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特許7099965吸着材料を使用して試料から抽出された分析物を分析するためのシステムおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】吸着材料を使用して試料から抽出された分析物を分析するためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20220705BHJP
   G01N 1/40 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
G01N27/62 F
G01N1/40
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018562578
(86)(22)【出願日】2017-06-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-05
(86)【国際出願番号】 US2017035649
(87)【国際公開番号】W WO2017210536
(87)【国際公開日】2017-12-07
【審査請求日】2020-03-19
(31)【優先権主張番号】62/345,161
(32)【優先日】2016-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】598063203
【氏名又は名称】パーデュー・リサーチ・ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】PURDUE RESEARCH FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】オウヤン, ゼン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン, ウェンペン
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-197444(JP,A)
【文献】特表2008-532019(JP,A)
【文献】特表2005-529335(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0116597(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0325423(US,A1)
【文献】特表2005-519669(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0325423(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62-27/68
G01N 1/00-1/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料から分析物を抽出するための方法であって、
試料をキャピラリー中に導入する工程と、
プローブを前記キャピラリーに挿入する工程であって、前記プローブは、細長い本体の少なくとも一部の上に吸着材料を含む前記細長い本体を含み、前記プローブは、前記吸着材料が前記試料中に侵入するように前記キャピラリー内にフィットするように構成されている、工程と、
少なくとも1種の分析物が前記試料から抽出されて吸着材料に結合するように、前記キャピラリー内で前記試料を前記プローブの前記吸着材料と相互作用させる工程と、
前記プローブの前記吸着材料を抽出溶媒と相互作用させる工程であって、
(i)前記吸着材料が前記抽出溶媒に侵入する方式で、前記プローブを前記試料から前記キャピラリー内に既に存在する前記抽出溶媒中に移動させ、ここで、前記試料は前記抽出溶媒と非混和性であること、または
(ii)前記プローブが挿入された後に前記試料を前記キャピラリーから除去し、前記吸着材料が前記抽出溶媒と相互作用する方式で、前記抽出溶媒を前記キャピラリーに導入すること
のうちの少なくとも1つによって、相互作用させる工程と、
前記少なくとも1種の分析物を前記吸着材料から溶出するために前記抽出溶媒を前記吸着材料と相互作用させる工程と
を含む方法。
【請求項2】
前記抽出された分析物を分析する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
分析する工程が、
前記キャピラリー中の前記少なくとも1種の分析物を含む前記抽出溶媒に電圧を印加して、その結果、前記分析物が前記キャピラリーから排出され、それによって前記分析物のイオンを生じる工程と、
前記イオンを分析する工程と
を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
分析する工程が、
前記少なくとも1種の分析物を含む前記溶媒を前記キャピラリーから除去する工程と、
前記分析物を分析するアッセイを行う工程と
を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記吸着材料が、前記少なくとも1種の分析物と反応する1種または複数種の分子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記1種または複数種の分子と前記少なくとも1種の分析物との間で反応を行い、反応生成物を生成する工程をさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記反応生成物を分析する工程をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記抽出溶媒が、前記少なくとも1種の分析物と反応する1種または複数種の分子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記1種または複数種の分子と前記少なくとも1種の分析物との間で反応を行い、
反応生成物を生成する工程をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記反応生成物を分析する工程をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記吸着材料が内部標準を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記内部標準が、前記抽出溶媒によって前記吸着材料から溶出される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記内部標準と前記1種または複数種の分析物を分析する工程をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2016年6月3日に出願された米国仮出願第62/345,161号の利益および優先権を主張し、この米国仮出願の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、一般的に、吸着材料を使用して試料から抽出された分析物を分析するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
質量分析(MS)は、標的化合物の分子量および化学構造に基づく特定の分子情報を提供する、複雑な混合物の分析のための強力なツールである。伝統的に、複雑な生物医学的試料は、通常、マトリックスの作用を最小限にするためおよび分析物を事前濃縮するために、MS分析に先立って、高速液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーおよび電気泳動などのクロマトグラフィー技法を使用して分離される。アンビエントイオン化方法の開発に伴い、現在では、分離手順を用いずに、複雑な生物医学的試料の迅速かつ直接的な分析のために、直接MS分析を実施することができる。一方、試料の消費量が少なく、時間の短縮された簡単なプロトコールが、定性的および定量的分析に対して依然として望まれている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
概要
本発明は、液体-固相-液体抽出のための新たな手法を提供し、イオン化プロセスと組み合わされる試料の調製と前処理を可能とするシステムおよび方法も提供する。特に、本発明は、直径の非常に小さいキャピラリー(例えば、内径が500μm程度の小さいキャピラリー)中で行われる液体-固相-液体抽出を可能とする。キャピラリー中の液体は、前後に移動させてもよく、これにより抽出プロセスの制御を可能とする、すなわち、抽出のオンとオフを切り替えることができる。この動きが試料と固相材料との相互作用を引き起こし、試料から固相材料上への、1種または複数種の標的分析物の抽出につながる。次いで、抽出溶媒が使用され、固相材料から標的分析物が溶出される。細いキャピラリーを使用することに関する付加利益は、定量的分析に対して、少量の試料を扱うことができることである。
【0005】
さらに、抽出キャピラリーはイオン化プローブとして役立つことが可能である。そのようにして、本発明は、試料中の標的分析物が、別々の試料の調製および前処理のプロトコールを行わずに抽出され、質量分析によって分析されることを可能にするシステムおよび方法を提供する。むしろ、本発明のシステムおよび方法は、試料の調製および事前濃縮がイオン化プローブ内で行われるように構成される。次いで、精製された分析物を、試料の調製および前処理が生じたイオン化プローブから直接イオン化し(必須ではないが)、質量分析計へと注入することができる。
【0006】
本発明の態様は、固相抽出材料を使用して達成される。溶媒および試料は、本発明のイオン化プローブ内に置かれる。試料由来の1種または複数種の標的分析物は、固相抽出材料上に抽出され、一方で、試料の非標的構成成分(例えば、尿中の塩)は、試料中に残存する。次いで、抽出溶媒を使用して、固相抽出材料から標的分析物を溶出する。次いで、電極を、イオン化プローブの本体内の抽出溶媒に作動可能に連結し、標的分析物をイオン化し質量分析計へと注入する。そのようにして、試料の調製および前処理がイオン化プロセスと組み合わされ、溶媒に電圧を印加した場合に、標的分析物が、電荷について、試料の非標的構成成分と競合する必要がない。したがって、本発明のシステムおよび方法は、マトリックスの作用を有効に抑制し、試料、特に生物学的試料、例えば、血液、唾液、尿、または脊髄液由来の標的分析物のよりよいイオン化を可能とする。本発明のシステムおよび方法は、試料由来の標的分析物を抽出溶媒中に事前濃縮し、それによって、高価なクロマトグラフ装置および時間を消費する分離プロトコールを避ける、およびポイントオブケアの試料分析システムおよび方法を可能にするという付加利益も有する。
【0007】
ある特定の実施形態では、本発明は、試料をキャピラリー中に導入すること、少なくとも1種の分析物が試料から抽出されて吸着材料に結合するようにキャピラリー内の試料をキャピラリー内の吸着材料と相互作用させること、抽出溶媒をキャピラリー内に導入すること、および少なくとも1種の分析物を吸着材料から溶出するために抽出溶媒を吸着材料と相互作用させることを伴う、試料から分析物を抽出するための方法を提供する。ある特定の実施形態では、キャピラリーは、溶媒のフローと別個に(すなわち、分離されてまたは接続を断たれて)保たれる。代わりに、試料および抽出溶媒は、本発明の方法を行うために、キャピラリー中に等分される。使用される手法に応じて、抽出溶媒は、試料と非混和性であっても、試料と混和性であってもよい。
【0008】
キャピラリー内に吸着材料を有するための多数の異なる手法が存在する。1つの手法では、吸着材料は、キャピラリーの壁の一部をコーティングしている。このような手法では、1回目に、試料を吸着材料と相互作用させるようにキャピラリーを移動させ、次いで、2回目に、抽出溶媒を、試料が吸着材料と相互作用した後の吸着材料と相互作用させるように移動させる。ある特定の実施形態では、試料および抽出溶媒が両方ともキャピラリー内に存在し、エアギャップによって互いに分離されている。他の実施形態では、試料と溶媒は、お互いと混合することなく互いに接触する、すなわち、試料と溶媒は、互いに非混和性である。
【0009】
別の手法では、プローブは、吸着材料を含み、キャピラリー内にフィットするように構成されている。次いで、吸着材料が試料に侵入する方式で、プローブがキャピラリー内の試料中に挿入される。次いで、吸着材料が抽出溶媒に侵入する方式で、プローブが、試料から、キャピラリー内に既に存在する抽出溶媒中に移動させられる。あるいは、試料はキャピラリーから除去され、吸着材料が抽出溶媒と相互作用する方式で抽出溶媒がキャピラリーに導入される。
【0010】
本発明の方法は、抽出した分析物を分析することをさらに伴ってもよい。ある特定の実施形態では、分析することは、キャピラリー中の少なくとも1種の分析物を含む抽出溶媒に電圧を印加して、その結果、分析物がキャピラリーから排出され、それによって分析物のイオンを生じることと、イオンを分析することとを伴う(オンライン手法)。他の実施形態では、分析することは、少なくとも1種の分析物を含む溶媒をキャピラリーから除去することと、分析物を分析するアッセイを行うこととを伴う(オフライン手法)。
【0011】
本発明の方法は、試料中の標的分析物との反応を行うことも伴ってもよい。ある特定の実施形態では、吸着材料は、少なくとも1種の標的分析物と反応する1種または複数種の分子を含み、反応が、1種または複数種の分子と少なくとも1種の標的分析物との間で行われて反応生成物を生成し、その後、これを上記の手法(例えば、オンライン手法またはオフライン手法)のいずれかによって分析することができる。他の実施形態では、抽出溶媒は、少なくとも1種の標的分析物と反応する1種または複数種の分子を含み、反応が、1種または複数種の分子と少なくとも1種の標的分析物との間で行われて反応生成物を生成し、その後、これを上記手法(例えば、オンライン手法またはオフライン手法)のいずれかによって分析することができる。
【0012】
ある特定の実施形態では、吸着材料は、内部標準を含む。内部標準は、抽出溶媒によって吸着材料から溶出されてもよい。方法は、上記手法(例えば、オンライン手法またはオフライン手法)のいずれかを使用して、内部標準および1種または複数種の標的分析物を分析することをさらに伴ってもよい。このような実施形態では、分析することは、定量的方式で実施されてもよい。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
試料から分析物を抽出するための方法であって、
試料をキャピラリー中に導入する工程と、
少なくとも1種の分析物が前記試料から抽出されて吸着材料に結合するように、前記キャピラリー内の前記試料を前記キャピラリー内の前記吸着材料と相互作用させる工程と、
抽出溶媒を前記キャピラリー中に導入する工程と、
前記少なくとも1種の分析物を前記吸着材料から溶出するために前記抽出溶媒を前記吸着材料と相互作用させる工程と
を含む方法。
(項目2)
前記吸着材料が、前記キャピラリーの壁の一部をコーティングしている、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記キャピラリーが1回目に、前記試料を前記吸着材料と相互作用させるように移動させられ、次いで2回目に、前記抽出溶媒を、前記試料が前記吸着材料と相互作用した後の前記吸着材料と相互作用させるように移動させられる、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記試料および前記抽出溶媒が、両方とも前記キャピラリー内に存在し、エアギャップによって互いに分離されている、項目3に記載の方法。
(項目5)
プローブが前記吸着材料を含み、前記プローブが前記キャピラリー内にフィットするように構成されている、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記吸着材料が前記試料に侵入する方式で、前記プローブが前記キャピラリー内の前記試料中に挿入される、項目5に記載の方法。
(項目7)
前記吸着材料が前記抽出溶媒に侵入する方式で、前記プローブが、前記試料から、前記キャピラリー内に既に存在する前記抽出溶媒中に移動させられる、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記試料が前記キャピラリーから除去され、前記吸着材料が前記抽出溶媒と相互作用する方式で前記抽出溶媒が前記キャピラリーに導入される、項目6に記載の方法。
(項目9)
前記抽出された分析物を分析する工程をさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目10)
分析する工程が、
前記キャピラリー中の前記少なくとも1種の分析物を含む前記抽出溶媒に電圧を印加して、その結果、前記分析物が前記キャピラリーから排出され、それによって前記分析物のイオンを生じる工程と、
前記イオンを分析する工程と
を含む、項目9に記載の方法。
(項目11)
分析する工程が、
前記少なくとも1種の分析物を含む前記溶媒を前記キャピラリーから除去する工程と、
前記分析物を分析するアッセイを行う工程と
を含む、項目9に記載の方法。
(項目12)
前記溶媒が、前記試料と非混和性である、項目1に記載の方法。
(項目13)
前記溶媒が、前記試料と混和性である、項目1に記載の方法。
(項目14)
前記吸着材料が、前記少なくとも1種の標的分析物と反応する1種または複数種の分子を含む、項目1に記載の方法。
(項目15)
前記1種または複数種の分子と前記少なくとも1種の標的分析物との間で反応を行い、反応生成物を生成する工程をさらに含む、項目14に記載の方法。
(項目16)
前記反応生成物を分析する工程をさらに含む、項目15に記載の方法。
(項目17)
分析する工程が、
前記キャピラリー中の前記反応生成物を含む前記抽出溶媒に電圧を印加して、その結果、前記反応生成物が前記キャピラリーから排出され、それによって前記分析物のイオンを生じる工程と、
前記イオンを分析する工程と
を含む、項目16に記載の方法。
(項目18)
分析する工程が、
前記反応生成物を含む前記抽出溶媒を前記キャピラリーから除去する工程と、
前記反応生成物を分析するアッセイを行う工程と
を含む、項目6に記載の方法。
(項目19)
前記抽出溶媒が、前記少なくとも1種の標的分析物と反応する1種または複数種の分子を含む、項目1に記載の方法。
(項目20)
前記1種または複数種の分子と前記少なくとも1種の標的分析物との間で反応を行い、
反応生成物を生成する工程をさらに含む、項目19に記載の方法。
(項目21)
前記反応生成物を分析する工程をさらに含む、項目20に記載の方法。
(項目22)
分析する工程が、
前記キャピラリー中の前記反応生成物を含む前記抽出溶媒に電圧を印加して、その結果、前記反応生成物が前記キャピラリーから排出され、それによって前記分析物のイオンを生じる工程と、
前記イオンを分析する工程と
を含む、項目21に記載の方法。
(項目23)
分析する工程が、
前記反応生成物を含む前記抽出溶媒を前記キャピラリーから除去する工程と、
前記反応生成物を分析するアッセイを行う工程と
を含む、項目21に記載の方法。
(項目24)
前記吸着材料が内部標準を含む、項目1に記載の方法。
(項目25)
前記内部標準が、前記抽出溶媒によって前記吸着材料から溶出される、項目24に記載の方法。
(項目26)
前記内部標準と前記1種または複数種の標的分析物を分析する工程をさらに含む、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記分析する工程が、定量的方式で実施される、項目26に記載の方法。

【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、コーティングされたキャピラリーをベースとする微量抽出の概略図を示す。
【0014】
図2図2のパネルAは、ポリ(EGDMA-co-AA)でコーティングされたキャピラリーの写真を示す。図2のパネルBは、ポリ(EGDMA-AA)層の走査電子顕微鏡写真を示す。
【0015】
図3図3は、ポリマーでコーティングされたキャピラリーによる抽出を利用した、健康なヒト血液試料中の脂肪酸のマススペクトルを示す。
【0016】
図4図4は、ウシ血液試料における脂肪酸の抽出効率に対する、抽出サイクルと試料体積の影響を示す。リノール酸-d11を内部標準として用い、酢酸エチル5μLを抽出溶媒として使用した。
【0017】
図5図5は、生体試料と溶出溶媒の間に空気のプラグを有する、コーティングされたポリマーに基づく微量抽出の概略図である。
【0018】
図6図6は、キャピラリー内抽出のための、コーティングされた金属ワイヤーの概略図である。
【0019】
図7図7のパネルA~Bは、ポリマーでコーティングされたキャピラリーによる抽出を利用した、ラット脊髄のスペクトルを示す。パネルAは、陰性モードにおけるフルスキャンを示し、パネルBは、陽性モードにおけるフルスキャンを示す。
【0020】
図8図8のパネルAは、内部標準の、コーティングされたキャピラリーに基づく微量抽出への導入の概略図である。図8のパネルBは、ウシ血液から抽出した脂肪酸18:2の強度とポリマーコーティングによって導入した2種の内部標準の強度の比を示すグラフである。
【0021】
図9A図9Aは、陰イオンモードにおける脂肪酸18:1(9Z)(5.0μM)と(11Z)(5.0μM)異性体混合物との混合物のPB反応のMSスペクトルを示す。
図9B図9Bは、図9Aで形成されたm/z339のPB-MS/MSスペクトルを示す。2種の脂肪酸18:1異性体の診断用イオンが示されている。
図9C図9Cは、2種の脂肪酸18:1C=Cの位置異性体の診断用イオン比(I11Z/I9Z)とモル比(c11Z/c9Z)との間に確立された線形関係を示すグラフである。
図9D図9Dは、ポリマーでコーティングされたキャピラリーによる抽出を利用した、ヒト血液試料由来の脂肪酸18:1異性体のPB-MS/MSスペクトルを示す。
【0022】
図10図10のパネルAは、ウシ、ヒトおよびラットの血液ならびに脊髄をホモジナイズした溶液中の脂肪酸18:1異性体の組成を示す。図10のパネルBは、正常なマウスとがんのマウスの胸部組織間の、脂肪酸C18:1由来のΔ11C=Cの位置異性体の相対的%の比較を示す。
【0023】
図11図11は、ミニチュア質量分析計における種々の構成要素とその配置を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
詳細な説明
本発明は、一般的に、吸着材料を使用して試料から抽出した分析物を分析するためのシステムおよび方法に関する。本発明の態様は、キャピラリーの修飾、連続的なキャピラリー内微量抽出、内部標準の導入、スプレー発生および引き伸ばされたガラスキャピラリー(pulled glass capillary)中での任意選択のオンライン化学反応を統合し、複雑な混合物の迅速な定性的かつ定量的分析に対して有用である、キャピラリー試料前処理方法について記載する。ある特定の実施形態では、キャピラリーの内側表面は、吸着材料の層で修飾されている。分析物の抽出は、3つの相、すなわち、試料溶液、溶出のための有機溶媒およびコーティングされた吸着剤の間での分子交換によって達成される。試料溶液のプラグが吸着剤領域中で移動する際に、分析物は、まず、コーティングされた吸着剤上に吸着される。次いで、吸着された分析物が有機溶媒のプラグ中へと溶出される。このプロセスを多数回繰り返して分析物を有機溶媒中に富化させる(図1)。キャピラリーは、オンラインまたはオフラインで使用され、ナノESI-MSと連結することができる。各抽出サイクルで、有機溶媒中に抽出することができる分析物の量(n)は、以下に見られる方程式(1)(式中、Cは、抽出前の試料溶液中の分析物濃度であり、VおよびVはそれぞれ、試料およびコーティングの体積であり、Kは、コーティングと試料マトリックスとの間の分析物の分配係数であり、aは、コーティングから分析物を溶出する有機相の溶出速度である)によって推定することができる。
【数1】
【0025】
抽出と抽出された試料の分析の他の態様は、例えば、Ouyangら(米国特許出願公開第2016/0201051号)(その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0026】
コーティングされたキャピラリーに基づく微量抽出-ナノESIの性能は、まず、血液試料中の遊離脂肪酸の直接的プロファイルによって調査された。ポリ(エチレングリコールジメタクリレート-co-アクリルアミド)(ポリ(EGDMA-co-AA))の薄層をガラスキャピラリーの内側表面で合成した。ポリマーの薄層は、生体試料とポリマーの表面の接触を促進し、かつ抽出効率を高める多数の大きな孔、メソ細孔、およびミクロ細孔を有するポリ多孔性(polyporous)であった(図2のパネルA~B)。酢酸エチルは、ポリ(ポリ(EGDMA-co-AA))層からの脂肪酸に対するその良好な溶出能により、有機溶媒として使用された。抽出は1~2分で完了し、次いで、抽出物を含む酢酸エチルをナノESI-MS分析のために注入した。5μL程度の少量の生のヒト血液試料を使用することによって、遊離酸に対するいくつかのピークを見出すことができる(図3)。報告されたデータにより、少なくとも24種の脂肪酸が同定された。ラットの血液およびウシの血液を分析した。
【0027】
各抽出サイクルでコーティング上に吸着させることができるのは、ほんの少量の分析物に過ぎないが、抽出効率を非常に容易かつ簡単に上昇させるためにより多くの回数のサイクルを適用することができる。内部標準としてリノール酸-d11でスパイクされたウシ血液を使用することによって、抽出サイクルの効果について研究した(図4A)。約50回が抽出平衡を達成するために要求されたが、抽出のための合計時間は1分程度に短くなる可能性があった。典型的には、有機相と血液試料の比は1:1(5μLと5μL)である。しかし、血液試料の体積は、有機相の体積の数倍に大きくなるように増加させることができる。抽出された脂肪酸は、血液体積の増加に伴って着実に増加した(図4B)。
【0028】
血液と有機溶媒のプラグは、抽出操作を単純にする目的で、互いに接続した。しかし、血液と有機相との間の分析物の交換は、有機相中に溶出された分析物が血液試料へと分散して戻る可能性があるため、本方法の最終的な抽出効率を制限する場合がある。約5mmの空気のプラグは、生体試料と抽出溶媒との間に残ることができる(図5)。このような実施形態では、生体試料と抽出溶媒は抽出プロセスの最中に互いに接触せず、これによって、生体試料と抽出溶媒との間の分析物の交換を制限することができ、結果として抽出効率は増加することになる。
【0029】
吸着剤は、鉄鋼ワイヤーなどの細い金属ワイヤー上にもコーティングされうる。生体試料および溶出溶媒も1つずつキャピラリー中に注入される。コーティングされた鉄鋼を生体試料溶液中に挿入すると吸着が起こり、コーティングされた鉄鋼を溶出溶媒中に挿入するとすぐに脱着が起こる(図6)。血液中の脂質の抽出を例に挙げる。酢酸エチル5μLおよび血液5μLがガラスキャピラリー中に注入される。ポリマーでコーティングされた鉄鋼ワイヤーを、まず血液中に挿入し、いくつかの脂質をコーティング上に吸着させる。コーティングされたワイヤーを酢酸エチル中へ移動させ続けると、コーティング上に吸着された脂質は酢酸エチル中に脱着されることになる。血液と酢酸エチルとの間でコーティングされた鉄鋼ワイヤーを繰り返し移動させることによって、脂質は酢酸エチル中に富化されることになる。
【0030】
コーティングされたキャピラリーは、血液試料、および組織をホモジナイズした溶液試料を含む液体試料に適用することができる。ポリマーでコーティングされたキャピラリーによるラット脊髄の抽出の調査を実施した。最初に、健康なラットの脊髄をPBS溶液中でホモジナイズした;ラット脊髄の濃度は0.05mg/mL程度の低い濃度である可能性があった。次いで、酢酸エチル5μLおよびラット脊髄をホモジナイズした溶液をポリ(EGDMA-co-AA)キャピラリー中に押し込み、キャピラリー内抽出を実施した。ラット脊髄をホモジナイズした溶液中の脂肪酸は、十分に抽出され、MSによって検出することができる(図7のパネルA~B)。ホスホコリン(PC)およびホスホエタノールアミン(PE)などの、いくつかの他の種類の脂質も抽出され、ラット脊髄試料中で検出された。いかなる特定の理論にも作用メカニズムにも限定されるものではないが、小さな組織片をポリ多孔性ポリマーコーティングによって吸着することができ、次いで、これらの組織中のPCおよびPEは酢酸エチルで溶出および富化されると考えられる。
【0031】
キャピラリーの内側のコーティングは、抽出または分析用の内部標準の導入のための基質として使用することができる。2種の同位体により標識された脂肪酸、リノール酸-d11およびドコサヘキサエン酸-d5を、血液試料中の脂肪酸の抽出および分析用の内部標準として使用した。最初に、リノール酸-d11とドコサヘキサエン酸-d5を酢酸エチル中に溶解させた;次いで、その溶液の1μLをポリマー層上に注意深く注入した。ポリ多孔性ポリマー層は溶液を吸着することができ、乾燥後、内部標準がポリマー上に保持されて、内部標準の固定化を実現することとなる。典型的な抽出では、酢酸エチルおよび血液試料がキャピラリー内に導入されたとき、内部標準がポリマー層から溶出されて、液体のプラグの一方または両方へ溶解し、内部標準の導入が実現することとなった。この方法の再現性は良好であり、5回の反復抽出の場合、相対標準偏差が12.8%未満であった(図8のパネルA~B)。
【0032】
コーティングされたキャピラリーに基づく微量抽出の別の適用は、生の生体試料における脂質のC=Cの位置異性体の迅速な同定と定量化である。抽出を、オンライン光化学反応であるPaterno-Buchi(PB)反応(この反応では、アセトンが250nmのUV照射に対するPB試薬として使用された)と連結した。PB反応生成物のイオンは、完全な(intact)不飽和脂質へのアセトン付加による+58Daの質量シフトを有する。生成物のCIDは、元のC=C位置における開裂を引き起こし、C=C診断用イオンを与え、これをC=C位置決定に使用した(図9A~C)。生の血液および組織試料中のFA18:1のC=C異性体の決定について調査した。酢酸エチルと血液5μLとを抽出用のポリ多孔性のポリ(EGDMA-co-AA)でコーティングされたキャピラリー中に導入した。抽出後、酢酸エチルを窒素によるスパージング(これにちょうど30秒かかる)によって蒸発させた。抽出物の残留画分をアセトニトリル/水(1:1、v/v)によって分離して、光化学反応およびナノESI-MS分析用の引き伸ばされたキャピラリーの先端(pulled capillary tip)中にロードした。合計時間2~3分で、生の血液または組織試料中のFA18:1のC=C異性体、すなわち、Δ9とΔ11異性体の比を得ることができる(図9D)。これは、通常、1時間より長くかかる従来の抽出方法によって得られる場合より、はるかに速い。ヒト血液、ウシ血液、ラット血液およびラット脊髄をホモジナイズした溶液を含む4種の試料を調査した。健康な状態の生体試料と疾患状態の生体試料との間のFA18:1のC=C異性体の比の差を決定するために、本方法を試みた(図10のパネルA~B)。Δ11異性体は、脂肪酸18:1について、マウスのがん胸部組織において有意な増加(***P<0.0005)が見られた(23.4±0.9%対4.1±0.4%、がん対正常)。
【0033】
他の材料もキャピラリー内で修飾されてよい。例えば、親水性ポリマー層の修飾によって、キャピラリー内微量抽出方法が、生の血液または組織試料中の極性脂質、代謝産物または薬物の抽出に使用される可能性がある。二酸化チタンなどの特定の構成成分またはホウ酸基を含有する材料の修飾によって、キャピラリー内微量抽出方法が、リン酸化合物または多糖の抽出に使用されてもよい。
【0034】
キャピラリー中のコーティングは、生物学的/化学的反応のプラットフォームであってもよい。例えば、生体試料または任意の他の種類の試料の溶液がキャピラリー中に導入されたときに酵素反応を引き起こすように、酵素がコーティング上に固定化されてもよい。生成物は、さらなる反応または分析のために、抽出溶媒のプラグによって迅速に抽出される可能性がある。いくつかの反応性化合物はコーティング上で修飾されて、コーティングの中で化学反応を引き起こす。生成物は、さらなる反応または分析のために、抽出溶媒のプラグによって迅速に抽出される。いくつかの反応は、複雑な生物学的マトリックスによって中断されてよい;コーティングは、問題を解決するための中間ゾーンである可能性がある。例えば、試料と抽出溶媒のプラグの間に空気のプラグを置くことによって、試料溶液がコーティングを通って流れると、試料中の分析物がコーティング上に吸着する。抽出溶媒がコーティングを通って流れると、試料溶液を接触させることなく、さらなる反応のための分析物を得ることになる。
【0035】
イオンを分析するための多数の方法が存在する。ある特定の実施形態では、分析することは、イオンを質量分析計またはミニチュア質量分析計の質量分析器に導入することを伴う。当技術分野で公知の任意のタイプの質量分析計は、本発明のプローブを用いて使用することができる。例えば、質量分析計は、標準のベンチトップ質量分析計でありうる。他の実施形態では、質量分析計は、ミニチュア質量分析計である。例示的なミニチュア質量分析計は、例えば、Gaoら(Anal. Chem.、2006年、78巻、5994~6002頁)に記載されており、その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。数千ワットの出力を有する実験室スケールの機器で使用するポンプ系統と比較して、ミニチュア質量分析計は、一般的に、Gaoらに記載されているシステム用の5L/分(0.3m/時)のダイヤフラムポンプと11L/秒のターボポンプのみを有する18Wのポンプ系統などのより小規模のポンプ系統を有する。他の例示的なミニチュア質量分析計は、例えば、Gaoら(Anal. Chem.、2008年、80巻、7198~7205頁)、Houら(2011年、Anal. Chem.、83巻、1857~1861頁)、およびSokolら(Int. J. Mass Spectrom.、2011年、306巻、187~195頁)に記載されており、これらの各々の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。ミニチュア質量分析計は、例えば、Xuら(JALA、2010年、15巻、433~439頁)、Ouyangら(Anal. Chem.、2009年、81巻、2421~2425頁)、Ouyangら(Ann. Rev. Anal. Chem.、2009年、2巻、187~214頁)、Sandersら(Euro. J. Mass Spectrom.、2009年、16巻、11~20頁)、Gaoら(Anal. Chem.、2006年、78巻、5994~6002頁)、Mulliganら(Chem. Comm.、2006年、1709~1711頁)、およびFicoら(Anal. Chem.、2007年、79巻、8076~8082頁)にも記載されており、これらの各々の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0036】
ある特定の実施形態では、質量分析計の注入口はイオン化プローブから離れた位置にあり、イオン移送部材が使用されて、より長い距離にわたって移送する。例示的なイオン移送部材は、例えば、Ouyangら(米国特許第8,410,431号)に記載されており、その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0037】
ある特定の実施形態では、本発明のイオン化プローブは、空気式助力なしで作動する。すなわち、本発明のプローブを用いる場合、分析物を輸送するのに空気式助力は必要とされず、むしろ、質量分析計の前で保持されている基質に、電圧が単に印加されるだけである。しかし、ある特定の実施形態では、噴霧ガスを本発明のシステムと共に使用して、脱溶媒和を補助してもよい。噴霧ガスは、律動的に送り込まれても、連続フローとして提供されてもよい。他の実施形態では、ガス発生デバイスは、プローブに作動可能に連結され、その結果、それは、試料および溶媒をプローブの遠位端に押し込むために、中空体中にガスを注入することができる。ガスは、典型的には、窒素またはアルゴンなどの不活性ガスであるが、空気である可能性もある。
【0038】
ある特定の実施形態では、イオン化プローブは、溶媒の連続フローなどの溶媒のフローと別個に(すなわち、分離されてまたは接続を断たれて)保たれる。代わりに、別個の量の溶媒および試料がプローブの中空体中に導入される。次いで、プローブは電圧電源に接続されて、試料のイオンを生成し、このイオンは続いて質量分析される。試料は、分離溶媒フローを必要とせず、中空体を通って輸送される。以前に述べたように、分析物を輸送するのに空気式助力は必要とされず、むしろ、質量分析計の前で保持されている抽出された分析物を含むプローブ中の溶媒に、電圧が単に印加されるだけである。
【0039】
本発明は、キャピラリーに必ずしも限定されず、他の中空体を、本発明の方法と共に使用することができる。中空体は、プローブ中にロードされる溶媒のスプレーを吐出させるための遠位端を有することができる。例示的な中空体は、遠位端を有するナノESIプローブキャピラリーである。例示的なナノESIプローブは、例えば、Karasら(Fresenius J. Anal. Chem. 2000年、366巻、669~76頁)およびEl-Faramawyら(J. Am. Soc. Mass. Spectrom.、2005年、16巻、1702~1707頁)のそれぞれに記載されているおり、これらの各々の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。ナノESIのニードルは、Proxeon Biosystems(Odense、Denmark)およびNew Objective Inc(Woburn、MA)から市販されている。他の実施形態では、このシステムは、1つまたは複数のスプレー端と1つまたは複数の電極とを含有する試料カートリッジを含んでもよい。
【0040】
例示的な中空体は、引き伸ばされた先端を有する内径0.86mmのホウケイ酸ガラスキャピラリーである。該先端は、典型的には、約2μmから約50μmまでの直径を有する。プラスチックおよびゴムのチューブも中空体に使用することができる。例えば、中空体は、PEEKチューブ(ポリエーテルエーテルケトンポリマーチューブ)またはTEFLON(登録商標)チューブ(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ポリマーチューブ)またはTYGONチューブ(様々な基材からなる可撓性チューブ)から構成されうる。
【0041】
例示的な中空体は、引き伸ばされた先端の有無にかかわらず、0.5mmまたは0.25mmの内径の溶融シリカキャピラリーである。
【0042】
本発明の方法は、有機または非有機、生物学的または非生物学的などの任意のタイプの試料と共に使用することができる。ある特定の実施形態では、試料は、生物学的組織に由来するか、または血液、尿、唾液もしくは脊髄液などの生物学的流体である。試料は、分析される目的の分析物を含んでもよい。その分析物は、試料に固有のものである可能性があり、または試料中に導入されていてもよい。例示的な分析物として、治療薬、依存性薬物およびバイオマーカーが挙げられる。本発明のシステムおよび方法を使用して、マトリックス作用の有効な抑制が、例えば、治療薬、依存性薬物およびバイオマーカーに対して達成される。ある特定の実施形態では、本発明のシステムおよび方法を生物流体試料または液体試料の直接分析に使用することができる。
【0043】
溶媒は、試料の抽出とイオン化の両方に対して作用する任意の溶媒および理想溶媒であってもよい。典型的には、選択される溶媒は、分析される試料および/または試料中に存在すると考えられる目的の分析物に依存する。考慮される因子は、溶媒の極性である。溶媒が試料と非混和性である場合、理想的には、溶媒は、試料および/または試料中に存在すると考えられる目的の分析物とは異なる極性を有する。例えば、水性試料は、典型的には、高い極性を有し、したがって、溶媒のよい選択は、極性の低い有機溶媒となる(例えば、メタノールもしくは酢酸エチルまたはこれらの溶媒を含む混合物、例えば、水/メタノール混合物または水/酢酸エチル混合物)。油性試料は、典型的には、低い極性を有し、したがって、溶媒のよい選択は、水/メタノール混合物のような極性の高い溶媒となる。当業者は、分析される試料に基づいて、使用する適切な溶媒を決定することができる。
【0044】
溶媒についての別の考慮は、試料からの分析物の抽出にとって良好であることに加えて、それを使用して試料をイオン化することもできるということである。すなわち、溶媒は、抽出および抽出された分析物のイオン化の両方に対して適合性でありうる。メタノールおよび酢酸エチルは、分析物の抽出および分析物のイオン化に対して十分に作用し、一方で、クロロホルムは、分析物の抽出に対して十分に作用するが、分析物のイオン化に対しては十分に作用しない。典型的には、エレクトロスプレーイオン化と適合性のある溶媒は、その溶媒が試料と非混和性でもありかつ試料から分析物を抽出することができる限り、おそらく、本発明のシステムおよび方法と共に使用することができる。質量分析の経験を有する当業者は、エレクトロスプレーイオン化と適合性のある特定の溶媒を知っている。
【0045】
当業者は、試料および溶媒が中空体に導入される順序が問題ではないことを認識する。ある特定の実施形態では、溶媒は最初に導入され、試料は2番目に導入される。他の実施形態では、試料は最初に導入され、溶媒は2番目に導入される。ある特定の実施形態では、試料と溶媒は非混和性である。ある特定の実施形態では、1種超の溶媒が使用される。例えば、第1の溶媒と試料との間に位置する第2の溶媒を導入することができる(3相の実施形態)。第2の溶媒は、溶媒ブリッジとして作用することができ、このような実施形態では典型的には互いに混和性である試料および第1の溶媒と非混和性である。
【0046】
ある特定の実施形態では、試料および溶媒を穏やかに移動させる。これは、穏やかにキャピラリーを傾けることによって、または移動メカニズムの使用を介して、手動で行うことができる。例示的な移動メカニズムは、中空体内の空気圧力を変更することを利用して、前記体内の試料を押したり引いたりし、それによって穏やかな移動を引き起こすポンプである。他のメカニズムは、当業者に公知の標準試料撹拌器または混合機でありうる。ある特定の実施形態では、磁気ビーズを試料および抽出溶媒中に添加し、交互の磁場を印加することで試料および溶媒の内部の磁気ビーズの移動を誘導し、それによって、中空体内の吸着材料と相互作用する分析物を輸送するために中空体の内側の乱流を促進する。
【0047】
ある特定の実施形態では、分析される標的は、例えば、スプレーイオン化によって効率的にイオン化されない標的である。このような実施形態では、標的に荷電基を付与することができる薬剤を導入することによって標的分子を誘導体化し、これによって、それがイオン化をより受け入れやすくなることが有益である。例えば、ステロイドは、スプレーイオン化によってイオン化することが困難である。ヒドロキシルアミンなどの試料に薬剤を導入することにより、ステロイドに荷電基が付与されて、それがスプレーイオン化を受け入れやすくなる。
【0048】
ある特定の実施形態では、中空体は、前記体の表面上に電極が配置されないように構成される。代わりに、電極は、少なくとも部分的に、中空体内に配置される。例示的な実施形態では、電極は、中空体内へと延びる金属ワイヤーでありうる。典型的には、電極に使用される任意の金属を金属電極に使用することができる。この金属ワイヤーを高電圧電源などの電圧電源に接続する。金属ワイヤーは、任意の長さで中空体の中まで延びることができる。ある特定の実施形態では、金属ワイヤーは、中空体の遠位末端まで延びることができる。あるいは、金属ワイヤーは、著しくより短い可能性があり、前記体の中に向かって遠くまで延びる可能性はない。ワイヤーは、中空体の中に向かって十分に遠くまで延びて、該中空体に添加された溶媒と相互作用すべきなので、該中空体に添加された溶媒の量により金属ワイヤーの長さが決定される。
【0049】
金属ワイヤーは、中空体内で同軸上に配置されてよいが、これは必須ではない。典型的には、金属ワイヤーは、中空体の壁と接触しない。金属ワイヤー電極およびその連結部は、中空体に取り外し可能にまたは恒久的に取り付けられうる。ある特定の実施形態では、金属ワイヤー電極およびその連結部は、中空体に取り外し可能に取り付けられる。これは、中空体の近位端が、前記体中への流体の導入のためのポートとして作用することを可能にする。このような実施形態では、金属ワイヤー電極およびその連結部は、中空体から取り除かれて、開口部を残し、この開口部を通して流体が前記体中に導入される。いったん導入されると、金属ワイヤー電極およびその連結部は、中空体に取り付けられ、中空体を密閉する。
【0050】
他の実施形態では、取付は、恒久的取付であって、前記体に沿った1つまたは複数の別々の流体ポートが、流体を中空体に導入するために使用される。中空体への、金属ワイヤー電極およびその連結部の取付が、取り外し可能な取付である場合でも、中空体は、前記体に沿って1つまたは複数の別々のポートを依然として含み、流体を中空体に導入することができる。
【0051】
例示的な実施形態では、中空体内の液体への高電圧の導入は、スプレーの形態で中空体の遠位端から液体を吐出させる。質量分析計の注入口は、プローブから吐出された液体を受容するように作動可能に位置する。この距離は、典型的には、10mm未満であるが、試料からのシグナルが質量分析計内で生じることを可能にする任意の距離が適切である。この距離は、単に、プローブと質量分析計の注入口との間の間隔を調整し、質量分析計によって生じた読取値をモニタリングすることによって、当業者によって決定されうる。
【0052】
他の実施形態では、引き伸ばされた先端の外側の壁は、金属でコーティングされうる。高電圧は、スプレーイオン化のために金属コーティングを通して印加されうる。
【0053】
ある特定の実施形態では、1種超の分析物(例えば、複数の分析物)が試料から吸着材料上に抽出される。次いで、1種または複数種の抽出溶媒を使用して、吸着材料から複数の分析物を抽出する。すなわち、典型的には、分析物の極性と溶媒の極性とに基づいて、複数の分析物は、単一の溶媒を使用して同時に抽出することができるか、あるいは、分析物は、1種または複数種の溶媒を使用して吸着材料から差次的に溶出される。
【0054】
本発明の方法を2種の流体(ときには、2種の非混和性流体)を使用して議論してきたが、本発明のシステムおよび方法は2種の流体の使用に限定されない。例えば、3種の流体、4種の流体、5種の流体などの任意の数の流体を本発明のシステムおよび方法と共に使用することができる。ある特定の実施形態では、3種流体系が使用される。ある特定の例示的実施形態では、2種の混和性流体が、非混和性流体によって分離される。この例示的実施形態では、試料-溶媒ブリッジ-抽出/スプレー溶媒の極性は、高-低-高または低-高-低でありうる。
【0055】
ある特定の実施形態では、本発明のシステムおよび方法を、後に分析される試料を調製するために使用することもできる。抽出溶媒は、液体試料として保存してもよく、紙基質もしくはMALDIプレート上に堆積させ、乾燥させた試料スポットを調製してもよい。内部標準を、抽出プロセスの間、乾燥させた試料スポット中に組み込むことができる。標的分析物は、抽出プロセスの間、化学修飾されうる。
【0056】
他の実施形態では、中空体は、抽出キャピラリーがイオン化プローブとして使用されないため、遠位端を必要としない。そのような実施形態では、抽出は、単に、前述のように、キャピラリー中で行われる。抽出が完了した後、抽出された分析物を含有する溶媒は、キャピラリーから除去され、次いで、当技術分野で公知の任意の方法を使用して分析される。例えば、抽出された分析物を含有する溶媒が、別々のイオン化プローブの中にロードされ、次いで、質量分析法によって分析されてもよい。他の実施形態では、分析物は、当技術分野で公知の任意の分光法技法または他のアッセイなどの異なる方式で分析される。
【0057】
本発明のさらなる態様を以下にさらに記載する。
【0058】
イオン生成
当技術分野で公知のイオンを生成するための任意の手法を用いてもよい。質量分析のために、大気圧でイオン化供給源を利用する例示的質量分析技法は、エレクトロスプレーイオン化(ESI;Fennら、Science、1989年、246巻、64~71頁およびYamashitaら、J. Phys. Chem.、1984年、88巻、4451~4459頁);大気圧イオン化(APCI;Carrollら、Anal. Chem. 1975年、47巻、2369~2373頁)、および大気圧マトリックス支援レーザー脱離イオン化(AP-MALDI;LaikoらAnal. Chem.、2000年、72巻、652~657頁、およびTanakaらRapid Commun. Mass Spectrom.、1988年、2巻、151~153頁)を含む。これらの参考文献のそれぞれの内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0059】
直接的アンビエントイオン化/サンプリング方法を利用する例示的質量分析技法として、脱離エレクトロスプレーイオン化(DESI;Takatsら、Science、2004年、306巻、471~473頁および米国特許第7,335,897号)、リアルタイム直接分析(DART;Codyら、Anal. Chem.、2005年、77巻、2297~2302頁)、大気圧誘電体バリア放電イオン化(DBDI;Kogelschatz、Plasma Chem. and Plasma P.、2003年、23巻、1~46頁およびPCT国際公開WO2009/102766号)、湿った多孔性材料を使用するイオン生成(Paper Spray、米国特許第8,859,956号)およびエレクトロスプレー支援レーザー脱離/イオン化(ELDI;Shieaら、Rapid Comm. Mass Spectrom.、2005年、19巻、3701~3704頁)が挙げられる。これらの参考文献のそれぞれの内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0060】
イオンの生成は、Ouyangらの米国特許第8,859,956号(その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に示されるように、試料を多孔性材料上に置き、多孔性材料または他のタイプの表面から試料のイオンを生成することによって達成することができる。あるいは、アッセイを行い、非多孔性材料からイオンを生成することができる。例えば、Cooksら、米国特許出願第14/209,304号(その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照のこと。ある特定の実施形態では、高電圧が印加されうる固体ニードルプローブまたは表面を、試料のイオンを生成するために使用する(例えば、Cooksら、米国特許出願公開第20140264004号(その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照のこと。)。
【0061】
ある特定の実施形態では、試料のイオンは、ナノスプレーESIを使用して生成される。例示的なナノスプレー端およびそのような端を調製する方法は、例えば、Wilmら(Anal. Chem. 2004年、76巻、1165~1174頁)に記載されており、その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。ナノESIは、例えば、Karasら(Fresenius J.Anal. Chem.、2000年 366巻、669~676頁)に記載されており、その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0062】
イオン分析
ある特定の実施形態では、イオンを質量分析計(ベンチトップまたはミニチュア質量分析計)の中へ向けることによって分析する。図11は、ミニチュア質量分析計における種々の構成要素およびこれらの配置を示す写真である。Mini 12の制御システム(Linfan Li、Tsung-Chi Chen、Yue Ren、Paul I. Hendricks、R. Graham CooksおよびZheng Ouyang「Miniature Ambient Mass Analysis System」Anal. Chem. 2014年、86巻 2909~2916頁 DOI:10.1021/ac403766c;およびPaul I. Hendricks、Jon K. Dalgleish、Jacob T. Shelley、Matthew A. Kirleis、Matthew T. McNicholas、Linfan Li、Tsung-Chi Chen、Chien-Hsun Chen、Jason S. Duncan、Frank Boudreau、Robert J. Noll、John P. Denton、Timothy A. Roach、Zheng Ouyang、およびR. Graham Cooks「Autonomous in-situ analysis and real-time chemical detection using a backpack miniature mass spectrometer: concept, instrumentation development, and performance」Anal. Chem.、2014年、86巻、2900~2908頁 DOI:10.1021/ac403765x(これらの各々の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))、ならびにMini 10の真空システム(Liang Gao、Qingyu Song、Garth E. Patterson、R. Graham CooksおよびZheng Ouyang、「Handheld Rectilinear Ion Trap Mass Spectrometer」、Anal. Chem.、2006年、78巻、5994~6002頁 DOI:10.1021/ac061144k(その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))を組み合わせて、図11に示されるミニチュア質量分析計を製造してもよい。これは、靴箱のサイズ(高さ20cm×幅25cm×奥行35cm)と同様のサイズを有してもよい。ある特定の実施形態では、ミニチュア質量分析計は、例えば、Owenら(米国特許出願第14/345,672号)、およびOuyangら(米国特許出願第61/865,377号)(これらの各々の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されているデュアルLITの構成を使用する。
【0063】
質量分析計(ミニチュアまたはベンチトップ)は、不連続なインターフェイスを装備していてもよい。不連続なインターフェイスは、例えば、Ouyangら(米国特許第8,304,718号)およびCooksら(米国特許出願公開第2013/0280819号)に記載されており、これらの各々の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0064】
試料
上記で議論したように、本発明のシステムおよび方法を使用して、多くの異なるタイプの試料を分析することができる。生物学的試料、環境試料(例えば、産業試料および農業試料を含む)、ならびに食品/飲料製品試料などの幅広い範囲の不均質な試料を分析することができる。
【0065】
例示的環境試料として、これらに限定されないが、地下水、地表水、飽和土壌水、不飽和土壌水;排水、冷却水などの工業化プロセス;プロセスで使用される化学物質、工業プロセスにおける化学反応物、および投棄地からの浸出液を伴う他のシステム;廃棄物および水の注入プロセス;貯蔵タンク中の液体または貯蔵タンク周辺の漏れの検出;工業設備、水処理施設または設備からの排出水;農用地からの汚水および浸出液、表面、表面下および下水システムなどの市街地での使用からの汚水;廃棄物処理技術からの水;ならびに鉱物抽出または石油製造およびin situエネルギー製造などの天然資源を抽出する他のプロセスからの汚水が挙げられる。
【0066】
さらなる例示的環境試料として、確実にこれらに限定される訳ではないが、農業試料、例えば、作物試料、例えば、穀物製品および飼料製品、例えば、ダイズ、コムギ、およびトウモロコシが挙げられる。水分、タンパク質、油、デンプン、アミノ酸、抽出デンプン、密度、試験重量、消化率、細胞壁含量などの製品の構成物質、および市場価値を有する任意の他の構成物質または特性に関するデータが望まれることが多い。
【0067】
例示的な生物学的試料として、ヒトの組織または体液が挙げられ、任意の臨床的に許容される方式で採取されてよい。組織は、接続した細胞の塊および/または細胞外マトリックス材料、例えば、皮膚組織、髪、爪、鼻腔組織、CNS組織、神経組織、眼の組織、肝臓組織、腎臓組織、胎盤組織、乳腺組織、胎盤組織、乳腺組織、胃腸組織、骨格筋組織、泌尿生殖器組織、骨髄などであり、例えば、ヒトまたは他の哺乳動物に由来し、細胞および/または組織と関連する接続材料および液体材料を含む。体液は、例えば、ヒトまたは他の哺乳動物に由来する液体材料である。このような体液として、これらに限定されないが、粘膜、血液、血漿、血清、血清誘導体、胆汁、血液、母体血、たん、唾液、つば、汗、羊水、月経液、乳房液、腹水、尿、精液、および腰椎または脳質の脳脊髄液(CSF)などのCSFが挙げられる。試料はまた、微小針吸引液または生検組織でありうる。試料は、細胞または生物学的材料を含有する媒体であってもよい。試料は、血餅、例えば、血清が除去された後の全血から得られた血餅であってもよい。
【0068】
一実施形態では、生物学的試料は、血漿または血清を抽出することができる血液試料でありうる。血液は、標準の放血手順によって得て、次いで、分離することができる。血漿試料を調製するための典型的な分離方法として、血液試料の遠心分離が挙げられる。例えば、血液の導出後すぐに、プロテアーゼインヒビターおよび/または抗凝固剤を血液試料に添加することができる。次いで、チューブを冷却し、遠心分離して、次に、氷上に置くことができる。得られた試料を以下の構成成分に分離する:上相の血漿の透明な溶液;血小板と混合された白血球の薄い層であるバフィーコート;および赤血球(erythrocyte)(赤血球(red blood cell))。典型的には、8.5mLの全血から約2.5~3.0mLの血漿が得られる。
【0069】
血清は、非常に類似した様式で調製される。静脈血を採取し、続いて、プロテアーゼインヒビターおよび凝固剤と血液とを反転させることによって混合する。室温で、チューブを垂直に立てることによって血液を凝固させる。次いで、血液を遠心分離し、ここで、得られた上清が指定された血清である。次に、血清試料を氷上に置くべきである。
【0070】
試料を分析する前に、試料を、例えば、濾過または遠心分離を使用して精製してもよい。これらの技法は、例えば、微粒子および化学干渉を除去するために使用することができる。粒子を除去するための種々の濾過媒体として、濾紙、例えば、セルロースおよびメンブレンフィルター、例えば、再生セルロース、酢酸セルロース、ナイロン、PTFE、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、およびポリビニルピロリドンが挙げられる。微粒子およびマトリックス干渉を除去するための種々の濾過媒体として、官能化した膜、例えば、イオン交換膜および親和性膜;SPEカートリッジ、例えば、シリカベースのカートリッジおよびポリマーベースのカートリッジ;ならびにSPE(固相抽出)ディスク、例えば、PTFEベースのものおよび繊維ガラスベースのものが挙げられる。これらのフィルターの一部は、フィルター保持具/ハウジングに緩く置くためのディスク形式で提供することができ、他のものは、例えば、標準の採血管に置くことができる使い捨てチップ内に提供され、さらに他のものは、分注した試料を受容するためのウェルを有するアレイの形態で提供される。別のタイプのフィルターとしてスピンフィルターが挙げられる。スピンフィルターは、酢酸セルロースフィルター膜を有するポリプロピレン遠心管からなり、遠心分離と併せて使用されて、典型的には、水性緩衝液で希釈された試料、例えば、血清および血漿試料から微粒子を除去する。
【0071】
濾過は、部分的に、多孔度の値に影響され、その結果、より高い多孔度は、より大きい微粒子のみを濾過により取り除き、より低い多孔度は、より低い多孔度とより高い多孔度の両方を濾過により取り除く。試料の濾過についての典型的な多孔度の値は、0.20および0.45μmの多孔度である。試料がコロイド材料または多量の微小粒子を含有する場合には、液体試料を押し込んでフィルターを通過させるのに、かなりの圧力が必要とされる場合がある。したがって、土壌抽出物または排水などの試料については、前置フィルターまたはデプスフィルター床(例えば、「2-イン-1」フィルター)を使用することができ、これらのタイプの微粒子を含有する試料による目詰まりを防止するために膜の上部に置く。
【0072】
場合によっては、尿試料について大抵なされるように、フィルターを用いない遠心分離を使用して微粒子を除去することができる。例えば、試料は遠心分離される。次いで、得られた上清を除去し、凍結させる。
【0073】
試料が得られ精製された後に、試料を分析することができる。血漿試料の分析に関して、血漿中に存在する多くの要素、例えば、タンパク質(例えば、アルブミン)、イオンおよび金属(例えば、鉄)、ビタミン、ホルモン、および他の要素(例えば、ビリルビンおよび尿酸)が存在する。これらの要素のいずれかを検出してもよい。より具体的には、本発明のシステムを使用して、疾患状態を示す生物学的試料中の分子を検出することができる。
【0074】
試料中の標的分子の1種または複数種が細胞の一部である場合、水性媒体は、細胞を溶解させるための溶解剤も含んでよい。溶解剤は、細胞の膜の完全性を破壊し、それによって、細胞の細胞内内容物を放出する化合物または化合物の混合物である。溶解剤の例として、これらに限定されないが、例えば、非イオン洗浄剤、陰イオン洗浄剤、両性洗浄剤、低イオン強度水溶液(低浸透圧溶液)、細菌剤、脂肪族アルデヒド、および補体依存性溶解を引き起こす抗体が挙げられる。種々の付随的材料は、希釈媒体中に存在してもよい。水性媒体中の材料のすべては、所望の効果または機能を達成するのに十分な濃度または量で存在する。
【0075】
一部の例では、標的分子の1種または複数種が細胞の一部である場合、試料の細胞を固定することが望ましい場合がある。細胞の固定により細胞を固定化し、細胞の構造を保存し、in vivo様状態の細胞に酷似する状態および目的の抗原が特異的親和剤によって認識されうる状態に細胞を維持する。用いられる固定液の量は、細胞を保存するが、次のアッセイで誤った結果を導かない量である。固定液の量は、例えば、固定液の性質および細胞の性質のうちの1つまたは複数に依存する場合がある。一部の例では、固定液の量は、約0.05重量%から約0.15重量%または約0.05重量%から約0.10重量%、または約0.10重量%から約0.15重量%である。細胞の固定を実行するための薬剤として、これらに限定されないが、架橋剤、例えば、アルデヒド試薬(例えば、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、およびパラホルムアルデヒドなど);アルコール(例えば、C~Cアルコール、例えば、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールなど);ケトン(例えば、C~Cケトン、例えば、アセトン)などが挙げられる。表示C~CまたはC~Cは、アルコールまたはケトンにおける炭素原子の数を指す。緩衝水性媒体を使用して、固定された細胞に対して1回または複数回の洗浄ステップを実行してもよい。
【0076】
固定後に必要であれば、細胞調製物を透過化に供してもよい。場合によっては、固定剤、例えば、アルコール(例えば、メタノールまたはエタノール)またはケトン(例えば、アセトン)はまた透過化をもたらし、さらなる透過化ステップは必要ない。透過化によって、細胞膜を通過して目的の標的分子へのアクセスがもたらされる。用いられる透過化剤の量は、細胞膜を破壊して標的分子へのアクセスを可能とする量である。透過化剤の量は、透過化剤の性質ならびに細胞の性質および量のうちの1つまたは複数に依存する。一部の例では、透過化剤の量は、約0.01%から約10%、または約0.1%から約10%である。細胞の透過化を実行するための薬剤として、これらに限定されないが、アルコール(例えば、C~Cアルコール、例えば、メタノールおよびエタノールなど);ケトン(例えば、C~Cケトン、例えば、アセトン);洗浄剤(例えば、サポニン、TRITON X-100(Sigma Aldrichから市販されている4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェニル-ポリエチレングリコール、t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール、ポリエチレングリコールtert-オクチルフェニルエーテル緩衝液など)、およびTWEEN-20(Sigma Aldrichから市販されているポリソルベート20))が挙げられる。緩衝水性媒体を使用して、透過化された細胞に対して1回または複数回の洗浄ステップを実行してもよい。
【0077】
参照による組込み
特許、特許出願、特許、刊行物、定期刊行物、本、論文、ウェブコンテンツなどの他の文書への言及および引用がこの開示全体を通してなされている。それによって、このような文書はすべて、あらゆる目的で、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0078】
均等物
本発明の種々の改変およびその多くのさらなる実施形態は、本明細書において示され記載されているものに加えて、本明細書で引用された科学および特許文献への言及を含めたこの文書のすべての内容から当業者に明らかとなるものである。本明細書における主題は、その種々の実施形態およびその均等物においてこの発明の実践に適合することができる重要な情報、例証およびガイダンスを含有する。
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