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特許7100038低カールの実現が可能なコーティング組成物およびこれから製造されるフィルム
<図1>
  • 特許-低カールの実現が可能なコーティング組成物およびこれから製造されるフィルム 図1
  • 特許-低カールの実現が可能なコーティング組成物およびこれから製造されるフィルム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】低カールの実現が可能なコーティング組成物およびこれから製造されるフィルム
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20220705BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20220705BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20220705BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20220705BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/63
C09D183/04
C09D7/65
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019535941
(86)(22)【出願日】2017-12-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-02-06
(86)【国際出願番号】 KR2017015766
(87)【国際公開番号】W WO2018124826
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-12-22
(31)【優先権主張番号】10-2016-0184390
(32)【優先日】2016-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】515068085
【氏名又は名称】ドンジン セミケム カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】DONGJIN SEMICHEM CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】ミン チホン
(72)【発明者】
【氏名】キム トゥソク
(72)【発明者】
【氏名】チョ チシク
(72)【発明者】
【氏名】チョ スンソク
(72)【発明者】
【氏名】シン キュスン
【審査官】山本 悦司
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-208035(JP,A)
【文献】特開2014-152237(JP,A)
【文献】特開2016-188354(JP,A)
【文献】特開2011-219598(JP,A)
【文献】特開2005-146268(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106019829(CN,A)
【文献】韓国登録特許第10-1546625(KR,B1)
【文献】特開2015-071741(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0107461(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0275031(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0136930(KR,A)
【文献】特許第5302688(JP,B2)
【文献】特開平04-213338(JP,A)
【文献】特開平04-302821(JP,A)
【文献】特開2017-197738(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0114339(KR,A)
【文献】国際公開第2010/137636(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00、101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上にコーティング組成物をコーティングされ、前記コーティング組成物を硬化させることによって形成されるフィルムであって、
前記コーティング組成物は、
シルセスキオキサン樹脂、および
アルコール基、チオール基またはカルボキシル基を含む多官能有機化合物を含み、
前記多官能有機化合物は、シルセスキオキサン樹脂100重量部に対して1重量部~100重量部を含み、
A4サイズを基準に四つの角部が底から離隔したフィルムにおけるカール(Curl)の平均値が5mm以下である、
前記フィルム。
【請求項2】
前記多官能有機化合物は、下記の化学式1の化合物を含む、請求項1に記載のフィルム。
【化1】
上記の式において、
R、およびR’は、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルキル基に連結されたアルコール基、炭素数1~20のアルキル基に連結されたチオール基、炭素数1~20のアルキル基に連結されたカルボキシル基、アルコール基、チオール基、またはカルボキシル基であり、
Xは、下記の化学式2、化学式3、化学式4、または化学式5から誘導される連結基である:
【化2】
上記の式において、
m、n、o、x、およびyは、それぞれ独立して1~10,000の整数である。
【請求項3】
前記多官能有機化合物は、100~1,000,000の分子量を有する、請求項1に記載のフィルム。
【請求項4】
前記アルコール基を含む多官能有機化合物は、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリテトラメチレングリコール、テトラメチルトリメチロール、グリセリン、ペンタエリスリトールテトラアルコール、ジペンタエリスリトールヘキサアルコール、ポリアクリレートポリオール、ポリビニルアルコール、およびこれらから誘導されるポリオールからなる群より選択される1種である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項5】
前記チオール基を含む多官能有機化合物は、1,2-エタンジチオール、ブタンジチオール、1,3-プロパンジチオール、1,5-ペンタンジチオール、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール、ジチオエリスリトール、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール、1,8-オクタンジチオール、ヘキサンジチオール、ジチオジグリコール、ペンタンジチオール、デカンジチオール、2-メチル1,4-ブタンジチオール、1,2-ベンゼンジチオール、1,3-ベンゼンジチオール、1,4-ベンゼンジチオール、2,4,6-トリメチル、1,3-ベンゼンジメタンチオール、ポリプロピレンエテールグリコールビス、1,2-ジメルカプトエタン、および1,6-ジメルカプトヘキサンからなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項6】
前記カルボキシル基を含む多官能有機化合物は、ナフタレン1,8-ジカルボン酸、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸、2,2’-ビピリジン-4,4’-ジカルボン酸、ピロリジン-2,4-ジカルボン酸、4,5-イミダゾールジカルボン酸、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボキシルジアンハイドライド、ピリジン-2,5-ジカルボン酸塩化物、およびジフェニル-4,4’-ジカルボン酸塩化物からなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項7】
前記シルセスキオキサン樹脂は、ケージ型シルセスキオキサン、ラダー型シルセスキオキサン、ランダム型シルセスキオキサンまたはこれらの混合物である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項8】
前記多官能有機化合物およびシルセスキオキサン樹脂は、1:99~50:50の重量比を有する、請求項1に記載のフィルム。
【請求項9】
前記コーティング組成物は、光または熱で開始される陽イオン開始剤、ラジカル開始剤、または溶媒の一つ以上をさらに含む、請求項1に記載のフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低カール(curl)の実現が可能なコーティング組成物およびこれから製造されるフィルムに関し、より詳しくは、多官能有機化合物を含んで低カールの実現が可能なコーティング組成物およびこれから製造されるフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
以下に記述された内容は、単に本発明と関連する背景情報のみを提供するだけで、従来技術を構成するものではない。
【0003】
最近、情報産業およびマルチメディアの発達により各種ディスプレイ分野が広く普及される一方、フレキシブル、ベンダブル、フォルダブルのような新たな特性を要求するディスプレイとこれを活用したスマートデバイスが未来の技術として台頭することによって、従来のディスプレイのガラス基板としてはこれを実現できないことが予想されている。柔軟でない短所以外にも、ガラス基板は重く壊れやすくて製品の加工時の不良率が高いという根本的な問題がある。
【0004】
前記の問題を解決するために、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリイミド(PI)などの高分子プラスチック基板が適用されているが、これらは耐摩耗性、耐熱性、耐薬品性などが不足して、ガラスに比べて擦り傷、摩耗、硬度などが脆弱であるという問題がある。
【0005】
このような短所を補完するために、高分子プラスチック基板上にハードコーティング組成物を塗布して特性を向上させる試みが活発に進められている。
【0006】
一般的なハードコーティング組成物は、(メタ)アクリレートまたはエポキシなどの光硬化型官能基が含まれている樹脂、硬化剤および添加剤で構成され、高分子プラスチック基板上に塗布した後、硬化過程を経て硬度および耐摩耗性などの特性を有するコーティング層を形成することができ、これはディスプレイの保護用基材として適用され得る。
【0007】
このような(メタ)アクリレートまたはエポキシ基を主剤とする光硬化型ハードコーティング組成物は向上した硬度を提供するが、ガラス水準の高硬度を実現することが難しく、硬化時の収縮によるカール現象が大きく発生して、これを用いたコーティングフィルムの実際適用時に難しさがある。コーティング層を厚く塗布することによって高硬度特性を実現することができるが、コーティング層の厚さが厚くなるほど硬化時の収縮によるカールが激しくなるので、実際適用はさらに難しくなる。
【0008】
このような問題を解決するために、高分子プラスチック基板上コーティング層の高硬度特性およびカール特性を同時に満足させるための多様な研究が進められている。
【0009】
一例として、大韓民国特許出願第10-2008-0114104号においては、2~40個のヒドロキシ基を含むポリエステルポリオールと多官能性(メタ)アクリレートモノマーの反応で製造される光硬化型(メタ)アクリレートオリゴマー、多官能性(メタ)アクリレートモノマー、光重合開始剤、および残量溶媒からなるハードコーティング組成物を製造してカールが改善されるコーティング層を形成したことがあるが、(メタ)アクリレートの特性上、硬化時の収縮によるカールを制御するのに難しさがある。
【0010】
また、大韓民国特許出願第10-2015-0031865号によれば、シルセスキオキサン有機-無機複合体を用いて高硬度のコーティング層を形成しているが、これによる高硬度コーティング層の場合にも、硬化によるカールは、ディスプレイおよびスマートデバイスへの適用可能性を阻害させた。
【0011】
したがって、高い表面硬度を実現できるシルセスキオキサン樹脂を用いて形成されたコーティング層のカールを制御して低カールの高硬度コーティング層を実現する場合、これを用いたコーティングフィルムは、光学フィルム、保護フィルム、電子製品用構成のプラスチック以外に多様な製品に有用に適用され得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記のような従来技術の問題点を解決するために、本発明は、多官能有機化合物を含んで低カールの実現が可能なコーティング組成物およびこれから製造されるフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、樹脂組成物;およびアルコール基、チオール基またはカルボキシル基を含む多官能有機化合物を含み、前記多官能有機化合物は、樹脂組成物100重量部対比1重量部~100重量部を含むコーティング組成物を提供する。
【0014】
前記多官能有機化合物は、下記の化学式1の化合物を含むことができる:
【化1】
上記の式において、
kは1~4の整数であり、
R、およびR’は、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルキル基に連結されたアルコール基、炭素数1~20のアルキル基に連結されたチオール基、炭素数1~20のアルキル基に連結されたカルボキシル基、アルコール基、チオール基、またはカルボキシル基であり、
Xは、下記の化学式2、化学式3、化学式4、または化学式5から誘導される連結基である:
【化2】
上記の式において、
m、n、o、x、およびyは、それぞれ独立して1~10,000の整数である。
前記アルコール基、チオール基またはカルボキシル基を含む多官能有機化合物は、100~1,000,000の分子量を有することができる。
【0015】
前記樹脂組成物は、エポキシまたはアクリル系樹脂を含んでもよく、シルセスキオキサン樹脂を含んでもよい。
【0016】
この時、前記シルセスキオキサン樹脂は、ケージ型シルセスキオキサン、ラダー型シルセスキオキサン、ランダム型シルセスキオキサンまたはこれらの混合物であり得る。
【0017】
前記コーティング組成物は、光または熱で開始される陽イオン開始剤、ラジカル開始剤または溶媒のうちの一つ以上をさらに含むことができる。
【0018】
本発明はまた、前記コーティング組成物が基材上にコーティングされて硬化したフィルムを提供する。
【0019】
前記フィルムは、A4サイズを基準に四つの角部が底から離隔したカールの平均値が5mm以下であり得る。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、アルコール基、チオール基またはカルボキシル基を含む多官能有機化合物を含んで低カールの実現が可能なコーティング組成物を製造することができる。
【0021】
本発明は、前記コーティング組成物を使用してカールが少ないフィルムを製造することができ、ディスプレイパネルおよびプラスチックなどの光学フィルム、保護フィルム、電子製品用以外に多様な製品に有用に適用可能である。
【0022】
また、本発明の組成物は、LCD、OLEDのようなディスプレイ基板の保護用ガラス基板を代替可能な柔軟で高硬度特性を有するプラスチック基板にも適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明により製造されたフィルムが既存のフィルムに比べて低カールを形成することを示す図である。
図2】本発明の組成物を硬化する場合、アルコール基、チオール基またはカルボキシル基を有する有機化合物が架橋結合を形成して立体構造的に緩衝作用をすることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳しく説明する。しかし、本発明は多様な異なる形態で実現することができ、ここで説明する実施形態に限定されない。
【0025】
明細書全体で、ある部分がある構成要素を“含む”というとき、これは特に反対になる記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく他の構成要素をさらに含むことができるのを意味する。
【0026】
本発明のコーティング組成物は、樹脂組成物;およびアルコール基、チオール基またはカルボキシル基を含む多官能有機化合物を含み、前記多官能有機化合物は、樹脂組成物100重量部対比1重量部~100重量部を含む。
【0027】
前記アルコール基、チオール基またはカルボキシル基を含む多官能有機化合物の含有量が1重量部未満の場合、カール調節の効果を期待し難く、前記アルコール基、チオール基またはカルボキシル基を含む多官能有機化合物の含有量が100重量部を超過すると、硬化度が落ちてコーティング層の硬化特性が完全でないこともある。
【0028】
本発明において、前記多官能有機化合物は、下記の化学式1の化合物を含むことができる:
【化3】
上記の式において、
kは1~4の整数であり、
R、およびR’は、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルキル基に連結されたアルコール基、炭素数1~20のアルキル基に連結されたチオール基、炭素数1~20のアルキル基に連結されたカルボキシル基、アルコール基、チオール基、またはカルボキシル基であり、
Xは、下記の化学式2、化学式3、化学式4、または化学式5から誘導される連結基である:
【化4】
上記の式において、
m、n、o、x、およびyは、それぞれ独立して1~10,000の整数である。
【0029】
本発明において、前記アルコール基、チオール基またはカルボキシル基を含む多官能有機化合物は、100~1,000,000の分子量を有することができる。
【0030】
前記多官能有機化合物がアルコール基を含む場合、前記多官能有機化合物は、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリテトラメチレングリコール、テトラメチルトリメチロール、グリセリン、ペンタエリスリトールテトラアルコール、ジペンタエリスリトールヘキサアルコール、ポリアクリレートポリオール、ポリビニルアルコール、およびこれらから誘導されるポリオールからなる群より選択される1種であり得る。
【0031】
また、前記多官能有機化合物がチオール基を含む場合、前記多官能有機化合物は、1,2-エタンジチオール、ブタンジチオール、1,3-プロパンジチオール、1,5-ペンタンジチオール、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール、ジチオエリスリトール、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール、1,8-オクタンジチオール、ヘキサンジチオール、ジチオジグリコール、ペンタンジチオール、デカンジチオール、2-メチル1,4-ブタンジチオール、1,2-ベンゼンジチオール、1,3-ベンゼンジチオール、1,4-ベンゼンジチオール、2,4,6-トリメチル、1,3-ベンゼンジメタンチオール、ポリプロピレンエテールグリコールビス、1,2-ジメルカプトエタン、および1,6-ジメルカプトヘキサンからなる群より選択される1種以上であり得る。
【0032】
また、前記多官能有機化合物がカルボキシル基を含む場合、前記多官能有機化合物は、ナフタレン1,8-ジカルボン酸、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸、2,2’-ビピリジン-4,4’-ジカルボン酸、ピロリジン-2,4-ジカルボン酸、4,5-イミダゾールジカルボン酸、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボキシルジアンハイドライド、ピリジン-2,5-ジカルボン酸塩化物、およびジフェニル-4,4’-ジカルボン酸塩化物からなる群より選択される1種以上であり得る。
【0033】
本発明において、前記樹脂組成物は、エポキシまたはアクリル系有機樹脂を含むことができるか、シルセスキオキサン樹脂を含むことができ、具体的にはシルセスキオキサン樹脂を含むことができる。
【0034】
前記樹脂組成物中のエポキシ系有機樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば特に制限はなく、一例として、脂環式エポキシ、ビスフェノールA型、およびF型エポキシ、フェノールノボラック型エポキシ、ナフタレン型エポキシ、ビフェニル型エポキシ、シクロペンタジエン型エポキシなどが挙げられる。これらの中でも多官能有機化合物との相溶性および硬化物性のためには脂環式エポキシおよびフェノールノボラック型エポキシが望ましい。
【0035】
また、前記樹脂組成物中のアクリル系有機樹脂は、1分子中に2個以上のアクリル基を有する2~12官能性アクリル系有機樹脂であれば特に制限はなく、硬化物の硬化度およびカール調節のためには3~6官能性アクリル系有機樹脂が望ましい。
【0036】
前記アクリル系有機樹脂とは、アクリレートのみならず、メタクリレートまたはアクリレートやメタクリレートに置換基が導入された誘導体すべてを意味し、例として、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリアクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、またはジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどが挙げられる。
【0037】
前記シルセスキオキサン樹脂は、例えば、ケージ型シルセスキオキサン、ラダー型シルセスキオキサン、ランダム型シルセスキオキサン、またはこれらの混合物であり得、具体的には、下記の化学式6の構造を有するラダー型シルセスキオキサンであり得る:
【化5】
上記の式において、
R’は、それぞれ独立して、C~Cのアルキル基であり、
11は、それぞれ独立して、水素;重水素;ハロゲン;アミン基;エポキシ基;シクロヘキシルエポキシ基;(メタ)アクリル基;チオール基;イソシアネート基;ニトリル基;ニトロ基;またはフェニル基;水素、重水素、ハロゲン、アミン基、エポキシ基、(メタ)アクリル基、チオール基、イソシアネート基、ニトリル基、ニトロ基、またはフェニル基で置換または非置換のC~C40のアルキル基、またはC~C40のアルケニル基、またはC~C40のアルコキシ基、またはC~C40のシクロアルキル基、またはC~C40のヘテロシクロアルキル基、またはC~C40のアリール基、またはC~C40のヘテロアリール基、またはC~C40のアラルキル基、またはC~C40のアリールオキシ基、またはC~C40のアリールチオール基であり、
Zは、1~100,000の整数である。
【0038】
より具体的には、本発明で使用可能な前記化学式6のシルセスキオキサン樹脂は、ラダー型シルセスキオキサン樹脂であり得、従来の技術、例えば、大韓民国特許出願第10-2015-0031865号、または大韓民国特許出願第10-2013-0163607号によって製造され得、市販のシルセスキオキサン樹脂も使用可能である。
【0039】
本発明の前記シルセスキオキサン複合高分子は、優れた保存安定性を確保して幅広い応用性を得るために、縮合度が1~99.9%に調節されることができる。つまり、末端および中央のSiに結合されたアルコキシグループの含有量が、全体高分子の結合基に対して50%~0.01%まで調節されることができる。
【0040】
また、本発明において、シルセスキオキサン複合高分子の重量平均分子量は1,000~1,000,000、具体的には5,000~100,000であり、より具体的には7,000~50,000であり得る。この場合、シルセスキオキサンの加工性および物理的特性を同時に向上させることができる。
【0041】
本発明のコーティング組成物において、前記樹脂組成物は、当該分野で通常使用される光または熱で開始される陽イオン開始剤、ラジカル開始剤、または溶媒中の一つ以上をさらに含むことができ、選択的に硬化剤、可塑剤、紫外線遮断剤、その他機能性添加剤などの添加剤をさらに含んで、硬化性、耐熱特性、紫外線遮断、可塑効果などを向上させることができる。
【0042】
本発明では、具体的には光開始剤を用いることができ、樹脂、例えば、シルセスキオキサン樹脂総重量100重量部に対して0.1~20重量部で含まれ得る。
【0043】
本発明で使用可能な光開始剤は、当該分野で通常使用される光開始剤を用いることができ、鉄-アレン複合体化合物、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、ピリジニウム塩、およびアルミニウム複合体/シリルエーテルからなる群より選択される1種以上の陽イオン重合開始剤またはアセトフェノン類、ベンゾイン類、アシルホスフィンオキシド類、チタノセン類、ベンゾフェノン類、およびチオキサントン類開始剤からなる群より選択される1種以上のラジカル重合開始剤であり得る。
【0044】
また、本発明で使用可能な溶媒は、当該分野で通常使用される有機溶媒であれば制限なしに用いることができ、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールのようなアルコール系溶媒、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、2-イソプロポキシエタノールのようなアルコキシアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルプロピルケトン、シクロヘキサノンのようなケトン系溶媒、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコール、モノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチルグリコールモノエチルエーテル、ジエチルグリコールモノプロピルエーテル、ジエチルグリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール-2-エチルヘキシルエーテルのようなエーテル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンのような芳香族溶媒などを使用することができ、1種以上を混合して使用することもできる。
【0045】
本発明において、具体的には溶媒は、コーティング組成物の固形分含有量が30重量%~70重量%となるように含まれ得る。
【0046】
本発明はまた、前記コーティング組成物が基材上にコーティングされて硬化したフィルムを提供する。
【0047】
前記フィルムは、基材上に前記コーティング組成物をコーティングした後、光照射して硬化させて製造することができる。
【0048】
本発明により光硬化性樹脂とアルコール、チオール、カルボン酸基を有する有機化合物の架橋連結で形成される多官能有機化合物-樹脂において、前記多官能有機化合物は硬化した物質内で共有結合による分子間距離が縮まるか大きくなることを抑制するように立体構造的に緩衝作用をすることで、適切な分子間距離を有するように制限することによって、光硬化時に発生する収縮/膨張を制御してコーティング層のカールを減らすことができる。
【0049】
本発明で提示した方法によってコーティング組成物を基材に塗布して収得したフィルムは、基材のベンディング程度によりコーティング層のベンディング強度を容易に調節可能でコーティングでき、片面コーティングだけでも基板のカールが顕著に少ないコーティング層を形成することができる。
【0050】
例えば、塗布されたコーティング組成物の厚さおよび基材により数値に差があることはあるが、A4サイズを基準に四つの角部が底から離隔したカールの平均値が5mm以下であり得る。この時、前記カールは、A4サイズのコーティングフィルムを平坦なところに位置させた後、平面から四つの端部の離隔した高さの平均値をカール値とした。
【0051】
本発明において、本発明のコーティング組成物によるカールの低下効果は、基材に制限なく期待できる。
【0052】
本発明に適用可能な基材は、従来の光学用コーティングフィルムの基材として公知のプラスチックフィルムが適用され得、具体的には、用途に応じて透明または半透明を適切に選択して使用することができ、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、セロハン、ジアセチルセルロースフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、アセチルセルロースブチレートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、ポリアミドフィルム、アクリル樹脂フィルム、ノルボルネン系樹脂フィルム、シクロオレフィン樹脂フィルムなどを使用することができる。
【0053】
通常のコーティング組成物の場合、コーティング厚さが厚くなるほどカールも共に増加して工程の進行が不可能であるか、塗膜表面の不均一およびクラックなどが発生する問題がある。しかし、本発明のコーティング組成物の厚さは、基材により任意に調節可能であり、例えば、1μm~100μm以下の厚さに形成することができ、50μm以上の厚い厚さでもカールが少なくて工程および製品への適用が容易である。カール現象の抑制作用が効果的に発揮される観点で、前記厚さは100μm以下であり得、より具体的には20~80μmの範囲であり得る。
【0054】
一例として、前記コーティング組成物を5~100μmに塗布する場合、最終コーティングフィルムのカールは5mm以下に調節することができる。
【0055】
具体的には、厚さ0.3mmのポリカーボネート(PC)基材に本発明のコーティング組成物を30μmの厚さに塗布する場合、コーティングフィルムのカールは、A4基準に四つの角部の平均値が3mm以下であり得、厚さ0.188mmのポリエチレンテレフタレート(PET)基材に本発明のコーティング組成物を30μmの厚さに塗布する場合、コーティングフィルムのカールは、A4基準に四つの角部の平均値が2mm以下であり得、厚さ0.3mmのポリメチルメタクリレート(PMMA)基材に本発明のコーティング組成物を30μmの厚さに塗布する場合、コーティングフィルムのカールは、A4基準に四つの角部の平均値が2mm以下であり得、厚さ0.1mmのトリアセチルセルロース(TAC)基材に本発明のコーティング組成物を30μmの厚さに塗布する場合、コーティングフィルムのカールは、A4基準に四つの角部の平均値が4mm以下であり得る。
【0056】
前記コーティング組成物は、前記プラスチック基材フィルム上にバーコーティング法、ナイフコーティング法、ロールコーティング法、ブレードコーティング法、ダイコーティング法、グラビアコーティング法、スピンコーティング法などで塗布することができる。
【0057】
本発明の硬化時、紫外線ランプの光源としては水銀、金属ハロゲン化合物、LEDなどを用いることができ、コーティング組成物の硬化のために250~400nmの波長の光を使用することができる。
【0058】
本発明によるコーティング組成物は、アルコール基、チオール基、またはカルボキシル基を含む多官能有機化合物、シルセスキオキサン樹脂、光開始剤、および溶媒を含むことによって、コーティング組成物が基材フィルム上にコーティングの際、多官能性有機化合物の緩衝作用により硬化収縮を緩和してカールを顕著に減らすことができ、フィルムの硬度が改善され得る。
【0059】
以下、本発明の理解を助けるために具体的な実施例を提示するが、下記の実施例は本発明を例示したものに過ぎず、本発明の範囲が下記の実施例によって限定されるものではない。
【0060】
製造例1
[製造例1-a]触媒の製造
酸性度の調節のために、アミン系塩基性触媒のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)25重量%の水溶液または金属系塩基性触媒の水酸化カリウム(KOH)10重量%の水溶液を触媒1aにして準備した。
【0061】
[製造例1-b]シルセスキオキサン樹脂の製造
3-アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン35重量%、およびテトラヒドロフラン(THF)60重量%を混合し10分間攪拌した。混合溶液に、前記製造例1-aで製造した触媒を5重量%ほど滴下して反応を行った。以降、常温で5日間攪拌を持続して、3回の洗浄過程を通じて触媒および不純物を除去した。得られた混合溶液からテトラヒドロフラン(THF)を真空で分離、除去してシルセスキオキサン樹脂を製造した。
【0062】
IR分析を通じてSi-OH官能基を確認でき(3,200cm-1)、分子量を測定した結果、製造されたシルセスキオキサン樹脂は、4,000スチレン換算分子量を有することを確認することができた。
【0063】
[実施例]
下記表1に記載された成分および含有量によって、次のように実施例および比較例を行った。すべての組成は、コーティング後にサンプル間の比較が容易であるよう、樹脂組成物および有機化合物の固形分含有量と同じ量の溶媒を使用することによって、コーティングの厚さに合わせた。下記表1において、単位は重量部である。
【表1】
【0064】
実施例1
前記製造例1で得られたシルセスキオキサン樹脂100重量部、光開始剤(商品名:Synasia社製、PI-6976)2.2重量部、シリコーン系レベリング添加剤(商品名:BYK社製、BYK-378)0.22重量部、多価アルコール有機複合物(商品名:Daicel社製、PCL-305)1重量部、および2-イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)101重量部を混合してコーティング組成物を製造した。
【0065】
前記コーティング組成物を0.3mmの厚さを有するポリカーボネート基材上に塗布し、乾燥および硬化過程を経て最終塗膜の厚さが30μmとなるようにした。
【0066】
実施例2
アルコール有機複合物(商品名:Daicel社製、PCL-305)の含有量を1重量部の代わりに50重量部を使用したことを除いては、前記実施例1と同様の方法でコーティング組成物およびコーティングフィルムを製造した。
【0067】
実施例3
アルコール有機複合物(商品名:Daicel社製、PCL-305)の含有量を1重量部の代わりに100重量部を使用したことを除いては、前記実施例1と同様の方法でコーティング組成物およびコーティングフィルムを製造した。
【0068】
実施例4
アルコール有機複合物の代わりにチオール有機複合物(Showa Denko社製、KarenzMT PE1)を使用したことを除いては、前記実施例1と同様の方法と組成物の含有量でコーティング組成物およびコーティングフィルムを製造した。
【0069】
実施例5
アルコール有機複合物の代わりにチオール有機複合物(Showa Denko社製、KarenzMT PE1)を使用したことを除いては、前記実施例2と同様の方法と組成物の含有量でコーティング組成物およびコーティングフィルムを製造した。
【0070】
実施例6
アルコール有機複合物の代わりにチオール有機複合物(Showa Denko社製、KarenzMT PE1)を使用したことを除いては、前記実施例3と同様の方法と組成物の含有量でコーティング組成物およびコーティングフィルムを製造した。
【0071】
実施例7
前記製造例1で得られたシルセスキオキサン樹脂の代わりに、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートを使用したことを除いては、実施例3と同様の方法と組成物の含有量でコーティング組成物およびコーティングフィルムを製造した。
【0072】
実施例8
前記製造例1で得られたシルセスキオキサン樹脂の代わりに市販されているビスフェノールA型エポキシ樹脂(KE-8128、コーロンインダストリー(株)製)を使用したことを除いては、実施例3と同様の方法と組成物の含有量でコーティング組成物およびコーティングフィルムを製造した。
【0073】
実施例9
前記製造例1で得られたシルセスキオキサン樹脂の代わりにトリメチロールプロパントリアクリレートを使用し、光開始剤としてPI-6976の代わりにIRGACURE-184を使用したことを除いては、実施例3と同様の方法と組成物の含有量でコーティング組成物およびコーティングフィルムを製造した。
【0074】
比較例1
アルコール有機複合物(商品名:Daicel社製、PCL-305)の含有量を1重量部の代わりに0.5重量部を使用したことを除いては、前記実施例1と同様の方法でコーティング組成物およびコーティングフィルムを製造した。
【0075】
比較例2
アルコール有機複合物(商品名:Daicel社製、PCL-305)の含有量を1重量部の代わりに110重量部を使用したことを除いては、前記実施例1と同様の方法でコーティング組成物およびコーティングフィルムを製造した。
【0076】
試験例
前記実施例1~9、および比較例1および4で製造されたコーティングフィルムの物性を確認して下記表2に示す。
【0077】
この時、物性は以下のように測定した。
-鉛筆硬度
鉛筆硬度試験器と三菱鉛筆を使用し、45度の角度で1kgの荷重をかけてコーティングフィルムの硬さを測定した。各鉛筆硬度当たり5回測定した後、キズ発生が1回以下である硬度を当該コーティングフィルムの鉛筆硬度とした。
-カール
コーティング組成物を30μmの厚さに塗布したA4サイズのコーティングフィルムを平らな底に置いたとき、各角部が平面から離隔した距離の平均値を計算した。
-付着性
コーティングフィルムの上に1mm間隔で横、縦に11本の線を引いて100個の正方形を作った後、テープ(3M社製、3M-810)を用いて3回の剥離テストを行った。剥離テスト後にも、剥離されない四角形の個数を数えてコーティング組成物の基材に対する付着性を判断した。つまり、0/100であればコーティング組成物が全部剥離されていることを示し、100/100であれば全部付着性を維持していることを示す。
【表2】
【0078】
上記表2に示されているように、本発明によるコーティングフィルムは、多官能有機化合物の含有量が増加するほど優れた鉛筆硬度および付着性を有するだけでなく、多官能有機化合物を含まない比較例よりも顕著に低い低カールを示すことが分かる。また、多官能有機化合物の含有量が本発明の範囲を超える過剰の比較例2の場合、カールは非常に低いが、硬度が低くてコーティング組成物として使用するのに適合しないことが分かる。
図1
図2