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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】留置カテーテル
(51)【国際特許分類】
   A61L 29/06 20060101AFI20220705BHJP
   A61L 29/14 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
A61L29/06
A61L29/14
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019503852
(86)(22)【出願日】2018-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2018009073
(87)【国際公開番号】W WO2018164235
(87)【国際公開日】2018-09-13
【審査請求日】2020-10-09
(31)【優先権主張番号】P 2017044181
(32)【優先日】2017-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017191304
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】美浦 学
(72)【発明者】
【氏名】図師 泰伸
(72)【発明者】
【氏名】楠 慎也
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-084293(JP,A)
【文献】特開2000-051344(JP,A)
【文献】特開2000-051345(JP,A)
【文献】特開平04-221571(JP,A)
【文献】特開平11-192300(JP,A)
【文献】特開2008-104766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 29/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃の乾燥状態におけるカテーテル反発力の最大値が0.10N以上であり、
37℃の温水浸漬時におけるカテーテル反発力の最大値が0.01~0.03Nであり、
37℃の温水浸漬時におけるカテーテル反発力の最大値に対する25℃の乾燥状態におけるカテーテル反発力の最大値の比が7.0以上であり、
37℃の温水浸漬時におけるカテーテル反発力の最大値が留置5分後に0.018N以下であり、
ジイソシアネート、ジオール系鎖延長剤およびポリグリコールを主成分とするポリウレタン樹脂を含み、
前記ポリウレタン樹脂において、平均ハードセグメント連鎖長が1.00~1.80であ
前記カテーテル反発力の最大値は、チューブ長20mmのカテーテルを用いて、支点間距離15mm、押し込み距離1.5mmおよび押し込み速度20mm/minの条件で3点曲げ試験を行って得られた反発力の値であり、
前記平均ハードセグメント連鎖長は、下記式(3):
【数1】

上記式(3)において、M PCL は、前記ポリグリコールの分子量であり、M MDI は、前記ジイソシアネートの分子量であり、M BD は、前記ジオール系鎖延長剤の分子量であり、Xは、前記ポリグリコールの重量分率である
により算出され、
前記ジイソシアネートは、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、またはイソホロンジイソシアネートであり、
前記ジオール系鎖延長剤は、1,4-ブタンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、または1,6-ヘキサンジオールであり、
前記ポリグリコールは、フタル酸ジメチルグリコール、ポリカプロラクトングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリアジペートグリコール、ポリエーテルグリコール、およびポリカーボネートグリコールからなる群から選択される、留置カテーテル。
【請求項2】
前記ポリグリコールに対する前記ジイソシアネートの重量比が0.99~1.36である、請求項1に記載の留置カテーテル。
【請求項3】
前記ジイソシアネートが4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、または2,4-トルエンジイソシアネートある、請求項1または2に記載の留置カテーテル。
【請求項4】
前記ジイソシアネートが4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートであり、
前記ジオール系鎖延長剤が1,4-ブタンジオールであり、
前記ポリグリコールがポリカプロラクトングリコールまたはポリテトラメチレングリコールである、請求項1~のいずれか1項に記載の留置カテーテル。
【請求項5】
ポリウレタン樹脂を含む留置カテーテルであって、
前記ポリウレタン樹脂が芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジオール、および芳香族ポリグリコールまたは脂肪族ポリグリコールであるポリグリコールを主成分とし、
前記ポリグリコールに対する前記芳香族ジイソシアネートの重量比が0.99~1.36であり、
前記ポリウレタン樹脂において、平均ハードセグメント連鎖長が1.00~1.80であ
前記平均ハードセグメント連鎖長は、下記式(3):
【数2】

上記式(3)において、M PCL は、前記ポリグリコールの分子量であり、M MDI は、前記芳香族ジイソシアネートの分子量であり、M BD は、前記脂肪族ジオールの分子量であり、Xは、前記ポリグリコールの重量分率である
により算出され、
前記芳香族ジイソシアネートは、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、または2,4-トルエンジイソシアネートであり、
前記脂肪族ジオールは、1,4-ブタンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、または1,6-ヘキサンジオールであり、
前記ポリグリコールは、フタル酸ジメチルグリコール、ポリカプロラクトングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリアジペートグリコール、ポリエーテルグリコール、およびポリカーボネートグリコールからなる群から選択される、留置カテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、留置カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
輸液や輸血等に用いられる留置針は、血管に留置可能なプラスチック等で形成されたカテーテルであり、これを血管内に留置した状態で輸液バッグ等の輸液や薬液が収納された容器から延出したチューブを接続して使用するものである。この留置針には、金属等で形成された尖端を有する内針が挿通されて一体に構成されたものもある。このタイプの留置針は、内針とともにカテーテルを血管内に穿刺した後、内針を留置針から抜去してから上述のものと同様にして使用する。
【0003】
ところで、留置針の主たる目的である輸液・薬液の注入を果たすためには、留置されたカテーテルの流路の確保が重要であることから、優れた耐キンク性がカテーテルに求められている。さらに穿刺時の操作性と、穿刺時及び留置後の血管壁の相互作用は、カテーテルの機械的物性に影響を受けるため、穿刺時は十分にコシがあり、留置後柔軟化することが望ましい。
【0004】
従来、留置カテーテルの材質としてポリテトラフルオロエチレン,エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等のフッ素樹脂が主に用いられている。フッ素樹脂製カテーテルは、穿刺時は硬くてコシが強いため操作性に優れており、血管確保を行いやすい。しかしながら、これらのフッ素樹脂製カテーテルは脈管留置後十分に柔軟とはならず、血管壁を損傷する可能性がある。また耐キンク性が十分でなく、輸液流路の確保に支障をきたす恐れがある。
【0005】
このような事情に鑑み、最近ではハードセグメントとソフトセグメントからなり、ソフトセグメントがポリエーテルからなるポリウレタン樹脂が留置針のカテーテル素材として使用されるようになっている。例えば、特許文献1では、分子量の異なるポリグリコールを含有する複数のポリウレタン樹脂のポリウレタン樹脂のブレンドからなる留置カテーテルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4570707号公報
【発明の概要】
【0007】
特許文献1には、血管挿入時では硬く、脈管留置後は柔軟化する留置カテーテルが開示されている。
【0008】
しかし、特許文献1に記載の留置カテーテルは、脈管留置後は柔軟化するものの、脈管走向に沿った形状にカテーテルが馴染むとまでにはいかず、カテーテルの元の直線形状に戻ろうとする。その元の形に戻ろうとする力のためカテーテルの先端が血管壁を押し続けることにより、血管の内壁組織にダメージを与える可能性があるという指摘があった。
【0009】
したがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、血管などの脈管挿入時では硬く、脈管留置後は柔軟化し、かつ脈管走向に沿った形状に馴染む留置カテーテルを提供することを目的とする。
【0010】
本発明者は、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、本発明の第1の形態によれば、25℃の乾燥状態におけるカテーテル反発力の最大値が0.10N以上であり、37℃の温水浸漬時におけるカテーテル反発力の最大値が0.01~0.25Nであり、37℃の温水浸漬時におけるカテーテル反発力の最大値に対する25℃の乾燥状態におけるカテーテル反発力の最大値の比が3.5以上であり、37℃の温水浸漬時におけるカテーテル反発力の最大値が留置5分後に0.027N以下である、留置カテーテルが提供される。
【0011】
また、本発明の第2の形態によれば、ポリウレタン樹脂を含む留置カテーテルであって、前記ポリウレタン樹脂が芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジオール、および芳香族ポリグリコールまたは脂肪族ポリグリコールを主成分とし、前記ポリグリコールに対する前記ジイソシアネートの重量比が0.99~1.36であり、平均ハードセグメント連鎖長が1.00~3.01である、留置カテーテルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例で測定したプッシャビリティおよびキンク距離における試験サンプルのセッティングの模式図および試験で得られるチャート例を示す。
図2図2は、実施例で測定した脈管走向への馴染みにおける最大長さの計測方法を示す。
図3図3は、実施例における留置形状を評価するためのX線透視像である。実施例または比較例の2枚のX線透視像は同一であり、下段のX線透視像は、カテーテルと血管後壁との角度を示すために線を引いている。
図4図4は、実施例における病理観察のための血管平滑筋組織の光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一形態に係る実施の形態を説明する。本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0014】
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(25±1℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0015】
≪第1の形態≫
本発明の第1の形態は、25℃の乾燥状態におけるカテーテル反発力の最大値が0.10N以上であり、37℃の温水浸漬時におけるカテーテル反発力の最大値が0.01~0.25Nであり、37℃の温水浸漬時におけるカテーテル反発力の最大値に対する25℃の乾燥状態におけるカテーテル反発力の最大値の比が3.5以上であり、37℃の温水浸漬時におけるカテーテル反発力の最大値が留置5分後に0.027N以下である、留置カテーテルである。このような構成を有することにより、本発明の第1の形態の留置カテーテルは、血管などの脈管挿入時では硬く、脈管留置後は柔軟化し、かつ脈管走向に沿った形状に馴染むことができる。その結果、容易に血管内にカテーテルを進めることができる。また、脈管留置後のカテーテルは、柔軟になり、耐キンク性を有するため、血管の損傷(物理的刺激)を軽減でき、薬剤などの投与経路を確保できる。さらに、脈管留置後のカテーテルは、脈管走向に沿った形状に馴染む(つまり、カテーテルの先端が血管と平行になる)ため、血管の損傷(物理的刺激)をより軽減でき、加えて、投与薬剤が血管壁に高濃度で当たることを抑制できるため、化学的刺激も低減できる。
【0016】
本明細書において、カテーテル反発力の最大値とは、チューブ長20mmのカテーテルを用いて、支点間距離15mm、押し込み距離1.5mmおよび押し込み速度20mm/minの条件で3点曲げ試験を行って得られた反発力の値である。
【0017】
具体的には、25℃の乾燥状態におけるカテーテル反発力の最大値とは、25℃の乾燥状態において、空気中でカテーテルを1.5mm押し込んだ際の反発力の値である。37℃の温水浸漬時におけるカテーテル反発力の最大値とは、37℃の温水に3分間浸漬した後、温水中でカテーテルを1.5mm押し込んだ際の反発力の値である。37℃の温水浸漬時におけるカテーテル反発力の留置5分後の最大値とは、37℃の温水に3分間浸漬した後、温水中でカテーテルを1.5mm押し込み、1.5mmの押し込み距離を変化させずに5分間維持した際の反発力の値である。カテーテル反発力の測定には、オートグラフ(EZ-L、株式会社島津製作所製)を用いる。
【0018】
第1の形態の留置カテーテルにおいて、25℃の乾燥状態におけるカテーテル反発力の最大値は、0.10N以上である。25℃の乾燥状態におけるカテーテル反発力の最大値が0.10N未満であると、血管などの脈管挿入時に硬さが不足して、穿刺が困難になるため好ましくない。25℃の乾燥状態におけるカテーテル反発力の最大値の上限は、特に制限されないが、例えば0.80N以下であり、好ましくは0.70N以下である。
【0019】
第1の形態の留置カテーテルにおいて、37℃の温水浸漬時におけるカテーテル反発力の最大値は、0.01~0.25Nである。37℃の温水浸漬時におけるカテーテル反発力の最大値が0.01N未満であると、カテーテル留置中に皮下組織による圧力によりカテーテルチューブが潰れてしまうおそれがあるため好ましくない。37℃の温水浸漬時におけるカテーテル反発力の最大値が0.25N超であると、血管内留置後の柔軟化が十分ではなく、血管が損傷するおそれがあるため好ましくない。37℃の温水浸漬時におけるカテーテル反発力の最大値は、好ましくは0.20以下であり、より好ましくは0.10以下であり、さらに好ましくは0.05以下であり、特に好ましくは0.03以下である。
【0020】
第1の形態の留置カテーテルにおいて、37℃の温水浸漬時におけるカテーテル反発力の最大値に対する25℃の乾燥状態におけるカテーテル反発力の最大値の比は、3.5以上である。37℃の温水浸漬時におけるカテーテル反発力の最大値に対する25℃の乾燥状態におけるカテーテル反発力の最大値の比が3.5未満であると、穿刺時にコシがなく、カテーテルを押込みにくい、または、留置中に反発力が大きくカテーテルが血管壁を傷つける不具合を生じるおそれがあるため好ましくない。37℃の温水浸漬時におけるカテーテル反発力の最大値に対する25℃の乾燥状態におけるカテーテル反発力の最大値の比は、脈管留置後の柔軟化の観点から、好ましくは5.0以上であり、より好ましくは7.0以上であり、さらに好ましくは8.0以上である。また、37℃の温水浸漬時におけるカテーテル反発力の最大値に対する25℃の乾燥状態におけるカテーテル反発力の最大値の比は、特に制限されないが、例えば100以下であり、好ましくは50以下であり、より好ましくは25以下である。
【0021】
第1の形態の留置カテーテルにおいて、37℃の温水浸漬時におけるカテーテル反発力の最大値は、留置5分後に0.027N以下である。37℃の温水浸漬時におけるカテーテル反発力の最大値が留置5分後に0.027N超であると、脈管走向に沿った形状にカテーテルが馴染まないため、血管へ物理的刺激を与えたり、血管を損傷したりするおそれがあるため、好ましくない。37℃の温水浸漬時における留置5分後のカテーテル反発力の最大値は、脈管走向に沿った形状にカテーテルが馴染むとの観点から、好ましくは0.025N以下であり、より好ましくは0.018N以下である。37℃の温水浸漬時における留置5分後のカテーテル反発力の最大値の下限は、特に制限されない。
【0022】
本発明の第1の形態において、カテーテル反発力の最大値は、留置カテーテルに用いる素材、カテーテルの肉厚などにより制御することができる。
【0023】
留置カテーテルの素材としては、ハードセグメントとソフトセグメントとが交互に連なる構造を有するポリウレタン樹脂を用いることが好ましい。ポリウレタン樹脂を用いることにより、留置カテーテルの硬さと柔軟さとをコントロールできる。
【0024】
特許文献1に記載の留置カテーテルは、分子量が異なるポリグリコールを含有する複数のポリウレタン樹脂をブレンドすることで、血管などの脈管挿入時の硬さと脈管留置後の柔らかさとを両立させ、さらに耐キンク性を改善させることが開示されている。しかし、本発明者らは、分子量が異なるポリグリコールを含有する複数のポリウレタン樹脂をブレンドするだけでは、留置後のカテーテルが脈管走向に沿うように変形するには十分ではないことを見出した。そこで、本発明者らは、tanδ(粘質係数)に着目し、平均ハードセグメント連鎖長の長さを制御することで、tanδの温度に伴う変化を制御し、留置カテーテルが脈管留置後に脈管走向に馴染む(変形する)と考えた。
【0025】
tanδは弾性エネルギーから熱エネルギーへの変換効率をあらわしており、tanδが大きいほど、蓄積した弾性エネルギーを熱エネルギーに変換することができる。脈管留置カテーテルにおいては、留置中にカテーテルが血管壁に接触することがある。その際、カテーテルに弾性エネルギーが蓄えられ、蓄えられた弾性エネルギーによって血管壁を圧迫し続けている。弾性エネルギーが熱エネルギーに変換されると、血管壁を圧迫する力が無くなり、カテーテルは血管壁に沿うようになる。これは、クリープ特性という性質により生じるものである。
【0026】
クリープ特性を高めるには、tanδを大きくすることが重要になる。上述したように平均ハードセグメント連鎖長の長さを制御することで、体温近傍にてtanδが大きくなるように調整すると、当該留置カテーテルが脈管留置後に体温近傍下にて脈管に沿った形状を保持して脈管走向に馴染むという知見を得た。ある材料を変形しても与えられた弾性エネルギーを熱に変換するので元の形状に戻ろうとする力が小さくなり、その材料はその変形形状を維持しようとする。更に別の形状に変形すると、先と同じように熱に変換してその形になって安定する。このような性状を脈管などの体内に挿入や留置する医療器具に応用して生体組織に負荷を与えないという今までにない作用を生じることを見出した。
【0027】
なお、上記メカニズムは推定であり、本発明は上記推定によって限定されない。
【0028】
本発明の第1の形態では、本発明の効果をより発現できるとの観点から、ポリウレタン樹脂を含む留置カテーテルであって、前記ポリウレタン樹脂がジイソシアネート、ジオール系鎖延長剤およびポリグリコールを主成分とし、前記ポリグリコールに対する前記ジイソシアネートの重量比が0.99~1.36であり、平均ハードセグメント連鎖長が1.00~3.01である、留置カテーテルが好ましい。なお、本発明の留置カテーテルに含まれるポリウレタン樹脂は、上記を満たすものであれば、1種単独でもよく、2種以上をブレンドしたものでもよい。
【0029】
以下、ポリウレタン樹脂の主成分について説明する。
【0030】
ジイソシアネートは、ハードセグメントを構成する材料である。ジイソシアネートとしては、例えば芳香族ジイソシアネート(例えば4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネート等)、脂肪族ジイソシアネート(例えばヘキサメチレンジイソシアネート等)、脂環式ジイソシアネート(例えばイソホロンジイソシアネート等)などを使用できる。ジイソシアネートは、成形性、機械的物性の観点から、好ましくは芳香族ジイソシアネートであり、より好ましくは4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートである。
【0031】
ジイソシアネートの含有量は、下記ポリグリコールの含有量に対して、重量比が0.99~1.36となるように、適宜調整できる。
【0032】
ジオール系鎖延長剤としては、低分子量ジオールであれば特に制限されない。ジオール系鎖延長剤は、成形性、機械的物性の観点から、好ましくは脂肪族ジオールである。脂肪族ジオールとしては、例えば1,4-ブタンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,6-ヘキサンジオール等が挙げられる。これらのうち、上記効果をさらに発現できるとの観点から、脂肪族ジオールは、1,4-ブタンジオールであることがより好ましい。
【0033】
ジオール系鎖延長剤の含有量は、ジイソシアネート、ジオール系鎖延長剤およびポリグリコールの総量(100重量%)に対して、例えば1~15重量%である。
【0034】
ポリグリコールは、ソフトセグメントを構成する材料である。ポリグリコールとしては、特に制限されない。ポリグリコールは、安全性、耐水性をより得ることができるとの観点から、好ましくは芳香族ポリグリコールまたは脂肪族ポリグリコールである。芳香族ポリグリコールとしては、フタル酸ジメチルグリコールなどが挙げられる。脂肪族ポリグリコールとしては、ポリカプロラクトングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリアジペートグリコール、ポリエーテルグリコール、ポリカーボネートグリコール等が挙げられる。これらのうち、上記効果をさらに発現できるとの観点から、脂肪族ポリグリコールは、ポリカプロラクトングリコールまたはポリテトラメチレングリコールであることが好ましい。ポリウレタン樹脂に含まれるポリグリコールは、1種でも2種以上でもよい。
【0035】
ポリグリコールの分子量は、所望の平均ハードセグメント連鎖長を得るために、適宜選択できる。ポリグリコールの分子量は、分子量が大きすぎる場合、反応が均一に進まず機械的物性が悪化し、分子量が小さすぎる場合、成形性が悪化するため、好ましくは200~2000であり、より好ましくは200~1000であり、さらに好ましくは250~550である。
【0036】
ポリグリコールの含有量は、所望のポリグリコールに対するジイソシアネートの重量比を得るために、適宜調整できる。ポリグリコールの含有量は、ジイソシアネート、ジオール系鎖延長剤およびポリグリコールの総量(100重量%)に対して、例えば30~55重量%であり、好ましくは37~47重量%である。
【0037】
以上より、第1の形態の好ましい実施形態では、留置カテーテルに含まれるポリウレタン樹脂は、前記ジイソシアネートが芳香族ジイソシアネートであり、前記ジオール系鎖延長剤が脂肪族ジオールであり、前記ポリグリコールが芳香族ポリグリコールまたは脂肪族ポリグリコールである。また、より好ましい実施形態では、前記芳香族ジイソシアネートが4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートであり、前記脂肪族ジオールが1,4-ブタンジオールであり、前記脂肪族ポリグリコールがポリカプロラクトングリコールまたはポリテトラメチレングリコールである。
【0038】
留置カテーテルに含まれる材料の組成は、例えばカテーテルを溶媒(DMSO-d6溶液)に溶解させ、H-NMR測定、13C-NMR測定を行うことで、ジイソシアネート、ジオール系鎖延長剤およびポリグリコールの種類ならびに分子量を決定することができる。
【0039】
第1の形態に係るポリウレタン樹脂において、ポリグリコールに対するジイソシアネートの重量比は、0.99~1.36であることが好ましい。ポリグリコールに対するジイソシアネートの重量比が0.99以上であると、血管などの脈管挿入時に必要な硬さを留置カテーテルに与えることができる。また、ポリグリコールに対するジイソシアネートの重量比が1.36以下であると、脈管留置後のカテーテルを柔軟にすることができる。
【0040】
第1の形態の留置カテーテルにおいて、ポリウレタン樹脂は、2種類以上のポリウレタン樹脂をブレンドしたものでもよい。2種類以上のポリウレタン樹脂をブレンドする場合、ブレンドするポリウレタン樹脂の配合重量比から算出される平均値を「ポリグリコールに対するジイソシアネートの重量比」とする。例えば、ポリグリコールに対するジイソシアネートの重量比が0.99および1.28である2種類のポリウレタン樹脂を75:25の配合重量比で混合ブレンドした場合、ポリウレタン樹脂のポリグリコールに対するジイソシアネートの重量比は、{(0.99×75)+(1.28×25)}/100の式により算出され、1.06となる。
【0041】
第1の形態に係るポリウレタン樹脂において、平均ハードセグメント連鎖長は、1.00~3.01であることが好ましい。平均ハードセグメント連鎖長がこのような範囲であることにより、脈管留置後のカテーテルが脈管走向に沿った形状に馴染むことができる。
【0042】
平均ハードセグメント連鎖長については、ポリウレタン樹脂に含まれるポリグリコール、ジイソシアネートおよびジオール系鎖延長剤の分子量および組成比から、[OH]/[NCO]のモル比=1と仮定して、下記式(3)を用いて算出した値である。具体的には、ポリグリコールとしてポリカプロラクトングリコール(PCL)、ジイソシアネートとして4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、およびジオール系鎖延長剤として1,4-ブタンジオール(BD)を用いた場合、MDIとBDとの繰返し単位がn個であるとすると、ハードセグメントとソフトセグメントとは、以下のように表される。
【0043】
【化1】
【0044】
[OH]/[NCO]のモル比=1のとき、[OH]=[NCO]であるから、PCL、MDIおよびBDの分子量をそれぞれMPCL、MMDIおよびMBDとし、ソフトセグメント(PCL)の重量分率をXとすると、下記式(1)のように表される。
【0045】
【数1】
【0046】
上記式をnについて解くと、下記式(2)のように表される。
【0047】
【数2】
【0048】
ハードセグメントは、上記のとおり、(MDI-BD)-MDIであるから、平均ハードセグメント連鎖長は、n+1となり、以下の式(3)より算出される。
【0049】
【数3】
【0050】
式(3)からも明らかなように、平均ハードセグメント連鎖長の最小値は、1.00である。また、平均ハードセグメント連鎖長は、ポリエステル樹脂に含まれるポリグリコール、ジイソシアネートおよびジオール系鎖延長剤の分子量ならびに組成比により制御することができる。
【0051】
上述のとおり、平均ハードセグメント連鎖長は、好ましくは3.01以下である。平均ハードセグメント連鎖長が3.01以下であることにより、各ハードセグメントがより細かいセグメントとして存在する。よって、脈管留置後のカテーテルが柔軟になると同時に、脈管走向に馴染むことができる。平均ハードセグメント連鎖長は、より好ましくは2.30以下であり、さらに好ましくは1.80以下である。
【0052】
第1の形態の留置カテーテルにおいて、ポリウレタン樹脂は、2種類以上のポリウレタン樹脂をブレンドしたものでもよい。2種類以上のポリウレタン樹脂をブレンドする場合、ブレンドするポリウレタン樹脂の配合重量比から算出される平均値を「平均ハードセグメント連鎖長」とする。例えば、平均ハードセグメント連鎖長が1.59および1.28である2種類のポリウレタン樹脂を75:25の配合重量比で混合ブレンドした場合、ポリウレタン樹脂の平均ハードセグメント連鎖長は、{(1.59×75)+(1.28×25)}/100の式により算出され、1.51となる。
【0053】
ポリウレタン樹脂の製造方法は、特に制限されず、従来公知の方法、例えばワンショット法、プレポリマー法などを用いて製造することができる。
【0054】
≪第2の形態≫
本発明の第2の形態は、ポリウレタン樹脂を含む留置カテーテルであって、前記ポリウレタン樹脂が芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジオール、および芳香族ポリグリコールまたは脂肪族ポリグリコールを主成分とし、前記ポリグリコールに対する前記ジイソシアネートの重量比が0.99~1.36であり平均ハードセグメント連鎖長が1.00~3.01である、留置カテーテルである。このような構成を有することにより、本発明の第2の形態の留置カテーテルは、血管などの脈管挿入時では硬く、脈管留置後は柔軟化し、かつ脈管走向に沿った形状に馴染むことができる。その結果、容易に血管内にカテーテルを進めることができる。また、脈管留置後のカテーテルは、柔軟になり、耐キンク性を有するため、血管の損傷(物理的刺激)を軽減でき、薬剤などの投与経路を確保できる。さらに、脈管留置後のカテーテルは、脈管走向に沿った形状に馴染む(つまり、カテーテルの先端が血管と平行になる)ため、血管の損傷(物理的刺激)をより軽減でき、加えて、投与薬剤が血管壁に高濃度で当たることを抑制できるため、化学的刺激も低減できる。
【0055】
本形態における「ポリウレタン樹脂」、「ポリグリコールに対するジイソシアネートの重量比」および「平均ハードセグメント連鎖長」の説明については、上記第1の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0056】
≪留置カテーテルの製造方法≫
本発明の留置カテーテルの製造方法は、特に制限されず、従来公知の方法を使用することができる。例えば、留置カテーテルに用いる素材(ポリウレタン樹脂など)を押出成形により作製できる。
【0057】
≪留置カテーテルの用途≫
本発明の留置カテーテルは、血管などの脈管挿入時では硬く、脈管留置後は柔軟化し、かつ脈管走向に沿った形状に馴染むことができる。そのため、体内への輸液・薬液の注入や輸血、血液の採取および血行動態のモニターなどの目的で血管内に留置して使用することができる。
【実施例
【0058】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。特記しない限り、操作は室温(25℃)で行った。また、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「重量%」および「重量部」を意味する。
【0059】
[カテーテル反発力の最大値の測定]
(試験方法)
20mmの長さのカテーテルについて、支点間距離15mm、押込み距離1.5mm、押込み速度20mm/minの条件で、オートグラフ(EZ-L、株式会社島津製作所製)を用いて、3点曲げ試験を行った。
【0060】
(試験条件)
3点曲げ試験は、25℃の乾燥状態と37℃の温水浸漬状態との2条件で行った。
【0061】
25℃の乾燥状態の試験では、空気中でカテーテルを1.5mm押し込んだ際の反発力を計測した。
【0062】
37℃の温水浸漬状態の試験は、温水浸漬3分後から試験を開始し、温水中でカテーテルを1.5mm押し込んだ際の反発力、および、1.5mm押し込んだ後押込み距離は変化させずに5分保持した後の反発力を計測した。
【0063】
[平均ハードセグメント連鎖長の算出]
平均ハードセグメント連鎖長については、ポリウレタン樹脂に含まれるポリグリコール、ジイソシアネートおよびジオール系鎖延長剤の分子量および組成比から、[OH]/[NCO]のモル比=1と仮定して、下記式(3)を用いて算出した値である。具体的には、ポリグリコールとしてポリカプロラクトングリコール(PCL)、ジイソシアネートとして4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、およびジオール系鎖延長剤として1,4-ブタンジオール(BD)を用いた場合、MDIとBDとの繰返し単位がn個であるとすると、ハードセグメントとソフトセグメントとは、以下のように表される。
【0064】
【化2】
【0065】
[OH]/[NCO]のモル比=1のとき、[OH]=[NCO]であるから、PCL、MDIおよびBDの分子量をそれぞれMPCL、MMDIおよびMBDとし、ソフトセグメント(PCL)の重量分率をXとすると、下記式(1)のように表される。
【0066】
【数4】
【0067】
上記式をnについて解くと、下記式(2)のように表される。
【0068】
【数5】
【0069】
ハードセグメントは、上記のとおり、(MDI-BD)-MDIであるから、平均ハードセグメント連鎖長は、n+1となり、以下の式(3)より算出される。
【0070】
【数6】
【0071】
なお、実施例において、2種類のポリウレタン樹脂をブレンドした場合、上述のとおり、2種類のポリウレタン樹脂の配合重量比から算出される平均値を平均ハードセグメント連鎖長とした。
【0072】
[ポリウレタン樹脂の作製]
ポリグリコールとしてポリカプロラクトングリコール(PCL)またはポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ジイソシアネートとして4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)およびジオール系鎖延長剤として1,4-ブタンジオール(BD)を、下記表1の割合で配合し、ワンショット法により、ポリウレタン樹脂A~Jを作製した。
【0073】
【表1】
【0074】
[実施例1]
ポリウレタン樹脂Aを用いて、内径0.64mmおよび外径0.86mmに押出成形を行い、その後80℃で4時間アニール処理を行い、カテーテル1を作製した。
【0075】
[実施例2]
ポリウレタン樹脂Aの代わりに、ポリウレタン樹脂Bを用いた以外は、実施例1と同様にして、カテーテル2を作製した。
【0076】
[実施例3]
ポリウレタン樹脂Aの代わりに、ポリウレタン樹脂Aとポリウレタン樹脂Bとを75:25の重量比で溶融ブレンドした樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして、カテーテル3を作製した。
【0077】
[実施例4]
ポリウレタン樹脂Aの代わりに、ポリウレタン樹脂Cとポリウレタン樹脂Bとを67:33の重量比で溶融ブレンドした樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして、カテーテル4を作製した。
【0078】
[実施例5]
ポリウレタン樹脂Aの代わりに、ポリウレタン樹脂Cとポリウレタン樹脂Aとを60:40の重量比で溶融ブレンドした樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして、カテーテル5を作製した。
【0079】
[実施例6]
ポリウレタン樹脂Aの代わりに、ポリウレタン樹脂Dとポリウレタン樹脂Cとを25:75の重量比で溶融ブレンドした樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして、カテーテル6を作製した。
【0080】
[実施例7]
ポリウレタン樹脂Aの代わりに、ポリウレタン樹脂Cを用いた以外は、実施例1と同様にして、カテーテル7を作製した。
【0081】
[実施例8]
ポリウレタン樹脂Aの代わりに、ポリウレタン樹脂Eとポリウレタン樹脂Aとを40:60の重量比で溶融ブレンドした樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして、カテーテル8を作製した。
【0082】
[実施例9]
ポリウレタン樹脂Aの代わりに、ポリウレタン樹脂Eを用いた以外は、実施例1と同様にして、カテーテル9を作製した。
【0083】
[比較例1]
ポリウレタン樹脂Aの代わりに、ポリウレタン樹脂Fを用いた以外は、実施例1と同様にして、カテーテル10を作製した。
【0084】
[比較例2]
ポリウレタン樹脂Aの代わりに、ポリウレタン樹脂Gを用いた以外は、実施例1と同様にして、カテーテル11を作製した。
【0085】
[比較例3]
ポリウレタン樹脂Aの代わりに、ポリウレタン樹脂Hを用いた以外は、実施例1と同様にして、カテーテル12を作製した。
【0086】
[比較例4]
ポリウレタン樹脂Aの代わりに、ポリウレタン樹脂Iを用いた以外は、実施例1と同様にして、カテーテル13を作製した。
【0087】
[比較例5]
ポリウレタン樹脂Aの代わりに、ポリウレタン樹脂Jを用いた以外は、実施例1と同様にして、カテーテル14を作製した。
【0088】
上記で作製したカテーテル1~14および市販の留置針(サーフロー(登録商標)(SR-OT2232C)、テルモ株式会社)のカテーテル(比較例6;ETFE製)について、各条件におけるカテーテル反発力の最大値を測定し、ならびにポリグリコールに対するジイソシアネートの重量比および平均ハードセグメント連鎖長を算出した。なお、実施例において、2種類のポリウレタン樹脂をブレンドした場合、上述のとおり、2種類のポリウレタン樹脂の配合重量比から算出される平均値をポリグリコールに対するジイソシアネートの重量比とした。
【0089】
結果を表2に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
[評価:プッシャビリティおよびキンク距離の測定]
上記で作製したカテーテル1~14および市販の留置針(サーフロー(登録商標)SR-OT2232C、テルモ株式会社)のカテーテルについて、下記方法に従ってプッシャビリティおよびキンク距離を測定した。結果を表3に示す。
【0092】
(試験方法)
カテーテルを長さ25mmにカットして試験サンプルとし、直径0.56mm、長さ1mmの治具により、カテーテルを固定した。オートグラフ(EZ-L、株式会社島津製作所製)を用いて、空気中で押し込み速度50mm/minで試験サンプルを押し込み、試験サンプルがキンクするまで、または20mmまで押し込み、プッシャビリティおよびキンク距離を測定した。
【0093】
図1は、試験サンプルのセッティングの模式図と試験で得られるチャート例とを示している。図1のように試験サンプルをセッティングし、上下から押し込むことでプッシャビリティおよびキンク距離を測定する。図1のチャート例にしめすように、試験サンプルを上下から押し込むと、試験サンプルは変形せず、荷重が増加する。しかし、押し込みを進めると、試験サンプルがたわみ始めるため、荷重が低下する。本試験では、荷重が低下する前、つまり荷重が最大となったときの値を「プッシャビリティ」とする。さらに押し込みを進めると、試験サンプルの内腔がつぶれて閉塞(すなわち、キンク)が始まり、荷重低下の変化が大きくなり、チャートに変曲点が生じる。チャート上で、試験を開始した時点(始点)からチャートに変曲点が生じるまでを判定し、この間に移動したロードセルの移動距離を「キンク距離」とする。
【0094】
ここでは、以下の基準をすべて満たすものを合格とした。
【0095】
プッシャビリティ
25℃乾燥状態:0.25N以上
37℃温水浸漬時:0.80N以下
25℃乾燥状態/37℃温水浸漬時:2.00以上
キンク距離
37℃温水浸漬時:10mm以上。
【0096】
(試験条件)
25℃の乾燥状態および37℃の温水浸漬3分後の2条件で測定を行った。37℃の温水浸漬3分後の試験では、浸漬したカテーテルを温水から取り出した後10秒以内に測定を開始した。
【0097】
[評価:脈管走向への馴染み]
カテーテルを25mmの長さにカットして試験サンプルとし、直径8mmの円柱に巻きつけて、37℃の温水中に3分間浸漬させた。カテーテルを温水中から取り出して、10秒後のカテーテルの最大長さ(脈管走向への馴染み)を測定した。最大長さとは、図2に示すように、巻きつけた試験サンプルの最大幅である。ここでは、22mm以下を合格とした。
【0098】
なお、比較例6のカテーテルは、測定の際に折れてしまったため、本評価の対象外であるが、測定値を括弧内に示す。
【0099】
【表3】
【0100】
表3に示すように、実施例のカテーテルは、以下の効果を有することが分かる。
(a)血管などの脈管挿入時(25℃乾燥状態)は、十分なプッシャビリティ(0.25N以上)を有するため、容易に血管内にカテーテルを進めることができる。
(b)脈管留置後のカテーテル(37℃温水浸漬時)は、柔軟であり、血管への損傷を軽減できる(37℃温水浸漬時のプッシャビリティ:0.8N以下、37℃温水浸漬時のプッシャビリティに対する25℃乾燥状態のプッシャビリティ:2以上)。
(c)脈管留置後のカテーテル(37℃温水浸漬時)は、耐キンク性を有し、投与経路を確保できる(キンク距離:12mm以上)。
(d)脈管走向に沿った形状にカテーテルが馴染むため、血管への物理的刺激や血管への損傷を軽減できる(脈管走向への馴染み(最大長さ):22mm以下)。
(e)脈管走向に沿った形状にカテーテルが馴染むため、カテーテル先端が血管と平行になることができ、投与薬剤が血管壁に高濃度で当たることがないため、化学的刺激を低減できる(脈管走向への馴染み(最大長さ):22mm以下)。
【0101】
実施例1~5のカテーテルは、使用したポリウレタン樹脂の平均ハードセグメント連鎖長が1.00~1.80の範囲であるため、実施例6~9と比較して、37℃温水浸漬時のプッシャビリティ(0.6N以下)とキンク距離(13mm以上)とのバランスがより優れていることが分かる。よって、実施例1~5のカテーテルでは、上記(b)および(c)の効果がより発現されていることが分かる。
【0102】
一方、比較例のカテーテルでは、上記(a)~(e)の効果の少なくとも一つが得られないことが分かる。
【0103】
比較例1、2、5および6のカテーテルは、37℃温水浸漬時のプッシャビリティの値が大きい(0.80N超)ため、脈管留置後のカテーテルの柔軟性が十分でないことが分かる。
【0104】
比較例1、2、4および6のカテーテルは、耐キンク性が十分でないことが分かる(キンク距離:12mm未満)。
【0105】
比較例3~5のカテーテルは、脈管走向への馴染みが十分でないことが分かる(脈管走向への馴染みが(最大長さ):22mm超)。
【0106】
比較例6のカテーテルは、脈管走向への馴染みを評価する際に折れてしまったため、脈管走向への馴染みが十分でないことが分かる。
【0107】
[留置形状の評価および病理観察]
上記で作製したカテーテル2、12および市販の留置針(サーフロー(登録商標)SR-OT2232C、テルモ株式会社)のカテーテルについて、下記方法に従って留置形状の評価および病理観察を行った。
【0108】
(試験方法)
ウサギ左右耳介静脈に物性評価用留置針(24G×3/4”)を穿刺角30°で挿入して、留置固定した。生理食塩水を充填後、24時間放置して、以下の評価を実施した。
【0109】
1)留置形状
24時間留置後、留置針にイオヘキソール注射水(オムニパーク140:第一三共株式会社)を注入し造影して、X線循環器診断システム(Infinix-Celeve-i、東芝メディカルシステムズ製)を用いてX線透視像を撮影した。得られたX線透視像に対し、カテーテル先端から血管に沿って線(図3において破線で示す)を引き、当該線とカテーテル(図3において一点鎖線で示す)とのなす角度(カテーテルと血管後壁との角度)を測定した。結果を表4および図3に示す。
【0110】
2)病理観察
24時間留置後、カテーテル先端部周辺の血管平滑筋組織を採取し、ホルマリンで固定した。その後、定法に従い病理標本を作成し、ヘマトキシリン・エオジン染色(H&E染色)を行い、光学顕微鏡で観察した。さらに組織標本から血管の変性が確認されたスライドに対して、血管壁の平滑筋マーカーとして抗α-SAM抗体を用いた免疫染色を行い、血管の障害状態を確認した。結果を表4および図4に示す。
【0111】
【表4】
【0112】
表4および図3に示すように、実施例のカテーテルは、カテーテルと血管後壁との角度が0°であり、脈管走向に沿った形状にカテーテルが馴染んでいることが分かる。一方、比較例のカテーテルは、カテーテルと血管後壁との角度が実施例と比べて大きく、血管走向への馴染みが十分でないことが分かる。
【0113】
また、表4および図4に示すように、実施例のカテーテルは、脈管走向に沿った形状に馴染むため、カテーテル先端部周辺の血管平滑筋細胞に欠損がないことが分かる。一方、比較例のカテーテルは、血管走向への馴染みが十分でないため、血管平滑筋組織の一部または全周に欠損があることが分かる。
【0114】
本出願は、2017年3月8日に出願された日本国特許出願第2017-044181号および2017年9月29日に出願された日本国特許出願第2017-191304号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。
図1
図2
図3
図4