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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】二次電池及び二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20220705BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20220705BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220705BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20220705BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20220705BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20220705BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/04 Z
H01M4/13
H01M4/02 Z
H01M4/04 A
H01M4/139
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019096039
(22)【出願日】2019-05-22
(65)【公開番号】P2020191239
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2021-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107249
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 恭久
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼士 祐輔
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-039041(JP,A)
【文献】特開2016-072015(JP,A)
【文献】特表2016-501423(JP,A)
【文献】特表2015-529954(JP,A)
【文献】特表2014-532262(JP,A)
【文献】特開2012-054003(JP,A)
【文献】特開2006-139994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0585
H01M 10/04
H01M 4/13
H01M 4/02
H01M 4/04
H01M 4/139
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4辺の外周辺を備えた矩形状の第1電極板と、前記第1電極板と電気的に対となる4辺の外周辺を備えた矩形状の第2電極板とがセパレータを介して交互に積層された極板群を有する二次電池であって、
前記第1電極板は、第1基材の一部に第1電極合材層を有するとともに、前記第1電極板の上端に延出された第1集電タブを有し、
前記第2電極板は、第2基材の一部に第2電極合材層を有するとともに、前記第2電極板の上端に延出された第2集電タブを有し、
前記第1基材の板面は、前記第2基材の板面よりも広く、
前記第2電極板を挟む2つの前記第1電極板は、面方向に沿って上下に偏倚して積層されることで積層方向に不一致となる非対応範囲を有するとともに、前記2つの前記第1電極合材層が前記積層方向に一致する重複範囲中に前記2つの前記第1電極板に挟まれる前記第2電極板の前記第2電極合材層の全範囲が含まれる
二次電池。
【請求項2】
3つ以上の前記第1電極板は、前記積層方向から見たとき、各前記第1電極板が同じ方向にずれて偏倚している
請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記第1電極板が負極板であり、
前記第2電極板が正極板である
請求項1又は2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記第1電極板を挟む2つの前記セパレータは、各外辺が前記積層方向に揃うように積層されている
請求項1~3のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項5】
前記第1電極板を挟む2つの前記セパレータは、前記積層方向に不一致となる非対応範囲を有するように表面が面方向に偏倚して積層されている
請求項1~3のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項6】
前記極板群は、前記積層方向の中央から端部に位置する前記第1電極板が同じ方向にずれて偏倚している
請求項1~5のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項7】
4辺の外周辺を備えた矩形状の第1電極板と、前記第1電極板と電気的に対となる4辺の外周辺を備えた矩形状の第2電極板とがセパレータを介して交互に積層された極板群を有する二次電池の製造方法であって、
前記第1電極板は、第1基材の一部に第1電極合材層を有するとともに、前記第1電極板の上端に延出された第1集電タブを有し、
前記第2電極板は、第2基材の一部に第2電極合材層を有するとともに、前記第2電極板の上端に延出された第2集電タブを有し、
前記第1電極板の板面は、前記第2電極板の板面よりも広く、
前記第2電極板を挟む2つの前記第1電極板を、前記2つの前記第1電極合材層が積層方向に一致する重複範囲中に前記2つの前記第1電極板に挟まれる前記第2電極板の前記第2電極合材層の全範囲を含むようにしつつ、面方向に沿って上下に偏倚させて積層することで前記積層方向に不一致となる非対応範囲を設ける積層工程を備える
二次電池の製造方法。
【請求項8】
前記積層工程はさらに、前記第2電極板、及び、前記セパレータの少なくとも一方を前記2つの前記第1電極板と同じ方向に偏倚させて積層する
請求項7に記載の二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充放電により発熱する二次電池及び二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、携帯用の電子機器の電源として、また、電気自動車やハイブリッド自動車などの電源として、リチウムイオン二次電池等の二次電池が用いられている。例えば、リチウムイオン二次電池は、正極板と負極板とがセパレータを介して複数枚積層された極板群を、リチウム含有電解質を含む非水系電解液とともに電池ケースに収納して構成される。
【0003】
こうした、二次電池は、環境温度が高くなることで放熱性が低下したり、大電流での充放電によって発熱量が増加したりすることで電池温度が上昇すると電池性能が低下する。そこで、放熱性の高められた二次電池の一例が特許文献1に記載されている。
【0004】
特許文献1に記載の二次電池は、積層型電池であって、正極板と負極板とがセパレータを介して交互に積層されて構成される極板群(電極積層体)を有している。電池ケース(外装)は、この極板群とともに電解液(電解質)を密封して収納する。極板群は、積層方向において上面側と下面側とを貫通する貫通部を備えている。電池ケースは、収納する極板群の貫通部と対応した位置に、この貫通部の貫通方向へと窪んだ凹部を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-18917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、車両駆動用の電源は、電池性能として、電池容量の維持・拡大とともに、利用環境の拡大や、大きな充放電が可能であることが求められている。
特許文献1に記載の二次電池等は、放熱性が高められるが、極板群に設けられた貫通孔による電極合材の減少に応じて電池容量が低下するおそれがある。一方、二次電池等は、電池容量を維持させるために貫通孔を小さくしたり、減らしたりすると、放熱性が低下して電池温度の上昇が大きくなり電池性能が低下するおそれがある。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、電池容量を維持しつつ、電池温度の上昇による電池性能の低下を抑制可能な二次電池及び二次電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する二次電池は、第1電極板と、前記第1電極板と電気的に対となる第2電極板とがセパレータを介して交互に積層された極板群を有する二次電池であって、前記第1電極板は、第1基材の一部に第1電極合材層を有し、前記第2電極板は、第2基材の一部に第2電極合材層を有し、前記第1基材の板面は、前記第2基材の板面よりも広く、前記第2電極板を挟む2つの前記第1電極板は、面方向に偏倚して積層されることで積層方向に不一致となる非対応範囲を有するとともに、前記2つの前記第1電極合材層が前記積層方向に一致する重複範囲中に前記2つの前記第1電極板に挟まれる前記第2電極板の前記第2電極合材層の全範囲が含まれる。
【0009】
上記課題を解決する二次電池の製造方法は、第1電極板と、前記第1電極板と電気的に対となる第2電極板とがセパレータを介して交互に積層された極板群を有する二次電池の製造方法であって、前記第1電極板は、第1基材の一部に第1電極合材層を有し、前記第2電極板は、第2基材の一部に第2電極合材層を有し、前記第1電極板の板面は、前記第2電極板の板面よりも広く、前記第2電極板を挟む2つの前記第1電極板を、前記2つの前記第1電極合材層が積層方向に一致する重複範囲中に前記2つの前記第1電極板に挟まれる前記第2電極板の前記第2電極合材層の全範囲を含むようにしつつ、面方向に偏倚させて積層することで前記積層方向に不一致となる非対応範囲を設ける積層工程を備える。
【0010】
通常、極板群において、第1電極板等は外周が積層方向に揃うように積層されることにより、積層方向に略真っ直ぐに積み重ねられる。
これに対し、このような構成又は方法によれば、2つの第1電極板の板面が偏倚して積層されている、つまり、横にずれて積み重ねられる。よって、隣り合う2つの第1電極板は積層方向に不一致となる非対応範囲を有する。この非対応範囲は、積層方向において、板面の少なくとも一方向が他の板面に対向していない開放された範囲となるため、他の板面に対向する範囲に比べて高い放熱性能を有するようになる。よって、電池容量を維持しつつ、電池温度の上昇による電池性能の低下を抑制可能になる。
【0011】
また、2つの第1電極板が横にずれて積層されたとしても、その間に挟まれる第2電極板の第2電極合材層の全範囲が、両方の第1電極板の第1電極合材層に対向するため、第1電極板と第2電極板との間で、従来と同様のイオン移動が可能であるため、電池性能が低下するおそれもない。
【0012】
好ましい構成として、3つ以上の前記第1電極板は、前記積層方向から見たとき、各前記第1電極板が同じ方向にずれて偏倚している。
このような構成によれば、複数の第1電極板が積層方向から見て一定方向にずれて偏倚する。つまり、第1電極板が横ずれを有してずれて積み重ねられる。これにより、各第1電極板に非対応範囲が確保されて電池温度の上昇が抑えられる。
【0013】
好ましい構成として、前記第1電極板が負極板であり、前記第2電極板が正極板である。
このような構成によれば、正極板よりも負極板が大きい二次電池において、負極板による放熱性が高められるようになる。
【0014】
好ましい構成として、前記第1電極板を挟む2つの前記セパレータは、各外辺が前記積層方向に揃うように積層されている。
このような構成によれば、1つの第1電極板(例えば1つの負極板)と、2つのセパレータとを一組として扱うことができる。例えば、セパレータに収容した第1電極板を、横偏倚を有するように積層させることができる。
【0015】
好ましい構成として、前記第1電極板を挟む2つの前記セパレータは、前記積層方向に不一致となる非対応範囲を有するように表面が面方向に偏倚して積層されている。
このような構成によれば、第1電極板とともにセパレータも偏倚を有するように積層されることで、セパレータの大きさを、セパレータを挟む第1電極板と第2電極板との絶縁の確保に必要である大きさに抑えることができる。
【0016】
好ましい構成として、前記極板群は、前記積層方向の中央から端部に位置する前記第1電極板が同じ方向にずれて偏倚している。
このような構成によれば、極板群が中央から両端にそれぞれ同じ方向に偏倚するかたち、いわゆるV字状になる。これにより、極板群の有する偏倚量が中央から端部までの積算となるため、一方の端部から他方の端部に向かって連続する偏倚の積算よりも偏倚量を抑えられるとともに、放熱性能を確保することができる。
【0017】
好ましい方法として、前記積層工程はさらに、前記第2電極板、及び、前記セパレータの少なくとも一方を前記2つの前記第1電極板と同じ方向に偏倚させて積層する。
このような方法によれば、第2電極板及びセパレータの少なくとも一方が第1電極板と同じ方向に偏倚することから、複数の第1電極板を、偏倚を有するように積層させることが容易である。また、積層された極板群の端部の積層方向に対する傾きがなだらかになる。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、電池容量を維持しつつ、電池温度の上昇による電池性能の低下を抑制可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】二次電池を具体化した一実施形態について、その斜視構造の概略を示す図。
図2】同実施形態における極板群の構造を説明する模式図。
図3】同実施形態における二次電池の図1の3-3切断線における断面図。
図4】同実施形態における極板群の構造を説明する図3の部分断面図。
図5】同実施形態における極板群の放熱性能を示す図。
図6】同実施形態における極板群の放熱性能の測定を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1図6を参照して、二次電池の一実施形態について説明する。以下では、二次電池をリチウムイオン二次電池に具体化した例について説明する。
図1に示すように、二次電池11は、開口部を有するケース12と、ケース12の開口部を封止する蓋部13とを備える。ケース12及び蓋部13が電池ケースを構成する。ケース12及び蓋部13は、金属材料から形成されている。蓋部13には、正極端子21を含む正極集電部20と、負極端子31を含む負極集電部30とが設けられている。ケース12には、直方体状の極板群14及び電解液が収納されている。蓋部13には、電池ケースの内圧に応じて電池ケース内の気体を放出する放出部32と、電解液を注入する注入孔33とが設けられている。
【0021】
図2に示すように、極板群14は、複数の正極板15と複数の負極板16とが、セパレータ17を介して交互に積層された積層体である。負極板16が第1電極板を構成し、正極板15が負極板16と電気的に対となる第2電極板を構成する。
【0022】
正極板15は、矩形状であって4辺の外周辺を有しているとともに、第2基材としての正極基材18と、正極基材18の両面の一部に設けられた第2電極合材層を構成する正極合材層19とを含む。正極基材18は、金属箔(又は薄い金属板)から形成され、長方形状(矩形状)に成形されている。正極基材18は、長辺に対応する上端及び下端のうち、上端から延出される正極タブ18A(集電タブ)を有している。正極タブ18Aには、正極合材は設けられていない。正極タブ18Aは、上端のうち、長辺の中心から、一側方(図2中左側)に向かって所定距離だけずれた位置に設けられている。
【0023】
正極基材18を構成する材料は、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金を含む。正極合材を構成する材料は、正極活物質であるリチウム含有複合酸化物や、結着剤や、導電剤等を含む。
【0024】
負極板16は、矩形状であって4辺の外周辺を有しているとともに、第1基材としての負極基材23と、負極基材23の両面の一部に設けられた第1電極合材層を構成する負極合材層24とを含む。負極基材23は、金属箔(又は薄い金属板)から形成され、長方形状(矩形状)に成形されている。負極基材23は、長辺に対応する上端及び下端のうち、上端から延出される負極タブ23A(集電タブ)を有している。負極タブ23Aには、負極合材は設けられていない。負極タブ23Aは、上端のうち、長辺の中心から、他側方(図2中右側)に向かって所定距離だけずれた位置に設けられている。
【0025】
負極基材23を構成する材料は、例えば、銅やニッケルを含む。負極合材を構成する材料は、負極活物質を含む粒子や、結着剤や、導電剤等を含む。負極活物質は、リチウムを吸蔵・放出可能な材料であり、例えば、黒鉛などの炭素、金属リチウム、リチウム合金である。
【0026】
正極板15は、正極タブ18Aの位置を揃えた状態で積層される。つまり、正極タブ18Aが、正極基材18の上端であって且つ幅方向の中央から一側方に寄った位置に配置するように重ねられる。よって、複数の正極板15の正極タブ18Aは、束状に集められて、正極タブ群を構成する。
【0027】
負極板16は、負極タブ23Aの位置を揃えた状態で積層される。つまり、負極タブ23Aが、負極基材23の上端であって且つ幅方向の中央から他側方に寄った位置に配置するように重ねられる。よって、複数の負極板16の負極タブ23Aは、束状に集められて、負極タブ群を構成する。
【0028】
このように、正極タブ群及び負極タブ群を極板群14の同じ端部に位置させることにより、捲回型の電極体のように集電タブを異なる端部にそれぞれ設けるよりも、正極タブ群及び負極タブ群が占有するスペースを縮小することができる。なお、極板群14には、正極タブ群及び負極タブ群は含まれない。
【0029】
また、負極板16の板面は、正極板15の板面よりも広い。よって、負極基材23は、正極基材18よりも大きい外形を有している。また、負極合材層24は、正極合材層19よりも広い。
【0030】
セパレータ17は、絶縁材料からなる矩形状のシートからなる膜であり、4辺の外周辺を有しているとともに、正極板15及び負極板16よりも大きい外形を有している。セパレータ17は、正極板15及び負極板16の間に電解液を保持するための多孔性ポリオレフィン膜、及び多孔性ポリ塩化ビニル膜等の多孔性ポリマー膜、又は、リチウムイオンもしくはイオン導電性ポリマー電解質膜を、単独、又は組み合わせて使用することもできる。セパレータ17は、極板群14のうち積層方向における最前の層と最後の層にも配置される。
【0031】
電解液は、リチウム含有電解質を含む非水系電解液であって、非水溶媒に支持塩が含有された組成物である。非水溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)等を用いることができる。支持塩としては、LiPF等のリチウム化合物(リチウム塩)を用いることができる。
【0032】
図3及び図4を参照して、極板群14の構造について説明する。なお、図3及び図4では、図示の便宜上、正極板15とセパレータ17との間、及び、負極板16とセパレータ17との間にそれぞれ空間が設けられているが、極板群14として積層された正極板15とセパレータ17と、及び、負極板16とセパレータ17とはそれぞれ接している。
【0033】
図3に示すように、極板群14は、積層方向断面において、下側にケース12の底面121に対向する下端部141を備え、上側に蓋部13に対向する上端部145を備える。下端部141は、積層方向の中央BCに最下点142を有し、中央BCから積層方向の端部に向かって上がる形状L11,L12、いわゆるV字形状を有している。同様に、上端部145は、積層方向の中央BCに最下点146を有し、中央BCから積層方向の端部に向かって上がる形状L21,L22、いわゆるV字形状を有している。つまり、極板群14を構成する正極板15や負極板16、セパレータ17は、上方を板面方向に所定のずれ量だけ偏倚して積層されている。また、極板群14の中央BCから積層方向の端部の間では、変位する方向が同じ方向であるとともに、隣接する2つの負極板16の偏倚量、隣接する2つの正極板15の偏倚量、及び隣接する2つのセパレータ17の偏倚量が同じである。
【0034】
例えば、二次電池11の製造工程では、正極板15を挟むように2つの負極板16を積層させることで極板群14が製造される(積層工程)。
詳述すると、積層工程では、正極板15を挟む2つの負極板16を、2つの負極合材層24が積層方向に一致する重複範囲を有するように偏倚させて積層する。また、重複範囲中には、2つの負極板16に挟まれる正極板15の正極合材層19の全範囲を含むようにする。これにより、2つの負極板16で積層方向に不一致となる非対応範囲を設ける。非対応範囲は、負極基材23のうち負極合材層24の設けられていない部分であると好ましい。
【0035】
また、この積層工程では、正極板15及びセパレータ17を、2つの負極板16と同じ方向に偏倚させて積層する。
図4は、極板群14の一部を拡大したものである。説明の便宜上、図4の左から右方向へ順に、第1正極板151、第1セパレータ171、第1負極板161、第2セパレータ172、第2正極板152、第3セパレータ173、第2負極板162とする。よって、第1セパレータ171を介して第1正極板151と第1負極板161とが積層され、第2セパレータ172を介して第1負極板161と第2正極板152とが積層され、第3セパレータ173を介して第2正極板152と第2負極板162とが積層されている。例えば、極板群14は、2つの負極板16としての第1負極板161及び第2負極板162が、第2正極板152を挟む構造を有している。
【0036】
第1正極板151及び第2正極板152は、ラインL12Pに沿う下端の配置位置と、ラインL22Pに沿う上端の配置位置とを有する。ラインL12Pは、極板群14の下端部141に平行、かつ、上方に設けられている。ラインL22Pは、極板群14の上端部145に平行、かつ、下方に設けられている。第1正極板151と第2正極板152とは、縦方向に同じ長さである。つまり、第2正極板152の下端P12が第1正極板151の下端P11に対して正極ずれ量PSだけ上方にずれて積層されている。同様に、第2正極板152の上端P22が第1正極板151の上端P21に対して正極ずれ量PSだけ上方にずれて積層されている。
【0037】
第1負極板161及び第2負極板162は、ラインL12Mに沿う下端の配置位置と、ラインL22Mに沿う上端の配置位置とを有する。ラインL12Mは、極板群14の下端部141に平行、かつ、上方に設けられている。ラインL22Mは、極板群14の上端部145に平行、かつ、下方に設けられている。第1負極板161と第2負極板162とは、縦方向に同じ長さである。つまり、第2負極板162の下端M12が第1負極板161の下端M11に対して負極ずれ量MSだけ上方にずれて積層されている。同様に、第2負極板162の上端M22が第1負極板161の上端M21に対して負極ずれ量MSだけ上方にずれて積層されている。
【0038】
なお、負極ずれ量MSは、正極ずれ量PSと同じである。
第1負極板161は、下端右側が右隣の第2負極板162の下端に対して負極ずれ量MSだけずれているとともに、右にある他の負極板16の下端にも積層方向に重ならない。よって、第1負極板161は、下端に負極ずれ量MSに対応する非対応範囲を有する。第2負極板162の下端についても同様に非対応範囲が設けられている。非対応範囲は、2つの第1負極板161及び第2負極板162の間において、偏倚して積層されることで積層方向に不一致となる範囲である。
【0039】
第2負極板162は、上端左側が左隣の第1負極板161の上端に対して負極ずれ量MSだけずれているとともに、左にある他の負極板16の上端にも積層方向に重ならない。よって、第2負極板162は、上端に負極ずれ量MSに対応する非対応範囲を有する。第1負極板161の上端についても同様に非対応範囲が設けられている。
【0040】
ところで、非対応範囲は、第1負極板161や第2負極板162の板面の少なくとも一方向が他の負極板16の板面に対向していない開放された範囲となる。開放された範囲は、両面が他の負極板16の板面に対向している開放されていない範囲に比べて高い放熱性能を有する。
【0041】
また、極板群14は、第1負極板161の負極合材層24及び第2負極板162の負極合材層24が積層方向に一致する重複範囲を有する。また、極板群14は、この積層方向に一致する重複範囲中に、第1負極板161及び第2負極板162に挟まれる第2正極板152の正極合材層19の全範囲が含まれている。
【0042】
第1セパレータ171~第3セパレータ173は、下端の配置位置が極板群14の下端部141の形状L12に沿い、上端の配置位置が極板群14の上端部145の形状L22に沿う。第1セパレータ171~第3セパレータ173は、縦方向に同じ長さである。つまり、第2セパレータ172が第1セパレータ171に対してセパレータずれ量SS1だけ上方にずれて積層されているとともに、第3セパレータ173が第2セパレータ172に対してセパレータずれ量SS2だけ上方にずれて積層されている。第1セパレータ171の下端のセパレータずれ量SS1が非対応範囲を構成し、第2セパレータ172の下端のセパレータずれ量SS2が非対応範囲を構成する。ここでの非対応範囲は、2つのセパレータ17の間において、偏倚して積層されることで積層方向に不一致となる範囲である。
【0043】
セパレータずれ量SS1とセパレータずれ量SS2とを加算した長さは、正極ずれ量PSや負極ずれ量MSと同じ長さである。例えば、セパレータずれ量SS1の長さとセパレータずれ量SS2の長さとの比が1:1であれば、それぞれが正極ずれ量PSの半分の長さである。なお、セパレータずれ量SS1の長さとセパレータずれ量SS2の長さとの比は、正極板15の厚さと負極板16の厚さとの比を考慮して変更してもよい。
【0044】
図5及び図6を参照して、極板群14の温度について説明する。
極板群14は、充放電によって温度が上昇するが、放熱性能が高ければ温度が低く維持され、放熱性能が低ければ温度が高く維持される。このとき、極板群14の放熱性能が、第1負極板161や第2負極板162が積層されたときの偏倚量、いわゆる、ずらし幅によって変化することが見出された。
【0045】
図4に示すように、ずらし幅は、負極ずれ量MSに対応し、放熱性能が高く確保される負極板16の非対応範囲の広さを規定する。極板群14は、ずらし幅が大きくなれば、非対応範囲が広くなることに応じて放熱性能が高くなり、逆に、ずらし幅が小さくなれば、非対応範囲が狭くなることに応じて放熱性能が低くなる。
【0046】
図5を参照して、ずらし幅が「0mm」のとき、負極板16を偏倚させずに積層させた極板群14であり、いわゆる従来の極板群14である。ずらし幅が「0mm」である負極板16は、負極板16の下端や上端が積層方向に揃っている。ずらし幅が「0.5mm」のとき、負極板16が「0.5mm」ずつ偏倚して積層された極板群14であり、負極板16の下端や上端が板面方向に「0.5mm」ずつ偏倚している。ずらし幅が「1.0mm」のとき、負極板16が「1.0mm」ずつ偏倚して積層された極板群14であり、負極板16の下端や上端が板面方向に「1.0mm」ずつ偏倚している。
【0047】
そして、ずらし幅の相違する各極板群14について、高温環境に保管した後、低温環境に所定時間おいた後の温度の測定結果を得た。
図5に示すように、「15分後温度」の温度測定結果として、ずらし幅が「0mm」のとき、「35.2℃」、ずらし幅が「0.5mm」のとき、「34.6℃」、ずらし幅が「1.0mm」のとき、「34.1℃」が得られた。
【0048】
これによれば、「15分後温度」は、ずらし幅「0.5mm」のとき、ずらし幅「0mm」に対して「0.6℃」低くなり、相対温度差に対して「2%」の温度低下となった。換言すると、放熱性能が相対温度差に対して「2%」高くなった。
【0049】
また、「15分後温度」は、ずらし幅「1.0mm」のとき、ずらし幅「0mm」に対して「1.1℃」低くなり、相対温度差に対して「3.7%」の温度低下となった。換言すると、放熱性能が相対温度差に対して「3.7%」高くなった。
【0050】
図6を参照して、測定方法について詳述する。
1枚の負極板16の左右に、それぞれ一組の極板を配置して温度測定用の極板群14を作成した。なお一組の極板とは、セパレータ17、正極板15、セパレータ17、及び負極板16を積層させたものである。
【0051】
そして、温度測定用の極板群14をナイロン袋40に収容する。ナイロン袋40に収容した温度測定用の極板群14を、まず、55℃の恒温槽50内で30分間にわたって保管した。続いて、相対温度差が30℃である25℃の恒温槽50内で15分後にわたって保管したときの温度を、温度測定用の極板群14の積層方向中央36で測定し、これを温度測定結果として得た。
【0052】
本実施形態の効果について説明する。
(1)2つの負極板16の板面が偏倚して積層されている、つまり、横にずれて積み重ねられる。よって、隣り合う2つの負極板16は積層方向に不一致となる非対応範囲を有する。この非対応範囲は、積層方向において、板面の少なくとも一方向が他の板面に対向していない開放された範囲となるため、他の板面に対向する範囲に比べて高い放熱性能を有する。よって、電池容量を維持しつつ、電池温度の上昇による電池性能の低下を抑制可能になる。
【0053】
また、2つの負極板16が横にずれて積層されたとしても、その間に挟まれる正極板15の正極合材層19の全範囲が、両方の負極板16の負極合材層24に対向するため、負極板16と正極板15との間で、従来と同様のイオン移動が可能であるため、電池性能が低下するおそれもない。
【0054】
(2)複数の負極板16が積層方向から見て一定方向にずれて偏倚する。つまり、負極板16が横ずれを有してずれて積み重ねられる。これにより、各負極板16に非対応範囲が確保されて電池温度の上昇が抑えられる。
【0055】
(3)正極板15よりも負極板16が大きい二次電池11において、負極板16による放熱性が高められるようになる。
(4)負極板16とともにセパレータ17も偏倚を有するように積層されることで、セパレータ17の大きさを、セパレータ17を挟む負極板16と正極板15との絶縁の確保に必要である大きさに抑えることができる。
【0056】
(5)極板群14が、中央BCから両端にそれぞれ同じ方向に偏倚するかたち、いわゆるV字状になる。これにより、極板群14の有する偏倚量が中央BCから端部までの積算となるため、一方の端部から他方の端部に向かって連続する偏倚の積算よりも偏倚量を抑えられるとともに、放熱性能を確保することができる。
【0057】
(6)正極板15及びセパレータ17の少なくとも一方が負極板16と同じ方向に偏倚することから、複数の負極板16を、偏倚を有するように積層させることが容易である。また、積層された極板群14の端部の積層方向に対する傾きがなだらかになる。
【0058】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、積層工程では、正極板15、及び、セパレータ17を2つの負極板16と同じ方向に偏倚させて積層する場合について例示した。しかしこれに限らず、正極板、及び、セパレータの少なくとも一方が積層されるとき、一部の積層で負極板と同じ方向に偏倚されない場合があってもよい。
【0059】
・上記実施形態では、極板群14が積層方向の中央BCから端部に向かって負極板16が上方に偏倚している場合について例示した。しかしこれに限らず、極板群が積層方向の一方の端部から他方の端部に向かって負極板が上方に偏倚してもよい。
【0060】
・上記実施形態では、極板群14が積層方向の中央BCから端部に向かって負極板16が上向に偏倚している場合について例示した。しかしこれに限らず、極板群は、中央から端部の間で負極板の偏倚する方向が1回以上変化してもよい。例えば、極板群は、中央から端部の間で下端部の形状が上下方向にぎざぎざになってもよい。
【0061】
・上記実施形態では、第1セパレータ171~第3セパレータ173は下端の配置位置が極板群14の下端部141の形状L12に沿っている場合について例示した。しかし、これに限らず、負極板を挟む2つのセパレータは、相互に偏倚していないため、当該負極板を挟んだ外辺が積層方向に揃う態様で積層されていてもよい。このとき、負極板を挟む2つのセパレータは非対応範囲を有さない一方、隣の負極板を挟む2つのセパレータとの間には、2つの負極板が有している負極ずれ量に対応する非対応範囲を有するようになる。
【0062】
これにより、1つの電極板(例えば1つの負極板)と、2つのセパレータとを一組として扱うことができる。例えば、袋状のセパレータに収容した負極板を、負極板の位置を基準として偏倚を有するように積層させることができる。
【0063】
・上記実施形態では、負極板16が第1電極板を構成し、正極板15が第2電極板を構成する場合について例示した。しかし、これに限らず、負極板の板面よりも正極板の板面が広ければ、第1電極板が正極板であって、第2電極板が負極板であってもよい。
【0064】
・上記実施形態では、複数の負極板16が同じ負極ずれ量MSで偏倚している場合について例示した。しかしこれに限らず、適切な放熱性能が得られるのであれば、負極ずれ量が積層方向の位置に応じて相違していてもよい。
【0065】
・上記実施形態では、極板群14の下端部141の全域で負極板16が偏倚して積層されている場合について例示した。しかしこれに限らず、極板群の下端部の一部の範囲で負極板が偏倚してもよい。これによっても、極板群からの放熱性能が高められる。例えば、熱の放熱しづらい中央部を偏倚させるようにしてもよい。
【0066】
・極合剤は、基材の少なくとも一つの面に位置すればよく、基材の片面のみに位置することも可能である。
・上記実施形態では、正極板15、負極板16、及びセパレータ17が長方形状である場合について例示した。しかしこれに限らず、正極板、負極板、及びセパレータは、二次電池の電極板を構成することができればよく、正方形状等のその他の矩形状であってもよい。
【0067】
・正極タブ18Aや負極タブ23Aの形状は、非水系電池の形状などに応じて適宜設定されるものであり、他の形状に変更可能である。
・上記実施形態では、二次電池11を、ケース12内に1つの極板群14を有する構造としたが、ケース12内に複数の極板群を有する構造としてもよい。例えば複数の極板群は、ケース12内で直列に接続される。
【0068】
・上記実施形態では、二次電池11がリチウムイオン二次電池である場合について例示した。しかし、これに限らず、二次電池は、その他の非水系電解質の二次電池であってもよいし、ニッケル水素二次電池等の水系電解質の二次電池であってもよい。例えばニッケル水素二次電池は、ニッケル金属等からなる基材に水酸化ニッケル等を含む正極合剤を備えた正極板と、金属材からなる基材に水素吸蔵合金を含む負極合剤を備えた負極板とをセパレータを介して積層した極板群を有する。
【0069】
・二次電池11は、電気自動車、ハイブリッド自動車、ガソリン自動車やディーゼル自動車等の車両やその他の移動体に用いられてもよい。又は、固定設置されてもよい。
【符号の説明】
【0070】
11…二次電池、12…ケース、13…蓋部、14…極板群、15…正極板、16…負極板、17…セパレータ、18…正極基材、18A…正極タブ、19…正極合材層、20…正極集電部、21…正極端子、23…負極基材、23A…負極タブ、24…負極合材層、30…負極集電部、31…負極端子、32…放出部、33…注入孔、36…積層方向中央、40…ナイロン袋、50…恒温槽、121…底面、141…下端部、142…最下点、145…上端部、146…最下点、151…第1正極板、152…第2正極板、161…第1負極板、162…第2負極板、171…第1セパレータ、172…第2セパレータ、173…第3セパレータ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6