開2013-197772(JP,A)
【文献】特開昭58-63214(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 3/007-3/10
H03H 9/00-9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性フィルタであって、
圧電層と、
前記圧電層上に一体化して配置される第1弾性共振器構造および第2弾性共振器構造と、
前記圧電層上に一体化して配置される第1集中容量性構造および第2集中容量性構造であって、第1集中容量性構造が第1弾性共振器構造と並列に電気的に結合され、第2集中容量性構造が第2弾性共振器構造と並列に電気的に結合される、第1集中容量性構造および第2集中容量性構造と、
前記圧電層上に一体化して配置される金属化信号面であって、前記金属化信号面は、入力信号面部分及び出力信号面部分を備える、金属化信号面と、
前記圧電層上に一体化して配置される金属化接地面と、
を備え、
第1弾性共振器構造及び第1集中容量性構造は、前記入力信号面部分と前記出力信号面部分との間に電気的に結合され、第2弾性共振器構造及び第2集中容量性構造は、前記金属化信号面前記金属化接地面との間に電気的に結合され、第1集中容量性構造は、前記金属化信号面内で全体的に入れ子状にされ、第2集中容量性構造は、前記金属化信号面及び前記金属化接地面の一方内で全体的に入れ子状にされる、
弾性フィルタ。
【請求項2】
第2弾性共振器構造は、前記金属化信号面及び前記金属化接地面の一方に直接接続される、請求項1に記載の弾性フィルタ。
【請求項3】
第2集中容量性構造は、前記金属化信号面及び前記金属化接地面の一方に直接接続される、請求項1に記載の弾性フィルタ。
【請求項4】
第2弾性共振器構造は、平面的に互いに噛み合わされた共振器フィンガーの配置を備え、第2集中容量性構造は、平面的に互いに噛み合わされた容量性フィンガーの配置を備える、請求項1に記載の弾性フィルタ。
【請求項5】
前記互いに噛み合わされた共振器フィンガー及び前記互いに噛み合わされた容量性フィンガーは、互いに直交する、請求項に記載の弾性フィルタ。
【請求項6】
前記圧電層は、圧電基板である、請求項1に記載の弾性フィルタ。
【請求項7】
非圧電基板を更に備え、前記圧電層は、前記非圧電基板上に一体化して配置される、請求項1に記載の弾性フィルタ。
【請求項8】
前記圧電層は、薄膜圧電物質である、請求項に記載の弾性フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、マイクロ波フィルタに関し、特に、狭帯域用途向けに設計された弾性マイクロ波フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
電気的フィルタは、電気信号の処理に長い間用いられてきている。特に、このような電気的フィルタは、所望の信号周波数を通過しつつ、他の望まれない電気信号周波数を遮断又は減衰することによって、入力信号から所望の入力信号周波数を選択するために用いられる。フィルタは、フィルタによって選択的に通過される周波数の種類を示す、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、バンドパスフィルタ及びバンドストップフィルタを含むいくつかの一般的な分類で分類される。更に、フィルタは、帯域形状周波数応答の種類を示す(周波数カットオフ特性)Butterworth、Chebyshev、Inverse Chebyshev及びElliptic等のようなタイプによって分類され、フィルタは、理想的な周波数応答に対して提供する。
【0003】
用いられるフィルタのタイプは、意図される用途に依存する。通信用途では、バンドパス及びバンドストップフィルタは、1以上の予め定義された帯域を除いて、RF信号をフィルタ又は遮断するために、セルラー基地局、セルフォンハンドセット及び他の通信機器に従来から用いられている。特に最も重要なのは、約500‐3,500MHzの周波数範囲である。米国では、セルラー通信用に用いられる複数の標準帯域が存在する。これらは、緊急時の他の帯域と共に、Band 2(~1800‐1900MHz)、Band 4(~1700‐2100MHz)、Band 5(~800‐900MHz)、Band 13(~700‐800MHz)及びBand 17(~700‐800MHz)を含む。
【0004】
マイクロ波フィルタは、2つの回路構築ブロックを用いて一般的に構築される:共振周波数で非常に効率的にエネルギーを格納する複数の共振器(これは、基本共振周波数f又はさまざまな高次共振周波数f-fのうちのいずれか一つであってもよい);及び広いスペクトラル応答を提供する複数のゼロ反射を形成するために共振器間で電磁エネルギーを結合するカップリング。例えば、4共振器フィルタは、4つのゼロ反射を含む。与えられたカップリングの強度は、その共振(つまり、インダクタンス及び/又はキャパシタンス)によって決定される。カップリングの相対的な強度は、フィルタ形状を決定し、カップリングのトポロジーは、フィルタが、バンドパス又はバンドストップ機能を行うかどうかを決定する。共振周波数fは、各共振器のインダクタンス及びキャパシタンスによって主に決定される。従来のフィルタ設計については、フィルタがアクティブになる周波数は、フィルタを作製する共振器の共振周波数によって決定される。各共振器は、上述された理由のために、フィルタの応答を、鋭くかつ高度に選択的にすることを可能にするために、非常に低い内部抵抗を有する必要がある。低い抵抗のための要件は、与えられた技術の共振器のサイズ及びコストを追いやってしまう傾向にある。
【0005】
特殊な種類のフィルタであるデュプレクサは、モバイルデバイスのフロントエンドのキーとなる構成要素である。現在のモバイル通信デバイスは、(LTE、WCDMA(登録商標)又はCDMAを用いて)同時に送受信し、同一のアンテナを用いる。デュプレクサは、送信信号を分離し、これは、受信信号から0.5ワットまでであることができ、ピコワット程度まで低くなりうる。送受信信号は、デュプレクサがそれらを選択することを可能にする異なる周波数でのキャリアで変調され、デュプレクサは、しばしばたった約2平方ミリメートルの非常に小さいサイズで周波数選択、分離及び低挿入を提供しなければならない。
【0006】
フロントエンド受信フィルタは、好ましくは、所望の受信信号周波数の近傍の周波数で強い干渉信号から生じる様々な逆効果を排除するために、鋭く定義されたバンドパスフィルタの形式を採る。アンテナ入力でのフロントエンドレシーバフィルタの位置のため、挿入損失は、ノイズ指数を低下しないようにするように非常に低くならなければならない。ほとんどのフィルタ技術では、低挿入損失の実現は、フィルタスティープネス又は選択性での対応する妥協を要求する。
【0007】
実際には、セルフォンハンドセット用のほとんどのフィルタは、表面弾性波(surface acoustic wave(SAW))、バルク弾性波(bulk acoustic wave(BAW))、及びフィルムバルク弾性共振器(film bulk acoustic resonator(FBAR))技術等のような弾性共振器技術を用いて構築される。弾性共振器の等価回路は、「共振」周波数及び「反共振」周波数と呼ばれる周波数において近傍に配置される2つの共振を有する(K.S. Van Dyke, Piezo-Electric Resonator and its Equivalent Network Proc. IRE, Vol. 16, 1928, pp.742-764参照)。このような弾性共振器フィルタは、(中心周波数で1dBのオーダーの)低挿入損失、コンパクトなサイズ、及び等価インダクタ/キャパシタ共振器と比べて低いコストの利点を有する。この理由のため、弾性共振器実装は、しばしば、モバイルデバイスのフロントエンド受信フィルタにおけるマイクロ波フィルタ用途向けに用いられる。
【0008】
弾性(音響)共振器は、バンドパスフィルタを形成するために、典型的には、ラダートポロジー(交互に直列及びシャント共振器)に配置される。弾性ラダーフィルタは、ハンドセット用途向けに非常に成功しており、現在、毎年十億ユニット以上販売されている。しかし、多機能デバイス及びより混雑した電磁スペクトルに向かうワイヤレス技術の近年の傾向は、サイズ、コスト及び消費電力の低減を同時に要求しつつ、先鋭なライン形状を有するより多くの帯域向けのフィルタを要求する。
【0009】
フィルタ通過帯域のライン先鋭化に加えて、できるだけ通過帯域外を残し、周波数応答の不連続性を確実にすることも望まれている。例えば、典型的な弾性共振器は、フィンガー間で弾性波を往復反射する複数の互いに噛み合わされたフィンガー(例えば、80-100フィンガー)を有する。共振を形成するために、フィンガー間の弾性反射が位相に加える周波数帯域は、「ブラッグ帯域(Bragg Band)」と呼ばれる。周波数応答における不連続性特徴は、ブラッグ帯域の上端、つまり、弾性反射が位相に加える最も高い周波数で生じる。ブラッグ共振は、バンドパスフィルタの通過帯域の高域側を歪ませ、これらの周波数における過剰な損失をもたらす。よって、この不連続性特徴が通過帯域の範囲内にある場合、フィルタの性能が損なわれる可能性があるため、不連続性特徴は、フィルタの通過帯域外であることを確実にすることが重要である。
【発明の概要】
【0010】
本発明の第1の態様によれば、狭帯域弾性フィルタを提供する。弾性フィルタは、300MHzから300GHzの範囲内のマイクロ波周波数で動作するが、300MHzから10GHzの範囲内の周波数で最も適用可能であり、最も特有なものは500MHzから3.5GHzである。
【0011】
弾性フィルタは、入力及び出力と、入力と出力との間に結合される少なくとも1つの弾性共振器対(例えば、少なくとも4つの弾性共振器対)と、を備える。弾性共振器対の各々は、公称通過帯域を形成するために共に動作する少なくとも1つのインライン弾性共振器及びインシャント弾性共振器を備える。インライン弾性共振器及びインシャント弾性共振器の各々は、例えば、表面弾性波(surface acoustic wave(SAW))、バルク弾性波(bulk acoustic wave(BAW))、フィルムバルク弾性共振器(film bulk acoustic resonator(FBAR))、又は微小電子機械システム(microelectromechanical system(MEMS))共振器のうちの1つであってもよい。弾性共振器対は、例えば、N番目のラダートポロジーに配置されてもよい。
【0012】
弾性フィルタは、弾性共振器対の各々のインライン弾性共振器及びインシャント弾性共振器のうちの1つと並列な少なくとも1つの容量素子を更に備え、それにより、公称通過帯域の下端及び上端の一方を先鋭化する。一実施形態では、弾性フィルタは、弾性共振器対の各々のインライン弾性共振器及びインシャント弾性共振器のうちの1つと並列な少なくとも別の容量素子を更に備え、それにより、公称通過帯域の下端及び上端を先鋭化する。容量素子は、0.5pF‐2.0pFの範囲、特に0.8pF‐1.5pFの範囲、より詳細には0.9pF‐1.1pFの範囲のキャパシタンスを有してもよい。
【0013】
本発明の第2の態様によれば、弾性フィルタは、圧電層と、前記圧電層上に一体化して配置される弾性共振器構造と、前記圧電層上に一体化して配置され、前記弾性共振器構造と並列に電気的に結合される集中容量性構造と、を備える。前記圧電層は、例えば、圧電基板であってもよく、又は前記弾性フィルタは、非圧電基板を更に備え、その場合、前記圧電層は、例えば、薄膜圧電物質として、前記非圧電基板上に一体化して配置されてもよい。
【0014】
一実施形態では、弾性フィルタは、前記圧電層上に一体化して配置される金属化信号面と、前記圧電層上に一体化して配置される金属化接地面と、を備える。前記弾性共振器構造及び前記容量性構造の各々は、前記信号面及び前記接地面と電気的に結合される。この場合、前記弾性共振器構造は、前記信号面及び前記接地面と直接接続されてもよい、及び/又は前記集中容量性構造は、前記信号面及び前記接地面の少なくとも一方と直接接続されてもよい。前記集中容量性構造は、前記信号面及び/又は前記接地面内で、少なくとも部分的に入れ子状にされてもよく、全体的に入れ子状にされてもよい。
【0015】
別の実施形態では、前記弾性フィルタは、前記圧電層上に一体化して配置される金属化入力信号面部分と、前記圧電層上に一体化して配置される金属化出力信号面部分と、を備える。弾性共振器構造及び容量構造の各々は、前記入力信号面部分と前記出力信号面部分との間に電気的に結合される。この場合、前記弾性共振器構造は、前記入力信号面部分及び前記出力信号面部分に直接接続されてもよい、及び/又は前記集中容量構造は、前記入力信号部分及び前記出力信号部分の少なくとも一方に直接接続されてもよい。前記集中容量構造は、前記信号面部分及び/又は前記接地面部分内で、少なくとも部分的に入れ子状にされてもよく、全体的に入れ子状にされてもよい。
【0016】
更に別の実施形態では、前記弾性共振器構造は、平面的に互いに噛み合わされた共振器フィンガーの配置を備え、前記弾性共振器構造は、平面的に互いに噛み合わされた容量性フィンガーの配置を備える、この場合、前記互いに噛み合わされた共振器フィンガー及び前記互いに噛み合わされた容量性フィンガーは、互いに直交してもよい。
【0017】
本発明の他の態様及び更なる態様は、本発明を限定せずに説明することが意図される好ましい実施形態の以下の詳細な説明を読むことで明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図面は、本発明の好ましい実施形態の設計及び有用性を示し、図面において同様の要素は、共通の参照番号によって示される。本発明の上記で規定された利点及び目的及び他の利点及び目的がどのように得られるかをより良く理解するために、上記で簡潔に説明された本発明のより詳細な説明は、添付の図面に示されるその特定の実施形態を参照することによって表される。これらの図面は、本発明の典型的な実施形態のみを表現し、よって、その範囲を限定するとはみなされず、本発明は、添付の図面の使用を通じて更なる特異性及び詳細と共に記述及び説明されるであろうことを理解する。
【0019】
図1図1は、無線通信システムのブロック図である。
図2図2は、N番目のラダートポロジーに配置される従来のマイクロ波弾性フィルタの概略図である。
図3図3は、図2の弾性フィルタの弾性共振器を等価修正Butterworth-Van Dyke(MBVD)モデルへ変換したことを示す概略図である。
図4図4は、図2の従来の弾性フィルタのMBVD等価回路を示す概略図である。
図5図5は、本発明の一実施形態に基づいて構成された、改善されたマイクロ波弾性フィルタを示す概略図である。
図6図6は、図5の改善された弾性フィルタのMBVD等価回路を示す概略図である。
図7図7は、図3の従来の弾性フィルタ及び図5の改善された弾性フィルタの通過帯域を比較する周波数応答プロットである。
図8図8は、図3の従来の弾性フィルタ及び図5の改善された弾性フィルタの通過帯域の上端を比較する周波数応答プロットである。
図9図9は、図3の従来の弾性フィルタ及び図5の改善された弾性フィルタの通過帯域の上端を比較する別の周波数応答プロットである。
図10図10は、図3の従来の弾性フィルタ及び図5の改善された弾性フィルタの通過帯域の帯域外拒絶を比較する周波数応答プロットである。
図11a図11aは、図5の改善された弾性フィルタで使用するために製造された追加容量素子を有する実際のインライン弾性共振器の平面図である。
図11b図11bは、図11の実際の弾性共振器の一部の平面図である。
図12図12は、図5の改善された弾性フィルタで使用するために製造された追加容量素子を有するインシャント共振器の平面図である。
図13a図13aは、従来の単一区域バンドパス弾性フィルタ回路の概略図である。
図13b図13bは、図13aの従来の弾性フィルタ回路のMBVD等価回路を示す概略図である。
図13c図13cは、図13bの従来の弾性フィルタの通過帯域の周波数応答プロットである。
図14図14a‐14cは、可変帯域幅の通過帯域の周波数応答プロットである。
図15図15は、図14a‐14cの通過帯域を比較する周波数応答プロットである。
図16a図16aは、改善された単一区域バンドパス弾性フィルタ回路の概略図であり、容量素子は、インシャント共振器と並列に追加される。
図16b図16bは、図16aの改善された弾性フィルタ回路のMBVD等価回路を示す概略図である。
図16c図16cは、図16bの改善された弾性フィルタの通過帯域の周波数応答プロットである。
図17a図17aは、改善された単一区域バンドパス弾性フィルタ回路の概略図であり、容量素子は、インライン共振器と並列に追加される。
図17b図17bは、図17aの改善された弾性フィルタ回路のMBVD等価回路を示す概略図である。
図17c図17cは、図17bの改善された弾性フィルタの通過帯域の周波数応答プロットである。
図18図18は、従来の弾性共振器を有する改善された弾性共振器を比較する周波数応答プロットである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示は、例えば、表面弾性波(surface acoustic wave(SAW))、バルク弾性波(bulk acoustic wave(BAW))、フィルムバルク弾性共振器(film bulk acoustic resonator(FBAR))、又は微小電子機械システム(microelectromechanical system(MEMS))フィルタ等のような弾性波(acoustic wave(AW))マイクロ波フィルタの通過帯域の一方側又は両側での拒絶を改善する設計技術を説明する。この技術は、標準的な製造技術を用い、その上にマイクロ波フィルタが配置されるチップの全体サイズを変更せずに、実装されることができる。この技術は、バンドギャップが連続するデュプレクサに実装されるときに、非常に便利であり得る。増加された拒絶も近隣の帯域で実現される。通過帯域を上回る及び下回る、帯域外の周波数は、より拒絶されることができ、これは、フロントエンドレシーバの性能を干渉する望まれない信号を防ぐことを助ける。狭帯域フィルタ/デュプレクサは、与えられた圧電材料について取りうる設計の数を増加させて設計されることができる。弾性マイクロ波フィルタは、300MHzから300GHzの範囲のマイクロ波周波数で動作してもよいが、最も適用可能なものは300MHzから10GHzであり、最も特有なものは500MHzから3.5GHzである。
【0021】
本明細書に記載されるAWマイクロ波フィルタは、単一通過帯域を有する周波数応答を示し、これは、密集したストップバンド(阻止帯域)を有する通過帯域が要求される通信システムデュプレクサで特に有益である。例えば、図1を参照すると、モバイル通信デバイスで使用する通信システム10は、無線信号を送受信することが可能なトランシーバ12と、トランシーバ12の機能を制御することが可能なコントローラ/プロセッサ14と、を含んでもよい。トランシーバ12は、一般的に、ブロードバンドアンテナ16と、送信フィルタ24及び受信フィルタ26を有するデュプレクサ18と、デュプレクサ18の送信フィルタ24を介してアンテナ16と結合されたトランスミッタ20と、デュプレクサ18の受信フィルタ26を介してアンテナ16と結合されたレシーバ22と、を備える。
【0022】
トランスミッタ20は、コントローラ/プロセッサ14によって提供されるベースバンド信号を無線周波数(RF)信号へ変換するように構成されるアップコンバータ28と、RF信号を増幅するように構成される可変利得増幅器(variable gain amplifier(VGA))30と、コントローラ/プロセッサ14によって選択される動作周波数でRF信号を出力するように構成されるバンドパスフィルタ32と、フィルタされたRF信号を増幅するように構成され、その後、デュプレクサ18の送信フィルタ24を介してアンテナ16に提供されるパワー増幅器34と、を含む。
【0023】
レシーバ22は、受信フィルタ26を介してアンテナ16からRF信号入力からの送信信号干渉を拒絶するように構成されるノッチ又はストップバンドフィルタ36と、相対的に低いノイズで、ストップバンドフィルタ36からのRF信号を増幅するように構成される低ノイズ増幅器(low noise amplifier(LNA))38と、コントローラ/プロセッサ14によって選択される周波数で、増幅されたRF信号を出力するように構成される調整可能なバンドパスフィルタ40と、RF信号を、コントローラ/プロセッサ14へ提供されるベースバンド信号にダウンコンバートするように構成されるダウンコンバータ42と、を含む。それに代えて、ストップバンドフィルタ36によって行われる送信信号干渉を拒絶する機能は、代わりに、デュプレクサ18によって行われうる。又は、トランスミッター20のパワー増幅器34は、送信信号干渉を低減するように設計されうる。
【0024】
図1に示されるブロック図は、一つの種類における機能であり、いくつかの機能は、一つの電子部品によって行われうる、又は一つの機能は、いくつかの電子部品によって行われうることが理解されるべきである。例えば、アップコンバータ28、VGA30、バンドパスフィルタ40、ダウンコンバータ42及びコントローラ/プロセッサ14によって行われる機能は、しばしば単一のトランシーバチップによって行われる。バンドパスフィルタ32の機能は、パワー増幅器34及びデュプレクサ18の送信フィルタ24内にあることができる。
【0025】
本明細書に記載される例示的な設計技術は、通信システム10のフロントエンド用の弾性マイクロ波フィルタ、特に、デュプレクサ18の送信フィルタ24を設計するために用いられるが、同一の技術は、デュプレクサ18の受信フィルタ26及び他のRFフィルタ用の弾性マイクロ波フィルタを設計するために用いられうる。
【0026】
図2を参照すると、従来のバンドパスフィルタ100の一実施形態が説明される。フィルタ100は、N番目のラダートポロジー(つまり、この場合、N=9は共振器の数が9に等しいことを意味する)に配置される。フィルタ100は、電源Vと、ソース抵抗Sと、負荷抵抗Lと、5つの直列(又はインライン)弾性共振器ZS1-ZS5と、4つの並列(又はインシャント)弾性共振器ZP1-ZP4と、を備える。
【0027】
図3を参照すると、弾性共振器Zの各々は、修正Butterworth-Van Dyke(MBVD)モデル110によって記述される。MBVDモデル110は、SAW共振器も記述し、これは、水晶結晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、タンタル酸リチウム(LiTaO)結晶又は(FBARを含むBAW共振器)又はMEMS共振器等のような圧電基板上にインターデジタル変換器(interdigital transducers(IDTs))を配置することによって製造されてもよい。各MBVDモデル110は、モーショナル(動)キャパシタンスC、スタティック(静)キャパシタンスC、モーショナルインダクタンスL及び抵抗Rを含む。モーショナルキャパシタンスC及びモーショナルインダクタンスLは、電気的かつ弾性的振る舞いの相互作用から生じ、よって、MBVDモデルのモーショナルアームと呼ばれる。スタティックキャパシタンスCは、構造のキャパシタンスから生じ、よって、MBVDモデルのスタティック(非モーショナル)キャパシタンスと呼ばれる。抵抗Rは、弾性共振器の電気抵抗から生じる。
【0028】
図4を参照すると、従来のフィルタ100の弾性共振器Zの各々は、図3に示されるMBVDモデル110と置き換えられうる。本発明にとって重要なのは、弾性共振器110の少なくとも1つと並列な少なくとも1つの容量素子を追加することによって、従来のバンドパスフィルタ100のインバンド及びアウトオブバンド拒絶が非常に改善されることができることを発見したことである。例えば、図5に示されるように、改善されたインバンド及びアウトオブバンド拒絶を有する改善されたバンドパスフィルタ200は、バンドパスフィルタ200が、複数の追加容量素子120(CS1-CS5及びCP1-CP4)を備え、その各々が、弾性共振器(ZS1-ZS5及びZP1-ZP4)の各1つと並列である点を除いて従来のバンドパスフィルタ100と同様である。容量素子120の各々は、例えば、0.5pF-2.0pFの範囲、特に0.8pF-1.5pFの範囲、より詳細には0.9pF-1.1pFの範囲内のキャパシタンスを有してもよい。図6を参照すると、改善されたフィルタ200の弾性共振器Zの各々は、図3に示されるMBVDモデル110と置き換えられうる。
【0029】
図7に示されるように、改善されたバンドパスフィルタ200のシミュレートされた周波数応答は、CS1、CS2、CS3、CS4及びCS5の値が0.4pFに設定され、CP1、CP2、CP3及びCP4の値が0.0pFに設定され、挿入損失|S21|について従来のバンドパスフィルタ100のシミュレートされた周波数応答と比較されうる。改善された周波数応答は、通過帯域の上部側における傾斜と比較して、上部の-3dB挿入損失の箇所で、従来の弾性フィルタと一致されている。そこに示されるように、改善されたバンドパスフィルタ200の通過帯域の下端は、従来のバンドパスフィルタ100の公称通過帯域の下端よりも先鋭である。図8及び9に最も良く示されるように、フィルタ100及び200の上部通過帯域端が、それらの各-3dBで一致し、改善されたフィルタ200は、通過帯域の上端での従来のフィルタ100のものにおける拒絶が改善されたことがわかる。図10に更に示されるように、バンドパスフィルタ200は、バンドパスフィルタ100のものと比べて実質的に改善された帯域外拒絶を有する。
【0030】
容量素子120は、バンドパスフィルタ200を形成するために、既に存在する従来のバンドパスフィルタ構造に容易に組み込まれることができる。例えば、図11a及び11bに示されるように、フィルタ200aの一部は、圧電層252と、金属化信号面254と、弾性共振器構造258aと、明確な集中容量構造260aと、を備え、全てが圧電層252に一体化して(モノリシックに)配置される。圧電層252は、例えば、圧電基板であってもよく、又は例えば薄膜圧電物質として非圧電基板上に一体化して配置されてもよい。信号面254は、入力信号面部分254aと、出力信号面部分254bと、を備える。図5におけるインライン共振器Zの1つに対応する弾性共振器構造258aは、入力信号面部分254aと出力信号面部分254bとの間に電気的に結合され、図示される実施形態では、入力信号面部分254a及び出力信号面部分254bと直接接続される。弾性共振器構造258aは、弾性波を生成する、複数の互いに噛み合わせられた共振器フィンガー266によって形成されるインターデジタル変換器(interdigitated transducer(IDT))262と、戻り弾性波をIDT262へ反射する付加反射器264と、を備える。集中容量構造260は、弾性共振器構造258aの両端に結合され、特に、入力信号面部分254aと出力信号面部分254bとの間に直接的に電気的に結合され、図示される実施形態では、入力信号面部分254a及び出力信号面部分254bと直接接続される。IDT262と同様に、集中容量構造260aは、複数の互いに噛み合わせられた容量フィンガー268を備える。しかし、互いに噛み合わせられた容量フィンガー268は、弾性波の励起を避けるために、互いに噛み合わせられた共振器フィンガー266に直交する。
【0031】
別の例として、図12に示されるように、フィルタ200bの別の部分は、圧電層252及び信号面254と、金属化接地面256と、弾性共振器構造258bと、明確な集中容量構造260bと、を備え、全てが圧電層252に一体化して配置される。図5のインシャント共振器Zに対応する弾性共振器構造258bは、信号面254と接地面256との間に電気的に結合される。弾性共振器構造258bのように、弾性共振器構造258bは、弾性波を生成する、複数の互いに噛み合わせられた共振器フィンガー266によって形成されるIDT262と、戻り弾性波をIDT262へ反射する付加反射器264と、を備える。集中容量構造260bは、弾性共振器構造258bの両端に結合され、特に、信号面部分254と接地面256との間に直接的に電気的に結合され、図示される実施形態では、信号面254a及び接地面256と直接接続される。IDT262と同様に、集中容量構造260bは、弾性波の励起を避けるために、互いに噛み合わせられた共振器フィンガー266に直交する複数の互いに噛み合わせられた共振器フィンガー268を備える。
【0032】
注目されるのは、集中容量構造260bが信号面254及び接地面256から離間されて接続されうるが、互いに噛み合わせられた共振器フィンガー268は、圧電層252上の限られたスペースを使用するために、信号面254及び接地面256の一方又は両方内に少なくとも部分的に入れ子状にされる。このように、集中容量構造260bは、既に存在するフィルタレイアウトにより容易に組み込まれることができる。図示される実施形態では、互いに噛み合わせられた容量フィンガー268は、接地面256内で完全に入れ子状にされる。別の実施形態では、集中容量構造260aの互いに噛み合わせられた容量フィンガー268は、図11bに示される出力信号面部分254a及び出力信号面部分254bの一方又は両方内に、少なくとも部分的に入れ子状にされ、おそらく完全に入れ子状にされる。
【0033】
図13‐17を参照すると、従来のバンドパスフィルタ100のものに対するバンドパスフィルタ200の改善された帯域外拒絶をサポートする理論がここで説明されるであろう。まず、図13a‐13cを参照すると、従来の信号区分バンドパスフィルタ回路300は、直列(又はインライン)弾性共振器Z及び並列(又はインシャント)弾性共振器Z図13a)からなる単一弾性共振器対302を有する。このような4つの弾性共振器対は、従来のバンドパスフィルタ100又は改善されたバンドパスフィルタ200で見出されうる。例えば、弾性共振器対は、共振器ZS1/ZP1,ZS2/ZP2,ZS3/ZP3及びZS4/ZP4又は共振器ZP1/ZS2,ZP2/ZS3,ZP3/ZS4及びZP4/ZS5としてフィルタ100,200で識別されてもよい。図13bに示されるように、フィルタ回路300の弾性共振器Zの各々は、等価フィルタ回路を形成するために、BVDモデル100’(つまり、抵抗Rがない図3示されるMBVDモデル110)と置き換えられることができ、図13cに示される|S21|周波数応答によって表されるプロファイルを有する通過帯域を形成するようにモデル化されうる。
【0034】
直列共振器Zの共振及び反共振周波数を、それぞれωrs及びωasと指定し、並列共振器Zの各々の共振及び反共振周波数を、それぞれωrp及びωapと指定する。ωrs及びωasが互いにほぼ等しいとき、ω=ωrs,ωap近傍に中心値がある通過帯域を規定するω=ωrs,ωapでのゼロ反射が形成され、通過帯域端を規定するω=ωrρ,ωasでのゼロ伝送が形成される。周波数ωをラジアンからヘルツへ変換することは、F=ωrp/2π,F=ωrs/2π,F=ωap/2π及びF=ωas/2πを生じる。
【0035】
図13bの等価フィルタ回路300におけるパラメータは、以下の式によって関連する。
【数1】
【数2】
ここで、ω及びωは、与えられた弾性共振器の各共振及び反共振周波数であり、ガンマγは、材料の特性に依存し、これは、更に以下によって定義される。
【数3】
これは、弾性共振器の各々の共振周波数が、BVDモデル110’のモーショナルアームに依存し、一方で、フィルタ特性(例えば、帯域幅)は、式[2]のγによって強く影響を受けることが式[1]から理解されうる。弾性共振器の品質係数(Q)は、フィルタ内の素子の損失に関する、弾性フィルタ設計における重要な数値である。回路素子のQは、サイクルあたりに格納されるエネルギーと、サイクルあたりに消散されるエネルギーとの比を表す。Q係数は、各弾性共振器の実際の損失をモデル化し、一般的に、Q係数より大きいものは、弾性共振器における損失を記述するために要求される。Q係数は、フィルタ実施例のために以下に定義される。モーショナルキャパシタンスCは、QC=10と定義される関連するQを有し、スタティックキャパシタンスCは、QC=200と定義される関連するQを有し、モーショナルインダクタンスLmは、QL=1000と定義される関連するQを有する。回路設計者は、典型的には、共振周波数ω、スタティックキャパシタンスC、ガンマγ、品質係数QLによってSAW共振器を特徴付ける。商業用途向けに、QLは、SAW共振器用に約1000であり、BAW共振器用に約3000である。典型的なγ値は、42度XYカットLiTaOに対して約12から約18の範囲である。
【0036】
標準共振式
【数4】
を用い、ここで、fは、ヘルツでの周波数であり、Lは、ヘンリーでのインダクタンスであり、Cはファラッドでのキャパシタンスであり、図13cの等価フィルタ回路のゼロ伝送及びゼロ反射は、以下のように演算されうる。通過帯域の下端でのゼロ伝送は、回路L及びCm1によって形成される有効な共振(つまり、弾性共振器Zの共振)であり、以下によって与えられる。
【数5】
この共振は、戻り経路への有効なショート回路を形成し、フィルタの入力から出力へ電力が伝送されない。通過帯域に配置される1つのゼロ反射は、回路Lm1、Cm1及びC01によって形成される有効な共振(つまり、弾性共振器Zの共振)であり、以下によって与えられる。
【数6】
この共振は、戻り経路に対して有効なオープン回路を形成し、電力が、フィルタの入力から出力へ伝送されることを可能にする。通過帯域に配置される他のゼロ反射は、回路Lm2及びCm2によって形成される有効な共振(つまり、弾性共振器Zの共振)であり、以下によって与えられる。
【数7】
この共振は、有効なショート回路を形成し、電力が、フィルタの入力から出力へ伝送されることを可能にする。通過帯域の上端でのゼロ伝送は、回路Lm2、Cm2及びC02によって形成される有効な共振であり(つまり、弾性共振器Zの反共振)、以下によって与えられる。
【数8】
この共振は、戻り経路に対して有効なオープン回路を形成し、電力がフィルタの入力から出力へ伝送されることを防ぐ。
【0037】
図14a‐14cを参照すると、弾性フィルタ300a-300cの帯域幅は、周波数F及びF間の間隔及び周波数F及びF間の間隔に密に結合されることがわかる。図15から理解されうるように、これらの弾性フィルタの周波数応答の比較は、これらの間隔が大きくなると、弾性フィルタの相対的な帯域幅が増加し、弾性フィルタの通過帯域の傾斜がより浅くなることを明らかにする(弾性フィルタ回路300cの周波数応答参照)。これに対して、間隔が小さくなると、弾性フィルタの相対的な帯域幅が減少し、弾性フィルタの通過帯域の傾斜がより急峻になる(弾性フィルタ回路300aの周波数応答参照)。
【0038】
ここで図16a‐16cを参照すると、キャパシタンスCshは、元のフィルタ回路300(図16a)と並列に加えられ、シャント弾性共振器Zは、新たなフィルタ回路300’を形成するためにBVDモデル110’と置き換えられ、これは、元のフィルタ回路300の|S21|周波数応答と比較した|S21|周波数応答を生じる(図16c)とする。
【0039】
新たなフィルタ回路300’では、通過帯域の下端に配置されるゼロ伝送は、回路Lm1及びCm1によって形成される有効な共振(つまり、弾性共振器Zの共振)である。したがって、ゼロ伝送は、キャパシタンスCshの追加により変化されないままであり、よって、上記の式[5]によって与えられる周波数Fに配置される。通過帯域に配置される1つのゼロ反射は、回路Lm1及びCm1によって形成される有効な共振(つまり、弾性共振器Zの共振)である。
【0040】
したがって、ゼロ伝送は、キャパシタンスCshの追加により変化されないままであり、よって、上記の式[5]によって与えられる周波数Fに配置される。通過帯域に配置される1つのゼロ反射は、キャパシタンスCshと並列な回路Lm1、Cm1及びC01によって形成される有効な共振(つまり、弾性共振器Zの反共振)であり、以下によって与えられる。
【数9】
式[6]のゼロ反射Fと式[9]のゼロ反射F’との関係は、値を集中素子に割り当て、式[6]及び[9]を解くことによって求められる。Lm1=Cm1=C01=1と設定し、F=k/√0.5、
【数10】
ここでkは定数である。Csh=0のとき、F=F’。正の値のCshについて、F’<Fb。
【0041】
上記から理解されうるように、シャント共振器Zと並列なキャパシタンスCshを追加するによって、ゼロ伝送Fの位置に影響を与えないが、周波数においてゼロ反射FをF’へ下げさせる。フィルタマッチが影響を受ける(減衰される)ので、ゼロ伝送Fは、その元の応答へフィルタマッチを戻すために上がり、これは、フィルタ帯域幅も狭くする。得られたフィルタは、通過帯域の下部側で急峻な裾を有する。
【0042】
ここで図17a‐17cを参照すると、キャパシタンスCseは、元のフィルタ回路300のインライン弾性共振器Zと並列に加えられ(図17a)、インライン弾性共振器Zは、新たなフィルタ回路300’’を形成するために、図3に示されるMBVDモデル110と置き換えられ(図17b)、これは、元のフィルタ回路300の|S21|周波数応答と比較した|S21|周波数応答を生じる(図17c)とする。
【0043】
新たなフィルタ回路300’’では、通過帯域に配置されるゼロ反射は、Lm2及びCm2によって形成される有効な共振(つまり、弾性共振器Zの共振)である。したがって、ゼロ反射は、キャパシタンスCseの追加により変化されないままであり、よって、上記の式[7]によって与えられる周波数Fに配置される。通過帯域の右端に配置されるゼロ伝送は、回路Lm2、Cm2及びC02によって形成される有効な共振(つまり、弾性共振器Zの反共振)であり、以下によって与えられる。
【数11】
式[8]のゼロ伝送Fと式[10]のゼロ伝送F’との関係は、値を集中素子に割り当て、式[8]及び[10]を解くことによって求められる。Lm2=Cm2=C02=1と設定し、F=k/√0.5、
【数12】
ここでkは定数である。Cse=0のとき、F=F’である。正の値のCseについて、F’<Fd。
【0044】
上記から理解されうるように、インライン共振器Zと並列なキャパシタンスCseを追加するによって、ゼロ反射F,の位置に影響を与えないが、周波数においてゼロ伝送FをF’へ下げさせる。フィルタマッチはあまり影響を受けず、得られたフィルタの周波数応答は、より狭く、通過帯域の高い側でもより急峻である。
【0045】
よって、弾性フィルタのシャント共振器と並列にキャパシタンスを追加することによって、通過帯域の下端を狭くかつ急峻にし、弾性フィルタのインライン共振器と並列にキャパシタンスを追加することによって、通過帯域の上端を狭くかつ急峻にする。弾性フィルタのシャント及びインライン共振器の双方と並列なキャパシタンスを追加することによって、通過帯域の両端を狭くかつ急峻にする。よって、狭フィルタは、より広い帯域幅フィルタ用に通常用いられる圧電材料により実現されうる。弾性フィルタを狭くすることによって、通過帯域挿入損失が増加し、フィルタの裾は急峻になる。通過帯域の急峻性の増加の利益は、帯域端から拒絶周波数への顧客仕様を最大化するために、フィルタ全体を周波数的に上げる又は下げることによって、実現されうる。
【0046】
弾性フィルタのシャント共振器と並列なキャパシタンスを追加することによって、上部ブラッグ帯域共振を通過帯域から更に有効に移動する。例えば、図18を参照すると、追加した並列なキャパシタンスのない従来のシャント共振器の(実インピーダンスについての)周波数応答と、1.0pFの追加した並列なキャパシタンスを有する改善されたシャント共振器の(実インピーダンスについての)周波数応答とが比較されうる。従来の弾性共振器及び改善された弾性共振器の双方の共振器は同一であり、マーカーm1で示される(1.898GHz)。同様に、従来の弾性共振器及び改善された弾性共振器の双方の上部ブラッグ帯域周波数は同一であり、マーカーm4及びm5で示される(2.028GHz)。従来の弾性共振器の反共振は、マーカーm3で示され(1.964GHz)、改善された弾性共振器の反共振は、マーカーm2で示される(1.964GHz)。理解されうるように、従来の弾性共振器について、マーカーm4での上部のブラッグ帯域は、64MHzのマーカーm3での反共振よりも高く、一方で、改善された弾性共振器について、マーカーm5での下部のブラッグ帯域は、82MHzのマーカーm2での反共振よりも高い。よって、反共振がバンドパスフィルタの通過帯域の中央に下がるように、改善された弾性共振器が設計される場合、追加並列キャパシタンスは、通過帯域から高い側に離れた上部のブラッグ帯域を押す。
【0047】
本発明の特定の実施形態が示されかつ説明されているが、上記の説明は、本発明をこれらの実施形態に限定することを意図するものではないことが理解されるべきである。本発明の趣旨及び範囲から逸脱せずに様々な変更及び修正がなされることは当業者には明らかであろう。例えば、本発明は、単一の入力及び出力を有するフィルタを遥かに優れた用途を有し、本発明の特定の実施形態は、デュプレクサ、マルチプレクサ、チャネライザ、リアクティブスイッチ等を形成するために用いられてもよく、ここで低損失選択回路が用いられてもよい。よって、本発明は、特許請求の範囲によって規定される本発明の趣旨及び範囲内の変形、修正及び等価物に及ぶことが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11a
図11b
図12
図13a
図13b
図13c
図14
図15
図16a
図16b
図16c
図17a
図17b
図17c
図18