(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】幹細胞由来移植片からの増殖性細胞の排除
(51)【国際特許分類】
C12N 15/54 20060101AFI20220705BHJP
C12N 15/85 20060101ALI20220705BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220705BHJP
A61K 35/30 20150101ALI20220705BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20220705BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220705BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220705BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20220705BHJP
【FI】
C12N15/54 ZNA
C12N15/85 Z
C12N5/10
A61K35/30
A61P25/16
A61P43/00 111
A61P43/00 123
A61K45/00
A61K35/12
(21)【出願番号】P 2018567868
(86)(22)【出願日】2017-06-30
(86)【国際出願番号】 US2017040303
(87)【国際公開番号】W WO2018005975
(87)【国際公開日】2018-01-04
【審査請求日】2020-06-30
(32)【優先日】2016-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505098937
【氏名又は名称】リサーチ ディベロップメント ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】クラウゼ, カルル-ハインツ
(72)【発明者】
【氏名】デュボワ-ドフィン, ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】ディエング コレー, ヴァナリ
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-345726(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101319215(CN,A)
【文献】国際公開第1991/002805(WO,A2)
【文献】Stem Cells,2003年,Vol.21, No.3,pp.257-265
【文献】Curr. Med. Chem.,2010年,Vol.17, No.8,pp.1-13(pp.759-766)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google/Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における細胞補充療法の方法における使用のための組み合わせ物であって、前記組み合わせ物は、
(i)自殺遺伝子コード配列に作動可能に連結した細胞周期依存性プロモーターを含む発現ベクターを含む宿主細胞であって、前記宿主細胞が前駆細胞であり、前記前駆細胞が神経前駆細胞であ
り、前記前駆細胞が本質的に分裂しない細胞であることが知られる細胞を補充するためのものである、宿主細胞と;
(ii)前記自殺遺伝子によって活性化されるプロドラッグであって、周期する前駆細胞を排除するのに有効な量で投与されることを特徴とする、プロドラッグと
を含む、
組み合わせ物。
【請求項2】
前記細胞周期依存性プロモーターが、Ki-67、PCNA、CCNA2、CCNB2、DLGAP5またはTOP2Aプロモーターである、請求項1に記載の
組み合わせ物。
【請求項3】
前記細胞周期依存性プロモーターが、Ki-67プロモーターである、請求項2に記載の
組み合わせ物。
【請求項4】
前記細胞周期依存性プロモーターが、合成細胞周期プロモーターである、請求項1に記載の
組み合わせ物。
【請求項5】
前記自殺遺伝子が、ウイルスチミジンキナーゼ、細菌シトシンデアミナーゼ、ニトロレダクターゼ、カルボキシペプチダーゼG2、プリンヌクレオシドホスホリラーゼまたはカスパーゼ9である、請求項1に記載の
組み合わせ物。
【請求項6】
前記自殺遺伝子が、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV TK)遺伝子である、請求項5に記載の
組み合わせ物。
【請求項7】
前記HSV TK遺伝子が、HSV TK変異体である、請求項6に記載の
組み合わせ物。
【請求項8】
前記HSV TK変異体が、HSV1-SR11TK、HSV1-SR26TKまたはHSV1-SR39TKである、請求項7に記載の
組み合わせ物。
【請求項9】
前記HSV TK変異体が、HSV1-SR39TKである、請求項7に記載の
組み合わせ物。
【請求項10】
前記宿主細胞が選択可能マーカーをさらに含む、請求項1に記載の
組み合わせ物。
【請求項11】
前記選択可能マーカーが、抗生物質耐性遺伝子または蛍光タンパク質をコードする遺伝子である、請求項10に記載の
組み合わせ物。
【請求項12】
前記発現ベクターがウイルスベクターである、請求項1に記載の
組み合わせ物。
【請求項13】
前記ウイルスベクターが、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクターまたはポリオーマウイルスベクターである、請求項12に記載の
組み合わせ物。
【請求項14】
前記ウイルスベクターが、レンチウイルスベクターである、請求項12に記載の
組み合わせ物。
【請求項15】
前記細胞が、多能性幹細胞(PSC)から誘導される、請求項1~14
のいずれか一項に記載の
組み合わせ物。
【請求項16】
前記PSCが、人工多能性幹細胞(iPS細胞)または胚性幹細胞(ESC)である、請求項15に記載の
組み合わせ物。
【請求項17】
前記神経前駆細胞が、musashi、ネスチン、sox2、ビメンチン、pax6およびsox1からなる群から選択されるマーカーの少なくとも1つを発現するとしてさらに定義される、請求項1に記載の
組み合わせ物。
【請求項18】
前記対象が、哺乳動物である、請求項
1~17
のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項19】
前記哺乳動物が、マウス、ラット、非ヒト霊長類またはヒトである、請求項
18に記載の組み合わせ物。
【請求項20】
前記宿主細胞のゲノムが、前記対象のゲノムと本質的に同一のゲノムと、請求項1~14
のいずれか一項に記載の発現ベクターとを含む、請求項
1~
19
のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項21】
補充される前記本質的に分裂しない細胞が、ドーパミン作動性細胞を含み、かつ前記宿主細胞が、チロシンヒドロキシラーゼまたはドーパミン活性トランスポーターを発現するとして定義されるドーパミン作動性神経前駆細胞を含む、請求項
1~
20
のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項22】
前記対象が、パーキンソン病を有する、請求項
1~
21
のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項23】
前記プロドラッグが、ガンシクロビルおよび/またはアシクロビルである、請求項
1~
22
のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項24】
前記プロドラッグが、1回より多く投与されることを特徴とする、請求項
1~
23
のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項25】
前記プロドラッグが、前記前駆細胞が分化を開始するのに十分な期間の後に投与されることを特徴とする、請求項
1~
24
のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項26】
前記期間が、3~6日間である、請求項
25に記載の組み合わせ物。
【請求項27】
前記期間が、7~15日間である、請求項
25に記載の組み合わせ物。
【請求項28】
前記プロドラッグが、注射によって投与されることを特徴とする、請求項
1~
25
のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項29】
対象における細胞補充療法の方法における使用のための組成物であって、前記組成物は、
自殺遺伝子コード配列に作動可能に連結した細胞周期依存性プロモーターを含む発現ベクターを含む宿主細胞であって、前記宿主細胞が前駆細胞であり、前記前駆細胞が神経前駆細胞であり、前記前駆細胞が本質的に分裂しない細胞であることが知られる細胞を補充するための
ものである、宿主細胞を含み、前記組成物は、前記自殺遺伝子によって活性化されるプロドラッグと組み合わせて投与されることを特徴とし、前記プロドラッグは、周期する前駆細胞を排除するのに有効な量で投与されることを特徴とする、組成物。
【請求項30】
対象における細胞補充療法の方法における使用のための組成物であって、前記組成物は
、自殺遺伝子によって活性化されるプロドラッグを含み、前記組成物は、
自殺遺伝子コード配列に作動可能に連結した細胞周期依存性プロモーターを含む発現ベクターを含む宿主細胞であって、前記宿主細胞が前駆細胞であり、前記前駆細胞が神経前駆細胞であり、前記前駆細胞が本質的に分裂しない細胞であることが知られる細胞を補充するための
ものである、宿主細胞と組み合わせて投与されることを特徴とし、前記組成物は、前記プロドラッグが、周期する前駆細胞を排除するのに有効な量で投与されるように投与されることを特徴とする、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2016年7月1日に出願された米国仮特許出願番号第62/357,585号および2016年12月19日に出願された同第62/436,233号の利益を主張しており、これら出願の全体が参考として本明細書中に援用される。
【0002】
ファイルに含まれる“CLFR_P0403WO_ST25.txt”と命名された配列表は、9KB(Microsoft Windows(登録商標)で測定されたとき)であって、2017年6月29日に作成されたものであり、本明細書とともに電子的に提出され、そして本明細書中に参考として援用される。
【0003】
発明の背景
1.発明の分野
本発明は、幹細胞療法の分野に一般的に関する。より具体的には、本発明は、幹細胞由来移植片における増殖細胞の特異的排除に関する。
【背景技術】
【0004】
2.関連分野の説明
パーキンソン病(PD)は、黒質線条体経路の損失によって特徴付けられる神経変性障害である。パーキンソン病の原因は分かっていないが、運動機能の制御の進行性の悪化を誘発する、大脳基底核の黒質領域におけるドーパミン作動性(すなわち、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)陽性)ニューロンの進行性変性または死と関連している。パーキンソン病の特徴的な症状は、TH陽性黒質線条体ニューロンの70%までが変性したときに現れる。
【0005】
現在、パーキンソン病のための満足な治療法はない。疾患関連運動障害の対症療法には、ジヒドロキシフェニルアラニン(L-DOPA)の経口投与が含まれる。L-DOPAは、血液脳関門を横切って輸送され、部分的に残留ドーパミン作動性ニューロンによって、ドーパミンに変換され、運動機能の実質的な改善を導く。しかしながら、数年後、ドーパミン作動性ニューロンの変性が進行して、L-DOPAの効果は低減し、症状が再び現れる。
【0006】
脳深部刺激(DBS)療法が、パーキンソン病のための現在の好ましい処置である。DBSは、運動に関連することが公知の脳内の標的領域、例えば、視床下核、淡蒼球内節などの大脳基底核構造、または視床中間腹側核に、脳刺激体(すなわち、電極)を埋め込むことによって脳細胞の活動の速度およびパターンを変更させることを目的としたパーキンソン病の処置である。しかしながら、DBS手法の奏功は、経時的に減少し得る。したがって、パーキンソン病のためのより良い療法が必要である。
現在開発中のパーキンソン病の処置方法は、部分的に分化した神経上皮細胞(すなわち、神経始原細胞)を、十分なドーパミン作動性シグナル伝達が不足している脳領域に移植することを含む;次いで、それらの細胞は、in vivoでドーパミン作動性ニューロンに分化する。神経始原細胞がドーパミン作動性ニューロンに分化する能力が、齧歯類およびヒトPSCの両方で実証されている(Kriksら、2011年;Wernigら、2008年)。さらに、PSC由来神経始原細胞が、パーキンソン病の薬物病変齧歯類および霊長類モデルにおける線条体を神経再支配する能力が示されている(Ganatら、2012年;Kriksら、2011年;Wernigら、2008年)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Kriks et al., Nature, 480:547-551, 2011.
【文献】Wernig et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 105:5856-5861, 2008.
【文献】Ganat et al., J. Clin. Invest., 122:2928-2939, 2012.
【文献】Kriks et al., Nature, 480:547-551, 2011.
【文献】Wernig et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 105:5856-5861, 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、移植された神経始原細胞の全てが所望のニューロンサブタイプに分化するわけではなく、代わりに、過成長および腫瘍形成を導く増殖細胞として移植片内に残留する。利用可能な最も先進的なプロトコル(Ganatら、2012年)でさえ、CNS疾患のPSC由来神経始原細胞に基づく療法の間の神経上皮腫瘍を形成する残留増殖細胞の問題を克服することができなかった。したがって、幹細胞に基づく療法の後の残留増殖性細胞を排除する方法に対する満たされていない必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の要旨
ある特定の実施形態では、本開示は、単離された組換えポリヌクレオチド、例えば、自殺遺伝子に作動可能に連結した細胞周期依存性プロモーターを含むポリヌクレオチドに関する。一実施形態では、自殺遺伝子コード配列に作動可能に連結した細胞周期依存性プロモーターを含む発現ベクターが提供される。
【0010】
一部の態様では、細胞周期依存性プロモーターは、Ki-67、PCNA、CCNA2、CCNB2、DLGAP5またはTOP2Aプロモーターである。一部の態様では、細胞周期依存性プロモーターは、Ki-67、PCNA、CCNA2、CCNB2、DLGAP5またはTOP2Aプロモーターのハイブリッドである。特定の態様では、細胞周期依存性プロモーターは、Ki-67プロモーターである。
【0011】
ある特定の態様では、自殺遺伝子は、ウイルスチミジンキナーゼ、細菌シトシンデアミナーゼ、ニトロレダクターゼ、カルボキシペプチダーゼG2、プリンヌクレオシドホスホリラーゼまたはカスパーゼ9である。特定の態様では、自殺遺伝子は、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV TK)遺伝子である。一部の態様では、HSV TK遺伝子は、1つまたは複数のアミノ酸置換を含む野生型HSV TKの変異型、例えばHSV1-SR11TK、HSV1-SR26TKまたはHSV1-SR39TKである。
【0012】
一部の態様では、発現ベクターは、選択可能マーカーをさらに含む。ある特定の態様では、選択可能マーカーは、抗生物質耐性遺伝子または蛍光タンパク質をコードする遺伝子である。
【0013】
ある特定の態様では、発現ベクターは、ウイルスベクターとしてさらに定義される。一部の態様では、ウイルスベクターは、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクターまたはポリオーマウイルスベクターである。特定の態様では、ウイルスベクターは、レンチウイルスベクターである。
【0014】
別の実施形態では、自殺遺伝子に作動可能に連結した細胞周期依存性プロモーターを含むポリヌクレオチドを含む宿主細胞が提供される。特定の態様では、宿主細胞は、前駆細胞としてさらに定義される。一部の態様では、ポリヌクレオチドは、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター(例えば、組込み型アデノベクター)、ワクシニアウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクターまたはポリオーマウイルスベクターなどのウイルスベクターを使用して、宿主細胞に導入される。特定の態様では、ウイルスベクターは、レンチウイルスベクターである。ベクターは、組込み型ベクターであってもよい。他の態様では、ポリヌクレオチドは、非ウイルスアプローチ、例えば、裸のDNAの注射、物理的方法(例えば、エレクトロポレーションもしくは遺伝子銃)によって増強された核酸送達、または化学的方法(例えば、脂質、リポソーム、ナノ粒子もしくは細胞透過ペプチド)によって増強された核酸送達を使用して宿主細胞に導入される。
【0015】
一部の態様では、宿主細胞は、神経前駆細胞、心筋前駆細胞、内皮前駆細胞、膵前駆細胞、腎前駆細胞、オリゴデンドロサイト前駆細胞、造血前駆細胞、骨髄前駆細胞、間葉前駆細胞、網膜前駆細胞または破骨前駆細胞としてさらに定義される。特定の態様では、宿主細胞は、神経前駆細胞としてさらに定義される。一部の態様では、細胞は、多能性幹細胞(PSC)から誘導される。一部の態様では、PSCは、人工多能性幹細胞(iPS細胞)または胚性幹細胞(ESC)である。特定の態様では、神経前駆細胞は、musashi、ネスチン、sox2、ビメンチン、pax6およびsox1からなる群から選択されるマーカーの少なくとも1つを発現する細胞としてさらに定義される。ある特定の態様では、神経前駆細胞は、musashi、ネスチン、sox2、ビメンチン、pax6およびsox1の2、3、4、5または6つのマーカー全てを発現する。
【0016】
さらなる実施形態では、実施形態の発現ベクターを含む宿主細胞が提供される。一部の態様では、宿主細胞は、神経前駆細胞、心筋前駆細胞、内皮前駆細胞、膵前駆細胞、腎前駆細胞、オリゴデンドロサイト前駆細胞、造血前駆細胞、骨髄前駆細胞、間葉前駆細胞、網膜前駆細胞または破骨前駆細胞としてさらに定義される。特定の態様では、宿主細胞は、神経前駆細胞としてさらに定義される。一部の態様では、細胞は、多能性幹細胞(PSC)から誘導される。一部の態様では、PSCは、人工多能性幹細胞(iPS細胞)または胚性幹細胞(ESC)である。特定の態様では、神経前駆細胞は、musashi、ネスチン、sox2、ビメンチン、pax6およびsox1からなる群から選択されるマーカーの少なくとも1つを発現する細胞としてさらに定義される。ある特定の態様では、神経前駆細胞は、musashi、ネスチン、sox2、ビメンチン、pax6およびsox1の2、3、4、5または6つのマーカー全てを発現する。
【0017】
なおさらなる実施形態では、実施形態の宿主細胞と、任意選択で薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物が提供される。
【0018】
別の実施形態では、上記実施形態の宿主細胞(例えば、前駆細胞)を作製する方法であって、PSCの出発集団を得ることと、PSCを前駆細胞に分化させることと、前駆細胞を単離および培養することとを含み、ここで、培養された前駆細胞が自殺遺伝子コード配列に作動可能に連結した細胞周期依存性プロモーターを含むように、PSCまたは前駆細胞のいずれかが、(例えば、上記実施形態の発現ベクター中の)自殺遺伝子に作動可能に連結した細胞周期依存性プロモーターを含むポリヌクレオチドでトランスフェクトまたは形質導入されて、前記ポリヌクレオチド(例えば、発現ベクター)の存在について選択される、方法が提供される。
【0019】
一部の態様では、前駆細胞は、神経前駆細胞、心筋前駆細胞、内皮前駆細胞、膵前駆細胞、腎前駆細胞、オリゴデンドロサイト前駆細胞、造血前駆細胞、骨髄前駆細胞、間葉前駆細胞、網膜前駆細胞または破骨前駆細胞である。ある特定の態様では、前駆細胞は、神経前駆細胞である。
【0020】
ある特定の態様では、多能性幹細胞集団は、胚性幹細胞である。特定の態様では、多能性幹細胞集団は、人工多能性幹細胞集団である。
【0021】
一部の態様では、集団の細胞を神経前駆細胞に分化させることは、多能性幹細胞集団を線維芽細胞成長因子または上皮成長因子と接触させることを含む。
【0022】
ある特定の態様では、方法は、多能性幹細胞集団をN2およびB27と接触させることをさらに含む。一部の態様では、単離することは、集団の細胞を選別して、前駆細胞、例えば、神経始原細胞を単離することを含む。
【0023】
一部の態様では、トランスフェクトまたは形質導入された細胞を抗生物質と接触させることを含む方法によって、細胞を、前記発現ベクターの存在について選択する。ある特定の態様では、トランスフェクトまたは形質導入された細胞を選別することを含む方法によって、細胞を、前記発現ベクターの存在について選択する。
【0024】
さらなる実施形態は、本質的に分裂しない細胞であることが知られる細胞を補充するための細胞補充療法の方法であって、有効量の、上記実施形態の宿主細胞(例えば、前駆細胞)を投与することと、自殺遺伝子によって活性化されるプロドラッグを、周期する前駆細胞を排除するのに有効な量で、対象に投与することとを含む、細胞補充療法の方法を提供する。一部の態様では、対象は、哺乳動物である。ある特定の態様では、哺乳動物は、マウス、ラット、非ヒト霊長類またはヒトである。一部の態様では、宿主細胞のゲノムは、対象のゲノムと本質的に同一のゲノムと、上記実施形態の発現ベクターとを含む。一部の態様では、補充される本質的に分裂しない細胞は、ドーパミン作動性細胞を含み、前駆細胞集団は、ドーパミン作動性神経前駆細胞(例えば、チロシンヒドロキシラーゼまたはドーパミン活性トランスポーターを発現するとして定義される)を含む。ある特定の態様では、対象は、パーキンソン病を有する。特定の態様では、プロドラッグは、ガンシクロビルおよび/またはアシクロビルである。一部の態様では、プロドラッグは、1回より多く投与される。一部の態様では、プロドラッグは、前駆細胞が分化を開始するのに十分な期間の後に投与される。一部の態様では、期間は、3~6日間、例えば前駆細胞を投与した後、3、4、5または6日間である。他の態様では、期間は、7~15日間、例えば前駆細胞を投与した後、7、8、9、10、11、12、13、14または15日間である。他の態様では、前駆細胞とプロドラッグとは同時投与される。一部の態様では、プロドラッグは、注射によって投与される。
【0025】
本発明の他の目的、特徴および利点は以下の詳細な説明から明らかになる。しかしながら、本発明の趣旨および範囲内の様々な変更および修正が、この詳細な説明から当業者に明らかになるため、詳細な説明および特定の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示す一方、説明のためだけに示されていることを理解されたい。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
自殺遺伝子コード配列に作動可能に連結した細胞周期依存性プロモーターを含む発現ベクター。
(項目2)
前記細胞周期依存性プロモーターが、Ki-67、PCNA、CCNA2、CCNB2、DLGAP5またはTOP2Aプロモーターである、項目1に記載の発現ベクター。
(項目3)
前記細胞周期依存性プロモーターが、Ki-67プロモーターである、項目1~2に記載の発現ベクター。
(項目4)
前記細胞周期依存性プロモーターが、合成細胞周期プロモーターである、項目1~3に記載の発現ベクター。
(項目5)
前記自殺遺伝子が、ウイルスチミジンキナーゼ、細菌シトシンデアミナーゼ、ニトロレダクターゼ、カルボキシペプチダーゼG2、プリンヌクレオシドホスホリラーゼまたはカスパーゼ9である、項目1~4に記載の発現ベクター。
(項目6)
前記自殺遺伝子が、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV TK)遺伝子である、項目1~5に記載の発現ベクター。
(項目7)
前記HSV TK遺伝子が、HSV TK変異体である、項目6に記載の発現ベクター。
(項目8)
前記HSV TK変異体が、HSV1-SR11TK、HSV1-SR26TKまたはHSV1-SR39TKである、項目7に記載の発現ベクター。
(項目9)
前記HSV TK変異体が、HSV1-SR39TKである、項目7に記載の発現ベクター。
(項目10)
選択可能マーカーをさらに含む、項目1~9に記載の発現ベクター。
(項目11)
前記選択可能マーカーが、抗生物質耐性遺伝子または蛍光タンパク質をコードする遺伝子である、項目10に記載の発現ベクター。
(項目12)
ウイルスベクターとしてさらに定義される、項目1~11に記載の発現ベクター。
(項目13)
前記ウイルスベクターが、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクターまたはポリオーマウイルスベクターである、項目12に記載の発現ベクター。
(項目14)
前記ウイルスベクターが、レンチウイルスベクターである、項目12に記載の発現ベクター。
(項目15)
項目1~14に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
(項目16)
神経前駆細胞、心筋前駆細胞、内皮前駆細胞、膵前駆細胞、腎前駆細胞、オリゴデンドロサイト前駆細胞、造血前駆細胞、骨髄前駆細胞、間葉前駆細胞、網膜前駆細胞または破骨前駆細胞としてさらに定義される、項目15に記載の宿主細胞。
(項目17)
神経前駆細胞としてさらに定義される、項目15に記載の宿主細胞。
(項目18)
前記細胞が、多能性幹細胞(PSC)から誘導される、項目15~17に記載の宿主細胞。
(項目19)
前記PSCが、人工多能性幹細胞(iPS細胞)または胚性幹細胞(ESC)である、項目18に記載の宿主細胞。
(項目20)
前記神経前駆細胞が、musashi、ネスチン、sox2、ビメンチン、pax6およびsox1からなる群から選択されるマーカーの少なくとも1つを発現するとしてさらに定義される、項目17に記載の宿主細胞。
(項目21)
項目15~20に記載の宿主細胞と、任意選択で薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
(項目22)
項目15~20に記載の宿主細胞を生成する方法であって、
(a)PSCの出発集団を得ることと、
(b)前記PSCを前駆細胞に分化させることと、
(c)前記前駆細胞を単離および培養することと
を含み、ここで、培養された前記前駆細胞が前記自殺遺伝子コード配列に作動可能に連結した前記細胞周期依存性プロモーターを含むように、前記PSCまたは前記前駆細胞のいずれかが、項目1に記載の発現ベクターでトランスフェクトまたは形質導入されて、前記発現ベクターの存在について選択される、方法。
(項目23)
前記前駆細胞が、神経前駆細胞、心筋前駆細胞、内皮前駆細胞、膵前駆細胞、腎前駆細胞、オリゴデンドロサイト前駆細胞、造血前駆細胞、骨髄前駆細胞、間葉前駆細胞、網膜前駆細胞または破骨前駆細胞である、項目22に記載の方法。
(項目24)
前記前駆細胞が、神経前駆細胞である、項目22に記載の方法。
(項目25)
前記PSCの出発集団が、胚性幹細胞を含む、項目22~24に記載の方法。
(項目26)
前記PSCの出発集団が、人工多能性幹細胞を含む、項目22~24に記載の方法。
(項目27)
集団の細胞を神経前駆細胞に分化させることが、前記PSCの出発集団を線維芽細胞成長因子または上皮成長因子と接触させることを含む、項目24に記載の方法。
(項目28)
前記PSCの出発集団をN2およびB27と接触させることをさらに含む、項目27に記載の方法。
(項目29)
単離することが、前駆細胞を単離するために前記集団の前記細胞を選別することを含む、項目22~28に記載の方法。
(項目30)
トランスフェクトまたは形質導入された細胞を抗生物質と接触させることを含む方法によって、細胞を、前記発現ベクターの存在について選択する、項目22~29に記載の方法。
(項目31)
トランスフェクトまたは形質導入された細胞を選別することを含む方法によって、細胞を、前記発現ベクターの存在について選択する、項目22~29に記載の方法。
(項目32)
本質的に分裂しない細胞であることが知られる細胞を補充するための細胞補充療法の方法であって、有効量の、項目15~20に記載の前駆細胞を投与することと、前記自殺遺伝子によって活性化されるプロドラッグを、周期する前駆細胞を排除するのに有効な量で対象に投与することとを含む、細胞補充療法の方法。
(項目33)
前記前駆細胞が、神経前駆細胞、心筋前駆細胞または膵前駆細胞である、項目32に記載の方法。
(項目34)
前記対象が、哺乳動物である、項目32~33に記載の方法。
(項目35)
前記哺乳動物が、マウス、ラット、非ヒト霊長類またはヒトである、項目34に記載の方法。
(項目36)
前記宿主細胞のゲノムが、前記対象のゲノムと本質的に同一のゲノムと、項目1~14に記載の発現ベクターとを含む、項目32~35に記載の方法。
(項目37)
補充される前記本質的に分裂しない細胞が、ドーパミン作動性細胞を含み、かつ前記宿主細胞が、チロシンヒドロキシラーゼまたはドーパミン活性トランスポーターを発現するとして定義されるドーパミン作動性神経前駆細胞を含む、項目32~36に記載の方法。
(項目38)
前記対象が、パーキンソン病を有する、項目32~37に記載の方法。
(項目39)
前記プロドラッグが、ガンシクロビルおよび/またはアシクロビルである、項目32~38に記載の方法。
(項目40)
前記プロドラッグが、1回より多く投与される、項目32~39に記載の方法。
(項目41)
前記プロドラッグが、前記前駆細胞が分化を開始するのに十分な期間の後に投与される、項目32~40に記載の方法。
(項目42)
前記期間が、3~6日間である、項目41に記載の方法。
(項目43)
前記期間が、7~15日間である、項目41に記載の方法。
(項目44)
前記プロドラッグが、注射によって投与される、項目32~41に記載の方法。
【0026】
以下の図面は、本明細書の一部を形成するものであり、本発明のある特定の態様をさらに示すために含まれている。本発明は、本明細書に示される特定の実施形態の詳細な説明と組み合わせてこれらの図面の1つまたは複数を参照することによってさらに良く理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1A-1C】
図1A-1C:細胞周期依存性プロモーターの制御下で自殺遺伝子を発現する多能性幹細胞株の詳述。(A)単純ヘルペスウイルス(HSV-TK)由来のチミジンキナーゼを、Ki67プロモーター断片の制御下でレンチウイルスベクターに導入した。この研究で使用したTKは、C末端融合ゼオシン耐性遺伝子を含有する融合タンパク質であった。構築物を、臨床等級ヒト多能性幹細胞株HS415(TK-PSC)に形質導入した。この酵素を発現するTK-PSC細胞を、ゼオシンに対する耐性によって選択した。(B)本研究で使用した細胞調製物:多能性幹細胞(TK-PSC、左パネル)は、ドーパミン作動性神経始原体を含有する神経球(TK-NPC、中央パネル)に分化し、最後にドーパミン作動性ニューロンに成熟した(TK-ニューロンのTH染色、右パネル)。(C)未分化状態(上パネル)およびニューロンへの分化時(下パネル)におけるTK-PSC細胞の特性決定。Ki67およびHSV-TKを免疫染色によって検出し、DAPIによって核を検出した。TK-PSCおよびTK-ニューロンの両方が、マージ画像で重複するKi67およびHSV-TKの染色を示した。
【0028】
【
図2A-2B】
図2A-2D:in vitroでのガンシクロビル処置の効果。(A)
図1Bに記載の分化プロトコルの異なる段階での増殖マーカー(Ki67)および多能性マーカー(nanog、oct3/4)の発現の分析。タンパク質発現をフローサイトメトリーによって分析した(4回の独立した実験の平均+/-SEM)。(B)a~d:未分化の多能性TK-PSC細胞を、漸増濃度のガンシクロビル(0、2.5、5および10μM)に曝露した。(B)e~f:TK発現および対照PSCに対する40μMのガンシクロビルの効果の比較。対照PSCでは、ガンシクロビルの最高濃度(40μM)であっても、ガンシクロビル毒性は観察されないことに留意されたい。有糸分裂後のニューロンでKi67駆動TK発現がないこと(
図1C参照)によって予測されるように、ニューロン分化の際、TK発現細胞は、ガンシクロビルに対する感受性を失う。(C)ガンシクロビルに対する用量応答:TK-PSC、対照PSC;TK-ニューロンおよび対照ニューロンを、漸増濃度のガンシクロビルに曝露した。細胞生存率を、カルセインを使用してモニタリングした。対照PSCは、漸増濃度のガンシクロビルにおけるTK-PSCと比較して、カルセインの発現がより高かった。(D)ガンシクロビル時間経過:TKおよび対照PSC、1週目のNPC(TKおよび対照)ならびに2週目のNPC(TKおよび対照)を40μMのガンシクロビルに曝露し、カルセインを使用して細胞毒性をモニタリングした。パネルCおよびDのデータは、3連の測定として示され、3つの独立した実験を代表している。エラーバー=+/-SD、n=3。
【
図2C-2D】
図2A-2D:in vitroでのガンシクロビル処置の効果。(A)
図1Bに記載の分化プロトコルの異なる段階での増殖マーカー(Ki67)および多能性マーカー(nanog、oct3/4)の発現の分析。タンパク質発現をフローサイトメトリーによって分析した(4回の独立した実験の平均+/-SEM)。(B)a~d:未分化の多能性TK-PSC細胞を、漸増濃度のガンシクロビル(0、2.5、5および10μM)に曝露した。(B)e~f:TK発現および対照PSCに対する40μMのガンシクロビルの効果の比較。対照PSCでは、ガンシクロビルの最高濃度(40μM)であっても、ガンシクロビル毒性は観察されないことに留意されたい。有糸分裂後のニューロンでKi67駆動TK発現がないこと(
図1C参照)によって予測されるように、ニューロン分化の際、TK発現細胞は、ガンシクロビルに対する感受性を失う。(C)ガンシクロビルに対する用量応答:TK-PSC、対照PSC;TK-ニューロンおよび対照ニューロンを、漸増濃度のガンシクロビルに曝露した。細胞生存率を、カルセインを使用してモニタリングした。対照PSCは、漸増濃度のガンシクロビルにおけるTK-PSCと比較して、カルセインの発現がより高かった。(D)ガンシクロビル時間経過:TKおよび対照PSC、1週目のNPC(TKおよび対照)ならびに2週目のNPC(TKおよび対照)を40μMのガンシクロビルに曝露し、カルセインを使用して細胞毒性をモニタリングした。パネルCおよびDのデータは、3連の測定として示され、3つの独立した実験を代表している。エラーバー=+/-SD、n=3。
【0029】
【
図3A-3C】
図3A~3C:細胞移植およびガンシクロビル処置のスケジュール。異なる移植およびガンシクロビル処置プロトコルを使用した。(A)DAニューロンへの分化プロトコルの概略図。多能性幹細胞を、中脳オリエンテーション期のため、1週間、神経球として培養した後、2または3週間の成熟期を続けた。(B)初期または後期ガンシクロビル処置を伴った、未分化多能性幹細胞の移植。初期処置:未分化多能性幹細胞を移植し、移植後4日目から19日目までガンシクロビル(またはPBS対照)を毎日の腹腔内注射によって適用した。後期処置:未分化多能性幹細胞を移植し、移植後30日目から45日目まで、ガンシクロビル(またはPBS対照)を毎日の腹腔内注射によって適用した。(C)2または3週目のNPCの移植:NPC含有神経球を解離し、マウス線条体に移植した。ガンシクロビル(またはPBS対照)処置を、移植後4日目から19日目に行った。全てのプロトコルについて、ガンシクロビル処置の終了の1ヶ月後に動物を屠殺した。
【0030】
【
図4A-4B】
図4A~4B:初期ガンシクロビル処置は、HSV-TK発現多能性細胞の移植後の腫瘍形成を防止する。(A)ガンシクロビル処置なしでのTK-PSCの移植:TK-PSCをPBS処置マウスに移植後、奇形腫形成が一貫して観察された:一番上のパネル:クレシルバイオレット着色;a~dの下パネル:移植片の免疫染色(HCM染色はヒトの典型的タンパク質の検出を可能にする)は、ネスチン(未成熟神経細胞に関して)、ベータIIIチューブリン(成熟ニューロンに関して)の発現を伴って、主に神経組織への発達を示す。増殖性細胞をKi67およびPCNAで染色する。(B)初期ガンシクロビル処置を伴ったTK-PSCの移植:TK-PSCを移植した後、初期ガンシクロビル処置(移植後4~19日目)を続けたマウスでは奇形腫形成および細胞増殖がない;a~dの一番上のパネル:クレシルバイオレット着色;e~fの下パネル:HCM、Ki67およびPCNAでの免疫染色。ガンシクロビル処置の終了1ヶ月後に、マウスを屠殺し、免疫組織化学を行った。この図に示す染色は、1群あたり3~5匹のマウスを代表している。Ki67およびHCMまたはPCNAについて陽性染色された細胞;染色は、マージ画像で重複している。
【0031】
【
図5A-5B】
図5A~5B:Iba1およびKi67陽性細胞に対する初期ガンシクロビル処置および影響。(A)ガンシクロビル処置なしでは、HSV-TK含有、増殖(Ki67)、ヒト(HCM)腫瘍細胞が多量に存在していた;腫瘍は、ミクログリア(Iba1)によって浸潤されていた。(B)ガンシクロビル処置マウスでは、ヒト細胞移植片(HCM)は、かろうじて検出することができ、移植片領域においてKi67およびTK発現は実質的に観察されなかった。いくらかのミクログリアがIba1染色によって移植片の傷の周辺で検出可能であった。ガンシクロビル処置の終了1ヶ月後に、マウスを屠殺し、免疫組織化学を行った。
【0032】
【
図6A-6B】
図6A~6B:後期ガンシクロビル処置は、HSV-TK発現多能性細胞の移植後の腫瘍形成を防止しない。マウスにTK-PSCを移植し、移植の1ヶ月後にPBS処置(A)またはガンシクロビル処置(B)を開始した。処置を15日間維持した後、処置なしで1ヶ月経ってから屠殺した。これらの条件下で、PBS処置マウスとガンシクロビル処置マウスとの間に差異はなかった。移植片は、主に神経組織(ベータIIIチューブリン染色)を有する腫瘍に発達した。腫瘍細胞は、Ki67およびTKを発現したが、Oct3/4は発現しなかった。移植片は、内皮細胞についてのCD31染色によって証明されるように血管形成された。
【0033】
【
図7A】
図7A~7C:後期ガンシクロビル処置を施した多能性幹細胞由来腫瘍におけるHSV-TKのシーケンシング。(A)(
図6に記載のように)多能性幹細胞の線条体内移植の4週間後に、2週間のガンシクロビル処置を開始し、処置の終了の4週間後に、マウスを屠殺した。DNAを、PFA固定パラフィン包埋腫瘍試料から抽出し、示されたPCRプライマーを使用して増幅した。(B)プラスミドDNAおよび腫瘍試料由来の増幅配列の直接シーケンシングは何ら変異を検出しなかった。(アンプリコン1-プラスミド=配列番号11;「seq」=配列番号12;アンプリコン2-プラスミド=配列番号13;「seq」=配列番号14;アンプリコン3-プラスミド=配列番号15;「seq」=配列番号16;アンプリコン4-プラスミド=配列番号17;「seq」=配列番号18;アンプリコン5-プラスミド=配列番号19;「seq」=配列番号20)(C)(パネルBについて記載したPCR反応から誘導された)アンプリコン3および5由来のHSV-TKサブクローンのシーケンシング。アンプリコン3:細胞形質導入のために使用されるプラスミドDNAならびに腫瘍由来cDNAクローンは、HSV-TK参照配列に見出されるスプライスドナー部位を含有していなかった。しかしながら、cDNAクローン3および4は非同義変異のコーディングを示した。(ref=配列番号21;プラスミド=配列番号22;クローン1=配列番号23;クローン2=配列番号24;クローン3=配列番号25;クローン4=配列番号26;ATP結合部位=配列番号27;ヌクレオチド結合部位=配列番号28)アンプリコン5:cDNAクローンはいずれも何ら変異を示さなかった(プラスミド=配列番号29;クローン1-7=配列番号30)。
【
図7B】
図7A~7C:後期ガンシクロビル処置を施した多能性幹細胞由来腫瘍におけるHSV-TKのシーケンシング。(A)(
図6に記載のように)多能性幹細胞の線条体内移植の4週間後に、2週間のガンシクロビル処置を開始し、処置の終了の4週間後に、マウスを屠殺した。DNAを、PFA固定パラフィン包埋腫瘍試料から抽出し、示されたPCRプライマーを使用して増幅した。(B)プラスミドDNAおよび腫瘍試料由来の増幅配列の直接シーケンシングは何ら変異を検出しなかった。(アンプリコン1-プラスミド=配列番号11;「seq」=配列番号12;アンプリコン2-プラスミド=配列番号13;「seq」=配列番号14;アンプリコン3-プラスミド=配列番号15;「seq」=配列番号16;アンプリコン4-プラスミド=配列番号17;「seq」=配列番号18;アンプリコン5-プラスミド=配列番号19;「seq」=配列番号20)(C)(パネルBについて記載したPCR反応から誘導された)アンプリコン3および5由来のHSV-TKサブクローンのシーケンシング。アンプリコン3:細胞形質導入のために使用されるプラスミドDNAならびに腫瘍由来cDNAクローンは、HSV-TK参照配列に見出されるスプライスドナー部位を含有していなかった。しかしながら、cDNAクローン3および4は非同義変異のコーディングを示した。(ref=配列番号21;プラスミド=配列番号22;クローン1=配列番号23;クローン2=配列番号24;クローン3=配列番号25;クローン4=配列番号26;ATP結合部位=配列番号27;ヌクレオチド結合部位=配列番号28)アンプリコン5:cDNAクローンはいずれも何ら変異を示さなかった(プラスミド=配列番号29;クローン1-7=配列番号30)。
【
図7C】
図7A~7C:後期ガンシクロビル処置を施した多能性幹細胞由来腫瘍におけるHSV-TKのシーケンシング。(A)(
図6に記載のように)多能性幹細胞の線条体内移植の4週間後に、2週間のガンシクロビル処置を開始し、処置の終了の4週間後に、マウスを屠殺した。DNAを、PFA固定パラフィン包埋腫瘍試料から抽出し、示されたPCRプライマーを使用して増幅した。(B)プラスミドDNAおよび腫瘍試料由来の増幅配列の直接シーケンシングは何ら変異を検出しなかった。(アンプリコン1-プラスミド=配列番号11;「seq」=配列番号12;アンプリコン2-プラスミド=配列番号13;「seq」=配列番号14;アンプリコン3-プラスミド=配列番号15;「seq」=配列番号16;アンプリコン4-プラスミド=配列番号17;「seq」=配列番号18;アンプリコン5-プラスミド=配列番号19;「seq」=配列番号20)(C)(パネルBについて記載したPCR反応から誘導された)アンプリコン3および5由来のHSV-TKサブクローンのシーケンシング。アンプリコン3:細胞形質導入のために使用されるプラスミドDNAならびに腫瘍由来cDNAクローンは、HSV-TK参照配列に見出されるスプライスドナー部位を含有していなかった。しかしながら、cDNAクローン3および4は非同義変異のコーディングを示した。(ref=配列番号21;プラスミド=配列番号22;クローン1=配列番号23;クローン2=配列番号24;クローン3=配列番号25;クローン4=配列番号26;ATP結合部位=配列番号27;ヌクレオチド結合部位=配列番号28)アンプリコン5:cDNAクローンはいずれも何ら変異を示さなかった(プラスミド=配列番号29;クローン1-7=配列番号30)。
【0034】
【
図8A-8D】
図8A~8D:神経前駆細胞(NPC)の移植後の移植片発達。マウスにNPCを移植し、移植後7~22日間、PBSまたはガンシクロビルで処置した。ガンシクロビルの処置の終了の4週間後に、マウスを屠殺し、脳を分析した。腫瘍は形成されていなかったが、移植片はマウスの脳に組込まれた組織に発達していた。PBSおよびガンシクロビル処置の間に差異は観察されなかった(A)クレシルバイオレット着色。移植体は、ベータ3-チューブリンに対して強い陽性を示し(B)上パネル、THに対して毎週陽性を示した(B)下パネル。移植された細胞は、PCNAは陽性であったが、Ki67およびBrdUは陰性であった(Cおよび挿入図)。(D)ガンシクロビルなし(灰色のヒストグラム)またはあり(黒色のヒストグラム)の異なる実験条件下での移植体の大きさ。左側および中央のヒストグラムは、多能性幹細胞(PSC)を注射し、細胞移植の5日後(初期処置)または30日後(後期処置)にガンシクロビルで2週間処置した後の移植体を示す。右側のヒストグラムは、NPCを注射し、移植の5日後にガンシクロビルで処置した後の移植体を示す。エラーバー=平均+/-SEM、マウスの各群においてn=3~5。*マンホイットニー検定においてp=0.0286。
【発明を実施するための形態】
【0035】
例示的な実施形態の説明
多能性幹細胞(PSC)に基づく療法は、特に神経変性疾患にとって魅力的な概念である。しかしながら、未分化のPSCまたは急速に増殖する前駆細胞の移植は、腫瘍形成につながる可能性がある。したがって、有望な動物データを将来の臨床使用へと転換させるために、増殖細胞を排除するための安全機構が必要である。したがって、ある特定の実施形態では、本開示は、増殖細胞を排除するための自殺遺伝子アプローチのための方法および組成物を提供する。例示的な方法では、自殺遺伝子(例えば、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-TK))の発現を駆動する細胞周期依存性プロモーター(例えば、Ki67)に基づく発現ベクターが提供される。したがって、この構築物は、移植後のガンシクロビルに対して増殖性細胞を感受性にする方法を提供するが、有糸分裂後のニューロンにおける抗原性ウイルスHSV-TKタンパク質の発現を回避する。
【0036】
本開示は、例示的なKi67-HSV-TK構築物を含む宿主細胞が、ガンシクロビルへのin vitroでの曝露によって、増殖PSCおよび初期神経前駆細胞(NPC)を殺傷したことを示す。さらに、PSCのin vivo移植は奇形腫を誘導し、これはガンシクロビルを用いた初期(例えば、移植の4日後)の処置によって防止された。したがって、本開示の自殺遺伝子アプローチは、成熟ニューロンにおける自殺遺伝子の発現なしに、未分化細胞の増殖および/または初期前駆細胞の過成長を止めることを可能にする。このアプローチは、最終標的が有糸分裂後の細胞(例えば、心筋細胞または膵ベータ細胞)である他の幹細胞に基づく療法に有用となる可能性を有する。
【0037】
I.定義
本明細書で使用される場合、指定された成分に関して「本質的に含まない」は、指定された成分が意図的に組成物に全く処方されていないおよび/または混入物質としてしか存在しないもしくは微量で存在していることを意味するために本明細書で使用される。したがって、組成物の任意の意図しない混入から生じる指定された成分の合計量は、0.05%よりはるかに少なく、好ましくは0.01%より少ない。指定された成分の量が標準的な分析方法では検出できない組成物が最も好ましい。
【0038】
本明細書で使用される場合、「a」または「an」は、1つまたは複数を意味することができる。本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、「comprising(含む)」という用語と共に使用される場合、「a」または「an」という用語は、1つまたは1つより多くを意味することができる。
【0039】
特許請求の範囲における「または」という用語の使用は、単独の選択肢を指すことが明示的に示されているかまたは選択肢が相互に排他的な場合でない限り、「および/または」を意味するために使用されるが、本開示は、単独の選択肢、ならびに「および/または」を指す定義を支持している。本明細書で使用される場合、「別の(another)」は、少なくとも2番目またはそれより多くの序数を意味することができる。
【0040】
本出願を通して、「約」という用語は、装置、値を決定するために用いられる方法に固有の誤差の変動、または研究対象間に存在する変動を含む値を示すために使用される。
【0041】
本明細書において「細胞」という用語は、当技術分野で最も広義の意味で使用され、多細胞生物の組織の構造単位であり、外部からそれを隔離する膜構造によって囲まれ、自己複製する能力を有し、遺伝的情報およびそれを発現する機構を有する生体を指す。本明細書で使用される細胞は、天然に存在する細胞または人工的に修飾された細胞(例えば、融合細胞、遺伝的に修飾された細胞など)であり得る。
【0042】
本明細書において「幹細胞」という用語は、適切な条件下で、多様な範囲の特殊化した細胞型に分化することが可能である一方、他の適切な条件下で自己複製および本質的に未分化の多能性状態のままであることが可能である細胞を指す。「幹細胞」という用語は、多能性細胞、多分化能細胞、前駆細胞および始原細胞も包含する。例示的なヒト幹細胞は、骨髄組織から得られる造血または間葉系幹細胞、胚組織から得られる胚性幹細胞、または胎児の生殖器の組織から得られる胚性生殖細胞から得ることができる。また例示的な多能性幹細胞は、体細胞を、多能性に関連する特定の転写因子の発現によって多能性状態にリプログラミングすることによって、体細胞から生成することができる;これらの細胞は、「人工多能性幹細胞」「iPS細胞」または「iPSC」と呼ばれている。
【0043】
「胚性幹(ES)細胞」は、初期段階の胚、例えば胚盤胞段階の内細胞塊から取得され、または人工的手段(例えば、核移植)によって作製され、生殖細胞(例えば、精子および卵子)を含む胚または成体の任意の分化細胞型を生じ得る未分化多能性幹細胞である。
【0044】
「人工多能性幹細胞(iPSC)」は、因子(本明細書でリプログラミング因子と称される)の組合せを発現させるかまたはその発現を誘導することにより体細胞をリプログラミングすることによって生成される細胞である。iPSCは、胎児、出生後、新生児、若年または成体の体細胞を使用して生成することができる。ある特定の実施形態では、体細胞を多能性幹細胞にリプログラミングするために使用できる因子としては、例えば、Oct4(時にOct3/4と称される)、Sox2、c-Myc、Klf4、NanogおよびLin28が挙げられる。一部の実施形態では、体細胞は、体細胞を多能性幹細胞にリプログラミングするための少なくとも2つのリプログラミング因子、少なくとも3つのリプログラミング因子、または4つのリプログラミング因子を発現することによってリプログラミングされる。
【0045】
「多能性幹細胞」は、生物で見出される全ての細胞、好ましくは、3つの胚葉:内胚葉(例えば、内側の胃内壁、消化管、および肺)、中胚葉(例えば、筋肉、骨、血液、および泌尿生殖器)、または外胚葉(例えば、上皮組織および神経系)のいずれかを表す細胞に分化する能力を有する幹細胞を指す。
【0046】
本明細書で使用される場合、「体細胞」という用語は、卵子または精子などの生殖細胞以外の任意の細胞であって、そのDNAが次の世代に直接移行しない細胞を指す。典型的に、体細胞は、多能性が限定されているかまたは全く有さない。本明細書で使用される体細胞は、天然に存在してもよく、または遺伝的に改変されていてもよい。
【0047】
本明細書で使用される場合、細胞に関連して「操作された」という用語は、細胞ゲノムに組み込まれた、細胞に外来性の少なくとも1つの遺伝的エレメントを含む細胞を指す。一部の態様では、外来性遺伝的エレメントは、細胞ゲノムのランダムな位置に組み込むことができる。他の態様では、遺伝的エレメントは、ゲノム中の特定の部位に組み込まれる。例えば、遺伝的エレメントは、内在性核酸配列を置き換えるために、例えば内在性配列に対する変化(例えば、単一のヌクレオチド位置の変化)を提供するために、特定の位置に組み込まれてもよい。
【0048】
本明細書で使用される「前駆細胞」は、多くの異なる成熟細胞型に分化する能力(多能性および多分化能)または2つの異なる成熟細胞型に分化する能力(二分化能)を有する幹細胞を指す。前駆細胞は、1つの細胞型にのみ分化する能力を有する幹細胞であってもよい。例えば、前駆細胞としては、神経前駆細胞(NPC)、心筋前駆細胞、および膵前駆細胞が挙げられる。「神経前駆細胞」は、ニューロンおよびグリア(例えば、アストロサイトおよびオリゴデンドロサイト)などの成熟神経系細胞へと発達する能力を有する神経系の未成熟細胞として本明細書に定義される。
【0049】
「自殺遺伝子」という用語は、そのタンパク質産物により、非毒性のプロドラッグが毒性薬物(例えば、活性な化学療法剤)に変換され、それによって遺伝子産物を発現する細胞が殺傷される遺伝子を指す。
【0050】
本明細書で使用される場合、「ポリヌクレオチド」という用語は、組換え体であるか、または全ゲノム核酸を含まない単離された核酸分子を指す。ヌクレオチド配列に言及するとき、「単離された」とは、示された分子が、同じ型の他の生物学的高分子の実質的な非存在下で存在することを意味する。「ポリヌクレオチド」という用語には、例えばプラスミド、コスミド、ファージ、ウイルスなどを含む組換えベクターが含まれる。ある特定の態様では、ポリヌクレオチドは、天然に存在する遺伝子またはタンパク質をコードする配列から実質的に離れて単離された調節配列を含む。ポリヌクレオチドは、一本鎖(コードもしくはアンチセンス)または二本鎖であってよく、RNA、DNA(例えば、ゲノムDNA、cDNAもしくは合成DNA)、それらのアナログまたはそれらの組合せであってもよい。さらなるコード配列または非コード配列が、必要ではないが、ポリヌクレオチド内に存在してもよい。
【0051】
「発現ベクター」という用語は、転写可能な遺伝子産物の少なくとも一部をコードする核酸配列を含有するベクターを指す。いくつかの場合において、RNA分子は、次いで、タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドに翻訳される。発現ベクターは、特定の宿主生物において作動可能に連結したコード配列の転写、およびおそらくは翻訳のために必要な核酸配列を指す種々の「制御配列」、例えば、プロモーター領域、ポリアデニル化シグナル、転写終結配列、上流調節ドメイン、内部リボソーム侵入部位(IRES)、エンハンサーなどを含むがこれらに限定されない、種々の制御配列を含有することができる。転写および翻訳を支配する制御配列に加えて、ベクターおよび発現ベクターは、レシピエント細胞におけるベクターの複製のための複製起点などの他の機能にも役立つ核酸配列を含有してもよい。選択されたコード配列が、適切な宿主細胞で複製、転写、および翻訳されることが可能である限り、これらの制御エレメントの全てが常に存在する必要はない。
【0052】
「プロモーター領域」という用語は、DNA調節配列を含むヌクレオチド領域を指す、その通常の意味で本明細書において使用され、ここで、調節配列は、RNAポリメラーゼおよび他の転写因子に結合し、下流のコード配列の転写を開始することができる遺伝子から誘導される。プロモーター領域は、転写速度も制御する。プロモーターは、核酸配列の転写活性化に関与するシス作用調節配列を指す「エンハンサー」と組み合わせて使用してもしなくてもよい。「作動可能に連結した」は、そのように記載された成分が、それらの通常の機能を行うように構成されているエレメントの配置を指す。したがって、コード配列に作動可能に連結した制御配列は、その配列の転写開始および発現を制御することが可能である。制御エレメントは、その発現を指示するように機能する限り、コード配列と連続している必要はない。したがって、例えば、介在する翻訳されないが転写される配列が、プロモーター配列とコード配列との間に存在することができ、そのプロモーター配列は依然としてコード配列に「作動可能に連結した」と考えることができる。
【0053】
「異種」という用語は、遺伝子配列および制御配列などの核酸配列に関するとき、通常は互いに結合されていないおよび/または通常は特定の細胞に関連していない配列を意味する。したがって、核酸構築物またはベクターの「異種」領域とは、天然では他の分子と関連して見出されない別の核酸分子内にあるまたはそれに結合している核酸のセグメントである。例えば、核酸構築物の異種領域は、天然ではコード配列と関連して見出されない配列に隣接するコード配列を含むことができる。異種コード配列の別の例は、コード配列自体が天然では見出されない構築物(例えば、天然の遺伝子とは異なるコドンを有する合成配列)である。同様に、細胞に通常存在しない構築物で形質転換された細胞は、本開示の目的において、異種と考えられる。本明細書で使用される場合、対立遺伝子変化形または天然に存在する変異事象は異種DNAを生じない。
【0054】
本出願全体を通して、特定の核酸分子におけるヌクレオチド配列の相対的位置を記載する目的のために、例えば、特定のヌクレオチド配列が、別の配列に対して「上流」、「下流」、「5’」または「3’」に位置していると記載されているとき、当技術分野において一般的であるように参照されているのはDNA分子の非転写鎖における配列の位置であると理解される。
【0055】
「相同性」は、2つのポリヌクレオチド部分間の同一性のパーセントを指す。2つのポリヌクレオチド配列が、分子の規定された長さにわたって、少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約75%、より好ましくは少なくとも約80%~85%、好ましくは少なくとも約90%、および最も好ましくは少なくとも約95%~98%の配列同一性を示すとき、2つのポリヌクレオチド配列は、互いに「実質的に相同」である。本明細書で使用される場合、実質的に相同は、特定のポリヌクレオチド配列に対して完全な同一性を示す配列も指す。
【0056】
「トランスフェクション」という用語は、細胞による外来DNAの取り込みを指すために使用される。外来性DNAが細胞膜の内側に導入されたとき、細胞は「トランスフェクト」されている。いくつかのトランスフェクション技術は、当技術分野で一般的に公知である。例えば、Grahamら(1973年)Virology、52巻:456頁、Sambrookら(1989年)Molecular Cloning、a laboratory manual、Cold Spring Harbor Laboratories、New York、Davisら(1986年)Basic Methods in Molecular Biology、ElsevierおよびChuら、Gene、13巻:197頁、1981年を参照。そのような技術は、プラスミドベクターおよび他の核酸分子などの1つまたは複数の外来性DNA部分を、適切な宿主細胞に導入するために使用することができる。用語は、遺伝物質の安定な取り込みおよび一過性の取り込みの両方を指す。
【0057】
「形質導入」という用語は、in vivoまたはin vitroでの、複製欠損ウイルスベクターを介した、例えば、組換えレンチウイルスベクター粒子を介したDNA分子のレシピエント細胞への送達を意味する。
【0058】
「脊椎動物対象」は、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウマ、ならびにヒトおよび非ヒト霊長類などの哺乳動物;イヌおよびネコなどの家庭内動物、マウス、ラットおよびモルモットなどの齧歯類を含む実験動物など;ニワトリ、七面鳥および他のキジ鳥を含む雄鶏および雌鶏などの家畜、野生および狩猟鳥を含む鳥類;ならびに魚類を限定することなく含む亜門の脊索動物門の任意のメンバーを意味する。この用語は、特定の年齢を示すものではない。したがって、成体および新生動物の両方ならびに胎児を包含することが意図されている。
【0059】
「対象」または「患者」は、ヒト、ウシ、イヌ、モルモット、ウサギ、ニワトリなどを含む、療法が望まれる任意の単一の対象を意味する。疾患の臨床的徴候を何ら示していない、臨床研究試験に関与する任意の対象、または疫学的研究に関与する対象、または対照として使用される対象も、対象として含まれることが意図されている。
【0060】
本開示の文脈において、「チミジンキナーゼ変異体」という用語は、本明細書に記載の特定のタンパク質(ならびにこれらのタンパク質をコードする核酸配列)だけでなく、生物学的活性を保持する主要なタンパク質の種々の構造形態を含み得るそれらの誘導体を含むと理解されるべきである。例えば、チミジンキナーゼ変異体は、酸性もしくは塩基性の塩の形態または中性形態であり得る。さらに、個々のアミノ酸残基は、酸化または還元によって修飾されていてもよい。さらに、アミノ酸または核酸配列に対して種々の置換、欠失、または付加がなされてもよく、その正味の効果は、変異体の増加した生物学的活性を保持またはさらに増強することである。コード縮重により、例えば、同じアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列にかなりの変動があってもよい。
【0061】
II.本開示の細胞
本開示のある特定の実施形態では、自殺遺伝子に作動可能に連結した細胞周期依存性プロモーター、例えばHSV-TKを有する構築物を含む、神経前駆細胞などの前駆細胞を生成するための方法および組成物が開示される。一部の態様では、前駆細胞は、多能性幹細胞(PSC)、例えば、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞の出発集団から誘導される。
【0062】
A.多能性幹細胞
本開示のPSCの出発集団は、ヒト胚性幹細胞(ESC)または人工多能性幹細胞(iPSC)であり得る。ESCおよびiPSCの両方が、in vitroで長期増殖が可能である一方、神経前駆細胞、心筋細胞、膵ベータ細胞、および肝細胞を含む身体の全ての細胞型に分化する能力を保持している。本開示のある特定の態様は、全てではないがほとんどの通常の発達段階をバイパスする、iPSCの生成に類似した分化/機能のための転写因子の組合せの発現を介して、ヒトESCまたはiPSCから直接誘導することができる前駆細胞に関する。
【0063】
1.胚性幹細胞
ある特定の態様では、前駆細胞は、ESCから誘導される。ESCは、胚盤胞の内部細胞塊から誘導され、in vitroで高い分化能を有する。ESCは、発生中の胚の外側の栄養外胚葉層を除去し、次いで、非成長細胞のフィーダー層上で内部塊の細胞を培養することによって単離することができる。再播種した細胞は、増殖し、ESCの新しいコロニーを生産し続けることができ、これを取り出し、解離し、再び再播種し、成長させることができる。未分化ES細胞を「継代培養」するこのプロセスは、未分化ES細胞を含有する細胞株を生成するために数回繰り返すことができる(米国特許第5,843,780号、第6,200,806号、第7,029,913号)。ESCは、その多能性を維持しながら増殖する能力を有する。例えば、ESCは、細胞に関するおよび細胞分化を制御する遺伝子に関する研究に有用である。ESCの多能性は、遺伝子操作および選択と組み合わせて、トランスジェニック、キメラ、およびノックアウトマウスの作製を介して、in vivoで遺伝子解析研究のために使用することができる。
【0064】
マウスのESCを作製するための方法は周知である。1つの方法では、マウスの129株由来の着床前の胚盤胞を、マウス抗血清で処理して栄養外胚葉(trophoectoderm)を除去し、内部細胞塊を、ウシ胎児血清を含有する培地中で化学的に不活化されたマウス胚線維芽細胞のフィーダー細胞層上で培養する。発達する未分化ES細胞のコロニーを、ウシ胎児血清の存在下、マウス胚線維芽細胞フィーダー層上で継代培養し、ESCの集団を生成する。一部の方法では、マウスESCは、サイトカイン白血病抑制因子(LIF)を血清含有培養培地に添加することにより、フィーダー層の非存在下で成長させることができる(Smith、2000年)。他の方法では、マウスESCは、骨形態形成タンパク質およびLIFの存在下で、無血清培地中で成長させることができる(Yingら、2003年)。
【0065】
ヒトESCは、精子と卵細胞の融合、核移植、病因、または以前に記載された方法(ThomsonおよびMarshall、1998年;Reubinoffら、2000年)によってクロマチンをリプログラミングした後、リプログラミングされたクロマチンを原形質膜に組込み、胚細胞を生成することによって生じる接合体または胚盤胞期哺乳動物胚から作製または誘導することができる。1つの方法では、ヒト胚盤胞を抗ヒト血清に曝露し、栄養外胚葉細胞を溶解して、マウス胚線維芽細胞のフィーダー層上で培養される内部細胞塊から取り出す。さらに、内部細胞塊から誘導される細胞の集合体を、化学的または機械的に解離し、再播種し、未分化形態を有するコロニーを、マイクロピペットにより選択し、解離し、再播種する。一部の方法では、ヒトESCは、塩基性線維芽細胞成長因子の存在下で線維芽細胞のフィーダー層上でESCを培養することによって、血清なしで成長させることができる(Amitら、2000年)。他の方法では、ヒトESCは、塩基性線維芽細胞成長因子を含有する「馴化」培地の存在下でMATRIGEL(商標)またはラミニンなどのタンパク質マトリックス上で細胞を培養することによってフィーダー細胞層なしで成長させることができる(Xuら、2001年)。
【0066】
またESCは、以前に記載された方法によってアカゲザルおよびマーモセットを含む他の生物から誘導することができ(ThomsonおよびMarshall、1998年;Thomsonら、1995年;ThomsonおよびOdorico、2000年;米国特許第5,843,780号)、確立されたマウスおよびヒト細胞株から誘導することもできる。例えば、確立されたヒトESC株として、MAOI、MA09、ACT-4、HI、H7、H9、H13、H14およびACT30が挙げられる。さらなる例として、確立されたマウスESC株としては、マウス129株の胚の内部細胞塊から確立されたCGR8細胞株が挙げられ、CGR8細胞の培養はLIFの存在下でフィーダー層なしで成長させることができる。
【0067】
ESCは、転写因子Oct4、アルカリホスファターゼ(AP)、段階特異的胚抗原SSEA-1、段階特異的胚抗原SSEA-3、段階特異的胚抗原SSEA-4、転写因子NANOG、腫瘍拒絶抗原1-60(TRA-1-60)、腫瘍拒絶抗原1-81(TRA-1-81)、SOX2またはREX1を含むタンパク質マーカーによって検出することができる。
【0068】
2.人工多能性幹細胞
他の態様では、前駆細胞は、一般にiPS細胞またはiPSCと略される人工多能性幹細胞から誘導される。多能性の誘導は、最初は、多能性に関連する転写因子の導入を介した体細胞のリプログラミングによって、マウス細胞を使用して2006年に(Yamanakaら、2006年)、またヒト細胞を使用して2007年に(Yuら、2007年;Takahashiら、2007年)達成された。iPSCの使用は、ES細胞の大規模臨床使用に伴う倫理的および実用的な問題のほとんどを回避し、iPSC由来の自家移植を用いた患者は、移植片拒絶を防ぐための生涯にわたる免疫抑制処置が必要でなくなり得る。
【0069】
特定の細胞型(生殖細胞および除核赤血球など)を除いて、任意の細胞を、iPSCの出発点として使用することができる。例えば、細胞型は、ニューロン、ケラチノサイト、線維芽細胞、造血細胞、間葉細胞、肝臓細胞、または胃細胞であり得る。細胞分化の程度または細胞が収集される動物の年齢は限定されない;未分化始原細胞(体性幹細胞を含む)および最終的に分化した成熟細胞でさえ、本明細書に開示される方法において体細胞の供給源として使用することができる。体細胞は、成体または胎児の体細胞であり得る。iPSCは、ヒトESCを特定の細胞型に分化させ、SSEA-1、SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60およびTRA-1-81を含むヒトESCマーカーを発現することが公知である条件下で成長させることができる。
【0070】
体細胞は、当業者に公知の方法を使用して、人工多能性幹細胞(iPSC)を製造するようにリプログラミングすることができる。当業者は、人工多能性幹細胞を容易に作製することができる。例えば、参照によって本明細書に組み込まれる米国特許公開第20090246875号、第201000210014号;第20120276636号;米国特許第8,058,065号、第8,129,187号、第8,278,620号、第8,268,630号;およびPCT公開番号WO2007069666を参照。一般的に、核リプログラミング因子が、体細胞から多能性幹細胞を生成するために使用される。当技術分野で公知のリプログラミング因子としては、Klf4、c-Myc、Oct3/4、Sox2、NanogおよびLin28が挙げられる。因子の任意の組合せを、本方法において使用することができる。
【0071】
これらの核リプログラミング物質のマウスおよびヒトcDNA配列は、参照によって本明細書に組み込まれる米国特許第8,183,038号およびPCT公開番号WO2007069666で言及されるNCBI受託番号を参照して利用可能である。1つもしくは複数のリプログラミング物質またはこれらのリプログラミング物質をコードする核酸を導入するための方法は当技術分野で公知であり、例えば参照によって本明細書に組み込まれる、公開された米国特許第8,071,369号、第8,268,620号、第8,691,574号、第8,741,648号、第8,546,140号、第8,900,871号および第9,175,268号に開示されている。
【0072】
誘導されたら、iPSCは、多能性を維持するのに十分な培地で培養することができる。iPSCは、米国特許第7,442,548号および米国特許公開第20030211603号に記載されているような、多能性幹細胞、より詳細には、胚性幹細胞を培養するために開発された種々の培地および技術で使用することができる。マウス細胞の場合、培養は、分化抑制因子として白血病抑制因子(LIF)を通常の培地に添加して行うことができる。ヒト細胞の場合、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)が、LIFの代わりに添加されてもよい。当業者に公知であるように、iPSCの培養および維持のための他の方法を、本開示で使用してもよい。
【0073】
ある特定の実施形態では、未定義の条件が使用されてもよい;例えば、多能性細胞は、幹細胞を未分化状態で維持するために、線維芽細胞フィーダー細胞または線維芽細胞フィーダー細胞に曝露された培地上で培養してもよい。一部の実施形態では、細胞は、フィーダー細胞として、細胞分裂を終了させるために放射線または抗生物質で処置したマウス胚線維芽細胞の共存下で培養される。代替的に、多能性細胞は、TESR(商標)培地(Ludwigら、2006a;Ludwigら、2006b)またはE8(商標)/Essential8(商標)培地(Chenら、2011年)などの定義されたフィーダー非依存性培養系を使用して、本質的に未分化の状態で培養および維持してもよい。
【0074】
プラスミドは、いくつかの目標、例えば調節された高いコピー数を達成すること、および細菌におけるプラスミドの不安定性の潜在的な原因を回避すること、およびヒト細胞を含む哺乳動物細胞での使用に適合したプラスミド選択のための手段を提供することなどを念頭において設計されている。ヒト細胞で使用するために、プラスミドの二重の要件に特に注意が払われてきた。第1に、プラスミドは、大量のDNAが作製および精製されるように、E.coliでの維持および発酵に適している。第2に、プラスミドは、ヒト患者および動物における使用に安全であり、適している。第1の要件は、細菌発酵中に比較的容易に選択および安定に維持することができる高コピー数のプラスミドを要求する。第2の要件は、選択可能マーカーおよび他のコード配列などのエレメントへの注意を要求する。一部の実施形態では、マーカーをコードするプラスミドは、(1)高コピー数の複製起点、(2)選択可能マーカー、例えば、これらに限定されないが、カナマイシンを用いた抗生物質選択のためのneo遺伝子、(3)チロシナーゼエンハンサーを含む転写終結配列、および(4)種々の核酸カセットの組込みのためのマルチクローニング部位、および(5)チロシナーゼプロモーターに作動可能に連結したマーカーをコードする核酸配列で構成されている。タンパク質をコードする核酸を誘導するための、当技術分野で公知の数多くのプラスミドベクターがある。これらとしては、参照によって本明細書に組み込まれる米国特許第6,103,470号;米国特許第7,598,364号;米国特許第7,989,425号;および米国特許第6,416,998号に開示のベクターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
エピソーム遺伝子送達系は、プラスミド、エプスタイン・バーウイルス(EBV)系エピソームベクター(米国特許第8,546,140号)、酵母系ベクター、アデノウイルス系ベクター、シミアンウイルス40(SV40)系エピソームベクター、ウシパピローマウイルス(BPV)系ベクターまたはレンチウイルスベクターであってもよい。ウイルス遺伝子送達系は、RNAに基づくまたはDNAに基づくウイルスベクター(参照によって本明細書に組み込まれるPCT/JP2009/062911、PCT/JP2011/069588)であってもよい。
【0076】
3.体細胞核移植によって誘導された胚性幹細胞
宿主細胞の出発集団を誘導するための多能性幹細胞は、ドナー核を紡錘体を含まない卵母細胞に移す体細胞核移植によって調製することもできる。核移植によって生成された幹細胞はドナー核と遺伝学的に同一である。1つの方法では、アカゲザルの皮膚線維芽細胞由来のドナー線維芽細胞の核を、電気融合によって、紡錘体を含まない成熟した第二減数分裂中期のアカゲザル卵母細胞(ooctye)の細胞質に導入する(Byrneら、2007年)。融合された卵母細胞をイオノマイシンへの曝露によって活性化し、次いで胚盤胞期までインキュベートする。次いで、選択された胚盤胞の内部細胞塊を培養して、胚性幹細胞株を産生する。胚性幹細胞株は、正常なES細胞形態を示し、種々のES細胞マーカーを発現し、in vitroおよびin vivoの両方で複数の細胞型に分化する。
【0077】
B.前駆細胞
本開示のある特定の実施形態は、細胞周期依存性プロモーターの制御下で自殺遺伝子をコードするベクターを含む前駆細胞に関する。前駆細胞は、PSCから分化されてもよい。例示的な前駆細胞には、神経前駆細胞(NPC)、心筋前駆細胞および膵前駆細胞が挙げられる。
【0078】
神経前駆細胞は、例えば、参照によって本明細書に組み込まれる米国特許第7,968,337号に記載の方法が挙げられるが、これに限定されない当技術分野で公知の方法を使用して、PSCから分化され得る。簡潔に述べると、PSCを、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を含む第1の培地、bFGFおよび上皮成長因子(EGF)を含む第2の培地、ならびにbFGFおよび血小板由来成長因子(PDGF)を含む第3の培地で培養して、神経前駆細胞が得られる。NPCは、musashi、ネスチン、sox2、ビメンチン、pax6およびsox1などのマーカーを使用して検出および/または単離することができる。NPCは、さらに分化させて、様々なニューロンマーカー、例えば、MAP2、ベータ-III-チューブリン、シナプシン、コリンアセチルトランスフェラーゼ、チロシンヒドロキシラーゼ、GABA、グルタメート、セロトニン、ペリフェリンおよびカルビンジンを発現させることもできる。分化したニューロンの成熟および生存は、ニューロトロフィン、例えば、BDNFまたはニューロトロフィン3(NT-3)の添加により向上させることができる。NPCの産生および培養のためのさらなる方法は、例えば、それぞれ参照によって本明細書に組み込まれる米国特許第8,093,053号、第5,980,885号、第7.968,337号および第8,178,349号ならびに米国出願第20100323444号に見出すことができる。
【0079】
III.本開示のポリヌクレオチド
ある特定の実施形態では、本開示は、単離された組換えポリヌクレオチド、例えば、自殺遺伝子に作動可能に連結した細胞周期依存性プロモーターを含むポリヌクレオチドに関する。特定の実施形態では、本開示は、自殺遺伝子をコードする核酸配列を組み込んでいる単離された核酸および組換えベクターであって、その発現が、細胞周期依存性プロモーターに作動可能に連結している、組換えベクターに関する。「組換え」という用語は、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドと組み合わせて使用することができ、一般に、in vitroで作製または操作されたポリペプチドもしくはポリヌクレオチド、および/またはそのような分子の複製産物であるポリペプチドもしくはポリヌクレオチドを指す。
【0080】
核酸は、当業者に公知の任意の技術によって作製することができる。合成核酸、特に合成オリゴヌクレオチドの非限定的な例としては、ホスホトリエステル、ホスファイト、またはホスホラミダイト化学、およびEP266,032に記載されているような固相技術を使用して、またはFroehlerら、1986年および米国特許第5,705,629号によって記載されているデオキシヌクレオシドH-ホスホネート中間体を介して、in vitro化学合成によって作製された核酸が挙げられる。酵素的に産生された核酸の非限定的な例としては、PCR(商標)などの増幅反応(例えば、米国特許第4,683,202号および米国特許第4,682,195号を参照)、または米国特許第5,645,897号に記載のオリゴヌクレオチドの合成で、酵素によって産生されたものが挙げられる。生物学的に産生された核酸の非限定的な例としては、細菌における組換えDNAベクター産生(例えば、Sambrookら、1989年参照)などの、生きた細胞における組換え核酸の産生が挙げられる。
【0081】
本開示で使用される核酸は、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、さらなる制限酵素部位、多重クローニング部位、他のコードセグメント等のような他の核酸配列と組み合わせることができ、全体の長さはかなり変動し得る。したがって、ほとんどあらゆる長さの核酸断片を用い得ることが企図され、全長は、好ましくは、調製の容易さおよび意図された組換え核酸プロトコルでの使用によって限定される。
【0082】
A.核酸送達
本開示のポリヌクレオチドは、ウイルスまたは非ウイルスの方法によって宿主細胞に導入され得る(例えば、トランスフェクトされるまたは形質導入される)。本明細書で提供されるベクターは、主に、細胞周期依存性プロモーターの制御下で自殺遺伝子を発現するように設計されている。当業者は、標準的な組換え技術を通じてベクターを構築する能力が十分備わっている(例えば、いずれも参照によって本明細書に組み込まれるSambrookら、2001年およびAusubelら、1996年を参照)。ベクターとしては、プラスミド、コスミド、ウイルス(例えば、バクテリオファージ、動物ウイルス、および植物ウイルス)、人工染色体(例えば、YAC)、レトロウイルスベクター(例えばモロニーマウス白血病ウイルスベクター(MoMLV)、MSCV、SFFV、MPSV、SNVなどに由来するもの)、レンチウイルスベクター(例えば、HIV-1、HIV-2、SIV、BIV、FIVなどに由来する)、それらの複製コンピテント、複製欠損および増殖力欠損(gutless)形態を含むアデノウイルス(Ad)ベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、シミアンウイルス40(SV40)ベクター、ウシパピローマウイルスベクター、エプスタイン・バーウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、ハーベイマウス肉腫ウイルスベクター、マウス乳腺腫瘍ウイルスベクター、ラウス肉腫ウイルスベクター、パルボウイルスベクター、ポリオウイルスベクター、水疱性口内炎ウイルスベクター、マラバウイルスベクター、およびB群アデノウイルスenadenotucirevベクターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
1.ウイルスベクター
自殺遺伝子に作動可能に連結した細胞周期依存性プロモーターをコードするウイルスベクターが本開示のある特定の態様で提供され得る。組換えウイルスベクターの生成では、典型的に、非必須遺伝子が、異種(または非天然)タンパク質のために、遺伝子またはコード配列で置き換えられる。ウイルスベクターは、核酸、およびおそらくはタンパク質を細胞内に導入するためにウイルス配列を利用する一種の発現構築物である。ある特定のウイルスが、細胞に感染し、または受容体媒介エンドサイトーシスを介して細胞に侵入し、宿主細胞ゲノムに組み込まれ、ウイルス遺伝子を安定におよび効率的に発現する能力は、そのウイルスを、外来核酸を細胞(例えば、哺乳動物細胞)に移行させるための魅力的な候補にしている。本開示のある特定の態様の核酸を送達するために使用することができるウイルスベクターの非限定的な例を以下に記載する。本開示における「組換えウイルスベクター」は、遺伝子組換え技術により構築されたウイルスベクターを指す。パッケージング細胞およびウイルスゲノムをコードするDNAを使用して構築されるウイルスベクターは、組換えウイルスベクターと呼ばれる。
【0084】
i.レトロウイルスベクター
本開示の一態様では、5’長末端反復(LTR)、tRNA結合部位、パッケージングシグナル、1つまたは複数の異種配列、第二鎖DNA合成起点、および3’LTRを含むレトロウイルス構築物が提供され、ここでベクター構築物は、gag/polおよび/またはenvコード配列を欠いている。
【0085】
ベクター構築物に含まれる異種配列は、タンパク質をコードするものであり、好ましくは自殺遺伝子、例えば単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼをコードするものである。本開示のある特定の実施形態では、本明細書に記載の発現カセットは、プラスミド構築物内に含有されていてもよい。
【0086】
本開示のレトロウイルスベクターは、目的の配列(単数または複数)または遺伝子(単数または複数)の発現を指示することができるアセンブリである少なくとも1つの発現カセットを含む。発現カセットは、目的の配列(単数または複数)または遺伝子(単数または複数)に作動可能に連結した転写プロモーター領域またはプロモーター/エンハンサーを含み、ポリアデニル化配列も含んでもよい。そのようなベクター構築物は、パッケージングシグナル、LTRまたはその機能的部分、ならびに使用されるレトロウイルスに適切なポジティブおよびネガティブ鎖プライマー結合部位も含む。任意選択で、組換えレトロウイルスベクターは、選択可能および/または非選択可能マーカー、第二鎖DNA合成起点、プラスミド構築物が一本鎖DNAとして存在することを可能にするシグナル(例えば、M13複製起点)、細菌複製起点、および哺乳動物複製起点(例えば、SV40またはアデノウイルス複製起点)、1つまたは複数の制限部位および翻訳終結配列も含んでもよい。選択可能および非選択可能マーカーの例としては、ネオマイシン(Νeo)、チミジンキナーゼ(TK)、ハイグロマイシン、フレオマイシン、ピューロマイシン、ヒスチジノール、緑色蛍光タンパク質(GFP)、ヒト胎盤アルカリホスファターゼ(PLAP)、DHFR、β-ガラクトシダーゼ、およびヒト成長ホルモン(hGH)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0087】
レトロウイルスでは、LTRが修飾されていてもよい。LTRは、ウイルスゲノムの両端に存在するレトロウイルス特異的配列である。5’LTRはプロウイルスmRNAの転写を増強するプロモーターとして機能する。したがって、遺伝子導入ベクターの5’LTRプロモーター活性を示す部分が、より強力なプロモーター活性を有する別のプロモーターで置換される場合、遺伝子導入ベクターのmRNA転写を増強し、パッケージング効率を向上させ、およびベクター力価を増加させることが可能である。さらに、例えば、レンチウイルスの場合には、ウイルスタンパク質tatが5’LTR転写活性を増強することは公知であり、したがって、5’LTRを、tatタンパク質と独立したプロモーターで置換することは、パッケージングベクターからtatを排除することを可能にする。細胞に感染したまたは侵入したウイルスのRNAが逆転写された後、両端のLTRが連結して閉環構造を形成し、ウイルスインテグラーゼが連結部位に結合し、この構造が、次いで細胞染色体に組み込まれる。転写されたプロウイルスのmRNAは、5’LTR転写開始部位から、下流に位置する3’LTRポリアデニル化配列までの範囲にわたる領域で構成されている。5’LTRプロモーター部分は、ウイルスにパッケージされていない。したがって、プロモーターが別の配列で置き換えられても、標的細胞の染色体に組み込まれる部分は変化しない。上記の事実に基づき、5’LTRプロモーターの置換は、より高い力価を有する、より安全なベクターを提供すると考えられる。したがって、遺伝子導入ベクターの5’末端でのプロモーターの置換は、パッケージング可能なベクターの力価を増加させることができる。
【0088】
安全性は、標的細胞における全長ベクターmRNAの転写を防止することにより、組換えレトロウイルスウイルスベクターにおいて改善することができる。これは、部分的に3’LTR配列を排除することにより調製される自己不活化ベクター(SINベクター)を使用して達成される。標的細胞の染色体に侵入したプロウイルスは、その3’LTRのU3部分に結合されたその5’末端を有する。したがって、U3部分が遺伝子導入ベクターの5’末端に位置し、その点から、遺伝子導入ベクターの全RNAが転写される。レトロウイルスまたは類似のタンパク質が標的細胞に存在する場合、遺伝子導入ベクターを再びパッケージングし、他の細胞に感染させることが可能である。3’LTRプロモーターがウイルスゲノムの下流に位置する宿主遺伝子を発現することができる可能性もある。3’LTR U3部分が遺伝子導入ベクターから削除されるとき、標的細胞は、5’LTRおよび3’LTRのプロモーターを欠き、それにより、全長ウイルスRNAおよび宿主遺伝子の転写が防止される。さらに、目的の遺伝子のみが内在性プロモーターから転写されるので、高発現可能な安全性の高いベクターを期待し得る。そのようなベクターは、本開示において好ましい。SINベクターは、公知の方法に従って構築することができる。
【0089】
SINベクターは、組込み後のLTR配列の宿主メチル化から生じる導入遺伝子の発現の緩やかな減少を克服するというさらなる利点を有する(Challita, P.M.およびKohn, D. B.、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、91巻:2567頁、1994年)。LTRメチル化は、SINベクターにおける遺伝子発現レベルをほとんど低下させない。これは、ベクターが宿主ゲノムに組み込まれる際にLTR配列のほとんどを失うからである。遺伝子導入ベクターの3’LTR U3領域を別のプロモーター配列に置換することによって調製されたSINベクターは、霊長類ES細胞への導入後2ヶ月を超えて安定な発現を維持することが見出された(WO02/101057)。したがって、LTR U3領域の改変によって自己不活化するように設計されたSINベクターが、本開示において使用され得る。
【0090】
レトロウイルスは、宿主細胞において、パッケージングシグナルを含有する遺伝子導入ベクターDNAを転写し、gag、polおよびエンベロープタンパク質の存在下でウイルス粒子を形成することによって製造することができる。遺伝子導入ベクターDNAによってコードされるパッケージングシグナル配列は、好ましくは、配列によって形成される構造を維持するのに十分な長さであるべきである。しかしながら、ベクターDNAパッケージングシグナルとgagおよびpolタンパク質を供給するパッケージングベクターとの組換えによって生じる野生型ウイルス形成の頻度を抑制するために、これらのベクター配列間の配列重複を最小に維持することも必要である。したがって、遺伝子導入ベクターDNAの構築のときには、パッケージング効率および安全性を確保するために、できるだけ短く、しかもパッケージングに必須の配列を含有する配列を使用することが好ましい。
【0091】
SIVベクターは、元々のSIVゲノムに由来する40%またはそれより多く、より好ましくは50%またはそれより多く、なおより好ましくは60%またはそれより多く、さらにより好ましくは70%またはそれより多く、および最も好ましくは80%またはそれより多くの配列が除去された複製不能ウイルスであり得る。
【0092】
遺伝子導入ベクターDNAにおいて、gagタンパク質は、それが発現されないように改変されている。ウイルスgagタンパク質は、異物として、したがって潜在的な抗原として、生体によって検出され得る。代替的に、タンパク質は、細胞機能に影響を与え得る。gagタンパク質発現を防止するために、gag開始コドンの下流のヌクレオチドを追加または削除して、フレームシフトを引き起こす修飾を導入してもよい。gagタンパク質のコード領域部分を削除することも好ましい。gagタンパク質のコード領域の5’部分がウイルスパッケージングに必須であることは公知である。したがって、遺伝子導入ベクターでは、gagタンパク質コード領域のC末端側が欠失していることが好ましい。gagコード領域のできるだけ大きな部分を、その削除がパッケージング効率にかなりの影響を与えない限り、削除することが好ましい。gagタンパク質の開始コドン(ATG)を、ATG以外のコドンで置き換えることも好ましい。置き換えるコドンは、パッケージング効率に大幅に影響を与えないように適切に選択され得る。ウイルスベクターは、パッケージングシグナルを含む構築された遺伝子導入ベクターDNAを、適切なパッケージング細胞に導入することによって製造することができる。産生されるウイルスベクターは、例えばパッケージング細胞の培養上清から回収することができる。
【0093】
「パッケージング細胞」とは、組換えレトロウイルスベクターを欠く感染性組換えレトロウイルスの産生に必要なエレメントを含有する細胞を指す。パッケージング細胞は、gag、polおよびenv由来タンパク質をコードするタンパク質を発現することができる1つまたは複数の発現カセットを含有する。パッケージング細胞はgag/polおよびenv発現カセットに加えてvif、revまたはORF2の1つまたは複数をコードする発現カセットを含有することもできる。
【0094】
細胞株がウイルス産生において全体的に使用される限り、パッケージング細胞の種類に限定はない。ヒトの遺伝子療法に使用する場合、ヒト由来またはサル由来の細胞が好適である。パッケージング細胞として使用することができるヒト細胞株としては、例えば、293細胞、293T細胞、293EBNA細胞、SW480細胞、u87MG細胞、HOS細胞、C8166細胞、MT-4細胞、Molt-4細胞、HeLa細胞、HT1080細胞およびTE671細胞が挙げられる。サル細胞株としては、例えば、COS1細胞、COS7細胞、CV-1細胞およびBMT10細胞が挙げられる。
【0095】
レンチウイルスは、共通のレトロウイルス遺伝子gag、polおよびenvに加えて、調節または構造機能を有する他の遺伝子を含有する複雑なレトロウイルスである。レンチウイルスベクターは、当技術分野で周知である(例えば、Naldiniら、1996年;Zuffereyら、1997年;Blomerら、1997年;米国特許第6,013,516号および第5,994,136号を参照)。組換えレンチウイルスベクターは、分裂しない細胞に感染することができ、in vivoおよびex vivoの両方で遺伝子導入および核酸配列の発現のために使用することができる。例えば、分裂しない細胞(ここで適切な宿主細胞は、パッケージング機能、すなわちgag、polおよびenvならびにrevおよびtatを保有する2つまたはそれより多くのベクターでトランスフェクトされている)に感染することが可能な組換えレンチウイルスは、参照によって本明細書に組み込まれる米国特許第5,994,136号に記載されている。
【0096】
本開示のシュードタイプレンチウイルスベクターは、実質的に純粋になるように精製することができる。「実質的に純粋な」という語句は、シュードタイプレンチウイルスベクターが、レンチウイルス以外の複製可能なウイルスを実質的に含有していないことを意味する。精製は、濾過、遠心分離、およびカラム精製などの公知の精製および分離方法を使用して達成することができる。例えば、ベクターは、0.45μmのフィルタでベクター溶液を濾過し、次いで、4℃で90分間、42500×gで遠心分離することによって、沈殿および濃縮することができる。必要であれば、本開示のシュードタイプレンチウイルスベクターは、所望の薬学的に許容される担体またはビヒクルと適切に組み合わせることによって、組成物として調製することができる。具体的には、ベクターは、例えば、滅菌水、生理食塩水、培養培地、血清、およびリン酸緩衝生理食塩水(PBS)と適切に組み合わせることができる。またベクターは、安定剤、殺生物剤などと組み合わせることもできる。本開示のシュードタイプレンチウイルスベクターを含有する組成物は、試薬または医薬として有用である。例えば、本開示の組成物は、気道幹細胞への遺伝子導入のための試薬として、または遺伝的疾患などの種々の疾患の遺伝子療法のための医薬として使用することができる。
【0097】
本開示の一態様において、選択された遺伝子(単数または複数)または目的の配列(単数または複数)を保有または発現するように構築されたレトロウイルス遺伝子送達ビヒクルが提供される。簡潔に述べると、本開示のレトロウイルス遺伝子送達ビヒクルは、例えば、B、CおよびD型レトロウイルスを含む多種多様なレトロウイルスならびにスプマウイルスおよびレンチウイルス、例えばFIV、HIV-1、HIV-2、EIAVおよびSIVから容易に構築され得る(RNA Tumor Viruses、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory、1985年を参照)。そのようなレトロウイルスは、American Type Culture Collection(「ATCC」;10801 University Blvd.、Manassa、VA 20110-2209)などの寄託機関もしくはコレクションから容易に取得することができ、または一般に利用可能な技術を使用して公知の供給源から単離することができる。上記のレトロウイルスのいずれも、本明細書で提供される開示および標準的組換え技術(例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年;Kunkle、PNAS、52巻:488頁、1985年)を考慮して、レトロウイルス遺伝子送達ビヒクルを組み立てまたは構築するために容易に利用することができる。さらに、本開示のある特定の実施形態では、レトロウイルス遺伝子送達ビヒクルの一部は、異なるレトロウイルスに由来し得る。例えば、本開示の一実施形態では、レトロウイルスLTRは、マウス肉腫ウイルス、ラウス肉腫ウイルス由来のtRNA結合部位、マウス白血病ウイルス由来のパッケージングシグナル、およびトリ白血病ウイルスの第二鎖合成起点に由来し得る。
【0098】
本開示のある特定の実施形態では、ウイルスプロモーター、好ましくはCMVまたはSV40プロモーターおよび/またはエンハンサーが、目的の1つまたは複数の遺伝子の発現を駆動するように利用されるレトロウイルスベクターが提供される。本開示の他の態様では、組織特異的プロモーターが、1つまたは複数の目的の遺伝子の発現を駆動するように利用されるレトロウイルスベクターが提供される。
【0099】
本開示で使用するためのレトロウイルスベクター構築物は、1つより多くの目的の遺伝子が発現され、好ましくは選択されるように、生成され得る。これは、ジもしくはオリゴシストロンカセット(例えば、コード領域が120またはそれ未満のヌクレオチドによって分離されている、一般的にLevinら、Gene、108巻:167~174頁、1991年参照)の使用を通して、または内部リボソーム侵入部位(「IRES」)の使用を通して達成され得る。
【0100】
本開示の一態様では、自己不活化(SIN)ベクターは、TATAボックスおよび1つまたは複数の転写因子のための結合部位を含む3’LTRのU3領域中のプロモーターおよびエンハンサーエレメントを削除することによって作製される。削除は、形質導入された細胞における逆転写および組込みの後、5’LTRに移行される。これが、プロウイルスにおけるLTRの転写不活化をもたらす。SINベクターの考えられる利点には、遺伝子送達系の安全性の増加、ならびに目的の遺伝子の発現増加をもたらし得るLTRと内部プロモーターとの間のプロモーター干渉を低減させる能力が含まれる。さらに、5’LTRの上流プロモーターエレメントの欠如により、誘導性遺伝子療法ベクターのより厳密な制御を期待することは合理的である。
【0101】
本開示の一態様では、5’LTR、tRNA結合部位、パッケージングシグナル、1つまたは複数の異種配列、第二鎖DNA合成起点、RNA輸送エレメントおよび3’LTRを含むレンチウイルスベクター構築物が提供される。簡単に述べると、長末端反復(「LTR」)は、U5、RおよびU3と称される3つのエレメントに細分される。これらのエレメントは、例えば、U3内に位置するプロモーターおよびエンハンサーエレメントを含むレトロウイルスの生物学的活性に関与している様々なシグナルを含有する。LTRは、ゲノムの両端でのその正確な複製により、プロウイルス(組み込まれたDNAの形態)において容易に同定され得る。本開示の目的のために、5’LTRは、5’プロモーターまたはプロモーター/エンハンサーエレメントとして機能するために、逆転写を可能にするために、およびベクターのDNA形態の組込みを可能にするために必要とされるだけの量の天然5’LTRを含んでいると理解されるべきである。3’LTRは、ポリアデニル化シグナルとして機能するために、逆転写を可能にするために、およびベクターのDNA形態の組込みを可能にするために必要とされるだけの量の3’FIV LTRを含んでいると理解されるべきである。
【0102】
さらに、レトロウイルスベクターは、Changら、J. Virology、67巻、743~752頁、1993年;Finerら、Blood、83巻、43~50頁、1994年およびRobinsonら、Gene Therapy、2巻、269~278頁、1995年によって記載されるハイブリッドLTRと同様に、野生型LTR配列の75%までが削除され、1つまたは複数のウイルスまたは非ウイルスプロモーターまたはプロモーター/エンハンサーエレメント(例えば、他のレトロウイルスLTRおよび/または非レトロウイルスプロモーターまたはプロモーター/エンハンサー、例えばCMVプロモーター/エンハンサーもしくはSV40プロモーター)によって置き換えられているハイブリッドLTRを含有してもよい。
【0103】
tRNA結合部位および第二鎖DNA合成起点も、レトロウイルスが生物学的に活性であるために重要であり、当業者によって容易に同定され得る。例えば、tRNAは、ワトソン-クリック塩基対形成によって、レトロウイルスtRNA結合部位に結合し、ウイルス粒子中にレトロウイルスゲノムと共に運ばれる。tRNAは、次いで、逆転写酵素によるDNA合成のためのプライマーとして利用される。tRNA結合部位は、5’LTRからすぐ下流のその位置に基づいて容易に同定することができる。同様に、第二鎖DNA合成起点は、その名前が示すように、レトロウイルスの第二鎖DNA合成のために重要である。この領域は、ポリプリン管とも称され、3’LTRのすぐ上流に位置している。
【0104】
5’および3’LTR、tRNA結合部位、パッケージングシグナル、および第二鎖DNA合成起点に加えて、本明細書で使用するためのある特定の好ましい組換えレトロウイルスベクター構築物は、1つまたは複数の目的の遺伝子も含む。さらに、レトロウイルスベクターは、RRE(Rev応答性エレメント)または異種移行エレメントであり得るRNA輸送エレメント(RNA移行、核移行、または核輸送エレメントとも様々に称される)を含み得るが、含む必要はない。適切な異種RNA輸送エレメントの代表的な例としては、Mason-Pfizerサルウイルス構成性移行エレメント(Brayら、PNAS USA、91巻、1256~1260頁、1994年)、B型肝炎ウイルス転写後調節エレメント(Huangら、Mol Cell. Biol.、73巻:7476~7486頁、1993年およびHuangら、J.Virology、65巻:3193~3199頁、1994年)またはレンチウイルスRev応答性エレメント(Dalyら、Nature、342巻:816~819頁、1989年およびZappら、Nature、342巻:714~716頁、1989年)が挙げられる。
【0105】
gag/polコード配列およびenvコード配列の両方を欠くレトロウイルスベクター構築物が、本開示で使用され得る。本明細書で利用される場合、「gag/polまたはenvコード配列を欠く」という語句は、gag/polまたはenv遺伝子に見出される、特にレトロウイルスベクター構築物のためのパッケージング細胞株を構築するために使用されるgag/polまたはenv発現カセット内で見出される、20未満、好ましくは15未満、より好ましくは10未満、最も好ましくは8未満の連続ヌクレオチドをベクターが含有することを意味すると理解すべきである。本開示のこの態様は、宿主細胞で起こり得るまたは例えば発現カセットで形質転換することによって宿主細胞に導入され得るgag/polまたはenv配列での望ましくない組換えの確率が低いレトロウイルスベクターを提供する。gag/polまたはenv配列を欠くレトロウイルスベクター構築物の作製は、パッケージングシグナルを部分的に排除することおよび/または修飾もしくは異種パッケージングシグナルの使用によって達成され得る。本開示の他の実施形態では、レトロウイルスgag/pol配列に延長またはそれと重複し得る、パッケージングシグナルの一部が改変(例えば、欠失、切断または塩基交換)されているレトロウイルスベクター構築物が提供される。本開示の他の態様では、gag/pol遺伝子の始点を越えて延長し得るパッケージングシグナルを含むレトロウイルスベクター構築物が提供される。ある特定の実施形態では、gag/pol遺伝子の始点を越えて延長し得るパッケージングシグナルは、gag/polリーディングフレーム内の1つ、2つまたはそれより多くの終止コドンを含有するように改変されている。最も好ましくは、終止コドンの1つは、gag/pol開始部位を排除する。他の実施形態では、導入された変異は、gag/polコード領域におけるフレームシフトを引き起こし得る。
【0106】
他のレトロウイルス遺伝子送達ビヒクルを、本開示の文脈において同様に利用することができ、例えば、EP0,415,731;WO90/07936;WO91/0285、WO9403622;WO9325698;WO9325234;米国特許第5,219,740号;WO9311230;WO9310218;VileおよびHart、Cancer Res.、53巻:3860~3864頁、1993年;VileおよびHart、Cancer Res.、53巻:962~967頁、1993年;Ramら、Cancer Res.、53巻:83~88頁、1993年;Takamiyaら、J. Neurosci. Res.、33巻:493~503頁、1992年;Babaら、J Neurosurg.、79巻:729~735頁、1993年(米国特許第4,777,127号、GB2,200,651、EP0,345,242およびWO91/02805)に記載のビヒクルが挙げられる。
【0107】
上記レトロウイルス構築物と共に使用するために適切なパッケージング細胞株は、容易に調製し(例えば、米国特許第5,591,624号および第6,013,517号;ならびに国際公開番号WO95/30763を参照)、組換えベクター粒子産生のためのプロデューサー細胞株を作製するために利用することができる。パッケージング細胞株が由来する親の細胞株は、例えば、ヒト細胞、サル細胞、ネコ細胞、イヌ細胞、マウス細胞などを含む、多種多様な哺乳動物細胞株から選択することができる。
【0108】
パッケージング細胞株の生成のために適切な宿主細胞を選択した後、1つまたは複数の発現カセットを、削除されたベクターの成分を補足するためまたはtransで供給するために細胞株に導入する(例えば、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる米国特許第5,591,624号および第6,013,517号;ならびに国際公開番号WO95/30763を参照)。例えば、パッケージング発現カセットは、gag/pol配列単独、gag/pol配列とvif、revもしくはORF2の1つもしくは複数、またはvif、revもしくはORF2の1つもしくは複数のみのいずれかをコードしてもよく、RNA輸送エレメントを含有してもよい。例えば、パッケージング細胞株は、ORF2、vifもしくはrev単独のみ、ORF2とvif、ORF2とrev、vifとrev、またはORF2、vifおよびrevの3つ全てを含有してもよい。
【0109】
パッケージング細胞株は、プロモーターとORF2、vif、revまたはエンベロープ(例えばVSV-G)をコードする配列とを含んでもよく、ここでプロモーターはORF2、vif、revまたはエンベロープをコードする配列に作動可能に連結されている。誘導性gag/polまたはenv発現カセットを含有するパッケージング細胞株のために、誘導性プロモーターのトランス活性化を促進する追加の発現カセットを組込んでもよい。発現カセットは安定に組み込まれても組み込まれなくてもよい。パッケージング細胞株は、レトロウイルスベクターの導入に際し、103、104、105、106、107、108または109cfu/mLを超える濃度で粒子を生成し得る。
【0110】
ii.レンチウイルスベクター
「レンチウイルス」は、レンチウイルス属に属するウイルスを指す。レンチウイルスとしては、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)(例えば、HIV-1またはHIV-2)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、マエディ-ビスナ様ウイルス(EV1)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)およびヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0111】
「レンチウイルスベクター構築物」、「レンチウイルスベクター」および「組換えレンチウイルスベクター」という用語は、本明細書において互換的に使用され、それらは、目的の核酸分子を保有し、ある特定の実施形態ではその発現を指示することができる、レンチウイルス由来の核酸構築物を指す。レンチウイルスベクターは、全体または部分的に欠失したレンチウイルス野生型遺伝子の1つまたは複数を有し得るが、隣接する機能的な長末端反復(LTR)配列を保持することができる。LTRは、野生型ヌクレオチド配列である必要はなく、その配列が機能的なレスキュー、複製およびパッケージングを提供する限り、例えばヌクレオチドの挿入、欠失または置換によって改変されていてもよい。レンチウイルスベクターは、選択可能マーカーを含有してもよい。
【0112】
「組換えレンチウイルス」という用語は、レンチウイルス由来のウイルスゲノムを含有し、自己再生能力を欠き、宿主に核酸分子を導入する能力を有するウイルス粒子を指す。例えば、本開示の組換えレンチウイルスは、レンチウイルスゲノム由来のパッケージングシグナル配列を含む核酸分子を含むウイルス粒子を含む。組換えレンチウイルスは、その遺伝物質をDNAに逆転写し、感染時に宿主細胞のDNAにこの遺伝物質を組み込むことが可能である。組換えレンチウイルス粒子は、レンチウイルスエンベロープ、非レンチウイルスエンベロープ(例えば、アンホトロピックまたはVSV-Gエンベロープ)、キメラエンベロープ、または修飾エンベロープ(例えば、切断型エンベロープまたはハイブリッド配列を含有するエンベロープ)を有し得る。
【0113】
本開示のレンチウイルスベクターによって保有される核酸は、このベクターを、ヒトを含む霊長類またはマウスおよびラットを含む齧歯類の多能性幹細胞と接触させることによって、多能性幹細胞または神経始原細胞に導入することができる。本開示は、多能性幹細胞を本開示のベクターと接触させるステップを含む、自殺遺伝子を多能性幹細胞に導入するための方法に関する。遺伝子導入の標的となる多能性幹細胞は、特に限定されず、例えば、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞を含む。
【0114】
iii.アデノウイルスベクター
自殺遺伝子に作動可能に連結した細胞周期依存性プロモーターをコードするポリヌクレオチドは、アデノウイルスベクターで提供され得る。アデノウイルスベクターはゲノムDNAへの組込みのための容量が低いことが公知であるが、この特徴は、これらのベクターによってもたらされる遺伝子導入の高い効率によって相殺される。アデノウイルス発現ベクターとしては、(a)構築物のパッケージングを支持するのにおよび(b)そこにクローニングされている組換え遺伝子構築物を最終的に発現させるのに十分なアデノウイルス配列を含有する構築物が挙げられる。
【0115】
アデノウイルスの成長および操作は当業者に公知であり、in vitroおよびin vivoでの幅広い宿主範囲を示す。このグループのウイルスは、高い力価、例えば1mlあたり109~1011プラーク形成単位で得ることができ、高度に感染性である。アデノウイルスの生活環は、宿主細胞ゲノムへの組込みを必要としない。アデノウイルスベクターによって送達される外来遺伝子はエピソームであり、したがって、宿主細胞に対する遺伝毒性は低い。野生型アデノウイルスのワクチン接種の研究で副作用は報告されておらず(Couchら、1963年;Topら、1971年)、それらのin vivo遺伝子導入ベクターとしての安全性および治療的可能性を示す。
【0116】
アデノウイルスの遺伝子構成に関する36kb、線形、二本鎖DNAウイルスという知識は、アデノウイルスDNAの大部分を7kbまでの外来配列と置換することを許容する(GrunhausおよびHorwitz、1992年)。アデノウイルスDNAは、潜在的な遺伝毒性なしにエピソーム様式で複製することができるので、レトロウイルスとは対照的に、宿主細胞のアデノウイルス感染は、染色体組込みをもたらさない。またアデノウイルスは構造的に安定であり、ゲノム再編成は、広範な増幅後に何ら検出されていない。
【0117】
アデノウイルスは、その中型のゲノム、操作の容易さ、高力価、広い標的細胞範囲、および高い感染性のため、遺伝子導入ベクターとして使用することができる。ウイルスゲノムの両端は、ウイルスDNAの複製およびパッケージングに必要なシスエレメントである100~200塩基対の逆方向反復配列(ITR)を含有する。ゲノムの初期(E)および後期(L)領域は、ウイルスDNA複製の開始により分割される異なる転写単位を含有する。E1領域(E1AおよびE1B)は、ウイルスゲノムおよび少数の細胞遺伝子の転写の調節を担うタンパク質をコードしている。E2領域(E2AおよびE2B)の発現は、ウイルスDNA複製のためのタンパク質の合成をもたらす。これらのタンパク質は、DNA複製、後期遺伝子発現および宿主細胞シャットオフに関与する(Renan、1990年)。ウイルスキャプシドタンパク質の大部分を含む後期遺伝子の産物は、主要後期プロモーター(MLP)によって生じた単一の一次転写物の重要なプロセシングの後にのみ発現される。MLP(16.8m.u.に位置する)は、感染の後期に特に効率的であり、このプロモーターから生じた全てのmRNAは、それらを翻訳のための特定のmRNAにする5’三連リーダー(TPL)配列を有する。
【0118】
本明細書で提供される組換えアデノウイルスは、シャトルベクターとプロウイルスベクターとの間の相同組換えから生成することができる。2つのプロウイルスベクター間の可能な組換えにより、野生型アデノウイルスが、このプロセスから生成され得る。したがって、ウイルスの単一のクローンを、個々のプラークから単離し、そのゲノム構造を調べる。
【0119】
アデノウイルスベクターは、複製欠損であってもよいし、または少なくとも条件付き欠損であってもよく、アデノウイルスベクターの性質は、本開示の実施の成功に重要であるとは思われない。アデノウイルスは、42個の異なる公知の血清型または亜群A~Fのいずれであってもよい。亜群Cのアデノウイルス5型は、本開示における使用のための条件付き複製欠損アデノウイルスベクターを得るための特定の出発材料である。その理由は、アデノウイルス5型は、膨大な量の生化学的および遺伝情報が公知であるヒトアデノウイルスであり、ベクターとしてアデノウイルスを用いるほとんどの構築のために歴史的に使用されてきたからである。
【0120】
核酸は、コード配列が除去された位置として、アデノウイルスベクターに導入することができる。例えば、複製欠損アデノウイルスベクターは、E1コード配列が除去されていてもよい。目的の遺伝子をコードするポリヌクレオチドは、Karlssonら(1986年)によって記載されるように、E3置換ベクターにおいて欠失されたE3領域の代わりに挿入されてもよく、またはヘルパー細胞株もしくはヘルパーウイルスがE4欠損を補完するE4領域に挿入されてもよい。
【0121】
複製欠損アデノウイルスベクターの生成および増殖は、ヘルパー細胞株を用いて行うことができる。293と称される1つの特有のヘルパー細胞株は、Ad5のDNA断片によってヒト胚腎細胞から形質転換されたものであり、E1タンパク質を構成的に発現する(Grahamら、1977年)。E3領域はアデノウイルスゲノムにおいて必ずしも必要でないので(JonesおよびShenk、1978年)、アデノウイルスベクターは、293細胞の助けを借りて、E1、E3、または両方の領域のいずれかで外来DNAを運ぶ(GrahamおよびPrevec、1991年)。
【0122】
ヘルパー細胞株は、ヒト胚性腎細胞、筋細胞、造血細胞または他のヒト胚間葉もしくは上皮細胞などのヒト細胞から誘導され得る。代替的に、ヘルパー細胞は、ヒトアデノウイルスを許容する他の哺乳動物種の細胞から誘導され得る。そのような細胞としては、例えば、Vero細胞または他のサル胚間葉または上皮細胞が挙げられる。上述したように、特定のヘルパー細胞株は293である。
【0123】
組換えアデノウイルスを作製するための方法は、参照によって本明細書に組み込まれる米国特許第6740320号など、当技術分野において公知である。またRacherら(1995年)は、293細胞を培養し、アデノウイルスを増殖させるための改良された方法を開示している。1つの形式では、天然の細胞凝集物を、100~200mlの培地を含有する1リットルのシリコン処理スピナーフラスコ(Techne、Cambridge、UK)に個々の細胞を接種することにより成長させる。40rpmで撹拌した後、トリパンブルーを用いて細胞生存率を推定する。別の形式では、Fibra-Celマイクロキャリア(Bibby Sterlin、Stone、UK)(5g/l)を以下のように用いる。5mlの培地中に再懸濁させた細胞接種物を、250mlのエルレンマイヤーフラスコ中のキャリア(50ml)に加え、時々撹拌しながら、1~4時間、静置する。次いで、培地を50mlの新鮮な培地で置き換え、振盪を開始する。ウイルス産生のために、細胞を約80%のコンフルエンスまで成長させ、その後、培地を置き換え(最終体積の25%まで)、アデノウイルスを、0.05のMOIで添加する。培養物を一晩静置し、その後、体積を100%に上昇させ、さらに72時間の振盪を開始する。
【0124】
iv.アデノ随伴ウイルスベクター
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、組込みが高頻度で、分裂しない細胞に感染することができ、したがって、哺乳動物細胞への遺伝子の送達に有用であるので(Muzyczka、1992年)、本開示で使用され得る。AAVは、感染性の宿主範囲が広く(Tratschinら、1984年;Laughlinら、1986年;Lebkowskiら、1988年;McLaughlinら、1988年)、このことは本開示での使用に適用可能であることを意味する。rAAVベクターの生成および使用に関する詳細は、米国特許第5,139,941号および米国特許第4,797,368号に記載されている。
【0125】
AAVは培養細胞での生産的感染を行うために別のウイルス(例えば、アデノウイルスまたはヘルペスウイルスファミリーのメンバー)との同時感染を必要とする点で依存性パルボウイルスである(Muzyczka、1992年)。ヘルパーウイルスとの同時感染の非存在下で、野生型AAVゲノムは、その末端を通じてヒト染色体19に組込まれ、プロウイルスとして潜伏状態で存在する(Kotinら、1990年;Samulskiら、1991年)。しかしながら、rAAVは、AAV Repタンパク質も発現されていない限り、組込みは染色体19に制限されない(ShellingおよびSmith、1994年)。AAVプロウイルスを保有する細胞がヘルパーウイルスで重感染されると、AAVゲノムは染色体または組換えプラスミドからレスキューされ、通常の生産的感染が確立される(Samulskiら、1989年;McLaughlinら、1988年;Kotinら、1990年;Muzyczka、1992年)。
【0126】
組換えAAV(rAAV)ウイルスは、2つのAAV末端反復によって隣接される目的の遺伝子を含有するプラスミド(それぞれ参照によって本明細書に組み込まれるMcLaughlinら、1988年;Samulskiら、1989年)と、末端反復なしで野生型AAVコード配列を含有する発現プラスミド、例えばpIM45(McCartyら、1991年)とを同時トランスフェクトすることによって作製することができる。細胞を、アデノウイルス、またはAAVヘルパー機能に必要なアデノウイルス遺伝子を保有するプラスミドで、感染またはトランスフェクトさせてもよい。そのような形式で作製されたrAAVウイルスストックは、アデノウイルスが混入しており、(例えば、塩化セシウム密度遠心分離によって)rAAV粒子から物理的に分離しなければならない。代替的に、AAVコード領域を含有するアデノウイルスベクターまたはAAVコード領域と一部もしくは全てのアデノウイルスヘルパー遺伝子を含有する細胞株を使用することができる(Yangら、1994年;Clarkら、1995年)。組込まれたプロウイルスとしてrAAVのDNAを保有する細胞株も使用することができる(Flotteら、1995年)。
【0127】
v.他のウイルスベクター
他のウイルスベクターが、本開示において構築物として用いられ得る。ワクシニアウイルス(Ridgeway、1988年;BaichwalおよびSugden、1986年;Couparら、1988年)および単純ヘルペスウイルスなどのウイルスに由来するベクターが用いられ得る。それらは、種々の哺乳動物細胞のためにいくつかの魅力的な機能を提供する(Friedmann、1989年;Ridgeway、1988年;BaichwalおよびSugden、1986年;Couparら、1988年;Horwichら、1990年)。一部の実施形態では、ポリヌクレオチドは、組込み型アデノベクターを使用して送達され得る。
【0128】
ベネズエラウマ脳炎(VEE)ウイルスの分子的にクローン化された株は、異種ウイルスタンパク質の発現のために複製可能なワクチンベクターとして遺伝的に精緻化されている(Davisら、1996年)。研究は、VEE感染が強力なCTL応答を刺激することを実証しており、VEEが免疫化のための非常に有用なベクターであり得ることが示唆されている(Caleyら、1997年)。
【0129】
さらなる実施形態では、ポリヌクレオチドは、特定の結合リガンドを発現するように操作された感染性ウイルス内に収容される。そのようにウイルス粒子は、標的細胞の同族受容体に特異的に結合し、細胞に内容物を送達する。レトロウイルスベクターの特異的標的化は、ウイルスエンベロープへのラクトース残基の化学的付加によるレトロウイルスの化学修飾に基づき得る。この修飾は、シアロ糖タンパク質受容体を介した肝細胞の特異的感染を可能にすることができる。
【0130】
例えば、レトロウイルスエンベロープタンパク質に対するおよび特定の細胞受容体に対するビオチン化抗体を使用した組換えレトロウイルスの標的化が設計された。抗体は、ストレプトアビジンを使用することによって、ビオチン成分を介して結合された(Rouxら、1989年)。主要組織適合性複合体クラスIおよびクラスII抗原に対する抗体を使用して、エコトロピックウイルスによりこれらの表面抗原を有する様々なヒト細胞の感染がin vitroで実証された(Rouxら、1989年)。
【0131】
2.他の核酸送達方法
自殺遺伝子に作動可能に連結した細胞周期依存性プロモーターを含むポリヌクレオチドのウイルス送達に加えて、以下は、所与の宿主細胞に組換え遺伝子を送達するさらなる方法であり、したがって、本開示において考慮される。
【0132】
DNAまたはRNAなどの核酸の導入は、本明細書に記載されるように、または当業者に公知のように、細胞の形質転換のために核酸を送達するための任意の適切な方法を使用し得る。そのような方法としては、裸のDNAの注射などによるDNAの直接送達、脂質ナノ粒子などのナノ粒子、遺伝子銃、ex vivoトランスフェクション(Wilsonら、1989年、Nabelら、1989年)、注射(それぞれ参照によって本明細書に組込まれる米国特許第5,994,624号、第5,981,274号、第5,945,100号、第5,780,448号、第5,736,524号、第5,702,932号、第5,656,610号、第5,589,466号および第5,580,859号)、例えば、マイクロインジェクション(参照によって本明細書に組み込まれる、HarlandおよびWeintraub、1985年;米国特許第5,789,215号)による方法;エレクトロポレーションによる方法(参照によって本明細書に組み込まれる米国特許第5,384,253号;Tur-Kaspaら、1986年;Potterら、1984年);リン酸カルシウム沈殿による方法(GrahamおよびVan Der Eb、1973年;ChenおよびOkayama、1987年;Rippeら、1990年);DEAE-デキストラン、続いてポリエチレングリコールの使用による方法(Gopal、1985年);直接超音波充填による方法(Fechheimerら、1987年);リポソーム媒介トランスフェクションによる方法(NicolauおよびSene、1982年;Fraleyら、1979年;Nicolauら、1987年;Wongら、1980年;Kanedaら、1989年;Katoら、1991年)および受容体媒介トランスフェクションによる方法(WuおよびWu、1987年;WuおよびWu、1988年);微粒子銃による方法(それぞれ参照によって本明細書に組み込まれるPCT出願番号WO94/09699および95/06128;米国特許第5,610,042号;第5,322,783号、第5,563,055号、第5,550,318号、第5,538,877号および第5,538,880号);炭化ケイ素繊維との撹拌による方法(それぞれ参照によって本明細書に組み込まれるKaepplerら、1990年;米国特許第5,302,523号および第5,464,765号);Agrobacterium媒介形質転換(それぞれ参照によって本明細書に組み込まれる米国特許第5,591,616号および第5,563,055号);乾燥/阻害媒介DNA取り込みによる方法(Potrykusら、1985年)ならびにそのような方法の任意の組合せが挙げられるが、これらに限定されない。このような技術の適用を通して、細胞小器官(単数または複数)、細胞(単数または複数)、組織(単数または複数)または生物(単数または複数)に、安定にまたは一過性に形質転換することができる。
【0133】
i.エレクトロポレーション
本開示のある特定の実施形態では、遺伝子構築物は、エレクトロポレーションを介して標的細胞に導入される。エレクトロポレーションは、高電圧放電への細胞(または組織)およびDNA(またはDNA複合体)の曝露を含む。
【0134】
種々の供給源からの過剰増殖性細胞のためにエレクトロポレーション条件を最適化し得ることが企図されている。電圧、容量、時間およびエレクトロポレーション媒体組成などのパラメータを最適化することが特に望まれ得る。他の日常的な調整の実施は当業者に公知である。例えば、Hoffman、1999年;Hellerら、1996年を参照。
【0135】
ii.脂質媒介形質転換
さらなる実施形態では、自殺遺伝子に作動可能に連結した細胞周期依存性プロモーターを含むポリヌクレオチドは、リポソームまたは脂質製剤中に捕捉され得る。リポソームは、リン脂質二重膜および内側の水性媒体によって特徴付けられる小胞構造である。多重層リポソームは、水性媒体によって分離されている複数の脂質層を有する。リン脂質が過剰の水溶液に懸濁されるとき、それらは、自然に形成される。脂質成分は、閉じた構造を形成する前に自身で再編成を行い、脂質二重層間にある水および溶解された溶質を捕捉する(GhoshおよびBachhawat、1991年)。リポフェクタミンと複合体化された遺伝子構築物も企図されている(Gibco BRL)。
【0136】
外来DNAの脂質媒介核酸送達および発現がin vitroで非常に首尾よく行われた(NicolauおよびSene、1982年;Fraleyら、1979年;Nicolauら、1987年)。Wongら(1980年)は、培養ニワトリ胚、HeLaおよび肝癌細胞における外来DNAの脂質媒介送達および発現の実現可能性を実証した。
【0137】
脂質に基づく非ウイルス製剤は、アデノウイルス遺伝子療法に代わるものを提供する。多くの細胞培養研究で、脂質に基づく非ウイルス遺伝子導入が記載されてきたが、脂質に基づく製剤を介した全身遺伝子送達は制限されている。非ウイルス性脂質に基づく遺伝子送達の主な制限は、非ウイルス送達ビヒクルを含むカチオン性脂質の毒性である。リポソームのin vivo毒性は、in vitroとin vivoとの遺伝子導入の結果の差異を部分的に説明する。この相反するデータに寄与する別の要因は、血清タンパク質の存在下および非存在下での脂質ビヒクル安定性の差異である。脂質ビヒクルと血清タンパク質との間の相互作用は、脂質ビヒクルの安定特性に劇的な影響を有する(YangおよびHuang、1997年)。カチオン性脂質は、負に帯電した血清タンパク質を引きつけ、結合する。血清タンパク質に結合した脂質ビヒクルは、溶解するかまたはマクロファージに取り込まれ、循環から除去されるに至る。現在のin vivo脂質送達方法は、循環におけるカチオン性脂質に関連する毒性および安定性の問題を回避するために、皮下、皮内、腫瘍内、または頭蓋内注射を使用する。脂質ビヒクルと血漿タンパク質との相互作用は、in vitro(Felgnerら、1987年)とin vivo(Zhuら、1993年;Philipら、1993年;Solodinら、1995年;Liuら、1995年;Thierryら、1995年;Tsukamotoら、1995年;Aksentijevichら、1996年)との遺伝子導入効率の差異の原因である。
【0138】
脂質製剤の進歩により、in vivoでの遺伝子導入の効率が改善されている(Templetonら、1997年;WO98/07408)。1,2-ビス(オレオイルオキシ)-3-(トリメチルアンモニオ)プロパン(DOTAP)とコレステロールの等モル比からなる新規な脂質製剤は、全身のin vivo遺伝子導入を、約150倍に顕著に増強させる。DOTAP:コレステロール脂質製剤は、「サンドイッチリポソーム」と呼ばれる特有の構造を形成する。この製剤は、陥入二重層、つまり「花瓶(vase)」構造の間に、DNAを「サンドイッチする」ことが報告されている。これらの脂質構造の有益な特性は、正のρ、コレステロールによるコロイド安定化、2次元DNAパッキング、および増加した血清安定性を含む。特許出願第60/135,818号および第60/133,116号は、本開示で使用し得る製剤を論じている。
【0139】
脂質製剤の製造は、(I)逆相蒸発、(II)脱水-再水和、(III)界面活性剤透析、および(IV)薄膜水和の後のリポソーム混合物の超音波処理または連続押し出しによって達成されることが多い。製造されると、脂質構造は、循環するときに毒性の化合物(化学療法剤)または不安定な化合物(核酸)を封入するために使用することができる。脂質封入化は、そのような化合物の毒性を下げ、血清半減期を延長させた(Gabizonら、1990年)。多くの疾患処置で、特に過剰増殖性疾患を処置するための療法である、従来療法の増強または新規療法の確立のために、脂質に基づく遺伝子導入戦略が使用されている。
【0140】
iii.細胞透過性ペプチド
本開示は、細胞透過性ペプチド(細胞送達ドメインまたは細胞形質導入ドメインとも呼ばれる)を、自殺遺伝子に作動可能に連結した細胞周期依存性プロモーターを含むポリヌクレオチドに融合またはコンジュゲートすることを企図する。そのようなドメインは当技術分野で周知であり、一般的に短い両親媒性またはカチオン性ペプチドおよびペプチド誘導体として特徴付けられ、複数のリジンおよびアルギニン残基を含有していることが多い(Fischer、2007年)。特に興味深いのは、HIV1由来のTAT配列、ならびにポリ-D-Argおよびポリ-D-Lys配列(例えば、右旋性残基、長さ8残基)である。
【0141】
B.調節エレメント
本開示において有用なベクターに含まれる発現カセットは、特に、タンパク質コード配列に作動可能に連結される真核生物転写プロモーター、介在配列を含むスプライスシグナル、および転写終結/ポリアデニル化配列を(5’から3’方向に)含有する。真核細胞におけるタンパク質をコードする遺伝子の転写を制御するプロモーターおよびエンハンサーは、複数の遺伝的エレメントで構成されている。細胞機構は、各エレメントによって運ばれる調節情報を収集および統合することができ、異なる遺伝子が転写調節の異なる、しばしば複雑なパターンを進化させることを可能にする。本開示の文脈において使用されるプロモーターは、細胞周期依存性プロモーターを含む。
【0142】
1.プロモーター/エンハンサー
ある特定の実施形態では、本明細書で提供される発現構築物は、自殺遺伝子の発現を駆動する細胞周期依存性プロモーターを含む。プロモーターは、一般的に、RNA合成の開始部位を位置決めするように機能する配列を含む。この最もよく知られている例はTATAボックスであるが、TATAボックスを欠くいくつかのプロモーター、例えば、哺乳動物のターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ遺伝子のプロモーターおよびSV40後期遺伝子のプロモーターでは、開始部位に横たわる個別のエレメント自体が、開始の場所を固定することを助ける。さらなるプロモーターエレメントは、転写開始の頻度を調節する。典型的には、これらは開始部位の30~110bp上流領域に位置しているが、いくつかのプロモーターは、開始部位の下流に機能エレメントも含有することが示されている。コード配列をプロモーター「の制御下」とするために、あるコード配列は、選択されたプロモーターの「下流」(すなわち、3’の)転写リーディングフレームの転写開始部位の5’末端に位置する。「上流」プロモーターは、DNAの転写を刺激し、コードされるRNAの発現を促進する。
【0143】
プロモーターエレメント間のスペーシングは、エレメントが互いに対して反転または移動するときにプロモーター機能が保存されるように、柔軟であることが多い。tkプロモーターにおいて、プロモーターエレメント間のスペーシングは、活性が低下し始める前に、50bp離れるまで増加させることができる。プロモーターに依存して、個々のエレメントは協同してまたは独立に機能して転写を活性化できるようである。プロモーターは、核酸配列の転写活性化に関与するシス作用調節配列を指す「エンハンサー」と組み合わせて使用しても使用しなくてもよい。
【0144】
プロモーターは、コードセグメントおよび/またはエキソンの上流に位置する5’非コード配列を単離することによって得ることができるような、核酸配列に天然に関連するものであってもよい。このようなプロモーターは、「内在性」と称され得る。同様に、エンハンサーは、その配列の下流または上流のいずれかに位置する核酸配列に天然に関連するものであってもよい。代替的に、通常その天然の環境において核酸配列と関連しないプロモーターを指す組換えまたは異種プロモーターの制御下にコード核酸セグメントを配置することによってある特定の利点が得られる。組換えまたは異種エンハンサーは、その天然環境において核酸配列と通常関連していないエンハンサーも指す。そのようなプロモーターまたはエンハンサーは、他の遺伝子のプロモーターまたはエンハンサー、および任意の他のウイルスまたは原核もしくは真核細胞から単離されたプロモーターまたはエンハンサー、ならびに「天然に存在」しない、すなわち異なる転写調節領域の異なるエレメントおよび/または発現を変化させる変異を含有するプロモーターまたはエンハンサーを含み得る。例えば、組換えDNA構築で最も一般的に使用されるプロモーターは、β-ラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)、ラクトースおよびトリプトファン(trp)プロモーター系を含む。合成的にプロモーターおよびエンハンサーの核酸配列を作製することに加えて、配列は、本明細書に開示される組成物に関連して、組換えクローニングおよび/またはPCR(商標)などの核酸増幅技術を使用して作製されてもよい(それぞれ参照によって本明細書に組み込まれる米国特許第4,683,202号および第5,928,906号を参照)。さらに、ミトコンドリア、葉緑体などの非核細胞小器官内の配列の転写および/または発現を指示する制御配列も同様に用いられ得ることが企図されている。
【0145】
当然のことながら、発現のために選択された細胞小器官、細胞型、組織、器官または生物におけるDNAセグメントの発現を効果的に指示するプロモーターおよび/またはエンハンサーを用いることが重要である。分子生物学の当業者は、一般的に、タンパク質発現のためのプロモーター、エンハンサーおよび細胞型の組合せの使用を知っている(例えば、参照によって本明細書に組み込まれるSambrookら、1989年を参照)。用いるプロモーターは、組換えタンパク質および/またはペプチドを大規模に生産する点に利点があるように、導入されたDNAセグメントを高レベルで発現するように指示する適切な条件下で、構成的、組織特異的、誘導的および/または有用であってもよい。プロモーターは異種または内在性であってもよい。
【0146】
さらに、任意のプロモーター/エンハンサーの組合せ(例えば、epd.isb-sib.ch/のワールドワイドウェブを通じた真核生物プロモーターデータベースEPDBによる)も、発現を駆動するために使用され得る。T3、T7またはSP6細胞質発現系の使用が、別の考えられる実施形態である。適切な細菌ポリメラーゼが、送達複合体の一部としてまたは追加の遺伝子発現構築物としてのいずれかで提供される場合、真核細胞は、ある特定の細菌プロモーターからの細胞質転写を支持することができる。
【0147】
前駆細胞を使用する細胞補充療法のために、細胞周期依存性プロモーターの制御下で遺伝子を発現することが好ましい。細胞周期依存性プロモーターの例としては、表1に列挙するものが挙げられるが、これらに限定されない。細胞周期依存性プロモーターは、細胞周期に関与する遺伝子、例えば、G(2)期および有糸分裂における発現を有する遺伝子から誘導され得る。細胞周期依存性プロモーターは、合成プロモーターを含んでもよい。細胞補充療法のために、一般的に、始原体は遊走能を維持し、変性領域に適切に組み込まれるべきである。
【0148】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【0149】
ある特定の態様では、本開示の方法は、エンハンサー配列、すなわち、プロモーター活性を増加させ、シスで、それらの配向にかかわらず、さらには比較的長い距離まで(標的プロモーターから数キロベース離れるまで)作用する能力を有する核酸配列にも関する。しかしながら、エンハンサーは、所与のプロモーターに近接して機能することもできるので、エンハンサー機能は必ずしもこのような長い距離に限定されるものではない。
【0150】
2.開始シグナルおよび連結した発現
特定の開始シグナルも、コード配列の効率的な翻訳のために、本開示で提供される発現構築物において使用され得る。これらのシグナルはATG開始コドンまたは隣接配列を含む。ATG開始コドンを含む外来性翻訳制御シグナルが提供される必要があり得る。当業者はこれを容易に決定し、必要なシグナルを提供することができる。開始コドンは、挿入物全体の翻訳を確実にするために、所望のコード配列のリーディングフレームと「インフレーム」でなければならないことが周知である。外来性翻訳制御シグナルおよび開始コドンは、天然または合成のいずれかであり得る。発現の効率は、適切な転写エンハンサーエレメントを包含することによって増強され得る。
【0151】
ある特定の実施形態では、内部リボソーム侵入部位(IRES)エレメントの使用が、多重遺伝子、またはポリシストロン性メッセージを作製するために使用される。IRESエレメントは5’メチル化Cap依存性翻訳のリボソームスキャニングモデルを迂回することができ、内部部位で翻訳を開始することができる(PelletierおよびSonenberg、1988年)。ピコルナウイルス科(ポリオおよび脳心筋炎)の2つのメンバーからのIRESエレメントが記載されており(PelletierおよびSonenberg、1988年)、哺乳動物メッセージからのIRESも記載されている(MacejakおよびSarnow、1991年)。IRESエレメントは、異種オープンリーディングフレームに連結されていてもよい。それぞれがIRESによって分離され、ポリシストロン性メッセージを作製する複数のオープンリーディングフレームを一緒に転写することができる。IRESエレメントのおかげで、各オープンリーディングフレームは、効率的な翻訳のためにリボソームにアクセスすることができる。複数の遺伝子が、単一のプロモーター/エンハンサーを使用して効率的に発現され、単一のメッセージを転写することができる(それぞれ参照によって本明細書に組み込まれる米国特許第5,925,565号および第5,935,819号を参照)。
【0152】
さらに、ある特定の2A配列エレメントを使用して、本開示で提供される構築物における遺伝子の連結した発現または共発現を生じさせることができる。例えば、切断配列を使用して、単一のシストロンを形成するオープンリーディングフレームを連結することによって遺伝子を共発現することができる。例示的な切断配列は、F2A(口蹄疫ウイルス2A)または「2A様」配列(例えば、Thosea asignaウイルス2A;T2A)(MinskaiaおよびRyan、2013年)である。
【0153】
3.複製起点
宿主細胞でベクターを増殖させるために、それは複製部位の1つまたは複数の起点(しばしば「ori」と呼ばれる)、例えば、上記のEBVのoriPに対応する核酸配列、または複製が開始される特定の核酸配列である、プログラミングの際に同様のまたは向上した機能を有する、遺伝子操作されたoriPを含有してもよい。あるいは、上記の他の染色体外で複製するウイルスの複製起点または自律複製配列(ARS)を用いてもよい。
【0154】
4.選択およびスクリーニング可能なマーカー
一部の実施形態では、本開示の構築物を含有する細胞は、マーカーを発現ベクターに含めることによってin vitroまたはin vivoで同定され得る。このようなマーカーは、細胞に同定可能な変化を与え、発現ベクターを含有する細胞を容易に同定することを可能にする。一般的に、選択マーカーは選択を可能にする特性を付与するマーカーである。ポジティブ選択マーカーは、マーカーの存在がその選択を可能にするマーカーである一方、ネガティブ選択マーカーは、その存在がその選択を妨げるマーカーである。ポジティブ選択マーカーの例は薬物耐性マーカーである。
【0155】
薬物選択マーカーを含むことは、通常、形質転換体のクローニングおよび同定を補助する。例えば、ネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、DHFR、GPT、ゼオシンおよびヒスチジノールに対する耐性を付与する遺伝子が、有用な選択マーカーである。条件の実施に基づいた形質転換体の識別を可能にする表現型を付与するマーカーの他に、その基礎が比色分析であるGFPなどのスクリーニング可能なマーカーを含む他の種類のマーカーも企図されている。あるいは、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(tk)またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)などのネガティブ選択マーカーとしてスクリーニング可能な酵素を利用してもよい。当業者は、おそらくはFACS分析と組み合わせて、免疫学的マーカーを用いる方法も知っている。使用されるマーカーは、遺伝子産物をコードする核酸と同時に発現することが可能である限り、重要であるとは考えられない。選択およびスクリーニング可能なマーカーのさらなる例は当業者に周知である。
【0156】
C.自殺遺伝子およびプロドラッグ
一部の実施形態では、自殺遺伝子は、プロドラッグが投与されると、遺伝子産物をその宿主細胞を殺傷する化合物に移行させる核酸である。使用することができる自殺遺伝子/プロドラッグ組合せの例は、単純ヘルペスウイルス-チミジンキナーゼ(HSV-tk)とガンシクロビル、アシクロビルまたはFIAU;酸化還元酵素とシクロヘキシミド;シトシンデアミナーゼと5-フルオロシトシン;チミジンキナーゼチミジレートキナーゼ(Tdk::Tmk)とAZT;ならびにデオキシシチジンキナーゼとシトシンアラビノシドである。プロドラッグ6-メチルプリンデオキシリボシドを毒性プリン6-メチルプリンに変換するE.coliプリンヌクレオシドホスホリラーゼも使用し得る。
【0157】
一部の実施形態では、HSVチミジンキナーゼ(TK)自殺遺伝子は、野生型または非変異HSV TK由来の1つまたは複数の変異を有し得る。本明細書で利用される場合、「非変異チミジンキナーゼ」は、McKnightら(Nucl. Acids Res.、8巻:5949~5964頁、1980年)によって記載されているものなどの天然または野生型チミジンキナーゼを指すと理解されるべきである。TK変異体は、HSV TKの159~161残基および168~169残基で1つまたは複数のアミノ酸置換(Blackら、Proc. Nat’l Acad. USA、93巻:3525~3529頁、1996年)を有し得る。本方法で使用されるTK変異体は、SR11、SR26、SR39、SR4、SR15、SR32またはSR53 TK変異体であってもよい。例えば、HSV TKは、HSV1-SR39TK(すなわち、159IFL161および168FM169;159位でのアミノ酸置換がロイシンからイソロイシンであり、160位でのアミノ酸置換がイソロイシンからフェニルアラニンであり、161位でのアミノ酸置換がフェニルアラニンからロイシンであり、168位でのアミノ酸置換がアラニンからフェニルアラニンであり、169位でのアミノ酸置換がロイシンからメチオニンである)であることができ、この変異体は、プロドラッグのアシクロビルおよび/またはガンシクロビルを細胞傷害剤に変換する増強された能力を有する(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる米国特許公開第20130011903号および第20120142071号)。
【0158】
変異は、DRHヌクレオシド結合部位の上流であっても下流であってもよい。例えば、DRHヌクレオシド結合部位の上流の1~7個のアミノ酸からの1つまたは複数のアミノ酸置換をコードする変異が企図される。このようなキナーゼの生物学的活性は、本明細書に記載されるアッセイのいずれか、例えば、ヌクレオシドアナログの取り込み速度の決定、ヌクレオシドまたはヌクレオシドアナログのリン酸化速度の決定を利用して容易に決定することができる。さらに、熱安定性およびタンパク質安定性などの他の生物学的特性によって特徴付けられるチミジンキナーゼ変異体は容易に選択され得る(例えば、米国特許第6,451,571号に記載)。
【0159】
簡単に述べると、本開示のチミジンキナーゼ変異体は、例えば、霊長類ヘルペスウイルスおよび鳥類ヘルペスウイルスなどの非霊長類ヘルペスウイルスを含む多種多様なヘルペスウイルス科チミジンキナーゼから調製することができる。適切なヘルペスウイルスの代表的な例としては、単純ヘルペスウイルス1型(McKnightら、Nuc. Acids Res、8巻:5949~5964頁、1980年)、単純ヘルペスウイルス2型(SwainおよびGalloway、J Virol.、46巻:1045~1050頁、1983年)、水痘帯状疱疹ウイルス(DavisonおよびScott、J. Gen. Virol.、67巻:1759~1816頁、1986年)、マーモセットヘルペスウイルス(OtsukaおよびKit、Virology、135巻:316~330頁、1984年)、ネコヘルペスウイルス1型(Nunbergら、J. Virol.、63巻:3240~3249頁、1989年)、仮性狂犬病ウイルス(KitおよびKit、米国特許第4,514,497号、1985年)、ウマヘルペスウイルス1型(RobertsonおよびWhalley、Nuc. Acids Res.、16巻:11303~11317頁、1988年)、ウシヘルペスウイルス1型(MittalおよびField、J. Virol、70巻:2901~2918頁、1989年)、七面鳥ヘルペスウイルス(Martinら、J. Virol.、63巻:2847~2852頁、1989年)、マレック病ウイルス(Scottら、J. Gen. Virol.、70巻:3055~3065頁、1989年)、ヘルペスウイルスサイミリ(Honessら、J. Gen. Virol.、70巻:3003~3013頁、1989年)およびエプスタイン・バーウイルス(Baerら、Nature(London)、310巻:207~311頁、1984年)が挙げられる。
【0160】
そのようなヘルペスウイルスは、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(「ATCC」、Rockville、Md.)などの商業的供給源から容易に取得することができる。上で同定されたヘルペスウイルスのいくつかの寄託物は、ATCCから容易に取得することができ、例えば、ATCC番号VR-539(単純ヘルペス1型)、ATCC番号VR-734およびVR-540(単純ヘルペス2型)、ATCC番号VR-586(水痘帯状疱疹ウイルス)、ATCC番号VR-783(感染性喉頭気管炎(laryngothracheitis))、ATCC番号VR-624、VR-987、VR-2103、VR-2001、VR-2002、VR-2175、VR-585(マレック病ウイルス)、ATCC番号VR-584BおよびVR-584B(七面鳥ヘルペスウイルス)、ATCC番号VR-631およびVR-842(ウシヘルペスウイルス1型)ならびにATCC番号VR-2003、VR-2229およびVR-700(ウマヘルペスウイルス1型)であり得る。またヘルペスウイルスは、天然に存在する供給源から(例えば、感染した動物から)容易に単離され、同定され得る。
【0161】
本開示で使用されるチミジンキナーゼ変異体は、多種多様な技術を使用して構築することができる。例えば、変異は、天然配列の断片へのライゲーションを可能にする制限部位によって隣接される、変異配列を含有するオリゴヌクレオチドを合成することによって、特定の遺伝子座に導入され得る。ライゲーション後、得られる再構築配列は、所望のアミノ酸挿入、置換、または欠失を有する誘導体をコードしている。
【0162】
代替的に、オリゴヌクレオチド指向性部位特異的(またはセグメント特異的)変異誘発手法が、必要な置換、欠失、または挿入に応じて改変された特定のコドンを有する改変遺伝子を提供するために用いられ得る。チミジンキナーゼ変異体の欠失または切断誘導体は、所望の欠失に隣接する、都合のよい制限エンドヌクレアーゼ部位を利用することによっても構築することができる。制限に続いて、オーバーハングを充填してもよく、DNAを再びライゲートしてもよい。上記の変化を作製する例示的な方法は、Sambrookら(Molecular cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年)によって開示されている。
【0163】
チミジンキナーゼ変異体は、PCR変異誘発、化学的変異誘発(DrinkwaterおよびKlinedinst、PNAS、83巻:3402~3406頁、1986年)の技術、強制ヌクレオチド誤取り込みによる技術(例えば、LiaoおよびWise Gene、88巻:107~111頁、1990年)またはランダム変異誘発オリゴヌクレオチドの使用による技術(Horwitzら、Genome、3巻:112~117頁、1989年)を利用して構築することもできる。
【0164】
【0165】
IV.使用方法
本開示のベクター(例えば、シュードタイプレンチウイルスベクター)によって遺伝子が導入されたPSCならびにこれらのPSCから分化した細胞、組織、器官などは、種々の種類の医薬物質のアッセイおよびスクリーニングのために有用である。PSCへの遺伝子導入を介して、例えば、組織または細胞、特に好ましくは霊長類由来の組織または細胞の特異的分化を行う医薬物質または遺伝子を、それらの効果について評価し、またはスクリーニングしてもよい。
【0166】
本開示は、本開示のベクター(例えば、シュードタイプレンチウイルスベクター)が導入されたPSCならびにPSCから分化した分化細胞および組織も包含する。分化した細胞および組織は、マーカー発現、および組織または細胞に特異的な形態学的特徴に基づいて同定することができる。
【0167】
A.処置方法
一部の実施形態では、本開示は、細胞周期依存性プロモーターの制御下で自殺遺伝子を含む前駆細胞の集団を投与することを含む、対象における疾患または障害を処置する方法を提供する。前駆細胞は、本質的に分裂しない細胞である細胞を補充するために使用することができ、あらゆる残留する周期するまたは増殖細胞は、これらの周期する細胞を選択的に死滅させるプロドラッグを投与することによって、排除することができる。したがって、この方法は、残留周期する細胞からの奇形腫または腫瘍の形成を防止することができる。
【0168】
処置方法は、ある特定の細胞集団の補充から利益を得ることができる任意の疾患または障害に適用することができる。例えば、神経疾患は、前駆細胞の投与によって処置することができる。腫瘍血管新生などの血管系に影響する疾患は、内皮前駆細胞の投与によって処置することができる。心筋前駆細胞が、心疾患の処置に使用されてもよく、膵前駆細胞が、膵疾患の処置に使用されてもよい。本開示の他の前駆細胞療法は、腎前駆細胞、オリゴデンドロサイト前駆細胞、造血前駆細胞、骨髄前駆細胞、間葉前駆細胞、網膜前駆細胞および破骨前駆細胞を含み得るが、これらに限定されない。
【0169】
ヒトにおいて、CNSに影響を与える多くの疾患があり、それらの多くは、ディスメトリア、運動失調、パストポインティング(past pointing)、拮抗運動反復不全、構音障害、企図および行動振戦、小脳眼振、リバウンド、筋緊張低下、および平衡失調などの随伴症状と共に小脳変性に至る。これらの疾患は、本明細書に開示された特定の実施形態に係る細胞補充療法を使用して緩和することができる。
【0170】
本開示の方法を使用する処置に適しているヒトにおけるCNSおよび脳の疾患としては、多種多様な疾患および障害が挙げられ、例えば、ハンチントン病、アルツハイマー病(孤発性と家族性の両方)、パーキンソン病ならびにパーキンソン病様症状、例えば筋振戦、筋力低下、剛性、動作緩慢、姿勢および平衡の変化および認知症;筋萎縮性側索硬化症(ALS);脊髄損傷;重度のてんかん;外傷性脳損傷などが挙げられる。
【0171】
したがって本開示の方法は、脱髄、髄鞘形成不全、認知症、ディスメトリア、運動失調、パストポインティング、拮抗運動反復不全、構音障害、企図および行動振戦、小脳眼振、リバウンド、筋緊張低下、および平衡失調に至るCNSおよび小脳の異常を軽減するために使用することができる。パーキンソン病を有する患者が、線条体を神経支配する大脳基底核内のドーパミン作動性ニューロンの損失により、進行性の運動制御失調を被ることはよく確立されている。神経前駆細胞は、ドーパミン作動性の破滅に対して指示することができ、過成長および腫瘍形成を防止するために、本明細書に記載のシステムを使用して線条体に送達させることができる。同様に、本開示の神経前駆体は、アルツハイマー病の処置に使用するために、コリン作動性の破滅に対して指示することができる。
【0172】
本開示の方法は、家庭内愛玩動物および農業用動物の処置を含む獣医学分野における使用も有する。本明細書で利用される場合、「処置、防止または阻害」という用語は、統計学的に有意な様式での疾患の経過または進行の変化を指す。疾患の経過が変化したかどうかの決定は、CNSまたは小脳変性を遅延または防止する遺伝子送達ベクターの能力を分析する当技術分野で公知の標準的なアッセイを使用することによって、様々なモデル系で容易に評価することができる。
【0173】
遺伝子送達ベクターは、針、カテーテルまたは関連デバイスを使用して、注射によって、CNSまたは脳に、例えば脳室、小脳小葉および/または線条体内に直接送達することができる。特に、本開示のある特定の実施形態では、1つまたは複数の投与量は、103、104、105、106、107、108、109、1010または1011cfuまたはそれより多くの投与量で、示される様式で直接投与されてもよい。小脳の注射は、注射部位を正確に標的とするために定位座標を使用することができないという事実によって複雑である;小脳小葉の大きさならびにそれらの絶対3次元配向に動物間で変動がある。したがって、コレラ毒素サブユニットb(CTb)を、注射の正確な位置を決定し、注射部位での形質導入可能なニューロンのプールを明らかにするために、使用してもよい。注射は、分子層、プルキンエ細胞層、顆粒細胞層、および小脳活樹の白質を充填し得るが、深部小脳核には至らない。
【0174】
代替的におよび好ましくは、形質導入された神経始原細胞を使用して疾患を処置するために、神経始原細胞を、最初にex vivoで形質導入し、次いでCNSに送達させる。一般的に、ex vivoで形質導入される場合、細胞は、約0.01~約50、好ましくは約0.05~約30、および最も好ましくは約0.1~約20MOIのMOIで、本明細書に記載のウイルスベクターで感染される。FIVベクターについては、約0.05~約10、好ましくは約0.1~約5、またはさらには0.1~約1のMOIが十分であるべきである。一旦ex vivoでトランスフェクトされたら、細胞を、例えば、脳室領域に、ならびに当技術分野で公知の、および下記実施例に記載されるような神経外科技術を使用して、例えば眼および耳への定位注射(単数および複数)によって、線条体、脊髄および神経筋接合部に送達することができる(例えば、Steinら、J Virol、73巻:3424~3429頁、1999年;Davidsonら、PNAS、97巻:3428~3432頁、2000年;Davidsonら、Nat. Genet.、3巻:219~223頁、1993年;ならびにAliskyおよびDavidson、Hum. Gene Ther.、77巻:2315~2329頁、2000年を参照)。一般的に、対象に送達される組成物中の形質導入された細胞の量は、約101~約1010細胞またはそれより多く、より好ましくは約101~108細胞またはそれより多く、さらにより好ましくは約102~約104細胞またはそれより多い。他の有効な投与量は、用量応答曲線を確立する日常的試験を通じて当業者によって容易に確立することができる。
【0175】
多種多様なアッセイが、投与のための適切な投与量を決定するために、または特定の疾患を処置もしくは防止する遺伝子送達ベクターの能力を評価するために利用され得る。これらのアッセイのいくつかは、以下でより詳細に論じられる。例えば、小脳ニューロンおよび神経始原細胞に形質導入するための特定のベクターの能力は、後述のように、レポーター遺伝子を使用して評価することができる。形質導入された始原細胞が分化する能力は、例えば、実施例において後述されるような免疫細胞化学を使用して、試験することができる。
【0176】
全身投与のために、治療的有効用量は、最初にin vitroアッセイから推定することができる。例えば、用量は、細胞培養で決定されるIC50を含む循環濃度範囲を達成するように、動物モデルで定式化することができる。このような情報は、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定するために使用することができる。療法は、症状が検出可能である間、または症状が検出されないときでさえ、断続的に繰り返してもよい。療法は、単独で、または他の薬物と組み合わせて提供することができる。
【0177】
初回投与量は、当技術分野で周知である技術を使用して、in vivoデータ、例えば動物モデルから推定することもできる。当業者は、動物データに基づいて、ヒトへの投与を容易に最適化することができる。
【0178】
B.医薬調製物
本開示の治療用細胞集団を含有する組成物の臨床応用が行われる場合、意図する用途に適切な医薬組成物を調製することが一般的に有益であろう。このためには、本質的に発熱物質、およびヒトまたは動物に有害となり得る任意の他の不純物も含まない医薬組成物を調製することが、典型的に必要である。
【0179】
「薬学的にまたは薬理学的に許容される」という語句は、動物、例えばヒトに、適切に投与されたときに、有害反応、アレルギー反応、または他の不都合な反応を生じない、分子実体および組成物を指す。阻害性核酸または追加の活性成分を含む医薬組成物の調製は、参照によって本明細書に組み込まれるRemington(2005年)によって例示されるように、本開示に照らして当業者には公知である。さらに、動物(例えば、ヒト)投与のために、調製物は、FDA局の生物学的基準によって要求される無菌状態、発熱原性、全体的安全性および純度基準を満たすべきであることが理解される。
【0180】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」は、当業者に公知であるような、ありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、界面活性剤、酸化防止剤、防腐剤(例えば、抗菌剤、抗真菌剤)、等張化剤、吸収遅延剤、塩類、防腐剤、薬物、薬物安定剤、ゲル、結合剤、賦形剤、崩壊剤、潤滑剤、甘味剤、香味剤、色素、同様の材料、およびそれらの組合せを含む。薬学的に許容される担体は、ヒトへの投与のために特に製剤化されたものであるが、ある特定の実施形態では、非ヒト動物への投与のために製剤化されたが、ヒトへの投与には(例えば、政府の規制により)許容されない、薬学的に許容される担体を使用することが望ましい場合がある。任意の従来の担体は、活性成分と適合性がないものでない限り、治療用組成物または医薬組成物での使用が企図されている。
【0181】
実施形態の本療法は、静脈内に、皮内に、動脈内に、腹腔内に、病巣内に、頭蓋内に、関節内に、前立腺内に、胸膜内に、気管内に、鼻腔内に、硝子体内に、膣内に、直腸内に、局所的に、腫瘍内に、筋肉内に、腹腔内に、皮下に、結膜下に、小胞内に(intravesicularlly)、経粘膜で、心膜内に、臍帯内に(intraumbilically)、眼内に、経口で、局所的に、局部的に、吸入(例えば、エアロゾル吸入)により、注射で、注入で、連続注入で、標的細胞を直接浸す局部的灌流で、カテーテルを介して、洗浄を介して、クリームで、脂質組成物(例えば、リポソーム)で、または当業者に公知であるような他の方法またはこれらの任意の組合せによって、投与することができる。
【0182】
患者または対象に投与される本開示の組成物の実際の投与量は、体重、状態の重症度、処置される疾患の種類、先のまたは同時の治療介入、患者および投与経路の特発性などの物理的および生理的要因によって決定することができる。投与を担当する施術者は、いずれにしても、個々の対象のために、組成物における活性成分の濃度および適切な用量を決定する。非限定的な例では、投与することができる用量は、約5マイクログラム/kg/体重~約500ミリグラム/kg/体重、約5mg/kg/体重~約100mg/kg/体重、約10mg/kg/体重~約50mg/kg/体重を含み得る。
【実施例】
【0183】
V.実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を実証するために含まれる。次の実施例に開示されている手法は、本発明者によって発見された、本発明の実施で十分に機能するための手法を表し、したがって本発明を実施するための好ましい様式を構成するものとみなすことができることを当業者は理解するはずである。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、開示されている特定の実施形態に多くの変更をなすことができ、それでもなお、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、類似のまたは同様の結果が得られ得ることを理解するはずである。
【0184】
(実施例1)
増殖性細胞の標的化
TK-PSC株の生成:本研究の目的は、PSC由来の移植された神経細胞の制御不能な過成長の防止に向けた自殺遺伝子アプローチを開発することであった。多くの理由から、ガンシクロビルおよび単純ヘルペスチミジンキナーゼは、このような自殺遺伝子技術のための魅力的なシステムである。実際、ガンシクロビルは、患者で広く使用されており、中枢神経系に入り込む。しかしながら、HSV-TKの構成的発現は、移植された細胞の免疫拒絶につながる可能性があるため、望ましくなく、ガンシクロビルの使用は、機能的な移植ニューロンの殺傷につながる可能性がある。
【0185】
したがって、HSV-TKを、細胞周期依存性のKi67プロモーター断片の制御下で発現させた。この目的のために、ヒト多能性ESC(hPSC)株HS415を、Ki67プロモーター断片の制御下で、HSV-TKの発現をコードするレンチベクターで形質導入した(Zambon、2010年)。hPSCのレンチベクター形質導入効率は10~20%の範囲にあるので、形質導入された細胞の選択のための手段が必要であった。したがって、使用された構築物は、ゼオシン耐性配列に融合したHSV-TK配列を含んでいた。HSV-TK陽性細胞を、ゼオシンの存在下で形質導入されたhESCを培養することによって選択した(
図1A)。ポリクローナルHSV-TK発現PSC株を得て、本明細書でTK-PSCと称する。TK-PSCから神経前駆細胞および成熟ニューロンを得て、それぞれTK-NPCおよびTK-ニューロンと称する(
図1B、1C)。
【0186】
Ki67/TKを発現する高増殖性細胞は、in vitroでガンシクロビルに感受性である:次いで、TK発現をTK-PSCおよびTKニューロンで調べた。TK-PSCでは、細胞の実質的に100%が、これらの細胞でのKi67の高発現と一致して、TKを発現した(
図1C、上パネル)。対照的に、TKニューロンは、有糸分裂後の細胞であることから予測されるように、何らTKを発現しなかった。しかしながら、ニューロン調製において、Ki67陽性細胞は依然として存在した(
図1C、下パネル)。ニューロン調製におけるKi67陽性細胞の多くが、長い神経突起伸展を有する成熟したニューロンの形態を明確に示したので、これらのKi67陽性細胞は増殖細胞の存在をおそらく反映していない。Ki67の発現を、フローサイトメトリーによる多能性マーカーnanogおよびoct3/4の発現と共にも調査した。PSCでは、実質的に全ての細胞が、Ki67、nanogおよびoct3/4陽性であった。対照的に、NPCは、1週間の神経球分化後に多能性マーカーを急速に失い、一方でKi67発現は、3週間の分化後に、バックグラウンドを少し超えるレベルで、よりゆっくりと減少した(
図2A)。
【0187】
ガンシクロビルのTK細胞に対する影響をin vitroで決定した(
図2B、2C、2D)。TK PSCはガンシクロビル曝露に高感受性であり(96時間)、2.5μMのガンシクロビル濃度でも細胞の消失が観察され、10μMでほぼ完全に消失した(
図2B、2C)。対照的に、通常のPSC(すなわち、TK構築物で形質導入されていない)は、40μMの濃度でもガンシクロビルに耐性であった(
図2B、2F)。TKニューロンではTK発現がないことから予測されるように、TKニューロンは、対照ニューロンと同様に、40μMまでガンシクロビル濃度による影響を受けなかった。
【0188】
ガンシクロビル効果の時間経過も調べた(
図2D)。TK PSCは、ガンシクロビル(40μM)によって、4日以内に殺傷された。TK-NPCは1週間の神経球分化後にガンシクロビル(40μM)に依然として感受性であったが、殺傷の時間経過は著しく遅くなり、完全な殺傷は8日後に初めて観察された。2週間の神経球分化後のTK-NPCはわずかしか細胞成長を示さず、ガンシクロビルによって殺傷されなかった。
【0189】
初期ガンシクロビル処置は、高増殖性多能性幹細胞の移植に際して腫瘍形成を防止するが、後期ガンシクロビル処置は防止しない:in vitroでの有望な結果を考慮して、ガンシクロビルがin vivoで腫瘍形成を防止するかどうかを調べた。この目的のために、TK-PSCを、NOD/SCIDマウスの線条体に移植した。ガンシクロビルの非存在下で、移植後49日目に屠殺したマウスは、一貫して奇形腫を発生し(
図4A)、この奇形腫はヒト細胞(HCM陽性)で構成され、Ki67およびKi67プロモーター駆動HSV-TKの大量の発現を示した(
図5Aa)。中程度の量のマウスミクログリアの浸潤があった。対照的に、ガンシクロビルで15日間処置(移植後4日目で開始)したマウスでは、奇形腫は観察されなかった(
図4B)。ガンシクロビルで処置したマウスではヒト細胞はほとんど残らず、生き残った少数のヒト細胞は、HSV-TKについて陰性であり、かなりの程度までKi67についても陰性であり、このことから、少数の生き残ったヒト細胞は有糸分裂後となっており、それゆえガンシクロビルへの感受性を失ったことが示唆された(
図5Ba)。このように、ガンシクロビルは、移植されたTK-PSCによる奇形腫形成を防止した。
【0190】
次に、ガンシクロビルが、既に確立された奇形腫を処置するためにも使用することができるかどうかを調べた。したがって、奇形腫形成を30日間進行させ(予備的な結果は、この時間遅延内で、PSCの移植に際して一貫して奇形腫形成があったことを示した)、移植後30~45日間ガンシクロビル(またはPBS)で処置した。ガンシクロビル処置の終了後30日目にマウスを屠殺した。これらの条件下で、PBSおよびガンシクロビル処置動物の両方で奇形腫形成があった(
図6)。CD31染色は腫瘍が血管形成されたことを示し、灌流を欠くことが、確立された腫瘍においてガンシクロビルの治療効果がないことを説明しないことが示唆された。同様に、多くの奇形腫細胞が高レベルのHSV-TK発現を示し、導入遺伝子の下方制御は治療応答がないことの説明にならないことが示唆された。
【0191】
以前の研究(Chalmersら、2001年)で、潜在スプライスドナーおよびアクセプター部位による選択的スプライシングが、不活性TKの形成につながり得ることが示唆された。別の研究(Kotiniら、2016年)では、様々な非センス変異が、急速に成長する細胞のTK配列で起こり得、ガンシクロビル耐性を説明し得ることが示唆された。したがって、mRNAを、未分化の多能性細胞の注射に際して形成された腫瘍から抽出した。これらのmRNA調製物から、全TK配列の85%に相当する全1162ヌクレオチドに及ぶTKタンパク質の5つの領域を増幅した(
図7A)。シーケンシングされる領域には、提唱された潜在スプライス部位も含めた(例えば、アンプリコン3)。PCR産物を直接シーケンシングした(
図7B)。このシーケンシングの結果は、腫瘍で見出される配列が全面的にプラスミドHSV-TK配列と同一であることを決定し、変異が発生したならば、それらの配列は腫瘍内のHSV-TK配列の大半を表すものでないことが示唆された。シーケンシング結果の検査は、曖昧なシーケンシングシグナルに関する証拠を何ら示さなかった。加えて、前述の潜在スプライス部位は、配列のこのバージョンでは(プラスミド配列においても腫瘍由来配列においても)存在しなかった;したがって、いかなるスプライスバリアントもシーケンシング結果では検出されなかった。
【0192】
変異を有する少数配列が、腫瘍内に発生していたかどうかを調べるために、PCRアンプリコンのうちの2つをサブクローン化し、シーケンシングした。アンプリコン5のサブクローンに変異は観察されなかった:対照的に、アンプリコン3のサブクローンの2つにおいて、TK酵素の重要な部位(ATPおよびヌクレオチド結合部位)(Andreiら、2005年)に位置していない単一点変異(
図7C)が存在した。
【0193】
TK-NPCの移植は、ガンシクロビル処置に感受性でない成熟ニューロンを生じた:これまで示されたin vivoの結果は、未分化多能性幹細胞の移植で得られた。しかしながら、ニューロン細胞療法の最終目標は、成熟ニューロンに分化し、かつガンシクロビル処置に耐性であるべきである神経前駆細胞移植である。したがって、2~3週のNPC含有神経球を移植した(
図3C、8)。これらの条件下で、腫瘍形成は、ガンシクロビル処置の非存在下でも観察されなかった(
図8A)。これらの観察と一致して、移植された細胞(移植後7週間の免疫蛍光により評価)は、多くがベータ3チューブリンに陽性であり(
図8B、上パネル)、一方で、ほんのわずかな細胞がTH陽性であった(
図8B、下パネル)。ネスチン陽性細胞がちらほら観察された。これらのマーカーはいずれも、ガンシクロビル処置による影響を受けなかった。
【0194】
細胞増殖マーカーを、PCNAおよびKi67に対する抗体を用いて移植体を染色することによって分析した(
図8C)。驚くべきことに、移植された細胞の多くは、PCNA陽性であり、一方で移植体のKi67染色は少ないかなかった。ガンシクロビル処置は、このパターンを変化させなかった(
図8C、左パネル、対照および右パネル、ガンシクロビル処置)。PCNA陽性、Ki67陰性細胞が増殖細胞であるかどうかを検証するために、BrdU実験を実施した。有意なBrdU染色は観察されず(
図8C、挿入図)、このことから、Ki67がないことは、有糸分裂後の細胞を正しく示し、PCNA発現は、増殖停止後でさえ持続している可能性があることが示唆された。
【0195】
異なる実験条件下で腫瘍形成およびガンシクロビルに対する応答を比較するために、移植片表面を定量した(
図8D)。PSCが移植されたとき、大きな腫瘍(移植片表面約10~15mm2)が発達し、これは初期ガンシクロビル処置によって完全に防止されたが、後期ガンシクロビル処置は腫瘍の大きさに何ら影響を与えなかった。最後に、NPC(2~3週齢の神経球から誘導)の移植に際して小さな非腫瘍移植体(移植片表面約2~3mm)が観察された。これらの移植体の大きさは、ガンシクロビルによって影響を受けなかった。
【0196】
したがって、本方法は、神経移植体から、潜在的に腫瘍形成性の増殖細胞をin vivo除去することを可能にする新規手段を提供する。このシステムは、細胞周期依存性Ki67プロモーターの制御下のHSV-TKの発現に基づく。それは多能性幹細胞由来ニューロンの移植のために特に有用である。実際、HSV-TK発現細胞は、臨床的に使用されるCNS浸透薬物ガンシクロビルで患者を処置することによって排除することができる。Ki67プロモーターは、成熟ニューロンで不活性であるので、ガンシクロビルを用いた処置は、増殖前駆体を排除するにすぎないが、分化した有糸分裂後ニューロンの完全性を維持する。
【0197】
(実施例2)
材料および方法
未分化多能性幹細胞の培養:ヒトES細胞株HS415(第17~30継代から使用、Outi Hovatta、Karolinska Institute、Stockholm、Sweden)を、フィーダーを含まない培養培地(Nutristem、Biological Industries製)中のヒト細胞外マトリックス(MAXGEL(登録商標)ECM、1/50希釈、Sigma製、またはMATRIGEL(商標)、1/100希釈、Invitrogen)上で培養した。培地を隔日で交換して多能性を維持した。細胞を、酵素的手法(ACCUTASE(登録商標);Invitrogen)で継代し、Rho関連タンパク質キナーゼ(ROCK)阻害剤(10μMのY-27632;Ascient Biosciences)と共に再播種し、24時間後に取り出した。
【0198】
レンチウイルスベクターの構築、細胞の形質導入および選択:プラスミドおよびレンチウイルスベクターの構築:最終レンチベクタープラスミドを、HsKi67プロモーター(pENTR-L4-Ki67-L1R)を含有するpENTRプラスミドと、単純ヘルペスウイルス1型(HSV1)由来のチミジンキナーゼ(TK)遺伝子およびゼオシン耐性を付与するShble遺伝子に対応する融合遺伝子TK::Shを含有するpENTRプラスミドと、pCLX-R4-DEST-R2レンチベクターデスティネーションカセットとのLR Clonase II(Invitrogen、Carlsbad、CA)媒介組換えによって生成した。
【0199】
レンチウイルスベクターの産生および滴定:レンチウイルスベクターストックを、特定のレンチベクタートランスファープラスミドと、gag/polをコードするpsPAX2プラスミドと、pCAG-VSVGエンベローププラスミドとによるHEK293T細胞の一過性トランスフェクションを使用して生成した。レンチベクターの力価を、HT-1080細胞の形質導入、続いて感染の5日後のGFP陽性細胞のフローサイトメトリー定量を使用して行った。細胞培養:HEK293TおよびHT-1080細胞を、10%ウシ胎児血清、1%ペニシリン、1%ストレプトマイシンおよび1%L-グルタミンを補足した高グルコースダルベッコ改変イーグル培地(Sigma)で培養した。HS415細胞株の形質導入:1~最大5コピーのレンチウイルスベクターを導入した。HS415細胞を5日間培養した後、ゼオシン選択を行った。
【0200】
DA神経前駆体を含有する神経球の生成:NPCを、以前に記載されたように、DA始原体を含有する神経球として生成した(Tiengら、2014年)。簡単に述べると、神経中脳オリエンテーションを最初の1週間行い、続いてさらに2週間成熟させ、1週齢または2もしくは3週齢のNPCを得る(
図1B、3A)。
【0201】
二次元培養(2D)におけるNPCの生成:2Dでの分化のために、3週齢の神経球を、ACCUMAX(登録商標)(Millipore)を用いて解離し、24ウェルプレート中のポリオルニチン(15μg/mL;Sigma)およびラミニン(2μg/cm
2;R&D System)被覆カバースリップ(直径=0.8cm)上に、成熟培地中200,000細胞/cm
2で再播種し、1週間後、免疫蛍光染色によって分析した(
図1B)。
【0202】
フローサイトメトリー:未分化ES細胞を、ヒトマトリックス(Accutase、Invitrogen)から、単一細胞として酵素的に切り離し、PBSで洗浄した後、室温で4%パラホルムアルデヒド(PFA)中で10分間固定ステップを行った。1週齢または3週齢の神経球を解離した(Accutase、Invitrogen)。検出された細胞内抗原に対して、細胞を1×perm/洗浄緩衝液(BD bioscience)中で10分間透過処理した後、30分間、暗室内、室温で、異なる抗体(PE NanogおよびPerCp-Cy 5.5 Oct3/4、Life Technology製、FITC-ki67、ウサギ、Abcam製)とインキュベーションした。洗浄後、細胞を直ぐに実行に用いるか、または4℃で最大24時間保存した。各試料の実行について、10,000事象を記録し、分析した。フローサイトメトリー取得は、488および633レーザー(BD bioscience)を備えたFacsCanto I機器を使用して行い、データ分析はFlowjoソフトウェアによって行った。
【0203】
固定された細胞の免疫蛍光染色:1週間の培養後、カバースリップ上の2D培養物を4%PFA中に室温で10分間固定し、洗浄し、従来の免疫細胞化学の処理をした。パラフィン包埋した脳を切片化し、形態学的評価および免疫組織化学染色のためにクレシルバイオレットで処理した。一次抗体を、細胞についてはPBS+0.1%トリトン中で、組織については0.3%トリトン中で、撹拌しながら4℃で一晩インキュベートした。顕色は、室温で30分間二次抗体を用いて行う。
【0204】
一次抗体は、ネスチン(ウサギポリクローナル抗ヒト、Chemicon製;1/400)、β3-チューブリン(マウスモノクローナル、Sigma製、またはウサギポリクローナル、Covance製;1/2,000、ニューロン核特異的タンパク質(NeuN、マウスモノクローナル、Chemicon製;1/1,000)、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP、ウサギポリクローナル、Dako製;1/2,000)、増殖細胞核抗原(PCNA、マウスモノクローナル、Dako製;1/100)、チロシンヒドロキシラーゼ(TH;ウサギポリクローナル、Millipore製;1/500)に対するものであった。一次抗体の検出は、適切な種特異的Alexa488またはAlexa555標識二次抗体を使用して行った。対照は、細胞または組織の自家蛍光および第1の抗体の脱落の検査を含んだ。細胞核をDAPIで染色した。切片および細胞培養物を、Fluorosave(Calbiochem)またはEukitt(Kindler GmbH)にマウントし、適切なフィルタ、AxiocamカラーカメラおよびAxiovisionソフトウェアを備えたAxioscop2プラス顕微鏡(Leitz)で観察した。
【0205】
カルセインアッセイによる細胞増殖測定:細胞を、ポリオルニチン(polyornothine)+ECM(1/50)でプレコーティングした96ウェルに播種した。それぞれ、多能性幹細胞について1000個の細胞、初期NPCについて5000個の細胞、および後期NPCについて30000個の細胞であった。ガンシクロビル(PBSで希釈したCemevene、Roche)処置を、PSCについては細胞播種の翌日、初期NPCについては細胞播種の3日後、後期NPCについては細胞播種の1週間後に加えた。カルセイン(2μM)を、様々な時間経過のガンシクロビル処置(24時間から96時間)に加えた。細胞生存を、37℃のインキュベータ中24時間インキュベーションした後、カルセイン組込みによって測定した。
【0206】
定位生着およびガンシクロビル処置:未分化多能性幹細胞(20000細胞/μL)および解離した神経球(100,000細胞/μL)を、27-Gハミルトンシリンジを使用して、麻酔したマウスの線条体に注射した。横線条体のための注射座標は、ブレグマ=0.74mm、内外=2.25mm、背腹=3.5mmであり、内側線条体のための注射座標は、ブレグマ=0.74mm、内外=1.4mm、背腹=2.8mmであった。マウスは、ガンシクロビル終了1ヶ月後に安楽死させた。
【0207】
注射された生存細胞の形態学的および表現型分析:麻酔したマウスをリン酸緩衝生理食塩水中の4%パラホルムアルデヒドの心臓内灌流によって固定した。免疫組織化学検出を、Alexa488もしくは555標識二次抗体またはビオチン-アビジン-ペルオキシダーゼ複合体法(Vector)を使用して厚さ10μmのフリーフローティングクリオスタット切片上で実施した。以下の一次抗体を使用した:ネスチン(ウサギポリクローナル抗ヒト、Chemicon製、1/400)、β3-チューブリン(マウスモノクローナル、Sigma製、またはウサギポリクローナル、Covance製、1/2000)、ニューロン核特異的タンパク質(NeuN、マウスモノクローナル、Chemicon製、1/1000)、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP、ウサギポリクローナル、Dako製、1/2000)、増殖細胞核抗原(PCNA、マウスモノクローナル、Dako製、1/100)、チロシンヒドロキシラーゼ(TH、ウサギポリクローナル、millipore製、1/500)、iba1(ポリクローナル、ウサギ、Wako製、1/500)、HSV-TK(マウスモノクローナル、Gentaur、1/100)、ki67(モノクローナル、ウサギ、Abcam、1/100、またはマウス、Chemicon、1/100)。CD31(一次抗体の検出は、適切な種特異的Alexa488またはAlexa555標識二次抗体を使用して行った。対照は、細胞または組織の自家蛍光および第1の抗体の脱落の検査を含んだ。細胞核をDAPIで染色した。切片および細胞培養物を、Fluorosave(Calbiochem)またはEukitt(Kindler GmbH、Germany)にマウントし、適切なフィルタ、AxiocamカラーカメラおよびAxiovisionソフトウェアを備えたAxioscop2プラス顕微鏡(Leitz、Germany)で観察した。共焦点画像化は、LSM510Meta共焦点レーザースキャナーおよびBitplane SS Imaris 5.7.2ソフトウェアを用いて達成した。
【0208】
BrdU標識:BrdU(100mg/kg、Millipore)を、3日間連続して1日2回腹腔内注射した。マウスを5日後に屠殺し、PBSおよびPBS中4%パラホルムアルデヒドで心臓を通して灌流した。脳および小腸をパラフィン包埋し、厚さ10mmの正面部を、BrdU免疫組織化学キット(Chemicon、Cat No.2760)を使用して、BrdU免疫組織化学検出のために処理し、小腸部分は、対照として使用した。
【0209】
チミジンキナーゼシーケンシング:PFA固定パラフィン包埋組織から、製造者の指示(高純度FFPE RNAマイクロキット、Roche)に従って、全RNAを抽出し、精製し、PSC移植および後期ガンシクロビル処置によって誘導された奇形腫領域の範囲を定めた(IG.7)。典型的には、ホルマリン固定組織から単離されたRNAは断片化され、得られたRNAの大部分は、約200塩基の長さである。DNase処置後、CDNA合成を、抽出されたRNAプールから実施する(Takara)。奇形腫内で発現したチミジンキナーゼ遺伝子を、チミジン配列(1162bp)に沿った異なる重複プライマーセットを使用することによって増幅した。PCR反応は、95℃で30秒、58℃で30秒、および72℃で1分の35サイクルの間、プルーフリーディングtaqポリメラーゼ(Q5高フィデリティー、NEB)を用いて行う。断片1についてのプライマーは、フォワードF5’-GAGCGGTGGTTCGACAAGTGG-3’(配列番号1)およびリバースR5’-CCTCAGCAGGGTTGGCATC-3’(配列番号2)、断片2については、F5’-GATGCCAACCCTGCTGAGG-3’(配列番号3)およびR5’-GTCCAGCCTGTGCTGGGTG-3’(配列番号4)、断片3については、F5’-CACCCAGCACAGGCTGGAC-3’(配列番号5)およびR5’-CAGGGCCACAAAAGCCAGCAC-3’(配列番号6)、断片4については、F5’-GTGCTGGCTTTTGTGGCCCTG-3’(配列番号7)およびR5’-CCAGAGAGCTGTCCCCAGTC-3’(配列番号8)、断片5については、F5’-GTCCCCTGCTGGATGCAGAG-3’(配列番号9)およびR5’-CTC TGC ATCCAGCAGGGGAC-3’(配列番号10)であった。断片1~5は、直接シーケンシングを行ったか、またはtopoTAクローニングキット(Invitrogen)にサブクローニングした後、異なる細菌クローン(Microsynth、AG)のシーケンシングを行った。
* * *
【0210】
本明細書で開示され、請求される方法は全て、本開示に照らして、過度の実験なしに作製および実行することができる。本発明の組成物および方法を、好ましい実施形態の観点で説明してきたが、本発明の概念、趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載の方法および方法のステップまたはステップの順序に変更を加えてもよいことは当業者に明らかである。より詳細には、化学的かつ生理学的に関連するある特定の薬剤は、同じまたは同様の結果が達成される限り、本明細書に記載の薬剤に置き換えられ得ることが明らかであろう。当業者に明らかな全てのそのような同様の置き換えおよび修正は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨、範囲および概念内にあるものとみなされる。
参考文献:
以下の参考文献は、例示的な手順の詳細または本明細書に記載されたものに補足的な他の詳細を提供する程度で、参照により本明細書で具体的に組み込まれる。
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