IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジェネティック アナリシス エイエスの特許一覧

特許7100045食事指導または便微生物移植による過敏性腸症候群の治療に用いるコンパニオン診断法
<>
  • 特許-食事指導または便微生物移植による過敏性腸症候群の治療に用いるコンパニオン診断法 図1
  • 特許-食事指導または便微生物移植による過敏性腸症候群の治療に用いるコンパニオン診断法 図2
  • 特許-食事指導または便微生物移植による過敏性腸症候群の治療に用いるコンパニオン診断法 図3
  • 特許-食事指導または便微生物移植による過敏性腸症候群の治療に用いるコンパニオン診断法 図4
  • 特許-食事指導または便微生物移植による過敏性腸症候群の治療に用いるコンパニオン診断法 図5
  • 特許-食事指導または便微生物移植による過敏性腸症候群の治療に用いるコンパニオン診断法 図6
  • 特許-食事指導または便微生物移植による過敏性腸症候群の治療に用いるコンパニオン診断法 図7
  • 特許-食事指導または便微生物移植による過敏性腸症候群の治療に用いるコンパニオン診断法 図8
  • 特許-食事指導または便微生物移植による過敏性腸症候群の治療に用いるコンパニオン診断法 図9
  • 特許-食事指導または便微生物移植による過敏性腸症候群の治療に用いるコンパニオン診断法 図10
  • 特許-食事指導または便微生物移植による過敏性腸症候群の治療に用いるコンパニオン診断法 図11
  • 特許-食事指導または便微生物移植による過敏性腸症候群の治療に用いるコンパニオン診断法 図12
  • 特許-食事指導または便微生物移植による過敏性腸症候群の治療に用いるコンパニオン診断法 図13
  • 特許-食事指導または便微生物移植による過敏性腸症候群の治療に用いるコンパニオン診断法 図14
  • 特許-食事指導または便微生物移植による過敏性腸症候群の治療に用いるコンパニオン診断法 図15
  • 特許-食事指導または便微生物移植による過敏性腸症候群の治療に用いるコンパニオン診断法 図16
  • 特許-食事指導または便微生物移植による過敏性腸症候群の治療に用いるコンパニオン診断法 図17
  • 特許-食事指導または便微生物移植による過敏性腸症候群の治療に用いるコンパニオン診断法 図18
  • 特許-食事指導または便微生物移植による過敏性腸症候群の治療に用いるコンパニオン診断法 図19
  • 特許-食事指導または便微生物移植による過敏性腸症候群の治療に用いるコンパニオン診断法 図20
  • 特許-食事指導または便微生物移植による過敏性腸症候群の治療に用いるコンパニオン診断法 図21
  • 特許-食事指導または便微生物移植による過敏性腸症候群の治療に用いるコンパニオン診断法 図22
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】食事指導または便微生物移植による過敏性腸症候群の治療に用いるコンパニオン診断法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/06 20060101AFI20220705BHJP
   C12Q 1/6813 20180101ALI20220705BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20220705BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20220705BHJP
【FI】
C12Q1/06
C12Q1/6813 Z
C12Q1/6844
C12Q1/6869
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019541871
(86)(22)【出願日】2017-10-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-31
(86)【国際出願番号】 EP2017076261
(87)【国際公開番号】W WO2018069538
(87)【国際公開日】2018-04-19
【審査請求日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】1617519.2
(32)【優先日】2016-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】519135655
【氏名又は名称】ジェネティック アナリシス エイエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ヘッジ、フィン テリエ
(72)【発明者】
【氏名】カセン、クリスティーナ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルール、ヨルゲン
(72)【発明者】
【氏名】ロセス、アルネ
(72)【発明者】
【氏名】スマステュン、ミラダ クヴァンカロヴァ
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/156251(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/043654(WO,A1)
【文献】特表2009-511506(JP,A)
【文献】国際公開第2016/066175(WO,A1)
【文献】Alimentary Pharmacology and Therapeutics,2015年,vol.42,p.71-83
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00
C12Q 1/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過敏性腸症候群(IBS)に罹患した被験者が、IBS指導食による治療に応答する可能性を判断するための、インビトロでの方法であって、
前記IBS指導食は、低FODMAP食であり、
該方法は、
(i)低FODMAP食による治療を受ける下痢型IBSに罹患した被験者の胃腸管の検査試料について、
- アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii)
- バクテロイデス・スターコリス(Bacteroides stercosis)
- バクテロイデス・ズーグレフォルマンス(Bacteroides zoogleoformans)
- ドレアspp.(Dorea spp.)
- ユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum)
- バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)
- フィルミクテス門(Firmicutes)
- ベロイネラspp.(Veillonella spp.)、ヘリコバクターspp.(Helicobacter spp.)およびクロストリジウム綱(Clostridia)、ならびに
- シゲラspp.(Shigella spp.)およびエシェリキアspp.(Escherichia spp.)、
から選択される少なくとも1つの分類群の細菌の量を決定することと、
(ii)(a)前記の少なくとも1つの分類群の細菌の量を、IBSの症状を呈さない少なくとも1人の被験者の胃腸管の試料の少なくとも1つから求められた基準値と比較すること、および、前記検査試料における前記少なくとも1つの分類群の細菌の量が、前記基準値と異なるのか、または一致するのかを判断することであって、
ここで、分類群 アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii)、バクテロイデス・スターコリス(Bacteroides stercosis)、バクテロイデス・ズーグレフォルマンス(Bacteroides zoogleoformans)、ドレアspp.(Dorea spp.)又はユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum)における細菌の量が、前記基準値よりも多いこと、あるいは、分類群 バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)、フィルミクテス門(Firmicutes)、ベロイネラspp.(Veillonella spp.)、ヘリコバクターspp.(Helicobacter spp.)およびクロストリジウム綱(Clostridia)、またはシゲラspp.(Shigella spp.)およびエシェリキアspp.(Escherichia spp.)における細菌の量が、前記基準値よりも少ないことは、前記被験者が低FODMAP食に応答するということを示し、ならびに/または
(ii)(b)前記の少なくとも1つの分類群の細菌の量を、前記治療に応答することが以前に示された、前記IBS型に罹患した少なくとも1人のIBS罹患被験者の胃腸管の試料の少なくとも1つにおける前記細菌の量の中央値として求められたカットオフ値と比較すること、および、検査前記試料における前記少なくとも1つの分類群の細菌の量が、前記中央カットオフ値よりも多いのか、または少ないのかを判断することであって、
分類群 アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii)、バクテロイデス・スターコリス(Bacteroides stercosis)、バクテロイデス・ズーグレフォルマンス(Bacteroides zoogleoformans)、ドレアspp.(Dorea spp.)、またはユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum)における細菌の量が、前記細菌の中央カットオフ値よりも多いこと、あるいは、分類群 バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)、フィルミクテス門(Firmicutes)、ベロイネラspp.(Veillonella spp.)、ヘリコバクターspp.(Helicobacter spp.)およびクロストリジウム綱(Clostridia)、またはシゲラspp.(Shigella spp.)およびエシェリキアspp.(Escherichia spp.)における細菌の量が、前記細菌の中央カットオフ値よりも少ないことは、被験者が低FODMAP食に応答するということを示す、ことを含む、方法。
【請求項2】
過敏性腸症候群(IBS)に罹患した被験者が、IBS指導食による治療に応答する可能性を判断するための、インビトロでの方法であって、
前記IBS指導食は、高FOS食であり、
該方法は、
(i)高FOS食による治療を受ける下痢型IBSに罹患した被験者の胃腸管の検査試料について、
- ユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum)
- フィルミクテス門(Firmicutes)、ならびに
- バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.)
から選択される少なくとも1つの分類群の細菌の量を決定することと、
(ii)(a)前記の少なくとも1つの分類群の細菌の量を、IBSの症状を呈さない少なくとも1人の被験者の胃腸管の試料の少なくとも1つから求められた基準値と比較すること、および、前記検査試料における前記少なくとも1つの分類群の細菌の量が、前記基準値と異なるのか、または一致するのかを判断することであって、
分類群 ユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum)、フィルミクテス門(Firmicutes)、またはバクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.)における細菌の量が、前記基準値よりも多いことは、前記被験者が高FOS食に応答するということを示し、ならびに/または
(ii)(b)前記の少なくとも1つの分類群の細菌の量を、前記治療に応答することが以前に示された、前記IBS型に罹患した少なくとも1人のIBS罹患被験者の胃腸管の試料の少なくとも1つにおける前記細菌の量の中央値として求められたカットオフ値と比較すること、および、検査前記試料における前記少なくとも1つの分類群の細菌の量が、前記中央カットオフ値よりも多いのか、または少ないのかを判断することであって、
分類群 ユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum)、フィルミクテス門(Firmicutes)、またはバクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.)における細菌の量が、前記細菌の中央カットオフ値よりも多いことは、前記被験者が高FOS食に応答するということを示すことを含む、方法。
【請求項3】
過敏性腸症候群(IBS)に罹患した被験者が、IBS指導食による治療に応答する可能性を判断するための、インビトロでの方法であって、
前記IBS指導食は、低FODMAP食であり、
該方法は、
(i)低FODMAP食による治療を受ける便秘型IBSに罹患した被験者の胃腸管の検査試料について、
- クロストリジウム・メチルベントーサム(Clostridium methylpentosum)
- ユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum)
- アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii)、および
- デスルフィチポラ・アルカリフィラ(Desulfitipora alkaliphila)
から選択される少なくとも1つの分類群の細菌の量を決定することと、
(ii)(a)前記の少なくとも1つの分類群の細菌の量を、IBSの症状を呈さない少なくとも1人の被験者の胃腸管の試料の少なくとも1つから求められた基準値と比較すること、および、前記検査試料における前記少なくとも1つの分類群の細菌の量が、前記基準値と異なるのか、または一致するのかを判断することであって、
分類群 クロストリジウム・メチルベントーサム(Clostridium methylpentosum)またはユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum)における細菌の量が、前記基準値よりも多いこと、あるいは、分類群 アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii)またはデスルフィチポラ・アルカリフィラ(Desulfitipora alkaliphila)における細菌の量が、前記基準値よりも少ないことは、被験者が低FODMAP食に応答するということを示し、ならびに/または
(ii)(b)前記の少なくとも1つの分類群の細菌の量を、前記治療に応答することが以前に示された、前記IBS型に罹患した少なくとも1人のIBS罹患被験者の胃腸管の試料の少なくとも1つにおける前記細菌の量の中央値として求められたカットオフ値と比較すること、および、検査前記試料における前記少なくとも1つの分類群の細菌の量が、前記中央カットオフ値よりも多いのか、または少ないのかを判断することであって、 分類群 クロストリジウム・メチルベントーサム(Clostridium methylpentosum)またはユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum)における細菌の量が、前記細菌の中央カットオフ値よりも多いこと、あるいは、分類群 アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii)またはデスルフィチポラ・アルカリフィラ(Desulfitipora alkaliphila)における細菌の量が、前記中央カットオフ値よりも少ないことは、被験者が低FODMAP食に応答するということを示すことを含む、方法。
【請求項4】
過敏性腸症候群(IBS)に罹患した被験者が、便微生物移植(FMT)による治療に応答する可能性を判断するための、インビトロでの方法であって、該方法は、
(i)FMTによる治療を受ける下痢型IBS罹患した被験者の胃腸管の検査試料について、
- クロストリジウムsp.(Clostridium sp.)
- ユウバクテリウム・ハリイ(Eubacterium hallii)、ならびに
- バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.)、
から選択される少なくとも1つの分類群の細菌の量を決定することと、
(ii)(a)前記の少なくとも1つの分類群の細菌の量を、IBSの症状を呈さない少なくとも1人の被験者の胃腸管の試料の少なくとも1つから求められた基準値と比較すること、および、前記検査試料における前記少なくとも1つの分類群の細菌の量が、前記基準値と異なるのか、または一致するのかを判断することであって、
分類群 クロストリジウムsp.(Clostridium sp.)またはユウバクテリウム・ハリイ(Eubacterium hallii)における細菌の量が、前記基準値よりも多いこと、あるいは、分類群 バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.)における細菌の量が、前記基準値よりも少ないことは、前記被験者がFMTに応答するということを示し、ならびに/または
(ii)(b)前記の少なくとも1つの分類群の細菌の量を、前記治療に応答することが以前に示された、前記IBS型に罹患した少なくとも1人のIBS罹患被験者の胃腸管の試料の少なくとも1つにおける前記細菌の量の中央値として求められたカットオフ値と比較すること、および、検査前記試料における前記少なくとも1つの分類群の細菌の量が、前記中央カットオフ値よりも多いのか、または少ないのかを判断することであって、
分類群 クロストリジウムsp.(Clostridium sp.)またはユウバクテリウム・ハリイ(Eubacterium hallii)における細菌の量が、前記細菌の中央カットオフ値よりも多いこと、あるいは、分類群 バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.)における細菌の量が、前記細菌の中央カットオフ値よりも少ないことは、前記被験者がFMTに応答するということを示すことを含む、方法。
【請求項5】
過敏性腸症候群(IBS)に罹患した被験者が、IBS指導食による治療または便微生物移植(FMT)による治療に応答する可能性を判断するための、インビトロでの方法であって、該方法は、
(i)FMTによる治療を受ける混合型IBSに罹患した被験者の胃腸管の検査試料について、
- クロストリジウムsp.(Clostridium sp.)
- バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.)、ならびに
- ディアリスター・インビサス(Dialister invisus)
から選択される少なくとも1つの分類群の細菌の量を決定することと、
(ii)(a)前記の少なくとも1つの分類群の細菌の量を、IBSの症状を呈さない少なくとも1人の被験者の胃腸管の試料の少なくとも1つから求められた基準値と比較すること、および、前記検査試料における前記少なくとも1つの分類群の細菌の量が、前記基準値と異なるのか、または一致するのかを判断することであって、
分類群 クロストリジウムsp.(Clostridium sp.)における細菌の量が、前記基準値よりも多いこと、あるいは、分類群 バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.)、ならびにディアリスター・インビサス(Dialister invisus)における細菌の量が、前記基準値よりも少ないことは、前記被験者がFMTに応答するということを示し、ならびに/または
(ii)(b)前記の少なくとも1つの分類群の細菌の量を、前記治療に応答することが以前に示された、前記IBS型に罹患した少なくとも1人のIBS罹患被験者の胃腸管の試料の少なくとも1つにおける前記細菌の量の中央値として求められたカットオフ値と比較すること、および、検査前記試料における前記少なくとも1つの分類群の細菌の量が、前記中央カットオフ値よりも多いのか、または少ないのかを判断することであって、
分類群 クロストリジウムsp.(Clostridium sp.)における細菌の量が、前記細菌の中央カットオフ値よりも多いこと、あるいは、分類群 バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.)、ならびにディアリスター・インビサス(Dialister invisus)における細菌の量が、前記細菌の中央カットオフ値よりも少ないことは、前記被験者がFMTに応答するということを示すことを含む、方法。
【請求項6】
前記分類群のうちの少なくとも2つ、3つ、4つ、またはすべてにおける前記細菌の量が決定され、ステップ(ii)(a)において、IBSの症状を呈さない少なくとも1人の被験者の少なくとも1つの胃腸管試料から作成された前記分類群の基準値との比較が行われ、かつ/またはステップ(ii)(b)において、前記治療に応答することが以前に示された、少なくとも1人の前記IBS型に罹患したIBS罹患被験者の胃腸管の少なくとも1つの試料から作成された前記分類群のカットオフ値との比較が行われる、請求項15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの分類群の前記細菌の量を、核酸分析法によって求める、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの分類群の前記細菌の量を、核酸配列決定法、オリゴヌクレオチドプローブハイブリダイゼーション、プライマーに基づく核酸増幅法; 抗体またはその他の特定のアフィニティリガンドに基づく検出法; プロテオミクス的分析法、またはメタボロミクス的分析法によって求める、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記オリゴヌクレオチドプローブハイブリダイゼーションは、GAmapプローブセットを用いて行われる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記胃腸管の試料は、
(a)前記胃腸管内腔の内容物、
(b)胃腸管の組織/器官の、粘膜、粘膜下組織、外筋層、外膜、および/または漿膜の一部、
(c)(a)または(b)から調製された核酸、あるいは
(d)(a)または(b)の微生物培養物
から選択される、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記試料は、胃内容物、腸内容物、粘液、および糞便/便、またはこれらの組み合わせから選択される胃腸管内腔の内容物由来である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記試料は、胃腸管内腔の内容物、若しくは胃腸管の組織/器官の粘膜、粘膜下組織、外筋層、外膜、および/または漿膜の一部から調製された核酸であり、
前記核酸は、逆転写および/または核酸増幅によって調製される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記胃腸管試料は、空腸、回腸、盲腸、結腸、直腸、または肛門から得られる、請求項1012のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過敏性腸症候群(IBS)に罹患した被験者がIBS指導食による治療または便微生物移植(FMT)による治療に応答する可能性を判断するのに用い得る診断法を提供する。特に、IBS指導食による治療またはFMTによる治療に対する、IBSに罹患した被験者の正の応答を予測する、またはその可能性を判断するのに本方法を用い得、とりわけ、食事指導またはFMTが、患者の胃腸管、具体的には胃腸管の微生物相に対して好ましい(すなわち有益な)影響を与える、あるいはIBSの他の症状または合併症に対して好ましい影響を与える(例えば、重症度を低減する)可能性を判断するのに本方法を用い得る。このように、IBS指導食による治療またはFMTによる治療の後に、IBSに罹患した被験者において、IBSまたはIBSの合併症もしくは症状が改善するかどうか、あるいは、該被験者において、IBSまたは該IBSの合併症もしくは症状の発症が予防または遅延されるかどうか、を判断し得る。これによって、本発明の方法は、IBS指導食による治療またはFMTによる治療に臨床的に応答しそうなIBS患者の同定を可能にする。
【発明の概要】
【0002】
意外にも、IBS指導食による治療またはFMTによる治療に応答することが示されるIBS罹患被験者において、糞便試料中におけるある分類群の細菌の量は、IBSの症状を示さない被験者またはIBS指導食による治療またはFMTによる治療に応答しないことが示されるIBS罹患被験者における量よりも、多い場合もあるし少ない場合もある。したがって、IBSに罹患した被験者由来の胃腸管試料中のこれらの細菌の量を、IBSの症状を示さない被験者由来の相当する試料中の量と比較することによって、IBS指導食による治療またはFMTによる治療に応答しそうなIBS罹患被験者を同定し得る。したがって、あるいはまたはさらには、IBSに罹患した被験者由来の胃腸管試料中のこれらの細菌の量を、該治療に応答することが以前に示された被験者由来の胃腸管試料中のこれらの細菌の量の中央値と比較し得、応答者において非応答者よりも量が増加しているある分類群の細菌に対する中央カットオフ値よりも大きい検査値、または、応答者において非応答者よりも量が減少しているある分類群の細菌に対する中央カットオフ値よりも小さい検査値は、IBS指導食による治療またはFMTによる治療に応答しそうなIBS罹患被験者を表すことになる。したがって、本発明の方法は、胃腸管試料中のある細菌の量を、例えば、核酸配列技術(nucleic acid sequence techniques)やオリゴヌクレオチドプローブハイブリダイゼーションに基づく技術を含む核酸分析によって、分析することに基づくものである。
【0003】
IBSは、症状の組み合わせ、具体的には、慢性的な腹部の痛みまたは不快感と、長期にわたる下痢や長期にわたる便秘、またはある期間にわたって交互に起こる下痢および便秘との組み合わせ(IBS-下痢(下痢型IBS)、IBS-便秘(便秘型IBS)、およびIBS-混合(混合型IBS))の存在を基準にして定義される、機能性消化器疾患である。広く受け入れられている診断基準は、RomeIII基準である。すなわち、最近3ヶ月の間に、1月あたり少なくとも3日間にわたり腹部の痛みまたは不快感(「不快感」とは、痛みとして説明されない不快な感覚を意味する)が繰り返し起こり、次の、排便によって改善されること、排便の頻度の変化を伴って始まること、便の形状(見た目)の変化を伴って始まること、という項目のうちの2項目以上を伴う、というものである。患者の中には、膨満、腹部膨張、痙攣、鼓腸、裏急後重、および排便切迫感を経験する者もいる。炎症性腸疾患(IBD)とは異なり、IBSは、潜在的な病理学的機構によって誘発されるものではないと考えられている突発性の病気であるが、しばしば、同じ症状が見られる。IBSは、特徴的な症状を検出することで診断できるが、典型的には、呈する症状の他の原因を除外するために、血液検査や内視鏡検査などのより侵襲的な検査が必要となる場合がある。IBSの重症度は、現在確立されているIBS重症度スコア(IBS-SSS;Francis C.Y.,Aliment Pharmacol Ther.1997 Apr;11(2):395~402)を用いて測定され得るが、これについては、特に、穏やかな症状を呈するIBS患者において、重症度の変化を評価するための有効かつ有意義で再現性のある高感度な質問票であることが確認されている(Betz,C.ら,Z Gastroenterol.,2013,51(10):1171~6)。
【0004】
臨床的に有効なIBSの治療としては、その数は限られているが、抗生物質(例えば、リファキシミン)の投与や、プレバイオティクスに富む食事(例えば、発酵性オリゴ糖(FOS)に富む食事(Slavin J. Nutrients.2013 Apr;5(4):1417~1435))、プレバイオティクスが制限された食事(例えば、FODMAP(発酵性オリゴ糖、二糖、単糖、およびポリオール)制限食(Gearry R.Bら,JCC 2008.09.004 8~14))、およびプロバイオティクスに富む食事を含む食事指導、ならびに便微生物相の移植(FMT;Kelly CR et al.Gastroenterology.2015 Jul;149(1):223~237)が挙げられる。具体的な他の治療としては、特に、成人における便秘を伴う中程度から重度の過敏性腸症候群(IBS-C)の対症療法に用いられるリナクロチド、および、特に、下痢が主な症状である過敏性腸症候群(IBS-D)に罹患した個人の下痢および腹痛の治療に用いられるエルクサドリンが挙げられる。また、IBSの突発的性質を考えると、各患者が表面的には本質的に同じ症状を呈している場合であっても、ある患者に有効な治療が他の患者では有効でないということが、しばしば見られる。1人の患者でも、ある時は応答するが別の時にはそうでないということがある。
【0005】
胃腸管は、消化管(digestive tractまたはalimentary canal)とも称され(胃腸管と区別なく、これらの語を用い得る)、口から始まり肛門で終わる連続した一連の器官である。その長さの全体にわたって、胃腸管には、微生物の多様な異なる種がコロニーを形成している。胃腸管に含まれる微生物を合わせたものが、胃腸管の微生物相である。構成要素である微生物または微生物群の相対量を、その微生物相のプロファイルとみなすことができる。したがって、微生物相のプロファイルによって、胃腸管における微生物多様性(すなわち、存在している分類学上異なる微生物または分類群の数)に関する情報が得られ、かつ存在している微生物または微生物群の相対量に関する情報が得られる。
【0006】
多くの疾患および病気、またはこれらの進行度は、胃腸管またはその各部位の微生物相の乱れに関連していると考えられている。場合によっては、疾患または病気は、胃腸管またはその各部位の微生物相のプロファイル(すなわち、構成要素である微生物の相対量および微生物の多様性)の変化によって引き起こされることもあるし、悪化することもある。また別の場合には、疾患または病気が、正常な状態とは異なる胃腸管の微生物相のプロファイルが示される原因となる、あるいは、ある機構のために、疾患または病気によってそのようなプロファイルが示されることになる。ある状況下では、これは、疾患または病気の病理学的表現型に対処しようとする適応応答である場合もある。
【0007】
胃腸管試料中の微生物の相対量を求めて定量化まで行うことや、疾患状態に特徴的な特定のプロファイルを基準として疾患を診断するために、または正常状態に特徴的な特定のプロファイルを基準として診断を除外するために、このようなプロファイルを用いることは、今では普通である(例えば、WO2012080754;WO2011043654)。しかしながら、ある分類上の集団に由来する微生物の量によって、IBSに罹患した被験者がIBS指導食または便微生物移植(FMT)による治療に応答する可能性が示され得るということは、これまで示唆されていない。
【0008】
本発明者らは、これまでに、意外にも、IBS指導食による治療またはFMTによる治療に応答することが示されるIBS罹患被験者において、糞便試料中におけるある分類群の細菌の量が、IBSの症状を示さない被験者またはIBS指導食による治療またはFMTによる治療に応答しないことが示されるIBS罹患被験者における量よりも、多い場合もあるし少ない場合もあるということを見出した。したがって、IBSに罹患した被験者由来の胃腸管試料中のこれらの細菌の量を、IBSの症状を示さない被験者由来の相当する試料中の量と比較することによって、IBS指導食による治療またはFMTによる治療に応答しそうなIBS罹患被験者を同定し、応答しそうにないIBS罹患被験者と区別し得る。したがって、あるいは、またはさらには、IBSに罹患した被験者由来の胃腸管試料中のこれらの細菌の量を、上記治療に応答することが以前に示された被験者由来の胃腸管試料中のこれらの細菌の量の中央値と比較し得、応答者において非応答者よりも量が増加しているある分類群の細菌に対する中央カットオフ値よりも大きい検査値、または、応答者において非応答者よりも量が減少しているある分類群の細菌に対する中央カットオフ値よりも小さい検査値は、IBS指導食による治療またはFMTによる治療に応答しそうなIBS罹患被験者を表すことになる。
【0009】
したがって、第1の態様として、本発明は、過敏性腸症候群(IBS)に罹患した被験者が、IBS指導食による治療または便微生物移植(FMT)による治療に応答する可能性を判断するための、インビトロでの方法であって、該方法は、
(i)(a)IBS指導食による治療を受ける下痢型IBSまたは混合型IBSに罹患した被験者の胃腸管由来の検査試料について、
- アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii)
- バクテロイデス・スターコリス(Bacteroides stercosis)
- バクテロイデス・ズーグレフォルマンス(Bacteroides zoogleoformans)
- ドレアspp.(Dorea spp.)
- ユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum)
- クロストリジウムsp.(Clostridium sp.)
- ユウバクテリウム・ハリイ(Eubacterium hallii)
- バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)
- フィルミクテス門(Firmicutes)
- ベロイネラspp.(Veillonella spp.)、ヘリコバクターspp.(Helicobacter spp.)およびクロストリジウム綱(Clostridia)
- シゲラspp.(Shigella spp.)およびエシェリキアspp.(Escherichia spp.)、ならびに
- バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.)
から選択される少なくとも1つの分類群由来の細菌の量を求めること、または
(i)(b)IBS指導食による治療を受ける便秘型IBSに罹患した被験者の胃腸管由来の検査試料について、
- クロストリジウム・メチルベントーサム(Clostridium methylpentosum)
- ユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum)
- アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii)、および
- デスルフィチポラ・アルカリフィラ(Desulfitipora alkaliphila)
から選択される少なくとも1つの分類群由来の細菌の量を求めること、または
(i)(c)FMTによる治療を受ける下痢型IBSまたは混合型IBSに罹患した被験者の胃腸管由来の検査試料について、
- クロストリジウムsp.(Clostridium sp.)
- ユウバクテリウム・ハリイ(Eubacterium hallii)
- バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.)、ならびに
- ディアリスター・インビサス(Dialister invisus)
から選択される少なくとも1つの分類群由来の細菌の量を求めること、と、
(ii)(a)該少なくとも1つの分類群由来の該細菌の量を、IBSの症状を呈さない少なくとも1人の被験者の胃腸管に由来する少なくとも1つの試料から求められた基準値と比較し、該検査試料における該少なくとも1つの分類群由来の該細菌の量が、前記基準値と異なるのか、または一致するのかを判断すること、および/または
(ii)(b)該少なくとも1つの分類群由来の該細菌の量を、該治療に応答することが以前に示された、該IBS型のIBSに罹患した少なくとも1人のIBS罹患被験者の胃腸管由来の少なくとも1つの試料における該細菌の量の中央値として求められたカットオフ値と比較し、該検査試料における該少なくとも1つの分類群由来の該細菌の量が、該中央カットオフ値よりも多いのか、または少ないのかを判断すること、とを含む、方法、を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ステップ(ii)(a)において、検査試料における上記分類群の1つ以上に由来する細菌(すなわち、標的細菌)の量と、基準値(すなわち、標準試料における上記標的細菌の量)との間に有意な差があるということは、検査を受けた、過敏性腸症候群(IBS)に罹患した被験者が、IBS指導食による治療またはFMTによる治療に適宜応答するということを示す。換言すると、検査を受けたIBS罹患被験者において、標的細菌の共生バランスが異常である場合、これは、被験者が、IBS指導食による治療またはFMTによる治療に適宜応答するということを示す。理論に拘束されることを望むものではないが、上記標的細菌の量の差(上記標的細菌の共生バランス異常)の程度は、応答の度合いを示し得る。
【0011】
ステップ(ii)(a)において、検査試料における標的細菌の量が基準値と一致するということは、検査を受けた、IBSに罹患した被験者が、IBS指導食による治療またはFMTによる治療に適宜応答しないということを示す。換言すると、検査を受けたIBS罹患被験者において、標的細菌の共生バランスが正常である場合、これは、被験者が、IBS指導食による治療またはFMTによる治療に応答しないということを示す。理論に拘束されることを望むものではないが、検査値と基準値とがより一致するほど、被験者が応答しない可能性が高くなる。
【0012】
ステップ(ii)(b)において、IBS指導食による治療またはFMTによる治療に応答することが以前に示された同じ型のIBS罹患被験者で量が増加している上記分類群由来の細菌の量についての前記IBS罹患被験者の検査値が、同じ型の非応答性のIBS罹患被験者と比較した際に、中央カットオフ値よりも大きいと、前記IBS罹患被験者の検査値は、該検査を受けた被験者がIBS指導食による治療またはFMTによる治療に適宜応答するであろうということを示す。
【0013】
反対に、ステップ(ii)(b)において、IBS指導食による治療またはFMTによる治療に応答することが以前に示された、同じ型のIBS罹患被験者で量が増加している上記分類群由来の細菌の量についての前記IBS罹患被験者の検査値が、同じ型の非応答性のIBS罹患被験者と比較した際に、中央カットオフ値よりも小さいと、前記IBS罹患被験者の検査値は、該検査を受けた被験者がIBS指導食による治療またはFMTによる治療に適宜応答しないであろうということを示す。
【0014】
ステップ(ii)(b)において、IBS指導食による治療またはFMTによる治療に応答することが以前に示された、同じ型のIBS罹患被験者で量が減少している上記分類群由来の細菌の量についての前記IBS罹患被験者の検査値が、同じ型の非応答性のIBS罹患被験者と比較した際に、中央カットオフ値よりも小さいと、前記IBS罹患被験者の検査値は、該検査を受けた被験者がIBS指導食による治療またはFMTによる治療に適宜応答するであろうということを示す。
【0015】
反対に、ステップ(ii)(b)において、IBS指導食による治療またはFMTによる治療に応答することが以前に示された、同じ型のIBS罹患被験者で量が減少している上記分類群由来の細菌の量についての前記IBS罹患被験者の検査値が、同じ型の非応答性のIBS罹患被験者と比較した際に、中央カットオフ値よりも大きいと、前記IBS罹患被験者の検査値は、該検査を受けた被験者がIBS指導食による治療またはFMTによる治療に適宜応答しないであろうということを示す。
【0016】
当業者にとっては、上述したようなステップ(ii)(b)は、検査値の片側分析に相当し、重要な側面(すなわち、正の結果を示す側)が、IBS指導食による治療またはFMTによる治療に適宜応答することが以前に示された、同じ型のIBS罹患被験者において観察された傾向の方向であるということは明らかであろう。
【0017】
本明細書において、「spp.」なる略語は、複数の種を示す。本発明において、spp.なる略語が付いた分類群についての言及は、複数の種を含む群についての言及である。これは、同じ属の細菌からなる群とみなされ得る。「sp.」なる略語は、単一の種を示す。
【0018】
「可能性を判断すること」は、「確率を求めること」または「確率を確認すること」または「確率を評価すること」と表現されてもよい。以下で明らかになるように、これらの評価の結果は、数値で表されてもよいし、グラフで表されてもよいし、図で表されてもよいし、ひいては、そのそれぞれが、定性的であってもよいし、半定量的であってもよいし、定量的であってもよい。
【0019】
本方法は、一方で、IBSに罹患した被験者が、IBS指導食による治療またはFMTによる治療に応答するかどうか、例えば、IBSに罹患した被験者において、IBS指導食による治療またはFMTによる治療を行った後、IBSまたはその症状もしくはその合併症が改善するかどうか、または改善しそうかどうか、あるいは、IBSまたはIBSの合併症もしくは症状の発症が遅延または予防されるかどうか、または遅延または予防されそうかどうか、を予測する方法として表されてもよいということも、わかるであろう。また、本方法は、IBS指導食による治療またはFMTによる治療に応答しそうなIBS患者を、同定、検出、診断、分類、または階層化する方法として表されてもよい。
【0020】
また、本発明は、より一般的に、上記の方法に有用である、または上記の方法に関連する、または上記の方法の助けとなる、情報を得る方法として説明されてもよい。
【0021】
IBSまたはその合併症もしくは症状に関連して用いられる「改善」なる語は、本明細書において、IBSまたは問題となる合併症もしくは症状の重症度あるいは重症度の指標に対する肯定的な変化またはその低下を含むように広義に用いられる。したがって、例えば、被験者における、IBSまたはその合併症もしくは症状の徴候、あるいは、IBSまたはその合併症もしくは症状の臨床的に許容された指標(例えば、腹痛、下痢、便秘、膨満、腹部膨張、痙攣、鼓腸、裏急後重、および排便切迫感など)における改善が含まれる。改善には、合併症または症状を完全になくすことは、必ずしも要求されない。IBSならびにその症状および合併症の重症度は、IBS-SSSによってモニターされてもよい。ある実施形態においては、改善とは、被験者のIBS-SSSが、少なくとも約10%、例えば、少なくとも約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、または約70%低下することであるとみなすことができる。ある実施形態においては、改善とは、被験者のIBS-SSSが、少なくとも約50ポイント、例えば、少なくとも約55ポイント、約60ポイント、約65ポイント、約70ポイント、約75ポイント、約80ポイント、約85ポイント、約90ポイント、約95ポイント、約100ポイント、約105ポイント、約110ポイント、約115ポイント、約120ポイント、約130ポイント、約140ポイント、または約150ポイントだけ低下することであるとみなすことができる。
【0022】
IBSまたはその合併症もしくは症状に関連して用いられる「遅延」なる語は、IBS、その合併症もしくは症状、またはこれらの1つ以上の徴候の影響の発症または進展、あるいは、IBS、その合併症もしくは症状、またはこれらの1つ以上の徴候の発症または進展が、例えば、治療前のIBS、合併症、症状、またはこれらの徴候に比べて、遅延、制限、または低下することを含むことが意図される。
【0023】
これとは対照的に、「予防」なる語は、IBSの合併症または症状をまだ呈していない(すなわち、まだ発症していない)IBS罹患被験者において、問題となる合併症または症状の発症または進展を完全に防止することをいう。予防とは、問題となるIBSの合併症または症状が発症または進展するというIBS患者のリスクの低下を含むとみなすこともできる。
【0024】
ある実施形態においては、本発明における「改善」もしくは「遅延」、またはこれらの臨床的徴候は、IBS指導食による治療またはFMTによる治療の開始から14日以内、例えば、10日以内、7日以内、5日以内、3日以内、2日以内、1日以内、18時間以内、12時間以内、または6時間以内に見られてもよい。
【0025】
IBS指導食による治療またはFMTによる治療に応答しそうな患者としてのIBS罹患被験者の状態は、時間が経つにつれて変化する場合がある。例えば、応答者でありそうだと判断されたIBS罹患被験者が、時間が経つにつれて非応答になる場合がある。同様に、非応答者でありそうだと判断されたIBS罹患被験者が、時間が経つにつれて応答するようになる場合がある。このような応答状態と非応答状態との間の移行は、繰り返し起こり得る。したがって、本発明の方法は、同じ被験者に対して、経時的に繰り返し行われてもよい。これは、IBS指導食による治療またはFMTによる被験者の治療中、または治療後、例えば、(応答の可能性を確認するために)新規に一連のIBS指導食による治療またはFMTによる治療を開始する前に、本発明の方法を行うことを含んでいてもよい。他の例においては、本発明の方法は、IBS指導食による治療またはFMTによる治療に応答しそうにないという結果、および/または一連のIBS指導食による治療またはFMTによる治療が不首尾に終わったという結果が出た後、適切な期間が過ぎてから、被験者に対して行われてもよい。このような実施形態においては、その患者から新しく得られた結果を、以前の結果と(本明細書に記載されているように)比較してもよい。
【0026】
したがって、ある実施形態においては、IBS罹患被験者は、IBS指導食による治療またはFMTによる治療を受けたことがない被験者である。他の実施形態においては、IBS罹患被験者は、IBS指導食による治療またはFMTによる治療を受けている、または受けたことがある、被験者である。IBS罹患被験者は、前記治療に応答した被験者であってもよいし、上記治療に応答しなかった被験者であってもよい。またさらなる実施形態においては、IBS罹患被験者は、IBS指導食による治療またはFMTによる治療に応答しそうな被験者として以前に同定されたことがある被験者、または上記治療に応答しなさそうな被験者として以前に同定されたことがある被験者である。
【0027】
ある実施形態においては、上記の分類群のうちの少なくとも2つ、3つ、4つ、またはすべてにおける細菌の量が求められ、ステップ(ii)(a)において、IBSの症状を呈さない少なくとも1人の被験者由来の少なくとも1つの胃腸管試料から求められた前記分類群の基準値との比較が行われる。
【0028】
ある実施形態においては、上記の分類群のうちの少なくとも2つ、3つ、4つ、またはすべてにおける細菌の量が求められ、ステップ(ii)(b)において、上記治療に応答することが以前に示された、上記IBS型のIBSに罹患した少なくとも1人のIBS罹患被験者の胃腸管由来の少なくとも1つの試料から求められた上記分類群のカットオフ値との比較が行われる。
【0029】
ある実施形態においては、ステップ(i)(a)において、上記分類群は、アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii);ユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum);クロストリジウムsp.(Clostridium sp.);ユウバクテリウム・ハリイ(Eubacterium hallii);フィルミクテス門(Firmicutes);ならびにバクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.)から選択される。
【0030】
ある実施形態においては、ステップ(i)(b)において、上記分類群は、アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii);およびユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum)から選択される。
【0031】
ある実施形態においては、ステップ(i)(c)において、上記分類群は、クロストリジウムsp.(Clostridium sp.);ユウバクテリウム・ハリイ(Eubacterium hallii);ならびにバクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.)から選択される。
【0032】
ある実施形態においては、ステップ(i)(a)において、上記分類群は、アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii);フィルミクテス門(Firmicutes);ならびにバクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.)のうちのいずれか2つ以上から選択されるか、ドレアspp.(Dorea spp.);ユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum);ならびにシゲラspp.(Shigella spp.)およびエシェリキアspp.(Escherichia spp.)のうちのいずれか2つ以上から選択されるか、またはユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum);フィルミクテス門(Firmicutes);ならびにバクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.)のうちのいずれか2つ以上から選択される。
【0033】
ある実施形態においては、ステップ(i)(b)において、上記分類群は、Acinetobacter juniiアシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii);クロストリジウム・メチルベントーサム(Clostridium methylpentosum);およびデスルフィチポラ・アルカリフィラ(Desulfitipora alkaliphila)のうちのいずれか2つ以上から選択される。
【0034】
ある実施形態においては、ステップ(i)(c)において、上記分類群は、クロストリジウムsp.(Clostridium sp.);ユウバクテリウム・ハリイ(Eubacterium hallii);ならびにバクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.)のうちのいずれか2つ以上から選択される。
【0035】
ある実施形態においては、本発明の方法は、ステップ(i)(a)およびステップ(ii)(a)を含み、
アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii);バクテロイデス・スターコリス(Bacteroides stercosis);バクテロイデス・ズーグレフォルマンス(Bacteroides zoogleoformans);ドレアspp.(Dorea spp.);ユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum);クロストリジウムsp.(Clostridium sp.);ユウバクテリウム・ハリイ(Eubacterium hallii);またはフィルミクテス門(Firmicutes)などの前記分類群における細菌の量が前記基準値より多いこと、あるいは、バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.);フィルミクテス門(Firmicutes);ベロイネラspp.(Veillonella spp.)、ヘリコバクターspp.(Helicobacter spp.)およびクロストリジウム綱(Clostridia);シゲラspp.(Shigella spp.)およびエシェリキアspp.(Escherichia spp.);またはバクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)および プレボテーラspp.(Prevotella spp.)などの前記分類群における細菌の量が前記基準値よりも少ないことは、前記被験者がIBS介入食に応答するということを示す。
【0036】
ある実施形態においては、本発明の方法は、ステップ(i)(b)およびステップ(ii)(a)を含み、クロストリジウム・メチルベントーサム(Clostridium methylpentosum);またはユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum)などの前記分類群における細菌の量が前記基準値より多いこと、あるいは、アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii);またはデスルフィチポラ・アルカリフィラ(Desulfitipora alkaliphila)などの前記分類群における細菌の量が前記基準値より少ないことは、前記被験者がIBS介入食に応答するということを示す。
【0037】
ある実施形態においては、本発明の方法は、ステップ(i)(c)およびステップ(ii)(a)を含み、クロストリジウムsp.(Clostridium sp.);またはユウバクテリウム・ハリイ(Eubacterium hallii)などの前記分類群における細菌の量が前記基準値より多いこと、あるいは、バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.);またはディアリスター・インビサス(Dialister invisus)などの前記分類群における細菌の量が前記基準値より少ないことは、前記被験者がFMTに応答するということを示す。
【0038】
ある実施形態においては、本発明の方法は、ステップ(i)(a)およびステップ(ii)(b)を含み、アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii);バクテロイデス・スターコリス(Bacteroides stercosis);バクテロイデス・ズーグレフォルマンス(Bacteroides zoogleoformans);ドレアspp.(Dorea spp.);ユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum);クロストリジウムsp.(Clostridium sp.);ユウバクテリウム・ハリイ(Eubacterium hallii);またはフィルミクテス門(Firmicutes)などの前記分類群における細菌の量が、上記細菌の中央カットオフ値よりも多いこと、あるいは、バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.);フィルミクテス門(Firmicutes);ベロイネラspp.(Veillonella spp.)、ヘリコバクターspp.(Helicobacter spp.)およびクロストリジウム綱(Clostridia);シゲラspp.(Shigella spp.)およびエシェリキアspp.(Escherichia spp.);またはバクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.)などの前記分類群における細菌の量が、上記細菌の中央カットオフ値よりも少ないことは、前記被験者がIBS指導食に応答するということを示す。
【0039】
ある実施形態においては、本発明の方法は、ステップ(i)(b)およびステップ(ii)(b)を含み、クロストリジウム・メチルベントーサム(Clostridium methylpentosum);またはユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum)などの前記分類群における細菌の量が、上記細菌の中央カットオフ値よりも多いこと、あるいは、アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii);またはデスルフィチポラ・アルカリフィラ(Desulfitipora alkaliphila)などの前記分類群における細菌の量が、上記細菌の中央カットオフ値よりも少ないことは、前記被験者がIBS指導食に応答するということを示す。
【0040】
ある実施形態においては、本発明の方法は、ステップ(i)(c)およびステップ(ii)(b)を含み、クロストリジウムsp.(Clostridium sp.);またはユウバクテリウム・ハリイ(Eubacterium hallii)などの前記分類群における細菌の量が、上記細菌の中央カットオフ値よりも多いこと、あるいは、バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.);またはディアリスター・インビサス(Dialister invisus)などの前記分類群における細菌の量が、上記細菌の中央カットオフ値よりも少ないことは、前記被験者がFMTに応答するということを示す。
【0041】
さらなる実施形態においては、本発明の方法は、ステップ(ii)(a)およびステップ(ii)(b)を含み、これらのステップにおいて行い得る検査値と基準値または中央カットオフ値との比較に関する診断結果についての上記考察が準用される。
【0042】
以下で詳細に述べるように、好ましい実施形態においては、前記IBS指導食は、低FODMAP食(FODMAP制限食)または高FOS食である。
【0043】
したがって、ある実施形態においては、本発明の方法は、ステップ(i)(a)とステップ(ii)(a)および/またはステップ(ii)(b)とを含み、上記IBS指導食は低FODMAP食であり、上記分類群は、アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii);バクテロイデス・スターコリス(Bacteroides stercosis);バクテロイデス・ズーグレフォルマンス(Bacteroides zoogleoformans);ドレアspp.(Dorea spp.);ユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum);クロストリジウムsp.(Clostridium sp.);ユウバクテリウム・ハリイ(Eubacterium hallii);バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.);フィルミクテス門(Firmicutes);ベロイネラspp.(Veillonella spp.)、ヘリコバクターspp.(Helicobacter spp.)およびクロストリジウム綱(Clostridia);ならびにシゲラspp.(Shigella spp.)およびエシェリキアspp.(Escherichia spp.)から選択される。
【0044】
好ましくは、これらの実施形態においては、ステップ(ii)(a)において、アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii);バクテロイデス・スターコリス(Bacteroides stercosis);バクテロイデス・ズーグレフォルマンス(Bacteroides zoogleoformans);ドレアspp.(Dorea spp.);ユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum);クロストリジウムsp.(Clostridium sp.);またはユウバクテリウム・ハリイ(Eubacterium hallii)などの前記分類群における細菌の量が、前記基準値よりも多いこと、あるいは、バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.);フィルミクテス門(Firmicutes);ベロイネラspp.(Veillonella spp.)、ヘリコバクターspp.(Helicobacter spp.)およびクロストリジウム綱(Clostridia);またはシゲラspp.(Shigella spp.)およびエシェリキアspp.(Escherichia spp.)などの前記分類群における細菌の量が、前記基準値よりも少ないことは、前記被験者が低FODMAP食に応答するということを示す。
【0045】
好ましくは、これらの実施形態においては、ステップ(ii)(b)において、アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii);バクテロイデス・スターコリス(Bacteroides stercosis);バクテロイデス・ズーグレフォルマンス(Bacteroides zoogleoformans);ドレアspp.(Dorea spp.);ユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum);クロストリジウムsp.(Clostridium sp.);またはユウバクテリウム・ハリイ(Eubacterium hallii)などの前記分類群における細菌の量が、上記細菌の中央カットオフ値よりも多いこと、あるいは、バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.);フィルミクテス門(Firmicutes);ベロイネラspp.(Veillonella spp.)、ヘリコバクターspp.(Helicobacter spp.)およびクロストリジウム綱(Clostridia);またはシゲラspp.(Shigella spp.)およびエシェリキアspp.(Escherichia spp.)などの前記分類群における細菌の量が、上記細菌の中央カットオフ値よりも少ないことは、前記被験者が低FODMAP食に応答するということを示す。
【0046】
他の実施形態においては、本発明の方法は、ステップ(i)(a)とステップ(ii)(a)および/またはステップ(ii)(b)とを含み、上記IBS指導食は高FOS食であり、上記分類群は、ユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum);フィルミクテス門(Firmicutes);ならびにバクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.)から選択される。
【0047】
好ましくは、これらの実施形態においては、ステップ(ii)(a)において、ユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum);フィルミクテス門(Firmicutes);またはバクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.)などの前記分類群における細菌の量が、前記基準値よりも多いことは、前記被験者が高FOS食に応答するということを示す。
【0048】
好ましくは、これらの実施形態においては、ステップ(ii)(b)において、ユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum);フィルミクテス門(Firmicutes);またはバクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.)などの前記分類群における細菌の量が、上記細菌の中央カットオフ値よりも多いことは、前記被験者が高FOS食に応答するということを示す。
【0049】
他の実施形態においては、本発明の方法は、ステップ(i)(b)とステップ(ii)(a)および/またはステップ(ii)(b)とを含み、上記IBS指導食は低FODMAP食であり、上記分類群は、クロストリジウム・メチルベントーサム(Clostridium methylpentosum);ユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum);アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii);およびデスルフィチポラ・アルカリフィラ(Desulfitipora alkaliphila)から選択される。
【0050】
好ましくは、これらの実施形態においては、ステップ(ii)(a)において、クロストリジウム・メチルベントーサム(Clostridium methylpentosum);またはユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum)などの前記分類群における細菌の量が、前記基準値よりも多いこと、あるいは、アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii);またはデスルフィチポラ・アルカリフィラ(Desulfitipora alkaliphila)などの前記分類群における細菌の量が、前記基準値よりも少ないことは、前記被験者が低FODMAP食に応答するということを示す。
【0051】
好ましくは、これらの実施形態においては、ステップ(ii)(b)において、クロストリジウム・メチルベントーサム(Clostridium methylpentosum);またはユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum)などの前記分類群における細菌の量が、上記細菌の中央カットオフ値よりも多いこと、あるいは、アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii);またはデスルフィチポラ・アルカリフィラ(Desulfitipora alkaliphila)などの前記分類群における細菌の量が、上記細菌の中央カットオフ値よりも少ないことは、前記被験者が低FODMAP食に応答するということを示す。
【0052】
またさらなる実施形態においては、本発明の方法は、ステップ(i)(c)とステップ(ii)(a)またはステップ(ii)(b)を含み、上記被験者は下痢型IBSに罹患しており、上記分類群は、クロストリジウムsp.(Clostridium sp.);ユウバクテリウム・ハリイ(Eubacterium hallii);ならびにバクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.)から選択される。
【0053】
好ましくは、これらの実施形態においては、ステップ(ii)(a)において、クロストリジウムsp.(Clostridium sp.);またはユウバクテリウム・ハリイ(Eubacterium hallii)などの前記分類群における細菌の量が、前記基準値よりも多いこと、あるいは、バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.)などの前記分類群における細菌の量が、前記基準値よりも少ないことは、前記被験者がFMTに応答するということを示す。
【0054】
好ましくは、これらの実施形態においては、ステップ(ii)(b)において、クロストリジウムsp.(Clostridium sp.);またはユウバクテリウム・ハリイ(Eubacterium hallii)などの前記分類群における細菌の量が、上記細菌の中央カットオフ値よりも多いこと、あるいは、バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.)などの前記分類群における細菌の量が、上記細菌の中央カットオフ値よりも少ないことは、前記被験者がFMTに応答するということを示す。
【0055】
またさらなる実施形態においては、本発明の方法は、ステップ(i)(c)とステップ(ii)(a)および/またはステップ(ii)(b)とを含み、上記被験者は混合型IBSに罹患しており、上記分類群は、クロストリジウムsp.(Clostridium sp.);バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.);ならびにディアリスター・インビサス(Dialister invisus)から選択される。
【0056】
好ましくは、これらの実施形態においては、ステップ(ii)(a)において、クロストリジウムsp.(Clostridium sp.)などの前記分類群における細菌の量が、前記基準値よりも多いこと、または、バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.);ならびにディアリスター・インビサス(Dialister invisus)などの前記分類群における細菌の量が、前記基準値よりも少ないことは、前記被験者がFMTに応答するということを示す。
【0057】
好ましくは、これらの実施形態においては、ステップ(ii)(b)において、クロストリジウムsp.(Clostridium sp.)などの前記分類群における細菌の量が、上記細菌の中央カットオフ値よりも多いこと、または、バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.);ならびにディアリスター・インビサス(Dialister invisus)などの前記分類群における細菌の量が、上記細菌の中央カットオフ値よりも少ないことは、前記被験者がFMTに応答するということを示す。
【0058】
本発明における細菌の「量(amounts)」なる語は、「量(levels)」、「量(abundance)」などと表現されてもよい。これらの語は、本明細書において、区別なく用いられる。
【0059】
上で挙げた分類群のうちの2つ以上に由来する細菌の量を求めるステップ(ii)(a)の実施形態においては、得られたデータ/情報は、選択された群のパターンまたはプロファイルとみなされてもよく、これらの実施形態においては、IBSの症状を呈さない少なくとも1人の被験者の胃腸管に由来する少なくとも1つの試料から求められた対応する基準パターン(プロファイル)との比較が行われてもよい。検査試料のパターンと基準パターンとの間に有意な差がある(相関関係がない)ということは、IBSに罹患した被験者がIBS指導食による治療またはFMTによる治療に応答するということを示す。理論に拘束されることを望むものではないが、差の程度は、応答の度合を示し得る。さらに、相関関係が高いほど、被験者は治療に応答しないようになる。
【0060】
上で挙げた分類群のうちの2つ以上に由来する細菌の量を求めるステップ(ii)(b)の実施形態においては、得られたデータ/情報は、選択された群のパターンまたはプロファイルとみなされてもよく、これらの実施形態においては、上記治療に応答することが以前に示された、同じIBS型に罹患した少なくとも1人のIBS罹患被験者の胃腸管に由来する少なくとも1つの試料から求められた各分類群に対する中央カットオフ値から求められた対応する基準パターン(プロファイル)との比較が行われてもよい。これらの実施形態においては、比較には、検査された分類群のうちの1つ以上について、上記検査試料における上記検査された分類群由来の細菌の量が、上記中央カットオフ値より多いのか、または少ないのかを判断することが含まれてもよい。
【0061】
前述のもののさらに具体的なある実施形態においては、スコアは、(i)IBS指導食による治療またはFMTによる治療に(適宜)応答することが以前に示された、同じIBS型に罹患したIBS罹患被験者で量が増加している上記分類群における細菌の量についての検査値が、同じIBS型に罹患した非応答性のIBS罹患被験者と比較した際に、上記応答性IBS罹患被験者における上記細菌の中央カットオフ値よりも大きい例の数に基づく検査プロファイルによるものと考えてもよいし、(ii)IBS指導食による治療またはFMTによる治療に(適宜)応答することが以前に示された、同じIBS型に罹患したIBS罹患被験者で量が減少している上記分類群における細菌の量についての検査値が、同じIBS型に罹患した非応答性のIBS罹患被験者と比較した際に、上記応答性IBS罹患被験者における上記細菌の中央カットオフ値よりも小さい例の数に基づく検査プロファイルによるものと考えてもよい。その後、このスコアを、検査した分類群の数と全体的に比較して、スコアが、検査した分類群の数の30%以上、例えば、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、または90%以上である場合に、これは、IBSに罹患した被験者がIBS指導食による治療またはFMTによる治療に応答するということを示す。
【0062】
前述のもののさらに具体的な他の実施形態においては、スコアは、(i)IBS指導食による治療またはFMTによる治療に(適宜)応答することが以前に示された、同じIBS型に罹患したIBS罹患被験者で量が増加している上記分類群における細菌の量についての検査値が、同じIBS型に罹患した非応答性のIBS罹患被験者と比較した際に、上記応答性IBS罹患被験者における上記細菌の中央カットオフ値よりも小さい例の数に基づく検査プロファイルによるものと考えてもよいし、(ii)IBS指導食による治療またはFMTによる治療に(適宜)応答することが以前に示された、同じIBS型に罹患したIBS罹患被験者で量が減少している上記分類群における細菌の量についての検査値が、同じIBS型に罹患した非応答性のIBS罹患被験者と比較した際に、上記応答性IBS罹患被験者における上記細菌の中央カットオフ値よりも大きい例の数に基づく検査プロファイルによるものと考えてもよい。その後、このスコアを、検査した分類群の数と全体的に比較して、スコアが、検査した分類群の数の30%以上、例えば、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、または90%以上である場合に、これは、IBSに罹患した被験者がIBS指導食による治療またはFMTによる治療に応答しないということを示す。
【0063】
検査を受けた被験者において、分類群の量が、中央カットオフ値と同じ、またはそれ以上、またはそれ以下の量である場合に、どの分類群がIBS指導食またはFMTに対する応答の指標となるかを詳述する上記の開示が、これらの実施形態に準用される。
【0064】
本発明において、選択された分類群由来の細菌の量は、非標的細菌の量、またはIBS罹患被験者がIBS指導食あるいはFMTに応答することを同じように示すと後で判断され得る他の細菌の量と並んで(一緒に)求められてもよい。換言すると、胃腸管試料における上記標的細菌の量に関するデータは、他の細菌の量に関するデータと共に取得または提供されてもよい。
【0065】
この点に関して、以下の分類群、すなわち、アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii);フィルミクテス門(Firmicutes);シゲラspp.(Shigella spp.)およびエシェリキアspp.(Escherichia spp.);バクテロイデス・フラギリス(Bacteroides fragilis);ルミニクロストリジウム(Ruminiclostridium);ストレプトコッカス属(Streptococcus);放線菌目(Actinomycetales);アナエロツルンカス(Anaerotruncus);クロストリジウム綱(Clostridiales);ならびにユウバクテリウム属(Eubacterium)、における細菌の量を追加的に求めて、共生バランスが正常な被験者の胃腸管に由来する試料の基準値、またはIBS指導食による治療またはFMTによる治療に(適宜)応答することが以前に示されたIBS罹患被験者の胃腸管に由来する試料の中央カットオフ値と比較してもよい。
【0066】
本発明のこの部分についてのある実施形態においては、アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii);フィルミクテス門(Firmicutes);シゲラspp.(Shigella spp.)およびエシェリキアspp.(Escherichia spp.);バクテロイデス・フラギリス(Bacteroides fragilis);ルミニクロストリジウム(Ruminiclostridium);ストレプトコッカス属(Streptococcus);放線菌目(Actinomycetales);アナエロツルンカス(Anaerotruncus);クロストリジウム綱(Clostridiales);ならびにユウバクテリウム属(Eubacterium)についての検査値は、共生バランスが正常な場合の基準値と異なる場合、IBSに罹患した被験者が低FODMAP食による治療に応答するということを示す。反対に、アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii);フィルミクテス門(Firmicutes);シゲラspp.(Shigella spp.)およびエシェリキアspp.(Escherichia spp.);バクテロイデス・フラギリス(Bacteroides fragilis);ルミニクロストリジウム(Ruminiclostridium);ストレプトコッカス属(Streptococcus);放線菌目(Actinomycetales);アナエロツルンカス(Anaerotruncus);クロストリジウム綱(Clostridiales);ならびにユウバクテリウム属(Eubacterium)についての検査値は、共生バランスが正常な場合の基準値と一致する場合、IBSに罹患した被験者が低FODMAP食による治療に応答しないということを示す。
【0067】
本発明のこの部分についてのある実施形態においては、アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii);バクテロイデス・フラギリス(Bacteroides fragilis);ルミニクロストリジウム(Ruminiclostridium);ストレプトコッカス属(Streptococcus);およびユウバクテリウム属(Eubacterium)についての検査値は、共生バランスが正常な場合の基準値よりも大きい場合、または低FODMAP食に応答することが以前に示されたIBS罹患被験者に由来する中央カットオフ値よりも大きい場合、IBSに罹患した被験者が低FODMAP食による治療に応答するということを示す。
【0068】
本発明のこの部分についてのある実施形態においては、フィルミクテス門(Firmicutes);シゲラspp.(Shigella spp.)およびエシェリキアspp.(Escherichia spp.);放線菌目(Actinomycetales);アナエロツルンカス(Anaerotruncus);ならびにクロストリジウム綱(Clostridiales)についての検査値は、共生バランスが正常な場合の基準値よりも小さい場合、または低FODMAP食に応答することが以前に示されたIBS罹患被験者に由来する中央カットオフ値よりも小さい場合、IBSに罹患した被験者が低FODMAP食による治療に応答するということを示す。
【0069】
本発明のこの部分についてのある実施形態においては、アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii);バクテロイデス・フラギリス(Bacteroides fragilis);ルミニクロストリジウム(Ruminiclostridium);ストレプトコッカス属(Streptococcus);およびユウバクテリウム属(Eubacterium)についての検査値は、低FODMAP食に応答することが以前に示されたIBS罹患被験者に由来する中央カットオフ値よりも小さい場合、IBSに罹患した被験者が低FODMAP食による治療に応答しないということを示す。
【0070】
ある実施形態においては、フィルミクテス門(Firmicutes);シゲラspp.(Shigella spp.)およびエシェリキアspp.(Escherichia spp.);放線菌目(Actinomycetales);アナエロツルンカス(Anaerotruncus);ならびにクロストリジウム綱(Clostridiales)についての検査値は、低FODMAP食に応答することが以前に示されたIBS罹患被験者に由来する中央カットオフ値よりも大きい場合、IBSに罹患した被験者が低FODMAP食による治療に応答しないということを示す。
【0071】
胃腸管は、消化管(digestive tractまたはalimentary canal)とも称され(胃腸管と区別なく、これらの語を用い得る)、口から始まり肛門で終わる連続した一連の器官である。具体的には、連続した器官とは、口、咽頭、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、および肛門である。これらの器官は、口、咽頭、食道、胃、および十二指腸からなる上部胃腸管と、空腸、回腸(小腸に付属)、盲腸、結腸、直腸(大腸に付属)、および肛門からなる下部胃腸管とに、更に分割することができる。
【0072】
本発明において用いられる胃腸管試料は、胃腸管の内腔または表面から採取された流動体または固体、あるいは胃腸管の器官を形成する組織のいずれかに由来する試料を含み得るが、これらに限定されない。したがって、試料は、胃腸管内腔の内容物(例えば、胃内容物、腸内容物、粘液、および糞便/便、またはこれらの組み合わせ)のみならず、例えば、胃腸管の空洞または表面をぬぐう、すすぐ、吸引する、または掻爬することによって、あるいは胃腸管の組織/器官を生検することによって、胃腸管から機械的に得た試料であってもよい。糞便試料が好ましい。外科的に切除された胃腸管の組織/器官の一部から、試料を得ることもできる。試料は、切除された組織/器官の一部であってもよい。試料が胃腸管の組織/器官の試料である実施形態においては、試料は、胃腸管の組織/器官の粘膜、粘膜下組織、外筋層、外膜、および/または漿膜の一部を含んでもいてもよい。内視鏡下処置を行っている間に、生検によってこのような組織試料を得てもよい。好ましくは、試料は、下部胃腸管、すなわち、空腸、回腸、盲腸、結腸、直腸、または肛門から得られる。より好ましくは、試料は、粘膜試料または内腔試料である。糞便試料は、直腸または肛門をぬぐう、すすぐ、吸引する、または掻爬することによって収集されてもよく、より簡便には、排便中または排便後に糞便を収集することによって収集されてもよい。
【0073】
本発明においては、試料は、最初に取得された時の形態で用いられてもよい。本発明の方法では、試料に対して、使用前にある程度の処理、純化、または精製が行われてもよい。したがって、「試料」なる語は、試料の調製物、例えば、上記試料の半純粋調製物などの、比較的純粋な、または部分精製された、出発原料も含む。「試料」なる語は、16S rRNAなどのRNAが逆転写された上記試料の調製物も含む。さらには、該試料を微生物培養して得た産生物を含む。
【0074】
精製とは、わずかな精製、例えば、ただ、試料の固形分、もしくは細胞をより小さい体積まで濃縮することや、試料の残部の一部もしくはすべてから細胞を分離することであってもよい。代表的な細胞単離技術は、WO98/51693およびWO01/53525に記載されている。
【0075】
ある実施形態においては、上記試料から得た核酸調製物、好ましくは、核酸が標識された調製物が、本発明において用いられる。このような調製物は、このような試料またはその核酸調製物の逆転写産物および/または増幅産物を含む。核酸調製物の主要な核酸は、DNAであることが好都合な場合がある。これらの調製物は、比較的純粋な核酸調製物、または部分精製された核酸調製物を含む。
【0076】
複合試料を含む試料から核酸を単離する技術は数多くあり、当該技術分野において公知であって、文献で詳細に説明されている。WO98/51693およびWO01/53525に記載の技術は、上記試料から核酸を調製するのに用いることもできる。
【0077】
本発明の方法は、試料収集ステップ、および/または試料処理ステップ、および/または培養ステップを含んでいてもよく、特に、ゲノム核酸増幅などの核酸増幅ステップ、とりわけ微生物または微生物群に特有のヌクレオチド配列を有する核酸の増幅ステップを含んでいてもよい。
【0078】
文脈上他の意味に解釈すべき場合を除き、本明細書において、「相当する試料」なる語は、異なる被験者から、および/または異なる時期に、本質的に同じ方法で取得され、その本質的な処理または対処が本質的に同じ方法で行われる、同じ種類の試料のことをいう。
【0079】
胃腸管試料における標的分類群由来の細菌の量を求める方法としては、核酸分析(例えば、核酸配列決定法、オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションプローブに基づく方法、プライマーに基づく核酸増幅法など)、抗体またはその他の特定のアフィニティリガンドに基づく方法、プロテオミクスまたはメタボロミクス的方法などが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、試料の分析は、核酸配列分析によるものであり、配列決定技術の様式であってもよい。サンガーのジデオキシヌクレオチド配列決定法は、よく知られかつ広く用いられる核酸の配列を決定するための技術である。しかしながら、ごく最近では、いわゆる「次世代」または「第二世代」の配列決定法(サンガーのジデオキシヌクレオチド法を「第一世代」の方法とする場合)が普及してきている。これらのより新しい技術は、例えば、大規模並列配列決定反応などの並列配列決定反応を用いた結果として、またはより時間のかからないステップによって、ハイスループットであることが特徴である。様々なハイスループットな配列決定法は、単一分子の配列決定を提供し、かつ、パイロ配列決定、可逆性ターミネーター配列決定、ライゲーションによる開裂可能プローブ配列決定、ライゲーションによる非開裂プローブ配列決定、DNAナノボール、およびナノポアに基づく配列決定などのリアルタイム単一分子配列決定などの技術が用いられる。
【0080】
好ましくは、核酸配列分析は、標的ヌクレオチド配列の存在が、プローブとその標的との間に特定のハイブリッドが形成されることを検出することで確認される、オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションプローブに基づく方法の様式であってもよい。これらの方法では、オリゴヌクレオチドプローブは、固定化核酸マイクロアレイなどのより広範なアレイの一部として提供されることが多い。好ましくは、WO2012/080754、WO2011/043654、Veboら,Clin Vaccine Immunol,2011,Vol;18(8):1326~35、およびCasen,C.ら,Alimentary Pharmacology and Therapeutics,42(1):71~83)、ならびに/またはGAmap(商標)(ジェネティック・アナリシス・AS社、ノルウェー)のオリゴヌクレオチドプローブのセットおよび関連する方法が、本発明において微生物相プロファイルを求めるのに用いられてもよい。
【0081】
上記方法を用いて生成されたデータは、もっとも基本的な視覚的表示(例えば、シグナル強度に関する)からより複雑なデータ処理まで、様々な技術を用いて分析されてもよく、また、胃腸管試料における標的分類群由来の細菌の量を求めるため、ならびに/あるいは検査試料から最初に生成されたデータまたはある程度のデータ処理を行った後の検査試料からのデータを、症状を呈さない被験者由来の基準値および/またはIBS指導食による治療またはFMTによる治療に(適宜)応答しないことが示されているIBS罹患被験者由来のカットオフ値と比較するために、定量化され、かつ数学的に表現されてもよい。都合のよいことには、このように生成された生データは、データ処理および統計的手法によって、特にデータを正規化および標準化することによって、処理されてもよい。当業者であれば、用いるべき適切な統計的手法を承知しているであろう。好ましくは、統計的手法は、観察される傾向が偶発的な傾向ではないという指標として「P値」を提供するものである。コントロールと比較したときに統計的に有意な結果、すなわち偶発的な変動に起因しない結果は、P値が0.05未満、好ましくは0.01未満、0.005未満、または0.001未満である。単なる例示ではあるが、本発明の方法における統計的有意差を測定するのに適した手法は、ANOVA、マン-ホイットニー-ウィルコクソン(MWW)検定、クラスカル-ウォリス検定、およびテューキーのHonestly Significant Differences(HSD)検定である。予測法としては、判別分析法、ロジスティック回帰、主成分分析に基づくSIMCA(Soft Independent Modelling of Class Analogy)法、部分的最小二乗判別分析などが挙げられる。当業者であれば、他にも多くの方法を知っているであろう。いくつかの実施形態においては、例えば、Langsrud(2002,Journal of the Royal Statistical Society Series D 51,305~317)、Veboら(前掲)、およびCasenら(前掲)に記載の、並べかえ検定が適切である場合がある。試料中の細菌の量の並列分析は、差分度数分析または差分度数特徴検出として記載されていてもよい。本発明において、任意の適切な技術が用いられてもよい。この点に関して、このような分析を行うためのソフトウェアツールおよび基準試料と検査試料との間でこのような分析の比較を行うためのソフトウェアツールは、数多く一般的に利用可能である。単なる例示ではあるが、DESeq、MEGAN、STAMP、metagenomeSeq、Myrna、RADs、metaDprof、mcaGUI、およびMETAGENassistの名を挙げ得る。他の実施形態においては、教師あり学習技術をデータに適用してもよい。単なる例示ではあるが、サポートベクターマシーン(SVM)、人工神経網、単純ベイズ分類器、決定木学習、最近傍アルゴリズム(kNN)、ランダムフォレスト、ベイズの統計、およびベイズの機械学習の名を挙げ得る。
【0082】
本発明においては、IBSの症状を呈さない少なくとも1人の被験者の胃腸管由来の少なくとも1つの試料から求められた上記基準値(あるいは基準パターンまたは基準プロファイル)は、好ましくは同じ機器を同じ設定および同じ実験条件で用いて、検査を受ける患者由来の試料と本質的に同じ胃腸管の部位由来の胃腸管試料の検査値/検査パターン/検査プロファイル(標的分類群の細菌の量、またはそのパターン/プロファイル)と本質的に同じ方法で求められた値(パターン/プロファイル)である(逆もまた同様)。換言すると、相当する試料である。都合のよい実施形態においては、検査試料および標準試料は、糞便試料である。さらなる実施形態においては、標準試料は、同じ手段で取得され、検査試料と本質的に同じ方法で処理および保存される(逆もまた同様)。好ましい実施形態においては、基準値(基準パターン/基準プロファイル)は、2人以上のIBSの症状を呈さない被験者(一般的には、その集団)から取得されてもよく、該値は、平均値(例えば、中央値)または平均パターン/平均プロファイルとして提示されてもよい。IBS指導食による治療またはFMTによる治療に応答することが以前に示された、検査を受ける被験者と同じIBS型に罹患した少なくとも1人のIBS罹患被験者の胃腸管に由来する少なくとも1つの試料から得た該中央カット値(あるいは、そのパターンまたはカットプロファイル)を有する調製物の特徴は、同様に解釈されるべきである。
【0083】
IBSの症状を呈さない被験者とは、特にRomeIII基準に基づいて、IBSを発症していると診断されない被験者である。このような被験者は、1つ以上のIBSの症状を呈してもよいが、潜在的な原因のようなものとしてのIBSは除外される。理論上は、IBSの症状を呈さない被験者は、胃腸管の機能が本質的に「正常」/「健常」である、すなわち機能障害がない、または機能障害の兆候を示していない、被験者である。ある実施形態においては、この被験者は、例えばGAmap(商標)テストで判定された場合に、胃腸管に共生バランス異常がない。より一般的には、この被験者は、本質的に、深刻な病気もしくは疾患、またはその他の病状のない「正常な」または「健常な」被験者である、あるいは、少なくとも、認識される深刻な病気または疾患の症状が観察または検出されない被験者である。他の実施形態においては、正常な、または健常な被験者は、すべての病気もしくは疾患、またはその他の病状がないか、または、少なくとも、認識される病気または疾患の症状が観察または検出されない。好ましくは、これらの病気、疾患、または病状についての言及は、胃腸管の病気、疾患、または病状についての言及である。
【0084】
標的分類群由来の細菌の量の検査値(または、適宜、そのプロファイル/パターン)を、基準値(またはそのプロファイル/パターン)と比較し、両者間の差異(もしくは、相関性の欠如)または相関性を評価することは、定性的であってもよいし、半定量的であってもよいし、定量的であってもよい。本発明においては、基準値(またはそのプロファイル/パターン)に一致することは、実質的に、例えば本質的に、基準値(またはそのプロファイル/パターン)と同じである(または、同様である)ということである。異なるということは、これと矛盾しないように解釈されるべきである。したがって、検査値(または、そのパターン/プロファイル)は、基準と実質的に同じである場合、または基準と同様もしくは等価である、または適合もしくは合致する(例えば、統計的に同様もしくは統計的に等価である)場合には、基準に一致する。よって、検査値(または、検査パターン/検査プロファイル)は、基準と実質的に同じでない場合、または基準と同様もしくは等価でない、または適合もしくは合致しない(例えば、統計的に同様もしくは統計的に等価でない)場合には、基準に一致しない。したがって、検査値と基準値(または、それらのパターン/プロファイル)を比較し、それらが一致するか(または、異なるか)どうかを判断するステップは、数学的手法または統計的手法を用いて(例えば、先に取得した基準値から求められた予測モデルおよび予測アルゴリズムを用いて)行われてもよく、一般的には、これは、ソフトウェアによって実行される(すなわち、コンピュータを用いて、つまり仮想的に、行われる)。このような比較を行い、相関性を判断するための統計的手法または数学的手法は、当該技術分野において周知であり、広く利用可能である。したがって、すべての場合に(すなわち、各検査のために)、基準値、基準パターン、または基準モデルを作成する必要はないということも、明確に理解されるであろう。
【0085】
一実施形態においては、検査試料および標準試料における標的分類群由来の細菌の量(または、適宜、そのプロファイル/パターン)は、視覚的表示として表されてもよく、この場合、検査値と基準値とは、仮想的に、または技術的に支援された類似した手段を用いて、比較されてもよく、その後、検査値と基準値との相関性(または差異)が推定される。
【0086】
他の実施形態においては、検査値と基準値(または、それらのパターン/プロファイル)との相関性(または、差異)は、1又は複数の基準値(または、基準パターン/基準プロファイル)を用いて生成された数学的モデルに、該検査値(または、検査パターン/検査プロファイル)を適用することによって分析されてもよい。このような数学的モデルは、検査値が基準値に適合または合致するかどうかを判断するのに用いられてもよい。このようなモデルを生成する数学的手法は周知であり、例えば、線形回帰法を用いて準備されてもよい。したがって、このような分析は、複数の基準値(または、基準パターン/基準プロファイル)から求められた線形回帰予測モデルを用いて行われてもよい。
【0087】
2つの分類群由来の細菌の量が求められる実施形態においては、検査パターン/検査プロファイルと基準パターン/検査プロファイルとの間の相関性は、検査パターンおよび基準パターンを、2つの標的分類群における細菌の量の値である座標を有する単一の点として(例えば二次元散布図(グラフ)として)、二次元デカルト座標系に表すことによって分析されるが、これは必須ではない。データポイントに関連性がある場合は、被験者が治療に応答しないことを示唆する。関連性がない場合は、被験者が治療に応答することを示唆する。
【0088】
検査データポイントが、基準データポイントを中心に有し、かつ、基準データポイントにおける関連座標の値の50%以下の、該中心点を通る長さおよび幅(x寸法およびy寸法)を有するものとして定義される領域(すなわち、その領域の長さまたは幅と同じ寸法である標的分類群における細菌の量)内に存在する場合には、検査データポイントの基準データポイントに対する関連性が生じるとみなされてもよい。さらなる実施形態においては、その領域の長さおよび/または幅は、関連座標の40%以下、例えば、30%以下、20%以下、10%以下、または2%以下である。
【0089】
3つの分類群に由来する細菌の量が求められる他の実施形態においては、検査パターン/検査プロファイルと基準パターン/基準プロファイルとの間の相関性は、検査パターンおよび基準パターンを、3つの標的分類群における細菌の量の値である座標を有する単一の点として(例えば三次元散布図(グラフ)として)ユークリッド空間に表すことによって分析されるが、これは必須ではない。データポイントに関連性がある場合は、被験者が治療に応答しないことを示唆する。関連性がない場合は、被験者が治療に応答することを示唆する。
【0090】
検査データポイントが、基準データポイントを中心および縁部(または、境界)に有し、かつ、基準データポイントの3つの座標と同じ3つの次元を通るものとして定義され、該縁部の長さが、基準データポイントをなす関連座標の50%以下である(すなわち、問題となる縁部と同じ寸法である標的分類群における細菌の量)ユークリッド体積内に存在する場合には、検査データポイントの基準データポイントに対する関連性が生じるとみなされてもよい。さらなる実施形態においては、その縁部の長さは、関連座標の40%以下、例えば、30%以下、20%以下、10%以下、または2%以下である。
【0091】
ある実施形態においては、単一の検査データポイントは、複数の基準データポイントと比較され、検査データポイントが実質的に、例えば本質的に、基準点の集合からなる最外部の境界上またはその内側に存在する場合には、関連性が生じるとみなされてもよい。このことは、簡便なクラスター分析法またはクラスター分析アルゴリズム(クラスターアルゴリズムと称されてもよい)によって判断されてもよく、これらの方法またはアルゴリズムは、例えば、二次元または三次元の、距離単位としてユークリッド距離を用いる階層的クラスター分析および「平均」ツリー構築法であってもよい。
【0092】
単一の検査値と単一の基準値との間の相関性は、検査値の基準値からの正または負の偏差が、25%以下の場合に生じるとみなすことができる。さらなる実施形態においては、該正または負の偏差は、20%以下であり、例えば、15%以下、10%以下、5%以下、または1%以下である。
【0093】
IBS罹患被験者(IBSに罹患した被験者、IBSを患う被験者)とは、特にRomeIII基準に基づいて、IBSに罹患していると診断された被験者である。IBS罹患被験者は、消化系の主な症状に基づいて、下痢型、便秘型、または混合型に分類され得る。被験者のIBSの症状の重症度は、IBS-重症度スコア(IBS-SSS;Francis C.Y.,Aliment Pharmacol Ther.1997 Apr;11(2):395~402で定義される)の様式で表され得る。この一覧において達成可能な最大スコアは、500ポイントであり、症状の重症度を、次の、軽度(75~175ポイント)、中度(175~300ポイント)、および重度(>300ポイント)に等級分けする。本発明においては、介入(例えば、食事指導またはFMT)に応答するIBS罹患被験者を、IBS-SSSの合計が、指導後に、ベースラインから少なくとも30%、例えば少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、または少なくとも70%、特に少なくとも50%、低下する被験者として定義し得る。あるいは、本発明においては、介入(例えば、食事指導またはFMT)に応答するIBS罹患被験者を、IBS-SSSの合計が、指導後に、ベースラインから少なくとも50ポイント、例えば少なくとも60ポイント、少なくとも70ポイント、少なくとも80ポイント、少なくとも90ポイント、少なくとも100ポイント、少なくとも110ポイント、少なくとも120ポイント、少なくとも130ポイント、少なくとも140ポイント、または少なくとも150ポイント、特に少なくとも100ポイント、低下する被験者として定義し得る。
【0094】
中央カットオフ値は、本明細書で定義されるように、IBS指導食による治療またはFMTによる治療に適宜応答することがわかっている少なくとも1人のIBS罹患被験者(適切であれば、検査を受ける被験者と同じIBS型である)由来の少なくとも1つの胃腸管試料から得た、上述した本発明の選択された分類群における細菌の量の複数の値に由来するものである。好ましくは、中央カットオフ値は、本明細書で定義されるように、IBS指導食による治療またはFMTによる治療に適宜応答することがわかっている少なくとも1人のIBS罹患被験者(適切であれば、検査を受ける被験者と同じIBS型である)由来の複数の試料から得られた値に由来するものである。好ましくは、中央カットオフ値は、本明細書で定義されるように、IBS指導食による治療またはFMTによる治療に適宜応答することがわかっている複数のIBS罹患被験者(適切であれば、検査を受ける被験者と同じIBS型である)由来の少なくとも1つの試料から得られた値に由来するものである。最も好ましくは、中央カットオフ値は、本明細書で定義されるように、IBS指導食による治療またはFMTによる治療に適宜応答することがわかっている複数のIBS罹患被験者(適切であれば、検査を受ける被験者と同じIBS型である)由来の複数の試料から得られた値に由来するものである。
【0095】
検査値と中央カットオフ値との比較は、簡便な手段によって行われ得る。ある実施形態においては、その比較は、検査値が、中央カットオフ値よりも統計的に有意に大きいか(または、小さいか)どうかを判断するステップを含む。したがって、比較は、数学的(統計的)手法を含んでおり、これは、一般的には、ソフトウェアによって実行される(すなわち、コンピュータを用いて、つまり仮想的に、行われる)。このような比較および判断を行う統計的手法または数学的手法は、当該技術分野において周知であり、広く利用可能であって、例えば上述したものが挙げられる。したがって、すべての場合に(すなわち、各検査のために)、中央カットオフ値、中央カットオフパターン、または中央カットオフモデルを求める必要はないということも、明確に理解されるであろう。
【0096】
2つ以上の分類群由来の細菌の量を求める他の実施形態においては、検査値のうちの2つ以上、例えばすべてが、対応する基準値からの正または負の偏差が25%以下である場合に、検査パターン/プロファイルが、基準パターン/プロファイルに一致するとみなすことができる。さらなる実施形態においては、正または負の偏差は、20%以下、例えば、15%以下、10%以下、5%以下、または1%以下である。
【0097】
IBS指導食とは、(i)IBSに罹患した被験者においてIBSまたはその症状もしくは合併症を治療(改善)する、すなわち、IBS罹患被験者の胃腸管、具体的には胃腸管の微生物相に対して好ましい(有益な)影響を与える、またはIBSの他の症状または合併症に対して好ましい影響を与える(例えば、重症度を低減する)、あるいは、(ii)被験者におけるIBSまたはその合併症もしくは症状の進展を予防または遅延する、ことができる、またはそうすることが示されている、食事であり得る。これは、プレバイオティクスに富む食事、プレバイオティクスが制限された食事、およびプロバイオティクスに富む食事を含む。このような食事の重要な例としては、低FODMAP食(本明細書において、FODMAP制限食とも称する)および高FOS食(FOSに富む食事とも称する)が挙げられる。これらの食事は、Slavin J. Nutrients.2013 Apr;5(4):1417~1435、およびGearry R.Bら,JCC 2008.09.004 8~14)に記載されかつ定義されている。当業者であれば、このような食事をすぐに認識し、自身の常識によって、または前掲のSlavinおよびGearryなどの文献を参照することによって、過度な負担なくこのような食事を考案することができるであろう。
【0098】
便微生物移植(ヒトプロバイオティクス注入、便細菌療法、微生物相回復治療、便移注、便移植、糞便移植、および便浣腸とも称する)とは、選択されたドナーから糞便物質を収集し、ある程度の試料処理を行った後、レシピエントに投与する手法のことをいう。いくつかの方法においては、糞便物質は、生理食塩水または他の薬学的に許容される溶液と混合され、漉されて、結腸鏡検査法、内視鏡検査、S状結腸鏡検査法、または浣腸によって患者に注入される。他の方法においては、結腸鏡検査法、内視鏡検査、S状結腸鏡検査法、浣腸、直腸カテーテル、または経口内服による投与の前に、固形物が糞便物質から分離され、凍結乾燥される。好ましくは、FMTは、Francis C.Y.,Aliment Pharmacol Ther.1997 Apr;11(2):395~402またはBetz, C.ら,Z Gastroenterol.,2013,51(10):1171~6に記載されたものである。
【0099】
被験者は、ヒト被験者であってもよいし、非ヒト動物の被験者であってもよいが、とりわけ、家畜および愛玩動物を含む、哺乳類などの脊椎動物であってもよい。好ましくは、被験者はヒトであり、この場合、「患者」なる語を「被験者」なる語と区別なく用いてもよい。被験者は、任意の年代であってもよく、例えば、乳幼児、小児、児童、青年、または成人であり、好ましくは成人である。ヒトにおいて、成人とは、年齢が少なくとも16歳であると考えられ、乳幼児とは、年齢が2歳までであると考えられる。ある実施形態においては、被験者は乳幼児であり、他の実施形態においては、被験者は小児または成人である。IBS罹患被験者(または、患者)とは、IBSに罹患した被験者(または、患者)のことであり、本明細書においては、これらの語を区別なく用いてもよい。被験者は、上述したRomeIII基準を適用することによって、IBSまたはそのサブタイプに罹患していると判断され得る(罹患していると診断され得る)。したがって、本発明の方法は、検査を受ける被験者をIBSに罹患していると判断する(IBSに罹患していると診断する)ステップを含んでいてもよい。
【0100】
本発明のこの態様の方法は、被験者の胃腸管から取得または単離された試料に対して行われる限りにおいて、インビトロの方法である。換言すると、本方法は、インビボでは行われない、すなわち、被験者の身体に対しては行われない。それにもかかわらず、より具体的な態様においては、本方法は、好ましくは非外科的にまたは非侵襲的に、被験者から試料を取得または単離するステップをさらに含んでいてもよい。したがって、本態様においては、患者の治療(すなわち、IBS指導食またはFMTによって被験者を治療するステップ)は、本方法の一部ではない。よって、例えば、治療後の結果に対する言及は、あり得る結果に対する理論的な言及であり、IBS指導食またはFMTの投与によって被験者を治療するステップは、本発明のこの態様の方法の一部ではない。しかしながら、この態様において述べるような方法の後に、このような治療が患者に行われる場合がある。
【0101】
したがって、さらなる特定の態様においては、本発明の方法は、被験者がIBS指導食またはFMTに応答しそうだと判断された場合に、被験者に対してIBS指導食またはFMTを投与すること(および、逆に言うと、被験者がIBS指導食またはFMTに応答しなさそうだと判断された場合に、被験者に対してIBS指導食またはFMTを投与しないこと)をさらに含んでいてもよい。
【0102】
したがって、本態様によれば、本発明は、IBSに罹患した被験者の治療法であって、上記定義された方法によって、まず、被験者がIBS指導食またはFMTの投与に応答し得る(すなわち、応答しそうである)と判断される、方法を提供してもよく、本方法は、そのようにして応答者でありそうだと判断された被験者に対して、有効量のIBS指導食またはFMTアルギン酸オリゴマーを投与すること、すなわち、IBS指導食またはFMTを用いて該被験者を治療することを、さらに(または引き続き)含む。
【0103】
本発明の本態様は、IBSに罹患した被験者の治療法をさらに提供し、該方法は、被験者に対して有効量のIBS指導食またはFMTを投与すること(または、IBS指導食またはFMTを用いて該被験者を治療すること)を含むものであって、該被験者は、上記定義された、応答の可能性を判断する方法によって、IBS指導食による治療またはFMTによる治療に対する応答者でありそうだと判断されている。
【0104】
「対応する」なる語は、この語が適用される対象が、その対象の他の例と同じであるという概念を伝えるために用いられる。したがって、その対象を定義する必須の特徴は、正確な詳細は固有のものであったとしても、他の対象と共有される。別の語としては、「適合する」、「類似した」、「一致した」、「等価の」、または「同じである」などであってもよい。
【0105】
ある実施形態においては、本発明における「改善」もしくは「遅延」、またはその臨床的徴候は、IBS指導食またはFMTによって適宜治療することを開始してから14日以内、例えば、10日以内、7日以内、5日以内、3日以内、2日以内、1日以内、18時間以内、12時間以内、または6時間以内に適宜見られてもよい。
【0106】
ある実施形態においては、本発明におけるIBS指導食またはFMTによって適宜治療することの予防効果は、被験者を治療している間、維持される。
【0107】
本発明は、本明細書において、IBS罹患被験者およびIBS指導食またはFMTに対するその応答の観点から説明してきたが、本発明の基本的概念は、標的被験者の臨床的兆候および目的の治療効果の両方に関して広く適用可能であることは、理解されるであろう。
【0108】
この点に関しては、上記で言及したように、多くの疾患および病気、またはこれらの進行度は、胃腸管またはその各部位の微生物相の乱れに関連していると考えられている。炎症性腸疾患(IBD)、クローン病(CD)、潰瘍性結腸炎(UC)、過敏性腸症候群(IBS)、小腸細菌過剰症候群、および胃腸管の癌(例えば、口腔がん、咽頭がん、食道がん、胃がん、十二指腸がん、空腸がん、回腸がん、盲腸がん、結腸がん、直腸がん、および肛門がん)などの胃腸管に影響する疾患および病気は、正常状態とは異なる微生物相プロファイルをもたらす大きな原因となり得、また、胃腸管の微生物相と、胃腸管とは無関係と思われる、例えば、乳がん;強直性脊椎炎;非アルコール性脂肪性肝炎;皮膚炎、ぜんそく、アトピー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性鼻炎、および食物アレルギーなどのアトピー性疾患;糖尿病(1型および2型)、肥満、およびメタボリックシンドロームなどの代謝異常;うつ病、多発性硬化症、認知症、およびアルツハイマー病などの神経障害;自己免疫疾患(例えば、関節炎);栄養不良;慢性疲労症候群、および自閉症などの疾患および病気との間に関連があるという証拠も存在する。胃腸管の微生物相プロファイルのこのような乱れ(相対量および/または多様性に関して)は、胃腸管の微生物相の不均衡と同じであると考えられるが、このような疾患を引き起こすこと、またはその進展に寄与することによって、疾患に寄与していると考えられる。また、さらに多くの疾患が、胃腸管の微生物相プロファイルの乱れと因果関係があるということが見出されるであろうとも考えられている。このような因果関係の背後にある正確な機構は、よくわかっていない。胃腸管の微生物相の乱れが、ある微生物の減少、および/または他の微生物の増加、および/または多様性の低下をもたらし、このことが、各微生物集団の相対的な活性の変化または不均衡の原因となることは、明らかである。微生物活性の変化は、結果として起こる宿主の全身の生理機能に対する全身的な悪影響とともに生じる、有益な効果(例えば、ビタミン、短鎖脂肪酸、およびポリアミンの合成、栄養吸収、病原体の阻害、植物性化合物の代謝など)の低下、および/または有害な効果(内毒素および他の毒性産物の分泌)の増加の原因となると考えられている。その後、これらの効果は、例えば上記挙げた様な病気および疾患として現れ得る。
【0109】
これらの疾患および病気には、多くの異なる治療処置があり、そのうちのいくつかは胃腸管およびその微生物相を標的とするものであり、例えば、抗生物質、抗体療法、抗炎症薬、免疫調節剤(免疫抑制剤または免疫刺激剤)、プロバイオティクス、またはプレバイオティクスなどの投与が挙げられる。特に、IBSおよびそのすべてのサブタイプに関しては、治療には、抗生物質(例えば、リファキシミン)、リナクロチド、およびエルクサドリンが含まれる。したがって、本発明の観点からは、ある分類群由来の細菌の量が、このような治療に対する応答者および/または非応答者を示すであろうと期待することは合理的である。よって、本発明の概念は、このような状況に準用することができるであろう。
【0110】
以下の限定しない実施例を参照して、本発明をさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0111】
図1図1は、実施例1の検査1(下痢型IBSにおける低FODMAP食に対する応答)から得た、バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.);アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii);およびフィルミクテス門(Firmicutes)を用いた三次元分類プロットの結果を示す。薄灰色は応答者、濃灰色は非応答者を表す。
図2図2は、実施例1の検査1(下痢型IBSにおける低FODMAP食に対する応答)から得た、アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii);およびフィルミクテス門(Firmicutes)を用いた二次元分類プロットの結果を示す。薄灰色は応答者、濃灰色は非応答者を表す。
図3図3は、実施例1の検査1(下痢型IBSにおける低FODMAP食に対する応答)から得た、アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii);およびバクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)を用いた二次元分類プロットの結果を示す。薄灰色は応答者、濃灰色は非応答者を表す。
図4図4は、実施例1の検査1(下痢型IBSにおける低FODMAP食に対する応答)から得た、フィルミクテス門(Firmicutes);およびバクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)を用いた二次元分類プロットの結果を示す。薄灰色は応答者、濃灰色は非応答者を表す。
図5図5は、実施例1の検査1(IBSサブタイプにおける低FODMAP食に対する応答)から得た、アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii);クロストリジウム・メチルベントーサム(Clostridium methylpentosum);およびデスルフィチポラ・アルカリフィラ(Desulfitipora alkaliphila)を用いた三次元分類プロットの結果を示す。薄灰色は応答者、濃灰色は非応答者を表す(精度80%)。
図6図6は、実施例1の検査1(便秘型IBSにおける低FODMAP食に対する応答)から得た、アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii);およびデスルフィチポラ・アルカリフィラ(Desulfitipora alkaliphila)を用いた二次元分類プロットの結果を示す。薄灰色は応答者、濃灰色は非応答者を表す。
図7図7は、実施例1の検査1(便秘型IBSにおける低FODMAP食に対する応答)から得た、アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii);およびクロストリジウム・メチルベントーサム(Clostridium methylpentosum)を用いた二次元分類プロットの結果を示す。薄灰色は応答者、濃灰色は非応答者を表す。
図8図8は、実施例1の検査1(便秘型IBSにおける低FODMAP食に対する応答)から得た、デスルフィチポラ・アルカリフィラ(Desulfitipora alkaliphila);およびクロストリジウム・メチルベントーサム(Clostridium methylpentosum)を用いた二次元分類プロットの結果を示す。薄灰色は応答者、濃灰色は非応答者を表す。
図9図9は、実施例1の検査2(下痢型IBSにおける低FODMAP食に対する応答)から得た、シゲラspp.(Shigella spp.)およびエシェリキアspp.(Escherichia spp.);ドレアspp.(Dorea spp.);ならびにユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum)を用いた三次元分類プロットの結果を示す。薄灰色は応答者、濃灰色は非応答者を表す(精度90.9%)。
図10図10は、実施例1の検査2(下痢型IBSにおける低FODMAP食に対する応答)から得た、ドレアspp.(Dorea spp.);ならびにシゲラspp.(Shigella spp.)およびエシェリキアspp.(Escherichia spp.)を用いた二次元分類プロットの結果を示す。薄灰色は応答者、濃灰色は非応答者を表す。
図11図11は、実施例1の検査2(下痢型IBSにおける低FODMAP食に対する応答)から得た、ユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum);ならびにシゲラspp.(Shigella spp.)およびエシェリキアspp.(Escherichia spp.)を用いた二次元分類プロットの結果を示す。薄灰色は応答者、濃灰色は非応答者を表す。
図12図12は、実施例1の検査2(下痢型IBSにおけるFODMAPに対する応答)から得た、ユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum);およびドレアspp.(Dorea spp.)を用いた二次元分類プロットの結果を示す。薄灰色は応答者、濃灰色は非応答者を表す。
図13図13は、実施例1の検査2(下痢型IBSにおける高FOS食に対する応答)から得た、ユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum);フィルミクテス門(Firmicutes);ならびにバクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.)を用いた三次元分類プロットの結果を示す。薄灰色は応答者、濃灰色は非応答者を表す(精度100%)。
図14図14は、実施例1の検査2(下痢型IBSにおける高FOS食に対する応答)から得た、フィルミクテス門(Firmicutes);ならびにバクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.)を用いた二次元分類プロットの結果を示す。薄灰色は応答者、濃灰色は非応答者を表す。
図15図15は、実施例1の検査2(下痢型IBSにおける高FOS食に対する応答)から得た、ユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum);ならびにバクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.)を用いた二次元分類プロットの結果を示す。薄灰色は応答者、濃灰色は非応答者を表す。
図16図16は、実施例1の検査2(下痢型IBSにおける高FOS食に対する応答)から得た、ユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum);およびフィルミクテス門(Firmicutes)を用いた二次元分類プロットの結果を示す。薄灰色は応答者、濃灰色は非応答者を表す。下痢型。
図17図17は、実施例1の検査3(下痢型IBSにおけるFMTに対する応答)から得た、バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.);ユウバクテリウム・ハリイ(Eubacterium hallii);ならびにクロストリジウムsp.(Clostridium sp.)を用いた三次元分類プロットの結果を示す。薄灰色は応答者、濃灰色は非応答者を表す(精度100%)。
図18図18は、実施例1の検査3(下痢型IBSにおけるFMTに対する応答)から得た、バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.);ならびにユウバクテリウム・ハリイ(Eubacterium hallii)を用いた二次元分類プロットの結果を示す。薄灰色は応答者、濃灰色は非応答者を表す。
図19図19は、実施例1の検査3(下痢型IBSにおけるFMTに対する応答)から得た、バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびPrevotella;ならびにクロストリジウムsp.(Clostridium sp.)を用いた二次元分類プロットの結果を示す。薄灰色は応答者、濃灰色は非応答者を表す。
図20図20は、実施例1の検査3(下痢型IBSにおけるFMTに対する応答)から得た、ユウバクテリウム・ハリイ(Eubacterium hallii);およびクロストリジウムsp.(Clostridium sp.)を用いた二次元分類プロットの結果を示す。薄灰色は応答者、濃灰色は非応答者を表す。
図21図21は、実施例2で説明するように、4週間のFODMAP制限食に対する応答者(円;n=32)および非応答者(三角;n=29)に分類されたIBS患者においてGA-map(商標) Dysbiosisテストによる評価を行った際の、消化管微生物相の組成の三因子PCAを示す。
図22図22は、実施例2で説明するように、IBS-SSSにおけるベースラインからの低下割合の評価を行った際の、消化管微生物相の組成に関する結果に基づく応答インデックスと、症状応答との間の相関性を示す(応答者(円;n=32),非応答者(三角;n=29))。変数は、有意に相関している(ロー=0.39、p<0.001)。
【0112】
実施例1-低FODMAP食、高FOS食、またはFMTに応答するIBS患者の非応答者からの区別を可能にする細菌分類群の同定
【0113】
方法
低FODMAP食(Gearry R.Bら,JCC 2008.09.004 8~14で定義される)、高FOS食(Slavin J. Nutrients.2013 Apr;5(4):1417~1435で定義される)、FMT(Francis C.Y.,Aliment Pharmacol Ther.1997 Apr;11(2):395~402で定義される)に応答するIBS患者のマーカーとして働く、胃腸管微生物相内に由来する分類群を同定するために、臨床研究を行った。
【0114】
IBS診断のためのRomeIII基準に基づいて、患者を採用した。主な症状に基づいて、患者を次の型、すなわち、下痢型IBS、便秘型IBS、または混合型IBSに分類した。GAmap(商標) Dysbiosisテスト(ジェネティック・アナリシス・AS(Genetic Analysis AS)社、オスロ、ノルウェー)を用いて、治療前と、食事指導検査では3~6週後、FMT検査では1~3週後とに、各患者の糞便試料由来の微生物相プロファイルを求めた。この時、患者から得たIBS-重症度スコア(IBS-SSS;Francis C.Y.,Aliment Pharmacol Ther.1997 Apr;11(2):395~402で定義される)を記録し、このスコアを用いて、応答者/非応答者をスコアの変化に基づいて定義した。
【0115】
GAmap(商標)テストは、従来の分子生物学的手法に基づくものであり、ヒトの糞便試料を均質化し細菌細胞を機械的に破砕することと、磁気ビーズを用いて細菌の全gDNAを自動抽出することと、V3~V9にわたる16s rRNA PCR DNA増幅を行うことと、単一ヌクレオチド伸長によってプローブのラベル化を行うことと、磁気ビーズに結合した相補的プローブとハイブダイゼーションさせることと、BioCode 1000A 128-Plexアナライザー(アプライド・バイオコード社、サンタ・フェ・スプリングス、カリフォルニア州、米国)を用いてシグナルを検出することと、を含む。GAmap(商標)は、異なる分類レベルで300以上の細菌を標的とし、IBS患者と健常患者(すなわち、IBSの症状を呈さない患者)とを区別する能力に基づいて選択された、54個のDNAプローブからなる。このモデルは、糞便試料中の標的細菌分類群の相対量をアルゴリズムで評価し、それによって、試料中の微生物相のプロファイルを提供し、微生物叢において、臨床的に関連する、正常な共生バランスからの潜在的な逸脱、すなわち共生バランス異常を判断することができる(Casen, C.ら,Alimentary Pharmacology and Therapeutics,42(1):71~83)。
【0116】
介入前(ベースライン)の細菌プローブ値を、介入(低FODMAP、高FOS、FMT)に対する応答者および非応答者を特徴付ける候補変数として用いて、GAmap(商標)の結果に対し段階的な判別分析を行った。この手順によって、非応答者から応答者を最もよく分離する細菌候補が選択された。指導後に、合計IBSスコアにおいてベースラインから少なくとも50%の低下(食事指導)または少なくとも100ポイントの低下(FMT)が見られるものを、応答者として定義した。その後、選択された変数の影響を定量化し、分類規則の感度および特異性を含む精度を推定するために、選択された変数を、フィッシャーの線形判別関数に用いた。
【0117】
2群(すなわち、正の判別スコアは応答者を示し、負の判別スコアは非応答患者を示す)における判別関数のスコアの違いを最大化するために、判別関数における係数を選択した。線形判別関数においてある細菌に対して「高い」値または「低い」値と解釈することは、群間の相対測定による。応答者が正の関数値を与えるように設定した場合は、ある細菌に対する高い値は、患者を応答者として分類するのに寄与し、低い値は、その逆である。
【0118】
結果
検査1(Study1)(IBS01-1302)-FODMAP制限食に対するIBS-下痢患者
下痢型(n=32、16+16)の応答者/非応答者群に対する54個の細菌プローブについての1回目の診察時における判別分析(4週間のFODMAP制限食に対して、合計IBSスコアにおいてベースラインから少なくとも50%の低下が見られたものを応答者と分類した):
段階的判別選択プロセス*において、54個の候補のうち以下の6つの細菌プローブを選択した:
- バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)
- バクテロイデス・スターコリス(Bacteroides stercosis)
- バクテロイデス・ズーグレフォルマンス(Bacteroides zoogleoformans)
- アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii)
- フィルミクテス門(Firmicutes)
- ベロイネラspp.(Veillonella spp.)、ヘリコバクターspp.(Helicobacter spp.)およびクロストリジウム綱(Clostridia)
*包含および排除のためのカットオフとして、0.10の有意水準を用いた段階的変数選択を行った。
【0119】
応答者は、以下のようなベースラインの特徴を有する傾向があった:
- バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)は、値が低い。
- バクテロイデス・スターコリス(Bacteroides stercosis)は、値が高い。
- バクテロイデス・ズーグレフォルマンス(Bacteroides zoogleoformans)は、値が高い。
- アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii)は、値が高い。
- フィルミクテス門(Firmicutes)は、値が低い。
- ベロイネラspp.(Veillonella spp.)、ヘリコバクターspp.(Helicobacter spp.)およびクロストリジウム綱(Clostridia)は、値が低い。
【0120】
IBS-下痢患者32人のうち、31人(97%)が、上記に基づいて正しく分類された。すなわち、応答者では16人中16人(100%)、非応答者では32人中31人(94%)であった。
【0121】
検査1(Study1)(IBS01-1302)-FODMAP制限食に対するIBS-便秘患者
便秘型(n=10、5+5)の応答者/非応答者群に対する54個の細菌プローブについての1回目の診察時における判別分析(4週間のFODMAP制限食に対して、合計IBSスコアにおいてベースラインから少なくとも50%の低下が見られたものを応答者と分類した):
段階的判別選択プロセス*において、54個の候補のうち以下の4つの細菌プローブを選択した:
- ユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum)
- アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii)
- クロストリジウム・メチルベントーサム(Clostridium methylpentosum)
- デスルフィチポラ・アルカリフィラ(Desulfitipora alkaliphila)
*包含および排除のためのカットオフとして、0.10の有意水準を用いた段階的変数選択を行った。
【0122】
応答者は、以下のようなベースラインの特徴を有する傾向があった:
- ユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum)は、値が高い。
- アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii)は、値が低い。
- クロストリジウム・メチルベントーサム(Clostridium methylpentosum)は、値が高い。
- デスルフィチポラ・アルカリフィラ(Desulfitipora alkaliphila)は、値が低い。
【0123】
IBS-便秘患者10人のうち、10人すべて(100%)が、上記に基づいて正しく分類された。
【0124】
検査2(Study2)(COP1602)-FODMAP制限食に対するIBS-下痢患者
IBS-下痢の応答者/非応答者(n=11、7/4)群に対する54個の細菌プローブについてのベースライン細菌を用いた判別分析(3週間のFODMAP制限食に対して、合計IBSスコアにおいてベースラインから少なくとも50%の低下が見られたものを応答者と分類した):
前向き判別選択プロセス*において、54個の候補のうち以下の3つの細菌プローブを選択した:
- ドレアspp.(Dorea spp.)
- ユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum)
- シゲラspp.(Shigella spp.)およびエシェリキアspp.(Escherichia spp.)
*包含のためのカットオフとして、0.10の有意水準を用いた前向き変数選択を行った。
【0125】
応答者は、以下のようなベースラインの特徴を有する傾向があった:
- ドレアspp.(Dorea spp.)は、値が高い。
- ユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum)は、値が高い。
- シゲラspp.(Shigella spp.)およびエシェリキアspp.(Escherichia spp.)は、値が低い。
【0126】
IBS-下痢患者11人のうち、10人(90.9%)が、上記に基づいて正しく分類された。すなわち、応答者では7人中6人(85.7%)、非応答者では7人中4人(100%)であった。
【0127】
検査2(Study2)(COP1602)-高FOS食に対するIBS-下痢患者
高FOS食応答者/非応答者群に対する54個の細菌プローブについての判別分析(6週間のFOS食に対して、合計IBSスコアにおいてベースラインから少なくとも50%の低下が見られたものを応答者と分類した):
段階的判別選択プロセス*において、54個の候補のうち以下の3つの細菌プローブを選択した:
- ユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum)
- フィルミクテス門(Firmicutes)
- バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.)
*包含および排除のためのカットオフとして、0.10の有意水準を用いた段階的変数選択を行った。
【0128】
応答者は、以下のようなベースラインの特徴を有する傾向があった:
- ユウバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum)は、値が高い。
- フィルミクテス門(Firmicutes)は、値が高い。
- バクテロイデスspp.(Bacteroides spp.)およびプレボテーラspp.(Prevotella spp.)は、値が高い。
【0129】
IBS-下痢患者11人のうち、11人すべて(100%)が、上記に基づいて正しく分類された。
【0130】
検査3(Study3)(COP1609)-便微生物移植による治療を行ったIBS-下痢患者
下痢型IBSの応答者/非応答者(n=8、4/4)群に対する54個の細菌プローブについてのベースライン細菌を用いた判別分析(糞便移植後3週間の時点で、合計IBSスコアにおいてベースラインから少なくとも100の低下が見られたものを応答者と分類した)(3人の患者では、1週間後のデータ(W1)をベースラインとして用いた):
前向き判別選択プロセス*において、54個の候補のうち以下の3つの細菌プローブを選択した:
- クロストリジウムsp.(Clostridium sp.)
- ユウバクテリウム・ハリイ(Eubacterium hallii)
- バクテロイデス属(Bacteroides)/プレボテーラ属(Prevotella)
*包含のためのカットオフとして、0.10の有意水準を用いた前向き変数選択を行った。
【0131】
応答者は、以下のようなベースラインの特徴を有する傾向があった:
- クロストリジウムsp.(Clostridium sp.)は、値が高い。
- ユウバクテリウム・ハリイ(Eubacterium hallii)は、値が高い。
- バクテロイデス属(Bacteroides)/プレボテーラ属(Prevotella)は、値が低い。
【0132】
8人のIBS-下痢患者のすべてが、上記に基づいて正しく分類された。
【0133】
検査3(Study3)(COP1609)-便微生物移植による治療を行ったIBS-下痢患者およびIBS-混合患者
下痢型/混合型IBSの応答者/非応答者(n=13、5/8)群に対する54個の細菌プローブについてのベースライン細菌を用いた判別分析(糞便移植後3週間の時点で、合計IBSスコアにおいてベースラインから少なくとも100の低下が見られたものを応答者と分類した)(3人の患者では、1週間後のデータ(W1)をベースラインとして用いた):
応答者は、以下のようなベースラインの特徴を有する傾向があった:
- クロストリジウムsp.(Clostridium sp.)は、値が高い。
- ディアリスター・インビサス(Dialister invisus)は、値が低い。
- バクテロイデス属(Bacteroides)/プレボテーラ属(Prevotella)は、値が低い。
【0134】
13人の下痢/混合患者のすべてが、上記に基づいて正しく分類された。
【0135】
実施例2-過敏性腸症候群患者における食事中のFODMAP制限に対する臨床応答の指標としての消化管微生物相組成の検査
【0136】
材料および方法
患者
2013年4月から2014年10月まで連続して、二次医療外来診療所(ロビセンベルグ・ダイアコーナル(Lovisenberg Diaconal)病院、オスロ、ノルウェー)から患者を採用した。端的に言うと、すべての患者がIBSのRomeIII基準を満たし、また、器質性疾患を排除するために、経験豊かな同じ消化器専門医によって十分に検査された。注目すべきは、小腸の吸収不良を排除するために、すべての患者が13C-D-キシロース呼気検査を受け、13C-D-キシロース摂取後の13CO2の排出量が多い患者のみを含むようにした。
【0137】
食事中のFODMAP制限
すべての患者に、経験豊かな臨床栄養士による栄養指導を受けさせ、低FODMAPの概念を教育した。患者が皆、平均的なノルウェーの食事と比較して特に制限された食事をとるということを確実になくすために、検査に入る前に、ベースラインとなる食事を注意深く評価した。注目すべきは、検査開始時点で、ノルウェーでは低FODMAP食はよく知られていなかった。その後、患者は、モナシュ(Monash)大学(メルボルン、オーストラリア)による指針にしたがって、過剰量のFODMAPを含む食品をすべて厳格に除去するよう指導された。したがって、患者は、ガラクトオリゴ糖を含む食品(例えば、インゲン豆、レンズ豆、エンドウ豆など)、フルクタンを含む食品(例えば、小麦、キャベツ、玉ねぎなど)、ラクトースを含む食品(例えば、乳、ヨーグルト、乳製品など)、およびポリオールを含む食品(例えば、きのこ、カリフラワー、あんずなど、また、ポリオールで甘みをつけた食品も含む)のみならず、グルコース以上にフルクトースを含む食品(例えば、りんご、西洋なし、ドライフルーツなど)を避けるように指導された。オレンジ、バナナ、米、オーツ麦、肉、魚、卵、およびラクトースを含まない乳製品などのFODMAP含量が少ない食品が、FODMAP含量の多い食品の代替として勧められた。食事指導の期間は4週間とした。検査を通して、食事の遵守は、個人的な相談および電話やEメールによる通信を含む臨床栄養士による綿密な追跡によって保証され、また、食事の遵守は、患者が記入するように依頼された食事日記を評価することによって評価された。
【0138】
症状の評価および食事に対する応答の定義
Francisら(前掲)にしたがって、食事指導の前後に、過敏性腸症候群重症度スコアシステム(IBS-SSS)を用いて腹部症状の重症度を評価した。この一覧において達成可能な最大スコアは、500ポイントであり、症状の重症度を、次の、軽度(75~175ポイント)、中度(175~300ポイント)、および重度(>300ポイント)に等級分けする。ローマ臨床試験計画委員会(Rome Design of Treatment Trials Committee)が推奨するように、食事指導に対する応答者は、IBS-SSSにおいて50%以上の低下が見られると報告された患者として定義された。したがって、非応答者は、IBS-SSSにおいて50%未満の低下が見られると報告された患者として定義された。
【0139】
腹部症状の評価に加えて、腹部以外の症状の重症度を、不安や鬱を評価するための病院不安および鬱尺度(HADS)および慢性疲労を評価するための疲労評価尺度(FIS)を用いて、ベースラインとして評価した。
【0140】
消化管微生物相の組成の分析
患者は、食事指導の前後に、指定された容器(ジェネティック・アナリシス(Genetic Analysis)社、オスロ、ノルウェー)を用いて糞便試料を収集した。患者は、家で、試料をすぐにマイナス20℃で凍結し、できるだけ速やかに凍結した容器を病院へ持ってくるように、丁寧に指導された。その後、試料は、マイナス80℃で保管され、分析時に解凍された。消化管微生物の組成を評価するために、GA-map(商標) Dysbiosisテスト(前掲)を用いた。「蛍光シグナル強度」として測定された、54個の標的細菌マーカーに係る細菌の相対量と、共生バランス異常指数(DI;範囲は0~5)(ここで、DIが2より大きい場合を「共生バランス異常」と表す)との両方として、結果を得た。
【0141】
統計的手法
試料数が限られているため、すべての連続変数について、ノンパラメトリック検定を用いて、応答者と非応答者を比較した。無関係な変数を比較する場合は、マン-ホイットニー-ウィルコクソン検定を用い、治療前後の測定値を比較する場合は、ウィルコクソンの符号順位検定を用いた。治療前後の比率を比較する場合は、カイ二乗検定またはマクネマー検定を用いて、属性変数の対の間の潜在的相関性を評価した。相関は、スピアマンのローを用いて算出した。測定されたすべての細菌マーカーの判別能力を検査して応答者と非応答者とを区別するために、共分散行列を用いて主成分分析(PCA)を行った。ロジスティック回帰を用いて、応答者である可能性を計算し、その結果を、95%信頼区間(CI)でオッズ比(OR)として表した。さらに、選択した共分散を与える可能性を計算した。正の予測値(PPV)を、Altman(Altman DGら,Statistics with confidence.2nd ed. New York:BMJ Books;2000)に記載の通り計算した。試料数が限られているため、データを訓練事例集合と検定事例集合とに分割することができなかったため、5倍交差検証(CV)(James Gら,An introduction to statistical learning. New York:Springer;2013)を用いてモデルを評価した。95%CIでCV由来の平均スコアとして、精度を算出した。発明者らの分析は、試験的なものと考えられたため、多重検定のための補正は行わず、0.05未満のp値を統計的に有意なものとみなした。すべての分析は、SPSSバージョン22およびR(プログラミング言語)バージョン3.3.2を用いて行った。
【0142】
結果
被験者の特徴:応答者および非応答者
最初は、63人の患者が登録されていたが、2人の患者からの消化管微生物相の組成分析のための糞便試料が足りず、参加者の合計は61人に減少した。応答者の定義(IBS-SSS(13)において50%以上の低下)に基づいて、食事指導に対して32人の患者が応答者に分類され、29人の患者が非応答者に分類された。応答者と非応答者では、臨床的なベースラインの特徴に関して有意な違いはなかった(表1)。
【0143】
【表1】
【0144】
性別の分布は、両群で同様であり、大多数が女性であった。体容積指数(BMI)およびIBS型の分布も同様であったが、応答者は、非応答者よりもわずかに若い傾向があった。
【0145】
IBS-SSSの測定値に関して、応答者と非応答者とで違いはなかった。IBS-SSSのカテゴリー分布も、両群で非常に似通っており、治療前にIBS-SSSが軽度であると分類された患者はいなかった。しかしながら、治療後、32人の応答者のうちの13人がIBS-SSSが軽度であると報告され、一方、非応答者では、治療後にこのカテゴリーになったのは1人のみであった。治療後、両群で、IBS-SSSのスコアが、ベースラインと比較して有意に低いと報告された(どちらもp<0.01)。
【0146】
消化管微生物相のプロファイリング
応答者および非応答者の細菌プロファイルを、54個の細菌マーカーから得たデータに基づいて比較した。応答者と非応答者とを区別するすべての細菌マーカーの全体的な能力を、PCA法を用いて評価した。三因子分析(Three-factor solution)を図21に示す。応答者では、次の細菌マーカー、すなわち、バクテロイデス・フラギリス(Bacteroides fragilis)、アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii)、ルミニクロストリジウム(Ruminiclostridium)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、およびユウバクテリウム属(Eubacterium)において、その量が有意に高かった(すべてp<0.05)(表2)。さらに、応答者では、次の細菌マーカー、すなわち、クロストリジウム綱(Clostridia)/ネガティウィクテス綱(Negativicutes)/バシラス綱(Bacilli)(フィルミクテス門(Firmicutes))、放線菌目(Actinomycetales)、アナエロツルンカス(Anaerotruncus)、クロストリジウム綱(Clostridiales)、ならびにシゲラspp.(Shigella spp.)およびエシェリキアspp.(Escherichia spp.)において、その量が有意に低かった(すべてp<0.05)(表2)。
【0147】
【表2】
【0148】
残りの44個の細菌マーカーについては、データから、応答者と非応答者との間の違いは明らかにならなかった。上述した10個の細菌マーカーのうちの8個については、応答者と非応答者との間の違いは、治療後も統計的に有意なままであった。食事後に統計的に有意でなかった2つの細菌マーカーは、バクテロイデス・フラギリス(Bacteroides fragilis)およびアシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii)であった。これらの量が、治療後、応答者群においていくらか減少していたためである(バクテロイデス・フラギリス(Bacteroides fragilis)では、中央値が27.4から24.2、p=0.16となり、アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii)では、中央値が188.9から183.6、p=0.19となった)。
【0149】
検査を受けた個々人のうちの約半数が、治療前に「共生バランス異常」(DI>2)と分類され、応答者および非応答者におけるその割合は、それぞれ50%(16/32)および48%(14/29)と同様であった。この割合は、治療後、数字上増加したが統計的に有意ではなく、応答者および非応答者において、それぞれ56%(18/32)および59%(17/29)と非常に近いままであった。しかしながら、応答者および非応答者の両方において、多くの患者が、治療後にDI分類が変更された。非応答者の場合、7人が「共生バランス異常」となり、5人が「非共生バランス異常」となった。このような患者の数は、応答者群では若干少なく、応答者群では、5人が「共生バランス異常」となり、3人は治療後のDI値が正常であった。1~5の尺度で測定した場合、治療後、応答者および非応答者の両方において、DIスコアは変化しなかった。中央値(範囲)は、治療前も治療後も、応答者の場合は3(1~4)であり、非応答者の場合は3(1~5)であった。
【0150】
応答インデックス(RI)
治療前に消化管微生物の組成を評価するのに用いた54個の細菌マーカーのうちの10個で、応答者と非応答者との間の違いが有意であった(上述した通り)。これらのマーカーについての応答者の中央値に基づいて、応答インデックス(RI)を次のように作成した。
1.選択された10個の細菌マーカーについての応答者の中央値を、カットオフ量として用いた。
2.各患者について、選択された各マーカーについての値がカットオフ値と異なる場合に、ポイントを与えた。非応答者と比べて応答者において量が少ないマーカーについて、試料中の該マーカーの量がカットオフ量よりも少ない場合に、患者にポイントを与えた。非応答者と比べて応答者において量が多いマーカーについて、該マーカーの量がカットオフ量よりも多い場合に、患者にポイントを与えた。
3.ポイントを合計し、0~10の数で表した(RI合計スコア)。この合計をさらに二分した。すなわち、3ポイント以下の患者を値0とし(負の応答)、4ポイント以上の患者を値1とした(正の応答)。
4.最後に、RIの成績を確認し、精度を平均スコアとして算出した:0.72、95%CI[0.63;0.81]。
【0151】
治療前は、発明者らによる結果は多様性が高かったが、非応答者と比較して、応答者の方がRI合計スコアが高くなった(中央値は、応答者で4.9、非応答者で2.6であり、範囲はどちらも0~9であった)。さらに、RI合計スコアと、IBS-SSSにおける百分率の低下との間には、統計的に有意な相関が見られた(ロー=0.39、p<0.001;図22)。応答者の大多数は、治療後もRI合計スコアが高くなった。
【0152】
治療前のRI
全体として、応答者の60%(19/32)でRI合計スコアが4ポイント以上となり、一方、非応答者では21%(6/29)のみでRIが正であった。応答者は、より若く、またBMIがわずかに高かったので、さらなる分析では、これらの潜在的交絡因子について調整を行った。年齢およびBMIについて調整すると、応答者であるということのみが、正のRIと統計的に強く相関したままであった(p<0.004)。しかしながら、年齢については、最終モデルにおいても維持した。RIが正である患者は、RIがより低い患者と比較して、応答者である可能性が5倍以上であった(OR=5.05、95%CI[1.58;16.10]。若い患者は、応答者である可能性が高かった(p=0.04)。RIが正である患者に応答する可能性は、83.4%(95%CI[61.2~94%])であった。さらに、RIが正である患者がFODMAP食に応答する可能性、すなわち正の予測値を算出した:PPV=76.0、95%CI[61.1~86.9]。
【0153】
治療後のRI
応答者の大多数は、治療後もRIが正であった。全体として、応答者の56%(18/32)が正であり、非応答者では14%(4/29)であった。年齢およびBMIについて調整すると、応答者は、非応答者と比較して、RIが正となる可能性が7倍以上であった(OR=7.31、95%CI[1.90~28.23]、p=0.004)。
【0154】
考察
過去10年間で、消化管の微生物相が、IBSの発症において重要な役割を担っているという証拠が増えてきた。粘膜関連微生物相は、主に、消化管壁中に位置する調節管理系を介して宿主に影響を及ぼしていると考えられる一方、内腔微生物相は、主に、発酵により、ガスおよび他の代謝産物を産出して、効果を発揮すると考えられる。どちらの区分も、IBS患者では乱れていると考えられ、このような変化が、症状の発現に関わっている場合がある。本調査においては、発明者らは、細菌DNAマーカーを評価することによって、糞便微生物相の組成を評価した。
【0155】
本データは、選択された消化管微生物DNAマーカーの治療前の量は、食事中のFODMAPの制限に良好に応答する可能性の高さと相関し得るということを示唆している。消化管微生物相の組成とIBSの症状の発現との機構的関係は、本調査で確認することはできないが、その結果は、このような微生物DNAマーカーを、治療に応答する可能性の指標として治療に先がけて用い得、ひいては、臨床の現場において大いに価値があるものであり得るということを示唆している。このようなマーカー由来の情報を、スコアシステム、例えば、本明細書に記載のRI、に組み込むことによって、臨床の各現場において、この評価を、直接的に、均質に、かつ繰り返し可能に利用することが可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22