(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】薄膜高分子積層コンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 4/32 20060101AFI20220705BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
H01G4/32 551A
H01G4/30 201C
H01G4/30 201D
H01G4/30 160
H01G4/30 201F
H01G4/32 573
H01G4/32 511D
H01G4/30 201L
H01G4/32 511L
H01G4/32 511A
(21)【出願番号】P 2019134860
(22)【出願日】2019-07-22
【審査請求日】2020-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】591040373
【氏名又は名称】ルビコン電子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000190091
【氏名又は名称】ルビコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】特許業務法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】加古 智直
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 千治
【審査官】上谷 奈那
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/068758(WO,A1)
【文献】特開平10-261541(JP,A)
【文献】特開平11-186097(JP,A)
【文献】国際公開第2018/231846(WO,A1)
【文献】特開2008-294431(JP,A)
【文献】特開2013-219094(JP,A)
【文献】特開昭62-245617(JP,A)
【文献】特開2016-207823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/32
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内で回転ドラムを周方向に回転させながら前記回転ドラムの外周上に誘電体層と内部電極層とを交互に積層し接合して第1積層体を製造する第1積層体製造プロセス
と、前記第1積層体におけるエッジ領域になる部分を各々分断し、分断した前記エッジ領域になる部分を一端側と他端側とに配設した第2積層体にする条切断プロセスと、を有しており、前記第1積層体製造プロセスは、モノマを蒸着してモノマ層を形成し電子線を照射することで前記誘電体層を形成し、形成した前記誘電体層にオイルを塗布し、
前記オイルを塗布した前記誘電体層に第1金属を蒸着
することで前記内部電極層における第1金属層を形成
するとともにインナーマージン部を形成し、形成した前記第1金属層に第2金属を蒸着して
前記内部電極層における第2金属層を形成する薄膜高分子積層コンデンサの製造方法であって、前記第1積層体製造プロセスにおいて、
前記真空チャンバ内で前記第2金属を蒸着するための第2金属蒸着源と前記回転ドラムとの間の位置に蒸着用マスクを配設してコンデンサ機能領域を形成するための
第1領域になる部分を遮蔽することで、前記インナーマージン部を形成した前記第1領域になる部分と、
前記第2金属層を蒸着形成したヘビーエッジ
を有する
前記エッジ領域になる部分と
、を連続的に形成すること
を特徴とする薄膜高分子積層コンデンサの製造方法。
【請求項2】
前記第1積層体製造プロセスにおいて、前記コンデンサ機能領域を形成するための前記第1領域になる部分を各層一定の幅に
形成し、且つ、前記ヘビーエッジを形成するための前記エッジ領域になる部分を積層するにしたがって各層における前記一端側に接続されるものと前記他端側に接続されるものとの間隔が大きくなるように形成すること
を特徴とする請求項
1記載の薄膜高分子積層コンデンサの製造方法。
【請求項3】
前記条切断プロセスの後
に、
前記一端側に接する
第1側面部と
前記他端側に接する
第2側面部とに
それぞれ第1外部電極層を形成して第3積層体とし、その後、前記第3積層体に形成された前記第1外部電極層に
それぞれ第2外部電極層を形成して第4積層体にする外部電極形成プロセスと、前記外部電極形成プロセスの後
に、前記第4積層体を分断しチップ状の積層体にするチップ切断プロセスとを有すること
を特徴とする請求項
1または2記載の薄膜高分子積層コンデンサの製造方法。
【請求項4】
前記第1金属はアルミニウムまたはアルミニウム合金であるとともに、前記第2金属はアルミニウムまたはアルミニウム合金または亜鉛または亜鉛合金であって、前記第1積層体製造プロセスにおいて、前記第1金属層の電極抵抗値を4Ω/□超かつ45Ω/□未満にするとともに、前記ヘビーエッジの電極抵抗値を20Ω/□未満にすること
を特徴とする請求項1~3のいずれか一項記載の薄膜高分子積層コンデンサの製造方法。
【請求項5】
前記第1金属はアルミニウムまたはアルミニウム合金であるとともに、前記第2金属はアルミニウムまたはアルミニウム合金または亜鉛または亜鉛合金であって、前記第1積層体製造プロセスにおいて、前記第1金属層の電極抵抗値を30Ω/□超にするとともに、前記ヘビーエッジの電極抵抗値を20Ω/□未満にすること
を特徴とする請求項1~3のいずれか一項記載の薄膜高分子積層コンデンサの製造方法。
【請求項6】
前記第1積層体製造プロセスにおいて、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレートまたはトリシクロデカンジメタノールジアクリレートのいずれか一種以上を前記モノマとして蒸着すること
を特徴とする請求項1~5のいずれか一項記載の薄膜高分子積層コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜高分子積層コンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜高分子積層コンデンサは、誘電体層と内部電極層とを真空中で連続蒸着することによって極めて層間密着性に優れた積層体を形成し、非常に優れた低歪み特性を有している。また、積層体の一端側と他端側にそれぞれ外部電極が形成された構造によって、はんだ実装に対応できるとともに、小型軽量かつ大容量になる。商品化されている薄膜高分子積層コンデンサとしては、例えばPMLCAP(登録商標)が知られている。
【0003】
従来、内部電極層のエッジ部の厚みを大きくしたヘビーエッジ構造のモノリシックキャパシタが提案されている(特許文献1:特開昭62-245617号公報)。また、真空チャンバ内で周回する支持体上に樹脂層と金属薄膜層とを交互に形成して積層体を製造する構成とし、樹脂層上にオイルマージン部を形成することによって金属薄膜層を所定の形状にパターニングする製造方法(製造装置)が提案されている(特許文献2:特開2000-294449号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭62-245617号公報
【文献】特開2000-294449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、シャドーマスクの開口を延ばすことにより、各ストリップの中央部(ヘビーエッジとなる部分)により多くのアルミニウムを蒸着させて蒸着金属厚みを厚くすることができると記述されている。しかし、本願発明者の研究によって、蒸着用マスクのスリット中央部の開口を周方向と直交方向に拡大すると、内部電極層を形成する蒸着金属厚みは厚くなる反面、積層するにしたがって蒸着金属が蒸着用マスクのスリット境界部に堆積してスリットの開口幅が狭くなってゆくので、積層するにしたがってコンデンサ領域の蒸着金属幅が狭くなってしまう。その結果、静電容量が小さくなってしまう、という問題が新たに判明した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、ヘビーエッジ構造によって外部電極との良好な接続性と良好な耐電圧特性が得られるとともに、所望の静電容量が得られる新規な構造の薄膜高分子積層コンデンサの製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
一実施形態として、以下に開示するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0010】
本発明の薄膜高分子積層コンデンサの製造方法は、真空チャンバ内で回転ドラムを周方向に回転させながら前記回転ドラムの外周上に誘電体層と内部電極層とを交互に積層し接合して第1積層体を製造する第1積層体製造プロセスと、前記第1積層体におけるエッジ領域になる部分を各々分断し、分断した前記エッジ領域になる部分を一端側と他端側とに配設した第2積層体にする条切断プロセスと、を有しており、前記第1積層体製造プロセスは、モノマを蒸着してモノマ層を形成し電子線を照射することで前記誘電体層を形成し、形成した前記誘電体層にオイルを塗布し、前記オイルを塗布した前記誘電体層に第1金属を蒸着することで前記内部電極層における第1金属層を形成するとともにインナーマージン部を形成し、形成した前記第1金属層に第2金属を蒸着して前記内部電極層における第2金属層を形成する薄膜高分子積層コンデンサの製造方法であって、前記第1積層体製造プロセスにおいて、前記真空チャンバ内で前記第2金属を蒸着するための第2金属蒸着源と前記回転ドラムとの間の位置に蒸着用マスクを配設してコンデンサ機能領域を形成するための第1領域になる部分を遮蔽することで、前記インナーマージン部を形成した前記第1領域になる部分と、前記第2金属層を蒸着形成したヘビーエッジを有する前記エッジ領域になる部分と、を連続的に形成することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、コンデンサ機能領域を形成するための第1領域になる部分をヘビーエッジ構造にするためのエッジ領域になる部分よりも薄い電極厚みで積層しながら、コンデンサ機能領域における電極厚みよりも電極厚みを厚くしたヘビーエッジを形成して積層することができる。よって、外部電極との良好な接続性と良好な耐電圧特性が得られるとともに、所望の静電容量が得られる。
【0012】
前記コンデンサ機能領域は各層一定の幅になっていることが好ましい。この構成によれば、各層におけるコンデンサ機能領域の静電容量が一定になるので、所望の静電容量を容易に得ることができる。一例として、前記第1積層体製造プロセスにおいて、前記コンデンサ機能領域を形成するための前記第1領域になる部分を各層一定の幅に形成し、且つ、前記ヘビーエッジを形成するための前記エッジ領域になる部分を積層するにしたがって各層における一端側に接続されるものと他端側に接続されるものとの間隔が大きくなるように形成する。一例として、前記条切断プロセスの後に、前記一端側に接する第1側面部と前記他端側に接する第2側面部とにそれぞれ第1外部電極層を形成して第3積層体とし、その後、前記第3積層体に形成された前記第1外部電極層にそれぞれ第2外部電極層を形成して第4積層体にする外部電極形成プロセスと、前記外部電極形成プロセスの後に、前記第4積層体を分断しチップ状の積層体にするチップ切断プロセスとを有する。
【0013】
前記第1積層体製造プロセスにおいて、前記第2金属を蒸着するための第2金属蒸着源と前記回転ドラムとの間の位置に蒸着用マスクを配設して前記第1領域になる部分を遮蔽するとともに前記エッジ領域になる部分を形成する。この構成によれば、第1領域になる部分のコンデンサ機能領域における電極厚みを薄くした各層一定の幅で積層しながら、ヘビーエッジを形成して積層することが容易にできる。一例として、前記第1金属はアルミニウムまたはアルミニウム合金であるとともに、前記第2金属はアルミニウムまたはアルミニウム合金または亜鉛または亜鉛合金である。一例として、前記第1積層体製造プロセスにおいて、前記第1金属層の電極抵抗値を4Ω/□超かつ45Ω/□未満にするとともに、前記ヘビーエッジの電極抵抗値を20Ω/□未満にする。一例として、前記第1積層体製造プロセスにおいて、前記第1金属層の電極抵抗値を30Ω/□超にするとともに、前記ヘビーエッジの電極抵抗値を20Ω/□未満にする。一例として、前記第1積層体製造プロセスにおいて、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレートまたはトリシクロデカンジメタノールジアクリレートのいずれか一種以上を前記モノマとして蒸着する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ヘビーエッジ構造の内部電極によって外部電極との良好な接続性と良好な耐電圧特性が得られるとともに所望の静電容量が得られる薄膜高分子積層コンデンサが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は本発明の実施形態の薄膜高分子積層コンデンサを示す概略の構造図である。
【
図2】
図2は本実施形態の薄膜高分子積層コンデンサの例を示す概略の断面図である。
【
図3】
図3は本実施形態の薄膜高分子積層コンデンサの他の例を示す概略の断面図である。
【
図4】
図4Aは本実施形態の薄膜高分子積層コンデンサにおける第1積層体製造装置の構成を模式的に示す構成図であり、
図4Bは
図4Aの第1積層体製造装置における蒸着用マスクを示す概略の平面図である。
【
図5】
図5Aは本実施形態に係る第1積層体製造プロセスにて誘電体層にオイルマージン部を形成して第1金属層を形成した状態を示す概略の断面図であり、
図5Bは
図5Aに続いて第2金属層を形成し内部電極層を形成した状態を示す概略の断面図であり、
図5Cは
図5Bに続いて誘電体層を形成しオイルを塗布した状態を示す概略の断面図であり、
図5Dは第1積層体製造プロセスにて第1積層体を形成した状態を示す概略の断面図である。
【
図6】
図6Aは条切断プロセスにて第2積層体になった状態を示す概略の断面図であり、
図6Bは外部電極形成プロセスにて第1外部電極が形成されて第3積層体になった状態を示す概略の断面図であり、
図6Cは外部電極形成プロセスにて第2外部電極が形成されて第4積層体になった状態を示す概略の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施形態)
先ず、本発明の実施形態に係る薄膜高分子積層コンデンサ1の構造について説明する。
図1は薄膜高分子積層コンデンサ1を示す概略の構造図であって、図中の左側は概略の斜視図であり、図中の右側の一点鎖線で囲んだ部分Gは概略の部分断面図を拡大して示している。薄膜高分子積層コンデンサ1は、薄膜高分子の誘電体層2と、誘電体層2に第1金属が蒸着形成された第1金属層3aと前記第1金属層3aに第2金属が蒸着形成された第2金属層3bとを含む内部電極層3とを交互に積層し接合したチップ状の積層体5と、積層体5における一端側と他端側とに各々形成された外部電極7とを有する。外部電極7は、一例として、第3金属が溶射されて形成された第1外部電極層7aと第4金属がめっき処理されて形成された第2外部電極層7bとを有する。
【0017】
本実施形態におけるチップ状の積層体5は、誘電体層2と内部電極層3とを交互に積層し接合した構成である。ここで「接合」は、「固着」、「結着」または「融着」と読み替えできる。また、
図1等において、薄膜高分子積層コンデンサ1の各部の位置関係を説明し易くするため、図中にX,Y,Zの矢印で向きを示している。薄膜高分子積層コンデンサ1を使用する際には、これらの向きに限定されず、どのような向きで使用しても支障ない。説明の都合上、Z方向の矢印は積層方向を示しており、X方向の矢印は幅方向を示しており、Y方向の矢印は長さ方向を示している。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0018】
図2と
図3に示すように、薄膜高分子積層コンデンサ1は、誘電体層2と第1金属層3aとから形成された第1領域4aと、第1領域4aの一方側と他方側とに各々形成されたエッジ領域4bとを有する。そして、第1領域4aにコンデンサ機能領域4cが形成されている。また、エッジ領域4bに第1金属層3aと第2金属層3bとでヘビーエッジHが形成されている。つまり、エッジ領域4bはヘビーエッジ構造の内部電極である。
【0019】
コンデンサ機能領域4cはコンデンサ機能を有している領域であり、
図2と
図3の断面視の例では、最上層の第1金属層3aにおける図中の左側のエッジ領域4bに近い外向きの端を通る積層方向のP1線と、最下層の第1金属層3aにおける図中の右側のエッジ領域4bに近い外向きの端を通る積層方向のP2線との間の部分で示される。ヘビーエッジHは、図中に破線で囲んだ部分で示される。
【0020】
本実施形態によれば、コンデンサ機能領域4cはエッジ領域4bよりも薄い電極厚みで積層できるとともに、エッジ領域4bはコンデンサ機能領域4cにおける電極厚みよりも厚くしたヘビーエッジ構造の内部電極にできる。そして、内部電極にヘビーエッジHが形成された状態で積層できるので、所望の静電容量が容易に得られるとともに外部電極7との良好な接続性と良好な耐電圧特性が得られる。
【0021】
図2の例は、第1領域4aにインナーマージン部4a1が形成されている。この構成によれば、絶縁領域を確保しつつ静電容量を大きくすることができる。
【0022】
図3の例は、第1領域4aにインナーマージン部4a1が形成されており、尚且つ、コンデンサ機能領域4cにインナーマージン部4c1が形成されているとともに内部直列構造となっている。この構成によれば、絶縁領域を確保しつつ静電容量を大きくすることができて、さらに、高い耐圧性能が得られる。なお、上記構成に限定されない。
【0023】
本実施形態におけるコンデンサ機能領域4cは、各層一定の幅になっている。そして、積層されるにしたがって各層の内部電極におけるヘビーエッジHとヘビーエッジHとの間隔が大きくなった場合においても、各層におけるコンデンサ機能領域4cは、各層一定の幅になっている。
【0024】
ここで、「各層一定の幅になっている」とは、例えば所定の積層位置(例えば最下層、中間層、最上層)におけるコンデンサ機能領域4cの幅を基準にして各層におけるコンデンサ機能領域4cの幅がいずれもプラスマイナス10[%]以内になっている状態であり、また例えばZ方向(積層方向)を基準にしてP1線の角度並びにP2線の角度がいずれもプラスマイナス5[度]未満になっている状態である。
【0025】
図2の例では、最上層の第1金属層3aにおける図中の左側のエッジ領域4bに近い外向きの端、上から三番目の層の第1金属層3aにおける図中の左側のエッジ領域4bに近い外向きの端、・・・、下から二番目の層の第1金属層3aにおける図中の左側のエッジ領域4bに近い外向きの端は、いずれも積層方向のP1線に沿って形成されており、または、最下層の第1金属層3aにおける図中の右側のエッジ領域4bに近い外向きの端、下から三番目の層の第1金属層3aにおける図中の右側のエッジ領域4bに近い外向きの端、…、上から二番目の層の第1金属層3aにおける図中の右側のエッジ領域4bに近い外向きの端は、いずれも積層方向のP2線に沿って形成されている。
図2と
図3の例では、P1線とP2線とは平行になっている。
【0026】
第1金属層3aはアルミニウム、亜鉛、銅、金、銀、またはこれらを含む合金からなることが好ましい。また、第2金属層3bはアルミニウム、亜鉛、銅、金、銀、またはこれらを含む合金からなることが好ましい。この構成によれば、導電性の高い内部電極にできる。一例として、内部電極層3はアルミニウム、亜鉛、銅、金、銀、またはこれらを含む合金からなる。
【0027】
コンデンサ機能領域4cにおける第1金属層3aの電極抵抗値は4[Ω/□]超であることが好ましい。この構成によれば、所望の耐電圧が容易に実現できる。より好ましくは、第1金属層3aの電極抵抗値は5[Ω/□]以上である。さらに好ましくは、第1金属層3aの電極抵抗値は20[Ω/□]以上である。第1金属層3aの電極抵抗値が大きくなればより一層高耐電圧にできる。後述する製造方法において、例えば回転ドラム12の周方向の回転速度を速くするなどして第1金属層3aの電極抵抗値が大きくなるように制御することで、高耐電圧にできる。
【0028】
コンデンサ機能領域4cにおける第1金属層3aの電極抵抗値は45[Ω/□]以下であることが好ましい。この構成によれば、より良好な耐湿性能にできるとともに、所望の静電容量や誘電正接(tanδ)が容易に実現できる。より好ましくは、第1金属層3aの電極抵抗値は40[Ω/□]以下である。さらに好ましくは、第1金属層3aの電極抵抗値は20[Ω/□]以下である。後述する製造方法において、例えば回転ドラム12の周方向の回転速度を遅くするなどの制御によって第1金属層3aの電極抵抗値を小さくなるようにすることで、所望の静電容量や誘電正接(tanδ)が容易に実現できるとともに、さらに低ESRにできる。
【0029】
エッジ領域4bにおけるヘビーエッジHの電極抵抗値は30[Ω/□]未満であることが好ましい。この構成によれば、所望の静電容量や誘電正接(tanδ)が容易に実現できる。より好ましくは、ヘビーエッジHの電極抵抗値は20[Ω/□]以下である。さらに好ましくは、ヘビーエッジHの電極抵抗値は10[Ω/□]以下である。後述する製造方法において、例えば回転ドラム12の周方向の回転速度を遅くしたり蒸着用マスク19の貫通穴19aを周方向に長くしたりするなどの制御によってヘビーエッジHの電極抵抗値が小さくなるようにすることで、所望の静電容量や誘電正接(tanδ)が容易に実現できる。当然ながら、エッジ領域4bにおけるヘビーエッジHの電極抵抗値は、コンデンサ機能領域4cにおける第1金属層3aの電極抵抗値より小さくなる。
【0030】
エッジ領域4bにおけるヘビーエッジHの電極抵抗値は1[Ω/□]以上であることが好ましい。この構成によれば、余分な電極材料を抑えて低コストで製造することが容易にできる。一例として、ヘビーエッジHの電極抵抗値は4[Ω/□]以上である。
【0031】
誘電体層2は、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレートまたはトリシクロデカンジメタノールジアクリレートのいずれか一種以上が重合してなることが好ましい。この構成によれば、高い耐熱性にできるとともに所望の静電容量や誘電正接(tanδ)が容易に実現できる。
【0032】
外部電極7は、一方側のエッジ領域4bの端に接する側面部と他方側のエッジ領域4bの端に接する側面部に第3金属が各々溶射形成された第1外部電極層7aと、第1外部電極層7aの外側に第4金属がめっき形成された第2外部電極層7bとを有することが好ましい。この構成によれば、実装の際に、はんだ接続性能に優れた構成が容易に実現できる。一例として、第1外部電極層7aは真鍮、亜鉛、アルミニウム、その他既知の溶射金属が適用できる。一例として、第2外部電極層7bは銅、錫、金、銀、その他既知のめっき金属が適用できる。
【0033】
続いて、本実施形態に係る薄膜高分子積層コンデンサ1の製造方法について、以下に説明する。
【0034】
薄膜高分子積層コンデンサ1は、第1積層体製造プロセス、条切断プロセス、外部電極形成プロセス、チップ切断プロセス、電圧処理プロセス、検査プロセスの順に製造される。
【0035】
図4Aは、薄膜高分子積層コンデンサ1における第1積層体製造装置10の構成を模式的に示す構成図である。第1積層体製造装置10は、真空チャンバ11と、真空チャンバ11内に配されて回転軸12cを中心に周方向矢印12bの方向に回転する回転ドラム12を有する。そして、回転ドラム12の外周面12aに向けて、周方向矢印12bの方向に順に配されたモノマ蒸着装置13、電子線照射装置14、プラズマ処理装置15、パターニング装置16、第1金属蒸着源17及び第2金属蒸着源18を有する。
【0036】
図4Aの例では、第2金属蒸着源18と回転ドラム12との間には、蒸着用マスク19が配設されている。
図4Bは、蒸着用マスク19を示す概略の平面図である。蒸着用マスク19は、ステンレスやニッケル合金等からなる耐熱性金属製のプレートに、エッチングやレーザ加工等によって周方向(矢印12bの方向)に長方形状のスリットである貫通穴19aが複数形成されており、所定間隔で貫通穴19aが配設されている。
【0037】
第1積層体製造プロセスは、第1積層体製造装置10における真空チャンバ11内の回転ドラム12を周方向矢印12bの方向に回転させながら、回転ドラム12の外周面12aに誘電体層2と内部電極層3とを交互に積層し接合して第1積層体5aを製造する。
【0038】
図5A~
図5Dは、第1積層体製造プロセスにおける回転ドラム12の外周面12aにおける誘電体層2と内部電極層3との積層状態を示す概略の断面図である。
【0039】
図5Aに示すように、先ず回転ドラム12の外周面12aにモノマ蒸着装置13によってモノマを蒸着してモノマ層を形成し、モノマ層に電子線照射装置14によって電子線を照射することで誘電体層2を形成する。次に誘電体層2の表面にプラズマ装置15によって酸素プラズマ処理を行って誘電体層2を改質する。そして誘電体層2にパターニング装置16によってオイル2bを塗布して、第1金属蒸着源17によって第1金属を蒸着することでオイルマージン部2aが形成された第1金属層3aを形成する。
【0040】
図5Aに続いて
図5Bに示すように、第2金属蒸着源18によって第2金属を蒸着して第2金属層3bを形成して内部電極層3を形成する。内部電極層3を形成する際に、第1領域になる部分8aを遮蔽するとともにエッジ領域になる部分8b(
図5Dを参照)を形成するために蒸着用マスク19を用いる。
【0041】
図5Bに続いて
図5Cに示すように、
図5Aにおける手順と同じようにして、回転ドラム12の外周面12aに誘電体層2を形成し誘電体層2を改質しオイル2bを塗布し、そして、第1金属蒸着源17によって第1金属を蒸着することでオイルマージン部2aが形成された第1金属層3aを形成する。そして、
図5Aから
図5Cにおける手順を繰り返して誘電体層2と内部電極層3とを交互に積層し接合して、
図5Dに示すように、第1積層体5aにする。ここで、積層数は、一例として、3層以上かつ10,000層以下である。
【0042】
本実施形態によれば、コンデンサ機能領域4cを形成するための第1領域になる部分8aをヘビーエッジHを形成するためのエッジ領域になる部分8bよりも薄い電極厚みで積層しながら、エッジ領域4bにヘビーエッジHを形成して積層することができる。したがって、所望の静電容量が容易に得られるとともに、外部電極7との良好な接続性並びに良好な耐電圧特性が容易に得られる構成の薄膜高分子積層コンデンサ1にできる。
【0043】
上述した特許文献1記載のシャドーマスクを使用したヘビーエッジ技術の場合、積層するごとにヘビーエッジになる部分の位置をずらさなければならないという問題がある。それに対して、本実施形態では、回転ドラム12に対する蒸着用マスク19の相対的な位置を周方向矢印12bの方向と直交する方向に移動させる必要はない。よって、生産性が向上する。
【0044】
なお、上記以外の製造手順として、第1金属蒸着源17によって第1金属を蒸着して第1金属層3aを形成し、パターニング装置によってオイル2bを塗布して、第2金属蒸着源18によって第2金属を蒸着して第2金属層3bを形成する場合があり、この方法の場合、より狭幅のヘビーエッジHとすることが容易にできる。
【0045】
第1積層体製造プロセスにて製造された第1積層体5aは、一例として、プレス装置によって平坦な状態にし、その後、一例として、カード切断装置によって所定サイズのカード形状のワークに切断する。そして、カード形状のワークは、条切断プロセスにて分断される。
【0046】
第1積層体製造プロセスの後、条切断プロセスは、
図6Aに示すように、第1積層体5aにおける第1領域になる部分8aの一端側と他端側とに、
図5Dにおけるエッジ領域4bになる部分8bを各々分断して第2積層体5bにする。
【0047】
条切断プロセスの後、外部電極形成プロセスは、
図6Bに示すように、第2積層体5bにおけるエッジ領域になる部分8bが各々分断され配設された一端側に接する側面部と他端側に接する側面部とに第3金属によって第1外部電極層7aを各々形成して第3積層体5cにする。一例として、既知の金属溶射装置によって第3金属を溶射して第1外部電極層7aを形成する(不図示)。そして、一例として、第1外部電極層7aのバリ取りを行う。
【0048】
外部電極形成プロセスは、第1外部電極層7aを形成した後、
図6Cに示すように、第3積層体5cにおける第1外部電極層7aに第4金属によって第2外部電極層7bを形成することで、第1外部電極層7aと第2外部電極層7bとを含む外部電極7を形成して第4積層体5dにする。一例として、既知のめっき処理装置によって第4金属をめっきして第2外部電極層7bを形成する(不図示)。
【0049】
外部電極形成プロセスの後、チップ切断プロセスは、第4積層体5dにおける外部電極7を分断してチップ状の積層体5にする。一例として、既知のチップ切断装置が適用される(不図示)。チップ切断プロセスの後、一例として、チップ状の積層体5を洗浄して乾燥する。その後、電圧処理プロセスは、既知の電圧印加装置によって所定電圧を所定時間印加する(不図示)。電圧処理プロセスの後、検査プロセスは、既知の検査装置によって所定の電気特性と外観特性を検査する(不図示)。そして、出荷検査を行って製品出荷する。
【0050】
続いて、薄膜高分子積層コンデンサ1の実施例1~4と、比較例1~3とについて、以下に説明する。
【0051】
[実施例1]
本実施例は、第1積層体製造装置10における真空チャンバ11内で回転ドラム12を周方向矢印12bの方向に回転させながら、回転ドラム12の外周面12aに誘電体層2と内部電極層3とを交互に積層し接合して第1積層体5aを製造するに際し、オイルマージン部2aを形成し第1金属層3aを形成するとともに、蒸着用マスク19を用いて第2金属層3bを形成することで内部電極層3を形成した。本実施例は、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレートをモノマにして、各層における誘電体層の厚みを0.8[μm]にした。また、第1金属としてアルミニウムを蒸着して第1金属層3aを形成し、第2金属として亜鉛を蒸着して第2金属層3bを形成した。積層数は3,000であり、チップ状の積層体5の厚みは約2.5[mm]である。本実施例は、製造条件を調整して第1金属層3aの電極抵抗値を30[Ω/□]、ヘビーエッジHの電極抵抗値を4[Ω/□]にした。
【0052】
[実施例2]
本実施例は、第2金属としてアルミニウムを蒸着して第2金属層3bを形成した。本実施例では、製造条件を調整して第1金属層3aの電極抵抗値を30[Ω/□]、ヘビーエッジHの電極抵抗値を4[Ω/□]にした。それ以外は実施例1と同様の構成になるように製造条件を微調整した。
【0053】
[実施例3]
本実施例は、実施例1の製造条件に比べて回転ドラム12の周方向の回転速度を速くするとともに蒸着用マスク19の貫通穴19aを周方向に長くするように製造条件を調整して第1金属層3aの電極抵抗値を45[Ω/□]、ヘビーエッジHの電極抵抗値を4[Ω/□]にした。それ以外は実施例1と同様の構成になるように製造条件を微調整した。
【0054】
[実施例4]
本実施例は、実施例1の製造条件に比べて蒸着用マスク19の貫通穴19aを周方向に短くすることで、第2金属層3bの厚さが薄くなるように製造条件を調整して第1金属層3aの電極抵抗値を30[Ω/□]、ヘビーエッジHの電極抵抗値を20[Ω/□]にした。それ以外は実施例1と同様の構成になるように製造条件を微調整した。
【0055】
続いて、上述した実施例1~4の試作と並行して試作した比較例1~3の薄膜高分子積層コンデンサについて、以下に説明する。
【0056】
[比較例1]
本比較例は、上述の特許文献1の製造方法に基づいて、蒸着用マスクのスリット中央部の開口を周方向と直交方向に拡大してヘビーエッジを有する内部電極層を形成した。しかし、第2金属は蒸着していない。モノマはトリシクロデカンジメタノールジメタクリレートであり、各層における誘電体層の厚みは0.8[μm]にした。第1金属としてアルミニウムを蒸着して内部電極層3を形成した。積層数は3,000であり、チップ状の積層体5の厚みは約2.5[mm]である。本比較例は、製造条件を調整して内部電極層におけるヘビーエッジ以外の部分の電極抵抗値を30[Ω/□]、ヘビーエッジの電極抵抗値を4[Ω/□]にした。
【0057】
[比較例2]
本比較例は、第2金属は蒸着しておらず、ヘビーエッジを形成せずに内部電極層の電極抵抗値を30[Ω/□]にした。それ以外は実施例1と同様の構成になるように製造条件を微調整した。
【0058】
[比較例3]
本比較例は、比較例2の製造条件に比べて回転ドラム12の周方向の回転速度を遅くすることで第1金属層の厚さが厚くなるように調整して内部電極層の電極抵抗値を4[Ω/□]にした。それ以外は比較例2と同様の構成になるように製造条件を微調整した。
【0059】
実施例1~4と比較例1~3の各第1積層体を、それぞれ平坦化加熱処理して条切断し、外部電極形成してチップ切断してコンデンサ素子にした。コンデンサ素子のサイズは8.2[mm]×7.1[mm]×2.6[mm]である。その後、所望のコンデンサ特性を得るために所定の電圧処理を行った。
【0060】
実施例1~4と比較例1~3の方法によって得られた各コンデンサについて、周波数が1[kHz]における静電容量並びに誘電正接(tanδ)、及び絶縁破壊電圧を測定した。所望の静電容量を2.0~2.5[μF]とした場合におけるコンデンサ特性の合格判定基準は、静電容量が2.5[μF]±20[%]以内であり、tanδが1.5[%]以下であり、絶縁破壊電圧が160[V]以上である。測定結果を表1に示す。
【0061】
【0062】
表1に示すように、実施例1~4は、いずれも合格判定基準を満たしている。
【0063】
一方、比較例1は静電容量が小さくなった。これは、積層するにしたがって内部電極層におけるコンデンサ機能領域の蒸着金属幅が徐々に狭くなったことに起因する。また、比較例2は静電容量が小さくなって、誘電正接が大きくなった。これは、内部電極層の電極厚みが薄いため、エッジ部分で外部電極との接続性が悪く高抵抗化したことや断線したことに起因する。そして、比較例3は絶縁破壊電圧が小さくなった。これは、内部電極層の電極厚みが厚いため、ヒーリング性が悪化したことに起因する。
【0064】
実施例1~4に例示した製造方法に加えて、実施例1~4を内部直列構造にすることでさらに耐圧性能を向上させることができる。一例として、積層されるにしたがって各層におけるヘビーエッジHとヘビーエッジHとの間隔が大きくなるように形成することでコンデンサ機能領域4cを十分に確保することができる。一例として、回転ドラム12の周方向の回転速度を速めることで電極膜厚を薄くして電極抵抗値を所望の値に高くする制御ができる。一例として、回転ドラム12の周方向の回転速度を遅くすることで電極膜厚を厚くして電極抵抗値を所望の値に低くする制御ができる。本発明は、上述の実施例に限定されることなく、本発明を逸脱しない範囲において種々変更が可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 薄膜高分子積層コンデンサ
2 誘電体層
2a オイルマージン部
2b オイル
3 内部電極層
3a 第1金属層
3b 第2金属層
4a 第1領域
4a1 インナーマージン部
4b エッジ領域
4c コンデンサ機能領域
4c1 インナーマージン部
5 チップ状の積層体
5a 第1積層体
5b 第2積層体
5c 第3積層体
5d 第4積層体
7 外部電極
7a 第1外部電極層
7b 第2外部電極層
8a 第1領域になる部分
8b エッジ領域になる部分
10 第1積層体製造装置
11 真空チャンバ
12 回転ドラム
13 モノマ蒸着装置
14 電子線照射装置
15 プラズマ処理装置
16 パターニング装置
17 第1金属蒸着源
18 第2金属蒸着源
19 蒸着用マスク
51 条切断装置
52 金属溶射装置
53 めっき処理装置
54 チップ切断装置
H ヘビーエッジ