IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立ビークルエナジー株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-蓄電池制御装置および電動車両 図1
  • 特許-蓄電池制御装置および電動車両 図2
  • 特許-蓄電池制御装置および電動車両 図3
  • 特許-蓄電池制御装置および電動車両 図4
  • 特許-蓄電池制御装置および電動車両 図5
  • 特許-蓄電池制御装置および電動車両 図6
  • 特許-蓄電池制御装置および電動車両 図7
  • 特許-蓄電池制御装置および電動車両 図8
  • 特許-蓄電池制御装置および電動車両 図9
  • 特許-蓄電池制御装置および電動車両 図10
  • 特許-蓄電池制御装置および電動車両 図11
  • 特許-蓄電池制御装置および電動車両 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】蓄電池制御装置および電動車両
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20220705BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20220705BHJP
   B60L 3/00 20190101ALN20220705BHJP
   B60L 50/60 20190101ALN20220705BHJP
   B60L 58/12 20190101ALN20220705BHJP
   B60L 58/16 20190101ALN20220705BHJP
【FI】
H02J7/00 S
H02J7/00 P
H02J7/00 Y
H01M10/48 P
B60L3/00 S
B60L50/60
B60L58/12
B60L58/16
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020199661
(22)【出願日】2020-12-01
(62)【分割の表示】P 2015177561の分割
【原出願日】2015-09-09
(65)【公開番号】P2021061747
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2020-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】505083999
【氏名又は名称】ビークルエナジージャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】特許業務法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山内 晋
(72)【発明者】
【氏名】坂部 啓
(72)【発明者】
【氏名】米元 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】山添 孝徳
(72)【発明者】
【氏名】大川 圭一朗
(72)【発明者】
【氏名】中尾 亮平
【審査官】辻丸 詔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/094057(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/027389(WO,A1)
【文献】特開2009-207312(JP,A)
【文献】特開2001-157310(JP,A)
【文献】特開2009-018713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00-7/12
7/34-7/36
H01M 10/42-10/48
B60L 3/00
B60L 50/60
B60L 58/12
B60L 58/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電池の情報を取得する電池情報取得部と、
前記蓄電池の充放電により電流が流れる構成部品の定格値に応じた前記蓄電池の第1許容電流を演算する第1許容電流演算部と、
前記電池情報取得部により取得された前記情報に基づいて、前記蓄電池の充電状態に応じた前記蓄電池の第2許容電流を演算する第2許容電流演算部と、
前記電池情報取得部により取得された前記情報に基づいて、前記蓄電池の劣化状態に応じた前記蓄電池の第3許容電流を演算する第3許容電流演算部と、
前記第1許容電流、前記第2許容電流または前記第3許容電流のいずれかを選択して出力する許容電流選択部と、を備え、
前記許容電流選択部は、
前記蓄電池の劣化抑制を優先すべき状況であるか否かを判定し、前記第1許容電流、前記第2許容電流、及び、前記第3許容電流のうち、当該第3許容電流が最も小さい許容電流であり、前記蓄電池の劣化抑制を優先すべき状況であると判定した場合には前記第3許容電流を選択し、
前記蓄電池の劣化抑制を優先すべき状況ではないと判定した場合には、前記第1許容電流または前記第2許容電流のうち、小さい許容電流を選択し、
前記蓄電池の負荷である電動機の出力トルクの向上が要求されている間は、前記蓄電池の劣化抑制を優先すべき状況ではないと判定する蓄電池制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蓄電池制御装置と、
前記蓄電池の負荷である電動機と、を備えた電動車両。
【請求項3】
請求項2に記載の電動車両において、
前記電動車両のドライバーが、前記蓄電池の寿命を優先するモードと、前記電動車両の走行性能を優先するモードとを選択可能な選択可能部を、備えた電動車両。
【請求項4】
請求項3に記載の電動車両において、
前記選択可能部は、前記ドライバーによって前記電動車両の走行性能を優先するモードが選択された場合には、前記第1許容電流または前記第2許容電流のうち、小さい許容電流を選択する電動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池制御装置および当該蓄電池制御装置を備えた電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、HEV(ハイブリッド自動車)やPHEV(プラグインハイブリッド自動車)に搭載され、蓄電池にリチウムイオン二次電池を用いた車載用電池システムが使用されている。こうした車載用電池システムでは、構成部品の安全性や劣化防止の観点から、蓄電池に流れる電流を所定範囲内に制限することが必要である。たとえば特許文献1では、蓄電池の劣化度に応じて電流の上限値を設定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2013/094057号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車載用電池システムから出力すべき電流の大きさは、蓄電池の劣化度だけでなく、状況によっても様々に変化する。たとえば、車両の走行状態等によっては、一時的に大きな電流を負荷に流す必要が生じる場合がある。このような場合には、蓄電池の劣化を抑制して寿命確保を図ることが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による蓄電池制御装置は、蓄電池の情報を取得する電池情報取得部と、前記蓄電池の充放電により電流が流れる構成部品の定格値に応じた前記蓄電池の第1許容電流を演算する第1許容電流演算部と、前記電池情報取得部により取得された前記情報に基づいて、前記蓄電池の充電状態に応じた前記蓄電池の第2許容電流を演算する第2許容電流演算部と、前記電池情報取得部により取得された前記情報に基づいて、前記蓄電池の劣化状態に応じた前記蓄電池の第3許容電流を演算する第3許容電流演算部と、前記第1許容電流、前記第2許容電流または前記第3許容電流のいずれかを選択して出力する許容電流選択部と、を備え、前記許容電流選択部は、前記蓄電池の劣化抑制を優先すべき状況であるか否かを判定し、前記蓄電池の劣化抑制を優先すべき状況であると判定した場合までは、前記第1許容電流、前記第2許容電流または前記第3許容電流のうち、最も小さい許容電流を選択し、前記蓄電池の劣化抑制を優先すべき状況ではないと判定した場合には、前記第1許容電流または前記第2許容電流のうち、小さい許容電流を選択し、前記蓄電池の負荷である電動機の出力トルクの向上が要求されている間は、前記蓄電池の劣化抑制を優先すべき状況ではないと判定する。
本発明による電動車両は、上記蓄電池制御装置と、前記蓄電池の負荷である電動機と、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明の蓄電池制御装置および電動車両によれば、蓄電池の劣化を抑制して寿命確保を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施形態に係る蓄電池制御装置を適用した電池システムの構成を示す図である。
図2】バッテリコントローラの機能ブロック図である。
図3】第1許容電流演算部の機能ブロック図である。
図4】第1許容電流の決定方法を説明する図である。
図5】第2許容電流演算部の機能ブロック図である。
図6】第2許容電流の決定方法を説明する図である。
図7】第3許容電流演算部の機能ブロック図である。
図8】第3許容電流の決定方法を説明する図である。
図9】電池モジュールの充放電制御のフローチャートである。
図10】従来技術を用いた場合の許容電流の変化の一例を示す図である。
図11】本発明を用いた場合の許容電流の変化の一例を示す図である。
図12】本発明をより積極に活用した場合の許容電流の変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。
【0009】
図1は、本発明の一実施形態に係る蓄電池制御装置を適用した電池システムの構成を示す図である。図1に示す電池システム100は、インバータ110および上位コントローラ112と接続されている。インバータ110には負荷111が接続されている。
【0010】
インバータ110は、上位コントローラ112の制御により動作する双方向インバータである。インバータ110は、電池システム100から供給される直流電力を交流電力に変換して負荷111に出力する。負荷111は、たとえば車両に搭載される三相交流電動機であり、インバータ110から供給される交流電力を用いて回転駆動することで車両の駆動力を発生する。また、車両の運動エネルギーを利用して負荷111を発電機として動作させることで回生発電を行うと、負荷111から交流電力が出力される。この場合、インバータ110は、負荷111から出力された交流電力を直流電力に変換し、得られた直流電力を電池システム100に出力して蓄える。こうして上位コントローラ112の制御に応じてインバータ110を動作させることにより、電池システム100の充放電が行われる。
【0011】
なお、電池システム100の充放電を適切に制御することができれば、本発明は図1の構成に限定されない。たとえば、インバータ110とは別の充電システムを電池システム100に接続し、この充電システムを用いて電池システム100の充電を必要に応じて行うようにしてもよい。
【0012】
電池システム100は、電池モジュール101、電流センサ102、電圧センサ103、温度センサ104、漏電センサ105、リレー106A、リレー106B、およびバッテリコントローラ107を備える。
【0013】
電池モジュール101は、複数個の単位電池を直列または直並列に接続して構成されている充放電可能な蓄電池である。なお、電池モジュール101を2つ以上のグループに分け、各グループ間に人力で操作可能な遮断器を設けてもよい。このようにすれば、電池システム100の組み立て、解体、点検等の作業時には遮断器を開放することで、感電事故や短絡事故の発生を防ぐことができる。
【0014】
電流センサ102は、電池モジュール101に流れる充放電電流を検出する。電圧センサ103は、電池モジュール101の電圧を検出する。温度センサ104は、電池モジュール101の温度を検出する。漏電センサ105は、電池モジュール101の絶縁抵抗を検出する。電流センサ102、電圧センサ103、温度センサ104および漏電センサ105の各検出結果は、バッテリコントローラ107にそれぞれ出力される。
【0015】
リレー106A、106Bは、電池モジュール101とインバータ110の間の電気的接続状態を切り替えるためのものであり、バッテリコントローラ107または上位コントローラ112によって制御される。リレー106Aは、電池モジュール101の正極側とインバータ110の間に接続されており、リレー106Bは、電池モジュール101の負極側とインバータ110の間に接続されている。なお、リレー106A、106Bのいずれか一方を省略してもよい。また、突入電流を制限するために、リレー106Aまたは106Bと並列に、プリチャージリレーおよび抵抗を設けてもよい。この場合、電池モジュール101とインバータ110の接続時には、先にプリチャージリレーをオンし、電流が十分小さくなった後に、リレー106Aまたは106Bをオンしてプリチャージリレーをオフすればよい。
【0016】
バッテリコントローラ107は、本発明の一実施形態に係る蓄電池制御装置に相当するものである。バッテリコントローラ107は、電流センサ102、電圧センサ103、温度センサ104および漏電センサ105の各検出結果を取得し、これらの検出結果に基づいて電池システム100の制御を行う。たとえば、バッテリコントローラ107は、電流センサ102による充放電電流の検出結果や、電圧センサ103による電圧の検出結果に基づいて、電池モジュール101の充電状態(SOC:State Of Charge)や劣化状態(SOH:State Of Health)を算出する。そして、これらの算出結果を基に、電池モジュール101の充放電制御や、電池モジュール101の各単位電池のSOCを均等化するためのバランシング制御などを行う。また、バッテリコントローラ107は、漏電センサ105による絶縁抵抗の検出結果に基づいて、電池モジュール101が漏電状態または漏電しそうな状態であるか否かを判断し、これらの状態にあると判断した場合には電池システム100の動作を停止する。これ以外にも、バッテリコントローラ107は様々な処理を実行することができる。
【0017】
なお、電池モジュール101の充放電制御において、バッテリコントローラ107は、電池モジュール101に流れる電流を状況に応じて適切に制御するための許容電流を演算し、上位コントローラ112に出力する。このバッテリコントローラ107による電池モジュール101の充放電制御の詳細については、後で詳しく説明する。
【0018】
上位コントローラ112は、バッテリコントローラ107から送信される電池モジュール101の様々な情報に基づいて、電池システム100やインバータ110の動作状態を制御する。
【0019】
次に、バッテリコントローラ107による電池モジュール101の充放電制御の詳細について説明する。図2は、バッテリコントローラ107の機能ブロック図である。図2に示すように、バッテリコントローラ107は、電池情報取得部201、第1許容電流演算部202、第2許容電流演算部203、第3許容電流演算部204および許容電流選択部205の各機能ブロックにより構成される。バッテリコントローラ107は、たとえばCPUにより所定のプログラムを実行することで、これらの機能ブロックを実現することができる。
【0020】
電池情報取得部201は、電流センサ102、電圧センサ103、温度センサ104の各検出結果に基づいて、電池モジュール101の状態に関する様々な情報を取得する。電池情報取得部201は、たとえば、電流センサ102により検出された電池モジュール101の充放電電流や、温度センサ104により検出された電池モジュール101の温度などを、電池モジュール101の情報として取得する。また、バッテリコントローラ107に内蔵された不図示のタイマを用いて計測された電池モジュール101の使用時間や、電池モジュール101を搭載した車両の走行距離などを、電池モジュール101の情報として取得することもできる。すなわち、電池情報取得部201は、上記のような電池モジュール101の状態に関する様々な情報の中から、いずれか少なくとも一つの情報を取得することができる。なお、上記で挙げたもの以外の情報を電池モジュール101の情報として取得してもよい。
【0021】
第1許容電流演算部202は、電池モジュール101の第1許容電流を演算する。この第1許容電流は、電池モジュール101の充放電により電流が流れる構成部品の定格値に応じた電池モジュール101の許容電流である。なお、第1許容電流演算部202による具体的な第1許容電流の演算方法については、後で図3図4を参照して説明する。
【0022】
第2許容電流演算部203は、電池情報取得部201により取得された電池モジュール101の情報に基づいて、電池モジュール101の第2許容電流を演算する。この第2許容電流は、電池モジュール101のSOCに応じた電池モジュール101の許容電流である。なお、第2許容電流演算部203による具体的な第2許容電流の演算方法については、後で図5図6を参照して説明する。
【0023】
第3許容電流演算部204は、電池情報取得部201により取得された電池モジュール101の情報に基づいて、電池モジュール101の第3許容電流を演算する。この第3許容電流は、電池モジュール101のSOHに応じた電池モジュール101の許容電流である。なお、第3許容電流演算部204による具体的な第3許容電流の演算方法については、後で図7を参照して説明する。
【0024】
許容電流選択部205は、第1許容電流演算部202、第2許容電流演算部203、第3許容電流演算部204によりそれぞれ演算された第1許容電流、第2許容電流または第3許容電流のいずれかを選択する。なお、許容電流選択部205による具体的な許容電流の選択方法については、後で説明する。そして、選択した許容電流の値を上位コントローラ112に出力する。許容電流選択部205から許容電流が出力されると、上位コントローラ112は、その許容電流の値に従って電池システム100およびインバータ110を制御し、電池モジュール101の充放電制御を行う。
【0025】
次に、第1許容電流演算部202による第1許容電流の演算方法について説明する。図3は、第1許容電流演算部202の機能ブロック図である。図3に示すように、第1許容電流演算部202は、定格値取得部301および第1許容電流決定部302の各機能ブロックにより構成される。
【0026】
定格値取得部301は、電池システム100を構成する様々な電気部品のうち、電池モジュール101の充放電により電流が流れる各構成部品の電流定格値を、第1許容電流に関する定格値として取得する。定格値取得部301は、たとえば、電池システム100において充放電電流の経路上に配置されているバスバー、コネクタ、電流ケーブル、リレー(スイッチ)、ヒューズ、ねじ等の様々な構成部品について、電流定格値を取得する。なお、充放電電流の経路上にシャント抵抗や接着樹脂等が配置されている場合、定格値取得部301は、これらの電流定格値も取得する。定格値取得部301は、たとえば、各構成部品の電流定格値の温度特性を予め記憶している。そして、温度センサ104により検出された電池モジュール101の温度に基づいて、各構成部品の温度を推定し、その温度に応じた電流定格値を各構成部品について取得する。このときさらに、電池システム100の使用履歴等に基づいて各構成部品の劣化状態を推定し、その推定結果を考慮して各構成部品の電流定格値を定めてもよい。
【0027】
第1許容電流決定部302は、定格値取得部301により取得された各構成部品の電流定格値に基づいて、第1許容電流を決定する。第1許容電流決定部302は、たとえば、電流定格値が最小の構成部品に合わせて、第1許容電流を決定する。
【0028】
図4は、第1許容電流決定部302による第1許容電流の決定方法を説明する図である。図4において、直線401、402、403は、それぞれ異なる構成部品の通電時間に対する電流定格値の特性例を表している。電池システム100の構成部品には、直線401に示すように通電時間に関わらず電流定格値が一定のものや、直線402、403にそれぞれ示すように、通電時間が長くなる(通電デューティが大きくなる)につれて電流定格値が低下するものが混在している。これらの電流定格値が定格値取得部301により取得された場合、第1許容電流決定部302は、たとえば折れ線404に示すような通電時間に対する電流定格値の特性に従って、第1許容電流を決定することができる。
【0029】
次に、第2許容電流演算部203による第2許容電流の演算方法について説明する。図5は、第2許容電流演算部203の機能ブロック図である。図5に示すように、第2許容電流演算部203は、SOC演算部501、内部抵抗演算部502および第2許容電流決定部503の各機能ブロックにより構成される。
【0030】
SOC演算部501は、電流センサ102による充放電電流の検出結果や、電圧センサ103による電圧の検出結果に基づいて、電池モジュール101のSOCを演算する。SOC演算部501は、たとえば、充放電電流の積算値からSOCを求めたり、電池モジュール101が充放電されていないときの開放電圧(OCV)からSOCを求めたりすることができる。
【0031】
内部抵抗演算部502は、SOC演算部501により求められたSOCに基づいて、電池モジュール101の内部抵抗値を演算する。内部抵抗演算部502は、たとえば、SOCから求められるOCVと、電流センサ102による充放電電流の検出結果と、電圧センサ103による充放電時の電圧検出結果とに基づいて、電池モジュール101の内部抵抗値を演算することができる。このとき、温度センサ104により検出された温度を考慮して、電池モジュール101の内部抵抗値を求めてもよい。
【0032】
第2許容電流決定部503は、SOC演算部501により求められたSOCと、内部抵抗演算部502により求められた内部抵抗とに基づいて、第2許容電流を決定する。
【0033】
図6は、第2許容電流決定部503による第2許容電流の決定方法を説明する図である。図6において、曲線601は、電池モジュール101のSOCとOCVとの関係を表すSOC-OCV曲線の一例を示している。電池モジュール101が使用されるSOCの最大値をSmax、最小値をSminとそれぞれ表すと、電池モジュール101のOCVの最大値Vmaxおよび最小値Vminは、図6に示すように、SOC-OCV曲線601上でSmax、Sminにそれぞれ対応する点として求められる。
【0034】
ここで、任意の時刻tにおけるSOC、OCVの値をそれぞれS(t)、V(t)と表すと、これらの値はSOC-OCV曲線601上の点として、たとえば点602のように示すことができる。このときの電池モジュール101の充電許容電流および放電許容電流をそれぞれIc(t)、Id(t)と表すと、点602とこれらの間には、図6に示すような関係が成り立つ。図6において、R(t)は時刻tにおける電池モジュール101の内部抵抗を表している。
【0035】
上記の関係を式で表すと、以下の式(1)のようになる。
V(t)=Vmax-Ic(t)×R(t)
=Vmin+Id(t)×R(t) ・・・(1)
【0036】
式(1)から、充電許容電流Ic(t)および放電許容電流Id(t)を求める式として、以下の式(2)、(3)が導かれる。
Ic(t)={Vmax-V(t)}/R(t) ・・・(2)
Id(t)={V(t)-Vmin}/R(t) ・・・(3)
【0037】
第2許容電流決定部503は、上記の式(2)、(3)に基づいて、充電許容電流Ic(t)、放電許容電流Id(t)をそれぞれ求めることにより、第2許容電流を決定することができる。
【0038】
次に、第3許容電流演算部204による第3許容電流の演算方法について説明する。図7は、第3許容電流演算部204の機能ブロック図である。図7に示すように、第3許容電流演算部204は、SOH演算部701、寿命予測部702および第3許容電流決定部703の各機能ブロックにより構成される。
【0039】
SOH演算部701は、電流センサ102による充放電電流の検出結果や、電圧センサ103による電圧の検出結果に基づいて、電池モジュール101のSOHを演算する。なお、第2許容電流演算部203からSOCや内部抵抗の演算結果を取得し、これらの演算結果に基づいてSOHを演算してもよい。
【0040】
寿命予測部702は、SOH演算部701により演算されたSOHに基づいて、電池モジュール101の寿命を予測する。寿命予測部702は、たとえば、電池情報取得部201により取得された電池モジュール101の情報の履歴を、電池モジュール101のSOHと関連付けて記録しておく。こうして記録された情報を基に将来のSOHの推移を推定することで、電池モジュール101の劣化進行速度を演算し、その演算結果から寿命を予測することができる。
【0041】
第3許容電流決定部703は、SOH演算部701により求められたSOHと、寿命予測部702により求められた寿命とに基づいて、第3許容電流を決定する。第3許容電流決定部703は、たとえば、寿命予測部702により予測された電池モジュール101の寿命を、予め設定された寿命目標値と比較する。その結果、寿命目標値と寿命予測値との乖離が大きければ、その乖離が小さくなるように、第3許容電流の値を調節する。これにより、第3許容電流演算部204は、電池モジュール101のSOHに応じた第3許容電流を演算することができる。
【0042】
図8は、第3許容電流決定部703による第3許容電流の決定方法を説明する図である。図8において、曲線801は、劣化進行速度と第3許容電流の関係の一例を示している。第3許容電流決定部703には、たとえば、予め実験等により求められた図8の関係がマップ化されたデータが記憶されている。このデータを用いることで、第3許容電流決定部703は、電池モジュール101の劣化進行速度に応じて第3許容電流を決定することができる。
【0043】
図9は、バッテリコントローラ107による電池モジュール101の充放電制御のフローチャートである。バッテリコントローラ107は、図9のフローチャートに従って、所定の処理周期ごとに電池モジュール101の充放電制御を実行する。
【0044】
ステップS101において、バッテリコントローラ107は、電池情報取得部201により、前述のような電池モジュール101の各種情報を取得する。
【0045】
ステップS102において、バッテリコントローラ107は、第1許容電流演算部202により、ステップS101で取得した電池モジュール101の情報に基づいて、電池モジュール101の第1許容電流を演算する。
【0046】
ステップS103において、バッテリコントローラ107は、第2許容電流演算部203により、ステップS101で取得した電池モジュール101の情報に基づいて、電池モジュール101の第2許容電流を演算する。
【0047】
ステップS104において、バッテリコントローラ107は、第3許容電流演算部204により、ステップS101で取得した電池モジュール101の情報に基づいて、電池モジュール101の第3許容電流を演算する。
【0048】
ステップS105において、バッテリコントローラ107は、許容電流選択部205により、ステップS102~S104の演算結果を比較する。すなわち、ステップS102で算出された第1許容電流と、ステップS103で算出された第2許容電流と、ステップS104で算出された第3許容電流とを比較し、これらの大小関係を把握する。
【0049】
ステップS106において、バッテリコントローラ107は、許容電流選択部205により、ステップS105の比較結果に基づいて、第1許容電流が第2許容電流および第3許容電流のいずれよりも低いか否かを判定する。その結果、判定条件を満たす場合、すなわち第1許容電流が最も低い場合には、処理をステップS110に進める。一方、判定条件を満たさない場合、すなわち第1許容電流が第2許容電流または第3許容電流のいずれか少なくとも一方よりも高い場合には、処理をステップS107に進める。
【0050】
ステップS107において、バッテリコントローラ107は、許容電流選択部205により、ステップS105の比較結果に基づいて、第2許容電流が第1許容電流および第3許容電流のいずれよりも低いか否かを判定する。その結果、判定条件を満たす場合、すなわち第2許容電流が最も低い場合には、処理をステップS111に進める。一方、判定条件を満たさない場合、すなわち第2許容電流が第1許容電流または第3許容電流のいずれか少なくとも一方よりも高い場合には、処理をステップS108に進める。
【0051】
ステップS108において、バッテリコントローラ107は、許容電流選択部205により、現在の状況が電池モジュール101の劣化抑制を優先すべき状況であるか否かを判定する。許容電流選択部205は、たとえば、電池システム100において電池モジュール101の寿命を優先すべきモード設定が行われている場合や、車両巡航中など電池モジュール101の負荷が小さいような場合には、電池モジュール101の劣化抑制を優先すべき状況と判断する。一方、許容電流選択部205は、たとえば、電池システム100において車両の走行性能や燃費を優先すべきモード設定が行われている場合や、車両加速中など電池モジュール101の負荷が大きいような場合には、電池モジュール101の劣化抑制を優先すべき状況ではないと判断する。具体例として、電池システム100がハイブリッド自動車などの電動車両に搭載されている場合を考える。このような場合において、当該車両が高速道路への進入路や登坂路を走行する際や、追い越し走行を行う際には、ドライバーがアクセルを踏み増して、電動機である負荷111からの出力トルクの向上を要求することがある。許容電流選択部205は、アクセル開度の変化量等に基づいて、こうした出力向上要求の有無を判断し、出力向上要求が行われたと判断した場合には、電池モジュール101の充放電性能を優先すべきであり、劣化抑制を優先すべき状況ではないと判断することができる。なお、これ以外にも様々な判定条件を用いて、ステップS108の判定を行うことができる。その結果、劣化抑制を優先すべき状況であると判定した場合には、処理をステップS112に進める。一方、劣化抑制を優先すべき状況ではないと判定した場合には、処理をステップS109に進める。
【0052】
ステップS109において、バッテリコントローラ107は、許容電流選択部205により、ステップS105の比較結果に基づいて、第1許容電流が第2許容電流よりも低いか否かを判定する。その結果、第1許容電流が第2許容電流よりも低い場合には、処理をステップS110に進め、反対に第1許容電流が第2許容電流以上である場合には、処理をステップS111に進める。
【0053】
ステップS110において、バッテリコントローラ107は、許容電流選択部205により、ステップS102で求めた第1許容電流を選択して上位コントローラ112に出力する。すなわち、バッテリコントローラ107は、第1許容電流が第2許容電流および第3許容電流よりも低い場合や、劣化抑制を優先すべき状況ではなく、かつ第1許容電流が第2許容電流よりも低い場合には、ステップS110を実行する。これにより、電池モジュール101の充放電制御における許容電流として、第1許容電流を選択する。
【0054】
ステップS111において、バッテリコントローラ107は、許容電流選択部205により、ステップS103で求めた第2許容電流を選択して上位コントローラ112に出力する。すなわち、バッテリコントローラ107は、第2許容電流が第1許容電流および第3許容電流よりも低い場合や、劣化抑制を優先すべき状況ではなく、かつ第2許容電流が第1許容電流よりも低い場合には、ステップS111を実行する。これにより、電池モジュール101の充放電制御における許容電流として、第2許容電流を選択する。
【0055】
ステップS112において、バッテリコントローラ107は、許容電流選択部205により、ステップS104で求めた第3許容電流を選択して上位コントローラ112に出力する。すなわち、バッテリコントローラ107は、劣化抑制を優先すべき状況である場合には、ステップS112を実行する。これにより、電池モジュール101の充放電制御における許容電流として、第3許容電流を選択する。
【0056】
ステップS110~S112のいずれかを実行したら、バッテリコントローラ107は、図9のフローチャートに示す処理を終了する。
【0057】
以下では、図10図11および図12を用いて、本発明による効果について説明する。図10は、従来技術を用いた場合の許容電流の変化の一例を示している。一般的に、蓄電池を用いた電池システムには、前述の第1許容電流、第2許容電流および第3許容電流のように、部品の安全性や、蓄電池の安全性や、蓄電池の寿命など、異なる観点で定められる複数の許容電流が存在する。しかし、従来技術のようにこれらの許容電流の最小値を電池システムの許容電流として用いた場合には、この最小の許容電流を超えて充放電制御を行うことができない。したがって、図10に示すように、低温時と常温時で許容電流の大小関係が異なり、常温時には第3許容電流が第1および第2許容電流を下回るようなケースでは、充放電電流が一時的に第3許容電流を超えても問題がないにも関わらず、常に最小の許容電流に従って充放電制御が行われる。その結果、常温時には本来使用できる範囲を活用した充放電を行うことができず、必要な時に電池システムの性能を最大限に発揮できない。
【0058】
一方、図11は、本発明を用いた場合の許容電流の変化の一例を示している。本発明では、上記実施形態で説明したように、異なる観点で定められた第1、第2および第3の許容電流を状況に応じて使い分けることができる。したがって、前述のようなケースにおいて、電池システム100に対して出力向上要求が行われると、図11に示すように、第1許容電流または第2許容電流の小さいほうを許容電流として、一時的に許容電流を上昇させることが可能となる。その結果、電池システムの充放電性能を最大限に活用することが可能となる。
【0059】
図12は、本発明をより積極に活用した場合の許容電流の変化の一例を示している。たとえば、電池システム100がハイブリッド自動車などの電動車両に搭載されており、電池モジュール101の寿命を優先するモードと、燃費や加速性能などの走行性能を優先するモードとをドライバーが選択可能な機能を有しているとする。このような場合に、電池システム100は、図12に示すように、ドライバーが寿命優先モードを選択したときには第3許容電流を許容電流とし、走行性能優先モードを選択したときには、第1または第2許容電流の小さいほうを許容電流とする。このように、ドライバーの選択に応じて許容電流を選択する方式とすることもできる。
【0060】
以上説明した本発明の一実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0061】
(1)バッテリコントローラ107は、電池情報取得部201、第1許容電流演算部202、第2許容電流演算部203および第3許容電流演算部204を備える。電池情報取得部201は、蓄電池である電池モジュール101の情報を取得する(ステップS101)。第1許容電流演算部202は、電池モジュール101の充放電により電流が流れる構成部品の定格値に応じた電池モジュール101の第1許容電流を演算する(ステップS102)。第2許容電流演算部203は、電池情報取得部201により取得された情報に基づいて、電池モジュール101のSOCに応じた電池モジュール101の第2許容電流を演算する(ステップS103)。第3許容電流演算部204は、電池情報取得部201により取得された情報に基づいて、電池モジュール101のSOHに応じた電池モジュール101の第3許容電流を演算する(ステップS104)。このようにしたので、これらの許容電流の演算結果を基に、電池モジュール101の電流を状況に応じて適切に制御することができる。
【0062】
(2)バッテリコントローラ107は、第1許容電流、第2許容電流または第3許容電流のいずれかを選択して出力する許容電流選択部205をさらに備える。このようにしたので、状況に応じて適切な許容電流を選択し、電池モジュール101の充放電制御に用いることができる。
【0063】
(3)許容電流選択部205は、第1許容電流が第2許容電流および第3許容電流よりも低い場合には(ステップS106)、第1許容電流を選択し(ステップS110)、第2許容電流が第1許容電流および第3許容電流よりも低い場合には、第2許容電流を選択する(ステップS111)。このようにしたので、第1許容電流または第2許容電流のいずれかが最も低い場合には、その許容電流に従って電池モジュール101の充放電制御を行うことができる。そのため、電池システム100の故障防止や電池モジュール101の性能維持を図ることができる。
【0064】
(4)許容電流選択部205は、電池モジュール101の劣化抑制を優先すべき状況であるか否かを判定する(ステップS108)。その結果、電池モジュール101の劣化抑制を優先すべき状況であると判定した場合には、第3許容電流を選択し(ステップS112)、電池モジュール101の劣化抑制を優先すべき状況ではないと判定した場合には、第1許容電流または第2許容電流を選択する(ステップS110、S111)。このようにしたので、電池モジュール101の劣化抑制を優先すべき状況である場合には、第3許容電流に従って電池モジュール101の充放電制御を行うことができる。そのため、電池モジュール101の劣化を抑制し、寿命確保を図ることができる。
【0065】
なお、以上説明した実施形態では、バッテリコントローラ107が許容電流選択部205を備えた例を説明したが、許容電流選択部205の機能を上位コントローラ112において実現してもよい。この場合、バッテリコントローラ107は、図9のステップS101~S104の処理を実行し、得られた第1許容電流、第2許容電流および第3許容電流の値を上位コントローラ112に出力する。上位コントローラ112は、バッテリコントローラ107から出力されたこれらの許容電流に基づいて、ステップS105~S112の処理を実行し、第1許容電流、第2許容電流または第3許容電流のいずれかを選択する。そして、選択した許容電流に従って電池モジュール101の充放電制御を行う。このようにしても、上記と同様の作用効果を奏することができる。
【0066】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0067】
100:電池システム101:電池モジュール102:電流センサ103:電圧センサ104:温度センサ105:漏電センサ106A,106B:リレー107:バッテリコントローラ110:インバータ111:負荷112:上位コントローラ201:電池情報取得部202:第1許容電流演算部203:第2許容電流演算部204:第3許容電流演算部205:許容電流選択部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12