IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ デウ シップビルディング アンド マリン エンジニアリング カンパニー リミテッドの特許一覧

特許7100041液化天然ガスを燃料として用いる船舶の燃料供給システム及び燃料供給方法
<>
  • 特許-液化天然ガスを燃料として用いる船舶の燃料供給システム及び燃料供給方法 図1
  • 特許-液化天然ガスを燃料として用いる船舶の燃料供給システム及び燃料供給方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】液化天然ガスを燃料として用いる船舶の燃料供給システム及び燃料供給方法
(51)【国際特許分類】
   F02M 21/02 20060101AFI20220705BHJP
   B63H 21/38 20060101ALI20220705BHJP
   F02B 43/00 20060101ALI20220705BHJP
   F02M 21/06 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
F02M21/02 301A
B63H21/38 B
B63H21/38 C
F02B43/00 A
F02M21/02 L
F02M21/06 J
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019538154
(86)(22)【出願日】2017-12-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-12
(86)【国際出願番号】 KR2017014293
(87)【国際公開番号】W WO2018139753
(87)【国際公開日】2018-08-02
【審査請求日】2020-11-02
(31)【優先権主張番号】10-2017-0011188
(32)【優先日】2017-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517430897
【氏名又は名称】デウ シップビルディング アンド マリン エンジニアリング カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】ナム,ビョン タク
(72)【発明者】
【氏名】リー,ウォン チャン
(72)【発明者】
【氏名】チョン,イン ドン
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-183989(JP,A)
【文献】特開2008-196686(JP,A)
【文献】特開2009-062982(JP,A)
【文献】特開2014-234927(JP,A)
【文献】特開2015-074418(JP,A)
【文献】特表2016-507705(JP,A)
【文献】国際公開第2016/148416(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0276627(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0138015(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0120207(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 21/14
B63H 21/38
B63J 3/04
F02B 43/00
F02M 21/02
F17C 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化天然ガスを燃料としてオットーサイクル(Otto Cycle)が適用されて作動するオットーサイクルエンジン;
貯蔵タンクから排出された液化天然ガスを加圧する高圧ポンプ;
前記高圧ポンプで加圧された液化天然ガスを気化させる気化器;
前記気化器で気化された天然ガスを膨張させる膨張バルブ
記膨張バルブによって形成された気液混合物を気液分離する気液分離器;
前記高圧ポンプ及び前記気化器を介して前記貯蔵タンクから前記液化天然ガスが前記オットーサイクルエンジンに供給されるための経路を提供する液化天然ガス燃料ライン;及び、
前記貯蔵タンクで発生する蒸発ガスが前記オットーサイクルエンジンの燃料として供給されるための経路を提供する蒸発ガス燃料ライン;を備え、
前記蒸発ガス燃料ラインは、
前記蒸発ガスを圧縮する圧縮部;及び、
前記圧縮部での圧縮により加熱された前記蒸発ガスを冷却する中間冷却部;を備え、
圧縮及び冷却された前記蒸発ガスを、前記気化器に供給される前記加圧液化天然ガスと熱交換させる蒸発ガスクーラー;を更に備え、
前記蒸発ガスクーラーで、前記気化器に供給される前記加圧液化天然ガスが加熱され、前記蒸発ガスは冷却され、
前記気液分離器で分離された液体は前記貯蔵タンクに回収され、前記気液分離器で分離された気体は前記オットーサイクルエンジンの燃料として供給することにより、前記オットーサイクルエンジンに供給される天然ガス燃料のメタン価を調節することを特徴とする、液化天然ガス燃料船舶の燃料供給システム。
【請求項2】
前記高圧ポンプで加圧されて前記気化器に供給される加圧液化天然ガスと、前記気液分離器で分離されて前記貯蔵タンクに回収される前記液体とを熱交換させる液化天然ガスクーラー;を更に備え、
前記液化天然ガスクーラーで、前記気化器に供給される前記加圧液化天然ガスは加熱され、前記貯蔵タンクに回収される前記液体は冷却されることを特徴とする、請求項1に記載の液化天然ガス燃料船舶の燃料供給システム。
【請求項3】
前記気液分離器で分離されて前記オットーサイクルエンジンの燃料として供給される前記天然ガス燃料を加熱する燃料ガス加熱器;を更に備え、
前記膨張バルブ及び前記燃料ガス加熱器を通過した前記天然ガス燃料は、前記オットーサイクルエンジンで必要とされる温度に調節されることを特徴とする、請求項1に記載の液化天然ガス燃料船舶の燃料供給システム。
【請求項4】
前記オットーサイクルエンジンは、
液化天然ガス燃料船舶の推進用エンジンであり、2ストロークエンジン(2-Stroke Engine)であるX-DFデュアルフューエルエンジン;及び、
前記液化天然ガス燃料船舶の補助電力生産用のエンジンであり、4ストロークエンジン(4-Stroke Engine)であるDFDG(Dual Fuel Diesel Generator);を備え、
前記燃料ガス加熱器を通過した前記天然ガス燃料は、前記X-DFデュアルフューエルエンジンで必要とされる温度及び圧力に調節されることを特徴とする、請求項3に記載の液化天然ガス燃料船舶の燃料供給システム。
【請求項5】
前記DFDGに供給する前記天然ガス燃料を減圧する減圧バルブ;を更に備え、
前記燃料ガス加熱器及び前記減圧バルブを通過した前記天然ガス燃料は、前記DFDGで必要とされる圧力に調節されることを特徴とする、請求項4に記載の液化天然ガス燃料船舶の燃料供給システム。
【請求項6】
前記蒸発ガスクーラーで冷却された前記蒸発ガスを前記気液分離器に供給される前記気液混合物と同一圧力まで膨張させる蒸発ガス膨張バルブ;を更に備えることを特徴とする、請求項に記載の液化天然ガス燃料船舶の燃料供給システム。
【請求項7】
前記オットーサイクルエンジンの負荷変動に応じて、前記高圧ポンプ、前記気化器、前記膨張バルブ、及び前記気液分離器に供給される流体、又は前記高圧ポンプ、前記気化器、前記膨張バルブ、及び前記気液分離器から排出される流体の温度、圧力、及び流量を制御する制御部;を更に備えることを特徴とする、請求項に記載の液化天然ガス燃料船舶の燃料供給システム。
【請求項8】
前記貯蔵タンクから発生する前記蒸発ガスを処理するGCU(Gas Combustion Unit);を更に備えることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の液化天然ガス燃料船舶の燃料供給システム。
【請求項9】
貯蔵タンクから排出された液化天然ガスを高圧ポンプによって加圧する加圧工程;
前記加圧工程で加圧された加圧液化天然ガスを気化器によって天然ガスに気化させる気化工程;
前記気化工程で気化された天然ガスを膨張させる膨張工程;
前記膨張工程での膨張によって形成された気液混合物を気液分離する気液分離工程
記気液分離工程で分離された液体を前記貯蔵タンクに再供給し、分離された気体をオットーサイクルエンジンの燃料として供給する燃料供給工程;
前記貯蔵タンクから排出された蒸発ガスを圧縮部で圧縮する圧縮工程;及び
前記圧縮工程で圧縮された圧縮蒸発ガスを前記オットーサイクルエンジンの燃料として供給する蒸発ガス燃料供給工程;を更に備え、
前記圧縮蒸発ガスは、前記オットーサイクルエンジンで必要とされる圧力と温度とを有し、
前記圧縮蒸発ガスと、前記気化工程で前記気化器に供給される前記加圧液化天然ガスとを熱交換させて前記圧縮蒸発ガスを冷却する蒸発ガス冷却工程;を更に備え、
冷却された前記圧縮蒸発ガスを前記オットーサイクルエンジンの燃料として供給し、
前記貯蔵タンクに貯蔵された前記液化天然ガスを前記オットーサイクルエンジンで必要とされる温度、圧力、及びメタン価を有する燃料として供給することを特徴とする、液化天然ガス燃料船舶の燃料供給方法。
【請求項10】
前記気化工程で前記加圧液化天然ガスを気化させる前に、前記燃料供給工程で前記貯蔵タンクに再供給される前記液体と前記加圧液化天然ガスとを熱交換させる熱交換工程;を更に備え、
前記加圧液化天然ガスを前記貯蔵タンクに再供給される前記液体によって加熱した後に気化させ、前記貯蔵タンクに再供給される前記液体を前記加圧液化天然ガスによって冷却した後に前記貯蔵タンクに再供給することを特徴とする、請求項に記載の液化天然ガス燃料船舶の燃料供給方法。
【請求項11】
前記燃料供給工程で気液分離されて前記オットーサイクルエンジンに供給する気体燃料を加熱する加熱工程;を更に備え、
前記加熱工程を通過した流体は、前記オットーサイクルエンジンで必要とされる前記圧力、前記温度、及び前記メタン価を有することを特徴とする、請求項1に記載の液化天然ガス燃料船舶の燃料供給方法。
【請求項12】
前記加熱工程で加熱された前記気体燃料を減圧する減圧工程;を更に備え、
前記減圧工程を通過した前記流体は、前記オットーサイクルエンジンで必要とされる前記圧力、前記温度、及び前記メタン価を有することを特徴とする、請求項1に記載の液化天然ガス燃料船舶の燃料供給方法。
【請求項13】
前記圧縮蒸発ガスを膨張させる蒸発ガス膨張工程;を更に備え、
前記蒸発ガス膨張工程で膨張された蒸発ガスを前記気液分離工程に合流させて前記オットーサイクルエンジンの燃料として供給することを特徴とする、請求項に記載の液化天然ガス燃料船舶の燃料供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化天然ガスを燃料として用いるエンジンが適用された船舶において、圧縮機(compressor)を利用せず、ポンプと再気化設備を用いて、エンジンの燃料供給条件に合わせて液化天然ガスを供給する、液化天然ガス燃料船舶の燃料供給システム及び燃料供給方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、船舶では、燃料を燃焼して動力を発生するエンジンを駆動させて推進力が発生する。船舶の燃料として用いられる軽油、重油、MDO(Marine Diesel Oil)などの燃料油は、燃焼過程で生じる多量の有害物質により環境汚染を誘発する原因となる。近年、大気環境汚染を防止するための国際的規制が強化され、船舶で使用する燃料を燃料油から天然ガスに変更する傾向にある。天然ガスは、硫黄含有量が少なく、燃焼時に硫黄化合物及び煤煙物質が生じないため比較的に環境への負荷が少ない。このような傾向に合わせて燃料油と共に天然ガスが使用できる二元燃料エンジンが開発された。
【0003】
天然ガスは、常温と常圧で気体状態であり、体積が大きすぎるため、貯蔵のための空間制限がある。したがって、通常の常圧で約-163℃の極低温で液体状態を維持する特性を利用して、断熱材で処理した特殊な貯蔵タンクに極低温のLNGを常圧の液体状態で貯蔵する。
【0004】
また、環境に優しい船舶(green-ship)として液化天然ガス(LNG;Liquefied Natural Gas)を燃料で利用する船舶(LFS;Liquefied Fueled Ship)が開発され、各国の船級協会から公式認証(AIP;Approval In Principle)の承認を受けて環境規制によるクリーンエネルギーへの転換要求を満たしている。前記LFSは、LNGを貨物として輸送するLNG運搬船だけでなく、コンテナ船、タンカー船などの一般商船にも適用できる技術が開発されている。
【0005】
一般的に、船舶で使用されるエンジンの中で天然ガスを燃料として使用するエンジンには、ME-GI(MAN Electronic Gas Injection)エンジンとDF(Dual Fuel)エンジンとがある。
【0006】
ME-GIエンジンは2ストローク機関であり、300bar近くの高圧天然ガスをピストンの上死点付近で燃焼室に直接噴射するディーゼルサイクル(Diesel Cycle)を採用する。
【0007】
ディーゼルサイクルは、上死点付近で燃焼が起こるときの圧力が一定である定圧過程を有し、上昇工程時に燃焼用空気のみをシリンダーに吸引し、吸引された燃焼用空気を高い圧縮比で断熱圧縮する。上死点に達した時には圧縮工程時の断熱圧縮により燃焼用空気が非常に高温まで上昇し、断熱圧縮された燃焼用空気に燃料を噴射すると高温のため自然発火することになる。
【0008】
ディーゼルサイクルで上死点に達した燃焼用空気は、すでに高圧であるので燃料噴射による爆発で圧力が更に上昇することを防止するため、燃料の噴射圧力を適切に調節して、上死点における燃料の燃焼圧力を一定に維持する。
【0009】
ディーゼル機関は、燃料の圧縮比が高くなるほど燃焼効率が増加するが、爆発圧力を考慮して一般的に約15:1~22:1の圧縮比で燃料を圧縮する。
【0010】
また、ディーゼル機関は、圧縮工程で空気のみ圧縮されるので、ピストンが上死点に達する前に早期着火が発生する現象であるノッキング(Knocking)が根本的に発生しない。
【0011】
DFエンジンは、4ストローク又は2ストローク機関であり、比較的に低圧である6.5又は18bar程度の圧力を有する天然ガスを燃焼空気入口に注入して、ピストンが上昇しながら圧縮するオットーサイクル(Otto Cycle)を採用する。
【0012】
オットーサイクルは、上死点付近で燃焼が起こるときの体積が一定である定圧過程を有し、燃料と燃焼用空気の混合気が上昇工程の前でシリンダー内に流入して一緒に圧縮される。シリンダー内に流入した混合気は断熱圧縮されて温度が上昇するが、混合気の温度が上昇しすぎれば早期着火の恐れがある。したがって、オットーサイクルの圧縮比はディーゼルサイクルに比べて低く設定される。
【0013】
オットーサイクルの圧縮比は比較的低く設定されるので、上死点で点火源によって燃料が爆発したときに高圧まで達する必要があり、燃料を最短時間内で爆発させるのが機関の効率を高めることになる。
【0014】
また、オットーサイクルを採用するエンジンは、燃料と燃焼用空気の混合気を上昇工程の前でシリンダー内に流入させるので、点火源によって点火前に早期着火が起こるノッキング現象が生じる恐れがある。
【0015】
ノッキング現象が起こると、機関の効率が低下しエンジンへの損傷をもたらす可能性があるため、オットーサイクルのエンジンは、ノッキング現象を防止して運転することが重要である。
【0016】
オットーサイクルのエンジンに使用される燃料が早期着火しない性能、すなわち、アンチノッキング(anti-knocking)は、液体燃料の場合はオクタン価(octane number)により、ガス燃料の場合はメタン価(methane number)によって規定され、DFのエンジンの場合はメタン価が80以上であることを必要とする。
【0017】
オットーサイクルのDFエンジンは、ディーゼルサイクルのME-GIエンジンに比べて効率はより低いが、燃料の燃焼温度が高くなく高熱が原因で発生する窒素酸化物(NOx)の量が少ないため、現在発効中の窒素酸化物に関する規制であるIMO TierIIIを満足するという利点がある。
【0018】
前述の通り、貯蔵タンクに貯蔵されたLNGをエンジンに要求される条件に合わせて供給するためには、LNG及び各エンジンの特性を考慮した装備と燃料供給システムの構成とが必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
図1は、従来のLNG運搬船の燃料供給システムを簡単に図示した構成図である。
【0020】
図1における従来の燃料供給システムは、貯蔵タンク(T)から排出される蒸発ガスをエンジン(E1、E2)に供給する蒸発ガス供給システムと、エンジン(E1、E2)の燃料として使用後に残った余剰蒸発ガスを再液化する再液化システムと、貯蔵タンク(T)内部の液化天然ガスをエンジン(E1、E2)に供給する液化天然ガス供給システムとを備える。
【0021】
蒸発ガス供給システムは多段圧縮機(200)を備え、液化天然ガス供給システムは、第1ポンプ(610)、第2ポンプ(620)、気化器(700)、第1加熱器(810)、及び第2減圧装置(420)を備え、再液化システムは、第1熱交換器(110)、第1減圧装置(410)、及び気液分離器(500)を備える。
【0022】
多段圧縮機(200)は、貯蔵タンク(T)から排出される蒸発ガスを多段階で圧縮し、複数の圧縮部(210、220、230、240、250)、及び圧縮部の後段に圧縮部と交互で設置される複数の冷却器(310、320、330、340、350)を備え、一般的に5つの圧縮部と5つの冷却部によって5段階で蒸発ガスを圧縮する多段圧縮機が使用される。
【0023】
また、多段圧縮機(200)は、一つ又は複数の分岐ラインと連結され、分岐ラインは、圧縮部を通過して圧縮された蒸発ガスを再び圧縮部まで再供給することで多段圧縮機(200)を通過する蒸発ガスの圧力と流量を調節する。例えば、図1に示すように、分岐ラインは、第1圧縮部(210)の後段で蒸発ガスを分岐させて第1圧縮部(210)の前段に供給する第1分岐ライン(L1)と、第5圧縮部(250)の後段で蒸発ガスを分岐させて第4圧縮部(240)の前段に供給する第2分岐ライン(L2)とを備える。
【0024】
多段圧縮機(200)の全工程を経て圧縮された蒸発ガスは、第1エンジン(E1)に送られ、多段圧縮機(200)の一部工程のみを経て圧縮された蒸発ガスは、第3分岐ライン(L3)によって中間から分岐して第2エンジン(E2)に送られる。第1エンジン(E1)はME-GIエンジンであり、第2エンジン(E2)は発電用DFエンジンであり得る。
【0025】
第1ポンプ(610)は、貯蔵タンク(T)の内部に設置されて貯蔵タンク(T)に貯蔵された液化天然ガスを排出し、第2ポンプ(620)は、第1ポンプ(610)によって貯蔵タンク(T)から排出された液化天然ガスを第1エンジン(E1)の要求圧力まで加圧する。
気化器(700)は、第2ポンプ(620)によって加圧された液化天然ガスを強制気化させる。気化器(700)によって強制気化された天然ガスの一部は第1エンジン(E1)に供給され、その他は第1加熱器(810)に供給される。
【0026】
第1加熱器(810)は、気化器(700)によって気化された天然ガスを第2エンジン(E2)で必要とされる温度まで加熱し、第2減圧装置(420)は第1加熱器(810)によって加熱された天然ガスを第2エンジン(E2)で必要とされる圧力まで減圧する。
【0027】
図1では気化器(700)の後段に第1加熱器(810)が設置され、第1加熱器(810)の後段に第2減圧装置(420)が設置された場合を示したが、第1加熱器(810)と第2減圧装置(420)の設置位置とを交換して、気化器(700)の後段に第2減圧装置(420)が設置され、第2減圧装置(420)の後段に第1加熱器(810)が設置されても良い。
【0028】
第1熱交換器(110)は、多段圧縮機(200)の全工程を経て圧縮された後、第5分岐ライン(L5)によって分岐された蒸発ガスを、貯蔵タンク(T)から排出される蒸発ガスを冷媒にして、互いに熱交換させて冷却する。貯蔵タンク(T)から排出された蒸発ガスの中で、第1エンジン(E1)又は第2エンジン(E2)に供給されずに残った余剰蒸発ガスが、第1熱交換器(110)に供給されて再液化過程を経ることになる。
【0029】
第1減圧装置(410)は、多段圧縮機(200)によって圧縮された後に第1熱交換器(110)で冷却され、第5分岐ライン(L5)に沿って流れる流体を膨張させる。多段圧縮機(200)による圧縮過程と、第1熱交換器(110)による冷却過程と、第1減圧装置(410)による膨張過程を経た蒸発ガスは、一部又は全部が再液化される。
【0030】
気液分離器(500)は、多段圧縮機(200)、第1熱交換器(110)、及び第1減圧装置(410)を通過して再液化された液化天然ガスと、気体状態で残っている蒸発ガスとを分離する。気液分離器(500)によって分離された液化天然ガスは貯蔵タンク(T)に回収され、気液分離器(500)によって分離された気体状態の蒸発ガスは貯蔵タンク(T)から排出された蒸発ガスと合流して第1熱交換器(110)で冷媒として使用される。
【0031】
第2エンジン(E2)がDFエンジンなどのオットーサイクルのエンジンである場合、ノッキングの発生を防止するために第2エンジン(E2)に供給される天然ガスのメタン価を満足させる必要があるが、液化天然ガス供給システムによって強制気化された天然ガスは、蒸発ガス供給システムによって供給される自然気化蒸発ガスよりもメタン価が低い。
【0032】
液化天然ガス供給システムでは、貯蔵タンク(T)の下部に設置された第1ポンプ(610)によって貯蔵タンク(T)の下部の液化天然ガスを排出させて強制気化させるため、相対的に比重の高い成分の割合が多くなるからである。
【0033】
したがって、特に液化天然ガス供給システムの気化器などの再気化設備によって強制気化される天然ガスのメタン価を調節する必要があり、本発明は、エンジンの燃料として供給される天然ガスのメタン価などのオットーサイクルエンジンが要求する燃料ガスの条件を満たす液化天然ガス燃料船舶の燃料供給システム及び燃料供給方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0034】
上述した目的を達成するために、本発明は、液化天然ガスを燃料としてオットーサイクル(Otto Cycle)で作動するオットーサイクルエンジン;貯蔵タンクから液化天然ガスを排出する燃料供給ポンプ;排出された前記液化天然ガスを加圧する高圧ポンプ;前記高圧ポンプで加圧された液化天然ガスを気化させる気化器;前記気化器で気化された天然ガスを断熱膨張させる膨張バルブ;及び、前記膨張バルブで形成された気液混合物を気液分離する気液分離器;を備え、前記気液分離器で分離された液体を前記貯蔵タンクに回収し、前記気液分離器で分離された気体を前記オットーサイクルエンジンの燃料として供給して、前記オットーサイクルエンジンに供給される天然ガス燃料のメタン価を調節する、液化天然ガス燃料船舶の燃料供給システムを提供する。
【0035】
好ましくは、前記高圧ポンプで加圧されて前記気化器に供給される加圧液化天然ガスと、前記気液分離器で分離されて前記貯蔵タンクに回収される前記液体とを熱交換させる液化天然ガスクーラー;を更に備え、前記液化天然ガスクーラーで前記気化器に供給される前記加圧液化天然ガスは加熱され、前記貯蔵タンクに回収される液体は冷却される。
【0036】
好ましくは、前記気液分離器で分離されて前記オットーサイクルエンジンの燃料として供給される前記天然ガス燃料を加熱する燃料ガス加熱器;を更に備え、前記膨張バルブ及び前記燃料ガス加熱器を通過した前記天然ガス燃料は、前記オットーサイクルエンジンで必要とされる温度に調節される。
【0037】
好ましくは、前記オットーサイクルエンジンは、液化天然ガス燃料船舶の推進用エンジンであり、2ストロークエンジン(2-Stroke Engine)であるX-DFエンジン;前記液化天然ガス燃料船舶の補助電力生産用のエンジンであり、4ストロークエンジン(4-Stroke Engine)であるDFDG(Dual Fuel Diesel Generator);を含み、前記燃料ガス加熱器を通過した前記天然ガス燃料は、前記X-DFエンジンで必要とされる温度及び圧力に調節される。
【0038】
好ましくは、前記DFDGに供給する前記天然ガス燃料を減圧する減圧バルブ;を更に備え、前記燃料ガス加熱器及び前記減圧バルブを通過した前記天然ガス燃料は、前記DFDGで必要とされる圧力に調節される。
【0039】
好ましくは、前記高圧ポンプ及び前記気化器を介して前記液化天然ガスが前記貯蔵タンクから前記オットーサイクルエンジンに供給される経路を提供する液化天然ガス燃料ライン;及び、前記貯蔵タンクで発生する蒸発ガスが前記エンジンの燃料として供給されるための経路を提供する蒸発ガス燃料ライン;を備え、前記蒸発ガス燃料ラインは、前記蒸発ガスを圧縮する圧縮部;及び、前記圧縮部での圧縮により加熱された前記蒸発ガスを冷却する中間冷却器;を備える。
【0040】
好ましくは、圧縮及び冷却された前記蒸発ガスを、前記気化器に供給される前記加圧液化天然ガスと熱交換させる蒸発ガスクーラー;を更に備え、前記蒸発ガスクーラーで、前記気化器に供給される前記加圧液化天然ガスが加熱され、前記蒸発ガスは冷却される。
【0041】
好ましくは、前記蒸発ガスクーラーで冷却された前記蒸発ガスを前記気液分離器に供給される前記気液混合物と同一圧力まで膨張させる蒸発ガス膨張バルブ;を更に備える。
【0042】
好ましくは、前記貯蔵タンクで発生する前記蒸発ガスを処理するGCU(Gas Combustion Unit);を更に備える。
【0043】
好ましくは、前記オットーサイクルエンジンの負荷変動に応じて前記高圧ポンプ、前記気化器、前記膨張バルブ、及び前記気液分離器に供給される流体又は前記高圧ポンプ、前記気化器、前記膨張バルブ、及び前記気液分離器から排出される流体の温度、圧力、及び流量を制御する制御部;を更に備える。
【0044】
上述した目的を達成するために、本発明は、1)燃料供給ポンプを利用して貯蔵タンクに貯蔵された液化天然ガスを外部に排出し、高圧ポンプを用いて加圧する工程;2)加圧された加圧液化天然ガスを気化器を利用して気化させる工程;3)気化された天然ガスを膨張させる工程;4)膨張により形成された気液混合物を気液分離する工程;及び、5)気液分離された液体を前記貯蔵タンクに再供給し、気液分離された気体を燃料としてオットーサイクルで作動するオットーサイクルエンジンに供給する工程;を備え、前記貯蔵タンクに貯蔵された前記液化天然ガスを前記オットーサイクルエンジンで必要とされる温度、圧力、及びメタン価を有する燃料として供給する、液化天然ガス燃料船舶の燃料供給方法をも提供する。
【0045】
好ましくは、1-1)前記2)の工程において、前記加圧液化天然ガスを気化する前に、前記5)工程において前記貯蔵タンクに再供給される前記液体と前記加圧液化天然ガスを熱交換する工程;を更に備え、前記加圧液化天然ガスを前記貯蔵タンクに再供給される前記液体によって加熱した後に気化させ、前記貯蔵タンクに再供給される前記液体は前記加圧液化天然ガスによって冷却した後に前記貯蔵タンクに再供給する。
【0046】
好ましくは、5-1)前記5)の工程で気液分離されて前記オットーサイクルエンジンに供給する気体燃料を加熱する工程;及び、前記オットーサイクルエンジンの負荷変動に応じて前記各工程のいずれか一つ以上の工程で流体の圧力、温度、及び流量を制御する制御工程;を更に備え、前記5-1)の工程を通過した流体は、前記オットーサイクルエンジンで必要とされる圧力、温度、及びメタン価を有する。
【0047】
好ましくは、5-2)前記加熱された前記気体燃料を減圧する工程;を更に備え、前記5-2)の工程を通過した前記流体は、前記オットーサイクルエンジンで必要とされる圧力、温度、及びメタン価を有することになる。
【0048】
好ましくは、前記貯蔵タンクから排出された蒸発ガスを圧縮機で圧縮する工程;及び、圧縮された圧縮蒸発ガスを前記オットーサイクルエンジンの燃料として供給する工程;を更に備え、前記圧縮蒸発ガスは、前記オットーサイクルエンジンで必要とされる圧力と温度とを有する。
【0049】
好ましくは、前記圧縮蒸発ガスを膨張させる工程;を更に備え、膨張された蒸発ガスを前記4)の工程に合流させて前記オットーサイクルエンジンの燃料として供給する。
【0050】
好ましくは、前記圧縮蒸発ガスと、前記2)の工程で前記気化器に供給される前記加圧液化天然ガスとを熱交換させて前記圧縮蒸発ガスを冷却させる工程;を更に備え、冷却された前記圧縮蒸発ガスを前記オットーサイクルエンジンの燃料として供給する。
【発明の効果】
【0051】
本発明の液化天然ガス燃料船舶の燃料供給システム及び燃料供給方法は、オットーサイクルエンジンに要求される燃料ガスの条件を満たしてガス燃料を供給する。
【0052】
特に、従来のBOG圧縮機を用いた方法に比べて高圧ポンプと再気化設備を使用することで運転費用が低減され、高圧ポンプ及び再気化設備は、BOG圧縮機を適用するよりも機器の設置面積を縮小し、設置機器の価格を下げる。また、従来、高圧ポンプ及び再気化設備を使用しても、オットーサイクルエンジンの場合、メタン価を要求水準まで満たすことができなかったが、本発明は、オットーサイクルエンジンに要求されるメタン価を確保することができる。
【0053】
また、本発明の液化天然ガス燃料船舶の燃料供給システム及び燃料供給方法は、余剰ガスを再液化して貯蔵タンクに再供給するため、自然気化して廃棄されるBOGの量を最小限に抑える。
【0054】
また、船舶の運航中、エンジンの負荷は常に変動するが、本発明は、その変動に合わせて燃料ガスをその要求流量、温度、及び圧力を維持しながら供給する。
【0055】
特に、高圧ポンプの流量制御、並びに装備別の温度及び圧力制御によって、エンジン負荷に対して柔軟に対応することができると共に、エンジン燃料の要求温度と圧力とを一定に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】従来のLNG運搬船の燃料供給システムを簡単に図示した構成図。
図2】本発明の一実施形態である液化天然ガス燃料船舶の燃料供給システムを簡単に図示した構成図。
【発明を実施するための形態】
【0057】
本発明における作動上の利点及び実施によって達成する目的を十分に理解するため、本発明の好適な実施形態を例示する添付図面及び添付図面に記載の内容を参照する必要がある。
【0058】
以下、添付図面を参照して、本発明における好適な実施形態の構成及び作用を詳細に説明する。ここで、各図面の構成要素に関する参照符号を付加することにおいて、同一構成要素はたとえ他の図面上に表示されても、可能な限り同一符号で表記したことに留意してほしい。
【0059】
下記の実施形態では、液化天然ガスの場合を例に説明するが、本発明を様々な液化ガスに適用することと下記の実施形態を他の様々な形態で変更することができ、本発明の範囲は下記の実施形態に限定されない。
【0060】
また、下記の実施形態において各流路を流れる流体は、システムの運用条件に応じて、気体状態、気液混合状態、液体状態、又は超臨界流体の状態である。
【0061】
また、下記の実施形態における船舶は、液化天然ガスを貨物として輸送する液化天然ガス運搬船(LNG Carrier)を例にして説明するが、液化天然ガスを貯蔵する貯蔵タンクを備えた一般の商船であることもできる。本実施形態は液化天然ガスを燃料として使用するエンジンが設けられ、エンジンによって推進力を発生し、エンジンの駆動で電力を生産して使用するすべての船舶に適用することができる。
【0062】
図2は、本発明の一実施形態による液化天然ガス燃料船舶の燃料供給システムを簡単に図示した構成図である。以下、図2を参照して本発明の一実施形態による液化天然ガス燃料船舶の燃料供給システム及び方法を説明する。
【0063】
本発明の一実施形態による液化天然ガス燃料船舶の燃料供給システムは、図2に示すように、液化天然ガスを貯蔵する貯蔵タンク(10)の内部に貯蔵された液化天然ガスをエンジン(ME、GE)に供給する液化天然ガス燃料ライン(LL)を備える。
【0064】
本実施形態の液化天然ガスを貯蔵する貯蔵タンク(10)は、常圧で極低温の液化天然ガスを貯蔵するように設計・製作されたメンブレン(Membrane)タンク又は比較的高圧で極低温の液化天然ガスを貯蔵するように設計・製作されたType Cタンクであり、設置位置、容量などによって選択する。ただし、本実施形態の貯蔵タンク(10)はメンブレンタンクであることが好ましい。
【0065】
本実施形態において、液化天然ガス燃料ライン(LL)に沿って液化天然ガス燃料が供給されるエンジンは、オットーサイクルを適用するオットーサイクルエンジン(ME、GE)である。
【0066】
本実施形態においてオットーサイクルエンジンは、2-ストロークDFME(2-stroke Dual Fuel Main Engine)であり、船舶の主推進用エンジンであるX-DF(eXtra long stroke Dual Fuel)エンジン(ME)及び4-ストロークDFDG(4-stroke Dual Fuel Diesel Generator Engine)であって、船舶の電力生産用の補助エンジン(GE)を備えることができ、X-DFエンジン(ME)と電力生産用のエンジン(GE)は燃料として供給される天然ガスの種類が互いに異なる。
【0067】
例えば、本実施形態のX-DFエンジン(ME)は約18barg内外、約0~60℃及び約80以上のメタン価(Methane Number)を有する天然ガス燃料を必要とし、電力生産用のエンジン(GE)は約5barg内外、約0~60℃及び約80以上のメタン価を有する天然ガス燃料を必要とする。
【0068】
したがって、このようなエンジン(ME、GE)の燃料ガスの要求条件を満たしながら、エンジン(ME、GE)に液化天然ガス燃料を供給するためには、極低温と常圧で液体状態として貯蔵されている液化天然ガスを加熱、気化、圧縮してメタン価を調節する必要がある。
【0069】
本実施形態の液化天然ガス燃料ライン(LL)上には、貯蔵タンク(10)に貯蔵された液化天然ガスをオットーサイクルエンジン(ME、GE)が必要とする燃料の圧力、温度、メタン価などの条件を満足する燃料ガスとして供給するために、貯蔵タンク(10)から液化天然ガスを排出する燃料供給ポンプ(11)、燃料供給ポンプ(11)で排出された液化天然ガスを圧縮する高圧ポンプ(20)、高圧ポンプ(20)で加圧された液化天然ガスを気化させる気化器(30)、気化器(30)で気化された天然ガスを断熱膨張させる膨張バルブ(40)、及び膨張バルブ(40)で膨張によって形成された気液混合物を気液分離する気液分離器(50)が設けられる。
【0070】
本実施形態の燃料供給ポンプ(11)は、貯蔵タンク(10)の内部に設けられるが、好ましくは、貯蔵タンク(10)の内部の下部、貯蔵タンク(10)の底面近くに設置される。すなわち、燃料供給ポンプ(11)は、貯蔵タンク(10)の最も下部に貯蔵されている液化天然ガスを吸引して高圧ポンプ(20)に供給する。
【0071】
また、燃料供給ポンプ(11)は、貯蔵タンク(10)に貯蔵された液化天然ガスを貯蔵タンク(10)の内部から高圧ポンプ(20)まで移送し、貯蔵タンク(10)の容量、燃料供給ポンプ(11)と高圧ポンプ(20)とを連結する配管の圧力降下、エンジン(ME、GE)に供給する燃料ガスの量などに応じて吐出圧力と流量が決定される。
【0072】
本実施形態の高圧ポンプ(20)は、燃料供給ポンプ(11)から吐出された極低温の液化天然ガスを高圧で加圧する。高圧ポンプ(20)によって液化天然ガスは、高圧に加圧されて温度が上昇し、好ましくは、温度が上昇しても液化天然ガスは液体状態を維持する。
【0073】
例えば、高圧ポンプ(20)は貯蔵タンク(10)から排出された約1.2bar、-163℃の液化天然ガスを約300barの圧力まで加圧し、高圧ポンプ(20)によって加圧された液化天然ガスは約300bar、-154℃の液体状態である。
【0074】
また、本実施形態の高圧ポンプ(20)は、ピストン(Piston)タイプであり、回転数を調節する方法によって流量を調節する。
【0075】
本実施形態の気化器(30)は、高圧ポンプ(20)によって高圧に加圧された加圧液化天然ガスを、熱源を利用して加熱する一種の熱交換器であり、気化器(30)で加圧液化天然ガスは熱エネルギーを得て、少なくとも一部又は全量がガス状態で気化することになる。
【0076】
例えば、気化器(30)は圧縮液化天然ガスを約-50℃の温度に加熱し、気化器(30)で気化された天然ガスは約300bar、-50℃の状態になる。
【0077】
気化器(30)で加圧液化天然ガスを加熱する熱源には、蒸気(Steam)又はグリコールウォーター(Glycol Water)などがある。また、グリコールウォーターは、海水又は船舶内の燃焼装置の廃熱(Waste Heat)を回収して加熱する。気化器(30)の熱源はこれらに限定されない。
【0078】
本実施形態の膨張バルブ(40)には、気化器(30)を通過した高圧の天然ガスを断熱膨張させるジュール-トムソンバルブ(Joule-Thomson Valve)などがある。膨張バルブ(40)を通過しながら高圧の天然ガスは膨張により冷却され、流体の温度低下は、膨張の程度が膨張バルブ(40)を通過する前と通過した後との差が高いほど大きい。
【0079】
本実施形態では膨張バルブ(40)は、高圧の天然ガスを約17barまで断熱膨張させる。
【0080】
例えば、液化天然ガスを燃料ガスとしてオットーサイクルエンジン、特にX-DFエンジン(ME)に供給しようとする場合、気化器(30)を通過した高圧の天然ガスを約17barに膨張させ、膨張バルブ(40)を通過した天然ガスは約17bar、-102.5℃の状態であり、膨張によって冷却されながら気液混合物を形成する。
【0081】
また、液化天然ガスを燃料ガスとしてオットーサイクルエンジン、特に電力生産用のエンジン(GE)に供給しようとする場合には、気化器(30)を通過した高圧の天然ガスを約7barまで膨張させ、膨張バルブ(40)を通過した天然ガスは約7bar、-122.5℃の気液混合物の状態である。
【0082】
本実施形態の気液分離器(50)は、膨張バルブ(40)で形成された気液混合物を気液分離し、分離された液体は、気液分離器(50)の下部から貯蔵タンク(10)の内部に連結された液化天然ガスリターンライン(RL)を通して貯蔵タンク(10)に回収され、分離された気体は、気液分離器(50)の上部に連結される液化天然ガス燃料ライン(LL)に沿って、オットーサイクルエンジン(ME、GE)に燃料として供給される。
【0083】
本実施形態の気液分離器(50)は、エンジン(ME、GE)に供給される燃料ガスのメタン価を調節する手段として活用される。
【0084】
メタン価(methane number)とはノッキング(knocking)現象に対する抵抗性を数値で表したものであり、ノッキング現象とは燃料と燃焼空気とが混合された混合気がエンジンのシリンダー内でピストンの上昇工程時に圧縮されながら異常に早い時点で自然発火温度に達して爆発する現象である。また、ノッキング現象は、強力なノイズや衝撃を伴ってエンジンの寿命の短縮と出力の低下をもたらすことになる。したがって、エンジンに供給される燃料は、エンジンが必要とするメタン価を有するように調節して供給しなければならない。
【0085】
メタン価は、燃料の炭素数が少ないほど、且つ水素/炭素の比が大きいほど増加し、メタン価が高いほどノッキング現象に対する抵抗性が大きくなる。
【0086】
本実施形態では、気液分離器(50)から分離されエンジン(ME、GE)に燃料として供給される気体成分はメタン(CH)が主成分であり、少量の重炭化水素成分を含む。気液分離器(50)で分離されて貯蔵タンク(10)に回収される液体成分は、主にエタン、プロパン、ブタンなどの重炭化水素の成分である。
【0087】
したがって、本実施形態の気液分離器(50)は、燃料として供給される成分が主に炭素数の少ないメタンであるため、メタン価の高い燃料ガスをエンジン(ME、GE)に供給することができる。
【0088】
本実施形態では、気液分離器(50)に供給される気液混合物、気液分離器(50)から分離されて液化天然ガス燃料ライン(LL)に排出される気体成分、及び気液分離器(50)から分離されて液化天然ガスのリターンライン(RL)に排出される液体成分の各組成が、下記の表1に示すように運転する。
【0089】
表1に示した流体の組成は、HYSYSシミュレーションによるものであり、流体が燃料供給ポンプ(11)を用いて供給された約1.2bar、-163℃、500kg/hrの液化天然ガスであることを想定してシミュレーションした。表1に示すように、気液分離器(50)から分離排出される気体成分は、メタンの濃度が高く、重炭化水素の割合は小さく、また、液体成分は重炭化水素の割合が高い。
【0090】
また、表1の組成物は主要成分のみを示し、極少量のノルマルブタン(n-Butane)、イソペンタン(i-Pentane)、窒素(Nitrogen、N)、二酸化炭素(Carbon Dioxide、CO)などの割合は省略している。したがって、表1に示した組成物の割合の合計は必ずしも1.0000にはならない。
【0091】
【表1】
【0092】
メタン価は、供給される燃料ガスの組成によって決定され、液化天然ガスの主成分はメタンであるが、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、窒素、二酸化炭素なども少し含まれているため、燃料ガス供給システムの特性によって供給される燃料ガスの組成が異なるが、それに応じてメタン価も変わることになる。
【0093】
本実施形態は、燃料供給ポンプ(11)を利用して、貯蔵タンク(10)の最下部に貯蔵されている液化天然ガスを移送しながら気化させて燃料として供給するので、貯蔵タンク(10)から自然気化して発生するエタン、プロパンなどの重炭化水素のモル比が高い蒸発ガスよりも相対的にメタン価が高い。このため、より適切な燃料を供給することができる。また、高圧ポンプ(20)及び気化器(30)を利用して、液体状態の天然ガスを気化させ、相対的に高圧の燃料を必要とするディーゼルサイクルエンジンではない、中圧、又は低圧の燃料を必要とするオットーサイクルエンジンの燃料として供給しても、気液分離器(50)を利用することによりメタン価を調節して供給することができる。
【0094】
本実施形態は、図2に示すように、気液分離器(50)から分離された気体成分が燃料ガスとしてエンジン(ME、GE)に供給され、気液分離器(50)の後段の液化天然ガス燃料ライン(LL)は、気液分離器(50)から分離されてエンジン(ME、GE)に供給される燃料ガスをエンジン(ME、GE)で要求される温度まで加熱する燃料ガス加熱器(60);を更に備える。
【0095】
本実施形態において、エンジン(ME、GE)に供給される燃料ガスは、燃料ガス加熱器(60)で約45℃まで加熱される。
【0096】
また、図2に示すように、本実施形態の液化天然ガス燃料ライン(LL)は、貯蔵タンク(10)からオットーサイクルエンジンに連結されるが、X-DFエンジン(ME)と電力生産用のエンジン(GE)の前段で、且つ燃料ガス加熱器(60)の後段からそれぞれのエンジンに分岐して連結することができ、各エンジンで必要とされる条件に合う燃料ガスを供給する。しかし、その分岐点は必ずしもこれに限定されない。
【0097】
本実施形態は、図2に示すように、液化天然ガス燃料ライン(LL)が貯蔵タンク(10)からX-DFエンジン(ME)に連結され、液化天然ガス燃料ライン(LL)からX-DFエンジン(ME)の前段から分岐した燃料ガス分岐ライン(LB)が更に連結されて、液化天然ガスの燃料を電力生産用のエンジン(GE)に供給する。燃料ガス分岐ライン(LB)には、液化天然ガス燃料ライン(LL)から燃料ガス分岐ライン(LB)に流入した燃料ガスの圧力を電力生産用のエンジン(GE)の燃料条件に合うように減圧する減圧バルブ(70);が更に備えられる。
【0098】
すなわち、貯蔵タンク(10)に貯蔵された液化天然ガスを液化天然ガス燃料ライン(LL)によって加圧、気化、膨張させてエンジン(ME、GE)に供給するが、液化天然ガス燃料ライン(LL)が貯蔵タンク(10)からオットーサイクルエンジン(ME、GE)に連結されて、X-DFエンジン(ME)にのみ液化天然ガス燃料を供給することができる。また、X-DFエンジン(ME)及び電力生産用のエンジン(GE)に燃料ガスを同時に供給するときには、高圧ポンプ(20)、気化器(30)、膨張バルブ(40)などを制御して燃料ガスの圧力と温度とがX-DFエンジン(ME)の燃料条件を満足するように制御し、減圧バルブ(70)を利用して電力生産用のエンジン(GE)に供給される燃料ガスの圧力を電力生産用のエンジン(GE)の燃料条件を満足するように制御する。
【0099】
本実施形態で、液化天然ガス燃料ライン(LL)を通してX-DFエンジン(ME)に供給される燃料ガスは約17bar、45℃であり、液化天然ガス燃料ライン(LL)から燃料ガス分岐ライン(LB)に分岐し減圧バルブ(70)を通過して電力生産用のエンジン(GE)に供給される燃料ガスは約6.5bar、45℃である。
【0100】
また、液化天然ガスを燃料として液化天然ガス燃料ライン(LL)を通して電力生産用のエンジン(GE)に供給する場合には、膨張バルブ(40)で、加圧、気化した天然ガスを約7barに膨張させる。
【0101】
また、本実施形態は、図2に示すように、液化天然ガス燃料供給ライン(LL)には高圧ポンプ(20)と気化器(30)との間に、高圧ポンプ(20)で加圧された液化天然ガスと気液分離器(50)から分離されて液化天然ガスリターンライン(RL)に沿って貯蔵タンク(10)に回収される液体成分を熱交換させる液化天然ガスクーラー(31)を更に備える。
【0102】
例えば、液化天然ガスクーラー(31)は、高圧ポンプ(20)で加圧された約300bar、-154℃の加圧液化天然ガスと、気液分離器(50)で分離されて貯蔵タンク(10)に回収される約-122.5℃の液体成分が熱交換して、加圧液化天然ガスは気化器(30)に供給される前に予熱され、液体成分は貯蔵タンク(10)に回収される前に冷却される。液化天然ガスクーラー(31)で熱交換した後に排出されて気化器(30)に供給される加圧液化天然ガスは約300bar、-149.3℃まで加熱され、熱交換後に排出されて貯蔵タンク(10)に回収される液体成分は約-140~-152℃である。
【0103】
したがって、本実施形態は、気液分離器(50)から分離されて貯蔵タンク(10)に再供給される液体成分をより低い温度に冷却させて貯蔵タンク(10)に回収するため、貯蔵タンク(10)内で発生する蒸発ガス(BOG;Boil-Off Gas)の量を最小限に抑えることができる。
【0104】
また、本実施形態の液化天然ガス燃料船舶の燃料供給システムは、液化天然ガスを高圧ポンプ(20)及び気化器(30)を利用してエンジン(ME、GE)に供給する液化天然ガス燃料ライン(LL)と共に、貯蔵タンク(10)から自然気化して発生する蒸発ガスをオットーサイクルエンジン(ME、GE)の燃料として供給する蒸発ガス燃料ライン(GL);を更に備える。
【0105】
本実施形態の蒸発ガス燃料ライン(GL)は、図2に示すように、貯蔵タンク(10)から液化天然ガス燃料ライン(LL)に連結することができ、好ましくは、燃料ガス加熱器(60)の後段に合流させる。
【0106】
また、蒸発ガス燃料ライン(GL)は、蒸発ガス燃料ライン(GL)から分岐して液化天然ガス燃料ライン(LL)の気液分離器(50)に連結される蒸発ガス分岐ライン(GB1)を更に備えることができ、蒸発ガス分岐ライン(GB1)には気液分離器(50)に供給される流体を断熱膨張させる蒸発ガス膨張バルブ(41)が設けられる。
【0107】
蒸発ガス燃料ライン(GL)には、貯蔵タンク(10)から排出された蒸発ガスを圧縮する多段圧縮機(MC)と、多段圧縮機(MC)で圧縮された蒸発ガスを冷却する蒸発ガスクーラー(32)とが設けられる。
【0108】
多段圧縮機(MC)は、蒸発ガスを多段に圧縮する複数の圧縮部(Compressor)と、各圧縮部の後段に設けられて各圧縮部の圧縮工程により温度が上昇した蒸発ガスを冷却する複数の中間冷却部(Inter-cooler)とを備えることができる。
【0109】
本実施形態では、多段圧縮機(MC)は、貯蔵タンク(10)から発生する蒸発ガスを処理するための手段であり、また、上述した高圧ポンプ(20)又は気化器(30)に故障などの問題が発生した場合は、蒸発ガスを直接又は気液分離器(50)を通過させて電力生産用のエンジン(GE)に供給する手段として設けられている。
【0110】
本実施形態の多段圧縮機(MC)は、2つの圧縮部と2つの中間冷却部を備えて蒸発ガスを2つのステップで圧縮する2段圧縮機、又は1つの圧縮部と1つの中間冷却部を備えて蒸発ガスを1つのステップで圧縮する1段圧縮機である。
【0111】
本実施形態の蒸発ガスクーラー(32)は、多段圧縮機(MC)で圧縮された蒸発ガスと、上述した液化天然ガス燃料ライン(LL)で高圧ポンプ(20)により加圧された液化天然ガスを熱交換させ、高圧ポンプ(20)で加圧された液化天然ガスの冷熱を利用して多段圧縮機(MC)で圧縮された蒸発ガスを冷却する。
【0112】
すなわち、蒸発ガスクーラー(32)において、高圧ポンプ(20)で加圧された加圧液化天然ガスは加熱されて排出され、多段圧縮機(MC)で圧縮された圧縮蒸発ガスは冷却されて排出される。
【0113】
好ましくは、蒸発ガスクーラー(32)は、上述した液化天然ガスクーラー(31)の後段に設けられる。すなわち、高圧ポンプ(20)で加圧された加圧液化天然ガスは、液化天然ガスクーラー(31)で気液分離器(50)から分離されて貯蔵タンク(10)に回収される再液化天然ガスと熱交換して1次加熱され、蒸発ガスクーラー(32)で多段圧縮機(MC)により圧縮された圧縮蒸発ガスと熱交換して2次加熱された後に気化器(30)に供給される。
【0114】
また、本実施形態では、圧縮蒸発ガスが蒸発ガスクーラー(32)を迂回して蒸発ガスクーラー(32)の後段に合流させるクーラーバイパスライン(GB)を更に備える。好ましくは、貯蔵タンク(10)から自然気化して発生した蒸発ガスは多段圧縮機(MC)で圧縮された後、クーラーバイパスライン(GB)に沿って蒸発ガスクーラー(32)を迂回して燃料ガス加熱器(60)の後段に合流させる。また、高圧ポンプ(20)の運転中に発生した蒸発ガスは、多段圧縮機(MC)で圧縮して蒸発ガスクーラー(32)で冷却した後、蒸発ガス分岐ライン(GB1)に沿って蒸発ガス膨張バルブ(41)で膨張させて気液分離器(50)に合流させる。
【0115】
蒸発ガス膨張バルブ(41)は、上述した液化天然ガス燃料ライン(LL)の膨張バルブ(40)と同一圧力まで蒸発ガスを膨張させる性能を有する。また、蒸発ガスクーラー(32)で冷却された蒸発ガスは、液化天然ガス燃料ライン(LL)を通して気液分離器(50)に供給される液化天然ガスの温度、すなわち、本実施形態では、約-50℃まで冷却される。
【0116】
すなわち、蒸発ガス分岐ライン(GB1)に沿って気液分離器(50)に供給される蒸発ガスと液化天然ガス燃料ライン(LL)に沿って気液分離器(50)に供給される液化天然ガスは、同一の圧力と温度で供給しなければ気液分離性能を阻害することになる。
【0117】
また、図示しないが、本発明に係る液化天然ガス燃料船舶の燃料供給システムは、上述した蒸発ガス燃料ライン(GL)を設置せず、貯蔵タンク(10)で発生した蒸発ガスを処理するための手段としてGCU(Gas Combustion Unit)を設けることもできる。すなわち、貯蔵タンク(10)で発生した蒸発ガスをオットーサイクルエンジンの燃料としては使用せず、燃焼させて処理することもできる。
【0118】
上述したように、本発明の液化天然ガス燃料船舶の燃料供給システム及び燃料供給方法は、LFS、特に低圧2工程の二元燃料エンジン(2SDFME)と二元燃料発電エンジン(DFDG)のようなオットーサイクルエンジンが適用された船舶において、エンジンに燃料ガスを供給するための燃料供給システム及び燃料供給方法に関するものである。本発明は、液化天然ガスを液体状態で高圧に加圧する高圧ポンプ(20)と、加圧した液化天然ガスを気化させる気化器(30)と、気化した天然ガスを断熱膨張させる膨張バルブ(40)と、膨張によって形成された気液混合物を気液分離する気液分離器(50)とを用いて、低圧のオットーサイクルエンジンが要求する燃料ガスの条件を満たしながら燃料をオットーサイクルエンジンに供給する。従来の蒸発ガス圧縮機を利用した方式に比べ高圧ポンプを活用するため、運転費用、特に電力エネルギー費用が低減されると共に、設置面積及び設置機器の費用が低減される。
【0119】
また、高圧ポンプ(20)と気化器(30)とを利用して低圧のオットーサイクルエンジンに燃料を供給してもメタン価を調節することが可能であり、気化された一部のガスは再液化して貯蔵タンク(10)に回収するため、貯蔵タンク(10)で自然気化する蒸発ガスの量を最小限に抑えることができる。
【0120】
また、船舶の運航中、エンジンの負荷は常に変動するが、本発明は図示しない制御部によって高圧ポンプ(20)の流量を制御し、燃料供給システムを構成する各種装置の温度と圧力を制御することにより、エンジンの負荷変動に合わせて燃料ガスの要求流量、温度、及び圧力を維持しながら燃料を供給することができる。
【0121】
本発明は、前記実施形態に限定されず、本発明の技術的要旨を逸脱しない範囲内で様々な形態で修正又は変更して実施できることは、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者にとって明らかである。
図1
図2